説明

高周波モジュール部品

【課題】セラミック多層基板にSAW素子をフリップチップ搭載する場合において、SAW素子が安定かつ高い特性を示すような構造を実現する。
【解決手段】SAW素子21を、櫛型電極形成面28をセラミック多層基板10の部品搭載面11に対向させ、部品搭載面との間に空隙が形成されるようにし、Au−Au接合により多層基板10上に実装する。封止部材30により封止するときは、この空隙を保護し確保した状態でSAW素子21を被覆し封止する。また、SAW素子21を含む部品、導体パターン、導体層は、多層基板10の周囲から100μm以内の導体配置禁止領域14には形成しない。また、高周波モジュール部品15は多層基板10の底面に設け、側面には導体を形成しない。これにより、導体配置禁止領域14で封止部材30と多層基板10が強固に接合し、構造的に強固で特性の安定した高周波モジュール部品1が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば携帯電話などの通信機器に用いて好適な、セラミック多層基板に表面弾性波ベア素子(SAW素子)が直接フリップチップ実装された回路モジュールであって、特に、SAW素子が安定かつ高い特性を示すように実装された、より小型で信頼性の高い高周波モジュール部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に電子機器においては小型化の市場要求が常にあり、使用される部品についても小型化、軽量化が常に要求されているが、特に、近年急速に普及している携帯電話に代表される携帯型の機器においてこの傾向は顕著に見られ、使用される部品に対する小型化、軽量化の要求が大きい。
その結果、このような携帯型の機器に使用される部品において特に高密度化が進み、要求に対応した小型化、軽量化がなされてきている。
【0003】
このような小型化の要求に対応する手段の1つとして、回路のモジュール化が挙げられる。
モジュール部品は、様々な部品を搭載した集合素子であって小型化の点で有効なのはもちろんであるが、回路を機能ごとにまとめるために、従来のディスクリート部品を一つ一つ搭載して回路を形成していく手法に比べて、機器の構造がシンプルになり、信頼性、特性に優れるものを提供できるようになるという利点もある。また、従来のデスクリート部品においては各部品ごとの特性を組み合わせて、機能を果たしていくために、設計が複雑になっているが、モジュール化することによってモジュールごとに特性仕様が決まっているために、機器の設計の構造化ができ、開発の短期間化、省力化が可能となる。
【0004】
また、このような小型化の要求に対応するために、素子を搭載する基板においても、導体層が複数層ある多層基板が、導体層が単層の基板に代わって用いられるようになっている。特に、携帯電話などの通信機器に用いられる高周波回路を構成するための基板としては、絶縁層を電気的に絶縁体のセラミックで形成し、導体層を銀などで形成したセラミック多層基板が用いられるようになっている。
セラミック多層基板は、一般的な樹脂多層基板と比べて、高周波での損失が少ない、熱伝導がよい、寸法精度がよい、信頼性に優れるなどの特徴を有する。また、内導体をコイル形状にする、あるいは平行に対向させることで、それぞれ内部にインダクタあるいはキャパシタを形成することができる。これらの素子は、低損失で寸法精度がよいことから素子のQ(quality factor)も高く、公差も小さく、非常に特性が高い。
これらの特徴は、高周波回路を形成するのに非常に有効であり、その結果、セラミック多層基板上に様々な部品を搭載し高特性の高周波回路を形成した、携帯電話などに適用して好適な小型の高周波モジュール部品が開発されている。
【0005】
ところで、実際の携帯電話の回路における回路のモジュール化はいくつかの機能で行われており、現在は、たとえば、パワーアンプ部分、デュアルバンド型携帯電話のアンテナスイッチ部分などが各機能ごとにモジュール化されている。
このようなモジュール部品の例を図8に示す。
図8は、アンテナスイッチングモジュールの構造を示す図である。
図8においては、基板901上にダイオード素子やインダクタ素子、抵抗素子などのチップ部品914が搭載されている。そして、これらの部品および基板を覆うようにシールドケース915が配置されている。また、基板901の側面には外部導体909が形成され、内部および表面には内部導体910aおよび表面導体910bが、各々形成配置されていて、キャパシタ912、インダクタ913などを形成している。また、これらの導体910はビアホール911により基板の層を貫通して上下に接続されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、携帯電話などの通信機器においては、現在においても単機能ごとのモジュール化は行われているが、より広範な機能がモジュール化されれば、前述したようなモジュール化の利点をさらに引き出させることになり有効である。
