説明

高周波電力増幅回路

【課題】 高周波電力増幅回路の出力電力を検出してフィードバック制御を行なう無線通信システムに使用され、基準となる電圧と検波出力との差分を増幅して出力する出力電力検出回路の検出出力の精度を向上させる。
【解決手段】 高周波電力増幅回路の出力から取り出された交流信号を検波する検波回路(221)と、該検波回路の動作点を与える電圧を生成するバイアス生成回路(222)と、上記検波回路の出力と上記バイアス生成回路で生成された電圧との差に比例した電圧を出力する減算回路(225)とを含む出力電力検出回路(220)を設け、前記減算回路として2つの反転増幅器(261,262)を従属接続したものを使用し、後段の反転増幅器の出力と所定の電圧とを入力としその差電圧を前段の反転増幅器に基準電圧として与えるフィードバック用の反転増幅器(264)を設けるとともに、該反転増幅器の出力側にオン/オフ・スイッチ(SW0)と該反転増幅器の出力を保持可能な容量素子(C0)を設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の無線通信システムに使用され高周波の送信信号を増幅して出力する高周波電力増幅回路に適用して有効な技術に関し、特に出力電力のフィードバック制御に必要な出力電力の検出回路に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、携帯電話機等の無線通信装置(移動体通信装置)における送信側出力部には、変調後の送信信号を増幅する高周波電力増幅回路が設けられている。従来の無線通信装置においては、ベースバンド回路もしくはマイクロプロセッサ等の制御回路からの送信要求レベルに応じて高周波電力増幅回路の増幅率を制御するため、高周波電力増幅回路もしくはアンテナの出力電力を検出して帰還をかけることが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。そして、出力電力の検出は、従来は一般に、カプラやダイオード検波回路などを使用して行なっており、ダイオード検波回路は高周波電力増幅回路とは別個の半導体集積回路またはディスクリートの部品で構成されることが多い。
【0003】
カプラを使用した従来の高周波電力増幅回路の出力電力検出方式にあっては、カプラ自身の大きさもさることながら、その検出出力を検波するためダイオードが必要であり、高周波電力増幅回路とは別の半導体集積回路や電子部品を数多く使用しているため、モジュールの小型化を困難になっていた。また、カプラを使用すると、電力損失も比較的大きいという不具合がある。
【0004】
さらに、近年の携帯電話機においては、880〜915MHz帯の周波数を使用するGSM(Global System for Mobile Communication)と呼ばれる方式の他に例えば1710〜1785MHz帯の周波数を使用するDCS(Digital Cellular System)のような方式の信号を扱えるデュアルバンド方式の携帯電話機が提案されている。かかる携帯電話機に使用される高周波電力増幅モジュールでは、出力パワーアンプも各バンドに応じて設けられるため、その出力電力を検出するカプラや検波回路も各バンドに応じてそれぞれ必要になる。そのため、一層モジュールの小型化が困難になる。
【0005】
そこで、本出願人は、カプラを使用しない高周波電力増幅回路の出力電力の検出方式として、図5に示すように、高周波電力増幅回路の最終増幅段の後段に接続されたインピーダンス整合回路の途中から容量素子を介して出力電力の交流成分を取り出して出力電力検出回路で検出するようにした発明をなし、先に出願した(特願2003−123040)。
【特許文献1】特開2000−151310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図5の先願発明に係る出力電力検出回路は、高周波電力増幅回路210の出力部から結合容量Ciを介して取り出された交流信号を制御端子に受け出力電力に比例した電流を流す出力検出用トランジスタQ1と、該トランジスタの制御端子に動作点を与えるバイアス生成回路223と、上記出力検出用トランジスタに流れる電流を転写するカレントミラー回路Q2,Q3と、転写された電流を電圧に変換する電流−電圧変換用トランジスタQ4と、インピーダンス変換用のバッファアンプ222,224と、トランジスタQ4により変換された電圧から前記バイアス生成回路223の電圧を差し引いて出力する減算回路225などから構成したもので、これにより、減算回路225の出力は、バイアス生成回路223により付与される直流成分を含まない純粋な出力電力の交流成分に比例した検出電圧Vdetとなる。
