高周波回路の設計方法、高周波回路
【課題】少数の部品で高周波回路の安定性を向上させる。
【解決手段】電子回路と、該電子回路に並列に接続されたスタブと、該電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する高周波回路において、該抵抗を分布定数回路である等価回路に置き換え、該高周波回路で用いられる第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれており、且つ前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように、前記スタブのインピーダンス値と、前記等価回路の抵抗値とを設定する。
【解決手段】電子回路と、該電子回路に並列に接続されたスタブと、該電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する高周波回路において、該抵抗を分布定数回路である等価回路に置き換え、該高周波回路で用いられる第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれており、且つ前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように、前記スタブのインピーダンス値と、前記等価回路の抵抗値とを設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路を設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波増幅回路を設けた高周波回路においては、所望の周波数で動作を安定させるため、特許文献1に記載された回路のように、伝送線路に並列に分布定数線路(スタブ)などを接続してインピーダンスマッチングを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−261301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高周波回路においては、所望の周波数でインピーダンスマッチングを行っても、その周波数以外では不安定となることがあった。
【0005】
そして、その不安定となる周波数においてもインピーダンスマッチングをとるため、所望の集中定数の部品を追加すると、部品点数が増加してしまう。さらに、安定性を維持すべき周波数が高い場合、高い周波数ではそれらの部品が分布定数として見えてきてしまうため、所望の特性が得られないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、少数の部品で高周波回路の安定性を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の高周波回路の設計方法は、電子回路と、該電子回路に並列に接続されたスタブと、該電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する高周波回路において、該抵抗を分布定数回路である等価回路に置き換え、該高周波回路で用いられる第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれており、且つ前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように、前記スタブのインピーダンス値と、前記等価回路の抵抗値とを設定する、設計方法である。
【0008】
本発明の高周波回路は、電子回路と、高周波回路で用いられる第1の周波数で該高周波回路のインピーダンスマッチングがとれるようにインピーダンス値が設定され、前記電子回路に並列に接続されたスタブと、前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように抵抗値が設定され、前記電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子回路に並列に挿入した抵抗を分布定数回路に置き換えるので、高周波回路において適切にインピーダンスマッチングを行うことができる結果、高周波回路の安定性を向上できる。また、コイルやコンデンサなどの部品を挿入しなくてすむので、部品点数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の高周波回路の回路図の一例である。
【図2】高周波回路のSパラメータを4端子行列で表わした図である。
【図3】本実施形態のチップ抵抗の等価回路の一例である。
【図4】本実施形態の高周波回路において、分布定数線路、オープンスタブ、およびチップ抵抗をないものとした回路の回路図である。
【図5】図4の回路におけるSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図6】図4の回路から得られたインピーダンスをプロットしたスミスチャートを示す図である。
【図7】本実施形態の高周波回路において、チップ抵抗をないものとした回路の回路図である。
【図8】図7の回路におけるSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図9】図7の回路から得られたインピーダンスをプロットしたスミスチャートである。
【図10】図7の回路から得られた、スタビリティサークル上の点を表示したスミスチャートである。
【図11】チップ抵抗を集中定数回路として捉えた場合のSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図12】チップ抵抗を集中定数回路として捉えた場合のSパラメータをプロットしたスミスチャートである。
【図13】チップ抵抗を集中定数回路として捉えた場合のスタビリティサークルを表示したスミスチャートである。
【図14】本実施形態の高周波回路の設計方法を示すフローチャートである。
【図15】チップ抵抗を分布定数回路として捉えた場合のSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図16】チップ抵抗を分布定数回路として捉えた場合のSパラメータをプロットしたスミスチャートである。
