説明

非環状オリゴピロール化合物

【課題】非環状オリゴピロール化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1):


[Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は式:−C≡CHで、n個のR基のうち、少なくとも1つは式:−C≡CHで表される基であり、nは1〜5の整数を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は下記一般式(2):


で表される基を示し、RおよびRは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。]で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非環状オリゴピロール化合物及びその多量体に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内にピロール環を有する多種の天然化合物が知られており、特に、クロロフィル、ヘム等のπ共役系環状骨格であるポルフィリン環を有する機能性色素分子は、ピロール環の窒素部位が金属カチオンに配位し、生体内で種々の機能を発揮している。
【0003】
一方、本発明者は、2個のピロール環を1,3-プロパンジオンホウ素錯体で架橋した種々の共役系非環状オリゴピロール化合物がアニオンレセプターとして機能することを見出している(非特許文献1〜12)。一般に、非環状認識素子は、環状構造と比較して特定の化学種に対する認識能や選択性が低下するものの、分子構造の柔軟性を利用し、外部刺激等による動的な構造変化や制御が可能となるという利点を有する。
【0004】
例えば、非特許文献1〜12では、平面性を有するアニオンレセプターが積層することによって、アニオンに対して応答性を示す(構造変化等が誘起される)超分子集合体(ゲルやベシクル等のソフトマテリアル)の形成を既に実現している。また、フェニル基によって架橋されたアニオンレセプター共有結合多量体の合成も報告している。このような多量体は、アニオンと会合体を形成することによって大きくその分子構造を変え、その結果、電子状態等の物性制御が可能である。このような状況下、段階的に得られる既存の多量体合成を凌駕した、多量化が容易なレセプター単量体を開発し、その多量体への展開が必要な状況であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiromitsu Maeda and Yukio Kusunose, Dipyrrolyldiketone Difluoroboron Complexes: Novel Anion Sensors With C-H・・・X-Interactions, Chem. Eur. J. 2005, 11, 5661-5666.
【非特許文献2】Chikoto Fujimoto, Yukio Kusunose and Hiromitsu Maeda, C-H・・・Anion Interaction in BF2 Complexes of C3-Bridged Oligopyrroles, J. Org. Chem. 2006, 71, 2389-2394.
【非特許文献3】Hiromitsu Maeda and Yoshihiro Ito, BF2 Complex of Fluorinated Dipyrrolydiketone: A New Class of Efficient Receptor for Acetate Anions, Inorg. Chem. 2006, 45, 8205-8210.
【非特許文献4】Hiromitsu Maeda, Yohei Haketa, and Takeshi Nakanishi, Aryl-Substituted C3-bridged Oligopyrroles as Anion Receptors for Formation of Supramolecular Organogels, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 13661-13674.
【非特許文献5】Hiromitsu Maeda, Yukio Kusunose, Yuta Mihashi, and Tadashi Mizoguchi, BF2 Complexes of β-Tetraethyl-Substituted Dipyrrolydiketones as Anion Receptors: Potential Buliding Subunits for Oligomeric Systems, J. Org. Chem. 2007, 72, 2612-2616.
【非特許文献6】Hiromitsu Maeda, Masahiro Terasaki, Yohei Haketa, Yuta Mihashi, and Yukio Kusunose, BF2 complexes of α-alkyl-substituted dipyrrolydiketones as acyclic anion receptors, Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 433-436.
【非特許文献7】Hiromitsu Maeda, Yasunobu Fujii, and Yuta Mihashi, Diol-substituted boron complexes of dipyrrolyl diketones as anion receptors and covalently linked ‘pivotal’ dimers, Chem. Commun. 2008, 4285-4287.
【非特許文献8】Hiromitsu Maeda and Yohei Haketa, Selective iodinated dipyrrolydiketone BF2 complexes as potential building units for oligomeric systems, Org. Biomol. Chem. 2008, 6, 3091-3095.
【非特許文献9】Hiromitsu Maeda, Yuta Mihashi, and Yohei Haketa, Heteroaryl-Substituted C3-Bridged Oligopyrroles: Potential Buliding Subunits of Anion-Responsive π-Conjugated Oligomers, Org. Lett. 2008, 10, 3179-3182.
【非特許文献10】Hiromitsu Maeda, Yoshihiro Ito, Yohei Haketa, Nazuki Eifuku, Eunji Lee, Myongsoo Lee, Takeshi Hashishin, Kenji Kaneko, Solvent-Assisted Organized Structures Based on Amphiphilic Anion-Responsive p-Conjugated Systems, Chem. Eur. J. 2009, 15, in press (DOI: 10.1002/chem.200802152).
【非特許文献11】Hiromitsu Maeda, Yohei Haketa, Yuya Bando, Shohei Sakamoto, Synthesis, Properties, and Solid-State Assemblies of b-Alkyl-Substituted Dipyrrolyldiketone BF2Complexes, Synth. Met. 2009, 159, in press (DOI: 10.1016/j.synthmet.2009.01.004).
【非特許文献12】Hiromitsu Maeda, Nazuki Eifuku, Alkoxy-substituted Derivatives of p-Conjugated Acyclic Anion Receptors: Effects of Substituted Positions, Chem. Lett. 2009, 38, 208-209.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、非環状オリゴピロール化合物及びその多量体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のような従来技術に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、ピロール環を有する非環状化合物に反応性のエチニル基を導入できることを見出した。さらに、該化合物及び該化合物を多量化させて得られる多量体が、それぞれ優れたアニオンレセプターとして使用できることを見出した。本発明は、この様な知見に基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明は、下記項1〜7に記載のピロール環を有する非環状オリゴピロール化合物及びその多量体に関する。
【0008】
項1. 下記一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は式:−C≡CHで表される基を示し、n個のR基のうち、少なくとも1つは式:−C≡CHで表される基であり、nは1〜5の整数を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は下記一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、R及びnは前記に同じ。]
で表される基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。]
で表される化合物。
項2. Rが前記一般式(2)で表される基である項1に記載の化合物。
項3. 下記一般式(1A):
【0013】
【化3】

