説明

電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管およびその製造方法

【課題】電縫溶接部の耐HIC性および低温靭性に優れた、引張強さ434MPa以上を有する電縫鋼管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】電縫溶接部に存在し、かつ円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、質量%で、20ppm以下する。C、Si、Mn、Al、あるいはさらに、Ca、Crを所定量含有する電縫鋼管とする。酸素含有量を(1000/foxy)ppm以下に調整した雰囲気中で電縫溶接を行うか、あるいは、鋼帯の端部に、管内表面または管外表面から肉厚方向に肉厚の10〜60%の位置まで、10×log(foxy)〜40×log(foxy)を満足する傾斜平均角からなるテーパ部を有する開先を付与するロール成形を行うか、あるいはこれらの両方を組み合わせて行うことにより、達成できる。なお、foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Caで定義される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油、ガス等の採掘、輸送用として好適な、引張強さTS:434MPa以上を有する電縫鋼管に係り、とくに電縫溶接部の耐水素誘起割れ性(以下、耐HIC性ともいう)、低温靭性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管は、石油、ガス等の採掘、輸送用として広く使用されている。しかし、電縫鋼管は、電縫溶接部を有するために、溶接部の信頼性という観点から、耐HIC性、低温靭性の要求が厳しくない用途に限定されていた。しかし、最近、資源の枯渇という問題から、腐食性の強い環境であったり、高深度や、寒冷地などの厳しい条件下の油田、ガス田の開発が進められている。このため、耐HIC性に優れ、さらには低温靭性にも優れる電縫鋼管が強く要望されている。
【0003】
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、耐サワー性の優れた電縫鋼管が提案されている。特許文献1に記載された技術では、Ca:0.0012%以上を含有し、Ca/Alが0.10以下であるAl脱酸鋼を素材とし、電縫衝合面を中心として両側100μm以内の部分に含まれる酸化物系介在物のうち、衝合面に直交しかつ管軸方向に直交する横断面でみた介在物の形状として、板厚方向に延伸し、長軸/短軸の比が2以上で、長軸10μm以上の介在物の密度を、1mm当たりの個数で5以下に調整するとしている。これにより、pHが低い厳しい環境下でも水素ふくれの発生を防止でき、耐サワー性に優れる鋼管となるとしている。
【0004】
また、特許文献2には、電縫溶接部の靭性を向上させることができる、電縫管のガスシール溶接方法が提案されている。特許文献2に記載された技術では、溶接前に、パイプ内面側の浮遊スケールをミストで洗浄除去するとともに、パイプ内面側シール装置を保持ロール以外は非接触として、溶接部の局所ガスシールを行うことを特徴としている。これにより、電縫溶接部の靭性が格段に向上するとしている。
【0005】
また、特許文献3には、高強度電縫ラインパイプが提案されている。特許文献3に記載された技術では、ホットコイルから、冷間でのロール成形、電縫溶接、シーム熱処理、サイザーの工程を経て製造された、肉厚/外径比が2%以下で、金属組織が平均結晶粒径5μm以下のアシキュラーフェライト組織で、電縫溶接衝合部の酸化物占有面積率が0.1%以下で、偏平後の周方向の引張強さが700N/mm以上である電縫鋼管をラインパイプに用いるとしている。これにより、電縫溶接衝合部が母材並みの健全性を確保できるとしている。
【0006】
また、特許文献4には、電縫溶接部の欠陥が少なく、クリープ破断強度および靭性に優れた電縫ボイラー用鋼管が提案されている。特許文献4に記載されたボイラー用鋼管は、C:0.01〜0.20%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.10〜2.0%、Cr:0.5〜3.5%を含有し、P:0.030%以下、S:0.010%以下、O:0.020%以下に制限し、(Si%)/(Mn%+Cr%)を0.005以上1.5以下とし、電縫溶接時に生成するSiO、MnO、CrOの3元系混合酸化物の面積率が0.1%以下であるボイラー用鋼管である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平07−24940号公報
【特許文献2】特公平08−25035号公報
【特許文献3】特開2008−223134号公報
【特許文献4】特許第4377869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、介在物の制御が不十分であり、(0.5%CHCOOH+人工海水(3%NaCl)+飽和HS)環境における耐HIC性には優れているといえるが、さらに苛酷な腐食環境である、NACE TM0284規定のSolutionA液(0.5%CHCOOH+5%NaCl+飽和HS)環境では、水素誘起割れ(HIC)の発生を回避できないという問題があった。また、低温靭性が不十分で、寒冷地における適用には問題を残していた。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術では、良好な溶接部靭性が得られるのは、高々−45.5℃程度の温度域までで、−50℃以下の低温となると、溶接部靭性が低下するという問題がある。また、特許文献3に記載された技術では、−20℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが100J未満と低い値しか示さず、−50℃におけるシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが120J以上という良好な低温靭性を確保できないという問題があった。