【図17】チップ抵抗を分布定数回路として捉えた場合のスタビリティサークルを表示したスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の高周波回路1の回路図の一例である。同図を参照すると、高周波回路1は、入力端子11、分布定数線路12、高周波増幅回路13、出力整合回路14、出力端子15、オープンスタブ16、およびチップ抵抗17を有する。
【0012】
分布定数線路12は、高周波回路1の入力端子11と高周波増幅回路13の出力端子とに接続される。分布定数線路12は、インピーダンスマッチングにおいて、分布定数回路として扱われる線路である。
【0013】
高周波増幅回路13は、分布定数線路12からの高周波信号を増幅する回路であり、インピーダンスマッチングの対象となる。出力整合回路14は、高周波増幅回路13の出力端子と、高周波回路1の出力端子15とに接続される。出力整合回路14は、高周波回路1において、所定の周波数において、高周波増幅回路13の出力側でインピーダンスを調整するための回路である。
【0014】
オープンスタブ16は、高周波増幅回路13と並列に接続される分布定数線路である。本実施形態では、オープンスタブ16の幅を固定値とし、長さを可変とする。設計者は、長さを変更することで、オープンスタブ16のインピーダンスを調整することができる。チップ抵抗17は、例えば、オープンスタブ16と、分布定数線路12との間に挿入されるSMT(Surface Mount Technology:表面実装)部品である。
【0015】
インピーダンスマッチングに用いるスタビリティサークルについて説明する。図2は、高周波増幅回路13の特性をSパラメータと呼ばれる4端子行列で表した図である。入力波と反射波との間の関係は、この4端子行列を使用して下記(1)式で表わされる。
【0016】
【数1】
【0017】
・・・(1)
上記(1)式において、S11、S12、S21、およびS22は、高周波増幅回路13のSパラメータであり、a1は、入力端子から回路へ入力される入力波であり、b1は、a1に対応する反射波である。a2は、出力端子側から回路へ入力される入力波であり、b2は、a2に対応する反射波である。
【0018】
特に、S11は、出力側を50Ωで終端したときの入力側の入射波a1に対する反射波b1の割合であり、入力側の反射係数と呼ばれる。また、S12は、入力側を50Ωで終端したときの出力側の入射波a2に対する反射波b2の割合であり、出力側の反射係数と呼ばれる。
【0019】
ここで、図2に示すように、入力端子に反射係数Γsの負荷(受動素子)を付けたときの出力側の反射係数Γout(S12)は、下記(2)式で表わされる。本実施形態では、分布定数線路12、オープンスタブ16、およびチップ抵抗17がΓsの負荷に相当する。
【0020】
【数2】
【0021】
Γout=b2/a2=S22+{(S12*S21*Γs/(1−S11*Γs)}・・・(2)
このとき、Γsのインピーダンスがスミスチャート内のいかなる場所にあっても、上記(2)式における出力反射係数Γoutの絶対値が1より小さければ、高周波回路1は安定であるといえる。
【0022】
ただし、Γoutの絶対値が1以上の場合に必ず発振が起こるというものではなく、負性抵抗の絶対値より負荷インピーダンスの方が大きい場合には発振が起こらない。しかし、Γoutの絶対値が1以上で、負荷インピーダンスが負性抵抗の絶対値以下であれば、発振してしまう。このように、Γoutが1となるΓsのインピーダンスの軌跡は、安定性を判別する上で重要である。
【0023】
そこで、下記(3)式を満たすΓsのインピーダンス領域を図示したものがスタビリティサークルである。
【0024】
【数3】
【0025】
|Γs|≧1・・・(3)
上記(3)式を満たすΓsのインピーダンス領域が半径1のスミスチャート内に存在しなければ、負性抵抗の絶対値より負荷インピーダンスの値のほうが大きいということになり、回路は安定であるといえる。逆に、このインピーダンス領域が半径1のスミスチャート内に存在すると、負性抵抗の絶対値より負荷インピーダンスの値が小さいことになり高周波回路1が発振し得ることになる。このように、スタビリティサークルを用いることで、視覚的に安定性を判別できる。
【0026】
続いてインピーダンスマッチングの方法について説明する。一般的には、入力端子11から入力された入力信号の周波数が、所望の周波数で安定するように、分布定数線路12およびオープンスタブ16でインピーダンスマッチングがなされる。しかし、このインピーダンスマッチングの結果、追加した負荷が、所望の周波数以外の、ある周波数にとっては、不安定な負荷となり、高周波回路1としての安定性が損なわれることがある。
【0027】
そこで、チップ抵抗17がオープンスタブ16の付け根に挿入される。このチップ抵抗17の挿入により、不安定となる周波数においても、高周波回路1の安定性が改善される。
【0028】
ところが、チップ抵抗17を挿入すると、ある周波数で高周波回路1の安定性が向上するものの、所望の周波数では、インピーダンスがずれてしまうことがある。
【0029】
このため、インピーダンスマッチングにおいて、チップ抵抗17は、図3に示す等価回路に置き換えて計算される。同図を参照すると、等価回路は、抵抗成分のほか、コンデンサ成分やインダクタンス成分を含む。チップ抵抗17を等価回路に置き換えた場合の設計方法の詳細については、図14で後述する。
【0030】
続いて、図4〜図13を参照してチップ抵抗17の挿入の効果について、説明する。図5、図6、および図8〜図13は、アジレント・テクノロジー株式会社製のAdvanced Design System(登録商標)を使用して、Sパラメータやスミスチャートをシミュレートした結果を示す図である。シミュレーションにおいて、オープンスタブ16の幅を0.2mmとし、インピーダンスマッチングにおける所望の周波数は、10GHzとした。この10GHzより、ある程度高い周波帯域でも回路が発振しないことが望ましい。この安定性を維持すべき周波数を16GHzとした。また、高周波増幅回路13として、FET(Field Effect Transistor)を用いた。
【0031】
上記の条件下で、オープンスタブ16のインピーダンス値、抵抗17の抵抗値を可変とし、シミュレーション結果に応じて、これらの値を適宜変更することにより、適切にインピーダンスマッチングをとることが可能となる。
【0032】
