説明

高純度水素ガス製造用PSA装置

【課題】オートサーマル改質法などの改質プロセスにより製造された、不純物成分として少なくともCOとCOとNおよび/またはArを含む改質ガスから高い回収率で高純度の水素ガスを回収し、かつ設備のコンパクト化、すなわち設備コストの低減に寄与しうる高純度水素ガス製造用PSA装置を提供する。
【解決手段】水素含有ガスAからCO、COおよびNを吸着除去して高純度水素ガスBを製造するPSA装置において、PSA装置の吸着塔1内に、改質ガスAの流通方向の上流側から下流側に向かって、COおよびNを実質的に吸着することなくCOを選択的に吸着するCO吸着剤層5、COを吸着するための炭素系吸着剤層4、Nを吸着するためのゼオライト層3aの順序で積層した吸着剤床2を設け、吸着剤床2の再生時は、洗浄ガスCが、前記水素含有ガスAの流通方向とは逆の方向に流通するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の水素ガスを製造するPSA装置に関し、より詳細には、燃料電池のエネルギ源(燃料)となる水素ガスを製造する際に副生する不要ガスであるCO、CH、CO、N、Ar等を効率的に吸着除去し、水素ガスの製造コストを低減するよう改善されたPSA装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止対策とも相俟って、エネルギの原油依存体質からの脱却が世界的規模で重要課題となっており、環境保全に対する取組みが先行する欧州の先進国はもとより、米国や日本を始めとするアジア諸国においても、水素ガスをエネルギ源とする燃料電池の実用化に向けての取組みが活発化している。
【0003】
燃料電池の燃料として使用される水素ガスの製造方法についても多くの研究が進められているが、現時点で最も安価で実現性の高い製造方法は、原料として天然ガス、LPG、灯油、ガソリン、メタノール、ジメチルエーテルを使用し、これらを改質して水素ガスを製造する方法である。このような原料を改質して水素ガスを製造するプロセス、例えば天然ガスを改質して水素を製造するプロセスでは、通常水蒸気改質法が最も良く用いられている。しかしながら、水蒸気改質法では、700℃程度の高温で改質反応を進める必要があり、この改質反応は吸熱反応であるため、外部加熱が必要になることから、改質装置が大きくなり、起動に時間がかかるという課題がある。このような改質装置のサイズや起動性を改善する改質方法としては、オートサーマルリホーミング法があり、この方法では燃料と水蒸気のみを反応させるのではなく、酸素を共存させることで燃料の酸化反応による発熱を組み合わせることで、改質装置の小型化と起動性の向上が実現する。オートサーマルリホーミングでは、原料ガスとして酸素を使用する場合もあるが、より簡便には空気を用いて、空気、天然ガス、水蒸気を混合して改質を行うことで、水素を含有した改質ガスが製造される。したがって、この場合の改質ガスには水素と併せて、少なくとも、水蒸気(HO)や未反応メタン(CH)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)が含まれることになる。また、原料ガスとして空気、あるいは空気を原料にPSA法などの方法により製造された酸素富化ガスを用いる場合には、さらに空気に由来するアルゴン(Ar)が含まれる。通常、燃料電池自動車用の燃料水素としては4N(99.99容積%(以下、「容積%」を単に「%」と表す。))程度以上の水素純度が求められ、特にCOについては、固体高分子型燃料電池のアノード電極用触媒に用いられる白金(Pt)の被毒劣化防止の観点から10ppm以下の濃度に低下させる必要があり、燃料電池の耐久性を考えた場合、さらに1ppm以下程度まで濃度を低減する必要があるとされている。
【0004】
従来から実施されている改質ガスからの水素ガスの精製法としては水素PSA法がある。水素PSA法は、ゼオライトや活性炭、アルミナなどの複数の吸着剤を組み合わせ、圧力スイングを行いながら改質ガス中の不要ガスであるCO、CH、HO、CO、N、Arを全て除去するプロセスである。自動車用の燃料電池に供給するための水素ガスに対してはCO以外の不純物の除去も要求されるため、水素供給ステーションで化石燃料を改質して燃料水素を製造する場合には、通常この水素PSA法が採用される。
