説明

電磁ブレーキ

【課題】小型軽量化が可能であり、組立・分解やギャップ調整も容易に行えるようにした電磁ブレーキを提供する。
【解決手段】ヨーク端面2aとこのヨーク端面2aに対向配置した固定プレート6との間でアーマチュア3を移動可能に設け、アーマチュア3と固定プレート6の間に回転軸1とともに一体回転し得るように回転ディスク4を配置して、ヨーク2に対する励磁状態の切替を通じてアーマチュア3に、ヨーク端面2aに密着させて回転ディスク4を解放する状態と、ヨーク端面2aから離反させて回転ディスク4に圧接する状態とをとらせるように構成するにあたり、固定プレート6を、止め輪7によってヨーク端面2aから所定距離離れた位置に固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型化・軽量化と組立・分解時間の短縮化に善処した電磁ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁ブレーキを利用したものとして、例えば特許文献1に示されるような無励磁作動型電磁ブレーキが知られている。
【0003】
この電磁ブレーキは、図6に示すように、ヨーク端面2aとこのヨーク端面2aに対向配置した固定プレート6との間でアーマチュア3を移動可能に設け、アーマチュア3と固定プレート6の間に回転軸1とともに一体回転し得るように回転ディスク4を配置して、ヨーク2に対する励磁状態の切替を通じてアーマチュア3に、ヨーク端面2aに密着させて回転ディスク4を解放する状態と、ヨーク端面2aから離反させて回転ディスク4に圧接する状態とをとらせるように構成されている。
【特許文献1】2001−159431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この電磁ブレーキの組立時には、ヨーク2、アーマチュア3、固定プレート6に複数のボルト110を、固定プレート6とアーマチュア3との間に回転ディスク4を配置した状態で挿通し、その際に、アーマチュア3及び回転ディスク4が軸心1a方向に動作し得るようにヨーク2と固定プレート6との間にカラー112によって所定スペースを確保するようにしている。そのため、ヨーク2の磁気回路を構成しアーマチュア3の吸引力を作用させる上で必要最小限の直径よりも少なくともボルト110やカラー112の取付しろの分だけ余分にヨーク2やアーマチュア3、固定プレート6等の直径及びスペースが必要になり、一定以上の小型化・軽量化が困難であるという問題がある。また固定時には個々のボルト110を操作してギャップ調整をしなければならないため、組付作業に時間がかかる上に、メンテナンス等の分解作業も煩雑となってしまう。
【0005】
本発明は、簡易な構造を通じて、このような課題を有効に解消した電磁ブレーキを新たに提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0007】
すなわち、本発明の電磁ブレーキは、ヨーク端面とこのヨーク端面に対向配置した固定プレートとの間でアーマチュアを移動可能に設け、アーマチュアと固定プレートの間に回転軸とともに一体回転し得るように回転ディスクを配置して、ヨークに対する励磁状態の切替を通じてアーマチュアに、ヨーク端面に密着させて回転ディスクを解放する状態と、ヨーク端面から離反させて回転ディスクに圧接する状態とをとらせるように構成したものにおいて、前記固定プレートを、止め輪によってヨーク端面から所定距離離れた位置に固定可能としたことを特徴とする。なお、ここに言う固定プレートの固定とは、少なくともブレーキ作動時に固定プレートを所定位置に保持できるようにバックアップすることを意味する。
【0008】
このような構成にすると、ボルトを取り付けるスペースが不要となるため、ボルトを用いて固定プレートをヨーク端面から離れた所定位置に固定していた従来の電磁ブレーキに比べて、より小径化・軽量化が可能となり、また、多数のボルトを着脱する従来構成に比べて、最低限1枚の止め輪を着脱すればよいので、組立・分解時の工程時間を短縮することもできる。
【0009】
前記アーマチュアや回転ディスク、固定プレート等の部品群を順次所定位置に適切に配置するためには、ヨークに支持部材を突出させ、この支持部材の内周にアーマチュア、回転ディスク、固定プレートを挿入後、支持部材に止め輪を係合させ得るように構成していることが望ましい。
【0010】
前記部品群を簡単に組立・分解可能とするためには、前記支持部材が円周方向の間欠位置に設けられたものであることも望ましい。
【0011】
組立時のギャップ調整時間を短縮する効果を得るためには、前記止め輪と固定プレートとの間にシムを介在させる構造を採用することが望ましい。
【0012】
