説明

高周波誘導加熱用コイル及びその製造方法と自動車用動力伝達部品

【課題】軸方向に外径が異なる回転軸の被熱処理部を均一に熱処理するとともに、この熱処理の際に高周波誘導加熱用コイルが冷却不均一に起因した熱応力で劣化するのを防止する。
【解決手段】互いに左右対称形状あるいは左右非対称形状である第1及び第2の樋状部材2a、2bと、この両樋状部材2a、2bの開口部3を覆う複数の蓋4とで高周波誘導加熱用コイル1を構成する。この樋状部材2は、回転軸5の外形に沿うように、円弧部6、9、直胴部7、拡径部8が形成され、この回転軸5の被熱処理部を均一に加熱し得るようになっている。この拡径部8においては、その内径とともに外径も拡径させることで、コイル1の断面積を確保している。このためコイル1の冷却が均一に行われ、熱応力に起因してコイル1の劣化が進むのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車用動力伝達部品の回転軸のように、軸方向位置において異なる外径を有する部材に熱処理を施すための高周波誘導加熱用コイルと、その製造方法、及びこの高周波誘導加熱用コイルを用いて熱処理を施した自動車用動力伝達部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用動力伝達部品であるハブ輪、ハブ外輪、等速ジョイント等は、鉄鋼等の金属材料から構成され、その材料特性(硬度、靭性、機械強度等)を高めるために、熱処理が行われることが多い。この熱処理方法の一つとして、図3及び4に示す高周波誘導加熱用コイル1を用いた方法がある。この方法は、コイル1を前記構成部品の被熱処理部の外形に沿うように形成し、このコイル1内に、ハブ輪や等速ジョイント等の回転軸5を差込み(図5及び6を参照)、このコイル1に高周波電流を付与してその回転軸5の被熱処理部のみを局所加熱するものである。このコイル1と被熱処理部との隙間は、被熱処理部の形状特性や熱処理仕様に対応して調整されている。このようにコイル1を被熱処理部の外形に沿わせることで、この被熱処理部において、熱処理仕様に対応した熱処理がなされる。
【0003】
このコイル1には銅等からなる金属の管が用いられる。この管内に冷媒を流通させて、高周波電流による自己発熱、及び、被熱処理部からの輻射熱によってコイル1が高温になるのを防止している。
【0004】
このコイル1の作製は、図7及び8に示すように、コイル1の第1の円弧部6、直胴部7、拡径部8、第2の円弧部9からなる樋状部材を形成し、この各樋状部材に蓋4を設けて管状とし、これらを連結することによってなされる。この樋状部材及び蓋4の素材としては一般的に銅が用いられ、その連結には銀を主成分とする銀ロウが用いられることが多い。この銀ロウは融点がそれほど高くないため(700〜800℃程度)、ロウ付け作業が簡便である反面、その機械強度が必ずしも高くない。このため、図3及び4中において破線丸印で囲んだ部分のように、樋状部材同士が角部をもって連結され、かつ、処理対象物に面する箇所においては、電流密度の集中による自己発熱と、この処理対象物からの輻射によって熱応力が集中しやすく、この応力集中によって銀ロウ部分が破断する問題がある。
【0005】
これらの問題は、前記銀ロウに変えて、コイル1と同一素材であってかつ高融点(1100℃程度)の銅ロウを用いることによって解決し得る。しかしながら、この銅ロウは高融点のためにロウ付け作業が難しく熟練度が要求され、作業コストが増大するという問題がある。
【0006】
これらの諸問題を解決すべく、特許文献1には、円柱状の第1金属素材の周面に溝加工を施し、その溝加工後に、この第1金属素材の外径と同一内径の円筒状の第2金属素材を第1金属素材の表面にロウ付け(銅ロウではない低融点のロウによるロウ付け)して前記溝を塞ぎ、さらに、第1及び第2金属素材の周面及び第1金属素材の軸心を研削する、高周波加熱コイルの製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−36473号公報
【0007】