【0005】
水素PSA法により水素ガスを精製する場合においては、高圧下でH以外の不純物を吸着除去して製品水素ガスを回収し、不純物であるCO、CH、HO、CO、N、Arを吸着したPSA用吸着剤は、吸着塔内の圧力を高圧から常圧まで減圧する操作および製品水素ガスで洗浄する操作により吸着したCO、CH、HO、CO、N、Arを脱着させ、吸着剤を再生する。吸着剤を再生した吸着塔は再び昇圧し、改質ガスを流して製品水素ガスの精製操作に供する。
【0006】
従来、水素PSA法では、化石燃料を改質して得た水素ガス中に最大1%程度含まれるCOの除去が難しく、多量の吸着剤(通常ゼオライトが用いられる)が必要になるため、水素PSA設備のサイズ(吸着塔サイズ)が非常に大きくなるという問題や、製品水素ガスの回収率が低いため水素の精製コストが高くなるという問題があった。
【0007】
このような課題に対し従来よりさまざまな方法が開発されている。たとえば、水素の回収率を向上させる方法としては、特許文献1に、不純物を吸着した後の吸着塔の洗浄工程を洗浄対象となる塔内に導入した洗浄ガスの少なくとも一部が塔内に導出されるまで行う方法により、水素ガスの回収率を、従来法の70%より最大76%まで向上させる方法が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、洗浄ガスとして吸着工程を終了した吸着塔の塔内ガスを利用して、その洗浄ガス量を吸着剤の充填容積の2〜7倍とすることで水素ガス回収率が76%に改善する方法が、さらに特許文献3には、吸着剤としてSi/Al比が1〜1.5のフォージャサイト構造を有するリチウムイオン交換率が95%以上のゼオライトを単独で用いることで、水素PSA設備の小型化と水素回収率の74%までの向上方法がそれぞれ開示されている。
【0009】
しかしながら、これらの方法では吸着剤のCOガス吸着容量が十分ではないため、設備(吸着塔サイズ)の大幅な小型化に対しては限界があった。また、水素回収率についても上記のようなさまざまな方法による改善策が検討されているものの未だ十分ではないのが現状である。
【0010】
CO吸着剤を用いて吸着塔を小型化する方法としては、特許文献4に、水素含有ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって、活性炭層4、CO吸着剤層5、ゼオライト層3の順序で積層した吸着剤床2を設ける方法が開示されている(図9参照)。本方法ではゼオライトと併用する形でCO吸着剤を使用することで、ゼオライトの充填量を削減でき吸着塔1の容積を小さくすることが可能で、吸着剤再生に使用する製品水素ガス量が低減でき水素の回収率が向上すると説明されている。また、CO吸着剤はCO濃度が高い場合においてCOの吸着容量がゼオライトと比較して大きいため、COを3mol%以上含有する改質ガスに対し特に最適であると説明されている。
【0011】
本発明者らがCO吸着容量の大きいCO吸着剤を用いて水素を精製する試験を実施した結果、CO吸着剤をゼオライトと併用することでゼオライトの充填量を減少させられることが確認できた。しかしながら、特許文献4に説明されているように、吸着剤の再生を、吸着塔1を減圧した後に原料ガス供給路6から製造された高純度水素ガスを供給し、吸着剤床2を流通させて吸着剤床2に吸着された不純物を脱離させる方法では、主に活性炭層4に吸着されているCOが脱離した後下流側に存在するゼオライト層3(活性炭と比べより強くCOを吸着する吸着剤)に再吸着し、このようにゼオライトに再吸着したCOは、高純度水素ガスを流す再生操作では完全に再生(脱離)し切れないという問題があることが分かった。このため、本方式で原料ガス中の不純物成分の吸着除去操作と高純度水素ガスによる再生操作を繰り返すと、初期にはCOの吸着能力が十分であったゼオライト層3が、吸着、再生の操作を繰り返すことで再生時に上記再吸着したCOの残存量が徐々に増加して、COに対する吸着容量が低下し、結果として燃料電池用水素に要求される不純物CO濃度≦1ppmの基準を満足しなくなる問題があることが分かった。