【0010】
また、特許文献4に記載された技術によっても、得られる電縫溶接部では、破面遷移温度が−50℃程度以上の低温靭性が得られるにすぎず、シャルピー衝撃試験の−50℃における吸収エネルギーが120J以上という良好な低温靭性を確保できないという問題があった。
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みて、電縫溶接部の耐HIC性および低温靭性に優れた、引張強さTS:434MPa以上を有する電縫鋼管を提供することを目的とする。
【0011】
なお、ここでいう「耐HIC性に優れた」とは、NACE TM0284規定のSolutionA液(0.5%CHCOOH+5%NaCl+飽和HS)環境に、96h浸漬した後に、割れ面積率(Crack Area Ratio、以下、CARともいう)が6%以下である場合をいう。また、「低温靭性に優れた」とは、JIS Z 2242の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を、試験温度:−50℃で行ったときの吸収エネルギーvE−50が120J以上である場合をいう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、電縫溶接部に存在する介在物に着目し、耐HIC性および低温靭性に及ぼす介在物の影響について鋭意検討した。その結果、電縫溶接部中の介在物の大きさと、その介在物中に含まれる合金元素、とくにSi、Mn、Al、さらにはCa、Crの含有量が、耐HIC性および低温靭性に大きな影響を及ぼすことを見出した。
そして、更なる検討の結果、電縫溶接部に存在する、円相当径で20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量を、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で20ppm以下に調整することにより、耐HIC性および低温靭性が顕著に向上することを見出した。ここでいう「円相当径で20μm以上の介在物」とは、電解抽出物(介在物)を穴径20μmのフィルターメッシュを用いて濾過して、得られた電解抽出物(介在物)をいうものとする。
【0013】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
Si、Mn、Al、あるいはさらにCa、Crを含む種々の鋼帯を素材として、該素材に、連続的にロール成形を施し、略円筒状のオープン管としたのち、該オープン管の端部同士を押圧し、雰囲気の酸素濃度を種々変化させて電縫溶接し、電縫鋼管とした。得られた電縫鋼管の電縫溶接部から、試験片長さ方向が管軸方向で、電縫溶接部のL断面が幅方向の中央となるようにHIC試験片(大きさ:10mm厚×20mm幅×100 mm長さ)を採取し、HIC試験を実施した。HIC試験は、試験片をNACE TM0284規定のSolutionA液(0.5%CHCOOH+5%NaCl+飽和HS)に、96h浸漬する試験とした。浸漬後、電縫溶接部のL断面を超音波探傷し、割れ部の面積率(CAR)を画像処理により求めた。
【0014】
また、得られた電縫鋼管から、JIS Z 2242の規定に準拠して、電縫溶接部を中心として管円周方向に、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片:管肉厚のサブサイズ試験片)を採取した。なお、ノッチは電縫溶接部中心とした。得られたシャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片)を用いて、衝撃試験を実施し、吸収エネルギーを求めた。試験温度は−50℃とし、各3本を試験し、その算術平均を、各電縫鋼管の電縫溶接部の靭性(吸収エネルギー)値とした。
【0015】
また、得られた電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として、電解抽出用板状試験片(大きさ:厚さ管肉厚×幅2mm×長さ20mm)を採取した。これら試験片を用いて、電解液を10%AA液として介在物を電解抽出した。得られた電解抽出物(介在物)を、穴径20μmのフィルターメッシュを用いて、濾過した。ついで、濾過された電解抽出物(円相当径20μm以上の介在物という)を、さらに、アルカリ融解し、ICP(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)分析を実施して、介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crを分析し地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、円相当径20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量を算出した。
【0016】
得られた結果を、−50℃での吸収エネルギーvE−50(J)、割れ面積率(CAR(%))と、円相当径20μm以下の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量(質量ppm)との関係で図1に示す。
