説明

静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及び静電アクチュエータの製造方法並びに液滴吐出装置

【課題】簡単な構成で駆動耐久性及び信頼性の向上を図ることが可能な静電アクチュエータ等を提供する。
【解決手段】電極基板3上に形成された個別電極5と、この個別電極5に所定のギャップを介して対向配置された振動板6とを備え、前記個別電極5と前記振動板6との間に静電気力を発生させて振動板6に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、前記個別電極5を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電駆動方式のインクジェットヘッド等に用いられる静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及び静電アクチュエータの製造方法並びに液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載される静電駆動方式のインクジェットヘッドが知られている。静電駆動方式のインクジェットヘッドは、一般に、ガラス基板上に形成された個別電極(固定電極)と、この個別電極に所定のギャップを介して対向配置されたシリコン製の振動板(可動電極)とから構成される静電アクチュエータ部を備えている。そして、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、上記静電アクチュエータ部に静電気力を発生させることにより吐出室に圧力を加えて、選択されたノズル孔よりインク滴を吐出するようになっている。
【0003】
この種の静電アクチュエータにおいては、アクチュエータの駆動の安定性や駆動耐久性の向上が要求されている。この要求に応える技術として、従来より、アクチュエータの振動板と個別電極とが対向する少なくとも一方の対向面に、ダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと称する)を表面層として形成したものがあった(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、対向する接触面を硬質で摩擦係数の小さい材料であるDLCで構成することにより、接触による破壊や摩耗を防止し、信頼性の向上を図るとともに、長寿命化を可能としていた。
【0004】
【特許文献1】特開2007−136856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1では、振動板や個別電極の対向面にDLCを用いることで、駆動耐久性の向上や長寿命化を可能としているが、更に効率的に長寿命化を図るためには、更に簡便な構成にて、振動板の駆動の安定化を図り、且つ耐久性を向上することが必要となる。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、簡単な構成で駆動耐久性及び信頼性の向上を図ることが可能な静電アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及び静電アクチュエータの製造方法並びに液滴吐出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る静電アクチュエータは、基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、固定電極を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成したものである。
このように、固定電極を、硬質で摩擦係数の小さい材料である導電性アモルファス炭素系薄膜で構成したので、可動電極の当接・離脱の繰り返しによる駆動の耐久性を向上させて持続性に優れた高信頼の静電アクチュエータを実現できる。また、固定電極自体をアモルファス炭素系薄膜で構成したので、従来、駆動耐久性向上を目的として固定電極に更にアモルファス炭素系薄膜を形成していた構成に比べて簡便な構成とすることができる。
【0008】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、固定電極が、可動電極と対向する対向部と、それ以外の配線部とから構成され、対向部が導電性アモルファス炭素系薄膜で構成され、配線部が導電性アモルファス炭素系薄膜よりも導電性の高い膜で構成されているものである。
このように、固定電極のうち、特に可動電極と対向する対向部を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成し、配線部については導電性アモルファス炭素系薄膜よりも導電性の高い低抵抗の膜で構成することにより、固定電極全体を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成する場合に比べて、抵抗を低くすることができる。よって、固定電極全体を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成する場合と同じ応答性を本構成で確保しようとした場合、配線部が低抵抗である分だけ、固定電極の対向部が高抵抗であっても許容できることになる。具体的には、対向部を構成する導電性アモルファス炭素系薄膜の膜厚を薄くしても、同じ機能と性能(導電性と応答性)を確保することができる。従って、成膜負荷を軽減することが可能となり、製造工程の簡略化及び低コスト化に寄与することが可能である。
【0009】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、固定電極が、可動電極と対向する対向部と、それ以外の配線部とから構成され、固定電極の対向部が、アクチュエータ駆動時に可動電極と当接する当接部と、配線部と一体的に形成され、当接部の周囲を囲む周状配線部とから構成されており、当接部が導電性アモルファス炭素系薄膜で構成され、それ以外の部分が導電性アモルファス炭素系薄膜よりも導電性の高い膜で構成されているものである。
この構成によれば、上記の固定電極の対向部を導電性アモルファス炭素系薄膜で形成した場合に比べて、更に固定電極全体としての抵抗を下げることができる。よって、更に、導電性アモルファス炭素系薄膜の膜厚を薄くすることが可能となり、成膜負荷を更に軽減することが可能となる。従って、製造工程のより一層の簡略化及び低コスト化に寄与することが可能である。
【0010】
また、導電性アモルファス炭素系薄膜としては、アモルファスカーボン膜を用いることができる。