【特許文献1】特開2002−177726号公報
【特許文献2】特開2002−191923号公報
【特許文献3】特開2002−191924号公報
【特許文献4】特開2001−300244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はかかる現状に対してなされたもので、オートサーマル改質法などの改質プロセスにより製造された、不純物成分として少なくともCOとCOとNおよび/またはArとを含む改質ガス(水素含有ガス)から高い回収率で高純度の水素ガスを回収し、かつ設備のコンパクト化、すなわち設備コストの低減に寄与しうる高純度水素ガス製造用PSA装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、水素含有ガスからCOとCOとNおよび/またはArとを吸着除去して高純度水素ガスを製造するPSA装置において、PSA装置の吸着塔内に、前記水素含有ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって、COとNおよび/またはArとを実質的に吸着することなくCOガスを選択的に吸着するためのCO吸着剤層と、COを吸着するための炭素系吸着剤層とをその順序で、次いで、Nを吸着するためのゼオライト層、および/または、Arを吸着するための吸着剤層を順不同で積層した吸着剤床を設け、前記吸着剤床の再生時は、洗浄ガスが、前記水素含有ガスの流通方向とは逆の方向に流通するように構成したことを特徴とする高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【0014】
請求項2に記載の発明は、水素含有ガスからCOとCOとNおよび/またはArとを吸着除去して高純度水素ガスを製造するPSA装置において、PSA装置の吸着塔内に、前記水素含有ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって、COとNおよび/またはArを実質的に吸着することなくCOガスを選択的に吸着するためのCO吸着剤層と、COを吸着するための炭素系吸着剤層とをその順序で積層し、次いで、COを吸着するためのゼオライト層と、Nを吸着するためのゼオライト層、および/または、Arを吸着するための吸着剤層とを順不同で積層した吸着剤床を設け、前記吸着剤床の再生時は、洗浄ガスが、前記水素含有ガスの流通方向とは逆の方向に流通するように構成したことを特徴とする高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記Arを吸着するための吸着剤が、X型ゼオライト、銀置換ゼオライトまたは活性炭である請求項1または2に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記COを吸着するためのゼオライトが、5A型ゼオライトである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、前記Nを吸着するためのゼオライトが、カチオン種の少なくとも一部がLiイオンまたはCaイオンに交換されているX型ゼオライトである請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記CO吸着剤が、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイトおよびポリスチレン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の担体に、ハロゲン化銅(I)および/もしくはハロゲン化銅(II)を担持させた材料、またはこの材料を還元処理した吸着剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記吸着剤床の再生を、常圧よりも低い真空側で行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、少なくともCOとCOとNおよび/またはArとを不純物成分として含有する改質ガスを精製して高純度水素ガスを製造するためのPSA装置として、CO除去用の吸着剤としてCOとNおよび/またはArとを実質的に吸着することなくCOを選択的に吸着するCO吸着剤を用いるとともに、吸着剤床の再生時における洗浄ガスをゼオライト層、炭素系吸着剤層、CO吸着剤層の順に流通させるように構成したことにより、設備のコンパクト化が実現できることに加え、再生時において、炭素系吸着剤層から脱離したCOがゼオライト層へ再吸着することが防止されるとともに、Nおよび/またはArを除去するためのゼオライト層および炭素系吸着剤層から離脱したCOとNおよび/またはArとがCO吸着層の洗浄ガスの一部としても有効利用されるため、水素含有ガスから高い回収率で高純度の水素ガスを回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【0023】
図1(a)において、1は下部に原料ガス供給流路6、上部に処理ガス排出流路7を接続した吸着塔であり、その内部に下部から上部に向かって(すなわち、水素含有ガスAの流通方向の上流側から下流側に向かって)、COおよびNを実質的に吸着することなくCOを選択的に吸着するためのCO吸着剤層5、COを吸着するための炭素系吸着剤層4、Nを吸着するためのゼオライト層(N2吸着用ゼオライト層)3a順序で積層した吸着剤床2が設けられている。そして、図1(b)に示すように、吸着剤床2の再生時には、水素含有ガスBの流通方向とは逆に、洗浄ガスCをゼオライト層3a、炭素系吸着剤層4、CO吸着剤層5の順に流通させるように構成されている。
【0024】
このような構成を採用することにより、吸着操作時には水素含有ガス(原料ガス)中のCOのみがCO吸着剤に吸着し、CO吸着剤をスルーしたCO、NのうちCOは後段の炭素系吸着剤に吸着し、炭素系吸着剤をスルーしたNはさらに後段のゼオライトに吸着する。再生操作時には、ゼオライトに吸着したNと炭素系吸着剤に吸着したCOが脱離し、これらの脱離成分がCO吸着剤の洗浄ガスとして作用することで、CO吸着剤の再生に必要な洗浄ガス(製品水素ガス)の使用量を減らし、水素回収率を上昇させ、水素精製コストを低減することが可能となる。
【0025】
上記実質的にCOおよびNを吸着することなくCOを選択的に吸着するためのCO吸着剤としては、実質的にCOおよびNを吸着しない、多孔質シリカ、多孔質アルミナおよびポリスチレン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の担体に、ハロゲン化銅(I)および/もしくはハロゲン化銅(II)を担持させた材料、またはこの材料を還元処理したものを用いるとよい。
【0026】
これにより、吸着剤床2の再生時において、ゼオライト層3および炭素系吸着剤4から脱離した不要ガス成分であるNおよびCOがCO吸着剤層5に再吸着されることが防止されるうえ、これらの不要ガス成分が洗浄ガスの一部としても有効に利用されるので、上記水素回収率の上昇効果が得られる。
【0027】
なお、CO吸着剤の担体として活性炭やグラファイトなどの炭素系物質を用いると、吸着剤床2の再生時に活性炭層5から脱離した不要ガス成分であるCOがCO吸着剤に再吸着してしまい、この不要ガス成分を洗浄ガスとして有効利用できる割合が減少してしまうため、水素回収率の改善効果が低下する。
【0028】
炭素系吸着剤としては活性炭やCMS(カーボンモレキュラーシーブ)が利用できる。
【0029】
を吸着するためのゼオライト(N吸着用ゼオライト)としては、カチオン種の少なくとも一部がLiイオンまたはCaイオンに交換されているX型ゼオライトが好適に利用できる。
【0030】
また、原料ガスとして用いられる通常のオートサーマル法により製造された改質ガスにはCO、CO、Nと併せてCH、HOも不純物として混入する。CHについては炭素系吸着剤でCOと同時に除去することが可能であるが、HOについては炭素系吸着剤4およびCO吸着剤層5を水分の影響から保護するために、吸着剤床2の前段に水分除去用の活性アルミナ等の吸着剤層を同一吸着塔内または別の吸着塔として設けることも可能である。
【0031】