まず、図4に示すように、図1の高周波回路1において、分布定数線路12、オープンスタブ16、およびチップ抵抗17をないものとし、高周波増幅回路13の入出力端が理想的な50Ω線路で接続されている場合について考える。
【0033】
図5は、図4の回路において、周波数ごとに算出された高周波増幅回路13のSパラメータS11、S21を示すグラフである。同図における実線はS21、波線はS11の算出結果である。グラフの縦軸は、Sパラメータの値であり、単位はデシベルである。横軸は、図4の回路に入出力される信号の周波数である。測定点「m1」は、所望の周波数である10GHz帯におけるS21の値である。
【0034】
図6は、図4の回路から得られた反射係数をプロットしたスミスチャートである。同図において、実線の同心円は、定抵抗円である。点線の同心円は、定コンダクタンス円である。太い実線は、図4の回路から求めた、周波数ごとの反射係数S11をプロットして繋げたものである。太い実線上の各点と、スミスチャートの中心(○)との間の距離がS11であり、太い実線上の各点および中心を結ぶ線分がX軸となす角度が位相である。測定点「m2」は、所望の周波数である10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。
【0035】
図6を参照すると、「m2」は、スミスチャートの中心付近になく、所望の周波数においてインピーダンスマッチングがとれていない。これでは、高周波増幅回路13に最大の電力が供給されていないため、高周波回路1は、利得をロスしていることとなる。
【0036】
図5および図6より、オープンスタブ16およびチップ抵抗17を設けない回路では、インピーダンスマッチングがとれていない。このため、図7に示すように、分布定数線路12、およびオープンスタブ16を更に追加した回路について考える。
【0037】
図8は、図7の回路において、周波数ごとに算出されたSパラメータS11、S21を示すグラフである。同図において、測定点「m1」は、10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m1」の利得は十分に高いが、16GHz帯では、出力側の反射係数(S21)がかなり低下し、インピーダンスの位相がほぼショートとなっている。
【0038】
図9は、図7の回路から得られた高周波回路1全体のS11をプロットしたスミスチャートである。同図において、測定点「m2」は、所望の周波数である10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m2」の測定点は、スミスチャートの中心付近に位置し、所望の周波数においてインピーダンスマッチングがとれている。
【0039】
図10は、図7の回路において、上記(3)式を満たすスタビリティサークル上の点を表示したスミスチャートである。同図において、測定点「m3」は、スタビリティサークルの外周上の測定点の1つであり、16GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、この「m3」は、スミスチャートの中心(○)からの距離がほぼ1であり、半径1の円上にある。このため、ちょっとした位相のばらつき等によっては、S11の測定点は、不安定(発振)領域、すなわち半径1のスミスチャート内に入りかねない。
【0040】
まとめると、図8〜図10より、10GHzでインピーダンスマッチングをとる目的で追加した分布定数線路12およびオープンスタブ16が、16GHzにおいては、高周波回路1の不安定性を生じさせる負荷となってしまっている。
【0041】
次に、16GHzでの不安定性を緩和するために、図7の回路において、集中定数としてのチップ抵抗17を更に追加した回路、すなわち図1に示した回路について考える。
【0042】
図11は、図1の回路において、周波数ごとに算出された、高周波回路1全体のSパラメータS11、S21を示すグラフである。図11を参照すると、チップ抵抗17の追加により、図8に示したグラフと比較して、16GHz帯において、出力側の反射係数(S21)が上昇し、ショート性が緩和されている。
【0043】
図12は、高周波回路1全体のS11をプロットしたスミスチャートである。同図において、測定点「m2」は、所望の周波数である10GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m2」は、スミスチャートの中心(○)付近になく、インピーダンスがずれてしまっている。
【0044】
図13は、図1の回路において、上記(3)式を満たすスタビリティサークルを表示したスミスチャートである。同図において、太い実線が、スタビリティサークルの外周である。測定点「m3」は、16GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。この「m3」のスミスチャートの中心(○)からの距離は、約3である。このように、「m3」は、半径1の円内にないため高周波回路1は安定であり、16GHz帯における、高周波回路1の安定性が向上している。
【0045】
まとめると、図11〜図13より、挿入したチップ抵抗17を集中定数回路と捉えると、16GHz帯でのショート性が緩和されるが、所望の周波数である10GHzにおいては、インピーダンスマッチングがとれなくなる。
【0046】
続いて、インピーダンスマッチングの計算において、チップ抵抗17を分布定数回路として捉えた場合、すなわちチップ抵抗17を図3に示した等価回路に置き換えた場合について考える。
【0047】
図14は、チップ抵抗17を分布定数回路として捉えた場合の高周波回路の設計方法を示すフローチャートである。同図を参照すると、設計者は、まず、図5〜図13で使用したADS等のシミュレーションソフトに、チップ抵抗17を分布定数回路として捉えた場合の各種パラメータを入力する(ステップS1)。
【0048】
図3で示した等価回路において、コンデンサ成分、インダクタンス成分は、チップ抵抗17の物理的形状(チップサイズや電極の大きさ)と、周波数とにより定まる。例えば、10GHzにおいて、コンデンサ成分の値は、0.1(pF)、インダクタンス成分の値は、0.01(nH)である。他のパラメータの値は、図4〜図13の場合と同様とする。
【0049】
