説明

駆動切換装置

【課題】 2輪駆動、4輪駆動及びデフロックの切換を自動的に行うことができるとともに、4輪駆動時の差動機能を損なわない駆動切換装置を提供すること。
【解決手段】 第1のケージ71は、駆動部材30と第1の被動部材63の間に配され、第1の被動部材63と間接的に相対回転可能に摩擦係合し、第1の転動体61を収容する開口部71aを有する。第2のケージ72は、駆動部材30と第2の被動部材64の間に配され、第2の被動部材64と間接的に相対回転可能に摩擦係合し、第2の転動体62を収容する開口部72aを有する。第1のケージは、凸部71cを有し、第2のケージは、凸部71cと係合することが可能な凹部72cを有する。凸部71cと凹部72cは、相対回転を規定量だけ許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動切換装置に関し、特に、差動機能および差動装置のロック機能と同等の機能を有するとともに、2輪駆動、4輪駆動の切換を自動的に行うことができる駆動切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の4輪バギー(ATV)用のフロントデフは、クラッチ機構を手動操作又は電気的制御によって2輪駆動・4輪駆動及びデフロックの切換えを行う駆動切換装置を備えるものがある。従来の駆動切換装置として、例えば、駆動部材から左右の2個の被動部材への動力の伝達状態を切換える動力切換装置(駆動切換装置)において、切換手段がオンモードに設定された状態で、電磁力により軸方向移動せしめられるケージの端面を被動部材に摩擦接触させて連れ回り回転させることにより、駆動部材の円周状結合面と両被動部材の円周状結合面のそれぞれとを転動体の介在により楔結合させるものが提案されている。これによれば、小型簡素な構成により、完全2輪駆動状態と、完全4輪駆動状態を容易に切換えることができるというものである(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−276463号公報
【特許文献2】特開2003−276464号公報
【特許文献3】特開2003−278804号公報
【特許文献4】特開2003−191767号公報
【特許文献5】特開2003−191769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の動力切換装置では、4輪駆動における走行時、エンジンブレーキ時又は急減速時の直進安定性の維持を可能とするため、4輪駆動時の差動機能が損なわれるという問題が生じていた。すなわち、車両旋回時の内側車輪に対応する転動体は、楔係合のままで動力を伝達する。一方、車両旋回時の外側車輪に対応する転動体は、外側車輪が内側車輪よりもオーバーランするので、楔係合が一旦外れ、次の係合位置で再度係合することになる。このため、車両旋回時においても外側車輪及び内側車輪のそれぞれに対応する転動体の楔係合が解除されず、エンジンブレーキは可能だが、車両旋回時の外側車輪と内側車輪との差動が損なわれることになる。
【0005】
また、特許文献1の動力切換装置では、2輪駆動・4輪駆動の切換を完全なものとするために、切換手段を有し、コストも高くなる傾向にある。
【0006】
本発明の第1の目的は、差動機能および差動装置のロック機能と同等の機能を有するとともに、2輪駆動、4輪駆動の切換を自動的に行うことができ、4輪駆動時の差動機能を損なわない駆動切換装置を提供することである。
【0007】
本発明の第2の目的は、安価でコンパクトな駆動切換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の視点においては、駆動切換装置において、内周面にカム面を有する駆動部材と、前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに外周面に円周状結合面を有する第1の被動部材と、前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに、軸方向で前記第1の被動部材と隣り合い、外周面に円周状結合面を有する第2の被動部材と、前記駆動部材と前記第1の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第1の被動部材とを楔係合させることが可能な第1の転動体と、前記駆動部材と前記第2の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第2の被動部材とを楔係合させることが可能な第2の転動体と、前記第1の被動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第1の転動体を収容する開口部を有する第1のケージと、前記第2の被動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第2の転動体を収容する開口部を有する第2のケージと、を備え、前記第1のケージは、前記第2のケージ側に延在する凸部を有し、前記第2のケージは、前記凸部と係合することが可能な凹部を有し、前記凸部と前記凹部は、相対回転を規定量だけ許容し、前記規定量は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第1の