説明

駆動力伝達装置

【課題】前進駆動系と後退駆動系とが異なる場合においても、両系統のガタ詰め時の異音の発生を抑制する。
【解決手段】S1で変速機の選択レンジをチェックし、ステップS2でR(後退走行)レンジと判定する場合は、駆動力伝達ユニットが伝動開始時に後退駆動を行うことになることから、S13において、駆動力伝達ユニットの使用油温のうち最低油温の時におけるフリクションを固定的に使用して後退駆動系のガタ詰めトルクTrを求め、このTrが発生するよう電動モータを後退駆動力発生方向へ附勢する。ステップS8でD(前進走行)レンジと判定する場合は、駆動力伝達ユニットが伝動開始時に後退駆動を行うことになることから、S14において、駆動力伝達ユニットの使用油温のうち最低油温の時におけるフリクションを固定的に使用して前進駆動系のガタ詰めトルクTdを求め、このTdが発生するよう電動モータを前進駆動力発生方向へ附勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪の一方(主駆動輪)をエンジン等の主動力源により駆動し、他方(副駆動輪)を副動力源である電動モータにより駆動する電動モータ式4輪駆動車両の電動モータ駆動系などに用いるのに有用な駆動力伝達装置に関し、
特に、該駆動力伝達装置の伝動開始に先立って異音防止のため、予め駆動系における隙間をなくす方向のガタ詰めトルクを付与するようにした駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータ式4輪駆動車両としては従来、特許文献1に記載されているようなものが知られており、エンジン等の主動力源により主駆動輪を駆動し、副動力源たる電動モータにより副駆動輪を駆動する。
【0003】
そして特許文献1には更に、電動モータと副駆動輪との間の伝動系に駆動力伝達装置を設け、これにより、
電動モータを前進駆動させた前進4輪駆動走行に際しては、クラッチの締結により電動モータの前進駆動力を副駆動輪に伝達して、エンジン駆動される主駆動輪と合わせた4輪駆動での前進走行を可能にし、
電動モータを停止させた前進2輪駆動での走行時には副駆動輪の前進回転が電動モータに伝達されないようモータ伝動系を上記クラッチの解放により遮断し、
電動モータを後退駆動させた後退4輪駆動走行に際しては、上記クラッチの締結により電動モータの後退駆動力を副駆動輪に伝達して、エンジン駆動される主駆動輪と合わせた4輪駆動での後退走行を可能にする技術が示されている。
【0004】
ところで、非伝動状態から上記クラッチの締結により電動モータの前進駆動力を副駆動輪に伝達し始める時や、非伝動状態から上記クラッチの締結により電動モータの後退駆動力を副駆動輪に伝達し始める時は、歯車間のバックラッシュなどに起因した伝動系中における隙間(ガタ)がなくなった後に伝動が急に開始されることから、伝動の開始時に異音が発生する。
この問題解決のため特許文献1には更に、電動モータの前進駆動力を副駆動輪に伝達するに際し、前もって伝動系の隙間(ガタ)をなくしておくよう電動モータにガタ詰めトルク分の駆動負荷を付与しておいたり、
電動モータの後退駆動力を副駆動輪に伝達するに際し、前もって伝動系の隙間(ガタ)をなくしておくよう電動モータにガタ詰めトルク分の駆動負荷を付与しておく技術が示されている。
【特許文献1】特開2004−098718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記の駆動力伝達装置は、前進用駆動系と後退用駆動系とが共通な上記のクラッチを含む同じ伝動系により構成されているため、前進時のガタ詰めトルクと後退時のガタ詰めトルクとを同じするものであった。
【0006】
しかし、駆動力伝達装置の前進駆動系と、後退駆動系とが異なる経路を経て駆動力を伝達する駆動力伝達装置において、前進用駆動系のガタ詰めトルクと後退用駆動系のガタ詰めトルクとを同じにすると、前進時または後退時の一方で、当該駆動系の伝動開始時に異音が発生するという問題を生ずる。
【0007】
本発明は、両方向駆動系がそれぞれ異なる経路を経て駆動力を伝達する駆動力伝達装置において、これら駆動系の双方で伝動開始時に異音が発生することのないようにし、もって上記の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため本発明による駆動力伝達装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず前提となる駆動力伝達装置を説明するに、これは、
入力軸および出力軸間の伝動系として、
前記入力軸の正方向駆動時に正方向駆動力を前記出力軸に伝達するよう係合する正方向ワンウェイクラッチを含んだ正方向駆動系と、
前記入力軸の逆方向駆動時に係合する逆方向ワンウェイクラッチ、および、この逆方向ワンウェイクラッチを経由した逆方向駆動力に応動してこの逆方向駆動力を前記出力軸に伝達するよう締結される逆方向回転伝動クラッチを含んだ逆方向駆動系とを具え、
前記正方向駆動系による正方向駆動力の伝達開始に際しては、前もって該正方向駆動系における隙間をなくす方向のガタ詰めトルクを前記入力軸に付加し、
前記逆方向駆動系による逆方向駆動力の伝達開始に際しては、前もって該逆方向駆動系における隙間をなくす方向のガタ詰めトルクを前記入力軸に付加するようにしたものである。
【0009】
そして本発明は、かかる駆動力伝達装置において、
前記正方向駆動系用のガタ詰めトルクと、前記逆方向駆動系用のガタ詰めトルクとを異ならせた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0010】
かかる本発明による駆動力伝達装置は、正方向駆動系用のガタ詰めトルクと、逆方向駆動系用のガタ詰めトルクとを異ならせたため、
両方向駆動系におけるガタがそれぞれ異なる駆動力伝達装置においても、これら駆動系のガタを共になくし得ることとなり、ガタの小さい方に合わせてガタ詰めトルクを決定した場合、ガタの大きい方の駆動系がガタ詰めトルク不足により伝動開始時に異音が発生したり、ガタの大きい方に合わせてガタ詰めトルクを決定した場合、ガタの小さい方の駆動系がガタ詰めトルク過大によりショックが発生するという問題を解消することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施例になる駆動力伝達装置28を具えた電動モータ式4輪駆動車両の駆動系を模式的に示すもので、
この電動モータ式4輪駆動車両の駆動系は、エンジン等の主動力源41からの駆動力を、変速機およびディファレンシャルギヤ装置の組み合わせになるトランスアクスル42、およびドライブシャフト43を介して主駆動輪である左右前輪44へ伝達する、フロントエンジン・フロントホイールドライブ車(FF車)をベース車とし、
電動モータ等の副動力源45からの駆動力を、駆動力伝達装置28、および、ディファレンシャルギヤ装置を含む減速機46、およびドライブシャフト47を介して副駆動輪である左右後輪48に伝達するようにしたものである。
なお本実施例では駆動力伝達装置28を、減速機46内に含めてこれと同一ユニットに構成する。
【0013】
図1に例示するような用途に供する駆動力伝達装置28は、具体的には例えば図2および図3に明示するような構成となす。
この駆動力伝達装置は、電動モータ45に結合される入力軸1と、これからオフセットされた出力軸2と、副駆動輪48に結合されるディファレンシャルギヤ装置3とを具え、これら入力軸1、出力軸2およびディファレンシャルギヤ装置3を相互にオフセットさせて平行に配置し、ケーシング4内に収納する。