【0007】
上記先願発明に係る出力電力検出回路(図5)は、入力インピーダンスが低くバッファアンプ222,224が不可欠であるとともに、抵抗のばらつきによって検出電圧Vdetがばらつくという不具合がある。そこで、図6に示すように3つのオペアンプ(演算増幅器)AMP1〜AMP3を従属接続した減算回路を用いることについて検討した。なお、図6に示す減算回路は、例えば(株)CQ出版、1990年1月発行、「アナログIC活用ハンドブック」p65,p66に記載されており、公知の回路である。
【0008】
図6に示す減算回路の出力Vdetは、各反転増幅器の入力抵抗Rinと帰還抵抗Rfの抵抗比を1:(N−1)、2つの入力電圧Vin1,Vin2の差をΔVin(=Vin2−Vin1)とおくと、Vdet≒Vdc+N・ΔVinで表わされる。交流信号が無信号の場合、Vdet≒Vdcであるが、実際にはこの式には示されていないが、オペアンプAMP1,AMP2,AMP3がそれぞれ入力オフセットVoff1,Voff2,Voff3を有しているため、図6に示す減算回路はその出力VdetがオペアンプAMP1〜AMP3の入力オフセットによってずれてしまうという不具合がある。
【0009】
図6に示す減算回路は、基準となる電圧Vdcを抵抗分圧回路による抵抗分割で定電圧を分圧して生成した場合には、抵抗分圧回路を構成する抵抗の値を調整する必要性が生じ、製造工程で抵抗値の検出および調整作業のために比較的長い時間を要するためチップコストの上昇を招くおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、高周波電力増幅回路の出力電力を検出してフィードバック制御を行なう無線通信システムに使用され、基準となる電圧と検波出力との差分を増幅して出力する出力電力検出回路の検出出力の精度を向上させることにある。
本発明の他の目的は、出力電力を検出してフィードバック制御を行なう無線通信システムに使用され基準となる電圧と検波出力との差分を増幅して出力する検出精度の高い出力電力検出回路を内蔵した安価な高周波電力増幅用半導体集積回路を提供することにある。
この発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を説明すれば、下記のとおりである。
すなわち、高周波電力増幅回路の出力から取り出された交流信号を検波する検波回路と、該検波回路の動作点を与える電圧を生成するバイアス生成回路と、上記検波回路の出力と上記バイアス生成回路で生成された電圧との差に比例した電圧を出力する減算回路とを含む出力電力検出回路を設け、前記減算回路として2つの反転増幅器を従属接続したものを使用し、後段の反転増幅器の出力と所定の直流電圧とを入力としその差電圧を前段の反転増幅器に基準電圧として与えるフィードバック用の反転増幅器を設けて、該反転増幅器の出力側にオン/オフ・スイッチと該反転増幅器の出力を保持可能な容量素子を設けるとともに、上記2つの反転増幅器への被演算値の入力がない状態で上記スイッチをオンさせてフィードバックループを閉じて上記フィードバック用の反転増幅器の出力を上記容量素子に取り込んだ後、上記スイッチをオフさせた状態で上記2つの反転増幅器へ被演算値を入力させてそれらの電位差に応じた電圧を出力させるようにしたものである。
【0012】
上記した手段によれば、フィードバックループによって減算回路を構成する3つの反転増幅器のオフセットを含んだ電圧が容量素子に保持され、その後フィードバックループがオープンにされて容量素子に保持された電圧を基準にして2つの入力の電位差が増幅される。つまり、本来の基準となる直流電圧を3つの反転増幅器のオフセットに応じて補正した電圧を基準となる電圧とするため、精度の高い出力電力検出信号を得ることができる。このため、基準となる電圧を調整するトリミング回路を設ける必要がなく製造工程でのトリミング作業も不要となるので、出力電力検出回路を内蔵した高周波電力増幅回路の製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
