説明

高周波接地構造

【課題】 本発明は、高周波接地を確実に行うことにより、増幅器の増幅率の低下を防止し、かつ異常発振を防ぐ等の良好な高周波特性を得ることができる高周波接地構造を提供する。
【解決手段】 回路基板上のパッケージMMIC30の部品直下に、実装するMMIC30の部品よりも若干小さな貫通穴38を開け、回路基板下部の金属基板35との間隙に高周波接地を強化する良導電性の金属部材32を配置する高周波接地構造である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高周波回路部品の実装構造に係り、特に、トランジスタ等の能動素子、及び能動素子と受動素子を一体化したMIC(マイクロ波集積回路)等のマイクロ波帯及びミリ波帯等の高周波領域で用いられる高周波回路部品における高周波接地構造に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、周波数資源の枯渇により、これまで利用されていないマイクロ波・ミリ波帯のシステム応用が期待されている。マイクロ波・ミリ波は、他の低い周波数と比較して空間減衰が大きく、無線伝送距離が短いために周波数の折り返し利用が可能という利点が有り、さらに広帯域伝送が可能なことから大容量の情報を高速に伝達するのに適した高速無線LANシステム、コードレスカメラシステム、画像モニタシステム、高速無線ネットワーク等の実用化が急ピッチで進められている。
【0003】このようなシステムを実現するためにMIC等の高周波回路部品が使用されている。MICには、アルミナなどの誘電体基板上に伝送路を形成し、その上にチップ部品を搭載したハイブリッドMIC(HMIC)、およびGaAs、Si等の半導体基板上に受動素子と能動素子を一括製造したモノリシックMIC(MMIC)等がある。
【0004】以下、従来の高周波回路部品の実装構造を図8〜図11を用いて説明する。図8は、高周波ユニットの一例を示す図であり、図9は、従来のMMICチップを基板上に実装したときの外観斜視図であり、図10は、従来のMMICチップを基板上に実装したときの実装断面図であり、図11は、従来の実装方法での帰還量の一例を示す図である。
【0005】マイクロ波・ミリ波集積回路ユニットは、例えば、図8に示すように、金属筺体11のキャビティ部に複数の誘電体基板12〜15が併設されており、各々の誘電体基板上には一つあるいは複数の高周波回路部品であるパッケージMMIC12a、あるいはMMICチップ13aが実装され、図示しないが各誘電体基板間の信号ラインは金属細線によるワイヤボンディングにより電気的に接続される。そして、金属筺体11の側壁には誘電体基板の信号ライン及びグランドと接続されたコネクタ16が設けられ外部回路と接統される。
【0006】また、図示しないが高周波回路部品の実装方法として、MMICチップ13aを実装する場合は金属細線によるワイヤボンディング、リボンボンディング、あるいは金属バンプを用いて直接接続するフリップチップボンディング等がある。また、パッケージMMIC12aを実装する場合は、上記接続方法以外に導電性接着剤もしくは半田づけによる接続方法がある。ワイヤボンディングでは、複数のワイヤーを並列にボンディングすることで低損失化を行うのが一般的である。
【0007】図9では、一枚の誘電体基板上にひとつのパッケージMMICを実装した従来例を示している。図9R>9に示すように、コバール(Fe−Ni−Co合金)等の導電性の金属基板22上に誘電体基板21が金すず(AnSn)等によるろう付けや半田付けにより接合され、誘電体基板21上に低雑音増幅器、あるいは高出力増幅器等のパッケージMMIC24が実装される。
【0008】パッケージMMIC24は、入出力端子24a,24bおよびグランド端子24c,24dを有しており、入出力端子24a,24bは誘電体基板21に形成されたマイクロストリップライン25,26に導電性接着剤等により電気的に接続され、グランド端子24c,24dはアースパターン27,28に接続されている。そして、表面のアースパターン27,28と裏面のベタアース29はスルーホール27a,28aにより接続されている。
【0009】しかしながら上記構成にあっては、誘電体基板21上面のアースがスルーホール27a,28aを介して裏面に接続されているため、スルーホール27a,28aのインダクタンス成分が存在し、パッケージMMIC24の良好な高周波接地がとれなくなり、増幅器の増幅率を落とす場合がある。
