説明

駆動力配分装置

【課題】クラッチ機構内に貯留される潤滑油を適当な油量で常時保持することで、クラッチ機構の磨耗や油切れなどを防止することができるとともに、潤滑牲、冷却牲、性能安定性及び耐久性の向上を実現した駆動力配分装置を提供する。
【解決手段】駆動力配分装置1は、ケース2と、ケース状の入力回転部材20及び出力回転部材4間のトルク伝達を断続するメインクラッチ40と、入力回転部材20の回転でケース2の第1内部空間3から撥ね上げられた潤滑油を収集するオイルガータ81と、オイルガータ81から入力回転部材20の第2内部空間26に供給される潤滑油を一時溜めるオイル溜り部80とを備えている。オイル溜り部80は、メインクラッチ40の締結側のケース2及び入力回転部材20間に形成された環状設置空間により構成されている。オイルガータ81及びオイル溜り部80を介して入力回転部材20の第2内部空間26内の潤滑油の供給排出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ機構を備えた駆動力配分装置に係わり、特に、クラッチ機構に対して油切れなどを発生させない潤滑構造を有する駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば四輪駆動車における各種の駆動力配分装置が提案されている。この種の従来の駆動力配分装置の一例としては、例えばデフケースの内部に、互いに相対回転可能に配置された入力回転部材及び出力回転部材間のトルク伝達を制御するクラッチ機構を備えており、デファレンシャルの特性や性能に適合する潤滑油とは異なる特性や性能の潤滑油をクラッチ機構の潤滑・冷却に用いた駆動力配分装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載された従来の駆動力配分装置は、デフケース(ケーシング)の内部に入力回転部材となるカップリングケースを回転可能に支持している。そのカップリングケースの内部には、筒状シャフトが相対回転可能に配置されている。その筒状シャフトの内部には、デフケースの内部に回転可能に配置された出力回転部材となるドライブピニオンシャフトの前端部が取り付けられている。
【0004】
その筒状シャフト及びカップリングケース間に形成された内部空間は、カップリングオイル室を形成している。そのカップリングオイル室には、クラッチ機構が同一軸線上に設けられるとともに、カップリングオイルが封入されている。そのカップリングケース及びデフケース間に形成された内部空間は、液密及び気密に封止されており、空気室を形成している。そのデフケース及びドライブピニオンシャフトの後端部間に形成された内部空間は、カップリングオイル室及び空気室とは独立して液密及び気密に封止されており、デファレンシャルオイル室を形成している。そのデファレンシャルオイル室には、デファレンシャルオイルが封入されている。
【0005】
この従来の駆動力配分装置によれば、カップリングオイルとデファレンシャルオイルとを別個に選択して封入することが可能となり、他の動力伝達機構や構成部品に要求される機能や特性との適合性に関わりなく、クラッチ機構の特性や性能に適合するカップリングオイルを選択して封入することができるとしている。
【0006】
従来の駆動力配分装置の他の一例としては、例えばデフケースの内部に形成された同一空間にクラッチ機構とデファレンシャルとを配置した駆動力配分装置がある(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に記載された従来の駆動力配分装置は、デフケースの収容空間とカップリングケースの収容空間とを区画しておらず、デフケース内に封入したデファレンシャルオイルによりカップリングケースのクラッチ機構の潤滑・冷却を行うようにしている。
【0007】
上記特許文献2に記載された従来の駆動力配分装置の他にも、例えばデフケースの内部に形成された同一空間にクラッチ機構とデファレンシャルとを配置した駆動力配分装置がある(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0008】
従来の駆動力配分装置の更に他の一例としては、例えば入力回転部材となるクラッチハウジングの回転により発生する遠心力で、クラッチハウジングを回転可能に支持する支持ハウジングに封入された潤滑油を、クラッチハウジング内に配されたクラッチ機構に供給する潤滑構造を有する駆動力配分装置がある(例えば、特許文献5参照)。
【0009】
この特許文献5に記載された従来の駆動力配分装置は、アーマチュアと電磁石との間に配されたパイロットクラッチと、パイロットクラッチの締結により推力を発生するカム機構と、カム機構の推力が伝達されることで締結されるメインクラッチとを備えており、支持ハウジングからクラッチハウジングに供給される潤滑油を一時溜めるオイル溜り部(環状空間部)をクラッチハウジングの電磁石側の設置空間に設けている。その設置空間は、支持ハウジングと、クラッチハウジングと相対回転可能に支持された出力回転部材となる車軸と、電磁石と、支持ハウジング及び車軸間に介装されたオイルシールとにより形成されている。
【0010】
この従来の駆動力配分装置の潤滑構造によると、支持ハウジングに封入された潤滑油が、クラッチハウジングの回転により発生する遠心力で、支持ハウジングの内面に設けられたオイルガータへ掻き上げられる。そのオイルガータからの潤滑油は、支持ハウジングに形成されたガイド凹部と、電磁石の支持体に形成された切欠とを介して環状空間部へ移動する。その環状空間部に溜められた潤滑油は、クラッチハウジングと車軸との相対回転によりクラッチハウジングの内部へ引き込まれて移動する。その潤滑油は、クラッチハウジングの回転による遠心力により、クラッチハウジングの外周面に形成された複数の油孔(導入窓)から支持ハウジングの内部へ排出されるようになっている。
【特許文献1】特許第3442250号公報
【特許文献2】特許第2992336号公報
【特許文献3】特許第2992304号公報
【特許文献4】特許第3276340号公報
