説明

高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼およびその製造方法

本発明は、カミソリ刃、刀などに使用される、重量%で、0.40〜0.80%の炭素、11〜16%のクロムを主成分として含む高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法に関するもので、ストリップキャスティング装置において、重量%で、C:0.40〜0.80%、Cr:11〜16%を含むステンレス溶鋼を、タンディッシュからノズルを介して溶鋼プールに供給してステンレス薄板を鋳造し、前記鋳造されたステンレス薄板を、鋳造直後にインラインローラを用いて5〜40%の圧下率で熱延焼鈍ストリップを製造し、熱延焼鈍ストリップの微細組織内に一次カーバイドが10μm以下となるようにする、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法およびその製造方法によって製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼を提供する。本発明は、鋳造組織および熱延板内に形成される一次カーバイドの大きさを10μm以下に低減させることにより、刃物の用途として刃先の品質に優れた高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を製造することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼およびその製造方法に関し、より詳細には、0.4〜0.8%の炭素、11〜16%のクロムを含む高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼をストリップキャスティング工程を用いて製造し、一次カーバイドの大きさを低減させた高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、重量%で、炭素を0.40%以上含む高炭素マルテンサイト系鋼は、耐食性、硬度、そして、耐磨耗性に優れ、カミソリ刃、刀などに使用されている。このようにカミソリ刃などに使用される高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて製造されたカミソリ刃を使用する場合、ひげをそる過程でカミソリ刃が水分と接触する。
【0003】
また、このようなカミソリ刃は、湿った雰囲気で保管するようになるため、腐食抵抗性が必要である。このように、前記環境は高炭素鋼が使用されるには厳し過ぎるものであるため、通常は約13%のクロムを含むマルテンサイト系ステンレス鋼が主に使用される。このようなマルテンサイト系ステンレス鋼を用いて製造されたカミソリ刃は、その基地組織のマルテンサイトが重量百分率で約12%以上のクロムを含み、その結果として、カミソリ刃の表面に薄いクロム酸化物が緻密に生成され、水分からカミソリ刃の基地組織の腐食を抑制する役割を果たす。
【0004】
一方、ひげをそることは、カミソリ刃を素材に密着させてひげを切る過程で、高強度のひげを切るために何よりも高い硬度が要求される。カミソリ刃が要求する高い硬度水準は、鋼のマルテンサイト基地組織によって実現される。マルテンサイト組織は、高温のオーステナイトを急速に冷却させる時に生成される非常に硬い微細組織である。高温のオーステナイト相に固溶した炭素の含有量が高いほど、マルテンサイトに固溶した炭素が多く、マルテンサイトの硬度は高くなる。したがって、高硬度を有するカミソリ刃用鋼を製造するためには、できるだけ多量の炭素を鋼に添加させることができなければならない。
【0005】
通常、耐食性と硬度の観点で前記のような要求条件を満たすカミソリ刃用素材として420系のマルテンサイト系ステンレス鋼が主に使用されている。これらの鋼は、重量百分率で0.45〜0.70%の炭素、最大1%のマンガン、最大1%のシリコン、そして、12〜15%のクロムを含む鋼で、なかでも、約0.65%と約13%のクロムに基づく成分系が通常多く使用されている。
【0006】
一方、カミソリ刃の厚さは、一般的に0.2mm以下である。したがって、カミソリ刃を製造するために、0.2mm以下の厚さを有する非常に薄い高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を初期素材として使用する。この初期素材は、フェライト基地組織と均一に分布した微細なクロム炭化物から構成された微細組織を有する。この時、微細なクロム炭化物の分布は、後続の強化熱処理(hardening)工程で高温のオーステナイト相に炭素の迅速な再固溶を可能とし、冷却によって変態したマルテンサイトがカミソリ刃として使用されるのに十分な硬度を有するように調節する主な因子である。
【0007】
