説明

高せん断装置を用いた高せん断方法

【課題】高せん断時に材料の圧力波形などの挙動を安定させて材料を混練することで、高品質のブレンド材を製造することができる。
【解決手段】樹脂を可塑化して溶融するための可塑化ユニットにおいて、溶融樹脂M´を内部帰還型スクリュー23を備えた高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入し、注入工程後に内部帰還型スクリュー23を中速回転により回転させて、加熱筒21内の溶融樹脂M´を所定時間だけ内部帰還型スクリュー23の送り側へ移送する工程と、移送工程の後、内部帰還型スクリュー23を高速回転させて溶融樹脂M´に高せん断応力を与えて混練するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料を高せん断することによって、それら材料の内部構造をナノレベルで分散・混合する際に適用される高せん断装置を用いた高せん断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、静置場では相互に溶け合わない(非相溶性)ブレンド系において、相溶化剤等の余分な添加物を加えることなく、数十ナノメーターサイズの分散相を有する高分子ブレンド押出し物を製造するための高せん断機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1は、内部帰還型スクリューが搭載された高せん断機において、高せん断スクリューにより2〜5gの高分子ブレンド微量試料を溶融状態で例えば500〜3000rpmの回転数で高速回転させて数分間混練してナノ分散化させることで、耐熱性、機械的特性、寸法安定性等に優れた高分子ブレンド押出し物(ブレンド材)を製造する構造について開示したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−313608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の高せん断機(高せん断部)によるブレンド材の製造方法では、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1のような高せん断機(高せん断部)では、内部帰還型スクリューを高速回転させて高せん断を開始する手順として、先ず内部帰還型スクリューを中速回転させながら溶融させた樹脂を加熱筒内に注入し、内部帰還型スクリューの溝部に規定量の樹脂を充填させてから、内部帰還型スクリューを高速回転に切り替えて高せん断を行っている。
ところが、加熱筒内への樹脂の充填が完了した時点で、内部帰還型スクリュー前部に樹脂が密な状態で充填されていない場合や、内部帰還型スクリューの軸方向全体にわたって樹脂が一様に充填されていない場合がある。このような場合、とくに内部帰還型スクリューを高速回転させることによる高せん断開始直後において、材料が不均一な状態で混練され、加熱筒内の材料の圧力波形や内部帰還型スクリュー用モータのトルクなどの挙動が不安定な状態となることから、製造するブレンド材の品質が低下するという問題があった。そのため、高せん断時における上記挙動を安定させて材料を混練するための好適な方法が必要とされており、その点で改良の余地があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、高せん断時に材料の圧力波形などの挙動を安定させて材料を混練することで、高品質のブレンド材を製造することができる高せん断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る高せん断装置を用いた高せん断方法では、高せん断応力を付与しつつ混練することで、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合する高せん断装置を用いた高せん断方法であって、材料を可塑化して溶融するための可塑化部において、溶融させた材料を高せん断スクリューを備えた高せん断部の加熱筒内に注入する工程と、注入工程後に高せん断スクリューを中速回転により回転させて、加熱筒内の材料を所定時間だけ高せん断スクリューの送り側へ移送する工程と、移送工程の後、高せん断スクリューを高速回転させて材料に高せん断応力を与えて混練する工程とを有することを特徴としている。