【特許文献5】特開2007−285459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記従来の駆動力配分装置は、クラッチ機構のクラッチプレートの滑りを伴う状態で使用されるので、そのクラッチプレート間の摩擦熱による過熱、クラッチプレートの磨耗や油切れなどが発生する。このため、クラッチプレートの潤滑・冷却を行なうために潤滑油が供給される。しかしながら、上記特許文献1に記載された従来の駆動力配分装置は、デフケースの内周面とカップリングケースの外周面とにより形成された内部空間が空気室となっているので、以下の様々な問題点を有している。
(1)空気によりパイロットクラッチ、カム機構、メインクラッチなどのカップリング(クラッチ機構)を冷却する構成では、カップリング内部を十分に冷却できないので、カップリングケースの外側の冷却牲が悪い。そのため、悪路走行などによるクラッチ発熱の多い環境条件下では、駆動力配分装置の内部の温度上昇が早くなり、長時間の運転走行ができない。
(2)冬季の外気温度が低い環境条件下では、冷え切った駆動力伝達装置の内部温度が上昇し難い。そのため、駆動力伝達装置内のオイルの粘性が高くなり、そのオイルの粘性抵抗により大きな引きずりトルクが発生し、車両操縦性の悪化を招く。
(3)カップリングケース内には、カップリングが密集状態に配設される。そのため、カップリングケースの内部空間に余裕が少なく、その容積が小さくなる。その結果、カップリングケース内の封入油量が少ないので、潤滑油の劣化が早くなり、シャダーの防止耐久性の寿命が短い。
【0012】
一方、上記特許文献2〜4に記載された従来の駆動力配分装置は、デフケース内に封入したデファレンシャルオイルによりクラッチ機構の潤滑・冷却を行うので、以下の問題点を有している。
(1)潤滑油の油量が充分に確保され難く、クラッチ機構の潤滑を充分に行うことができなくなり、クラッチプレートの摩耗、劣化が激しい。特に、車両の停止状態からの発進時においては、クラッチプレートの滑りによる発熱でクラッチ温度が上昇するので、油切れによるクラッチプレートの損傷のおそれが強い。
【0013】
また、上記特許文献5に記載された従来の駆動力配分装置は、支持ハウジングからクラッチハウジングへ循環供給される潤滑油を一時溜める環状空間部をクラッチハウジングの電磁石側の配置空間に設けているので、以下の問題点を有している。
(1)環状空間部に溜められた潤滑油は、クラッチハウジングと車軸との相対回転により、クラッチ機構の電磁石側からパイロットクラッチ、カム機構などの構成部品を介して離間したメインクラッチ側へ引き込まれて移動するので、この各種構成部品が潤滑油の流れを阻害することとなり、パイロットクラッチ、メインクラッチを充分に潤滑し難くなる。そのため、パイロットクラッチ、メインクラッチの冷却を確実に行うことができず、これらのクラッチプレートの摩耗、劣化が激しくなりやすい。
(2)パイロットクラッチ及びメインクラッチの摺動に伴うエネルギー損失により、多大なクラッチ発熱が発生する。特に、メインクラッチのクラッチ発熱が最も多くなるので、メインクラッチに対しては潤滑油により充分に潤滑・冷却を行う必要がある。しかしながら、クラッチハウジングの外周面には、複数の油孔(導入窓)が形成されているので、メインクラッチ側へ引き込まれて移動する潤滑油は、クラッチハウジングの回転により発生する遠心力の作用でクラッチハウジングの油孔から支持ハウジングの内部へ排出されてしまい、メインクラッチへの潤滑油の油量が充分に確保され難い。
【0014】
従って、本発明は、上記従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、クラッチ機構内に貯留される潤滑油を適当な油量で常時保持することで、クラッチ機構の磨耗や油切れなどを防止することができるとともに、潤滑牲、冷却牲、性能安定性及び耐久性の向上を実現した駆動力配分装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[1]本発明は、潤滑油が封入された第1の内部空間を有するケースと、前記ケースの前記第1の内部空間に回転可能に支持され、第2の内部空間を有する密閉型の入力回転部材と、前記入力回転部材の前記第2の内部空間に相対回転可能に支持された出力回転部材と、前記入力回転部材及び前記出力回転部材間の前記第2の内部空間にあって、前記入力回転部材及び前記出力回転部材間のトルク伝達を断続するメインクラッチを有するクラッチ機構と、前記ケースの内周面に設けられ、前記入力回転部材の回転により前記第1の内部空間から撥ね上げられた前記潤滑油を収集するオイルガータと、前記入力回転部材の回転により前記オイルガータから前記第2の内部空間に供給される前記潤滑油を一時溜めるオイル溜り部とを備え、前記オイル溜り部は、前記メインクラッチの締結側の前記ケース及び前記入力回転部材間に形成され、前記オイルガータ及び前記オイル溜り部を介して前記第2の内部空間内に前記潤滑油の供給排出を行うように構成されていることを特徴とする駆動力配分装置にある。
[2]上記[1]記載の発明にあって、前記オイル溜り部は、前記メインクラッチの締結側の前記ケースに前記入力回転部材を回転可能に支持するシールベアリングと、前記ケース及び前記出力回転部材間をシールするオイルシールとの間に形成された環状の設置空間により構成されていることを特徴としている。
[3]上記[1]記載の発明にあって、前記ケースには、前記オイルガータから流出する前記潤滑油を前記オイル溜り部へ誘導する誘導路が設けられ、前記入力回転部材及び前記出力回転部材間には、前記オイル溜り部に溜められた前記潤滑油を前記第2の内部空間に供給する供給孔と前記供給孔に連通する導入路とが設けられ、前記誘導路は、前記入力回転部材の回転軸線の中心よりも上方に設けられていることを特徴としている。
[4]上記[3]記載の発明にあって、前記供給孔の外径D1、前記導入路の外径D2、及び前記メインクラッチのクラッチプレートの内径D3が、D1<D2<D3の関係を有していることを特徴としている。
[5]上記[2]記載の発明にあって、前記オイル溜り部は、前記シールベアリング及び前記オイルシール間にオイルダクトを設けていることを特徴としている。