この製造方法によって製造される高周波加熱コイルは、クランクシャフト等の回転軸における外径同一部を熱処理するためのものであって、同文献の図8に示すように、このコイルの内径側にその処理対象物が配置される。この配置においては、前記ロウ付け部分が被熱処理部の反対側となっていて、そのロウ付け部分がこの被熱処理部からの輻射の影響を受けにくい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献1に示す製造方法にて作製した高周波誘導加熱用コイルは、その内径が軸方向位置によらず一定であるため、軸方向に亘って同一外径の処理対象物しか処理できない。
軸方向に外径が異なる処理対象物を処理するために、このコイルの外径を保ちつつ、内径のみを被熱処理部の外径に対応して部分的に拡径することも考えられるが、その場合、この拡径の分だけコイルの断面積が減少し、このコイル内を流通する冷媒の流動が妨げられる。その結果、コイルの冷却が不均一となって、新たに熱応力が発生してこのコイルの劣化を引き起こす恐れがある。
【0009】
そこで、この発明は、軸方向に外径が異なる処理対象物の被熱処理部を均一に熱処理するとともに、この熱処理の際に高周波誘導加熱用コイルが冷却不均一に起因した熱応力で劣化するのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明は、被熱処理部の外形に沿うように高周波誘導加熱用コイルの内径を拡径させるとともに、この内径の拡径に対応して、前記コイルの外径も拡径させるようにした。
これにより、被熱処理部と前記コイルとの隙間を所定の所望の値とすることができるため、その被熱処理部を均一に熱処理することができる。さらに、前記コイルの内径と外径をともに拡径させることにより、コイルの断面積が確保できるため、コイル内の冷媒の流動が妨げられない。このため、前記コイルの冷却状態が不均一となってこのコイルに熱応力が生じて劣化が進むのを防止することができる。
【0011】
この発明の構成としては、樋状部材と、その樋状部材の開口部を隙間なく覆う蓋とで構成され、前記樋状部材を処理対象物の被熱処理部に沿わせつつ、前記開口部が前記被熱処理部の反対側となるように配置した管状の高周波誘導加熱用コイルにおいて、前記樋状部材を覆う複数の蓋のうち、少なくとも1枚の蓋の嵌め込み方向が、それ以外の蓋の嵌め込み方向が含まれる平面と同一平面内にないように配置する。
【0012】
ここでいう「蓋の嵌め込み方向」とは、例えば、樋状部材の開口部が垂直方向の上向きの場合においては、垂直方向の下向きのことを指す。
【0013】
また、「同一平面内にない」とは、異なる二つの嵌め込み方向によって一つの平面が定義されるが、この平面と傾きをなす第3の嵌め込み方向が存在する(この平面の面法線とこの第3の嵌め込み方向とのなす角が90度ではない)ことを指す。このように第3の嵌め込み方向を有するということは、コイルの外径が拡径する面を有し得ることを意味し、これにより、コイルの内径の拡径に伴う断面積の確保(冷媒流路の確保)を行い得る。
【0014】
この「嵌め込み方向」及び「同一平面内」について、特許文献1に示した構成を例示して検討すると、この構成は円柱状部材の周面に円筒状部材を設けたものなので、その嵌め込み方向は前記周面の各位置における法線と一致する。そして、その法線方向(嵌め込み方向)は、前記円柱状部材の軸心に垂直な面内にある。つまり、この構成は全ての嵌め込み方向が同一平面内にあり、本願発明に係る構成とは異なっている。
【0015】
前記構成において、複数の樋状部材をその長さ方向に連結する場合においては、その連結部における各樋状部材の延長方向を同一直線上となる構成にするのが好ましい。
【0016】
この「延長方向を同一直線状に配置」とは、直線状の2本の樋状部材を連結するのみではなく、その連結部において同一曲率を有する2本の樋状部材を連結する場合も含む。この場合、その2本の樋状部材の連結部が滑らかなものとなって(連結部に屈折部が生じず)、たとえこの樋状部材に温度不均一に起因した熱応力が生じた場合でも、この連結部において応力集中が生じない。このため、熱応力に起因したコイルの劣化を確実に防止できる。
【0017】
また、前記各構成においては、前記樋状部材に嵌め込んだ前記蓋の固定、及び、前記複数の樋状部材同士の連結を、この樋状部材の融点よりも低いロウ付け温度によってロウ付け可能なロウ材で行うのが好ましい。
【0018】
この樋状部材及び蓋が銅からなる場合、それを固定・連結するためのロウ材として、銀ロウ、リン銅ロウを主に採用し得る。これらはロウ付け温度が700〜800℃程度と低温であって、ロウ付け作業自体が容易であるとともに、銅の融点(約1080℃)よりも十分低く、その作業の際に前記樋状部材等に熱によるダメージを与える恐れも低いからである。