【0007】
本発明では、可塑化部で溶融された材料を高せん断部の加熱筒内に注入し、樹脂の注入完了後に所定時間の間、高せん断スクリューを中速回転(例えば、100〜500rpm程度)で回転させ、高せん断スクリューの溝内に充填されている材料を高せん断スクリューの送り側(前方)へ移送する工程を設けることで、スクリュー前方の材料圧力を高めておくことができる。つまり、高せん断スクリューの回転数を中速回転から高速回転へ切り替えて高せん断を行う際、その高せん断開始時にスクリュー前方の材料圧力が高められているので、高せん断開始直後から高せん断スクリューの回転とともに加熱筒内の材料分布が安定した状態で混練されることになる。そのため、圧力波形や高せん断スクリュー用モータのトルクなどの挙動を安定させることができ、高せん断により材料をナノ分散化させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明による高せん断装置を用いた高せん断方法によれば、高せん断開始時に高せん断スクリュー前方の材料圧力が高められた状態となっているので、高せん断スクリューの回転とともに混練される加熱筒内の材料分布を高せん断開始直後から安定させることが可能となり、すなわち材料の圧力波形などの挙動を安定させることができる。したがって、注入した材料を高せん断により効率よくナノ分散化させることができ、透明な高品質のブレンド材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態による高せん断装置の概略構成を示す一部破断平面図である。
【図2】高せん断装置の詳細な構成を示す一部破断側面図である。
【図3】高せん断ユニットの構成を示す一部破断側面図である。
【図4】図2に示す高せん断スクリューの拡大図である。
【図5】高せん断ユニットに注入した溶融樹脂の状態を示す図であって、(a)は高せん断ユニットに溶融樹脂を注入した後で移送前の状態を示す側断面図、(b)は移送後の状態を示す側断面図であって、それぞれ図4に対応する図である。
【図6】高せん断装置を使用した高せん断のフローである。
【図7】実施例による高せん断装置によって得られる各種挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の高せん断装置を用いた高せん断方法の実施の形態について、図1乃至図6に基づいて説明する。
【0011】
図1における符号1は、本実施の形態による高せん断装置を示している。本高せん断装置1は、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料(以下、単に「樹脂M」という)において、高せん断応力を与えつつ混練することで樹脂Mの内部構造をナノレベルで分散・混合し、溶融状態の高分子ブレンド系の樹脂を作製するためのものである。
【0012】
図1および図2に示すように、高せん断装置1は、固体状の高分子ブレンド系の樹脂Mを可塑化して溶融させる可塑化ユニット10(可塑化部)と、この可塑化ユニット10によって可塑化された溶融樹脂M´を注入部22より注入し加熱筒21に挿入されている内部帰還型スクリュー23(高せん断スクリュー)を例えば100〜3000rpmの回転数で回転させて溶融樹脂M´を混練して高せん断することで、その溶融樹脂M´をナノ分散化させる高せん断ユニット20(高せん断部)とからなる。
なお、図1に示す高せん断装置1は、一部(後述する可塑化スクリュー12部分)が破断した図となっており、また見易いように後述するホッパー14及びホッパー台17が側面から見た図となっている。
【0013】
ここで、以下の説明では、可塑化ユニット10及び高せん断ユニット20における可塑化スクリュー12、内部帰還型スクリュー23のそれぞれの軸方向でスクリューの送り側を「前方」、「前端」、「先端」とし、その反対側を「後方」、「後端」、「基端」として統一して用いる。また、後述する可塑化ユニット10の加熱筒11と高せん断ユニット20の加熱筒21においても同様に、それぞれに挿通されるスクリュー12、23の送り側を「前方」、「前端」、「先端」とし、その反対側を「後方」、「後端」、「基端」として統一して用いる。また、以下の説明では、可塑化ユニット10で可塑化される前を単に樹脂Mとし、可塑化された樹脂を区別するため溶融樹脂M´とする。
【0014】