すなわち、本発明に従うと、高周波電力増幅回路の出力電力を検出してフィードバック制御を行なう無線通信システムに使用され、基準となる電圧と検波出力との差分を増幅して出力する出力電力検出回路の検出出力の精度を向上させることができる。また、本発明に従うと、出力電力を検出してフィードバック制御を行なう無線通信システムに使用され基準となる電圧と検波出力との差分を増幅して出力する検出精度の高い出力電力検出回路を内蔵した安価な高周波電力増幅回路を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の出力電力検出回路を適用した高周波電力増幅器(以下、パワーモジュールと称する)の実施例を示したものである。なお、本明細書においては、表面や内部にプリント配線が施されたセラミック基板のような絶縁基板に複数の半導体チップとディスクリート部品が実装されて上記プリント配線やボンディングワイヤで各部品が所定の役割を果たすように結合されることであたかも一つの電子部品として扱えるように構成されたものをモジュールと称する。
【0015】
この実施例のパワーモジュール200は、入力高周波信号RFinを増幅する増幅用FETを含む高周波電力増幅部210と、該高周波電力増幅部210の出力電力を検出する出力電力検出回路220と、前記高周波電力増幅部210の各段の増幅用FETにバイアス電圧を与えて各FETに流すアイドル電流を制御するバイアス回路230とからなる。
【0016】
特に制限されるものでないが、この実施例の高周波電力増幅部210は、3個の電力増幅用FET211、212、213を備え、このうち後段のFET212,213はそれぞれ前段のFET211,212のドレイン端子にゲート端子が接続され、全体で3段の増幅回路として構成されている。また、各段のFET211,212,213のゲート端子には、バイアス回路230から供給されるゲートバイアス電圧Vb1,Vb2,Vb3が印加され、これらの電圧に応じたアイドル電流が各FET211,212,213にそれぞれ流されるようにされている。
【0017】
バイアス回路230は、外部から供給される定電流Icontを電圧に変換するダイオード接続のMOSトランジスタQ10と、該トランジスタQ10とゲート共通接続されてカレントミラー回路を構成するMOSトランジスタQ11,Q12,Q13と、これらのトランジスタQ11,Q12,Q13とそれぞれ直列に接続されたダイオード接続のMOSトランジスタQb1,Qb2Qb3とから構成され、Q11,Q12,Q13に転写された電流がQb1,Qb2,Qb3により電圧に変換され、これがそれぞれ抵抗R1,R2,R3を介して前記増幅用FET211,212,213のゲートにバイアス電圧として印加される。
【0018】
上記MOSトランジスタQ10とQ11,Q12,Q13は増幅用FET211〜213に応じてそれぞれ所定のサイズ比となるように設定され、これによって、外部から供給される定電流Icontに比例したアイドル電流がFET211〜213に流される。抵抗R1〜R3は、入力端子からの高周波信号の漏れによってバイアス用トランジスタQb1〜Qb3の電流が変化しないように抑制する働きをする。各段のFET211,212,213のドレイン端子にはそれぞれ電源電圧Vddが印加されている。初段のFET211のゲート端子と入力端子Pinとの間には、直流カットの容量素子C1が設けられ、これらの回路及び素子を介して高周波信号RFinがFET211のゲート端子に入力される。
【0019】
初段のFET211のドレイン端子と2段目のFET212のゲート端子との間には直流カットの容量素子C2が、また、2段目のFET212のドレイン端子と最終段のFET213のゲート端子との間には直流カットの容量素子C3が接続されている。そして、最終段のFET213のドレイン端子がインピーダンス整合回路241および容量素子C4を介して出力端子OUTに接続されており、高周波入力信号RFinの直流成分をカットし交流成分を増幅した信号RFoutを出力する。
【0020】