ケーシング4は、ケーシング部分4a,4bの合体により構成し、これらをボルト5により相互に結合させる。
【0014】
そして、入力軸1は軸受1a,1bによりケーシング部分4a,4bに回転自在に支持し、電動モータを結合するためケーシング部分4bから外部に露出させた入力軸1の端部と、ケーシング部分4bとの間をオイルシール1cにより油封する。
出力軸2は、両端を軸受2a,2bによりケーシング部分4a,4bに回転自在に支持してケーシング4内に収納し、
ディファレンシャルギヤ装置3は、軸受3a,3bによりディファレンシャルギヤケース3cの両端をケーシング部分4a,4bに回転自在に支持してケーシング4内に収納する。
ディファレンシャルギヤ装置3の左右サイドギヤ3dには図1に示すドライブシャフト47を結合し、これらドライブシャフト47を介してディファレンシャルギヤ装置3の左右サイドギヤ3dを副駆動輪48に結合する。
【0015】
出力軸2の外周に、前進ワンウェイクラッチ(正方向ワンウェイクラッチ)6、および、後退ワンウェイクラッチ(逆方向ワンウェイクラッチ)7を嵌合して設ける。
前進ワンウェイクラッチ(正方向ワンウェイクラッチ)6は、内輪6aと、外輪6bと、これら内外輪間に介在させたスプラグ6cとよりなるものとし、
後退ワンウェイクラッチ(逆方向ワンウェイクラッチ)7も、内輪7aと、外輪7bと、これら内外輪間に介在させたスプラグ7cとよりなるものとする。
【0016】
しかして、前進ワンウェイクラッチ6の内輪6aは出力軸2に一体に構成し、後退ワンウェイクラッチ7の内輪7aを出力軸2上に回転自在に嵌合する。
また、前進ワンウェイクラッチ6の外輪6bおよび後退ワンウェイクラッチ7の外輪7bを一体に成形し、その両端内周を軸受8,9により出力軸2および内輪7a上に回転自在に支持する。
一体成形した前進ワンウェイクラッチ6の外輪6bおよび後退ワンウェイクラッチ7の外輪7bの外周に中間歯車10を一体成形して設け、この中間歯車10と噛合する入力歯車11を入力軸1上に一体成形して設け、
入力軸1から歯車11,10を経て外輪6b、7bへ電動モータ45からの回転が入力されるようになす。
【0017】
なお、前進ワンウェイクラッチ6は、入力軸1から歯車11,10を経て外輪6b、7bへ入力される駆動力が前進方向(正方向)のものである場合にロック状態となって、この前進方向(正方向)駆動力を内輪6a(出力軸2)へ伝達するものとする。
また後退ワンウェイクラッチ7は、入力軸1から歯車11,10を経て外輪6b、7bへ入力される駆動力が後退方向(逆方向)のものである場合にロック状態となって、この後退方向(逆方向)駆動力を内輪7aへ伝達するものとする。
【0018】
後退ワンウェイクラッチ7の内輪7aは、前進ワンウェイクラッチ6から遠い端部7dを前進ワンウェイクラッチ6から遠ざかる方向へ延在させ、この内輪延長端部7dと出力軸2との間に、後退回転伝動クラッチ12、および、このクラッチ12を締結させるためのカム機構13を介在させる。
【0019】
先ずカム機構13について以下に説明するに、これは、
後退ワンウェイクラッチ7の内輪7a(詳しくは、その延長端部7d)と共に回転するよう、これにスプライン嵌合したワンウェイクラッチ側カムディスク13aと、
このワンウェイクラッチ側カムディスク13aに同軸に対向させて相対回転可能に配置した後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bと、
この後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bをワンウェイクラッチ側カムディスク13aに向かう軸線方向へ附勢するよう、後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bおよびハウジング部分4a間に縮設した皿バネ型式のリターンスプリング13cと、
カムディスク13a,13bの対向カム溝間にあって、ワンウェイクラッチ側カムディスク13aへ後退駆動力が伝達されるとき、後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bをリターンスプリング13cに抗してワンウェイクラッチ側カムディスク13aから遠ざかる方向へ変位させるカムフォロア13dとより成るスラストカム機構とする。
【0020】
なお、リターンスプリング13cは内周を後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bに着座させ、外周をハウジング部分4aに着座させるが、
リターンスプリング13cの内周と後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bとの着座箇所において、これらリターンスプリング13cの内周および後退回転伝動クラッチ側カムディスク13b間に、図4(a),(b)、または、図5(a),(b)に示すような回転係合用の凹凸嵌合部を設定し、リターンスプリング13cが後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bと共に回転し得るようにし、
リターンスプリング13cの外周とハウジング部分4aとの着座箇所に耐摩耗リング13eを介在させることにより、リターンスプリング13cの外周がハウジング部分4aに直接的に摺接してこれを摩耗させるのを防止する。
【0021】
これにより、リターンスプリング13cは摩擦トルクの小さな内周でなく、摩擦トルクの大きな外周において他部品に対し摺接することとなり、その分だけリターンスプリング13cのプリロードを低くすることができ、カム機構13を動作させる入力トルクを低くできるので、カム機構の応答性を向上させ得る。
当該プリロードによるカム機構13へのスラスト荷重は、後退ワンウェイクラッチ7の内輪7aに達するも、この内輪7aが、軸線方向に固定された出力軸12にスラストベアリング14を介して突き当てられているため、上記のプリロードによっても内輪7aが軸線方向へ変位することはない。
【0022】
後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bの内周は、後退ワンウェイクラッチ7の内輪7a(詳しくは、その延長端部7d)に回転自在に嵌合したクラッチハブ12aの外周にスプライン嵌合し、このクラッチハブ12aを、後退ワンウェイクラッチ7の内輪7a(詳しくは、その延長端部7d)に係着したスナップリング12bにより抜け止めする。
クラッチハブ12aは、以下に説明するような後退回転伝動クラッチ12の一部を構成する。
【0023】
後退回転伝動クラッチ12は、以下の構成になる湿式多板クラッチとする。
つまり、後退ワンウェイクラッチ7から遠いカム機構13の側に配してクラッチドラム12cを設け、該クラッチドラム12cの内周を出力軸2上にセレーション嵌合すると共に、出力軸2に螺合させたローディングナット12dにより軸線方向に固定する。
カムディスク13bを後退回転伝動クラッチ12(湿式多板クラッチ12)のプレッシャプレートとしても用い、これがため、クラッチドラム12cおよびカムディスク13bの軸線方向対向面間にインナープレート12eおよびアウタープレート12fを介在させる。
【0024】
インナープレート12eは、後退ワンウェイクラッチ7の内輪延長端部7d上で回転可能なクラッチハブ12aの外周にスプライン嵌合することにより、カムディスク13bと一体回転し得るようにすると共にクラッチハブ12aに対し軸線方向へ相対変位可能とする。