【0019】
また、高周波誘導加熱による処理対象物の被熱処理部が、自動車用動力伝達部品の回転軸で、この回転軸はその軸方向位置において異なる外径を有するものであり、第1の樋状部材が、この回転軸の外径同一部の周りに略90度の円弧を有する第1の円弧部と、この第1の円弧部に連続し、前記外径同一部の軸方向に沿う直胴部と、この直胴部に連続し、前記回転軸の径変更部に対応して外径方向に沿いつつ拡径する拡径部と、この拡径部に連続し、この拡径部の終端の径で前記回転軸周りに略90度の円弧を有する第2の円弧部とを一体成形したものであって、第2の樋状部材が、前記第1の樋状部材と左右対称形状あるいは左右非対称形状をなし、前記両樋状部材の第2の円弧部同士を連結し、前記樋状部材に前記蓋を嵌め込んで固定して高周波誘導加熱用コイルを構成することができる。
【0020】
このコイルは、前記回転軸の外径の拡径に伴って、その内径が拡径するように構成されているため、被熱処理部におけるコイルによる磁場がほぼ等しくなる。このため、その被熱処理部の加熱が均一になされる。このコイルの形状は、回転軸の形状に合わせて適宜変更することができ、例えば、「・・−直胴部−拡径部−直胴部−・・」のように同じ構成要素(ここでは直胴部)を複数箇所において使用することもできる。また、前記円弧部の円周角も適宜変更することができる。
【0021】
また、樋状部材と、その樋状部材の開口部を隙間なく覆う蓋とで構成され、前記樋状部材を処理対象物の被熱処理部に沿わせつつ、前記開口部が前記被熱処理部の反対側になるように配置した管状の高周波誘導加熱用コイルの製造方法において、その工程を、金属部材を前記処理対象物の被熱処理部の外形に沿うように棒状に加工する第1工程と、その棒状部材の前記被熱処理部と反対側に、その棒状部材の全長に亘る溝を形成して樋状部材を形成する第2工程と、その樋状部材の開口部に、その開口部を隙間なく覆う複数枚の蓋を、その複数枚の蓋のうち、少なくとも1枚の蓋の嵌め込み方向が、それ以外の蓋の嵌め込み方向が含まれる平面と同一平面内とならないように設ける第3工程とで構成することができる。
【0022】
前記樋状部材用の棒状部材の加工においては、金属部材の母材から削り出す方法と、鋳型によって鋳造する方法がある。いずれの方法も、熱応力が集中しやすい屈折部(直胴部と円弧部の接続部等)を一体成形することにより、後の工程でその部分にロウ付けを行う必要がない。このため、応力集中によるその屈折部の破損を防止することができる。また、前記溝の形成は、例えば、複数軸を有するマシニングセンタを用いることによって迅速に行い得る。また、「蓋の嵌め込み方向」及び「同一平面内」の意義は上述したので、説明は省略する。
【0023】
また、前記製造方法において、複数の樋状部材をその長さ方向に連結する場合においては、その連結工程を前記第1工程乃至第3工程のいずれかの後に行い、かつ、その連結部における両樋状部材の延長方向が同一直線上にあるように構成するのが好ましい。
【0024】
この棒状部材は、その連結後に溝加工をすることができ、又は、溝加工を施して樋状部材とした後に連結することもできる。また、「延長方向が同一直線状にある」の意義は上述したので、説明は省略する。
【0025】
この製造方法においては、前記樋状部材に嵌め込んだ前記蓋の固定、及び、前記樋状部材同士の連結を、この樋状部材の融点よりも低いロウ付け温度によってロウ付け可能なロウ材によって行うようにするのが好ましい。
【0026】
このようなロウ材を選択する意義については上述したので、その説明は省略する。
【0027】
また、自動車用動力伝達部品においては、その被熱処理部の外形に沿うように形成した上述の高周波誘導加熱用コイルを用いて、所定の焼入れ温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で急冷することによって焼入れ処理を行うことができる。
【0028】
このコイルの形状は、前記被熱処理部の形状に沿っているので、その被熱処理部の全体に亘って均一に加熱・保持を行い得る。また、このコイルは、その軸方向にこの自動車用動力伝達部品を自在に抜き差しし得るようになっているので、前記加熱・保持後に直ちにコイル外に取り出すことができる。このため、この自動車用動力伝達部品をコイル外に設けた水槽等の冷却設備に迅速に移すことができ、加熱後に急冷が必要な焼入れ処理を容易かつ確実に行い得る。