吸着剤床2の再生は常圧よりも低い真空側(負圧側)で行うことが望ましい。高圧で吸着操作を行い、常圧まで減圧して洗浄ガス(製品水素ガス)を流して吸着剤を再生することも可能であるが、真空ポンプを用いてより低圧の真空側まで減圧することでCO吸着剤に強く化学吸着していたCOガス分子が容易に脱離し、洗浄に必要な製品水素ガス使用量をさらに低減することができ、水素回収率がより向上する。真空度は50kPa(絶対圧)以下が好ましく、20kPa(絶対圧)以下がより好ましい。
【0032】
ここで、図2に、試験条件として圧力:1atm(=0.101325MPa)、温度:40℃、SV:1000h−1にて、被処理ガス(模擬ガス)中のCO濃度(CO分圧)を種々変化させた場合におけるCOガスの破過曲線から、CO吸着剤と、CO吸着用として用いられる既存の5A型ゼオライト吸着剤のCOガス飽和吸着量を比較調査した結果(吸着等温線)を示す。なお、CO吸着剤としては、多孔質のアルミナに塩化銅(I)を担持したものを用いた。同図から明らかなように、CO吸着剤は5A型ゼオライト吸着剤に比べてはるかに大きいCO飽和吸着量が得られる。例えば被処理ガス中のCO濃度が1容量%の場合に10atm(絶対圧)で吸着操作を行い、1atm(絶対圧)で再生操作を行うとすると、CO吸着剤を用いた場合は、CO分圧0.1atmの時のCO飽和吸着量である5.8Ncm−CO/g−Ads.と、CO分圧0.01atmの時のCO飽和吸着量1.0Ncm/g−Ads.との差である4.8Ncm−CO/g−ads.のCO有効吸着量が得られる。これに対し5A型ゼオライト吸着剤を用いた場合の同条件におけるCO有効吸着量は1.2 Ncm−CO/g−ads.に過ぎない。したがって、既存の5A型ゼオライト吸着剤に代えてCO吸着剤を用いることで、両者のCO有効吸着量の差3.6Ncm−CO/g−ads.の分だけ、必要な吸着剤の量を低減できることが分かる。
【0033】
一方、CO分圧0.01atmにおけるCO飽和吸着容量はCO吸着剤の方が大きいことから、吸着剤の再生はゼオライトの方が容易であり、CO吸着剤の再生にはより多くの洗浄ガス量が必要になる。
【0034】
〔第2実施形態〕
そこで、吸着操作時には製品水素ガスにCOを混入させることなく、再生操作時にはより低い真空度、より少ない洗浄ガス量にて高純度水素ガスを製造しうる態様(本発明の第2実施形態)として、CO有効吸着量の大きいCO吸着剤とCOを吸着するためのゼオライト(CO級着用ゼオライト)とを組み合わせで使用することも有効である。
【0035】
この第2実施形態における吸着剤の積層例を図3に示す。つまり、水素含有ガスAの流通方向の上流側から下流側に向かって、CO吸着剤層5、COを吸着するための炭素系吸着剤層4、COを吸着するためのゼオライト層(CO級着用ゼオライト層)3b、Nを吸着するためのゼオライト層(N吸着用ゼオライト層)3aの順序で積層する。CO吸着用ゼオライト層3bとN吸着用ゼオライト層3aの順序は逆にしてもよい。
【0036】
CO吸着用ゼオライトとしては、上述の5A型ゼオライトが好適に利用できる。
【0037】
なお、N吸着用ゼオライトの中には、COをも吸着するものが存在するので、上記のようにCO吸着用とN吸着用とに分けて2種類のゼオライト層を積層する代わりに、上記第1実施形態(ゼオライト層としてN吸着用ゼオライト層ののみを設ける例)においてN吸着用吸着剤としてCOをも吸着するものを選択するようにしてもよい。
【0038】
〔第3、第4実施形態〕
上記第1および第2実施形態では、水素含有ガスAからCO、COおよびNを吸着除去して高純度水素ガスBを製造するPSA装置の例を示したが、空気には1容量%程度のArが含まれ、また空気を原料に酸素PSA装置などを用いて酸素濃度を高めた酸素富化ガスを改質器に導入する場合には、改質ガス中にCO、COに加えてAr、場合によってはさらに窒素が含まれる。そこで、高純度水素ガスBの純度をより高めるためには、CO、COに加えてAr、さらにはNをも除去する形態(第3および第4実施形態)としてAr吸着用吸着剤と組み合わせて使用することが効果的である。
【0039】