この実施例の出力電力検出回路220は、最終段の増幅用FET213のドレイン端子とモジュールの出力端子OUTとを接続する出力線の途中に設けられたカプラ242を構成するマイクロストリップラインに一方の端子が接続された容量C5および該容量C5と直列に接続された抵抗R4,容量C6と、該容量C6の他方の端子がゲートに接続された検波用MOSトランジスタQ1、該トランジスタQ1と直列に接続されたPチャネルMOSトランジスタQ2、該トランジスタQ2とカレントミラー接続されたMOSトランジスタQ3、該トランジスタQ3と直列に接続された電流−電圧変換用MOSトランジスタQ4からなる検波回路221と、上記MOSトランジスタQ1に動作点としてのゲートバイアス電圧を与えるバイアス生成回路223と、上記検波回路221の出力とバイアス生成回路223で生成されたバイアス電圧の電位差を増幅して出力する差動増幅部(減算回路)225とから構成されている。
【0021】
なお、図1の実施例では、カプラ242により高周波電力増幅部210の出力の交流成分を取り出すように構成されているが、前述の先願の出力電力検出回路(図5参照)におけるように高周波電力増幅部210の出力線上に設けられているインピーダンス整合回路241から交流成分を取り出すように構成しても良い。また、その場合、図1の容量C5を省略して抵抗R4の一方の端子を、インピーダンス整合回路241を構成するマイクロストリップラインに接続して高周波電力増幅部210の出力の交流成分を取り出すようにすることができる。
【0022】
また、この実施例の出力電力検出回路220においては、バイアス生成回路223は、定電流源CS0と該定電流源CS0からの定電流Icを電圧に変換するダイオード接続のMOSトランジスタQ9と抵抗R6とから構成されている。定電流Icを流す上記定電流源CS0は、バンドギャップリファランス回路のような温度依存性の少ない定電圧を発生する定電圧回路と、生成された定電圧を電流に変換するトランジスタと、このトランジスタに流れる電流に比例した電流を流すカレントミラー回路などで構成することができる。定電流源CS0を内部回路として構成する代わりに、チップ外部から与えるように構成しても良い。また、定電流の代わりに、チップ外部から定電圧として与えるようにしても良い。定電圧として与える場合には、前述の先願の出力電力検出回路(図5参照)におけるように、図1の定電流源CS0の代わりに抵抗をトランジスタQ9と直列に接続すれば良い。
【0023】
本実施例では、検波回路221の検波用MOSトランジスタQ1のゲートバイアス電圧の値として、該トランジスタQ1をB級増幅動作させることができるように、Q1のしきい値電圧に近い電圧値が設定されている。これにより、MOSトランジスタQ1には、容量C6を介して入力される交流信号に比例しそれを半波整流したような電流が流され、Q1のドレイン電流は入力交流信号の振幅に比例した直流成分を含むようにされる。
【0024】
このトランジスタQ1のドレイン電流がQ2とQ3のカレントミラー回路によりQ3側に転写され、ダイオード接続のトランジスタQ4によって電圧に変換される。ここで、MOSトランジスタQ1とQ4およびQ2とQ3は、それぞれ所定のサイズ比になるように設定されている。これにより、例えば製造バラツキでMOSトランジスタQ1とQ2の特性(特にしきい値電圧)がばらつくと、これらと対を成すMOSトランジスタQ4とQ3の特性も同じようにばらつく。その結果、特性ばらつきによる影響が相殺され、MOSトランジスタQ4のドレイン端子にはMOSトランジスタのばらつきの影響を受けない検波電圧が現われるようになる。
【0025】
また、この実施例では、上記バイアス生成回路223で生成され検波用MOSトランジスタQ1のゲート端子に印加されるバイアス電圧と同一の電圧が差動増幅部(減算回路)225に供給され、検波回路221の出力との電位差を増幅した電圧が検出電圧Vdetとして出力される。これにより、差動増幅部225の出力は、バイアス生成回路223により付与される直流成分を含まない純粋な出力電力の交流成分に比例した検出電圧Vdetとなる。
【0026】
なお、この実施例のパワーモジュール200は、電力増幅部210の各素子(直流カットの容量素子C1〜C3を除く)およびバイアス回路230の各素子と、出力電力検出回路220の各素子(容量C5を除く)が、単結晶シリコンのような1個の半導体チップ上に半導体集積回路として構成されている。そして、この半導体集積回路と、電力増幅部210の容量素子C1〜C3と、インピーダンス整合回路241、直流カットの容量素子C4、カプラ242と、出力電力検出回路220の容量C5とが、1つのセラミック基板上に実装されてパワーモジュールとして構成されている。インピーダンス整合回路241を構成するインダクタは、半導体チップのパッド間に接続されたボンディングワイヤあるいはモジュール基板上に形成されたマイクロストリップラインにより形成することができる。
