説明

電線シールド構造

【課題】簡単な構造で電磁的なシールドを施すことができるとともにコスト面で有利な電線シールド構造を提供する。
【解決手段】電線11と、可撓性のフラット回路体12と、を備え、電線11がその長さ方向をフラット回路体12の第1延在方向と平行にしてフラット回路体12に沿って配索された電線シールド構造10は、フラット回路体12が、第1延在方向に延設され且つ絶縁性材料により回路導体17が被覆された回路部27と、第1延在方向と交差する第2延在方向の回路部27の端部に第1延在方向にわたって一体に延設され且つ絶縁性材料によりシールド導体19が被覆された電磁シールド部13と、を有する。電磁シールド部13が電線11の長さ方向にわたって電線11の周囲に巻き付けられるとともに電磁シールド部13の第2延在方向の端部がフラット回路体12に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車内の制御回路と端末電装部品との間等を電気的に接続する電線シールド構造に関し、特に電線にシールド機能を持たせて電線とフラット回路体(FPC(Flexible Printed Circuit),FFC(Flexible Flat Cable)、リボン電線等の可撓性を有するフラット回路体)とを併設する電線シールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤハーネス固定構造の一例として、図7に示すように、フラット回路体101の幅方向に延出部102を形成し、この延出部102で光ファイバケーブル103を巻き込み、延出部102の端部をフラット回路体101のスリット104に差し込んだものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この構成によれば、フラット回路体101と光ファイバケーブルとを一体にして固定することができる。
【0003】
【特許文献1】特開2002−182041号公報(図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、用途に合わせた複数種の配索材を組み合わせてワイヤハーネスを構成することが多く、例えば、小電流回路用のフラット回路体と、大電流用の電線とを組み合わせて固定してワイヤハーネスを構成することがある。
【0005】
ところが、上記特許文献1に開示されたワイヤハーネス固定構造では、光ファイバケーブル103の代わりに大電流用の電線を用いた場合、電線に電磁的なシールドを施す必要がある。そして、電線に電磁的なシールドを施すためには、別途シールド構成を付加するか、あらかじめ電磁的にシールドされたシールド電線を用意する必要があり、構造が複雑になったり、コストが増加するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で電磁的なシールドを施すことができるとともにコスト面で有利な電線シールド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 電線と、可撓性のフラット回路体と、を備え、前記電線がその長さ方向を前記フラット回路体の第1延在方向と略平行にして前記フラット回路体に沿って配索された電線シールド構造であって、
前記フラット回路体が、
前記第1延在方向に延設され且つ絶縁性材料により回路導体が被覆された回路部と、
前記第1延在方向と交差する第2延在方向の前記回路部の端部に前記第1延在方向にわたって一体に延設され且つ前記絶縁性材料によりシールド導体が被覆された電磁シールド部と、
を有し、
前記電磁シールド部が前記電線の長さ方向にわたって前記電線の周囲に巻き付けられるとともに前記電磁シールド部の前記第2延在方向の端部が前記フラット回路体に固定されていることを特徴とする電線シールド構造。
【0008】
(2) 前記電磁シールド部が、
前記回路部側の基部に設けられた第1接続部と、
前記第2延在方向の端部である、前記電線の周囲に巻き付けられた際の折り返し端部に設けられた第2接続部と、
を有し、
前記第2接続部が前記第1接続部に接着剤により固着されることを特徴とする前記(1)記載の電線シールド構造。
【0009】
(3) 前記電磁シールド部が、
前記回路部側の基部に設けられた第1接続部と、
前記第2延在方向の端部である、前記電線の周囲に巻き付けられた際の折り返し端部に設けられた第2接続部と、
を有し、
前記第1接続部及び前記第2接続部がクランプ用孔を有し、該孔に挿着されたクランプにより前記第2接続部が前記第1接続部に固定されることを特徴とする前記(1)記載の電線シールド構造。
【0010】
(4) 前記第1接続部及び前記第2接続部の少なくとも一方において前記シールド導体が部分的に露出され、その露出された前記シールド導体の部分が、導電性を有する取付相手部材に導電性接着剤により固着され且つ電気的に接続されることを特徴とする請求項(2)又は(3)記載の電線シールド構造。
