説明

高分子化合物被覆炭化珪素発熱体およびその製造方法

【課題】被加熱物から揮散する水分や油分などが付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、被加熱物を均一に加熱できる炭化珪素発熱体およびその製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも表面が高分子化合物3により被覆あるいはコーテイングされていることを特徴とする炭化珪素発熱体1により課題を解決できる。
内部ボイド5の少なくとも一部が前記表面に連通しているボイド構造を有する炭化珪素発熱体1の前記表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされるとともに、被覆あるいはコーテイングされた前記高分子化合物の少なくとも一部が前記内部ボイド5内に侵入していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子化合物被覆炭化珪素発熱体およびその製造方法に関するものであり、更に詳述すると、食品など水分や油分などを含む被加熱物を加熱する際に発生する水分や油分などや劣化した付着物が付着せず、発熱体が被加熱物に接触しても被加熱物の品質や特性を損なうことがない高分子化合物被覆炭化珪素発熱体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化珪素発熱体は、耐熱性に優れ高温になっても強度が低下せず、セラミックとしては低熱膨張率および高熱伝導性を有し、化学的にも極めて安定であり、耐摩耗性、耐環境性も備えるので、約1000〜1800℃の高温で使用する発熱体として広く産業界で使われている。
しかし、従来の炭化珪素発熱体はこのような高温の大気中で使用すると徐々に酸化されて電気抵抗が増加するという老化現象が生じる問題があった。
この老化の問題を解決するために種々の表面処理技術が提案されている。
【0003】
例えば、炭化珪素発熱体の製造中または製造後、無水珪酸の超微粒子を水中に分散させた溶液を吸収させ、乾燥後、空気中で加熱して無水珪酸として炭化珪素発熱体の気孔を充填させ、硼酸および水酸化リチウムの特定モル比となるように個別に溶解した水溶液を混合して塗布吸収させ、乾燥後加熱して保護皮膜を化成する表面処理技術(特許文献1参照)、銅、リチウム、硼素、バナジンの金属、それらの酸化物、同塩類およびフリットの単独または複合物を炭化珪素発熱体の表面に塗布して保護皮膜を形成する表面処理技術(特許文献2参照)、炭化珪素発熱体の製造中または製造後、珪化硼素、窒化硼素、硼砂から選ばれた硼素化合物を所定量添加して焼成する酸化防止した炭化珪素発熱体の製造方法(特許文献3参照)、炭化珪素発熱体の表面にガラス、アルミナなどの酸化物によりコーテイングする表面処理技術(特許文献4参照)などがある。
【特許文献1】特公昭53−37559号公報
【特許文献2】特公昭57−35148号公報
【特許文献3】特公昭57−269号公報
【特許文献4】特開2004−43227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭化珪素発熱体は加熱時に遠赤外線を放射するので、例えば、濡れた紙、焼き肉、厚揚げなどの食品などの加熱に適しており、炭化珪素発熱体を用いて、これらの水分や油分などを含む被加熱物を加熱したり、乾燥したりすることが提案されている。
しかし、例えば、濡れた紙、焼き肉、厚揚げなどの食品など、水分や油分などを含む被加熱物を加熱する際の温度は、約100〜300℃の低温であり、しかも被加熱物の加熱中に被加熱物から水分や油分などが揮散して炭化珪素発熱体に付着したり、付着物が劣化するなどして、炭化珪素発熱体の特性を損なったり、被加熱物に転移してその品質を損なったりする問題がある。
水分や油分などが炭化珪素発熱体に付着すると、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合は、スムースに接触させることができず、炭化珪素発熱体および被加熱物ともに傷ついてしまい、炭化珪素発熱体や被加熱物の品質を損なわずに均一に加熱できないという問題があった。
【0005】
本発明の第1の目的は、例えば、濡れた紙、焼き肉、厚揚げなどの食品など水分や油分などを含む被加熱物を加熱する場合であっても、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体に付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、被加熱物を均一に加熱できる炭化珪素発熱体を提供することである。
本発明の第2の目的は、そのような炭化珪素発熱体を容易に製造できる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解消するための本発明の請求項1記載の発明は、少なくとも表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされていることを特徴とする炭化珪素発熱体である。
【0007】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の炭化珪素発熱体において、
内部ボイドの少なくとも一部が前記表面に連通しているボイド構造を有する炭化珪素発熱体の前記表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされるとともに、被覆あるいはコーテイングされた前記高分子化合物の少なくとも一部が前記内部ボイド内に侵入していることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項3記載の発明は、請求項1あるいは請求項2記載の炭化珪素発熱体において、
前記高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項4記載の発明は、請求項3記載の炭化珪素発熱体において、
前記高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の炭化珪素発熱体を、少なくとも下記工程(1)〜(8)を含む工程により製造することを特徴とする炭化珪素発熱体の製造方法である。
(1)原料再結晶質炭化珪素を粉砕し、粒度を調整して、粗粒炭化珪素粉末、中粒炭化珪素粉末および微粒炭化珪素粉末をそれぞれ調製する。
(2)調製した粗粒炭化珪素粉末、中粒炭化珪素粉末および微粒炭化珪素粉末をそれぞれ適量配合して混合して粉末混合物を調製する。