この第3および第4実施形態における吸着剤の積層例を図4および図5にそれぞれ示す。図4および図5は、図1および図3のそれぞれにおいて、吸着塔1の内部の最上部(水素含有ガスAの流通方向の最下流側)に、さらに、Arを吸着するための吸着剤層(Ar吸着用ゼオライト層)3cを積層したものに相当する。このAr吸着用吸着剤層3c以外の部分については、上記第1および第2実施形態と同様の構成にて同様の作用効果を奏するので説明を省略し、以下、新たに追加したAr吸着用吸着剤層3cに関連する部分についてのみ説明を行う。
【0040】
図4および図5においては、Ar吸着用吸着剤層3cは、吸着塔1の内部の最上部(水素含有ガスAの流通方向の最下流側)に積層する例を示したが、図4においては、N吸着用ゼオライト層3aとAr吸着用吸着剤層3cとの積層順序は逆にしてもよく、図5においては、CO吸着用ゼオライト層3bとN吸着用ゼオライト層3aとAr吸着用吸着剤層3cとの積層順序は順不同に入れ替えて積層することができる。
【0041】
Ar吸着用吸着剤としては、X型ゼオライト、特にカチオン種の一部もしくは全てがCaに交換されたX型ゼオライト、あるいはカチオン種が銀に交換されたモルデナイト型、ZSM−5型、Y型、X型等のゼオライト、または活性炭が好適に利用できる。
【0042】
なお、Ar吸着用吸着剤の中にはNをも吸着するものが存在するので、図4および図5において、N吸着用ゼオライトとAr吸着用吸着剤の2種類の吸着剤を積層する代わりに、Ar吸着用吸着剤としてNをも吸着するものを選択してもよい。
【0043】
さらに、Ar吸着用吸着剤の中にはNだけでなくCOをも吸着するものが存在するので、図5において、CO吸着用ゼオライトとN吸着用ゼオライトとAr吸着用吸着剤の3種類の吸着剤を積層する代わりに、Ar用吸着剤としてNとCOをも吸着するものを選択してもよい。
【0044】
図6および図7は、改質器に導入される酸素富化ガスがNを実質的に含まない場合における、PSA装置の吸着塔1内部への吸着剤の積層例(第5および第6実施形態)を示しており、これらの図に示すように、N吸着用ゼオライト層を省略することが可能である。
【0045】
なお、図7においては、図5と同様、Ar吸着用吸着剤層3cは、吸着塔1の内部の最上部(水素含有ガスAの流通方向の最下流側)に積層する例を示したが、CO吸着用ゼオライト層3bとAr吸着用吸着剤層3cとの積層順序は順不同に入れ替えて積層することができる。
【0046】
以下、上記図1、図3、図4、図5、図6または図7に示す吸着塔を用いたPSA装置の構成の一例を図8に示すフロー図を用いて説明する。本例のPSA装置は、3つの吸着塔1a,1b,1cを有し、各吸着塔1a〜1c内には上記吸着剤床2がそれぞれ設けられている。ライン101は水素含有ガスBの導入ラインである。ライン101と各吸着塔1a〜1cとはそれぞれ弁A1、弁B1、弁C1を介して接続されている。
【0047】
ライン102は吸着塔内を減圧するために用いるラインで、均圧(後述の均圧ステップ参照)の終了した吸着塔の圧力をさらに常圧付近まで減圧する(後述の第1減圧ステップ参照)ために使用される。ライン102は弁A2、弁B2、弁C2を介して吸着塔1a〜1cとそれぞれ接続されている。
【0048】
ライン103は常圧付近までの減圧(第1減圧ステップ)が終了した吸着塔をさらに大気圧以下(−0.05MPa(ゲージ圧)以下)の負圧まで減圧(後述の第2減圧ステップ参照)するラインであり、真空ポンプ10と吸着塔1a〜1cとがそれぞれ弁A3、弁B3、弁C3を介して接続されている。ライン102およびライン103の真空ポンプ10の排気ガスはバッファタンク8に一時的に貯蔵される。バッファタンク8に貯蔵されたガスはカロリーガスとして、例えば水素含有ガスAを製造する際の改質器の燃料などとして有効利用することが可能である。
【0049】
ライン104は吸着塔にて水素含有ガスAより不要ガスを除去して得た高純度水素ガスBの回収ラインであり、吸着塔1a〜1cとはそれぞれ弁A5、弁B5、弁C5を介して接続されており、回収した高純度水素ガスBはバッファタンク9に一時的に貯蔵される。
【0050】
ライン105は水素含有ガスAからの不要ガス吸着ステップが終了し、負圧(真空側)までの減圧(後述の第2減圧ステップ参照)後に吸着塔を洗浄して再生するためのラインである。吸着塔1a〜1cとバッファタンク9とは弁D1および弁A6、弁B6、弁C6を介して接続されており、吸着剤の再生用洗浄ガスとしては回収した高純度水素ガスBの一部を使用する。
