説明

電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置

【課題】可動部の揺動によって、その駆動コイルに発生する逆起電力電圧波形を用いて検出する同期タイミングの検出精度を向上する。
【解決手段】2軸回りに一方は低速で他方は高速で揺動可能に軸支した可動部の高速側駆動コイル14に発生する逆起電力を検出し、該検出された逆起電力信号faの電圧波形のゼロクロス位置を同期タイミングとして検出する同期信号検出装置2であって、前記検出された逆起電力信号faに重畳した駆動パルスPy波形を、該駆動パルスPy波形に同期した逆位相のキャンセルパルスPcで除去する波形処理回路20と、該波形処理回路20から出力する逆起電力信号fcから高速側のゼロクロス位置を検出する高速側逆起電力信号fyと、低速側のゼロクロス位置を検出する低速側逆起電力信号fxとを分離する逆起電力信号分離回路21と、を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力により揺動する可動部に形成した駆動コイルに発生する逆起電力を検出して、該逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置を同期タイミングとして検出する同期タイミング検出装置に関し、特に、同期タイミングの検出精度を向上しようとする電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電磁アクチュエータに用いられる同期タイミング検出装置は、可動部の揺動状態において該可動部に形成した駆動コイルに発生する逆起電力を検出し、該逆起電力信号に重畳された駆動パルス波形を予め設定したスレッショルドレベルで切り取って除去し、除去した部分を直線又は曲線近似して上記逆起電力信号の電圧波形を補正し、該補正された電圧波形を用いてそのゼロクロス位置を検出するようになっていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−78130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、このような従来の同期タイミング検出装置においては、逆起電力信号に重畳された駆動パルス波形を所定のスレッショルドレベルで切り取って除去していたため、当該除去した部分の波形情報が失われてしまっていた。したがって、逆起電力信号の電圧波形において駆動パルス波形を除去した部分が例えばゼロクロスにかかるときには、ゼロクロス位置を正確に検出できないおそれがあった。
【0004】
また、逆起電力信号が温度ドリフト等により変動するので、逆起電力信号の電圧波形に対する駆動パルス波形の重畳位置が変動する。したがって、逆起電力信号の電圧波形に対する駆動パルス波形の重畳位置によって駆動パルス波形の除去された部分を補間するパターンが異なり、補間処理が複雑となるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に着目してなされたもので、同期タイミングの検出精度を向上しようとする電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このために、請求項1の発明は、揺動可能に軸支した可動部と、該可動部の周縁部に形成した駆動コイルと、該駆動コイルに磁界を作用させる磁界発生手段とを備えた電磁アクチュエータの前記可動部の揺動によって、前記駆動コイルに発生する逆起電力を検出し、該検出された逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置を同期タイミングとして検出する同期タイミング検出装置であって、前記検出された逆起電力信号に重畳した駆動パルス波形を該駆動パルス波形に同期した逆位相のキャンセルパルスで除去する波形処理回路と、 前記駆動パルスが除去された逆起電力信号を用いてその電圧波形のゼロクロス位置を検出するゼロクロス検出回路と、を備える構成とした。
【0007】
このような構成により、揺動可能に軸支した可動部の揺動によって該可動部の周縁部に形成した駆動コイルに発生する逆起電力を検出し、波形処理回路で逆起電力信号に重畳した駆動パルス波形を該駆動パルス波形に同期した逆位相のキャンセルパルスで除去し、ゼロクロス検出回路で駆動パルス波形が除去された逆起電力信号を用いてその電圧波形のゼロクロス位置を同期タイミングとして検出する。