摩擦トルクを簡単かつ有効に増大させるためには、複数枚の回転ディスクをハブを介して回転軸に一体回転可能に取り付けるとともに、支持部材に支持させた状態で固定ディスクを、回転ディスク間に所定間隙を介して挟まれる形で配置していることも望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上説明したように、ボルトに代えて止め輪を採用し、この止め輪を介して固定プレートをヨークと相対する所定位置に固定するようにしたので、アーマチュアや固定プレートが必要以上に大径化することを回避して、電磁ブレーキの小型軽量化を有効に実現することができる。また、最低限1つの止め輪を用いれば固定プレートを固定できるので、組立・分解やギャップ調整に係る作業性も従来に比べて飛躍的に高めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0015】
この実施形態の電磁ブレーキは、図1及び図2に示すスプリングクローズ式の無励磁作動型電磁ブレーキに適用される。
【0016】
この電磁ブレーキは、回転軸1に制動を加えるべく、当該回転軸1の軸心1aに沿ってヨーク2、アーマチュア3、回転ディスク4、固定ディスク5、固定プレート6、止め輪7を配置して構成される。
【0017】
回転軸1には、軸端部に一体回転可能にハブ11が取り付けられている。
【0018】
ヨーク2は、鉄などの強磁性体からなり、軸心1a周りに励磁コイル21が巻回されている。回転軸1の周囲には、基端をヨーク2の内方端に固定し、先端をアーマチュア3に向けて突出させた状態で圧縮バネ22が装填されている。また、このヨーク2の外周等角位置には、複数の杆状をなす支持部材23がヨーク2の外周に固定された状態で先端をヨーク端面2aから突出させてあり、その支持部材23の突出端23a近傍の内周に溝23bを形成している。本実施形態で採用する支持部材23は3本であるが、個数はこれに限定されるものではない。
【0019】
アーマチュア3は、鉄などの強磁性体からなるもので、ヨーク端面2aと回転ディスク4の対向面4aとの間隙mに配置される。このアーマチュア3には、内周3bに回転軸1が遊嵌状態で挿通されるとともに、前述した圧縮バネ22によって常時、ヨーク端面2aから離反する方向の弾性力が作用している。
【0020】
回転ディスク4は、ハブ11の外周に所定間隙を介して2枚を一体的に設けられたもので、アーマチュア3と固定プレート6との間に介在される。これらの回転ディスク4には、両面に図3に示すような制動面となるフェーシング41が形成してあり、一部のフェーシング41をアーマチュア3に対面させ、他の一部のフェーシング41を固定プレート6に対面させている。また、この回転ディスク4を支持部材23の内側に挿入する際、回転ディスク4,4間に固定ディスク5が位置するようにして、この固定ディスク5を支持部材23の内周に圧入するようにしている。したがって、固定ディスク5は、回転ディスク4,4間に所定間隙を介して挟まれる形で配置される。
【0021】
固定プレート6は、前記支持部材23の内周に圧入され、ヨーク端面2aから所定位置隔てた位置に配置される。
【0022】
止め輪7は、図2に示すようにCの字状をなす板材からなり、両端に図示しない工具を係合させる孔7a、7bを備えている。この孔7a、7bを使用することにより、止め輪7を一時的に縮径させて支持部材23の内周に挿入し、その位置で弾性復元させることによって、支持部材23の内周に設けた溝23aに係合させることができる。支持部材23の溝23aの溝幅や溝深さは、支持部材23の剛性などに影響を与えない範囲で設定している。この止め輪7は、固定プレート6の裏面に円周方向に亘って添設し、1枚であっても固定プレート6の各部にほぼ均等に作用して、固定プレート6を所定の圧入位置に保持して抜脱を禁止する役割を果たす。
【0023】
ヨーク2とアーマチュア3の間には、励磁コイル21への通電時に図示しない磁路が形成され、アーマチュア3を圧縮バネ22の弾性力に抗してヨーク端面2aに吸着する方向の磁気吸引力を発生する。励磁コイル21への通電が断たれると、アーマチュア3は圧縮バネ22に弾性付勢されて、ヨーク2から離れる方向に移動する。これらヨーク2、アーマチュア3、励磁コイル21及び圧縮バネ22は、無励磁作動型の電磁駆動手段を構成している。
【0024】
すなわちアーマチュア3は、励磁されることによって図3に矢印Xで示すようにヨーク2側に移動して当該ヨーク端面2aに密着することにより回転ディスク4を解放し、消磁された際に圧縮バネ22によって同図中矢印Yに示すように固定プレート6方向に移動することにより再び図1の状態に戻ってアーマチュア3と固定プレート6との間に回転ディスク4を挟み込み、これによってフェーシング41部分での擦動摩擦により、回転ディスク4を介して回転軸1に制動力を作用させる。より具体的には、本実施形態では2枚の回転ディスク4を採用しているため、一方の回転ディスク4はアーマチュア3と固定ディスク5の間に挟み込まれ、他方の回転ディスク4は固定ディスク5と固定プレート6の間に挟み込まれ、各々の回転ディスク4からハブ11を介して回転軸1に制動トルクが作用することになる。
【0025】
