説明

電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルムとその利用

【課題】電極/セパレータ間に十分な接着性を有すると共に、電解液による膨潤性にすぐれ、内部抵抗が低く、高レート特性にすぐれた電池を製造するために好適に用いることができるセパレータのための架橋性ポリマーを担持させた多孔質フィルムを提供することを目的とし、更に、そのような架橋性ポリマー担持多孔質フィルムを用いる電池の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖に一般式(I)
【化1】


(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは4〜9の整数を示す。)
で表されるオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させてなる電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子中に複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖にオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーを基材多孔質フィルムに担持させてなる電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルムとその利用、特に、そのような架橋性ポリマー担持多孔質フィルムを用いて、電極をセパレータに接着せしめた電池を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータ等の小型携帯電子機器のための電源として、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が広く用いられている。このようなリチウムイオン二次電池は、シート状の正負電極と、例えば、ポリオレフィン樹脂多孔質フィルムとを積層し、又は捲回して、例えば、金属缶からなる電池容器に仕込んだ後、この電池容器に電解液を注入し、密封、封口するという工程を経て製造される。
【0003】
しかし、近年、上記のような小型乃携帯電子機器の一層の小型化、軽量化への要望が非常に強く、そこで、リチウムイオン二次電池についても、更なる薄型化と軽量化が求められており、従来の金属缶容器に代えて、ラミネートフィルム型の電池容器も用いられるようになっている。
【0004】
このようなラミネートフィルム型の電池容器によれば、従来の金属缶容器に比べて、セパレータと電極との間の電気的接続を維持するための面圧を電極面に十分に加えることができないので、電池の充放電時の電極活性物質の膨張収縮によって、電極間距離が経時により部分的に大きくなり、電池の内部抵抗が増大して、電池特性が低下するほか、電池内部で抵抗のばらつきが生じることによっても、電池特性が低下するという問題が生じる。また、大面積のシート状電池を製造する場合には、電極間距離を一定に保つことができず、電池内部の抵抗のばらつきによって、電池特性が十分に得られないという問題もあった。
【0005】
そこで、従来、このような問題を解決するために、電解液相、電解液を含有する高分子ゲル層及び高分子固相からなる接着性樹脂層によって電極とセパレータを接合することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ポリフッ化ビニリデン樹脂を主成分とするバインダー樹脂溶液をセパレータに塗布した後、これに電極を重ね合わせ、乾燥して、電極積層体を形成し、この電極積層体を電池容器に仕込んだ後、電池容器に電解液を注入して、セパレータに電極を接着した電池を得ることも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
更に、電解液を含浸させたセパレータと正負の電極を多孔性の接着樹脂層で接合して、密着させると共に、上記接着性樹脂層中の貫通孔に電解液を保持させて、セパレータに電極を接着させた電池とすることも提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
しかし、このような方法によれば、セパレータと電極との間に十分な接着力を得るためには、接着性樹脂層の厚さを厚くしなければならず、また、接着性樹脂に対する電解液量を多くできないので、得られる電池においては、内部抵抗が高くなり、サイクル特性や高レート放電特性が十分に得られない問題があった。
【特許文献1】特開平10−177865号公報
【特許文献2】特開平10−189054号公報
【特許文献3】特開平10−172606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、セパレータに電極を接着してなる電池の製造における上述した問題を解決するためになされたものであって、電極/セパレータ間に十分な接着性を有すると共に、電解液による膨潤性にすぐれ、内部抵抗が低く、高レート特性にすぐれた電池を製造するために好適に用いることができるセパレータのための架橋性ポリマーを担持させた多孔質フィルムと、そのような架橋性ポリマー担持多孔質フィルムを用いる電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、分子中に複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖に一般式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは4〜9の整数を示す。)
