説明

高温対応RFIDタグ

【課題】きわめて高い温度の物体に対しても使用することが可能な高温対応RFIDタグを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、高温の対象物体Tに装着可能な装着面21を有し、この装着面21が対象物体Tに接する状態で装着される高温対応RFIDタグ10であって、データを記憶する半導体チップ120及び当該データを送受信可能なアンテナ122を含むタグ本体12と、装着面21とタグ本体12との間に介在し、装着面21に近い側の端部26aと装着面21から遠い側の端部26bとの温度差に基づき発電するゼーベック熱電素子26と、このゼーベック熱電素子26で発電された電力によりタグ本体12を冷却する冷却手段14と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物体に装着されてRFID(Radio Frequency Identification:無線周波数同定)に使用されるRFIDタグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工場や倉庫、店舗等での物品の識別にRFIDタグが多用されている。このRFIDタグの本体は、データを記憶するための半導体チップと、当該データを無線にて送受信するためのアンテナとを含み、これら半導体チップ及びアンテナは、一般にフィルム状の回路基板に実装される。
【0003】
このRFIDタグの本体の使用は、通常、常温付近の温度下に制限される。これは、当該RFIDタグを構成する前記半導体チップや樹脂製フィルム状基板の耐熱性が低いことによる。前記半導体チップの耐熱温度は、通常70℃程度であり、耐熱性の高い仕様のものでも125℃程度であり、それ以上の温度に前記半導体チップが長期間曝されると、同チップに含まれる回路の破壊や記憶データの消去が生ずるおそれがある。
【0004】
このようなRFIDタグ本体の低い耐熱性に関わらず、RFIDタグの高温使用を可能にする手段として、断熱部材を併用する技術が知られている。例えば、特許文献1に記載されているように、前記RFIDタグ本体を構成する回路基板と、複数の断熱材と、これらの断熱材を積層状態で格納する外枠とを備え、適当な断熱材同士の間に前記回路基板が挟みこまれたRFIDタグが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−175823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記のRFIDタグに想定されている耐熱温度は、200℃程度であり、それを超える耐熱温度を実現するための具体的な手段は当該文献に何ら開示されていない。その一方、鋼板等の製品を製造する現場、例えば、熱延工場においては、熱延鋼板のように熱延工程直後の高温状態(400℃程度)のまま保管される製品がある。このようなきわめて高温の物体は、前記のRFIDタグの耐熱特性の限界を超えるものであることから、その適用対象に含まれない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、きわめて高い温度の物体に対しても使用することが可能な高温対応RFIDタグを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、高温の対象物体に装着可能な装着面を有し、この装着面が前記対象物体に接する状態で装着される高温対応RFIDタグであって、前記対象物体に装着されたときに当該対象物体と接する装着面と、データを記憶する半導体チップ及び当該データを送受信可能なアンテナを含むタグ本体と、前記装着面と前記タグ本体との間に介在し、前記装着面に近い側の端部と前記装着面から遠い側の端部との温度差に基づき発電するゼーベック熱電素子と、このゼーベック熱電素子で発電された電力により前記タグ本体を冷却する冷却手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、高温の対象物体から装着面を通じて伝わる熱によりゼーベック熱電素子の端部のうち装着面に近い側の端部と遠い側の端部との間に温度差が生じ、即ち、ゼーベック熱電素子に温度差が加わり、この温度差に基づいて生じた電力を用いて冷却手段がタグ本体の冷却を行うことにより、前記対象物体が持つ熱からタグ本体を有効に保護して高い耐熱性能を実現することができる。言い換えると、単に断熱を図って対象物体の持つ熱からタグ本体を保護するのみでなく、冷却手段を用いて積極的にタグ本体を冷却することにより前記対象物体の持つ熱からタグ本体を有効に保護する。しかも、ゼーベック熱電素子が対象物体から装着面を通じて伝わる熱により発電可能なため、電力を消費して作動する冷却手段が設けられても外部から電力を供給する必要がない。
【0010】
さらに、タグ本体と装着面との間にゼーベック熱電素子が介在することにより、対象物体からタグ本体までの間の熱抵抗が増え、高温の対象物体から装着面を通じて伝わる熱がタグ本体に伝わり難くなり、対象物体が持つ熱からタグ本体がより有効に保護される。
【0011】
本発明に係る高温対応RFIDタグにおいては、前記冷却手段は、ペルチェ素子で構成され、このペルチェ素子は、その冷却側が前記タグ本体に熱伝導可能に接続されるのが好ましい。
【0012】
このようにタグ本体を冷却する冷却手段として安価で長寿命且つ低損失のペルチェ素子を用いることで、高温対応RFIDタグを安価で且つ信頼性の高いものとすることができる。しかも、ペルチェ素子では加わる電圧値の変化に伴って冷却能力が変化するため、当該ペルチェ素子が冷却手段として用いられることにより、対象物体の温度が変化してもタグ本体の温度が略一定に保たれる。即ち、対象物体の温度が高くなると、ゼーベック熱電素子に加わる温度差が大きくなって起電力が大きくなり、これによりペルチェ素子に加わる電圧が高くなって当該ペルチェ素子の冷却能力が高くなる一方、対象物体の温度が低くなると、ゼーベック熱電素子に加わる温度差が小さくなって起電力が小さくなり、これによりペルチェ素子に加わる電圧が低くなって当該ペルチェ素子の冷却能力が低くなる。その結果、対象物体の温度が変化してもタグ本体の温度は略一定に保たれる。
【0013】
前記ゼーベック熱電素子は、前記装着面に沿って拡がる板状に形成され、このゼーベック熱電素子における面のうち前記装着面から遠い側の面と接するように拡がる伝熱板が配設され、この伝熱板は、前記ゼーベック熱電素子の遠い側の面よりも熱伝導率の高い素材で形成されると共に外部の空気と接する放熱部を有するのが好ましい。
【0014】
