説明

食品中のアクリルアミドを酵素的に低減化する新規な方法

本発明は、アスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素を含む新規な酵素組成物、食品中のアクリルアミドの量を低減化するためのかかる組成物の使用、ならびに少なくとも1つの加熱ステップを含む食品の製造方法であって、上記製造方法においてa.アスパラギナーゼおよびb.少なくとも1種の加水分解酵素を上記食品の中間形態に添加することを含み、これによって、アスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素が、アスパラギナーゼも加水分解酵素も添加しなかった食品と比べて食品中のアクリルアミドの量を低減させるのに有効な量で上記加熱ステップの前に添加される方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、食品中のアクリルアミド含量を低減化することを目的として食品調製方法に使用するのに好適な新規な酵素組成物に関する。この新規な酵素組成物は、製菓・製パン業に使用するのに特に好適である。最近になって、多くの食品およびオーブン調理された食品中にアクリルアミドが発生していることが発表された(タレケ(Tareke)ら、Chem.Res.Toxicol.第13巻、517〜522頁(2000年))。アクリルアミドは人間および動物に対しおそらく発癌性があるとみなされていることから、この発見は世界中の関心を集めることになった。さらに研究を進めると、焼成、油揚げまたは油炒め、およびオーブン調理された様々な馴染み深い食品から相当量のアクリルアミドが検出されることが判明し、また、食品中のアクリルアミドは焼成処理の結果として発生するものであることが示された。
【0002】
英国においては、食品中に混入しているアクリルアミドの上限値を10ppb(10マイクログラム毎キログラム)とすることが当局によって規定されており、多くの製品、特に、シリアル、パン製品、およびジャガイモまたはトウモロコシをベースとする製品の上に発表された値はこの値をはるかに上回っている。
【0003】
モトラム(Mottram)ら(Nature、第419巻、448頁(2002年))は、メイラード反応の結果としてアミノ酸および還元糖からアクリルアミドが形成される経路を提案している。この仮説によれば、アクリルアミドはメイラード反応の最中に形成されている可能性がある。メイラード反応は、主として焼成や焙焼が行われる間の色、香気、および味に関する役割を担っている。このメイラードに付随する反応がアミノ酸のストレッカー分解であり、アクリルアミドとなる経路が提案された。アクリルアミドの形成は温度が120℃を超えると検出できるようになり、170℃付近で形成速度が最大になることが観測されている。アスパラギンおよびグルコースが存在する場合は、観測されるアクリルアミドが最大量になる可能性があった一方で、グルタミンおよびアスパラギン酸の場合は微量に過ぎないという結果になった。アクリルアミドが主としてアスパラギンから(還元糖と化合して)形成されるという事実は、オーブン調理または焙焼された植物性製品中のアクリルアミド量が高いことの説明になり得る。幾つかの植物原料には相当量のアスパラギンが含まれていることが知られている。ジャガイモの場合はアスパラギンが主な遊離アミノ酸(940mg/kg、アミノ酸含量全体の40%に相当)であり、小麦粉の場合はアスパラギナーゼが遊離アミノ酸プール全体の14%に相当する167mg/kgの量で存在する(ベルリッツ(Belitz)およびグローシュ(Grosch)、食品化学(フード・ケミストリー;Food Chemistry)、シュプリンガー(Springer)、ニューヨーク(New York)、1999年)。したがって、公衆衛生上の利益のために、アクリルアミドの量が実質的により低いかまたは好ましくは含まない食品が早急に必要である。
【0004】
アクリルアミド含量を低減化するために、工程変量(例えば、温度や加熱ステップの時間)を変えるかまたは化学的もしくは酵素的にアクリルアミドの形成を阻害するかまたは形成されたアクリルアミドを除去することのいずれかによる様々な解決策が提案されてきた。本発明には、アクリルアミドの形成を酵素的に低減化することが含まれる。
【0005】
アクリルアミドの形成を低下させる酵素的経路は、アスパラギンがアクリルアミドの重要な前駆体であると考えられているという理由から、食品中のアスパラギンの量を低減化することを目的として特にアスパラギナーゼを使用するというものである。
【0006】