そして、設計者は、チップ抵抗17の抵抗値の候補を入力する(ステップS2)。設計者は、高周波回路1全体のSパラメータやスミスチャートを出力し、その結果に応じて、長さを変更することで、オープンスタブ16のインピーダンスを調整する。このようにして、設計者は、所望の周波数(10GHz)でインピーダンスマッチングをとる(ステップS3)。
【0050】
次いで、設計者は、所望の周波数より高い高周波帯域(16GHz)で、スタビリティサークルを出力し、高周波回路1の安定性を判断する(ステップS4)。
【0051】
設計者は、上記のシミュレーション結果から、高周波帯域で高周波回路1が安定であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0052】
高周波帯域で高周波回路1が安定でなければ(ステップS5:NO)、設計者は、入力する抵抗値の候補を変更して、ステップS1に戻る。高周波回路1において、インピーダンスマッチングがとれており、且つ高周波回路1が安定であれば(ステップS5:YES)、設計者は、そのときの候補をチップ抵抗17の抵抗値に決定して設計を終了する。
【0053】
図15〜図17は、図14で示した設計方法で、高周波回路1を設計した結果を示す図である。
【0054】
図15は、図1の回路において、周波数ごとに算出されたSパラメータS11、S21を示すグラフである。同図を参照すると、同図において、測定点「m1」は、10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m1」の利得は十分に高い。また、図11に示した結果と同様に、16GHz帯において、ショート性が緩和されている。
【0055】
図16は、図1の回路から得られた、高周波回路1のS11の値をプロットしたスミスチャートである。同図において、測定点「m2」は、所望の周波数である10GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m2」は、スミスチャートの中心付近にあり、インピーダンスマッチングがとれている。
【0056】
図17は、図1の回路において、上記(3)式を満たすスタビリティチャートを表示したスミスチャートである。測定点「m3」は、16GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、この「m3」のスミスチャートの中心(○)からの距離は、約2である。このように、「m3」は、半径1の円内にないため、16GHz帯においても回路は安定している。
【0057】
まとめると、図15〜図17より、挿入したチップ抵抗17を分布定数回路と捉えることにより、16GHz帯でのショート性が緩和され、且つ、所望の周波数(16GHz)においても高周波回路1が安定する。
【0058】
一方、図2の回路を集中定数として捉えた部品で構成すると、部品点数が増加してしまうだけでなく、高周波数帯になると、それらの部品が、分布定数として見えてきてしまう。このため、高周波数帯では、図3の等価回路は、同図に示した回路と異なるものとなり、所望の特性が得られない。
【0059】
なお、図14に示したフローチャートの全部または一部は、コンピュータプログラムを実行することにより、実現することもできる。
【0060】
また、本実施形態では、インピーダンスマッチングをとってから、高周波回路1の安定性を判断していたが、高周波回路1の安定性を判断してからインピーダンスマッチングをとってもよい。
【0061】
本実施形態では、長さを調整するだけでインピーダンス値を変更できる簡易さから、オープンスタブ16を使用したが、インピーダンスを調整できるのであれば、オープンスタブ16の代わりに、ショートスタブを用いてもよいのは勿論である。
【0062】
本実施形態では、オープンスタブ16の付け根にチップ抵抗17を挿入する構成としているが、高周波増幅回路13に並列にチップ抵抗17を接続する構成であれば、オープンスタブ16の付け根以外の箇所に、チップ抵抗17を接続してもよい。
【0063】
本実施形態では、チップ抵抗17として、物理的形状、及び周波数からのリアクタンス値の算出が容易であることから、SMT部品を使用しているが、周波数に対応するリアクタンス値を算出できるのであれば、SMT部品以外の抵抗を用いてもよい。
【0064】
本実施形態の高周波増幅回路13が、本発明の電子回路に相当する。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、電子回路に並列に挿入した抵抗を分布定数回路として捉えるので、高周波回路において適切にインピーダンスマッチングを行うことができる結果、高周波回路の安定性を向上できる。また、コイルやコンデンサなどの部品を挿入しなくてすむので、部品点数を削減できる。
【符号の説明】
【0066】
1 高周波回路
11 入力端子
12 分布定数線路
13 高周波増幅回路
14 出力整合回路
15 出力端子
16 オープンスタブ
17 チップ抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路を設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波増幅回路を設けた高周波回路においては、所望の周波数で動作を安定させるため、特許文献1に記載された回路のように、伝送線路に並列に分布定数線路(スタブ)などを接続してインピーダンスマッチングを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−261301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高周波回路においては、所望の周波数でインピーダンスマッチングを行っても、その周波数以外では不安定となることがあった。
【0005】
そして、その不安定となる周波数においてもインピーダンスマッチングをとるため、所望の集中定数の部品を追加すると、部品点数が増加してしまう。さらに、安定性を維持すべき周波数が高い場合、高い周波数ではそれらの部品が分布定数として見えてきてしまうため、所望の特性が得られないという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、少数の部品で高周波回路の安定性を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の高周波回路の設計方法は、電子回路と、該電子回路に並列に接続されたスタブと、該電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する高周波回路において、該抵抗を分布定数回路である等価回路に置き換え、該高周波回路で用いられる第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれており、且つ前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように、前記スタブのインピーダンス値と、前記等価回路の抵抗値とを設定する、設計方法である。