【0011】
(5) 前記クランプが導電性材料により形成され、前記シールド導体が前記第1接続部及び前記第2接続部の少なくとも一方のクランプ用孔の所で前記取付相手部材に前記クランプを介して電気的に接続されることを特徴とする前記(3)記載の電線シールド構造。
【0012】
前記(1)の構成によれば、フラット回路体の長さ方向である第1延在方向にわたって、第1延在方向と交差する第2延在方向の回路部の端部に一体に延設された電磁シールド部が、電線の長さ方向(第1延在方向)にわたって電線の周囲に巻き付けられるために、フラット回路体に一体に設けられている電磁シールド部を電線に巻き付けるだけの簡単な作業で電線の電磁的なシールドを行うことができる。これにより、簡単な構造で電磁的なシールドを施すことができるとともにコスト面で有利な電線シールド構造を得ることができる。
【0013】
前記(2)の構成によれば、電磁シールド部におけるフラット回路体の回路部側の基部の第1接続部に、電線の周囲に巻き付けられた際の折り返し端部の第2接続部が、接着剤により固定されるので、簡単な構成で電線をフラット回路体に固定することができる。
【0014】
前記(3)の構成によれば、第1接続部と第2接続部とがクランプ用孔を有し、これらの孔にクランプを挿着することにより第1接続部と第2接続部とが固定されるので、簡単な構成で電線をフラット回路体に固定することができる。
【0015】
前記(4)の構成の電線シールド構造によれば、第1接続部及び第2接続部の少なくとも一方における前記シールド導体が、導電性を有する取付相手側に導電性接着剤で電気的に接続されるので、半田付けや溶接等の大規模な設備を必要とせずに、簡単な作業で確実に接地させることができる。
【0016】
前記(5)の構成の電線シールド構造によれば、第1接続部及び第2接続部の少なくとも一方における前記シールド導体が、導電性を有する取付相手側に導電性クランプを介して電気的に接続されるので、半田付けや溶接等の大規模な設備を必要とせずに、簡単な作業で確実に接地させることができる。また、電線及びフラット回路体の取付相手部材への取り付けと、電磁シールド部の接地とを同時に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電線と、可撓性のフラット回路体と、を備え、前記電線がその長さ方向を前記フラット回路体の第1延在方向と略平行にして前記フラット回路体に沿って配索された電線シールド構造において、簡単な構造で電線に電磁的なシールドを施すことができるとともにコスト面で有利な電線シールド構造を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1〜図3は本発明に係る電線シールド構造の第1実施形態を示すもので、図1は本発明に係る第1実施形態の電線シールド構造の分解斜視図、図2は図1の電線シールド構造における組立て後の外観斜視図、図3は図2の電線シールド構造の縦断面図である。
【0020】
図1に示すように、本発明の第1実施形態である電線シールド構造10は、複数の電線11と、回路部27と電磁シールド部13を一体に有するフラット回路体12と、を有する。回路部27はフラット回路体12の長手方向である第1延在方向に延設されている。
【0021】
電線11は、例えば9本の複数であって、導体14の外側を被覆部15によりそれぞれ被覆されている。電線11は、それら自体は電磁シールドされていない。
【0022】
フラット回路体12の回路部27は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等の絶縁フィルムからなる外被16に、銅箔である回路導体17を貼り合わせてエッチング加工することで所定の回路を形成されている。形成された回路は絶縁フィルムからなる別の外被16により被覆される。
【0023】
電磁シールド部13は、フラット回路体12の第1延在方向と交差する第2延在方向の前記回路部27の端部に一体に延設されており、外被18内に回路部27と同様に導電性を有する単一の電磁シールド用導体19が内包されている。電磁シールド用導体19は、回路部27の回路導体17の長手方向(第1延在方向)に沿って設けられている。電磁シールド用導体19は、回路導体17と同じ銅箔からなり、フラット回路体12の回路形成時に、回路導体17と同時にエッチングにより形作られる。したがって、電磁シールド部の形成に際して特別な工程を付加せずに、容易に電磁シールド部を形成することができる。なお、電磁シールド用導体19は、回路導体17と同様の銅箔であるが、編組導体形状であってもよい。
【0024】