【0011】
また、本発明に係る静電アクチュエータは、可動電極の固定電極との対向面に絶縁膜を設け、絶縁膜の表面に絶縁性アモルファス炭素系薄膜を設けたものである。
この構成によれば、駆動時に接触する可動電極表面と固定電極表面の表面同士が両方とも、硬質で低摩擦係数なアモルファス炭素系薄膜で構成されることになるため、当接(接触)時の真実接触面積が小さくなり、かつ同種材料であるために接触帯電が殆ど無く、接触の繰り返しによる駆動の繰り返しでの帯電が抑制されて残留電荷が少なく、より安定した駆動が可能となる。
【0012】
また、絶縁性アモルファス炭素系薄膜としては、アモルファス水素化カーボン又はテトラヘデラル アモルファスカーボン膜を用いることができる。
【0013】
また、本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータの製造方法において、凹部が形成されたガラス基板の表面に、導電性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程と、導電性アモルファス炭素系薄膜のうち、不要な部分をエッチング除去して凹部内に固定電極を形成する工程と、シリコン基板に絶縁膜を形成する工程と、ガラス基板の固定電極形成面とシリコン基板の絶縁膜形成面とを陽極接合する工程と、シリコン基板を接合面と反対の表面からエッチング加工して可動電極を形成する工程とを有するものである。
これにより、可動電極の当接・離脱の繰り返しによる駆動の耐久性を向上させて持続性に優れた高信頼のアクチュエータを製造することができる。また、固定電極自体がアモルファス炭素系薄膜で構成されるので、従来、駆動耐久性向上を目的として固定電極に更にアモルファス炭素系薄膜を形成するようにしていた構成に比べて、製造工程を単純化することができる。
【0014】
また、本発明に係る静電アクチュエータの製造方法は、基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、固定電極と可動電極との間に静電気力を発生させて可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータの製造方法において、凹部が形成されたガラス基板の表面に、導電性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程と、導電性アモルファス炭素系薄膜のうち、不要な部分をエッチング除去して凹部内に固定電極を形成する工程と、シリコン基板に絶縁膜を形成する工程と、絶縁膜の表面に絶縁性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程と、絶縁性アモルファス炭素系薄膜のうち、アクチュエータ駆動時に固定電極と当接する部分以外をエッチング除去する工程と、ガラス基板の固定電極形成面とシリコン基板の絶縁膜形成面とを陽極接合する工程と、シリコン基板を接合面と反対の表面からエッチング加工して可動電極を形成する工程とを有するものである。
この製造方法によれば、駆動時に接触する可動電極表面と固定電極表面の表面同士が両方とも、硬質で低摩擦係数なアモルファス炭素系薄膜で構成されることになるため、当接(接触)時の真実接触面積が小さくなり、かつ同種材料であるために接触帯電が殆ど無く、接触の繰り返しによる駆動の繰り返しでの帯電が抑制されて残留電荷が少なく、より安定した駆動が可能な静電アクチュエータを製造することができる。
【0015】
また、導電性アモルファス炭素系薄膜は、ECRスパッタによりグラファイトをターゲットとして形成することができる。
【0016】
また、絶縁性アモルファス炭素系薄膜は、トルエンを気化してRF−CVDにより形成することができる。
【0017】
また、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、液滴を吐出する単一又は複数のノズル孔を有するノズル基板と、ノズル基板との間で、ノズル孔のそれぞれに連通する吐出室となる凹部が形成されたキャビティ基板と、吐出室の底部にて構成される可動電極の振動板に所定のギャップを介して対向配置される固定電極の個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、上記の何れかの静電アクチュエータを備えたものである。
本発明の液滴吐出ヘッドは、上述のように駆動耐久性が高く持続性に優れた高信頼の静電アクチュエータを備えているので、液滴吐出の安定性や持続性に優れた液滴吐出ヘッドが得られる。
【0018】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを備えたものである。
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを備えたものであるので、液滴吐出の安定性や持続性に優れた液滴吐出装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を適用した静電アクチュエータを備える液滴吐出ヘッドの実施の形態を図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、ノズル基板の表面に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するフェイス吐出型の静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1から図5を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、吐出室とリザーバ部が別々の基板に設けられた4枚の基板を積層した4層構造のものや、基板の端部に設けられたノズル孔からインク滴を吐出するエッジ吐出型の液滴吐出ヘッドにも同様に適用することができるものである。
【0020】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図であり、一部を断面で表してある。図2は組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図、図3は図2のA部の拡大断面図、図4は図2のa−a拡大断面図、図5は図2のインクジェットヘッドの上面図である。なお、図1および図2では、通常使用される状態とは上下逆に示されている。
【0021】