なお、アウタープレート12fは、クラッチドラム12cの内周に軸線方向相対変位可能にしてスプライン嵌合することにより、クラッチドラム12cと共に回転し得るようになす。
【0025】
前進ワンウェイクラッチ6および軸受2b間において出力軸2に出力歯車15を一体に成形し、この出力歯車15に噛合するリングギヤ16をディファレンシャルギヤケース3cに取着して設け、これら出力歯車15およびリングギヤ16より成るファイナルドライブギヤ組とディファレンシャルギヤ装置3とで、図1における減速機46を構成する。
【0026】
図2および図3に示す上記の実施例においては、前進ワンウェイクラッチ6および後退ワンウェイクラッチ7が入力軸1および出力軸2間に並列的に配置され、後者の後退ワンウェイクラッチ7が、カム機構13により締結される後退回転伝動クラッチ12を介して入出力軸1,2間を結合することとなり、
本実施例の駆動力伝達装置は、図1に示すごとくに電動モータ式4輪駆動車両に用いたとき以下のように機能する。
【0027】
図6(a)は、電動モータ式4輪駆動車両を前進4輪駆動走行させる時における上記駆動力伝達装置28の駆動力伝達経路にハッチングを付して示す説明用断面図である。
なおここでは、前進4輪駆動時における入力軸1の回転方向を、図6(a)の右側(電動モータ45の側)から見て時計回り方向として説明する。
また図6(b)は、前進ワンウェイクラッチ6を図6(a)の右側(電動モータ側)から見て示す横断面図であり、図6(c)は、後退ワンウェイクラッチ7を図6(a)の右側(電動モータ側)から見て示す横断面図である。
【0028】
前進4輪駆動走行時においては、電動モータ45による前進駆動力が入力軸1から入力歯車11および中間歯車10を経て両ワンウェイクラッチ6,7の外輪6b,7bに伝達され、これら外輪6b,7bが対応する前進方向に回転されると、前進ワンウェイクラッチ6の外輪6bが内輪6aに対して係合方向に回転するので、スプラグ6cが図6(b)に示すように係合方向に傾き、前進ワンウェイクラッチ6の係合(図ではLockと表示した)により内輪6aはスプラグ6cを介して外輪6bと一体的に前進方向へ回転される。
よって、電動モータ45から外輪6b,7bへの前進駆動力が前進ワンウェイクラッチ6を介して出力軸2に伝達され、ディファレンシャルギヤ装置3を介して副駆動輪48を前進方向へモータ駆動することができ、エンジン41による主駆動輪44の前進駆動と相まって車両を前進4輪駆動走行させ得る。
【0029】
なお、電動モータ45から外輪6b,7bへの前進回転は後退ワンウェイクラッチ7にも向かうが、その外輪7bの回転方向が内輪7aに対し非係合方向であるため、スプラグ7cは図6(c)に示すように非係合方向に傾き、後退ワンウェイクラッチ7の非係合(図ではFreeと表示した)により外輪7bは内輪7aに対し空転するのみで、内輪7aに前進回転が伝達されることはない。
かかる後退ワンウェイクラッチ7の非係合により、電動モータ45から外輪7bへの前進回転は内輪7a、従ってカム機構13のカムディスク13aに伝達されず、カムディスク13a,13b間の相対回転も発生しないのでカム機構13は動作することなく図6(a)の状態を保ち、従ってリターンスプリング13cと耐摩耗リング13eとの間にフリクションが発生することもない。
【0030】
図7(a)は、電動モータ式4輪駆動車両を前進2輪駆動走行させる時における上記駆動力伝達装置28の駆動力伝達経路にハッチングを付して示す説明用断面図である。
なおここでも、前進2輪駆動時の出力軸2の回転方向を、図7(a)の右側(電動モータ側)から見て時計回り方向として説明する。
また図7(b)は、前進ワンウェイクラッチ6を図7(a)の右側(電動モータ側)から見て示す横断面図であり、図7(c)は、後退ワンウェイクラッチ7を図7(a)の右側(電動モータ側)から見て示す横断面図である。
【0031】
前進2輪駆動時においては、電動モータ45を停止させてこれによる副駆動輪48の駆動を行わず、エンジン41による主駆動輪44の駆動のみにより車両を走行させることから、電動モータ45から外輪6b,7bにモータ回転が伝達されることがなくて、外輪6b,7bは停止したままである。
しかし、エンジン41による主駆動輪44の2輪駆動により車両を走行させることから、副駆動輪48の回転がディファレンシャルギヤ装置3から歯車組15,16を経て出力軸2に伝達されて出力軸2が副駆動輪48により前進回転方向へ逆駆動される。
【0032】
かかる出力軸2の逆駆動による前進回転は、図7(b)に示すように前進ワンウェイクラッチ3の内輪6aに達して、これを前進回転させる。
しかし内輪6aの前進回転は、外輪6bに対して非係合方向であるので、スプラグ6cが図7(b)に示すように非係合方向に傾き、前進ワンウェイクラッチ6の非係合(図ではFreeと表示した)により内輪6aは外輪6bに対し空転するのみで、外輪6bに出力軸2からの前進回転が伝達されることはない。
【0033】
かかる前進ワンウェイクラッチ6の非係合により、出力軸2の前進回転は外輪6b、従って入力軸1に伝達されず、電動モータ45の引き摺りによる動力損失や電動モータ45の早期摩耗を回避することができる。
また、出力軸2の前進回転がカム機構13のカムディスク13aに伝達されず、カムディスク13a,13b間の相対回転も発生しないのでカム機構13は動作することなく図7(a)の状態を保ち、これによる後退回転伝動クラッチ12の解放と相まってカムディスク13bも回転されることがなく、カムディスク13bと耐摩耗リング13eとの間にフリクションが発生することもない。
【0034】
図8(a)は、電動モータ式4輪駆動車両を後退4輪駆動走行させる時における上記駆動力伝達装置28の駆動力伝達経路にハッチングを付して示す説明用断面図である。
なおここでは、後退4輪駆動時における入力軸1の回転方向を、図8(a)の右側(電動モータ45の側)から見て反時計回り方向として説明する。
また図8(b)は、前進ワンウェイクラッチ6を図8(a)の右側(電動モータ側)から見て示す横断面図であり、図8(c)は、後退ワンウェイクラッチ7を図8(a)の右側(電動モータ側)から見て示す横断面図である。
【0035】
電動モータ45による後退駆動力が入力軸1から入力歯車11および中間歯車10を経て両ワンウェイクラッチ6,7の外輪6b,7bに伝達され、これら外輪6b,7bが対応する後退方向に回転されると、
前進ワンウェイクラッチ6の外輪6bが内輪6aに対して非係合方向に回転するので、スプラグ6cが図8(b)に示すように非係合方向に傾き、前進ワンウェイクラッチ6の非係合(図ではFreeと表示した)により外輪6bから内輪6aに後退方向の回転が伝わることはないが、
後退ワンウェイクラッチ7の外輪7bは内輪7aに対して係合方向に回転するので、スプラグ7cが図8(c)に示すように係合方向に傾き、後退ワンウェイクラッチ7の係合(図ではLockと表示した)により内輪7aはスプラグ7cを介して外輪7bと一体的に後退方向へ回転する。
【0036】
よって、電動モータ45から外輪6b,7bへの後退駆動力が後退ワンウェイクラッチ7を介しカム機構13のワンウェイクラッチ側カムディスク13aへ伝達される。
このとき当該ワンウェイクラッチ側カムディスク13aが、後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bとの相対回転によりカムフォロア13dを介して、図8(a)に示すごとくカムディスク13bをリターンスプリング13cに抗しカムディスク13aから遠ざける軸線方向へ変位させる。
