説明

電波吸収体及びその製造方法

【課題】 軽量であってしかも燃焼しても有毒ガスを発生しない電波吸収体を提供する。
【解決手段】 電波吸収体1は、原料ゴムであるニトリルゴムに電波吸収材料である導電性カーボンブラックが混合されたゴム組成物によって多孔質構造が形成されている。ゴム組成物にはカーボン繊維、難燃性付与充填材、架橋剤、発泡剤などが混合されている。多孔質構造体は導電性カーボンブラックの構造を再構築させる加熱処理がされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ETC(Electronic Toll Collection System)、特にトンネル内に設置されるETCなどで用いられる電波吸収体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ETCは、車両に設置されたETC車載器と有料道路の料金所に設置された路側アンテナとの間で無線通信を行い、それによって車両を停止することなく通行料金を支払うシステムである。
【0003】
このようなETCでは、通信周波数として5.8GHz帯の信号が使用されているが、料金所のゲートの出入口の壁面などで反射した信号が誤動作の原因とならないように、5.8GHzの信号を吸収する電波吸収体のタイル等が壁面に貼設されている。
【0004】
特許文献1には、誘電体層たる無機質窯業系建材層の表面に抵抗膜層が形成されている一方、裏面に電波反射材層が形成された電波吸収建材であって、抵抗膜層は、それを形成するための原料を含有してなる塗料を誘電体層の一方の表面上に成膜することで形成されたものが開示されている。そして、これによれば、電波吸収が全体に均一にできる、と記載されている。
【0005】
特許文献2には、電波吸収材料を含む材料によって構成され、電波が入射する第1の面、これとは反対側の第2の面、および第1の面と第2の面とを連結する側面を有する不燃性の電波吸収層を備え、更に、電波吸収層の第1の面を覆うように配置され電波吸収層を保護すると共に光を反射する光反射層を備えた電波吸収用タイルであって、全体が板状をなし、電波吸収層の第2の面に対向するように電波反射層が配置されたときに電波吸収機能を発揮するものが開示されている。そして、これによれば、電波吸収機能を発揮可能であると共に、不燃性で、光を多く反射し、且つ、構造物に設けるのに適している、と記載されている。
【0006】
ところが、セラミックスのタイルの電波吸収体では、高所に取付固定されたものが外れて落下すると危険であるという問題を伴う。
【0007】
これに対して、特許文献3には、導電性フィラーと、無機質吸熱フィラーと、有機バインダーとを主たる構成材料として含み、これら構成材料が一体的に層状化された電波吸収材料であって、有機バインダーが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−塩化ビニルコポリマーより選ばれるすくなくとも1種であるものが開示されている。そして、これによれば、不燃性及び可撓性の双方を兼備するほか、軽量性、断熱性、防音・遮音性と加工容易性による形状化の自由性の点でも有利な電波吸収体を得ることができる、と記載されている。
【特許文献1】特開2001−262732号公報
【特許文献2】特開2004−132065号公報
【特許文献3】WO99/25166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、例えば、トンネル内にETCを設けた場合、不所望の火災が発生したとき、セラミックス製の電波吸収体では、有毒ガスの発生や延焼を防止することができる。一方、ポリ塩化ビニル等の有機バインダーが用いられた電波吸収体では、塩素を含有するので難燃性を有するものの、一旦燃焼すると有毒ガスを発生するという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軽量であってしかも燃焼しても有毒ガスを発生しない電波吸収体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の電波吸収体は、原料ゴムであるニトリルゴムに電波吸収材料である導電性カーボンブラックが混合されたゴム組成物によって多孔質構造に形成されたことを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、ニトリルゴムを原料ゴムとするゴム組成物の多孔質構造体に構成されているので軽量であり、しかも、塩素等を含まないニトリルゴムが原料ゴムであるので燃焼しても有毒ガスを発生しない。
