電磁誘導加熱装置
【課題】低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる電磁誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】本発明の電磁誘導加熱装置は、低出力の加熱時における所定時点に、第1、第2スイッチング素子1、2からスナバコンデンサ7への短絡電流を防止するように、第1、第2スイッチング素子1、2のオンオフと連動してスナバコンデンサ7に直列に接続された第3スイッチング素子3をオンオフ制御する。
【解決手段】本発明の電磁誘導加熱装置は、低出力の加熱時における所定時点に、第1、第2スイッチング素子1、2からスナバコンデンサ7への短絡電流を防止するように、第1、第2スイッチング素子1、2のオンオフと連動してスナバコンデンサ7に直列に接続された第3スイッチング素子3をオンオフ制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により加熱コイルに高周波電流を流し、被加熱物を加熱する電磁誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電磁調理器や電気炊飯器などのように、インバータ回路により加熱コイルに高周波電流を流し被加熱物を加熱する電磁誘導加熱装置が知られている。加熱コイルと共振コンデンサの共振周波数より高い周波数範囲で高周波電流を加熱コイルに流して加熱しており、周波数を共振周波数に近づけることにより高出力の加熱、周波数を高くすることにより、低出力の加熱を行なっている。ここで問題となるのが、低出力の加熱時に周波数を高くすると、加熱コイルに流れる電流が減り、加熱コイルによる逆起電力が弱くなり、スナバコンデンサの充電電流が不十分となり、そのため、スイッチング素子からスナバコンデンサに流れる電流が増加し、スイッチング素子の損失が増加することである。
【0003】
図1に一般的なハーフブリッジの電磁誘導加熱装置の回路図を示す。電源の+極と−極の間にスイッチング素子1とスイッチング素子2を直列に接続し、その接続点に加熱コイル4の一端を接続し、共振コンデンサ6、電源−極に接続されている。スイッチング素子1とスイッチング素子2の各々に並列にダイオード8、ダイオード9が逆向きに接続されている。スイッチング素子1、スイッチング素子2と加熱コイル4の接続点にスナバコンデンサ7が接続され、一端が電源−極に接続されている。また、制御回路12がドライブ回路11を経由してスイッチング素子1とスイッチング素子2に接続されている。
【0004】
スイッチング素子1とスイッチング素子2を交互に高周波数でオン、オフすることにより加熱コイル4に電流を流し被加熱物を加熱する。一般に、スイッチング素子1とスイッチング素子2のどちらもオフとなっているデッドタイムを固定し、スイッチング素子のオン時間を変えて出力電力を調整する制御を行う。図2(A)に加熱パワーが中出力時のシーケンス図、図2(B)に加熱パワーが低出力時のシーケンス図を示す。以下、図2(A)のシーケンス図を用いて従来の技術の動作原理を説明する。
【0005】
図2(A)の(1)の期間はスイッチング素子1がオンしている期間で、電源+極よりスイッチング素子1、加熱コイル4を経て共振コンデンサ6に電流を流している期間である。(2)の期間はスイッチング素子1をオフとして、2つのスイッチング素子のどちらもオフとなるデッドタイムである。加熱コイル4に電流が多く流れている時点でスイッチング素子1をオフするため逆起電力が大きく、逆起電力によりスナバコンデンサ7より加熱コイルに電流が流れる。スナバコンデンサ7の電位が電源−極と等しくなると電源−極よりダイオード9を経て逆起電力が消滅するまで電流が流れる。このダイオード9に電流が流れている期間にスイッチング素子2をオンとする。したがって、スイッチング素子2は、電圧0V、電流0Aでオンすることになり、オン時はゼロクロスでのスイッチングとなる。
【0006】
図2(A)の(3)の期間はスイッチング素子2がオンとなっている期間であり、(2)の期間に発生した逆起電力が消滅後、共振コンデンサ6より加熱コイル4、スイッチング素子2を経て、電源−極へ電流が流れる。(4)の期間はスイッチング素子2をオフとして、2つのスイッチング素子のどちらもオフとなるデッドタイムである。加熱コイル4に電流が多く流れている時にスイッチング素子2をオフするため逆起電力が大きく、逆起電力によりスナバコンデンサ7を電源+極の電圧と同電位となるまで充電される。スナバコンデンサ7が電源+極と同電位となると、ダイオード8を経て電源+極に逆起電力が消滅するまで電流が流れる。この、ダイオード8に電流が流れている期間にスイッチング素子1をオンとする。したがって、スイッチング素子1は、電圧0V、電流0Aでオンすることになり、オン時はゼロクロスでのスイッチングとなる。その後(1)の動作に戻る。
【0007】
図2(A)は中出力時のものであるが、低出力にすると図2(B)のシーケンス図のようになる。加熱コイルの逆起電力が弱くなり、スナバコンデンサ7の充放電が不十分となり、スイッチング素子1、スイッチング素子2がオンする際にゼロクロススイッチングとならず、スナバコンデンサ7へ短絡電流が流れることになる。
【0008】
解決策としてスナバコンデンサに第3スイッチング素子を直列に接続し、その第3スイッチング素子でスナバコンデンサの容量を変えてスイッチング素子の損失を抑える技術が知られている(例えば、特許文献1)。このような技術の一例として、図3に一般的な回路構成図を示す。スイッチング素子3を切り替えて、スナバコンデンサ7とスナバコンデンサ14の並列接続とスナバコンデンサ14のみに切り替えスナバコンデンサの容量を変えることによりスイッチング素子1とスイッチング素子2の損失を抑えている。
【特許文献1】特許第3969497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3において最低出力時の逆起電力でスナバコンデンサ14を十分充電できる容量に設定すればスイッチング素子1、スイッチング素子2のオン時のスイッチング損失は無くすことができる。しかし、低出力とするには、駆動周波数を高くする必要があるため、単位時間当たりのスイッチング回数が増加し、オフ時のスイッチング損失が増加する。オフ時のスイッチングは電流が流れている状態でオフすることになるためスイッチング損失を無くすことはできない。このため、周波数が高くなるとスイッチング損失の増加を招く。また、最低周波数でスナバコンデンサの容量を最適化しているため、最低周波数より周波数が高くなると逆起電力により、ダイオード8またはダイオード9に流れる電流が増加するためダイオードの導通損失が増加する。
【0010】