そして、より広範な機能をモジュール化するためには、このような通信機器に通常使用されている表面弾性波フィルタ(SAWフィルタ)などの表面弾性波素子(SAW素子)を加えたモジュール化が重要である。
SAWフィルタは、素子表面を表面波が伝播することにより櫛型電極との間で共振子が形成される現象を、フィルター等の用途に適用した素子である。この表面波は非常に敏感なために、素子表面は封止構造をとるのが実用上一般的であり、SAW素子は通常パッケージに封止されたいわゆるパッケージ部品の形態で使用されることが多い(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−216660号公報
【0007】
このようなSAW素子をモジュール部品に適用する場合、図9に示すように、SAW素子のパッケージ品917を搭載してモジュール化を行うことも可能である。しかしながら、パッケージ品917を多層基板上に搭載してモジュール部品を構成した場合、図9からも明らかなようにその小型化、低背化には制限があり、十分な小型化、低背化ができない。
特に、セラミック多層基板はインダクタンス、キャパシタンスが内蔵できるという特徴を有する反面、本来低背化が難しいという不利益がある。従って、さらに高さのあるパッケージ品917を搭載すると、低背化の要求に十分に応えられえなくなり、一層問題が顕著となる。
【0008】
また、パッケージ品917を搭載する場合はベアチップを搭載する場合と比べて広い占有面積を必要とする。特にSAW素子は、使用部品の中でも最も背の高い部品のひとつであり、また、占有面積も広い。
したがって、SAW素子はパッケージ形態のものを使用せずに、ベアチップの状態で直接セラミック多層基板に搭載することが望まれいる。
しかしながら、ベアチップのSAW素子を直接セラミック多層基板に搭載した高周波モジュール部品を実現するためには、さらに以下に記載するような種々の課題があり、改善が望まれている。
【0009】
前述したように、SAW素子の特性は櫛型電極にかかる圧力、表面の状態に非常に敏感であり、実質的にこの櫛型電極に封止部材や製造段階での接触してはならない。したがって、このSAW素子をベアチップ状態で多層基板上に実装する場合、この櫛型電極面に対して機密性の高い空間を確保する必要がある。
しかしながら、一般的な樹脂封止はすべての空間に樹脂を満たすことを主旨としていて、この場合、SAWの櫛型電極表面をも覆うことになり、SAW素子の特性に重大な悪影響を与えることになる。
【0010】
仮に、封止樹脂によりそのような空間を確保した場合においても、このような金−金接合する部品とハンダ接合する部品を同時に実装するモジュール部品においては、封止樹脂の接合が弱くなり多層基板から剥離する可能性がある。
これは以下のような理由による。
まず、金−金接合によってSAWチップをフリップチップ搭載し、同時にハンダ付け部品を搭載するためには、たとえば銀焼結体とその上にニッケル層、金層を形成するようにしている場合が多い。このようにした場合、表面導体層はある程度の厚みを持って表面に凹凸を形成することになる。この凹凸のために、封止樹脂が多層基板から剥離する可能性がある。
また、多層基板の表面には通常導体パターンが形成されているが、金導体は材質的に樹脂と剥離を生じ易い。つまり、基板の凹凸とは別の原因により、やはり封止樹脂が多層基板から剥離する可能性がある。
特に、図10に示すように、側面に導体920を形成したようなモジュールにおいては、樹脂封止を行うと特に封止樹脂と基板との接合が不安定となり、剥離する可能性が高い。これは、側面に導体を形成することにより、基板表面の凹凸が増大するためと考えられる。
【0011】
さらにまた、ハンダ付け部品とSAW素子との混載を行うモジュール部品においては、ハンダ付け部分のラウンド周辺にハンダが盛られているが、ハンダに含有されるスズは高温で移動を起こし易く、わずかな隙間でも毛管現象によってその隙間を伝わることがある。そしてこのようなスズの移動が、外周部付近から樹脂セラミック界面を伝わり外部まで伝わると、クラックを引き起こすことになり、初期のSAW素子の封止の目的は果たさなくなるという問題が生じる。なお、このような問題は、混載を意図しないSAWの単品では生じず、ハンダ付け部品とSAW素子とを混載する場合において固有に生じる問題である。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、