【0008】
また、請求項2の構成においては、前記可動部が枠状の外側可動板とその内側に配置される内側可動板とを互いに直交する2軸回りに一方は低速で他方は高速で揺動可能に軸支したものである場合に、前記波形処理回路とゼロクロス検出回路との間に、前記波形処理回路から出力する前記駆動パルス波形の除去された逆起電力信号から高速側のゼロクロス位置を検出する逆起電力信号と、低速側のゼロクロス位置を検出する逆起電力信号とを分離する逆起電力信号分離回路をさらに備えるものとした。
【0009】
本発明の同期タイミング検出装置は、具体的には請求項3のように、前記波形処理回路に前記駆動パルス波形が除去された逆起電力の電圧波形の不連続性を補正して連続した波形を作る波形補正回路を備えるとよい。この場合、前記波形補正回路は、請求項4のように、前記駆動パルス波形が除去された逆起電力信号の電圧波形の不連続点における電圧差を検出して該電圧差が所定の許容値内になるように前記キャンセルパルスのレベルを可変するものとするとよい。さらに、前記波形補正回路は、請求項5のように、不連続性補正後の逆起電力信号の電圧波形のうち、駆動パルス波形の重畳された期間に発生した波形歪を補正するようにしてもよい。
【0010】
さらに、前記波形処理回路は、請求項6のように前記波形補正回路から出力する補正後の逆起電力信号の電圧波形に発生するスパイクノイズを除去するノイズ除去回路を備えてもよい。
【0011】
請求項7の構成の場合においては、前記逆起電力信号分離回路は、前記波形処理回路の出力を移動平均フィルタで処理して低速側の逆起電力信号を抽出し、前記波形処理回路からの出力と前記低速側の逆起電力信号との差分を取って高速側の逆起電力信号を抽出する構成とした。この場合、前記逆起電力信号分離回路は、請求項8のように、前記移動平均フィルタに替えてアナログフィルタ又はデジタルフィルタを用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置によれば、駆動コイルに発生する逆起電力信号に重畳された駆動パルス波形を、該駆動パルス波形に同期した逆位相のキャンセルパルスで除去することにより、駆動パルス波形が除去された部分に逆起電力の電圧波形の情報を保存することができる。したがって、逆起電力信号の電圧波形の駆動パルス波形を除去した部分が例えばゼロクロスにかかっても正確なゼロクロス位置を検出することができ、同期タイミング検出精度を向上することができる。これにより、駆動パルスの印加タイミングの設定や、レーザ光を走査するガルバノミラーに適用した場合には、そのレーザ光の発射タイミングの設定を精度よく行なうことができる。また、可動部の向きの検出も容易になる。
【0013】
この場合、駆動パルス波形が除去された逆起電力信号の電圧波形の不連続性を、例えばこの不連続点における電圧差が所定の許容値内になるようにキャンセルパルスのレベルを可変して補正すれば、連続した波形を容易に作ることができ、逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置の検出精度をより向上することができる。さらに、駆動パル波形の重畳された期間に発生した逆起電力信号の電圧波形の波形歪を補正すれば、逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置の検出精度をより一層向上することができる。
【0014】
さらに、駆動パルス波形除去後の電圧波形に発生するスパイクノイズを除去するようにすれば、逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置の検出精度を尚一層向上することができる。
【0015】