【0051】
ライン106は均圧(均圧ステップ)を行うためのラインであり、不要ガス吸着ステップの終了した吸着塔と吸着剤再生ステップ(後述)の終了した吸着塔との間でガスの均圧を行うために用いられる。具体的には弁A4、弁B4、弁C4のうち、均圧を行う2つの塔に接続された弁2個を開放し、他の弁を閉じることにより2つの吸着塔の均圧が可能となる。
【0052】
次に、不要ガス吸着除去および吸着剤再生の操作手順を具体的に説明する。なお、以下においては吸着塔1aの操作手順のみについて説明するが、運転は表1のタイムテーブルに示すように、吸着塔1a,1b,1cの3塔を用いてサイクリックに行う。
【0053】
1)[不要ガス吸着ステップ]:1.0MPa(ゲージ圧)程度に高圧化した水素含有ガスAを吸着塔1aに導入し、不要ガスを吸着剤により除去し、高純度水素ガスBを回収する(弁A2,A3,A4,A6:閉、弁A1,A5:開)。
【0054】
2)[均圧ステップ]:上記不要ガス吸着操作(不要ガス吸着ステップ)を終了し、吸着塔1aのガスの一部を再生操作(吸着剤再生ステップ)の終了した吸着塔1cに移送する。ここで、例えば、吸着塔1aを0.9MPa(ゲージ圧)で不要ガス吸着操作を行った場合、吸着塔1cの吸着剤は減圧下で再生するため、本ステップで吸着塔1a,1cの内圧はいずれも約0.5MPa(ゲージ圧)となる(弁A1,A2,A3,A5,A6,弁C1,C2,C3,C5,C6:閉、弁A4,弁C4:開)。
【0055】
3)[第1減圧ステップ]:均圧操作(減圧ステップ)の終了した吸着塔1aの内圧を常圧付近まで減圧する(弁A1,A3,A4,A5,A6:閉、弁A2:開)。
【0056】
4)[第2減圧ステップ]:常圧付近の圧力まで減圧した吸着塔1aをさらに真空ポンプ10を用いて負圧まで減圧する(弁A1,A2,A4,A5,A6:閉、弁A3:開)。
【0057】
5)[吸着剤再生ステップ]:減圧した状態で洗浄ガス(高純度水素ガスの一部)を流し、吸着剤を再生する(弁A1,A2,A4,A5:閉、弁A3,A6、弁D1:開)。
【0058】
6)[均圧ステップ]:吸着剤の再生が終了した吸着塔1aに不要ガス吸着ステップの終了した吸着塔1b内のガスの一部移送する(弁A1,A2,A3,A5,A6,弁B1,B2,B3,B5,B6:閉、弁A4,弁B4:開)。
【0059】
7)[昇圧ステップ]:吸着塔1a内にバッファタンク9より高純度水素ガスBを導入し、吸着塔1a内の圧力を不要ガス吸着操作を行う圧力まで昇圧する(弁A1,A2,A3,A4,A6:閉、弁A5:開)。
【0060】
8)上記1)から7)の操作ステップを繰り返し、不要ガス吸着除去および吸着剤の再生の操作を繰り返す。
【表1】

【0061】
本実施形態に係るPSA装置は、常圧よりさらに減圧した負圧下(真空側)で吸着剤を再生するとともに、高圧下で水素含有ガスBから不要ガスを吸着除去するプロセスであり、水素含有ガスBからの不要ガス除去をコンパクトな装置で実現することができ、かつ水素回収率も高くすることが可能である。
【0062】
なお、上記実施形態では、PSA装置は、3塔の吸着塔で構成する例を示したが、2塔または4塔以上の吸着塔で構成してもよい。ただし、2塔で構成する場合は、上記実施形態で説明したような2塔を用いての均圧操作ができず、高圧化したガスの圧力エネルギを有効に回収できないので、3塔以上で構成するのが推奨される。
【0063】
なお、長期間連続して高純度水素ガスを製造する必要がない場合は、単一の吸着塔で構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【図2】CO分圧とCO飽和吸着量の関係を示すグラフ図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【図7】本発明の第6実施形態に係るPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【図8】図1、図3、図4、図5、図6または図7に示す吸着塔を用いたPSA装置のフロー図である。