このように伝熱板が熱伝導率の高い素材で形成されることにより放熱部が外部の空気と接することでその表面から空気に当該伝熱板の持つ熱が効果的に熱伝達(放出)されるため、対象物体から装着面を通じて伝わる熱による伝熱板の温度上昇が有効に抑制され、これによりゼーベック熱電素子に加わる温度差が維持されて当該ゼーベック熱電素子における起電力の低下が防がれる。
【0015】
前記ペルチェ素子は、前記タグ本体と前記伝熱板との間に介在し、当該ペルチェ素子の加熱側が前記伝熱板と熱伝導可能に接続されるのが好ましい。
【0016】
このようにペルチェ素子の加熱側と伝熱板とが熱伝導可能に接続されることで、伝熱板が冷却手段の一部を構成してペルチェ素子の加熱側に生じる熱を放熱部から空気中に放出可能となるため、ペルチェ素子のための放熱手段を別途設けなくてもよい。即ち、対象物体から装着面を通じて伝わる熱とペルチェ素子で生じる熱とを共通の伝熱板を通じて空気中へ放出することにより、高温対応RFIDタグの小型化を図ることが可能となる。
【0017】
また、タグ本体と装着面との間にペルチェ素子が介在するため、高温の対象物体から装着面を通じて伝わる熱がタグ本体により伝わり難くなる。
【0018】
前記タグ本体は、前記伝熱板を挟んで前記ゼーベック熱電素子と反対側に配置され、前記ペルチェ素子は、前記伝熱板における面のうち前記装着面から遠い側の面に接続されると共に、前記タグ本体における端部のうち前記装着面に近い側の端部に接続されるのが好ましい。
【0019】
このように装着面側から順にゼーベック熱電素子、伝熱板、ペルチェ素子、タグ本体が並ぶことで、タグ本体が装着面から離れた位置に配置されることになり、タグ本体と対象物体との間に熱抵抗となる部材が複数配設された状態となるため、対象物体から装着面を通して伝わる熱が伝わり難くなる。しかも、タグ本体の前記熱が伝わってくる側、即ち、装着面側にペルチェ素子が配設されることで、このペルチェ素子によりタグ本体へ向う熱の移動が妨げられると共に当該タグ本体が冷却されるため、タグ本体がより効果的に冷却され、対象物体の持つ熱からタグ本体がより有効に保護される。さらに、ペルチェ素子とタグ本体とが接続されることで当該ペルチェ素子によってタグ本体がより効果的に冷却される。
【0020】
前記伝熱板の放熱部は、当該伝熱板の持つ熱を空気中に放出するための複数の放熱用フィンを有するのが好ましい。
【0021】
このように放熱部が複数の放熱用フィンを有することにより、当該放熱部の空気と接する表面積が大きくなるため伝熱板の持つ熱が効果的に空気中へ放出されて当該伝熱板の温度が下がり、ゼーベック熱電素子に加わる温度差が大きくなって起電力がより増加する。そのため、ペルチェ素子に供給される電力が増加して当該ペルチェ素子の冷却能力が向上し、より効果的にタグ本体が冷却される。
【0022】
前記のように伝熱板の放熱部が複数の放熱用フィンを有する場合、前記ゼーベック熱電素子で発電された電力により前記放熱用フィンに送風する送風手段をさらに備えるのがより好ましい。
【0023】
かかる構成によれば、放熱部から空気中へ放出される熱量がさらに増加するため、ゼーベック熱電素子に加わる温度差がより大きくなって起電力がより大きくなる。従って、ペルチェ素子に供給される電力が増加し、当該ペルチェ素子の冷却能力が向上してより効果的にタグ本体が冷却される。しかも、ゼーベック熱電素子が対象物体から伝わる熱によって発電するため、電力を消費する送風手段が設けられても外部から電力を供給する必要がない。
【0024】
前記のようにゼーベック熱電素子における面のうち装着面から遠い側の面に接するように前記の伝熱板が配設される場合、前記ゼーベック熱電素子における面のうち前記装着面から近い側の面と接するように拡がり、当該近い側の面よりも熱伝導率の高い素材で形成された伝熱板が配設されるのが好ましい。
【0025】
このようにゼーベック熱電素子における面のうち装着面から遠い側の面と近い側の面とにそれぞれ伝熱板が配設されることにより、前記遠い側の面及び前記近い側の面における同一面内の温度むらがそれぞれ抑制され、これによりゼーベック熱電素子での起電力が大きくなり又は安定する。そのためペルチェ素子へ供給される電力が増加又は安定し、当該ペルチェ素子のタグ本体に対する冷却能力が向上又は安定する。
【0026】
前記対象物の温度を測定する温度測定手段と、前記ゼーベック熱電素子から前記タグ本体及び前記冷却手段への電力供給を制御する制御手段と、をさらに備え、前記タグ本体は、電力が供給されることにより前記温度測定手段で測定された温度データを前記アンテナから送信する送信部を有し、前記タグ本体及び前記冷却手段は、前記制御手段を介して前記ゼーベック熱電素子と電気的に接続され、前記制御手段は、ゼーベック熱電素子で発電された電力を蓄える蓄電部と、前記送信部が作動可能な最小の電圧値である第1の閾値と共に前記冷却手段が作動可能な最小の電圧値である第3の閾値を予め格納している記憶部と、前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値と前記第1の閾値及び前記第3の閾値とそれぞれを比較する比較部と、この比較部で前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値が前記第1の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記タグ本体へ出力すると共に前記電圧値が第3の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記冷却手段へ出力する電力出力部とを有するのが好ましい。
【0027】
かかる構成によれば、対象物体の温度がタグ本体を冷却手段によって冷却しなくてもよい程度に低い場合に、タグ本体にだけ電力を供給することにより、監視できる対象物体の温度範囲が大きくなる。
【0028】
具体的に、通常、データの送信に用いられる電力よりも冷却手段を駆動する電力の方が大きい。そのため、対象物体の温度が低くゼーベック熱電素子での起電力が小さいときには、タグ本体のみに電力が供給されることによって対象物体の温度が監視される一方、対象物体の温度が高くゼーベック熱電素子での起電力が十分大きいときには、タグ本体に加え冷却手段にも電力が供給されることによって対象物体の温度の監視が可能となると共にタグ本体の冷却が行われる。その結果、タグ本体と冷却手段との両方に同時に電力が供給される場合に比べ、対象物体の温度が低くゼーベック熱電素子での起電力が小さいとき、即ち、起電力の電圧値が第3の閾値以下の範囲においても対象物体の温度を監視することが可能となる。
【0029】
