説明

高低圧ドーム型圧縮機

【課題】高低圧ドーム型圧縮機において、圧縮機構の高温損傷に対する十分な保護を図る。
【解決手段】高低圧ドーム型圧縮機(2)は、ケーシング(10)内が圧縮機構(15)を挟んで下側の高圧空間(28)と上側の低圧空間(29)とに区画されており、モータ(16)が高圧空間(28)に配置されている。圧縮機構(15)には、圧縮室(40)と、吐出ポート(41)と、チャンバー室(45)と、連絡流路(46)と、が形成されている。チャンバー室(45)は、吐出ポート(41)の上側に位置するチャンバーカバー(44)によって低圧空間(29)と区画されている。チャンバーカバー(44)の吐出ポート(41)の真上部分には、所定のバルブ作動温度に達すると低圧空間(29)とチャンバー室(45)とを連通させるサーモバルブ(21)が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング内が圧縮機構を挟んで下側の高圧空間と上側の低圧空間とに区画されており圧縮機構に連結されたモータが高圧空間に配置された高低圧ドーム型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1(特開2003−286949号公報)に示すような高低圧ドーム型圧縮機がある。高低圧ドーム型圧縮機は、ケーシング内が圧縮機構を挟んで下側の高圧空間と上側の低圧空間とに区画されており、圧縮機構に連結されたモータが高圧空間に配置されている。高低圧ドーム型圧縮機は、冷媒の圧縮、冷媒の放熱、冷媒の膨張、及び、冷媒の蒸発を順次行う冷凍サイクル動作を行うための冷媒回路に接続されている。すなわち、高低圧ドーム型圧縮機は、冷媒を圧縮する運転動作を行うものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の高低圧ドーム型圧縮機では、冷媒回路においてポンプダウン運転やガス欠運転になった場合には、圧縮機構が高温になるため、これにより、圧縮機構に高温損傷が生じるおそれがある。このような高温損傷に対しては、モータIP(インターナルプロテクター)を設けて、モータの温度が所定のモータ停止温度に達するとモータを停止させることが考えられる。しかし、ポンプダウン運転時やガス欠運転時には、冷媒の循環量も少なくなるため、圧縮機構の温度上昇に比べてモータの温度が上昇しにくく、モータIPが作動した時点では、既に圧縮機構に高温損傷が生じているおそれがある。このため、モータIPの設置を採用するだけでは、圧縮機構の高温損傷に対する保護が十分なものとはいえない。
【0004】
本発明の課題は、高低圧ドーム型圧縮機において、圧縮機構の高温損傷に対する十分な保護を図ることができるようにことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点にかかる高低圧ドーム型圧縮機は、ケーシング内が圧縮機構を挟んで下側の高圧空間と上側の低圧空間とに区画されており、圧縮機構に連結されたモータが高圧空間に配置された圧縮機である。圧縮機構には、ガスを圧縮する圧縮室と、圧縮室で圧縮された後のガスを吐出する吐出ポートと、吐出ポートの上側に位置しており吐出ポートを通じて圧縮室からガスが流入するチャンバー室と、チャンバー室から高圧空間にガスを流出させる連絡流路と、が形成されている。チャンバー室は、吐出ポートの上側に位置するチャンバーカバーによって低圧空間と区画されている。チャンバーカバーの吐出ポートの真上部分には、所定のバルブ作動温度に達すると低圧空間とチャンバー室とを連通させるサーモバルブが設けられている。
【0006】
この高低圧ドーム型圧縮機では、ポンプダウン運転やガス欠運転等によって圧縮機構が高温になる場合に、高圧のガスを、サーモバルブを通じて低圧空間に逃がして、圧縮機構内でガスを循環させる動作を行う。これにより、圧縮機構の致命的な高温損傷を回避することができる。ここで、サーモバルブは、チャンバーカバーの吐出ポートの真上部分に設けられているため、圧縮機構が高温になったことを高感度かつ速やかに検知することができる。
【0007】