図1から、円相当径20μm以下の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、20質量ppm以下であれば、vE−50が120J以上と優れた低温靭性を有し、しかも、NACE TM0284規定のSolutionA液(0.5%CHCOOH+5%NaCl+飽和HS)に、96h浸漬後の割れ面積率CARが6%以下を満足し、優れた耐HIC性をも兼備する電縫鋼管となることを知見した。
【0017】
また、本発明者らは、電縫溶接時の雰囲気中の酸素濃度を、体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整することにより、電縫溶接部に存在する、円相当径20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、20質量ppm以下となることを見出した。なお、foxyは、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyである。電縫溶接部に存在する、円相当径20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量と、(1000/foxy)/(電縫溶接雰囲気中の酸素濃度(ppm))との関係を図2に示す。
【0018】
図2から、(1000/foxy)/(電縫溶接雰囲気中の酸素濃度(ppm))を1.0以上とすることにより、すなわち、電縫溶接雰囲気中の酸素濃度(ppm)を(1000/foxy)以下にすることにより、電縫溶接部に存在する、円相当径20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、20質量ppm以下となることがわかる。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
【0019】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)電縫鋼管の電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、20ppm以下であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管。
(2)(1)において、前記電縫鋼管が、質量%で、C:0.03〜0.59%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.40〜2.10%、Al:0.01〜0.35%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する電縫鋼管であることを特徴とする電縫鋼管。
(3)(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(4)(2)または(3)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01〜1.09%を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(5)(2)ないし(4)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(6)(2)ないし(5)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする電縫鋼管。
(7)鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、前記電縫溶接が、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyに関連し、雰囲気中の酸素濃度が体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(8)鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、前記ロール成形が、前記鋼帯の端部で、該端部の管内側および/または管外側に、管内表面または管外表面から肉厚方向に肉厚の10〜60%の位置まで、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyに関連し、次(2)式
10×log(foxy) ≦ α ≦ 40×log(foxy) ‥‥(2)
を満足する傾斜平均角α(°)からなるテーパ部を有する開先を付与する成形であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(9)鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、前記ロール成形が、前記鋼帯の端部で、該端部の管内側および/または管外側に、管内表面または管外表面から肉厚方向に肉厚の10〜60%の位置まで、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyに関連し、次(2)式
10×log(foxy) ≦ α ≦ 40×log(foxy) ‥‥(2)
を満足する平均傾斜角α(°)からなるテーパ部を有する開先を付与する成形であり、
前記電縫溶接が、前記易酸化度foxyに関連し、雰囲気中の酸素濃度が体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。