【0037】
かかるカム機構13の作動時は、後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bが上記軸方向変位により、クラッチドラム12cとの間にインナープレート12eおよびアウタープレート12fを挟圧して後退回転伝動クラッチ12を締結状態となし、後退ワンウェイクラッチ7を介してその外輪7bから内輪7aに達した後退駆動力を、カム機構13および後退回転伝動クラッチ12を順次経て出力軸2に伝達可能となる。
よって、電動モータ45から外輪6b,7bへの後退駆動力が後退ワンウェイクラッチ7、カム機構13、および後退回転伝動クラッチ12を介して出力軸2に伝達され、ディファレンシャルギヤ装置3を介して副駆動輪48を後退方向へモータ駆動することができ、エンジン41による主駆動輪44の後退駆動と相まって車両を後退4輪駆動走行させ得る。
【0038】
なおこの間、前進ワンウェイクラッチ6の内輪6aも出力軸2と共に後退方向へ回転されるが、モータ駆動直後は外輪6bの回転速度が内輪6aの回転速度より速い(回転方向は同じ)ため、スプラグ6cは図8(b)に示すように非係合方向に傾き、前進ワンウェイクラッチ6は非係合状態(図ではFreeと表示した)に保たれ、後退回転伝動クラッチ12が締結した後に外輪6bと内輪6aの回転速度が等しくなるため、前進ワンウェイクラッチ6は内輪6aおよび外輪6b間で動力伝達を行うことはない。
しかし、出力軸2と内輪6aとが同一回転を行うため、前進ワンウェイクラッチ6の内外輪6a,6bが図8(b)に矢印を付して示すごとく一体回転することとなり、これら内外輪6a,6b間のスプラグ6cおよび軸受8内のボールも図8(a)にハッチングを付して示すごとく同じ回転を行っている。
【0039】
また、電動モータ45から外輪6b,7bへの後退駆動力が出力軸2へ向かう時(後退4輪駆動時)に、この後退駆動力が上記したとおりカム機構13のカムディスク13bを経由するため、当該カムディスク13bと共に回転するリターンスプリング13cの外周が、ケーシング部分4aに嵌着した耐摩耗リング13eに対し相対回転し、両者間にフリクションを生ずるが、
電動モータ45から外輪6b,7bへの後退駆動力が出力軸2へ向かう(後退4輪駆動)は、車両の後退走行であることから発生頻度も発生時間もごく僅かであって、上記リターンスプリング13cの外周およびケーシング部分4a(耐摩耗リング13e)間のフリクションが、摩耗による信頼性を問題になるほど低下させたり、摩擦による伝動損失を問題になるほど増大させることはない。
【0040】
そして上記した構成になる駆動力伝達装置においては、
電動モータ式4輪駆動車両の前進4輪駆動走行、前進2輪駆動走行、後退4輪駆動走行を実現するに際し、前記した作用説明から明らかなように、内部機構の自動作用により当該3走行形態を実現することができ、複雑な制御機構や制御システムを必要とすることがなくて、コスト上およびメインテナンス上大いに有利である。
【0041】
なお、図8の後退駆動力伝達時においてカム機構13が後退回転伝動クラッチ12を締結するとき、カムディスク13aが図の右方向への反力を出力軸2で受け止めながら、カムディスク13bを図の左方へ変位させてこのカムディスク13bによりインナープレート12eおよびアウタープレート12fを、出力軸2に固定のクラッチドラム12cに対し図の左方へ押圧して後退回転伝動クラッチ12の締結を行うが、この時カムディスク13aおよびクラッチドラム12c間に作用するクラッチ締結用のスラスト荷重を出力軸2上で内力として消失させる構造であるため、このスラスト荷重を軸受2a,2bやケーシング4で受け止める必要がなく、これらを当該スラスト荷重に耐え得る高強度のものにする必要がなく、コスト上および耐久上有利である。
つまり、クラッチドラム12cがローディングナット12dにより出力軸2に軸方向で固定されている構造であるため、カムディスク13aのスラスト荷重を内力として消失させることができる。
【0042】
ここで、後退回転伝動クラッチ12の前記した締結・解放を司るカム機構13について、図9に基づき更に詳述する。
カム機構13は前述したように、カムディスク13a,13bと、これらの間に介在させたカムフォロア13dとからなるが、カムディスク13a,13bの軸線方向相互対向面にはそれぞれ、前記したカム作用が得られるようにするためカム溝が設けられており、図9はこれらカム溝をカム機構13の外周側から見て示す。
【0043】
カム機構13に入力される駆動力(トルク)をT、出力軸2の軸中心からカムフォロア13dの中心までのカム半径をLc、カムディスク13a,13bの対向面におけるカム溝のカム角(カム機構13の軸直角面とカム溝とのなす角度)をθ、リターンスプリング13cの付勢力をFs、リターンスプリング13cの外径をLs、リターンスプリング13cとハウジング側耐摩耗リング13eとの間の静摩擦係数をμとすると、
リターンスプリング13cと耐摩耗リング13eとが静摩擦状態である場合においてカム機構13を動作させるためには、以下の2つの条件を満たす必要がある。
【0044】
まず上記の要求のためには、カム機構13の推進力(スラスト荷重)がリターンスプリング13cの付勢力Fsよりも大きいことが必要であるため、T/(Lc×tanθ)>Fsであることが必須となる。
さらに、リターンスプリング13cと耐摩耗リング13eとの接触部における摩擦力が、カム機構13に作用する駆動力Tを前記Lcで除したカム回転力よりも大きい必要があるため、μ×Fs×(Ls/Lc)>T/Lcであることも必須となる。
これらの2式から、Fs×Lc×tanθ<T<μ×Fs×Lsの関係式が導かれ、リターンスプリング13cと耐摩耗リング13eとが静摩擦状態である場合においては、この式を満足する駆動力Tがカム機構13(カムディスク13a)に入力されたとき、カム機構13は動作されることとなる。
【0045】
また、カムディスク13b(リターンスプリング13c)が耐摩耗リング13eに対して相対回転しながらカム機構13が作動するためには、リターンスプリング13cと耐摩耗リング13eとの間の動摩擦係数がμ’であるとすると、以下の条件を満たす必要がある。
【0046】
まず上記の要求のためには、カム機構13の推進力(スラスト荷重)がリターンスプリング13cの付勢力Fsよりも大きいことが必要であるため、T/(Lc×tanθ)>Fsであることが必須となる。
さらに、カム機構13の回転力はリターンスプリング13cと耐摩耗リング13eとの間の摩擦力以上の回転力にならないため、μ’×Fs×(Ls/Lc)=T/Lcであることも必須となる。
これら2式から、μ’>(Lc/Ls)tanθの関係式が導かれ、耐摩耗リング13eとリターンスプリング13cとが動摩擦状態である場合においては、耐摩耗リング13eとリターンスプリング13cとの間の動摩擦係数がこの式を満足するμ’以上であれば、カム機構13は動作されることとなる。
【0047】
後退回転伝動クラッチ12は、カムディスク13aがカムディスク13bに対し相対回転し得るような駆動力がカム機構13へ入力された場合に、カム機構13の動作により自縛的に締結され、セルフロックされる。
また、セルフロックした状態でカム機構6に駆動力が入力されなくなると、カムディスク13aをカムディスク13bに対し上記の通り相対回転させるトルクもなくなるため、リターンスプリング13cのバネ力を受けたカムディスク13bがカムフォロア13dcをカム溝内において元の位置まで転動させながら、カムディスク13aをカムディスク13bに対し元の相対回転位置まで回転させる。
