説明

高周波電力増幅用電子部品

【課題】 内部の温度が所定の温度以上になった場合には異常を知らせる信号を外部へ出力して、温度を下げるような処置をとることができるようにした高周波電力増幅用電子部品(RFパワーモジュール)を提供する。
【解決手段】 振幅情報に基づく制御信号によって動作電圧が制御されるRFパワーモジュールにおいて、増幅用トランジスタ(113)が形成されている半導体チップもしくは電源回路(140)が形成されている半導体チップに温度検出用の素子(D1)を設け、該素子が設けられた半導体チップと同一もしくは別個の半導体チップにヒステリシス特性を有する検出回路(130)を設けて、該検出回路から上記温度検出用素子にバイアスを与えて素子の状態を2つの参照レベルと比較して、当該温度検出用素子が形成されている半導体チップの温度が所定温度以上になったと判定した場合に異常を示す信号(ALM)を外部へ出力させ、半導体チップの温度が上記所定温度よりも低い第2の所定温度以下になったと判定した場合に正常を示す信号を外部へ出力させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機等の無線通信システムに使用され高周波の送信信号を増幅して出力する高周波電力増幅回路と動作電圧を与える電源回路とを組み込んだ電子部品に適用して有効な技術に関し、特に送信信号の位相変調と振幅変調を別々に行ないこのうち振幅変調のための制御を高周波電力増幅回路で行なう無線通信システムを構成する高周波電力増幅用電子部品に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、携帯電話機等の無線通信装置(移動体通信装置)における送信側出力部には、変調後の信号を増幅する高周波電力増幅回路が組み込まれており、ベースバンド回路もしくはマイクロプロセッサ等の制御回路から要求される送信レベルに応じて高周波電力増幅回路のゲインを制御するため、高周波電力増幅回路もしくはアンテナの出力レベルを検出する出力電力検出回路を設け、出力レベル指示信号Vrampと出力電力検出回路からの検出出力とに基づいて電力増幅回路のゲインを制御することが行なわれている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年の携帯電話機における通信方式の一つに送信信号の変調をGMSK変調で行なうGSM方式の携帯電話機がある。また、GMSK変調モードの他に、搬送波の位相成分と振幅成分を変調する3π/8rotating8−PSK(Phase Shift Keying)変調モードを有し、モードを切り替えて通信を行なえるようにしたEDGE(Enhanced Data Rates for GMS Evolution)と呼ばれる方式の携帯電話機が実用化されつつある。
【0004】
そして、このEDGE方式の3π/8rotating8−PSK変調(以下、PSK変調と称する)を実現する技術として、位相変調を電力増幅器の前段で行ない振幅変調を電力増幅器で行なう方式(ポーラーループ方式)と、位相変調と振幅変調を電力増幅器の前段で行なう方式(Pin制御方式)とがある。ポーラーループ方式の携帯電話機に関する発明としては、例えば特許文献2に記載されているものがある。
【特許文献1】特開2000−151310号公報
【特許文献2】特開2004−007443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
携帯電話機の分野においては、本体の小型化を図るためシステムを構成する電子部品に対する小型化の要求が高く、送信信号を増幅して出力する高周波電力増幅回路と動作電圧を与える電源回路等を組み込んだ高周波電力増幅用電子部品(以下、RFパワーモジュールと称する)も例外ではない。モジュールの小型化を達成するには、モジュールを構成するIC(半導体集積回路)や素子などの部品の小型化が重要であることはもちろん、各部品間のスペースを少なくすることも大切である。ところが、部品間のスペースを少なくすればするほど各部品で発生する熱によってモジュール内部の温度が高くなるという問題がある。
【0006】
特に、本発明者らが開発しようとしたポーラーループ方式の携帯電話機を構成するRFパワーモジュールにおいては、モジュール内に発熱量が比較的多い電源用ICが実装されるため、この電源用ICで発生した熱が高周波電力増幅回路を構成する増幅用トランジスタチップに伝わってチップ温度が上昇し、特に最終段の増幅用トランジスタでは自己が発生するに熱に電源用ICから伝達してくる熱が加わって、目標とするモジュールサイズから当初決定したチップ間隔ではチップ温度がPNジャンクションに許容されている値を超えてしまうおそれがあることが明らかになった。
【0007】