で表されるオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させてなる電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルムが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記架橋性ポリマー担持多孔質フィルムに電極を積層して、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を得、この電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込んだ後、カチオン重合触媒を含む電解液を上記電池容器内に注入して、少なくとも多孔質フィルムと電極との界面の近傍にて、上記架橋性ポリマーの少なくとも一部を電解液中で膨潤させ、又は多孔質フィルムと電極との界面の近傍にて、上記架橋性ポリマーの一部を電解液中に溶出させ、カチオン重合させて、電解液の少なくとも一部をゲル化させて多孔質フィルムと電極を接着することを特徴とする電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明による電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルムは、分子中に複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖にオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させてなるものである。
【0015】
従って、このような架橋性ポリマー担持多孔質フィルム、即ち、セパレータに電極を積層して、電極/セパレータ積層体とし、これを電池容器内に仕込んだ後、カチオン重合触媒を含む電解液を上記電池容器内に注入して、少なくともセパレータと電極との界面の近傍にて、上記架橋性ポリマーの少なくとも一部を電解液中で膨潤させ、又は電解液中に溶出させ、カチオン重合させ、架橋性ポリマーを架橋させて、電解液を少なくとも一部、ゲル化させ、かくして、セパレータと電極を強固に接着させて、電極/セパレータ接合体を得ることができる。
【0016】
また、本発明の架橋性ポリマー担持多孔質フィルムにおいては、架橋性ポリマーが側鎖に極性を有するオキシアルキレン基を有するので、同様に、極性を有する電解液に電極/セパレータ積層体を浸漬した際に、架橋性ポリマーと電解液とのなじみがよく、適度に架橋性ポリマーが膨潤して、架橋性ポリマーのイオン伝導性が向上する結果、内部抵抗が低く、高レート特性にすぐれた電池を得ることができる。
【0017】
しかも、本発明の架橋性ポリマー担持多孔質フィルムによれば、架橋性ポリマーがその側鎖にオキシアルキレン基を有することから、オキシアルキレン基の分子運動が阻害されず、かくして、架橋性ポリマーのイオン伝導性が向上するので、これをセパレータとして用いることによって、内部抵抗が低く、高レート特性にすぐれた電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、多孔質フィルムは、膜厚3〜50μmの範囲のものが好ましく用いられる。多孔質フィルムの厚みが3μmよりも薄いときは、強度が不十分であって、電池においてセパレータとして用いるとき、電極が内部短絡を起こすおそれがある。他方、多孔質フィルムの厚みが50μmを越えるときは、そのような多孔質フィルムをセパレータとする電池は電極間距離が大きすぎて、電池の内部抵抗が過大となる。
【0019】
また、多孔質フィルムは、平均孔径0.01〜5μmの細孔を有し、空孔率が20〜95%の範囲のものが用いられ、好ましくは、30〜90%の範囲のもの、最も好ましくは、35〜85%の範囲のものが用いられる。空孔率が余りに低いときは、電池のセパレータとして用いた場合に、イオン伝導経路が少なくなり、十分な電池特性を得ることができない。他方、空孔率が余りに高いときは、電池のセパレータとして用いた場合に、強度が不十分であり、所要の強度を得るためには、多孔質フィルムとして厚いものを用いざるを得ず、そうすれば、電池の内部抵抗が高くなるので好ましくない。
【0020】
更に、多孔質フィルムは、1500秒/100cc以下、好ましくは、1000秒/100cc以下の通気度を有するものが用いられる。通気度が高すぎるときは、電池のセパレータとして用いた場合に、イオン伝導性が低く、十分な電池特性を得ることができない。また、多孔質フィルムの強度は、突刺し強度が1N以上であることが好ましい。突刺し強度が1Nよりも小さいときは、電極間に面圧がかかった際に基材が破断し、内部短絡を引き起こすおそれがあるからである。
【0021】
本発明によれば、多孔質フィルムは、上述したような特性を有すれば、特に、限定されるものではないが、耐溶剤性や耐酸化還元性を考慮すれば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂からなる多孔質フィルムが好適である。しかし、なかでも、加熱されたとき、樹脂が溶融して、細孔が閉塞する性質を有し、その結果、電池に所謂シャットダウン機能を有せしめることができるところから、多孔質フィルムとしては、ポリエチレン樹脂フィルムが特に好適である。ここに、ポリエチレン樹脂には、エチレンのホモポリマーのみならず、プロピレン、ブテン、ヘキセン等のα−オレフィンとエチレンとのコポリマーを含むものとする。
【0022】
また、本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレンやポリイミド等の多孔質フィルムと上記ポリオレフィン樹脂多孔質フィルムとの積層フィルムも、耐熱性にすぐれるところから、多孔質フィルムとして、好適に用いられる。
【0023】
本発明による電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルムは、上述したような多孔質フィルムに、分子中に複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖に一般式(I)
【0024】
【化2】

【0025】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは4〜9の整数を示す。)