図2に示すように、可塑化ユニット10は、樹脂Mを混練して可塑化溶融するための可塑化スクリュー12を備え、その可塑化スクリュー12が回転軸方向を略水平方向に向けて配置されている。一方、高せん断ユニット20は、可塑化ユニット10より注入された溶融樹脂M´に対して高せん断を施すための前記内部帰還型スクリュー23を備え、その内部帰還型スクリュー23が回転軸方向を可塑化スクリュー12の回転軸方向に直交する略水平方向に向けて配置されている。
【0015】
ここで、本高せん断装置1で使用対象となる材料系としては、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料が挙げられる。例えば、非相溶性ポリマーブレンド系としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリアミド11(PA11)の組み合わせやポリカーボネート(PC)とポリメチルメタクリレート(PMMA)の組み合わせが挙げられる。ポリマー/フィラー系としては、ポリ乳酸とカーボンナノチューブ(CNT)の組み合わせが挙げられ、ポリマーブレンド/フィラー系としては、例えばPVDFとポリアミド6とCNTとの組み合わせなどが挙げられる。
【0016】
図1に示す可塑化ユニット10は、略水平方向に配した略中空円筒形状の加熱筒11と、この加熱筒11内に挿通された状態で周方向に回転自在かつ軸方向に往復移動自在とされる可塑化スクリュー12と、可塑化スクリュー12の軸方向一端側をなす基端部12a側に配置されるとともに可塑化スクリュー12に回転及び軸方向への往復移動をさせるための駆動部13と、可塑化スクリュー12の基端部12aに固体状の樹脂Mを供給するホッパー14と、可塑化スクリュー12の軸方向他端側をなす先端部12b側に設けられた射出ノズル15とを備えて概略構成されている。
【0017】
可塑化ユニット10の加熱筒11は、長手方向を略水平方向に向けた状態で保持され、外周面が複数のヒーター16、16、…によって覆われており、これらヒーター16を温度制御することで温度調節可能となっている。
【0018】
加熱筒11の基端部11aには、ホッパー14を支持するとともにホッパー14に供給された固体状の樹脂Mを可塑化スクリュー12の基端部12a側に落とし込む挿通穴17aを有するホッパー台17が固定されている。また、加熱筒11の先端部11bの内面には、射出ノズル15がその流路(射出口15a)を加熱筒11の内空部(可塑化領域R)に連通させた状態で取り付けられている。なお、加熱筒11は、図2に示す符号18の温度センサーによって温度制御される構成となっている。
【0019】
可塑化スクリュー12は、加熱筒11と略同軸に配置され、加熱筒11によってスクリュー内で混練される樹脂温度が調整されるようになっている。また、可塑化スクリュー12の基端部12aは、ホッパー台17の挿通穴17aに到達して後述する駆動部13のスクリュー回転軸133に一直線上となるように連結されている。
【0020】
駆動部13は、可塑化スクリュー12を回転させる回転機構13Aと、可塑化スクリュー12をその軸方向へ往復移動させてスクリュー12内の溶融樹脂を射出ノズル15から射出させるための射出機構13Bとからなる。
回転機構13Aは、固定部131上に固定されたスクリュー回転モータ132と、そのスクリュー回転モータ132によって回転力が伝達されたスクリュー回転軸133とを備えている。そして、スクリュー回転軸133と可塑化スクリュー12の基端部12aとは、連結片134によって一直線上に連結されている。
【0021】
射出機構13Bは、可塑化スクリュー12の軸方向に平行にねじ軸を配置させて固定部131に固定されたボールねじ135と、このボールねじ135に対して回転自在に螺合されたナット136と、ナット136に回転力を伝達するとともに固定部131と分離して配置された射出モータ137とから構成されている。射出モータ137の駆動によって回転するナット136に対してボールねじ135が往復移動することで、ボールねじ135を固定させている前記固定部131と、その固定部131上のスクリュー回転モータ132、スクリュー回転軸133を介して設けられた可塑化スクリュー12がその軸方向に往復移動する構成となっている。つまり、可塑化スクリュー12は、回転により固体状の樹脂Mを混合させて溶融し、さらに回転と往復移動により加熱筒11内で可塑化した溶融樹脂を射出ノズル15から射出させる機能を有している。
