電流比較器
【課題】製造誤差が少なく、コイルおよびシールド管の故障が少なく、ピックアップコイルに起因する振動ノイズの影響を受けにくく、製造容易で小型の電流比較器を実現する。
【解決手段】電流比較器は、基板上設けられ、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管30と、シールド管30の内部に設けられ、シールド管30の内壁と外壁との間に構成される閉ループaもしくはa’におけるループ内を貫通し、シールド管30と絶縁された少なくとも2本の導線L1およびL2と、を備える。
【解決手段】電流比較器は、基板上設けられ、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管30と、シールド管30の内部に設けられ、シールド管30の内壁と外壁との間に構成される閉ループaもしくはa’におけるループ内を貫通し、シールド管30と絶縁された少なくとも2本の導線L1およびL2と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体を用いた電流比較器に関する。
【背景技術】
【0002】
超精密抵抗測定用ブリッジ回路においては、極低温電流比較器(Cryogenic Current Comparameter:CCC、以下「CCC」と称する。)と呼ばれる装置が用いられる。現在主に用いられているものとして、1972年にHarvey(ハーヴェイ)らにより提案されたものがある(非特許文献1参照。)。
【0003】
図9は、従来の極低温電流比較器(CCC)の原理を説明する図であり、図10は、従来の極低温電流比較器(CCC)の構成を例示する図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。
【0004】
一例として、図9に示すように、超伝導体からなる長いシールド管100に、2本の導線L1およびL2が通った場合を説明する。導線L1およびL2にはそれぞれ独立に電流源(図示せず)が接続され、それぞれ電流I1およびI2が流れているとする。超伝導体の完全反磁性すなわちマイスナー効果により、シールド管100の表面には遮蔽電流I が流れ、シールド管100の外側に磁場を誘起する。「超伝導体中の閉じた経路」である「シールド管100の内壁と外壁との間に位置する部分aあるいはa’」においてアンペアの法則を適用すると、真空の透磁率をμ0、磁場をBとしたとき、式1が成り立つ。
【0005】
【数1】
【0006】
超伝導体中ではマイスナー効果により外部磁場と遮蔽電流による磁場の和がゼロになる。すなわち、図9においては、ここで、マイスナー効果により、「超伝導体中の閉じた経路」であるシールド管100の内壁と外壁との間に位置する部分aあるいはa’においては、常に「B=0」となる。このため、上記「超伝導体中の閉じた経路」を積分路として式1に基づきアンペアの周回積分 を計算すれば必ずゼロとなる。よって、導線L1およびL2が管100内にある限り、導線L1およびL2の形状や位置によらず、「I=I1+I2」が成り立つ。いま、導線L1およびL2に流れる電流I1とI2の極性が逆で大きさが等しい場合、遮蔽電流Iは流れず、管100の外側に磁場は誘起されない。したがって遮蔽電流Iが誘起する磁場Bを超伝導量子干渉素子(Superconducting QUantum Interference Devices:SQUID、以下「SQUID」と称する。)などの磁気センサを用いて検出すれば、管100内の電流がバランスしたか否かが分かる。たとえば、この磁場がゼロになったことを検出できたときは管100内の電流の大きさが等しいことを知ることになる。上述した低温電流比較器の動作は、磁気センサは管100を流れる遮蔽電流が誘起する磁場のみを検出することが前提となっている。すなわち、導線L1およびL2が管100の両端でむき出しになった部分を流れる電流が誘起する磁場が、磁気センサに直接入力してはならない。このことは、例えば仮想的に管100が無限の長さを持つ場合に満たされる。
【0007】
ここで、無限に長い管100を作製するのは現実として不可能であるので、図10に示すように、図9に示す構造と同じトポロジーを保ったまま、超伝導体の管であるシールド管101を「蛇が尻尾を噛む」ようにすなわち超伝導シールドの片方の端Xがもう一方の端Yを飲み込むように閉じ、シールド管101の外部表面を遮蔽電流Iが流れるよう、超伝導シールドの両端XおよびYが互いに電気的に接触しないような構造にする(非特許文献2参照。)。この構造は、通常の導線L1およびL2(必ずしも超伝導体である必要はない)で作られた導線を、超伝導体であるシールド材によって手作業でシールドすることで作製される。シールド材には、一般に、加工の容易な超伝導体である鉛が用いられる。典型的な導線の外径および超伝導シールドの外径は通常5cm、高さ5cmのオーダーである。このような構造により、2つのコイル(すなわち導線L1およびL2)を流れる電流I1およびI2が作り出す磁場を遮蔽する遮蔽電流Iがシールド管101の外部表面に流れることになる。例えば電流比較器の導線L1およびL2の巻き数をN1およびN2としたとき、遮蔽電流I=N2I2+N1I1となる。遮蔽電流Iが誘起する磁束は、手巻きで作製されたピックアップコイル110を介して、電流比較器から分離して配置された磁気センサ120であるSQUIDの入力コイル130に結合される。
【0008】
図11は、従来の極低温電流比較器(CCC)のさらに別の例の構成を例示する断面図である(非特許文献3参照。)。図示の例では、シールド管101の周りに導線L1およびL2が巻かれており、ピックアップコイル110がシールド管101の内部に設けられ、図9および図10に示す構造とトポロジー的に同一の構造となっている。このCCCについても、通常の導線L1およびL2(必ずしも超伝導体である必要はない)で作られたコイルを、超伝導体であるシールド材によって手作業でシールドすることで作製される。なお、これ以外の構成要素については図10に示す構成要素と同様であるので、同一の構成要素には同一符号を付して当該構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0009】
なお、電流比較器を集積回路プロセス技術によって作製することを目指した技術がある(非特許文献4参照。)。この技術においては、超伝導シールドは上述のような筒状構造を持たず、導線はマイスナー効果により「B=0」となる閉じた経路を貫通していないため、動作原理は低温電流比較器とは根本的に異なるものである。実際、2つのコイルの作る磁場の不均衡により誤差は400ppm程度も存在し、手作業によって作製されたCCCよりも4桁から5桁程度精度が劣る。また、磁気センサであるSQUIDは別基板上に作製され、フリップチップ法で取り付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I.K.ハーヴェイ(I.K.Harvey)著、「精密低温DC比変換器(Precise low temperature DC ratio transformer)」、(米国)、米国物理学会(American Institure of Physics)、Review of Scientific Instruments、第43巻、第11号、pp.1626〜1629、1972年
【非特許文献2】D.B.サリヴァン(D.B.Sullivan)、R.F.ドジウバ(R.F.Dziuba)著、「低温直流電流比較器(Low temperature direct current comparator」」、(米国)、米国物理学会(American Institure of Physics)、Review of Scientific Instruments、第45巻、第4号、pp.517〜519、1974年
【非特許文献3】K.グローマン(K.Grohmann)、H.D.ハルボーム(H.D.Hahlbohm)、H.ルビッグ(H.Lubbig)、H.ラミン(H.Ramin)著、「超伝導シールドを有する電流比較器(Current comparators with superconducting shields)、(オランダ)、エルゼビア社(Elsevier)、クライオジェニックス(低温学)(Cryogenics)、第14巻、第9号、pp.499〜502、1974年9月