【0008】
本発明の高周波回路は、電子回路と、高周波回路で用いられる第1の周波数で該高周波回路のインピーダンスマッチングがとれるようにインピーダンス値が設定され、前記電子回路に並列に接続されたスタブと、前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように抵抗値が設定され、前記電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子回路に並列に挿入した抵抗を分布定数回路に置き換えるので、高周波回路において適切にインピーダンスマッチングを行うことができる結果、高周波回路の安定性を向上できる。また、コイルやコンデンサなどの部品を挿入しなくてすむので、部品点数を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の高周波回路の回路図の一例である。
【図2】高周波回路のSパラメータを4端子行列で表わした図である。
【図3】本実施形態のチップ抵抗の等価回路の一例である。
【図4】本実施形態の高周波回路において、分布定数線路、オープンスタブ、およびチップ抵抗をないものとした回路の回路図である。
【図5】図4の回路におけるSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図6】図4の回路から得られたインピーダンスをプロットしたスミスチャートを示す図である。
【図7】本実施形態の高周波回路において、チップ抵抗をないものとした回路の回路図である。
【図8】図7の回路におけるSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図9】図7の回路から得られたインピーダンスをプロットしたスミスチャートである。
【図10】図7の回路から得られた、スタビリティサークル上の点を表示したスミスチャートである。
【図11】チップ抵抗を集中定数回路として捉えた場合のSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図12】チップ抵抗を集中定数回路として捉えた場合のSパラメータをプロットしたスミスチャートである。
【図13】チップ抵抗を集中定数回路として捉えた場合のスタビリティサークルを表示したスミスチャートである。
【図14】本実施形態の高周波回路の設計方法を示すフローチャートである。
【図15】チップ抵抗を分布定数回路として捉えた場合のSパラメータの算出結果を示すグラフである。
【図16】チップ抵抗を分布定数回路として捉えた場合のSパラメータをプロットしたスミスチャートである。
【図17】チップ抵抗を分布定数回路として捉えた場合のスタビリティサークルを表示したスミスチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態の高周波回路1の回路図の一例である。同図を参照すると、高周波回路1は、入力端子11、分布定数線路12、高周波増幅回路13、出力整合回路14、出力端子15、オープンスタブ16、およびチップ抵抗17を有する。
【0012】
分布定数線路12は、高周波回路1の入力端子11と高周波増幅回路13の出力端子とに接続される。分布定数線路12は、インピーダンスマッチングにおいて、分布定数回路として扱われる線路である。
【0013】
高周波増幅回路13は、分布定数線路12からの高周波信号を増幅する回路であり、インピーダンスマッチングの対象となる。出力整合回路14は、高周波増幅回路13の出力端子と、高周波回路1の出力端子15とに接続される。出力整合回路14は、高周波回路1において、所定の周波数において、高周波増幅回路13の出力側でインピーダンスを調整するための回路である。
【0014】
オープンスタブ16は、高周波増幅回路13と並列に接続される分布定数線路である。本実施形態では、オープンスタブ16の幅を固定値とし、長さを可変とする。設計者は、長さを変更することで、オープンスタブ16のインピーダンスを調整することができる。チップ抵抗17は、例えば、オープンスタブ16と、分布定数線路12との間に挿入されるSMT(Surface Mount Technology:表面実装)部品である。
【0015】
インピーダンスマッチングに用いるスタビリティサークルについて説明する。図2は、高周波増幅回路13の特性をSパラメータと呼ばれる4端子行列で表した図である。入力波と反射波との間の関係は、この4端子行列を使用して下記(1)式で表わされる。
【0016】
【数1】
【0017】
・・・(1)
上記(1)式において、S11、S12、S21、およびS22は、高周波増幅回路13のSパラメータであり、a1は、入力端子から回路へ入力される入力波であり、b1は、a1に対応する反射波である。a2は、出力端子側から回路へ入力される入力波であり、b2は、a2に対応する反射波である。
【0018】
特に、S11は、出力側を50Ωで終端したときの入力側の入射波a1に対する反射波b1の割合であり、入力側の反射係数と呼ばれる。また、S12は、入力側を50Ωで終端したときの出力側の入射波a2に対する反射波b2の割合であり、出力側の反射係数と呼ばれる。
【0019】
ここで、図2に示すように、入力端子に反射係数Γsの負荷(受動素子)を付けたときの出力側の反射係数Γout(S12)は、下記(2)式で表わされる。本実施形態では、分布定数線路12、オープンスタブ16、およびチップ抵抗17がΓsの負荷に相当する。
【0020】
【数2】
【0021】
Γout=b2/a2=S22+{(S12*S21*Γs/(1−S11*Γs)}・・・(2)
このとき、Γsのインピーダンスがスミスチャート内のいかなる場所にあっても、上記(2)式における出力反射係数Γoutの絶対値が1より小さければ、高周波回路1は安定であるといえる。