【0029】
また、前記焼入れ処理に引き続いて、この自動車用動力伝達部品を再びコイル内に戻し、所定の焼戻し温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で冷却することによって焼戻し処理を行うこともできる。
【0030】
この焼戻し処理においても、一旦コイル外に取り出した自動車用動力伝達部品を容易にコイル内に戻すことができ、焼入れ処理後に直ちに焼戻し処理に移行できることにより、その熱処理効率が一段と高まる。このため、この自動車用動力伝達部品の製造コストの抑制を図ることができる。
【0031】
あるいは、この自動車用動力伝達部品を前記コイル内で所定温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で徐冷することによって焼鈍し処理を行うこともできる。
【0032】
前記コイルは、種々の自動車用動力伝達部品に適用し得るが、特にハブ輪、等速ジョイント、又は、プロペラシャフトの処理に好ましい。
ここに列挙した部品は、いずれも回転軸を有するものであって、その回転軸の強度を高めるために部分的に外径を拡径したものが多い。このような回転軸の熱処理においても、その外径に対応して成形したコイルを用いることによって、被熱処理部の全体に亘って均一な熱処理を行い得る。
【発明の効果】
【0033】
この発明によると、被熱処理部の外形に沿うように高周波誘導加熱用コイルの内径を拡径させるとともに、この内径の拡径に対応して、前記コイルの外径も拡径させるようにした。このため、コイルと被熱処理部の間隔を所定の値としてこの被熱処理部の全体に亘って均一な熱処理を行い得るとともに、冷媒の流動が妨げられないため、コイルの冷却状態の不均一に起因した熱応力の発生及びコイルの劣化が回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
この発明に係る高周波誘導加熱用コイル1を図1及び2に示す。この各図は、図3に示したコイル1の分解図であって、互いに左右対称形状である第1及び第2の樋状部材2a、2bと、この両樋状部材2a、2bの開口部3を覆う複数の蓋4とで構成されている。なお、この樋状部材2a、2bは被熱処理部の形状や熱処理仕様により左右非対称形状の場合もある。図5及び6に示したように、このコイル1に自動車用ハブ輪や等速ジョイント等の回転軸5を差し込んでその熱処理を行う。
【0035】
この樋状部材2は銅からなり、回転軸5の外径同一部5aの周りに略90度の円弧を有する第1の円弧部6と、この第1の円弧部6に連続し、外径同一部5aの軸方向に向かう直胴部7と、この直胴部7に連続し、回転軸5の径変更部5bに対応して外径方向に沿いつつ拡径する拡径部8と、この拡径部8に連続し、この拡径部8の終端の径で回転軸周りに略90度の円弧を有する第2の円弧部9とを一体成形したものである。また、この開口部3は、この樋状部材2のいずれの位置においても、回転軸5とは反対の方向を向くように形成されている。
また、蓋4も銅からなり、この蓋4は樋状部材2の開口部3を隙間なく覆うように予め折り曲げ加工が施されている。
【0036】
この高周波誘導加熱用コイル1の製造方法について説明すると、まず銅の鋳塊を被熱処理部の外形に沿うように棒状に加工する。この加工後、前記被熱処理部と反対側(外径側)に、その棒状部材の全長に亘る溝を形成して樋状部材2とする。この溝の深さや幅は、この熱処理を行う際の発熱量及びコイル1内に流通させる冷媒の流量を考慮して適宜決定する。この溝の形成後、この樋状部材2の開口部3に隙間なく蓋を嵌め込む。さらに、銀ロウによるロウ付けを行って、その蓋4を樋状部材2に固定する。
【0037】
この蓋4の固定後、第1及び第2の樋状部材2a、2bの第2の円弧部9、9同士を連結してコイル1を完成させる。この連結部で連結した両円弧部9、9は一つの滑らかな円弧をなし、応力集中が生じにくい。このため、この連結部において、熱応力等に起因したコイル1の破断等の不具合が生じる恐れが低い。この両樋状部材2a、2bの連結は、ロウ付け作業が容易な銀ロウで行ってもよいし、より確実な連結を行いたい場合は、銅ロウ等の高融点ロウ材又は他の連結手段を選択してもよい。
【0038】