セラミック多層基板に直接ベア表面波弾性素子がフリップチップ搭載された高周波モジュール部品であって、特に、樹脂封止を、SAW素子の特性を維持するような空間を確保しながら、かつ、多層基板と接合性よく適切に行うことにより、SAW素子が安定かつ高い特性を示すような高周波モジュール部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明に係る高周波モジュール部品は、少なくとも1の表面弾性波素子(SAW素子)と、前記表面弾性波素子に接続される電気回路が作り込まれた多層基板と、前記表面弾性波素子を被覆して封止するように前記多層基板の前記表面弾性波素子搭載面に形成される封止部材と、前記多層基板に設けられる前記電気回路の入出力端子とを有するモジュール部品であって、前記多層基板は、前記表面弾性波素子搭載面の、周囲側面から所定距離以内の周縁領域に、導体パターンが存在しないように形成され、前記表面弾性波素子は、櫛形電極が前記多層基板の前記素子搭載面に対向するように前記多層基板上に搭載され、前記封止部材は、少なくとも前記周縁領域において前記多層基板と固着され、前記表面弾性波素子の前記櫛形電極と前記多層基板との間の空間を維持するように前記表面弾性波素子を被覆して封止し、前記入出力端子は、前記多層基板の前記表面弾性波素子搭載面の反対側の面に設けられている。
【0014】
好適にはSAW素子は、フリップチップ方式などのフェイスダウンボンディングにより、ベアチップの状態で多層基板に金−金接合されて実装される。
望ましくは、前記周縁領域は、前記多層基板の周囲側面からの距離が100μm以内程度の領域である。
また好適には、前記多層基板は、内部にインダクタおよびキャパシタ(LC回路)が形成された低温同時燒結基板(LTCC基板)である。
【0015】
このような構成の高周波モジュール部品においては、封止部材と多層基板とは周縁領域において金属体である導体パターンを介さずに直接的に接合されるので、強固に接着され、封止部材が剥離する可能性が低くなる。その結果、SAW素子の櫛型電極に対して形成されている空間は安定的に確保され、SAW素子の特性は安定し、また所望の高い特性が確保できる。
また本発明では、封止部材と多層基板とは周縁領域において強固に接着されることから、ハンダ付け部品とSAW素子との混載を行う高周波モジュール部品であったとしても、ハンダに含有されるスズの移動によるクラックの発生などの不都合がほとんどない。
【0016】
好適には、前記多層基板は、前記周縁領域においてさらに内部導体をも含まないように形成されている。
このような構成の高周波モジュール部品においては、周縁部において多層基板表面の凹凸がさらに減少され比較的平坦な面が確保されるので、より一層封止部材と多層基板が強固に接着され、SAW素子の特性が安定する。
【0017】
また好適には、複数の前記表面弾性波素子を有し、前記封止部材は、前記複数の表面弾性波素子各々の前記櫛形電極と前記多層基板との間の各空間が、連続した1の空間として形成されるように当該複数の表面弾性波素子を被覆して封止している。
このような構成の高周波モジュール部品においては、複数のSAW素子を実装する場合に、非常に高密度に実装することができる。また、構造が簡単でより容易な方法により製造できることが予測される。さらに、実装したSAW素子間での特性のばらつきが押さえられる。
【0018】
また好適には、前記封止部材は、前記表面弾性波素子に対して、前記櫛形電極が形成されている面の反対側の面にのみ固着し、当該表面弾性波素子の側面には付着しないように、前記表面弾性波素子を被覆して封止している。
このような構成の高周波モジュール部品においては、SAW素子に対して側面から何ら力が作用しないので、櫛型電極および圧電素子からなるSAW素子の特性から外圧的な要因を排除することができ、SAW素子の特性を安定させることができる。また、複数のSAW素子が装着される場合に、複数のSAW素子間において特性のばらつきを押さえられ、モジュール部品全体としての特性が確保される。
また、好ましくは、前記封止部材は、前記多層基板に接する面の反対側の面が平滑になるように成形されている。
この平滑度は、たとえばピックアンドプレース装置により吸着可能な程度の平滑度であることが望ましい。このような構成であれば、本発明に係る高周波モジュール部品は、ピックアンドプレース装置により容易に吸着され、たとえば携帯電話などの機器の組立て作業の自動化が容易になる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明してきたように、本発明によれば、樹脂封止を、SAW素子の特性を維持するような空間を確保しながら、かつ、多層基板と接合性よく適切に行うことが可能になる。その結果本発明では、セラミック多層基板に直接ベア表面波弾性素子がフリップチップ搭載された高周波モジュール部品であって、SAW素子が安定かつ高い特性を示す高周波モジュール部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