なお、チップの温度上昇を抑える技術としては、例えばモジュールのパッケージに冷却用のフィンを設けるなどの対策が考えられるが、そのようなフィンを設けるとモジュールのサイズが大きくなってしまい、これを搭載した携帯電話機などの小型化を阻害してしまうため、せっかくモジュール内の部品の実装密度を高くした意味がなくなってしまう。
【0008】
この発明の目的は、内部の温度が所定の温度以上になった場合には異常を知らせる信号を外部へ出力して、温度を下げるような処置をとることができるようにした高周波電力増幅用電子部品(RFパワーモジュール)を提供することにある。
【0009】
この発明の他の目的は、内部の温度が所定の温度以上になったことをいち早く検出できるとともに、温度上昇で検出回路が異常を起こす前に温度異常を検出して外部へ知らせることができる高周波電力増幅用電子部品(RFパワーモジュール)を提供することにある。
【0010】
この発明の前記ならびにそのほかの目的と新規な特徴については、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を説明すれば、下記のとおりである。
すなわち、増幅用トランジスタを含み送信信号を増幅して出力する半導体集積回路化された高周波電力増幅回路と該高周波電力増幅回路に動作電圧を供給する電源回路等を組み込んだ高周波電力増幅用電子部品(RFパワーモジュール)であって、振幅情報に基づく制御信号によって高周波電力増幅回路の動作電圧が制御されるものにおいて、増幅用トランジスタが形成されている半導体チップもしくは電源回路が形成されている半導体チップに温度検出用の素子を設け、該温度検出用素子が設けられた半導体チップと同一もしくは別個の半導体チップにヒステリシス特性を有する温度検出回路を設けて、該温度検出回路から上記温度検出用素子にバイアスを与えて素子の状態を2つの参照レベルと比較して、当該温度検出用素子が形成されている半導体チップの温度が所定温度以上になったと判定した場合に異常を示す信号を外部へ出力させ、半導体チップの温度が上記所定温度よりも低い第2の所定温度以下になったと判定した場合に正常を示す信号を外部へ出力させるように構成したものである。
【0012】
上記した手段によれば、最も発熱量の多い半導体チップの内部の温度が所定の温度以上になった場合に異常を知らせる信号が外部へ出力されるため、外部の制御装置は当該モジュールの温度を下げるような処置をとることができる。これとともに、第2の所定温度よりも低い温度になった場合には正常を示す信号がモジュールの外部へ出力されるため、外部の制御装置はモジュールを正常動作へ復帰させるような処置をとることができる。
【0013】
また、上記温度検出回路はヒステリシス特性を有するため、温度ゆらぎによって異常/正常を示す信号が誤って出力されないようにすることができる。さらに、温度検出用素子が設けられた半導体チップと別個の半導体チップに温度検出回路を形成した場合には、温度検出用素子が異常な温度になったことを示す場合にも温度検出回路の半導体チップはそれよりも低い温度であるため、温度検出回路は正常に動作することができるようになる。
【0014】
ここで、本発明を適用すると好適なRFパワーモジュールは、位相変調を高周波電力増幅回路の前段で行ない振幅変調を高周波電力増幅回路で行なうポーラーループ方式の無線通信システムを構成し、上記振幅情報に基づく制御信号は振幅変調のための制御信号とされるRFパワーモジュールである。また、本発明は、高周波電力増幅回路に動作電圧を与える電源回路が組み込まれ、振幅情報に基づく制御信号によって該電源回路の出力電圧が制御されて高周波電力増幅回路の動作電圧が変化されるように構成されるRFパワーモジュールに適用すると、より望ましい効果が得られる。
【0015】
さらに、望ましくは、高周波電力増幅回路が複数の増幅用トランジスタを直列形態に接続した構成を有する場合、上記温度検出用素子は最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップに設ける。最終段の増幅用トランジスタに最も大きな電流が流されるので、そのチップが最初に異常な温度に達することになるため、速やかにモジュールの内部温度が所定温度以上になったことを示す信号を外部へ出力させることができる。
【0016】
また、温度検出回路は、最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと異なる半導体チップであって、他の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと同一の半導体チップに形成する。これにより、RFパワーモジュールを構成する部品点数を減らしモジュールの小型化が可能となる。ただし、この場合においても電源回路は、さらに別個の半導体チップに形成するのが望ましい。電源回路は、最終段の増幅用トランジスタの次あるいは同程度に発熱量が多いからである。
【発明の効果】