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度、又は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第2の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度であることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の視点においては、駆動切換装置において、内周面に円周状結合面を有する駆動部材と、前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに外周面にカム面を有する第1の被動部材と、前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに、軸方向で前記第1の被動部材と隣り合い、外周面にカム面を有する第2の被動部材と、前記駆動部材と前記第1の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第1の被動部材とを楔係合させることが可能な第1の転動体と、前記駆動部材と前記第2の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第2の被動部材とを楔係合させることが可能な第2の転動体と、前記駆動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第1の転動体を収容する開口部を有する第1のケージと、前記駆動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第2の転動体を収容する開口部を有する第2のケージと、を備え、前記第1のケージは、前記第2のケージ側に延在する凸部を有し、前記第2のケージは、前記凸部と係合することが可能な凹部を有し、前記凸部と前記凹部は、相対回転を規定量だけ許容し、前記規定量は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第1の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度、又は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第2の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度であることを特徴とする。
【0010】
なお、楔状間隙とは、軸方向から見て、駆動部材の表面と、第1の被動部材又は第2の被動部材の表面によってなされる楔状に形成された間隙をいい、別の言い方をすると、駆動部材の表面と、第1の被動部材又は第2の被動部材の表面とによってなされる間隔が極大となるところから極小になるところの部位の間隙をいう。楔係合とは、楔状間隙における間隔の小さい位置に第1の転動体又は第2の転動体が移動することによって、第1の転動体又は第2の転動体を介して駆動部材と第1の被動部材又は第2の被動部材とが係合することをいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、差動機能および差動装置のロック機能と同等の機能を有し、2輪駆動、4輪駆動の切換を自動的に行うことができるとともに、4輪駆動状態においても差動機能を確実なものとすることができる。
【0012】
また、本発明によれば、駆動切換装置においてディファレンシャルギヤを内蔵せず、2輪駆動、4輪駆動及びデフロックの切換を行う電気的手段を有しないことから、コンパクトにすることができ、かつ、装置のコストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態1について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態1に係る駆動切換装置が適用される車両を示した概略図である。図2は、本発明の実施形態1に係る駆動切換装置の構成を模式的に示した断面図である。図3は、本発明の実施形態1に係る駆動切換装置の構成を模式的に示したA−A間の断面図である。図4は、本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの構成を模式的に示した図面であり、(A)は第1のケージの平面図、(B)は第1のケージの左側面図、(C)は第1のケージの右側面図、(D)は第2のケージの平面図、(E)は第2のケージの左側面図、(F)は第2のケージの右側面図である。図5は、本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のスプリングの構成を模式的に示した(A)平面図、(B)側面図である。なお、図3では、便宜上、第1のハウジング及び第2のハウジングを省略している。
【0014】