しかも、対象物体の温度が低くゼーベック熱電素子での起電力が小さく送信部を作動させることができない場合でも、制御手段において、蓄電部が前記起電力を蓄え、比較部が蓄電部に蓄えられた電力が第1の閾値を超えたと判断したときに電力出力部が当該蓄電部の蓄えた電力をタグ本体へ出力することによってタグ本体が作動できる。即ち、対象物体の温度が低くゼーベック熱電素子での起電力が第1の閾値以下の範囲においても対象物体の温度を監視することが可能となる。
【0030】
前記温度測定手段は、前記対象物体に装着される熱電対を有するのが好ましい。このように熱電対を用いることで信頼性の高い温度測定手段が得られる。即ち、熱電対は、高温又は低温の何れで使用されても熱起電力が安定し、寿命が長く、耐熱性が高く、高温においても機械的強度が保たれ、且つ耐食性が高い。そのため、高温の対象物体表面のように厳しい環境に置かれても信頼性の高い温度測定手段が得られる。
【0031】
前記の放熱用フィンと送風手段とを備える高温対応RFIDタグでは、前記対象物の温度を測定する温度測定手段と、前記ゼーベック熱電素子から前記タグ本体、前記送風手段及び前記冷却手段への電力供給を制御する制御手段と、をさらに備え、前記タグ本体は、前記温度測定手段で測定された温度データを前記アンテナから送信する送信部を有し、このタグ本体、前記冷却手段及び前記送風手段は、前記制御手段を介して前記ゼーベック熱電素子と電気的に接続され、前記制御手段は、ゼーベック熱電素子で発電された電力を蓄える蓄電部と、前記送信部が作動可能な最小の電圧値である第1の閾値、前記送風手段が作動可能な最小の電圧値である第2の閾値、及び前記冷却手段が作動可能な最小の電圧値である第3の閾値を予め格納している記憶部と、前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値と前記第1の閾値、前記第2の閾値及び第3の閾値とをそれぞれ比較する比較部と、この比較部で前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値が前記第1の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記タグ本体へ出力し、前記電圧値が前記第2の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記送風手段へ出力し、前記電圧値が前記第3の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記冷却手段へ出力する電力出力部と、を有し、前記第2の閾値は、前記第1の閾値よりも大きく且つ前記第3の閾値より小さいのが好ましい。
【0032】
かかる構成によれば、対象物体の温度に基づくゼーベック熱電素子での起電力に応じて制御手段が電力の供給先を変更することにより、監視できる対象物体の温度範囲が大きくなると共に、対象物体の温度がより低い温度のときに冷却手段を作動させてタグ本体をより有効に保護することができる。
【0033】
具体的に、対象物体の温度が低くゼーベック熱電素子で発電される電力によって冷却手段や送風手段を作動できない温度においても、タグ本体には電力が供給されて対象物体の温度の監視が可能となる。これにより、タグ本体、送風手段及び冷却手段に同時に電力が供給される場合に比べ、対象物体の温度が低くゼーベック熱電素子での起電力が小さいときにも対象物体の温度を監視することが可能となる。しかも、送風手段を冷却手段よりも低い電圧値で作動させることにより、送風手段がない若しくは作動していない場合に比べて対象物体の温度が低いときにも冷却手段が作動してタグ本体が冷却される。即ち、送風手段によって放熱部から放出される熱量が増加して伝熱板の温度が引き下げられ、これによりゼーベック熱電素子に加わる温度差が大きくなって起電力が大きくなることにより、送風手段がない若しくは作動していない場合に比べ、対象物体の温度が低くても冷却手段への電力供給が開始される。その結果、タグ本体が効果的に冷却されて対象物体の持つ熱からタグ本体がより有効に保護される。
【発明の効果】
【0034】
以上より、本発明によれば、きわめて高い温度の物体に対しても使用することが可能な高温対応RFIDタグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係る高温対応RFIDタグの使用状態における概略構成図を示す。
【図2】前記高温対応RFIDタグの回路図を示す。
【図3】他実施形態に係る高温対応RFIDタグの使用状態における概略構成図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0037】
図1は、高温対応RFIDタグ10の使用状態における構成図である。この高温対応RFIDタグ(以下、単に「RFIDタグ」と称する。)10は、高い耐熱性を有するために、高温の対象物体Tの表面に装着することが可能となっている。
【0038】
RFIDタグ10は、対象物体Tに装着される基部20と、この基部20における装着面21(図1における下面)と反対側の端部に配置されるタグ本体12、ペルチェ素子(冷却手段)14、及び制御手段30と、対象物体Tの温度を測定する熱電対16とを備える。
【0039】
基部20は、装着面21に沿って拡がる板状の複数の部材が積層されることにより構成されている。具体的には、基部20は、装着面21側から順に、断熱板22、第1の伝熱板24、ゼーベック熱電素子26及び第2の伝熱板28が積層されることにより構成されている。
【0040】
断熱板22は、装着面21を含む板状に形成され、対象物体Tから装着面21を通してゼーベック熱電素子26へ伝わる熱を低減するための部材である。即ち、断熱板22は、対象物体Tから伝わる熱によりゼーベック熱電素子26の温度が高くなり過ぎないように対象物体Tとゼーベック熱電素子26との間の熱抵抗として用いられる。従って、対象物体Tの温度がゼーベック熱電素子26の使用可能な温度範囲内であれば、断熱板22を基部20に用いる必要がない。本実施形態では、断熱板22は、ケイ酸カルシウムで形成されている。尚、断熱板22の素材は限定されず、熱抵抗値が高く(即ち、熱伝導率が低く)、機械強度が大きければよく、セラミック・ファイバー・ボード等でもよい。
【0041】
第1の伝熱板24は、対象物体Tから装着面21を通して伝わる熱を装着面21に沿う方向において一様にしてゼーベック熱電素子26に伝えるための板状の部材である。即ち、第1の伝熱板24は、ゼーベック熱電素子26の面のうち装着面21に近い側の面(第1の面:図1において下面)26aにおける温度むらを抑制して温度を一様にする。この第1の伝熱板24は、ゼーベック熱電素子26の第1の面26aよりも熱伝導率の高い素材で形成されている。本実施形態では、厚さが一定のアルミ板により構成されている。