(3)前記粉末混合物に水、有機バインダ−を少量加えて混合し、混練する。
(4)公知の成形手段を用いて所望の成形体を成形する。
(5)常温乾燥後、公知の乾燥機を用いて乾燥し、水分を揮散させる。
(6)乾燥した成形体を2000℃以上の温度で焼成して焼結する。
(7)焼結した成形体の所定の箇所に電極部を形成する。
(8)電極部を形成した箇所の表面を含む成形体の表面あるいは電極部を形成した箇所の表面を含まない成形体の表面に高分子化合物を被覆あるいはコーテイングする。
【0011】
本発明の請求項6記載の発明は、請求項5記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記工程(8)において、高分子化合物シュリンクフィルムを用いて前記成形体の表面を覆い、加熱して前記高分子化合物シュリンクフィルムをシュリンクさせて前記表面に高分子化合物を被覆することを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項7記載の発明は、請求項5記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記工程(8)において、高分子化合物溶液、高分子化合物前駆体溶液、高分子化合物乳化液、高分子化合物前駆体乳化液、高分子化合物分散液、高分子化合物前駆体分散液から選ばれる処理液を用いて前記成形体の表面を処理した後、加熱して揮発成分を揮散させて前記表面に高分子化合物をコーテイングすることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項8記載の発明は、請求項5から請求項7のいずれかに記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項9記載の発明は、請求項8記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1記載の発明は、少なくとも表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされていることを特徴とする炭化珪素発熱体であり、
例えば、濡れた紙、焼き肉、厚揚げなどの食品、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料、農薬、接着剤、塗料など水分や油分などを含む被加熱物を加熱する場合であっても、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体に付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもしわなどが発生せずに、スムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、被加熱物を均一に加熱できるという顕著な効果を奏する。
本発明の炭化珪素発熱体は、表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされている上、被加熱物を加熱する際の温度が約100〜300℃の低温であるので、老化現象が生じ難く、長寿命である。
【0016】
本発明の請求項2記載の発明は、請求項1記載の炭化珪素発熱体において、
内部ボイドの少なくとも一部が前記表面に連通しているボイド構造を有する炭化珪素発熱体の前記表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされるとともに、被覆あるいはコーテイングされた前記高分子化合物の少なくとも一部が前記内部ボイド内に侵入していることを特徴とするものであり、
被覆あるいはコーテイングされた高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入して構成されているので、高分子化合物被覆あるいは高分子化合物コーテイングが剥離し難く、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0017】
本発明の請求項3記載の発明は、請求項1あるいは請求項2記載の炭化珪素発熱体において、
前記高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であることを特徴とするものであり、
耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物を用いたので、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体により付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもよりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、そのため被加熱物を確実に均一に加熱できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0018】
本発明の請求項4記載の発明は、請求項3記載の炭化珪素発熱体において、
前記高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であることを特徴とするものであり、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)は特に優れた、耐熱性、揆水性、揆油性を有するので、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体により付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもよく滑りさらによりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、そのため被加熱物をさらに確実に均一に加熱できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0019】
本発明の請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の炭化珪素発熱体を、少なくとも前記工程(1)〜(8)を含む工程により製造することを特徴とする炭化珪素発熱体の製造方法であり、
本発明の炭化珪素発熱体を、低コストで容易に確実に製造できるという顕著な効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項6記載の発明は、請求項5記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記工程(8)において、高分子化合物シュリンクフィルムを用いて前記成形体の表面を覆い、加熱して前記高分子化合物シュリンクフィルムをシュリンクさせて前記表面に高分子化合物を被覆することを特徴とするものであり、