一方、周波数を低く抑えるために、デューティ比を変えてオフ時間を長くとると、オフ期間に逆起電力が消滅し、スナバコンデンサ14が充放電される。(図2(B)の(2)では充電、(4)では放電となる。)このため、スイッチング素子1およびスイッチング素子2がオンするごとに、スナバコンデンサ14への短絡電流が流れるためスイッチング損失が増加する。
【0011】
加熱コイルの逆起電力量により、スイッチング素子1、スイッチング素子2のどちらもオフとするデッドタイムの期間の上限が決定され、加熱コイルの逆起電力量は、スイッチング素子をオフとする時の加熱コイルに流れる電流量により決定される。そのため、電流量の小さい低出力時にデッドタイムを長く取ることはできないことになる。
【0012】
したがって、スナバコンデンサ7を切り離すことによりスナバコンデンサ容量を小さくして短絡電流を無くすことができても、周波数が高くなるためスイッチング素子のスイッチング回数が増加し、スイッチング損失、ダイオードの導通損失により発熱が大きくなる。
【0013】
この場合、スイッチング損失を考慮して、あまり高くない周波数で一定期間加熱し、一定期間休止する間欠発振でスイッチング素子の発熱を低く抑え、休止時に放熱することにより解決している。図4にスイッチング素子のその動作タイミングを示す。共振周期の4分の1から2分の1程度の周期の発振で5〜10秒程度加熱し、休止期間を20秒から30秒程度とることにより、低出力の加熱量とする。しかし、これでは被加熱物の時間的な温度ムラが発生する。
【0014】
本発明は、低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる電磁誘導加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る電磁誘導加熱装置は、直流電流を高周波電流に変換するインバータ回路と、制御回路とを備えたもので、前記インバータ回路は、直列に接続された第1および第2スイッチング素子と、各スイッチング素子に並列に接続された第1および第2ダイオードと、直列に接続された第1および第2共振コンデンサと、これら両コンデンサの接続点と前記第1および第2スイッチング素子の接続点との間に接続された加熱コイルと、前記第1スイッチング素子または第2スイッチング素子に対して並列に接続された、スナバコンデンサおよびこれに直列に接続された第3スイッチング素子とを有し、前記制御回路は、低出力の加熱時における所定時点に、前記第1、第2スイッチング素子から前記スナバコンデンサへの短絡電流を防止するように、前記第1、第2スイッチング素子のオンオフと連動して前記スナバコンデンサに直列に接続された前記第3スイッチング素子をオンオフ制御する。
【0016】
この構成によれば、低出力の加熱時における所定時点に、第1、第2スイッチング素子からスナバコンデンサへの短絡電流を防止するように、第1、第2スイッチング素子のオンオフと連動してスナバコンデンサに直列に接続された第3スイッチング素子をオンオフ制御するので、低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる。
【0017】
好ましくは、前記制御回路は、前記低出力の加熱時における、前記第1、第2スイッチング素子がともにオフとなるデッドタイムの開始時点および終了時点に、前記スナバコンデンサの両端電位が等しくなるように、前記デッドタイムの開始時点に第2スイッチング素子がオフする前または同時に前記第3スイッチング素子をオフ制御し、前記デッドタイムの終了時点に第2スイッチング素子がオンした後に前記第3スイッチング素子をオン制御する。したがって、低出力の加熱時における、前記第1、第2スイッチング素子がともにオフとなるデッドタイムの開始時点および終了時点に、前記スナバコンデンサの両端電位が等しくなるので、第3スイッチング素子への短絡電流を防止して、低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる。
【0018】
好ましくは、前記第1および第2スイッチング素子の接続点と前記スナバコンデンサ間に電流検出部を設け、前記制御回路は、前記電流検出部で検出された電流に基づいて前記第3スイッチング素子を制御する。したがって、低出力時のスイッチング素子の損失を確実に低減できる。
【0019】
好ましくは、前記制御回路は、高出力時はデューティ固定とし周波数を変えることにより加熱制御を行うものであり、低出力時においては、前記第1、第2スイッチング素子のオン時間を一定としてオフ時間の長さを変えることにより、または、前記第1、第2スイッチング素子のオフ時間を一定としてオン時間の長さを変えることにより加熱制御を行う。したがって、低出力時のスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、低出力時において、スイッチング周波数を低く抑えスイッチング損失を極力無くし、スイッチング周期のオフ時間を長くしても、加熱コイル4の逆起電力を吸収でき、オン時の短絡電流も発生せず、各スイッチング素子1、2の発熱を低くすることが可能となる。したがって、インバータ回路25の発熱、損失が少なく、低出力時においてもエネルギー変換効率が良く、被加熱物の温度ムラの少ない電磁誘導加熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図5は本発明の第1実施形態である電磁誘導加熱装置の回路構成図である。電源回路20は、図示しない商用電源を平滑し直流電源とするフィルタ回路、整流回路、平滑回路からなり、インバータ回路25に電源を供給する。
【0022】
電源の+極と−極の間に第1スイッチング素子1と第2スイッチング素子2を直列に接続して、インバータ回路25のスイッチング回路を構成している。また、各スイッチング素子1、2と並列にそれぞれ第1ダイオード8、第2ダイオード9が逆向きに接続されている。
【0023】
第1スイッチング素子1と第2スイッチング素子2の接続点に加熱コイル4の一端が接続され、他端を第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6の一端に接続されている。電源+極に第1共振コンデンサ5の一端が接続され、電源−極に第2共振コンデンサ6の一端が接続されている。
【0024】
前記第2スイッチング素子2に対して、スナバコンデンサ7およびこれに直列に接続された第3スイッチング素子3が並列に接続され、つまり、第1スイッチング素子1および第2スイッチング素子2の接続点と加熱コイル4との接続点にスナバコンデンサ7の一端が接続され、他端に第3スイッチング素子3が直列に接続され電源−極に接続されている。第3スイッチング素子3と並列に第3ダイオード10が逆向きに接続されている。
【0025】