そして、初期素材のクロム炭化物の大きさは、単位面積あたりのクロム炭化物の個数として定義することができ、1万倍の高倍率で観察する時、0.1μm以上の大きさを有するクロム炭化物が100μmの面積あたり50個以上存在しなければならない。この初期素材を適当な幅にスリッティングし、コイリングした後、複数段階の後続工程を経てカミソリ刃を製造する。その後続工程は、高硬度を付与するために、高温のオーステナイト領域に加熱および保持した後冷却する強化熱処理工程、カミソリ刃を鋭利にする(sharpening)工程、耐磨耗性および潤滑性を付与するためのコーティング(coating)工程、そして、カミソリにカミソリ刃を装着するための溶接(welding)などの工程を含む。
【0008】
また、カミソリ刃を製造するために使用される薄物(厚さ0.2mm以下)の初期素材は、微細組織内に粗クロム炭化物が不在しなければならないが、その理由は次のとおりである。粗クロム炭化物が存在する場合に、後続工程の、カミソリ刃を鋭利にする工程中にカミソリ刃のエッジ(edge)部分で粗クロム炭化物の脱落が発生し、カミソリ刃のエッジの鋭利さが鈍くなる現象が発生する。この現象をエッジ脱落(edge tear-out)といい、エッジ脱落はひげをそる途中に肌を傷つける主な因子である。粗クロム炭化物のほか、粗い介在物もエッジ脱落を引き起こす要因として作用する。エッジ脱落の観点で許容されるクロム炭化物の最大大きさは10μmである。初期素材に存在し、エッジ脱落発生の主な原因として作用する10μm以上の大きさを有する粗クロム炭化物は、合金鋳造(casting)時に生成される粗い一次カーバイド(primary carbide)である。この粗い一次カーバイドは、合金の熱間加工や熱処理過程中に発生する微細なクロム炭化物(secondary carbide)とは区分される。粗い一次カーバイドは、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の凝固過程中にデンドライトアーム(dendrite arm)の間に発生する偏析によって生成される。炭素とクロムの偏析は、凝固時に発生する自然現象であるため、一次カーバイドの形成を回避することはできないが、エッジ脱落を防止するために、その大きさは凝固過程中に最小化される必要がある。
【0009】
このようなエッジ脱落問題は、カミソリ刃のみならず、一般的な刃物の用途として刃先の品質を決定する重要な品質因子である。前述したように、高硬度を有するカミソリ刃を製造するためには、できるだけ多量の炭素を鋼に添加させることができなければならないが、炭素含有量が高いほど、凝固時に一次カーバイドが粗く形成されるため、高品質のカミソリ刃の製造を困難にする。
【0010】
このような理由から、従来公知の日本国特許番号第61034161号では、一次カーバイドによるエッジ脱落を最小化するために、炭素の含有量を0.40〜0.55%に低下させた合金成分系を提示している。特に、カミソリ刃鋼素材の製造に一般的に使用されるインゴット鋳造法は偏析が深刻に発生するため、一次炭化物が粗く形成されるという欠点があった。この欠点のため、一次カーバイドを再固溶させるかその大きさを小さくするために、インゴットに付加的な加熱熱処理や鍛造のような熱間加工が必須に適用される。
【0011】
したがって、高品質のカミソリ刃を製造するために、鋳造時に粗い一次カーバイドの形成を抑制させる方法が要求される。特に、通常のカミソリ刃鋼に比べて、炭素含有量を低下させないながらも、一次カーバイドの大きさを微細組織内で効果的に低減させることができる経済的な鋳造法の開発が必要になった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の要望に応じてなされたものであって、既存の高炭素マルテンサイト系鋼の製造に主に使用されるインゴット鋳造法を代替する目的でストリップキャスティング法を新たに活用したものである。本発明によれば、既存のインゴット鋳造法の最も大きな欠点であった、凝固時に生成される粗い一次カーバイドを画期的に抑制させながら、経済的に高炭素を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を製造することができる方法を提示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の目的を達成するために、互いに反対方向に回転する一対のロールとその両側面に溶鋼プールを形成するように設けられるエッジダムと、前記溶鋼プールの上部面に不活性窒素ガスを供給するメニスカスシールドとを含むストリップキャスティング装置において、重量%で、C:0.40〜0.80%、Cr:11〜16%を含むステンレス溶鋼を、タンディッシュからノズルを介して前記溶鋼プールに供給してステンレス薄板を鋳造し、前記鋳造されたステンレス薄板を、鋳造直後にインラインローラを用いて5〜40%の圧下率で熱延焼鈍ストリップを製造し、熱延焼鈍ストリップの微細組織内に一次カーバイドが10μm以下となるようにする、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明において、前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.1〜1.0、Mn:0.1〜1.0、Ni:0超過1.0以下、N:0超過0.1以下、S:0超過0.04以下、P:0超過0.05以下、並びに、残部は、Feおよびその他不可避不純物からなる、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明において、前記熱延焼鈍ストリップを、還元性ガス雰囲気下、700〜950℃の温度範囲でバッチ焼鈍(batch annealing)を実施し、熱延焼鈍板を製造する、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を製造することができる。