本実施の形態のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)10は、図1および図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2に設けられた振動板6に対峙して個別電極5が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0022】
インクジェットヘッド10のノズル孔11ごとに設けられる静電アクチュエータ部4は、図2から図4に示すように、固定電極として、ガラス製の電極基板3の凹部32内に形成された個別電極5と、可動電極として、シリコン製のキャビティ基板2の吐出室21の底壁で構成され、個別電極5に所定のギャップGを介して対向配置される振動板6とを備えている。個別電極5は、リード部5aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部5aとから構成された配線部5cを有している。そして、各々の振動板6の個別電極5との対向面、すなわち電極基板3に接合されるキャビティ基板2の接合面全面には絶縁膜7が形成されている。
【0023】
絶縁膜7として、ここではシリコン酸化膜(SiO2)を用いているが、これに限られたものではなく、以下の材料を用いても良い。例えば、酸化シリコンの比誘電率(3.2)より大きな比誘電率を有する、酸化アルミニウム、酸窒化シリコン、酸化タンタル、窒化ハフニウムシリケート、又は酸窒化ハフニウムシリケートのいずれかを用いると、酸化シリコンより厚くして同等の静電吸引圧力を確保した上でより高い耐絶縁性を確保できる。換言すれば、酸化膜換算厚み(EOT)を薄くして必要な耐絶縁性を確保できる。
【0024】
ところで、従来より、駆動耐久性を向上させるために、個別電極5上にアモルファス炭素系薄膜(DLC:ダイヤモンドライクカーボン)を設ける構成が提案されているが、本例では、個別電極そのものを、導電性を有するアモルファス炭素系薄膜(以下、導電性アモルファス炭素系薄膜という)により形成するようにしており、ここに一つの特徴がある。個別電極5として用いる導電性アモルファス炭素系薄膜として、具体的にはアモルファスカーボン膜(a-C)により形成するようにしている。また、本例で用いる導電性アモルファス炭素系薄膜は、抵抗率を、ここでは例えば5×10-2 Ω・cmと低く構成しており、抵抗率を低くすることで、導電性を有し電極として機能させるようにしている。アモルファス炭素系薄膜は、静電アクチュエータの当接・吸着保持・離脱の繰り返しによる破壊、すなわち摩耗に対して高い持続性を有していることから、個別電極5自体をアモルファス炭素系薄膜を用いて構成することにより、構成が単純でありながら、駆動耐久性を向上させて持続性に優れた信頼性が高く、長寿命の静電アクチュエータを構成することが可能となる。
【0025】
ここで、アモルファス炭素系薄膜は、構成比sp2/sp3により分類され、sp3の組成が多い場合はダイヤモンドに近い性質を示し、より硬く、高い抵抗率を示して絶縁性となる一方、sp2の組成が多い場合はグラファイトに近い性質を示し、比較的低応力で、抵抗率を低く抑えることが可能となる。したがって、アモルファス炭素系薄膜を導電性とするためには、sp2とsp3の構成比sp2/sp3が1以上となるよう膜中の水素量を低減するようにすればよい。本例では、sp2リッチな膜(低抵抗)としてアモルファスカーボン(a−C)膜を用いる。アモルファス炭素系薄膜の構成比sp2/sp3は、ラマン散乱分光等による評価法での比により確認される。すなわち、ラマンシフトに対する強度で、sp2クラスターをdバンドのピークで、sp3クラスターをdバンドのショルダーで捉えて、それらの比を確認する。具体的な製造方法については、後記の実施の形態4で説明する。
【0026】
なお、膜厚については、導電性アモルファス炭素系薄膜を200nm、シリコン酸化膜を120nm、ギャップGの距離を200nmとしている。
【0027】
ここで、導電性アモルファス炭素系薄膜の抵抗率ρを本例では5×10-2 Ω・cmとしているが、この点に関し、以下に説明する。
静電アクチュエータの個別電極の電極厚みt、長さl、幅bとすると、個別電極の抵抗Rは次の(1)式となる。
【0028】
R=ρ・l/(b・t) ・・・(1)
【0029】
静電アクチュエータの時定数は、静電アクチュエータの容量をCとすると、τ=CRであるから、これを(1)式に代入すると、次の(2)式となる。
【0030】
τ=ρ・C・l/(b・t) ・・・(2)
【0031】
静電アクチュエータとして、インクジェットヘッド等のデバイスの応答性を確保し、アクチュエータへの充電と放電を速やかに行うためには、静電アクチュエータの時定数τには上限があり、これをτmaxとすると、次の(3)式が成り立つ。
【0032】
CR≦τmax ・・・(3)
【0033】
上記(3)式に、(1)式を代入すると、次の(4)式となる。
【0034】
ρ≦τmax・b・t/(l・C) ・・・(4)
【0035】
(4)式より、個別電極5を構成する導電性アモルファス炭素系薄膜の抵抗率には上限があること、そして、その抵抗率は低いものである必要があることが分かる。そして、本例では、電極厚みt=20、長さl=1mm、幅b=30μm、容量C=10pF、時定数τ≦0.1secとしており、これによりρ≦6.0×10-2 Ω・cmと算出される。そして、本例では、6.0×10-2 Ω・cm以下のうち、5.0×10-2 Ω・cmの導電性アモルファス炭素系薄膜で個別電極5を構成している。
【0036】
以下、各基板の構成についてさらに詳細に説明する。
ノズル基板1は、例えばシリコン基板から作製されている。インク滴を吐出するためのノズル孔11は、例えば径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち径の小さい噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。噴射口部分11aおよび導入口部分11bは基板面に対して垂直にかつ同軸上に設けられており、噴射口部分11aは先端がノズル基板1の表面に開口し、導入口部分11bはノズル基板1の裏面(キャビティ基板2と接合される接合側の面)に開口している。
また、ノズル基板1には、キャビティ基板2の吐出室21とリザーバ23とを連通するオリフィス12とリザーバ23部の圧力変動を補償するためのダイヤフラム部13が形成されている。
【0037】
ノズル孔11を噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから2段に構成することにより、インク滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、またインク滴の飛び散りがなく、インク滴の吐出量のばらつきを抑制することができる。また、ノズル密度を高密度化することが可能である。