[6]上記[1]記載の発明にあって、前記クラッチ機構は更に、通電により前記メインクラッチの伝達トルクを制御するパイロットクラッチと、前記パイロットクラッチの伝達トルクを前記メインクラッチに対する押付け力に変換するカム機構と、前記メインクラッチの締結側とは反対側の前記入力回転部材の壁部の外側に軸線方向移動可能に設けられた電磁石と、前記入力回転部材の前記壁部の内部に前記パイロットクラッチに向けて移動可能に配され、前記パイロットクラッチを押付ける押圧部材とを有し、前記押圧部材は、前記電磁石に通電することで、前記入力回転部材との間で前記電磁石に作用する磁気吸引力により前記パイロットクラッチの操作力を調整することを特徴としている。
[7]上記[6]記載の発明にあって、前記電磁石は、前記ケースの内周面に支持されていることを特徴としている。
[8]上記[6]記載の発明にあって、前記電磁石は、前記入力回転部材の軸部に対して相対回転可能及び軸方向移動可能に支持され、かつ、前記ケースに対して回転不能に支持されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、入力回転部材の回転停止時においても、密閉型の入力回転部材内に貯留される潤滑油を適当な油量で常時保持することができるようになり、クラッチ機構の磨耗や油切れなどを効果的に抑制することができる。これにより、駆動力配分装置の潤滑牲、冷却性、性能安定性及び耐久性の向上を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて具体的に説明する。
【0018】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の代表的な実施の形態である駆動力配分装置の内部構造を概略的に示す断面図である。
【0019】
(駆動力配分装置の構成)
図1において、符号1は、四輪駆動車のプロペラシャフトとリヤデファレンシャルとの間に配置された駆動力配分装置の全体構成を概略的に示している。この第1の実施の形態に係る典型的な駆動力伝達装置1は、入力回転部材である回転軸部21を有する密閉型のカップリングケース20を備えている。このカップリングケース20は、回転軸線方向(車体前後方向)に延びる一対のケースを組み合わせたリヤデフケース2,2により覆われており、リヤデフケース2の内周面及びカップリングケース20の外周面間により所要の第1の内部空間3が形成されている。リヤデフケース2の内部には、リヤデファレンシャルを回転駆動する出力回転部材であるドライブピニオンシャフト4がカップリングケース20の回転軸部21と同一軸線上に配置されている。
【0020】
カップリングケース20の回転軸部21は、図1に示すように、エンジンからの駆動力が伝えられるプロペラシャフト側のフランジ5の円筒部内にナット6により締付固定されている。そのフランジ5には、プロペラシャフトと一体に取り付けられたフランジが連結固定されるようになっている。
【0021】
(リヤデフケースの構成)
ドライブピニオンシャフト4の前端部には、図1に示すように、円筒状のハブ27の内周面がスプライン連結されており、ベアリング15を介してカップリングケース20に相対回転可能に支持されている。ドライブピニオンシャフト4の後端部は、一対のテーパローラベアリング7,7を介してリヤデフケース2の内周面に回転可能に支承されており、スペーサ及びナットにより一体化されている。ドライブピニオンシャフト4の後端部先端には、リヤデファレンシャルのギヤ機構と噛合されるギヤ8が一体に形成されている。
【0022】
リヤデフケース2の後端部には、カップリングケース20の軸受部となる円筒壁部9がカップリング側に向けて延在されている。リヤデフケース2の前端部に形成された開口とプロペラシャフト側のフランジ5の外周面との間には、オイルシール10が配されている。リヤデフケース2の円筒壁部9の内周面とドライブピニオンシャフト4との間には、オイルシール11が配されている。それらのオイルシール10,11により、リヤデフケース2の第1の内部空間3とリヤデファレンシャル側の第3の内部空間18とを区画しており、その内部空間3を密封している。プロペラシャフト側のフランジ5には、ダストカバー12が固定されており、リヤデフケース2の内部空間3にダストなどが浸入するのを防止している。
【0023】
(カップリングケースの構成)
この密閉型のカップリングケース20は、図1に示すように、回転軸部21よりも大径の円筒部22と、円筒部22よりも大径の第1のハウジング23と、第1のハウジング23の後端開口部を液密に内嵌固定する円環状の第2のハウジング24とからなる多段形状を有している。第2ハウジング24の後端面には、潤滑油を供給排出可能に設けた円筒状の開口筒部25が形成されている。回転軸部21は、ベアリング13を介してリヤデフケース2内に回転可能に支承されるとともに、第2ハウジング24の開口筒部25が、シールベアリング14を介してリヤデフケース2の円筒壁部9の内周面に回転可能に支承されている。
【0024】
図示例によれば、この駆動力配分装置1では、リヤデフケース2の円筒壁部9の内周面及びドライブピニオンシャフト4間に介在されたオイルシール11により、カップリングケース20の第2の内部空間26とリヤデファレンシャル側の第3の内部空間18とが区画されている。そのオイルシール11とシールベアリング14とにより環状の設置空間を形成することで、駆動力配分装置1の回転によりリヤデフケース2の内部空間3から撥ね上げられた潤滑油を溜めるオイル溜り部80が構成されている。
【0025】
カップリングケース20の円筒部22の外周面とリヤデフケース2の内周面との間には、電磁石70を配置する環状の配置空間が形成されている。第1ハウジング23の入力側には、電磁石70に面する段差面を形成する環状の段差壁部23aが設けられている。その段差壁部23aには、環状凹部23bが形成されている。その環状凹部23bの底面には、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって複数の貫通孔23c,…,23cが軸方向に貫通して形成されている。その貫通孔23cのそれぞれには、パイロットクラッチ50の押付け力を調整する押圧部材53が軸方向移動可能に収納されている。
【0026】
(クラッチ機構の構成)