かかるカムディスク13aの回転につれ、カムディスク13bはカムディスク13aに向け接近するよう変位して、後退回転伝動クラッチ12をセルフロックの解除により解放させることができる。
【0048】
ところで、上記実施例では後退回転伝動クラッチ12を湿式多板クラッチで構成したが、
この後退回転伝動クラッチ12は、図10に示すようなドグクラッチや、図11に示すような摩擦クラッチなど、任意の型式のものを用いることができる。
【0049】
後退回転伝動クラッチ12を図10に示すようにドグクラッチで構成する場合、カムディスク13aから遠いカムディスク13bの面に環状クラッチギヤ17を一体成形または一体結合して設け、これと同軸に対向するよう配して環状クラッチギヤ18を設け、該環状クラッチギヤ18の内周を、前記したクラッチドラム12cと同様の方法で出力軸2に対し軸線方向へ変位不能にして回転係合させる。
かかるドグクラッチ式の後退回転伝動クラッチ12は、カム機構13の動作でカムディスク13bが図10の解放位置から左行すると、環状クラッチギヤ17が環状クラッチギヤ18に噛み合ってクラッチ締結状態となり、電動モータ45による副駆動輪48の後退駆動を可能にする。
【0050】
後退回転伝動クラッチ12を図11に示すように摩擦クラッチにより構成する場合、カムディスク13aから遠いカムディスク13bの面にクラッチ摩擦部材19を一体成形または一体結合により設け、これと同時に対向するよう配して摩擦クラッチ部材20を設け、該摩擦クラッチ部材20の内周を前記したクラッチドラム12cと同様の方法で出力軸2に対し軸線方向へ変位不能にして回転係合させる。
かかる摩擦クラッチ型式の後退回転伝動クラッチ12は、カム機構13の動作で摩擦部材19が図11の解放位置から左行すると、摩擦部材19が摩擦クラッチ部材20に圧接してクラッチ締結状態となり、電動モータ45による副駆動輪48の後退駆動を可能にする。
【0051】
なお上記では、前進ワンウェイクラッチ6および後退ワンウェイクラッチ7をスプラグタイプのものとしたが、これらワンウェイクラッチ6,7は、例えば、図12または図13に示すような、ローラタイプのものでもよい。
図12のワンウェイクラッチ6,7は、内外輪6a(7a),6b(7b)間におけるローラ6e(7e)をバネ6f(7f)で図示の空転位置に弾支し、内外輪6a(7a),6b(7b) がローラ6e(7e)をバネ6f(7f)に抗して転動変位させる方向に相対回転するとき、ローラ6e(7e)が内外輪6a(7a),6b(7b)間に噛み込まれて動力伝達を行うものである。
また図13 のワンウェイクラッチ6,7は、内外輪6a(7a),6b(7b)間におけるローラ6e(7e)をケージ6g(7g)で円周方向所定間隔に保持し、内外輪6a(7a),6b(7b)をローラ6e(7e)が内外輪6a(7a),6b(7b)間に噛み込まれる方向へ相対回転させるとき、内外輪6a(7a),6b(7b)間がローラ6e(7e)を介し係合させて動力伝達を行うものである。
【0052】
図14は、本発明による他の構成になる駆動力伝達装置28を具えた電動モータ式4輪駆動車両の駆動系を模式的に示すもので、
この電動モータ式4輪駆動車両の駆動系は、主動力源であるエンジン51からの駆動力を、変速機52、プロペラシャフト53、ディファレンシャルギヤ装置を含む終減速機54、および左右ドライブシャフト55を介して主駆動輪である左右後輪56へ伝達するようにした、フロントエンジン・リヤホイールドライブ車(FR車)をベース車とし、
電動モータ57の駆動力を、駆動力伝達装置28、減速機59、ディファレンシャルギヤ装置を含む終減速機60、およびドライブシャフト61を介して副駆動輪である左右前輪62に伝達するようになしたものである。
なお本発明の一実施例になる駆動力伝達装置28は、減速機59および終減速機60間に配置してもよい。
【0053】
図14に例示するような用途に供する駆動力伝達装置28は、具体的には例えば図15に明示するような構成となし、図15中、図2および図3におけると同様な部分には同一符号を付して示した。
図15における駆動力伝達装置28は、電動モータ57に結合すべき入力軸1と、副駆動輪62側に(図14では減速機59に)結合すべき出力軸2とを、スラストベアリング31を介して同軸に突き合わせると共に、ニードルベアリング32を介して相互に相対回転可能に嵌合する。
そして、入力軸1は軸受33によりケーシング4に回転自在に支持し、出力軸2は軸受34によりケーシング4に回転自在に支持する。
【0054】
出力軸2の外周に、入力軸1の側より順次配して前進ワンウェイクラッチ6および後退ワンウェイクラッチ7を設け、これらワンウェイクラッチ6,7は図2および図3におけると同様のものとし、相互に隣り合わせに配置して出力軸2の外周に嵌合する。
前進ワンウェイクラッチ6は、その内輪6aが出力軸2と共に回転するよう、これに一体成形し、この一体成形のために出力軸2の対応端部を拡径してこの拡径部を前進ワンウェイクラッチ6の内輪6aとなす。
また、後退ワンウェイクラッチ7は、その内輪7aが出力軸2に対し相対回転し得るよう、これにニードルベアリング35を介して嵌合する。
そして、前進ワンウェイクラッチ6の内輪6aおよび後退ワンウェイクラッチ7の内輪7a間にスラストベアリング14を介在させ、これら内輪6a,7aを相互に押圧された状態でも滑らかに相対回転し得るようになす。
【0055】
前進ワンウェイクラッチ6および後退ワンウェイクラッチ7の外輪6b,7bを相互に一体結合または一体成形により一体化すると共に、セレーション嵌合36により入力軸1に結合し、この入力軸1を介して両ワンウェイクラッチ6,7の外輪6b,7bを、共通に電動モータ57に結合する。
両ワンウェイクラッチ6,7の外輪6b,7bは、上記のごとく相互に一体化したことで、一対の軸受8,9のみにより内輪6a,7aに対して回転自在に支持することができ、両ワンウェイクラッチ6,7の軸線方向合計長さを短縮することができる。
【0056】
前進ワンウェイクラッチ6から遠い後退ワンウェイクラッチ7の内輪7aの端部7dを前進ワンウェイクラッチ6から遠ざかる方向へ延在させ、この内輪延長端部7dと出力軸2との間に、図2および図3におけると同様な後退回転伝動クラッチ12、および、これを締結させるためのカム機構13を介在させる。
【0057】
カム機構13は図2および図3におけると同様に機能するもので、
後退ワンウェイクラッチ7の内輪7a(詳しくは、その延長端部7d)と共に回転するよう、これにスプライン嵌合したワンウェイクラッチ側カムディスク13aと、
このワンウェイクラッチ側カムディスク13aに向かう軸線方向へ、リターンスプリング13cによるプリロードで押圧された後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bと、
これらカムディスク13a,13b間にあって、ワンウェイクラッチ側カムディスク13aへ後退駆動力が伝達されるとき、後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bをワンウェイクラッチ側カムディスク13aから遠ざかる方向へ変位させるカムフォロア13dとより成るスラストカム機構とする。
【0058】