【0038】
キャビティ基板2は、例えば面方位が(110)のシリコン基板から作製されている。キャビティ基板2には、インク流路に設けられる吐出室21となる凹部22、およびリザーバ23となる凹部24がエッチングにより形成されている。凹部22は前記ノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、図2に示すようにノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部22は吐出室21を構成し、それぞれノズル孔11に連通しており、またインク供給口である前記オリフィス12ともそれぞれ連通している。そして、吐出室21(凹部22)の底部が上記振動板6となっている。また、この振動板6は、シリコン基板の表面からボロン(B)を拡散させてボロン拡散層を形成し、ウェットエッチングによりエッチングストップしてそのボロン拡散層の厚さで薄く仕上げられている。また、キャビティ基板2の振動板6の個別電極5との対向面には前述のように絶縁膜7が形成されている。
【0039】
凹部22は、インク等の液状材料を貯留するためのものであり、各吐出室21に共通のリザーバ(共通インク室)23を構成する。そして、リザーバ23(凹部24)はそれぞれオリフィス12を介して全ての吐出室21に連通している。また、リザーバ23の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられ、この孔のインク供給孔33を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0040】
電極基板3は、例えばガラス基板から作製される。中でも、キャビティ基板2のシリコン基板と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2を強固に接合することができるからである。
【0041】
電極基板3には、キャビティ基板2の各振動板6に対向する表面位置にそれぞれ凹部32が設けられている。凹部32は、エッチングにより所要の深さで形成されている。そして、各凹部32内には、導電性アモルファスカーボン膜からなる個別電極5が、例えば200nmの厚さで形成される。したがって、振動板6と個別電極5との間に形成されるギャップ(空隙)Gは、この凹部32の深さ、個別電極5及び絶縁膜7の各厚さにより決まることになる。このギャップGはインクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響するので、凹部32の深さ、個別電極5の厚さ、絶縁膜7の厚さを高精度に加工する必要がある。
【0042】
個別電極5は、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部5aを有する。端子部5aは、キャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部34内に露出している。
また、振動板6と個別電極5との間に形成されるギャップGの開放端部はエポキシ等の樹脂による封止材35で封止される。これにより、湿気や塵埃等が電極間ギャップへ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
【0043】
ノズル基板1、キャビティ基板2、および電極基板3は、図2に示すように貼り合わせることによりインクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティ基板2と電極基板3は陽極接合により接合され、そのキャビティ基板2の上面(図2において上面)にノズル基板1が接着等により接合される。
【0044】
そして最後に、図2、図5に簡略化して示すように、ドライバIC等の駆動制御回路40が各個別電極5の端子部5aとキャビティ基板2上面の共通電極26とに上記フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続される。
以上により、インクジェットヘッド10が完成する。
【0045】
次に、以上のように構成されるインクジェットヘッド10の動作を説明する。
駆動制御回路40により個別電極5とキャビティ基板2の共通電極26の間にパルス電圧を印加すると、振動板6は個別電極5側に引き寄せられて吸着し、吐出室21内に負圧を発生させて、リザーバ23内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、電圧を解除すると、振動板6は離脱して、インクをノズル孔11から押出し、インク液滴を吐出する。
【0046】
インクジェットヘッド10の駆動時には、個別電極5に対し、振動板6が繰り返し当接および離脱を繰り返すことになる。このとき、個別電極5には繰り返し接触によるストレス等が作用するが、個別電極5を構成するアモルファス炭素系薄膜は硬質膜であるため、膜の破壊がなく、駆動耐久性を向上することが可能である。また、アモルファス炭素系薄膜は、従来より個別電極として一般的に用いられているITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)よりも、電極基板3を構成するガラス基板との密着性が良好なため、剥離等の欠陥や不具合がない高品質の静電アクチュエータを構成することが可能である。
【0047】
このように、実施の形態1の静電アクチュエータ部4は、個別電極5を、硬質で摩擦係数の小さい材料であるアモルファス炭素系薄膜で構成したので、振動板6の当接・離脱の繰り返しによる駆動の耐久性を向上させて持続性に優れた高信頼のアクチュエータを実現できる。また、個別電極5自体をアモルファス炭素系薄膜で構成したので、従来、駆動耐久性向上を目的として個別電極に更にアモルファス炭素系薄膜を形成していた構成に比べて簡便な構成とすることができる。
また、インクジェットヘッド10は、上記のように構成された静電アクチュエータ部4を備えているので、液滴吐出の安定性や持続性に優れ、高品位な印刷を長寿命で実現することが可能なものとすることができる。
【0048】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2の静電アクチュエータ部4Aを有するインクジェットヘッド10の概略断面図、図7は図6のB部の拡大断面図である。なお、実施の形態2以下において、特に断らない限り上記の実施の形態1と対応する部分には同じ符号を付して説明は省略する。