各スイッチング素子1、2はドライブ回路12により駆動される。その駆動信号は制御回路30より出力される。また、制御回路30はスナバ制御回路13にも制御信号を出力し、低出力の加熱時における所定の時に、スナバコンデンサ7への短絡電流を防止するように、第1、第2スイッチング素子1、2のオンオフと連動してスナバコンデンサ7に接続された第3スイッチング素子をオンオフ制御する。
【0026】
第1スイッチング素子1、第2スイッチング素子2のオン時間を加熱コイル4の逆起電力により、スナバコンデンサ7が十分充放電できる長さをとり、両スイッチング素子1、2のどちらも休止している時間を長く取ることにより低出力とする。しかし、ここで問題となるのは、休止時間において加熱コイル4の逆起電力が消滅した後、スナバコンデンサ7が加熱コイル4と共振動作して急速に中間電位となることである。この状態で各スイッチング素子1、2をオンさせた場合、スナバコンデンサ7により短絡電流が流れる。そこで、第3スイッチング素子3のオンオフを各スイッチング素子1、2のオンオフと連動して制御し、短絡電流を防止する。
以下、図6〜図8を用いて低出力時における動作を説明する。
【0027】
図6、7は各動作タイミング時の電流の流れを示したものである。図8は各スイッチング素子1、2の動作タイミング、点Aの電圧(両スイッチング素子1、2の接続点とスナバコンデンサ7との接続点)、点Bの電圧(加熱コイル4と第1および第2共振コンデンサ5、6との接続点)、加熱コイル4に流れる電流の動作タイミングを示したものである。ここで、図8の(2),(3),(4),(5),(6),(7)を加えた時間は加熱コイル4、第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6からなる共振周期より短いものとする。
【0028】
動作(1)
図6(A)のように、動作停止時、あるいは、低出力制御継続時において第1および第2共振コンデンサ5、6の中点Bの電圧は電源電圧の中間電位となっており、第2スイッチング素子2がオンされると、点Aの電圧は0Vとなり、電流は、第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6より加熱コイル4を通して第2スイッチング素子2を経由して電源−極に流れる。また、第2スイッチング素子2がオンした後に第3スイッチング素子3をオンとする。この時、スナバコンデンサ7の上端aは第2スイッチング素子2により電源−極にショートされ、第3スイッチング素子3により下端bを電源−極にショートしても同電位であるから、第3スイッチング素子3への短絡電流は無いものとなる。
【0029】
動作(2)
図6(B)のように、第2スイッチング素子2をオフすると、加熱コイル4の逆起電力によりスナバコンデンサ7が充電される。この時、スナバコンデンサ7を加熱コイル4の逆起電力で十分に充電できる電流を加熱コイル4に流した状態にて第2スイッチング素子2をオフとする。初期状態においては第1共振コンデンサ5と第2共振コンデンサ6の接続点Bの電圧は電源電圧の中間電位となっているため、図8の(4)の時間とは異なる。
【0030】
動作(3)
図6(C)のように、スナバコンデンサ7が充電され電源+極と同じ電圧となると、電流は、第1ダイオード8を経由して電源+極へ加熱コイル4の逆起電力が消滅するまで流れる。
【0031】
動作(4)
図6(D)のように、スナバコンデンサ7が電源+極と同電位となった後、スイッチング素子1をオンとする。この時、スナバコンデンサ7と電源+極との電位差は無く、スイッチング素子1にスナバコンデンサ7への短絡電流は発生しない。加熱コイル4の逆起電力が消滅後に電源+極よりスイッチング素子1、加熱コイル4を経由して第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6に電流が流れる。
【0032】
動作(5)
図7(A)のように、スイッチング素子1をオフすると、加熱コイル4の逆起電力によりスナバコンデンサ7が放電する。
【0033】
動作(6)
図7(B)のように、スナバコンデンサ7が放電され、電源−極と同電位となると電流は、第2ダイオード9を経由して電源−極から加熱コイル4の逆起電力が消滅するまで流れる。
【0034】
動作(7)
図7(C)のように、スナバコンデンサ7が電源−極と同電位となった後、第2スイッチング素子2をオンすると、スナバコンデンサ7は放電されており、電源−極と同電位でありスナバコンデンサ7からの短絡電流は発生しない。加熱コイル4の逆起電力が消滅後に第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6より加熱コイル4、第2スイッチング素子2を通して電源−極に電流が流れる。(7)の期間は(4)の期間と等しく、(2),(3),(4),(5),(6),(7)で1周期の発振動作となっている。
【0035】
動作(8)
図7(D)のように、発振のオフ期間である。このオフ期間は100μs以下であるので温度ムラへの影響はほとんど発生しないが、この時、第2スイッチング素子2をオンのままとすることにより、第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6と加熱コイル4の共振電流による加熱が見込まれる。これにより、発振のオフ期間も加熱され温度ムラを軽減する効果が発生し、熱変換効率の向上も見込める。
【0036】
動作(9)
図7(E)のように、第2スイッチング素子2をオフする前または同時に第3スイッチング素子3をオフする。この時スナバコンデンサ7の両端は同電位であり、スナバコンデンサ7に電荷は蓄えられていない。A点の電圧は第1ダイオード8、第2ダイオード9により中間電位となる。これによりB点の電位も加熱コイル4を経由して電流が流れて中間電位となる。
【0037】
オフ時間を長くとる場合には、図8の動作(8)、(9)の期間を長く取ることにより可能である。また、オフ時間を短くする場合には、動作(8)の期間で共振電流により点Bの電圧が高くなる共振周波数のタイミングで第2スイッチング素子2、第3スイッチング素子3をオフすることにより点Bが中間電位となるまでの時間を短縮し、オフ期間を短くすることが可能となる。
【0038】
また、加熱パワーが必要な場合、図8の(7)の動作の後に(2)〜(7)の動作を繰り返してもよい。
【0039】
図9は第2実施形態に係るもので、両スイッチング素子1、2の接続点とスナバコンデンサ7との接続位置に電流検出器15を設けた回路構成図を示す。その他の構成は、第1実施形態と同様である。電流検出器15で電流を検出することにより、スナバコンデンサ7が充電され第1ダイオード8に電流が流れる、または、スナバコンデンサ7が放電され第2ダイオード9から電流が流れることを検出でき、両スイッチング素子1、2をオンするタイミングを得ることができる。これにより、より確実に両スイッチング素子1、2のオン時の損失を無くすことができる。制御回路30は、第2スイッチング素子2がオンとなり第2スイッチング素子2に電流が流れていることを検出したことに基づいて、第3スイッチング素子3をオンすることにより、スイッチング損失を確実に無くすことができる。