【0027】
このように、本実施例の出力電力検出回路を適用したパワーモジュールにおいては、出力電力検出回路220を電力増幅部210およびそのバイアス回路230とともに半導体集積回路化することが容易となるため、部品点数を減らしモジュールを小型化することができるようになる。また、図示しないが、この実施例の半導体集積回路には、出力電力検出回路220により検出された検出電圧Vdetとベースバンド回路からの出力レベル指示信号Vrampとを比較して電位差に応じた制御信号Vrampを生成する誤差アンプ(APC回路)を設け、該誤差アンプで生成された制御信号Vrampをバイアス回路230に供給して高周波電力増幅部210のバイアス電圧Vb1〜Vb3を生成させるように構成することも可能である。
【0028】
図2には、上記実施例の出力電力検出回路220の差動増幅部(減算回路)225の具体的な回路例が示されている。
本実施例の差動増幅部(減算回路)225は、従属接続された2つの非反転増幅回路261,262と、その後段に設けられたインピーダンス変換用のボルテージフォロワ263と、基準となる直流電圧Vdc0と上記非反転増幅回路261,262のうち後段の非反転増幅回路262の出力電圧とを入力とする反転増幅回路264と、該反転増幅回路264の出力をインピーダンス変換して上記非反転増幅回路261,262のうち前段の非反転増幅回路261に基準電位としてフィードバックするボルテージフォロワ265とから構成されている。
【0029】
そして、上記非反転増幅回路261はオペアンプAMP1と入力抵抗R11および帰還抵抗R12とから構成され、非反転増幅回路262はオペアンプAMP2と入力抵抗R21および帰還抵抗R22とから構成されており、非反転増幅回路261のオペアンプAMP1の非反転入力端子に前記バイアス回路223からのバイアス電圧が入力電圧Vin1として入力され、非反転増幅回路262のオペアンプAMP2の非反転入力端子に前記検波回路221からの出力電圧が入力電圧Vin2として入力されている。入力抵抗R11と帰還抵抗R12の抵抗比および入力抵抗R21と帰還抵抗R22の抵抗比は、それぞれ1:(N−1)に設定されている。
【0030】
また、上記反転増幅回路264とボルテージフォロワ265との間には、反転増幅回路264の出力をボルテージフォロワ265へ伝達したり遮断したりするオン/オフ・スイッチSW0と、スイッチオン時の反転増幅回路264の出力電圧を保持する容量素子C0と、前記オペアンプAMP1,AMP2およびボルテージフォロワ263,265,反転増幅回路264を構成するオペアンプAMP3,AMP5,AMP4の電源電圧Vpdの立ち上がりを検出し前記スイッチSW0のオン/オフ信号ON/OFFを生成する電源電圧検出回路267とが設けられている。前記オペアンプAMP1〜AMP5はこの実施例ではバイポーラ・トランジスタに比べて入力インピーダンスの高いMOSトランジスタにより構成されている。
【0031】
図3には、本実施例の差動増幅部(減算回路)225の動作タイミングが示されている。電源電圧Vpdが立ち上がると、オン/オフ信号ON/OFFがハイレベルに変化されてスイッチSW0がオン状態にされて、アンプAMP1−AMP2−AMP4−AMP5−AMP1のループがクローズされる。このとき、非反転増幅回路261,262の入力電圧Vin1,Vin2は同一レベルであるため、アンプAMP4のイマジナリショート作用により、アンプAMP2の出力が基準となる電圧Vdc0と一致するようにフィードバックがかかる。
【0032】
このとき、アンプAMP1,AMP2,AMP4,AMP5がそれぞれ入力オフセットを有していたとすると、アンプAMP4の出力はそれらの入力オフセットの総和と基準となる電圧Vdc0に応じた電圧Vdc1となり、その電圧によって容量素子C0がチャージされる。なお、GSM方式の携帯電話機のような通信システムでは、受信モードおよび送信モードはそれぞれタイムスロットと呼ばれる577μ秒のような比較的短い時間単位で実行され、送信モードでは送信開始毎に電源電圧Vpdの立ち上げが行なわれるので、上記容量素子C0の容量値をそれほど大きな値に設定しなくても、送信途中で容量素子C0の電荷がリークして減算回路の出力が変化してしまうおそれはない。