【0016】
また、本発明において、前記バッチ焼鈍は、1〜3回の範囲で実施することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明において、前記バッチ焼鈍処理された熱延焼鈍ストリップは、ショットブラスティング後に酸洗処理を実施することができる。
【0018】
また、本発明において、前記酸洗処理前の熱延焼鈍ストリップにおいて、脱炭層の深さが表層スケール直下20μm以下となり得る。
【0019】
また、本発明において、前記熱延焼鈍ストリップは、後続の冷間圧延を実施することができ、この時、1回の冷間圧下率が最大70%であることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明において、前記冷間圧延されたストリップは、還元性ガス雰囲気下、焼鈍が計5回以下で実施できる。
【0021】
なお、本発明において、前記冷間圧延されたストリップは、650〜800℃の温度で冷延焼鈍を実施することができる。
【0022】
また、本発明の他の態様によれば、互いに反対方向に回転する一対のロールとその両側面に溶鋼プールを形成するように設けられるエッジダムと、前記溶鋼プールの上部面に不活性窒素ガスを供給するメニスカスシールドとを含むストリップキャスティング装置において、重量%で、C:0.40〜0.80%、Cr:11〜16%を含むステンレス溶鋼を、タンディッシュからノズルを介して前記溶鋼プールに供給してステンレス薄板を鋳造し、前記鋳造されたステンレス薄板を、鋳造直後にインラインローラを用いて5〜40%の圧下率で熱延焼鈍ストリップを製造し、熱延焼鈍ストリップの微細組織内に一次カーバイドが10μm以下となるようにする、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明は、製鋼工程で製造された溶鋼から直接熱延コイルを製造するストリップキャスティング(strip casting)方法を適用することを特徴とする。ストリップキャスティングは、凝固組織で形成される一次カーバイドの大きさを革新的に低減させることができ、高品質のカミソリ刃の製造に非常に有用に適用可能である。特に、カミソリ刃の品質のみならず、溶鋼から直接熱延コイルを製造するため、既存のインゴット鋳造法に比べて、熱延コイルの製造工程が単純で、製造費用が非常に割安になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的なストリップキャスティング工程の概略図を示す図である。
【図2】インゴット鋳造法で鋳造されたインゴットの断面微細組織で、結晶粒界に粗い一次カーバイドが生成されていることを示す組織写真図である。
【図3】インゴット鋳造法で鋳造されたインゴットを熱間圧延後水冷処理した微細組織で、インゴットの結晶粒界に存在していた一次カーバイドが熱延板の微細組織にも残存することを示す組織写真図である。
【図4】ストリップキャスティング法で鋳造され、鋳造直後に高温で連続してインラインローリングされた熱延板材の低倍率の断面微細組織で、厚さ中心部に形成された等軸晶(equiaxed crystals)組織と、表層部に形成された柱状晶(columnar crystals)組織を示す組織写真図である。
【図5】図4の柱状晶領域を拡大した組織写真図である。
【図6】図4の等軸晶領域を拡大した組織写真図である。
【図7】0.075mm厚に製造された薄物の冷間圧延素材の低倍率の断面微細組織を示す組織写真図である。
【図8】0.075mm厚に製造された薄物の冷間圧延素材の高倍率の断面微細組織を示す組織写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施形態およびその他当業者が本発明の内容を容易に理解するために必要な事項について詳細に記載する。ただし、本発明は、請求の範囲に記載された範囲内で種々の異なる形態で実現可能であるため、下記に説明する実施形態は、表現の如何にかかわらず、例示的なものに過ぎない。
【0026】
本実施形態を説明するにあたり、かかる公知機能あるいは構成に関する具体的な説明が本発明の要旨をあいまいにする可能性があると判断された場合、その詳細な説明は省略する。そして、図面において、同一の構成要素については、たとえ他の図面上に表示されても、できるだけ同一の参照番号および符号で表していることに留意しなければならない。また、図面において、各層の厚さや大きさは、説明の便宜および明確性のために誇張されることがあり、実際の層の厚さや大きさとは異なり得る。
【0027】