【0040】
図10は第3実施形態に係るもので、両スイッチング素子1、2の動作タイミングを、両スイッチング素子1、2の接続点の電圧を電圧検出器(B)17で、電源電圧を電圧検出器(A)16で測定することによって得る回路構成図を示したものである。その他の構成は、第1実施形態と同様である。電圧検出器(A)16と電圧検出器(B)17の電圧が等しい時に第1スイッチング素子1をオンすることにより、電圧検出器(B)17の電圧が0V時に第2スイッチング素子2をオンすることにより、スイッチング損失は無くなる。スイッチング素子3は電圧検出器(B)17の電圧が0V時にオン、オフすることによりスイッチング損失を防げる。
【0041】
図11は第4実施形態に係る回路構成図を示す。電源+極側の第1共振コンデンサ5に代えて充電回路18を設けて(または、電源−極側の第2共振コンデンサ6に代えて充電回路18を設けて)、充電回路18または各スイッチング素子1、2により第1、第2共振コンデンサ5、6を充電することにより、前記の低出力制御を実現することも可能である。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0042】
この低出力制御は、共振周波数の2.5倍から3倍程度の周波数以上の周波数帯でスナバコンデンサ7の充放電が不十分となりスイッチング損失が増加する領域において使用する。それ以下の周波数帯において加熱パワーをあげる場合には、両スイッチング素子1、2のオン時間を等しく長くして制御する。この際、両スイッチング素子1、2のどちらもオフとなるデッドタイムは一定とする。この2つの制御の切り替え時の動作を以下説明する。
【0043】
低出力制御から周波数制御の高出力制御に移行する場合、スナバコンデンサ7を充電する第2スイッチング素子2の最初のパルス(図8の(1)の期間)を出力後、第1スイッチング素子1のオンより高出力制御に移行する。高出力制御から低出力制御に移行する場合は、高出力制御の第1スイッチング素子1のオフ後、デッドタイムをおき低出力制御に移行する。
【0044】
上記各実施形態では、第2スイッチング素子2に対して、スナバコンデンサ7およびこれに直列に接続された第3スイッチング素子3が並列に接続されているが、第1スイッチング素子1に対して、スナバコンデンサ7およびこれに直列に接続された第3スイッチング素子3が並列に接続されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来の技術における回路構成図を示す。
【図2】(A)(B)は、従来の技術の中出力の加熱時におけるスイッチング素子のタイミングチャートを示す。
【図3】従来の技術における回路構成図を示す。
【図4】従来の技術における間欠動作のタイミングチャートを示す。
【図5】本発明の第1実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【図6】(A)〜(D)は、図5の電磁誘導加熱装置における各動作区間の電流の流れを示す動作原理図である。
【図7】(A)〜(E)は、図5の電磁誘導加熱装置における各動作区間の電流の流れを示す動作原理図である。
【図8】図5の電磁誘導加熱装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図9】第2実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【図10】第3実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【図11】第4実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【符号の説明】
【0046】
1:第1スイッチング素子
2:第2スイッチング素子
3:第3スイッチング素子
4:加熱コイル
5:第1共振コンデンサ
6:第2共振コンデンサ
7:スナバコンデンサ
8:第1ダイオード
9:第2ダイオード
10:第3ダイオード
12:ドライブ回路
13:スナバ制御回路
15:電流検出部
16:電圧検出部A
17:電圧検出部B
18:充電回路
20:電源回路
25:インバータ回路
30:制御回路
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により加熱コイルに高周波電流を流し、被加熱物を加熱する電磁誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば電磁調理器や電気炊飯器などのように、インバータ回路により加熱コイルに高周波電流を流し被加熱物を加熱する電磁誘導加熱装置が知られている。加熱コイルと共振コンデンサの共振周波数より高い周波数範囲で高周波電流を加熱コイルに流して加熱しており、周波数を共振周波数に近づけることにより高出力の加熱、周波数を高くすることにより、低出力の加熱を行なっている。ここで問題となるのが、低出力の加熱時に周波数を高くすると、加熱コイルに流れる電流が減り、加熱コイルによる逆起電力が弱くなり、スナバコンデンサの充電電流が不十分となり、そのため、スイッチング素子からスナバコンデンサに流れる電流が増加し、スイッチング素子の損失が増加することである。
【0003】
図1に一般的なハーフブリッジの電磁誘導加熱装置の回路図を示す。電源の+極と−極の間にスイッチング素子1とスイッチング素子2を直列に接続し、その接続点に加熱コイル4の一端を接続し、共振コンデンサ6、電源−極に接続されている。スイッチング素子1とスイッチング素子2の各々に並列にダイオード8、ダイオード9が逆向きに接続されている。スイッチング素子1、スイッチング素子2と加熱コイル4の接続点にスナバコンデンサ7が接続され、一端が電源−極に接続されている。また、制御回路12がドライブ回路11を経由してスイッチング素子1とスイッチング素子2に接続されている。
【0004】
スイッチング素子1とスイッチング素子2を交互に高周波数でオン、オフすることにより加熱コイル4に電流を流し被加熱物を加熱する。一般に、スイッチング素子1とスイッチング素子2のどちらもオフとなっているデッドタイムを固定し、スイッチング素子のオン時間を変えて出力電力を調整する制御を行う。図2(A)に加熱パワーが中出力時のシーケンス図、図2(B)に加熱パワーが低出力時のシーケンス図を示す。以下、図2(A)のシーケンス図を用いて従来の技術の動作原理を説明する。
【0005】