【0042】
ゼーベック熱電素子26は、板状に形成され、装着面21に近い側の面(第1の面)26aと、装着面21から遠い側の面(第2の面:図1において上面)26bとの温度差に基づき発電可能な素子である。即ち、ゼーベック熱電素子26は、第1の面26aと第2の面26bとの温度差に基づく熱エネルギーを電気エネルギーに変換可能な素子である。このゼーベック熱電素子26は、本実施形態では、例えば250個のビスマス・テルル系の熱電素子を直列に接続することにより構成されている。このようなゼーベック熱電素子26の熱起電力(起電力)は、1段あたり約200μV/℃であるため、全体では、50mV/℃である。
【0043】
第2の伝熱板28は、ゼーベック熱電素子26の第2の面26bにおける温度むらを抑制して温度を一様にする板状の部材である。この第2の伝熱板28は、ゼーベック熱電素子26の第2の面26bよりも熱伝導率の高い素材で形成されている。本実施形態では、第1の伝熱板24同様の、厚さが一定のアルミ板を主部材とする。この第2の伝熱板28は、放熱用フィン(放熱部)29を有する。また、第2の伝熱板28における面28a,28bのうち装着面21から遠い側の面28bの中央部には、タグ本体12、ペルチェ素子14及び制御手段30が配置されている。
【0044】
放熱用フィン29は、第2の伝熱板28における外部の空気と接し、第2の伝熱板28の持つ熱と空気の持つ熱との熱交換が行われる部位、即ち、第2の伝熱板28の持つ熱を空気中に放出(熱伝達)するための部位である。この放熱用フィン29は、板状の部材であり、第2の伝熱板28に立設するように設けられている。また、放熱用フィン29は、複数設けられ、隣り合う放熱用フィン29の間を空気が流通できるように互いに間隔をおいて平行に並んでいる。本実施形態では、放熱用フィン29は、アルミ板で構成されている。この放熱用フィン29には、当該放熱用フィン29に送風するための送風ファン(送風手段)Fが設けられている。この送風ファンFは、ゼーベック熱電素子26で発電された電力によって作動し、RFIDタグ10の外部の空気を放熱用フィン29に向けて送風する。
【0045】
尚、第1の伝熱板24と第2の伝熱板28との素材は、限定されない。本実施形態では、第1の伝熱板24及び第2の伝熱板28は、共にアルミ板で構成されているが、熱伝導率の高い素材で且つ構造体として放熱用フィン29や送風ファンF等を支持できればよく、銅や鉄、ステンレス等でもよい。また、第1の伝熱板24及び第2の伝熱板28は、金属に限定されず、ダイヤモンド等の熱伝導率の高い素材であればよい。さらに、第1の伝熱板24と第2の伝熱板28とは、同一素材である必要もなく、異なる素材であってもよい。また、同一厚さである必要もない。
【0046】
ペルチェ素子14は、ゼーベック熱電素子26で発電された電力によりタグ本体12を冷却するための素子である。このペルチェ素子14は、板状に形成され、電力が供給(即ち、電圧が印加)されることにより、一方の面14aが加熱面で他方の面14bが冷却面となる。ペルチェ素子14は、タグ本体12及び制御手段30と第2の伝熱板28との間に介在し、冷却面14bがタグ本体12及び制御手段30と熱伝導可能に接続され、加熱面14aが第2の伝熱板28と熱伝導可能に接続される。即ち、ペルチェ素子14は、タグ本体12と制御手段30とを冷却可能に配置されている。
【0047】
タグ本体12は、データを記憶する半導体チップ120と、当該データを送受信するためのアンテナ122と、電力が供給されることで熱電対16から取得したデータを前記アンテナ122から送信する送信部124と、フィルム基板126とを備える。タグ本体12は、フィルム基板126に半導体チップ120、アンテナ122及び送信部124が実装されたものであり、全体が扁平な形状をなしている。このタグ本体12は、電力が供給されていないときは、パッシブ・タグとして働き、電力が供給されると、送信部124が作動することにより、アクティブ・タグとして働く。
【0048】
制御手段30は、ゼーベック熱電素子26からタグ本体12、送風ファンF及びペルチェ素子14への電力供給を制御する回路である。従って、タグ本体12、送風ファンF及びペルチェ素子14は、図2にも示されるように、制御手段30を介してゼーベック熱電素子26と電気的に接続されている。この制御手段30は、蓄電部32と、記憶部34と、比較部36と、電力出力部38とを備える。
【0049】
蓄電部32は、ゼーベック熱電素子26で発電された電力を蓄えることが可能な部位である。本実施形態では、蓄電部32はコンデンサにより構成されている。
【0050】
記憶部34は、第1の閾値と第2の閾値と第3の閾値とを予め格納している部位である。第1の閾値はタグ本体12の送信部124が作動可能な最小の電圧値であり、第2の閾値は送風ファンFが作動可能な最小の電圧値であり、第3の閾値はペルチェ素子14が作動可能な最小の電圧値である。これら第1乃至第3の閾値は、本実施形態では、例えば、第1の閾値が1.3V、第2の閾値が2.5V、第3の閾値が4.0Vである。
【0051】
比較部36は、記憶部34から第1の閾値、第2の閾値及び第3の閾値を引き出し、これら第1の閾値、第2の閾値及び第3の閾値と蓄電部32に蓄えられた電力の電圧値とをそれぞれ比較する部位である。
【0052】
電力出力部38は、比較部36での判断に基づき蓄電部32に蓄えられた電力をタグ本体12、送風ファンF及びペルチェ素子14へ出力する部位である。具体的に、電力出力部38は、比較部36で蓄電部32に蓄えられた電力の電圧値が第1の閾値を超えたと判断されたときに当該蓄電部32に蓄えられた電力をタグ本体12へ出力し、比較部36で前記電圧値が第2の閾値を超えたと判断されたときに当該蓄電部32に蓄えられた電力を送風ファンFへ出力し、比較部36で前記電圧値が第3の閾値を超えたと判断されたときに当該蓄電部32に蓄えられた電力をペルチェ素子14へ出力する。
【0053】
これらペルチェ素子14、タグ本体12及び制御手段30は、断熱囲い部材40によってその周囲を囲まれている。断熱囲い部材40は、一端(図1における下部)が開口した箱型に形成された断熱部材である。具体的には、第2の伝熱板28における面28a,28bのうち装着面21から遠い側の面28b上にペルチェ素子14とタグ本体12及び制御手段30とが順に重ねられ、これらペルチェ素子14、タグ本体12及び制御手段30が内部空間に収納されるように被せられている。即ち、これらペルチェ素子14、タグ本体12及び制御手段30が前記第2の伝熱板28の遠い側の面28bと共に断熱囲い部材40によってその周囲全体が囲まれている。
【0054】
