説明

静電気保護用半導体装置

【課題】高耐圧の内部素子をESDの過電流ノイズとラッチアップ試験の過電流ノイズから保護する静電保護回路装置を提供する。
【解決手段】ESD保護素子のガードリングとラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するラッチアップ保護ダイオードのカソードを共有することにより、ESDの過電流ノイズとラッチアップ試験の過電流ノイズの両方のノイズから、内部回路を保護しつつ、静電保護回路装置のサイズ縮小を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐圧な半導体集積回路の静電気保護用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は、外部端子から印加される過電流ノイズ(例えばESD (Electrostatic Discharge) やラッチアップ試験が想定するような過電流パルスによって、内部回路が破壊するのを防ぐために、通常外部端子と内部回路の間に静電保護回路が設けられている。上記の静電保護回路は、例えばI/O端子に過電流ノイズが印加された場合、I/O端子の電圧が半導体集積回路の最大動作電圧よりも数ボルト程度高い電圧(以下、トリガー電圧と呼ぶ)になったとき動作し、過電流ノイズを接地端子或いは、電源端子に流すように設計される。この目的を満たす最も簡単な方法としては、ダイオード(逆方向接続)、ゲートをオフしたMOSトランジスタ、サイリスタなど、ある印加電圧までは電流を流さないが、ある印加電圧以上になると急激に電流が流れるような特性を持つ素子を静電保護素子としてI/O端子と接地端子の間に接続することによって実現できる。上記のような静電保護素子を備えた半導体集積回路の過電流ノイズに対する耐量は、ESDシミュレータやラッチアップシミュレータなどのシミュレータを用いて評価される。
【0003】
より耐圧の高い半導体集積回路を作製しようとする場合、保護するために用いられる静電保護素子は、より高いトリガー電圧で過電流ノイズを接地端子或いは電源端子へ流すことが出来なければならず、ジュール熱による破壊に関してより強い素子でなければならない。更に、過電流ノイズのパルス幅に関しても、時間的に長いパルス幅の方が、ジュール熱による破壊に関して厳しい条件となる。特にラッチアップ試験に用いられる過電流ノイズのパルス幅は、数msオーダーと他のノイズに比べ時間が長いため、静電保護素子自体の破壊に関して特に注意が必要である。
【0004】
ジュール熱によって静電保護素子自体が破壊しないようにするためには、電流が流れる断面の単位面積当たりの電流密度を下げて、発熱を抑制することが必要であるが、素子サイズの拡大につながるので、コストの観点から際限なく大きくすることは出来ない。また、過電流ノイズが印加される際の各端子の状態によっても、保護の方法が異なってくる。例えば、ESDの場合は、ノイズが印加される端子と接地端子以外の端子はオープンの状態でノイズが印加されるので、ノイズを逃がす端子は接地端子しか無いが、ラッチアップ試験の過電流ノイズの場合は、電源端子と接地端子をそれぞれ通電した状態で、残りの端子に過電流ノイズを印加するので、過電流ノイズを逃がせる端子は、電源端子と接地端子の2つになるといった具合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−72607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、より耐圧の高い内部回路を保護する場合、チップサイズを大きくせずに、ESDの過電流ノイズ及びラッチアップシミュレータの試験パルスのような数msオーダーのパルス幅の過電流ノイズから保護する方法として、第1の従来例(図4)或いは第2の従来例(図5)のような保護回路が考えられた。
【0007】
第1の従来例(図4)は、ESDの過電流ノイズから保護するためにI/O端子2と接地端子3の間に接続された保護ダイオード5とラッチアップ試験の過電流ノイズを保護するために電源端子1とI/O端子2との間に接続された保護ダイオード4で構成された保護回路である。例えばI/O端子2にESDの過電流ノイズが印加される場合、電源端子1は接続されないので、I/O端子2と接地端子3の間に接続した保護ダイオード5が降伏し、前記過電流ノイズを接地端子3に逃がすことができる。ラッチアップ試験の場合においては、電源端子1には電源が接続され最大動作電圧に電位が維持される。例えばこの状態でI/O端子2に過電流ノイズが印加されると、過電流ノイズは、I/O端子2の電位が(電源端子1の電位+保護ダイオード4の拡散電位)以上になったときに、I/O端子3と電源端子1の間に接続された保護ダイオード4を通り、順方向で電源端子1に流れることになる。
