説明

靭性最適化溶接継手及びこの溶接継手を生成する方法

【課題】 最適化された靭性を有する溶接継手及びこの溶接継手を生成する方法を提供する。
【解決手段】 靭性最適化溶接継手(30)を生成する方法。溶接継手(30)の中央溶接部(33)に対して妥当な靭性を与えることになる溶接手順が作成されて用いられ、溶接継手(30)の表面溶接部(35)に妥当な靭性を与えることになる溶接手順が作成されて用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概略的には溶接の分野に関する。より詳細には、本発明は、最適化された靭性を有する溶接継手及びこの溶接継手を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用語が明細書で定義される。便宜上、用語集を本明細書の最後に付す。
【0003】
国際公開WO98/59085号に対応し、「液化天然ガスの処理、保菅、及び輸送のためのシステム」という名称の米国特許第6,085,528号(PLNG特許)は、約1035kPa(150psia)から約7590kPa(1100psia)の広範な範囲の圧力、及び約−123℃(−190°F)から約−62℃(−80°F)の広範な範囲の温度で加圧液化天然ガス(PLNG)の保菅及び海上輸送のためのコンテナ及び輸送容器を説明している。PLNG特許に説明するコンテナは、9重量%よりも少ないニッケルを含有する超高強度低合金鋼(スチールPLNGコンテナ)から構成される。このPLNG特許を、本明細書に援用する。ここで用いられるように、「超高強度低合金鋼」は、鉄及び約10重量%よりも少ない全合金添加物を含み、830MPa(120ksi)よりも大きい引張強度を有する任意の鋼を意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加圧された極低温流体を保菅するためのスチールPLNGコンテナ並びに他の金属コンテナは、溶接継手を含むのが一般的である。溶接継手は、金属コンテナの機械的一体性に影響を及ぼす可能性がある不連続部を含む場合があるので、破壊開始に対する十分な耐性、すなわち靭性を有するべきである。溶接継手の定義については、用語集を参照することができる。典型的な溶接不連続部は、例えば、溶込み不良、融合不良、水素脆化割れ、及び夾雑物を含む。溶接作業は、溶接融合線に隣接し、溶接の加熱により影響される母材であるいわゆる加熱影響部分(HAZ)と呼ばれる部分における冶金の劣化によって靭性を劣化させる可能性がある。HAZ靭性が設計を限定する問題である一部の用途に対しては、HAZ靭性を改善して制御する一般的な方法は、溶接熱入力を低い値に制限するか、又は、サブマージドアーク溶接(SAW)の代わりに、ガス・タングステン・アーク溶接(GTAW)のような熱入力をより良く制御する溶接技術を用いることである。残念ながら、これらの方法は、溶接作業にはるかに時間が掛かり、高価な装置及び消費材が必要とされ、溶接工に特別な訓練が必要であり、及び/又は品質管理及び保証方法が面倒であるという点で費用がかさむ方法である。
【0005】
加圧極低温流体を保菅するための金属コンテナの商業的溶接に対して、溶接継手に適切な強度と靭性を与える経済的に許容可能な方法を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
中央溶接部及び表面溶接部から成り、意図した用途に対して指定された厚み及び最適化された靭性を有する溶接継手を生成するための2つの金属を溶接する方法が提供される。この方法は、(a)意図した用途に用いられる金属の表面破壊不連続部を検知するのに適する第1の非破壊試験(NDE)技術を選択する段階、(b)第1のNDE技術により容易に検知可能な最小の表面破壊不連続部の板厚方向寸法を判断する段階、(c)意図した用途に用いられる金属に埋込不連続部を検知するのに適する第2のNDE技術を選択する段階、(d)第2のNDE技術により容易に検知可能な最小の埋込不連続部の板厚方向寸法を判断する段階、(e)最小表面破壊不連続部板厚方向寸法に実質的に等しい板厚方向寸法を有する表面破壊不連続部からの溶接継手における破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な第1の靭性値を判断し、最小埋込不連続部板厚方向寸法に実質的に等しい板厚方向寸法を有する埋込不連続部からの溶接継手における破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な第2の靭性値を判断する段階、(f)第1の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する表面溶接部を生成することになる表面溶接部の溶接手順と、第2の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する中央溶接部を生成することになる中央溶接部の溶接手順とを設計する段階、(g)中央溶接部の溶接手順を用いて中央溶接部を生成する段階、及び(h)表面溶接部の溶接手順を用いて表面溶接部を生成する段階を含む。