【0017】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記のとおりである。
すなわち、本発明に従うと、内部の温度が所定の温度以上になった場合には異常を知らせる信号を外部へ出力して、温度を下げるような処置をとることが可能な高周波電力増幅用電子部品(RFパワーモジュール)を実現することができる。
【0018】
また、本発明に従うと、内部の温度が所定の温度以上になったことをいち早く検出できるとともに、温度上昇で温度検出回路が異常を起こす前に温度異常を検出して外部へ知らせることが可能な高周波電力増幅用電子部品(RFパワーモジュール)を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る温度検出回路を備えたRFパワーモジュールの実施例を示す。なお、本明細書においては、表面や内部にプリント配線が施されたセラミック基板のような絶縁基板に複数の半導体チップとディスクリート部品が実装されて上記プリント配線やボンディングワイヤで各部品が所定の役割を果たすように結合されることであたかも一つの電子部品として扱えるように構成されたものをモジュールと称する。
【0020】
特に制限されるものでないが、本実施例のRFパワーモジュール100は、例えばGSM(Global System for Mobile Communication)とDCS(Digital Cellular System)のような2つの通信方式の周波数帯の送信信号を増幅できるつまりデュアルバンドに対応したモジュールとして構成されている。また、GSMとDCSの各増幅系は、それぞれ増幅用トランジスタなどを含む3個の増幅段111,112,113が直列形態に接続されている。そして、外部より供給される出力制御信号Vrampに基づいてこれらの増幅段111,112,113のトランジスタのゲイン(増幅率)を制御する制御回路120と、温度検出回路130と、上記増幅段111,112,113の動作電圧Vddを生成する動作電圧制御用の電源回路140とが設けられている。
【0021】
さらに、本実施例では、上記2系統3個の増幅段111,112,113のうち前段側の4個の増幅段111,112と、上記制御回路120と、上記温度検出回路130が単結晶シリコンのような1つの半導体チップに半導体集積回路IC1として形成され、上記電源回路140はこれとは別個の半導体チップに半導体集積回路IC2として形成されているとともに、最終段の増幅段113を構成する増幅用トランジスタも各々別個の半導体チップに半導体集積回路IC3,IC4として形成されている。
【0022】
また、図1には示されていないが、RFパワーモジュール100内の送信信号の入力端子IN1,IN2と初段増幅段111との間や各増幅段間には増幅される高周波送信信号の直流成分を遮断するためのディスクリート部品からなる容量素子やインピーダンスの整合をとるための容量素子、インダクタンス素子が外付け部品として接続される。また、最終増幅段113と出力端子OUT1,OUT2との間には、モジュールの絶縁基板に形成されたマイクロストリップラインを利用したインピーダンス整合回路が設けられる。
【0023】
図2には、本実施例のRFパワーモジュール100における制御回路120と電源回路140の概略構成を示す。
この実施例では、電源回路140は比較的大きな電流を流すことができるPNPバイポーラ・トランジスタQpにより構成されている。また、制御回路120は反転入力端子に出力制御信号(出力レベル指示信号)Vrampが入力され、非反転入力端子には出力電圧を抵抗R1とR2の抵抗比で分割した電圧がフィードバックされたオペアンプOP1により構成されており、このオペアンプOP1の出力によって電源用トランジスタQpに流れる電流が制御されることで、高周波電力増幅回路110の各増幅段111,112,113に供給される動作電圧Vddが出力制御信号Vrampに応じて制御されるようになっている。
【0024】
図3には、本実施例のRFパワーモジュール100における温度検出回路130の構成例を示す。
図3に示されている温度検出回路130は、温度依存性および電源電圧依存性の低い基準電圧を発生するバンドギャップリファランス回路のような定電圧回路131と、定電圧回路131で生成された基準電圧Vrefを電流に変換する電圧−電流変換回路132と、該定電圧回路131で生成された基準電圧Vrefをインピーダンス変換するボルテージフォロワからなるバッファアンプ133と、バッファアンプ133の出力を抵抗R11,R12,R13の抵抗比で分割した電圧を比較電圧V1,V2として非反転入力端子に受ける1組のコンパレータ134a,134bと、コンパレータ134aの出力をリセット端子/Rに受けコンパレータ134bの出力をセット端子Sに受けて動作するRSフリップフロップ135とから構成されている。