【0022】
ただし、Γoutの絶対値が1以上の場合に必ず発振が起こるというものではなく、負性抵抗の絶対値より負荷インピーダンスの方が大きい場合には発振が起こらない。しかし、Γoutの絶対値が1以上で、負荷インピーダンスが負性抵抗の絶対値以下であれば、発振してしまう。このように、Γoutが1となるΓsのインピーダンスの軌跡は、安定性を判別する上で重要である。
【0023】
そこで、下記(3)式を満たすΓsのインピーダンス領域を図示したものがスタビリティサークルである。
【0024】
【数3】
【0025】
|Γs|≧1・・・(3)
上記(3)式を満たすΓsのインピーダンス領域が半径1のスミスチャート内に存在しなければ、負性抵抗の絶対値より負荷インピーダンスの値のほうが大きいということになり、回路は安定であるといえる。逆に、このインピーダンス領域が半径1のスミスチャート内に存在すると、負性抵抗の絶対値より負荷インピーダンスの値が小さいことになり高周波回路1が発振し得ることになる。このように、スタビリティサークルを用いることで、視覚的に安定性を判別できる。
【0026】
続いてインピーダンスマッチングの方法について説明する。一般的には、入力端子11から入力された入力信号の周波数が、所望の周波数で安定するように、分布定数線路12およびオープンスタブ16でインピーダンスマッチングがなされる。しかし、このインピーダンスマッチングの結果、追加した負荷が、所望の周波数以外の、ある周波数にとっては、不安定な負荷となり、高周波回路1としての安定性が損なわれることがある。
【0027】
そこで、チップ抵抗17がオープンスタブ16の付け根に挿入される。このチップ抵抗17の挿入により、不安定となる周波数においても、高周波回路1の安定性が改善される。
【0028】
ところが、チップ抵抗17を挿入すると、ある周波数で高周波回路1の安定性が向上するものの、所望の周波数では、インピーダンスがずれてしまうことがある。
【0029】
このため、インピーダンスマッチングにおいて、チップ抵抗17は、図3に示す等価回路に置き換えて計算される。同図を参照すると、等価回路は、抵抗成分のほか、コンデンサ成分やインダクタンス成分を含む。チップ抵抗17を等価回路に置き換えた場合の設計方法の詳細については、図14で後述する。
【0030】
続いて、図4〜図13を参照してチップ抵抗17の挿入の効果について、説明する。図5、図6、および図8〜図13は、アジレント・テクノロジー株式会社製のAdvanced Design System(登録商標)を使用して、Sパラメータやスミスチャートをシミュレートした結果を示す図である。シミュレーションにおいて、オープンスタブ16の幅を0.2mmとし、インピーダンスマッチングにおける所望の周波数は、10GHzとした。この10GHzより、ある程度高い周波帯域でも回路が発振しないことが望ましい。この安定性を維持すべき周波数を16GHzとした。また、高周波増幅回路13として、FET(Field Effect Transistor)を用いた。
【0031】
上記の条件下で、オープンスタブ16のインピーダンス値、抵抗17の抵抗値を可変とし、シミュレーション結果に応じて、これらの値を適宜変更することにより、適切にインピーダンスマッチングをとることが可能となる。
【0032】
まず、図4に示すように、図1の高周波回路1において、分布定数線路12、オープンスタブ16、およびチップ抵抗17をないものとし、高周波増幅回路13の入出力端が理想的な50Ω線路で接続されている場合について考える。
【0033】
図5は、図4の回路において、周波数ごとに算出された高周波増幅回路13のSパラメータS11、S21を示すグラフである。同図における実線はS21、波線はS11の算出結果である。グラフの縦軸は、Sパラメータの値であり、単位はデシベルである。横軸は、図4の回路に入出力される信号の周波数である。測定点「m1」は、所望の周波数である10GHz帯におけるS21の値である。
【0034】
図6は、図4の回路から得られた反射係数をプロットしたスミスチャートである。同図において、実線の同心円は、定抵抗円である。点線の同心円は、定コンダクタンス円である。太い実線は、図4の回路から求めた、周波数ごとの反射係数S11をプロットして繋げたものである。太い実線上の各点と、スミスチャートの中心(○)との間の距離がS11であり、太い実線上の各点および中心を結ぶ線分がX軸となす角度が位相である。測定点「m2」は、所望の周波数である10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。
【0035】
図6を参照すると、「m2」は、スミスチャートの中心付近になく、所望の周波数においてインピーダンスマッチングがとれていない。これでは、高周波増幅回路13に最大の電力が供給されていないため、高周波回路1は、利得をロスしていることとなる。
【0036】
図5および図6より、オープンスタブ16およびチップ抵抗17を設けない回路では、インピーダンスマッチングがとれていない。このため、図7に示すように、分布定数線路12、およびオープンスタブ16を更に追加した回路について考える。
【0037】
図8は、図7の回路において、周波数ごとに算出されたSパラメータS11、S21を示すグラフである。同図において、測定点「m1」は、10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m1」の利得は十分に高いが、16GHz帯では、出力側の反射係数(S21)がかなり低下し、インピーダンスの位相がほぼショートとなっている。
【0038】
図9は、図7の回路から得られた高周波回路1全体のS11をプロットしたスミスチャートである。同図において、測定点「m2」は、所望の周波数である10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m2」の測定点は、スミスチャートの中心付近に位置し、所望の周波数においてインピーダンスマッチングがとれている。
【0039】
図10は、図7の回路において、上記(3)式を満たすスタビリティサークル上の点を表示したスミスチャートである。同図において、測定点「m3」は、スタビリティサークルの外周上の測定点の1つであり、16GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、この「m3」は、スミスチャートの中心(○)からの距離がほぼ1であり、半径1の円上にある。このため、ちょっとした位相のばらつき等によっては、S11の測定点は、不安定(発振)領域、すなわち半径1のスミスチャート内に入りかねない。