ここで後退回転伝動クラッチ側カムディスク13bの内周は、後退ワンウェイクラッチ7を成す内輪7aの延長端部7dに回転自在に嵌合したクラッチハブ12aの外周にスプライン嵌合し、このクラッチハブ12aをスナップリング12bにより抜け止めする。
なお、これらクラッチハブ12aおよびスナップリング12bは、後退回転伝動クラッチ12の一部を構成する。
【0059】
リターンスプリング13cは、図2および図3におけると同様な皿バネとし、その内周をカムディスク13bに係合させ、外周をケーシング4に係合させて、カムディスク13bおよびケーシング4間に縮設し、カムディスク13bに対しこれをカムディスク13aへ押圧する軸線方向のプリロードを付与するものとする。
当該プリロードによるスラスト荷重は、スペーサリング37、軸受9、内輪7aおよびスラストベアリング14を介して内輪6aに達し、その後、スラストベアリング31、入力軸1、軸受33を介してケーシング4に達するため、上記のプリロードによっても内輪7aが軸線方向へ変位することはない。
【0060】
後退回転伝動クラッチ12は、図2および図3につき前述した湿式多板クラッチと同様な以下の構成とする。
つまり、後退ワンウェイクラッチ7から遠いカム機構13の側に配してクラッチドラム12cを設け、該クラッチドラム12cの内周を出力軸2上に結合する。
クラッチドラム12cは、出力軸2上に係着したスナップリング38と、クラッチドラム12c および軸受34間に介在させたスペーサリング39との間に挟み、これによりクラッチドラム12cを出力軸2上に軸線方向位置決めする。
【0061】
カムディスク13bを後退回転伝動クラッチ12のプレッシャプレートとしても用い、これがため、クラッチドラム12cおよびカムディスク13bの軸線方向対向面間にインナープレート12eおよびアウタープレート12fを交互に配置して介在させる。
インナープレート12eは、後退ワンウェイクラッチ7の内輪延長端部7d上で回転可能なクラッチハブ12aの外周にスプライン嵌合することにより、カムディスク13bと一体回転し得るようにすると共にクラッチハブ12aに対し軸線方向へ相対変位可能とする。
なお、アウタープレート12fは、クラッチドラム12cの内周に軸線方向相対変位可能にスプライン嵌合することにより、クラッチドラム12cと共に回転し得るようになす。
【0062】
図15の駆動力伝達装置28も、前進ワンウェイクラッチ6および後退ワンウェイクラッチ7が、電動モータ57に結合した入力軸1と、副駆動輪62側に結合した出力軸2との間に並列的に配置され、更に後者の後退ワンウェイクラッチ7が、カム機構13により締結される後退回転伝動クラッチ12を介して入出力間を結合することとなり、
また、前進ワンウェイクラッチ6、後退ワンウェイクラッチ7、後退回転伝動クラッチ12、および、これを締結させるためのカム機構13が図2および図3におけると同様のものであることとも相まって、
図14に示すごとくに電動モータ式4輪駆動車両に用いたとき、前記した駆動力伝達装置と同様に機能して、同様な作用効果を奏することができる。
【0063】
上記したいずれの駆動力伝達装置にあっても、非伝動状態から前進駆動力または後退駆動力を伝達する伝動状態に切り替わる時は、歯車間のバックラッシュや、後退回転伝動クラッチ12の隙間などに起因した伝動系中のガタがなくなった後に伝動が急に開始されることから、伝動の開始時に異音や異振動が発生したり、伝動系の耐久性に悪影響が及ぶ。
そこで、電動モータの前進駆動力を副駆動輪に伝達するに際し、前もって伝動系の隙間(ガタ)をなくしておくよう電動モータにガタ詰めトルク分の駆動負荷を付与しておいたり、
電動モータの後退駆動力を副駆動輪に伝達するに際し、前もって伝動系の隙間(ガタ)をなくしておくよう電動モータにガタ詰めトルク分の駆動負荷を付与しておくことにより、
伝動の開始時に異音や異振動が発生したり、伝動系の耐久性に悪影響が及ぶのを防止するのが好ましい。
【0064】
本実施例においては、上記のガタ詰めトルクを特に以下のように決定する。
先ず駆動力伝達ユニットが図2,3に示すようなものである場合について説明するに、
後退駆動力の伝達(後退4輪駆動)に際し、カムディスク13bが回転することなく後退回転伝動クラッチ12のクラッチ隙間を詰める条件は、後退回転伝動クラッチ12のクラッチ隙間がなくなった状態におけるリターンスプリング13cの附勢力(バネ力)をFs'とし、ワンウェイクラッチ6,7の外輪6b,7bへの入力トルクをTcとすると、
出力軸2の軸中心からカムフォロア13dの中心までのカム半径Lcと、カムディスク13a,13bの対向面におけるカム溝のカム角θ(図9参照)と、リターンスプリング13cの外径Lsと、リターンスプリング13cの外周と耐摩耗リング13eとの間の静摩擦係数μとを用いた次式により表される。
Fs'・Lc・tanθ<Tc<μ・Fs'・Ls
【0065】
従って、入力軸1の予備回転により後退回転伝動クラッチ12のクラッチ隙間を含む後退駆動系のガタをなくすためのガタ詰めトルクTrは、入力歯車11の歯数をNl、中間歯車10の歯数をN2とすると、入力軸1の軸トルク換算で次式により表されるようなものとなる。
Tr=入力軸1の回転フリクション
+出力軸2上で後退回転伝動クラッチ12より上流側のフリクション×(N1/N2)
+後退回転伝動クラッチ12のガタ詰めトルクTc×(N1/N2)
【0066】
この際、後退駆動系のガタ詰めトルクTrを高精度に予測するためには、図16の制御プログラムにより当該ガタ詰めトルクTrを決定するのがよい。
図16の制御プログラムは駆動力伝達ユニットの非伝動中に行い、
先ずステップS1において、図1におけるトランスアクスル42の選択レンジ判定を行い、図2,3に示す駆動力伝達ユニットが伝動開始時に前進駆動を行うことになるのか、後退駆動を行うことになるのかを判定する。
【0067】
ステップS2でR(後退走行)レンジと判定された時は、ステップS3において駆動力伝達ユニットの油温を検出し、次のステップS4において、予め求めておいた油温とユニット伝動系のフリクションとの関係を示す図17に例示したマップをもとに油温から、上式における各部のフリクションを検索する。
次いでステップS5において、上式の演算を行うことで後退駆動系のガタ詰めトルクTrを算出し、
ステップS6において、後退駆動系のガタ詰めトルクTrが発生するよう電動モータ45を後退駆動力発生方向へ附勢し、
ステップS7において、かかる電動モータ45の附勢を発進操作があるまで保持することにより、後退駆動系のガタ詰めを発進時まで継続する。
【0068】
図2,3に示す駆動力伝達ユニットが前進駆動力の伝達(前進4輪駆動)に際し、前進駆動系のガタをなくすための前進駆動系のガタ詰めトルクTdは、前進駆動系にクラッチ12およびカム機構13が含まれないため、後退駆動系のガタ詰めトルクTrとは異ならせて、前進駆動系のガタ詰めトルクTdを、入力軸1の軸トルク換算で次式により決定する。
Td=入力軸1の回転フリクション
+出力軸2の回転フリクション×(N1/N2)
【0069】
この際、前進駆動系のガタ詰めトルクTdを高精度に予測するためには、図16の制御プログラムにより当該ガタ詰めトルクTdを決定するのがよい。
つまり、ステップS8で図1におけるトランスアクスル42がD(前進走行)レンジを選択中であると判定され、図2,3に示す駆動力伝達ユニットが伝動開始時に前進駆動を行うことになる場合、
ステップS9において駆動力伝達ユニットの油温を検出し、次のステップS10において、予め求めておいた油温とユニット伝動系のフリクションとの関係を示す図17に例示したマップをもとに油温から、上式における各部のフリクションを検索する。