第2の観点にかかる高低圧ドーム型圧縮機は、第1の観点にかかる高低圧ドーム型圧縮機において、圧縮機構には、ケーシングの外部から内部にガスを流入させる吸入管が接続される吸入口が形成されている。圧縮機構の低圧空間に面する部分には、低圧空間から圧縮機構にガスを吸入するための副吸入口が吸入口とは別に形成されている。
【0008】
この高低圧ドーム型圧縮機では、サーモバルブを通じて低圧空間に逃がされたガスを速やかに圧縮機構に吸入して、圧縮機構内でガスを循環させる動作をスムーズに行なわせることができる。
【0009】
第3観点にかかる高低圧ドーム型圧縮機は、第1又は第2の観点にかかる高低圧ドーム型圧縮機において、ケーシングには、高圧空間からケーシングの外部にガスを流出させる吐出管が接続されている。高圧空間には、モータの温度が所定のモータ停止温度に達するとモータを停止させるモータIPが、連絡流路の出口から吐出管にガスが至るまでの間の吐出流路に位置するように設けられている。
【0010】
この高低圧ドーム型圧縮機では、サーモバルブの作動後に圧縮機構がさらに高温になる場合に、高温高圧のガスの温度上昇をモータの温度で検知してモータIPを作動させることによって、モータを停止して、圧縮機構の高温損傷を回避することができる。ここで、モータIPは、吐出流路に設けられているため、圧縮機構の温度上昇をモータの温度上昇として高感度かつ速やかに検知することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上の説明に述べたように、本発明によれば、高低圧ドーム型圧縮機において、圧縮機構の高温損傷に対する十分な保護を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明にかかる高低圧ドーム型圧縮機が採用された冷媒回路の概略構成図である。
【図2】本発明にかかる高低圧ドーム型圧縮機の概略断面図である。
【図3】図2の圧縮機構及びその近傍を示す概略拡大断面図である。
【図4】図2及び図3のI−I断面図であり、固定スクロールに形成された吸入口及び副吸入口を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる高低圧ドーム型圧縮機の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0014】
<冷媒回路の構成及び動作>
図1は、本発明にかかる高低圧ドーム型圧縮機2が採用された冷媒回路1の概略構成図である。
【0015】
冷媒回路1は、フロンガス等の冷媒を用いた蒸気圧縮式の冷凍サイクルによって、空調や冷温水の生成等を行う装置に組み込まれている。冷媒回路1は、主として、高低圧ドーム型圧縮機2と、放熱器3と、膨張機構4と、蒸発器5とを有しており、これらの機器が接続されることによって構成されている。
【0016】
高低圧ドーム型圧縮機2は、その吸入管19(図2及び図3参照)が蒸発器5の出口に接続されており、また、吐出管20(図2及び図3参照)が放熱器3の入口に接続された圧縮機である。そして、高低圧ドーム型圧縮機2は、蒸発器5の出口からの低圧の冷媒を吸入して圧縮して放熱器3の入口へ高圧の冷媒を吐出する運転動作を行うようになっている。
【0017】
放熱器3は、高低圧ドーム型圧縮機2において圧縮された高圧の冷媒の放熱を行う熱交換器である。
【0018】
膨張機構4は、放熱器3において放熱した高圧の冷媒を減圧する機構である。
【0019】
蒸発器5は、膨張機構4において減圧された低圧の冷媒の蒸発を行う熱交換器である。
【0020】
このような冷媒回路1では、高低圧ドーム型圧縮機2において、冷凍サイクルにおける低圧の冷媒を冷凍サイクルにおける高圧になるまで圧縮する。そして、放熱器3において、高圧の冷媒の放熱を行い、これにより、室内空気を加熱して暖房を行ったり、水を加熱して温水を生成する。そして、膨張機構4において、高圧の冷媒を低圧になるまで減圧する。そして、蒸発器5において、低圧の冷媒を蒸発させ、これにより、室内空気を冷却して冷房を行ったり、水を冷却して冷水を生成する。このように、冷媒回路1では、冷媒の圧縮、冷媒の放熱、冷媒の膨張、及び、冷媒の蒸発を順次行う冷凍サイクル動作を行うようになっている。
【0021】
