説明

非平面上単粒子膜の製造方法、該単粒子膜エッチングマスクを用いた微細構造体の製造方法および該製造方法で得られた微細構造体。

【課題】 本発明は、単粒子膜を構成する各粒子が2次元に最密充填し、高精度に配列した曲面上の単粒子膜エッチングマスクとその製造方法、該単粒子膜エッチングマスクを用いた曲面上の微細構造体の製造方法および該製造方法で得られた高精度な曲面上の微細構造体を提供する。
【解決手段】曲面、傾斜および段差など非平面である部分で面方向のピッチまたは大きさが0.1μm〜10000μmである表面が一部若しくは全部である基板上に形成する、粒子が2次元に最密充填した単粒子膜であって、
下記式(1)で定義される粒子の配列のずれD(%)が10%以下であることを特徴とする単粒子膜。
D(%)=|B−A|×100/A・・・(1)
(式(1)中、Aは前記粒子の平均粒径、Bは前記単粒子膜における前記粒子間の平均ピッチを示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細構造体(反射防止体、ナノインプリント用モールドの原版など)の製造に好適に使用される単粒子膜エッチングマスクとその製造方法、該単粒子膜エッチングマスクを用いた微細構造体の製造方法および該製造方法で得られた微細構造体、さらには、ナノインプリント用モールド、ナノインプリント装置、該装置で得られたナノインプリント物、および、射出成型用モールド、射出成型装置、該装置で得られた射出成型物に関する。
【背景技術】
【0002】
めがね、望遠鏡、顕微鏡、カメラ、ディスプレイの部材、分析用光学機器、産業用光学機器等に用いる光学レンズ表面に反射防止加工を直接行う技術は古くからあり、対物レンズに対する加工による光の取込み量増加や、接眼レンズに対する加工による視認性向上(反射防止)、或いはこれら以外の内部のレンズやレンズ群に対する加工で光学性能の向上を図ること等が行われてきた。
【0003】
レンズ等の非平面に対する反射防止加工法として、従来ドライ法(真空成膜法)が行われてきた。ドライ法は、蒸着やスパッタリングを用いて、主として金属や金属酸化物などを対象物の表面に多層コートする方法である。この方法は、膜厚精度が高く、非常に高い反射防止効果を発揮する反射防止加工ができるが、生産性が低くコストが高いという欠点がある。
【0004】
一方、ドライ法とは異なる反射防止技術として、表面に形成した微細突起で屈折率を制御する方法も知られている。具体的には、微細突起の配列ピッチを入射光の波長以下とすることにより光学散乱をなくし、かつ突起を形成する材質の屈折率を表面の深さ方向に連続的に変化させることで、フレネル反射を抑制するというものである。屈折率の変化が急激に起きないようにするため、微細突起の高さは対象とする波長の約0.4倍以上にするのが好ましい。この方法は前述のドライ法にくらべて波長依存性および角度依存性が改善される。(非特許文献1−5)。
【非特許文献1】Optica Acta, Vol.29, 993 (1982)
【非特許文献2】Applied Optics, Vol.32, 2582 (1993)
【非特許文献3】Journal of the Optical Society of America A, Vol.12, 333 (1995)
【非特許文献4】Applied Optics, Vol.26, 1142 (1987)
【非特許文献5】Applied Optics, Vol.36, 1556 (1997)
【0005】
このような反射防止効果を与える微細構造を作成するには、X線リソグラフィ(特許文献1)、干渉露光法(非特許文献1、非特許文献4)、電子ビーム描画(特許文献2) 等でパターンを作成したのちエッチングなどを組み合わせる方法がある。特に、レンズや拡散フィルムなどの非平面上に微細構造を作成するには、特許文献3および特許文献4のように曲面上にX線リソグラフィを用いて高精度にパターンを描画し、それを元にサブミクロンの周期的な微細構造を作成するための方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭56−26438
【特許文献2】特開2001−272505
【特許文献3】特開2006−195289
【特許文献4】特開2006−330085
【0006】
また、このような微細凹凸パターンの形成方法の1つとして、樹脂、金属などの粒子一層からなる単粒子膜をエッチングマスクとして基板上に配置し、基板表面をエッチングする方法がある。この方法によれば、単粒子膜はエッチングマスクとして作用しつつそれ自身もエッチングされて最終的には削り取られる。その結果、各粒子に対応する位置に円錐状微細突起が形成された基板を得ることができる。
【0007】
このような単粒子膜エッチングマスクの形成方法として、特許文献5には、基板をコロイド粒子の懸濁液中に浸漬し、その後、基板と静電気的に結合した第1層目の粒子層のみを残し第2層目以上の粒子層を除去する(粒子吸着法)ことで、単粒子膜からなるエッチングマスクを基板上に設ける方法が提案されている。また特許文献6には、シート状基材に単粒子膜を形成し、この単粒子膜を基板に転写する方法が開示されている。この際、シート上基材への単粒子膜を形成する方法としては、シート上基材上にバインダー層を形成し、その上に粒子の分散液を塗布し、その後バインダー層を加熱により軟化させることで、第1層目の粒子層のみをバインダー層中に包埋させ、余分な粒子を洗い落とす方法が記載されている。
【特許文献5】特開昭58−120255
【特許文献6】特開2005−279807
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、曲面状にパターンを作成する特許文献3や4に記載の方法では、X線源を用意する必要があり装置が大掛かりになる、X線の照射野に制限がある、および被爆の観点からX線の取り扱いを慎重に行う必要がある、等の問題がある。また、電子ビーム描画によるパターニングは、実用的面積の光学素子を得るには非常に時間がかかりかつ高価であるという問題がある。干渉露光法も装置や空気の振動による影響をなくすのは容易ではない。
【0009】
一方、単粒子膜エッチングマスクを用いる方法は、安全・安価かつ簡便に大面積のパターニングを行うことができる。しかしながら、特許文献5や6に記載の方法では、単粒子膜を構成する粒子が部分的にクラスター状に凝集して2層以上となったり、粒子が存在しない欠陥箇所が発生したりしやすく、各粒子が高精度で2次元に最密充填した単粒子膜を得ることは難しい。このように、単粒子膜をエッチングマスクとして使用する従来の方法では、各粒子に対応する位置に円錐状微細突起が形成されるため、マスクである粒子の配列精度が低いと作成される突起の配列精度を上げることはできず、高度な反射防止効果を得ることは困難である。
【0010】
また、干渉露光法やX線リソグラフィー等のレジスト樹脂を必要とする方法では、曲面や段差を有する凹凸表面に樹脂をコーティングする際に厚さムラが発生するという問題が起こる。厚さムラが発生すると、レジストの厚さが局所的に異なってしまうので、ドライエッチング後の微細構造の均一性が失われるため好ましくない。特に、マイクロレンズアレイや回折格子等の微細構造の表面にレジスト樹脂をコーティングすると、微細構造の凹の部分に樹脂が厚くついてしまい、凸の部分に樹脂が薄くつくという現象が起きる。このような状態では、マイクロレンズアレイや回折格子等の微細構造表面に円錐状微細突起を作成しようとしても、均一なものを得ることは困難となる。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、単粒子膜を構成する各粒子が2次元に最密充填し、高精度に配列した曲面上の単粒子膜エッチングマスクとその製造方法、該単粒子膜エッチングマスクを用いた曲面上の微細構造体の製造方法および該製造方法で得られた高精度な曲面上の微細構造体の提供を課題とする。さらには、微細構造体を使用することによるナノインプリントまたは射出成型用モールド、該ナノインプリントまたは射出成型用モールドを具備するナノインプリントまたは射出成型用装置、該装置で得られた高精度なナノインプリントまたは射出成型物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、溶剤中に粒子が分散した分散液を水槽内の液面に滴下し、その後溶剤を揮発させることにより、粒子が精度よく2次元に最密充填した単粒子層を形成でき、ついで、この単粒子層を曲面や段差を含む基板上に移し取ることにより、非平面基板上に高精度に配列した非平面状の単粒子膜ならびに単粒子膜エッチングマスクを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の非平面状の単粒子膜ならびに単粒子膜エッチングマスクの製造方法は、溶剤中に粒子が分散した分散液を水槽内の液面に滴下する滴下工程と、前記溶剤を揮発させることにより前記粒子からなる単粒子膜を形成する単粒子膜形成工程と、前記単粒子膜を曲面や段差を含む非平面基板上に移し取る移行工程とを有することが好ましい