【0025】
また、本実施例においては、GSMの増幅系の最終増幅段113のトランジスタが形成されている半導体チップIC3と同一のチップにPN接合を利用したダイオードD1が温度検出素子として形成され、上記電圧−電流変換回路132で生成された電流がこのダイオードD1に流され、ダイオードD1のアノード側の電圧Vaが上記コンパレータ134a,134bの反転入力端子に入力されるように構成されている。
【0026】
ダイオードD1は、3段目の増幅用トランジスタがMOSトランジスタの場合、公知のMOSプロセスでMOSトランジスタのソース・ドレイン領域となる拡散層やウェル領域と同時に形成されるP型領域およびN型領域とP型もしくはN型の基板との間に寄生するPNPバイポーラ・トランジスタのPN接合を利用したものが使用される。
【0027】
RSフリップフロップ135は、セット端子Sに入力されている信号がロウレベルからハイレベルに変換するとセット状態つまり出力Qがハイレベルに変化し、リセット端子/Rに入力されている信号がハイレベルからロウレベルに変換するとリセット状態つまり出力Qがロウレベルに変化するように動作する。
【0028】
PN接合ダイオードD1は、順方向に一定の電流(例えば100μA)が流されているとき順方向電圧Vfが負の温度特性(-1.675mV/deg)を示す。本実施例の温度検出回路130は、かかるPN接合ダイオードD1の温度特性を利用して最終増幅段113のトランジスタが形成されている半導体チップIC3のチップ温度が所定のレベル以上になったか否かを判定するように構成されており、ダイオードD1のカソード端子が接地点に接続されることによりアノード端子は順方向電圧Vfだけ高い電圧となり、これが入力電圧Vaとして上記コンパレータ134a,134bの反転入力端子に入力されるように構成されている。
【0029】
そして、第1の所定温度T1(例えば130℃)でのダイオードD1の順方向電圧Vf(=Va)に比較電圧Vc2が一致し、第1の所定温度よりも高い第2の所定温度T2(例えば140℃)でのダイオードD1の順方向電圧Vfに比較電圧Vc1が一致するように、基準電圧Vrefを分圧してV1,V2を生成する抵抗R11〜R13の抵抗比が設定されている。
【0030】
次に、本実施例の温度検出回路130の動作を、図4を用いて説明する。図4(A)には、ダイオードD1のアノード側の電圧Vaの温度に対する変化特性が、実線Aで示されている。半導体チップIC3の温度が130℃よりも低い場合、ダイオードD1の順方向電圧Vfは大きくそのアノード側の電圧すなわちコンパレータ134a,134bの入力電圧Vaは比較電圧V1,V2よりも十分に高いため、フリップフロップ135の出力Qはロウレベルである。
【0031】
半導体チップIC3の温度がだんだん高くなると、ダイオードD1のアノード側の電圧Vaは次第に低くなり、約130℃に達するとコンパレータ134aの比較電圧Vc1よりも低くなってコンパレータ134aの出力がハイレベルに変化するが、コンパレータ134aの出力はフリップフロップ135のリセット端子に入力されているためこの時点ではフリップフロップ135の出力Qはロウレベルのままである。その後、半導体チップIC3の温度が約140℃に達すると、ダイオードD1のアノード側の電圧Vaがコンパレータ134bの比較電圧Vc2よりも低くなってコンパレータ134bの出力がハイレベルに変化する。
【0032】
これにより、フリップフロップ135がセット状態にされ、その出力Qがハイレベルに変化される。本実施例では、このフリップフロップ135の出力Qが温度異常を知らせる信号ALMとしてモジュールの外部へ出力される。このアラーム信号ALMを受けたベースバンド回路などが例えば出力制御信号Vrampを下げるなどすることにより、電源用トランジスタQpから電力増幅回路に供給される動作電圧Vddを低下させ、発熱量を減少させてチップ温度を低下させることができる。
【0033】
その後、半導体チップIC3の温度がだんだん低くなると、ダイオードD1のアノード側の電圧Vaは次第に高くなり、約140℃に達するとコンパレータ134bの比較電圧V2よりも高くなってコンパレータ134bの出力がロウレベルに変化するが、コンパレータ134bの出力はフリップフロップ135のセット端子に入力されているためこの時点ではフリップフロップ135の出力Qはハイレベルのままである。そして、半導体チップIC3の温度が約130℃まで下がると、ダイオードD1のアノード側の電圧Vaがコンパレータ134aの比較電圧V1よりも低くなってコンパレータ134aの出力がロウレベルに変化する。
【0034】