高分子化合物シュリンクフィルムは安価で容易に市場から入手できる上、被覆された高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入するので、高分子化合物被覆が剥離し難く、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項7記載の発明は、請求項5記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記工程(8)において、高分子化合物溶液、高分子化合物前駆体溶液、高分子化合物乳化液、高分子化合物前駆体乳化液、高分子化合物分散液、高分子化合物前駆体分散液から選ばれる処理液を用いて前記成形体の表面を処理した後、加熱して揮発成分を揮散させて前記表面に高分子化合物をコーテイングすることを特徴とするものであり、
高分子化合物溶液、高分子化合物前駆体溶液、高分子化合物乳化液、高分子化合物前駆体乳化液、高分子化合物分散液、高分子化合物前駆体分散液は安価で容易に市場から入手できる上、コーテイングされた高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入するので、高分子化合物コーテイングが剥離し難く、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
本発明の請求項8記載の発明は、請求項5から請求項7のいずれかに記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であることを特徴とするものであり、
耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物を用いたので、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体により付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもよりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、そのため被加熱物を確実に均一に加熱できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項9記載の発明は、請求項8記載の炭化珪素発熱体の製造方法において、
前記高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であることを特徴とするものであり、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)は特に優れた、耐熱性、揆水性、揆油性を有するので、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体により付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもさらによりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、そのため被加熱物をさらに確実に均一に加熱できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に本発明を図を用いて実施の形態に基づいて詳細に説明する。
[第1の実施態様]
図1(イ)は、本発明の高分子化合物被覆炭化珪素発熱体の1例を説明する説明図であり、(ロ)は、(イ)のX−X断面を説明する断面説明図であり、(ハ)は、(イ)のY−Y断面を説明する断面説明図である。
図1(イ)において、1は本発明の高分子化合物被覆炭化珪素発熱体、2は管状炭化珪素発熱体本体、3は管状炭化珪素発熱体本体2の表面の被覆された高分子化合物被覆、4は管状炭化珪素発熱体本体2の両末端の所定の箇所の表面に被覆して形成された導電性皮膜からなる電極部である。
高分子化合物被覆3は、電極部4を形成した箇所以外の管状炭化珪素発熱体本体2の表面に形成されている。
8は管状炭化珪素発熱体本体2の中空部である。
【0025】
管状炭化珪素発熱体本体2は、再結晶法あるいは他の方法により製造された内部ボイドを有する炭化珪素発熱体であって、内部ボイドの少なくとも一部が管状炭化珪素発熱体本体2の表面に連通しているボイド構造を有する管状炭化珪素発熱体本体であっても、常圧焼結法などにより製造された内部ボイドを有さない管状炭化珪素発熱体本体であってもよく、特に限定されるものではない。
管状炭化珪素発熱体本体2の形状、寸法、構造なども適宜選定でき、特に限定されるものではない。
【0026】
しかし、内部ボイドの少なくとも一部が管状炭化珪素発熱体本体2の表面に連通しているボイド構造を有する管状炭化珪素発熱体本体は、被覆あるいはコーテイングされた高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入して構成され易いので、高分子化合物被覆あるいは高分子化合物コーテイングが剥離し難くなり、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなるという利点がある。
【0027】
管状炭化珪素発熱体本体2の製造方法の例を次に説明する。
(1)原料再結晶質炭化珪素を例えばボールミルで粉砕し、粒度を調整して、粗粒(約60メッシュ)炭化珪素粉末、中粒(約200メッシュ)炭化珪素粉末および微粒(約350メッシュ)炭化珪素粉末をそれぞれ調製する。
これらをそれぞれ適量配合して混合した粉末混合物中の各粉末間に均一な空隙を形成するためには、粗粒の炭化珪素粉末の粒度は40〜80メッシュが好ましく、50〜70メッシュがさらに好ましい。中粒炭化珪素粉末の粒度は170〜230メッシュが好ましく、180〜220メッシュがさらに好ましい。微粒炭化珪素粉末の粒度は300〜400メッシュが好ましく、330〜370メッシュがさらに好ましい。
【0028】
(2)調製した粗粒炭化珪素粉末約60質量%、中粒炭化珪素粉末約20質量%および微粒炭化珪素粉末約20質量%を配合して混合して、粉末混合物を調製する。
粗粒の炭化珪素粉末の配合量は粉末混合物全体に対して40〜80質量%が好ましく、50〜70質量%がさらに好ましい。中粒炭化珪素粉末の配合量は10〜30質量%が好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。微粒炭化珪素粉末の配合量は20〜40質量%が好ましく、25〜35質量%がさらに好ましい。