熱電対16は、RFIDタグ10と共に対象物体Tに装着され、当該対象物体Tの温度を測定するための部材である。この熱電対16は、タグ本体12に接続され、対象物体Tの温度により生じた電位差(電圧)をタグ本体12に伝達する。タグ本体12は、送信部124において、この熱電対16から伝達された電位差を対象物体Tの温度データに変換し、電力が供給されることによりアンテナ122を介して前記温度データを送信する。このような熱電対16を用いることで信頼性の高い温度測定手段が得られる。即ち、熱電対16は、高温又は低温の何れで使用されても熱起電力が安定し、寿命が長く、耐熱性が高く、高温においても機械的強度が保たれ、且つ耐食性が高い。そのため、高温の対象物体T表面のように厳しい環境に置かれても信頼性の高い温度測定手段が得られる。
【0055】
以上のように構成されるRFIDタグ10は、装着面21が対象物体T表面に接する状態で対象物体Tに装着され(図1参照)、以下のように作用する。
【0056】
RFIDタグ10が対象物体Tに装着されると、この対象物体Tが持つ熱が装着面21を通じてRFIDタグ10の内部に伝わり、放熱用フィン29から空気中へ放出される。即ち、対象物体Tの持つ熱が装着面21から放熱用フィン29に向ってRFIDタグ10の内部を流れて放熱用フィン29から放出される。具体的には、装着面21から入った熱は、断熱板22、第1の伝熱板24、ゼーベック熱電素子26、第2の伝熱板28の順に伝わり、放熱用フィン29から当該放熱用フィン29に接する空気に熱伝達される。
【0057】
詳細には、例えば、前記のRFIDタグ10を、熱延工場において熱延工程直後の熱延鋼板等の高温の金属素材(対象物体)Tに装着した場合について説明する。この対象物体Tの温度は、400℃であり、RFIDタグ10の有するタグ本体12の耐熱温度は、70℃である。
【0058】
RFIDタグ10が対象物体Tに装着されると、前記のように装着面21を通して対象物体Tの熱が内部に伝わり、第1の伝熱板24の温度が200℃、第2の伝熱板28の温度が100℃となる。従って、このときのゼーベック熱電素子26の第1の面26aと第2の面26bとの温度差は100℃となる。本実施形態に係るゼーベック熱電素子26では、前記のように50mV/℃の起電力が得られるため、この状態では第1の面26aの温度と第2の面26bの温度との温度差が100℃なので、ゼーベック熱電素子26から5Vの起電力が得られる。
【0059】
この起電力は、制御手段30の蓄電部32に送られる。ゼーベック熱電素子26から送られる起電力(5V)は、第3の閾値(4.0V)よりも大きな値であるため、比較部36で各閾値と比較された後、電力出力部38によってタグ本体12、送風ファンF及びペルチェ素子14にそれぞれ出力される。このとき、本実施形態のペルチェ素子14には50℃の冷却力があり、当該ペルチェ素子14の加熱面14a(第2の伝熱板28)の温度が100℃であるため、ペルチェ素子14の冷却面14bの温度は50℃となる。タグ本体12は、ペルチェ素子14の冷却面14bに接続され冷却されているため、当該タグ本体12の温度も50℃となる。前記のようにタグ本体12の耐熱温度が70℃であるため、タグ本体12は正常に作動することができる。
【0060】
前記のように送風ファンFにも電力が供給されているため、送風ファンFが作動して外部の空気を放熱用フィン29に向けて送風する。これにより、第2の伝熱板28の持つ熱が放熱用フィン29から効果的に放出され、第2の伝熱板28の温度が低下する。そうすると、ゼーベック熱電素子26において、第1の伝熱板24と第2の伝熱板28との温度差、即ち、ゼーベック熱電素子26に加わる温度差が大きくなり、当該ゼーベック熱電素子26での起電力が大きくなる。そのためペルチェ素子14へ供給される電力が増加し、これによりペルチェ素子14の冷却能力が向上してタグ本体12がより効果的に冷却される。その結果、RFIDタグ10においてより高い耐熱性能が実現される。
【0061】
また、タグ本体12にも電力が供給されているため、送信部124が作動して対象物体Tの温度データを外部に送信する。具体的に、タグ本体12では、送信部124が電力を供給されることにより対象物体Tに装着された熱電対16から伝達された電位差(電圧)情報を対象物体Tの温度データに変換し、この変換した温度データをアンテナ122を介して外部に送信する。この温度データを受信することにより、対象物体Tから離れた位置において当該対象物体Tの温度の監視が可能となる。
【0062】
ここで、前記の状態から対象物体Tの温度が変化した場合のRFIDタグ10におけるタグ本体12の温度変化について観察する。尚、この場合の対象物体Tの温度変化は、ゼーベック熱電素子26での起電力の電圧値が第3の閾値以下にならないような温度範囲である。
【0063】
まず対象物体Tの温度が高くなった場合には、ゼーベック熱電素子26の第1の面26aと第2の面26bとの温度差、即ち、ゼーベック熱電素子26に加わる温度差が大きくなる。具体的に、例えば、対象物体Tの温度がケルビン単位で2倍になればゼーベック熱電素子26に加わる温度差も2倍になる。このようにゼーベック熱電素子26に加わる温度差が大きくなれば当該ゼーベック熱電素子26での起電力も大きくなり、これに伴ってペルチェ素子14に供給される電力も大きくなる。ペルチェ素子14は、供給される電力が大きくなると、即ち、ペルチェ素子14に印加される電圧が大きくなるとその冷却能力が高くなる。従って、ゼーベック熱電素子26での起電力が大きくなることでタグ本体12がより強力に冷却されるため、対象物体Tの温度が高くなっても、タグ本体12の温度はあまり変化しない。
【0064】
一方、前記の状態から対象物体Tの温度が低くなった場合には、ゼーベック熱電素子26に加わる温度差が小さくなる。そうすると、ゼーベック熱電素子26での起電力が小さくなり、これに伴ってペルチェ素子14に供給される電力も小さくなる。そうすると、ペルチェ素子14の冷却能力が小さくなりタグ本体12に対する冷却力が弱まるため、対象物体Tの温度が低くなってもタグ本体12の温度はあまり変化しない。
【0065】
以上のように、対象物体Tの温度が変化してもRFIDタグ10においてタグ本体12の温度は、略一定に保たれる。
【0066】
前記の高温(400℃)の対象物体Tを室温で放置すると、当該対象物体Tの温度が低下する。このとき、対象物体Tの温度低下に伴ってゼーベック熱電素子26での起電力も低下する。ゼーベック熱電素子26での起電力が第2の閾値よりも大きく且つ第3の閾値以下になると、ペルチェ素子14を作動させることができない。しかし、このときのゼーベック熱電素子26での起電力は、第1及び第2の閾値よりも大きいことからタグ本体12及び送風ファンFには電力が供給されている。即ち、タグ本体12から外部に対象物体Tの温度データが送信されると共に、送風ファンFによって放熱用フィン29に送風がなされている。