本実施形態においては、世界的に広く使用されているGMSデュアルバンド型携帯電話に適用して望ましい、ベアチップSAWフィルタを2個搭載した高周波モジュール部品について説明する。
【0021】
まず、そのGSMデュアルバンド型携帯電話器の回路の概略構成について、図1を参照して説明する。
図1は、GSMデュアルバンド型携帯電話のブロック図である。
送信信号I/Q(ベースバンド信号のI信号及びQ信号)は、I/Qモジュレータ137に入力される。このI/Qモジュレータ137には、IFVCO1220から分周期DIV138、90°シフタを介してIF信号が入力され、変調される。IQモジュレータ137から出力された信号は、位相検出器133を介して混合器132に入力される。位相検出器133には、ローパスフィルタ134,135を介して900VCOおよび1800VCO136が接続されている。また、混合器132には、同様に900VCOおよび1800VCO117が接続されている。
【0022】
混合器132から出力された信号は、900MHzまたは1800MHzに変調されており、バルントランス131を介してそれぞれパワーアンプ129、カップラ125、ローパスフィルタ104、T/Rスイッチ103という経路でダイプレクサ102に入力されるか、パワーアンプ130、カップラ126、ローパスフィルタ124、T/Rスイッチ123という経路でダイプレクサ102に入力される。ダイプレクサ102に入力された信号は、アンテナ101から送信される。
【0023】
同様に、アンテナ101からダイプレクサ102に入力された900MHzまたは1800MHzの受信信号は、T/Rスイッチ103またはT/Rスイッチ123を介して、バンドパスフィルタ105、アンプ106、バルントランス107という経路で混合器111に入力されるか、バンドパスフィルタ108、アンプ109、バルントランス110という経路で混合器111に入力される。混合器111には、900VCOおよび1800VCO117が接続されている。
【0024】
混合器111から出力されIF変調された信号は、バンドパスフィルタ112、アンプ113を介して混合器114に入力される。混合器114には、IFVCO120が接続されている。混合器114から出力された信号は、自動利得制御器115を介して、I/Qでモジュレータ116に入力され復調される。なお、I/Qデモジュレータ116には、IFVCO120から分周期DIV138、90°シフタを介してIF信号が入力され、変調される。また、IFVCO120、900VCOおよび1800VCO117には、それぞれIFPLL119、RFPLL118が接続されている。
【0025】
このような回路において、部分回路のモジュール化は、いくつかの機能、ブロックで行われているが、本実施形態においては、ダイプレクサ102、T/Rスイッチ103,ローパスフィルタ104、SAWフィルタ105,T/Rスイッチ123,ローパスフィルタ124およびSAWフィルタ108で構成されるアンテナスイッチング部をセラミック基板上に回路モジュールとして搭載する場合について例示し、本発明を説明する。
図2は、そのアンテナスイッチング部の回路図、換言すれば本実施形態の高周波モジュール部品の回路図である。
以後、このような回路をモジュール化した高周波モジュール部品について説明する。
【0026】
図3は、その高周波モジュール部品(アンテナスイッチングモジュール)1の構造を示す図である。
まず、高周波モジュール部品1の構造について説明する。
図3に示すように、高周波モジュール部品1は、セラミック多層基板10、2個のSAW素子21、ハンダ接合素子22および封止部材30を有する。
【0027】
セラミック多層基板10は、アルミナガラス複合セラミックを絶縁層とし、内導体層を15層有するLTCC基板である。
このセラミック多層基板10には、その内部導体層あるいは表面層に所望の導体パターン13が形成されることにより、また、層間を貫通するビアホール(スルーホール)が形成されることにより、所望のインダクタおよびキャパシタ、これらインダクタおよびキャパシタや搭載された部品を相互に接続する信号配線、これら各素子に電力を供給する電源ライン、および、これら各素子に基準電位を提供するGNDラインなどが形成される。
【0028】
このセラミック多層基板10の部品搭載面11には、SAW素子21、ハンダ接合素子22が搭載されている。