【非特許文献4】ヘイッキ・セッパ(Heikki Seppa)、アレクサンドレ・サトラピンクシ(Alexandre Satrapinksi)、ミッコ・キビランタ(Mikko Kiviranta)、ベサ・ヴィルキ(Vesa Virkki)著、「薄膜極低温電流比較器(Thin−Film Cryogenic Current Comparameter)」、(米国)、米国電気電子学会(IEEE)、計測機器と測定に関する米国電気電子学会会報(IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement)、 Vol.48、No.2、pp365〜369、1999年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図10に示す従来の極低温電流比較器(CCC)は、その本体(シールド管および超伝導配線)で発生した磁束を、ピックアップコイルを介して、電流比較器本体とは分離して配置されたSQUIDの入力コイルに結合していた。このため、ピックアップコイルがシールド管に対して振動することにより生じるノイズが大きな問題となっていた。また、図10に示す電流比較器は、例えば直径5cm程度、高さ5cm程度の円柱形といったように巨大であり、専用のデュワーが必要である。
【0012】
さらに、電流比較器の作製には手作業によるところが多いので、作製に時間がかかり、品質にばらつきがある。特に、電流比較器のコイルは導線を手作業で巻くことで作製されるので、コイルの巻き数のエラーが生じやすい。また、コイルを巻く際、線が折れたり切れたりすることによってショートすることもある。
【0013】
また、鉛製の超伝導体であるシールド管は、ピンホールが生じて磁場が漏れることがあり、また、熱サイクルや力学的衝撃により破れやすい。
【0014】
電圧(V=hf/2e)、抵抗(R=h/e2)、電流(I=ef)の間におけるいわゆる量子トライアングルの検証のためには、「10000対1」を大幅に上回る巻き数比の極低温電流比較器(CCC)が必要である。しかしながら、従来の手作業でコイルを巻く方法では、「10000対1」程度の巻き数比の極低温電流比較器(CCC)を作製するのが限界であった。また、1つの極低温電流比較器(CCC)の大きさが巨大であるため、「1000対1」程度の巻き数比の極低温電流比較器(CCC)を2つカスケード接続して巻き数比を「1000000対1」にすることも考えられうるが、実現は困難を伴う。
【0015】
また、上述のように、非特許文献4に記載された構造は、超伝導配線が超伝導体で囲まれていないため、漏れ磁束があり、超伝導の磁場遮蔽効果を利用した極低温電流比較器(CCC)として機能していない。また、この構造は、極低温電流比較器(CCC)とSQUIDとが別チップとなっているため、振動によるノイズが大きいだけではなく、極低温電流比較器(CCC)とSQUIDとの間の結合が弱くなるため、磁場検出の感度が落ちるという問題がある。
【0016】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、製造誤差が少なく、コイルおよびシールド管の故障が少なく、ピックアップコイルに起因する振動ノイズの影響を受けにくく、製造容易で小型の電流比較器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を実現するために、本発明においては、電流比較器は、基板上設けられ、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管と、シールド管の内部に設けられ、シールド管の内壁と外壁との間に構成される閉ループにおけるループ内を貫通し、シールド管と絶縁された少なくとも2本の導線と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
従来の極低温電流比較器(CCC)では、その本体(シールド管および超伝導配線)で発生した磁束を、ピックアップコイルを介して、CCC本体とは分離して配置されたSQUIDの入力コイルに結合していたが、本発明によれば、CCCとSQUIDとを同一基板上に隣接して配置できるため、ピックアップコイルがCCCのシールドに対して振動することにより生じるノイズの影響をCCCは受けにくくなる。また、このようにCCCとSQUIDとを同一基板上に隣接して配置するため、CCCのシールド管とSQUIDのピックアップコイルとの間を小さくでき(例えば、最小幅1μm程度)、CCCのシールド管とピックアップコイルとの磁気結合が増加し、SQUIDの感度が向上するため、電流比較測定値の精度が向上する。
【0019】
本発明によれば、従来と同じ構造の素子を、高々2cm角程度の基板上に作製できるようになり、CCCを劇的に小型化できる。また、1つ1つの素子は高々縦、横5mm程度、厚さ500μm程度の大きさであるため、フリップチップボンディングなどの技術により同一基板上に複数個の素子をカスケード接続することが可能となり、巻き数比を大幅に大きくすることができる。
【0020】
また、本発明によれば、従来のように手作業で1つずつ作製する場合と異なり、集積回路プロセス技術で一枚のウエハ上に10〜100個を一度に作製できるため、極低温電流比較器(CCC)1個あたりの作製に要する時間を劇的に短縮することができ、製造容易である。このことは個々のCCCの品質のばらつきを抑制する上で特に有効であり、また、製造コストの低減にもつながる。また、手作業で1つずつ作製するわけではないので、設計データと実際に作製されたものとの誤差が小さい。したがって、極低温電流比較器(CCC)の性能の定量的な予測も容易となる。
【0021】
また、従来は作製時の作業や度重なる熱サイクルや力学的衝撃による金属疲労のために鉛製の超伝導体であるシールド管にピンホールや大きな破れが生じることがあったが、本発明によれば、ニオブプロセスを用いるので、このような問題の発生をきわめて小さく抑制することができる。
【0022】
本発明によれば、熱容量が小さく発熱が極めて小さい素子なので冷凍能力の小さい冷凍機中でも利用することが可能となり、適用範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施例による電流比較器の構造を示す断面図である。
【図2】図1に示す電流比較器と同一基板上にある超伝導量子干渉素子(SQUID)を構成するジョセフソン接合を示す断面図である。
【図3】本発明の第一の実施例による電流比較器(その1)を説明する模式的な図であり、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のP−P’断面図である。
【図4】本発明の第一の実施例による電流比較器(その2)を説明する模式的な平面図である。
【図5】本発明の第一の実施例による電流比較器(その3)を説明する模式的な平面図である。
【図6】本発明の第2の実施例による電流比較器を説明する図であり、図6(a)は上面からみた透視図、図6(b)は図6(a)のP-P’断面図である。
【図7】本発明の第3の実施例による電流比較器を説明する図である。
【図8】本発明の第4の実施例における、2個カスケード接続された電流比較器を例示する図である。
【図9】従来の極低温電流比較器(CCC)の原理を説明する図である。
【図10】従来の極低温電流比較器(CCC)の構成を例示する図である。
【図11】従来の極低温電流比較器(CCC)のさらに別の例の構成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の第1の実施例による電流比較器の構造を示す断面図である。本実施例では、集積回路プロセス技術により、シリコン基板10上に、超伝導体としてニオブ層M1〜M5を、層間絶縁膜として二酸化シリコン膜20を、それぞれ形成する。図1に示す各層の厚さは一例である。本構造は、少なくとも5層以上のニオブ層を必要とするため、上層での段切れやリークを防止するためにバイアススパッタ法やCMPを用いた平坦化法を適宜用いて形成される。上層における段差を少なくするために、下から1層目のニオブ層M1および下から2層目のニオブ層M2は平坦化される。図中、点線で囲まれた部分(参照符号T)が上記「蛇が尻尾を噛む」構造である。
【0025】
