説明

音響発生装置

【課題】振動エネルギの伝達ロスを軽減し、発生音量を増加させる。
【解決手段】この音響発生装置には、圧電型振動素子と、圧電型振動素子を内蔵する筐体と、筐体の内側で圧電型振動素子が筐体に触れないように圧電型振動素子を支持する支持体とが備えられている。支持体と筐体とは、2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系のいずれかの接着剤により結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音響発生装置においては、樹脂製の筐体内に圧電型振動素子が内蔵されて構成されているものが知られている。図7は音響発生装置100の概略構成を表す分解斜視図である。この図7に示すように音響発生装置100には、圧電型振動素子101と、圧電型振動素子101を内蔵する樹脂製の筐体102と、筐体102の内側で圧電型振動素子101を支持する支持体103とが設けられている。
筐体102は、音響を発生させようとする対象(例えばテーブルなど:以下音響発生対象という)と接触する基台104と、基台104を覆うカバー105とから構成されている。
基台104の上面には、圧電型振動素子101が筐体102に触れないように支持体103が固定されている。支持体103を基台104に固定する方式として、例えばゴム系の接着剤により接着される方式が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−132659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述の音響発生装置であると、圧電型振動素子101から発生する振動エネルギが筐体によって吸収されてしまうこともあった。こうなると音響発生対象側に効率よく振動エネルギが伝達しないことになり、発生する音量が小さくなってしまっていた。
【0004】
本発明の課題は、振動エネルギの伝達ロスを軽減し、発生音量を増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明における音響発生装置は、
圧電型振動素子と、
前記圧電型振動素子を内蔵する筐体と、
前記筐体の内側で前記圧電型振動素子が前記筐体に触れないように前記圧電型振動素子を支持する支持体とを備え、
前記支持体と前記筐体とは、2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系のいずれか1つの接着剤により結合されていることを特徴としている。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の音響発生装置において、
前記筐体のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分は金属製であることを特徴としている。
【0007】
請求項3記載の発明における音響発生装置は、
圧電型振動素子と、
前記圧電型振動素子を内蔵する筐体と、
前記筐体の内側で前記圧電型振動素子が前記筐体に触れないように前記圧電型振動素子を支持する支持体とを備え、
前記筐体のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分と前記支持体とは金属により一体形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、支持体と筐体とが2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系のいずれかの接着剤により結合されていることにより、振動エネルギの伝達ロスを軽減することができる。これら2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系の接着剤は、従来用いられていたゴム系の接着剤と比較して、硬化時の硬度が高いという特質がある。硬度が低いとその分振動エネルギが吸収されてしまうが、高ければ吸収しにくくなるために、振動エネルギの伝達ロスが軽減されるのである。このように伝達ロスが軽減されると、発生音量が増加されることになる。
請求項2記載の発明によれば、筐体のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分が樹脂よりも硬度の高い金属製であるので、振動エネルギの伝達ロスをより軽減することができる。
【0009】
ここで、接着剤を使用する場合であると、音響発生装置の製造時に接着剤の塗布量や、接着タイミングなどがどうしても個々でばらついてしまうので、製品としてばらつきが生じる要因となっていた。接着剤は、筐体部分や支持体部分と比較しても経時劣化が早いために劣化に伴って振動エネルギの伝達ロスが高まることになる。しかしながら、請求項3記載の発明によれば、筐体のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分と支持体とが金属により一体形成されているので、接着剤の使用を省略することができ、製品としての個体差を抑制することができる。そして、接着剤が不要ならば、接着剤の経時劣化が解消されるために、長期にわたって振動エネルギの伝達ロスを軽減することができる。これらのことにより、音響発生装置の生産性、信頼性が高められることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る第1の実施の形態について説明する。図1は第1の実施の形態の音響発生装置1を表す分解斜視図である。この図1に示すように音響発生装置1には、板状の圧電型振動素子2と、圧電型振動素子2を内蔵する筐体3と、筐体3の内側で圧電型振動素子2を支持する支持体4とが設けられている。