この駆動力配分装置1は、図1に示すように、カップリングケース20及びドライブピニオンシャフト4間のトルク伝達を制御するクラッチ機構をカップリングケース20内に回転軸部21と同一軸線上に配している。このクラッチ機構は、電磁石70に通電することで、カップリングケース20の段差壁部23aとの間で電磁石70に作用する磁気吸引力を、電磁石70がパイロットクラッチ50に向けて移動する操作力としている。このクラッチ機構の基本構成は、メインクラッチ40と、メインクラッチ40の伝達トルクを調整する電磁式のパイロットクラッチ50と、パイロットクラッチ50の伝達トルクをメインクラッチ40に対する押付け力に変換するカム機構60とにより主に構成されている。この駆動力配分装置1は更に、クラッチ機構を断続操作する電磁石70と、電磁石70に作用する磁気吸引力によりパイロットクラッチ50を押付ける押圧部材53とを備えている。
【0027】
(メインクラッチの構成)
メインクラッチ40は、図1に示すように、カップリングケース20の第1ハウジング23の内周面にスプライン連結された複数の環状のアウタクラッチプレート41と、ハブ27の外周面にスプライン連結された複数の環状のインナクラッチプレート42とを有している。メインクラッチ40と第2ハウジング24との間には、クラッチの隙間を規制する環状のスペーサ43が配されている。インナクラッチプレート42の摩擦係合面を除く部位には、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって複数の円形状の油孔44,…,44が形成されている。メインクラッチ40は、パイロットクラッチ50の締結によりメインクラッチ40側に移動するカム機構60のプレッシャリング61を介して締結される。メインクラッチ40が締結されると、第1ハウジング23及びハブ27が接続されるので、カップリングケース20からドライブピニオンシャフト4へ駆動力が伝達される。
【0028】
(パイロットクラッチの構成)
パイロットクラッチ50は、図1に示すように、2枚の環状のアウタクラッチプレート51,51と1枚の環状のインナクラッチプレート52とを有している。アウタクラッチプレート51は、第1ハウジング23の内周面にスプライン連結されている。一方のインナクラッチプレート52は、カム機構60のカムリング62にスプライン連結されている。インナクラッチプレート52の摩擦係合面を除く部位には、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって複数の円形状の油孔54,…,54が形成されている。
【0029】
電磁石70に通電すると、電磁石70がパイロットクラッチ50側に吸引移動される。その押圧力により押圧部材53がパイロットクラッチ50側に移動され、その押圧力によりパイロットクラッチ50が締結される。このとき、カムリング62とプレッシャリング61との間に回転トルクが生じることでカム機構60にスラスト力を発生させる。なお、図示例によると、パイロットクラッチ50のインナクラッチプレート52の枚数を1枚に設定しているが、これに限定されるものではない。この第1の実施の形態では、例えばインナクラッチプレート52を2枚もしくは3枚以上の枚数に設定してもよいことは勿論である。
【0030】
(カム機構の構成)
カム機構60は、図1に示すように、プレッシャリング61と、カムリング62と、プレッシャリング61及びカムリング62間に配されたカムボール63とにより構成されている。カム機構60は、カップリングケース20の第1ハウジング23の段差壁部23aの内周面にスラスト軸受64により受け止められ、ハブ27の外周面に配されている。プレッシャリング61には、カップリングケース20の回転軸線を中心とする同一円周上に所定の位相差をもって油路65が貫通して形成されている。カム機構60は、メインクラッチ40の締結力を無段階に制御する。電磁石70の通電によりパイロットクラッチ50が締結されると、パイロットクラッチ50に連結されたカムリング62及びプレッシャリング61間に回転トルクが生じる。カムボール63がカムリング62及びプレッシャリング61を互いに離反する方向に押圧するスラスト力によって、プレッシャリング61がメインクラッチ40側へ移動し、メインクラッチ40が締結する。
【0031】
(電磁石の構成)
電磁石70は、図1に示すように、ヨーク71とコイル72とにより環状に形成されている。ヨーク71は、メインクラッチ40側に開放された断面コ字状をなす環状の凹部73を有している。その凹部73内には、環状のコイル72が液密にシールされ、嵌着固定されている。コイル72と面する部位には、ステンレス材等からなる環状の非磁性部材74が埋設されている。電磁石70は、カップリングケース20の円筒部22の外周面とリヤデフケース2の内周面間に形成された環状の配置空間において、カップリングケース20の段差壁部23aとの間に所定の空隙Gをもってリヤデフケース2の内周面に回転不能にかつ軸方向移動可能に支承されている。
【0032】
電磁石70には、リヤデフケース2にグロメット75を介して外部へ引き出されたリード線76が連結されている。このリード線76を介して電磁石70に通電すると、パイロットクラッチ50に磁気を通過させることなく、ヨーク71及びカップリングケース20の段差壁部23a間を循環する磁路Lが形成され、電磁石70がカップリングケース20の段差壁部23aに吸引される荷重(電磁石70に作用する磁気吸引力)をパイロットクラッチ50に対して直接付加するようになっている。電磁石70への通電電力を調整することでパイロットクラッチ50への押付け力を調整することができる。電磁石70とカップリングケース20の段差壁部23aとが近接して配されており、磁束漏れを低減させ、磁力を効率的に使用することが可能となる。
【0033】
この第1の実施の形態では、電磁石70をリヤデフケース2の内周面に支持する構成を例示しているが、これに限定されるものではない。この構成に代えて、例えば電磁石70をカップリングケース20の円筒部22に支持することができる。電磁石70は、カップリングケース20の円筒部22の外周面にベアリングを介して相対回転可能に支持するとともに、軸方向移動可能に支持することで、リヤデフケース2の内周面に対しては回転不能に支持する構成とすることができる。