本発明の微細構造体の製造方法は、溶剤中に粒子が分散した分散液を水槽内の液面に滴下する滴下工程と、前記溶剤を揮発させることにより前記粒子からなる単粒子膜を形成する単粒子膜形成工程と、前記単粒子膜を曲面や段差を含む非平面基板上に移し取る移行工程と、前記単粒子膜をエッチングマスクとして使用して、前記基板を気相エッチングするエッチング工程とを有することが好ましい
【0014】
本発明の微細構造体が反射防止体である場合、前記製造方法により製造され、前記曲面や段差を含む非平面基板上の少なくとも片面に、高さが50nm以上でアスペクト比が0.4以上の円錐状微細突起が形成することが好ましく、反射防止体、ナノインプリントまたは射出成型用モールドを製造するための原版として好適である。また、本発明の微細構造体が反射防止体でない場合、前記製造方法により製造され、前記曲面や段差を含む非平面基板上の少なくとも片面に円錐状、円柱状、半球状、あるいはこれらの形状を併せ持つ構造を形成することが好ましい、反射防止構造以外の用途、すなわち超撥水構造、超親水構造、微細研磨表面構造、生体付着防止構造、防汚表面構造、MEMS用セパレーター構造、およびこれらの構造のナノインプリントまたは射出成型用モールドを製造するための原版として好適である。
本発明のナノインプリントまたは射出成型用モールドの製造方法は、前記微細構造体の前記微細突起を金属層に転写する転写工程を有することが好ましい
前記転写工程は、前記微細構造体の前記微細突起が形成された非平面に金属層を形成した後、前記金属層を剥離する工程であることが好ましい。
本発明のナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドは、前記製造方法で製造されたことが好ましい
本発明の単粒子膜は、曲面、段差など非平面である部分で平面方向のピッチまたは大きさが0.1μm〜10000μmである表面が一部若しくは全部である基板上に形成する、粒子が2次元に最密充填した単粒子膜であって、
下記式(1)で定義される粒子の配列のずれD(%)が10%以下であることを特徴とする。
D(%)=|B−A|×100/A・・・(1)
(式(1)中、Aは前記粒子の平均粒径、Bは前記単粒子膜における前記粒子間の平均ピッチを示す。)
【0015】
本発明の微細構造体は、前記単粒子膜エッチングマスクを用い、気相エッチングで作成することを特徴とする微細構造体であって、下記式(2)で定義される構造の配列のずれD’(%)が10%以下であることを特徴とする。
D’(%)=|C−A|×100/A・・・(2)
(式(2)中、Aは前記粒子の平均粒径、Cは前記微細構造体における前記構造配列の平均ピッチを示す。)
本発明のナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドは、前記微細構造体を用い、電鋳法で作成することを特徴とするナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドであって、下記式(3)で定義される構造の配列のずれD’ ’(%)が10%以下であることを特徴とする。
D’ ’(%)=|E−A|×100/A・・・(3)
(式(3)中、Aは前記粒子の平均粒径、Eは前記ナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドにおける前記構造配列の平均ピッチを示す。)
本発明のナノインプリントまたは射出成型物は、前記ナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドを用い、ナノインプリントまたは射出成型法で作成することを特徴とするナノインプリントまたは射出成型物であって、下記式(4)で定義される構造の配列のずれD’ ’ ’(%)が10%以下であることを特徴とする。
D’ ’ ’(%)=|F−A|×100/A・・・(4)
(式(4)中、Aは前記粒子の平均粒径、Fは前記ナノインプリントまたは射出成型物における前記構造配列の平均ピッチを示す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単粒子膜を構成する各粒子が2次元に最密充填し、高精度に配列した単粒子膜エッチングマスクを曲面や段差を含む非平面上に形成でき、該単粒子膜エッチングマスクを用いた微細構造体の製造方法および該製造方法で得られた高精度な微細構造体を提供できる。さらには、微細構造体を使用することによる非平面に対応するナノインプリント用モールド、該ナノインプリント用モールドを具備するナノインプリント装置、該装置で得られた高精度かつ非平面に対応できるナノインプリント物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の非平面状の単粒子膜とそれを用いたエッチングマスクは同様の製法であり、以下エッチングマスクを例に説明する。
[単粒子膜エッチングマスク]
本発明の単粒子膜エッチングマスクは、図1に示すように、多数の粒子Pが2次元に最密充填した単粒子膜からなるエッチングマスクであって、下記式(1)で定義される粒子の配列のずれD(%)が10%以下のものである。
D[%]=|B−A|×100/A・・・(1)
ここで式(1)中、Aは単粒子膜を構成している粒子Pの平均粒径、Bは単粒子膜における粒子間の平均ピッチである。また、|B−A|はAとBとの差の絶対値を示す。
【0018】
ここで粒子の平均粒径Aとは、単粒子膜を構成している粒子の平均一次粒径のことであって、粒子動的光散乱法により求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから常法により求めることができる。
【0019】
本発明の粒子の形状としては、真球状であることが好ましい。これは最密充填された2次元結晶を作成するためには、格子欠陥の発生を出来るだけ避ける必要があるからである。しかし、大きさがほぼ揃っている粒子であれば、多面体(立方体や星型などの形状)、非定型体(球でも多面体でもないもの)でも単粒子膜として作成し、本発明のプロセスに載せることは可能である。
【0020】
一方、粒子間のピッチとは、隣合う2つの粒子の頂点と頂点の距離であり、平均ピッチBとはこれらを平均したものである。なお、粒子が球形であれば、隣合う粒子の頂点と頂点との距離は、隣合う粒子の中心と中心の距離と等しい。
単粒子膜エッチングマスクにおける粒子間の平均ピッチBは、具体的には次のようにして求められる。
まず、単粒子膜エッチングマスクにおける無作為に選択された領域で、一辺が微細構造の繰り返し単位30〜40波長分の正方形の領域について、原子間力顕微鏡イメージまたは走査型電子顕微鏡イメージを得る。例えば粒径300nmの粒子を用いた単粒子膜の場合、9μm×9μm〜12μm×12μmの領域のイメージを得る。そして、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像(高速フーリエ変換像)を得る。ついで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求める。こうして求められた距離の逆数がこの領域における平均ピッチB1である。このような処理を無作為に選択された合計25カ所以上の同面積の領域について同様に行い、各領域における平均ピッチB1〜B25を求める。こうして得られた25カ所以上の領域における平均ピッチB1〜B25の平均値が式(1)における平均ピッチBである。なお、この際、各領域同士は、少なくとも1mm離れて選択されることが好ましく、より好ましくは5mm〜1cm離れて選択される。
また、この際、FFT像のプロファイルにおける1次ピークの面積から、各イメージについて、その中の粒子間のピッチのばらつきを評価することもできる。
【0021】
粒子の配列のずれDが10%以下である単粒子膜エッチングマスクは、各粒子が2次元に最密充填し、粒子の間隔が制御されていて、その配列の精度が高い。よって、このような単粒子膜エッチングマスクを使用して、基板上の各粒子に対応する位置に円錐状微細突起を形成することにより、高精度な微細凹凸パターンとすることができる。このような2次元最密充填は、後にも述べる自己組織化を原理とするため、多少の格子欠陥を含む。しかしながら、2次元最密充填におけるこのような格子欠陥は、充填方位の多様性をつくるため、特に反射防止用途の場合には、回折格子のような反射特性を減少させて一様な反射防止効果を与えるのに役立つ。
表面にこのような円錐状微細突起からなる微細凹凸パターンが形成された微細構造体は、これ自身が反射防止フィルムなどの高性能な反射防止体として好適に使用される他、詳しくは後述するが、ナノインプリントや射出成型用モールドを製造するための原版(マスター)などとしても好適に使用される。この原版を転写してナノインプリントや射出成型用モールドを得て、このモールドを使用することにより、高性能な反射防止体を低コストで安定に大量生産することができる。
【0022】