【0014】
[式中、R、R、Rは前記に同じである。]
で表される化合物である項1又は2に記載の化合物。
項4. 下記一般式(1B):
【0015】
【化4】

【0016】
[式中、R及びRは前記に同じである。]
で表される化合物である項1又は2に記載の化合物。
項5. 前記一般式(1)で表される化合物のエチニル基同士を結合して得られる多量体。
項6. 下記一般式(3A):
【0017】
【化5】

【0018】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は下記一般式(2):
【0019】
【化6】

【0020】
[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は式:−C≡CHで表される基を示し、n個のR基のうち、少なくとも1つは式:−C≡CHで表される基であり、nは1〜5の整数を示す。]
で表される基を示し、
は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。]
で表される化合物。
項7. 下記一般式(3):
【0021】
【化7】

【0022】
[式中、Rは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、mは2〜20の整数を示す。]
で表される繰り返し単位を有する多量体。
【0023】
以下、本発明の非環状オリゴピロール化合物及びその多量体について詳述する。
【0024】
非環状オリゴピロール化合物
本発明の非環状オリゴピロール化合物は、下記一般式(1):
【0025】
【化8】

【0026】
で表される化合物である。
【0027】
一般式(1)において、n個のR基は同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は式:−C≡CHで表される基を示し、少なくとも1つのR基は式:−C≡CHで表される基である。すなわち、本発明の非環状オリゴピロール化合物は、その分子内に少なくとも1つのエチニル基を有する。nは1〜5の整数を示す。好ましいnは1〜3の整数であり、より好ましいnは1である。
【0028】
のアルキル基は、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
前記一般式(1)において、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は下記一般式(2):
【0030】
【化9】

【0031】
で表される基を示す。一般式(2)のアルキル基は、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。また、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R及びnは前記一般式(1)と同じである。
【0032】
一般式(1)において、Rが上記一般式(2)で表される化合物である場合、本発明の非環状オリゴピロール化合物は、その分子内に少なくとも2つのエチニル基を有する。
【0033】
一般式(1)において、4つのRは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。好ましいRは、水素原子又は炭素数1〜4の直鎖アルキル基であり、より好ましいRは、水素原子、メチル基又はエチル基である。
【0034】
は水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。好ましいRは水素原子又はメチル基であり、より好ましいRは水素原子である。
【0035】
一般式(1)において、nが1の場合、一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1A)で表される。
【0036】
【化10】

【0037】
一般式(1A)において、R、R、Rは前記一般式(1)と同じものである。
【0038】
また、一般式(1)において、nが1であり、Rが前記一般式(2)で表される基である場合、本発明の非環状オリゴピロール化合物は、下記一般式(1B)で表される。
【0039】
【化11】