これらの段階は、溶接工学の当業者によって適切と考えられる任意の順序で実行することができる。また、本発明に従う方法により製造される溶接継手も提供される。
【0007】
埋込不連続部からの破壊開始に耐えるのに同じ大きさの表面破壊不連続部からよりも必要な靭性が小さいことに本発明人は注目する。従って、高靭性要件を溶接継手の表面領域だけに制限し、すなわち、必要な高価な溶接作業の量を最小にすることができる。
【0008】
本発明の利点は、以下の詳細説明及び添付図面を参照することによってより良く理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明を、その好ましい実施形態に沿って説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。むしろ、本発明は、特許請求の範囲で規定されるような本発明の開示の思想及び範囲に含まれる全ての変更、修正、及び均等物を含む。
【0010】
破壊力学理論は、靭性要件の基礎を提供する。破壊力学理論によれば、所定の材料不連続部の大きさ及び負荷に対して、埋込不連続部が受ける亀裂発生力(例えば、本発明を限定することなく、溶接工学の当業者に一般的なJ1又はδ1)は、類似の表面破壊不連続部の亀裂発生力よりもほぼ2.25倍少ない。不連続部の大きさは、特定のNDE技術が容易に検知することができる最も小さな不連続部の大きさであると一般的に仮定される。埋込不連続部に関連する亀裂発生力が表面破壊不連続部に対するものよりも小さいので、埋込不連続部からの破壊開始を防ぐのに必要な靭性(例えば、本発明を制限することなく、破壊力学の当業者に一般的なJc、Ju、JIc、δc、δu、δm、又はδIc)は、表面破壊不連続部からの表面破壊開始を防ぐのに必要な靭性よりもほぼ2.25倍少ない。本発明の方法は、表面破壊及び埋込不連続部の両方からの破壊開始を実質的に防ぐのに必要な靭性を分析し、その分析に基づいて溶接手順を最適化するのに用いられる。より生産性の高い溶接手順を用いて溶接継手の中央部分(靭性要件がそれほど大きくない)を生成し、靭性をより良く保持することができる溶接手順を用いて溶接継手の表面部分を生成する。本発明は、いかなる特定の溶接手順にも制限されない。すなわち、以下に限定されないが、加熱補助溶接、圧力補助溶接、レーザ溶接、又は摩擦攪拌溶接を含む、溶接技術者が選択する任意の溶接手順を利用することができる。
【0011】
図1は、一片の金属11における表面破壊不連続部10を例示する。表面破壊不連続部10は、板厚方向寸法12及び長さ14を有する。この一片の金属11は、溶接金属、溶接継手、又は母材のような任意の金属片とすることができる。図2は、一片の金属21における埋込不連続部20を例示する。埋込不連続部20は、板厚方向寸法22及び長さ24を有する。この金属片21は、溶接金属、溶接継手、又は母材のような任意の金属片とすることができる。
【0012】
中央溶接部及び表面溶接部から成り、意図した用途に対する特定の厚み及び最適化された靭性を有する溶接継手を生成するための2つの金属片を溶接する本発明による方法は、以下の段階を含む。意図した用途に対して用いる金属の表面破壊不連続部を検知するのに適する第1の非破壊試験(NDE)技術が選択される。溶接工学の当業者は、適切なNDE技術、例えば、本発明を制限することなく、X線写真術、又はパルス・エコーのような超音波技術、又は飛行時間型回析を選択することができる。選択された第1のNDE技術に基づいて、第1のNDE技術により容易に検知可能な最小の表面破壊不連続部板厚方向寸法が判断される。例えば、超音波試験(UT)が指定された場合、表面破壊不連続部の最小板厚方向寸法は、特定のUT手順及び用いられる装置によって容易に検知可能な最も小さな表面破壊不連続部になるであろう。本明細書で用いるように、用語「NDE技術」は、NDE手順及びNDE装置の両方を含む。本明細書で用いるように、不連続部板厚方向寸法に関する用語「容易に検知可能な」は、その位置にも向きも関係なく検知して修理することができる不連続部の板厚方向寸法を意味する。