【0011】
圧電型振動素子2には、図示しないアンプが電気的に接続されている。圧電型振動素子2は、例えばアンプなどの音声信号出力装置から音声信号が入力されると、当該信号に基づいて振動するようになっている。
【0012】
筐体3は、例えばテーブルなどの音響発生対象と接触する基台31と、基台31に組み合わさって当該基台31を覆う中空のカバー32とから構成されている。これら筐体3を構成する基台31及びカバー32のうち、少なくとも基台31はアルミなどの金属によって形成されている。
【0013】
支持体4の上部には、切欠41が形成されていて、この切欠41に圧電型振動素子2が係合することで、圧電型振動素子2がカバー32の内側に触れないように基台31の上面と略並行に配置される。支持体4と圧電型振動素子2とは、例えば1液式シアノン系の接着剤やはんだによって固定されている。
ここで、支持体4と基台31との間には接着剤層5が設けられていて、この接着剤層5によって、支持体4と基台31とが結合されている。接着剤層5を形成する接着剤は、例えば2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系のいずれかである。
また、支持体4の上部には、切欠41が形成されていて、この切欠41に圧電型振動素子2が係合することで圧電型振動素子2が基台31の上面と略並行に配置される。
【0014】
次に、本実施形態の作用について説明する。
アンプから音声信号が入力されて圧電型振動素子2が振動すると、その振動が支持体4、接着剤層5及び基台31を介して振動発生対象に伝達する。振動発生対象が振動することで音声が発生することになる。
【0015】
ここで、本発明者は、圧電型振動素子2の振動の周波数と、当該振動に基づく音響発生対象からの音量との関係を、接着剤層5が1液式シアノン系である場合と、従来のゴム系接着剤である場合とで比較した。図2は、周波数と音量との関係を表すグラフである。この図2では、実線L1が1液式シアノン系の接着剤を用いた音響発生装置の実験結果であり、点線L2がゴム系接着剤を用いた音響発生装置の実験結果である。この図2からも明らかなように、ほとんどの周波数において実線L1が点線L2を上回っていることが分かる。つまり、1液式シアノン系の接着剤を用いた音響発生装置の方が、従来のゴム系接着剤を用いた音響発生装置よりも振動エネルギの伝達ロスを軽減し、発生音量を増加させているのである。
【0016】
これは1液シアノン系接着剤がゴム系接着剤よりも硬化後の硬度が高いために、振動エネルギを吸収しにくくなることが要因である。ゴム系接着剤よりも硬化後の硬度が高い2液式アクリル系、エポキシ系の接着剤でも同様に伝達ロスが軽減されることになる。
【0017】
以上のように、第1の実施の形態の音響発生装置1によれば、支持体4と基台31とが2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系のいずれかの接着剤により結合されていることにより、振動エネルギの伝達ロスを軽減することができる。
また、基台31が金属で形成されているので、音響発生対象に対する振動エネルギの伝達ロスをより軽減することができる。
【0018】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態では、支持体と基台とが接着剤により結合されている場合を例示して説明したが、第2の実施の形態では、支持体と基台とが一体的に形成されている場合を挙げて説明する。
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る第2の実施の形態について説明する。図3は第2の実施の形態の音響発生装置11を表す分解斜視図である。この図2に示すように音響発生装置11には、板状の圧電型振動素子12と、圧電型振動素子12を内蔵する筐体13と、筐体13の内側で圧電型振動素子12を支持する支持体14とが設けられている。
【0020】
圧電型振動素子12には、図示しないアンプが電気的に接続されている。圧電型振動素子2は、アンプから音声信号が入力されると、当該信号に基づいて振動するようになっている。
【0021】
筐体13は、例えばテーブルなどの音響発生対象と接触する基台131と、基台131に組み合わさって当該基台131を覆う中空のカバー132とから構成されている。これら筐体13を構成する基台131及びカバー132のうち、少なくとも基台131はアルミなどの金属によって形成されている。