また、請求項2の構成によれば、枠状の外側可動板とその内側に配置される内側可動板とを互いに直交する支軸で2軸回りに一方は低速で他方は高速で揺動する電磁アクチュエータの、低速側の逆起電力信号と高速側の逆起電力信号とを分離して取り出すことができる。この場合、高速側及び低速側の逆起電力が混合した逆起電力信号を例えば移動平均フィルタで処理すれば、低速側の逆起電力信号のみを容易に抽出することができ、さらに、上記高速側及び低速側の逆起電力が混合した逆起電力信号と上記低速側の逆起電力信号との差分をとれば、高速側の逆起電力信号のみを容易に抽出することができる。したがって、上記各逆起電力信号の電圧波形を用いて2次元駆動型の電磁アクチュエータの同期タイミングを精度よく検出することができる。なお、上記移動平均フィルタに替えてアナログフィルタ又はデジタルフィルタを使用すれば、ゼロクロスタイミング取得の高精度化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る同期タイミング検出装置の構成及び該装置と電磁アクチュエータとそれを駆動する駆動回路との接続を示すブロック図である。
図1において、電磁アクチュエータ1は、直交2軸回りに揺動可能に形成された可動部が2次元に振られるように構成したもので、同期タイミング検出装置2と、高速側駆動パルス発生回路3と、高速側増幅回路4と、低速側駆動パルス発生回路5と、低速側増幅回路6とを備えて構成した駆動回路によって駆動されるようになっている。
【0017】
上記電磁アクチュエータ1は、例えば、半導体基板に直交2軸回りに揺動可能に形成された可動部を2次元に振るデバイスとなるもので、半導体基板に、枠状の外側可動板とその内側に配置される内側可動板とを互いに直交する支軸で2軸回りにX軸回りは低速でY軸回りは高速で揺動可能に軸支した可動部と、上記外側可動板及び内側可動板の周縁部にそれぞれ形成した駆動コイルと、該駆動コイルに磁界を作用させる磁界発生手段とを備えて構成されている。この電磁アクチュエータ1の一例としては、レーザ光等の光ビームの進行方向を2次元に振って所定領域を走査する光走査装置の光走査部があるが、本出願人により提案されて特許され、特許第2722314号公報に記載されたプレーナ型ガルバノミラーを用いてもよい。
【0018】
ここで、上記プレーナ型ガルバノミラーの基本的な構成について簡単に説明する。プレーナ型ガルバノミラーは、例えば図2に示すように、半導体基板7に、枠状の外側可動板8及びその内側に配置され中央部にミラー9を有する矩形状の内側可動板10からなる可動部11と、上記外側可動板8を揺動可能に軸支するX軸トーションバー12a,12bと、該X軸トーションバー12a,12bに対して軸方向が直交し上記内側可動板10を揺動可能に軸支するY軸トーションバー13a,13bとを一体形成し、上記内側可動板10及び外側可動板8の各周縁部にそれぞれY軸回りに高速で揺動する高速側駆動コイル14及びX軸回りに低速で揺動する低速側駆動コイル15を形成し、これら各駆動コイルに磁界を作用させる一対の高速側永久磁石16a,16b及び一対の低速側永久磁石17a,17bが上記半導体基板7を挟んで対向配置されている。なお、符号18は、高速側駆動コイル14に電流を供給する電極端子を示し、符号19は、低速側駆動コイル15に電流を供給する電極端子を示している。
【0019】
このようなプレーナ型ガルバノミラーは、次のように動作する。即ち、先ず、高速側駆動パルス発生回路3で発生した図3に示すような駆動パルスPyが高速側増幅回路4で所定レベルまで増幅されて上記内側可動板10の周縁部に設けられた高速側駆動コイル14に供給される。一方、低速側駆動パルス発生回路5で発生した駆動パルスPxが低速側増幅回路6で所定レベルまで増幅されて上記外側可動板8の周縁部に設けられた低速側駆動コイル15に供給される。このとき、上記高速側駆動コイル14及び低速側駆動コイル15を流れる駆動電流と、上記高速側永久磁石16a,16b及び低速側永久磁石17a,17bの磁界により上記可動部11にローレンツ力が働いて、該可動部11の内側可動板10が2次元方向(X,Yの2軸回り)に揺動する。そして、上記内側可動板10に設けられたミラー9にレーザ光等の光ビームを入射することにより、レーザ光が2次元的に走査され、例えば2次元レーザレーダ等として応用できる。なお、上記ミラー9は、内側可動板10の表面又は裏面或いは両面に設けてもよい。
【0020】
図2は、プレーナ型ガルバノミラーの例について説明したが、本発明に係る電磁アクチュエータ1においては、必ずしもミラー9を設けることなく、発光素子又は受光素子でもよいし、或いは他の各種の機能素子を設けてもよい。
【0021】