調製した粗粒炭化珪素粉末、中粒炭化珪素粉末および微粒炭化珪素粉末をそれぞれ適量配合して混合した粉末混合物を用いて、機械的強度、放射率、熱伝導率などのバランスの優れた炭化珪素発熱体を調製できる。
【0029】
(3)前記粉末混合物全体に対して、水約10質量%、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースなどの有機バインダ−約5質量%を少量加えてミキサーで混合し、必要に応じて例えばスタンピングして、混練して、粘りをだし、成形工程で成形し易くする。
水が約10質量%を越え、有機バインダ−約5質量%を越えると収縮率が大きくなり、内部ボイド含有率も大きくなりすぎ好ましくない。水が約10質量%以下、有機バインダ−が約5質量%以下であると収縮率が小さく、内部ボイド含有率も好ましい範囲となるので好ましい。
【0030】
(4)公知の成形手段を用いて脱気後、加圧して所望の成形体を成形する。
【0031】
(5)成形後、常温で自然乾燥後、公知の乾燥機を用いて乾燥し、水分を完全に揮散させる。
【0032】
(6)乾燥した成形体をカッターで所定の長さに切断し、コークスを下に敷き、乾燥した成形体をその上にセットし、その上にさらにコークスをかけ、次いでプログラムに従って、2000℃以上の温度で焼成して粒子と粒子を結合させ、焼結する。
2000℃未満では未焼結部分が発生する恐れがある。
【0033】
(7)焼結した成形体の端部を珪素を溶解したルツボに入れ、端部を処理して電気抵抗を下げ、水洗、乾燥後、処理した端部表面に金属溶射して所定の箇所に電極部4を形成して管状炭化珪素発熱体本体2を得る。
得られた管状炭化珪素発熱体本体2の内部ボイドの大きさは、例えば、約60メッシュ程度で、管状炭化珪素発熱体本体2の全体の40%以下、好ましくは35%以下を占める。内部ボイド含有率が40%以下5%以上であると機械的強度、放射率、熱伝導率のバランスが保たれるので好ましく、内部ボイド含有率が35%以下10%以上であると機械的強度、放射率、熱伝導率のバランスがさらによく保たれるのでより好ましい。
前記内部ボイド含有率が40%を越えると管状炭化珪素発熱体本体2の機械的強度が低下するとともに、放射率や熱伝導率が低下する他、酸化劣化し易くなる傾向があるので好ましくない。
【0034】
表1に、後述する測定法で測定した吸水率(%)、内部ボイド含有率(%)がやや多めの炭化珪素発熱体(棒状炭化珪素発熱体、株式会社シリコニット製、棒型シリコニット発熱体A10−3、外径10mm、全長350mm)の曲げ強さ(JIS規格に準拠して測定した)(kg/cm2 )の測定結果を示す。
【0035】
表2に、後述する測定法で測定した吸水率(%)、内部ボイド含有率(%)がやや小さめの炭化珪素発熱体(棒状炭化珪素発熱体、株式会社シリコニット製、棒型シリコニット発熱体A10−3、外径10mm、全長350mm)の曲げ強さ(JIS規格に準拠して測定した)(kg/cm2 )の測定結果を示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
(8)所定の箇所に電極部4を形成した管状炭化珪素発熱体本体2の残りの表面に高分子化合物を被覆する。電極部4の表面にも被加熱物から揮散する水分や油分などが付着するのを防止する場合は、管状炭化珪素発熱体本体2の電極部4の表面を含めて管状炭化珪素発熱体本体2の表面に高分子化合物を被覆することもできる。
そして、外観検査、電流値など性能検査後、梱包して出荷する。
【0039】
本発明で用いる被加熱体は、被覆あるいはコーテイングした高分子化合物が溶融したり、分解したりしないで使用に耐える温度、すなわち約100〜300℃程度の温度で加熱処理できるものであれば、有機物でも、ガラスやセラミックや金属などの無機物でもあるいはこれらの組合わせであってもよく、色、形状、寸法なども適宜選定でき、特に限定されるものではない。
具体的には、例えば、濡れた紙、焼き肉、厚揚げなどの食品、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料、農薬、接着剤、塗料などの水分や油分あるいは揮発性成分などを含む被加熱物を挙げることができる。
【0040】
本発明で用いる高分子化合物としては、具体的には、例えば、加熱したり、放射線照射などにより高分子化合物となる前駆体である低分子量の化合物や、低分子量の化合物が(共)重合した化合物であるいわゆるオリゴマーや、分子量が約10,000〜約10,000,000のいわゆるポリマーや樹脂と称される高分子化合物などを挙げることができる。
【0041】
本発明で用いる樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹でもよく、具体的には、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ABS樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルアルコールケン化物系樹脂、エチレンービニルアルコール共重合体系樹脂などおよびこれらの混合物やアロイなどの熱可塑性樹脂などのほかに、エポキシ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ユリア・メラミン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、紫外線硬化系樹脂、電子線硬化系樹脂などの熱硬化性樹脂を挙げることができる。
天然ゴムでも合成ゴムでもよく、合成ゴムとしては、例えば、BR、SBR、NBR、IR、IIR、EPR、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどを挙げることができる。
さらに、光などの放射線照射により硬化する、例えば光硬化性アクリル系化合物であってもよく、あるいは、これらの2種以上の組成物であってもよく、またこれらに必要に応じて滑剤、酸化防止剤、安定剤、流動性改良剤、充填剤、増量剤など公知の添加剤を添加したものであっても差し支えない。