【0033】
電源電圧検出回路267から出力されるオン/オフ信号ON/OFFは所定時間後にロウレベルに変化されるように構成されており、オン/オフ信号ON/OFFがロウレベルになるとスイッチSW0がオフ状態にされて、直前の容量素子C0の電圧Vdc1がそのまま保持される。その後、検波回路221の動作によって変化する電圧Vin1,Vin2が非反転増幅回路261,262に入力され、その電位差が増幅されて検出電圧Vdetとして出力される。この実施例の差動増幅部(減算回路)によれば、このときの出力電圧VdetにはアンプAMP3の入力オフセットのみが含まれ、アンプAMP1,AMP2,AMP4,AMP5の入力オフセットは含まれないようになる。そのため、図6の回路に比べてオペアンプの入力オフセットによる検出電圧の誤差が大幅に低減される。その結果、実施例の出力電力検出回路は出力電力の検出精度が向上される。
【0034】
その結果、実施例の出力電力検出回路は、減算回路に供給される基準となる電圧を調整するトリミング回路を設ける必要がなく製造工程でのトリミング作業も不要となるので、出力電力検出回路を内蔵した高周波電力増幅回路のコストを低減することができる。
【0035】
図4は、前記実施例のパワーモジュールを適用して有効な無線通信システムの一例として、GSMとDCSの2つの通信方式の無線通信が可能なシステムの概略の構成を示す。
図4において、ANTは信号電波の送受信用アンテナ、100はGSMやDCSのシステムにおけるGMSK変調や復調を行なうことができる変復調回路や送信データ(ベースバンド信号)に基づいてI,Q信号を生成したり受信信号から抽出されたI,Q信号を処理する回路を有する高周波信号処理回路(ベースバンド回路)110や受信信号を増幅するロウノイズアンプLNA1,LNA2等が1つの半導体チップ上に形成されてなる高周波信号処理用半導体集積回路(ベースバンドIC)と送信信号から高調波成分を除去するバンドパスフィルタBPF1,BPF2、受信信号から不要波を除去するバンドパスフィルタBPF3,BPF4などが1つのパッケージに実装されてなる電子デバイス(以下、RFデバイスと称する)である。Tx‐MIX1,Tx-MIX2は各々GSMとDCSの送信信号をアップコンバートするミキサ、Rx‐MIX1,Rx-MIX2は各々GSMとDCSの受信信号をダウンコンバートするミキサである。
【0036】
ベースバンド回路110には、GSMとDCSの送信信号をそれぞれアップンコンバートするミキサTx‐MIX1,Tx-MIX2、GSMとDCSの受信信号をそれぞれダウンコンバートするミキサRx‐MIX1,Rx-MIX2、これらのミキサで送信信号や受信信号とミキシングされる発振信号を発生する発振器VCO1〜VCO4、GSMとDCSの送信信号をそれぞれ増幅する可変利得アンプGCA1,GAC2、これらのアンプの利得を制御して所望の振幅の信号を出力させる利得制御回路111が設けられている。
【0037】
また、図4において、200はベースバンド回路110から供給される高周波の送信信号を増幅する前記実施例のパワーモジュール、300は送信信号に含まれる高調波などのノイズを除去するフィルタLPF1,LPF2、GSMの信号とDCSの信号を合成したり分離したりする分波器DPX1,DPX2、送受信の切替えスイッチT/R−SWなどを含むフロントエンド・モジュールである。パワーモジュール200には、GSM用の高周波電力増幅回路(パワーアンプ)210aとDCS用の高周波電力増幅回路210bとが設けられている。
【0038】
図4に示されているように、この実施例では、ベースバンド回路110から高周波電力増幅回路210a,210bのバイアス回路230に対してGSMかDCSかを示すモード選択信号VBANDと、定電流Icontが供給され、バイアス回路230はこの制御信号VBANDと定電流Icontに基づいて、モードに応じたバイアス電流を生成しパワーアンプ210aと210bのいずれかに供給する。バイアス回路230は、図1のトランジスタQ10〜Q13からなるカレントミラー回路とバイアス用トランジスタQb1〜Qb3をGSM用とDCS用にそれぞれ備えるとともに、選択回路などを付加した回路である。
【0039】