図2(A)の(1)の期間はスイッチング素子1がオンしている期間で、電源+極よりスイッチング素子1、加熱コイル4を経て共振コンデンサ6に電流を流している期間である。(2)の期間はスイッチング素子1をオフとして、2つのスイッチング素子のどちらもオフとなるデッドタイムである。加熱コイル4に電流が多く流れている時点でスイッチング素子1をオフするため逆起電力が大きく、逆起電力によりスナバコンデンサ7より加熱コイルに電流が流れる。スナバコンデンサ7の電位が電源−極と等しくなると電源−極よりダイオード9を経て逆起電力が消滅するまで電流が流れる。このダイオード9に電流が流れている期間にスイッチング素子2をオンとする。したがって、スイッチング素子2は、電圧0V、電流0Aでオンすることになり、オン時はゼロクロスでのスイッチングとなる。
【0006】
図2(A)の(3)の期間はスイッチング素子2がオンとなっている期間であり、(2)の期間に発生した逆起電力が消滅後、共振コンデンサ6より加熱コイル4、スイッチング素子2を経て、電源−極へ電流が流れる。(4)の期間はスイッチング素子2をオフとして、2つのスイッチング素子のどちらもオフとなるデッドタイムである。加熱コイル4に電流が多く流れている時にスイッチング素子2をオフするため逆起電力が大きく、逆起電力によりスナバコンデンサ7を電源+極の電圧と同電位となるまで充電される。スナバコンデンサ7が電源+極と同電位となると、ダイオード8を経て電源+極に逆起電力が消滅するまで電流が流れる。この、ダイオード8に電流が流れている期間にスイッチング素子1をオンとする。したがって、スイッチング素子1は、電圧0V、電流0Aでオンすることになり、オン時はゼロクロスでのスイッチングとなる。その後(1)の動作に戻る。
【0007】
図2(A)は中出力時のものであるが、低出力にすると図2(B)のシーケンス図のようになる。加熱コイルの逆起電力が弱くなり、スナバコンデンサ7の充放電が不十分となり、スイッチング素子1、スイッチング素子2がオンする際にゼロクロススイッチングとならず、スナバコンデンサ7へ短絡電流が流れることになる。
【0008】
解決策としてスナバコンデンサに第3スイッチング素子を直列に接続し、その第3スイッチング素子でスナバコンデンサの容量を変えてスイッチング素子の損失を抑える技術が知られている(例えば、特許文献1)。このような技術の一例として、図3に一般的な回路構成図を示す。スイッチング素子3を切り替えて、スナバコンデンサ7とスナバコンデンサ14の並列接続とスナバコンデンサ14のみに切り替えスナバコンデンサの容量を変えることによりスイッチング素子1とスイッチング素子2の損失を抑えている。
【特許文献1】特許第3969497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3において最低出力時の逆起電力でスナバコンデンサ14を十分充電できる容量に設定すればスイッチング素子1、スイッチング素子2のオン時のスイッチング損失は無くすことができる。しかし、低出力とするには、駆動周波数を高くする必要があるため、単位時間当たりのスイッチング回数が増加し、オフ時のスイッチング損失が増加する。オフ時のスイッチングは電流が流れている状態でオフすることになるためスイッチング損失を無くすことはできない。このため、周波数が高くなるとスイッチング損失の増加を招く。また、最低周波数でスナバコンデンサの容量を最適化しているため、最低周波数より周波数が高くなると逆起電力により、ダイオード8またはダイオード9に流れる電流が増加するためダイオードの導通損失が増加する。
【0010】
一方、周波数を低く抑えるために、デューティ比を変えてオフ時間を長くとると、オフ期間に逆起電力が消滅し、スナバコンデンサ14が充放電される。(図2(B)の(2)では充電、(4)では放電となる。)このため、スイッチング素子1およびスイッチング素子2がオンするごとに、スナバコンデンサ14への短絡電流が流れるためスイッチング損失が増加する。
【0011】
加熱コイルの逆起電力量により、スイッチング素子1、スイッチング素子2のどちらもオフとするデッドタイムの期間の上限が決定され、加熱コイルの逆起電力量は、スイッチング素子をオフとする時の加熱コイルに流れる電流量により決定される。そのため、電流量の小さい低出力時にデッドタイムを長く取ることはできないことになる。
【0012】
したがって、スナバコンデンサ7を切り離すことによりスナバコンデンサ容量を小さくして短絡電流を無くすことができても、周波数が高くなるためスイッチング素子のスイッチング回数が増加し、スイッチング損失、ダイオードの導通損失により発熱が大きくなる。
【0013】
この場合、スイッチング損失を考慮して、あまり高くない周波数で一定期間加熱し、一定期間休止する間欠発振でスイッチング素子の発熱を低く抑え、休止時に放熱することにより解決している。図4にスイッチング素子のその動作タイミングを示す。共振周期の4分の1から2分の1程度の周期の発振で5〜10秒程度加熱し、休止期間を20秒から30秒程度とることにより、低出力の加熱量とする。しかし、これでは被加熱物の時間的な温度ムラが発生する。
【0014】
本発明は、低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる電磁誘導加熱装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係る電磁誘導加熱装置は、直流電流を高周波電流に変換するインバータ回路と、制御回路とを備えたもので、前記インバータ回路は、直列に接続された第1および第2スイッチング素子と、各スイッチング素子に並列に接続された第1および第2ダイオードと、直列に接続された第1および第2共振コンデンサと、これら両コンデンサの接続点と前記第1および第2スイッチング素子の接続点との間に接続された加熱コイルと、前記第1スイッチング素子または第2スイッチング素子に対して並列に接続された、スナバコンデンサおよびこれに直列に接続された第3スイッチング素子とを有し、前記制御回路は、低出力の加熱時における所定時点に、前記第1、第2スイッチング素子から前記スナバコンデンサへの短絡電流を防止するように、前記第1、第2スイッチング素子のオンオフと連動して前記スナバコンデンサに直列に接続された前記第3スイッチング素子をオンオフ制御する。
【0016】
この構成によれば、低出力の加熱時における所定時点に、第1、第2スイッチング素子からスナバコンデンサへの短絡電流を防止するように、第1、第2スイッチング素子のオンオフと連動してスナバコンデンサに直列に接続された第3スイッチング素子をオンオフ制御するので、低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる。
【0017】