(10)(7)ないし(9)のいずれかにおいて、前記電縫溶接後に、電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで空冷または水冷する冷却を施すことを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
(11)(10)において、前記加熱が、高周波誘導加熱により行う加熱であることを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
(12)(10)または(11)において、前記冷却のあとに、焼戻温度:650℃以下の焼戻処理を施すことを特徴とする電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、厳しい腐食環境下においても電縫溶接部の耐HIC性に優れ、さらに−50℃でのシャルピー衝撃試験の吸収エネルギーが120J以上という優れた低温靭性を保持する、引張強さTS:434MPa以上を有する電縫鋼管を容易に、製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】CARとvE-50に及ぼす、円相当径20μm以下の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量の影響を示すグラフである。
【図2】円相当径20μm以下の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量と、易酸化度、電縫溶接時の雰囲気酸素濃度との関係を示すグラフである。
【図3】好ましい開先形状の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明電縫鋼管の好ましい組成について説明する。以下、とくに断わらない限り質量%は単に%で記す。
C:0.03〜0.59%
Cは、鋼管の強度を増加させる元素であり、本発明では所望の強度(引張強さ434MPa以上)を確保するために0.03%以上含有することが好ましい。また、Cは、電縫溶接時に、融点の低下や、気相中のOとの反応によりCO形成を通じて、電縫溶接時の酸化物形成に影響を及ぼす元素である。Cを0.59%を超えて含有すると、融点の低下に伴い、電縫溶接部の溶鋼の凝固温度が低下し、溶鋼の粘度が上昇するため、酸化物が排出されにくくなる。このようなことから、Cは0.03〜0.59%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.04〜0.49%である。
【0023】
Si:0.10〜1.50%
Siは、固溶強化により、鋼管の強度を増加させる作用を有する元素である。また、Siは、電縫溶接部ではFeよりもOとの親和力が強く、Mn酸化物とともに粘度の高い共晶酸化物を形成する。Siが0.10%未満では、電縫溶接部における共晶酸化物中のMn濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。一方、1.50%を超える多量の含有は、電縫溶接部における共晶酸化物中のSi濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が多くなるとともに電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。このようなことから、Siは0.10〜1.50%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.15〜0.45%である。
【0024】
Mn:0.40〜2.10%
Mnは、固溶強化と変態強化により、鋼管の強度増加に寄与する元素である。また、Mnは、電縫溶接部ではFeよりもOとの親和力が強く、Si酸化物とともに粘度の高い共晶酸化物を形成する。Mnが、0.40%未満では、電縫溶接部における共晶酸化物中のSi濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として電縫溶接部に残存しやすく、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn等の合計が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。一方、2.10%を超えて多量に含有すると、電縫溶接部における共晶酸化物中のMn濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が多くなるとともに電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。このようなことから、Mnは0.40〜2.10%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.85〜1.65%である。
【0025】
Al:0.01〜0.35%
Alは、脱酸剤として作用する元素である。またAlは、AlNとして析出してオーステナイト粒の成長を抑制し、靭性の確保に寄与する。また、Alは、Si、MnよりもOとの親和力が強く、2MnO・SiO(Tephroite)などのMn-Si共晶酸化物に固溶する形で酸化物を形成する。Alが0.01%未満では、脱酸能が不足し、鋼の清浄度が低下し、電縫溶接部に存在する介在物(酸化物)が残存しやすくなり、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。一方、Alが0.35%を超えて多量に含有すると、共晶酸化物中のAl濃度が高くなり、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。このようなことから、Alは0.01〜0.35%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.03〜0.08%である。