次いでステップS11において、上式の演算を行うことで前進駆動系のガタ詰めトルクTdを算出し、
ステップS12において、前進駆動系のガタ詰めトルクTdが発生するよう電動モータ45を前進駆動力発生方向へ附勢し、
ステップS7において、かかる電動モータ45の附勢を発進操作があるまで保持することにより、前進駆動系のガタ詰めを発進時まで継続する。
【0070】
なお、後退駆動系のガタ詰めトルクTrおよび前進駆動系のガタ詰めトルクTdを、もっと簡単に決定することが要求される場合は、図18に示す制御プログラムによりこれらガタ詰めトルクTr, Tdを決定することもできる。
【0071】
ステップS1、ステップS2およびステップS8においては、図16に同符号を付して示したステップにおけると同様の選択レンジ判定を行う。
ステップS2でR(後退走行)レンジと判定され、図2,3に示す駆動力伝達ユニットが伝動開始時に後退駆動を行うことになる場合、
ステップS13において、駆動力伝達ユニットの使用油温のうち最低油温の時における各部フリクションを固定的に使用して、前記した対応する演算式により後退駆動系のガタ詰めトルクTrを求め、このガタ詰めトルクTrが発生するよう電動モータ45を後退駆動力発生方向へ附勢し、
ステップS7において、かかる電動モータ45の附勢を発進操作があるまで保持することにより、後退駆動系のガタ詰めを発進時まで継続する。
【0072】
ステップS8でD(前進走行)レンジと判定され、図2,3に示す駆動力伝達ユニットが伝動開始時に前進駆動を行うことになる場合、
ステップS14において、駆動力伝達ユニットの使用油温のうち最低油温の時における各部フリクションを固定的に使用して、前記した対応する演算式により前進駆動系のガタ詰めトルクTdを求め、このガタ詰めトルクTdが発生するよう電動モータ45を前進駆動力発生方向へ附勢し、
ステップS7において、かかる電動モータ45の附勢を発進操作があるまで保持することにより、後退駆動系のガタ詰めを発進時まで継続する。
【0073】
次に、駆動力伝達ユニットが図15に示すようなものである場合における後退駆動系のガタ詰めトルクTrおよび前進駆動系のガタ詰めトルクTdについて、それぞれの決定要領を説明する。
後退駆動力の伝達(後退4輪駆動)に際し、カムディスク13bが回転することなく後退回転伝動クラッチ12のクラッチ隙間を詰める条件は、後退回転伝動クラッチ12のクラッチ隙間がなくなった状態におけるリターンスプリング13cの附勢力(バネ力)をFs'とし、入力軸1からワンウェイクラッチ6,7の外輪6b,7bへの入力トルクをTcとすると、
出力軸2の軸中心からカムフォロア13dの中心までのカム半径Lcと、カムディスク13a,13bの対向面におけるカム溝のカム角θ(図9参照)と、リターンスプリング13cの外径Lsと、リターンスプリング13cの外周とハウジング4との間の静摩擦係数μとを用いた次式により表される。
Fs'・Lc・tanθ<Tc<μ・Fs'・Ls
【0074】
従って、入力軸1の予備回転により後退回転伝動クラッチ12のクラッチ隙間を含む後退駆動系のガタをなくすためのガタ詰めトルクTrは、入力軸1の軸トルク換算で次式により表されるようなものとなる。
Tr=後退回転伝動クラッチ12より上流側のフリクション
+後退回転伝動クラッチ12のガタ詰めトルクTc
【0075】
図15に示す駆動力伝達ユニットが前進駆動力の伝達(前進4輪駆動)に際し、前進駆動系のガタをなくすための前進駆動系のガタ詰めトルクTdは、前進駆動系にクラッチ12およびカム機構13が含まれないため、後退駆動系のガタ詰めトルクTrとは異ならせて、前進駆動系のガタ詰めトルクTdを、入力軸1の軸トルク換算で次式により決定する。
Td=入力軸1の回転フリクション
+ワンウェイクラッチの回転フリクション
【0076】
なお、上記した後退駆動系のガタ詰めトルクTrおよび前進駆動系のガタ詰めトルクTdを高精度に予測するためには、図16の制御プログラムにより前述したと同様の要領で当該ガタ詰めトルクTr,Tdを決定し、
後退駆動系のガタ詰めトルクTrおよび前進駆動系のガタ詰めトルクTdを、もっと簡単に決定することが要求される場合は、図18に示す制御プログラムにより前述したと同様の要領でこれらガタ詰めトルクTr, Tdを決定する。
【0077】
上記した本実施例による駆動力伝達装置によれば、前進駆動系のガタ詰めトルクTdと、後退駆動系のガタ詰めトルクTrとを異ならせたため、
両駆動系の伝動経路が異なっているため両者系統のガタがそれぞれ異なる、図2,3に示した駆動力伝達装置や、図15に示した駆動力伝達装置においても、これら駆動系のガタを共になくし得ることとなり、ガタの大きい方の駆動系がガタ詰めトルク不足により伝動開始時に異音や異振動を発生させたり、当該駆動系の急な伝動開始によりその耐久性を低下されるという問題を解消することができる。
【0078】
なお上記では、図1および図14につき前述したごとくフロントエンジン・フロントホイールドライブ(FF車)や、フロントエンジン・リヤホイールドライブ(FR車)がベース車両である場合について説明したが、
ミッドシップエンジン搭載車や、リヤエンジン・リヤホイールドライブ(RR車)をベース車両とし、エンジン駆動されない車輪を電動モータで駆動するようにした車両に対しても駆動力伝達装置28は同様の考え方により適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施例になる駆動力伝達装置を副駆動輪の伝動系に具えた電動モータ式4輪駆動車両の車輪駆動系を示す線図的平面図である。
【図2】図1の電動モータ式4輪駆動車両に用いた駆動力伝達装置の全体縦断側面図である。
【図3】図2における駆動力伝達装置の要部拡大縦断側面図である。
【図4】同駆動力伝達装置におけるカム機構を成すリターンスプリングを示し、 (a)は、その正面図、 (b)は、その縦断側面図である。
【図5】同リターンスプリングの他の例を示し、 (a)は、その正面図、 (b)は、その縦断側面図である。
【図6】図2,3に示した駆動力伝達装置の伝動系路を、電動モータ式4輪駆動車両が前進4輪駆動走行を行う場合について示す説明図で、 (a)は、該伝動系路を示すための、図2と同様な全体縦断側面図、 (b)は、駆動力伝達装置内における前進ワンウェイクラッチの状態を示す部分横断面図、 (c)は、駆動力伝達装置内における後退ワンウェイクラッチの状態を示す部分横断面図である。
【図7】同駆動力伝達装置の伝動系路を、電動モータ式4輪駆動車両が前進2輪駆動走行を行う場合について示す説明図で、 (a)は、該伝動系路を示すための、図2と同様な全体縦断側面図、 (b)は、駆動力伝達装置内における前進ワンウェイクラッチの状態を示す部分横断面図、 (c)は、駆動力伝達装置内における後退ワンウェイクラッチの状態を示す部分横断面図である。
【図8】同駆動力伝達装置の伝動系路を、電動モータ式4輪駆動車両が後退4輪駆動走行を行う場合について示す説明図で、 (a)は、該伝動系路を示すための、図2と同様な全体縦断側面図、 (b)は、駆動力伝達装置内における前進ワンウェイクラッチの状態を示す部分横断面図、 (c)は、駆動力伝達装置内における後退ワンウェイクラッチの状態を示す部分横断面図である。
【図9】同駆動力伝達装置内における後退回転伝動クラッチを作動させるためのカム機構の動作原理説明用模式図である。
【図10】駆動力伝達装置内における後退回転伝動クラッチの他の構成例を示す要部縦断側面図である。
