説明

高強度薄鋼板およびその製造方法

【課題】高強度と優れた連続鋳造性を両立させることができる析出強化型の高強度薄鋼板およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、Ti:0.03〜0.09%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体、補強材、ホイール、足廻り部品、その他あらゆる機械構造部品を製造するために最適な、引張強度が590MPa以上の高強度薄鋼板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保護および乗員の安全性向上のため、自動車用鋼板においては、薄肉化、高強度が検討されている。鋼板を高強度化するためには、固溶強化、析出強化、変態強化などがあるが、そのうち、析出強化は少ない添加元素で高い強度が達成される点で、製造コストの低減に有利な方法である。また、析出強化鋼は高い降伏強度が得られるため、その点においても析出強化は有効な強化方法であるといえる。
【0003】
析出強化法は、主として鋼中にTi、Nb、Vなどの元素を添加し、それら元素の炭窒化物を生成させることで強度を得る方法である。このような析出強化法を利用して上述のような高強度が要求される部品を製造する技術として、例えば特許文献1、2、3、4に開示されたものが提案されている。しかしながら、鋼中に上記のような元素を添加すると、特に製品の引張強度が590MPa級以上の場合、連続鋳造工程において、スラブコーナー部および長辺側の表面に横方向の亀裂(横割れ)が発生しやすくなり、製品の表面品質の低下、歩留まりの低下の原因となる。また、上記欠陥を低減するためには、連続鋳造速度の大幅な低下が必要であり、生産能率の低下が不可避である。
【特許文献1】特開昭59−1632号公報
【特許文献2】特開昭59−229464号公報
【特許文献3】特開平2−77522号公報
【特許文献4】特開2000−212687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、高強度と優れた連続鋳造性を両立させることができる析出強化型の高強度薄鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、連続鋳造工程における表面亀裂(横割れ)は、析出強化元素であるTi、Nb、Vの炭窒化物が原因となって発生し、このような表面亀裂は窒素を極めて低くすることにより制御することができ、これによって製品強度を低下させることなく、連続鋳造性を著しく向上させることが可能であることを見出した。そして、さらに自動車用高強度鋼板として必要な種々の機械的特性、表面特性、および連続鋳造性を向上させるための化学成分組成、製造方法を検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明はこのような知見に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1)質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、Ti:0.03〜0.09%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度薄鋼板。
(2)質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、Nb:0.03〜0.09%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度薄鋼板。
(3)質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%を含有し、さらに、TiおよびNbをTi:0.01%以上、Nb:0.01%以上、かつTi+Nb:0.03〜0.15%を満たす範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度薄鋼板。
(4)質量%で、さらに、V:0.01〜0.2%を含有することを特徴とする上記(1)から(3)のいずれかに記載の高強度薄鋼板。
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載の化学成分および組成を有する鋼を連続鋳造してスラブとし、このスラブを、直接、または一旦冷却して加熱後、830℃以上で熱間圧延し、平均冷却速度20℃/sec以上で冷却した後、500〜620℃で巻取ることを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