基板上に微細凹凸パターンを形成して、反射防止体や上述の原版を製造する場合には、単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子として、粒子動的光散乱法により求めた平均粒径Aが3〜380nmのものを使用する。粒子の平均粒径Aと形成される円錐状微細突起の各円形底面の直径とはほぼ同じ値となるため、平均粒径Aが可視光の下限波長より小さな380nm以下の粒子を使用することによって、形成される円錐状微細突起の円形底面の直径も380nm以下となり、光学的な散乱を抑制でき、反射防止用途に好適な微細凹凸パターンを形成することができる。また、平均粒径(A)が3nm以上のものを使用することによって、入射光が通過する屈折率の傾斜した空間の距離を十分に確保でき、いわゆるサブ波長格子による消光効果を良好に得ることができる。
【0023】
また、単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子は、粒径の変動係数(標準偏差を平均値で除した値)が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものがより好ましく、5%以下のものがさらに好ましい。このように粒径の変動係数、すなわち、粒径のばらつきが小さい粒子を使用すると、後述する単粒子膜エッチングマスクの製造工程おいて、粒子が存在しない欠陥箇所が生じにくくなり、配列のずれDが10%以下である単粒子膜エッチングマスクが得られやすい。欠陥箇所のない単粒子膜エッチングマスクからは、入射光に対して均一な屈折率傾斜効果を与える反射防止フィルムが得られやすく好ましい。
【0024】
粒子の材質としては、Al、Au、Ti、Pt、Ag、Cu、Cr、Fe、Ni、Siなどの金属、SiO2、Al2O3、TiO2、MgO2、CaO2などの金属酸化物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどの有機高分子などの他、半導体材料、無機高分子などのうち1種以上を採用できる。
【0025】
[単粒子膜エッチングマスクの製造方法]
このような単粒子膜エッチングマスクは、エッチング対象物である曲面や段差を含む非平面基板上の少なくとも片面上に配置されるものであって、いわゆるLB法(ラングミュア−ブロジェット法)の考え方を利用した方法により基板上に形成できる。具体的には、溶剤中に粒子が分散した分散液を水槽内の液面に滴下する滴下工程と、溶剤を揮発させることにより粒子からなる単粒子膜を形成する単粒子膜形成工程と、単粒子膜を曲面や段差を含む非平面基板上に移し取る移行工程とを有する方法により製造できる。
単粒子膜エッチングマスクを製造する好ましい方法について、一例を挙げて以下に具体的に説明する。
【0026】
(滴下工程および単粒子膜形成工程)
まず、クロロホルム、メタノール、エタノール、メチルエチルケトンなどの揮発性の高い溶剤のうちの1種以上からなる疎水性の有機溶剤中に、表面が疎水性の粒子を加えて分散液を調製する。一方、水槽(トラフ)を用意し、これに、その液面上で粒子を展開させるための液体(以下、下層水という場合もある。)として水を入れる。
そして、分散液を下層水の液面に滴下する(滴下工程)。すると、分散媒である溶剤が揮発するとともに、粒子が下層水の液面上に単層で展開し、2次元的に最密充填した単粒子膜を形成することができる(単粒子膜形成工程)。
このように、粒子として疎水性のものを選択した場合には、溶剤としても疎水性のものを選択する必要がある。一方、その場合、下層水は親水性である必要があり、通常、上述したように水を使用する。このように組み合わせることによって、後述するように、粒子の自己組織化が進行し、2次元的に最密充填した単粒子膜が形成される。ただし、粒子および溶剤として親水性のものを選択してもよく、その場合には、下層水として、疎水性の液体を選択する。
【0027】
下層水に滴下する分散液の粒子濃度は1〜10質量%とすることが好ましい。また、滴下速度を0.001〜0.01ml/秒とすることが好ましい。分散液中の粒子の濃度や滴下量がこのような範囲であると、粒子が部分的にクラスター状に凝集して2層以上となる、粒子が存在しない欠陥箇所が生じる、粒子間のピッチが広がるなどの傾向が抑制され、各粒子が高精度で2次元に最密充填した単粒子膜がより得られやすい。
【0028】
表面が疎水性の粒子としては、先に例示した粒子のうち、ポリスチレンなどの有機高分子からなり表面が元々疎水性を示すものを使用してもよいが、表面が親水性の粒子を疎水化剤で疎水性にして使用してもよい。疎水化剤としては、例えば界面活性剤、金属アルコキシシランなどが使用できる。
【0029】
界面活性剤を疎水化剤として使用する方法は、幅広い材料の疎水化に有効であり、粒子が金属、金属酸化物などからなる場合に好適である。
界面活性剤としては、臭素化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭素化デシルトリメチルアンモニウムなどのカチオン性界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム、4−オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤が好適に使用できる。また、アルカンチオール、ジスルフィド化合物、テトラデカン酸、オクタデカン酸なども使用できる。
【0030】
このような界面活性剤を用いた疎水化処理は、有機溶剤や水などの液体に粒子を分散させて液中で行ってもよいし、乾燥状態にある粒子に対して行ってもよい。
液中で行う場合には、例えば、クロロホルム、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、エチルエチルケトン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの1種以上からなる揮発性有機溶剤中に、疎水化対象の粒子を加えて分散させ、その後、界面活性剤を混合してさらに分散を続ければよい。このようにあらかじめ粒子を分散させておき、それから界面活性剤を加えると、表面をより均一に疎水化することができる。このような疎水化処理後の分散液は、そのまま、滴下工程において下層水の液面に滴下するための分散液として使用できる。
【0031】
疎水化対象の粒子が水分散体の状態である場合には、この水分散体に界面活性剤を加えて水相で粒子表面の疎水化処理を行った後、有機溶剤を加えて疎水化処理済みの粒子を油相抽出する方法も有効である。こうして得られた分散液(有機溶剤中に粒子が分散した分散液)は、そのまま、滴下工程において下層水の液面に滴下するための分散液として使用できる。なお、この分散液の粒子分散性を高めるためには、有機溶剤の種類と界面活性剤の種類とを適切に選択し、組み合わせることが好ましい。粒子分散性の高い分散液を使用することによって、粒子がクラスター状に凝集することを抑制でき、各粒子が高精度で2次元に最密充填した単粒子膜がより得られやすくなる。例えば、有機溶剤としてクロロホルムを選択する場合には、界面活性剤として臭素化デシルトリメチルアンモニウムを使用することが好ましい。その他にも、エタノールとドデシル硫酸ナトリウムとの組み合わせ、メタノールと4−オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウムとの組み合わせ、メチルエチルケトンとオクダデカン酸との組み合わせなどを好ましく例示できる。
疎水化対象の粒子と界面活性剤の比率は、疎水化対象の粒子の質量に対して、界面活性剤の質量が1/3〜1/15倍の範囲が好ましい。
また、こうした疎水化処理の際には、処理中の分散液を撹拌したり、分散液に超音波照射したりすることも粒子分散性向上の点で効果的である。
【0032】
金属アルコキシシランを疎水化剤として使用する方法は、Si、Fe、Alなどの粒子や、AlO2、SiO2、TiO2などの酸化物粒子を疎水化する際に有効であるが、これら粒子に限らず、基本的には表面に水酸基を有する粒子に対して適用することができる。
金属アルコキシシランとしては、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0033】
疎水化剤として金属アルコキシシランを用いる場合には、金属アルコキシシラン中のアルコキシシリル基がシラノール基に加水分解し、このシラノール基が粒子表面の水酸基に脱水縮合することで疎水化が行われる。よって、金属アルコキシシランを用いた疎水化は、水中で実施することが好ましい。このように水中で疎水化を行う場合には、例えば界面活性剤などの分散剤を併用して、疎水化前の粒子の分散状態を安定化するのが好ましいが、分散剤の種類によっては金属アルコキシシランの疎水化効果が低減することもあるため、分散剤と金属アルコキシシランとの組み合わせは適切に選択する。
【0034】