【0008】
第2の従来例(図5)は、ESDの過電流ノイズから保護するためにI/O端子7と接地端子8の間に接続されたオフMOS型電界効果トランジスタ10とラッチアップ試験の過電流ノイズを保護するために電源端子6とI/O端子7との間に接続された保護ダイオード9で構成された保護回路である。例えばI/O端子7にESDの過電流ノイズが印加される場合、電源端子6は接続されないので、I/O端子7と接地端子8の間に接続したゲートがオフされたMOS型電界効果トランジスタ10が降伏し、前記過電流ノイズを接地端子8に逃がすことができる。ラッチアップ試験の場合においては、電源端子6には電源が接続され最大動作電圧に電位が維持される。例えばこの状態でI/O端子7に過電流ノイズが印加されると、過電流ノイズは、I/O端子7の電位が(電源端子6の電位+保護ダイオード9の拡散電位)以上になったときに、I/O端子7と電源端子6の間に接続された保護ダイオード9を通り、順方向で電源端子6に流れることになる。
【0009】
前記従来例のような静電保護回路を実際に作る場合に考慮すべきことは、静電保護素子に過電流ノイズが印加された場合、過電流ノイズによって電子及び正孔が発生し、内部素子間の寄生バイポーラトランジスタをオンする可能性があるということである。過電流ノイズによって発生した電子及び正孔を吸収、或いは内部回路への拡散を抑制し、内部素子間の寄生バイポーラトランジスタがオンすることを防ぐ方法として、例えば電源端子に接続され電位が固定された基板と逆の導電型の拡散領域(以下ガードリングと呼ぶ)と例えば接地端子に接続され電位が固定された基板と同じ導電型のガードリングの2つのリングで保護素子の周囲を囲むということが挙げられる。
【0010】
従来例のような静電保護回路を実際につくろうとした場合、図6に示すとおり、例えばP型半導体基板上に、ESDの過電流ノイズから保護するESD保護素子として例えばゲートをオフしたNチャネル型MOSトランジスタ19を設け、前記Nチャネル型MOSトランジスタ19のドレインを電源端子、ソース及びゲート及びバックゲートを接地端子にそれぞれ接続し、その周囲を基板と同じ導電型のガードリングとして例えばP型ウェル13及び接地端子とコンタクトをとるための例えばP型高濃度領域14を設け、更にその外周を基板と逆の導電型のガードリングとして例えばN型ウェル11及び接地端子とコンタクトをとるための例えばN型高濃度領域12で構成される保護素子100を設け、更にラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するラッチアップ保護ダイオードとして、例えばP型高濃度領域17をアノード、例えばN型ウェル15及び例えばN型高濃度領域16をカソードとしたラッチアップ保護ダイオード18を設け、前記アノードをI/O端子、前記カソードを電源端子にそれぞれ接続し、その周囲を同じ導電型のガードリングとして例えばPウェル13及び接地端子とコンタクトをとるための例えばP型高濃度領域14を設け、更にその外周を基板と逆の導電型のガードリングとして例えばN型ウェル11及び接地端子とコンタクトをとるための例えばN型高濃度領域12で構成される静電保護回路装置101を設けるような構成になる。
【0011】
上記従来例のような静電保護回路装置を作る場合の問題点としては、ESDの過電流ノイズから保護するNチャンネル型のゲートがオフされたMOS型電界効果トランジスタ19とラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するラッチアップ保護ダイオード18の2つの保護素子が必要となり、それぞれの素子を基板と同じ導電型のガードリング11と、基板と逆の導電型のガードリング13で囲わなければならず、チップ面積が大きくなってしまうということが挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するたに、本発明に係る静電気保護用半導体装置は、I/O端子と接地端子の間に接続されたESD保護素子と、ラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するラッチアップ保護ダイオードである前記ESD保護素子のガードリングをカソードとして電源端子に接続され、I/O端子をアノードとして接続されたダイオードとを有する保護回路を含むようにした。更に、アノードからカソードを通り抜け基板に流れるキャリアが多い場合には、前記キャリアが内部回路の寄生バイポーラトランジスタをオンさせることがあるので、前記ESD保護素子のガードリングに前記ガードリングと同じ極性を持つ埋め込み拡散領域を追加することにより、基板に流れるキャリアを抑制し、前記寄生バイポーラトランジスタをオンさせるのを防ぎつつ、ESDの過電流ノイズとラッチアップ試験の過電流ノイズの両方のノイズから、内部回路を保護することができるようにした。