(6)さらに820℃以下で連続焼鈍し、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを行うことを特徴とする上記(5)に記載の高強度薄鋼板の製造方法。
(7)上記(1)から(4)のいずれかに記載の化学成分および組成を有する鋼を連続鋳造してスラブとし、このスラブを、直接、または一旦冷却して加熱後、830℃以上で熱間圧延し、平均冷却速度20℃/sec以上で冷却した後、500〜620℃で巻取って熱延鋼板とし、この熱延鋼板を、冷間圧延し、720〜820℃で連続焼鈍することを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高強度と優れた連続鋳造性を有する高強度薄鋼板およびその製造方法を得ることができる。このため連続鋳造工程における表面欠陥による歩留低下および連続鋳造速度の低下による生産能率の低下を抑制することができるので、低コストで高強度鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、化学成分、製造方法に分けて具体的に説明する。
【0009】
[化学成分]
まず、本発明鋼板の化学成分の限定理由について説明する。以下の説明において%は質量%である。
C:0.04〜0.09%
CはTi、Nb、Vと炭化物として析出し、強化に大きく寄与する。その含有量が0.04%未満では十分にTi、Nb、Vの炭化物が析出せず、強度が著しく低下する。一方、0.09%を超えると連続鋳造工程で不均一凝固に起因した引抜き方向に平行な表面亀裂(縦割れ)が発生するため、歩留まりおよび生産能率が著しく低下する。したがって、C含有量を0.04〜0.09%とする。スポット溶接部において高い接合強度を得る観点からは0.06%以上が望ましい。
【0010】
Si:0.50%以下
Siはフェライト相を固溶強化するので、強度を向上させるために添加してもよい。しかし、その含有量が0.50%を超えると熱間圧延工程で赤スケールと呼ばれる表面欠陥が発生し、歩留まりが低下する。したがって、Si含有量を0.50%以下とする。良好な化成処理性を得る観点からは0.15%以下が望ましい。
【0011】
Mn:1.20〜1.80%
Mnは高い析出強化量を安定的に達成するために重要な元素である。その含有量が1.20%未満では析出物が粗大化し、十分な強度が得られない。一方、1.80%を超えると熱延後に鋼の組織が針状フェライト組織またはベイナイト組織となり、十分な伸びが得られない。したがって、Mn含有量を1.20〜1.80%とする。めっき原板として良好なめっき密着性を得る観点からは1.60%以下が望ましい。
【0012】
P:0.050%以下
Pはフェライト相を固溶強化するので、強度を向上させるために添加してもよい。しかし、その含有量が0.050%を超えるとスポット溶接強度が低下する。したがって、P含有量を0.050%以下とする。
【0013】
S:0.01%以下
Sは鋼板中の不純物として含有される。しかし、その含有量が0.01%を超えると溶接性が著しく低下する。したがって、S含有量を0.01%以下とする。良好な伸びフランジ性を得る観点からは0.005%以下が望ましい。
【0014】
N:0.0019%以下
Nは鋼板中に不純物として含有される。Nは連続鋳造工程における表面亀裂の生成を促すため有害で、その含有量が0.0019%を超えるとその影響が極めて顕著となる。したがって、N含有量を0.0019%以下とする。表面亀裂の生成を抑制する効果を高める観点からは0.0015%以下が望ましい。
本発明は、このようにNを著しく低減することで、Ti、Nb、Vの炭窒化物の形成による連続鋳造工程における表面亀裂を抑制し、歩留まりおよび製造能率を大幅に向上させたことに特徴がある。
Nを低減する手段は、特に限定されるものではなく、種々の製鋼技術、例えば転炉吹錬での脱窒素促進、大気からの窒素ピックアップ抑制技術、真空脱ガス法などを総合的に、または単独で用いることにより、前記範囲までNを低減すればよい。
【0015】
Sol.Al:0.01〜0.1%
Alは製鋼工程で脱酸のために添加される。Sol.Alの含有量が0.01%未満では脱酸の効果が十分でなく、0.1%を超えるとその効果が飽和するばかりか、溶接性やめっき性を劣化させる。したがって、Sol.Al含有量を0.01〜0.1%とする。
【0016】
Ti、Nbは析出強化のために、単独または複合して添加される。また、析出強化のために選択成分として、さらにVを添加してもよい。
Ti:0.03〜0.09%