SAW素子21は、ベアチップとして提供され、その櫛型電極がセラミック多層基板10の部品搭載面11に対向するように金−金結合によりフリップチップ実装されている。
このSAW素子21の接合状態について図4を参照して説明する。
図4に示すように、SAW素子21は、燒結銀層23、Ni層24およびAuめっき層25からなる端子上に、ハンダボール26を介してSAW素子21のAuバンプ27が位置するように配置されている。この状態で、SAW素子21側から超音波をかけながら600gの加重を印加することにより、金バンプと基板の金表面との接合が図られる。
そしてこの時、櫛型電極形成面28と部品搭載面11との間には、図3および図4に示すように、空隙31が形成されるようにSAW素子21を実装する。
【0029】
また、セラミック多層基板10の部品搭載面11とは反対側の底面12には、実現された回路に対する入出力端子15が形成される。
なお、高周波モジュール部品1においては、入出力端子15は全て底面12に設けられ、セラミック多層基板10の側面には入出力端子を含む一切の導体は設けない。
【0030】
なお、高周波モジュール部品1において、これらセラミック多層基板10に搭載されるSAW素子21およびハンダ接合素子22、および、セラミック多層基板10表面あるいは内部に形成されるキャパシタ、インダクタあるいは配線などの各機能部品は、いずれも、セラミック多層基板10の側面から所定の距離a以内に入る周縁領域(導体配置禁止領域)を避けて配置あるいは形成される。
このことを図5を参照して説明する。
図5は、セラミック多層基板10を部品搭載面11から見た図であり、斜線で示す領域が導体配置禁止領域14である。なお、所定の距離aは、好ましくは100μm以上である。
この領域14においては、部品搭載面11には導体パターンは形成されない。また、セラミック多層基板10の内部においても、実質的に導体層は形成されない。
したがって、SAW素子21、接合素子22、キャパシタ、インダクタあるいは配線などの各機能部品は、いずれも禁止領域14で囲まれたセラミック多層基板10の内部領域に配置される。
【0031】
そして、このように構成されたセラミック多層基板10に対して、SAW素子21およびハンダ接合素子22を含む部品搭載面11を全て被覆するように、セラミック多層基板10の部品搭載面11に封止部材30が樹脂モールドにより形成されている。
この際封止部材30は、SAW素子21とセラミック多層基板10の部品搭載面11との間に設けられた空隙31を、各SAW素子21ごとに確保するように形成されている。
また、この封止部材30は、図3に示すように、セラミック多層基板10に搭載されている全部品を被覆するように、SAW素子21およびハンダ接合素子22の中の最も背の高い部品よりもわずかに高く形成される。そしてその上面32は、セラミック多層基板10の部品搭載面11と並行で、高周波モジュール部品1が部品としてピックアンドプレイス装置などにより吸引搬送される際に適切に吸引され搬送される得る程度の平滑度、平坦度で形成されている。
【0032】
高周波モジュール部品1はこのような構造を有する。
なお、本実施形態において、高周波モジュール部品1の外形は約5.4mm×4mm、セラミック多層基板10の厚みhは0.8mm、高周波モジュール部品1全体の高さhは1.6mmである。
【0033】
次に、このような構造の高周波モジュール部品1の製造工程について説明する。
まず、セラミック多層基板10を形成する。
セラミック多層基板の形成は、まず、アルミナナとガラスをベースとする粉体に有機バインダーと有機溶液を混合し、これをドクターブレード法によってキャリアテープに塗布する。
次に、これを乾燥し、約10cm角になるようにシートを切り分ける。
このシートに、レーザによってスルーホールとなる部分を穿孔する。
得られたシートにスクリーン印刷によって、銀粉体パターンを塗布する。このとき印刷に用いる銀粉体はおおむね0.1μmから1μmの粒径の粉体で、有機バインダー及び溶剤によってスクリーン印刷が可能なペースト状のものである。
このシートを、キャリアテープがら剥離して、プレスによって積層圧着する。圧力は,500〜700kg/cmである。このプレス処理によって、表面の銀導体層の平滑化も行なう。
そして、これを所定の個片に切り分けて、900℃で15分間の焼成を行う。焼成時にセラミック、内部導体、表面層導体は一括焼結する。
【0034】
次に、ニッケル無電解メッキを2μm施し、金無電解メッキを0.5μm施す。
これに所定のSMT部品を搭載し、リフロー炉を通過させてハンダ付けを行なう。
そして、洗浄処理を行なった後、ベア状態のSAW素子を金−金接合によって搭載する。
【0035】