で表されるオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させてなるものである。
【0026】
本発明において、上記カチオン重合性官能基は、好ましくは、3−オキセタニル基とエポキシ基(2−オキシラニル基)とから選ばれる少なくとも1種であり、従って、本発明によれば、架橋性ポリマーは、好ましくは、オキシアルキレン基を有するラジカル重合性モノマー(以下、オキシアルキレン基含有ラジカル重合性モノマーという。)と、3−オキセタニル基を有するラジカル重合性モノマー(以下、3−オキセタニル基含有ラジカル重合性モノマーという。)とエポキシ基を有するラジカル重合性モノマー(以下、エポキシ基含有ラジカル重合性モノマーという。)から選ばれる少なくとも1種と、必要に応じて、その他のラジカル重合性モノマーとのラジカル共重合体である。
【0027】
本発明によれば、分子中にカチオン重合性官能基と共に、オキシアルキレン基とを有する架橋性ポリマーを得る際に、上記オキシアルキレン基含有ラジカル重合性モノマーは、全モノマー量の1〜95重量%、好ましくは、15〜70重量%の範囲で用いられ、3−オキセタニル基含有ラジカル重合性モノマーとエポキシ基含有ラジカル重合性モノマーとから選ばれる少なくとも1種は、全モノマー量の5〜50重量%、好ましくは、10〜40重量%の範囲の範囲で用いられる。その他のラジカル重合性モノマーは、必要に応じて、全モノマー量の0〜94重量%、好ましくは、0〜49重量%、より好ましくは、20〜45重量%の範囲で用いられる。
【0028】
本発明によれば、上記オキシアルキレン基含有ラジカル重合性モノマーが全モノマー量の1〜95重量%の範囲にあるとき、電池の製造において、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を電解液に浸漬した際に、架橋性ポリマーと電解液とのなじみがよいので、架橋性ポリマーが膨潤して、架橋性ポリマーのイオン伝導性が向上する結果、内部抵抗が低く、高レート特性にすぐれた電池を得ることができる。
【0029】
上記オキシアルキレン基含有ラジカル重合性モノマーが全モノマー量の1重量%よりも少ないときは、架橋性ポリマーの電解液とのなじみを高める効果が殆どない。他方、上記オキシアルキレン基含有ラジカル重合性モノマーが全モノマー量の95重量%よりも多いときは、得られる架橋性ポリマーに含まれるカチオン重合性官能基の量が著しく少ないので、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を電解液に浸漬したとき、架橋性ポリマーが多孔質フィルムと電極とを接着させるに足る程には、架橋性ポリマーが架橋せず、従って、電解液のゲル化が起こらない。
【0030】
本発明によれば、オキシアルキレン基を有するラジカル重合性モノマーとして、好ましくは、一般式(II)
【0031】
【化3】

【0032】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、nは4〜9の整数を示す。)
で表されるオキシアルキレン基含有(メタ)アクリレートが用いられる。
【0033】
本発明によれば、架橋性ポリマーは、側鎖にオキシアルキレン基を有するので、電解液とのなじみがよい。そこで、後述するように、架橋性ポリマー担持多孔質フィルムをセパレータとする電池を製造する際に、架橋性ポリマー担持多孔質フィルムが電解液と接触するとき、容易に膨潤して、架橋性ポリマーのイオン伝導性が向上する結果、内部抵抗が低く、高レート特性にすぐれた電池を得ることができる。そのうえ、本発明に従って、特に、架橋性ポリマーが側鎖に有するオキシアルキレン基の繰返し数(n)が4〜9の範囲にあるとき、オキシアルキレン基の分子運動性が高く、その結果、内部抵抗が一層低く、高レート特性に一層すぐれる電池を得ることができる。
【0034】
架橋性ポリマーが側鎖に有するオキシアルキレン基の繰返し数(n)が3以下であるときは、オキシアルキレン基の分子運動性が尚、低い。他方、上記オキシアルキレン基の繰返し数(n)が10以上であるときは、キシアルキレン基の分子運動性がポリマーの主鎖に阻害されて、結果として、オキシアルキレン基の分子運動性が低い。
【0035】
本発明によれば、3−オキセタニル基含有ラジカル重合性モノマーとして、好ましくは、一般式 (III)
【0036】
【化4】

【0037】
(式中、R1 は水素原子又はメチル基を示し、R2 は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される3−オキセタニル基含有(メタ)アクリレートが用いられる。本発明において、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタアクリレートを意味する。
【0038】
このような3−オキセタニル基含有(メタ)アクリレートの具体例として、例えば、3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−エチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−ブチル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、3−ヘキシル−3−オキセタニルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリレートは単独で用いられ、又は2種以上が併用される。
【0039】
また、本発明によれば、エポキシ基含有ラジカル重合性モノマーとして、好ましくは、一般式 (IV)
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R3 は式(1)
【0042】
【化6】

【0043】
又は式(2)
【0044】
【化7】

【0045】
で表されるエポキシ基含有基を示す。)
で表されるエポキシ基含有(メタ)アクリレートが用いられる。
