説明

駆動制御装置及びこれを搭載した電動車両

【課題】コストアップが抑制された構成でモータを任意の回転速度で回転させて定速走行でき、モータの駆動に関して低消費電力化の向上が図られた駆動制御装置を提供する。
【解決手段】電動車両1のモータ13の駆動制御装置20は、モータ13の回転速度を計測する速度計測部25と、時間を計測する計時部24と、外部からモータ13の駆動についての加減速指令を受け付けるとともに、速度計測部25から得られるモータ13の回転速度が所定期間所定範囲内であるとき、モータ13の駆動制御を前記加減速指令に基づく制御から現在のモータ13の回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替える制御部21と、を備える。これにより、スロットル7を用いてモータ13を制御しているとき、モータ13の回転速度が所定期間所定範囲内である場合、現在のモータ13の回転速度を目標速度としたモータ13の定速走行制御が実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両用モータの駆動制御装置に関する。また、この駆動制御装置を搭載した電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両は、一般的に運転者が操作するスロットルやアクセルの開き具合に基づくトルク制御によりモータを駆動している。すなわち、電動車両に搭載される駆動制御装置はスロットルやアクセルの開き具合に対応するモータの目標トルク値を設定してモータを駆動することにより、運転者の意思に基づいて電動車両を走行させる。運転者は速度計に注意を払いながらスロットルやアクセルを調整することにより、所望の速度で電動車両を走行させることができる。
【0003】
ここで、電動車両において一定の車両速度、すなわち定速で走行したい場合、運転者は速度計を見る機会が増加する。これにより、運転者に負担がかかって疲労する虞があるのとともに、運転上の注意力が散漫になる可能性があり、安全性の面でも好ましくない。
【0004】
そこで、上記のような問題を防止するため、簡単な操作で定速走行が可能な制御装置が提案され、その一例を特許文献1に見ることができる。特許文献1に記載された電動車両の定速走行制御装置は速度設定手段を備え、車両速度の設定を行うことによってモータ電流を制御し、定速走行を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−369317号公報(第3頁、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された電動車両の定速走行制御装置は速度設定手段を用いて車両速度の設定を行うことによりモータ電流を制御しているので、走行前に予め運転者が車両速度を設定しておかなければならない。これにより、ある特定の車両速度でのみ定速走行が可能であって、運転中に任意の車両速度で定速走行したい場合には対応が困難である。
【0007】
また、上記定速走行制御装置は速度設定手段を別途あらためて電動車両に搭載する必要がある。したがって、制御装置ならびに電動車両が高コスト化する可能性が高い。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、コストアップが抑制された構成でモータを任意の回転速度で回転させて定速走行することができ、モータの駆動に関して低消費電力化の向上が図られた駆動制御装置を提供することを目的とする。また、このような駆動制御装置を備えた燃費性能の高い電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、電動車両用モータの駆動制御装置であって、モータの回転速度を計測する速度計測部と、時間を計測する計時部と、外部からモータの駆動についての加減速指令を受け付けるとともに、前記速度計測部から得られるモータの回転速度が所定期間所定範囲内であるとき、モータの駆動制御を前記加減速指令に基づく制御から現在のモータの回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替える制御部と、を備えることとした。
【0010】
この構成によれば、例えばスロットルやアクセルなどを用いて外部からモータの駆動についての加減速指令、具体的には加速や減速に応じたトルク指令がモータに対して送られる。そして、スロットルなどを用いてモータを制御しているとき、モータの回転速度が所定期間所定範囲内である場合、現在のモータの回転速度を目標速度としたモータの定速走行制御を実現する。