【0042】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)、フッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)、ポリビニリデンフロライド(PVDF樹脂)、ポリエチレン(PE樹脂)、ポリジメチルシロキサン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂は程度の差はあるがいずれも水に濡れにくく揆水性を呈するが、PVDF樹脂、PE樹脂、ポリジメチルシロキサン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド樹脂などは油脂分をはじくことが難しい。
そこで高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であると、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体により付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもよりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、そのため被加熱物を確実に均一に加熱できるので、好ましく使用できる。
【0043】
特に高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であると、特に優れた、耐熱性、揆水性、揆油性を有するので、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体により付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもさらによりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、そのため被加熱物をさらに確実に均一に加熱できるので、さらに好ましく使用できる。
【0044】
高分子化合物を被覆する方法は、高分子化合物溶融押出機を用いて直接被覆したり、高分子化合物フィルムあるいはシートを接着層を介して被覆したり、熱硬化性高分子化合物や光硬化性高分子化合物あるいは光硬化性アクリル系化合物などその前駆体を被覆あるいは塗布後、加熱あるいは光照射して被覆したりする方法を挙げることができ、また公知の方法、装置を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0045】
中でも、高分子化合物フィルムあるいはシートを接着層を介して被覆したり、光硬化性化合物を塗布後、光照射して被覆すると、被覆された接着層あるいは硬化した高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入して構成され易いので、高分子化合物被覆が剥離し難くなり、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなる利点がある。
【0046】
本発明において、安価で容易に市場から入手できる高分子化合物溶液、熱硬化性あるいは光硬化性アクリル系化合物などの高分子化合物前駆体溶液、高分子化合物乳化液、熱硬化性あるいは光硬化性アクリル系化合物などの高分子化合物前駆体乳化液、高分子化合物分散液、熱硬化性あるいは光硬化性アクリル系化合物などの高分子化合物前駆体分散液から選ばれる処理液を用いて前記成形体の表面を処理した後、加熱して揮発成分を揮散させたり、放射線照射して硬化させて前記表面に高分子化合物をコーテイングすることができる。コーテイングされた高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入し易く、高分子化合物コーテイングが剥離し難くなる利点がある。
【0047】
コーテイングする方法は特に限定されず、塗装法(浸漬塗装法、電着塗装法、静電塗装法、溶射塗装法、流動浸漬塗装法、スプレー塗装法、ハケ塗り塗装法など)、ゾル−ゲル化処理法などによりコーテイングしても、あるいはこれらを組み合わせてコーテイングしてもよい。
【0048】
前記工程(8)において、高分子化合物シュリンクフィルムを用いて前記成形体の表面を覆い、加熱して前記高分子化合物シュリンクフィルムをシュリンクさせて前記表面に高分子化合物を被覆すると、被覆された高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入するので、高分子化合物被覆が剥離し難くなり、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなる利点がある。
【0049】
高分子化合物の被覆膜厚やコーテイング膜厚は、本発明の炭化珪素発熱体を用いて被加熱体に接触させながら乾燥するのか、あるいは非接触状態で乾燥するのかなど使用条件によって異なり、特に限定されないが、通常、約0.1μm〜1000μmの範囲である。
【0050】
[第2の実施態様]
図2は、被覆された高分子化合物の一部が内部ボイド内に侵入した状態を模式的に説明する断面説明図である。
図2において、5は管状炭化珪素発熱体本体2の内部に形成された内部ボイド、6は管状炭化珪素発熱体本体2の表面に連通する通路である。高分子化合物被覆3の一部が通路6を経て内部ボイド5内に侵入している。内部ボイド5の中には高分子化合物被覆3が侵入していないものもある。
例えば、図1に示した管状炭化珪素発熱体本体2として、内部ボイドの少なくとも一部が管状炭化珪素発熱体本体2の表面に連通しているボイド構造を有する管状炭化珪素発熱体本体2を用い、その表面に高分子化合物を被覆あるいはコーテイングする際に、管状炭化珪素発熱体本体2の中空部8を制御して適切な真空度で真空引きすると高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入して構成され易くなり、適切な処理条件を選択すれば、ほとんど総ての内部ボイド5内に高分子化合物被覆3を侵入させることも可能である。
【0051】
[第3の実施態様]
図3は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)により被覆された本発明の炭化珪素発熱体を用いて、濡れた紙に接触させながら乾燥する状態を模式的に説明する説明図である。
【0052】
図3において、7は水で濡れた紙を示し、図示しない制御装置により約100℃の温度に制御された本発明の炭化珪素発熱体1Aを、白矢印の方向に所定の速度で移動する濡れた紙7の表面に接触させながら連続的に乾燥して、所定の含水率以下の乾燥した製品を製造する例を示す。
乾燥条件は、被加熱物の種類、形状、寸法、乾燥する目的、どの程度乾燥させるのかなどによって適宜選定して決められ、そして精度よく制御されなければならない。
【0053】