また、このコイル1は拡径部8において、内径とともに外径も拡径しているため、その拡径部8におけるコイル1の断面積が、直胴部7等における断面積とほぼ同じである。このため、このコイル1内の冷媒の流動が妨げられることなくコイル1の全体に亘って均一な冷却を行い得る。このため、このコイル1が冷却不均一に起因した熱応力によって劣化するのを防止することができる。
【0039】
さらに、このコイル外には、水槽、油槽等の冷却設備(図示せず)を併設することができる。ハブ輪等の自動車用動力伝達部品をこのコイル1内で焼入れ温度に加熱・保持した後、これを直ちにコイル1外に取り出して前記冷却設備で冷却することで焼入れ処理を容易に行い得る。しかも、このコイル1は前記ハブ輪等の外形に沿うように設計されているので、このハブ輪等の被熱処理部を均一に加熱され、均一性の高い高品質な焼入れ部材を得ることができる。
【0040】
このコイル1による熱処理は焼入れ処理に限られない。例えば、前記焼入れ処理に引き続いて前記自動車用動力伝達部品を再びコイル1内に戻し、所定の焼戻し温度に加熱・保持し、所定の冷却速度で冷却することで焼戻し処理を行ったり、焼鈍し温度に加熱・保持し、所定の冷却速度で徐冷することで焼鈍し処理を行ったりすることもできる。いずれの処理においても、上述したように被熱処理部を均一に加熱することができるため、均一性の高い高品質な処理部材を得ることができる。
【0041】
これらの熱処理に用いるコイル1の形状は、当然ながら、図1及び2に記載したものに限定されない。
この形状は、被熱処理部の形状に適宜合わせるものであって、例えば、「第1の円弧部6−直胴部7−拡径部8−直胴部7−第2の円弧部9」のようにコイル1を構成するとともに、直胴部7の長さ、両円弧部6、9の径も適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本願発明に係る一実施形態の斜視図
【図2】同実施形態の他方向からの斜視図
【図3】一般的な高周波誘導加熱コイルを示す斜視図
【図4】同コイルの他方向からの斜視図
【図5】ハブ輪の熱処理の態様を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図
【図6】等速ジョイントの熱処理の態様を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図
【図7】従来技術に係る一実施形態の斜視図
【図8】同実施形態の他方向からの斜視図
【符号の説明】
【0043】
1 高周波誘導加熱用コイル
2(2a、2b) (第1又は第2の)樋状部材
3 開口部
4 蓋
5 回転軸
5a (回転軸の)外径同一部
5b (回転軸の)径変更部
6 第1の円弧部
7 直胴部
8 拡径部
9 第2の円弧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樋状部材(2)と、その樋状部材(2)の開口部(3)を隙間なく覆う蓋(4)とで構成され、前記樋状部材(2)を処理対象物の被熱処理部に沿わせつつ、前記開口部(3)が前記被熱処理部の反対側となるように配置した管状の高周波誘導加熱用コイルにおいて、
前記樋状部材(2)を覆う複数の蓋(4)のうち、少なくとも1枚の蓋(4)の嵌め込み方向が、それ以外の蓋(4)の嵌め込み方向が含まれる平面と同一平面内にないことを特徴とする高周波誘導加熱用コイル。
【請求項2】
前記樋状部材(2)が、複数の樋状部材(2)をその長さ方向に連結して構成されたものであって、その連結部における各樋状部材(2)の延長方向が同一直線上にあることを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱用コイル。
【請求項3】
前記樋状部材(2)に嵌め込んだ前記蓋(4)の固定、及び、前記複数の樋状部材(2)同士の連結が、この樋状部材(2)の融点よりも低いロウ付け温度によってロウ付け可能なロウ材によってなされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高周波誘導加熱用コイル。
【請求項4】