Tiは炭窒化物として析出して、強度を上昇させる。単独で添加する場合は、その含有量が0.03%未満ではこの効果が十分でない。一方、0.09%を超えると、連続鋳造における表面亀裂の発生が著しくなり、歩留まりや製造能率が低下する。したがって、Tiを単独で添加する場合は、その含有量を0.03〜0.09%とする。
【0017】
Nb:0.03〜0.09%
Nbは炭窒化物として析出して、強度を上昇させる。単独で添加する場合は、その含有量が0.03%未満ではこの効果が十分でない。一方、0.09%を超えると、連続鋳造における表面亀裂の発生が著しくなり、歩留まりや製造能率が低下する。したがって、Nbを単独で添加する場合は、その含有量を0.03〜0.09%とする。熱間圧延工程、冷間圧延工程において生産能率を向上させる観点からは0.05%以下が望ましい。
【0018】
TiおよびNbをTi:0.01%以上、Nb:0.01%以上、かつTi+Nb:0.03〜0.15%
TiとNbを複合添加することで、単独添加するよりもさらに強度と連続鋳造性をバランスよく向上させることができる。これは、耐亀裂特性の劣化に起因する連続鋳造における表面亀裂が発生しやすくなる温度などの条件はTiとNbで異なることから、複合添加するとそれぞれの特定温度におけるこの劣化が大幅に緩和し、平均化することにより、表面亀裂の発生が緩和するためと考えられる。TiおよびNbそれぞれの含有量が0.01%未満では、複合添加の効果が得られない。さらに、Ti+Nbの含有量が0.03%未満では強度が不十分となる。一方、0.15%を超えると連続鋳造における表面亀裂の発生が著しくなり、歩留まりや製造能率が低下する。したがって、Ti、Nbを複合添加する場合には、TiおよびNbそれぞれの含有量をTi:0.01%以上、Nb:0.01%以上、かつTi+Nb:0.03〜0.15%とする。
【0019】
V:0.01〜0.2%
Vは、Ti、Nbと複合添加することで、析出物を微細化し、強度を向上させる効果があり、必要に応じて添加する。その含有量が0.01%未満ではこの効果が十分でなく、0.2%を超えると連続鋳造における表面亀裂の発生が著しくなり、歩留まりや製造能率が低下する。したがって、Vを添加する場合は、その含有量を0.01〜0.2%とする。
【0020】
残部はFeおよび不可避的不純物元素からなる。このような不可避的不純物元素は本発明の目的である高強度と優れた連続鋳造性を低下させない範囲で許容され、例えば、Cu:0.1%以下、Ni:0.1%以下、Sn:0.01%以下、Mo:0.01%以下、Cr:0.1%以下、Sb:0.01%以下、O:0.003%以下、Zr:0.01%以下などを挙げることができる。
【0021】
[製造方法]
次に本発明製造方法について説明する。
・上記化学成分および組成を有する鋼を連続鋳造する
本発明では、スラブは連続鋳造法により鋳造される。連続鋳造法は、本発明の課題からして前提となるものであり、しかも鋳型鋳造法と比較して生産能率が高いためである。連続鋳造機は垂直曲げ型が望ましい。これは、垂直曲げ型は設備コストと表面品質のバランスに優れ、かつ、表面亀裂の抑制効果が顕著に発揮されるためである。連続鋳造の引き抜き速度は2.0m/min以上が望ましい。これは2.0m/min以上で、本発明の表面亀裂の抑制効果が一層顕著となるためである。また、連続鋳造での曲げ帯および矯正帯でのスラブの表面温度は600℃以下または850℃以上であることが望ましい。これは600℃超え850℃未満でスラブを曲げ変形すると表面亀裂(横割れ)が発生しやすくなるためである。
【0022】
・連続鋳造後、スラブを直接、または一旦冷却して加熱後、830℃以上で熱間圧延し、平均冷却速度20℃/sec以上で冷却した後、500〜620℃で巻取る
連続鋳造後、直接圧延する場合の圧延開始温度は1000℃以上、一旦冷却して加熱する場合の加熱温度は1150℃以上が望ましい。圧延開始温度が1000℃未満では圧延荷重が高くなり、熱延の生産能率がやや低下するためである。また、加熱温度が1150℃以上で炭窒化物生成元素の溶体化を促進し、強化能をさらに向上させるためである。連続鋳造後のスラブを830℃以上で熱間圧延するのは、830℃未満で熱間圧延すると、組織が不均一となり、伸びが劣化するからである。また、熱延後の平均冷却速度を20℃/sec以上とするのは、20℃/sec未満では、高温に加熱された際、強化に寄与しない粗大なTi、Nb、Vの炭窒化物が析出するため強度が著しく低下するからである。また巻取り温度を500〜620℃とするのは、巻取り温度が500℃未満では、ベイナイト組織が生成して伸びが低下し、一方、620℃を超えると、強化に寄与しない粗大なTi、Nb、Vの炭窒化物が析出するため強度が著しく低下するからである。ここで熱間圧延後、さらに820℃以下で連続焼鈍し、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを行ってもよい。焼鈍は、表面酸化膜を還元してめっき性を向上させるために行なう。焼鈍温度を820℃以下としたのは、820℃を超えるとTi、Nb、Vの析出物が粗大化し、強度が低下するからである。