次に、この混載モジュールに、樹脂モールドを行なう。
樹脂モールドは、Bステージ状態の樹脂をあらかじめ型押ししてから形成する方法、また、メタルマスクを用いてペースト状樹脂を印刷塗布する方法のいずれかにより行うのが好適である。
まず、型押しする方法においては、PETフィルム上にドクターブレード法によってエポキシ樹脂を約200μm程度塗布し、70℃で溶剤を乾燥させ、Bステージ状態の流動性がある程度ある状態に保持する。
続いて、このPET上の樹脂に、モジュールの凹凸を再現した型を80℃に加熱し押し当てて、冷却後引き離す。これにより樹脂には、押し型によって明瞭な凹凸が形成される。
次に、モジュールと同じサイズにPETフィルムごと切り分け、モジュールと合わせこみ、120℃で同じくPETフィルムごと加熱圧着し、その後PETフィルムを剥離して、170℃で1時間加熱硬化させる。
【0036】
また、印刷塗布の方法においては、モジュール部品全体に相当する部分が開いているメタルマスクをモジュール部品表面に押し当て、ペースト状の樹脂を印刷塗布する。このとき、印刷塗布は、通常のゴムのスキージで単一方向にむかって行ってもよいが、スクレパーで押し込むように塗布するのが好適である。
【0037】
このように、本実施形態の高周波モジュール部品1においては、フリップ搭載したSAW素子21とセラミック多層基板10との間に空隙31を確保した状態で封止部材30によるモールドを行っている。したがって、SAW素子21の櫛型電極形成面28を適切に保護することができ、高特性のSAW素子21を実現できる。
【0038】
また、セラミック多層基板10は、部品搭載面11の周囲から100μm以内の周縁領域には表面パターンを形成しないように構成されている。したがって、この周縁領域14において、封止部材30は非常に強固にセラミック多層基板10と接着され、封止部材30が剥離するおそれが非常に少なくなっている。
また、セラミック多層基板10は、その周縁領域14において内部導体をも形成しないように構成されている。従って、部品搭載面11の凹凸を最小限に留めることができ、この点からも封止部材30は非常に強固にセラミック多層基板10と接着され、封止部材30が剥離するおそれが軽減されている。
さらに、セラミック多層基板10においては、側面に導体を一切設けていない。従って、側面導体の存在に起因する封止部材30の接着状態の不安定さを回避でき、この点からも封止部材30が剥離するおそれが軽減されている。
このように、本実施形態の高周波モジュール部品1においては、封止部材30がセラミック多層基板10に非常に強固に安定して接着されているので、SAW素子21とセラミック多層基板10との間の空間を適切に確保することができる。その結果、安定したSAW素子21の特性を維持することができる。
【0039】
また、高周波モジュール部品1においては、ユーザー用端子導体を底面にのみに形成する構造としているので、側面端子を有するモジュールに比べて、実装時の占有面積を少なくすることができる。
【0040】
また、高周波モジュール部品1においては、封止部材の上面が平坦になるように形成されているので、高周波モジュール部品1は以前同様にピックアンドプレ−ス装置などにより吸着することができ、たとえば携帯電話などの装置の組立て工程に投入することができる上に、封止部内部の機密性維持や空間保持機能などを実現することができ有効である。
すなわち、高周波モジュール部品1においては、モールド構造が吸着用途と封止機能とかねているので、従来のような金属シールドケースを利用する必要がなく、より軽量で安価なモジュール部品を提供することができる。
【0041】
また、高周波モジュール部品1においては、セラミック基板の表面導体を金めっき層で処理を行っているので、ハンダ接合、金−金接合の両方が可能となる。すなわち、SAW素子などの金−金接合によるフリップチップ搭載と、他の部品のハンダ接合とを混載することができる。
【0042】
なお、本実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって本発明を何ら限定するものではない。本実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含み、また、任意好適な種々の改変が可能である。
たとえば、SAW素子近傍に形成する空隙の形態は、図3に示す各SAW素子21ごとに空間31を確保するような形態に限定されるものではない。本発明の主旨は、SAW素子21の櫛型電極に対して気密性の高い空間(空隙)を封止部材30により確保することにあり、より具体的な形態としては種々の形態が考えられる。
【0043】