【0040】
まとめると、図8〜図10より、10GHzでインピーダンスマッチングをとる目的で追加した分布定数線路12およびオープンスタブ16が、16GHzにおいては、高周波回路1の不安定性を生じさせる負荷となってしまっている。
【0041】
次に、16GHzでの不安定性を緩和するために、図7の回路において、集中定数としてのチップ抵抗17を更に追加した回路、すなわち図1に示した回路について考える。
【0042】
図11は、図1の回路において、周波数ごとに算出された、高周波回路1全体のSパラメータS11、S21を示すグラフである。図11を参照すると、チップ抵抗17の追加により、図8に示したグラフと比較して、16GHz帯において、出力側の反射係数(S21)が上昇し、ショート性が緩和されている。
【0043】
図12は、高周波回路1全体のS11をプロットしたスミスチャートである。同図において、測定点「m2」は、所望の周波数である10GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m2」は、スミスチャートの中心(○)付近になく、インピーダンスがずれてしまっている。
【0044】
図13は、図1の回路において、上記(3)式を満たすスタビリティサークルを表示したスミスチャートである。同図において、太い実線が、スタビリティサークルの外周である。測定点「m3」は、16GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。この「m3」のスミスチャートの中心(○)からの距離は、約3である。このように、「m3」は、半径1の円内にないため高周波回路1は安定であり、16GHz帯における、高周波回路1の安定性が向上している。
【0045】
まとめると、図11〜図13より、挿入したチップ抵抗17を集中定数回路と捉えると、16GHz帯でのショート性が緩和されるが、所望の周波数である10GHzにおいては、インピーダンスマッチングがとれなくなる。
【0046】
続いて、インピーダンスマッチングの計算において、チップ抵抗17を分布定数回路として捉えた場合、すなわちチップ抵抗17を図3に示した等価回路に置き換えた場合について考える。
【0047】
図14は、チップ抵抗17を分布定数回路として捉えた場合の高周波回路の設計方法を示すフローチャートである。同図を参照すると、設計者は、まず、図5〜図13で使用したADS等のシミュレーションソフトに、チップ抵抗17を分布定数回路として捉えた場合の各種パラメータを入力する(ステップS1)。
【0048】
図3で示した等価回路において、コンデンサ成分、インダクタンス成分は、チップ抵抗17の物理的形状(チップサイズや電極の大きさ)と、周波数とにより定まる。例えば、10GHzにおいて、コンデンサ成分の値は、0.1(pF)、インダクタンス成分の値は、0.01(nH)である。他のパラメータの値は、図4〜図13の場合と同様とする。
【0049】
そして、設計者は、チップ抵抗17の抵抗値の候補を入力する(ステップS2)。設計者は、高周波回路1全体のSパラメータやスミスチャートを出力し、その結果に応じて、長さを変更することで、オープンスタブ16のインピーダンスを調整する。このようにして、設計者は、所望の周波数(10GHz)でインピーダンスマッチングをとる(ステップS3)。
【0050】
次いで、設計者は、所望の周波数より高い高周波帯域(16GHz)で、スタビリティサークルを出力し、高周波回路1の安定性を判断する(ステップS4)。
【0051】
設計者は、上記のシミュレーション結果から、高周波帯域で高周波回路1が安定であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0052】
高周波帯域で高周波回路1が安定でなければ(ステップS5:NO)、設計者は、入力する抵抗値の候補を変更して、ステップS1に戻る。高周波回路1において、インピーダンスマッチングがとれており、且つ高周波回路1が安定であれば(ステップS5:YES)、設計者は、そのときの候補をチップ抵抗17の抵抗値に決定して設計を終了する。
【0053】
図15〜図17は、図14で示した設計方法で、高周波回路1を設計した結果を示す図である。
【0054】
図15は、図1の回路において、周波数ごとに算出されたSパラメータS11、S21を示すグラフである。同図を参照すると、同図において、測定点「m1」は、10GHz帯におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m1」の利得は十分に高い。また、図11に示した結果と同様に、16GHz帯において、ショート性が緩和されている。
【0055】
図16は、図1の回路から得られた、高周波回路1のS11の値をプロットしたスミスチャートである。同図において、測定点「m2」は、所望の周波数である10GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、「m2」は、スミスチャートの中心付近にあり、インピーダンスマッチングがとれている。
【0056】
図17は、図1の回路において、上記(3)式を満たすスタビリティチャートを表示したスミスチャートである。測定点「m3」は、16GHzの周波数におけるS11の値をプロットした点である。同図を参照すると、この「m3」のスミスチャートの中心(○)からの距離は、約2である。このように、「m3」は、半径1の円内にないため、16GHz帯においても回路は安定している。
【0057】
まとめると、図15〜図17より、挿入したチップ抵抗17を分布定数回路と捉えることにより、16GHz帯でのショート性が緩和され、且つ、所望の周波数(16GHz)においても高周波回路1が安定する。
【0058】
一方、図2の回路を集中定数として捉えた部品で構成すると、部品点数が増加してしまうだけでなく、高周波数帯になると、それらの部品が、分布定数として見えてきてしまう。このため、高周波数帯では、図3の等価回路は、同図に示した回路と異なるものとなり、所望の特性が得られない。
【0059】