【0067】
さらに対象物体Tを室温で放置すると、より対象物体Tの温度が低下し、ゼーベック熱電素子26での起電力が低下する。ゼーベック熱電素子26での起電力が第1の閾値よりも大きく且つ第2の閾値以下になると、送風ファンFを作動させることができない。尚、このときの前記起電力は、第1の閾値よりも大きいことからタグ本体12には電力が供給され、タグ本体12から外部に対象物体Tの温度データが送信されている。
【0068】
さらに室温で放置して対象物体Tの温度が低下し、ゼーベック熱電素子26での起電力が第1の閾値以下になると、ゼーベック熱電素子26から制御手段30に送られている起電力では、タグ本体12を作動させることができなくなるが、制御手段30において、蓄電部32が前記起電力を蓄え、比較部36が蓄電部32に蓄えられた電力が第1の閾値を超えたと判断したときに電力出力部38が当該蓄電部32の蓄えた電力をタグ本体12へ出力することによってタグ本体12が作動できる。具体的には、タグ本体12は間欠的に(例えば、毎分1回で1秒程度)作動する。
【0069】
以上のように本実施形態に係るRFIDタグ10では、高温の対象物体Tから装着面21を通じて伝わる熱によりゼーベック熱電素子26の第1の面26aと第2の面26bとの間に温度差が生じ、即ち、ゼーベック熱電素子26に温度差が加わり、この温度差に基づいて生じた電力を用いてペルチェ素子14がタグ本体12の冷却を行うことにより、対象物体Tが持つ熱からタグ本体12を有効に保護して高い耐熱性能を実現することができる。言い換えると、単に断熱を図って対象物体Tの持つ熱からタグ本体12を保護するのみでなく、ペルチェ素子14を用いて積極的にタグ本体12を冷却することにより対象物体Tの持つ熱からタグ本体12を有効に保護する。
【0070】
しかも、ゼーベック熱電素子26が対象物体Tから装着面21を通じて伝わる熱により発電可能なため、電力を消費して作動するペルチェ素子(冷却手段)14が設けられても外部から電力を供給する必要がない。また、当該RFIDタグ10が使用される高温の環境に耐える電池等の電源を設ける必要もない。
【0071】
さらに、タグ本体12と装着面21との間にペルチェ素子14及び基部20(断熱板22、第1の伝熱板24、ゼーベック熱電素子26及び第2の伝熱板28)が介在することにより、対象物体Tからタグ本体12までの間の熱抵抗が大きく、高温の対象物体Tから装着面21を通じて伝わる熱がタグ本体12に伝わり難くなり、対象物体Tが持つ熱からタグ本体12がより有効に保護される。
【0072】
また、タグ本体12を冷却する冷却手段として安価で長寿命且つ低損失のペルチェ素子14を用いることで、RFIDタグ10を安価で且つ信頼性の高いものとすることができる。しかも、ペルチェ素子14では加わる電圧値の変化に伴って冷却能力が変化するため、当該ペルチェ素子14が冷却手段として用いられることにより、対象物体Tの温度が変化してもタグ本体12の温度が略一定に保たれる。
【0073】
第2の伝熱板28が熱伝導率の高い素材で形成されることにより放熱用フィン(放熱部)29が外部の空気と接することでその表面から空気に当該第2の伝熱板28の持つ熱が効果的に熱伝達されるため、対象物体Tから装着面21を通じて伝わる熱による第2の伝熱板28の温度上昇が有効に抑制され、これによりゼーベック熱電素子26に加わる温度差が維持されて当該ゼーベック熱電素子26における起電力の低下が防がれる。
【0074】
ペルチェ素子14の加熱面14aと第2の伝熱板28とが熱伝導可能に接続される(面接触する)ことで、第2の伝熱板28が冷却手段の一部を構成してペルチェ素子14の加熱面14aに生じる熱を放熱用フィン29から空気中に放出可能となるため、ペルチェ素子14のための放熱手段を別途設けなくてもよい。即ち、対象物体Tから装着面21を通じて伝わる熱とペルチェ素子14で生じる熱とを共通の第2の伝熱板28を通じて空気中へ放出することにより、RFIDタグ10の小型化を図ることが可能となる。
【0075】
装着面21側から順に断熱板22、第1の伝熱板24、ゼーベック熱電素子26、第2の伝熱板28、ペルチェ素子14、タグ本体12が並ぶことで、タグ本体12が装着面21から離れた位置に配置されることになり、タグ本体12と対象物体Tとの間に熱抵抗となる部材が複数配設された状態となるため、対象物体Tから装着面21を通して伝わる熱が伝わり難くなる。しかも、前記熱が伝わってくる側、即ち、装着面21側にペルチェ素子14が配設されることで、このペルチェ素子14によりタグ本体12へ向う対象物体Tからの熱の移動が妨げられると共に当該タグ本体12が冷却されるため、タグ本体12がより効果的に冷却され、対象物体Tの持つ熱からタグ本体12がより有効に保護される。さらに、ペルチェ素子14とタグ本体12とが接続されることで当該ペルチェ素子14によってタグ本体12がより効果的に冷却される。これによりRFIDタグ10のより高い耐熱性能が実現される。
【0076】
第2の伝熱板28において放熱部位が複数の放熱用フィン29を有することにより、当該放熱部位の空気と接する表面積が大きくなるため第2の伝熱板28の持つ熱が効果的に空気中へ放出されて当該第2の伝熱板28の温度が下がり、ゼーベック熱電素子26に加わる温度差が大きくなって起電力がより増加する。そのため、ペルチェ素子14に供給される電力が増加して当該ペルチェ素子14の冷却能力が向上し、より効果的にタグ本体12が冷却される。
【0077】
また、第2の伝熱板28が複数の放熱用フィン29を有する場合、送風ファンFをさらに備えることで、放熱用フィン29から空気中へ放出される熱量がさらに増加するため、ゼーベック熱電素子26に加わる温度差がより大きくなって起電力がより大きくなる。従って、ペルチェ素子14に供給される電力が増加し、当該ペルチェ素子14の冷却能力が向上してより効果的にタグ本体12が冷却される。しかも、ゼーベック熱電素子26が対象物体Tから伝わる熱によって発電するため、電力を消費する送風ファンFが設けられても外部から電力を供給する必要がない。また、蓄電池等の電源を別途設ける必要もない。
【0078】
ゼーベック熱電素子26を第1の伝熱板24と第2の伝熱板28とによって挟み込むことで、ゼーベック熱電素子26の第1の面26a及び第2の面26bにおける同一面内の温度むらがそれぞれ抑制され、これによりゼーベック熱電素子26での起電力が大きくなり又は安定する。そのためペルチェ素子14へ供給される電力が増加又は安定し、当該ペルチェ素子14のタグ本体12に対する冷却能力が向上又は安定する。
【0079】