【0012】
本発明の電波吸収体は、上記ゴム組成物にカーボン繊維がさらに混合されているものであってもよい。
【0013】
本発明の電波吸収体は、上記ゴム組成物に難燃性付与充填材がさらに混合されているものであってもよい。
【0014】
上記の構成によれば、難燃性付与充填材が混合されているので、不所望の火災が発生したときでも、延焼を抑制することができる。
【0015】
ここで、上記難燃性付与充填材とは、具体的には、Al(OH)3やMg(OH)2である。
【0016】
本発明の電波吸収体の製造方法は、
原料ゴムであるニトリルゴムと、電波吸収材料である導電性カーボンブラック及びカーボン繊維と、架橋剤と、発泡剤と、を混練して未架橋のゴム組成物を作製するゴム組成物作製工程と、
上記未架橋のゴム組成物のニトリルゴムを架橋剤によって架橋させると共に上記発泡剤を発泡させることにより多孔質構造体を作製する多孔質構造体作製工程と、
を備える。
【0017】
本発明の電波吸収体の製造方法は、上記多孔質構造体に対し、上記導電性カーボンブラックの構造を再構築させる加熱処理を施すようにしてもよい。
【0018】
このようにすれば、導電性カーボンブラックの構造が再構築されるので、その構造のバラツキが小さくなることによって電波吸収特性の安定化が図られる。
【発明の効果】
【0019】
以上の通り、本発明によれば、ゴム組成物の多孔質構造体に構成されているので軽量であり、しかも、塩素等を含まないニトリルゴムが原料ゴムであるので燃焼しても有毒ガスを発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る電波吸収体1を示す。
【0022】
この電波吸収体1は、一辺が約500mm程度の正方形で、厚さが約7〜8mmのパネル状に形成されており、ETCのゲートの出入口や有料駐車場の出入口などの電波が反射する箇所に貼設されるパネル材として用いられるものである。
【0023】
この電波吸収体1は、板状に形成された多孔質構造体2の表面に白色の表面フィルム3が貼設された構成となっている。
【0024】
多孔質構造体2は、原料ゴムであるニトリルゴムに電波吸収材料である導電性カーボンブラック及びカーボン繊維が混合された未架橋のゴム組成物を過酸化物で架橋したもので密度が0.1〜0.2g/cm3程度のスポンジ構造に形成されたものである。また、この多孔質構造体2には、その他に難燃性付与充填材、可塑剤等が混合されている。
【0025】
ニトリルゴムは、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体で構成された粉末乃至はブロック状のゴムであり、多孔質構造体2を構成するゴム組成物のマトリクスを形成している。
【0026】
導電性カーボンブラックは、例えば、ライオン社製の商品名:ケッチェンブラックECであり、外部からの電波を吸収する。この導電性カーボンブラックのニトリルゴム100質量部に対する含有量は50〜80質量部である。
【0027】
カーボン繊維は、例えば、ピッチ系カーボン繊維、或いは、PAN系カーボン繊維(東レ社製 商品名:トレカ)のファイバ長3mm程度のチョップドファイバであり、外部からの電波を吸収する。カーボン繊維のニトリルゴム100質量部に対する含有量は3〜10質量部である。
【0028】
難燃性付与充填材は、例えば、Al(OH)3やMg(OH)2である。難燃性付与充填材は、温度が上昇したときに分解して水を生成することで燃焼を抑制する。従って、これによって、不所望の火災が発生したときでも、延焼を抑制することができる。なお、Al(OH)3とMg(OH)2とを比較すると、前者よりも後者の方が低温で分解する。
【0029】
可塑剤は、例えば、正燐酸エステル系のTXP(トリキシレニルホスフェート)などであり、多孔質構造体2に可撓性を付与する。
【0030】
表面フィルム3は、例えば、塩素を含有しないプラスチックフィルムである。
【0031】
この電波吸収体1は、ETCなどの用途に用いられるものであるので、形状、導電性カーボンブラックの混合量、及び、カーボン繊維の混合量が適切に設定され、それによって5.8GHzの信号に対する電波吸収特性が所定のもの、具体的には、図2に示すように、円偏波で入射角0〜65°で入射する5.8GHzの信号に対する反射減衰量が絶対値で20dB以上となる特性を示す。
【0032】