【0023】
・必要に応じて、上記工程に加え、さらに、冷間圧延し、720〜820℃で連続焼鈍する
冷間圧延は常法でよい。焼鈍は、冷間圧延ひずみを再結晶により除去して加工性を向上させる目的、または、表面酸化膜を還元してめっきや化成処理などの表面処理性を向上させる目的のために行う。連続焼鈍は、バッチ焼鈍と比べて製造能率を高くすることができるため、また、析出物の粗大化による鋼板の軟化を抑制できるために行う。連続焼鈍温度を720〜820℃としたのは、焼鈍温度が720℃未満では焼鈍の効果が十分でなく、820℃を超えるとTi、Nb、Vの析出物が粗大化し強度が低下するからである。連続焼鈍工程で、同時に溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを行ってもよい。
【0024】
以上のように製造された熱延鋼板または冷延鋼板は、形状矯正および表面粗さ調整のためにスキンパスを行ってもよい。また、さらに電気亜鉛めっき、有機潤滑被覆など各種の表面処理を行ってもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
表1に示す化学成分、組成を有する鋼番号1〜22を連続鋳造してスラブとした。鋳造速度は2.0〜2.5m/minであった。曲げ帯のスラブ表面温度は860〜950℃、矯正帯でのスラブ表面温度は850〜910℃であった。一旦700℃以下まで冷却した後、1150〜1250℃に加熱し、熱間圧延を行った。最終圧延温度を830〜850℃とし、仕上板厚を1.6〜3.2mmとした。熱間圧延後すぐに、平均冷却速度25〜80℃/秒で冷却し、520〜600℃で巻き取った。さらに、鋼番号10、11については、圧延率50%で冷間圧延後、800℃で焼鈍した。
【0027】
表2に機械的特性、表面欠陥の評価結果を示す。機械的特性はJIS5号引張試験片を圧延方向と直角に採取し、JISZ2241に準拠して試験した。表面欠陥は製品板の表面を目視で評価し、不良材については欠陥分類(日本鉄鋼協会発行 熱延鋼板マニュアル(2000),P44参照)を記した。
【0028】
表2より明らかなように、本発明例である鋼番号2〜11は、機械的特性において590MPa級以上の高強度と25%以上の高い伸びを兼備したものとなった。また、2.0m/min以上の高速鋳造をしたにもかかわらず、スラブの表面亀裂に起因した表面欠陥のない良好な表面が得られた。一方、比較例である鋼番号12〜22では、いずれかの特性が劣った。鋼番号12はCが高く、スラブ凝固割れが発生したため、へげによる表面欠陥が発生した。鋼番号13はSiが高いため、熱間圧延工程において発生した赤スケールと称する表面欠陥が発生した。鋼番号14はMnが低いため、析出物が粗大化し、強度が低かった。鋼番号15はMnが高く、ベイナイト組織となったため、伸びが低かった。鋼番号16、17、18はNが高いため、連続鋳造工程でスラブに表面亀裂が発生し、製品の表面欠陥となった。鋼番号19はNbが高いため、連続鋳造工程でスラブに表面亀裂が発生し、製品の表面欠陥となった。鋼番号20はTiが高いため、連続鋳造工程でスラブに表面亀裂が発生し、製品の表面欠陥となった。鋼番号21はNb+Tiが高いため、連続鋳造工程でスラブに表面亀裂が発生し、製品の表面欠陥となった。鋼番号22はVが高いため、連続鋳造工程でスラブに表面亀裂が発生し、製品の表面欠陥となった。なお、本発明例の鋼番号2、9は、Nが0.0015%を超えておりやや高目であって、製品の表面に微小なへげが発生したが、実用上問題ないレベルであった。
【0029】
(実施例2)
表3に示す製造条件で熱延鋼板および冷延鋼板を製造した。鋼番号は表1のとおりである。熱延鋼板の板厚は1.6〜3.2mm、冷延鋼板の板厚は1.2〜2.0mmである。符号Lは熱間圧延後、酸洗し、連続溶融亜鉛めっき設備(以下「CGL」という)で焼鈍および溶融亜鉛めっきを施した。冷間圧延は、酸洗でスケール除去後実施した。符号Y、Zは酸洗、冷間圧延後、CGLで焼鈍および溶融亜鉛めっきを施した。
【0030】
表4に機械的特性、表面欠陥の評価結果を示す。機械的特性はJIS5号引張試験片を圧延方向と直角に採取し、JISZ2241に準拠して試験した。表面欠陥は製品板の表面を目視で評価し、不良材については欠陥分類日本鉄鋼協会発行 熱延鋼板マニュアル(2000),P44参照)を記した。