【0046】
このようなエポキシ基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリレートは単独で用いられ、又は2種以上が併用される。
【0047】
本発明に従って、オキシアルキレン基含有ラジカル重合性モノマーと、3−オキセタニル基含有ラジカル重合性モノマーとエポキシ基含有ラジカル重合性モノマーとから選ばれる少なくとも1種とに、必要に応じて、共重合させる前記その他のラジカル重合性モノマーは、好ましくは、一般式(V)
【0048】
【化8】

【0049】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜6のフッ化アルキル基を示す。)
で表される(メタ)アクリレートと一般式(VI)
【0050】
【化9】

【0051】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R5はメチル基又はエチル基を示す。)
で表されるビニルエステルから選ばれる少なくとも1種である。
【0052】
上記一般式(V)で表される(メタ)アクリレートの具体例として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0053】
また、上記一般式(VI)で表されるビニルエステルの具体例として、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等を挙げることができる。
【0054】
オキシアルキレン基と共に、3−オキセタニル基とエポキシ基とから選ばれる少なくとも1種をそれぞれ複数有する架橋性ポリマーは、好ましくは、オキシアルキレン基含有モノマーと、3−オキセタニル基含有ラジカル重合性モノマーとエポキシ基含有ラジカル重合性モノマーとから選ばれる少なくとも1種と、必要に応じて、その他のラジカル重合性モノマーとをラジカル重合開始剤を用いてラジカル共重合させることによって、ラジカル共重合体として得ることができる。
【0055】
このラジカル共重合は、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等、いずれの重合法によってもよいが、重合の容易さ、分子量の調整、後処理等の点から溶液重合や懸濁重合によるのが好ましい。
【0056】
上記ラジカル重合開始剤は、特に、限定されるものではないが、例えば、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルN,N’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等が用いられる。また、このラジカル共重合において、必要に応じて、メルカプタン等のような分子量調整剤を用いることができる。
【0057】
本発明において、分子中に複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖にオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーは、その重量平均分子量が10000以上であることが好ましい。架橋性ポリマーの重量平均分子量が10000よりも小さいときは、電解液をゲル化するために多量の架橋性ポリマーを必要とするので、得られる電池の特性を低下させる。他方、架橋性ポリマーの重量平均分子量の上限は、特に制限されるものではないが、電解液をゲルとして保持し得るように、300万程度であり、好ましくは、250万程度である。特に、本発明によれば、架橋性ポリマーは、重量平均分子量が100000〜2000000の範囲にあるのが好ましい。
【0058】
本発明による架橋性ポリマー担持多孔質フィルムは、上述したような架橋性ポリマーを前述した多孔質フィルムに担持させてなるものであり、ここに架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させるには、特に限定されないが、例えば、架橋性ポリマーをアセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の適宜の有機溶剤に溶解させて、架橋性ポリマー溶液を調整し、この架橋性ポリマーの溶液を、例えば、多孔質フィルムの表面にキャスティングやスプレー塗布した後、又はポリマー溶液中に多孔質フィルムを含浸させた後、乾燥して、用いた有機溶剤を除去すればよい。また、別の方法として、上記架橋性ポリマーを溶融押出によってフィルムに成形し、このフィルムを多孔質フィルムに熱ラミネート等によって張り合わせてもよい。
【0059】
本発明による架橋性ポリマーを担持させた多孔質フィルムは、架橋性ポリマーがカチオン重合触媒の不存在下では反応せず、安定であるので、長期間にわたって保存しても変質することがない。
【0060】
次に、このようにして得られる架橋性ポリマー担持多孔質フィルムを用いる本発明による電池の製造方法について説明する。
【0061】
先ず、電極を上記架橋性ポリマー担持多孔質フィルムに積層し、又は捲回して、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を得、次いで、この積層体を金属缶やラミネートフィルム等からなる電池容器内に仕込み、端子の溶接等が必要な場合にはこれを行った後、この電池容器内にカチオン重合触媒を溶解させた電解液を所定量注入し、電池容器を密封、封口して、架橋性ポリマー担持多孔質フィルムに担持させた架橋性ポリマーを少なくとも多孔質フィルムと電極との界面の近傍にてその少なくとも一部を電解液中で膨潤させ、又は多孔質フィルムと電極との界面の近傍において電解液中に溶出、拡散させて、カチオン重合によって架橋させ、電解液の少なくとも一部をゲル化させて、電極を多孔質フィルムと接着し、かくして、多孔質フィルムをセパレータとし、このセパレータに電極が強固に接着された電池を得ることができる。
【0062】