実施の形態2の静電アクチュエータ部4Aは、上記実施の形態1の静電アクチュエータ部において振動板6に形成した絶縁膜7の表面に、表面層8を形成したものであり、その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0049】
表面層8は、絶縁性を有する高抵抗のアモルファス炭素系薄膜(以下、絶縁性アモルファス炭素系薄膜という)で約10nmで形成され、振動板6において特に個別電極5に当接する部分に形成されている。絶縁性アモルファス炭素系薄膜は、個別電極5を構成する導電性アモルファス炭素系薄膜とは膜の構成が異なり、主に、SP3リッチ又は水素リッチな膜で構成される。絶縁性アモルファス炭素系薄膜の製造方法は、後記の実施の形態4で説明する。絶縁性アモルファス炭素系薄膜として、ここでは、α−C:H(アモルファス水素化カーボン)を用いているが、他に例えば、ta−C(テトラヘデラル アモルファスカーボン)や、ta−C:H(水素化ta−C)を用いてもよい。
【0050】
このように、実施の形態2の静電アクチュエータは、アクチュエータ駆動時に接触する振動板表面と個別電極表面の表面同士が両方とも、硬質で低摩擦係数なアモルファス炭素系薄膜で構成しているため、当接(接触)時の真実接触面積が小さくなり、かつ同種材料であるために接触帯電が殆ど無く、接触の繰り返しによる駆動の繰り返しでの帯電が抑制されて残留電荷が少なく、より安定した駆動が可能となる。加えて、磨耗による破壊が無い。その結果、前述の実施の形態1に比べて、更に駆動の安定性及び信頼性の高い静電アクチュエータを実現し、インクジェットヘッド10の耐久性を向上することが可能となる。
【0051】
実施の形態3.
実施の形態3は、個別電極5の構成を工夫し、個別電極5を導電性アモルファス炭素系薄膜で形成する際の成膜負荷の軽減を図るものである。以下では、実施の形態3の特徴部分である個別電極部分について図を用いて説明し、インクジェットヘッド10全体の構成等は上記実施の形態1及び2と同様であるため、図示及びその説明は省略する。
【0052】
静電アクチュエータの時定数τは、前述したように上限があり、所望の応答性を確保しようとする場合、個別電極5の抵抗を低くすることが望まれる。個別電極5の抵抗を低くする方法としては、膜厚を厚くする方法があるが、膜厚を厚くすると、成膜に要する時間が膜厚に比例して長くなるため、生産性が悪く、また、成膜に要する材料を多く消費してしまうことになり、コスト的な面で問題がある。
【0053】
このような問題を、個別電極5の構成によって解決しようとしたものであり、以下に個別電極5の構成について、2つの構成例を挙げ、順に説明する。
【0054】
(第1構成例)
図8は、実施の形態3の静電アクチュエータの第1構成例の個別電極部分の平面図である。図8において、矢印は電荷の流れを示しており、これについては次の第2構成例で説明する。
第1構成例の個別電極5は、個別電極5全体のうち、特に振動板6と対向する対向部であるアクチュエータ部50を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成し、その他の配線部5cが、一般的に配線として使用され、導電性アモルファス炭素系薄膜よりも導電性の高い導電膜(例えば、Cr/Au膜)で構成したものである。
【0055】
個別電極5を上記のように構成した場合、個別電極全体を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成する場合に比べて、個別電極全体としての抵抗を低くすることができる。よって、個別電極全体を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成する場合と同じ応答性を図8の構成で確保しようとした場合、配線部5cが低抵抗である分だけ、個別電極5のアクチュエータ部50が高抵抗であっても許容できることになる。すなわち、アクチュエータ部50を構成する導電性アモルファス炭素系薄膜の膜厚を薄くしても、同じ機能と性能(導電性と応答性)を確保することができる。
【0056】
このように、実施の形態3の第1構成例によれば、個別電極5を製造する際の成膜負荷を下げることが可能となり、製造工程の簡略化及び低コスト化に寄与することが可能である。また、次に説明する第2構成例に比べて構成が単純であるため、比較的幅が狭くピッチの細かいアクチュエータへ本構成を適用しても、より高精度な位置合わせを必要とすることは無く、また、インクジェットヘッドではノズルの高密度化に伴う配線の微細化のための配線形成プロセスの高精度化等への課題へ対応し易い。
【0057】
(第2構成例)
図9は、実施の形態3の静電アクチュエータの第2構成例の個別電極部分の平面図である。図10及び図11は、図9の個別電極を有する静電アクチュエータ部の断面図で、図10は振動板離脱時、図11は振動板当接時を示している。
第2構成例の個別電極5は、第1構成例のアクチュエータ部50を、振動板6と当接する当接部50aと、当接部50aの周囲を囲む周状配線部50bとに分け、当接部50aを導電性アモルファス炭素系薄膜で構成し、周状配線部50bを配線部5cと一体的に導電膜(例えば、Cr/Au)で構成したものである。
【0058】
図9において、矢印は電荷の流れを示しており、外部から配線部50cに供給された電荷は、当接部50aに比べて抵抗の低い周状配線部50bに供給された後、当接部50aの幅方向(図示上下方向)の中心部に向かって供給される。ここで、第1構成例についても電荷の流れについて述べると、第1構成例の場合、外部から配線部5cに供給された電荷は、個別電極5のアクチュエータ部50を矢印方向に流れることになる。抵抗は、電荷が流れる方向の長さに比例して大きくなるため、第1構成例と第2構成例とで、導電性アモルファス炭素系薄膜で構成された部分(すなわちアクチュエータ部50全体と、当接部50a)の抵抗を比較すると、第2構成例の方が下げることができる。なお、導電膜で構成された部分(配線部50c、周状配線部50b)の抵抗については導電性アモルファス炭素系薄膜に比べて抵抗値が格段に小さく、ここでは無視できるものとする。
【0059】
よって、第2構成例の構成では、第1構成例に比べて更に導電性アモルファス炭素系薄膜の膜厚を薄く形成しても、第1構成例と同じ応答性を確保することが可能となる。すなわち、成膜負荷を更に軽減することが可能となる。従って、製造工程の一層の簡略化及び低コスト化に寄与することが可能となる。
【0060】
実施の形態4.