【0022】
次に、可塑化ユニット10によって溶融された溶融樹脂M´が供給されるとともに、その溶融樹脂M´を高せん断するための高せん断ユニット20の構成について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、高せん断ユニット20は、樹脂を注入するための注入部22を有するとともに略水平方向に配した中空円筒形状の加熱筒21と、この加熱筒21内に挿通された状態で周方向に回転自在とされる内部帰還型スクリュー23と、この内部帰還型スクリュー23の後方(すなわち、スクリュー軸方向一端側をなす基端部23b側)に配置されるとともにシャフト25を介して内部帰還型スクリュー23を回転させるための駆動モータ24と、前記シャフト25をベアリング26を介して回転可能に支持する振止め支持部27と、内部帰還型スクリュー23の軸方向他端側の先端側に設けられた成形加工部をなすT−ダイ29を有する先端保持部28とを備えて概略構成されている。
【0023】
図2および図3に示すように、高せん断ユニット20の加熱筒21は、長手方向を略水平方向に向けた状態で保持され、ヒーター38によって覆われており、温度調節可能となっている。加熱筒21は、基端部21b(図2で左側)が本体支持部30によって支持されており、先端部21aに前記先端保持部28が設けられている。また、図2および図4に示すように、加熱筒21に設けられる注入部22には内空部(高せん断領域K)に連通する注入路22aが形成されており、その注入路22aの外周側開口部には上述した射出ノズル15の射出口15aが一致するように係合する構成となっている。これにより、可塑化ユニット10で射出された溶融樹脂M´を注入部22より高せん断領域K(加熱筒21と内部帰還型スクリュー23との間の隙間)に流入させることができる。
【0024】
ここで、注入部22に形成される注入路22aの位置は、内部帰還型スクリュー23の後端寄りに設けられている帰還穴231の吐出口(後述する)よりも先端側の位置となっている。
そして、注入路22aの途中には、加熱筒21の内空部に可塑化ユニット10からの溶融樹脂M´の流入量を調整するための開閉制御が可能な注入バルブ31が設けられている。この注入バルブ31は、予め設定された時間等に応じて注入量を制御することが可能な自動開閉式とされ、後述する排出バルブ32の開閉動作に対して連動可能となっている。
【0025】
また、図3に示すように、加熱筒21には、内部帰還型スクリュー23の軸方向で前部及び後部の位置の樹脂圧力を検出するための樹脂圧センサー33(33A、33B)が埋め込まれている。つまり、前部樹脂圧センサー33Aおよび後部樹脂圧センサー33Bのそれぞれの検知部が加熱筒21内の高せん断領域Kに接する状態で配置されている(図1参照)。前部樹脂圧センサー33Aは内部帰還型スクリュー23の先端部23a付近(流入口231a付近)の樹脂圧が検出可能な位置とされ、後部樹脂圧センサー33Bは内部帰還型スクリュー23に形成されている帰還穴231の吐出口231b(図4参照)付近の樹脂圧力が検出可能な位置となっている。この両樹脂圧センサー33A、33Bで検出された前部樹脂圧と後部樹脂圧とは、高せん断を行ううえで管理されるが、詳細については後述する。
【0026】
図2に示すように、内部帰還型スクリュー23は、加熱筒21内に略同軸に挿通された状態で回転可能に設けられ、基端部23bが駆動モータ24の回転軸に連結されたシャフト25に対して一直線上となるように連結され、その駆動モータ24の回転力が伝達されている。内部帰還型スクリュー23の基端部23bは、スクリュー羽根が形成されていない高せん断領域Kの範囲外の位置であって、加熱筒21の内面に対して液密に摺動可能となっている。
【0027】
さらに、図4に示すように、内部帰還型スクリュー23には、上述したように先端部23aから後端側に向けてスクリュー中心軸に沿う帰還穴231が形成されている。その帰還穴231は、一端の流入口231aがスクリュー先端23aの断面視略中心に位置し、その流入口231aから後端側に延びるとともに、所定位置でスクリュー23の半径方向に向きを変えてスクリュー23の外周面まで延び、その外周面の位置に吐出口231bとなる他端が設けられている。
【0028】