本発明の第1の実施例による電流比較器のシールド管は、ニオブ層M1〜M5を用いて形成される。本実施例では、シールド管は大きく分けて次の2つの部分で構成される。第1のシールド管部分は、底がニオブ層M1で形成され、天井がニオブ層M5で形成され、側壁がニオブ層M1からニオブ層M5までの5層をコンタクトホールを介して縦につないで形成される部分である。第2のシールド管部分は、底がニオブ層M2で形成され、天井がニオブ層M4で形成され、側壁がニオブ層M2からニオブ層M4までの3層をコンタクトホールを介して縦につないで形成される部分である。このとき、シールド管の「蛇が尻尾を噛む」部分Tは、ニオブ層M1からニオブ層M5までで形成された第1のシールド管の内側に、ニオブ層M2からニオブ層M4までで形成された第2のシールド管が差し込まれるようにして配置された構造に相当する。これら第1のシールド管と第2のシールドとの結合部分においては、「蛇が尻尾を噛む」部分Tの外側(蛇で例えれば「胴」に相当する部分)で第1のシールド管と第2のシールドとが重なり合うように結合されており、これによって1つのシールド管が形成されることになる。第1のシールド管と第2のシールド管とが重ね合わされた「蛇の胴」部分では、第1のシールド管の底を構成するニオブ層M1と第2のシールド管の底を構成するニオブ層M2とがコンタクトホールを介して結合され、第1のシールド管の天井を構成するニオブ層M5と第2のシールド管の天井を構成するニオブ層M4とがコンタクトホールを介して結合される。またこのとき、導線についてはニオブ層M3で形成される。導線同士の交差が必要となる場合には、ニオブ層M2も導線として使用する。
【0026】
なお、図1に示すニオブ層M0は、シリコン基板10の、ニオブ層M1〜M5が形成された面(すなわちシールド管が設けられた面)とは反対側の面に成膜されるものであり、シリコン基板10に対するストレス緩和および磁気シールドのために設けられる。すなわち、電流比較器本体の機能とは直接には関係ないものであり、したがって、ニオブ層M0を設けなくてもよい。
【0027】
後述するピックアップコイルは、ニオブ層M1、M3およびM5を使用し、後述する入力コイルは、ニオブ層M2を使用する。
【0028】
超伝導体であるニオブの膜厚は、コイル状の導線により発生する磁場をできるだけ外部に漏らさないようにするために、ある程度大きい値であることが好ましい。しかしながら、一般に、ニオブの膜厚が増加すればニオブ膜および二酸化シリコン膜に内在する応力による基板のそりが増加するため、製造が難しくなるという問題がある。そこで、本実施例では、表面のニオブ膜および二酸化シリコン膜の膜厚に匹敵する膜厚を有するニオブ膜M0を、基板裏面に成膜する。これにより、基板のそりを抑制することができる。また、基板裏面のニオブ膜により環境磁場を遮蔽する効果が期待でき、磁気センサによるより高感度の測定が可能となる。
【0029】
図2は、図1に示す電流比較器と同一基板上にある超伝導量子干渉素子(SQUID)を構成するジョセフソン接合を示す断面図である。SQUIDを構成するジョセフソン接合には、図中の点線で囲まれた部分(参照符号U)で示されるNb/AlOx/Nb接合を用いる。抵抗層MRにはモリブデンを使用する。SQUIDは、ピックアップコイル、入力コイルとともにCCCと同一シリコン基板上に配置する。なお、図2においては、ピックアップコイルおよび入力コイルについては省略している。
【0030】
図3〜5は、本発明の第一の実施例による電流比較器を説明する模式的な図であり、図3(a)、4および5は平面図、図3(b)は図3(a)のP−P’断面図である。なお、図3に関してのみ、P−P’断面図を示したが、図4および5についても、図3の同様の箇所のP−P’断面を取れば、図3(b)と同様の断面図が得られるので、ここでは省略する。図3(b)に示すように、シリコン基板10上に、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管30が設けられる。図3〜5において、太い点線で囲まれた部分(参照符号T)は、上記「蛇が尻尾を噛む」構造のうちの「噛まれた側」のシールド管30の外部表面を示す。シールド管30内は二酸化シリコン膜20で満たされており、巻き数N1のコイル状の導線L1、巻き数N2のコイル状の導線L2がそれぞれ配置されている。すなわち、コイル状の導線L1およびコイル状の導線L2は、シールド管30の内部に該シールド管30と絶縁された形で配置されており、より詳しく言えばシールド管の内壁と外壁との間に構成される閉ループにおけるループ内を貫通するようにして配置されている。
【0031】
導線L1には電流I1が流され、導線L2にはI2がI1と逆向きに流される。シールド管30の内壁にはN1I1とN2I2との差に応じた遮蔽電流が流れ、シールド管30の端面においてシールド管30の外部表面に伝わり、この外部表面を流れる遮蔽電流が、ピックアップコイル40に結合する磁場を誘起する。この磁場を、入力コイル50を介して、磁気センサ60で検出する。磁気センサ60は例えばSQUIDである。磁気センサ60が検出する磁場の大きさがゼロとなるようにI1およびI2を適切に制御すれば、N1I1=N2I2の関係を満足させることができる。N1I1=N2I2のときのI1対I2は、巻き数比N2対N1となる。遮蔽電流が誘起する磁場のピックアップコイル40による検出方法としては、図3〜5に示す3種類の方法が可能であるが、その詳細については後述する。
【0032】
なお、変形例として、シールド管30の中に巻き数の異なるコイル状の導線をさらに追加して配置することによって、測定できる電流比の組み合わせを増やすこともできる。例えば、図3〜5に示す電流比較器に、巻き数N1のコイル状の導線L1および巻き数N2のコイル状の導線L2に加えて、巻き数N3のコイル状のさらなる導線(図示せず)を追加すれば、N2対N1に加えて、N1対N3およびN2対N3の合計3つの電流比の測定が可能になる。
【0033】
電流比較器のシールド管30の外部表面に流れる遮蔽電流が誘起する磁場の、ピックアップコイル40による検出方法としては、図3〜5に示す3つの方法がある。
【0034】
第1の方法は、図3に示すような、シールド管30の近傍に配置したピックアップコイル40を磁気センサ60の入力コイル50に結合し、ピックアップコイル40で検出した磁束を入力コイル50に移送する方法である。入力コイル50を含む磁気センサ60は、電流比較器と同一のシリコン基板10基板上に実装することができる。
【0035】
第2の方法は、図4に示すような、シールド管30自体をピックアップコイルとみなすものである。すなわち、ピックアップコイルとしても機能するシールド管30を、磁気センサ60の入力コイル50に結合し、このシールド管30で検出した磁束を入力コイル50に移送する方法である。この方法によれば、電流比較器のシールド管30自体をピックアップコイルとして利用するため、図3に示した第1の方法よりも構造が簡単になる。図4に示すように電流比較器と磁気センサ60とは同一シリコン基板上に実装することが可能であるが、この変形例として、電流比較器と磁気センサ60とを互いに分離させて空間的に離れた場所に配置してもよい。
【0036】
第3の方法は、図5に示すような、シールド管30自体を磁気センサの一部として利用する方法である。この方法によれば、シールド管30自体をSQUIDのインダクタンスとして使うことができるため、図4に示した第2の方法よりも構造がさらに簡単になる。ただし、磁気センサはSQUIDに限られる。
【0037】
上述の図3に示した第1の方法および図4に示した第2の方法では、磁気センサとしてSQUIDを用いたが、その他の種類の磁気センサを用いてもよく、例えば、ホールセンサを用いる方法、カー効果を用いる方法、あるいはゼーマン分裂を用いる方法、などであってもよい。ただし、SQUIDを用いる方法は、同一の超伝導プロセスが利用可能であるので、磁場検出感度の観点からも素子作製の観点からも有利である。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施例による電流比較器を説明する図であり、図6(a)は上面からみた透視図、図6(b)は図6(a)のP-P’断面図である。本実施例は、上述の第1の実施例において1枚の基板上に形成される構造を、少なくとも2枚の基板を用いて実現するものである。図中、参照符号20は二酸化シリコン膜、30はシールド管、80は半田バンプ(ソルダバンプ)をそれぞれ表わす。
【0039】