図1は、従来公知のストリップキャスティング設備の概略図である。このストリップキャスティング工程は、溶鋼から直接薄物の熱延焼鈍ストリップを生産する工程であって、熱間圧延工程を省略し、製造コスト、設備投資費用、エネルギー使用量、公害ガス排出量などを画期的に低減できる新たな鉄鋼工程プロセスである。一般的なストリップキャスティング工程に用いられる双ロール型薄板鋳造機は、図1に示すように、溶鋼を取鍋1に収容させ、ノズルに沿ってタンディッシュ2に流入し、タンディッシュ2に流入した溶鋼は、鋳造ロール6の両端部に設けられたエッジダム5の間、すなわち、鋳造ロール6の間に溶鋼注入ノズル3を介して供給され、凝固が開始される。この時、ロールの間の溶湯部には、酸化を防止するためにメニスカスシールド4で溶湯面を保護し、適切なガスを注入して雰囲気を適切に調節する。両ロールが出会うロールニップ7を抜けながら薄板8が製造され、引き抜かれながら、圧延機9を経て圧延された後、冷却工程を経て巻取設備10で巻き取られる。
【0028】
この時、溶鋼から厚さ10μm以下の薄板を直接製造する双ロール式薄板鋳造工程において重要な技術は、速い速度で反対方向に回転する内部水冷式双ロールの間に注入ノズルを介して溶鋼を供給し、所望の厚さの薄板を、亀裂がなく、実収率が向上するように製造することである。
【0029】
本発明は、ストリップキャスティング工程を用いた高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法に関するもので、特に、重量%で、0.40〜0.80%の炭素、11〜16%のクロムを主成分として含む高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼をストリップキャスティング法を活用して製造するため、鋳造組織内に形成される一次カーバイドの大きさを10μm以下に低減させることにより、刃先の品質に優れたカミソリ刃用高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を製造することを特徴とする。
【0030】
本発明の特徴であるストリップキャスティング工程は、液状の鋼を1〜5mm厚の板材に直接鋳造しながら、鋳造板に非常に速い冷却速度を印加し、鋳造時に発生する偏析を最小化する製造法である。本発明では、双ロール型ストリップキャスタを用いて熱延コイルを製造した。双ロール型ストリップキャスタは、互いに反対方向に回転する両ロール(twin-drum rolls)と側面ダム(side dams)との間に溶鋼を供給し、水冷するロール表面を介して多くの熱量を放出させながら鋳造することを特徴とする。この時、ロール表面で速い冷却速度で凝固セルを形成し、鋳造後連続して行われるインラインローリングによって1〜5mmの薄い熱延薄板が製造される。
【0031】
(実施例)
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0032】
本発明で用いられる母材は、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼であって、C:0.4〜0.8%、Cr:11〜16%の範囲を使用する。本発明において、Cの範囲を0.4%以下とする場合、ストリップやインゴットで一次カーバイドが多量生じることはないが、その硬度において好ましくない。また、0.8%以上の場合、ストリップキャスティングで製造しても、粗い一次カーバイドの生成を抑制しにくいことがある。したがって、本発明では、最適な範囲として、C:0.4〜0.8%、Cr:11〜16%を提案する。
【0033】
また、本発明の実施形態にかかる前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.1〜1.0、Mn:0.1〜1.0、Ni:0超過1.0以下、N:0超過0.1以下、S:0超過0.04以下、P:0超過0.05以下、並びに、残部は、Feおよびその他不可避不純物からなる成分系に関する合金を対象としている。
【0034】
実施例では、既存のインゴット鋳造法を経て製造された熱延焼鈍ストリップとストリップキャスティング法を適用して製造された鋼の微細組織学的特性を比較した。表1は、インゴット鋳造法とストリップキャスティング法で製造された鋼の成分を示したものである。まず、ストリップキャスティング法で鋳造された素材の微細組織を、インゴット鋳造法で製造された素材と比較するために、通常のカミソリ刃鋼をインゴットで製造し、その成分を表1の比較例として(#1)示した。インゴットは、真空誘導溶解法によって50kgの重量で製造された。インゴットは、1200℃の温度で再加熱後、3.5mm厚の板に熱間圧延され、熱間圧延直後に水冷した。そして、双ロール型ストリップキャスタを活用して多様な成分の鋼を熱延板として製造した。それぞれ100トンずつ鋳造し、その成分を表2に示した。ストリップキャスティング法を活用して、水冷するロールの間で鋳造された100トンの素材は、鋳造直後、高温の状態でインラインローラ(in-line roller)で熱間圧延され、1〜5mm厚の熱間圧延コイルで連続製造された。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