本発明においては、架橋性ポリマーは、そのカチオン重合による架橋によって、少なくとも多孔質フィルムと電極との界面の近傍にて電解液をゲル化させて、電極と多孔質フィルムとを接着するように機能する。
【0063】
本発明において、架橋性ポリマーは、その構造や多孔質フィルムヘの担持量、カチオン重合触媒の種類や量にもよるが、常温においてもカチオン重合させ、架橋させることもできるが、しかし、加熱することによって、カチオン重合を促進することができる。この場合、電池を構成する材料の耐熱性や生産性との兼ね合いにもよるが、通常、40〜100℃程度の温度で0.5〜24時間程度加熱すればよい。また、電極を多孔質フィルムに接着させるに足る量のポリマーを膨潤させ、又は溶出、拡散させるために、電池容器内に電解液を注入した後、常温で数時間程度、放置してもよい。
【0064】
本発明において、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体は、架橋性ポリマー担持多孔質フィルムに電極が積層されておればよく、従って、電池の構造や形態に応じて、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体として、例えば、負極/多孔質フィルム/正極、負極/多孔質フィルム/正極/多孔質フィルム等が用いられる。
【0065】
上記電解液は、電解質塩を適宜の溶媒に溶解してなる溶液である。上記電解質塩としては、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等アルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属、第三級又は第四級アンモニウム塩等をカチオン成分とし、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウフッ化水素酸、フッ化水素酸、ヘキサフルオロリン酸、過塩素酸等の無機酸、カルボン酸、有機スルホン酸又はフッ素置換有機スルホン酸等の有機酸をアニオン成分とする塩を用いることができる。これらのなかでは、特に、アルカリ金属イオンをカチオン成分とする電解質塩が好ましく用いられる。
【0066】
このようなアルカリ金属イオンをカチオン成分とする電解質塩の具体例としては、例えば、過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸アルカリ金属、テトラフルオロホウ酸リチウム、テトラフルオロホウ酸ナトリウム、テトラフルオロホウ酸カリウム等のテトラフルオロホウ酸アルカリ金属、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸カリウム等のヘキサフルオロリン酸アルカリ金属、トリフルオロ酢酸リチウム等のトリフルオロ酢酸アルカリ金属、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のトリフルオロメタンスルホン酸アルカリ金属を挙げることができる。
【0067】
特に、本発明に従って、リチウムイオン二次電池を得る場合には、電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム等が好適に用いられる。
【0068】
更に、本発明において用いる上記電解質塩のための溶媒としては、上記電解質塩を溶解するものであればどのようなものでも用いることができるが、非水系の溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類や、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等の工一テル類や、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状エステル類を単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。また、上記電解質塩は、用いる溶媒の種類や量に応じて適宜に決定される。
【0069】
本発明において、カチオン重合触媒としては、オニウム塩が好ましく用いられる。そのようなオニウム塩として、例えば、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、アルソニウム塩、スチボニウム塩、ヨードニウム塩等のカチオン成分と、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、過塩素酸塩等のアニオン成分とからなるオニウム塩を挙げることができる。
【0070】
しかし、本発明によれば、上述した電解質塩のなかでも、特に、テトラフルオロホウ酸リチウムとヘキサフルオロリン酸リチウムは、それ自体、カチオン重合触媒しても機能するので、電解質塩を兼ねるものとして好ましく用いられる。この場合、テトラフルオロホウ酸リチウムとヘキサフルオロリン酸リチウムは、いずれかを単独で用いてもよく、また、両方を併用してもよい。
【実施例】
【0071】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。以下において、多孔質フィルムの物性は下記のようにして評価した。また、架橋性ポリマーの分子量は下記のようにして測定した。
【0072】
(多孔質フィルムの厚み)
1/10000mmシックネスゲージによる測定と多孔質フィルムの断面の10000倍走査型電子頭微鏡写真に基づいて求めた。
【0073】
(多孔質フィルムの空孔率)
多孔質フィルムの単位面積S(cm2)当たりの重量W(g)、平均厚みt(cm)及び多孔質フィルムを構成する樹脂の密度d(g/cm3)から下式にて算出した。
空孔率(%)=(1−(100W/S/t/d))×100
【0074】
(多孔質フィルムの通気度)
JIS P 8117に準拠して求めた。
【0075】
(突き刺し強度)
カトーテック(株)製圧縮試験磯KES−G5を用いて突き刺し試験を行った。測定により得られた荷重変位曲線から最大荷重を読みとり、突き刺し強度とした。針は直径1.0mm、先端の曲率半径0.5mmのものを用いて、2cm/秒の速度で行った。