車両全体の構成について説明する。図1を参照すると、車両は、エンジン1の出力側に変速機2が接続されるとともに、変速機2の出力側に駆動軸3が接続され、駆動軸3の前輪側の端部に駆動切換装置4を介して左右の前輪軸5、7が接続され、前輪軸5に前輪6が接続され、前輪軸7に前輪8が接続され、駆動軸3の後輪側の端部にディファレンシャル10を介して左右の後輪軸11、13が接続され、後輪軸11に後輪12が接続され、後輪軸13に後輪14が接続されている。エンジン1の回転力は、常時後輪側のディファレンシャル10に伝えられ、常時前輪側の駆動切換装置4に伝えられている。駆動切換装置4では、左側の前輪6及び前輪軸5、並びに、右側の前輪8及び前輪軸7のそれぞれを介して伝わる路面状況に応じて、(手動制御や電気的制御を行なうことなく)機械的動作のみにより、エンジン1の回転力を、(A)左右の前輪軸5、7に伝えたり、(B)右の前輪軸7のみに伝えたり、(C)左の前輪軸5のみに伝えたり、(D)左右の前輪軸5、7に伝えないように、切換動作が行われる(詳しくは後述する)。
【0015】
駆動切換装置4について説明する。図2を参照すると、駆動切換装置4は、ピニオンギヤ軸21、駆動部材30、第1のハウジング41、第2のハウジング42、ボルト43、ベアリング51、52、53、54、第1の転動体61、第2の転動体62、第1の被動部材63、第2の被動部材64、第1のスプリング65、第2のスプリング66、第1のケージ71、第2のケージ72、第1の摩擦部材81、第2の摩擦部材82、を有する。
【0016】
ピニオンギヤ軸21は、ベアリング53、54を介して第2のハウジング42に回転可能に支持されている。ピニオンギヤ軸21は、ベアリング53で支持されている部分とベアリング54で支持されている部分の間にピニオンギヤ21aを備える。ピニオンギヤ21aは、リングギヤ34と噛み合う。ピニオンギヤ軸21は、駆動軸(図1の3)と接続される。
【0017】
駆動部材30は、ケース31、第1のカバー32、第2のカバー33、リングギヤ34、ネジ35、ネジ36、ボルト37よりなる組立体であり、これらの構成部品31〜37は、一体となって回転する。駆動部材30は、ベアリング51、52を介して第1のハウジング41と第2のハウジング42の組立体に回転可能に支持されている。なお、ベアリング51は、第1のハウジング41に支持されており、ベアリング52は、第2のハウジング42に支持されている。
【0018】
ケース31は、内周面に複数のカム面31aを有する円筒状の部材である。カム面31aは、多角形状を成す。ケース31の内周面側には、カム面31aに係る多角形状(例えば、6角形)の角部に対応する個数(6個)だけの第1の転動体61及び第2の転動体62(計12個)がそれぞれ配されている。第1のカバー32は、ネジ35によってケース31の左側端部に取り付けられている。第2のカバー33は、ネジ36によってケース31の右側端部に取り付けられている。第1のカバー32は、第1のベアリング51を介して第1のハウジング41に支持されている。同じく、第2のカバー33は、第2のベアリング52を介して第2のハウジング42に支持されている。リングギヤ34は、ボルト37によってケース31の外周部に取り付けられており、ピニオンギヤ21aと噛み合う。これにより、駆動部材30は、駆動軸(図1の3)の回転により常時駆動される。
【0019】
第1のハウジング41と第2のハウジング42とは、ボルト43によって一体に結合されている。
【0020】
第1の被動部材63は、ケース31の内周面側であって第1のカバー32寄りに配置されている。第1の被動部材63は、左側の前輪軸5とスプライン結合し、前輪軸5と一体回転する。第2の被動部材64は、ケース31の内周面側であって第2のカバー33寄りに配置されている。第2の被動部材64は、右側の前輪軸7とスプライン結合し、前輪軸7と一体回転する。第1の被動部材63及び第2の被動部材64は、駆動部材30の中心軸と同軸となるように配置されている。第1の被動部材63には、第1のカバー32側にハブ部63aが凸設されている。ハブ部63aは、第1のカバー32の内周の右寄りに凹設された段差部32aに相対回転可能に挿入されている。また、第2の被動部材64には、第2のカバー33側にハブ部64aが凸設されている。ハブ部64aは、第2のカバー33の内周の左寄りに凹設された段差部33aに相対回転可能に挿入されている。これにより、第1の被動部材63及び第2の被動部材64は、駆動部材30(ケース31、第1のカバー32、第2のカバー33)に相対回転可能な状態で保持される。そして、駆動部材30(ケース31、リングギヤ34)と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64とは、互いに同軸となるように配置されている。なお、第1の被動部材63と第2の被動部材64の間には、第1の被動部材63と第2の被動部材64の間隔を保つために、スペーサ部材(図示せず)を配置してもよい。
【0021】
第1の被動部材63の外周面には、第1の転動体61と当接する円周状結合面63bが設けられている。同じく、第2の被動部材64の外周面には、第2の転動体62と当接する円周状結合面64bが設けられている。第1の被動部材63の円周状結合面63b、及び第2の被動部材64の円周状結合面64bのそれぞれと、ケース31(のカム面31a)と、は、同軸となるように配置されている。第1の被動部材63の円周状結合面63b、及び第2の被動部材64の円周状結合面64bと、カム面31aと、の間の環状空間91には、円周方向の両側(正転方向と逆転方向)が狭巾となる楔状間隙91aがくり返し形成されている。
【0022】