また、この実施例では、パワーモジュール200内の出力電力検出回路220により出力された検出電圧Vdetがベースバンド回路110の利得制御回路111に供給され、利得制御回路111は出力検出電圧Vdetと内部の出力レベル指示信号Vrampとを比較して可変利得アンプGCA1,GCA2に対するパワー制御信号PCSを生成してそれらのゲインを制御し、これに応じてパワーアンプ210a,210bに入力される高周波信号の振幅が制御されるようになっている。
【0040】
なお、上記のようなGSMとDCSのデュアルバンド通信システムにおいては、GSM側のパワーアンプ210aの出力電力とDCS側のパワーアンプ210bの出力電力の最大レベルはそれぞれ規格によって規定されていて異なっている。そのため、図4には示されていないが、図4の出力電力検出回路220には、図1および図2に示されているような構成を有する検出回路がGSM用とDCS用にそれぞれ設けられており、制御信号VBANDに応じていずれか一方を選択的に動作状態にさせることができるように構成されている。
【0041】
図4の実施例では、出力電力検出回路220より出力された検出電圧Vdetをベースバンド回路110の利得制御回路111に供給して、可変利得アンプGCA1,GCA2のゲインを制御しているが、パワーモジュール200内に、出力電力検出回路220により検出された検出電圧Vdetとベースバンド回路からの出力レベル指示信号Vrampとを比較して電位差に応じた制御信号Vrampを生成する誤差アンプ(APC回路)を設けた場合には、ベースバンド回路110からパワーモジュール200内のAPC回路(誤差アンプ)へ出力レベル指示信号Vrampを供給し、APC回路(誤差アンプ)が出力レベル指示信号Vrampと出力電力検出回路220からの検出電圧Vdetとを比較してバイアス回路230に対する出力制御信号Vapcを生成し、バイアス回路230が出力制御信号Vapcに応じてパワーアンプ210a,210bのゲインを制御するように構成することができる。
【0042】
以上本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば前記実施例では、高周波電力増幅部の増幅用トランジスタ211〜213にFETを用いているが、増幅用トランジスタ211〜213は、バイポーラ・トランジスタやGaAsMESFET、ヘテロ接合バイポーラ・トランジスタ(HBT)、HEMT(High Electron Mobility Transistor)等他のトランジスタを用いることも可能である。また、前記実施例では、高周波電力増幅部の増幅段が3段の場合を示したが、増幅段は1段あるいは2段であっても良い。また、検波回路221を構成する電流−電圧変換用トランジスタQ4は抵抗素子であっても良い。
【0043】
さらに、前記実施例では、減算回路225を構成するオペアンプAMP1〜AMP5はMOSトランジスタにより構成されているとしたが、バイポーラ・トランジスタにより構成されたオペアンプを用いるようにしても良い。ただし、その場合には、各アンプはMOSトランジスタからなるアンプに比べて入力インピーダンスが低くなるので、前記先願の実施例(図5参照)のバッファアンプ222,224に相当するものを設けるのが望ましい。
【0044】
また、前記実施例では、高周波電力増幅部210を構成する増幅用FET211〜213のゲートバイアスを生成するバイアス回路230として、外部からの制御電流Icontを受けてカレントミラー回路で増幅用FET211〜213にアイドル電流を流すように構成したものを示したが、バイアス回路230は外部から供給される制御電圧を抵抗で分圧してFET211〜213のゲートバイアスを生成する抵抗分割回路により構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野である携帯電話機に用いられる高周波電力増幅回路およびパワーモジュールに適用した場合について説明したが、本発明はそれに限定されるものでなく、無線LANを構成する高周波電力増幅回路およびパワーモジュールなどに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る出力電力検出回路およびそれを適用した高周波電力増幅器(パワーモジュール)の一実施例を示す回路構成図である。
【図2】出力電力検出回路を構成する差動増幅部(減算回路)の具体的な回路例を示す回路構成図である。
【図3】図2の差動増幅部(減算回路)の動作タイミングを示すタイミングチャートである。