【0011】
なお、上記「所定期間」は予め設定した任意の期間であり、車両の運転においてほぼ一定の速度で運転していると判断することができる程度の期間であって、例えば数秒から数分程度の期間とすることが可能であるが、必要に応じて適切に設定できる。したがって、後述する実施形態では「所定期間」を「5秒」と設定しているが、このような期間に限定されるわけではない。また、以下の手段の複数箇所において用いられる「所定期間」という語についてはすべてが同じ期間であるというわけではなく、期間が設定される対象に応じて任意の期間が設定可能である。
【0012】
同様に、上記「所定範囲」は予め設定したモータ回転速度の任意の範囲であり、例えば1km/h以内、2km/h以内などといった範囲として構わない。後述する実施形態では「所定範囲」を「1km/h以内」と設定しているが、このような範囲に限定されるわけではない。また、以下の手段の複数箇所において用いられる「所定範囲」という語についてはすべてが同じ範囲であるというわけではなく、範囲が設定される対象に応じて任意の範囲が設定可能である。
【0013】
また、上記構成の駆動制御装置において、モータのトルクを計測するトルク計測部を備え、前記制御部は、外部からモータの制動指令を受け付けるとともに、前記定速走行制御時、前記制動指令を受け付けた場合、若しくは外部から前記加減速指令を受け付けた場合、若しくはモータに掛かる負荷トルクが所定変化率以上で変化した場合、若しくは前記加減速指令で指示された前記目標速度を維持するための目標トルクと前記トルク計測部から得られるモータの出力トルクとの差が所定範囲外となった場合、若しくは出力可能なトルク範囲以上のトルクがモータに必要となった場合、モータの駆動制御を前記定速走行制御から前記加減速指令に基づく制御に切り替えることとした。
【0014】
この構成によれば、定速走行中に例えばブレーキレバーを用いてブレーキが掛けられたり、スロットル操作がなされたり、比較的大きな負荷がモータに掛かったりなどすることにより、モータの定速走行制御がスロットルなどを用いて行う加減速指令に基づく制御に切り替わる。
【0015】
また、上記構成の駆動制御装置において、前記制御部は、モータの駆動制御を前記定速走行制御から前記加減速指令に基づく制御に切り替えるとき、前記トルク計測部から得られるモータの出力トルクを前記加減速指令で指示された目標トルクに所定期間後に同じになるように近づけることとした。
【0016】
この構成によれば、モータの定速走行制御からスロットルなどを用いて行う加減速指令に基づく制御に切り替わる際、そのときのモータの出力トルクが自動的に、運転者が調整するスロットルからの目標トルクに近づく。
【0017】
また、上記構成の駆動制御装置において、前記制御部は、前記定速走行制御への移行後、前記加減速指令としての制御信号を変化させることにより前記定速走行制御における目標速度を変更可能であることとした。
【0018】
この構成によれば、定速走行制御中、定速走行制御の目標速度が逐次変化する。
【0019】
また、上記構成の駆動制御装置において、モータの駆動についての前記加減速指令はスロットルやアクセルを用いて実行され、モータの制動についての前記制動指令はブレーキレバーやブレーキペダルを用いて実行されることとした。
【0020】
また本発明では、上記駆動制御装置を電動車両に搭載することとした。
【0021】
この構成によれば、電動車両において、例えばスロットルやアクセルなどを用いて外部からモータの駆動についての加減速指令が送られ、運転される。そして、スロットルなどを用いて制御しながら走行しているとき、車両速度が所定期間所定範囲内である場合、現在の車両速度を目標速度とした定速走行運転が実現する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の構成によれば、特別な装置を別途付加することなく、コストアップが抑制された構成でモータを任意の回転速度で回転させて定速走行させることができる。そして、モータに比較的大きなトルク変動が生じなければ、任意のモータ回転速度で自動的に定速走行が維持される。したがって、運転者による冗長な加減速指令の影響がモータに及ぶのを防止することができる。
【0023】