【0076】
(架橋性ポリマーの分子量)
得られた架橋性ポリマーの溶液を高速ミキサーで攪拌しながら、多量のメタノール中に投入して、架橋性ポリマーを析出させた。これを濾取し、メタノールにて数回、繰り返して洗浄した後、デシケータ中で6時間真空乾燥させて、架橋性ポリマーの粉末を得た。これを用いてGPCにて分子量測定(ポリスチレン換算)を行った。
【0077】
参考例1
(電極シートの調製)
正極活物質であるコバルト酸リチウム(日本化学工業(株)製セルシードC−10)85重量部と導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)10重量部とバインダーであるフッ化ビニリデン樹脂(呉羽化学工業(株)製KFポリマーL1120)5重量部を混合し、これを固形分濃度15重量%となるように、N−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリーとした。
【0078】
このスラリーを厚み20μmのアルミニウム箔(集電体)上に厚み200μmに塗布し、80℃で1時間、120℃で2時間乾燥した後、ロールプレスにて加圧して、活物質層の厚みが100μmの正極シートを調製した。
【0079】
また、負極活物質であるメソカーボンマイクロビーズ(大阪ガスケミカル(株)製MCMB6−28)80重量部と導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業(株)製デンカブラック)10重量部とバインダーであるフッ化ビニリデン樹脂(呉羽化学工業(株)製KFポリマーL1120)10重量部を混合し、これを固形分濃度15重量%となるように、N−メチル−2−ピロリドンを用いてスラリーとした。
【0080】
このスラリーを厚み20μmの銅箔(集電体)上に厚み200μmに塗布し、80℃で1時間乾燥し、120℃で2時間乾燥した後、ロールプレスにて加圧して、活物質層の厚みが100μmの負極シートを調製した。
【0081】
(参照電池の作製)
厚さ16μm、空孔率40%、通気度300秒/100cc、突き刺し強度3.0Nのポリエチレン樹脂製の多孔質フィルムを用意した。前記参考例1で得た負極シート、上記多孔質フィルム及び前記参考例1で得た正極シートをこの順序に積層し、これをアルミニウムラミネートパッケージに仕込んだ後、パッケージ内に1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液し、次いで、パッケージを封口して、リチウムイオン二次電池を組み立てた。この電池について、0.2CmAのレートにて3回充放電を行った後に、0.2CmAで充電し、この後、2CmAで放電して、2CmA放電容量Aを求めた。
【0082】
(実施例及び比較例による電池の放電特性)
以下の実施例及び比較例にて得られたラミネートシール型リチウムイオン二次電池について、0.2CmAのレートにて3回充放電を行った後に、0.2CmAで充電し、この後、2CmAで放電して、2CmA放電容量Bを求め、上記参照電池の放電容量Aに対する放電容量Bの百分率(%)にて電池特性を評価した。
【0083】
(正極シート/セパレータ接着力)
以下の実施例及び比較例にて得られたラミネートシール型リチウムイオン二次電池を分解し、正極シート/セパレータ接合体を1cm幅に裁断した後、正極シートを180°方向に剥離し、このときの引張力から正極シート/セパレータ接着力を求めた。
【0084】
製造例1
(架橋性ポリマーA(メトキシトリエチレングリコールアクリレートモノマー成分40重量%及び3−オキセタニル基含有モノマー成分25重量%)の製造)
還流冷却管を備えた500mL容量の三つロフラスコにメトキシトリエチレングリコールアクリレート40g、メチルメタクリレート35g、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレート25g、酢酸エチル67g、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.2gを投入し、窒素ガスを導入しながら、30分間攪拌混合した後、温度64℃でラジカル重合を行なった。
【0085】
約1時間経過したとき、ラジカル重合が進行して、反応混合物の粘度が上昇し始めた。そのまま、8時間重合を続けた後、約40℃まで冷却し、再び、N,N’−アゾビスイソブチロニトリル0.1gを加え、70℃に再度加熱して、更に、8時間後重合を行なった。この後、約40℃まで冷却し、酢酸エチル233gを加え、全体が均一になるまで攪拌、混合して、架橋性ポリマーAの酢酸エチル溶液(濃度25重量%)を得た。この架橋性ポリマーAの重量平均分子量は340000、数平均分子量は41000であった。
【0086】
製造例2
製造例1において、メトキシトリエチレングリコールアクリレートに代えて、メトキシトリプロピレングリコールアクリレートを用いた以外は、同様にして、架橋性ポリマーBの酢酸エチル溶液(濃度25重量%)を得た。この架橋性ポリマーBの重量平均分子量は338000、数平均分子量は36000であった
【0087】
製造例3
製造例1において、(3−エチル−3−オキセタニル)メチルメタクリレートに代えて、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレートを用いた以外は、同様にして、架橋性ポリマーCの酢酸エチル溶液(濃度25重量%)を得た。この架橋性ポリマーCの重量平均分子量は2930000、数平均分子量は39000であった
【0088】
製造例4
製造例1において、メトキシトリエチレングリコールアクリレートに代えて、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、メトキシヘキサエチレングリコールアクリレート、メトキシノナエチレングリコールアクリレート、メトキシデカエチレングリコールアクリレート又はメトキシテトラデカエチレングリコールを用いた以外は、同様にして、それぞれ架橋性ポリマーD、E、F、G及びHの酢酸エチル溶液(それぞれ濃度25重量%)を得た。