【0034】
(押圧部材の構成)
カップリングケース20の段差壁部23aに形成された環状凹部23bの貫通孔23c内には、図1に示すように、押圧部材53が軸方向移動可能に配されている。その押圧部材53は、一端に円形フランジをもつ円形のブロック体により構成されている。この段差壁部23aの環状凹部23bには、電磁石70の非磁性部材74に面するスラストニードルベアリング55と、押圧部材53に面するリングプレート56とが並設されている。電磁石70に作用する磁気吸引力は、非磁性部材74、スラストニードルベアリング55、リングプレート56及び押圧部材53へと伝えられ、パイロットクラッチ50への押付け力となる。
【0035】
上記クラッチ機構は、カップリングケース20との間で電磁石70に作用する磁気吸引力をパイロットクラッチ50に対する操作力としているので、パイロットクラッチ50を磁路Lの一部として構成する必要がない。パイロットクラッチ50のクラッチプレート摺動面に加えて、クラッチプレート摺動面としては必要としない磁気通路断面を形成することがなくなるので、パイロットクラッチ50をコンパクトに構成することが可能となり、小さな電流で大きなトルクを制御することができるようになる。
【0036】
以上のように構成されたクラッチ機構を備えた駆動力配分装置1は、互いに摩擦係合又は離間する複数のクラッチプレートの滑りを伴う状態で使用される。そのため、クラッチプレート間の摩擦熱による過熱、クラッチプレートの磨耗や油切れなどが発生するので、クラッチプレートの潤滑・冷却を行なうために潤滑油を供給排出する必要がある。
【0037】
(オイル循環路の構成)
この第1の実施の形態に係る駆動力配分装置1の特徴とするところは、密閉型のカップリングケース20のオイル循環路の構成にある。
【0038】
図2〜図4は、この第1の実施の形態に係る駆動力配分装置に効果的に使用されるオイル循環路の一構成例を概略的に示している。図2(A)は、図1の2A−2A線に沿って切り欠いた要部断面図、図2(B)は、図1の2B−2B線に沿って切り欠いた要部断面図、図2(C)は、図2(B)に相当する要部断面図であり、図3は、図2(B)の3−3線の矢視断面拡大図、図4は、カップリングケースの後端部側の要部断面拡大図である。なお、図2(B)は、カップリングケースの回転時におけるカップリングケース内の潤滑油の状態を、図2(C)は、カップリングケースの回転停止時におけるカップリングケース内の潤滑油の状態をそれぞれ示している。
【0039】
図2〜図4において、このオイル循環路の基本構成は、駆動力配分装置1の回転によりリヤデフケース2の内部空間3から撥ね上げられた潤滑油を収集するオイルガータ81と、オイルガータ81から流出する潤滑油を誘導する誘導路82と、誘導路82の誘導口82aから流出する潤滑油を溜めるオイル溜り部80と、オイル溜り部80に溜められた潤滑油をカップリングケース20の内部空間26に供給する供給孔83と、供給孔83に連通する導入路84とにより主に構成されている。
【0040】
(オイルガータの構成)
駆動力配分装置1の回転によりリヤデフケース2の内部空間3から撥ね上げられた潤滑油をオイル溜り部80に導くオイルガータ81は、図2(A)〜図2(C)に示すように、カップリングケース20の回転軸線Cよりも上方向のリヤデフケース2の内周面に沿って配されている。その内周面から外方向へ膨出して形成された細長い周壁81aと、その周壁81aにより形成された膨出空間81b及びリヤデフケース2の内部空間3を区画する隔壁81cとにより、断面が樋状をなす供給排出路が構成されている。
【0041】
オイルガータ81の周壁81aは、図2(A)〜図2(C)に示すように、上壁と、底壁と、上壁及び底壁を連結する外壁とからなる。周壁81aの上壁及び隔壁81c間には、カップリングケース20側に開放する細長い開口81dが膨出空間81bに連通して形成されている。その隔壁81cは、リヤデフケース2の一部を構成しており、周壁81aの上壁を形成する内側表面に臨んで立設されている。その上壁の内側表面は、リヤデフケース2の内部空間3から撥ね上げられた潤滑油を受け止めて開口81dからオイルガータ81へ導くようにガイド面としての機能を有している。
【0042】
オイルガータ81の開口81dは、図3に示すように、カップリングケース20の回転時には、カップリングケース20の回転により発生する遠心力でリヤデフケース2の内部空間3から撥ね上げられた潤滑油を捕捉するとともに、カップリングケース20の回転停止時には、オイル溜り部80からオイルガータ81の流路へ溢れ出た余剰の潤滑油をリヤデフケース2の内部空間3へ排出する機能を有している。
【0043】
オイルガータ81の流路幅は、図3に示すように、カップリングケース20の回転軸線方向の下流側に向けて次第に小さく形成されている。カップリングケース20の回転時には、オイルガータ81の下流側に向けて潤滑油の流速を速めるとともに、オイルガータ81の下流側に潤滑油を確実に安定して供給することができるようになっている。
【0044】
(誘導路の構成)
リヤデフケース2の円筒壁部9の内部には、図2(A)〜図3に示すように、オイルガータ81から流出する潤滑油の流れをほぼ直角方向に変えてオイル溜り部80へ誘導する誘導路82が、リヤデフケース2の内側方向に向けて形成されている。この誘導路82の特徴とするところは、カップリングケース支持用のシールベアリング14の上部にあってカップリングケース20の回転軸線Cよりも上方向に配されていることにある。この誘導路82の下流側には、潤滑油の流れをほぼ直角方向に変えてオイル溜り部80へ導く誘導口82aが形成されている。その誘導口82aは、オイル溜り部80の設置空間の周面に一致している。このオイル溜り部80には、カップリングケース20の回転により発生する遠心力でオイルガータ81から誘導路82を介して導入される潤滑油が一時溜められる。カップリングケース20は、密閉型に形成されるとともに、その後端面に潤滑油を供給排出可能に設けた円筒状の開口筒部25を有している。この開口筒部25を介してカップリングケース20の内部空間26とオイル溜り部80の設置空間とが同一の空間を構成している。その同一の空間は、誘導路82及びオイルガータ81を介してリヤデフケース2の内部空間3に連通して形成されている。