上述の意図した用途に用いる金属における埋込不連続部を検知するのに適する第2の非破壊試験(NDE)技術が選択される。選択した第2のNDE技術に基づいて、この第2のNDE技術によって容易に検知可能な最小埋込不連続部板厚方向寸法が判断される。最小表面破壊不連続部板厚方向寸法は、上述の溶接継手の特定の厚みの約33%よりも小さいことが好ましい。上述の最小表面破壊不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する表面破壊不連続部からの上述の溶接継手における破壊開始を防ぐのに妥当な第1の目標靭性値が判断され、また、上述の最小埋込不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する埋込不連続部からの上述の溶接継手における破壊開始を防ぐのに妥当な第2の靭性値が判断される。これらの第1及び第2の目標靭性値は、破壊力学の当業者に公知の任意の手段、例えば、BS7910(金属構造における欠陥の許容度を評価する方法の手引き)又はAPIRP579(実用適合性)のような破壊力学手順に基づく分析によって判断される。上述の第1の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する表面溶接部を生成することになり、すなわち、上述の最小表面破壊不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する表面破壊不連続部からの破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な靭性をもたらすことになる表面溶接部の溶接手順が設計され、また、上述の第2の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する中央溶接部を生成することになり、すなわち、上述の最小埋込不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する埋込不連続部からの破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な靭性をもたらすことになる中央溶接部の溶接手順が設計される。溶接手順は、溶接工学の当業者が公知の技術を用いて必要な靭性値をもたらすように設計することができる。中央溶接部は、中央溶接部溶接手順を用いて生成され、表面溶接部は、表面溶接部溶接手順を用いて生成される。本明細書で用いるように、「表面破壊不連続部の板厚方向寸法」は、図1に示すように、上述の金属片又は上述の溶接継手の厚みを通しての表面破壊不連続部の寸法12を意味する。本明細書で用いるように、「埋込不連続部の板厚方向寸法」は、図2に示すように、上述の金属片又は上述の溶接継手の厚みを通しての埋込不連続部の寸法22を意味する。表面溶接部の必要な厚み又は最小の必要な厚みもまた、溶接工学及び破壊力学の当業者に一般的な手段によって判断されるべきである。この表面溶接部の最小の必要な厚みは、最小表面破壊不連続部板厚方向寸法よりも一般的に僅かに大きい(例えば、約1mm大きい)。表面溶接部は、必要な表面溶接部厚みに等しいか又はそれ以上の厚みを有することが好ましい。
【0013】
表面溶接部溶接手順及び中央溶接部溶接手順は、溶接工学の当業者に公知の任意の手段、例えば、BS7910に説明された溶接部の靭性を測定するための手順によって限定することができる。本明細書で用いるように、用語「限定する」は、靭性を含む溶接継手の特性が必要な最小値を超えることを標準的手順に従って測定することを意味する。溶接工学の当業者には一般的なことであるが、特定の板厚方向寸法を有する不連続部からの金属の破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な靭性値はまた、この特定の板厚方向寸法よりも小さい、すなわち、それ未満の板厚方向寸法を有する不連続部からの金属の破壊開始を防ぐこともできる。溶接工学の当業者には同じく一般的なことであるが、最小表面破壊不連続部板厚方向寸法よりも大きい板厚方向寸法を有する上述の溶接継手におけるいかなる表面破壊不連続部も修理され、最小埋込不連続部板厚方向寸法よりも大きい板厚方向寸法を有する上述の溶接継手におけるいかなる埋込不連続部も修理される。
【0014】