すると、フリップフロップ135がリセット状態にされ、その出力Qがロウレベルに変化され、モジュールの外部へ出力されるアラーム信号ALMがロウレベルになる。そのため、このアラーム信号ALMを受けるベースバンド回路は、出力制御信号Vrampを上げるなどすることにより、電源用トランジスタQpから電力増幅回路に供給される動作電圧Vddを増加させ、出力電力を所望のレベルに復帰させることができる。しかも、本実施例では、フリップフロップ135がセットされる温度とリセットされる温度が異なるため、検出回路の出力であるアラーム信号ALMは、図4(B)に示すように、ヒステリシス特性を持つようにされる。これにより、温度揺らぎによる誤ったアラーム信号ALMの出力が回避される。
【0035】
図5は、本発明に係る温度検出回路を備えたRFパワーモジュールを、PSK変調を行なうEDGEモードを有する無線通信システムに適用する場合の好適な構成例を示す。図5において、図1に示されている素子および回路には同一の符号を付して重複した説明は省略する。また、図5においては、GSMの信号を増幅する系とCDSの信号を増幅する系のうち一方のみ示され、他方は図示が省略されている。
【0036】
図5には、高周波電力増幅回路110を構成する3段の増幅段111、112、113の各増幅段にそれぞれ最適なバイアス電圧Vb1,Vb2,Vb3を印加するバイアス回路121が示されている。これらの回路は、図1においては、制御回路120内に設けられる。
【0037】
この実施例では、PSK変調を行なうモード(以下、EDGEモード)のときは誤差アンプ431の出力LD0を、またGMSK変調を行なうモード(以下、GSMモード)のときはベースバンド回路から供給される出力レベル指示信号VPLを選択して前述の出力制御信号Vrampとして電源回路140に供給する切替えスイッチSW1が設けられている。この切替えスイッチSW1はベースバンド回路から供給されるモード信号MODEにより切替え制御される。このスイッチSW1は、送信信号を変調し受信信号を復調する機能を有する変復調回路(変復調用IC)に設けられていても良い。ベースバンド回路は、例えば基地局との間の距離すなわち電波の強さに応じて決定される出力レベルに基づいて出力レベル指示信号VPLを生成する。
【0038】
上記誤差アンプ431は、送信信号INを位相情報信号Pinと振幅情報信号Vinとに分離する位相振幅分離回路432からの振幅情報信号Vinと、高周波電力増幅回路110の出力側に設けられた出力レベル検出用のカップラ150からの検出信号Vdtとを比較して電位差に応じた信号を出力するように構成される。これによって、高周波電力増幅回路110の出力レベルを振幅情報信号Vinのレベルに一致させるようなフィードバック制御が行なわれる。
【0039】
なお、カップラ150の出力は、ミキサMIXにより周波数変換(ダウンコンバート)され、フィルタFLTとアンプAMPを介して、上記検出信号Vdtとして誤差アンプ431に供給されている。カップラ150はRFパワーモジュール100の基板上に実装したり、基板に形成されているマイクロストリップラインによって構成したりすることができる。上記位相振幅分離回路432は、送信信号を変調し受信信号を復調する機能を有する変復調用ICに設けられている。
【0040】
図6は、上記高周波電力増幅回路110の具体的な回路構成例を示す。本実施例の高周波電力増幅回路110は、増幅素子として複数の電界効果トランジスタを直列形態に接続した多段構成になっている。すなわち、初段増幅用トランジスタQ1のドレイン端子に中段増幅用トランジスタQ2のゲート端子を接続し、この中段トランジスタQ2のドレイン端子に最終段増幅用トランジスタQ3のゲート端子を接続した3段構成になっている。
【0041】
図6の高周波電力増幅回路110は、初段増幅用トランジスタQ1のゲート端子に容量素子C1を介して高周波信号Pinが入力され、最終段増幅用トランジスタQ3のドレイン端子が容量素子C4を介して出力端子Poutに接続されており、高周波入力信号Pinの直流成分をカットし交流成分を増幅して出力する。そして、このときの出力レベルがバイアス回路121と前記電源回路140からの動作電圧Vddによって制御される。この動作電圧Vddは前記増幅段111,112,113に含まれる電力増幅用トランジスタQ1,Q2,Q3のドレイン端子にマイクロストリップラインMS7〜MS9を介して印加される。
【0042】
上記バイアス回路121は、抵抗R21,R22,R23により構成されており、ベースバンドから供給されるVbiasが抵抗R21,R22,R23を介して増幅用トランジスタQ1,Q2,Q3のゲートに供給され、バイアス電圧Vb1,Vb2,Vb3として印加される。バイアス回路121は抵抗分圧回路で構成して、互いに異なる最適なゲートバイアス電圧Vb1,Vb2,Vb3を生成して印加するように構成してもよいし、あるいは増幅用トランジスタのVth変動を相殺する為に、Vbiasを電圧-電流変換しMOSダイオードで電圧に変換しVb1,Vb2,Vb3としてもよい。
【0043】