図2に、真空誘導溶解で鋳造した通常の成分鋼である表1の比較例(#1)のインゴットの断面組織を示している。そして、図3は、前記比較例(#1)に関する成分鋼の熱間圧延後水冷した微細組織を示した。図2のインゴットの微細組織から明らかに観察されるように、結晶粒の間に粗い、(primary carbide)として示される一次カーバイドが不規則に生成されていることを示している。このような粗い一次カーバイドは、1200℃の温度で行われる再加熱中にも基地組織として完全に再固溶しないため、熱間圧延後の微細組織内に残存して圧延方向に配列された状態で観察される。これを、図3から確認することができる。
【0038】
図4は、ストリップキャスティング法で製造され、インゴットで鋳造された本発明の成分鋼(表1、#1)と類似の成分を有する2.1mm厚の熱延コイル(表2、#6)の低倍率の断面組織である。ストリップキャスティングで製造されたコイルにおいて、表層部に展開された、(columnar crystal)として示される柱状晶の微細組織と、厚さ中央部に展開された(equiaxed crystal)として示される等軸晶の微細組織を、それぞれ図5と図6に示した。図2および図3に示すインゴット組織と、図5および図6に示すストリップキャスティング組織から、一次カーバイドの大きさの比較が可能である。すなわち、既存のインゴット鋳造法で製造した場合には、1000倍の倍率で粗い一次カーバイドが形成されたことを明確に観察することができる。しかし、図5および図6に示すストリップキャスティング法を適用して製造された熱延コイルでは、インゴット鋳造法で製造された図2の凝固組織および図3の熱延板から観察可能な粗い一次カーバイドが1000倍の倍率の微細組織で観察されていないことを示している。これは、高炭素を含むマルテンサイト系ステンレス鋼を製造するにあたり、ストリップキャスティング法を用いて鋳造する時、粗い一次カーバイドの形成を革新的に抑制できるという本発明の技術的効果を際立たせる結果である。一方、熱間圧延板において、1000倍の倍率の光学顕微鏡で観察可能な一次カーバイドの大きさを調べ、この結果をまとめて表1および表2に示した。
【0039】
高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を鋳造するにあたり、ストリップキャスティング法を適用する場合の他の利点は、既存のインゴット鋳造法に比べて、工程が縮小し、製造費用が割安になるということである。インゴット鋳造法で高炭素マルテンサイト系熱延コイルを製造するために造塊後、分塊および熱間圧延のような後続の熱間加工過程が必須に要求されるが、この付加的な工程は、インゴット鋳造法の製造コストを上昇させる主な要因である。また、分塊および熱間圧延のような後続の熱間加工工程で必須に要求される素材の冷却と昇温を含む熱処理工程は、熱衝撃(thermal shock)によるクラックの発生への懸念のため非常にゆっくり行われなければならず、工程間の素材の移送のための作業も高温で注意して行われなければならないため、生産性の面でも非常に不利である。ストリップキャスティング方法は、前記分塊を含む別の熱間加工工程を経ることなく、直接熱延コイルを製造するため、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼を割安に製造できるという大きな利点がある。
【0040】
ストリップキャスティング工程で製造された2.1mm厚の熱延コイルとして、表2の発明鋼6(#6)をバッチ(batch)形態の熱処理炉で長時間バッチ焼鈍した。この時、熱延コイルは、還元性雰囲気下、700〜950℃の焼鈍温度に徐々に加熱され、その温度で長時間保持させた後、再度徐々に炉内で冷却された。この焼鈍熱処理は、少なくて1回から多くて3回まで実施可能である。もちろん、バッチ焼鈍処理回数が多いほど、材質はさらに均質化することができるが、これは、追加の製造費用の上昇をもたらし得る。そして、この過程の熱処理は、熱延コイルの微細組織を構成するマルテンサイトと残留オーステナイトをフェライトとクロム炭化物に変える役割を果たす。この過程を終えた熱延焼鈍組織の硬度は約220Hvとなった。焼鈍された熱延コイルは、ショットブラスティング(shot blasting)を実施し、約70℃の温度で、硫酸と硫酸/硝酸の混酸とから構成された酸洗液で表面のスケールと脱炭層を除去した。この時、脱炭層の深さは、表層スケール直下20μm以下程度に形成されており、酸洗によって容易に除去できた。一般的に、インゴット鋳造法で製造されたインゴットは、鋳造時に発生した合金元素の偏析を緩和させる目的で高温でのインゴットの熱処理が欠かせないが、この工程で脱炭が深刻に発生するため、熱延コイルの製造後に脱炭層を除去するための付加的な作業が要求されたりもする。ストリップキャスティングで製造されたコイルにも脱炭層が存在することはあるが、鋳造後冷却されるまで1000℃以上の高温に露出する時間がわずか5分以内と短く、脱炭層がわずかに発生する。したがって、ストリップキャスティング工程で製造された熱延コイルは、酸洗によって容易に脱炭層が除去可能であるため、脱炭層を除去するために付加的なコイルグラインディングを省略することができ、経済的である。
【0041】