図3は、本発明により中央溶接部33及び表面溶接部35を用いて生成された靭性最適化溶接継手30を示す。この非制限的実施例では、加熱補助溶接手順が用いられ、従って、加熱影響部分が形成される。中央溶接部33の厚み及び中央溶接部33を生成するのに必要な溶接パスの数は、表面溶接部35の最小の必要な厚み及び溶接継手30の特定の厚みを考慮して、溶接工学の当業者に公知の方法によって判断される。また、表面溶接部35の最小の必要な厚み及び表面溶接35を生成するのに必要な溶接パスの数は、最小表面破壊不連続部板厚方向寸法を考慮して溶接工学の当業者に公知の方法によって判断される。中央溶接部33は、中央溶接部金属32、中央溶接HAZ36、及び中央溶接部影響母材37を含み、これらは、全て中央溶接部溶接手順により生成され、かつそれに影響されたものである。表面溶接部35は、表面溶接部金属34、表面溶接HAZ38、及び表面溶接部影響母材39を含み、これらは、全て表面溶接部溶接手順により生成され、かつそれに影響されたものである。表面溶接部35及び中央溶接部33を生成するのに用いられる溶接手順は異なっている。例えば、表面溶接部溶接手順により生成された表面溶接HAZ38は、中央溶接部溶接手順により生成された中央溶接HAZ36よりも高い必要靭性値を有する。中央溶接部溶接手順は、覆っている所定の壁厚の量に対して必要な溶接パスがより少なく、従って、表面溶接部溶接手順よりも速く、用いるのにそれほど高価ではない。
【0015】
本発明により製造された靭性最適化溶接継手の限定は、好ましくは、BS7910(金属構造の欠陥の許容度を評価する方法の手引き)、付録L(溶接部に対する破壊靭性の判断)、4.3節(標本幾何学形状)に説明するように適切な不連続部に関連する靭性の尺度をもたらす特定不連続部の靭性を測定することによって達成される。靭性最適化溶接継手に対してこれを達成する2つの特定の方法は以下のように説明され、その両方とも破壊力学の当業者には一般的である。すなわち、(i)BS7448−2(板厚方向又は表面切欠き標本のいずれかによる)を用いて二組の標本の靭性を測定する。第1の組の標本は、溶接継手の中央部分の溶接手順のみを用いて製作され、継手全体の厚みは、この手順を用いて完成される。第2の組の標本は、表面溶接部溶接手順のみを用いて製作され、継手全体の厚みは、この手順を用いて完成される。又は(ii)本発明により製造された靭性最適化溶接部の2つの位置において靭性を測定する。表面溶接部の靭性は、浅い表面切欠きを用いて測定することができる。中央溶接部の靭性は、破壊力学の当業者には一般的であるように、標準的な深さを有する表面切欠きを用いて測定することができる。
【実施例1】
【0016】
PLNGの輸送に適するスチールPLNGコンテナを構成するための超高強度低合金鋼板は、破壊靭性試験(J積分又はCTODのような)に基づく溶接認定を必要とし、最小の必要(目標)靭性値を達成する必要がある。破壊力学に基づく分析が実施され、PLNGコンテナにおける溶接継手の目標J積分が導出される。この分析は、現在利用可能なNDE技術の能力に基づいて、2mmの最大板厚方向寸法及び100mmの長さを有する単一の溶接不連続部がPLNGコンテナ内の任意の可能な位置及び向きに存在すると仮定する。限定溶接不連続部タイプ、すなわち、表面破壊溶接不連続部が、制御不連続部タイプとして選択され、得られる目標J積分値が導出される。
【0017】
本発明を用いることなく必要なJ積分値を満たす溶接継手を確実に生成する溶接手順が作成される。この手順は、低い熱入力(約1kJ/mm)及び低い移動速度(約250mm/min)を備えたGTAW技術である。このGTAW溶接技術は、HAZ微細構造を焼き戻しするために、各主パスの後に自生パスを必要とする。その結果は、約50パス及び有効な5mm/minの溶接速度を必要とする溶接手順である。各PLNGコンテナに対して約300メートルの超高強度低合金鋼溶接の長さがあるので、毎日2つのPLNGコンテナを製作するのに、1日24時間、週7日、100%の効率で作動する85台の溶接機が必要であることになる。溶接作業位置の数を最大75%低減することは、CAPEX(例えば、溶接機の台数)及びOPEX(例えば、溶接工の給料)の両方を考慮するとコンテナ製作費用を低減することになり、これは、十分に大きく全体的なプロジェクト経費に影響を与えると予想される。
【0018】
特に埋込不連続部を考慮する時は、破壊力学に基づく分析を再び使用することになる。破壊力学理論によると、表面破壊不連続部を各々が同じ板厚方向寸法を有する埋込不連続部と比較すれば、表面破壊不連続部からの破壊開始を実質的に防ぐための目標靭性は、埋込不連続部からの破壊を実質的に防ぐための目標靭性の2倍よりも大きい。従って、異なる溶接手順、すなわち、より少ない靭性を生成する手順を使用して、本発明による溶接継手の中央壁厚部分(2.54cm厚の溶接継手のほぼ中央部1.84cm)を生成することができる。
【0019】