図6(a)および図6(b)に示すように、例えば、上述の第1の実施例における構造の一部(例えば図1に示されたニオブ層M1、ニオブ層M2、およびニオブ層M3の一部など)を第1の基板10-1上に形成し、第1の基板10-1に形成されない残りの構造(例えば図1に示されたニオブ層M3の一部、ニオブ層M4、およびニオブ層M5など)および磁気センサ60を第2の基板10-2上に形成し、これら2つの基板10-1および10-2をフリップチップ技術を利用して半田バンプ80を介して張り合わせることにより、基板1枚あたりに必要な超伝導層の数を減らすことができる。これにより、作製プロセス技術上、基板1枚あたりに利用できる超伝導層数が限られている場合であっても、導線L1および導線L2をそれぞれ異なる超伝導層を用いて形成することができる。つまり、同一の超伝導層を用いて導線L1および導線L2を形成する第1の実施例に比べ、第2の実施例によれば、各導線の巻き線密度を高めることが可能になる。また、余った超伝導層を用いて追加のシールド層を形成し、磁気遮蔽効果を高める構造などのような、付加機能的な構造を追加することも可能である。
【0040】
図7は、本発明の第3の実施例による電流比較器を説明する図である。本実施例では、第1の実施例において説明した電流比較器のシールド管30、導線L1およびL2、ならびにピックアップコイル40を、図7に示すように、8の字状に配置することによりグラジオメータを構成する。すなわち、磁気センサ60の入力コイル50に接続されるピックアップコイル40を、上記8の字状構造の各ループにおいて、環境磁場に起因する電流は互いに逆向きに流れように、かつ、シールド管30の外部表面を流れる遮蔽電流が誘起する磁場に起因する電流は互いに同じ向きに流れるように、上記8の字状構造に接続する。これにより、地磁気のような一様な環境磁場の影響を打ち消し、かつ、電流比較器のシールド管30を流れる遮蔽電流の作る磁場についての磁気センサ60による検出感度を2倍に向上させることができるため、電流比較測定値の精度が向上する。
【0041】
本発明の第4の実施例は、上述の第1の実施例による電流比較器を、同一基板上に、複数個配置するものである。電流比較器の複数個配置は、例えば集積回路プロセスを用いて実現する。これにより、より多様な電流比較器を1チップで実現することができる。またあるいは、電流比較器の複数個配置は、電流比較器を1つ配置した基板を、フリップチップ法により、より大きな面積を有する基板に複数枚貼り付けることにより実現する。これにより、より多様な電流比較器が構成できる。これらいずれかの方法により複数配置された電流比較器は、各電流比較器が有する導線をカスケード接続することもできる。
【0042】
図8は、本発明の第4の実施例における、2個のカスケード接続された電流比較器を例示する図である。本実施例では、同一の基板200上に、巻き数N10のコイル状の導線L10および巻き数N11のコイル状の導線L11を含む第1の電流比較器201−1と、巻き数N20のコイル状の導線L20および巻き数N21のコイル状の導線L21を含む第2の電流比較器201−2が設けられる。第1の電流比較器201−1と第2の電流比較器201−2とは、図8に示すようにカスケード接続される。具体的には、電流比較器201−1の導線L10には電流源202−1が接続され、電流比較器201−1の導線L11は電流源202−2を介して電流比較器201−2の導線L20に接続され、さらに電流比較器201−2の導線L21には電流源202−3が接続される。電流比較器201−1のシールド管30−1の外部表面を流れる遮蔽電流に起因する磁場は、同一の基板200上に設けられたピックアップコイル40−1で検出され、同一の基板200上に設けられた入力コイル50−1を介して磁気センサ60−1で検出される。同様に、電流比較器201−2のシールド管30−2の外部表面を流れる遮蔽電流に起因する磁場は、同一の基板200上に設けられたピックアップコイル40−2で検出され、同一の基板200上に設けられた入力コイル50−2を介して磁気センサ60−2で検出される。
【0043】
電流源202−1、202−2および202−3を制御して電流I1、I2およびI3を変化させ、磁気センサ60−1および60−2の検出する磁場がともにゼロになるようにしたとき、各導線の巻き数N10、N11、N20およびN21とそこを流れる電流I1、I2およびI3との間には、式2および式3の関係が成り立つ。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
例えば、第1の電流比較器201−1における巻き数比が「N10:N11=320:1」、第2の電流比較器201−2における巻き数比が「N20:N21=320:1」である場合、第1の電流比較器201−1と第2の電流比較器201−2とを上述のようにカスケード接続することにより、式3から分かるように、実質的にはコイルの巻き数比が「102400対1」である1つの電流比較器と同等の性能を有する電流比較器を実現することができる。本実施例では、一例としてカスケード接続する電流比較器の数を2つとしたが、これに限定されず、それより多い数であってもよい。複数個の電流比較器を順次カスケード接続すれば、巻き数比を大幅に向上させた電流比較器を等価的に実現することができる。上述のように、電圧(V=hf/2e)、抵抗(R=h/e2)、電流(I=ef)の間におけるいわゆる量子トライアングルの検証のためには、「10000対1」を大幅に上回る巻き数比の電流比較器が必要であるが、本発明によれば、容易にこれを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、抵抗標準、電流標準、電圧標準、温度標準、温度計測装置、超精密電流整数倍器、超精密計測装置、および高精度信号発生装置などに適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 シリコン基板
10−1 第1の基板
10−2 第2の基板
20 二酸化シリコン膜
30、30−1、30−2 シールド管
40 ピックアップコイル
50、50−1、50−2 入力コイル
60、60−1、60−2 磁気センサ
80 半田バンプ
200 基板
201−1 第1の電流比較器
201−2 第2の電流比較器
202−1、202−2、202−3 電流源
L1、L2、L10、L11、L20、L21 導線
M1、M2、M3、M4、M5 ニオブ層
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導体を用いた電流比較器に関する。
【背景技術】
【0002】
超精密抵抗測定用ブリッジ回路においては、極低温電流比較器(Cryogenic Current Comparameter:CCC、以下「CCC」と称する。)と呼ばれる装置が用いられる。現在主に用いられているものとして、1972年にHarvey(ハーヴェイ)らにより提案されたものがある(非特許文献1参照。)。
【0003】
図9は、従来の極低温電流比較器(CCC)の原理を説明する図であり、図10は、従来の極低温電流比較器(CCC)の構成を例示する図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。
【0004】
一例として、図9に示すように、超伝導体からなる長いシールド管100に、2本の導線L1およびL2が通った場合を説明する。導線L1およびL2にはそれぞれ独立に電流源(図示せず)が接続され、それぞれ電流I1およびI2が流れているとする。超伝導体の完全反磁性すなわちマイスナー効果により、シールド管100の表面には遮蔽電流I が流れ、シールド管100の外側に磁場を誘起する。「超伝導体中の閉じた経路」である「シールド管100の内壁と外壁との間に位置する部分aあるいはa’」においてアンペアの法則を適用すると、真空の透磁率をμ0、磁場をBとしたとき、式1が成り立つ。
【0005】
【数1】
【0006】
超伝導体中ではマイスナー効果により外部磁場と遮蔽電流による磁場の和がゼロになる。すなわち、図9においては、ここで、マイスナー効果により、「超伝導体中の閉じた経路」であるシールド管100の内壁と外壁との間に位置する部分aあるいはa’においては、常に「B=0」となる。このため、上記「超伝導体中の閉じた経路」を積分路として式1に基づきアンペアの周回積分 を計算すれば必ずゼロとなる。よって、導線L1およびL2が管100内にある限り、導線L1およびL2の形状や位置によらず、「I=I1+I2」が成り立つ。いま、導線L1およびL2に流れる電流I1とI2の極性が逆で大きさが等しい場合、遮蔽電流Iは流れず、管100の外側に磁場は誘起されない。したがって遮蔽電流Iが誘起する磁場Bを超伝導量子干渉素子(Superconducting QUantum Interference Devices:SQUID、以下「SQUID」と称する。)などの磁気センサを用いて検出すれば、管100内の電流がバランスしたか否かが分かる。たとえば、この磁場がゼロになったことを検出できたときは管100内の電流の大きさが等しいことを知ることになる。上述した低温電流比較器の動作は、磁気センサは管100を流れる遮蔽電流が誘起する磁場のみを検出することが前提となっている。すなわち、導線L1およびL2が管100の両端でむき出しになった部分を流れる電流が誘起する磁場が、磁気センサに直接入力してはならない。このことは、例えば仮想的に管100が無限の長さを持つ場合に満たされる。