たとえば、図6に示すように、複数のSAW素子21がセラミック多層基板10上に実装されている場合には、それら複数のSAW素子21に対して1つの空間33を形成するようにしてもよい。すなわち、SAW素子21を近接させて部品搭載面11上に配置し、各SAW素子21における櫛型電極形成面28とセラミック多層基板10との間の空間を、連続した共通の1つの空間として形成するようにしてもよい。
本発明に係る高周波モジュール部品は、入出力端子が底面に配置されており実装面積が小さく済むことを、その特徴の1つとする。そのような高周波モジュール部品において複数の高周波モジュール部品1を近接して配置した場合には、このように共通の空間を形成することにより、封止部材30の構成が簡単になり、封止部材30の製造工程も簡単になる。また、各高周波モジュール部品1に独立して高周波モジュール部品1を形成する場合に比べて、高周波モジュール部品1をより近接して配置することができ、高周波モジュール部品の小型化、高密度化に有効である。
このような構成の高周波モジュール部品2も、本発明の範囲内であることは明らかである。
【0044】
また、たとえば図7に示すように、SAW素子21を被覆、封止する際に、封止部材30がSAW素子21の上面(天板)にのみ接触して側面には接触しない構成としても良い。すなわち、SAW素子21に対して上面にのみ圧力が加わり側面には圧力が加わらないような構成としてもよい。
SAW素子21は、一般的には圧電基板上に櫛型電極を形成して構成されており、圧力に対しては非常に敏感な素子である。従って、このような構成とすることにより、横からの圧力による特性の変化を防ぐことができ、各SAW素子21の特性のばらつきを少なくすることができる。
なお、実験により、上面および側面に封止部材30を接触させてSAW素子21を実装した場合と、上面のみ封止部材30を接触させてSAW素子21を実装した場合の、中心周波数の分散(σ)を比較すると、前者が1.2であったのに対して後者は0.8程度であり、その効果が有効であることが判明した。
このような構成の高周波モジュール部品3も、本発明の範囲内であることは明らかである。
【実施例】
【0045】
以下、本発明をさらに具体的な実施例に基づき説明する。
本発明に係る高周波モジュール部品を製造し、導体配置禁止領域の幅および端子電極の設置場所に対する高周波モジュール部品としての構造の安定さについて、実験を行い検証した。
高周波モジュール部品の製造方法は、実施形態において前述した方法と同じであり、導体配置禁止領域の幅aが0μm、100μm、200μmおよび300μmの高周波モジュール部品1を各々製造した。
また、構造の安定さの比較実験のために、導体配置禁止領域が300μmの高周波モジュール部品に対しては、側面電極を有する同様の高周波モジュール部品も同様に製造し、実験を行った。
なお、この側面電極を有する高周波モジュールは、本実施形態の高周波モジュール部品と同様にセラミック、内部導体、表面層導体を一括燒結した後の燒結体に、ゴム転写によって新たにペーストを塗布して、さらに焼成処理を行なって形成したものである。
【0046】
検証は、各条件ごとに100個の高周波モジュール部品について、−40℃、85℃(各温度での持続時間を30分。温度の切り替え時間を30秒とする)の条件で熱衝撃試験を行い、各高周波モジュール部品について、200サイクル経過後の外観観察を行ない、封止部材30とセラミック多層基板10の接着界面に亀裂のあるものの数をカウントした。
実験結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1に示すように、側面電極を有する高周波モジュール部品については、導体配置禁止領域を十分確保したとしても封止部材とセラミック多層基板との剥離が多数発生して、構造的に安定でないことが判明した。
底面電極を有する高周波モジュール部品については、おおむね良好な結果が得られた。導体配置禁止領域を200μm以上確保したものについては、封止部材とセラミック多層基板との剥離は皆無であり、特に好ましい結果であった。
また、導体配置禁止領域を周囲より100μmあれば、1%の不具合であるので、ほぼ剥離は生じないと言っても過言ではなく、これも実用に耐え得ることが判明した。
すなわち、表面導体および内部導体の形成位置は、周辺部のおおむね100μmの範囲を避ければよく、より信頼性を考慮すれのであれば、200μm以上が望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明の一実施形態の高周波モジュール部品を適用するデュアルバンドGSM型電話機の回路の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の高周波モジュール部品としてモジュール化する回路の回路図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態の高周波モジュール部品の構造を示す図である。