元の溶接手順、つまり、HAZ微細構造を焼き戻すために各主パスの後に自生パスを必要とする低い熱入力(約1kJ/mm)で低い移動速度(約250mm/min)を有するGTAW方法は、表面破壊不連続部からの破壊開始を実質的に防ぐのに十分な靭性をもたらすことになる。従って、元の溶接手順は、表面溶接部の生成に指定される。元の溶接手順の主な欠点は、その生産率が低いことであるから、より高い生産率を有する手順が溶接部の中央1.84cmに対して望ましい。GTAW又はガス金属アーク溶接(GMAW)溶接処理のいずれかを用いる熱入力及び溶接金属溶着速度の段階的増加は、初期利益をもたらすことになる。レーザ及び電子ビーム溶接手順は、その高い生産率により考慮することができる。溶接接合部が生成され、適切な中央溶接手順を判断するために試験される。溶接接合部は、選択された中央溶接手順及び表面溶接手順を用いて生成される。
【0020】
本発明は、加圧超低温流体を保菅するためのスチールコンテナ、特にPLNGコンテナの溶接に十分に適するが、これに限定されず、むしろ、本発明は、任意のスチール構造の溶接に適する。破壊力学に基づく分析が行われ、臨界表面破壊不連続部サイズが壁厚に対して小さいという条件で、本発明により生成された溶接継手は、超高強度低合金鋼以外の用途に応用することが可能である。本発明による靭性最適化溶接継手から利益を得ることができるPLNG以外の用途は、例えば、本発明を制限することなく、圧力容器、配管及びパイプライン、及びスチール構造体を含む。
【0021】
更に、1つ又はそれ以上の好ましい実施形態に関して本発明を説明したが、特許請求の範囲に示す本発明の範囲から逸脱することなく他の変更を為し得ることは理解されるものとする。
【0022】
用語集
超低温: 約−40℃(−40°F)又はそれよりも低温の任意の温度。
【0023】
不連続部:溶接接合部の機械的、冶金学的、又は物理的特性の均質性の欠如のような溶接接合部の典型的な構造の中断。
【0024】
GMAW:ガス金属アーク溶接。
【0025】
GTAW:ガス・タングステン・アーク溶接。
【0026】
HAZ:加熱影響部分。
【0027】
加熱影響部分:溶接融合線に隣接し、溶接の加熱により影響を受けた母材。
【0028】
1、δ1:溶接工学の当業者には一般的な亀裂発生力測定値を示す記号。
【0029】
C、Ju、JIc、δc、δu、δm、δ1c:溶接工学の当業者には一般的な靭性測定値を示す記号。
【0030】
NDE:非破壊試験。
【0031】
NDE技術:NDE手順及びNDE装置の両方を含む。
【0032】
限定すること:靭性含む溶接継手の特性が必要な最小値を超えることを標準的手順に従って測定すること。
【0033】
容易に検知可能:不連続部板厚方向寸法に関して、その位置にも向きにも関係なく検知して修理することができる不連続部の板厚方向寸法を意味する。
【0034】
SAW:埋没アーク溶接。
【0035】
表面破壊不連続部の板厚方向寸法:表面破壊不連続部が存在する金属片又は溶接継手の厚みを通しての表面破壊不連続部の寸法(すなわち、長さ)。
【0036】
埋込不連続部の板厚方向寸法:埋込不連続部が存在する金属片又は溶接継手の厚みを通しての埋込不連続部の寸法(すなわち、長さ)。
【0037】
靭性:破壊開始に対する抵抗。
【0038】
超高強度低合金鋼:鉄及び約10重量%よりも少ない全合金添加物を含有し、830MPa(120ksi)よりも大きい引張強度を有する任意の鋼。
【0039】
溶接継手:溶融金属と溶融金属の「近傍」であるがそれを超えた母材とを含む溶接された継手。溶接継手は、添加した溶接金属又は加熱影響部分(HAZ)のいずれかを含むか又は含まなくてもよい。溶融金属の「近傍」の範囲内、従って溶接継手の一部あると考えられる母材の部分は、溶接工学の当業者に公知の要因、例えば、以下に限定されないが、溶接継手の幅、溶接された品目の大きさ、品目を製作するのに必要な溶接継手の数、及び溶接継手間の距離によって変化する。溶接継手を生成するための可能な技術は、以下に限定されないが、加熱補助溶接、圧力補助溶接、レーザ溶接、及び摩擦攪拌溶接を含む。
【0040】
溶接接合部:構成要素部分が溶接によって接合された組立体。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】表面破壊不連続部を示す図である。
【図2】埋込不連続部を示す図である。
【図3】本発明に従って生成された靭性最適化溶接継手を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央溶接部及び表面溶接部を備え、意図した用途に対して指定された厚み及び最適化された破壊靭性を有する溶接継手を生成するための2つの金属片を溶接する方法であって、