第1の転動体61は、球状の部材であり、環状空間91であって第1のケージ71に設けられた開口部71aに収容され、ケース31のカム面31aに接するとともに、その反対側で第1の被動部材63の円周状結合面63bに接するように配置されており、第1のケージ71によって回動方向及び軸方向の移動が抑制される。同じく、第2の転動体62は、球状の部材であり、環状空間91であって第2のケージ72に設けられた開口部71aに収容され、ケース31のカム面31aに接するとともに、その反対側で第2の被動部材64の円周状結合面64bに接するように配置されており、第2のケージ72によって回動方向及び軸方向の移動が抑制される。なお、第1の転動体61及び第2の転動体62は、球状以外にもローラ状であってもよい。
【0023】
第1のケージ71は、円筒状の部材であり、環状空間91の第1のカバー32寄りの位置に配されている(図2及び図4参照)。第1のケージ71は、第1のカバー32側の端部の所定の位置に第1のスプリング65の爪部65aを挿入するための切欠部71bを有する。第2のケージ72は、円筒状の部材であり、環状空間91の第2のカバー33寄りの位置に配されている(図2及び図4参照)。第2のケージ72は、第2のカバー33側の端部の所定の位置に第2のスプリング66の爪部66aを挿入するための切欠部72bを有する。
【0024】
第1のケージ71は、第2のケージ72側に延在する凸部71cを有する。一方、第2のケージ72は、第1のケージ71の凸部71cと係合可能な位置に凹部72cを有する。凸部71cと凹部72cは、相対回転を規定量だけ許容している。この許容量は、駆動部材30の回転軸と、前進側係合位置での第1の転動体61の中心と、を結ぶ第1の線L1と、駆動部材30の回転軸と、後進側係合位置での第1の転動体61の中心と、を結ぶ第2の線L2と、のなす角の2分の1程度の角度である。言い換えると、駆動部材30の回転軸Aと、前進左旋回時に楔結合する位置にある第1の転動体61の中心と、を結ぶ第3の線(L3)と、駆動部材30の回転軸Aと、前進左旋回時に第1の転動体61と等価の楔状間隙91a内にあって楔結合しない位置にある第2の転動体62の中心と、を結ぶ第4の線(L4)と、のなす角度α(駆動部材30の回転軸と、前進右旋回時に楔結合する位置にある第2の転動体62の中心と、を結ぶ第5の線と、駆動部材30の回転軸と、前進右旋回時に第2の転動体62と等価の楔状間隙91a内にあって楔結合しない位置にある第1の転動体61の中心と、を結ぶ第6の線と、のなす角度)である(図8及び図11参照)。なお、図11は、第1のケージを主体に左側から見たときのものである。
【0025】
第1のスプリング65は、第1の摩擦部材81の外周に巻回されたリング状のスプリングであり、第1の摩擦部材81の外周で摺動回転可能に内接し、弾性力による締め付けによって適切な摩擦回転が可能に構成されている(図2及び図5参照)。同じく、第2のスプリング66は、第2の摩擦部材82の外周に巻回されたリング状のスプリングであり、第2の摩擦部材82の外周に摺動回転可能に内接し、弾性力による締め付けによって適切な摩擦回転が可能に構成されている。第1のスプリング65は、爪部65aを有し、爪部65aは、第1のケージ71の切欠部71bに掛着されている。第2のスプリング66は、爪部66aを有し、爪部65aは、第1のケージ71の切欠部71bに掛着されている。
【0026】
第1のケージ71は、円周状結合面63bを有する第1の被動部材63と第1の摩擦部材81及び第1のスプリング65を介して相対回転可能に摩擦係合し、第1の被動部材63に連れ周りする。同じく、第2のケージ72は、円周状結合面64bを有する第2の被動部材64と第2の摩擦部材82及び第2のスプリング66を介して相対回転可能に摩擦係合し、第2の被動部材64に連れ周りする。言い換えると、第1のケージ71及び第2のケージ72は、カム面31aを有する駆動部材30(ケース31)と直接的及び間接的に摩擦係合せず、駆動部材30と連れ周りしない。
【0027】
第1の摩擦部材81は、第1のケージ71の外周面であって円周状結合面63b以外の第1のカバー32寄りの領域に固定された摩擦材であり、第1のスプリング65と相対回転可能に摩擦係合する。第2の摩擦部材82は、第2のケージ72の外周面であって円周状結合面64b以外の第2のカバー33寄りの領域に固定された摩擦材であり、第2のスプリング66と相対回転可能に摩擦係合する。
【0028】
実施形態1に係る駆動切換装置の動作について図面を用いて説明する。図6〜10は、本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの動作を説明するための図面であり、(A)は第1のケージを主体に左側から見たときの部分切欠側面図であり、(B)は第1のケージ及び第2のケージを主体とした部分平面図であり、(C)は第2のケージを主体とした右側から見たときの部分切欠側面図である。なお、図6は中立時の図であり、図7は前進直進走行時の図であり、図8は前進左旋回走行時の図であり、図9は後進直進走行時の図であり、図10は前進直進エンジンブレーキ時の図である。
【0029】
図6(中立時)を参照すると、エンジン側(駆動部材30側)の回転数とタイヤ側(被動部材63、64側)の回転数に差がない時は、駆動部材30、第1の被動部材63、及び第2の被動部材64も回転しないので、環状空間91のうち円周状結合面63b及び円周状結合面64bの表面からカム面31aの間隔が最も広い位置に第1の転動体61及び第2の転動体62が配され、第1の被動部材63及び第2の被動部材64がともに駆動部材30に楔結合されない状態にある。