金属アルコキシシランにより疎水化する具体的方法としては、まず、水中に粒子を分散させておき、これと金属アルコキシシラン含有水溶液(金属アルコキシシランの加水分解物を含む水溶液)とを混合し、室温から40℃の範囲で適宜攪拌しながら所定時間、好ましくは6〜12時間反応させる。このような条件で反応させることによって、反応が適度に進行し、十分に疎水化された粒子の分散液を得ることができる。反応が過度に進行すると、シラノール基同士が反応して粒子同士が結合してしまい、分散液の粒子分散性が低下し、得られる単粒子膜は、粒子が部分的にクラスター状に凝集した2層以上のものになりやすい。一方、反応が不十分であると、粒子表面の疎水化も不十分となり、得られる単粒子膜は粒子間のピッチが広がったものになりやすい。
【0035】
また、アミン系以外の金属アルコキシシランは、酸性またはアルカリ性の条件下で加水分解するため、反応時には分散液のpHを酸性またはアルカリ性に調整する必要がある。pHの調整法には制限はないが、0.1〜2.0質量%濃度の酢酸水溶液を添加する方法によれば、加水分解促進の他に、シラノール基安定化の効果も得られるため好ましい。
疎水化対象の粒子と金属アルコキシシランの比率は、疎水化対象の粒子の質量に対して、金属アルコキシシランの質量が1/10〜1/100倍の範囲が好ましい。
【0036】
所定時間反応後、この分散液に対して、前述の揮発性有機溶剤のうちの1種以上を加え、水中で疎水化された粒子を油相抽出する。この際、添加する有機溶剤の体積は、有機溶剤添加前の分散液に対して0.3〜3倍の範囲が好ましい。こうして得られた分散液(有機溶剤中に粒子が分散した分散液)は、そのまま、滴下工程において下層水の液面に滴下するための分散液として使用できる。なお、こうした疎水化処理においては、処理中の分散液の粒子分散性を高めるために、撹拌、超音波照射など実施することが好ましい。分散液の粒子分散性を高めることによって、粒子がクラスター状に凝集することを抑制でき、各粒子が高精度で2次元に最密充填した単粒子膜がより得られやすくなる。
【0037】
また、形成する単粒子膜の精度をより高めるためには、液面に滴下する前の分散液をメンブランフィルターなどで精密ろ過して、分散液中に存在する凝集粒子(複数の1次粒子からなる2次粒子)を除去することが好ましい。このようにあらかじめ精密ろ過を行っておくと部分的に2層以上となった箇所や、粒子が存在しない欠陥箇所が生じにくく、精度の高い単粒子膜が得られやすい。仮に、形成された単粒子膜に、数〜数十μm程度の大きさの欠陥箇所が存在したとすると、詳しくは後述する移行工程において、単粒子膜の表面圧を計測する表面圧力センサーと、単粒子膜を液面方向に圧縮する可動バリアとを備えたLBトラフ装置を使用したとしても、このような欠陥箇所は表面圧の差として検知されず、高精度な単粒子膜エッチングマスクを得ることは難しくなる。
【0038】
さらに、このような単粒子膜形成工程は、超音波照射条件下で実施することが好ましい。下層水から水面に向けて超音波を照射しながら単粒子膜形成工程を行うと、粒子の最密充填が促進され、各粒子がより高精度で2次元に最密充填した単粒子膜が得られる。この際、超音波の出力は1〜1200Wが好ましく、50〜600Wがより好ましい。また、超音波の周波数には特に制限はないが、例えば28kHz〜5MHzが好ましく、より好ましくは700kHz〜2MHzである。一般的に振動数が高すぎると、水分子のエネルギー吸収が始まり、水面から水蒸気または水滴が立ち上る現象が起きるため、本発明のLB法にとって好ましくない。また、一般的に振動数が低すぎると、下層水中のキャビテーション半径が大きくなり、水中に泡が発生して水面に向かって浮上してくる。このような泡が単粒子膜の下に集積すると、水面の平坦性が失われるため本発明の実施に不都合となる。また、超音波照射によって水面に定常波が発生する。いずれの周波数でも出力が高すぎたり、超音波振動子と発信機のチューニング条件によって水面の波高が高くなりすぎたりすると、単粒子膜が水面波で破壊されるため気をつける必要がある。
【0039】
以上のことに留意して超音波の周波数を適切に設定すると、形成されつつある単粒子膜を破壊することなく、効果的に粒子の最密充填を促進することができる。効果的な超音波照射を行うためには、粒子の粒径から計算される固有振動数を目安にするのが良い。しかし、粒径が例えば100nm以下など小さな粒子になると固有振動数は非常に高くなってしまうため、計算結果のとおりの超音波振動を与えるのは困難になる。このような場合は、粒子2量体、3量体、・・・20量体程度までの質量に対応する固有振動を与えると仮定して計算を行うと、必要な振動数を現実的な範囲まで低減させることが出来る。粒子の会合体の固有振動数に対応する超音波振動を与えた場合でも、粒子の充填率向上効果は発現する。超音波の照射時間は、粒子の再配列が完了するのに十分であればよく、粒径、超音波の周波数、水温などによって所要時間が変化する。しかし通常の作成条件では10秒間〜60分間で行うのが好ましく、より好ましくは3分間〜30分間である。
超音波照射によって得られる利点は粒子の最密充填化(ランダム配列を6方最密化する)の他に、ナノ粒子分散液調製時に発生しやすい粒子の軟凝集体を破壊する効果、一度発生した点欠陥、線欠陥、または結晶転移などもある程度修復する効果がある。
【0040】
以上説明した単粒子膜の形成は、粒子の自己組織化によるものである。その原理は、粒子が集結すると、その粒子間に存在する分散媒に起因して表面張力が作用し、その結果、粒子同士はランダムに存在するのではなく、2次元的最密充填構造を自動的に形成するというものである。このような表面張力による最密充填は、別の表現をすると横方向の毛細管力による配列化ともいえる。
特に、例えばコロイダルシリカのように、球形であって粒径の均一性も高い粒子が、水面上に浮いた状態で3つ集まり接触すると、粒子群の喫水線の合計長を最小にするように表面張力が作用し、図1に示すように、3つの粒子Pは図中Tで示す正三角形を基本とする配置で安定化する。仮に、喫水線が粒子群の頂点にくる場合、すなわち、粒子Pが液面下に潜ってしまう場合には、このような自己組織化は起こらず、単粒子膜は形成されない。よって、粒子と下層水は、一方が疎水性である場合には他方を親水性にして、粒子群が液面下に潜ってしまわないようにすることが重要である。
下層水としては、以上の説明のように水を使用することが好ましく、水を使用すると、比較的大きな表面自由エネルギーが作用して、一旦生成した粒子の最密充填配置が液面上に安定的に持続しやすくなる。
【0041】
(移行工程)
単粒子膜形成工程により液面上に形成された単粒子膜を、ついで、単層状態のまま曲面または段差を含む非平面基板上に移し取る(移行工程)。非平面基板は曲面、傾斜、段差等の非平面形状を一部もしくは全部に含んでいる。また、前記非平面基板上には曲面や傾斜や段差など非平面である凹凸部分が存在するが、それらの凹凸の平面方向のピッチまたは大きさは0.1μm〜10000μmである。すなわち、この凹凸は周期構造でも非周期(ランダム)構造であってもよく、例として、マイクロレンズアレイ、回折格子、防眩性を有する表面(水平方向に数μm〜数十μmの凹凸が表面加工されたもの)などが挙げられる。共通の特徴として、レジスト樹脂等をスピンコーティング法などで塗工すると、凹凸の凹部分に樹脂が厚くつき凸部分に樹脂が薄くつく程度の大きさの非平面構造を有する点が挙げられる。例えば虫眼鏡等大きな凹凸構造に樹脂をコーティングする場合は、ほぼ平面に対する施工と考えることが出来るので、前述のように凹凸の形状によって局所的に発生する塗工厚さのムラは顕著ではない。本発明が対象とする非平面構造の凹凸の大きさは、その形状によって均一なコーティングが困難になる大きさを指すのである。
【0042】
一方、微細粒子から見てもこのような凹凸構造は十分変化に富んでいるが、本発明の単粒子膜は見事に形状に追従しながら表面を単層で被覆することが出来る。本発明の単粒子膜は、基板が平面でなくても2次元的な最密充填状態を維持しつつ凹凸のある基板表面の形状に追従し、その面形状を変形させ、完全に被覆することが可能である。凹凸形状に追従する際、単粒子膜内では粒子結晶面での滑り現象が起き、その形状を2次元から3次元へ自在に変形させるものと考えられる。単粒子膜を基板上に移し取る具体的な方法には特に制限はなく、例えば、疎水性の非平面基板を単粒子膜に対して略平行な状態に保ちつつ、上方から降下させて単粒子膜に接触させ、ともに疎水性である単粒子膜と基板との親和力により、単粒子膜を基板に移行させ、移し取る方法;単粒子膜を形成する前にあらかじめ水槽の下層水内に非平面基板を略水平方向に配置しておき、単粒子膜を液面上に形成した後に液面を徐々に降下させることにより、基板上に単粒子膜を移し取る方法などがある。これらの方法によれば、特別な装置を使用せずに単粒子膜を非平面基板上に移し取ることができるが、より大面積の単粒子膜であっても、その2次的な最密充填状態を維持したまま非平面基板上に移し取りやすい点で、いわゆるLBトラフ法を採用することが好ましい。
【0043】