しかしながら、アスパラギナーゼを単独で使用しても、食品のアクリルアミド含量を所望の量まで低減化するのに十分でない用途もある。したがって、本発明の目的は、本発明による組成物を用いて調製された食品中のアクリルアミドの低減化を改善する酵素組成物を提供することにある。
【0007】
本発明の目的は、アスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素を含む酵素組成物を提供することによって達成される。
【0008】
驚くべきことに、少なくとも1種の加水分解酵素をアスパラギナーゼと一緒に添加することによって、この酵素組成物を用いて調製された食品中のアクリルアミド量を低減化することに関し相乗効果が得られることがわかった。
【0009】
アスパラギンと還元糖との反応によってアクリルアミドが形成されるという教示に従い、アスパラギナーゼと還元糖を酸化することができる酵素とを含む酵素組成物がWO2004/032648に開示されている。
【0010】
しかしながら、本発明による酵素組成物は、還元糖の量を増加させるものの、依然として食品中のアクリルアミド量をアスパラギナーゼのみを添加した場合さえも下回るように飛躍的に低減化するものである。
【0011】
本発明には、入手可能な任意のアスパラギナーゼ(EC3.5.1.1)を使用することができる。好適なアスパラギナーゼ(E.C.3.5.1.1)は、様々な供給源、例えば、植物、動物、微生物等から得ることができる。好適な微生物としては、例えば、エシェリア(Escheria)、エルビニア(Erwinia)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、シュードモナス(Pseudomonas)、アスペルギルス(Aspergillus)、およびバチルス(Baccillus)種が挙げられる。好適なアスパラギナーゼの例は、WO03/083043およびWO2004/030468において見出すことができる。好ましいアスパラギナーゼは、WO04/030468に記載されている配列番号3を有するアスパラギナーゼまたはその機能的均等物であり、これを本発明の一部を構成するものとしてここに援用する。
【0012】
本発明には、任意の加水分解酵素(EC3.x.x.x)が好適となり得る。本明細書において参照されるECクラスには、アカデミック・プレス・インコーポレーテッド(Academic Press Inc.)が発行するIUBMB勧告酵素命名法(the Recommended Enzyme Nomenclature)(1992年)(ISBN 0−12−227165−3)を用いた。本明細書においては、Xを整数を表すものとして用いる。
【0013】
しかしながら、好ましくは、カルボン酸エステル加水分解酵素群(EC3.1.1.x)に属するかまたはo−グリコシル化合物を加水分解するグリコシダーゼ群(EC3.2.1.x.)からの加水分解酵素を使用する。
【0014】
好適なカルボン酸エステル加水分解酵素としては、例えば、リパーゼ(EC3.1.1.3)、ペクチンエステラーゼ(EC3.1.1.11)、ガラクトリパーゼEC3.1.1.26)、ホスホリパーゼA1(EC3.1.1.32)、ホスホリパーゼA2(EC3.1.1.4)、リゾホスホリパーゼ(EC3.1.1.5)が挙げられる。
【0015】
o−グリコシル化合物を加水分解する好ましい好適なものとしては、アルファ−アミラーゼ(EC3.2.1.1)、ベータ−アミラーゼ(EC3.2.1.2)、ペクチナーゼ(EC3.2.1.15)、セルラーゼ(EC3.2.1.4)、キシラナーゼ(EC3.2.1.32)、アラビノフラノシダーゼ(EC3.2.1.55)、およびグルカナーゼ(EC3.2.1.6)が挙げられる。
【0016】
加水分解酵素の混合物(カルボン酸エステル加水分解酵素およびo−グリコシル化合物を加水分解するものの混合物等)も本発明による組成物に用いてもよい。当業者は、本発明に使用する好適な加水分解酵素を得る方法を周知している。
【0017】
好ましい実施形態においては、アスパラギナーゼに、アミラーゼ、キシラナーゼ、およびリパーゼからなる群から選択される酵素を併用する。このような組成物は、特に製菓・製パン業に好適であり、プレミックスの一部としてもよい。
【0018】
他の好ましい実施形態においては、アスパラギナーゼに、アスパラギナーゼの移動またはアスパラギナーゼの透過を可能にする酵素を併用する。このような組成物は、植物由来の構造的に無傷の細胞が存在し、植物基質の内在性高分子を加水分解しようとする場合に特に好適である。
【0019】