【0030】
図7(前進直進走行時)を参照すると、車両が前進直進走行し、かつ、後輪スリップなどによりエンジン側の回転が前輪側の回転より速い時は、駆動部材30と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64との間に回転位相差が生じる。これにより、駆動部材30と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64とが直ちに楔結合され、第1の被動部材63及び第2の被動部材64へ駆動力が伝わり、完全4輪駆動状態になる。この際、駆動部材30のカム面31aによって第1の転動体61及び第2の転動体62が駆動部材30の回転(正転)方向側に押し出され、第1の転動体61が第1のケージ71の開口部71aの回転(正転)方向側の端面に当接するとともに第2の転動体62が第2のケージ72の開口部72aの回転(正転)方向側の端面に当接する。第1の被動部材63及び第2の被動部材64がともに第1の転動体61及び第2の転動体62によって駆動部材30に楔結合されるから、第1の被動部材63及び第2の被動部材64に伝わる回転力は均等になり、直進安定性がよい。
【0031】
図8(前進左旋回走行時)を参照すると、車両が前進左旋回走行し、かつ、エンジン側の回転がタイヤ側の回転より速い時は、駆動部材30と、左側の第1の被動部材63との間に回転位相差が生じ、駆動部材30と第1の被動部材63とが第1の転動体61によって直ちに楔結合され、第1の被動部材63へ駆動力が伝わる。この際、駆動部材30のカム面31aによって第1の転動体61が駆動部材30の回転(正転)方向側に押し出され、第1の転動体61が第1のケージ71の開口部71aの回転(正転)方向側の端面に当接し、第1の転動体61によって第1のケージ71が回転(正転)方向側に押し出されるような状態となる。一方、右側の第2の被動部材64は、右側の前輪のオーバーランによって左側の第1の被動部材63よりも回転数が高いので、第1のケージ71の凸部71cによって第2のケージ72の凹部72cが係止され、第2のスプリング66と第2の摩擦部材82の間に滑りが生じて第2のケージ72と第2の被動部材64との間に回転位相差が生じ、第2のケージ72が駆動部材30と第2の被動部材64との間に楔結合がなされないように第2の転動体62を係止するので、第2の被動部材64へ駆動力が伝わらない。これによって、差動機能を確実なものとすることができる。
【0032】
前進左旋回走行時については、図示していないが、駆動部材30と、右側の第2の被動部材64との間に回転位相差が生じ、駆動部材30と第2の被動部材64とが第2の転動体62によって直ちに楔結合され、第2の被動部材64へ駆動力が伝わる。この際、駆動部材30のカム面31aによって第2の転動体62が駆動部材30の回転(正転)方向側に押し出され、第2の転動体62が第2のケージ72の開口部72aの回転(正転)方向側の端面に当接し、第2の転動体62によって第2のケージ72が回転(正転)方向側に押し出されるような状態となる。一方、左側の第1の被動部材63は、左側の前輪のオーバーランによって右側の第2の被動部材64よりも回転数が高いので、第2のケージ72の凹部72cによって第1のケージ71の凸部71cが係止され、第1のスプリング65と第1の摩擦部材81の間に滑りが生じて第1のケージ71と第1の被動部材63との間に回転位相差が生じ、第1のケージ71が駆動部材30と第1の被動部材63との間に楔結合がなされないように第1の転動体61を係止するので、第2の被動部材64へ駆動力が伝わらない。これによって、差動機能を確実なものとすることができる。
【0033】
図9(後進直進走行時)を参照すると、車両が後進直進走行し、かつ、エンジン側の回転がタイヤ側の回転より速い時は、駆動部材30と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64との間に回転位相差が生じる。これにより、駆動部材30と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64とが直ちに楔結合され、第1の被動部材63及び第2の被動部材64へ駆動力が伝わり、完全4輪駆動状態になる。この際、駆動部材30のカム面31aによって第1の転動体61及び第2の転動体62が駆動部材30の回転(逆転)方向側に押し出され、第1の転動体61が第1のケージ71の開口部71aの回転(逆転)方向側の端面に当接するとともに第2の転動体62が第2のケージ72の開口部72aの回転(逆転)方向側の端面に当接する。第1の被動部材63及び第2の被動部材64がともに第1の転動体61及び第2の転動体62によって駆動部材30に楔結合されるから、第1の被動部材63及び第2の被動部材64に伝わる回転力は均等になり、直進安定性がよい。
【0034】