(a)意図した用途に用いられる金属における表面破壊不連続部を検知するのに適する第1の非破壊試験技術を選択する段階と、
(b)前記第1の非破壊検査技術により容易に検知可能な最小表面破壊不連続部板厚方向寸法を判断する段階と、
(c)前記意図した用途に用いられる金属における埋込不連続部を検知するのに適する第2の非破壊試験技術を選択する段階と、
(d)前記第2の非破壊試験技術により容易に検知可能な最小埋込不連続部板厚方向寸法を判断する段階と、
(e)前記最小表面破壊不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する表面破壊不連続部からの前記溶接継手における破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な第1の靭性値と、前記最小埋込不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する埋込不連続部からの該溶接継手における破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な第2の靭性値とを判断する段階と、
(f)前記第1の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する表面溶接部を生成することになる表面溶接部溶接手順と、前記第2の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する中央溶接部を生成することになる中央溶接部溶接手順とを設計する段階と、
(g)前記中央溶接部溶接手順を用いて前記中央溶接部を生成する段階と、
(h)前記表面溶接部溶接手順を用いて前記表面溶接部を生成する段階と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
溶接継手を生成するための2つの金属片を溶接する方法により生成され、意図した用途に対して最適化された破壊靭性を有する溶接継手であって、
中央溶接部及び表面溶接部から成り、かつ指定された厚みを有し、
前記方法が、
(a)前記意図した用途に用いられる金属における表面破壊不連続部を検知するのに適する第1の非破壊試験技術を選択する段階と、
(b)前記第1の非破壊検査技術により容易に検知可能な最小表面破壊不連続部板厚方向寸法を判断する段階と、
(c)前記意図した用途に用いられる金属における埋込不連続部を検知するのに適する第2の非破壊試験技術を選択する段階と、
(d)前記第2の非破壊試験技術により容易に検知可能な最小埋込不連続部板厚方向寸法を判断する段階と、
(e)前記最小表面破壊不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する表面破壊不連続部からの前記溶接継手における破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な第1の靭性値と、前記最小埋込不連続部板厚方向寸法と実質的に等しい板厚方向寸法を有する埋込不連続部からの該溶接継手における破壊開始を実質的に防ぐのに妥当な第2の靭性値とを判断する段階と、
(f)前記第1の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する表面溶接部を生成することになる表面溶接部溶接手順と、前記第2の靭性値に実質的に等しいか又はそれよりも大きい靭性値を有する中央溶接部を生成することになる中央溶接部溶接手順とを設計する段階と、
(g)前記中央溶接部溶接手順を用いて前記中央溶接部を生成する段階と、
(h)前記表面溶接部溶接手順を用いて前記表面溶接部を生成する段階と、
を含む、
ことを特徴とする溶接継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−502865(P2006−502865A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501050(P2005−501050)
【出願日】平成15年8月4日(2003.8.4)
【国際出願番号】PCT/US2003/024270
【国際公開番号】WO2004/033145
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(500450727)エクソンモービル アップストリーム リサーチ カンパニー (46)
【Fターム(参考)】