【0040】
一般式(1B)において、R及びRは前記一般式(1)と同じものである。
【0041】
前記一般式(1)等で表される非環状オリゴピロール化合物(以下、単量体アニオンレセプターということがある)において、フェニル基上のエチニル基は、3位、4位、5位の少なくとも1つに結合していることが好ましい。また、一般式(1A)又は(1B)のように、フェニル基上にエチニル基が1つ結合した化合物である場合は、エチニル基は3位又は4位に結合していることが好ましい。
【0042】
本発明の好ましい単量体アニオンレセプターは、下記一般式(1C)〜(1G)で表される化合物である。
【0043】
【化12】

【0044】
一般式(1C)及び(1D)において、R、R及びRは前記一般式(1)と同じものである。
【0045】
【化13】

【0046】
一般式(1E)、(1F)及び(1G)において、R及びRは前記一般式(1)と同じものである。
【0047】
本発明においては、前記一般式(1)等に含まれるエチニル基同士を反応(結合)させることにより、種々の多量体を得ることができる。例えば、分子内にエチニル基を1つしか有しない化合物同士を反応させると、二量体となる。また、分子内に2以上のエチニル基を有する化合物を反応させることによって、さらに多量化した多量体を得ることもできる。分子内にエチニル基を1つしか有しない化合物と分子内に2以上のエチニル基を有する化合物とを適当な比で混合して反応させることにより、多量化の程度を調節することができる。
【0048】
非環状オリゴピロール化合物の製造方法
本発明の前記一般式(1)等で表される非環状オリゴピロール化合物は、例えば、以下の方法により合成できる。
【0049】
まず、例えば非特許文献1に記載の方法で、ピロール誘導体、マロニルクロリド、BF・OEtから下記一般式で表される化合物を得る。
【0050】
【化14】

【0051】
[式中、R及びRは前記に同じである。]
得られた化合物のピロール環の1箇所又は2箇所を、例えば非特許文献8の方法でヨウ素化し、下記式で表される化合物を得る。
【0052】
【化15】

【0053】
[式中、R及びRは前記に同じである。]
該ヨウ素化された化合物を、1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボラン-2-イル)-3-または-4-[2-(トリイソプロピルシリル)エチニル]ベンゼン、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド、炭酸セシウム共存下、ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒中混在させる。反応混合物を加熱攪拌した後、冷却し、水とジクロロメタンで分液を行う。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー及び再結晶によって、トリイソプロピルシリルエチニル置換された下記一般式で表される化合物を得る。なお、加熱温度は、通常70〜80℃程度、加熱時間は、16〜24時間程度とすればよい。
【0054】
【化16】

【0055】
[式中、R及びRは前記に同じである。]
得られた化合物とテトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物を共存させ、テトラヒドロフランを溶媒中、室温で攪拌する。溶液を水で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー及び再結晶によって、エチニル置換された前記一般式(1)等で表される化合物が得られる。
【0056】
非環状オリゴピロール化合物の多量体
前記の通り、本発明においては、一般式(1)等で表される非環状オリゴピロール化合物に含まれるエチニル基を利用することにより、種々の多量体(以下、多量体アニオンレセプターということがある)が得られる。
【0057】
例えば、前記一般式(1A)で表される非環状オリゴピロール化合物を二量化した場合、下記一般式(3A):
【0058】
【化17】

【0059】
で表される多量体が得られる。一般式(3A)において、R、R及びRは前記一般式(1)のものと同じである。
【0060】
また、例えば、一般式(1B)のように分子内に2つのエチニル基を有する化合物を反応させた場合、下記一般式(3):
【0061】
【化18】