【0045】
(オイル溜り部の構成)
オイル溜り部80の特徴とするところは、図3及び図4に示すように、カップリングケース20の回転により発生する遠心力でリヤデフケース2の内部からカップリングケース20の内部に供給される潤滑油を一時溜めるオイル溜り部80が、カップリングケース20の電磁石70側(第1ハウジング23の入力側)とは反対側のメインクラッチ40の締結側(第1ハウジング23の出力側)に設定されていることにある。
【0046】
このオイル溜り部80は、カップリングケース20の後端部に形成された開口筒部25とリヤデフケース2の円筒壁部9とにより取り囲まれた環状の設置空間から構成されている。オイル溜り部80は、リヤデフケース2の円筒壁部9の内周面及びドライブピニオンシャフト4間に介在されたオイルシール11とリヤデフケース2にカップリングケース20を回転可能に支持するシールベアリング14とにより液密に密閉されている。環状の設置空間を形成するベアリング部材にシールを有するシールベアリング14を採用することで、オイルガータ81からの潤滑油をカップリングケース20の内部空間26へ確実に安定して供給排出することができる。
【0047】
(供給孔及び導入路の構成)
カップリングケース20の開口筒部25の開口端縁は、図3及び図4に示すように、内周側に張り出した環状のツバ部28を有している。このツバ部28とドライブピニオンシャフト4との間の環状の隙間により潤滑油の供給孔83が形成されている。その供給孔83は、オイル溜り部80に溜められた潤滑油の流れをほぼ直角方向に変えてカップリングケース20の内部空間26に供給するように導入路84に連通して形成されている。
【0048】
供給孔83に連通する導入路84は、図3及び図4に示すように、カップリングケース20の開口筒部25の内周面とドライブピニオンシャフト4のハブ27の外周面との間の内部空間により構成されている。この導入路84を流れる潤滑油は、ベアリング15に導かれて潤滑し、メインクラッチ40のインナクラッチプレート42の油孔44、プレッシャリング61の油路65及びパイロットクラッチ50のインナクラッチプレート52の油孔54を介してカップリングケース20の内部空間26を潤滑する。
【0049】
この第1の実施の形態によると、図1に示すように、供給孔83の外径がD1であり、導入路84の外径がD2であり、メインクラッチ40のアウタープレート41の内径がD3であるとき、D1<D2<D3の関係を有していることが好適である。この構成を採用することで、カップリングケース20の回転により発生する遠心力が潤滑油に作用しても、カップリングケース20の内部空間26に流入した潤滑油が導入路84側から供給孔83側へ逆流するのを防止することができるとともに、カップリングケース20の内部空間26が潤滑油により満たされるように維持することができる。
【0050】
以上のように構成されたオイル循環路を備えた駆動力配分装置1は、上述したように、カップリングケース20が密閉型に形成されるとともに、その後端面に潤滑油を供給排出可能に設けた円筒状の開口筒部25が形成されている構成、この開口筒部25を介してカップリングケース20の内部空間26とオイル溜り部80の設置空間とにより形成された同一の空間に誘導路82及びオイルガータ81を介して潤滑油の供給排出を行う構成、誘導路82がカップリングケース支持用のシールベアリング14の上部にあってカップリングケース20の回転軸線Cよりも上方向に配される構成に特徴を有している。
【0051】
この構成を採用することで、カップリングケース20の回転時は、カップリングケース20内に貯留された潤滑油は、図2(B)に示すように、カップリングケース20の回転により発生する遠心力で、カップリングケース20の外周部側にドーナッツ状に集まり、カップリングケース20の内部空間26内に存在する空気を誘導路82からオイルガータ81の開口81dを介して排気することができる。一方、カップリングケース20の回転停止時においては、カップリングケース20内に貯留された潤滑油は、図2(C)に示すように、誘導路82を介してオイル溜り部80からオイルガータ81の流路へ逆流して溢れ出ても、誘導路82の誘導口82aの配置位置よりも下がることはなく、カップリングケース20内の潤滑油の油面を誘導口82aの配置位置と同位あるいは上位に常に保持することが可能となる。これにより、クラッチ機構の磨耗や油切れなどを未然に防止することができる。
【0052】
以上のように構成されたオイル循環路によると、カップリングケース20の回転時に、リヤデフケース2の内部空間3に封入された所定量の潤滑油は、駆動力配分装置1の回転により発生する遠心力で撥ね上げられる。その撥ね上げられた潤滑油は、オイルガータ81の周壁81aの上壁に受け止められ、オイルガータ81の開口81dからオイルガータ81に収集される。収集された潤滑油は、図3及び図4に示すように、オイルガータ81の下流側に向けて流れる。その潤滑油は、オイルガータ81の下流側で、ほぼ直角方向に流れを変えて誘導路82へ流出する。その誘導路82の下流側の誘導口82aから流れる潤滑油は、オイル溜り部80に一時溜められる。
【0053】
オイル溜り部80内に所定量以上の潤滑油が溜まると、その潤滑油は、図4に示すように、ほぼ直角方向に流れを変えてカップリングケース20の供給孔83を通って導入路84に導入される。その潤滑油は、ベアリング15に導かれて潤滑し、メインクラッチ40のインナクラッチプレート42の油孔44、プレッシャリング61の油路65及びパイロットクラッチ50のインナクラッチプレート52の油孔54に移動し、カップリングケース20の回転により発生する遠心力で、カップリングケース20の内部空間26を攪拌する。その攪拌された潤滑油は、クラッチ機構のクラッチプレートの摺動面を通って潤滑・冷却する。
【0054】
カップリングケース20の回転停止時には、カップリングケース20の内部空間26内に充満した余剰の潤滑油が、カップリングケース20の内部空間26から導入路84及び供給孔83を介してオイル溜り部80へ溢れ出る。その溢れ出た潤滑油は、誘導路82及びオイルガータ81の流路を逆流して溢れ出ることで、オイルガータ81の開口81dからリヤデフケース2の内部空間3へ排出される。これにより、格別な排出機構などを設ける必要がなくなり、オイル循環路の構成を簡単に製作することができるとともに、製作コストの低減化を図ることができるようになる。排出された潤滑油は、クラッチ機構の潤滑・冷却に再度利用される。