【図4】本発明の高周波電力増幅回路を適用したGSMとDCSの2つの通信方式の無線通信が可能なシステムの概略の構成を示すブロック図である。
【図5】従来の出力電力検出回路の一例を示す回路構成図である。
【図6】本発明に先立って検討した出力電力検出回路の減算回路の構成例を示す回路構成図である。
【符号の説明】
【0047】
100 RFデバイス
110 ベースバンド回路
200 パワーモジュール
210 高周波電力増幅部
210a,210b 高周波電力増幅回路(パワーアンプ)
211,212,213 電力増幅用FET
220 出力電力検出回路
221 検波部
222,224 バッファ回路
223 バイアス生成回路
225 減算回路
230 バイアス回路
241〜244 インピーダンス整合回路
250 誤差アンプ(APC回路)
300 フロントエンド・モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波の送信信号を増幅する電力増幅回路と、該電力増幅回路の出力電力のレベルを検出する出力電力検出回路とを備え、
前記出力電力検出回路は、前記電力増幅回路の出力から取り出された交流信号を検波する検波回路と、該検波回路の動作点を与える電圧を生成するバイアス生成回路と、上記検波回路の出力と上記バイアス生成回路で生成された電圧との差に比例した電圧を出力する減算回路とを含み、
前記減算回路は、従属接続された2つの反転増幅器と、後段の反転増幅器の出力と所定の電圧とを入力としその差電圧を前段の反転増幅器に基準電圧として与える第3の反転増幅器と、前記第3の反転増幅器の出力側に設けられたオン/オフ・スイッチおよび前記第3の反転増幅器の出力を保持可能な容量素子とを備えてフィードバックループを形成可能にされ、上記2つの反転増幅器への入力がない状態で上記スイッチをオンさせて上記ループを閉じて上記第3の反転増幅器の出力を上記容量素子に取り込んだ後、上記スイッチをオフさせた状態で上記2つの反転増幅器へ前記検波回路の出力および前記バイアス生成回路で生成された電圧を入力させてそれらの電位差に応じた電圧を出力することを特徴とする高周波電力増幅回路。
【請求項2】
前記減算回路は、前記第3の反転増幅器の出力端子と前記前段の反転増幅器の入力端子との間に設けられたインピーダンス変換用のバッファアンプを備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅回路。
【請求項3】
前記減算回路は、前記後段の反転増幅器の出力をインピーダンス変換して出力する第2のバッファアンプを備えることを特徴とする請求項1または2に記載の高周波電力増幅回路。
【請求項4】
前記前段の反転増幅器と前記後段の反転増幅器は、それぞれオペアンプと該オペアンプの反転入力端子に接続された入力抵抗と該オペアンプの出力端子と反転入力端子との間に接続された帰還抵抗とからなり、前記前段の反転増幅器の入力抵抗と前記後段の反転増幅器の入力抵抗の抵抗値は同一であり、前記前段の反転増幅器の入力抵抗と帰還抵抗の抵抗比と、前記後段の反転増幅器の入力抵抗と帰還抵抗の抵抗比とは同一であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高周波電力増幅回路。
【請求項5】
前記検波回路は、前記電力増幅回路の出力部からから取り出された交流信号が制御端子に印加された第1トランジスタと、該第1トランジスタと直列に接続された第2トランジスタと、該第2トランジスタとカレントミラー接続された第3トランジスタと、該第3トランジスタと直列に接続された電流−電圧変換手段とからなり、前記第1トランジスタの制御端子に前記バイアス生成回路で生成された電圧が印加されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高周波電力増幅回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−101072(P2006−101072A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283359(P2004−283359)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(000233295)日立ハイブリッドネットワーク株式会社 (195)
【Fターム(参考)】