【発明の効果】
【0013】
ESD保護素子のガードリングとラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するラッチアップ保護ダイオードのカソードを共有することにより、ESDの過電流ノイズとラッチアップ試験の過電流ノイズの両方のノイズから、内部回路を保護しつつ、保護素子のサイズ縮小を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る静電気保護用半導体装置の平面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る静電気保護用半導体装置の断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る静電気保護用半導体装置の断面図。
【図4】第1の従来例に係る保護回路図。
【図5】第2の従来例に係る保護回路図。
【図6】第2の従来例に係る保護回路の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においてはI/O端子あるいは入出力端子という語句はいわゆる入出力端子だけではなく、入力のみの端子および出力のみの端子も含むものとして使用する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る静電気保護用半導体装置102の平面図である。
【0017】
静電気保護用半導体装置102は以下のような構成である。例えば抵抗が20〜30ΩcnのP型シリコン基板表面に、ESDの過電圧ノイズから保護するESD保護素子19として、例えばゲートがオフされたNチャネルMOS型電界効果トランジスタを設け、前記NチャンネルMOS型電界効果トランジスタ19の周囲に第1導電型ガードリングとして例えば不純物がボロンとして濃度は1×1016cm-3程度で例えば深さ10um〜15umのP型ウェル領域13を設け、前記P型ウェル領域13上に例えば接地端子とコンタクトをとるためのP型高濃拡散領域14として例えば不純物がボロンとして濃度は1×1020cm-3程度の領域を設ける。
【0018】
次いで、前記Pウェルの周囲に第2導電型ガードリングとして例えば不純物がリンとして濃度は1×1016cm-3程度で例えば深さ10um〜15umのN型ウェル領域11を設け、前記N型ウェル領域11の一部にラッチアップ試験の過電流ノイズから保護する保護ダイオードのアノードとして例えば不純物がボロンとして濃度は1×1020cm-3程度のP型高濃度領域17を設ける。前記N型ウェル領域11は、前記保護ダイオードのカソードと前記2導電型ガードリングを兼ねることになる。
【0019】
次いで、前記N型ウェル領域11の例えば電源端子へのコンタクトとして、前記N型ウェル領域11内に前記P型高濃度領域17と前記P型ウェル領域13を囲むように、例えば不純物がリンとして濃度は1×1020cm-3程度のN型高濃度領域12を設けるという構成である。そして、前記NチャンネルオフMOS型電界効果トランジスタ19のドレインと前記保護ダイオードのアノードであるP型高濃度領域17をI/O端子に接続し、第1導電型ガードリングのP型高濃拡散領域14を接地端子に接続し、第2導電型ガードリングのコンタクトと前記保護ダイオードのカソードを兼ねたN型高濃度領域12を電源端子に接続することにより、第2の従来例(図5)と同じ回路構成を有する静電気保護用半導体装置となる。
【0020】
本実施例においては、ESD保護素子19としてゲートがオフされたNチャネルMOS型電界効果トランジスタを用いた場合について説明したが、ESD保護素子19としては、この他に保護ダイオード、サイリスタを用いることも可能である。
【0021】
P型高濃度領域17からP型高濃度領域17を囲むN型高濃度領域12までの距離は、ラッチアップ試験の過電流ノイズがI/O端子に印加された場合の前記過電流ノイズがN型高濃度領域12を通過して、基板へ流れないようなサイズに設定しなければならない。前記過電流ノイズが基板へ流れる原因は、アノードにあたるP型高濃度領域17からN型ウェル領域11へ注入された少数キャリアがN型ウェル領域11内で再結合せず、再結合できなかった少数キャリアが、P型基板に到達してしまうからである。よって、N型ウェル領域11を十分広くとる必要がある。P型高濃度領域17とN型高濃度領域12の端までの横方向の距離20を例えば10um程度に設定する。