また、このような冷媒回路1では、上記の冷凍サイクル動作において、ポンプダウン運転やガス欠運転になる場合がある。ここで、ポンプダウン運転とは、例えば、膨張機構4等が閉止されることによって冷媒が冷媒回路1内を循環できない状態で、高低圧ドーム型圧縮機2の運転が行われる運転状態である。また、ガス欠運転とは、例えば、何らかの原因で冷媒回路1内から冷媒が漏洩して冷媒量が不足した状態で、高低圧ドーム型圧縮機2の運転が行われる運転状態である。このため、ポンプダウン運転やガス欠運転になった場合には、冷媒回路1における冷媒の循環量が少なくなり、また、この場合には、通常の運転条件から外れた条件で高低圧ドーム型圧縮機2の運転が行われることになるため、高低圧ドーム型圧縮機2の保護が必要となる。
【0022】
<高低圧ドーム型圧縮機の基本構成及び基本動作>
図2は、高低圧ドーム型圧縮機2の概略断面図である。
【0023】
高低圧ドーム型圧縮機2は、縦長円筒形状の密閉ドーム型のケーシング10を有している。ケーシング10は、ケーシング本体11と上壁部12と底壁部13とによって構成される圧力容器であり、その内部は空洞になっている。ケーシング本体11は、上下方向に延びる軸線を有する円筒状の胴部である。上壁部12は、ケーシング本体11の上端部に気密状に溶接されて一体接合されており、上方に突出した凸面を有する椀状の部分である。底壁部13は、ケーシング本体11の下端部に気密状に溶接されて一体接合されており、下方に突出した凸面を有する椀状の部分である。
【0024】
ケーシング10の内部には、冷媒を圧縮する圧縮機構15と、圧縮機構15の下方に配置されるモータ16とが収容されている。圧縮機構15とモータ16とは、ケーシング10内を上下方向に延びるように配置される駆動軸17によって連結されている。
【0025】
圧縮機構15は、ハウジング23と、ハウジング23の上方に密着して配置される固定スクロール24と、固定スクロール24に噛合する可動スクロール26とを有している。ハウジング23は、その外周面において周方向の全体に亘ってケーシング本体11に圧入固定されている。すなわち、ケーシング本体11とハウジング23とは、全周に亘って気密状に密着されている。そして、ケーシング10内が、ハウジング23下方の高圧空間28と、ハウジング23上方の低圧空間29とに区画されている。ハウジング23には、上面中央に凹設されたハウジング凹部31と、下面中央から下方に延設された軸受部32とが形成されている。そして、ハウジング23には、軸受部32の下端面とハウジング凹部31の底面とを貫通する軸受孔33が形成されていて、軸受孔33に駆動軸17が軸受34を介して回転自在に嵌入されている。
【0026】
ケーシング10の上壁部12には、冷媒回路1の冷媒をケーシング10の外部から内部に冷媒を流入させて圧縮機構15に導く吸入管19が気密状に嵌入されている。また、ケーシング本体11には、ケーシング10内の冷媒をケーシング10外に吐出させる吐出管20が気密状に嵌入されている。吸入管19は、低圧空間29を上下方向に貫通するとともに、内端部が圧縮機構15の固定スクロール24に嵌入されている。
【0027】
ハウジング23の上端面には、固定スクロール24の下端面が密着されている。そして、固定スクロール24は、ボルト(図示せず)によってハウジング23に締結固定されている。具体的には、ハウジング23は、ハウジング凹部31の周囲に、その上面がハウジング23の上端面を形成する外周部78を有している。また、固定スクロール24には、周方向に所定間隔をおいて複数個所に外周側突出部(図示せず)が形成されている。そして、この外周側突出部及び外周部78には、ボルト(図示せず)を螺合するための締結孔(図示せず)が形成されており、これにより、ハウジング23に固定スクロール24が固定されている。そして、外周部78の上面と固定スクロール24の下端面とがシールされることにより高圧空間28の冷媒が低圧空間29に漏れないようになっている。
【0028】