制御手段30において、電力出力部38が比較部36で蓄電部32に蓄えられた電力の電圧値が第1の閾値を超えたと判断されたときに電力をタグ本体12へ出力すると共に前記電圧値が第3の閾値を超えたと判断されたときに電力をペルチェ素子14へ出力することで、対象物体Tの温度がタグ本体12をペルチェ素子14によって冷却しなくてもよい程度に低い場合に、タグ本体12にだけ電力を供給することにより、監視できる対象物体Tの温度範囲が大きくなる。
【0080】
具体的に、通常、データの送信に用いられる電力よりもペルチェ素子14を駆動する電力の方が大きい。そのため、対象物体Tの温度が低くゼーベック熱電素子26での起電力が小さいときには、タグ本体12のみに電力が供給されることによって対象物体Tの温度が監視される一方、対象物体Tの温度が高くゼーベック熱電素子26での起電力が十分大きいときには、タグ本体12に加えペルチェ素子14にも電力が供給されることによって対象物体Tの温度の監視が可能となると共にタグ本体12の冷却が行われる。その結果、タグ本体12とペルチェ素子14との両方に同時に電力が供給される場合に比べ、対象物体Tの温度が低くゼーベック熱電素子26での起電力が小さいとき、即ち、起電力の電圧値が第3の閾値以下の範囲においても対象物体Tの温度を監視することが可能となる。
【0081】
また、対象物体Tの温度に基づくゼーベック熱電素子26での起電力に応じて制御手段30が電力の供給先を変更することにより、監視できる対象物体Tの温度範囲が大きくなると共に、対象物体Tの温度がより低い温度のときにペルチェ素子14を作動させてタグ本体12をより有効に保護することができる。
【0082】
具体的に、対象物体Tの温度が低くゼーベック熱電素子26で発電される電力によってペルチェ素子14や送風ファンFを作動できない温度においても、タグ本体12には電力が供給されて対象物体Tの温度の監視が可能となる。これにより、タグ本体12、送風ファンF及びペルチェ素子14に同時に電力が供給される場合に比べ、対象物体Tの温度が低くゼーベック熱電素子26での起電力が小さいときにも対象物体Tの温度を監視することが可能となる。しかも、送風ファンFをペルチェ素子14よりも低い電圧値で作動させることにより、送風ファンFがない若しくは作動していない場合に比べて対象物体Tの温度が低いときにもペルチェ素子14が作動してタグ本体12が冷却される。即ち、送風ファンFによって放熱用フィン(放熱部)29から放出される熱量が増加して第2の伝熱板28の温度が引き下げられ、これによりゼーベック熱電素子26に加わる温度差が大きくなって起電力が大きくなることにより、送風ファンFがない若しくは作動していない場合に比べ、対象物体Tの温度が低くてもペルチェ素子14への電力供給が開始される。その結果、タグ本体12が効果的に冷却されて対象物体Tの持つ熱からタグ本体12がより有効に保護される。
【0083】
尚、本発明のRFIDタグ10は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0084】
タグ本体12の冷却手段の具体的構成は限定されない。例えば、本実施形態ではペルチェ素子14が用いられているが、ゼーベック熱電素子26で発電された電力によりタグ本体12を冷却できれば、他の冷却手段が用いられてもよい。
【0085】
また、図3に示されるように、RFIDタグ10は制御手段30を備えなくてもよい。この場合、対象物体Tの温度に基づくゼーベック熱電素子26での起電力に応じて当該起電力の供給先を変更することができないため、送風ファンF及びタグ本体12の送信部124を設けない構成が好ましい。即ち、起電力に応じた適切な電力の供給先の切り換えができないため、ゼーベック熱電素子26の起電力が全てペルチェ素子(冷却手段)14に供給されるように構成することで、対象物体Tの持つ熱からタグ本体12が有効に保護される。
【0086】
また、本実施形態では、ペルチェ素子14で生じた熱と対象物体Tから装着面21を通して伝わる熱とを共通の第2の伝熱板28の放熱用フィン(放熱部)29から空気中に放出しているが、これに限定されない。例えば、ペルチェ素子14の加熱面14aにも放熱用フィン等の放熱手段を設け、ペルチェ素子14のための放熱手段と、対象物体Tから装着面21を通して第2の伝熱板28に伝わる熱の放出手段とを別々に備えてもよい。
【0087】
また、本実施形態では、共通のタグ本体12がアクティブ・タグとパッシブ・タグとの働きをするが、アクティブ・タグとして働く第1のタグ本体と、パッシブ・タグとして働く第2のタグ本体とを別々に設けてもよい。この場合、第2のタグ本体が制御手段30を介してゼーベック熱電素子26に電気的に接続される。即ち、第1のタグ本体は、ゼーベック熱電素子から電力の供給を受けない。
【0088】
第2の伝熱板28の放熱部の構成は、限定されない。例えば、本実施形態においては、放熱部として放熱用フィン29が設けられているが、放熱用フィン29がない状態、即ち、第2の伝熱板28が放熱部も含めて単なる板状体であってもよい。放熱部がこのような形状であっても、外部の空気と接することで第2の伝熱板28と空気との熱交換が可能であるため、第2の伝熱板28の持つ熱が放熱部から空気中に放出される。
【0089】
対象物体Tの温度測定手段の具体的構成は限定されない。例えば、本実施形態では、熱電対16が用いられているが、これに限定されず、他の温度測定手段が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 高温対応RFIDタグ
12 タグ本体
14 ペルチェ素子(冷却手段)
21 装着面
26 ゼーベック熱電素子
26a 第1の面(装着面に近い側の面(端部))
26b 第2の面(装着面から遠い側の面(端部))
120 半導体チップ
122 アンテナ
T 対象物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温の対象物体に装着可能な装着面を有し、この装着面が前記対象物体に接する状態で装着される高温対応RFIDタグであって、
データを記憶する半導体チップ及び当該データを送受信可能なアンテナを含むタグ本体と、
前記装着面と前記タグ本体との間に介在し、前記装着面に近い側の端部と前記装着面から遠い側の端部との温度差に基づき発電するゼーベック熱電素子と、
このゼーベック熱電素子で発電された電力により前記タグ本体を冷却する冷却手段と、を備えることを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項2】
請求項1に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記冷却手段は、ペルチェ素子で構成され、