【0031】
結果を表4に示す。符号Cは巻取温度が低いため、析出物が粗大化し、伸びが低下した。符号Dは熱間圧延の仕上温度が低いため、組織が不均一となり、伸びが低下した。符号Fは熱間圧延後の平均冷却速度が低いため、析出物が粗大化し、強度が低下した。符号Iは巻取温度が高いため、析出物が粗大化し、強度が低下した。符号Mは熱間圧延の仕上温度が低いため、組織が不均一となり、伸びが低下した。符号Nは巻取り温度が高いため、析出物が粗大化し、強度が低下した。符号Rは熱間圧延後の平均冷却速度が低いため、析出物が粗大化し、強度が低下した。符号Sは焼鈍温度が低いため、十分に再結晶せず、伸びが著しく低下した。符号Tは焼鈍温度が高いため、析出物が粗大化し、強度が著しく低下した。一方、その他の例は、機械的特性において590MPa級以上の高強度と25%以上の高い伸びを兼備したものとなった。また、2.0m/min以上の高速鋳造をしたにもかかわらず、スラブの表面亀裂に起因した表面欠陥のない良好な表面が得られた。なお、製造条件が本発明の範囲内のもののうち符号V、W、Xは、曲げ帯および矯正帯のいずれかのスラブ表面温度が600℃超え850℃未満のため、製品の表面に微小なへげが発生したが、実用上問題ないレベルであった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、従来高強度化との両立が困難であった、優れた表面性状と高能率、低コスト化を実現するものであり、自動車車体、補強材、ホイール、足廻り部品、その他あらゆる機械構造部品に適用可能である。特に、自動車用鋼板の高強度化は自動車の燃費および安全性の向上に対して最も有効な手段であることから、高能率、低コストの高強度鋼板に対する社会的な期待は大きく、したがって、本発明は産業上極めて有益であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、Ti:0.03〜0.09%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度薄鋼板。
【請求項2】
質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、Nb:0.03〜0.09%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度薄鋼板。
【請求項3】
質量%で、C:0.04〜0.09%、Si:0.50%以下、Mn:1.20〜1.80%、P:0.050%以下、S:0.01%以下、N:0.0019%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%を含有し、さらに、TiおよびNbをTi:0.01%以上、Nb:0.01%以上、かつTi+Nb:0.03〜0.15%を満たす範囲で含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする高強度薄鋼板。
【請求項4】
質量%で、さらに、V:0.01〜0.2%を含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高強度薄鋼板。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化学成分および組成を有する鋼を連続鋳造してスラブとし、このスラブを、直接、または一旦冷却して加熱後、830℃以上で熱間圧延し、平均冷却速度20℃/sec以上で冷却した後、500〜620℃で巻取ることを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。
【請求項6】
さらに820℃以下で連続焼鈍し、溶融亜鉛めっきまたは合金化溶融亜鉛めっきを行うことを特徴とする請求項5に記載の高強度薄鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化学成分および組成を有する鋼を連続鋳造してスラブとし、このスラブを、直接、または一旦冷却して加熱後、830℃以上で熱間圧延し、平均冷却速度20℃/sec以上で冷却した後、500〜620℃で巻取って熱延鋼板とし、この熱延鋼板を、冷間圧延し、720〜820℃で連続焼鈍することを特徴とする高強度薄鋼板の製造方法。


【公開番号】特開2007−138238(P2007−138238A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332901(P2005−332901)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】