なお、図6において、符号MS1〜MS6はそれぞれ各段間のインピーダンスの整合をとるためのインダクタンス素子として働くマイクロストリップ線路、MS7〜MS9は電源回路140との間のインピーダンスを整合させるマイクロストリップ線路である。マイクロストリップ線路MS1〜MS6と直列に接続されたコンデンサC1,C2,C3,C4は直流電圧を遮断する働きがある。
【0044】
図7は、上記実施例のRFパワーモジュールを使用しEDGEモードによる送受信が可能なGSMとDCSのデュアルバンド方式の携帯電話機システムの全体の構成例を示す。
【0045】
図7において、ANTは信号電波の送受信用アンテナ、100は上記実施例のRFパワーモジュール、200はフロントエンド・モジュール、300は送信データ(ベースバンド信号)に基づいてI,Q信号を生成したりRFパワーモジュール100内の電力増幅回路110に対するバイアス電圧Vbiasやバンド切替え信号BANDを生成してRFパワーモジュール100を制御したりするベースバンド回路(ベースバンドLSI)、400は送信信号(I,Q信号)を変調しアップコンバートしたり受信信号をダウンコンバートして復調しI,Q信号を生成したりする変復調回路、FLT1,FLT2は受信信号からノイズや妨害波を除去するフィルタである。
【0046】
なお、これらのうち例えばフィルタFLT1は900MHz帯のGSM系信号のフィルタ、フィルタFLT2は1.8GHz帯のDCS系信号のフィルタとされる。ベースバンド回路300は、DSP(Digital Signal Processor)やマイクロプロセッサ、半導体メモリなど複数のLSIやICで構成することができる。
【0047】
フロントエンド・モジュール200は、RFパワーモジュール100の送信出力端子に接続されてインピーダンスの整合を行なうインピーダンス整合回路221,222、高調波を減衰させるロウパスフィルタ231,232、送受信切替え用のスイッチ回路241,242、受信信号から直流成分をカットする容量251,252、GSMの信号とDCSの信号の分波を行なう分波器260などから構成され、これらの回路および素子は1つのセラミック基板上に実装されてモジュールとして構成されている。送受信切替え用のスイッチ回路241,242の切替え信号CNT1,CNT2はベースバンド回路300から供給される。
【0048】
変復調回路400は、送信信号(I,Q信号)を変調する直交変調器(ミキサ)、変調された信号から位相成分と振幅成分を分離する位相検出器や振幅検出器、送信信号をアップコンバートする送信用発振器、受信信号をダウンコンバートし復調するミキサ、復調された信号を所定の振幅の信号に増幅する可変利得増幅器などにより構成される。
【0049】
以上本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前記実施例では、温度検出素子としてダイオードを使用しているが、抵抗素子など温度依存性を有するものであればどのような素子であっても良い。望ましくは、半導体チップ内に形成可能であって、温度依存性が顕著な素子が良い。
【0050】
また、前記実施例では、温度検出素子としてのダイオードをGSMの増幅系の最終増幅段113のトランジスタが形成されている半導体チップIC3と同一のチップに形成した場合を説明したが、モジュール内のチップの配置やスペースの取り方によっては電源用トランジスタQpが形成されている半導体チップIC2の方が高温になる場合も考えられるので、電源用トランジスタQpが形成されている半導体チップIC2と同一のチップに温度検出素子を形成しても良い。GSMの増幅系の最終増幅段113のトランジスタが形成されている半導体チップIC3とDCSの増幅系の最終増幅段113のトランジスタが形成されている半導体チップIC4の両方のチップに温度検出素子を形成しても良い。
【0051】
また、温度検出回路130が動作する温度は140℃と130℃に限定されず、使用するICの特性に応じて決定すれば良い。温度検出回路130のヒステリシスの温度差も10℃に限定されず、15℃あるいは20℃等であっても良い。
【0052】
さらに、前記実施例では、増幅用トランジスタを3段接続して電力増幅回路110を構成しているが、2段構成あるいは4段以上であっても良い。また、前記実施例では、最終段の出力用トランジスタQ3が他の増幅用トランジスタQ1,Q2とは別個の半導体チップで構成されていると説明したが、Q1,Q2と同一のチップ上にQ3が形成されていても良い。逆に、前記実施例では、制御回路120や温度検出回路130は増幅用トランジスタQ1,Q2と同一のチップ上に形成されていると説明したが、Q1,Q2と別個のチップ上に形成されていても良い。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上の説明では主として本発明者によってなされた発明をその背景となった利用分野であるPSK変調モードを有するEDGE方式による送受信が可能な無線通信システムを構成するパワーモジュールに適用した場合を説明したが、本発明はそれに限定されるものでなく、CDMA(Code Division Multiple Access)など高周波電力増幅回路の動作電圧を制御して送信信号の振幅を制御する通信方式の携帯電話機や移動電話機などの無線通信システムを構成するRFパワーモジュールに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る温度検出回路を備えたRFパワーモジュールの実施例を示すブロック図である。