【0062】
で表される繰り返し単位を有する多量体が得られる。一般式(3)において、R及びRは前記一般式(1)のものと同じである。また、mは、多量化の条件により適宜設定できるが、通常2〜20の整数、好ましくは2〜10の整数である。
【0063】
非環状オリゴピロール化合物の多量体の製造方法
本発明において、前記一般式(1)等で表される化合物の多量化条件は特に限定されず、従来公知の方法によって多量化することができる。例えば、以下のような方法により本発明の多量体アニオンレセプターが得られる。
【0064】
エチニル置換された前記一般式(1)等で表される化合物を出発原料とし、酢酸パラジウム、ヨウ化銅(I)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン共存下、乾燥アセトニトリルに混在させ、室温で攪拌する。溶液を水とジクロロメタンで分液抽出し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー及び再結晶することによって、本発明の非環状オリゴピロール化合物の多量体(ジエチニル架橋多量体)が得られる。なお、三量体以上の多量体の場合は、分液抽出のみで精製することが好ましい。
【0065】
非環状オリゴピロール化合物及びその多量体の特性・用途等
本発明の非環状オリゴピロール化合物(単量体アニオンレセプター)は、ジクロロメタン溶液において500nm前後に吸収帯を有し、発光(蛍光)する。また、ジクロロメタン等の有機溶媒中において、各種アニオンに対して高い会合定数を有する。本発明の単量体アニオンレセプターは、アニオンとの会合体形成によって、吸収及び発光挙動が変化するので、アニオンレセプターとして有用である。
【0066】
本発明の単量体アニオンレセプターが会合するアニオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、酢酸イオン、リン酸二水素イオン、硫酸水素イオン等が挙げられる。
【0067】
例えば、アニオンが塩化物イオンである場合(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩)、一般式(1)等で表される単量体アニオンレセプターのRがエチル基、Rが水素原子である化合物であれば、会合定数は1000〜10000M−1程度を示す。
【0068】
アニオンが臭化物イオンである場合(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩)、一般式(1)等で表される単量体アニオンレセプターのRがエチル基、Rが水素原子である化合物であれば、会合定数は300〜1000M−1程度を示す。
【0069】
アニオンが酢酸イオンである場合(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩)、一般式(1)等で表される単量体アニオンレセプターのRがエチル基、Rが水素原子である化合物であれば、会合定数は70000〜140000M−1程度を示す。
【0070】
アニオンがリン酸二水素イオンである場合(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩)、一般式(1)等で表される単量体アニオンレセプターのRがエチル基、Rが水素原子である化合物であれば、会合定数は5000〜70000M−1程度を示す。
【0071】
アニオンが硫酸水素イオンである場合(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩)、一般式(1)等で表される単量体アニオンレセプターのRがエチル基、Rが水素原子である化合物であれば、会合定数は50〜300M−1程度を示す。
【0072】
多量体アニオンレセプター、例えば二量体アニオンレセプターは、ジクロロメタン溶液において500 nm前後に吸収帯を有し、発光(蛍光)する。
【0073】
また、本発明の多量体アニオンレセプターも各種アニオンに対する高い会合定数を有する。
【0074】
本発明の多量体アニオンレセプターが会合するアニオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、酢酸イオン、リン酸二水素イオン、硫酸水素イオン等が挙げられる。
【0075】
本発明の多量体アニオンレセプターが、単量体アニオンレセプターをメタ位で結合した二量体の場合は、濃度や温度の条件を適宜調整することによって、レセプター部位とアニオンとが2:2で会合した集合体を形成し得る。本発明の多量体アニオンレセプターは、アニオンが会合する部位を複数有するので、アニオンをより効率的に会合することができる。
【0076】
例えば、二量体であれば、1:2会合において、通常、会合定数 1000000〜10000000M−2程度を示す。
【0077】
また、多量化が進むと、多量体アニオンレセプターの有機溶媒に対する溶解性が低下し、フィルム状物質を与える。多量体がフィルム状物質である場合は、有機溶媒を使用せずにアニオンに対するレセプター(センサー)として機能することができる。また、多量体には複数個のレセプターユニットが連結しているため、応答性の向上が見込まれる。すなわち、複数個のレセプターユニットのうち1個でも応答することによってセンシングできる。
【発明の効果】
【0078】
本発明の非環状オリゴピロール化合物は、それ自身がアニオンレセプターとして有用であるだけでなく、該単量体を多量化して本発明の多量体アニオンレセプターを製造することができる。本発明の非環状オリゴピロール化合物(単量体アニオンレセプター)は、効果的な会合挙動の発現や超分子組織体の構築による電子状態の制御等、既存の分子システムを凌駕した、柔軟な非環状型構造を基盤とする機能性発現が可能となる。π共役系拡張によって可視光吸収領域が変調し、さらに外部刺激(アニオン)との会合を利用して最適な吸収波長を制御することにより、光誘起電子移動への展開も可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0079】
[実施例]
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、Etはエチル基、i−Prはイソプロピル基を示す。
【0080】
実施例1
【0081】
【化19】