この帰還穴231において、流入口231aが高せん断中に帰還穴231内を流れる溶融樹脂M´の上流側となり、吐出口231bが下流側となる。つまり、高せん断領域Kに注入された溶融樹脂M´は、内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側に送られ、流入口231aより帰還穴231に流入して後方へ流れて吐出口231bより吐出され、再び内部帰還型スクリュー23の回転とともに先端側へ送られる循環がなされる。この循環により溶融樹脂M´はナノ分散化され、その内部構造をナノレベルで分散・混合されることになる。
【0029】
また、図3に示すように、加熱筒21及び先端保持部28には適宜な位置に温度センサー34(34A〜34D)が設けられており、高せん断時の加熱筒21及び先端保持部28の温度が管理され、加熱筒21に設けられたヒーター38により温度調整できるようになっている。
【0030】
図2に示すように、先端保持部28には、加熱筒21の内空部(高せん断領域K)に連通する排出路29aが形成されており、その排出路29aの排出側には下方に向かうに従って開口断面が拡径する成形加工部をなすT−ダイ29が形成されている。そして、排出路29aの途中には、高せん断領域Kから排出されるナノ分散樹脂の排出量を調整するための排出バルブ32が設けられている。この排出バルブ32は、予め設定された高せん断混練時間等に応じて排出量を制御することが可能な自動開閉式とされ、上述した注入バルブ31の開閉動作に連動している。つまり、上述した注入バルブ31と排出バルブ32とは、任意のタイミングで注入(可塑化ユニット10による射出)、排出を制御可能な構成となっている。
【0031】
次に、上述した高せん断装置1を用いて、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料からなる樹脂Mにおける内部構造をナノレベルで分散・混合する方法について図7の製造フロー等を用いて説明する。
高せん断装置1において、高分子ブレンド系の固体状の樹脂Mは上述したように2種以上を混合した樹脂を使用する。
【0032】
本高せん断装置1では、可塑化部で溶融させた溶融樹脂M´を高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入する工程と、注入工程後に所定時間だけ内部帰還型スクリュー23を中速回転により回転させて、加熱筒21内の樹脂Mを内部帰還型スクリュー23の送り側(前方)へ移送する工程と、移送工程の後、内部帰還型スクリュー23を高速回転させて樹脂Mに高せん断応力を与えて混練する工程とにより高せん断を行うことができる。
【0033】
先ず、図1、図2および図4に示すように、高せん断ユニット20に対して射出可能な状態で取り付けられた可塑化ユニット10において、固体状の樹脂Mを可塑化させて溶融樹脂M´を作製する。この場合、樹脂Mをホッパー14から可塑化領域Rとなる加熱筒11内の可塑化スクリュー12に供給し、回転機構13Aのスクリュー回転モータ132を駆動させることで可塑化スクリュー12を適宜な回転速度で回転させる。なお、加熱筒11は外周に巻き付けられているヒーター16によって適宜な温度、つまり2種の材料のうち溶融温度の高い方に応じた温度に加熱させた状態にする。これにより、可塑化領域R内の樹脂Mを可塑化溶融して混練することで溶融樹脂M´となる。つまり、可塑化ユニット10の可塑化領域Rでの樹脂の可塑化が完了となる。
【0034】
次に、可塑化ユニット10内の溶融樹脂を高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入する(図6に示すステップS1、S2)。
具体的には、溶融樹脂M´が所望の性状で得られたら、高せん断ユニット20の注入バルブ31を開いて注入路22aを開放するとともに、排出バルブ32を閉じる(ステップS1)。
次に、高せん断ユニット20の内部帰還型スクリュー23を中速回転(例えば、100〜500rpm)で回転させ、可塑化ユニット10より溶融樹脂M´を射出して高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入する(ステップS2)。
そして、所定量の溶融樹脂M´が可塑化ユニット10より射出された時点で、注入バルブ31を閉じる(ステップS3)。
【0035】