【図11】駆動力伝達装置内における後退回転伝動クラッチの更に他の構成例を示す要部縦断側面図である。
【図12】駆動力伝達装置内における前進ワンウェイクラッチおよび後退ワンウェイクラッチの他の例を示す要部正面図である。
【図13】駆動力伝達装置内における前進ワンウェイクラッチおよび後退ワンウェイクラッチの更に他の例を示す要部正面図である。
【図14】本発明による駆動力伝達装置を副駆動輪の伝動系に具えた、他の型式の電動モータ式4輪駆動車両の車輪駆動系を示す線図的平面図である。
【図15】図14の電動モータ式4輪駆動車両に用いた駆動力伝達装置の全体縦断側面図である。
【図16】本発明の一実施例になる駆動力伝達装置が後退駆動系のガタ詰めおよび前進駆動系のガタ詰めを行うに際して実行する制御プログラムを示すフローチャートである。
【図17】同プログラムにおいて用いる駆動力伝達ユニットの油温とフリクションとの関係を示した線図である。
【図18】本発明の他の実施例になる駆動力伝達装置が、後退駆動系のガタ詰めおよび前進駆動系のガタ詰めを行うに際して実行する制御プログラムを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1 入力軸
2 出力軸
3 ディファレンシャルギヤ装置
4 ハウジング
6 前進ワンウェイクラッチ(正方向ワンウェイクラッチ)
7 後退ワンウェイクラッチ(逆方向ワンウェイクラッチ)
8,9 外輪軸受
10 中間歯車
11 入力歯車
12 後退回転伝動クラッチ(逆方向回転伝動クラッチ)
13 カム機構
28 駆動力伝達装置
41 主動力源
42 トランスアクスル
43 ドライブシャフト
44 左右前輪(主駆動輪)
45 副動力源
46 減速機
47 ドライブシャフト
48 左右後輪(副駆動輪)
51 エンジン
52 変速機
53 プロペラシャフト
54 終減速機
55 ドライブシャフト
56 左右後輪(主駆動輪)
57 電動モータ
59 減速機
60 終減速機
61 ドライブシャフト
62 左右前輪(副駆動輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸および出力軸間の伝動系として、
前記入力軸の正方向駆動時に正方向駆動力を前記出力軸に伝達するよう係合する正方向ワンウェイクラッチを含んだ正方向駆動系と、
前記入力軸の逆方向駆動時に係合する逆方向ワンウェイクラッチ、および、この逆方向ワンウェイクラッチを経由した逆方向駆動力に応動してこの逆方向駆動力を前記出力軸に伝達するよう締結される逆方向回転伝動クラッチを含んだ逆方向駆動系とを具え、
前記正方向駆動系による正方向駆動力の伝達開始に際しては、前もって該正方向駆動系における隙間をなくす方向のガタ詰めトルクを前記入力軸に付加し、
前記逆方向駆動系による逆方向駆動力の伝達開始に際しては、前もって該逆方向駆動系における隙間をなくす方向のガタ詰めトルクを前記入力軸に付加するようにした駆動力伝達装置において、
前記正方向駆動系用のガタ詰めトルクと、前記逆方向駆動系用のガタ詰めトルクとを異ならせたことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動力伝達装置において、
前記逆方向駆動系用のガタ詰めトルクを前記正方向駆動系用のガタ詰めトルクよりも大きくしたことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2に記載の駆動力伝達装置において、
前記逆方向駆動系用のガタ詰めトルクを前記正方向駆動系用のガタ詰めトルクよりも、前記逆方向回転伝動クラッチの隙間をなくすのに必要なトルク分だけを大きくしたことを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、
前記正方向駆動系用のガタ詰めトルクおよび前記逆方向駆動系用のガタ詰めトルクをそれぞれ、作動油温に応じて変化させることを特徴とする駆動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、
前記駆動力伝達装置は、
前記出力軸上に前記正方向ワンウェイクラッチおよび逆方向ワンウェイクラッチを嵌合して具え、
これらワンウェイクラッチの外輪に前記入力軸を駆動結合し、
正方向ワンウェイクラッチの内輪を出力軸と一体回転可能にし、逆方向ワンウェイクラッチの内輪を出力軸に相対回転可能にし、
逆方向ワンウェイクラッチの内輪と、出力軸との間に前記逆方向回転伝動クラッチを介在させたものである駆動力伝達装置。
【請求項6】
請求項5に記載の駆動力伝達装置において、
前記駆動力伝達装置は、
前記正方向ワンウェイクラッチおよび逆方向ワンウェイクラッチの外輪を相互に一体に構成したものである駆動力伝達装置。
【請求項7】
請求項6に記載の駆動力伝達装置において、
前記駆動力伝達装置は、
前記入力軸を前記出力軸からオフセットさせて平行に配置し、
前記正方向ワンウェイクラッチおよび逆方向ワンウェイクラッチの相互に一体化した外輪に前記入力軸を回転係合させたものである駆動力伝達装置。
【請求項8】
請求項6に記載の駆動力伝達装置において、
前記駆動力伝達装置は、
前記入力軸を前記出力軸に同軸に配置し、
前記正方向ワンウェイクラッチおよび逆方向ワンウェイクラッチの相互に一体化した外輪に前記入力軸を回転係合させたものである駆動力伝達装置。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか1項に記載の駆動力伝達装置において、
前記逆方向ワンウェイクラッチの内輪と、前記出力軸との間に介在させる前記逆方向回転伝動クラッチは、該逆方向ワンウェイクラッチの内輪に伝達された逆方向駆動力に応動してカム機構が発生するスラスト荷重により締結されるものである駆動力伝達装置。
【請求項10】
請求項9に記載の駆動力伝達装置において、
前記カム機構は、
前記逆方向ワンウェイクラッチの内輪と共に回転するワンウェイクラッチ側カムディスク、このカムディスクに向け附勢され、且つ、このカムディスクと相対回転可能に対向する逆回転伝動クラッチ側カムディスク、および、これらカムディスクの対向カム溝間に介在され、ワンウェイクラッチ側カムディスクへ前記逆方向駆動力が伝達されるとき逆回転伝動クラッチ側カムディスクとの相対回転により該逆回転伝動クラッチ側カムディスクをワンウェイクラッチ側カムディスクから遠ざかる軸線方向へ方向へ変位させて前記スラスト荷重を発生させるカムフォロアより成るものである駆動力伝達装置。
【請求項11】
請求項10に記載の駆動力伝達装置において、
前記逆回転伝動クラッチ側カムディスクの附勢を、該カムディスクと固定部との間に設けた皿バネにより行うよう構成し、
該皿バネの内周を逆回転伝動クラッチ側カムディスクに対し相対回転不能に着座させた駆動力伝達装置。
【請求項12】
請求項9〜11に記載の駆動力伝達装置において、
前記逆回転伝動クラッチは、前記出力軸に固定したクラッチドラムを具え、該クラッチドラムに対し前記スラスト荷重でクラッチプレートを押圧することにより締結されるものである駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−32163(P2008−32163A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208111(P2006−208111)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】