【0026】
上記した成分が基本の成分であるが、これら基本の成分に加えて、さらに、Ca:0.0001〜0.0040%、および/または、Cr:0.01〜1.09%、および/または、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%のうちから選ばれた1種または2種以上、を必要に応じて選択して含有できる。
【0027】
Ca:0.0001〜0.0040%
Caは、鋼中の硫化物を球状に形態制御する作用を有し、鋼管の電縫溶接部近傍の耐水素脆性、靭性を向上させる。このような効果は0.0001%以上の含有で認められるが、0.0040%を超える多量の含有は、CaとOとの親和力が強いため、酸化物中のCa濃度が増加し、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり、酸化物としてその量が増加するとともに、電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。このようなことから、含有する場合は、Caは0.0001〜0.0040%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0002〜0.0035%である。
【0028】
Cr:0.01〜1.09%
Crは、Mnと同様に、固溶強化と変態強化により、鋼管の強度増加に寄与する元素である。また、Crは、電縫溶接部ではFeよりもOとの親和力が強く、酸化物を形成する。このような効果は、Crを0.01%以上の含有で認められる。一方、1.09%を超えて含有すると、酸化物中のCr濃度が増加し、酸化物の融点が溶鋼温度より高くなり酸化物として、その量が増加するとともに、電縫溶接部に残存しやすくなる。このため、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Cr等の合計量が20ppmを超えて高くなりやすく、電縫溶接部の靭性、耐HIC性が低下する。このようなことから、含有する場合は、Crは0.01〜1.09%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.02〜0.99%である。
【0029】
Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Mo、Ni、Bはいずれも、耐水素脆性の向上と、鋼管強度の増加を図るために含有する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Cu:0.01%以上、Mo:0.01%以上、Ni:0.01%以上、B:0.001%以上の含有で顕著となる。一方、Cu:0.35%、Mo:0.25%、Ni:0.20%、B:0.0030%を超えて含有しても、効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり、経済的に不利となる。このようなことから、含有する場合には、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、Cu:0.05〜0.29%、Mo:0.05〜0.21%、Ni:0.02〜0.16%、B:0.005〜0.0020%である。
【0030】
Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%のうちから選ばれた1種または2種以上
Nb、V、Tiは、いずれも、主として炭化物を形成し、析出強化により鋼管の強度を増加させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果は、Nb:0.001%、V:0.001%、Ti:0.001%、それぞれ以上の含有で顕著となるが、Nb:0.060%、V:0.060%、Ti:0.080%をそれぞれ超える含有は、未固溶の大型炭窒化物が電縫溶接部に残存し、電縫溶接部の靭性を低下させる。このため、含有する場合には、それぞれ、Nb:0.001〜0.060%、V:0.001〜0.060%、Ti:0.001〜0.080%の範囲にそれぞれ限定することが好ましい。なお、より好ましくはNb:0.005〜0.050%、V:0.005〜0.050%、Ti:0.005〜0.040%である。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、P:0.020%以下、S:0.005%以下、N:0.005%以下、O:0.003%以下が許容させる。
【0031】
さらに本発明電縫鋼管は、上記した組成を有し、引張強さTS:434MPa以上を有し、かつ、電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、20ppm以下である、電縫溶接部を有する。
本発明電縫鋼管の電縫溶接部では、該電縫溶接部に存在する、円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、20ppm以下とする。円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、20ppmを超えて多くなると、電縫溶接部の耐HIC性および低温靭性が低下する。
【0032】