好ましくは、前記制御回路は、前記低出力の加熱時における、前記第1、第2スイッチング素子がともにオフとなるデッドタイムの開始時点および終了時点に、前記スナバコンデンサの両端電位が等しくなるように、前記デッドタイムの開始時点に第2スイッチング素子がオフする前または同時に前記第3スイッチング素子をオフ制御し、前記デッドタイムの終了時点に第2スイッチング素子がオンした後に前記第3スイッチング素子をオン制御する。したがって、低出力の加熱時における、前記第1、第2スイッチング素子がともにオフとなるデッドタイムの開始時点および終了時点に、前記スナバコンデンサの両端電位が等しくなるので、第3スイッチング素子への短絡電流を防止して、低出力の加熱時におけるスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる。
【0018】
好ましくは、前記第1および第2スイッチング素子の接続点と前記スナバコンデンサ間に電流検出部を設け、前記制御回路は、前記電流検出部で検出された電流に基づいて前記第3スイッチング素子を制御する。したがって、低出力時のスイッチング素子の損失を確実に低減できる。
【0019】
好ましくは、前記制御回路は、高出力時はデューティ固定とし周波数を変えることにより加熱制御を行うものであり、低出力時においては、前記第1、第2スイッチング素子のオン時間を一定としてオフ時間の長さを変えることにより、または、前記第1、第2スイッチング素子のオフ時間を一定としてオン時間の長さを変えることにより加熱制御を行う。したがって、低出力時のスイッチング素子の損失を低減し、被加熱物の温度ムラの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、低出力時において、スイッチング周波数を低く抑えスイッチング損失を極力無くし、スイッチング周期のオフ時間を長くしても、加熱コイル4の逆起電力を吸収でき、オン時の短絡電流も発生せず、各スイッチング素子1、2の発熱を低くすることが可能となる。したがって、インバータ回路25の発熱、損失が少なく、低出力時においてもエネルギー変換効率が良く、被加熱物の温度ムラの少ない電磁誘導加熱装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図5は本発明の第1実施形態である電磁誘導加熱装置の回路構成図である。電源回路20は、図示しない商用電源を平滑し直流電源とするフィルタ回路、整流回路、平滑回路からなり、インバータ回路25に電源を供給する。
【0022】
電源の+極と−極の間に第1スイッチング素子1と第2スイッチング素子2を直列に接続して、インバータ回路25のスイッチング回路を構成している。また、各スイッチング素子1、2と並列にそれぞれ第1ダイオード8、第2ダイオード9が逆向きに接続されている。
【0023】
第1スイッチング素子1と第2スイッチング素子2の接続点に加熱コイル4の一端が接続され、他端を第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6の一端に接続されている。電源+極に第1共振コンデンサ5の一端が接続され、電源−極に第2共振コンデンサ6の一端が接続されている。
【0024】
前記第2スイッチング素子2に対して、スナバコンデンサ7およびこれに直列に接続された第3スイッチング素子3が並列に接続され、つまり、第1スイッチング素子1および第2スイッチング素子2の接続点と加熱コイル4との接続点にスナバコンデンサ7の一端が接続され、他端に第3スイッチング素子3が直列に接続され電源−極に接続されている。第3スイッチング素子3と並列に第3ダイオード10が逆向きに接続されている。
【0025】
各スイッチング素子1、2はドライブ回路12により駆動される。その駆動信号は制御回路30より出力される。また、制御回路30はスナバ制御回路13にも制御信号を出力し、低出力の加熱時における所定の時に、スナバコンデンサ7への短絡電流を防止するように、第1、第2スイッチング素子1、2のオンオフと連動してスナバコンデンサ7に接続された第3スイッチング素子をオンオフ制御する。
【0026】
第1スイッチング素子1、第2スイッチング素子2のオン時間を加熱コイル4の逆起電力により、スナバコンデンサ7が十分充放電できる長さをとり、両スイッチング素子1、2のどちらも休止している時間を長く取ることにより低出力とする。しかし、ここで問題となるのは、休止時間において加熱コイル4の逆起電力が消滅した後、スナバコンデンサ7が加熱コイル4と共振動作して急速に中間電位となることである。この状態で各スイッチング素子1、2をオンさせた場合、スナバコンデンサ7により短絡電流が流れる。そこで、第3スイッチング素子3のオンオフを各スイッチング素子1、2のオンオフと連動して制御し、短絡電流を防止する。
以下、図6〜図8を用いて低出力時における動作を説明する。
【0027】
図6、7は各動作タイミング時の電流の流れを示したものである。図8は各スイッチング素子1、2の動作タイミング、点Aの電圧(両スイッチング素子1、2の接続点とスナバコンデンサ7との接続点)、点Bの電圧(加熱コイル4と第1および第2共振コンデンサ5、6との接続点)、加熱コイル4に流れる電流の動作タイミングを示したものである。ここで、図8の(2),(3),(4),(5),(6),(7)を加えた時間は加熱コイル4、第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6からなる共振周期より短いものとする。
【0028】
動作(1)
図6(A)のように、動作停止時、あるいは、低出力制御継続時において第1および第2共振コンデンサ5、6の中点Bの電圧は電源電圧の中間電位となっており、第2スイッチング素子2がオンされると、点Aの電圧は0Vとなり、電流は、第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6より加熱コイル4を通して第2スイッチング素子2を経由して電源−極に流れる。また、第2スイッチング素子2がオンした後に第3スイッチング素子3をオンとする。この時、スナバコンデンサ7の上端aは第2スイッチング素子2により電源−極にショートされ、第3スイッチング素子3により下端bを電源−極にショートしても同電位であるから、第3スイッチング素子3への短絡電流は無いものとなる。
【0029】
動作(2)
図6(B)のように、第2スイッチング素子2をオフすると、加熱コイル4の逆起電力によりスナバコンデンサ7が充電される。この時、スナバコンデンサ7を加熱コイル4の逆起電力で十分に充電できる電流を加熱コイル4に流した状態にて第2スイッチング素子2をオフとする。初期状態においては第1共振コンデンサ5と第2共振コンデンサ6の接続点Bの電圧は電源電圧の中間電位となっているため、図8の(4)の時間とは異なる。
【0030】