上記同期タイミング検出装置2は、上記電磁アクチュエータ1の可動部11のX,Y2軸回りの揺動の同期信号を検出するもので、上記可動部11の揺動状態において上記高速側駆動コイル14に発生する逆起電力を検出し、該検出された逆起電力信号を高速側逆起電力波形の振動周期で波形処理を行って高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とを分離し、該分離後の各逆起電力信号を用いてその電圧波形のゼロクロス位置(内側可動板10又は外側可動板8の揺動停止位置に相当)を同期タイミングとして検出するようになっている。そして、本実施形態においては、同期タイミング検出装置2は高速側駆動コイル14に接続されている。
【0022】
上記同期タイミング検出装置2は、高速側駆動コイル14に発生した逆起電力信号に基づいてゼロクロス位置を検出し、内側可動板10のY軸回りの揺動の同期タイミング及び外側可動板8のX軸回りの揺動の同期タイミングを検出するもので、図1に示すように、波形処理回路20と、逆起電力信号分離回路21と、高速側ゼロクロス検出回路22と、低速側ゼロクロス検出回路23とを備えている。なお、上記高速側駆動コイル14に発生する逆起電力信号fは、内側可動板10がX,Y2軸回りに2次元方向に揺動することにより、高速側逆起電力信号に低速側逆起電力信号が混合したものとなっている。
【0023】
上記波形処理回路20は、検出された逆起電力信号fに重畳した駆動パルス波形を、該駆動パルス波形に同期した逆位相のキャンセルパルスで除去するものであり、レベル可変回路24と、波形反転回路25と、加算増幅回路26と、波形補正回路27と、ノイズ除去回路28とを備えて構成している。
【0024】
上記レベル可変回路24は、図1に示す高速側駆動パルス発生回路3で発生した高速側の駆動パルスPyを入力して、該駆動パルスPyのレベルを上記波形補正回路27から入力するレベル調整信号に基づいて可変して所定レベルに自動設定するものである。
【0025】
また、波形反転回路25は、駆動パルスPyと相似形の、レベル可変回路24でレベル調整されたパルス信号を反転してキャンセルパルスPcを生成する。
【0026】
さらに、加算増幅回路26は、高速側駆動コイル14において発生した例えば図4(a)に示すような逆起電力信号faに重畳した駆動パルスPy波形に上記キャンセルパルスPcを加算し、駆動パルスPy波形を除去するものである。この場合、逆起電力信号faの電圧波形から駆動パルスPy波形のみが除去されるため、当該除去部分(励振期間)には、逆起電力信号faの電圧波形の波形情報が保存されることとなる。なお、図4(b)は、キャンセルパルスPcのレベルが高すぎて駆動パルスPy波形のキャンセルが過剰の場合を示しており、上記励振期間に段差が発生した例を示している。
【0027】
また、波形補正回路27は、駆動パルスPy波形が除去された逆起電力信号fbの電圧波形において上記段差によって発生した電圧波形の不連続性を補正して連続した波形を作るものであり、上記駆動パルスPy波形が除去された逆起電力信号fbの電圧波形を取り込んでこれを微分処理して図5に示す不連続点の発生時刻T1及びT2を検出する。そして、時刻T1における電圧波形の電圧値V1を求め、次に時刻T2における電圧波形の電圧値V2を求める。さらに、上記電圧値V1とV2を比較してその電圧差を検出し、該検出出力であるレベル調整信号を上記レベル可変回路24にフィードバックしてキャンセルパルスPcのレベルを調整し、上記電圧差が所定の許容値内になるように波形補正するようになっている。なお、図5に示す不連続点の発生時刻T3及びT4を検出し、該T3及びT4における電圧波形の電圧値V3,V4を求め、その電圧差を検出してもよい。
【0028】
さらに、ノイズ除去回路28は、上記駆動パルスPy波形とキャンセルパルスPcとの間の位相差に基づいて上記電圧波形に発生する図6に示すようなスパイクノイズを除去するものであり、図5に示す電圧値V1で時刻T1,T2間を、また電圧値V3でT3,T4間をそれぞれ線形補間するようになっている。
【0029】
そして、逆起電力信号分離回路21は、波形処理回路20で補正された逆起電力信号fcを高速側逆起電力波形の振動周期で移動平均処理を行って高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とを分離するものであり、図1に示すように、高周波分離フィルタ29と、振幅調整回路30と、差分回路31と、低周波分離フィルタ32とを備えて構成する。
【0030】