一方、酸洗を終えた熱延コイルとして、表2の発明鋼(#6)に対して冷間圧延を実施した。前述したように、カミソリ刃の製作のための初期素材は0.2mm以下の厚さを有するため、2.1mm厚の熱延焼鈍コイルから初期素材の厚さを目標の厚さまで低下させるために相当な冷間圧下が要求される。特に、カミソリ刃鋼素材は、微細組織内に存在する微細な炭化物に起因し、冷間圧延時に加工硬化が速く、延性の低下が大きい。冷間圧延中にエッジクラックの発生による板破断を防止しながら、目標の厚さに冷間圧延するために、1回の冷間圧延中に最大70%以下の冷間圧延を実施した。その後、エッジトリミング(edge trimming)と中間焼鈍(intermediate annealing)を実施した。この時、中間焼鈍は、約750℃の温度で、5分以内の時間の間実施された。最終目標の厚さに圧延するために、冷間圧延と中間焼鈍を複数回繰り返し実施した。このような方法で0.075mm厚の冷間圧延された薄いコイルを製造した。この時、前記冷延板を得るための総焼鈍回数は、熱延焼鈍ストリップで実施した焼鈍回数を含めて5回以内に制限することが経済的である。本発明では、このように5回以内の焼鈍回数を用いて同等品質で経済性をより向上させることができた。また、冷間圧延されたストリップは、650〜800℃の温度で冷延焼鈍を実施することができる。
【0042】
図7および図8は、0.075mm厚に冷間圧延されたコイルの微細組織を示した。製造されたコイルにおいて、10μm以上の大きさを有する炭化物は存在せず、大部分の炭化物は0.1〜1.5μmの大きさに均一に分布している。すなわち、図8から、エッジ脱落を防止するのに有利な微細組織が形成されていることが分かる。また、図8で観察される0.1μm以上の大きさを有する炭化物の個数は約120EA/100μmで、カミソリ刃の製作に好適な微細組織として製造されたことが分かる。
【0043】
上記のように、本発明は、ストリップキャスティング法を活用して、インゴット鋳造法で製造されたカミソリ刃鋼に比べて、粗い一次カーバイドの形成を革新的に抑制し、高品質のカミソリ刃を経済的に製造できることを特徴とする。本発明は、カミソリ刃用途の特定の実施形態の観点で記述されたが、本発明の範囲は、カミソリ刃の用途に限定されず、請求項に記述された範囲を含む。
【0044】
本発明の技術思想は、上記の好ましい実施形態により具体的に記述されたが、上記の実施形態は、その説明のためのものであって、それを制限するためのものではないことに注意しなければならない。また、本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形例が可能であることを理解することができる。上述した発明に対する権利範囲は、以下の特許請求の範囲で定められるものであって、明細書本文の記載に拘束されず、請求の範囲の均等範囲に属する変形と変更はすべて本発明の範囲に属する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに反対方向に回転する一対のロールとその両側面に溶鋼プールを形成するように設けられるエッジダムと、前記溶鋼プールの上部面に不活性窒素ガスを供給するメニスカスシールドとを含むストリップキャスティング装置において、
重量%で、C:0.40〜0.80%、Cr:11〜16%を含むステンレス溶鋼を、タンディッシュからノズルを介して前記溶鋼プールに供給してステンレス薄板を鋳造し、前記鋳造されたステンレス薄板を、鋳造直後にインラインローラを用いて5〜40%の圧下率で熱延焼鈍ストリップを製造し、熱延焼鈍ストリップの微細組織内に一次カーバイドが10μm以下となるようにすることを特徴とする、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項2】
前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.1〜1.0、Mn:0.1〜1.0、Ni:0超過1.0以下、N:0超過0.1以下、S:0超過0.04以下、P:0超過0.05以下、並びに、残部は、Feおよびその他不可避不純物からなることを特徴とする、請求項1に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項3】
前記熱延焼鈍ストリップを、還元性ガス雰囲気下、700〜950℃の温度範囲でバッチ焼鈍を実施し、熱延焼鈍板を製造することを特徴とする、請求項1に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項4】