【図2】本実施例のRFパワーモジュールにおける制御回路と電源回路の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本実施例のRFパワーモジュールにおける温度検出回路の構成例を示すブロック図である。
【図4】(A)は実施例の温度検出回路における温度Tと検出電圧Vaとの関係を示すグラフ、(B)は実施例の温度検出回路から出力されるアラーム信号と温度Tの関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係る温度検出回路を備えたRFパワーモジュールを、EDGE方式の無線通信システムに適用する場合の好適な構成例を示すブロック図である。
【図6】実施例のRFパワーモジュールの高周波電力増幅回路の具体的な回路構成例を示す回路図である。
【図7】実施例のRFパワーモジュールを使用したGSMとDCSのデュアルバンド方式の携帯電話機システムの全体の構成例を示す。
【符号の説明】
【0055】
100 RFパワーモジュール
110 高周波電力増幅回路
111,112,113 増幅段
120 制御回路
130 温度検出回路
140 電源回路
200 フロントエンド・モジュール
300 ベースバンド回路(ベースバンドLSI)
400 変復調回路(変復調用IC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅用トランジスタを備え送信信号を増幅して出力する半導体集積回路化された高周波電力増幅回路と、該高周波電力増幅回路に動作電圧を供給する電源回路とを内蔵し、振幅情報に基づく制御信号によって前記電源回路が発生する動作電圧が制御可能にされた高周波電力増幅用電子部品であって、
前記増幅用トランジスタが形成されている半導体チップに温度検出用素子が設けられ、該温度検出用素子が設けられた半導体チップと同一もしくは別個の半導体チップに、前記温度検出用素子の状態に基づいて異なる2つの比較レベルにて当該温度検出用素子が形成されている半導体チップの温度が所定温度以上になったか否かを判定し、第1の比較レベル以上になったときに異常を示し、前記第1の比較レベルに対応する温度よりも低い温度に対応する第2の比較レベル以下になったときに正常を示す信号を外部へ出力する温度検出回路が設けられていることを特徴とする高周波電力増幅用電子部品。
【請求項2】
前記高周波電力増幅回路は複数の増幅用トランジスタが直列形態に接続されてなり、最終段の増幅用トランジスタは他の増幅用トランジスタと異なる半導体チップに形成されているとともに、前記温度検出用素子は前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと同一の半導体チップに形成され、前記温度検出回路は前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップとは別個の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項3】
前記温度検出回路は、前記最終段の増幅用トランジスタよりも前段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと同一の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項2に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項4】
前記電源回路は、前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップおよび最終段の増幅用トランジスタよりも前段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと異なる第3の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項5】
増幅用トランジスタを備え送信信号を増幅して出力する半導体集積回路化された高周波電力増幅回路を内蔵した高周波電力増幅用電子部品であって、