【図4】図4は、SAW素子のセラミック多層基板への接合状態を説明するための図である。
【図5】図5は、セラミック多層基板を部品搭載面から見た図であり、導体配置禁止領域を説明するための図である。
【図6】図6は、本発明の他の実施形態の高周波モジュール部品の構造を示す図である。
【図7】図7は、本発明にさらに他の実施形態の高周波モジュール部品の構造を示す図である。
【図8】図8は、従来のアンテナスイッチングモジュールの一般的な構造を示す図である。
【図9】図9は、従来のパッケージされたSAW素子を用いて構成したモジュールを示す図である。
【図10】図10は、従来の側面に電極パターンを有すうモジュールの構造を示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1、2,3…高周波モジュール部品
10…セラミック多層基板
11…部品搭載面
12…底面
13…導体パターン
14…導体配置禁止領域
15…入出力端子
21…SAW素子
22…ハンダ接合素子
23…Al−Cu合金層
24…Ni層
25…Auめっき層
26…ハンダボール
27…Auバンプ
28…櫛型電極形成面
30…封止樹脂
31、33,34…空隙(空間)
32…上面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表面弾性波素子と、
前記表面弾性波素子に接続される電気回路が作り込まれた多層基板と、
前記表面弾性波素子を被覆して封止するように前記多層基板の前記表面弾性波素子搭載面に形成される封止部材と、
前記多層基板に設けられる前記電気回路の入出力端子と
を有するモジュール部品であって、
前記多層基板は、前記表面弾性波素子搭載面の、周囲側面から所定距離以内の周縁領域に、導体パターンが存在しないように形成され、
前記表面弾性波素子は、櫛形電極が前記多層基板の前記表面弾性波素子搭載面に対向するように前記多層基板上に搭載され、
前記封止部材は、少なくとも前記周縁領域において前記多層基板と固着され、前記複数の表面弾性波素子の前記櫛形電極と前記多層基板との間の各空間を維持するとともに、当該各空間が連続した1の空間として形成されるように前記複数の表面弾性波素子を被覆して封止し、
前記入出力端子は、前記多層基板の前記表面弾性波素子搭載面の反対側の面に設けられている
高周波モジュール部品。
【請求項2】
前記多層基板は、前記周縁領域においてさらに内部導体をも含まないように形成されている
請求請1に記載の高周波モジュール部品。
【請求項3】
前記周縁領域は、前記多層基板の周囲側面からの距離が100μm以内の領域である
請求請1または2に記載の高周波モジュール部品。
【請求項4】
前記封止部材は、前記複数の表面弾性波素子の各々に対して、前記櫛形電極が形成されている面の反対側の面にのみ固着し、当該各表面弾性波素子の側面には付着しないように、前記複数の表面弾性波素子を被覆して封止している
請求請1〜3のいずれかに記載の高周波モジュール部品。
【請求項5】
前記複数の表面弾性波素子の各々は、フェイスダウンボンディングにより前記多層基板上に搭載されている
請求請1〜4のいずれかに記載の高周波モジュール部品。
【請求項6】
前記複数の表面弾性波素子の各々は、金−金接合により前記多層基板上にフリップチップ搭載されている
請求請5に記載の高周波モジュール部品。
【請求項7】
前記封止部材は、前記多層基板に接する面の反対側の面が平滑になるように成形されている
請求請1〜6のいずれかに記載の高周波モジュール部品。
【請求項8】
前記多層基板は、内部にインダクタおよびキャパシタが形成された低温同時燒結基板である
請求請1〜7のいずれかに記載の高周波モジュール部品。
【請求項9】
前記封止部材は、樹脂モールドにより形成される
請求項1〜8のいずれかに記載の高周波モジュール部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−97205(P2007−97205A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305806(P2006−305806)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【分割の表示】特願2001−316853(P2001−316853)の分割
【原出願日】平成13年10月15日(2001.10.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】