なお、電縫溶接部に存在する、円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量は、次のようにして得られた値を用いるものとする。当該電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として、幅2mmの電解抽出用板状試験片を採取し、電解液を10%AA液として介在物を電解抽出し、得られた電解抽出物(介在物)を、穴径20μmのフィルターメッシュを用いて、濾過し、ついで、濾過された電解抽出物(円相当径20μm以上の介在物)を、さらに、アルカリ融解し、ICP分析を実施して、介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crを分析し、円相当径20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量とした。なお、電縫鋼管に含まれない元素は零として扱うものとする。
【0033】
次に、上記したような介在物を調整された電縫溶接部を有する電縫鋼管の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成を有する鋼素材(スラブ)を加熱し、熱間圧延して所定の厚さの鋼帯(熱延鋼帯)とする。熱間圧延条件はとくに限定するものではないが、引張強さTSが434MPa以上を確保できる条件とすることが望ましい。得られた鋼帯を所定の幅にスリティングしたのち、本発明では、該鋼帯に、通常公知の造管方法で、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施し、電縫鋼管を得る。
【0034】
なお、造管における成形工程では、ケージロール方式によるロール成形とすることが好ましいが、ブレークダウン方式による成形でもよい。ケージロール方式によるロール成形では、ケージロールと呼ばれる小型ロールを、管外面となる側に並べて、滑らかに成形する方式のロール成形をいう。なお、ケージロール方式によるロール成形のなかでも、CBR方式のロール成形とすることが好ましい。この方式による成形では、成形時に帯板(鋼帯)に付加される歪を最小限に抑えることができ、加工硬化による材料特性の劣化を抑制できる。
【0035】
CBR方式のロール成形は、鋼帯の両エッジ部をエッジベンドロールにより予め成形したのち、センターベンドロールとケージロールとにより、鋼帯中央部を曲げ成形し、縦長の小判形の素管をつくり、ついで、フィンパスロールにより、管円周方向の4箇所を一旦オーバーベンドしたのち、縮径圧延することにより、管サイド部の張出し成形とオーバーベンド部の曲げ戻し成形を行い円形素管とする成形方法である。(川崎製鉄技報、vol.32(2000)、pp49〜53参照)
本発明では、鋼帯を連続したロール成形で略円筒形状のオープン管とする成形工程で、鋼帯端部に所定形状の開先を付与することが好ましい。開先は、ロール成形時に、フィンパスロールを用いた成形で鋼帯の幅端部に付与することが好ましい。付与する開先の形状は、(1)式で定義される易酸化度foxyに関連した、図3に一例を示す形状とすることが好ましい。
【0036】
すなわち、端部の管内側および/または管外側に、管内表面または管外表面から肉厚方向に肉厚の10〜60%の位置まで、易酸化度foxyに関連し、次(2)式
10×log(foxy) ≦ α ≦ 40×log(foxy) ‥‥(2)
を満足する平均傾斜角α(°)からなるテーパ部を有する開先とする。(2)式の範囲の平均傾斜角αを有するテーパー部を形成することにより、鋼帯の端部の過加熱が抑制され、形成された介在物(酸化物)がアップセットに伴い、鋼帯上下方向に排出される。このため、電縫溶接部に存在する円相当径で20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al等の合計量が20ppm以下となる。なお、平均傾斜角αが(2)式を外れるテーパ部では、酸化物の排出促進効果が薄れる。なお、テーパ部は、直線に限定されず、任意の曲線としてもよい。
【0037】
また、本発明では、電縫溶接は、次(1)式
foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
(ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%))
で定義される易酸化度foxyに関連し、酸素濃度が体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う。電縫溶接の雰囲気中の酸素濃度を低減する方法は、とくに限定されないが、例えば、電縫溶接部を箱型構造でシーリングし、非酸化性ガスを供給する方法が考えれる。なお、非酸化性ガスの供給を、3層などの多層構造のノズルで行い、ガスが層粒となるようにすることが、雰囲気酸素分圧を低く保つために、重要となる。酸素濃度の測定は、酸素濃度計を用いて、電縫溶接部近傍で行うことが好ましい。電縫溶接時の雰囲気中の酸素濃度が、体積%で(1000/foxy) ppmを超えて高くなると、電縫溶接部に存在する、円相当径20μm以下の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量が、20質量ppmを超えて多くなり、耐HIC性、および低温靭性が低下する。このため、電縫溶接時の雰囲気酸素濃度を、体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整することが好ましい。
【0038】
また、本発明では、電縫溶接後に、電縫溶接部に焼鈍処理(シームアニール)を施すことが好ましい。焼鈍処理(シームアニール)としては、電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで空冷または水冷する冷却を施す処理とすることが好ましい。これにより、電縫溶接部の強度が低下し、靭性が顕著に向上する。なお、上記した加熱−冷却に加えてさらに、電縫溶接部の靭性確保の観点から、650℃以下の温度に焼戻す処理を施してもよい。