続いて、溶融樹脂M´の注入が完了した後(図5(a))、ステップS4において、例えば2〜3秒程度の所定時間だけ内部帰還型スクリュー23を上述した中速回転で回転させて、加熱筒21内の樹脂Mを内部帰還型スクリュー23の前方(矢印F方向)へ移送する(図5(b))。
すなわち、図5(a)、(b)に示すように、スクリュー溝に溜まっている溶融樹脂M´をスクリュー前方(矢印F方向)へ送り込み、その前方領域(符号s)で密実な状態とすることで、内部帰還型スクリュー23の前方の樹脂圧力を高めておく。
【0036】
次に、ステップS5、S6において、ステップS4における樹脂の移送工程後、スクリュー前方の樹脂圧力が高い状態で内部帰還型スクリュー23の回転数を中速回転から高速回転(例えば、500〜3000rpm)へ切り替え(ステップS5)、高せん断領域K中の溶融樹脂M´に対して所定の設定時間だけ高せん断を行う(ステップS6)。
このとき、高せん断領域K内に注入された溶融樹脂M´は、内部帰還型スクリュー23の外周側ではスクリュー23の高速回転とともに先端側へ送られ、スクリュー先端部23aで帰還穴231の流入口231aより後方へ流れ、吐出口231bよりスクリュー外周側に出て帰還し、再び先端側に送られるといった循環を所定時間繰り返すことで、その溶融樹脂M´に高せん断応力が付与されるようになっている。
【0037】
また、内部帰還型スクリュー23の回転数を中速回転から高速回転へ切り替えて高せん断を行う際、その高せん断開始時にスクリュー前方の樹脂圧力が高められているので、高せん断開始直後から内部帰還型スクリュー23の回転とともに加熱筒21内の樹脂分布が安定した状態で混練されることになる。そのため、圧力波形や内部帰還型スクリュー23用の駆動モータ24のトルクなどの挙動を安定させることができ、高せん断により溶融樹脂M´をナノ分散化させることができる。
【0038】
次に、可塑化ユニット10で溶融樹脂の製造が完了したときには、内部帰還型スクリュー23の回転速度を高速回転から中速回転(例えば、100〜500rpm)に切り替え(ステップS7)、排出バルブ32を開いて排出路29aを開放し(ステップS8)、高せん断によって製造された透明な高分子ブレンド押出し物(ブレンド材)を排出路29aを介してT−ダイ29から排出し(ステップS9)、1回の高せん断サイクルが完了する。
【0039】
上述のように本実施の形態による高せん断装置を用いた高せん断方法では、高せん断開始時に内部帰還型スクリュー23の前方の樹脂圧力が高められた状態となっているので、内部帰還型スクリュー23の回転とともに混練される加熱筒21内の溶融樹脂M´の分布を高せん断開始直後から安定させることが可能となり、すなわち樹脂の圧力波形や高せん断スクリュー用モータ(図1、図3に示す駆動モータ24)のトルクなどの挙動を安定させることができる。したがって、注入した樹脂を高せん断により効率よくナノ分散化させることができ、透明な高品質のブレンド材を製造することができる。
【実施例】
【0040】
次に、上述した実施の形態による高せん断装置を用いた高せん断方法の効果を裏付けるための実施例について図7などを用いて以下説明する。
本実施例では、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料からなる樹脂Mを、図1に示す高せん断装置1により高せん断を行い、ブレンド材を製造した。
【0041】
図7は、1回の高せん断サイクルにおける溶融樹脂の注入からブレンド材の製造までの過程、すなわち上述したステップS1〜S9において、高せん断装置1によって得られる各種挙動を示している。
図7において、符号P1の波形は図3に示す内部帰還型スクリュー23の回転数、符号P2に示す波形は高せん断ユニット20の加熱筒21の先端部に設けた温度センサー34Bによって検出された樹脂温度、符号P3に示す波形は内部帰還型スクリュー23の駆動モータ24のスクリュートルク、符号P4、P5に示す波形はそれぞれ前部樹脂圧センサー33Aで検出された前部樹脂圧、後部樹脂圧センサー33Bで検出された後部樹脂圧である。
【0042】
図1乃至図4に示すように、本実施例では、図6に示すステップS1、S2の樹脂注入時において、内部帰還型スクリュー23を100〜500rpmの回転数(中速回転)で回転させ、可塑化ユニット10で作製した溶融樹脂M´を高せん断ユニット20の加熱筒21内に注入することで、トルクP3および前部樹脂圧P4の数値が上昇している。そして、樹脂注入完了後に注入バルブ31を閉じ、さらに継続して内部帰還型スクリュー23を2〜3秒間の間回転させることで、充填されている溶融樹脂M´がスクリュー前方へ送り込まれるので、トルクP3および前部樹脂圧P4の数値が上昇している。