【0082】
上記一般式で表されるヨウ素一置換された化合物(89.2 mg, 0.183 mmol)を、1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボラン-2-イル)-3-[2-(トリイソプロピルシリル)エチニル]ベンゼン(95.3 mg, 0.243 mmol)、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド(8.9 mg, 0.012 mmol)、炭酸セシウム(128.5 mg, 0.394 mmol)共存下、ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒(10:1, 4 mL)中混在させた。該混合物を加熱攪拌(80 °C, 16時間)した後、冷却し、水とジクロロメタンで分液を行った。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(1回目:ジクロロメタン;2回目:クロロホルム:ヘキサン=10:1)及び再結晶(ジクロロメタン/ヘキサン)によって下記一般式(a)で表される化合物を得た(65.7 mg, 0.106 mmol, 58%)。
【0083】
【化20】

【0084】
実施例2
【0085】
【化21】

【0086】
上記一般式で表されるヨウ素二置換された化合物(60.7 mg, 0.100 mmol)を、1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボラン-2-イル)-3-[2-(トリイソプロピルシリル)エチニル]ベンゼン(100.9 mg, 0.262 mmol)、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド(9.5 mg, 0.014 mmol)、炭酸セシウム(135.3 mg, 0.415 mmol)共存下、ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒(10:1, 5 mL)中混在させた。該混合物を加熱攪拌(80 °C, 24時間)した後、冷却し、水とジクロロメタンで分液を行った。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(1回目:ジクロロメタン;2回目:7%酢酸エチル/ヘキサン)及び再結晶(ジクロロメタン/ヘキサン)によって下記一般式(b)で表される化合物を得た(18.6 mg, 0.022 mmol, 22%)。
【0087】
【化22】

【0088】
実施例3
実施例1で使用したヨウ素一置換された化合物(175.3 mg, 0.456 mmol)を、1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボラン-2-イル)-4-[2-(トリイソプロピルシリル)エチニル]ベンゼン(189.6 mg, 0.388 mmol)、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド(14.3 mg, 0.020 mmol)、炭酸セシウム(250.4 mg, 0.769 mmol)共存下、ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒(10:1, 4 mL)中混在させた。該混合物を加熱攪拌(70 °C, 17時間)した後、冷却し、水とジクロロメタンで分液を行った。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(1回目:ジクロロメタン;2回目:クロロホルム:ヘキサン=4:1)及び再結晶(ジクロロメタン/ヘキサン)によって下記一般式(c)で表される化合物を得た(137.4 mg, 0.22 mmol, 57%)。
【0089】
【化23】

【0090】
実施例4
実施例2で使用したヨウ素二置換された化合物(143.2 mg, 0.372 mmol)を、1-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3-ジオキサボラン-2-イル)-4-[2-(トリイソプロピルシリル)エチニル]ベンゼン(101.7 mg, 0.372 mmol)、ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド(9.5 mg, 0.014 mmol)、炭酸セシウム(215.6 mg, 0.662 mmol)共存下、ジメチルホルムアミドと水の混合溶媒(10:1, 5 mL)中混在させた。該混合物を加熱攪拌(80 °C, 17時間)した後、冷却し、水とジクロロメタンで分液を行った。ジクロロメタン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(1回目:ジクロロメタン;2回目:5%酢酸エチル/ヘキサン)及び再結晶(ジクロロメタン/ヘキサン)によって下記一般式で表される化合物(d)を得た(51.4 mg, 0.059 mmol, 35%)。
【0091】
【化24】

【0092】
実施例5
実施例1で得られた前記一般式(a)で表される化合物(39.0 mg, 0.063 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(8 mL)に、テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(39.7 mg, 0.126 mmol)を添加し、窒素下、室温で3時間攪拌した。攪拌後、得られた溶液を水で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=3:2)及び再結晶(ジクロロメタン:ヘキサン)によって、下記一般式(a1)で表される化合物を得た(27.4 mg, 0.028 mmol, 94%)。
【0093】
【化25】

【0094】
実施例6
実施例2で得られた前記一般式(b)で表される化合物(29.7 mg, 0.034 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10 mL)に、テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(31.6 mg, 0.10 mmol)を添加し、窒素下、室温で2時間攪拌した。撹拌後、得られた溶液を水で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=1:1)及び再結晶(ジクロロメタン:ヘキサン)によって、下記一般式(b1)で表される化合物を得た(10.0 mg, 0.0196 mmol, 57%)。
【0095】
【化26】

【0096】
実施例7
実施例3で得られた前記一般式(c)で表される化合物(112.6 mg, 0.182 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(15 mL)に、テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(114.8 mg, 0.364 mmol)を添加し、窒素下、室温で1.5時間攪拌した。撹拌後、得られた溶液を水で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=2:1)及び再結晶(ジクロロメタン:ヘキサン)によって、下記一般式(c1)で表される化合物を得た(69.4 mg, 0.15 mmol, 82%)。
【0097】
【化27】