動作(3)
図6(C)のように、スナバコンデンサ7が充電され電源+極と同じ電圧となると、電流は、第1ダイオード8を経由して電源+極へ加熱コイル4の逆起電力が消滅するまで流れる。
【0031】
動作(4)
図6(D)のように、スナバコンデンサ7が電源+極と同電位となった後、スイッチング素子1をオンとする。この時、スナバコンデンサ7と電源+極との電位差は無く、スイッチング素子1にスナバコンデンサ7への短絡電流は発生しない。加熱コイル4の逆起電力が消滅後に電源+極よりスイッチング素子1、加熱コイル4を経由して第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6に電流が流れる。
【0032】
動作(5)
図7(A)のように、スイッチング素子1をオフすると、加熱コイル4の逆起電力によりスナバコンデンサ7が放電する。
【0033】
動作(6)
図7(B)のように、スナバコンデンサ7が放電され、電源−極と同電位となると電流は、第2ダイオード9を経由して電源−極から加熱コイル4の逆起電力が消滅するまで流れる。
【0034】
動作(7)
図7(C)のように、スナバコンデンサ7が電源−極と同電位となった後、第2スイッチング素子2をオンすると、スナバコンデンサ7は放電されており、電源−極と同電位でありスナバコンデンサ7からの短絡電流は発生しない。加熱コイル4の逆起電力が消滅後に第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6より加熱コイル4、第2スイッチング素子2を通して電源−極に電流が流れる。(7)の期間は(4)の期間と等しく、(2),(3),(4),(5),(6),(7)で1周期の発振動作となっている。
【0035】
動作(8)
図7(D)のように、発振のオフ期間である。このオフ期間は100μs以下であるので温度ムラへの影響はほとんど発生しないが、この時、第2スイッチング素子2をオンのままとすることにより、第1共振コンデンサ5、第2共振コンデンサ6と加熱コイル4の共振電流による加熱が見込まれる。これにより、発振のオフ期間も加熱され温度ムラを軽減する効果が発生し、熱変換効率の向上も見込める。
【0036】
動作(9)
図7(E)のように、第2スイッチング素子2をオフする前または同時に第3スイッチング素子3をオフする。この時スナバコンデンサ7の両端は同電位であり、スナバコンデンサ7に電荷は蓄えられていない。A点の電圧は第1ダイオード8、第2ダイオード9により中間電位となる。これによりB点の電位も加熱コイル4を経由して電流が流れて中間電位となる。
【0037】
オフ時間を長くとる場合には、図8の動作(8)、(9)の期間を長く取ることにより可能である。また、オフ時間を短くする場合には、動作(8)の期間で共振電流により点Bの電圧が高くなる共振周波数のタイミングで第2スイッチング素子2、第3スイッチング素子3をオフすることにより点Bが中間電位となるまでの時間を短縮し、オフ期間を短くすることが可能となる。
【0038】
また、加熱パワーが必要な場合、図8の(7)の動作の後に(2)〜(7)の動作を繰り返してもよい。
【0039】
図9は第2実施形態に係るもので、両スイッチング素子1、2の接続点とスナバコンデンサ7との接続位置に電流検出器15を設けた回路構成図を示す。その他の構成は、第1実施形態と同様である。電流検出器15で電流を検出することにより、スナバコンデンサ7が充電され第1ダイオード8に電流が流れる、または、スナバコンデンサ7が放電され第2ダイオード9から電流が流れることを検出でき、両スイッチング素子1、2をオンするタイミングを得ることができる。これにより、より確実に両スイッチング素子1、2のオン時の損失を無くすことができる。制御回路30は、第2スイッチング素子2がオンとなり第2スイッチング素子2に電流が流れていることを検出したことに基づいて、第3スイッチング素子3をオンすることにより、スイッチング損失を確実に無くすことができる。
【0040】
図10は第3実施形態に係るもので、両スイッチング素子1、2の動作タイミングを、両スイッチング素子1、2の接続点の電圧を電圧検出器(B)17で、電源電圧を電圧検出器(A)16で測定することによって得る回路構成図を示したものである。その他の構成は、第1実施形態と同様である。電圧検出器(A)16と電圧検出器(B)17の電圧が等しい時に第1スイッチング素子1をオンすることにより、電圧検出器(B)17の電圧が0V時に第2スイッチング素子2をオンすることにより、スイッチング損失は無くなる。スイッチング素子3は電圧検出器(B)17の電圧が0V時にオン、オフすることによりスイッチング損失を防げる。
【0041】
図11は第4実施形態に係る回路構成図を示す。電源+極側の第1共振コンデンサ5に代えて充電回路18を設けて(または、電源−極側の第2共振コンデンサ6に代えて充電回路18を設けて)、充電回路18または各スイッチング素子1、2により第1、第2共振コンデンサ5、6を充電することにより、前記の低出力制御を実現することも可能である。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0042】
この低出力制御は、共振周波数の2.5倍から3倍程度の周波数以上の周波数帯でスナバコンデンサ7の充放電が不十分となりスイッチング損失が増加する領域において使用する。それ以下の周波数帯において加熱パワーをあげる場合には、両スイッチング素子1、2のオン時間を等しく長くして制御する。この際、両スイッチング素子1、2のどちらもオフとなるデッドタイムは一定とする。この2つの制御の切り替え時の動作を以下説明する。
【0043】
低出力制御から周波数制御の高出力制御に移行する場合、スナバコンデンサ7を充電する第2スイッチング素子2の最初のパルス(図8の(1)の期間)を出力後、第1スイッチング素子1のオンより高出力制御に移行する。高出力制御から低出力制御に移行する場合は、高出力制御の第1スイッチング素子1のオフ後、デッドタイムをおき低出力制御に移行する。
【0044】
上記各実施形態では、第2スイッチング素子2に対して、スナバコンデンサ7およびこれに直列に接続された第3スイッチング素子3が並列に接続されているが、第1スイッチング素子1に対して、スナバコンデンサ7およびこれに直列に接続された第3スイッチング素子3が並列に接続されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】従来の技術における回路構成図を示す。
【図2】(A)(B)は、従来の技術の中出力の加熱時におけるスイッチング素子のタイミングチャートを示す。
【図3】従来の技術における回路構成図を示す。
【図4】従来の技術における間欠動作のタイミングチャートを示す。