前記被熱処理部が自動車用動力伝達部品の回転軸(5)で、この回転軸(5)はその軸方向位置において異なる外径を有するものであり、第1の樋状部材(2a)が、この回転軸(5)の外径同一部(5a)の周りに略90度の円弧を有する第1の円弧部(6)と、この第1の円弧部(6)に連続し、前記外径同一部(5a)の軸方向に沿う直胴部(7)と、この直胴部(7)に連続し、前記回転軸(5)の径変更部(5b)に対応して外径方向に沿いつつ拡径する拡径部(8)と、この拡径部(8)に連続し、この拡径部(8)の終端の径で前記回転軸(5)周りに略90度の円弧を有する第2の円弧部(9)とを一体成形したものであって、第2の樋状部材(2b)が、前記第1の樋状部材(2a)と左右対称形状あるいは左右非対称形状をなし、前記両樋状部材(2a、2b)の第2の円弧部(9、9)同士を連結し、前記樋状部材(2)に前記蓋(4)を嵌め込んで固定してなることを特徴とする請求項3に記載の高周波誘導加熱用コイル。
【請求項5】
樋状部材(2)と、その樋状部材(2)の開口部(3)を隙間なく覆う蓋(4)とで構成され、前記樋状部材(2)を処理対象物の被熱処理部に沿わせつつ、前記開口部(3)が前記被熱処理部の反対側になるように配置した管状の高周波誘導加熱用コイルの製造方法において、
金属部材を前記処理対象物の被熱処理部の外形に沿うように棒状に加工する第1工程と、
その棒状部材の前記被熱処理部と反対側に、その棒状部材の全長に亘る溝を形成して樋状部材(2)を形成する第2工程と、
その樋状部材(2)の開口部(3)に、その開口部(3)を隙間なく覆う複数枚の蓋(4)を、その複数枚の蓋(4)のうち、少なくとも1枚の蓋(4)の嵌め込み方向が、それ以外の蓋(4)の嵌め込み方向が含まれる平面と同一平面内とならないように設ける第3工程とで構成されることを特徴とする高周波誘導加熱用コイルの製造方法。
【請求項6】
前記樋状部材(2)が、複数の樋状部材(2)をその長さ方向に連結して構成するものであって、その連結工程が、前記第1工程乃至第3工程のいずれかの後に行われ、かつ、その連結部における両樋状部材(2、2)の延長方向が同一直線上にあることを特徴とする請求項5に記載の高周波誘導加熱用コイルの製造方法。
【請求項7】
前記樋状部材(2)に嵌め込んだ前記蓋(4)の固定、及び、前記樋状部材(2)同士の連結が、この樋状部材(2)の融点よりも低いロウ付け温度によってロウ付け可能なロウ材によってなされていることを特徴とする請求項5又は6に記載の高周波誘導加熱用コイルの製造方法。
【請求項8】
焼入れ処理によって硬度を向上させた鉄鋼材料からなる自動車用動力伝達部品であって、
前記自動車用動力伝達部品の被熱処理部の外形に沿うように形成した請求項1乃至4のいずれか一つに記載の高周波誘導加熱用コイルを用い、所定の焼入れ温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で急冷することによって焼入れ処理を行ったことを特徴とする自動車用動力伝達部品。
【請求項9】
焼入れ処理後に焼戻し処理を行い、靭性を付与した鉄鋼材料からなる自動車用動力伝達部品であって、
前記自動車用動力伝達部品の被熱処理部の外形に沿うように形成した請求項1乃至4のいずれか一つに記載の高周波誘導加熱用コイルを用い、所定の焼入れ温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で急冷することによって焼入れ処理を行い、引き続いて所定の焼戻し温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で冷却することによって焼戻し処理を行ったことを特徴とする自動車用動力伝達部品。
【請求項10】
焼鈍し処理によって加工硬化に伴う内部歪みを除去した鉄鋼材料からなる自動車用動力伝達部品であって、
前記自動車用動力伝達部品の被熱処理部の外形に沿うように形成した請求項1乃至4のいずれか一つに記載の高周波誘導加熱用コイルを用い、所定温度に加熱・保持した後に、所定の冷却速度で徐冷することによって焼鈍し処理を行ったことを特徴とする自動車用動力伝達部品。
【請求項11】
前記自動車用動力伝達部品がハブ輪、等速ジョイント、又は、プロペラシャフトのいずれかである請求項8乃至10のいずれか一つに記載の自動車用動力伝達部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−86904(P2010−86904A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257528(P2008−257528)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】