【0098】
実施例8
実施例4で得られた前記一般式(d)で表される化合物(51.4 mg, 0.059 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(15 mL)に、テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(56.8 mg, 0.18 mmol)を添加し、窒素下、室温で2時間攪拌した。撹拌後、得られた溶液を水で洗浄し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:ヘキサン=2:1)及び再結晶(ジクロロメタン:ヘキサン)によって、下記一般式(d1)で表される化合物を得た(26.2 mg, 0.047 mmol, 79%)。
【0099】
【化28】

【0100】
実施例9
実施例5で得られた前記一般式(a1)で表される化合物(19.7 mg, 0.0426 mmol)、酢酸パラジウム(0.50 mg, 0.0022 mmol)、ヨウ化銅(I)(0.73 mg, 0.0038 mmol)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(16.8 mg, 0.150 mmol)を窒素雰囲気下の乾燥アセトニトリル(1.2 mL)に混在させ、室温で36時間攪拌した。撹拌後、得られた溶液を水とジクロロメタンで分液抽出し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(2% メタノール/ジクロロメタン)及び再結晶(ジクロロメタン:ヘキサン)によって、下記一般式(a2)で表させるジエチニル架橋多量体を得た(7.2 mg, 0.0078 mmol, 37%)。
【0101】
【化29】

【0102】
実施例10
実施例7で得られた前記一般式(c1)で表される化合物(25.3 mg, 0.0545 mmol)、酢酸パラジウム(0.62 mg, 0.0028 mmol)、ヨウ化銅(I)(0.59 mg, 0.0031 mmol)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(18.9 mg, 0.168 mmol)を窒素雰囲気下の乾燥アセトニトリル(1.2 mL)に混在させ、室温で22時間攪拌した。撹拌後、得られた溶液を水とジクロロメタンで分液抽出し、有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(0.4% メタノール/ジクロロメタン)及び再結晶(テトラヒドロフラン:ヘキサン)によって、下記一般式(c2)で表させるジエチニル架橋多量体を得た(11.9 mg, 0.013 mmol, 47%)。
【0103】
【化30】

【0104】
実施例11
実施例5〜10で得られた化合物(a1)〜(c2)の極大吸収波長(nm)をそれぞれ測定した(ジクロロメタン中、10 -5 M)。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
実施例12
実施例5〜10で得られた化合物(a1)〜(c2)の極大蛍光波長(nm)をそれぞれ測定した(ジクロロメタン中、10 -5 M、各極大吸収波長で励起)。結果を表2に示す。
【0107】
【表2】

【0108】
実施例13
実施例5〜8で得た化合物(a1)〜(d1)の各種アニオン添加による紫外可視吸収スペクトルにおける極大吸収波長の吸光度変化から、1:1型会合体の会合定数の評価を行った(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩添加、室温)。結果を表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
実施例14
実施例9、10で得た化合物(b2)(d2)は、紫外可視吸収スペクトルにおける極大吸収波長(最長波長)の吸光度はアニオンとの会合にともない穏やかに減少した(ジクロロメタン中、テトラブチルアンモニウム塩添加、室温)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式中、Rは同一又は異なって水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は式:−C≡CHで表される基を示し、n個のR基のうち、少なくとも1つは式:−C≡CHで表される基であり、nは1〜5の整数を示し、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は下記一般式(2):
【化2】

[式中、R及びnは前記に同じ。]
で表される基を示し、Rは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。]
で表される化合物。
【請求項2】
が前記一般式(2)で表される基である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
下記一般式(1A):
【化3】

[式中、R、R、Rは前記に同じである。]
で表される化合物である請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
下記一般式(1B):
【化4】

[式中、R及びRは前記に同じである。]
で表される化合物である請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物のエチニル基同士を結合して得られる多量体。
【請求項6】
下記一般式(3A):
【化5】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は下記一般式(2):
【化6】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又は式:−C≡CHで表される基を示し、n個のR基のうち、少なくとも1つは式:−C≡CHで表される基であり、nは1〜5の整数を示す。]
で表される基を示し、
は同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示す。]
で表される化合物。
【請求項7】
下記一般式(3):
【化7】

[式中、Rは同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を示し、mは2〜20の整数を示す。]
で表される繰り返し単位を有する多量体。

【公開番号】特開2010−209014(P2010−209014A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58067(P2009−58067)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】