ここで、高周波分離フィルタ29は、複数の移動平均フィルタと微分回路とを含んで構成されており、波形処理回路20から出力する高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とが混合した逆起電力信号fcから、誤差成分である高速側逆起電力信号fyを取り除いて、図7(a)に示すような低速側逆起電力信号fxのみを抽出するようになっている。具体的には、上記逆起電力信号fcを高速側逆起電力波形の振動周期で移動平均処理して低速側逆起電力信号fxを抽出し、さらにそれを微分回路で微分して直流成分を除去し、さらに移動平均フィルタにより平均化処理して誤差成分を取り除いて波形精度を向上している。
【0031】
また、振幅調整回路30は、高周波分離フィルタ29から出力した低速側逆起電力信号fxの振幅を所定レベルに調整するものである。さらに、差分回路31は、波形処理回路20から出力する高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とが混合した逆起電力信号fcから、上記レベル調整後の低速側逆起電力信号fxを引き算して誤差成分を含んだ高速側逆起電力信号を取り出すものである。そして、低周波分離フィルタ32は、微分回路と移動平均フィルタとを含んで構成され、差分回路31から出力した上記高速側逆起電力信号から微分回路で直流成分を除去し、さらに移動平均フィルタで平均化処理して誤差成分を取り除いて波形精度を向上し、高速側逆起電力信号fyのみを抽出するものである。これにより、上記振幅調整回路30と、差分回路31と、低周波分離フィルタ32とを用いて波形処理回路20から出力する高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とが混合した逆起電力信号fcから、図7(b)に示すような高速側逆起電力信号fyのみを抽出する。
【0032】
高速側ゼロクロス検出回路22は、上記逆起電力信号分離回路21で分離された高速側逆起電力信号fyを用いてその電圧波形のゼロクロス位置を同期タイミングとして検出するもので、電圧のゼロレベルと高速側逆起電力信号fyの電圧波形との交点を求めてゼロクロス位置を的確に検出して、高速側ゼロクロス信号S1を出力するようになっている。この高速側ゼロクロス信号S1は、高速側駆動パルス発生回路3にフィードバックすることによって、高速側の駆動パルスPyの発生タイミングを制御するために使用することができる。また、高速側ゼロクロス信号S1によりY軸回りに往復揺動する可動部11の停止タイミングを検出してY軸回りの可動部11の向きを知ることができる。
【0033】
低速側ゼロクロス検出回路23は、上記逆起電力信号分離回路21で分離された低速側逆起電力信号fxを用いてその電圧波形のゼロクロス位置を検出するもので、電圧のゼロレベルと低速側逆起電力信号fxの電圧波形との交点を求めてゼロクロス位置を同期タイミングとして的確に検出して、低速側ゼロクロス信号S2を出力するようになっている。この低速側ゼロクロス信号S2は、低速側駆動パルス発生回路5にフィードバックすることによって、低速側の駆動パルスの発生タイミングを制御するために使用することができる。また、低速側ゼロクロス信号S2によりX軸回りに往復揺動する可動部11の停止タイミングを検出してX軸回りの可動部11の向きを知ることができる。さらに、レーザ光を走査するガルバノミラーに適用すれば、上記高速側ゼロクロス信号S1と低速側ゼロクロス信号S2とに基づいて2次元方向に走査するレーザ光の発射タイミングを設定することができる。
【0034】
次に、このように構成された同期タイミング検出装置2の動作を説明する。
先ず、電磁アクチュエータ1は、図2に示す高速側駆動コイル14に所定周期で駆動パルスPyが印加されてパルス電流が流され、内側可動板10がY軸回りに高速で揺動する。また、図2に示す低速側駆動コイル15にも上記駆動パルスPyよりも長い周期の駆動パルスPxが印加されてパルス電流が流され、外側可動板8がX軸回りに低速で揺動する。これにより、外側可動板8に軸支された内側可動板10は、X,Yの2次元方向に揺動することとなる。この場合、内側可動板10がX,Yの2次元方向に揺動することによって、上記高速側駆動コイル14には、高速側逆起電力のみならず低速側逆起電力が発生し、検出される逆起電力信号faは、高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とが混合したものであり、駆動パルスPy波形が重畳したものとなる。