実施の形態4は、実施の形態1〜3に係るインクジェットヘッド10の製造方法の一例について図12から図14を参照して概要を説明する。図12はインクジェットヘッド10の製造工程の概略の流れを示すフローチャート、図13は電極基板3の製造工程の概要を示す断面図、図14はインクジェットヘッド10の製造工程の概要を示す断面図である。
【0061】
図12において、ステップS1〜S4は電極基板3の製造工程を示すものであり、ステップS5〜S9はキャビティ基板2の元になるシリコン基板の製造工程を示すものである。
ここでは、主に実施の形態2の静電アクチュエータ部4Aを備えたインクジェットヘッド10の製造方法について説明する。
【0062】
電極基板3は以下のようにして製造される。
まず、硼珪酸ガラス等からなる板厚約1mmのガラス基板300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより所望の深さの凹部32を形成する(図12のS1、図13(a))。なお、この凹部32は個別電極5の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極5ごとに複数形成される。
そして、個別電極5となる導電性アモルファス炭素系薄膜51を、凹部32を形成したガラス基板300表面に全面成膜する(図12のS2、図13(b))。
【0063】
表1に、本例において個別電極5を構成する導電性アモルファス炭素系薄膜51として成膜されるアモルファスカーボン膜(a−C)の諸元と成膜方法を示し、表2に、ECRプラズマスパッタによる成膜条件を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1に示すように、アモルファスカーボン膜(a−C)は、グラファイトをターゲットとしてECR(電子サイクロトロン共鳴)プラズマスパッタ(固体ソースECR成膜法)により、厚みt=200nmで形成する。抵抗率としては、ρ=5×10-2(Ω・cm)以下を確保し、導電体とする。また、膜密度は2.3g/cm3となる。また、表2に示すように、マイクロ波パワー500W、ターゲット電圧500V、基板バイアス−40V、照射イオン加速電圧150Vとする。
【0067】
ここで、アモルファスカーボン膜の成膜方法として、ここではECRプラズマスパッタ法を用いているので、結晶性のカーボン膜となり、π電子による電気伝導が可能となる。このため、硬くて低抵抗で導電性を有する膜を形成することが可能となる。これにより、静電アクチュエータの駆動での、振動板表面と個別電極5の繰り返し当接による破壊を防止し、十分な応答性が確保され得る低抵抗の個別電極5が実現可能となる。
【0068】
なお、アモルファスカーボン膜は、上記のようにECRスパッタにてグラファイトをターゲットとして成膜する方法の他、アーク放電法により水素含有量の少ないアモルファスカーボンを成膜するようにしてもよい。また、アモルファス炭素系薄膜をCVDで成膜した後、例えば300℃〜500℃でアニールすることでも形成可能である。
【0069】
その後、ドライフィルムレジストを、成膜した導電性アモルファス炭素系薄膜51の上にラミネートしてレジスト膜を形成し、導電性アモルファス炭素系薄膜51のうち個別電極5となる部分を残して、パターニングして除去、区画形成する(図12のS3)。次に酸素プラズマにより導電性アモルファス炭素系薄膜51を酸化して除去、エッチングする。その後レジスト剥離液でレジストを剥離して、導電性アモルファス炭素系薄膜51を区画形成し、個別電極5を形成する(図12のS4、図13(c))。
以上により、実施の形態1及び実施の形態2の電極基板3を作製することができる。
【0070】
キャビティ基板2は上記により作製された電極基板3にシリコン基板200を陽極接合してから作製される。
【0071】
まず、例えば厚さが280μmのシリコン基板200の片面全面に、例えば厚さが0.8μmのボロン拡散層201を形成したシリコン基板200を作製する(図12のS5)。
次に、そのシリコン基板200のボロン拡散層201の表面(下面)上に、シリコン酸化膜等の絶縁膜7を全面形成し(図12のS6)、その後、その表面に絶縁性アモルファス炭素系薄膜80を表面層(絶縁体表面層)として全面形成する(図12のS7、図14(a))。
【0072】
表3に、本例において絶縁性アモルファス炭素系薄膜80として形成されるアモルファス水素化カーボン膜(a−C:H)の諸元と成膜方法を示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3に示すように、アモルファス水素化カーボン膜は、トルエンを水素リッチにRF−CVDにて厚みt=10(nm)で形成する。抵抗率は、ρ=1×1015(Ω・cm)を確保し、絶縁体とする。
【0075】
その後、ドライフィルムレジストを、成膜した絶縁性アモルファス炭素系薄膜80の上にラミネートしてレジスト膜を形成し、絶縁性アモルファス炭素系薄膜80の振動板6の当接部を残して、パターニングして除去、区画形成する(図12のS8、図14(b))。次に酸素プラズマにより絶縁性アモルファス炭素系薄膜80を酸化して除去、エッチングする。その後レジスト剥離液でレジストを剥離して、絶縁性アモルファス炭素系薄膜80を区画形成する(図12のS9、図14(v))。
以上により、実施の形態1〜3のシリコン基板200を作製することができる。
【0076】
次に、以上により作製されたシリコン基板200を上記電極基板3上に位置合わせ(アライメント)して陽極接合する(図12のS10、図14(c))。
ついで、この接合済みシリコン基板200の表面全面を研削・CMPにより研磨加工して、厚さを例えば50μm程度に薄くする(図12のS11、図14(d))。その後、研磨されたシリコン基板表面にCVDによりシリコン酸化膜を成膜する。
【0077】