図2は、LBトラフ法の概略を模式的に示すものである。この方法では、水槽内の下層水12に基板11をあらかじめ略鉛直方向に浸漬しておき、その状態で上述の滴下工程と単粒子膜形成工程とを行い、単粒子膜Fを形成する(図2(a))。そして、単粒子膜形成工程後に、非平面基板11を上方に引き上げることによって、単粒子膜Fを非平面基板11の形状に追従させながら移し取ることができる(図2(b))。ここで単粒子膜Fは、単粒子膜形成工程により液面上ですでに単層の状態に形成されているため、移行工程の温度条件(下層水の温度)や非平面基板11の引き上げ速度などが多少変動しても、移行工程において単粒子膜Fが崩壊して多層化するなどのおそれはない。なお、下層水の温度は、通常、季節や天気により変動する環境温度に依存し、ほぼ10〜30℃程度である。
【0044】
また、この際、水槽として、単粒子膜Fの表面圧を計測する図示略のウィルヘルミープレート等を原理とする表面圧力センサーと、単粒子膜Fを液面に沿う方向に圧縮する図示略の可動バリアとを具備するLBトラフ装置を使用すると、より大面積の単粒子膜Fをより安定に非平面基板11上に移し取ることができる。このような装置によれば、単粒子膜Fの表面圧を計測しながら、単粒子膜Fを好ましい拡散圧(密度)に圧縮でき、また、非平面基板11の方に向けて一定の速度で移動させることができる。そのため、単粒子膜Fの液面から非平面基板11上への移行が円滑に進行し、小面積の単粒子膜Fしか非平面基板上に移行できないなどのトラブルが生じにくい。好ましい拡散圧は、5〜80mNm−1であり、より好ましくは10〜40mNm−1である。このような拡散圧であると、各粒子がより高精度で2次元に最密充填した単粒子膜Fが得られやすい。また、非平面基板11を引き上げる速度は、0.5〜20mm/分が好ましい。下層水の温度は、上述したように、通常10〜30℃である。なお、LBトラフ装置は、市販品として入手することができる。
【0045】
曲面や段差を含む非平面基板の材質としては、その用途などに応じて適宜選択できるが、例えば、シリコン、ガリウム砒素などの半導体、アルミニウム、鉄、銅などの金属、ガラス、石英ガラス、マイカ、サファイア(Al2O3)等の金属酸化物、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロース等の高分子材料などが挙げられる。また、非平面基板の表面を他の材質でコーティングしてもよいし、化学的に変質させてもよい。例えば、後のエッチング工程により得られた微細構造体をそのまま反射防止体として使用する場合には、基板の材質としてガラス、石英ガラス、透明性を備えた高分子材料などの透明体が好ましく、反射防止体を製造するためのナノインプリント用モールドの原版として使用する場合には、非平面基板の材質として石英ガラス、シリコンなど、エッチング対象物として広く使用されているものが好ましい。
【0046】
このような移行工程により、非平面基板上に単粒子膜エッチングマスクを形成することができるが、移行工程の後には、形成された単粒子膜エッチングマスクを非平面基板上に固定するための固定工程を行ってもよい。単粒子膜を非平面基板上に固定することによって、後述のエッチング工程中に粒子が非平面基板上を移動してしまう可能性が抑えられ、より安定かつ高精度にエッチングすることができる。特に、各粒子の直径が徐々に小さくなるエッチング工程の最終段階になると、このような可能性が大きくなる。
【0047】
固定工程の方法としては、バインダーを使用する方法や焼結法がある。
バインダーを使用する方法では、単粒子膜エッチングマスクが形成された非平面基板の該単粒子膜側にバインダー溶液を供給して単粒子膜エッチングマスクと非平面基板との間にこれを浸透させる。
バインダーの使用量は、単粒子膜エッチングマスクの質量の0.001〜0.02倍が好ましい。このような範囲であれば、バインダーが多すぎて粒子間にバインダーが詰まってしまい、単粒子膜エッチングマスクの精度に悪影響を与えるという問題を生じることなく、十分に粒子を固定することができる。バインダー溶液を多く供給してしまった場合には、バインダー溶液が浸透した後に、スピンコーターを使用したり、非平面基板を傾けたりして、バインダー溶液の余剰分を除去すればよい。
バインダーとしては、先に疎水化剤として例示した金属アルコキシシランや一般の有機バインダー、無機バインダーなどを使用でき、バインダー溶液が浸透した後には、バインダーの種類に応じて、適宜加熱処理を行えばよい。金属アルコキシシランをバインダーとして使用する場合には、40〜80℃で3〜60分間の条件で加熱処理することが好ましい。
【0048】
焼結法を採用する場合には、単粒子膜エッチングマスクが形成された非平面基板を加熱して、単粒子膜エッチングマスクを構成している各粒子を非平面基板に融着させればよい。加熱温度は粒子の材質と非平面基板の材質に応じて決定すればよいが、粒径が1μmφ以下の粒子はその物質本来の融点よりも低い温度で界面反応を開始するため、比較的低温側で焼結は完了する。加熱温度が高すぎると、粒子の融着面積が大きくなり、その結果、単粒子膜エッチングマスクとしての形状が変化するなど、精度に影響を与える可能性がある。また、加熱を空気中で行うと、基板や各粒子が酸化する可能性があるため、後述のエッチング工程では、このような酸化の可能性を考慮して、エッチング条件を設定することが必要となる。
【0049】
このように、単粒子膜エッチングマスクを製造する方法は、溶剤中に粒子が分散した分散液を水槽内の液面に滴下する滴下工程と、溶剤を揮発させることにより粒子からなる単粒子膜を形成する単粒子膜形成工程と、形成された単粒子膜を非平面基板上に移し取る移行工程とを有するものであるので、単層化の精度、操作の簡便性、大面積化への対応、再現性などを兼ね備え、例えばNature, Vol.361, 7 January, 26(1993)などに記載されている液体薄膜法や特許文献1などに記載されているいわゆる粒子吸着法に比べて非常に優れ、工業生産レベルにも対応できる。
【0050】
[微細構造体とその製造方法]
このように単粒子膜エッチングマスクが片面に設けられた基板を気相エッチングして表面加工する(エッチング工程)ことにより、基板の片面に円錐状微細突起を多数形成することができる。具体的には、気相エッチングを開始すると、まず図3(a)に示すように、単粒子膜Fを構成している各粒子Pの隙間をエッチングガスが通り抜けて基板11の表面に到達し、その部分に溝が形成され、各粒子Pに対応する位置にそれぞれ円柱11'が現れる。引き続き気相エッチングを続けると、各円柱11'上の粒子Pも徐々にエッチングされて小さくなり、同時に、基板11の溝もさらに深くなっていく(図3(b))。そして、最終的には各粒子Pはエッチングにより消失し、それとともに基板11の片面に多数の円錐状微細突起が形成される(図3(c))。
【0051】
こうして得られた微細構造体Cは、そのまま、光学レンズ、マイクロレンズアレイ、回折格子、凹凸のあるプラスチックボディ、凹凸のある照明器具、光拡散フィルム表面や光拡散板表面、各種表示窓、凹凸のある道路・交通標識や看板を構成する光学材料などの表面に適用する反射防止体として使用できるし、このような反射防止体を製造するためのナノインプリント用モールドの原版として使用することもできる。
反射防止用途の微細構造体においては、光学的な散乱を抑制し、反射防止効果を十分に発揮する観点から、各円錐状微細突起の円形底面の直径を3〜380nmに形成することが好ましく、そのためには、先に述べたとおり、単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子として、平均粒径Aが3〜380nmのものを使用すればよい。また、各円錐状微細突起の高さは好ましくは100nm以上であり、アスペクト比(高さ/円形底面の直径)は好ましくは0.5以上である。このような高さ、アスペクト比であれば、円錐状微細突起が形成された部分において十分な屈折率傾斜効果が得られ、円錐状微細突起側から入射しようとする入射光のフレネル反射を効果的に抑制できる。
好ましい円錐状微細突起の高さは少なくとも50nm以上、好ましくは152nm以上、さらに好ましくは500nm以上、である。先に述べたように、微細突起物の高さは対象とする波長の0.4倍以上に設定すると優れた反射防止効果が得られるので、可視光の波長下限380nmの0.4倍である152nm以上の高さを有することが好ましい。一方、微細構造体がそのまま反射防止体用途で使用される場合には、好ましいアスペクト比の上限は10であり、ナノインプリントまたは射出成型用モールドの原版として使用される場合には、好ましいアスペクト比の上限は5.0である。
【0052】
気相エッチングに使用するエッチングガスとしては、例えば、Ar、SF6、F2、CF4、C4F8、C5F8、C2F6、C3F6、C4F6、CHF3、CH2F2、CH3F、C3F8、Cl2、CCl4、SiCl4、BCl2、BCl3、BC2、Br2、Br3、HBr、CBrF3、HCl、CH4、NH3、O2、H2、N2、CO、CO2などが挙げられるが、本発明の趣旨を実行するためであればこれらに限定されることは無い。単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子や基板の材質などに応じて、これらのうちの1種以上を使用できる。