【0035】
上記高速側駆動コイル14に発生する駆動パルスPy波形が重畳した逆起電力信号faは、同期タイミング検出装置2の波形処理回路20に取り込まれる。波形処理回路20において、上記逆起電力信号faは、先ず、加算増幅回路26に入力する。一方、駆動パルスPyは、レベル可変回路24を介して波形反転回路25に入力し、該波形反転回路25で位相が反転されてキャンセルパルスPcが生成される。そして、このキャンセルパルスPcもまた上記加算増幅回路26に入力する。
【0036】
加算増幅回路26においては、上記逆起電力信号faとキャンセルパルスPcとが加算処理される。この場合、駆動パルスPyとキャンセルパルスPcとは同期しているため、逆起電力信号faに重畳した駆動パルスPy波形がキャンセルパルスPcによってキャンセルされて除去されて、逆起電力信号fbとなる。
【0037】
上記逆起電力信号fbは、波形補正回路27に入力する。この波形補正回路27においては、上記駆動パルスPy波形が除去された逆起電力信号fbを取り込んでこれを微分処理する。そして、図5に示すような、駆動パルスPy波形が除去された後の電圧波形における不連続点の発生時刻、例えばT1及びT2を検出する。次に、時刻T1における電圧波形の電圧値V1を求め、時刻T2における電圧波形の電圧値V2を求める。さらに、上記電圧値V1とV2を比較してその電圧差を検出し、該検出出力であるレベル調整信号を上記レベル可変回路24にフィードバックして該レベル可変回路24でキャンセルパルスPcのレベルを調整し、上記電圧差が所定の許容値内になるように波形補正する。
【0038】
また、波形補正回路27は、逆起電力信号波形の駆動パルス重畳期間に発生する電圧波形の波形歪を補正する機能をも有している。例えば、不連続性補正後の逆起電力信号の電圧波形のうち、逆起電力信号波形の駆動パルス重畳期間(図5に示す時刻T2〜T3期間)の電圧波形には、波形歪が発生して同期間の瞬時振幅レベルが駆動パルスが重畳されていないときの瞬時振幅レベルと一致しない場合がある。これは、高速側駆動パルス発生回路3の増幅回路4の出力インピーダンスZoが、波形処理回路20の入力である加算増幅回路26の入力インピーダンスZiよりも低く、その結果、駆動パルス重畳期間の起電力波形の出力電圧が低下するためである。ここで、上記Zi,Zoは、各回路を構成する回路素子が決まれば、略一意に決まるため、駆動パルス重畳期間の波形の電圧レベルの低下率αは一定となる。したがって、検出した起電力波形のうち、駆動パルスの重畳期間の瞬時振幅レベルを1/α倍することにより、上記瞬時振幅レベルの低下を補償して上記電圧波形の歪を補正することができる。
【0039】
波形補正回路27で波形補正された逆起電力信号の電圧波形には、駆動パルスPy波形とキャンセルパルスPcとの位相差によって発生する図6に示すようなスパイクノイズが乗っている。このスパイクノイズは、ノイズ除去回路28において除去される。この場合、ノイズ除去回路28では、図5に示す電圧値V1で時刻T1,T2間を、また電圧V3でT3,T4間を線形補間することによって上記スパイクノイズを除去する。
【0040】
このようにしてスパイクノイズが除去されてノイズ除去回路28を出力する逆起電力信号fcは、この段階ではまだ、高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とが混合したものである。そこで、次に、逆起電力信号分離回路21により、高速側逆起電力信号と低速側逆起電力信号とが分離される。
【0041】
この場合、先ず高周波分離フィルタ29により移動平均処理して、上記高速側と低速側逆起電力信号とが混合した逆起電力信号fcから高周波の高速側逆起電力信号が除去されて図7(a)に示す低速側起電力信号fxのみが抽出される。
【0042】
次に、上記低速側起電力信号は、振幅調整回路30に入力して所定のレベルに調整される。そして、後段の差分回路31に入力する。この差分回路31においては、ノイズ除去回路28から入力する上記高速側及び低速側逆起電力信号が混合した逆起電力信号fcと上記振幅調整回路30から入力するレベル調整された低速側逆起電力信号fxとが引き算処理されて上記逆起電力信号fcから低速側逆起電力信号fxが除去され、誤差成分を含んだ高速側逆起電力信号が取り出される。そして、この高速側逆起電力信号は、低周波分離フィルタ32によって移動平均処理して上記誤差成分が取り除かれ波形精度が向上されて図7(b)に示す高速側逆起電力信号fyのみが抽出される。