【図5】本発明の第1実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【図6】(A)〜(D)は、図5の電磁誘導加熱装置における各動作区間の電流の流れを示す動作原理図である。
【図7】(A)〜(E)は、図5の電磁誘導加熱装置における各動作区間の電流の流れを示す動作原理図である。
【図8】図5の電磁誘導加熱装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図9】第2実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【図10】第3実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【図11】第4実施形態に係る電磁誘導加熱装置を示す回路構成図である。
【符号の説明】
【0046】
1:第1スイッチング素子
2:第2スイッチング素子
3:第3スイッチング素子
4:加熱コイル
5:第1共振コンデンサ
6:第2共振コンデンサ
7:スナバコンデンサ
8:第1ダイオード
9:第2ダイオード
10:第3ダイオード
12:ドライブ回路
13:スナバ制御回路
15:電流検出部
16:電圧検出部A
17:電圧検出部B
18:充電回路
20:電源回路
25:インバータ回路
30:制御回路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電流を高周波電流に変換するインバータ回路と、制御回路とを備えた電磁誘導加熱装置において、
前記インバータ回路は、直列に接続された第1および第2スイッチング素子と、各スイッチング素子に並列に接続された第1および第2ダイオードと、直列に接続された第1および第2共振コンデンサと、これら両コンデンサの接続点と前記第1および第2スイッチング素子の接続点との間に接続された加熱コイルと、前記第1スイッチング素子または第2スイッチング素子に対して並列に接続された、スナバコンデンサおよびこれに直列に接続された第3スイッチング素子とを有し、
前記制御回路は、低出力の加熱時における所定時点に、前記第1、第2スイッチング素子から前記スナバコンデンサへの短絡電流を防止するように、前記第1、第2スイッチング素子のオンオフと連動して前記スナバコンデンサに直列に接続された前記第3スイッチング素子をオンオフ制御する電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御回路は、前記低出力の加熱時における、前記第1、第2スイッチング素子がともにオフとなるデッドタイムの開始時点および終了時点に、前記スナバコンデンサの両端電位が等しくなるように、前記デッドタイムの開始時点に第2スイッチング素子がオフする前または同時に前記第3スイッチング素子をオフ制御し、前記デッドタイムの終了時点に第2スイッチング素子がオンした後に前記第3スイッチング素子をオン制御する電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1および第2スイッチング素子の接続点と前記スナバコンデンサ間に電流検出部を設け、
前記制御回路は、前記電流検出部で検出された電流に基づいて前記第3スイッチング素子を制御する電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記制御回路は、高出力時はデューティ固定とし周波数を変えることにより加熱制御を行うものであり、低出力時においては、前記第1、第2スイッチング素子のオン時間を一定としてオフ時間の長さを変えることにより、または、前記第1、第2スイッチング素子のオフ時間を一定としてオン時間の長さを変えることにより加熱制御を行う電磁誘導加熱装置。
【請求項1】
直流電流を高周波電流に変換するインバータ回路と、制御回路とを備えた電磁誘導加熱装置において、
前記インバータ回路は、直列に接続された第1および第2スイッチング素子と、各スイッチング素子に並列に接続された第1および第2ダイオードと、直列に接続された第1および第2共振コンデンサと、これら両コンデンサの接続点と前記第1および第2スイッチング素子の接続点との間に接続された加熱コイルと、前記第1スイッチング素子または第2スイッチング素子に対して並列に接続された、スナバコンデンサおよびこれに直列に接続された第3スイッチング素子とを有し、
前記制御回路は、低出力の加熱時における所定時点に、前記第1、第2スイッチング素子から前記スナバコンデンサへの短絡電流を防止するように、前記第1、第2スイッチング素子のオンオフと連動して前記スナバコンデンサに直列に接続された前記第3スイッチング素子をオンオフ制御する電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御回路は、前記低出力の加熱時における、前記第1、第2スイッチング素子がともにオフとなるデッドタイムの開始時点および終了時点に、前記スナバコンデンサの両端電位が等しくなるように、前記デッドタイムの開始時点に第2スイッチング素子がオフする前または同時に前記第3スイッチング素子をオフ制御し、前記デッドタイムの終了時点に第2スイッチング素子がオンした後に前記第3スイッチング素子をオン制御する電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1および第2スイッチング素子の接続点と前記スナバコンデンサ間に電流検出部を設け、
前記制御回路は、前記電流検出部で検出された電流に基づいて前記第3スイッチング素子を制御する電磁誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記制御回路は、高出力時はデューティ固定とし周波数を変えることにより加熱制御を行うものであり、低出力時においては、前記第1、第2スイッチング素子のオン時間を一定としてオフ時間の長さを変えることにより、または、前記第1、第2スイッチング素子のオフ時間を一定としてオン時間の長さを変えることにより加熱制御を行う電磁誘導加熱装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−9795(P2010−9795A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165103(P2008−165103)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000217491)田淵電機株式会社 (67)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000217491)田淵電機株式会社 (67)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]