【0053】
気相エッチングは、基板の水平方向よりも垂直方向のエッチング速度が大きくなる異方性エッチングで行う。使用可能なエッチング装置としては、反応性イオンエッチング装置、イオンビームエッチング装置などの異方性エッチングが可能なものであって、最小で20W程度のバイアス電場を発生できるものであれば、プラズマ発生の方式、電極の構造、チャンバーの構造、高周波電源の周波数等の仕様には特に制限ない。
【0054】
異方性エッチングをするためには、単粒子膜エッチングマスクと基板のエッチング速度が異なる必要があり、エッチング選択比(基板のエッチング速度/単粒子膜エッチングのエッチング速度)が好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上となるようにエッチングの各条件(単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子の材質、基板の材質、エッチングガスの種類、バイアスパワー、アンテナパワー、ガスの流量と圧力、エッチング時間など)を設定することが好適である。
【0055】
例えば、単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子として金粒子を選択し、基板としてガラス基板を選択してこれらを組み合わせた場合、エッチングガスにCF4、CHF3などのガラスと反応性のあるものを用いると、金粒子のエッチング速度が相対的に遅くなり、ガラス基板のほうが選択的にエッチングされる。
単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子としてコロイダルシリカ粒子を選択し、基板としてPET基板を選択してこれらを組み合わせた場合、エッチングガスにArなどの不活性ガスを用いることで、比較的柔らかいPET基板を選択的に物理エッチングすることができる。
また、電場のバイアスを数十から数百Wに設定すると、プラズマ状態にあるエッチングガス中の正電荷粒子は、加速されて高速でほぼ垂直に基板に入射する。よって、基板に対して反応性を有する気体を用いた場合は、垂直方向の物理化学エッチングの反応速度を高めることができる。
基板の材質とエッチングガスの種類の組み合わせによるが、気相エッチングでは、プラズマによって生成したラジカルによる等方性エッチングも並行して起こる。ラジカルによるエッチングは化学エッチングであり、エッチング対象物のどの方向にも等方的にエッチングを行う。ラジカルは電荷を持たないためバイアスパワーの設定でエッチング速度をコントロールすることはできず、エッチングガスのチャンバー内濃度(流量)で操作することができる。荷電粒子による異方性エッチングを行うためにはある程度のガス圧を維持しなければならないので、反応性ガスを用いる限りラジカルの影響はゼロに出来ない。しかし、基材を冷却することでラジカルの反応速度を遅くする手法は広く用いられており、その機構を備えた装置も多いので、利用することが好ましい。
【0056】
また、得られた微細構造体を反射防止体として使用したり、反射防止体を製造するためのナノインプリントまたは射出成型用モールドの原版として使用したりする場合には、形成される突起の形状は円錐状である必要がある。ところが、実際のエッチング工程においては、図3に示したように突起の形状が円柱状から円錐状に変化していく過程で、円錐の側面(側壁)がエッチングされてしまい、その結果、形成される円錐状微細突起は、側壁の傾斜が大きく、かつ、隣り合う円錐間の溝の縦断面形状がV字ではなくU字となってしまう傾向がある。このような形状になると、十分な屈折率傾斜効果を発揮できず、入射光のフレネル反射の抑制が不十分となる可能性がある。よって、本エッチング工程においては、いわゆるボッシュ法を採用するなどして、エッチングによって形成した側壁を保護しながらアスペクト比を向上させ、突起の形状を理想的な円錐状に近づけることが好ましい。
【0057】
すなわち、C4F8、C5F8、C2F6、C3F6、C4F6、CHF3、CH2F2、CH3F、C3F8をはじめとするフロン系のエッチングガスは、プラズマ状態で分解された後、分解物同士が結合することで高分子化し、テフロン(登録商標)のような物質からなる堆積膜をエッチング対象物の表面に形成することが知られている。このような堆積膜はエッチング耐性があるため、エッチング保護膜として作用する。また、基板がシリコン基板であって、かつ、使用するエッチングガスがシリコンに対してエッチング選択比が高いものである場合には、O2をエッチングガスの一部として導入することで、エッチングによって形成された側壁をSiO2の保護膜に変性することができる。また、エッチングガスとしてCH4とH2の混合ガスを用いることで、炭化水素系のエッチング保護膜が得られる条件も設定できる。
よって、このようにエッチングガスの種類を適宜選択するなどして、エッチング保護膜を形成しながらエッチング工程を行うことが、より理想的な形状の円錐状微細突起を形成できる点で好ましい。
【0058】
こうして得られた微細構造体について、先に述べた単粒子膜エッチングマスクにおける粒子間の平均ピッチBを求める方法と同様にして、その円錐状微細突起の配列の平均ピッチCを求めると、この平均ピッチCは、使用した単粒子膜エッチングマスクの平均ピッチBとほぼ同じ値となる。また、配列の平均ピッチCは、円錐状微細突起の円形底面の直径dの平均値に相当する。さらに、この微細構造体について、下記式(2)で定義される配列のずれD'(%)を求めると、その値も10%以下となる。
D'[%]=|C−A|×100/A・・・(2)
ただし、式(2)中、Aは使用した単粒子膜エッチングマスクを構成する粒子の平均粒径である。
【0059】
[ナノインプリントまたは射出成型用モールドとその製造方法]
微細構造体をナノインプリントまたは射出成型用モールドの原版とし、ナノインプリントまたは射出成型用モールドを製造する場合には、例えば、微細構造体の円錐状微細突起が表面に形成された曲面や段差を含む非平面に金属層を形成した後、この金属層を剥離することにより、微細構造体の円錐状微細突起を金属層に転写する(転写工程)。その結果、表面に円錐状微細突起を備えた非平面の金属層が得られ、これをナノインプリントまたは射出成型用モールドとして使用することができる。
【0060】
微細構造体の円錐状微細突起が形成された非平面に金属層を形成する方法としては、めっき法が好ましく、具体的には、まず、ニッケル、銅、金、銀、白金、チタン、コバルト、錫、亜鉛、クロム、金・コバルト合金、金ニッケル合金、はんだ、銅・ニッケル・クロム合金、錫ニッケル合金、ニッケル・パラジウム合金、ニッケル・コバルト・りん合金などから選ばれる1種以上の金属により無電解めっきまたは蒸着を行い、ついで、これらの金属から選ばれる1種以上の金属により電解めっきを行って、金属層の厚さを増加させる方法が好ましい。
【0061】
無電解めっきまたは蒸着により形成する金属層の厚みは、10nm以上が好ましく、より好ましくは100nm以上である。ただし、導電層には、一般的には50nmの厚さが必要とされる。膜厚をこのようにすると、次に行われる電解めっきの工程で、被めっき面内電流密度の偏りを抑制でき、均一な厚さのナノインプリントまたは射出成型用モールドが得られやすくなる。
次に行う電解めっきでは、金属層の厚さを最終的に10〜3000μmまで厚くし、その後、金属層を原版から剥がし取ることが好ましい。電解めっきにおける電流密度には特に制限はないが、ブリッジの発生を抑制して均一な金属層を形成でき、かつ、このような金属層を比較的短時間で形成できることから、0.03〜10A/m2が好ましい。
また、ナノインプリントまたは射出成型用モールドとしての耐摩耗性、剥離・貼合時のリワーク性などの観点からは、金属層の材質はニッケルが好ましく、最初に行う無電解めっきまたは蒸着、その後に行う電解めっきの両方について、ニッケルを採用することが好ましい。
【0062】
[ナノインプリントまたは射出成型装置とナノインプリントまたは射出成型物]
こうして製造されたナノインプリントまたは射出成型用の非平面モールドを具備するナノインプリントまたは射出成型装置によれば、高精度に円錐状微細突起が形成され、反射防止体に好適なナノインプリントまたは射出成型物(微細構造体)を再現性よく安定に大量生産することができる。
ナノインプリントまたは射出成型装置の方式には特に制限はなく、加熱され軟化した熱可塑性樹脂製の基材に対してナノインプリント用非平面モールドを押圧し、その後、基材を冷却してからナノインプリン用非平面モールドを基材から離すことによって、ナノインプリント用非平面モールドに形成されている微細パターンを基材に転写する熱インプリント方式、未硬化の光硬化性樹脂の基材に対してナノインプリント用非平面モールドを押圧し、その後、紫外線を照射して光硬化性樹脂を硬化してからナノインプリン用非平面モールドを基材から離すことによって、ナノインプリント用非平面モールドに形成されている微細パターンを基材に転写する光(UV)インプリント方式、溶融した樹脂を非平面モールドに高圧で射出流入し、その後非平面モールドごと冷却する工程を経て非平面モールドを離型し、射出成型用非平面モールドに形成されている微細パターンを成型物表面に転写する射出成型方式、など公知の方式を採用できる。