固定スクロール24は、主として、鏡板24aと、鏡板24aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ24bとを有している。可動スクロール26は、主として、鏡板26aと、鏡板26aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ26bとを有している。また、可動スクロール26は、オルダムリング39を介してハウジング23に支持されるとともに、駆動軸17の上端が嵌入され、駆動軸17の回転により自転することなくハウジング23内を公転するようになっている。そして、固定スクロール24のラップ24bと可動スクロール26のラップ26bとが互いに噛合しており、これにより、固定スクロール24と可動スクロール26との間において、両ラップ24b、26bの接触部の間が圧縮室40として構成されている。圧縮室40は、可動スクロール26の公転に伴い、両ラップ24b、26b間の容積が中心に向かって収縮することで冷媒を圧縮するように構成されている。固定スクロール24の鏡板24aの下面及び可動スクロール26の鏡板26aの上面とは、互いに摺接する摺動面になっており、この摺動面がスラスト軸受70を構成している。
【0029】
固定スクロール24の鏡板24aには、圧縮室40に連通する吐出ポート41と、吐出ポート41に連続する拡大凹部42とが形成されている。吐出ポート41は、圧縮室40で圧縮された後の冷媒を吐出するポートであり、固定スクロール24の鏡板24aにおける中央において上下方向に延びるように形成されている。拡大凹部42は、鏡板24aの上面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。固定スクロール24の上面には、拡大凹部42を塞ぐようにチャンバーカバー44がボルト44aにより締結固定されている。そして、拡大凹部42にチャンバーカバー44が覆い被せられることによって、吐出ポート41の上側に位置しており吐出ポート41を通じて圧縮室40から冷媒が流入するチャンバー室45が形成されている。すなわち、チャンバー室45は、吐出ポート41の上側に位置するチャンバーカバー44によって低圧空間29と区画されている。尚、固定スクロール24とチャンバーカバー44とは、パッキン(図示せず)を介して密着させることでシールされている。また、固定スクロール24には、固定スクロール24の上面と圧縮室40とを連通させるとともに、吸入管19を嵌入させるための吸入口66が形成されている。尚、吸入口66は、その一部が固定スクロール24の外周側突出部(図示せず)に位置している。
【0030】
圧縮機構15には、固定スクロール24とハウジング23とに亘り、連絡流路46が形成されている。連絡流路46は、チャンバー室45から高圧空間28に冷媒を流出させる流路であり、固定スクロール24に切欠形成されたスクロール側流路47と、ハウジング23に切欠形成されたハウジング側流路48とが連通されて構成されている。そして、連絡流路46の上端、すなわち、スクロール側流路47の上端は、拡大凹部42に開口し、連絡流路46の下端、すなわち、ハウジング側流路48の下端は、ハウジング23の下端面に開口している。そして、ハウジング側流路48の下端開口により、連絡流路46の冷媒を高圧空間28に流出させる吐出口49が構成されている。尚、スクロール側流路47は、固定スクロール24の外周側突出部(図示せず)に位置している。
【0031】
モータ16は、高圧空間28に配置されており、ケーシング10内の壁面に固定された環状のステータ51と、ステータ51の内周側に回転自在に構成されたロータ52とを有する直流モータにより構成されている。ステータ51とロータ52との径方向間には僅かな隙間(図示せず)が上下方向に延びるように形成されており、この隙間がエアギャップ流路とされている。ステータ51には巻線が装着されており、ステータ51よりも上方及び下方はコイルエンド53となっている。モータ16は、上側のコイルエンド53の上端が吐出管20の高さ位置付近になるように配置されている。
【0032】
ステータ51の外周面には、ステータ51の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数個所にコアカット部(図示せず)が切欠形成されている。ステータ51の外周面にコアカット部が形成されることにより、ケーシング本体11とステータ51との径方向間に上下方向に延びるモータ冷却流路(図示せず)が形成されている。