【0043】
このようにして分離された高速側及び低速側逆起電力信号fy,fxは、それぞれ高速側及び低速側ゼロクロス検出回路22,23に入力して、各逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置が同期タイミングとして検出される。このとき、上記高速側ゼロクロス検出回路22は、上記逆起電力信号分離回路21で分離した後の高速側逆起電力信号fyを用いてその電圧波形が、マイナス側→ゼロレベル→プラス側へよぎる点を立上りゼロクロス位置とする。また、プラス側→ゼロレベル→マイナス側へよぎる点を立下りゼロクロス位置とする。これにより、高速側逆起電力波形fyのゼロクロス位置が的確に検出され、高速側ゼロクロス信号S1が出力される。
【0044】
また、同様にして、上記低速側ゼロクロス検出回路23は、上記逆起電力信号分離回路21で分離した後の低速側逆起電力信号fxを用いてその電圧波形が、マイナス側→ゼロレベル→プラス側へよぎる点を立上りゼロクロス位置とする。また、プラス側→ゼロレベル→マイナス側へよぎる点を立下りゼロクロス位置とする。これにより、低速側逆起電力波形fxのゼロクロス位置が的確に検出され、低速側ゼロクロス信号S2が出力される。
【0045】
なお、上記実施形態においては、キャンセルパルスPcを駆動パルスPyを反転して生成する場合について説明したが、キャンセルパルス発生器を別に設けて、駆動パルスPyと同期した逆位相のキャンセルパルスPcを発生させ、波形反転回路25を経ることなく直接加算増幅回路26に供給してもよい。この場合、レベル可変回路24は、上記キャンセルパルス発生器で発生したキャンセルパルスPcのレベルを自動調整するものとする。
【0046】
また、上記実施形態において、同期タイミング検出装置2は、高速側駆動コイル14に接続した場合について説明したが、これに限られず、同期タイミング検出装置2は、低速側駆動コイル15に接続してもよく、又は両駆動コイルにそれぞれ接続してもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態においては、高周波分離フィルタ29及び低周波分離フィルタ32は、移動平均フィルタを用いた場合について説明したが、移動平均フィルタに替えてアナログフィルタ又はデジタルフィルタを使用してもよい。
【0048】
そして、上記実施形態においては、電磁アクチュエータ1が直交する支軸で2軸回りに揺動可能に軸支した可動部11を備えたものの場合について説明したが、これに限られず、一つの支軸で支持されて1軸回りに揺動する可動部11を備えたものであってもよい。この場合、同期タイミング検出装置2は、逆起電力信号分離回路21を省略したものが適用される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置の構成及び該装置と電磁アクチュエータとそれを駆動する駆動回路との接続を示すブロック図である。
【図2】上記電磁アクチュエータの具体例としてのプレーナ型ガルバノミラーの基本的な構成を示す平面図である。
【図3】上記電磁アクチュエータに供給される高速側駆動パルスの例を示す図である。
【図4】上記同期タイミング検出装置において、キャンセルパルス信号を用いて行なう逆起電力信号に重畳した駆動パルス波形の除去について説明する図であり、(a)は除去前の状態を示し、(b)はキャンセル過剰の状態を示している。
【図5】上記同期タイミング検出装置において、駆動パルス波形が除去された逆起電力信号の電圧波形における不連続性の補正について説明する図である。
【図6】上記同期タイミング検出装置において、駆動パルス波形が除去された逆起電力信号の電圧波形に発生するスパイクノイズについて説明する図である。
【図7】上記同期タイミング検出装置において分離された逆起電力信号を示す図であり、(a)は低速側逆起電力信号、(b)は高速側逆起電力信号を示す。
【符号の説明】
【0050】
1…電磁アクチュエータ
2…同期タイミング検出装置
14…高速側駆動コイル
15…低速側駆動コイル