また、定速走行制御でモータを駆動している際、例えば運転者がスロットルやブレーキレバーの操作を行ったり、比較的大きな負荷がモータに掛かったりなどすることにより自動的に加減速指令に基づく制御に切り替わるので、運転状況の変化に逐次対応してあらたに任意のモータ回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替えることができる。
【0024】
その結果、モータの駆動に関して低消費電力化の向上が図られた駆動制御装置を提供することが可能である。そして、このような駆動制御装置を備えた燃費性能の高い電動車両を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動制御装置を搭載した電動車両の一例を示す右側面図である。
【図2】図1の電動車両の構成を示すブロック図である。
【図3】駆動制御装置による加減速制御から定速走行制御への切り替え動作を示すフローチャートである。
【図4】駆動制御装置による定速走行制御から加減速制御への切り替え動作を示すフローチャートである。
【図5】定速走行制御から加減速制御への切り替え判定の一例を説明するグラフである。
【図6】定速走行制御から加減速制御への切り替え判定の一例を説明するグラフである。
【図7】定速走行制御から加減速制御への切り替え判定の一例を説明するグラフである。
【図8】定速走行制御から加減速制御への切り替え判定の一例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図1〜図8に基づき説明する。
【0027】
最初に、本発明の実施形態に係る駆動制御装置を搭載した電動車両について、図1及び図2を用いてその構造を説明する。図1は駆動制御装置を搭載した電動車両の一例を示す右側面図、図2は電動車両の構成を示すブロック図である。
【0028】
電動車両1は、図1に示すように、前輪2、及び後輪3を備えた電動式の二輪車であり、具体的には電動式の自動二輪車である。電動車両1はメインフレーム4、及びスイングアーム5が主たる骨組みとして構成されている。
【0029】
メインフレーム4は前端部が上方に向かって屈曲しており、その前端部で前輪2及びハンドル6を操舵可能に支持している。ハンドル6には電動車両1の加減速時に用いるスロットル7と、制動時に用いるブレーキレバー8とが設けられている。
【0030】
メインフレーム4の後端側であって、電動車両1の前後方向の略中央部には使用者が腰を掛けるシート9と、バッテリ収容部10とが備えられている。バッテリ収容部10はシート9の下方に設けられ、内部にバッテリ11を収容することができる。シート9はバッテリ収容部10の蓋の役目も果たし、バッテリ収容部10に対して開閉可能にして取り付けられている。メインフレーム4のシート9の後方であって、後輪3の上方の箇所には荷物台12が備えられている。
【0031】
スイングアーム5はメインフレーム4後部の、シート9及びバッテリ収容部10の箇所の下方から後方に向かって延びている。後輪3はスイングアーム5の後端に支持されている。また、後輪3は駆動輪であり、スイングアーム5との間に後輪3を駆動させるモータ13が備えられている。すなわち、スイングアーム5はモータ13及び後輪3の回転軸を水平にして支持している。また、スイングアーム5のモータ13の箇所の上部から上方の荷物台9に向かって、モータ13及び後輪3を吊り下げるサスペンションユニット14が設けられている。
【0032】
また、電動車両1は車両全体の動作制御のため、図2に示すようにその内部に駆動制御装置20と、モータ駆動部15とを備えている。駆動制御装置20は制御部21、記憶部23、計時部24、速度計測部25、及びトルク計測部26を備えている。なお、制御部21と、記憶部23と、計時部24とは一般的なマイコンによって構成され、このマイコン内の記憶部23に記憶、入力されたプログラム、データに基づき、制御部21が電動車両1の走行に係る一連の動作を制御するプロセッサとして機能するものである。また、計時部24は電動車両1の走行に係る制御に必要な時間を計測する。
【0033】
速度計測部25はホールIC、ロータリエンコーダなどのセンサをモータ13の近傍に備え、このセンサによりモータ13の回転速度を計測する。或いは、これらのセンサを用いないで、モータ13に流れる電流値から回転速度を推定することも可能である。トルク計測部26はトルクセンサなどを用いてモータ13の出力トルクを計測する。或いは、トルクセンサを用いないで、モータ13に流れる電流値から出力トルクを推定することも可能である。