図10(前進直進エンジンブレーキ走行時)を参照すると、車両が前進直進走行し、かつ、エンジン側の回転がタイヤ側の回転より速い時は、駆動部材30と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64との間に回転位相差が生じる。これにより、駆動部材30と、第1の被動部材63及び第2の被動部材64とが直ちに楔結合され、第1の被動部材63及び第2の被動部材64へ駆動力が伝わり、エンジンブレーキ走行状態になる。この際、駆動部材30のカム面31aによって第1の転動体61及び第2の転動体62が駆動部材30の回転(逆転)方向側に押し出され、第1の転動体61が第1のケージ71の開口部71aの回転(逆転)方向側の端面に当接するとともに第2の転動体62が第2のケージ72の開口部72aの回転(逆転)方向側の端面に当接する。第1の被動部材63及び第2の被動部材64がともに第1の転動体61及び第2の転動体62によって駆動部材30に楔結合されるから、第1の被動部材63及び第2の被動部材64に伝わる回転力は均等になり、直進安定性がよい。
【0035】
実施形態1によれば、4輪駆動状態においても、差動機能が損なわれないように第1の転動体61、第2の転動体62を保持する第1のケージ71、第2のケージ72の回転方向の相対変位を規定量だけ許容するとともに、車両旋回時の外側車輪のオーバーランによって他方向のカムに楔係合することを解消し、車両旋回状態では外側車輪に相当する第1の転動体61(又は第2の転動体62)を非駆動位置とする。これによって、差動機能を確実なものとすることができる。
【0036】
また、第1の被動部材63及び第2の被動部材64と駆動部材30の回転位相差が生ずると直ちに駆動部材30と第1の被動部材63及び第2の被動部材64とを第1の転動体61及び第2の転動体62の介在により楔結合させることができる(ボールクラッチ機構)。駆動部材30と第1の被動部材63及び第2の被動部材64の楔結合の係脱は容易かつ軽快である。
【0037】
さらに、駆動切換装置においてディファレンシャルギヤを内蔵しないから、小型簡素で軽量化できる。
【0038】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2について説明する。実施形態1に係る駆動切換装置では、第1の被動部材(図3の63)及び第2の被動部材が円周状結合面(図3の63b)を有し、駆動部材30(ケース31)がカム面(図3の31a)を有する構成であったが、実施形態2では、第1の被動部材及び第2の被動部材がカム面を有し、駆動部材(ケース)が円周状結合面を有する構成とする(実施形態1と反対の構成の場合)。すなわち、第1のケージと第1の被動部材との摩擦摺動すべく係合は、ケースと第1の転動体とが接する面を円周状結合面とし、第1の被動部材と第1の転動体とが接する面をカム面とするように設定する。同じく、第2のケージと第2の被動部材との摩擦摺動すべく係合は、駆動部材(ケース)と第2の転動体とが接する面を円周状結合面とし、第2の被動部材と第2の転動体とが接する面をカム面とするように設定する。このとき、第1のケージ及び第2のケージは、円周状結合面を有する駆動部材(ケース)と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合し、駆動部材(ケース)に連れ周りするように構成する。言い換えると、第1のケージ及び第2のケージは、カム面を有する第1の被動部材及び第2の被動部材と直接的及び間接的に摩擦係合せず、第1の被動部材及び第2の被動部材と連れ周りしない。実施形態2のような構成であっても、実施形態1と同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置が適用される車両を示した概略図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置の構成を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置の構成を模式的に示したA−A間の断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの構成を模式的に示した平面図、左側面図及び右側面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のスプリングの構成を模式的に示した平面図、左側面図及び右側面図である。
【図6】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの動作を説明するための中立時の図面である。
【図7】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの動作を説明するための前進直進走行時の図面である。
【図8】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの動作を説明するための前進左旋回走行時の図面である。
【図9】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの動作を説明するための後進直進走行時の図面である。
【図10】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージ及び第2のケージの動作を説明するための前進直進エンジンブレーキ時の図面である。
【図11】本発明の実施形態1に係る駆動切換装置で用いられる第1のケージと第2のケージとの間の許容される相対回転の規定量を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン
2 変速機
3 駆動軸
4 駆動切換装置
5、7 前輪軸
6、8 前輪
10 ディファレンシャル
11、13 後輪軸
12、14 後輪
21 ピニオンギヤ軸