このペルチェ素子は、その冷却側が前記タグ本体に熱伝導可能に接続されることを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項3】
請求項2に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記ゼーベック熱電素子は、前記装着面に沿って拡がる板状に形成され、
このゼーベック熱電素子における面のうち前記装着面から遠い側の面と接するように拡がる伝熱板が配設され、
この伝熱板は、前記ゼーベック熱電素子の遠い側の面よりも熱伝導率の高い素材で形成されると共に外部の空気と接する放熱部を有することを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項4】
請求項3に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記ペルチェ素子は、前記タグ本体と前記伝熱板との間に介在し、当該ペルチェ素子の加熱側が前記伝熱板と熱伝導可能に接続されることを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項5】
請求項4に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記タグ本体は、前記伝熱板を挟んで前記ゼーベック熱電素子と反対側に配置され、
前記ペルチェ素子は、前記伝熱板における面のうち前記装着面から遠い側の面に接続されると共に、前記タグ本体における端部のうち前記装着面に近い側の端部に接続されることを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項6】
請求項3乃至5の何れか1項に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記伝熱板の放熱部は、当該伝熱板の持つ熱を空気中に放出するための複数の放熱用フィンを有することを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項7】
請求項6に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記ゼーベック熱電素子で発電された電力により前記放熱用フィンに送風する送風手段をさらに備えることを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項8】
請求項3乃至7の何れか1項に記載の高温対応FIDタグにおいて、
前記ゼーベック熱電素子における面のうち前記装着面から近い側の面と接するように拡がり、当該近い側の面よりも熱伝導率の高い素材で形成された伝熱板が配設されることを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記対象物の温度を測定する温度測定手段と、前記ゼーベック熱電素子から前記タグ本体及び前記冷却手段への電力供給を制御する制御手段と、をさらに備え、
前記タグ本体は、電力が供給されることにより前記温度測定手段で測定された温度データを前記アンテナから送信する送信部を有し、
前記タグ本体及び前記冷却手段は、前記制御手段を介して前記ゼーベック熱電素子と電気的に接続され、
前記制御手段は、ゼーベック熱電素子で発電された電力を蓄える蓄電部と、前記送信部が作動可能な最小の電圧値である第1の閾値と共に前記冷却手段が作動可能な最小の電圧値である第3の閾値を予め格納している記憶部と、前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値と前記第1の閾値及び前記第3の閾値とそれぞれを比較する比較部と、この比較部で前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値が前記第1の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記タグ本体へ出力すると共に前記電圧値が第3の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記冷却手段へ出力する電力出力部とを有することを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項10】
請求項9に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記温度測定手段は、前記対象物体に装着される熱電対を有することを特徴とする高温対応RFIDタグ。
【請求項11】
請求項7に記載の高温対応RFIDタグにおいて、
前記対象物の温度を測定する温度測定手段と、前記ゼーベック熱電素子から前記タグ本体、前記送風手段及び前記冷却手段への電力供給を制御する制御手段と、をさらに備え、
前記タグ本体は、前記温度測定手段で測定された温度データを前記アンテナから送信する送信部を有し、
このタグ本体、前記冷却手段及び前記送風手段は、前記制御手段を介して前記ゼーベック熱電素子と電気的に接続され、
前記制御手段は、ゼーベック熱電素子で発電された電力を蓄える蓄電部と、前記送信部が作動可能な最小の電圧値である第1の閾値、前記送風手段が作動可能な最小の電圧値である第2の閾値、及び前記冷却手段が作動可能な最小の電圧値である第3の閾値を予め格納している記憶部と、
前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値と前記第1の閾値、前記第2の閾値及び第3の閾値とをそれぞれ比較する比較部と、
この比較部で前記蓄電部に蓄えられた電力の電圧値が前記第1の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記タグ本体へ出力し、前記電圧値が前記第2の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記送風手段へ出力し、前記電圧値が前記第3の閾値を超えたと判断されたときに前記蓄電部に蓄えられた電力を前記冷却手段へ出力する電力出力部と、を有し、
前記第2の閾値は、前記第1の閾値よりも大きく且つ前記第3の閾値よりも小さいことを特徴とする高温対応RFIDタグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−231419(P2010−231419A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77186(P2009−77186)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】