図2、図3に示すように、電線11は、電磁シールド部13上に載置されてから、電磁シールド部13が電線11の周囲に長手方向にわたって巻き付けられる。そして、電磁シールド部13の外被18において、フラット回路体12側の基部である一端部20と、電線11の周囲に巻き付けられた際の折り返し側の他端部21と、が接合部22で電線11の長手方向にわたって全域が固着されるか、又は適当な間隔で固着される。電磁シールド部13の一端部20と他端部21とは、例えば接着剤や熱溶着により固着することができる。
【0025】
さらに、電磁シールド部13の、第1接続部23の下側の外被18が部分的に切除されて第1接続部23が露出される。
【0026】
そして、露出された第1接続部23と、電磁シールド導体部13の下側に配置された導電性を有する車体パネル80と、の間に導電性接着剤25が充填されることで、第1接続部23と車体パネル80とが固着されるとともに電気的に接続される。また、フラット回路体12及び電磁シールド部13の、車体パネル側80の面の適当箇所に接着剤が塗布され、電線11を固定されたフラット回路体12が車体パネル80に固着される。
【0027】
このような電線11は、自動車内において、不図示の制御回路と、同じく不図示の端末電装部品との間に不図示のコネクタ等を介して電気的に接続され、フラット回路体12の回路導体17内に小電流の電気信号が流され、電線11内に小電流及び大電流の電気信号が流される。このとき、電線11は、電磁シールド部13の電磁シールド用導体19によって長手方向にわたって周囲が包囲されているために、例えば、電磁的なノイズ等の外乱が電線11内に入り込むことがなく、確実な信号伝送が行われる。
【0028】
以上説明したように、第1実施形態の電線シールド構造によれば、フラット回路体12が第2延在方向(幅方向)に一体に延出された電磁シールド部13を有するので、電磁シールド部13を電線11に巻き付けて電磁シールド部13の端部を固定するだけの簡単な作業で、電線11の電磁的なシールドを行って電線11をフラット回路体12に固定することができる。これにより、簡単な構造で電磁的なシールドを施すことができるとともにコスト面で有利な電線シールド構造を得ることができる。
【0029】
また、第1実施形態の電線シールド構造によれば、電磁シールド部13の電磁シールド用導体19において、フラット回路体12側の基部の第1接続部23が導電性接着剤により簡単に車体パネル80に電気的に接続されるので、半田付けや溶接等の大規模な設備を必要とせずに、電磁シールド用導体19を車体パネル80に簡単な構成で確実に接地させることができる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、図4〜図6を参照して、本発明に係る第2実施形態の電線シールド構造について説明する。図4〜図6は本発明に係る電線シールド構造の第2実施形態を示すもので、図4は本発明に係る第2実施形態である電線シールド構造の分解斜視図、図5は図4の電線シールド構造における組立て後の外観斜視図、図6は図5の電線シールド構造の縦断面図である。なお、以下の第2実施形態において、上述した第1実施形態と共通する構成部分の説明は同一符号又は相当符号を付すことで簡略化あるいは省略する。
【0031】
図4に示すように、本発明の第2実施形態である電線シールド構造30は、複数の電線11と、電磁シールド部13と回路部27を一体に有するフラット回路体12と、導電性材料により形成されたクランプ(図5参照)31と、を有する。
【0032】
電磁シールド部13には、第1接続部23を含む一端部20にクランプ用孔32が形成されており、同様に、第2接続部24を含む他端部にクランプ用孔33が形成されている。クランプ用孔32,33は、電磁シールド部13の長手方向(電線軸方向)に沿って複数設けられるのが好ましい。
【0033】
図5、図6に示すように、電線11が電磁シールド部13上に載置されてから、電磁シールド部13が電線11の周囲に長手方向にわたって巻き付けられ、電磁シールド部13の外被18における、フラット回路体12側の一端部20と、電線11の周囲に巻き付けられた際の折り返し側の他端部21と、が合わされる。このとき、外被18は、一端部20と他端部21とが合わされるだけであるが、必要に応じて接着されてもよい。
【0034】
そして、車体パネル80上に載置された電磁シールド部13において、導電性を有するクランプ31が、上方からクランプ用孔32,33を通じて、車体パネル80に形成されたクランプ用孔81に挿着される。これにより、第1接続部23と第2接続部24とが導電性を有するクランプ31を介して車体パネル80に電気的に接続され、同時に電線10及びフラット回路体12が車体パネル80に固定される。
【0035】