【0010】この問題の対策として、図示しないがパッケージMMIC24のグランド端子24c,24dとスルーホール27a,28aのそれぞれの間にコンデンサを実装し、コンデンサとスルーホール27a,28aのインダクタンス成分による直列共振により両面のアースを高周波的に短絡する方法がある。
【0011】しかしながら、短絡されるのは共振周波数近傍の限られた周波数帯域のみであり、また、共振周波数においてもスルーホールの直列抵抗、コンデンサの損失抵抗等により完全に短絡することができないという問題がある。
【0012】また、図10のパッケージMMIC実装断面図に示すように、ミリ波周波数帯ではパッケージMMIC24の出力端子24bから入力端子24aにグランド端子24c,24dを飛び越し空間的な結合が発生して帰還する場合がある。その特性例を図11に示す。増幅率の大きい増幅器の場合は、帰還量の大きな周波数(この例では33GHz)で発振が起きることがある。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】前述する通り、上記従来の高周波回路部品の実装方法、あるいは高周波部品の物理的構造により高周波特性が非常に悪くなり、最悪の場合は不要周波数での発振が発生するなど、本来の設計通りの特性が得られない等の問題点があった。
【0014】本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものでありマイクロ波・ミリ波帯のような超高周波数帯においても、高周波接地を確実に行うことにより、増幅器の増幅率の低下を防止し、かつ異常発振を防ぐ等の良好な高周波特性を得ることができる高周波接地構造を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記従来例の問題点を解決するための本発明は、回路基板上のパッケージMMIC部品直下に、実装するMMIC部品よりも若干小さな貫通穴を開け、回路基板下部の金属基板との間隙に高周波接地を強化する良導電性金属を配置するものである。また、金属基板と接地補強用良伝導性金属との接続は、ろう付けや半田付け、および導電性接着剤等にて行う。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る高周波接地構造は、表面にマイクロストリップ線路及びアースパッドが形成され、裏面にベタアースが形成される誘電体基板と、誘電体基板と一体化される金属基板に該ベタアースが接合され、誘電体基板に設けられた貫通穴部に高周波接地部材が配置され、該高周波接地部材がアースパッドと金属基板に接合されることにより、アースパッドが高周波接地部材を介して金属基板に高周波接地されるものである。これにより、高周波接地を確実に行うことにより、増幅器の増幅率の低下を防止し、かつ異常発振を防ぐ等の良好な高周波特性を得ることができる。
【0017】また、本発明の実施の形態に係る高周波回路部品の実装構造は、表面にマイクロストリップラインが形成され、裏面にベタアースが形成された誘電体基板上と、ベタアースに接合された金属基板とを具備し、誘電体基板の表面には高周波回路部品が実装され、高周波回路部品の直下に貫通穴を有し、金属基板上に高周波接地部材を配置するものである。
【0018】また、本発明の実施の形態に係る高周波回路部品の実装構造は、表面にマイクロストリップラインが形成され、裏面にベタアースが形成された誘電体基板上と、ベタアースに接合された金属基板とを具備し、誘電体基板の表面には高周波回路部品が実装され、高周波回路部品の直下に貫通穴を有し、金属基板上に入出力端子の高周波結合を防ぐためのしきりを設けた高周波接地部材を配置するものである。
【0019】また、本発明の実施の形態に係る高周波回路部品の実装構造は、表面にコプレナー線路が形成され、裏面にベタアースが形成された誘電体基板上と、ベタアースに接合された金属基板とを具備し、誘電体基板の表面には高周波回路部品が実装され、高周波回路部品の直下に貫通穴を有し、金属基板上に高周波接地部材を配置するものである。
【0020】また、上記高周波回路部品の実装行動では、金属基板上に高周波接地部材の機能を有する突起形状を持つようにしてもよい。
【0021】本発明の実施の形態に係る高周波接地構造について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る高周波接地構造を説明するための、基板パターン面から見た分解斜視図である。本発明の実施の形態における概略構造は、金属基板35と誘電体基板39が一体化され、誘電体基板39に設けられた貫通穴38に高周波接地を強化する良導電性の金属部材32を設置し、その上にパッケージMMICチップ30が搭載されて、金属筺体36上に固定されるものとなっている。