【図9】従来技術(特許文献4に記載)のPSA装置の吸着塔の概略説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1:吸着塔
2:吸着剤床
3:ゼオライト層
3a:Nを吸着するためのゼオライト層(N吸着用ゼオライト層)
3b:COを吸着するためのゼオライト層(CO吸着用ゼオライト層)
3c:Arを吸着するための吸着剤層(Ar吸着用吸着剤層)
4:炭素系吸着剤層
5:CO吸着剤層
6:原料ガス供給流路
7:処理ガス排出流路
A:水素含有ガス(原料ガス)
B:高純度水素ガス(製品水素ガス)
C:洗浄ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素含有ガスからCOとCOとNおよび/またはArとを吸着除去して高純度水素ガスを製造するPSA装置において、PSA装置の吸着塔内に、前記水素含有ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって、COとNおよび/またはArとを実質的に吸着することなくCOガスを選択的に吸着するためのCO吸着剤層と、COを吸着するための炭素系吸着剤層とをその順序で、次いで、Nを吸着するためのゼオライト層、および/または、Arを吸着するための吸着剤層を順不同で積層した吸着剤床を設け、前記吸着剤床の再生時は、洗浄ガスが、前記水素含有ガスの流通方向とは逆の方向に流通するように構成したことを特徴とする高純度水素ガス製造用PSA装置。
【請求項2】
水素含有ガスからCOとCOとNおよび/またはArとを吸着除去して高純度水素ガスを製造するPSA装置において、PSA装置の吸着塔内に、前記水素含有ガスの流通方向の上流側から下流側に向かって、COとNおよび/またはArとを実質的に吸着することなくCOガスを選択的に吸着するためのCO吸着剤層と、COを吸着するための炭素系吸着剤層とをその順序で積層し、次いで、COを吸着するためのゼオライト層と、Nを吸着するためのゼオライト層、および/または、Arを吸着するための吸着剤層とを順不同で積層した吸着剤床を設け、前記吸着剤床の再生時は、洗浄ガスが、前記水素含有ガスの流通方向とは逆の方向に流通するように構成したことを特徴とする高純度水素ガス製造用PSA装置。
【請求項3】
前記Arを吸着するための吸着剤が、X型ゼオライト、銀置換ゼオライトまたは活性炭である請求項1または2に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置。
【請求項4】
前記COを吸着するためのゼオライトが、5A型ゼオライトである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置。
【請求項5】
前記Nを吸着するためのゼオライトが、カチオン種の少なくとも一部がLiイオンまたはCaイオンに交換されているX型ゼオライトである請求項1〜4のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置。
【請求項6】
前記CO吸着剤が、シリカ、アルミナ、活性炭、グラファイトおよびポリスチレン系樹脂よりなる群から選択される1種以上の担体に、ハロゲン化銅(I)および/もしくはハロゲン化銅(II)を担持させた材料、またはこの材料を還元処理した吸着剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置。
【請求項7】
前記吸着剤床の再生を、常圧よりも低い真空側で行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の高純度水素ガス製造用PSA装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−111562(P2010−111562A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321249(P2008−321249)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】