【0007】
ここで、無限に長い管100を作製するのは現実として不可能であるので、図10に示すように、図9に示す構造と同じトポロジーを保ったまま、超伝導体の管であるシールド管101を「蛇が尻尾を噛む」ようにすなわち超伝導シールドの片方の端Xがもう一方の端Yを飲み込むように閉じ、シールド管101の外部表面を遮蔽電流Iが流れるよう、超伝導シールドの両端XおよびYが互いに電気的に接触しないような構造にする(非特許文献2参照。)。この構造は、通常の導線L1およびL2(必ずしも超伝導体である必要はない)で作られた導線を、超伝導体であるシールド材によって手作業でシールドすることで作製される。シールド材には、一般に、加工の容易な超伝導体である鉛が用いられる。典型的な導線の外径および超伝導シールドの外径は通常5cm、高さ5cmのオーダーである。このような構造により、2つのコイル(すなわち導線L1およびL2)を流れる電流I1およびI2が作り出す磁場を遮蔽する遮蔽電流Iがシールド管101の外部表面に流れることになる。例えば電流比較器の導線L1およびL2の巻き数をN1およびN2としたとき、遮蔽電流I=N2I2+N1I1となる。遮蔽電流Iが誘起する磁束は、手巻きで作製されたピックアップコイル110を介して、電流比較器から分離して配置された磁気センサ120であるSQUIDの入力コイル130に結合される。
【0008】
図11は、従来の極低温電流比較器(CCC)のさらに別の例の構成を例示する断面図である(非特許文献3参照。)。図示の例では、シールド管101の周りに導線L1およびL2が巻かれており、ピックアップコイル110がシールド管101の内部に設けられ、図9および図10に示す構造とトポロジー的に同一の構造となっている。このCCCについても、通常の導線L1およびL2(必ずしも超伝導体である必要はない)で作られたコイルを、超伝導体であるシールド材によって手作業でシールドすることで作製される。なお、これ以外の構成要素については図10に示す構成要素と同様であるので、同一の構成要素には同一符号を付して当該構成要素についての詳細な説明は省略する。
【0009】
なお、電流比較器を集積回路プロセス技術によって作製することを目指した技術がある(非特許文献4参照。)。この技術においては、超伝導シールドは上述のような筒状構造を持たず、導線はマイスナー効果により「B=0」となる閉じた経路を貫通していないため、動作原理は低温電流比較器とは根本的に異なるものである。実際、2つのコイルの作る磁場の不均衡により誤差は400ppm程度も存在し、手作業によって作製されたCCCよりも4桁から5桁程度精度が劣る。また、磁気センサであるSQUIDは別基板上に作製され、フリップチップ法で取り付けられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】I.K.ハーヴェイ(I.K.Harvey)著、「精密低温DC比変換器(Precise low temperature DC ratio transformer)」、(米国)、米国物理学会(American Institure of Physics)、Review of Scientific Instruments、第43巻、第11号、pp.1626〜1629、1972年
【非特許文献2】D.B.サリヴァン(D.B.Sullivan)、R.F.ドジウバ(R.F.Dziuba)著、「低温直流電流比較器(Low temperature direct current comparator」」、(米国)、米国物理学会(American Institure of Physics)、Review of Scientific Instruments、第45巻、第4号、pp.517〜519、1974年
【非特許文献3】K.グローマン(K.Grohmann)、H.D.ハルボーム(H.D.Hahlbohm)、H.ルビッグ(H.Lubbig)、H.ラミン(H.Ramin)著、「超伝導シールドを有する電流比較器(Current comparators with superconducting shields)、(オランダ)、エルゼビア社(Elsevier)、クライオジェニックス(低温学)(Cryogenics)、第14巻、第9号、pp.499〜502、1974年9月
【非特許文献4】ヘイッキ・セッパ(Heikki Seppa)、アレクサンドレ・サトラピンクシ(Alexandre Satrapinksi)、ミッコ・キビランタ(Mikko Kiviranta)、ベサ・ヴィルキ(Vesa Virkki)著、「薄膜極低温電流比較器(Thin−Film Cryogenic Current Comparameter)」、(米国)、米国電気電子学会(IEEE)、計測機器と測定に関する米国電気電子学会会報(IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement)、 Vol.48、No.2、pp365〜369、1999年4月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図10に示す従来の極低温電流比較器(CCC)は、その本体(シールド管および超伝導配線)で発生した磁束を、ピックアップコイルを介して、電流比較器本体とは分離して配置されたSQUIDの入力コイルに結合していた。このため、ピックアップコイルがシールド管に対して振動することにより生じるノイズが大きな問題となっていた。また、図10に示す電流比較器は、例えば直径5cm程度、高さ5cm程度の円柱形といったように巨大であり、専用のデュワーが必要である。
【0012】
さらに、電流比較器の作製には手作業によるところが多いので、作製に時間がかかり、品質にばらつきがある。特に、電流比較器のコイルは導線を手作業で巻くことで作製されるので、コイルの巻き数のエラーが生じやすい。また、コイルを巻く際、線が折れたり切れたりすることによってショートすることもある。
【0013】
また、鉛製の超伝導体であるシールド管は、ピンホールが生じて磁場が漏れることがあり、また、熱サイクルや力学的衝撃により破れやすい。
【0014】
電圧(V=hf/2e)、抵抗(R=h/e2)、電流(I=ef)の間におけるいわゆる量子トライアングルの検証のためには、「10000対1」を大幅に上回る巻き数比の極低温電流比較器(CCC)が必要である。しかしながら、従来の手作業でコイルを巻く方法では、「10000対1」程度の巻き数比の極低温電流比較器(CCC)を作製するのが限界であった。また、1つの極低温電流比較器(CCC)の大きさが巨大であるため、「1000対1」程度の巻き数比の極低温電流比較器(CCC)を2つカスケード接続して巻き数比を「1000000対1」にすることも考えられうるが、実現は困難を伴う。
【0015】
また、上述のように、非特許文献4に記載された構造は、超伝導配線が超伝導体で囲まれていないため、漏れ磁束があり、超伝導の磁場遮蔽効果を利用した極低温電流比較器(CCC)として機能していない。また、この構造は、極低温電流比較器(CCC)とSQUIDとが別チップとなっているため、振動によるノイズが大きいだけではなく、極低温電流比較器(CCC)とSQUIDとの間の結合が弱くなるため、磁場検出の感度が落ちるという問題がある。
【0016】
従って本発明の目的は、上記問題に鑑み、製造誤差が少なく、コイルおよびシールド管の故障が少なく、ピックアップコイルに起因する振動ノイズの影響を受けにくく、製造容易で小型の電流比較器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を実現するために、本発明においては、電流比較器は、基板上設けられ、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管と、シールド管の内部に設けられ、シールド管の内壁と外壁との間に構成される閉ループにおけるループ内を貫通し、シールド管と絶縁された少なくとも2本の導線と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