【0022】以下に本発明の実施の形態における具体例を、図面を参照して説明する。図1には、本発明の構成を示す一例として低雑音増幅器であるパッケージMMICチップ30を比誘電率10.0、厚さ0.25mmのセラミック基板39に実装するときの分解斜視図を示す。図2にはパッケージMMICチップ30中心の断面図を示している。
【0023】セラミック基板39上のパッケージMMICチップ30の実装部分直下には貫通穴38が開いており、高周波接地を強化する良導電性の金属部材32が挿入される構成になっている。また、セラミック基板39上にはスルーホールはなく、パッケージMMICチップ30の部品実装用のアースパッドパターン42があるだけである。
【0024】次に、本発明の高周波集積回路モジュールをマイクロ波・ミリ波集積回路ユニット筐体に取り付ける実装手順について簡単に説明する。セラミック基板39を良導電性金属基板であるコバール板35(Fe−Ni−Co合金)に金すず(AuSn)を用いたろう付けや半田付けを行って一体化させた後に、セラミック基板39の貫通穴方向から露出するコバール板35上に良導電性金属である金属部材32をろう付けや半田付け、および導電性接着剤等にて固定する。金属部材32とアースパッド42を接続して、アースパッド42とMMICチップ30のグランド端子とを接続する。
【0025】また、図3に示すように、高周波接地する良導電性金属部材52は、パッケージMMICチップ30の端子形状により、入出力端子間にしきりを設けた構造にして、入出力端子間の結合を抑え、異常発振を抑えることを可能としている。図1、図3ともにMMICチップ30の入出力端子が金属部材32,52とショートしないように入出力端子を逃げた構造になっている。図3R>3は、本発明の別の実施の形態に係る金属部材の一実施形態を説明するための、基板パターン面から見た分解斜視図である。
【0026】本実施の形態での入出力端子間の結合特性を従来例と比較して図4に示す。図4は、本発明の実施の形態に係る実装方法での帰還量の一例を示す図である。しきりを設けたことで、広い周波数帯において帰還量が減少し、特定周波数で異常発振を引き起こすような急峻な帰還量の増加がないことがわかる。
【0027】その他の実施の形態の例では、図5に示すように、ベース金属板35に直接エッチング処理を施してベース金属板35上に金属部材62を併せ持つ構造にしても同様の効果があり、金属部材62を実装する工数の削減が可能である。
【0028】上記実施の形態の例と同様に、金属部材62の突起形状はMMICチップ30の入出力端子が金属部材62とショートしないように入出力端子を逃げた構造であり、入出力ラインでの直接の高周波結合を防ぐためのしきりを設けた図3のような構造も同様に考えられる。
【0029】また、その他の実施の形態の例では、MMICベアチップのようなコプレナー線路を有するMMICチップ部品に対する接地構造も同様であり、図6に示す通りである。図6は、本発明の別の実施の形態に係る高周波接地構造において、コプレナー線路を有するMMICチップ部品に対する接地構造を示す分解斜視図である。
【0030】図6の例では、信号ライン33部とアースパターン72部にマイクロストリップ・コプレナー変換部を設けた誘電体基板39上に、実装するMMICチップ70の部品直下にチップ部品よりも若干小さな貫通穴38を開け、回路基板下部の金属基板35との間隙に高周波接地用の良導電性の金属部材71を配置している。
【0031】但し、この場合の金属部材71上面は平らな形状が望ましい。尚、実装状態は図7の斜視図のようになり、MMICベアチップ70を金すず(AuSn)付けしたのちにワイヤボンディングにより信号ラインとグランドラインの接続を行っている。図7は、本発明の別の実施の形態に係る高周波接地構造において、コプレナー線路のMMICチップ部品が実装された一形態を示す外観斜視図である。
【0032】この場合も、ベースとなる金属基板35であるコバール板に直接エッチング処理を施して、その金属基板35上に図5の金属部材62を併せ持つ構造にしても同様の効果がある。
【0033】これまで上述した実施の形態のいずれにおいても、高周波集積回路(MIC,MMIC)がひとつしか実装していない最も簡単な場合について記述しているが、複数ある場合でも同様の方法で対応することが可能なことは明らかである。また、マイクロコンデンサや薄膜抵抗などの能動素子の接地についても寄生インダクタンスを抑制するための方法として積極的に利用可能である。