【0039】
以下、実施例に基づいてさらに本発明を説明する。
【実施例】
【0040】
表1に示す組成の鋼素材(スラブ:肉厚250mm)に、1260℃に加熱し、90min均熱したのち、粗圧延を施し、仕上圧延終了温度:850℃で、巻取温度:580℃とする仕上圧延を施し、熱延鋼帯(板厚12mm)を得た。
これら熱延鋼帯を所定の幅にスリッティングし、表2に示す条件で連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら、表2に示す条件で電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施し、電縫鋼管(外径:304.8mmφ)とした。
【0041】
なお、ロール成形では、フィンパスロールを用いて、表2に示す平均傾斜角α°のテーパ部を外表面側、および内表面側に形成した。なお、テーパ部の形成位置は、外表面および内表面からそれぞれ全厚に対する割合で30〜35%とした。なお、一部の電縫鋼管では、テーパ部を形成しないままとした。
なお、電縫溶接工程では、Nガスをノズル数3のノズルを用いて吹きつけ、雰囲気酸素濃度を30〜65ppmまで低減する、電縫溶接時の雰囲気調整を行った。なお、一部の電縫鋼管では大気中雰囲気のままとした。
【0042】
なお、電縫溶接工程後に、一部の電縫鋼管には、表2に示すような、電縫溶接部の焼鈍処理(シームアニール)あるいはさらに焼戻処理を施した。
得られた電縫鋼管について、まず電縫溶接部に含まれる円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量を測定した。また、得られた電縫鋼管から、引張試験片を採取し、引張試験を実施して、降状強さYS、引張強さTSを求めた。また、得られた電縫鋼管から、試験片を採取して、耐HIC性を評価した。 また、得られた電縫鋼管から、試験片を採取して、低温靭性を調査した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)電縫溶接部に含まれる円相当径20μm以上の介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量の測定
得られた電縫鋼管から、電縫溶接部を中心として、幅2mmの電解抽出用板状試験片を採取した。これら板状試験片を、10%AA液中で電解処理し、介在物を電解抽出した。得られた電解抽出物(介在物)を、穴径20μmのフィルターメッシュを用いて、濾過し、ついで、濾過された電解抽出物(円相当径20μm以上の介在物)を、さらに、アルカリ融解し、ICP分析を実施して、介在物中に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crを分析し、それら元素の合計量を、円相当径20μm以上の介在物中のSi、Mn、Al、Ca、Crの合計含有量とした。なお、電縫鋼管に含まれない元素は零として扱うものとする。
(2)引張試験
得られた電縫鋼管から、管軸方向が引張方向となるように、JIS Z 2201の規定に準拠したJIS 12 C号、弧状引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
(3)シャルピー衝撃試験
得られた電縫鋼管から、JIS Z 2242の規定に準拠して、電縫溶接部を中心として管円周方向に、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片:管肉厚のサブサイズ試験片)を採取した。なお、ノッチは電縫溶接部中心とした。得られたシャルピー衝撃試験片(Vノッチ試験片)を用いて、衝撃試験を実施し、吸収エネルギーを求めた。試験温度は−50℃とし、各3本を試験し、その算術平均を、各電縫鋼管の電縫溶接部の靭性(吸収エネルギー)値とした。
(4)耐HIC性試験
得られた電縫鋼管の電縫溶接部から、試験片長さ方向が管軸方向で、電縫溶接部のL断面が、幅方向の中央となるようにHIC試験片(大きさ:10mm厚×20mm幅×100mm長さ)を採取し、HIC試験を実施した。HIC試験は、試験片をNACE TM0284規定のSolutionA液(0.5%CHCOOH+5%NaCl+飽和HS)に、96h浸漬する試験とした。浸漬後、電縫溶接部のL断面を超音波探傷し、割れ部の面積率(CAR)を画像処理により求めた。
【0043】
得られた結果を、表3に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
本発明例はいずれも、電縫溶接部に存在する円相当径20μm以上の介在物に含まれるSi、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、20ppm以下となり、引張強さTSが434MPa以上を有し、かつNACE TM0284規定のSolutionA液(0.5%CHCOOH+5%NaCl+飽和HS)に、96h浸漬したのちの、割れ部の面積率CARが6%以下と優れた耐HIC性を有し、さらに電縫溶接部の−50℃における吸収エネルギーvE−50が120J以上と優れた低温靭性を有する、電縫鋼管となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、引張強さTSが434MPa未満であるか、耐HIC性が低下しているか、あるいは低温靭性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電縫鋼管の電縫溶接部に存在する介在物のうち、円相当径で20μm以上の介在物に含まれる、Si、Mn、Al、Ca、Crの合計量が、地鉄を含む電縫溶接部全量に対する質量%で、20ppm以下であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管。