従来の極低温電流比較器(CCC)では、その本体(シールド管および超伝導配線)で発生した磁束を、ピックアップコイルを介して、CCC本体とは分離して配置されたSQUIDの入力コイルに結合していたが、本発明によれば、CCCとSQUIDとを同一基板上に隣接して配置できるため、ピックアップコイルがCCCのシールドに対して振動することにより生じるノイズの影響をCCCは受けにくくなる。また、このようにCCCとSQUIDとを同一基板上に隣接して配置するため、CCCのシールド管とSQUIDのピックアップコイルとの間を小さくでき(例えば、最小幅1μm程度)、CCCのシールド管とピックアップコイルとの磁気結合が増加し、SQUIDの感度が向上するため、電流比較測定値の精度が向上する。
【0019】
本発明によれば、従来と同じ構造の素子を、高々2cm角程度の基板上に作製できるようになり、CCCを劇的に小型化できる。また、1つ1つの素子は高々縦、横5mm程度、厚さ500μm程度の大きさであるため、フリップチップボンディングなどの技術により同一基板上に複数個の素子をカスケード接続することが可能となり、巻き数比を大幅に大きくすることができる。
【0020】
また、本発明によれば、従来のように手作業で1つずつ作製する場合と異なり、集積回路プロセス技術で一枚のウエハ上に10〜100個を一度に作製できるため、極低温電流比較器(CCC)1個あたりの作製に要する時間を劇的に短縮することができ、製造容易である。このことは個々のCCCの品質のばらつきを抑制する上で特に有効であり、また、製造コストの低減にもつながる。また、手作業で1つずつ作製するわけではないので、設計データと実際に作製されたものとの誤差が小さい。したがって、極低温電流比較器(CCC)の性能の定量的な予測も容易となる。
【0021】
また、従来は作製時の作業や度重なる熱サイクルや力学的衝撃による金属疲労のために鉛製の超伝導体であるシールド管にピンホールや大きな破れが生じることがあったが、本発明によれば、ニオブプロセスを用いるので、このような問題の発生をきわめて小さく抑制することができる。
【0022】
本発明によれば、熱容量が小さく発熱が極めて小さい素子なので冷凍能力の小さい冷凍機中でも利用することが可能となり、適用範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1の実施例による電流比較器の構造を示す断面図である。
【図2】図1に示す電流比較器と同一基板上にある超伝導量子干渉素子(SQUID)を構成するジョセフソン接合を示す断面図である。
【図3】本発明の第一の実施例による電流比較器(その1)を説明する模式的な図であり、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のP−P’断面図である。
【図4】本発明の第一の実施例による電流比較器(その2)を説明する模式的な平面図である。
【図5】本発明の第一の実施例による電流比較器(その3)を説明する模式的な平面図である。
【図6】本発明の第2の実施例による電流比較器を説明する図であり、図6(a)は上面からみた透視図、図6(b)は図6(a)のP-P’断面図である。
【図7】本発明の第3の実施例による電流比較器を説明する図である。
【図8】本発明の第4の実施例における、2個カスケード接続された電流比較器を例示する図である。
【図9】従来の極低温電流比較器(CCC)の原理を説明する図である。
【図10】従来の極低温電流比較器(CCC)の構成を例示する図である。
【図11】従来の極低温電流比較器(CCC)のさらに別の例の構成を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の第1の実施例による電流比較器の構造を示す断面図である。本実施例では、集積回路プロセス技術により、シリコン基板10上に、超伝導体としてニオブ層M1〜M5を、層間絶縁膜として二酸化シリコン膜20を、それぞれ形成する。図1に示す各層の厚さは一例である。本構造は、少なくとも5層以上のニオブ層を必要とするため、上層での段切れやリークを防止するためにバイアススパッタ法やCMPを用いた平坦化法を適宜用いて形成される。上層における段差を少なくするために、下から1層目のニオブ層M1および下から2層目のニオブ層M2は平坦化される。図中、点線で囲まれた部分(参照符号T)が上記「蛇が尻尾を噛む」構造である。
【0025】
本発明の第1の実施例による電流比較器のシールド管は、ニオブ層M1〜M5を用いて形成される。本実施例では、シールド管は大きく分けて次の2つの部分で構成される。第1のシールド管部分は、底がニオブ層M1で形成され、天井がニオブ層M5で形成され、側壁がニオブ層M1からニオブ層M5までの5層をコンタクトホールを介して縦につないで形成される部分である。第2のシールド管部分は、底がニオブ層M2で形成され、天井がニオブ層M4で形成され、側壁がニオブ層M2からニオブ層M4までの3層をコンタクトホールを介して縦につないで形成される部分である。このとき、シールド管の「蛇が尻尾を噛む」部分Tは、ニオブ層M1からニオブ層M5までで形成された第1のシールド管の内側に、ニオブ層M2からニオブ層M4までで形成された第2のシールド管が差し込まれるようにして配置された構造に相当する。これら第1のシールド管と第2のシールドとの結合部分においては、「蛇が尻尾を噛む」部分Tの外側(蛇で例えれば「胴」に相当する部分)で第1のシールド管と第2のシールドとが重なり合うように結合されており、これによって1つのシールド管が形成されることになる。第1のシールド管と第2のシールド管とが重ね合わされた「蛇の胴」部分では、第1のシールド管の底を構成するニオブ層M1と第2のシールド管の底を構成するニオブ層M2とがコンタクトホールを介して結合され、第1のシールド管の天井を構成するニオブ層M5と第2のシールド管の天井を構成するニオブ層M4とがコンタクトホールを介して結合される。またこのとき、導線についてはニオブ層M3で形成される。導線同士の交差が必要となる場合には、ニオブ層M2も導線として使用する。
【0026】
なお、図1に示すニオブ層M0は、シリコン基板10の、ニオブ層M1〜M5が形成された面(すなわちシールド管が設けられた面)とは反対側の面に成膜されるものであり、シリコン基板10に対するストレス緩和および磁気シールドのために設けられる。すなわち、電流比較器本体の機能とは直接には関係ないものであり、したがって、ニオブ層M0を設けなくてもよい。
【0027】
後述するピックアップコイルは、ニオブ層M1、M3およびM5を使用し、後述する入力コイルは、ニオブ層M2を使用する。
【0028】
超伝導体であるニオブの膜厚は、コイル状の導線により発生する磁場をできるだけ外部に漏らさないようにするために、ある程度大きい値であることが好ましい。しかしながら、一般に、ニオブの膜厚が増加すればニオブ膜および二酸化シリコン膜に内在する応力による基板のそりが増加するため、製造が難しくなるという問題がある。そこで、本実施例では、表面のニオブ膜および二酸化シリコン膜の膜厚に匹敵する膜厚を有するニオブ膜M0を、基板裏面に成膜する。これにより、基板のそりを抑制することができる。また、基板裏面のニオブ膜により環境磁場を遮蔽する効果が期待でき、磁気センサによるより高感度の測定が可能となる。
【0029】
図2は、図1に示す電流比較器と同一基板上にある超伝導量子干渉素子(SQUID)を構成するジョセフソン接合を示す断面図である。SQUIDを構成するジョセフソン接合には、図中の点線で囲まれた部分(参照符号U)で示されるNb/AlOx/Nb接合を用いる。抵抗層MRにはモリブデンを使用する。SQUIDは、ピックアップコイル、入力コイルとともにCCCと同一シリコン基板上に配置する。なお、図2においては、ピックアップコイルおよび入力コイルについては省略している。
【0030】