なお、図14に示したフローチャートの全部または一部は、コンピュータプログラムを実行することにより、実現することもできる。
【0060】
また、本実施形態では、インピーダンスマッチングをとってから、高周波回路1の安定性を判断していたが、高周波回路1の安定性を判断してからインピーダンスマッチングをとってもよい。
【0061】
本実施形態では、長さを調整するだけでインピーダンス値を変更できる簡易さから、オープンスタブ16を使用したが、インピーダンスを調整できるのであれば、オープンスタブ16の代わりに、ショートスタブを用いてもよいのは勿論である。
【0062】
本実施形態では、オープンスタブ16の付け根にチップ抵抗17を挿入する構成としているが、高周波増幅回路13に並列にチップ抵抗17を接続する構成であれば、オープンスタブ16の付け根以外の箇所に、チップ抵抗17を接続してもよい。
【0063】
本実施形態では、チップ抵抗17として、物理的形状、及び周波数からのリアクタンス値の算出が容易であることから、SMT部品を使用しているが、周波数に対応するリアクタンス値を算出できるのであれば、SMT部品以外の抵抗を用いてもよい。
【0064】
本実施形態の高周波増幅回路13が、本発明の電子回路に相当する。
【0065】
以上説明したように、本発明によれば、電子回路に並列に挿入した抵抗を分布定数回路として捉えるので、高周波回路において適切にインピーダンスマッチングを行うことができる結果、高周波回路の安定性を向上できる。また、コイルやコンデンサなどの部品を挿入しなくてすむので、部品点数を削減できる。
【符号の説明】
【0066】
1 高周波回路
11 入力端子
12 分布定数線路
13 高周波増幅回路
14 出力整合回路
15 出力端子
16 オープンスタブ
17 チップ抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路と、該電子回路に並列に接続されたスタブと、該電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する高周波回路において、該抵抗を分布定数回路である等価回路に置き換え、
該高周波回路で用いられる第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれており、且つ前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように、前記スタブのインピーダンス値と、前記等価回路の抵抗値とを設定する、高周波回路の設計方法。
【請求項2】
前記インピーダンス値、及び前記抵抗値の設定において、
前記抵抗値の候補を設定し、
前記第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれるように、前記インピーダンスを設定してから、前記第2の周波数で前記高周波回路が安定するか否かを判断し、
前記高周波回路が安定するのであれば、前記候補を前記等価回路の抵抗値とする、請求項1に記載の高周回路の設定方法。
【請求項3】
前記スタブは、オープンスタブであり、該オープンスタブの長さを調整することにより、前記インピーダンス値を設定する、請求項2に記載の高周波回路の設計方法。
【請求項4】
前記抵抗は、SMT部品であり、
前記等価回路のリアクタンス値は、該SMT部品の物理的形状と、周波数とにより定まる値である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波回路の設計方法。
【請求項5】
電子回路と、
高周波回路で用いられる第1の周波数で該高周波回路のインピーダンスマッチングがとれるようにインピーダンス値が設定され、前記電子回路に並列に接続されたスタブと、
前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように抵抗値が設定され、前記電子回路に並列に接続された抵抗と、
を有する高周波回路。
【請求項1】
電子回路と、該電子回路に並列に接続されたスタブと、該電子回路に並列に接続された抵抗と、を有する高周波回路において、該抵抗を分布定数回路である等価回路に置き換え、
該高周波回路で用いられる第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれており、且つ前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように、前記スタブのインピーダンス値と、前記等価回路の抵抗値とを設定する、高周波回路の設計方法。
【請求項2】
前記インピーダンス値、及び前記抵抗値の設定において、
前記抵抗値の候補を設定し、
前記第1の周波数で前記高周波回路のインピーダンスマッチングがとれるように、前記インピーダンスを設定してから、前記第2の周波数で前記高周波回路が安定するか否かを判断し、
前記高周波回路が安定するのであれば、前記候補を前記等価回路の抵抗値とする、請求項1に記載の高周回路の設定方法。
【請求項3】
前記スタブは、オープンスタブであり、該オープンスタブの長さを調整することにより、前記インピーダンス値を設定する、請求項2に記載の高周波回路の設計方法。
【請求項4】
前記抵抗は、SMT部品であり、
前記等価回路のリアクタンス値は、該SMT部品の物理的形状と、周波数とにより定まる値である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の高周波回路の設計方法。
【請求項5】
電子回路と、
高周波回路で用いられる第1の周波数で該高周波回路のインピーダンスマッチングがとれるようにインピーダンス値が設定され、前記電子回路に並列に接続されたスタブと、
前記高周波回路が安定すべき第2の周波数で前記高周波回路が安定するように抵抗値が設定され、前記電子回路に並列に接続された抵抗と、
を有する高周波回路。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−288133(P2010−288133A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141168(P2009−141168)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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