前記増幅用トランジスタが形成されている半導体チップに温度検出用素子が設けられ、該温度検出用素子が設けられた半導体チップと同一もしくは別個の半導体チップに、前記温度検出用素子の状態に基づいて異なる2つの比較レベルにて当該温度検出用素子が形成されている半導体チップの温度が所定温度以上になったか否かを判定し、第1の比較レベル以上になったときに異常を示し、前記第1の比較レベルに対応する温度よりも低い温度に対応する第2の比較レベル以下になったときに正常を示す信号を外部へ出力する温度検出回路が設けられていることを特徴とする高周波電力増幅用電子部品。
【請求項6】
前記高周波電力増幅回路は複数の増幅用トランジスタが直列形態に接続されてなり、最終段の増幅用トランジスタは他の増幅用トランジスタと異なる半導体チップに形成されているとともに、前記温度検出用素子は前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと同一の半導体チップに形成され、前記温度検出回路は前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップとは別個の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項5に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項7】
前記温度検出回路は、前記最終段の増幅用トランジスタよりも前段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと同一の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項6に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項8】
増幅用トランジスタを備え送信信号を増幅して出力する半導体集積回路化された高周波電力増幅回路と、該高周波電力増幅回路に動作電圧を供給する電源回路とを内蔵し、振幅情報に基づく制御信号によって前記電源回路が発生する動作電圧が制御可能にされた高周波電力増幅用電子部品であって、
前記増幅用トランジスタが形成されている半導体チップに温度検出用素子が設けられ、前記電源回路が形成された半導体チップと同一もしくは別個の半導体チップに、前記温度検出用素子の状態に基づいて異なる2つの比較レベルにて当該温度検出用素子が形成されている半導体チップの温度が所定温度以上になったか否かを判定し、第1の比較レベル以上になったときに異常を示し、前記第1の比較レベルに対応する温度よりも低い温度に対応する第2の比較レベル以下になったときに正常を示す信号を外部へ出力する温度検出回路が設けられていることを特徴とする高周波電力増幅用電子部品。
【請求項9】
前記高周波電力増幅回路は複数の増幅用トランジスタが直列形態に接続されてなり、最終段の増幅用トランジスタは他の増幅用トランジスタと異なる半導体チップに形成され、前記電源回路および温度検出用素子は前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップとは別個の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項8に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項10】
前記温度検出回路は、前記最終段の増幅用トランジスタよりも前段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと同一の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項9に記載の高周波電力増幅用電子部品。
【請求項11】
前記電源回路は、前記最終段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップおよび前記最終段の増幅用トランジスタよりも前段の増幅用トランジスタが形成されている半導体チップと異なる第3の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項10に記載の高周波電力増幅用電子部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2006−13566(P2006−13566A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183169(P2004−183169)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(503121103)株式会社ルネサステクノロジ (4,790)
【出願人】(000233295)日立ハイブリッドネットワーク株式会社 (195)
【Fターム(参考)】