20…波形処理回路
21…逆起電力信号分離回路
22…高速側ゼロクロス検出回路
23…低速側ゼロクロス検出回路
26…加算増幅回路
27…波形補正回路
28…ノイズ除去回路
29…高周波フィルタ
31…差分回路
32…低周波フィルタ
Px…低速側駆動パルス
Py…高速側駆動パルス
Pc…キャンセルパルス
fa…高速側駆動コイルに発生した逆起電力信号
fb…駆動パルス波形が除去された逆起電力信号
fc…波形処理回路から出力する逆起電力信号
fx…低速側逆起電力信号
fy…高速側逆起電力信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動可能に軸支した可動部と、該可動部の周縁部に形成した駆動コイルと、該駆動コイルに磁界を作用させる磁界発生手段とを備えた電磁アクチュエータの前記可動部の揺動によって、前記駆動コイルに発生する逆起電力を検出し、該検出された逆起電力信号の電圧波形のゼロクロス位置を同期タイミングとして検出する同期タイミング検出装置であって、
前記検出された逆起電力信号に重畳した駆動パルス波形を該駆動パルス波形に同期した逆位相のキャンセルパルスで除去する波形処理回路と、
前記駆動パルスが除去された逆起電力信号を用いてその電圧波形のゼロクロス位置を検出するゼロクロス検出回路と、
を備えたことを特徴とする電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項2】
前記可動部は、枠状の外側可動板とその内側に配置される内側可動板とを互いに直交する2軸回りに一方は低速で他方は高速で揺動可能に軸支したものであり、前記波形処理回路とゼロクロス検出回路との間に、前記波形処理回路から出力する前記駆動パルス波形の除去された逆起電力信号から高速側のゼロクロス位置を検出する逆起電力信号と、低速側のゼロクロス位置を検出する逆起電力信号とを分離する逆起電力信号分離回路をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項3】
前記波形処理回路は、前記駆動パルス波形が除去された逆起電力信号の電圧波形の不連続性を補正して連続した波形を作る波形補正回路を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項4】
前記波形補正回路は、前記駆動パルス波形が除去された逆起電力信号の電圧波形の不連続点における電圧差を検出して該電圧差が所定の許容値内になるように前記キャンセルパルスのレベルを可変することを特徴とする請求項3に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項5】
前記波形補正回路は、不連続性補正後の逆起電力信号の電圧波形のうち、駆動パルス波形の重畳された期間に発生した波形歪を補正することを特徴とする請求項3又は4に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項6】
前記波形処理回路は、前記波形補正回路から出力する補正後の逆起電力信号の電圧波形に発生するスパイクノイズを除去するノイズ除去回路を備えたことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項7】
前記逆起電力信号分離回路は、前記波形処理回路の出力を移動平均フィルタで処理して低速側の逆起電力信号を抽出し、前記波形処理回路からの出力と前記低速側の逆起電力信号との差分を取って高速側の逆起電力信号を抽出する構成としたことを特徴とする請求項2に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。
【請求項8】
前記逆起電力信号分離回路は、前記移動平均フィルタに替えてアナログフィルタ又はデジタルフィルタを用いたことを特徴とする請求項7に記載の電磁アクチュエータの同期タイミング検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−151244(P2007−151244A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339442(P2005−339442)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】