この例では、炭化珪素発熱体1Aを1本用いた例を示したが、2本以上用いてもよい。例えば2本以上用いる場合、最初の1本は約100℃の温度に制御し、次の炭化珪素発熱体1Aから徐々に温度を上げて紙7を乾燥すれば、乾燥程度を上げることができる。
【0054】
本発明の炭化珪素発熱体1Aは耐熱性、揆水性、揆油性を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)により被覆されているので、揮散する水分が炭化珪素発熱体1Aに付着せず、炭化珪素発熱体1Aと水で濡れた紙7とが非粘着性で摩擦抵抗が小さいので、濡れた紙7であってもスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体1Aおよび紙7を傷つくことがなく、均一に紙7を加熱することができる。
【0055】
上記実施の形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮するものではない。又、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【実施例】
【0056】
以下実施例および比較例を示して本発明を説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
原料再結晶質炭化珪素をボールミルで粉砕し、粒度を調整して、粗粒(約60メッシュ)炭化珪素粉末、中粒(約200メッシュ)炭化珪素粉末および微粒(約350メッシュ)炭化珪素粉末をそれぞれ調製した。調製した粗粒炭化珪素粉末約60質量%、中粒炭化珪素粉末約20質量%および微粒炭化珪素粉末約20質量%を配合して混合して粉末混合物を調製した。
前記粉末混合物全体に対して、水約10質量%、ポリビニルアルコールバインダ−約5質量%を加えてミキサーで混合し、スタンピングして、混練して、粘りをだした。脱気後、加圧して所定の棒状の成形体を成形した。
成形後、常温で自然乾燥後、乾燥し、水分を完全に揮散させた。乾燥した成形体をカッターで所定の長さに切断し、コークスを下に敷き、乾燥した成形体をその上にセットし、その上にさらにコークスをかけ、プログラムに従って、2000℃以上の温度で焼成して粒子と粒子を結合させ、焼結して炭化珪素発熱体を作成した(株式会社シリコニット製、棒型シリコニット発熱体A10−2、外径10mm、全長400mm)。
【0058】
炭化珪素発熱体にフッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブ(グンゼ株式会社製、Pタイプ EIT、10P、収縮前内径11.0mm、収縮後内径9.2mm、厚み30μm)を被せて、熱風ガンを用いて150〜200℃の熱風を端からゆっくり吹付け、約4分間で加熱収縮させ炭化珪素発熱体の全表面を被覆した。
炭化珪素発熱体に接するフッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブの少なくとも一部が内部ボイド内に侵入しているので、皮膜が剥離し難く、耐久性に優れるとともに、後述する測定法により常温における表面摩擦係数、200℃における表面摩擦係数、および内部ボイド含有率、吸水率を測定した結果、被覆していないものに比べて常温および200℃における表面摩擦係数μが低く、内部ボイド含有率が約25%、吸水率がほぼ0であることが確認された。
フッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブを被覆しているので水分や油分などが炭化珪素発熱体に付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもよく滑りさらによりスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、被加熱物を確実に均一に加熱できることが確認された。
【0059】
(実施例2)
実施例1で作成した炭化珪素発熱体にフッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブ(グンゼ株式会社製、Pタイプ EIT、10P、収縮前内径11.0mm、収縮後内径9.2mm、厚み30μm)を被せて、加熱炉中に入れ約20分かけて200℃まで徐々に加熱し、収縮させて炭化珪素発熱体の全表面を被覆し、60℃程度まで冷却して加熱炉から取りだした。
実施例1のフッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブ被覆炭化珪素発熱体と同様に優れた性能を示した。
【0060】
(実施例3)
実施例1で作成した炭化珪素発熱体にフッ素樹脂(PFA)分散液(日建塗装工業株式会社製)をスプレーガンを用いて最終膜厚みが30μm程度になるように吹付け回数を制御してコーテイングし、約400℃で乾燥してフッ素樹脂(PFA)を炭化珪素発熱体の全表面に被覆した。
フッ素樹脂(PFA)分散液を用いてコーテイングしたので、皮膜の一部が内部ボイド内に侵入し、剥離し難くなり、耐久性に優れるなどの他、実施例1のフッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブ被覆炭化珪素発熱体と同様に優れた性能を示した。
【0061】
(実施例4)
実施例1で作成した炭化珪素発熱体を帯電させ、その表面にフッ素樹脂(ETFE)粉末(旭硝子株式会社製)を静電塗装法により付着させ、約300〜400℃で加熱して膜厚み30μmのフッ素樹脂(ETFE)を被覆した。
フッ素樹脂(ETFE)粉末を用いてコーテイングしたので、皮膜の一部が内部ボイド内に侵入し、剥離し難くなり、耐久性に優れるなどの他、実施例1のフッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブ被覆炭化珪素発熱体と同様に優れた性能を示した。
【0062】
フッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブを用いて被覆した実施例1で作成した炭化珪素発熱体および比較例としてフッ素樹脂PFAを被覆しなかった炭化珪素発熱体について下記の測定方法により、常温における表面摩擦係数、200℃における表面摩擦係数、および内部ボイド含有率、吸水率を測定した。
【0063】
(常温における表面摩擦係数の測定法)
「プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数試験方法」(JIS K7125)に準じて図4(イ)に示す試験装置を作成し実験した。