【0043】
また、高せん断工程において、スクリュー回転数を500〜3000rpmの回転数(高速回転)としたとき、その高せん断開始直後に前部樹脂圧P4はピーク値(前部ピーク値Pa)に達し、その前部ピーク値Paに対して遅れて後部樹脂圧P5がピーク値(後部ピーク値Pb)に達している。また、このように前部ピーク値Paと後部ピーク値Pbに時間差が生じる挙動は、内部帰還型スクリュー23によって溶融樹脂M´の帰還が開始されていることを示している。さらに高せん断時(高速回転時)においては、トルクP3、前部樹脂圧P4、および後部樹脂圧P5の数値が滑らかに小さくなる安定した曲線の波形となっている。また、繰り返し連続的に行われる各高せん断サイクルにおいて、図7に示すようなトルクP3、前部樹脂圧P4および後部樹脂圧P5の波形がほぼ同一となるように安定していることが確認された。
【0044】
そして、本実施例の高せん断方法により製造されたブレンド材は、透明であり、良好であった。したがって、図6に示すステップS4の樹脂の移送工程を設けて、スクリュー前方の前部樹脂圧P4を高めておくことで、高せん断開始直後から内部帰還型スクリュー23で混練される溶融樹脂M´の分布が安定するとともに、トルクP3、前部樹脂圧P4および後部樹脂圧P5の波形が安定し、これにより高品質なブレンド材が製造できることが確認された。
【0045】
以上、本発明による高せん断装置を用いた高せん断方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では可塑化ユニット10から高せん断ユニット20の加熱筒21への樹脂注入完了後の樹脂の移送工程の時間として2〜3秒としているが、この移送時間は内部帰還型スクリューの回転数などの条件に合わせて適宜変更可能である。
また、可塑化部ユニット10、高せん断ユニット20の構成、例えば加熱筒11、21、可塑化スクリュー12、内部帰還型スクリュー23の形状、寸法などの構成は本実施の形態に限定されることはなく、適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 高せん断装置
10 可塑化ユニット(可塑化部)
11 可塑化ユニットの加熱筒
12 可塑化スクリュー
20 高せん断ユニット(高せん断部)
21 高せん断ユニットの加熱筒
23 内部帰還型スクリュー(高せん断スクリュー)
231 帰還穴
231a 流入口
231b 吐出口
31 注入バルブ
32 排出バルブ
33 樹脂圧センサー
33A 前部樹脂圧センサー
33B 後部樹脂圧センサー
34、34A〜34D 温度センサー
M 樹脂(材料)
M´ 溶融樹脂(材料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高せん断応力を付与しつつ混練することで、非相溶性ポリマーブレンド系、ポリマー/フィラー系、さらにはポリマーブレンド/フィラー系の材料における内部構造をナノレベルで分散・混合する高せん断装置を用いた高せん断方法であって、
前記材料を可塑化して溶融するための可塑化部において、溶融させた材料を高せん断スクリューを備えた高せん断部の加熱筒内に注入する工程と、
前記注入工程後に前記高せん断スクリューを中速回転により回転させて、前記加熱筒内の材料を所定時間だけ前記高せん断スクリューの送り側へ移送する工程と、
前記移送工程の後、前記高せん断スクリューを高速回転させて前記材料に高せん断応力を与えて混練する工程と、
を有することを特徴とする高せん断装置を用いた高せん断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−46104(P2011−46104A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196650(P2009−196650)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(303024138)株式会社ニイガタマシンテクノ (78)
【Fターム(参考)】