本発明の他の態様においては、本発明は、食品中のアクリルアミド含量を低減化するための新規な方法に関する。好ましい一実施形態においては、この食品は、焼成品である。他の好ましい実施形態においては、この食品は、揚げ物である。さらなる他の好ましい実施形態においては、この食品は、焙焼するかまたは焼き色をつけた(toasted)物、特に、焙焼するかまたは焼き色をつけた生地またはパンである。
【0020】
少なくとも1つの加熱ステップを含む本食品製造方法は、上記製造方法においてアスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素を上記食品の中間形態に添加することを含み、これによって、アスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素は、アスパラギナーゼも加水分解酵素も添加しなかった食品と比べて食品中のアクリルアミド量を低減させるのに有効な量で上記加熱ステップの前に添加される。
【0021】
アスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素は、別々にまたは組成物で添加してもよく、好ましくは、本発明による組成物で添加される。好ましくは、この組成物は、本発明による酵素組成物の存在下に製造された食品のアクリルアミド含量が、本発明による組成物の成分のいずれか一方を用いずに製造された食品よりも低減される量で、本食品製造方法に加えられる。
【0022】
より好ましくは、この組成物は、本酵素の存在下に製造された食品のアクリルアミド含量が、アスパラギナーゼの存在下かつ加水分解酵素の非存在下に製造された食品と比較して、少なくとも10%、15%、20%、25%、または30%、好ましくは、少なくとも35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、または70%、より好ましくは、少なくとも80%、85%、または90%、最も好ましくは、少なくとも95%、97%、98%、または99%低減される量で、本食品製造方法に加えられる。本発明による方法において使用されるアスパラギナーゼおよび加水分解酵素についても、上述と同様の優先度が考慮される。
【0023】
本明細書における食品の中間形態とは、本製造方法を実施する間に最終形態の食品を得る前に生じる任意の形態と定義され、これには、植物の一部分に限らず、植物の一部分の薄片または切断片も含まれる。中間形態は、使用される個々の原料および/またはその加工形態も含んでいてもよい。2つだけ例を挙げるとすれば、食品がパンである場合の中間形態は、小麦、小麦粉、これと他のパン原料(例えば、水、食塩、酵母、製パン改良組成物等)との初期混合物、混合された生地、混捏された生地、冷凍された生地、膨化された生地、および一部焼成された生地を含んでいてもよい。食品が成形ポテトチップスである場合の中間形態は、茹でたジャガイモ、潰したジャガイモ、潰して乾燥させたジャガイモ、およびジャガイモ生地を含んでいてもよい。
【0024】
食品は、植物由来の少なくとも1種の原料、例えば、ジャガイモ、タバコ、コーヒー、ココア、米、穀類、果物から作られたものであってもよい。穀類の例としては、小麦、ライ麦、トウモロコシ(corn)、トウモロコシ(maize)、大麦、外皮を除いた穀類(groat)、ソバ、およびオート麦である。ここで言う(以下も同様)小麦とは、トリチカム(Triticum)属のあらゆる周知の種、例えば、アエスチバム(aestivum)、デュラム(durum)、および/またはスペルタ(spelta)を包含することを意図している。2種以上の原料から作られた食品、例えば小麦(粉)およびジャガイモを含む食品も本発明の範囲に包含される。
【0025】
本発明の方法が好適となり得る食品の例としては、穀粉をベースとする任意の製品(例えば、パン、ペストリー、ケーキ、プレッツェル、ベーグル、オランダ風ハチミツ入りケーキ(Dutch honey cake)、クッキー、ショウガ入りクッキー、ショウガ入りケーキ、クリスプブレッド(crispbread))およびジャガイモをベースとする任意の製品(例えば、フレンチフライ、ポム・フリット、ポテトチップス、コロッケ)およびトウモロコシ(corn)をベースとする任意の製品(例えば、トウモロコシパン、コーンチップス(corn crisp)、およびコーンフレーク)が挙げられる。
【0026】
好ましい製造方法は、小麦粉および/または他の穀物由来の穀粉からパンおよび他の焼成品を焼成するものである。他の好ましい製造方法は、ジャガイモの薄片からポテトチップスを油で揚げるものである。さらなる他の好ましい製造方法は、トウモロコシベースの生地の押出成形物からコーンチップスを油で揚げるものである。