21a ピニオンギヤ
30 駆動部材
31 ケース
31a カム面
32 第1のカバー
32a 段差部
33 第2のカバー
33a 段差部
34 リングギヤ
35 ネジ
36 ネジ
37 ボルト
41 第1のハウジング
42 第2のハウジング
43 ボルト
51、52、53、54 ベアリング
61 第1の転動体
62 第2の転動体
63 第1の被動部材
63a ハブ部
63b 円周状結合面
64 第2の被動部材
64a ハブ部
64b 円周状結合面
65 第1のスプリング
65a 爪部
66 第2のスプリング
66a 爪部
71 第1のケージ
71a 開口部
71b 切欠部
71c 凸部
72 第2のケージ
72a 開口部
72b 切欠部
72c 凹部
81 第1の摩擦部材
82 第2の摩擦部材
91 環状空間
91a 楔状間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面にカム面を有する駆動部材と、
前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに外周面に円周状結合面を有する第1の被動部材と、
前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに、軸方向で前記第1の被動部材と隣り合い、外周面に円周状結合面を有する第2の被動部材と、
前記駆動部材と前記第1の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第1の被動部材とを楔係合させることが可能な第1の転動体と、
前記駆動部材と前記第2の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第2の被動部材とを楔係合させることが可能な第2の転動体と、
前記第1の被動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第1の転動体を収容する開口部を有する第1のケージと、
前記第2の被動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第2の転動体を収容する開口部を有する第2のケージと、
を備え、
前記第1のケージは、前記第2のケージ側に延在する凸部を有し、
前記第2のケージは、前記凸部と係合することが可能な凹部を有し、
前記凸部と前記凹部は、相対回転を規定量だけ許容し、
前記規定量は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第1の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度、又は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第2の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度であることを特徴とする駆動切換装置。
【請求項2】
内周面に円周状結合面を有する駆動部材と、
前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに外周面にカム面を有する第1の被動部材と、
前記駆動部材の内周側において前記駆動部材と同軸配置されるとともに、軸方向で前記第1の被動部材と隣り合い、外周面にカム面を有する第2の被動部材と、
前記駆動部材と前記第1の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第1の被動部材とを楔係合させることが可能な第1の転動体と、
前記駆動部材と前記第2の被動部材の間の周方向に楔状間隙をくり返し形成する環状空間に配置されるとともに、前記駆動部材と前記第2の被動部材とを楔係合させることが可能な第2の転動体と、
前記駆動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第1の転動体を収容する開口部を有する第1のケージと、
前記駆動部材と直接的又は間接的に相対回転可能に摩擦係合するとともに、前記第2の転動体を収容する開口部を有する第2のケージと、
を備え、
前記第1のケージは、前記第2のケージ側に延在する凸部を有し、
前記第2のケージは、前記凸部と係合することが可能な凹部を有し、
前記凸部と前記凹部は、相対回転を規定量だけ許容し、
前記規定量は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第1の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度、又は、前記駆動部材の回転軸と、楔結合する位置にある前記第2の転動体の中心と、を結ぶ線と、前記駆動部材の回転軸と、前記第2の転動体と等価の前記楔状間隙内にあって楔結合しない位置にある前記第1の転動体の中心と、を結ぶ線と、のなす角度であることを特徴とする駆動切換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−7948(P2006−7948A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187389(P2004−187389)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】