熱インプリント方式のナノインプリント装置は、プレス手段を具備したナノインプリント用非平面モールドと、基材の温度を制御する温度制御手段とを備えて概略構成され、光インプリント方式のナノインプリント装置は、プレス手段を具備したナノインプリント用非平面モールドと、基材に紫外線を照射する紫外線照射手段とを備えて概略構成される。また、射出成型装置は密閉型金型を射出成形機にセットし、射出成形機により、型締め、プラスチック材料の溶融、閉じた金型の空洞部に対しての加圧注入、冷却工程を行う機構を備えることにより概略構成される。
【0063】
以上説明したように、上述の単粒子膜エッチングマスクは、単粒子膜を構成する各粒子が2次元に最密充填し、高精度に配列したものであるので、これを使用することによって、高精度な反射防止体やナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドの原版などの微細構造体を製造することができる。特にナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドの原版を製造した場合には、これを用いてナノインプリントまたは射出成型用非平面モールドを製造し、これを備えたナノインプリントまたは射出成型装置を使用することによって、反射防止体などのナノインプリントまたは射出成型物(微細構造体)を再現性よく安定に大量生産でき、工業的にも好適である。
【実施例】
【0064】
[実施例1]
平均粒径が298.2nmで、粒径の変動係数が6.7%である球形コロイダルシリカの5.0質量%水分散体(分散液)を用意した。なお、平均粒径および粒径の変動係数は、Malvern Instruments Ltd 社製 Zetasizer Nano-ZSによる粒子動的光散乱法で求めた粒度分布をガウス曲線にフィッティングさせて得られるピークから求めた。
ついで、この分散液を孔径1.2μmφのメンブランフィルターでろ過し、メンブランフィルターを通過した分散液に濃度1.0質量%のフェニルトリエトキシシランの加水分解物水溶液を加え、約40℃で3時間反応させた。この際、フェニルトリエトキシシランの質量がコロイダルシリカ粒子の質量の0.02倍となるように分散液と加水分解水溶液とを混合した。
ついで、反応終了後の分散液に、この分散液の体積の4倍の体積のメチルエチルケトンを加えて十分に攪拌して、疎水化されたコロイダルシリカを油相抽出した。
【0065】
こうして得られた濃度0.91質量%の疎水化コロイダルシリカ分散液を、単粒子膜の表面圧を計測する表面圧力センサーと、単粒子膜を液面に沿う方向に圧縮する可動バリアとを備えた水槽(LBトラフ装置)中の液面(下層水として水を使用、水温25℃)に滴下速度0.01ml/秒で滴下した。なお、水槽の下層水には、あらかじめ非平面基板としてマイクロレンズアレイ(シリコン製、レンズピッチ4.2μm、レンズ高1.0μm、基板厚さ0.5mm、チップサイズ10×10mm)を略鉛直方向に浸漬しておいた。
その後、超音波(出力100W、周波数1500kHz)を下層水中から水面に向けて10分間照射して粒子が2次元的に最密充填するのを促しつつ、分散液の溶剤であるメチルエチルケトンを揮発させ、単粒子膜を形成させた。
ついで、この単粒子膜を可動バリアにより拡散圧が25mNm−1になるまで圧縮し、マイクロレンズアレイを3mm/分の速度で引き上げ、基板の片面上に移し取った。
ついで、単粒子膜が形成されたマイクロレンズアレイ上にバインダーとして1質量%モノメチルトリメトキシシランの加水分解液を浸透させ、その後、加水分解液の余剰分をスピンコーター(3000rpm)で1分間処理して除去した。その後、これを100℃で10分間加熱してバインダーを反応させ、コロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスク付きのシリコン基板を得た。
図4に示すように、本発明による方法ではマイクロレンズアレイの凹部においても単粒子膜を良好に作製することが可能であった。
【0066】
一方、この単粒子膜エッチングマスクについて、10μm×10μmの領域を無作為に1カ所選択して、その部分の原子間力顕微鏡イメージを得て、ついで、このイメージをフーリエ変換により波形分離し、FFT像を得た。ついで、FFT像のプロファイルにおける0次ピークから1次ピークまでの距離を求め、さらにその逆数を求めた。この逆数がこの領域における粒子間の平均ピッチB1である。
このような処理を合計25カ所の10μm×10μmの領域について同様に行い、各領域における平均ピッチB1〜B25を求め、これらの平均値を算出し、式(1)における平均ピッチBとした。なお、この際、隣り合う各領域同士が5mm〜1cm程度離れるように各領域を設定した。
算出された平均ピッチBは、表1に示すように、302.3nmであった。
そこで、粒子の平均粒径A=298.2nmと、平均ピッチB=302.3nmとを式(1)に代入したところ、この例の単粒子膜エッチングマスクにおける粒子の配列のずれDは表1に示すように1.37%であった。
【0067】
ついで、単粒子膜エッチングマスク付き基板に対して、SF6:CH2F2=25:75〜75:25の混合ガスにより気相エッチングを行った。エッチング条件は、アンテナパワー1500W、バイアスパワー50〜300W、ガス流量30〜50sccmとした。得られた微細構造体は、図8に模式的に示すような縦断面形状を備え、原子間力顕微鏡イメージから実測した円錐状微細突起の平均高さhは380nmで、単粒子膜エッチングマスクについて実施した方法と同じ方法で求めた円錐状微細突起の配列の平均ピッチC(円形底面の平均直径d)は301.5nmで、これらから算出されるアスペクト比は1.26であった。
なお、円錐状微細突起の平均高さhは次のように求めた。まず、微細構造体において無作為に選択された5μm×5μmの領域1カ所について原子間力顕微鏡イメージを得て、ついで、イメージの対角線方向に沿うプロファイルを作製した。そして、そこに現れた凹凸の平均値を求めた。このような処理を無作為に選択された合計25カ所の5μm×5μmの領域について同様に行い、各領域における平均値を求めた。こうして得られた25カ所の領域における平均値をさらに平均したものを平均高さhとした。各対角線上には、23±2個の突起が含まれる。
そして、この微細構造体に対して、式(2)による円錐状微細突起の配列のずれD'を求めたところ、1.11%であった。
図5に示すように、本発明による方法ではマイクロレンズアレイの凹部においても微細突起構造を良好に作製することが可能であった。
【0068】
得られた微細構造体をナノインプリント用モールドの原版とし、円錐状微細突起が形成された表面に対して、Ni無電解めっきを行い、厚さ50nmのNi層を形成し、次いで電極治具を取り付けて8A/m3の電流密度において電解Niめっき(スルファミン酸ニッケル浴使用)を行った。最終的なNi層の厚さは約250μmになるように調節した。めっき後、微細構造体からNi層をゆるやかに剥離し、Niからなるナノインプリント用モールドを得た。
【0069】
[実施例2]
非平面基板として回折格子(シリコン製、凹凸ピッチとしてライン/スペース=2.4μm/1.2um、凹凸高さ2.2um、基板厚さ0.5mm、チップサイズ10x10mm)を用いること以外は、実施例と全く同じ操作で、コロイダルシリカの単粒子膜を基板上に作成し、粒子の配列のずれDを求めたところ、3.68%であった。図7に示すように、本発明による方法では回折格子の凹部においても単粒子膜を良好に作成することが可能であった。続くドライエッチング工程で円錐状微細突起を作成し、円錐状微細突起の配列のずれD'を求めたところ、3.50%であった。図8に示すように、本発明による方法では回折格子の凹部においても微細突起構造を良好に作成することが可能であった。
【0070】
[比較例1;粒子吸着法]
平均粒径と粒径の変動係数が実施例1と同じ球形コロイダルシリカの2.5質量%水分散体(分散液)を用意した。
ついで、この分散液を実施例1と同様に孔径1.2μmφのメンブランフィルターでろ過し、メンブランフィルターを通過した分散液に濃度3.5質量%の2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの加水分解物水溶液を加え、約30℃で24時間反応させてコロイダル粒子の表面を改質した(分散液(1))。
一方、濃度1.0質量%の3−アミノプロピルトリエトキシシランの加水分解物水溶液をマイクロレンズアレイ(シリコン製、レンズピッチ4μm、レンズ高2μm、基板厚さ0.5mm、チップサイズ10×10mm)上に2000rpmでスピンコートした後、80℃で20分加熱して、シランカップリング剤を基板表面と反応させた。