図3〜5は、本発明の第一の実施例による電流比較器を説明する模式的な図であり、図3(a)、4および5は平面図、図3(b)は図3(a)のP−P’断面図である。なお、図3に関してのみ、P−P’断面図を示したが、図4および5についても、図3の同様の箇所のP−P’断面を取れば、図3(b)と同様の断面図が得られるので、ここでは省略する。図3(b)に示すように、シリコン基板10上に、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管30が設けられる。図3〜5において、太い点線で囲まれた部分(参照符号T)は、上記「蛇が尻尾を噛む」構造のうちの「噛まれた側」のシールド管30の外部表面を示す。シールド管30内は二酸化シリコン膜20で満たされており、巻き数N1のコイル状の導線L1、巻き数N2のコイル状の導線L2がそれぞれ配置されている。すなわち、コイル状の導線L1およびコイル状の導線L2は、シールド管30の内部に該シールド管30と絶縁された形で配置されており、より詳しく言えばシールド管の内壁と外壁との間に構成される閉ループにおけるループ内を貫通するようにして配置されている。
【0031】
導線L1には電流I1が流され、導線L2にはI2がI1と逆向きに流される。シールド管30の内壁にはN1I1とN2I2との差に応じた遮蔽電流が流れ、シールド管30の端面においてシールド管30の外部表面に伝わり、この外部表面を流れる遮蔽電流が、ピックアップコイル40に結合する磁場を誘起する。この磁場を、入力コイル50を介して、磁気センサ60で検出する。磁気センサ60は例えばSQUIDである。磁気センサ60が検出する磁場の大きさがゼロとなるようにI1およびI2を適切に制御すれば、N1I1=N2I2の関係を満足させることができる。N1I1=N2I2のときのI1対I2は、巻き数比N2対N1となる。遮蔽電流が誘起する磁場のピックアップコイル40による検出方法としては、図3〜5に示す3種類の方法が可能であるが、その詳細については後述する。
【0032】
なお、変形例として、シールド管30の中に巻き数の異なるコイル状の導線をさらに追加して配置することによって、測定できる電流比の組み合わせを増やすこともできる。例えば、図3〜5に示す電流比較器に、巻き数N1のコイル状の導線L1および巻き数N2のコイル状の導線L2に加えて、巻き数N3のコイル状のさらなる導線(図示せず)を追加すれば、N2対N1に加えて、N1対N3およびN2対N3の合計3つの電流比の測定が可能になる。
【0033】
電流比較器のシールド管30の外部表面に流れる遮蔽電流が誘起する磁場の、ピックアップコイル40による検出方法としては、図3〜5に示す3つの方法がある。
【0034】
第1の方法は、図3に示すような、シールド管30の近傍に配置したピックアップコイル40を磁気センサ60の入力コイル50に結合し、ピックアップコイル40で検出した磁束を入力コイル50に移送する方法である。入力コイル50を含む磁気センサ60は、電流比較器と同一のシリコン基板10基板上に実装することができる。
【0035】
第2の方法は、図4に示すような、シールド管30自体をピックアップコイルとみなすものである。すなわち、ピックアップコイルとしても機能するシールド管30を、磁気センサ60の入力コイル50に結合し、このシールド管30で検出した磁束を入力コイル50に移送する方法である。この方法によれば、電流比較器のシールド管30自体をピックアップコイルとして利用するため、図3に示した第1の方法よりも構造が簡単になる。図4に示すように電流比較器と磁気センサ60とは同一シリコン基板上に実装することが可能であるが、この変形例として、電流比較器と磁気センサ60とを互いに分離させて空間的に離れた場所に配置してもよい。
【0036】
第3の方法は、図5に示すような、シールド管30自体を磁気センサの一部として利用する方法である。この方法によれば、シールド管30自体をSQUIDのインダクタンスとして使うことができるため、図4に示した第2の方法よりも構造がさらに簡単になる。ただし、磁気センサはSQUIDに限られる。
【0037】
上述の図3に示した第1の方法および図4に示した第2の方法では、磁気センサとしてSQUIDを用いたが、その他の種類の磁気センサを用いてもよく、例えば、ホールセンサを用いる方法、カー効果を用いる方法、あるいはゼーマン分裂を用いる方法、などであってもよい。ただし、SQUIDを用いる方法は、同一の超伝導プロセスが利用可能であるので、磁場検出感度の観点からも素子作製の観点からも有利である。
【0038】
図6は、本発明の第2の実施例による電流比較器を説明する図であり、図6(a)は上面からみた透視図、図6(b)は図6(a)のP-P’断面図である。本実施例は、上述の第1の実施例において1枚の基板上に形成される構造を、少なくとも2枚の基板を用いて実現するものである。図中、参照符号20は二酸化シリコン膜、30はシールド管、80は半田バンプ(ソルダバンプ)をそれぞれ表わす。
【0039】
図6(a)および図6(b)に示すように、例えば、上述の第1の実施例における構造の一部(例えば図1に示されたニオブ層M1、ニオブ層M2、およびニオブ層M3の一部など)を第1の基板10-1上に形成し、第1の基板10-1に形成されない残りの構造(例えば図1に示されたニオブ層M3の一部、ニオブ層M4、およびニオブ層M5など)および磁気センサ60を第2の基板10-2上に形成し、これら2つの基板10-1および10-2をフリップチップ技術を利用して半田バンプ80を介して張り合わせることにより、基板1枚あたりに必要な超伝導層の数を減らすことができる。これにより、作製プロセス技術上、基板1枚あたりに利用できる超伝導層数が限られている場合であっても、導線L1および導線L2をそれぞれ異なる超伝導層を用いて形成することができる。つまり、同一の超伝導層を用いて導線L1および導線L2を形成する第1の実施例に比べ、第2の実施例によれば、各導線の巻き線密度を高めることが可能になる。また、余った超伝導層を用いて追加のシールド層を形成し、磁気遮蔽効果を高める構造などのような、付加機能的な構造を追加することも可能である。
【0040】
図7は、本発明の第3の実施例による電流比較器を説明する図である。本実施例では、第1の実施例において説明した電流比較器のシールド管30、導線L1およびL2、ならびにピックアップコイル40を、図7に示すように、8の字状に配置することによりグラジオメータを構成する。すなわち、磁気センサ60の入力コイル50に接続されるピックアップコイル40を、上記8の字状構造の各ループにおいて、環境磁場に起因する電流は互いに逆向きに流れように、かつ、シールド管30の外部表面を流れる遮蔽電流が誘起する磁場に起因する電流は互いに同じ向きに流れるように、上記8の字状構造に接続する。これにより、地磁気のような一様な環境磁場の影響を打ち消し、かつ、電流比較器のシールド管30を流れる遮蔽電流の作る磁場についての磁気センサ60による検出感度を2倍に向上させることができるため、電流比較測定値の精度が向上する。
【0041】
本発明の第4の実施例は、上述の第1の実施例による電流比較器を、同一基板上に、複数個配置するものである。電流比較器の複数個配置は、例えば集積回路プロセスを用いて実現する。これにより、より多様な電流比較器を1チップで実現することができる。またあるいは、電流比較器の複数個配置は、電流比較器を1つ配置した基板を、フリップチップ法により、より大きな面積を有する基板に複数枚貼り付けることにより実現する。これにより、より多様な電流比較器が構成できる。これらいずれかの方法により複数配置された電流比較器は、各電流比較器が有する導線をカスケード接続することもできる。
【0042】
図8は、本発明の第4の実施例における、2個のカスケード接続された電流比較器を例示する図である。本実施例では、同一の基板200上に、巻き数N10のコイル状の導線L10および巻き数N11のコイル状の導線L11を含む第1の電流比較器201−1と、巻き数N20のコイル状の導線L20および巻き数N21のコイル状の導線L21を含む第2の電流比較器201−2が設けられる。第1の電流比較器201−1と第2の電流比較器201−2とは、図8に示すようにカスケード接続される。具体的には、電流比較器201−1の導線L10には電流源202−1が接続され、電流比較器201−1の導線L11は電流源202−2を介して電流比較器201−2の導線L20に接続され、さらに電流比較器201−2の導線L21には電流源202−3が接続される。電流比較器201−1のシールド管30−1の外部表面を流れる遮蔽電流に起因する磁場は、同一の基板200上に設けられたピックアップコイル40−1で検出され、同一の基板200上に設けられた入力コイル50−1を介して磁気センサ60−1で検出される。同様に、電流比較器201−2のシールド管30−2の外部表面を流れる遮蔽電流に起因する磁場は、同一の基板200上に設けられたピックアップコイル40−2で検出され、同一の基板200上に設けられた入力コイル50−2を介して磁気センサ60−2で検出される。