【0027】
好ましい加熱ステップは、食品中間体の少なくとも一部、例えば食品の表面を、アクリルアミド形成が促進される温度、例えば110℃以上、120℃以上に曝すものである。本発明による方法における加熱ステップは、オーブンで(例えば180〜220℃の温度で、パンまたは他のベーカリー製品を焼成するためなど)または油中で(例えば160〜190℃で、ポテトチップスを油で揚げるなど)実施してもよい。
【0028】
以下に示す非限定的な実施例により以下に本発明を例示する。
【0029】
【表1】

【0030】
[実施例]
[実施例1]
[アクリルアミド測定]
[試料の前処理]
乾燥および均質化された試料600mgをミリQ水5mlを用いて抽出する。内部標準として13アクリルアミド1μgの溶液(CIL)を抽出液に添加する。10分間遠心分離(6000rpm)を行った後、上層3mlをエクストレルート(Extreluut)−3BTカラム(メルク(Merck))に通す。酢酸エチル15mlを用いてアクリルアミドをカラムから溶出させる。酢酸エチルを穏やかな窒素気流中で蒸発させて、約0.5mlにする。
【0031】
[クロマトグラフィー条件]
ガスクロマトグラフィーを用いて酢酸エチル溶液を分析する。CP−Wax57(バリアン(Varian))カラム(長さ25m、内径0.32mm、膜1.2μm)を使用し、一定流量5.4ml/分のヘリウムをキャリアガスとして分離を行う。3μlをスプリットレス注入する。オーブン温度を50℃で1分間維持し、その後、30℃/分で220℃まで昇温する。220℃で温度を12分間一定にした後、オーブンを冷却し、次の注入の前に安定化させておく。
【0032】
イオン化ガスとしてメタンを用いる陽イオンモードのオンライン化学イオン化質量分析を用いて検出を行う。特性イオンであるm/z72(アクリルアミド)およびm/z75(13アクリルアミド)を定量化するために観測する。
【0033】
[使用した装置]
GC:HP6890(ヒューレット・パッカード(Hewlet Packard))
MSD(質量選択検出器):HP5973(ヒューレット・パッカード)
【0034】
特に断りのない限り、ppmまたはppbで表される量は、穀粉の量を基準とする。
【0035】
[実施例2]
[膨化用塩(leavening salt)を用いて調製されたミニバタールパンにおけるアクリルアミド形成に対する、製パン用酵素およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)・アスパラギナーゼの効果]
全粒小麦粉(モーグル・ブランド・チャパティ・ブラウンフラワー(Mogul Brand Chapatti brown flour)、オランダ国ハーグのモーグル・ラス・B・V(Mogul Lasu B.V.The Hague,Holland))200g、食塩4g、アスコルビン酸68ppm、DKS(NaHCO)(ケム・プロハ(Chem Proha)、オランダ国ドルドレヒトのキミーパートナーズ・B・V(Chemiepartners B.V.Dordrecht,Holland))2g、Sap40(ピロリン酸二水素二ナトリウム、E450)(独国ブーデンハイムのヘミーシェ・ファブリーク・ブーデンハイムKG(Chemische Fabrik Budenheim KG,Budenheim,Germany))2.7g、SSL(ステアロイル乳酸ナトリウム)(デンマーク国のダニスコ(Danisco,Denmark))1g、GMS(モノステアリン酸グリセリル(アドムル(Admul))、オランダ国ナールデンのクエスト(Quest,Naarden,Holland))1gを混合することにより、膨化用塩を用いたミニバタールの調製を実施した。試験に供する製パン用酵素の量を表1に示す(リポパンFおよびノバミル(Novamyl)はノボ(Novo)より入手可能であり、他の酵素はDSM−Gist(DSM−ギスト)より入手可能である)。水226mlを添加した。混合をピンミキサーで8分45秒間かけて行った。生地の温度を27℃とした。混合直後に生地を150gずつ2分割し、丸めて32℃のホイロで25分間発酵させた。その後、生地片を成形し、32℃で100分間最終発酵させた。この生地片を225℃で20分間焼成した。外皮中のアクリルアミドを実施例1に記載したように測定した。アスパラギナーゼで処理されたパンに残留しているアクリルアミドの割合を以下のように算出した:
【数1】


数種の酵素の組合せを表2および図1に示す。例えば、ベイクザイムP500およびアスパラギナーゼで処理されたパンに残留しているアクリルアミドの割合は、試験番号4の結果を試験番号3の結果で除し、これに100%を乗じることによって求められる。