【0055】
(第1の実施の形態の効果)
この第1の実施の形態に係る駆動力配分装置1によると、次の様々な効果が得られる。
(1)摩擦クラッチの油切れを防止することができるとともに、駆動力配分装置1の信頼性を高めることができる。従来の密閉型のカップリングケースにあっては、温度上昇時にカップリングケースの内部の潤滑油及び空気が膨張して内圧が高くなる。そのため、カップリングケースに耐圧容器を用いる必要があるが、上記第1の実施の形態であるカップリングケース20では、内圧上昇を防止することができるので、格別な耐圧容器を用いる必要がなくなり、安価に製作することができる。
(2)潤滑油の流れを阻害することなく、カップリングケース20の内部及びカップリングケース20の外部を循環するため、冷却性能と潤滑性能とを高めることができる。その結果、悪路走行などによるクラッチ発熱の多い環境条件下にあっても、駆動力配分装置1の内部温度の上昇を緩和することが可能となり、長時間の運転走行が可能になる。
(3)カップリングケース20の回転により発生する遠心力で、潤滑油が撹拌されるため、適度な温度上昇が発生する。そのため、冬季の外気温度が低い環境条件下にあっても、冷え切った駆動力配分装置1の内部温度が速やかに上昇するので、潤滑油の粘性による引きずりトルクが長く続くことを回避することができるようになり、車両操縦性を円滑にかつ即座に得ることができるようになる。
(4)駆動力配分装置1のカップリングケース20内にパイロットクラッチ50、カム機構60及びメインクラッチ40が密集状態に配設され、カップリングケース20の内部空間26に余裕が少なく、容積が小さい場合であっても、潤滑油が、カップリングケース20の回転により発生する遠心力で撹拌されるので、少ない油量でメインクラッチ40及びパイロットクラッチ50を効率的に冷却することができるようになる。
(5)カップリングケース20の供給孔83の径D1をメインクラッチ40のアウタープレート41の内径D4よりも小さく設定したため、不必要に油量を増やすことなく、カップリングケース回転時のクラッチ機構への潤滑を充分に確保することができる。
(6)カップリングケース20の後端開口部にツバ部28を設けているため、カップリング内部へのオイル導入を確実に行うことができる。
(7)オイルガータ81により潤滑油の供給排出を行うことで、カップリングケース20の内部及びカップリングケース20の外部間の潤滑油の循環効率を高めることが可能となり、オイル劣化を抑制することができる。オイル循環路の構成を簡略化することができるので、オイル循環路の製作コストの低減化を図ることができるようになる。
(8)オイル溜り部80の構成部品にシールベアリング14を採用することで、格別な部材を使用することなく、狭小な環状の内部空間を形成することができるようになる。それと相まって部品点数の削減化と構造の簡略化とを達成することができるようになり、製作コストを低減することができる。
【0056】
[第2の実施の形態]
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る駆動力配分装置に効果的に使用されるオイル循環路の一構成例を示している。図6は、図4に相当するカップリングケースの後端部側の要部断面拡大図である。なお、図6において上記第1の実施の形態と実質的に同じ部材には同一の部材名と符号を付している。従って、これらの部材に関する詳細な説明は省略する。
【0057】
この第2の実施の形態にあっても、上記第1の実施の形態に係るオイル循環路と基本的な構成において変わるところはない。図6において、上記第1の実施の形態と大きく異なるところは、上記第1の実施の形態では、オイルシール11とシールベアリング14とで取り囲まれた環状の設置空間をオイル溜り部80とした構成となっていたものを、この第2の実施の形態にあっては、シールベアリング14とオイルシール11とにより取り囲まれた環状の設置空間にオイルダクト17を設けることで、そのオイルダクト17とオイルシール11とにより取り囲まれた環状の設置空間をオイル溜り部80として形成した点にある。
【0058】
このオイルダクト17は、図6に示すように、内側の環状フランジ17aと外側の環状フランジ17bとを同一方向に屈曲したドーナッツ板形状を有している。オイルダクト17の環状フランジ17aの先端部は、カップリングケース20の開口筒部25内に臨んで配されている。このオイルダクト17を用いることで、カップリングケース20の高速回転時に、カップリングケース20内への潤滑油の流入を容易に行うことが可能となる。カップリングケース20の高速回転時にカップリングケース20内に供給しようとする潤滑油がカップリングケース20の外部へ押しやられてしまうのを防止することができる。なお、この第2の実施の形態にあっても、オイルガータ81からの潤滑油をカップリングケース20の内部空間26へ確実に安定して供給排出することができるようになり、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができることは勿論である。
【0059】
以上の説明からも明らかなように、本発明は、上記実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲内で様々に設計変更が可能である。本発明の駆動力配分装置は、前後輪間の駆動力配分に適用することで前輪のみ、あるいは後輪のみを駆動する2WDモード、車両状態に応じて前後輪間の駆動力を自動制御するオートモード、最大駆動力に保持するロックモードを備えた構成とすることができることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば農業機械、建設土木機械、運搬機械等の作業用車両、バギー車及び自動車などの各種の車両における駆動力配分装置に効果的に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の代表的な実施の形態である駆動力配分装置の内部構造を概略的に示す断面図である。