以上のような電波吸収体1によれば、ニトリルゴムを原料ゴムとするゴム組成物の多孔質構造体2に構成されているので軽量であり、しかも、塩素等を含まないニトリルゴムが原料ゴムであるので燃焼しても有毒ガスを発生しない。
【0033】
次に、この電波吸収体1の製造方法について図3に基づいて説明する。
【0034】
まず、ニトリルゴム、導電性カーボンブラック、カーボン繊維、難燃性付与充填材、可塑剤、発泡剤、イソシアネート化合物、架橋剤及び加工助剤を配合してオープンニーダー等の混練機に投入する。
【0035】
発泡剤は、例えば、粉末のジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)であって、熱分解することにより気体を発生してゴム組成物中に気泡の核を生じさせる。DPTの場合、熱分解で微量のN2、CO、CO2を発生する。発泡剤のニトリルゴム100質量部に対する配合量は5〜15質量部である。
【0036】
イソシアネート化合物は、例えば、液状のトリレンジイソシアネート(TDI)であって、水と反応することにより気体を発生してゴム組成物中の気泡の核を成長させる。イソシアネート化合物のニトリルゴム100質量部に対する配合量は100〜275質量部である。
【0037】
架橋剤は、例えば、有機過酸化物であって、ニトリルゴムの分子間を架橋することにより三次元網目構造を形成する。架橋剤のニトリルゴム100質量部に対する配合量は1〜5質量部である。
【0038】
加工助剤は、例えば、ステアリン酸であって、混練り時に混煉機と加工物との間に滑性を与えてそれらの馴染みを良好なものにする。加工助剤のニトリルゴム100質量部に対する配合量は5〜15質量部である。
【0039】
次いで、ニトリルゴム等を混練機で混練して未架橋のゴム組成物を作製する(ゴム組成物作製工程)。
【0040】
次いで、未架橋のゴム組成物を金型に充填し、それを加圧プレス機にセットして所定温度(例えば160℃)で所定時間(例えば20〜30分)の蒸気加熱処理を施す。このとき、ニトリルゴムが架橋剤によって架橋されて可塑性を失い、また、発泡剤が分解することにより気体が発生し、ゴム組成物中に気泡の核が分散して生じる。
【0041】
次いで、金型をセットしたまま加熱プレス機に通水することにより架橋済みのゴム組成物を所定時間(例えば15〜20分)冷却する。
【0042】
次いで、金型から取り出したゴム組成物を適温(例えば70〜80℃)の温水に浸漬する(予備発泡)、或いは、ゴム組成物を型にはめて適温(例えば70〜80℃)の温水に浸漬する(制限発泡)。このとき、ゴム組成物に含まれていたイソシアネート化合物が水と反応することにより気体が発生し、ゴム組成物中の気泡の核が大きく成長する。なお、この段階で、ゴム組成物中から発泡剤及びイソシアネート化合物はほとんど消失する。
【0043】
次いで、温水からゴム組成物を取り出して例えば30℃以下まで冷却する。
【0044】
次いで、ゴム組成物を所定時間(例えば24時間)放置して自然乾燥させる。
【0045】
次いで、乾燥させたゴム組成物に対して所定温度(例えば130℃)で所定時間(例えば4時間)の加熱処理を施す。このとき、混練等の加工によって崩れていたゴム組成物に含まれる導電性カーボンブラックの構造が再構築される。そして、これによって、電波吸収特性の安定化が図られる。
【0046】
次いで、検品を行った後、スライサーやバーチカルカッターやドラムサンディングマシーンによる二次加工を行って板状の多孔質構造体2に加工する(多孔質構造体作製工程)。
【0047】
最後に、多孔質構造体2の表面に該多孔質構造体2の孔へのゴミ、水分の浸入を防ぐ目的で表面フィルム3を接着することにより電波吸収体1が製造される。
【0048】
なお、上記実施形態では、ETCのゲートの出入口や有料駐車場の出入口などの電波が反射する箇所に貼設されるパネル材として用いられる電波吸収体1としたが、特にこれに限定されるものではなく、その他の用途に用いてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、カーボン繊維及び難燃性付与充填材が混合されたゴム組成物で電波吸収体1を形成したが、これらは必須のものではなく、混合されていないゴム組成物で形成されたものであってもよい。
【実施例】
【0050】
(試験評価1)
<試験評価方法>