【0089】
架橋性ポリマーDの重量平均分子量は253000、数平均分子量は38000であり、架橋性ポリマーEの重量平均分子量は329000、数平均分子量は80000であり、架橋性ポリマーFの重量平均分子量は378000、数平均分子量は81000であり、架橋性ポリマーGの重量平均分子量は385000、数平均分子量は81000であり、架橋性ポリマーHの重量平均分子量は419000、数平均分子量は75000であった。
【0090】
製造例5
製造例1において、メトキシトリエチレングリコールアクリレートに代えて、メトキシテトラプロピレングリコールアクリレート、メトキシヘキサエプロピレングリコールアクリレート又はメトキシノナプロピレングリコールを用いた以外は、同様にして、それぞれ架橋性ポリマーI、J及びKの酢酸エチル溶液(それぞれ濃度25重量%)を得た。
【0091】
架橋性ポリマーKの重量平均分子量は346000、数平均分子量は60000であり、架橋性ポリマーLの重量平均分子量は223000、数平均分子量は61000であり、架橋性ポリマーKの重量平均分子量は239000、数平均分子量は58000であった。
【0092】
製造例6
製造例1において、メトキシトリエチレングリコールアクリレートに代えて、ブチルアクリレートを用いた以外は、同様にして、架橋性ポリマーLの酢酸エチル溶液(濃度25重量%)を得た。この架橋性ポリマーLの重量平均分子量は357000、数平均分子量は65000であった
【0093】
製造例7
ポリ(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体(エルフアトケム製カイナー(Kynar)2801)10gをN−チル−2−ピロリドン90gに溶解させて、10重量%濃度のポリマー溶液Mを調製した。
【0094】
比較例1
架橋性ポリマーAの酢酸エチル溶液に酢酸エチルを加え、室温で攪拌して、濃度8.3重量%の均一な架橋性ポリマーの溶液を得た。
【0095】
このようにして得られた架橋性ポリマーの溶液を前記と同じポリエチレン樹脂製の多孔質フィルムの両面にワイヤーバー(#20)にて塗布した後、50℃で加熱乾燥して、酢酸エチルを揮散させ、かくして、片面あたりの塗布厚み2.5μm、塗布密度3.0g/m2でオキシエチレン基及び3−オキセタニル基含有架橋性ポリマーを担持させてなる架橋性ポリマー担持多孔質フィルムを得た。
【0096】
次いで、前記参考例1で得た負極シート、上記架橋性ポリマー担持多孔性フィルム及び前記参考例1で得た正極シートをこの順序に積層し、アルミニウムラミネートパッケージ内に仕込み、1.0モル/L濃度でヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液し、次いで、パッケージを封口した。この後、70℃で7時間加熱して、架橋性ポリマーAをカチオン重合させ、架橋させて、電解液を一部ゲル化させ、電極シートを多孔質フィルムに接着したリチウムイオン二次電池Aを組み立てた。
【0097】
比較例2及び3
比較例1において、架橋性ポリマーAに代えて、架橋性ポリマーB及びCを用いた以外は、同様にして、それぞれリチウムイオン二次電池B及びCを得た。
【0098】
実施例1〜3
比較例1において、架橋性ポリマーAに代えて、架橋性ポリマーD、E及びFを用いた以外は、同様にして、リチウムイオン二次電池D、E及びFを得た。
【0099】
比較例4及び5
比較例1において、架橋性ポリマーAに代えて、架橋性ポリマーG及びHを用いた以外は、同様にして、リチウムイオン二次電池G及びHを得た。
【0100】
実施例4〜6
比較例1において、架橋性ポリマーAに代えて、架橋性ポリマーI、J及びKを用いた以外は、同様にして、リチウムイオン二次電池I、J及びKを得た。
【0101】
比較例6
比較例1において、架橋性ポリマーAに代えて、架橋性ポリマーLを用いた以外は、同様にして、リチウムイオン二次電池Lを得た。
【0102】
比較例7
ポリマー溶液Mの溶液を前記と同じポリエチレン樹脂製の多孔質フィルムの両面に前記と同じワイヤーバーにて塗布した後、60℃で加熱乾燥して、N−メチル−2−ピロリドンを揮散させ、かくして、両面にポリ(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体を担持させたポリエチレン樹脂多孔質フィルムを得た。
【0103】
次いで、前記参考例1で得た負極シート、上記ポリ(フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン)共重合体を担持させた多孔質フィルム及び前記参考例1で得た正極シートをこの順序に積層し、温度80℃、圧力5Kg/cm2で1分間プレス圧着して、セパレータ/電極積層体を得た。
【0104】
アルミニウムラミネートパッケージ内に上記セパレータ/電極積層体を仕込み、1.0モル/L濃度でへキサフルオロリン酸リチウムを溶解させたエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート(重量比1/1)混合溶媒からなる電解液を注液し、次いで、パッケージを封口してリチウムイオン二次電池Mを組み立てた。
【0105】
上記実施例1〜6及び比較例1〜7による電池の特性と共に、正極シートとセパレータとの間の接着力を表1に示す。また、実施例1から6及び比較例1から5については、用いた架橋性ポリマーが側鎖に有するオキシアルキレン基の繰返し数(n)を示す。
【0106】
【表1】

【0107】
表1に示す結果から、本発明に従って、複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖のオキシアルキレン基の繰返し単位数が4〜9である架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させてなるセパレータを用いてなるリチウムイオン二次電池は、電池特性、即ち、前述した参照電池の放電容量に対する百分率で定義される放電特性が格段に向上している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中に複数のカチオン重合性官能基を有すると共に、側鎖に一般式(I)