【0033】
ロータ52は、上下方向に延びるようにケーシング本体11の軸心に配置された駆動軸17を介して圧縮機構15の可動スクロール26に駆動連結されている。
【0034】
モータ16の下方の下部空間には、その底部に潤滑油が貯留される一方、ポンプ60が配設されている。ポンプ60は、ケーシング本体11に固定される一方で駆動軸17の下端に取り付けられ、貯留された潤滑油を汲み上げるように構成されている。駆動軸17内には給油路61が形成されており、ポンプ60により汲み上げられた潤滑油は、給油路61を通じて各摺動部分へ供給されるようになっている。
【0035】
そして、圧縮機構15のハウジング23の下部とモータ16の上部とにより、高圧空間28には、連絡流路46の出口(すなわち、吐出口49)から吐出管20に冷媒が至るまでの間の吐出流路50が形成されている。具体的には、吐出口49から高圧空間28に流出した冷媒の一部は、ハウジング23とモータ16との上下方向間の流路28aを通じて、ハウジング23の軸受部32の外周側で、かつ、上側のコイルエンド53の上方を旋回するように流れて吐出管20に至る。また、吐出口49から高圧空間28に流出した冷媒の残りは、モータ冷却流路及びエアギャップ流路を通じて、モータ16を上下に折り返すように流れて吐出管20に至る。このように、これらの流路が吐出流路50を形成している。
【0036】
上記のような基本構成を有する高低圧ドーム型圧縮機2において、モータ16を通電して駆動すると、ステータ51に対してロータ52が回転し、これにより、駆動軸17が回転する。駆動軸17が回転すると、可動スクロール26が固定スクロール24に対して自転せずに公転のみ行う。これにより、低圧の冷媒は、吸入管19を通じて、圧縮室40の外周縁側から圧縮室40に吸入される。圧縮室40に吸入された冷媒は、圧縮室40の容積変化に伴って圧縮される。そして、圧縮室40で圧縮された冷媒は、高圧になって圧縮室40の中央部から吐出ポート41を通じてチャンバー室45に流入する。チャンバー室45に流入した高圧の冷媒は、チャンバー室45から連絡流路46に流入して、スクロール側流路47及びハウジング側流路48を流れて、吐出口49を通じて、高圧空間28に流出する。高圧空間28に流出した高圧の冷媒は、吐出流路50を通じて、吐出管20に至り、ケーシング10外に吐出される。そして、ケーシング10外に吐出された高圧の冷媒は、冷媒回路1を循環した後、低圧の冷媒となって、再度、吸入管19を通じて、高低圧ドーム型圧縮機2に吸入される。
【0037】
しかし、冷媒回路1において、ポンプダウン運転やガス欠運転になった場合には、冷凍サイクルにおける低圧の低下や冷凍サイクルにおける高低圧差の増大等により、圧縮機構15が高温になる。特に、固定スクロール24及び可動スクロール26の中心部では、300℃前後の高温になる。そして、固定スクロール24及び可動スクロール26の中心部のラップ24b、26bと鏡板24a、26aとが、熱膨張によって、互いに強く接触した状態になる。これにより、圧縮機構15、特に、固定スクロール24及び可動スクロール26の中心部やスラスト軸受70において、異常な摩損、いわゆる高温損傷が生じるおそれがある。
【0038】
これに対して、高低圧ドーム型圧縮機2では、後述のように、圧縮機構15の高温損傷を保護するための構成を設けるようにしている。
【0039】
<圧縮機構の高温損傷を保護するための構成及びその特徴>
図3は、図2の圧縮機構15及びその近傍を示す概略拡大断面図である。図4は、図3のI−I断面図であり、固定スクロール24に形成された吸入口66及び副吸入口67を示す図である。
【0040】
まず、高低圧ドーム型圧縮機2では、チャンバーカバー44の吐出ポート41の真上部分に、所定のバルブ作動温度に達すると低圧空間29とチャンバー室45とを連通させるサーモバルブ21を設けている。具体的には、チャンバーカバー44の吐出ポート41の真上部分にサーモバルブ21を取り付けるための取り付け座44bを設けて、この取り付け座44bにサーモバルブ21を設けるようにしている。