【0034】
これらの速度計測部25とトルク計測部26とをセンサを用いない、所謂センサレス方式で実現しようとする場合は速度計測部25及びトルク計測部26の機能である回転速度及び出力トルクの計測をモータ駆動部15が担うことも可能である。すなわち、モータ駆動部15ではモータ13の駆動に必要な電流を流しており、この電流をこのモータ駆動部15内に備えた電流センサ(図示せず)によって検出することができるので、上述の回転速度や出力トルクの推定が可能となる。
【0035】
なお、上述の出力トルクとはモータ駆動部15による制御とモータ13に掛かる負荷により決定されるモータ13が発生する実トルクである。速度計測部25で得られたモータ13の回転速度、及びトルク計測部26で得られたモータ13の出力トルクに係る情報は各々制御部21に送信される。
【0036】
ここで、電動車両1を走行させるとき、駆動制御装置20は運転者が操作するスロットル7から得られるスロットル7の開き具合に応じた目標トルクをモータ駆動部15に送る。そして、モータ駆動部15は制御部21からの制御指令に基づき電流や電圧などを調整し、モータ13を駆動させる。
【0037】
なお、制御部21はブレーキレバー8から、ブレーキレバー8の握り具合で示される制御信号をモータ13の制動指令として逐次受け付ける。また、速度計測部25やトルク計測部26、計時部24で得られる各種情報は逐次制御部21に送信され、モータ13の駆動制御に利用される。
【0038】
上記のように、駆動制御装置20は基本的に、運転者によるスロットル7を用いた加減速指令に基づきモータ13を駆動制御し、電動車両1を走行させる。一方、駆動制御装置20は速度計測部25から得られるモータ13の回転速度が所定期間所定範囲内であるとき、モータ13の駆動制御を加減速指令に基づく制御(加減速制御)から現在のモータ13の回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替えることができる。この所定期間としては例えば5秒間などが設定され、記憶部23に記憶されている。また、この速度の所定範囲としては例えば1km/h以下などが設定され、記憶部23に記憶されている。
【0039】
定速走行制御ではモータ13の回転速度を目標速度で維持するよう制御部21がモータ駆動部15を介してモータ13の駆動制御を実行する。
【0040】
これに関して、電動車両1の走行制御に係る、駆動制御装置20による加減速制御から定速走行制御への切り替え動作について、図3に示すフローに沿って説明する。図3は駆動制御装置20による加減速制御から定速走行制御への切り替え動作を示すフローチャートである。
【0041】
加減速制御で電動車両1が走行中(図3のスタート)、駆動制御装置20の制御部21は速度計測部25にモータ13の回転速度を計測させる(図3のステップ#101)。なお、時間カウンタがゼロの場合は回転速度を基準速度として保存する。そして、ステップ#101で基準速度と現在速度(1回目は現在速度を基準速度としているために、同じ値が入っている)の差が1km/h以内の時(ステップ#102のYes)は時間カウンタを始動させる(ステップ#103)。続いてステップ#104において、時間カウンタが5秒以内の場合(ステップ#104のNo)は再度ステップ#101に戻り、モータ回転速度を計測する。ステップ#104において、時間カウンタが5秒以上の時(ステップ#104のYes)は定速走行制御に切り替える(ステップ#105)。ここで、ステップ#101で計測された回転速度をステップ#102にて基準速度と比較した際に、差が1km/hを超える場合(ステップ#102のNo)には時間カウンタをリセットする(ステップ#106)。そして、前回のステップ#101で計測したモータ回転速度を基準速度として再度設定する。
【0042】
このときの計測のサンプル周期は、上述の所定期間の長さ5秒としてもよいが、より詳細に回転速度を観察するために、5秒より短い周期とすることができる。本実施形態の場合、このサンプル周期を1秒としている。
【0043】
定速走行制御ではモータ13の回転速度が目標速度を維持するように、制御部21が速度計測部25にモータ13の回転速度を計測させながら、モータ駆動部15を介してモータ13の駆動制御を実行する(図3のエンド)。