ついで、反応後のガラス基板上に上記分散液(1)を滴下速度0.01ml/秒で滴下し、2000rpmでスピンコートし、乾燥することにより、粒子を基板表面に配置した。
ついで、粒子が表面に載った基板を120℃で4時間加熱し、基板表面から1層目の粒子を選択的に基板と反応させ、2層目以上の余剰分の粒子を超音波洗浄装置により除去し、コロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスク付きのマイクロレンズアレイを得た。
【0071】
こうして形成された単粒子膜エッチングマスクについて、実施例1と同様にして平均ピッチBを求め、さらに粒子の配列のずれDを求めた。また、FFT像のプロファイルにおける1次ピーク面積(相対値)も求めた。結果を表1に示す。さらに、この単粒子膜エッチングマスク付き基板に対して、実施例1と同様にして気相エッチングを行い、基板の片面に多数の円錐状微細突起が形成された微細構造体を得た。
【0072】
こうして得られた微細構造体について、実施例1と同様にして求めた円錐状微細突起の平均高さhは397nmで、円錐状微細突起の配列の平均ピッチC(円形底面の平均直径d)は375.4nmで、これらから算出されるアスペクト比は1.06であった。
また、この微細構造体に対して、式(2)による円錐状微細突起の配列のずれD'を求めたところ、25.8%であった。
【0073】
[比較例2;液体薄膜法]
平均粒径と粒径の変動係数が実施例1と同じ球形コロイダルシリカの水分散体(分散液)を用意し、この分散液を実施例2と同様に孔径1.2μmφのメンブランフィルターでろ過した。ついで、コロイダルシリカの濃度を5.5%に調整した後、この分散液をギャップ(間隔)が約1mmとなるように略水平方向に配置された一対の平行平板(面積1×1cm)の間に注入した。そして、上側の平板(ガラス製)を毎分5〜50mmのスピードで平行移動(スライド)させ、下側の平板(上記マイクロレンズアレイ)上に単粒子膜を形成した。なお、この際、マイクロレンズアレイは、ヒーターにより約60℃に加温し、外部雰囲気(実験環境)は23℃、湿度50%の恒温恒湿にコントロールした。
ついで、単粒子膜が形成されたマイクロレンズアレイ上にバインダーとして1質量%モノメチルトリメトキシシランの加水分解液を浸透させ、その後、加水分解液の余剰分をスピンコーター(3000rpm)で1分間処理して除去した。その後、これを100℃で10分間加熱してバインダーを反応させ、コロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスク付きのマイクロレンズアレイ基板を得た。
【0074】
こうして形成された単粒子膜エッチングマスクについて、実施例2と同様にして平均ピッチBを求め、さらに粒子の配列のずれDを求めた。また、この単粒子膜エッチングマスク付き基板に対して、実施例1と同様にして気相エッチングを行い、基板の片面に多数の円錐状微細突起が形成された微細構造体を得た。
【0075】
こうして得られた微細構造体について、実施例2と同様にして求めた円錐状微細突起の平均高さhは431nmで、円錐状微細突起の配列の平均ピッチC(円形底面の平均直径d)は407.1nmで、これらから算出されるアスペクト比は1.06であった。また、この微細構造体に対して、式(2)による配列のずれD'を求めたところ、36.5%であった。
【0076】
[比較例3;電子線描画法]
公知文献 大阪府立産業技術総合研究所報告 第20号 別冊 (2006年)「反射防止構造の作成」 に紹介されている回折格子上の反射防止微細構造加工処理。回折格子上にレジスト(日本ゼオン製ZEP520 ポジ型電子線レジスト)を厚さ300nmで塗工し、電子ビーム描画装置で周期0.35μmで正方形パターンを描画(加速電圧50kV、電流値750pA)、現像によって描画箇所のレジストを溶解除去後、電子ビーム蒸着装置でクロムを25nm厚さで蒸着、レジストを剥離液で除去(リフト・オフ)することによりクロムによる逆パターンを作成する。こうして得られたクロム・パターンをマスクとして石英のドライエッチングを行い、微細突起からなる反射防止構造を作成する。
本公知文献によると、回折格子の深さが0.5μm、1.0μmでは問題なく全面にクロム・パターンが形成できたが、2.0μm以上の深さになると、回折格子の凸部の端でリフト・オフ不良が発生する。リフト・オフを行うにはレジスト膜厚がクロム膜厚より大きいことが必要であるが、凸部端はレジスト膜厚が薄くなるため回折格子の深さが2.0μm以上ではこの条件を満たさなくなるためである(図9参照)。エッチング後の反射防止構造についても、2.0μm以上の深さを持つ回折格子では凸部の端で作成不良が生じることが確認されている。
【0077】
[比較例4]
公知文献 大阪府立産業技術総合研究所報告 第20号 別冊 (2006年)「反射防止構造の作成」 に紹介されている方法で、実施例1に記載のマイクロレンズアレイ上にレジストを塗工した。その結果、図6のような塗工厚さ分布が発生し、マイクロレンズアレイ凸部では厚さ約220nm、凹部では厚さ約450nmであった。比較例3と同じ操作で微細突起構造を作成したところ、凹部で突起物の作成不良が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】単粒子膜エッチングマスクを模式的に示す平面図である。
【図2】単粒子膜エッチングマスクの製造方法の一例を示す概略図である。
【図3】微細構造体の製造方法について説明する説明図である。
【図4】実施例1で得られた単粒子膜を模式的に示す縦断面図である。
【図5】実施例1で得られた微細構造体を模式的に示す縦断面図である。
【図6】比較例4で得られたレジスト層を模式的に示す縦断面図である。
【図7】実施例2で得られた単粒子膜を模式的に示す縦断面図である。
【図8】実施例2で得られた微細構造体を模式的に示す縦断面図である。
【図9】比較例3で得られたレジスト層を模式的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0079】
P 粒子
F 単粒子膜
C 微細構造体
11 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲面、傾斜および段差など非平面である部分で面方向のピッチまたは大きさが0.1μm〜10000μmである表面が一部若しくは全部である基板上に形成する、粒子が2次元に最密充填した単粒子膜であって、
下記式(1)で定義される粒子の配列のずれD(%)が10%以下であることを特徴とする単粒子膜。
D(%)=|B−A|×100/A・・・(1)
(式(1)中、Aは前記粒子の平均粒径、Bは前記単粒子膜における前記粒子間の平均ピッチを示す。)
【請求項2】
請求項に記載の単粒子膜エッチングマスクを用い、気相エッチングで作成することを特徴とする微細構造体であって、
下記式(2)で定義される構造の配列のずれD’(%)が10%以下であることを特徴とする微細構造体。
D’(%)=|C−A|×100/A・・・(2)
(式(2)中、Aは前記粒子の平均粒径、Cは前記微細構造体における前記構造配列の平均ピッチを示す。)
【請求項3】
請求項に記載の微細構造体を用い、電鋳法で作成することを特徴とするナノインプリントまたは射出成型用モールドであって、
下記式(3)で定義される構造の配列のずれD’ ’(%)が10%以下であることを特徴とするナノインプリントまたは射出成型用モールド。
D’ ’(%)=|E−A|×100/A・・・(3)
(式(3)中、Aは前記粒子の平均粒径、Eは前記ナノインプリントまたは射出成型用モールドにおける前記構造配列の平均ピッチを示す。)
【請求項4】
請求項に記載のモールドを用い、ナノインプリントまたは射出成型法で作成することを特徴とするナノインプリント物または射出成型物であって、
下記式(4)で定義される構造の配列のずれD’ ’ ’(%)が10%以下であることを特徴とするナノインプリント物または射出成型物。
D’ ’ ’(%)=|F−A|×100/A・・・(4)
(式(4)中、Aは前記粒子の平均粒径、Fは前記ナノインプリント物または射出成型物における前記構造配列の平均ピッチを示す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−78831(P2012−78831A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215110(P2011−215110)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【分割の表示】特願2007−202500(P2007−202500)の分割
【原出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】