第2実施形態に係る電線シールド構造は、第1実施形態の電線シールド構造と同様の作用効果を奏するために、それらの説明は省略される。更に、本第2実施形態によれば、第1接続部23及び第2接続部24が、導電性を有するクランプ31により車体パネル80に電気的に接続されることで、半田付けや溶接等の大規模な設備を必要とせずに、接地回路を簡単に形成することができる。
【0036】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0037】
例えば、電磁シールド用導体19を車体パネル80に電気的に接続するには、上記構成に限らず、電磁シールド用導体19の一部と車体パネル80とを別の電線等の導電性部材により接続してもよい。
【0038】
また、車体パネル80に直接アースせずに、電線等で別途アース線を引き、このアース線に電磁シールド用導体19を電気的に接続してもよい。
【0039】
また、上記実施形態は、第1接続部側が車体パネル80に固定される構成であるが、第2接続部側が車体パネル80に固定される構成でもよい。
【0040】
また、電線の数は、図示した9本に限らず、通電回路の数に応じて、適当数が選ばれればよい。
【0041】
また、フラット回路体は、図示した単一層に代えて、複数の回路導体が階層状に積層されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る第1実施形態である電線シールド構造の分解斜視図である。
【図2】図1の電線シールド構造における組立て後の外観斜視図である。
【図3】図2の電線シールド構造の縦断面図である。
【図4】本発明に係る第2実施形態である電線シールド構造の分解斜視図である。
【図5】図4の電線シールド構造における組立て後の外観斜視図である。
【図6】図5の電線シールド構造の縦断面図である。
【図7】従来のワイヤハーネス固定構造の断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 電線シールド構造
11 電線
12 フラット回路体
13 電線シールド部
23 第1接続部
24 第2接続部
25 導電性接着剤
27 回路部
30 電線シールド構造
31 クランプ
80 車体パネル(取付相手部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線と、可撓性のフラット回路体と、を備え、前記電線がその長さ方向を前記フラット回路体の第1延在方向と略平行にして前記フラット回路体に沿って配索された電線シールド構造であって、
前記フラット回路体が、
前記第1延在方向に延設され且つ絶縁性材料により回路導体が被覆された回路部と、
前記第1延在方向と交差する第2延在方向の前記回路部の端部に前記第1延在方向にわたって一体に延設され且つ前記絶縁性材料によりシールド導体が被覆された電磁シールド部と、
を有し、
前記電磁シールド部が前記電線の長さ方向にわたって前記電線の周囲に巻き付けられるとともに前記電磁シールド部の前記第2延在方向の端部が前記フラット回路体に固定されていることを特徴とする電線シールド構造。
【請求項2】
前記電磁シールド部が、
前記回路部側の基部に設けられた第1接続部と、
前記第2延在方向の端部である、前記電線の周囲に巻き付けられた際の折り返し端部に設けられた第2接続部と、
を有し、
前記第2接続部が前記第1接続部に接着剤により固着されることを特徴とする請求項1記載の電線シールド構造。
【請求項3】
前記電磁シールド部が、
前記回路部側の基部に設けられた第1接続部と、
前記第2延在方向の端部である、前記電線の周囲に巻き付けられた際の折り返し端部に設けられた第2接続部と、
を有し、
前記第1接続部及び前記第2接続部がクランプ用孔を有し、該孔に挿着されたクランプにより前記第2接続部が前記第1接続部に固定されることを特徴とする請求項1記載の電線シールド構造。
【請求項4】
前記第1接続部及び前記第2接続部の少なくとも一方において前記シールド導体が部分的に露出され、その露出された前記シールド導体の部分が、導電性を有する取付相手部材に導電性接着剤により固着され且つ電気的に接続されることを特徴とする請求項2又は3記載の電線シールド構造。
【請求項5】
前記クランプが導電性材料により形成され、前記シールド導体が前記第1接続部及び前記第2接続部の少なくとも一方のクランプ用孔の所で前記取付相手部材に前記クランプを介して電気的に接続されることを特徴とする請求項3記載の電線シールド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−231487(P2009−231487A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74164(P2008−74164)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】