以上のように構成される本実施形態の電磁ブレーキは、固定プレート6をバックアップする手段として従来のボルトに代えて止め輪7を採用し、この止め輪7によって固定プレート6をヨーク端面2aから所定距離離れた位置に固定し、固定プレート6とヨーク端面2aとの間に所定の隙間を確保するようにしている。このような部品配置を施すとともに、圧縮バネ22を軸心位置に配置したことによって、従来の電磁ブレーキに比べて、図示しない磁気回路を構成しアーマチュア3に吸引力を作用させる上で必要最小限の直径で各部を設計することができ、また設計上困難であった小径、軽量化が可能となり、さらには組立・分解時の工程時間も有効に短縮する効果が奏される。
【0026】
また、ヨーク2に支持部材23を突出させ、この支持部材23の内周にアーマチュア3、回転ディスク4、固定プレート6を挿入後、支持部材23に止め輪7を係合させ得るようにしているので、支持部材23をガイドにして前記部品群を順次その内側に挿入しつつ所定位置へ配置することができ、最後に係合させる止め輪7によって固定プレート6はもとより、これらの部品の抜脱を有効に禁止することができる。
【0027】
さらに、支持部材23を周回させず、円周方向の間欠位置に設けていて、先端を自由端としているので、前記部品群の組立・分解を支持部材23の内周に対して容易に行うことができる。
【0028】
さらにまた、従来技術におけるボルトを不要としたことで、図3に示したように、回転ディスク4をハブ11に複数枚取り付けるとともに、回転ディスク4に所定間隙を介して挟まれる形で支持部材23の内周側に固定ディスク5を配置する設計が容易に可能となるため、摩擦トルクを簡単かつ有効に増大させることができるようになる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0030】
例えば図4に示すように、回転ディスク4は当然のことながら1枚であっても構わず、あるいは3枚以上を採用することもできる。また、同図に示すように、固定ディスク6と止め輪7の間に、ギャップ調整のためのシム8を配置する構成を採用してもよい。このようにすると、従来の構成に比べて、逐一ボルトを調整せずともシム8を適宜枚数まとめて挿脱するだけでヨーク端面2aと固定プレート6の間のギャップ調整ができるため、組立時におけるギャップ調整時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0031】
さらに、止め輪の構造も図示例以外に、例えば図5に示すように、等ピッチで外周に歯107aを備えた止め輪107を採用することもできる。
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る電磁ブレーキの縦断面図。
【図2】同正面図。
【図3】図1の要部拡大図。
【図4】本発明の変形例を示す要部拡大図。
【図5】本発明の他の変形例を示す図。
【図6】従来の電磁ブレーキを示す縦断面図
【図7】同正面図
【符号の説明】
【0033】
1…回転軸
1a…軸心
2…ヨーク
2a…ヨーク端面
3…アーマチュア
4…回転ディスク
5…固定ディスク
6…固定プレート
7…止め輪
8…シム
11…ハブ
23…支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク端面とこのヨーク端面に対向配置した固定プレートとの間でアーマチュアを移動可能に設け、アーマチュアと固定プレートの間に回転軸とともに一体回転し得るように回転ディスクを配置して、ヨークに対する励磁状態の切替を通じてアーマチュアに、ヨーク端面に密着させて回転ディスクを解放する状態と、ヨーク端面から離反させて回転ディスクに圧接する状態とをとらせるように構成したものにおいて、
前記固定プレートを、止め輪によってヨーク端面から所定距離離れた位置に固定可能としたことを特徴とする電磁ブレーキ。
【請求項2】
ヨークに支持部材を突出させ、この支持部材の内周にアーマチュア、回転ディスク、固定プレートを挿入後、支持部材に止め輪を係合させ得るように構成している請求項1記載の電磁ブレーキ。
【請求項3】
前記支持部材が、円周方向の間欠位置に設けられている請求項2記載の電磁ブレーキ。
【請求項4】
前記止め輪と固定プレートとの間にシムを介在させ得るようにしている請求項1〜3何れかに記載の電磁ブレーキ。
【請求項5】
複数枚の回転ディスクをハブを介して回転軸に一体回転可能に取り付けるとともに、支持部材に支持させた状態で固定ディスクを、回転ディスク間に所定間隙を介して挟まれる形で配置している請求項2又は3何れかに記載の電磁ブレーキ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−65788(P2010−65788A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233956(P2008−233956)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】