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは4〜9の整数を示す。)
で表されるオキシアルキレン基を有する架橋性ポリマーを多孔質フィルムに担持させてなる電池用セパレータのための架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項2】
カチオン重合性官能基が3−オキセタニル基とエポキシ基から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項3】
架橋性ポリマーが3−オキセタニル基を有するラジカル重合性モノマーとエポキシ基を有するラジカル重合性モノマーとから選ばれる少なくとも1種のカチオン重合性官能基を有するラジカル重合性モノマーと、オキシアルキレン基を有するラジカル重合性モノマーと、その他のラジカル重合性モノマーとのラジカル共重合体である請求項1に記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項4】
架橋性ポリマーが全モノマー量に基づいて3−オキセタニル基を有するラジカル重合性モノマー及び/又はエポキシ基を有するラジカル重合性モノマー5〜50重量%と、オキシアルキレン基を有するラジカル重合性モノマー1〜95重量%と、その他のラジカル重合性モノマーとのラジカル共重合体である請求項1から3のいずれかに記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項5】
オキシアルキレン基を有するラジカル重合性モノマーが一般式(II)
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2 は炭素原子数1〜6のアルキル基を示し、nは4〜9の整数を示す。)
で表されるオキシアルキレン基を有する (メタ)アクリレートである請求項3又は4のいずれかに記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項6】
3−オキセタニル基を有するラジカル重合性モノマーが一般式 (III)
【化3】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2は水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基を示す。)
で表される3−オキセタニル基含有(メタ)アクリレートである請求項3又は4のいずれかに記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項7】
エポキシ基を有するラジカル重合性モノマーが一般式 (IV)
【化4】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R3は式(1)
【化5】

又は式(2)
【化6】

で表されるエポキシ基含有基を示す。)
で表されるエポキシ基含有(メタ)アクリレートである請求項3又は4のいずれかに記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項8】
その他のラジカル重合性モノマーが一般式(V)
【化7】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜6のフッ化アルキル基を示す。)
で表される(メタ)アクリレートと一般式 (VI)
【化8】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R5はメチル基又はエチル基を示す。)
で表されるビニルエステルとから選ばれる少なくとも1種のモノマーである請求項3又は4のいずれかに記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項9】
基材多孔質フィルムが3〜50μmの範囲の厚みを有すると共に、20〜95%の範囲の空孔率を有するものである請求項1に記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルム。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の架橋性ポリマー担持多孔質フィルムに電極を積層して、電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を得、この電極/架橋性ポリマー担持多孔質フィルム積層体を電池容器内に仕込んだ後、カチオン重合触媒を含む電解液を上記電池容器内に注入して、少なくとも多孔質フィルムと電極との界面の近傍にて、上記架橋性ポリマーの少なくとも一部を電解液中で膨潤させ、又は電解液中に溶出させ、カチオン重合させて、電解液の少なくとも一部をゲル化させて、多孔質フィルムと電極を接着することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項11】
カチオン重合触媒がオニウム塩である請求項10に記載の電池の製造方法。
【請求項12】
電解液がカチオン重合触媒を兼ねる電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム及びテトラフルオロホウ酸リチウムから選ばれる少なくとも1種を含むものである請求項10に記載の電池の製造方法。



【公開番号】特開2008−311126(P2008−311126A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158803(P2007−158803)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】