ETC用の電波吸収体の耐燃性として日本道路公団及び首都高速道路公団により規定されているUL94垂直燃焼性試験及びJIS K6911耐燃性(A法)に基づいて、発泡タイプの本発明の電波吸収体の一例の耐燃性を試験評価した。試験評価は、具体的に、UL94 8項 20mm垂直燃焼性試験V-0、V-1又はV-2、及び、JIS K6911「熱硬化性プラスチック一般試験法」5.24項 耐燃性 5.24.1 A法に基づいて行った。
【0051】
<試験評価結果>
UL94垂直燃焼性試験の試験結果を表1に示す。なお、UL94規格で定められる材料の分類を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
以上の結果から、本発明の電波吸収体は、UL94 V-0に相当する耐燃性を有していることが分かる。
【0055】
JIS K6911耐燃性(A法)の試験結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
以上の結果から、本発明の電波吸収体は、不燃性であることが分かる。本発明の電波吸収体は、約30秒の接炎後に火炎に曝された状態でも着火や延焼が起こらなかった。
【0058】
(試験評価2)
<試験評価方法>
上記実施形態と同様の方法で作成した厚さ8.4mmの本発明の電波吸収体について、各周波数毎の入射角10°での反射減衰量を計測した。なお、導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック)、可塑剤であるTXP、及び、イソシアネート化合物であるTDIのそれぞれの配合量をニトリルゴム100質量部に対して65、40及び175とした。
【0059】
<試験評価結果>
周波数と反射減衰量との関係を図4に示す。
【0060】
図4によれば、本発明の電波吸収体では、周波数5.8GHzにおいて反射減衰量の絶対値が30dBを超える程に非常に大きいということが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、ETCなどで用いられる電波吸収体及びその製造方法に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】電波吸収体の斜視図である。
【図2】入射角と反射減衰量との関係を示すグラフである。
【図3】電波吸収体の製造工程の流れを示す図である。
【図4】周波数と反射減衰量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 電波吸収体
2 多孔質構造体
3 表面フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ゴムであるニトリルゴムに電波吸収材料である導電性カーボンブラックが混合されたゴム組成物によって多孔質構造に形成されたことを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載された電波吸収体において、
上記ゴム組成物にカーボン繊維がさらに混合されていることを特徴とする電波吸収体。
【請求項3】
請求項1に記載された電波吸収体において、
上記ゴム組成物に難燃性付与充填材がさらに混合されていることを特徴とする電波吸収体。
【請求項4】
請求項3に記載された電波吸収体において、
上記難燃性付与充填材がAl(OH)3及び/又はMg(OH)2であることを特徴とする電波吸収体。
【請求項5】
原料ゴムであるニトリルゴムと、電波吸収材料である導電性カーボンブラック及びカーボン繊維と、架橋剤と、発泡剤と、を混練して未架橋のゴム組成物を作製するゴム組成物作製工程と、
上記未架橋のゴム組成物のニトリルゴムを架橋剤によって架橋させると共に上記発泡剤を発泡させることにより多孔質構造体を作製する多孔質構造体作製工程と、
を備えたことを特徴とする電波吸収体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載された電波吸収体の製造方法において、
上記多孔質構造体に対し、上記導電性カーボンブラックの構造を再構築させる加熱処理を施すことを特徴とする電波吸収体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−73760(P2006−73760A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254849(P2004−254849)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】