【0034】本発明の実施の形態の高周波接地構造によれば、マイクロ波・ミリ波帯のような超高周波帯においても高周波集積回路であるMIC,MMIC周辺の接地構造を、回路基板上のMMICチップ部品直下に貫通穴38を開け、回路基板下部のベース金属基板との間隙に高周波接地補強用の良導電性の金属部材を配置することで、MIC,MMICの接地に対して寄生するインダクタンスを大幅に低減でき良好な高周波特性が得られ、不要周波数での発振等の問題が発生せずに設計通りの特性が得られるという絶大な効果が得られる。
【0035】
【発明の効果】本発明によれば、表面にマイクロストリップ線路及びアースパッドが形成され、裏面にベタアースが形成される誘電体基板と、誘電体基板と一体化される金属基板に該ベタアースが接合され、誘電体基板に設けられた貫通穴部に高周波接地部材が配置され、該高周波接地部材がアースパッドと金属基板に接合されることにより、アースパッドが高周波接地部材を介して金属基板に高周波接地される高周波接地構造としているので、高周波接地を確実に行うことができ、増幅器の増幅率の低下を防止し、かつ異常発振を防ぐ等の良好な高周波特性を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る高周波接地構造において、基板パターン面から見た分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る実装方法による実装断面図である。
【図3】本発明の別の実施の形態に係る金属部材の一実施形態を説明するための、基板パターン面から見た分解斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る実装方法での帰還量の一例を示す図である。
【図5】本発明の別の実施の形態に係る高周波接地構造において、金属基板上に金属部材を設けたことを示す分解斜視図である。
【図6】本発明の別の実施の形態に係る高周波接地構造において、コプレナー線路を有するMMICチップ部品に対する接地構造を示す分解斜視図である。
【図7】本発明の別の実施の形態に係る高周波接地構造において、コプレナー線路のMMICチップ部品が実装された一形態を示す外観斜視図である。
【図8】高周波ユニットの一例を示す図である。
【図9】従来のMMICチップを基板上に実装したときの外観斜視図である。
【図10】従来のMMICチップを基板上に実装したときの実装断面図である。
【図11】従来の実装方法での帰還量の一例を示す図である。
【符号の説明】
11、25,36…金属筐体、 12〜15,21,39…誘電体基板、 12a,24,30…パッケージMMIC、 13a,70…MMICチップ、16…コネクタ、 22,35…金属基板、 23,31…ねじ、 24a,24b…入出力端子、 24c,24d…グランド端子、 25,26…マイクロストリップライン、 27,28…アースパターン、 27a,28a…スルーホール、 29…ベタアース、 32,52,71…金属部材、 33…基板パターン、 34…ねじ貫通穴、 37…ねじタップ、 38…貫通穴、 42…アースパッドパターン、 62…金属基板上の突起、 72…アースパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面にマイクロストリップ線路及びアースパッドが形成された誘電体基板の裏面にベタアースが形成され、該ベタアースが金属基板に接合され、前記誘電体基板に設けられた貫通穴部に高周波接地部材が配置され、該高周波接地部材が前記アースパッドと前記金属基板に接合されることにより、前記アースパッドが前記高周波接地部材を介して前記金属基板に高周波接地されることを特徴とする高周波接地構造。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図5】
image rotate


【図7】
image rotate


【図9】
image rotate


【図4】
image rotate


【図6】
image rotate


【図8】
image rotate


【図10】
image rotate


【図11】
image rotate


【公開番号】特開2001−284490(P2001−284490A)
【公開日】平成13年10月12日(2001.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−95578(P2000−95578)
【出願日】平成12年3月30日(2000.3.30)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】