【0044】
なお、運転者は定速走行を意識して運転していてもスロットル7を完全に固定できるわけではなく、意図せず微小にスロットル7の開き具合が変化してしまうことがある。これに対応するため、駆動制御装置20は定速走行制御に切り替わるときの直前の5秒間にスロットル7から得られる加減速指令の大きさの幅を計測し、この計測した値を記憶部23に記録している。記憶されたこの加減速指令の幅は、後述する図5〜図8で説明する出力トルクの幅(所定範囲)に該当するものであり、詳細は後述する。
【0045】
また、加減速指令の大きさの幅の計測の方法としては、次の方法も可能である。すなわち、例えばスロットル7の開き具合にして数%等に相当する信号が設定され、記憶部23に記憶されている。そして、定速走行制御中、制御部21はこの加減速指令の制御信号の所定範囲内において自動的に目標速度を維持するようモータ13の駆動制御を実行する。
【0046】
また、制御部21は、定速走行制御への移行後、スロットル7を用いた加減速指令としての制御信号を変化させることにより定速走行制御における目標速度を変更可能にすることもできる。これにより、定速走行制御中、定速走行制御の目標速度が逐次変化する。
【0047】
一方、スロットル7の開き具合が上記所定範囲外に変化するなどした場合、制御部21は運転者が意図的にスロットル7を操作したと判断する。
【0048】
そして、電動車両1が定速走行制御に基づき走行している際、運転者がスロットル7やブレーキレバー8を操作したり、坂道に差し掛かるなどの外的要因でモータ13に負荷が掛かったりすると、駆動制御装置20はモータ13の駆動制御を定速走行制御からスロットル7を用いた加減速制御へ切り替える。
【0049】
続いて、駆動制御装置20による定速走行制御から加減速制御への切り替え動作について、図4に示すフローに沿って図5〜図8を用いて説明する。図4は駆動制御装置20による定速走行制御から加減速制御への切り替え動作を示すフローチャート、図5〜図8は定速走行制御から加減速制御への切り替え判定の例を説明するグラフである。
【0050】
定速走行制御で電動車両1が走行中(図4のスタート)、駆動制御装置20の制御部21は運転者によるスロットル7の操作があるか否かを判定する(図4のステップ#201)。スロットル7の操作があった場合、すなわちスロットル7から得られる加減速指令としての制御信号が所定範囲外に変化するなどした場合(ステップ#201のYes)、制御部21はモータ13の駆動制御を定速走行制御から加減速指令に基づく制御、すなわち加減速制御に切り替える(ステップ#202)。加減速制御では運転者によるスロットル7を用いた加減速指令に基づき制御部21がモータ13の駆動制御を実行する(図4のエンド)。
【0051】
運転者によるスロットル7の操作がない場合、すなわちスロットル7から得られる加減速指令としての制御信号の変化が所定範囲内にある場合(ステップ#201のNo)、制御部21は運転者によるブレーキレバー8の操作があるか否かを判定する(ステップ#203)。ブレーキレバー8の操作があった場合(ステップ#203のYes)、制御部21はモータ13の駆動制御を定速走行制御から加減速制御に切り替える(ステップ#202)。加減速制御では運転者によるスロットル7を用いた加減速指令に基づき制御部21がモータ13の駆動制御を実行する(図4のエンド)。
【0052】
運転者によるブレーキレバー8の操作がない場合(ステップ#203のNo)、制御部21はモータ13に掛かる負荷トルクが急激に変化、すなわち所定変化率以上で変化したか否かを判定する(ステップ#204)。なお、負荷トルクはモータ13が仕事を行うのに要したトルクであって、出力トルクのことである。モータ13に掛かる負荷トルクが所定変化率以上で変化した場合(ステップ#204のYes)、制御部21はモータ13の駆動制御を定速走行制御から加減速制御に切り替える(ステップ#202)。加減速制御では運転者によるスロットル7を用いた加減速指令に基づき制御部21がモータ13の駆動制御を実行する(図4のエンド)。
【0053】
モータ13に掛かる負荷トルクの変化が所定変化率以下の変化である場合(ステップ#204のNo)、制御部21は定速走行制御における目標速度を維持するための基準トルクとモータ13の出力トルクとの差が所定範囲内であるか否かを判定する(ステップ#205、図5参照)。なお、この場合の基準トルクとしては、加減速制御におけるスロットルの開き具合から得られた目標トルクが用いられる。