【請求項2】
前記電縫鋼管が、質量%で、C:0.03〜0.59%、Si:0.10〜1.50%、Mn:0.40〜2.10%、Al:0.01〜0.35%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する電縫鋼管であることを特徴とする請求項1に記載の電縫鋼管。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.0001〜0.0040%を含有することを特徴とする請求項2に記載の電縫鋼管。
【請求項4】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.01〜1.09%を含有することを特徴とする請求項2または3に記載の電縫鋼管。
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.01〜0.35%、Mo:0.01〜0.25%、Ni:0.01〜0.20%、B:0.001〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の電縫鋼管。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb:0.001〜0.06%、V:0.001〜0.06%、Ti:0.001〜0.08%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の電縫鋼管。
【請求項7】
鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、
前記電縫溶接が、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、雰囲気中の酸素濃度が体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。

foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%)
【請求項8】
鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、
前記ロール成形が、前記鋼帯の端部で、該端部の管内側および/または管外側に、管内表面または管外表面から肉厚方向に肉厚の10〜60%の位置まで、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、下記(2)式を満足する傾斜平均角α(°)からなるテーパ部を有する開先を付与する成形であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。

foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
10×log(foxy) ≦ α ≦ 40×log(foxy) ‥‥(2)
ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%)
【請求項9】
鋼帯に、連続してロール成形を施し略円筒形状のオープン管とする成形工程と、該オープン管の端部同士をスクイズロールで押圧しながら電縫溶接する電縫溶接工程と、を順次施す電縫鋼管の製造方法において、
前記ロール成形が、前記鋼帯の端部で、該端部の管内側および/または管外側に、管内表面または管外表面から肉厚方向に肉厚の10〜60%の位置まで、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、下記(2)式を満足する平均傾斜角α(°)からなるテーパ部を有する開先を付与する成形であり、
前記電縫溶接が、下記(1)式で定義される易酸化度foxyに関連し、雰囲気中の酸素濃度が体積%で(1000/foxy) ppm以下に調整した雰囲気中で行う電縫溶接であることを特徴とする、引張強さTS:434MPa以上を有し、電縫溶接部の耐HIC性と低温靭性に優れた電縫鋼管の製造方法。

foxy=Mn+10(Si+Cr)+100Al+1000Ca‥‥(1)
10×log(foxy) ≦ α ≦ 40×log(foxy) ‥‥(2)
ここで、Mn、Si、Cr、Al、Ca:素材である鋼帯中の各元素の含有量(質量%)
【請求項10】
前記電縫溶接後に、電縫溶接部の肉厚方向平均温度で、720〜1020℃の範囲の温度に加熱したのち、500℃以下の温度域まで空冷または水冷する冷却を施すことを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の電縫鋼管の製造方法。
【請求項11】
前記加熱が、高周波誘導加熱により行う加熱であることを特徴とする請求項10に記載の電縫鋼管の製造方法。
【請求項12】
記冷却のあとに、焼戻温度:650℃以下の焼戻処理を施すことを特徴とする請求項10または11に記載の電縫鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246548(P2012−246548A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120591(P2011−120591)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】