このシリコン酸化膜をフォトリソ・パターニングしてエッチングマスクを形成し(図12のS12)、KOH水溶液等で異方性ウエットエッチングしてインク流路溝を形成する(図12のS13)。これによって、吐出室21となる凹部22、リザーバ23となる凹部24及び電極取り出し部34となる凹部27が形成されると共に、エッチストップにより振動板6となる薄板部が形成される(図14(e))。その際、ボロン拡散層201の表面でエッチングストップがかかるので、振動板6の厚さを高精度に形成することができるとともに、表面荒れを防ぐことができる。次に、凹部27の底部をドライエッチング等で除去して電極取り出し部34を開口する(図14(f))。
【0078】
そして、ギャップ開放端部にエポキシ樹脂や接着剤等の封止材35を塗布して気密に封止する。また、マイクロブラスト加工等により凹部24の底部を貫通させてインク供給孔33を形成する。そして、シリコン基板200の吐出室21となる凹部22内に、インク保護膜(図示せず)をCVDにより成膜して形成する。この際、電極取り出し部34はマスクして成膜する。インク保護膜を成膜する際に併せてギャップ開放端部を封止しても良い(図12のS14)。また、シリコン基板200上に金属からなる共通電極26を形成する(図14(g))。
【0079】
以上の工程を経て電極基板3に接合されたシリコン基板200からキャビティ基板2が作製される。
その後、このキャビティ基板2の表面上に、予めノズル孔11等が形成されたノズル基板1を接着により接合する(図12のS15、図14(g))。そして最後に、ダイシングにより個々のヘッドチップに切断すれば、上述したインクジェットヘッド10の本体部が完成する(図12のS16、図14(h))。
【0080】
このインクジェットヘッド10の製造方法によれば、駆動耐久性が高く持続性に優れた高信頼の静電アクチュエータを備えるインクジェットヘッドを製造することができる。
また、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基板200から作製するものであるので、その電極基板3によりキャビティ基板2を支持した状態となるため、キャビティ基板2を薄板化しても、割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0081】
以上の実施の形態では、静電アクチュエータおよびインクジェットヘッド、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、本発明の静電アクチュエータは、プロジェクタに用いるミラーデバイスやレーザプリンタに用いるレーザスキャンミラー用のアクチュエータとして適用可能である。また、通信機器や分析機器に用いる光スイッチや光フィルタ等のアクチュエータとして適用可能である。また、本発明の適用により、同様な作用・効果を得ることができ、信頼性の高いアクチュエータを提供し、長寿命な各種情報機器の実現が可能となる。
【0082】
また、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、インクジェットプリンタのほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【0083】
例えば、図15は、本発明のインクジェットヘッドを備えるインクジェットプリンタの概要を示すものである。
このインクジェットプリンタ500は、記録紙501を副走査方向Yに向けて搬送するプラテン502と、このプラテン502にインクノズル面が対峙しているインクジェットヘッド10(又は10A)と、このインクジェットヘッド10(又は10A)を主走査方向Xに向けて往復移動させるためのキャリッジ503と、インクジェットヘッド10の各インクノズルにインクを供給するインクタンク504とを有している。
したがって、高解像度、高速駆動のインクジェットプリンタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施の形態1に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】実施の形態1に係る静電アクチュエータ部4を有するインクジェットヘッドの断面図。
【図3】図2のA部の拡大断面図。
【図4】図2のa−a拡大断面図。
【図5】図2のインクジェットヘッドの上面図。
【図6】実施の形態2に係る静電アクチュエータ部4Aを有するインクジェットヘッドの断面図。
【図7】図6のB部の拡大断面図。
【図8】実施の形態3の第1構成例の個別電極5の平面図。
【図9】実施の形態3の第2構成例の個別電極5の平面図。
【図10】図9の個別電極を有する静電アクチュエータ部の断面図(振動板離脱時)。
【図11】図9の個別電極を有する静電アクチュエータ部の断面図(振動板当接時)。
【図12】インクジェットヘッドの製造工程の概略の流れを示すフローチャート。
【図13】電極基板の製造工程の概要を示す断面図。
【図14】インクジェットヘッドの製造工程の概要を示す断面図。
【図15】本発明のインクジェットヘッドを適用したインクジェットプリンタの一例を示す概略斜視図。
【符号の説明】
【0085】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板、3 電極基板、4,4A 静電アクチュエータ部、5 個別電極、5c 配線部、6 振動板、7 絶縁膜、8 表面層、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、21 吐出室、26 共通電極、50 アクチュエータ部(対向部)、50a 当接部、50b 周状配線部、50c 配線部、51 導電性アモルファス炭素系薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて前記可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、
前記固定電極を導電性アモルファス炭素系薄膜で構成したことを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項2】