前記バッチ焼鈍は、1〜3回の範囲で実施することを特徴とする、請求項3に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記熱延焼鈍ストリップの断面微細組織において、0.1μm以上の大きさを有するクロム炭化物が100μmの面積あたり50個以上となるようにバッチ焼鈍を実施することを特徴とする、請求項3に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記バッチ焼鈍処理された熱延焼鈍ストリップは、ショットブラスティング後に酸洗処理を実施することを特徴とする、請求項3に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記酸洗処理前の熱延焼鈍ストリップにおいて、脱炭層の深さが表層スケール真下20μm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記熱延焼鈍ストリップは、冷間圧延を実施するが、1回の冷間圧下率が最大70%であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延されたストリップは、還元性ガス雰囲気下、焼鈍が計5回以下で実施されることを特徴とする、請求項8に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項10】
前記冷間圧延されたストリップは、650〜800℃の温度で冷延焼鈍を実施することを特徴とする、請求項8に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項11】
互いに反対方向に回転する一対のロールとその両側面に溶鋼プールを形成するように設けられるエッジダムと、前記溶鋼プールの上部面に不活性窒素ガスを供給するメニスカスシールドとを含むストリップキャスティング装置において、
重量%で、C:0.40〜0.80%、Cr:11〜16%を含むステンレス溶鋼を、タンディッシュからノズルを介して前記溶鋼プールに供給してステンレス薄板を鋳造し、前記鋳造されたステンレス薄板を、鋳造直後にインラインローラを用いて5〜40%の圧下率で熱延焼鈍ストリップを製造し、熱延焼鈍ストリップの微細組織内に一次カーバイドが10μm以下となるようにすることを特徴とする、高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項12】
前記マルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、Si:0.1〜1.0、Mn:0.1〜1.0、Ni:0超過1.0以下、N:0超過0.1以下、S:0超過0.04以下、P:0超過0.05以下、並びに、残部は、Feおよびその他不可避不純物からなることを特徴とする、請求項11に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項13】
前記熱延焼鈍ストリップは、還元性ガス雰囲気下、700〜950℃の温度範囲でバッチ焼鈍を実施して製造された熱延焼鈍板であることを特徴とする、請求項11に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項14】
前記バッチ焼鈍は、1〜3回の範囲で実施することを特徴とする、請求項13に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項15】
前記熱延焼鈍ストリップの断面微細組織において、0.1μm以上の大きさを有するクロム炭化物が100μmの面積あたり50個以上となるようにバッチ焼鈍を実施することを特徴とする、請求項13に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項16】
前記バッチ焼鈍処理された熱延焼鈍ストリップは、ショットブラスティング後に酸洗処理を実施することを特徴とする、請求項13に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項17】
前記酸洗処理前の熱延焼鈍ストリップにおいて、脱炭層の深さが表層スケール真下20μm以下であることを特徴とする、請求項16に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項18】
前記熱延焼鈍ストリップは、冷間圧延を実施するが、1回の冷間圧下率が最大70%であることを特徴とする、請求項11〜17のいずれか1項に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項19】
前記冷間圧延されたストリップは、還元性ガス雰囲気下、焼鈍が計5回以下で実施されることを特徴とする、請求項18に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。
【請求項20】
前記冷間圧延されたストリップは、650〜800℃の温度で冷延焼鈍を実施することを特徴とする、請求項18に記載の高炭素マルテンサイト系ステンレス鋼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−514891(P2013−514891A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545847(P2012−545847)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009108
【国際公開番号】WO2011/078532
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】