【0022】
支持体14は、基台131の上面で当該基台131と一体的になるように形成されている。具体的には支持体14と基台131とは金属製(例えばアルミなど)の鋳物である。支持体14の上部には、切欠141が形成されていて、この切欠141に圧電型振動素子12が係合することで圧電型振動素子12がカバー132の内側に触れないように基台131の上面と略並行に配置される。支持体4と圧電型振動素子2とは、例えば1液式シアノン系の接着剤やはんだによって固定されている。
【0023】
次に、本実施形態の作用について説明する。
アンプから音声信号が入力されて圧電型振動素子12が振動すると、その振動が支持体14及び基台131を介して振動発生対象に伝達する。振動発生対象が振動することで音声が発生することになる。
【0024】
以上のように、第2の実施の形態の音響発生装置11によれば、筐体3のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分(基台131)と支持体14とが金属により一体形成されているので、接着剤の使用を省略することができ、製品としての個体差を抑制することができる。そして、接着剤が不要ならば、接着剤の経時劣化が解消されるために、長期にわたって振動エネルギの伝達ロスを軽減することができる。これらのことにより、音響発生装置11の生産性、信頼性が高められることになる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
第2の実施の形態では、支持体14と基台131とが一体的な鋳物である場合を例示して説明したが、支持体と基台とが金属製で一体的であるのであれば、鋳造以外の方式を用いることも可能である。
【0026】
例えば、図4に示すように下端にフランジ142を備えた支持体143を形成するとともに、フランジ142の開口144と連通する一対の貫通孔を基台(図示省略)に形成して、これらの開口144及び貫通孔にボルトを通してナットで締結することで、支持体143と基台とを一体的に形成してもよい。
【0027】
また、図5に示すように下面に雌ネジ145を備えた支持体146を形成するとともに、当該雌ネジ145と連通する一対の貫通孔を基台(図示省略)に形成して、貫通孔を介して雌ネジ145にネジを締結することで、支持体146と基台とを一体的に形成してもよい。
【0028】
そして、図6に示すように、基台133に凹部134を形成して、当該凹部134内に支持体147を嵌合することで、支持体147と基台133とを一体的に形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態の音響発生装置の概略構成を表す分解斜視図である。
【図2】図1の音響発生装置と従来の音響発生装置における周波数と音量との関係を表すグラフである。
【図3】第2の実施の形態の音響発生装置の概略構成を表す分解斜視図である。
【図4】図3の音響発生装置に備わる支持体の変形例を表す斜視図である。
【図5】図3の音響発生装置に備わる支持体の変形例を表す斜視図である。
【図6】図3の音響発生装置に備わる支持体及び基台の変形例を表す斜視図である。
【図7】従来の音響発生装置の概略構成を表す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1,11 音響発生装置
2,12 圧電型振動素子
3,13 筐体
4,14 支持体
5 接着剤層
31,131 基台
32,132 カバー
41,141 切欠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電型振動素子と、
前記圧電型振動素子を内蔵する筐体と、
前記筐体の内側で前記圧電型振動素子が前記筐体に触れないように前記圧電型振動素子を支持する支持体とを備え、
前記支持体と前記筐体とは、2液式アクリル系、エポキシ系、1液式シアノン系のいずれか1つの接着剤により結合されていることを特徴とする音響発生装置。
【請求項2】
請求項1記載の音響発生装置において、
前記筐体のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分は金属製であることを特徴とする音響発生装置。
【請求項3】
圧電型振動素子と、
前記圧電型振動素子を内蔵する筐体と、
前記筐体の内側で前記圧電型振動素子が前記筐体に触れないように前記圧電型振動素子を支持する支持体とを備え、
前記筐体のうち、少なくとも音響発生対象と接触する部分と前記支持体とは金属により一体形成されていることを特徴とする音響発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−243584(P2007−243584A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62931(P2006−62931)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003595)株式会社ケンウッド (1,981)
【Fターム(参考)】