【0041】
ここで、サーモバルブ21は、ワックスやバイメタルを用いてバルブを開閉させる弁機構である。例えば、ワックスを使用する型式のサーモバルブとしては、ワックスの熱膨張を利用してピストン等のアクチュエータを駆動することで、所定のバルブ作動温度に達したときにバルブを開けるようにし、これにより、低圧空間29とチャンバー室45とを連通させるものがある。また、バイメタルを使用する型式のサーモバルブとしては、バイメタルの熱変形を利用してピストン等のアクチュエータを駆動することで、所定のバルブ作動温度に達したときにバルブを開けるようにし、これにより、低圧空間29とチャンバー室45とを連通させるものがある。すなわち、サーモバルブ21は、自らが、温度検知機能及びバルブ開閉の駆動源の両方を有する弁機構である。所定のバルブ作動温度は、通常の冷凍サイクル運転における温度以上、かつ、圧縮機構15の高温損傷が生じる温度以下の温度範囲に設定されている。
【0042】
また、高低圧ドーム型圧縮機2では、圧縮機構15の低圧空間29に面する部分には、低圧空間29から圧縮機構15に冷媒を吸入するための副吸入口67を吸入口66とは別に形成している。具体的には、副吸入口67は、固定スクロール24の鏡板24aの上面の低圧空間29に面する部分において、吸入口66に隣接するように形成されている。
【0043】
これにより、高低圧ドーム型圧縮機2では、ポンプダウン運転やガス欠運転等によって圧縮機構15が高温になる場合(すなわち、所定のバルブ作動温度に達した場合)に、高圧の冷媒を、サーモバルブ21を通じて低圧空間29に逃がして、圧縮機構15内で冷媒を循環させる動作を行う(図3における冷媒の流れを示す白抜きの矢印参照)。これにより、圧縮機構15の致命的な高温損傷を回避することができる。ここで、サーモバルブ21は、チャンバーカバー44の吐出ポート41の真上部分に設けられているため、固定スクロール24及び可動スクロール26の中心部に近い。このため、圧縮機構15が高温になったことを高感度かつ速やかに検知することができる。また、副吸入口67が設けられているため、サーモバルブ21を通じて低圧空間29に逃がされた冷媒を速やかに圧縮機構15に吸入して、圧縮機構15内で冷媒を循環させる動作をスムーズに行なわせることができる。また、圧縮機構15が高温になる場合だけ高圧の冷媒を低圧空間29に逃がすため、高温条件以外の場合における効率の低下を抑えることができる。
【0044】
また、高低圧ドーム型圧縮機2では、高圧空間28に、モータ16の温度が所定のモータ停止温度に達するとモータを停止させるモータIP22を、連絡流路46の出口から吐出管20に冷媒が至るまでの間の吐出流路50に位置するように設けている。具体的には、モータIP22は、吐出流路50のうちハウジング23とモータ16との上下方向間の流路28aに位置するように、上側のコイルエンド53の上端に設けられている。
【0045】
ここで、モータIP22は、モータ16の温度及び電流の両方を検知し、モータ16の温度が所定のモータ停止温度に達した場合、又は、モータ16の電流が所定のモータ停止電流に達した場合に、モータ16への通電を遮断するスイッチ機構である。所定のモータ停止温度は、モータ16の保護が必要となる温度範囲に設定されている。
【0046】
これにより、高低圧ドーム型圧縮機2では、サーモバルブ21の作動後に圧縮機構15がさらに高温になる場合に、高温高圧の冷媒の温度上昇をモータ16の温度で検知してモータIP22を作動させることによって、モータ16を停止して、圧縮機構15の高温損傷を回避することができる。ここで、モータIP22は、吐出流路50に設けられているため、連絡流路46から高圧空間28に流出した冷媒が当たりやすく(図3における冷媒の流れを示す黒塗りの矢印参照)、圧縮機構15の温度上昇をモータ16の温度上昇として高感度かつ速やかに検知することができる。ここでは、特に、モータIP22が上側のコイルエンド53の上端に設けられることで流路28aに位置しているため、ハウジング23の軸受部32の外周側で、かつ、上側のコイルエンド53の上方を旋回するように流れる冷媒が非常に当たりやすくなっている。
【0047】