図4(イ)中に記載の荷重物10とは、垂直抗力を得るためのものであり、アルミ製および鉄製のブロックを3種類使用した。これらは、木製試験台17上に固定した炭化珪素発熱体16との接触面となる面を平滑になるまで研磨した。滑車11は軸受部の摩擦が少ないものを選び、牽引用の糸12は滑車との摩擦をなるべく低減でき、かつ伸縮があまり無いものとしてナイロン製の釣り糸を選択した。
負荷13は、荷重物10が動き出すまでの牽引力を測定できるように、天秤用の分銅14とそれらを載せることができる時計皿(25.22g)15を利用した。すなわち、牽引力Fは時計皿15と分銅14の質量の合計で求められる(牽引力F=負荷13=分銅14+時計皿15)。
図4(ロ)に、摩擦力F′と牽引力F、垂直抗力Nの関係を示す。式(1)を用いて摩擦係数μを求めた。
F=F′=μN・・・・(1)
【0064】
実施例1の炭化珪素発熱体および比較例の炭化珪素発熱体について、垂直抗力Nとして荷重物10大(365.25g)、中(270.93g)、小(223.94g)の3種類をそれぞれ用い、荷重物10が動き出すまでの分銅14の重さを4回測定した時の測定値およびその平均値および牽引力F(牽引力F=負荷13=分銅14+時計皿15)をそれぞれ表3(実施例1)および表4(比較例)に示す。
垂直抗力N(縦軸)と牽引力F(横軸)との関係を図5に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
図5から実施例1の炭化珪素発熱体の摩擦係数μは0.403、比較例の炭化珪素発熱体の摩擦係数μは0.521であり、フッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブを用いて被覆した実施例1で作成した炭化珪素発熱体は摩擦係数μが被覆しなかった比較例より約23%低減したことが判る。
【0068】
(200℃における表面摩擦係数の測定法)
「プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数試験方法」(JIS K7125)に基づいて図6に示す試験装置を作成し実験した。
図6中の18は支持台(炭化珪素発熱体16を支持するとともに通電して発熱させるための図示しない電極を備えている)を示し、19はA4サイズのコピー用紙であり、コピー用紙19の一方の端部に負荷13と、時計皿15とのバランサ20を懸架し、コピー用紙19の他方の端部に時計皿15と分銅14を懸架できるようにしてある。
コピー用紙19を炭化珪素発熱体16の両側に垂らし、片側に負荷物13とバランサ20、もう片方に牽引力Fとなる(分銅14)をぶら下げた。バランサ20は時計皿15とのバランスをとるために、時計皿15と同じ重さの錘を下げたものである。負荷13とは、コピー用紙19に与えられる垂直抗力Nを得るためのものであり、大(122g)、中(72g)、小(22g)の3種類をそれぞれ用い、負荷13を増やすときにバランサ20の下方にぶら下げた。牽引糸12は伸縮があまり無いものとしてナイロン製の釣り糸を使用した。
負荷13が動き出すまでの牽引力Fを測定できるように、天秤用の分銅14とそれらを載せることができる時計皿15を利用した(牽引力F=分銅14)。
炭化珪素発熱体16は通電し、200℃付近まで昇温させて測定した。
【0069】
実施例1の炭化珪素発熱体および比較例の炭化珪素発熱体について、負荷13が動き出すまでの分銅14の重さ(牽引力F)を3回測定した時の測定値およびその平均値をそれぞれ表5(実施例1)および表6(比較例)に示し、垂直抗力N(横軸)と牽引力F(縦軸)との関係を図7に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
図7から、摩擦係数μは実施例1の炭化珪素発熱体の場合は1.0938、比較例の炭化珪素発熱体の場合は4.4344であり、フッ素樹脂PFA薄肉収縮チューブを用いて被覆した実施例1で作成した炭化珪素発熱体は摩擦係数μが被覆しなかった比較例より約75.3%低減したことが判る。
【0073】
(内部ボイド含有率、吸水率の測定法)
(炭化珪素発熱体の内部ボイド含有率(%)Aおよび吸水率(%)Bの測定)
内部ボイド含有率の測定は、JIS規格(JIS.R2205)気孔率測定方法に準拠して行った。
乾燥した状態の炭化珪素発熱体を秤量し乾燥質量(1)とした。
乾燥した状態の炭化珪素発熱体を水面下に沈め、3時間以上煮沸し、室温まで冷却し、水の中にある炭化珪素発熱体を径1mm以下の針金で水中に懸垂したまま秤量し、針金の質量を差し引いた値を持って水中質量(2)とした。
水の中にある炭化珪素発熱体を水中から取り出し、湿布ですばやく表面をぬぐい、水滴を除去した後、秤量して飽水質量(3)とした。
【0074】
内部ボイド含有率(%)Aを次式(2)で算出した。
A(%)=[(3)―(1)]/[(3)―(2)]×100・・・(2)
【0075】
炭化珪素発熱体の吸水率(%)Bを次式(3)で算出した。
B(%)=[(3)―(1)]/[(2)]×100・・・・・・・(3)
【0076】
炭化珪素発熱体の全表面をフッ素樹脂PFAで被覆した実施例1の炭化珪素発熱体の吸水率(%)Bは、炭化珪素発熱体を水面下に沈め、3時間以上煮沸しても水は吸水されず、したがって実施例1の炭化珪素発熱体の吸水率(%)Bは0%であった。そこで、実施例1の炭化珪素発熱体の両端部表面のフッ素樹脂PFA被覆を剥いで吸水率(%)Bおよび内部ボイド含有率(%)Aを4回測定した結果、平均値で吸水率(%)Bが10.66%、内部ボイド含有率(%)Aが25.45%であった。
【0077】
比較例の炭化珪素発熱体は、吸水率(%)Bおよび内部ボイド含有率(%)Aを4回測定した結果、平均値で吸水率(%)Bが10.69%、内部ボイド含有率(%)Aが25.78%であった。
【0078】
実施例1の炭化珪素発熱体の吸水率(%)Bおよび内部ボイド含有率(%)Aが、比較例の炭化珪素発熱体の吸水率(%)Bおよび内部ボイド含有率(%)Aよりやや低いのは、被覆された皮膜の一部が内部ボイド内に侵入していることによるものと考えられる。
【0079】
以上のように、本発明の炭化珪素発熱体は、表面がフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)などの高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされているので、優れた、耐熱性、揆水性、揆油性、低摩擦係数を有し、被加熱物から揮散する水分や油分などが付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもよく滑り、しわなどが発生せずに、スムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物が傷つくことがなく、そのため被加熱物を確実に均一に加熱でき、しかも被覆あるいはコーテイングされた高分子化合物の少なくとも一部が内部ボイド内に侵入して構成されているので、剥離し難く、耐久性に優れ、炭化珪素発熱体の寿命が長くなるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の炭化珪素発熱体は、少なくとも表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされていることを特徴とする炭化珪素発熱体であり、