【実施例2】
【0022】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る静電気保護用半導体装置102の切断線A−Aにおける断面図である。ラッチアップ試験の過電流ノイズがI/O端子に印加された場合において、前記過電流ノイズがN型高濃度領域12を通過して、基板端子へ流れる電流量は、ラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するダイオードのアノードとカソード間の縦方向の距離21で律速される場合がある。そこで、このような場合に好適な実施例として、本発明の第2の実施形態に係る静電気保護用半導体装置104の断面図を図3に示す。本実施形態では、実施例1のN型ウェル領域11の下に例えば不純物がリンとして濃度は1×1016cm-3程度のN型埋め込み領域22を設ける。このような構成とすることで、この部分での再結合するキャリアが増えるので、N型高濃度領域12を通過して基板へ流れる電流が減り、内部素子間の寄生バイポーラトランジスタがオンすることを抑制しつつ、ESDの過電流ノイズとラッチアップ試験の過電流ノイズの両方のノイズから、内部回路を保護し、更に保護素子のサイズ縮小を図ることができる。なお、アノードとカソード間の縦方向の距離23は、例えば20um程度が好ましい。
【符号の説明】
【0023】
1、6 電源端子
2、7 I/O端子
3、8 接地端子
4、5、6 保護ダイオード
10 ゲートをオフとしたNチャネルMOS型電界効果トランジスタ
11、15 N型ウェル
12、16 N型高濃度領域
13 P型ウェル
14、17 P型高濃度領域
18 ラッチアップ保護ダイオード
19 ESD保護素子
20 P型高濃度領域17とN型高濃度領域12の端までの横方向の距離
21、23 アノードとカソード間の縦方向の距離
22 N型埋め込み領域
100、101 保護素子
102 本発明の第1の実施形態に係る静電気保護用半導体装置
104 本発明の第2の実施形態に係る静電気保護用半導体装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面に配置され、入出力端子と接地端子の間に接続されたESD保護素子と、
前記ESD保護素子を囲む前記半導体基板と同導電型の第1のウェル領域と、
前記第1のウェル領域上で前記ESD保護素子を囲むように設けられた前記半導体基板と同導電型の第1の高濃度基板領域と、
前記第1のウェル領域の外側を囲む前記半導体基板と逆導電型の第2のウェル領域と、
前記第2のウェル領域内に設けられた基板と同導電型の高濃度アノード領域と、
前記高濃度アノード領域と前記第1のウェル領域とをそれぞれ囲むとともにその一部を共用するように前記第2のウェル領域内に配置された前記半導体基板と逆導電型の第2の高濃度拡散領域とを備え、
前記高濃度アノード領域は前記入出力端子に接続され、
前記第1の高濃度基板領域は前記接地端子に接続され、
前記第2の高濃度拡散領域は電源端子に接続されている静電気保護用半導体装置。
【請求項2】
前記ESD保護素子は、アノードが前記入出力端子に接続され、カソードが前記接地端子に接続された保護ダイオードである請求項1に記載の静電気保護用半導体装置。
【請求項3】
前記ESD保護素子は、ドレインが前記入出力端子に接続され、ソースとゲートとバックゲートが前記接地端子に接続されたMOSトランジスタである請求項1に記載の静電気保護用半導体装置。
【請求項4】
前記ESD保護素子は、アノードが前記入出力端子に接続され、カソードが前記接地端子に接続されたたサイリスタである請求項1に記載の静電気保護用半導体装置。
【請求項5】
再結合するキャリアを増やすために前記第2のウェル領域の下に前記第2のウェルと同じ導電型の埋め込み層をさらに有する請求項1記載の静電気保護用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−66246(P2011−66246A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216245(P2009−216245)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】