【0054】
基準トルクと出力トルクとの差が所定範囲外である場合(ステップ#205のYes)、制御部21はモータ13の駆動制御を定速走行制御から加減速制御に切り替える(ステップ#202)。加減速制御では運転者によるスロットル7を用いた加減速指令に基づき制御部21がモータ13の駆動制御を実行する(図4のエンド)。
【0055】
基準トルクと出力トルクとの差が所定範囲内である場合(ステップ#205のNo)、制御部21はステップ#205の条件以外で、基準トルク(目標トルク)に対してモータ13が出力可能なトルク範囲以上のトルクを必要としているか否かを判定する(ステップ#206)。モータ13が出力可能なトルク範囲以上のトルクを必要としている場合とは、ステップ#205の条件のほか、例えば基準トルクに対して出力トルクの正負が逆になったり(図6参照)、或いは出力トルクの変化範囲が所定範囲を超えたり(図7参照)、或いは出力可能なトルク範囲内での制御では目標速度の維持が困難になったり(図8参照)などする場合である。
【0056】
このように、基準トルク(目標トルク)に対してモータ13が出力可能なトルク範囲以上のトルクを必要としている場合(ステップ#206のYes)、制御部21はモータ13の駆動制御を定速走行制御から加減速制御に切り替える(ステップ#202)。加減速制御では運転者によるスロットル7を用いた加減速指令に基づき制御部21がモータ13の駆動制御を実行する(図4のエンド)。
【0057】
モータ13が出力可能なトルク範囲以上のトルクを必要としていない場合(ステップ#206のNo)、制御部21は再度運転者によるスロットル7の操作があるか否かを判定する(ステップ#201)。このようにして、制御部21は定速走行中、ステップ#201、及びステップ#203〜ステップ#206の各条件のいずれかを満たすか否かを繰り返し判定している。なお、各条件の判定順序は上記順序に限定されるわけではなく、順番を入れ替えても良い。そして、上記いずれかの条件を満たすとき、制御部21はモータ13の駆動制御を定速走行制御からスロットル7を用いた加減速制御へ切り替える。
【0058】
モータ13の駆動制御を定速走行制御から加減速制御へ切り替えるとき、制御部21は例えばトルク計測部26から得られるモータ13の出力トルクを加減速指令、すなわちスロットル7の開き具合から求めた目標トルクに所定期間後に同じになるように近づける。この所定期間としては例えば3秒などが設定され、記憶部23に記憶されている。
【0059】
ステップ#201、及びステップ#203〜ステップ#206のいずれの条件も満たさないとき、制御部21は定速走行制御を維持する。
【0060】
上記実施形態のように、駆動制御装置20の制御部21はモータ13の回転速度の変化の幅が5秒間、1km/h以下であるとき、モータ13の駆動制御を、スロットル7を用いた加減速制御から現在のモータ13の回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替えるので、特別な装置を別途付加することなく、コストアップが抑制された構成でモータ13を任意の回転速度で回転させて定速走行させることができる。そして、モータ13に比較的大きなトルク変動が生じなければ、任意のモータ回転速度で自動的に定速走行が維持される。したがって、運転者による冗長な加減速指令の影響がモータ13に及ぶのを防止することができる。
【0061】
また、定速走行制御でモータ13を駆動している際、例えば運転者がスロットル7やブレーキレバー8の操作を行ったり、比較的大きな負荷がモータ13に掛かったりなどすることにより自動的に加減速指令に基づく制御に切り替わるので、運転状況の変化に逐次対応してあらたに任意のモータ回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替えることができる。
【0062】
その結果、モータ13の駆動に関して低消費電力化の向上が図られた駆動制御装置20を提供することが可能である。そして、このような駆動制御装置20を備えた燃費性能の高い電動車両1を提供することが可能である。
【0063】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【0064】
例えば、モータ駆動部15を制御部21と区別して説明したが、モータ駆動部15の機能を制御部21に担わせる構成としても良い。