【0043】
電流源202−1、202−2および202−3を制御して電流I1、I2およびI3を変化させ、磁気センサ60−1および60−2の検出する磁場がともにゼロになるようにしたとき、各導線の巻き数N10、N11、N20およびN21とそこを流れる電流I1、I2およびI3との間には、式2および式3の関係が成り立つ。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
例えば、第1の電流比較器201−1における巻き数比が「N10:N11=320:1」、第2の電流比較器201−2における巻き数比が「N20:N21=320:1」である場合、第1の電流比較器201−1と第2の電流比較器201−2とを上述のようにカスケード接続することにより、式3から分かるように、実質的にはコイルの巻き数比が「102400対1」である1つの電流比較器と同等の性能を有する電流比較器を実現することができる。本実施例では、一例としてカスケード接続する電流比較器の数を2つとしたが、これに限定されず、それより多い数であってもよい。複数個の電流比較器を順次カスケード接続すれば、巻き数比を大幅に向上させた電流比較器を等価的に実現することができる。上述のように、電圧(V=hf/2e)、抵抗(R=h/e2)、電流(I=ef)の間におけるいわゆる量子トライアングルの検証のためには、「10000対1」を大幅に上回る巻き数比の電流比較器が必要であるが、本発明によれば、容易にこれを実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、抵抗標準、電流標準、電圧標準、温度標準、温度計測装置、超精密電流整数倍器、超精密計測装置、および高精度信号発生装置などに適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 シリコン基板
10−1 第1の基板
10−2 第2の基板
20 二酸化シリコン膜
30、30−1、30−2 シールド管
40 ピックアップコイル
50、50−1、50−2 入力コイル
60、60−1、60−2 磁気センサ
80 半田バンプ
200 基板
201−1 第1の電流比較器
201−2 第2の電流比較器
202−1、202−2、202−3 電流源
L1、L2、L10、L11、L20、L21 導線
M1、M2、M3、M4、M5 ニオブ層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上設けられ、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管と、
前記シールド管の前記筒状構造内を貫通するように設けられ、前記シールド管と絶縁された少なくとも2本の導線と、
を備えることを特徴とする電流比較器。
【請求項2】
前記シールド管の一方の端部が、もう一方の端部における前記筒状構造の内部に配置されることにより、前記超伝導膜が部分的に少なくとも二重以上に重なる請求項1に記載の電流比較器。
【請求項3】
前記基板上に設けられ、前記シールド管の外部表面に流れる電流によって誘起される磁場を検出する磁気センサを備える請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項4】
前記磁気センサが超伝導量子干渉素子である請求項3に記載の電流比較器。
【請求項5】
前記基板の、前記シールド管が設けられた面とは反対側の面に、超伝導膜を有する請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項6】
前記基板は、第1の基板と第2の基板とからなり、
前記シールド管、前記導線および前記磁気センサのうち、少なくとも一部の部材が前記第1の基板上に形成され、
前記シールド管、前記導線および前記磁気センサのうち、前記第1の基板上に形成された前記少なくとも一部の部材以外の部材が前記第2の基板上に形成される請求項3に記載の電流比較器。
【請求項7】
前記シールド管が前記磁気センサのピックアップコイルとしての機能を有する請求項3に記載の電流比較器。
【請求項8】
前記シールド管が前記超伝導量子干渉素子の一部として用いられる請求項4に記載の電流比較器。
【請求項9】
前記シールド管は、前記基板上に8の字状に配置され、
前記磁気センサのピックアップコイルは、前記8の字状における各ループにおいて環境磁場に起因する電流が互いに逆向きに流れるように、なおかつ、前記シールド管の外部表面に流れる電流が誘起する磁場に起因する電流は同じ向きに流れるように、前記シールド管に結合される請求項3に記載の電流比較器。
【請求項10】
集積回路プロセスを用いて複数個同一基板上に配置される請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項11】
フリップチップ法を用いて複数個同一基板上に配置される請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項12】
ある前記電流比較器における1つの前記導線が、当該電流比較器とは異なるさらなる前記電流比較器における1つの前記導線に接続されることで、複数個の前記電流比較器が順次カスケード接続される請求項10または11に記載の電流比較器。
【請求項1】
基板上設けられ、超伝導膜からなる筒状構造を有するシールド管と、
前記シールド管の前記筒状構造内を貫通するように設けられ、前記シールド管と絶縁された少なくとも2本の導線と、
を備えることを特徴とする電流比較器。
【請求項2】
前記シールド管の一方の端部が、もう一方の端部における前記筒状構造の内部に配置されることにより、前記超伝導膜が部分的に少なくとも二重以上に重なる請求項1に記載の電流比較器。
【請求項3】
前記基板上に設けられ、前記シールド管の外部表面に流れる電流によって誘起される磁場を検出する磁気センサを備える請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項4】
前記磁気センサが超伝導量子干渉素子である請求項3に記載の電流比較器。
【請求項5】
前記基板の、前記シールド管が設けられた面とは反対側の面に、超伝導膜を有する請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項6】
前記基板は、第1の基板と第2の基板とからなり、
前記シールド管、前記導線および前記磁気センサのうち、少なくとも一部の部材が前記第1の基板上に形成され、
前記シールド管、前記導線および前記磁気センサのうち、前記第1の基板上に形成された前記少なくとも一部の部材以外の部材が前記第2の基板上に形成される請求項3に記載の電流比較器。
【請求項7】
前記シールド管が前記磁気センサのピックアップコイルとしての機能を有する請求項3に記載の電流比較器。
【請求項8】
前記シールド管が前記超伝導量子干渉素子の一部として用いられる請求項4に記載の電流比較器。
【請求項9】
前記シールド管は、前記基板上に8の字状に配置され、
前記磁気センサのピックアップコイルは、前記8の字状における各ループにおいて環境磁場に起因する電流が互いに逆向きに流れるように、なおかつ、前記シールド管の外部表面に流れる電流が誘起する磁場に起因する電流は同じ向きに流れるように、前記シールド管に結合される請求項3に記載の電流比較器。
【請求項10】
集積回路プロセスを用いて複数個同一基板上に配置される請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項11】
フリップチップ法を用いて複数個同一基板上に配置される請求項1または2に記載の電流比較器。
【請求項12】
ある前記電流比較器における1つの前記導線が、当該電流比較器とは異なるさらなる前記電流比較器における1つの前記導線に接続されることで、複数個の前記電流比較器が順次カスケード接続される請求項10または11に記載の電流比較器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−226819(P2011−226819A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94251(P2010−94251)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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