【0036】
【表2】

【0037】
表2および図1から、製パン用酵素であるベイクザイム(登録商標)HSP6000、リポパン(登録商標)F、ベイクザイム(登録商標)A10000、ベイクザイム(登録商標)W、ベイクザイム(登録商標)XE、およびこれらの組合せを添加することによって、製パン用酵素を用いていない比較基準用のパンよりも外皮中のアクリルアミド量が増加する結果になると結論づけることができる。ところが、適切な量のアスパラギナーゼを生地に添加することによって、アスパラギナーゼを用いていない対応する比較基準よりもアクリルアミドの量が低減され、それどころか、製パン用酵素を使用しなかった比較基準よりも低減される結果となる。
【0038】
[実施例3]
[パン酵母および全粒小麦粉を用いて調製されたミニバタールにおけるアクリルアミド形成に対する製パン用酵素およびA.ニガー・アスパラギナーゼの効果]
標準的な焼成方法により、全粒小麦粉(モーグル・ブランド・チャパティ・ブラウンフラワー)200g、コーニングスギスト(Koningsgist)(登録商標)酵母4.6g、食塩4g、アスコルビン酸68ppm、ならびに表2に示す数種の酵素および酵素の組合せを混合することによってミニバタールの調製を実施した。水132gを添加してピンミキサーで8分45秒間混合した。生地の温度を27℃とした。この混合の直後に生地を150gずつに2分割し、丸めて32℃のホイロで25分間発酵させた。その後、生地片を成形して32℃で100分間最終発酵させ、この生地片を225℃で20分間焼成した。外皮中のアクリルアミドを実施例1に記載したように測定した。アスパラギナーゼで処理されたパンに残留していたアクリルアミドの割合を実施例2に示したように算出した。
【0039】
表3および図2に、数種の酵素を組み合わせたアスパラギナーゼの効果を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
図2に、酵素(の組合せ)の存在下におけるA.ニガー・アスパラギナーゼの効果を示す。上述した酵素または酵素の組合せを用いて調製されたパンの外皮中のアクリルアミド量と比較すると、酵素(の組合せ)の存在下にアスパラギナーゼを使用した場合は、アクリルアミドの相対量(場合によっては絶対量さえも)が低下している。
【0042】
表3および図2から、製パン用酵素であるベイクザイムP500、ベイクザイムA10000、ベイクザイムHSP6000、リポパンF、ベイクザイムW、ベイクザイムXE、およびこれらの組合せを添加することによって、膨化用塩であるNaHCOまたは酵母を用いて調製されたかどうかに拘わらず、外皮中のアクリルアミド量が比較基準用のパンよりも増加する結果になると結論づけることができる。ところが、適切な量のアスパラギナーゼを生地に添加することによって、アクリルアミドの量が、アスパラギナーゼを用いていない対応する比較基準よりも低下し、場合によっては、アスパラギナーゼを存在させただけで製パン用酵素を使用しなかった比較基準さえも下回るという結果になる。
【0043】
[実施例4]
[パン酵母およびコリブリ(kolibri)小麦粉を用いて調製されたミニバタールパンにおけるアクリルアミド形成に対する製パン用酵素およびA.ニガー・アスパラギナーゼの効果]
標準的な焼成方法により、コリブリ小麦粉(メネバ(Meneba))200g、コーニングスギスト(登録商標)酵母4.6g、食塩4g、アスコルビン酸68ppm、ならびに表2に示す数種の酵素および酵素の組合せを混合することによってミニバタールの調製を実施した。水114gを添加し、ピンミキサーで6分15秒間混合した。生地の温度を27℃とした。混合した直後に生地を150gずつに2分割し、丸めて32℃のホイロで25分間発酵させた。その後、生地片を成形して、32℃で100分間最終発酵を行い、この生地片を225℃で20分間焼成した。外皮中のアクリルアミドを実施例1に記載したように測定した。アスパラギナーゼで処理されたパンに残留しているアクリルアミドの割合を実施例2に示すように算出した。
【0044】
表4および図3に、数種の酵素を組み合わせたアスパラギナーゼの効果を示す。
【0045】
【表4】

【0046】
図3に、酵素(の組合せ)の存在下におけるA.ニガー・アスパラギナーゼの効果を示す。上述した酵素または酵素の組合せを用いて調製されたパンの外皮中のアクリルアミド量と比較して、酵素(の組合せ)の存在下にアスパラギナーゼを使用した場合はアクリルアミドの絶対量が低下している。酵素であるアスパラギナーゼの非存在下におけるアクリルアミド含量がより低いことにより、残留アクリルアミドの相対量がより高くなっている場合もある。しかしながら、酵素の組合せおよびアスパラギナーゼの存在下におけるアクリルアミドの絶対量は、比較基準よりも低下している。