基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて前記可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、
前記固定電極は、前記可動電極と対向する対向部と、それ以外の配線部とから構成され、前記対向部は導電性アモルファス炭素系薄膜で構成され、前記配線部は前記導電性アモルファス炭素系薄膜よりも導電性の高い膜で構成されていることを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項3】
基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて前記可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータにおいて、
前記固定電極は、前記可動電極と対向する対向部と、それ以外の配線部とから構成され、前記固定電極の前記対向部は、アクチュエータ駆動時に前記可動電極と当接する当接部と、前記配線部と一体的に形成され、前記当接部の周囲を囲む周状配線部とから構成されており、前記当接部は導電性アモルファス炭素系薄膜で構成され、それ以外の部分は前記導電性アモルファス炭素系薄膜よりも導電性の高い膜で構成されていることを特徴とする静電アクチュエータ。
【請求項4】
前記導電性アモルファス炭素系薄膜は、アモルファスカーボン膜であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項5】
前記可動電極の前記固定電極との対向面に絶縁膜を設け、前記絶縁膜の表面に絶縁性アモルファス炭素系薄膜を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の静電アクチュエータ。
【請求項6】
前記絶縁性アモルファス炭素系薄膜は、アモルファス水素化カーボン又はテトラヘデラル アモルファスカーボン膜であることを特徴とする請求項5記載の静電アクチュエータ。
【請求項7】
基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて前記可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータの製造方法において、
前記凹部が形成されたガラス基板の表面に、導電性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程と、
前記導電性アモルファス炭素系薄膜のうち、不要な部分をエッチング除去して前記凹部内に前記固定電極を形成する工程と、
シリコン基板に絶縁膜を形成する工程と、
前記ガラス基板の前記固定電極形成面と前記シリコン基板の前記絶縁膜形成面とを陽極接合する工程と、
前記シリコン基板を接合面と反対の表面からエッチング加工して前記可動電極を形成する工程と
を有することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項8】
基板上の凹部に形成された固定電極と、この固定電極に所定のギャップを介して対向配置された可動電極とを備え、前記固定電極と前記可動電極との間に静電気力を発生させて前記可動電極に変位を生じさせる静電アクチュエータの製造方法において、
前記凹部が形成されたガラス基板の表面に、導電性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程と、
前記導電性アモルファス炭素系薄膜のうち、不要な部分をエッチング除去して前記凹部内に前記固定電極を形成する工程と、
シリコン基板に絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜の表面に絶縁性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程と、
前記絶縁性アモルファス炭素系薄膜のうち、アクチュエータ駆動時に前記固定電極と当接する部分以外をエッチング除去する工程と、
前記ガラス基板の前記固定電極形成面と前記シリコン基板の前記絶縁膜形成面とを陽極接合する工程と、
前記シリコン基板を接合面と反対の表面からエッチング加工して前記可動電極を形成する工程と
を有することを特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項9】
前記導電性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程では、ECRスパッタによりグラファイトをターゲットとして形成することを特徴とする請求項7又は請求項8記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項10】
前記絶縁性アモルファス炭素系薄膜を形成する工程では、トルエンを気化してRF−CVDにより形成することを特徴とする請求項7又は請求項8記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項11】
液滴を吐出する単一又は複数のノズル孔を有するノズル基板と、前記ノズル基板との間で、前記ノズル孔のそれぞれに連通する吐出室となる凹部が形成されたキャビティ基板と、前記吐出室の底部にて構成される可動電極の振動板に所定のギャップを介して対向配置される固定電極の個別電極が形成された電極基板とを備えた液滴吐出ヘッドにおいて、 請求項1乃至請求項6の何れかに記載の静電アクチュエータを備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項12】
請求項11記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−255338(P2009−255338A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105411(P2008−105411)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】