【0065】
また、上述の加減速制御から定速走行制御への切り替えの条件として、図3のフローを示したが、これに限定されることなく、たとえば、以下のように制御部21を動作させることも可能である。加減速制御の状態において、モータ13の回転速度をサンプル周期0.1秒で5秒間測定して記憶し、このサンプル値(すなわち回転速度の値)のうち最も大きい値と最も小さい値との差が所定の値(例えば1km/h)以下であるか否かを判定して、1km/h以下であれば定速走行制御に切り替えることもできる。
【0066】
また、例えば本発明の実施形態では、モールドモータを搭載した電動車両1に、図1に示す自動二輪車を一例として掲げて説明したが、搭載対象となる電動車両は自動二輪車に限定されるわけではなく、自動三輪車や自動四輪車であっても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、電動車両用モータの駆動制御装置全般において利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 電動車両
2 前輪
3 後輪
6 ハンドル
7 スロットル
8 ブレーキレバー
13 モータ
15 モータ駆動部
20 駆動制御装置
21 制御部
23 記憶部
24 計時部
25 速度計測部
26 トルク計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動車両用モータの駆動制御装置であって、
モータの回転速度を計測する速度計測部と、
時間を計測する計時部と、
外部からモータの駆動についての加減速指令を受け付けるとともに、前記速度計測部から得られるモータの回転速度が所定期間所定範囲内であるとき、モータの駆動制御を前記加減速指令に基づく制御から現在のモータの回転速度を目標速度とする定速走行制御に切り替える制御部と、
を備えることを特徴とする駆動制御装置。
【請求項2】
モータのトルクを計測するトルク計測部を備え、
前記制御部は、外部からモータの制動指令を受け付けるとともに、前記定速走行制御時、前記制動指令を受け付けた場合、若しくは外部から前記加減速指令を受け付けた場合、若しくはモータに掛かる負荷トルクが所定変化率以上で変化した場合、若しくは前記加減速指令で指示された前記目標速度を維持するための目標トルクと前記トルク計測部から得られるモータの出力トルクとの差が所定範囲外となった場合、若しくは出力可能なトルク範囲以上のトルクがモータに必要となった場合、モータの駆動制御を前記定速走行制御から前記加減速指令に基づく制御に切り替えることを特徴とする請求項1に記載の駆動制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、モータの駆動制御を前記定速走行制御から前記加減速指令に基づく制御に切り替えるとき、前記トルク計測部から得られるモータの出力トルクを前記加減速指令で指示された目標トルクに所定期間後に同じになるように近づけることを特徴とする請求項2に記載の駆動制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記定速走行制御への移行後、前記加減速指令としての制御信号を変化させることにより前記定速走行制御における目標速度を変更可能であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の駆動制御装置。
【請求項5】
モータの駆動についての前記加減速指令はスロットルやアクセルを用いて実行され、モータの制動についての前記制動指令はブレーキレバーやブレーキペダルを用いて実行されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の駆動制御装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の駆動制御装置を搭載したことを特徴とする電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−139567(P2011−139567A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297166(P2009−297166)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】