例えば、濡れた紙、焼き肉、厚揚げなどの食品、医薬品、漢方薬品、化粧品、飼料、肥料、農薬、接着剤、塗料など水分や油分などを含む被加熱物を加熱する場合であっても、被加熱物から揮散する水分や油分などが炭化珪素発熱体に付着せず、炭化珪素発熱体を被加熱物と接触させて加熱する場合でもしわなどが発生せずにスムースに接触させることができ、炭化珪素発熱体および被加熱物を傷つけることなく、被加熱物を均一に加熱できるという顕著な効果を奏し、
本発明の炭化珪素発熱体の製造方法により、本発明の炭化珪素発熱体を、低コストで容易に確実に製造できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】(イ)は、本発明の高分子化合物被覆炭化珪素発熱体の1例を説明する説明図であり、(ロ)は、(イ)のX−X断面を説明する断面説明図であり、(ハ)は、(イ)のY−Y断面を説明する断面説明図である。
【図2】被覆された高分子化合物の一部が内部ボイド内に侵入した状態を模式的に説明する断面説明図である。
【図3】ポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)により被覆された本発明の炭化珪素発熱体を用いて、濡れた紙に接触させながら乾燥する状態を模式的に説明する説明図である。
【図4】(イ)は摩擦係数試験を行う試験装置を説明する説明図であり、(ロ)は摩擦力F′と牽引力F、垂直抗力Nの関係を示す説明図である。
【図5】垂直抗力N(縦軸)と牽引力F(横軸)との関係を示すグラフである。
【図6】摩擦係数試験を行うための他の試験装置を説明する説明図である。
【図7】垂直抗力N(横軸)と牽引力F(縦軸)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0082】
1 高分子化合物被覆管状炭化珪素発熱体
1A 高分子化合物被覆炭化珪素発熱体
2 高分子化合物被覆管状炭化珪素発熱体本体
3 高分子化合物被覆
4 電極部
5 内部ボイド
6 通路
7 紙
8 中空部
16 高分子化合物被覆棒状炭化珪素発熱体あるいは被覆されてない炭化珪素発熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされていることを特徴とする炭化珪素発熱体。
【請求項2】
内部ボイドの少なくとも一部が前記表面に連通しているボイド構造を有する炭化珪素発熱体の前記表面が高分子化合物により被覆あるいはコーテイングされるとともに、被覆あるいはコーテイングされた前記高分子化合物の少なくとも一部が前記内部ボイド内に侵入していることを特徴とする請求項1記載の炭化珪素発熱体。
【請求項3】
前記高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の炭化珪素発熱体。
【請求項4】
前記高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であることを特徴とする請求項3記載の炭化珪素発熱体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の炭化珪素発熱体を、少なくとも下記工程(1)〜(8)を含む工程により製造することを特徴とする炭化珪素発熱体の製造方法。
(1)原料再結晶質炭化珪素を粉砕し、粒度を調整して、粗粒炭化珪素粉末、中粒炭化珪素粉末および微粒炭化珪素粉末をそれぞれ調製する。
(2)調製した粗粒炭化珪素粉末、中粒炭化珪素粉末および微粒炭化珪素粉末をそれぞれ適量配合して混合して粉末混合物を調製する。
(3)前記粉末混合物に水、有機バインダ−を少量加えて混合し、混練する。
(4)公知の成形手段を用いて所望の成形体を成形する。
(5)常温乾燥後、公知の乾燥機を用いて乾燥し、水分を揮散させる。
(6)乾燥した成形体を2000℃以上の温度で焼成して焼結する。
(7)焼結した成形体の所定の箇所に電極部を形成する。
(8)電極部を形成した箇所の表面を含む成形体の表面あるいは電極部を形成した箇所の表面を含まない成形体の表面に高分子化合物を被覆あるいはコーテイングする。
【請求項6】
前記工程(8)において、高分子化合物シュリンクフィルムを用いて前記成形体の表面を覆い、加熱して前記高分子化合物シュリンクフィルムをシュリンクさせて前記表面に高分子化合物を被覆することを特徴とする請求項5記載の炭化珪素発熱体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(8)において、高分子化合物溶液、高分子化合物前駆体溶液、高分子化合物乳化液、高分子化合物前駆体乳化液、高分子化合物分散液、高分子化合物前駆体分散液から選ばれる処理液を用いて前記成形体の表面を処理した後、加熱して揮発成分を揮散させて前記表面に高分子化合物をコーテイングすることを特徴とする請求項5記載の炭化珪素発熱体の製造方法。
【請求項8】
前記高分子化合物が耐熱性、揆水性を有するとともに油脂分をはじく優れた揆油性を有する高分子化合物であることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の炭化珪素発熱体の製造方法。
【請求項9】
前記高分子化合物がフッ素系樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE樹脂)あるいはフッ化エチレン・パーフロロアルコキシ共重合体(PFA樹脂)であることを特徴とする請求項8記載の炭化珪素発熱体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−100501(P2010−100501A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275744(P2008−275744)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(500359693)株式会社シリコニット (1)
【Fターム(参考)】