【0047】
表4および図3から、製パン用酵素であるベイクザイムGOX10,000、ベイクザイムMA10,000、ベイクザイムBXP501、およびペクチネックスをコリブリ小麦粉ベースの生地に添加すると、酵素または酵素の組合せを適切な量のアスパラギナーゼと併用した場合の外皮中のアクリルアミド量が、単独の製パン用酵素としてのアスパラギナーゼを用いた比較基準用パンよりも低下する結果となると結論づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】膨化用塩を用いて調製されたミニバタールの外皮中のアクリルアミド量に対するアスパラギナーゼ50ppm(数種の酵素の組合せ中)の効果(%)である。アスパラギナーゼを含まない酵素の組合せのアクリルアミド量を100%に設定した。
【図2】モーグル・ブランド・チャパティ・ブラウンフラワーおよびパン酵母を用いて調製されたミニバタールの外皮中のアクリルアミド量に対するA.ニガー・アスパラギナーゼ50ppm(数種の酵素の組合せ中)の効果である。アスパラギナーゼを含まない酵素の組合せのアクリルアミド量を100%に設定した。
【図3】コリブリ小麦粉およびパン酵母を用いて調製されたミニバタールの外皮中のアクリルアミド量に対するA.ニガー・アスパラギナーゼ(数種の酵素の組合せ中)の効果である。アスパラギナーゼを単独の製パン用酵素として用いたパンのアクリルアミド量を100%に設定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.アスパラギナーゼおよび
b.少なくとも1種の加水分解酵素
を含む酵素組成物。
【請求項2】
前記加水分解酵素が、カルボン酸エステル加水分解酵素である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記加水分解酵素が、o−グリコシル化合物を加水分解するグリコシダーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
食品の製造において前記食品中のアクリルアミド量を低減化するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項5】
少なくとも1つの加熱ステップを含む食品の製造方法であって、前記製造方法において、
a.アスパラギナーゼおよび
b.少なくとも1種の加水分解酵素
を前記食品の中間形態に添加することを含み、これによって、前記アスパラギナーゼおよび少なくとも1種の加水分解酵素が、アスパラギナーゼも加水分解酵素も添加しなかった食品と比べて前記食品のアクリルアミド量を低減させるのに有効な量で前記加熱ステップの前に添加される、方法。
【請求項6】
成分a.およびb.が、一つの組成物、好ましくは、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物で添加される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記食品が、焼成品である、請求項5または6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記食品が、揚げ物、焼き色をつけた物、または焙焼品である、請求項5または6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記食品の前記中間形態が、生地である、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記食品が、植物由来の少なくとも1種の原料から作られる、請求項5〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項4に記載の使用または請求項5〜10のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−541747(P2008−541747A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514077(P2008−514077)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2006/062673
【国際公開番号】WO2006/128843
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】