【図2】(A)は、図1の2A−2A線に沿って切り欠いた要部断面拡大図、(B)は、カップリングケースの回転時におけるカップリングケース内の潤滑油の状態を示し、図1の2B−2B線に沿って切り欠いた要部断面図、(C)は、カップリングケースの回転停止時におけるカップリングケース内の潤滑油の状態を示し、(B)に相当する要部断面図である。
【図3】図2(B)の3−3線の矢視断面拡大図である。
【図4】カップリングケースの後端部側の要部断面拡大図である。
【図5】カップリングケースの前端部側の要部断面拡大図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る駆動力配分装置におけるカップリングケースの後端部側の要部断面拡大図である。
【符号の説明】
【0062】
1 駆動力配分装置
2 リヤデフケース
3 第1の内部空間
4 ドライブピニオンシャフト
5 フランジ
6 ナット
7 テーパローラベアリング
8 ギヤ
9 円筒壁部
10,11 オイルシール
12 ダストカバー
13,15 ベアリング
14 シールベアリング
17 オイルダクト
17a,17b 環状フランジ
18 第3の内部空間
20 カップリングケース
21 回転軸部
22 円筒部
23 第1のハウジング
23a 段差壁部
23b 環状凹部
23c 貫通孔
24 第2のハウジング
25 開口筒部
26 第2の内部空間
27 ハブ
28 ツバ部
40 メインクラッチ
41 アウタクラッチプレート
42 インナクラッチプレート
43 スペーサ
44,54 油孔
50 パイロットクラッチ
51 アウタクラッチプレート
52 インナクラッチプレート
53 押圧部材
55 スラストニードルベアリング
56 リングプレート
60 カム機構
61 プレッシャリング
62 カムリング
63 カムボール
64 スラスト軸受
65 油路
70 電磁石
71 ヨーク
72 コイル
73 凹部
74 非磁性部材
75 グロメット
76 リード線
80 オイル溜り部
81 オイルガータ
81a 周壁
81b 膨出空間
81c 隔壁
81d 開口
82 誘導路
82a 誘導口
83 供給孔
84 導入路
G 空隙
L 磁路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油が封入された第1の内部空間を有するケースと、
前記ケースの前記第1の内部空間に回転可能に支持され、第2の内部空間を有する密閉型の入力回転部材と、
前記入力回転部材の前記第2の内部空間に相対回転可能に支持された出力回転部材と、
前記入力回転部材及び前記出力回転部材間の前記第2の内部空間にあって、前記入力回転部材及び前記出力回転部材間のトルク伝達を断続するメインクラッチを有するクラッチ機構と、
前記ケースの内周面に設けられ、前記入力回転部材の回転により前記第1の内部空間から撥ね上げられた前記潤滑油を収集するオイルガータと、
前記入力回転部材の回転により前記オイルガータから前記第2の内部空間に供給される前記潤滑油を一時溜めるオイル溜り部とを備え、
前記オイル溜り部は、前記メインクラッチの締結側の前記ケース及び前記入力回転部材間に形成され、
前記オイルガータ及び前記オイル溜り部を介して前記第2の内部空間内に前記潤滑油の供給排出を行うように構成されていることを特徴とする駆動力配分装置。
【請求項2】
前記オイル溜り部は、前記メインクラッチの締結側の前記ケースに前記入力回転部材を回転可能に支持するシールベアリングと、前記ケース及び前記出力回転部材間をシールするオイルシールとの間に形成された環状の設置空間により構成されていることを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項3】
前記ケースには、前記オイルガータから流出する前記潤滑油を前記オイル溜り部へ誘導する誘導路が設けられ、
前記入力回転部材及び前記出力回転部材間には、前記オイル溜り部に溜められた前記潤滑油を前記第2の内部空間に供給する供給孔と前記供給孔に連通する導入路とが設けられ、
前記誘導路は、前記入力回転部材の回転軸線の中心よりも上方に設けられていることを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項4】
前記供給孔の外径D1、前記導入路の外径D2、及び前記メインクラッチのクラッチプレートの内径D3が、D1<D2<D3の関係を有していることを特徴とする請求項3記載の駆動力配分装置。
【請求項5】
前記オイル溜り部は、前記シールベアリング及び前記オイルシール間にオイルダクトを設けていることを特徴とする請求項2記載の駆動力配分装置。
【請求項6】
前記クラッチ機構は更に、通電により前記メインクラッチの伝達トルクを制御するパイロットクラッチと、
前記パイロットクラッチの伝達トルクを前記メインクラッチに対する押付け力に変換するカム機構と、
前記メインクラッチの締結側とは反対側の前記入力回転部材の壁部の外側に軸線方向移動可能に設けられた電磁石と、
前記入力回転部材の前記壁部の内部に前記パイロットクラッチに向けて移動可能に配され、前記パイロットクラッチを押付ける押圧部材とを有し、
前記押圧部材は、前記電磁石に通電することで、前記入力回転部材との間で前記電磁石に作用する磁気吸引力により前記パイロットクラッチの操作力を調整することを特徴とする請求項1記載の駆動力配分装置。
【請求項7】
前記電磁石は、前記ケースの内周面に支持されていることを特徴とする請求項6記載の駆動力配分装置。
【請求項8】
前記電磁石は、前記入力回転部材の軸部に対して相対回転可能及び軸方向移動可能に支持され、かつ、前記ケースに対して回転不能に支持されていることを特徴とする請求項6記載の駆動力配分装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−243577(P2009−243577A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90374(P2008−90374)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】