以上のように、高低圧ドーム型圧縮機2では、圧縮機構15の高温損傷に対する十分な保護が図られている。
【0048】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0049】
−A−
上記実施形態では、冷媒回路として、高低圧ドーム型圧縮機と、放熱器と、膨張機構と、蒸発器とを順次接続した構成を例にして説明したが、これに限定されるものではなく、高低圧ドーム型の構成を採用するものであれば、種々の冷媒回路に適用可能である。
【0050】
−B−
上記実施形態では、高低圧ドーム型圧縮機として、スクロール型の圧縮機構を採用した構成を例にして説明したが、これに限定されるものではなく、高低圧ドーム型圧縮機であれば、ロータリ型等の他の圧縮機構を採用したものであっても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ケーシング内が圧縮機構を挟んで下側の高圧空間と上側の低圧空間とに区画されており圧縮機構に連結されたモータが高圧空間に配置された高低圧ドーム型圧縮機に対して、広く適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
2 高低圧ドーム型圧縮機
10 ケーシング
15 圧縮機構
28 高圧空間
29 低圧空間
16 モータ
40 圧縮室
41 吐出ポート
45 チャンバー室
46 連絡流路
44 チャンバーカバー
21 サーモバルブ
19 吸入管
66 吸入口
67 副吸入口
20 吐出管
22 モータIP
28a、50 吐出流路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開2003−286949号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(10)内が圧縮機構(15)を挟んで下側の高圧空間(28)と上側の低圧空間(29)とに区画されており、前記圧縮機構に連結されたモータ(16)が前記高圧空間に配置された高低圧ドーム型圧縮機において、
前記圧縮機構には、ガスを圧縮する圧縮室(40)と、前記圧縮室で圧縮された後の前記ガスを吐出する吐出ポート(41)と、前記吐出ポートの上側に位置しており前記吐出ポートを通じて前記圧縮室から前記ガスが流入するチャンバー室(45)と、前記チャンバー室から前記高圧空間に前記ガスを流出させる連絡流路(46)と、が形成されており、
前記チャンバー室は、前記吐出ポートの上側に位置するチャンバーカバー(44)によって前記低圧空間と区画されており、
前記チャンバーカバーの前記吐出ポートの真上部分には、所定のバルブ作動温度に達すると前記低圧空間と前記チャンバー室とを連通させるサーモバルブ(21)が設けられている、
高低圧ドーム型圧縮機(2)。
【請求項2】
前記圧縮機構(15)には、前記ケーシング(10)の外部から内部に前記ガスを流入させる吸入管(19)が接続される吸入口(66)が形成されており、
前記圧縮機構の前記低圧空間(29)に面する部分には、前記低圧空間から前記圧縮機構に前記ガスを吸入するための副吸入口(67)が前記吸入口とは別に形成されている、
請求項1に記載の高低圧ドーム型圧縮機(2)。
【請求項3】
前記ケーシング(10)には、前記高圧空間(28)から前記ケーシングの外部に前記ガスを流出させる吐出管(20)が接続されており、
前記高圧空間には、前記モータ(16)の温度が所定のモータ停止温度に達すると前記モータを停止させるモータIP(22)が、前記連絡流路(46)の出口から前記吐出管に前記ガスが至るまでの間の吐出流路(28a、50)に位置するように設けられている、
請求項1又は2に記載の高低圧ドーム型圧縮機(2)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−36373(P2013−36373A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172098(P2011−172098)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】