説明

高融点単結晶材料の製造方法

【解決課題】 融点1700℃以上の高融点の単結晶材料を効率的に製造可能であり、欠陥の少ない高品質のものを製造可能な方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、金属又は金属化合物からなり、融点が1700℃以上である高融点単結晶材料の製造方法において、単結晶種子が封入されたるつぼを、温度勾配を有する炉内を移動させて単結晶を育成するブリッジマン法を用いて単結晶を製造する方法である。ここで、使用するるつぼとしては、電気鋳造法により製造されたイリジウムよりなる厚さ0.3mm以下の薄型るつぼガ好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア、ルチル等の融点が1700℃以上である高融点単結晶材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶材料は、通常の材料が呈する多結晶状態ではみられない特性を示し、電子素子、光学素子用の材料として使用されている。中でもサファイア(アルミナ(Al)を主成分とする金属酸化物)は、電気絶縁性、熱伝導性、化学的・熱的安定性に優ると共に、ダイアモンドに近い硬度を有し、更に、光透過性も良好であることから、各種真空機器、反応炉のウィンドウ部材、超高周波領域の基板材料、絶縁材料等多くの用途で使用されている。
【0003】
かかる高融点単結晶材料を製造する方法としては、一般に知られている単結晶製造法の中でも、CZ法(チョクラルスキー法)、カイロポーラス法がよく用いられている。両単結晶製造プロセスは、類似する内容が多く、使用する装置もほぼ同じである。チョクラルスキー法では、るつぼに目的とする材料組成の融液を充填し、これに種子単結晶を浸し、回転させつつ鉛直方向に引き上げ、単結晶を育成する方法である。一方、カイロポーラス法は、原料融液に種子単結晶を浸漬させる点では同じであるが、種子単結晶の引き上げを行なうことなく、単結晶を育成する方法である(場合により極めて遅い速度で引き上げを行なう)。また、上記2つの単結晶製造法の他、ベルヌーイ方でもサファイア単結晶の育成の実績がある。そして、これらの単結晶製造法は、技術的に確立された方法であり、その改良技術を含め多くの実績がある。
【特許文献1】特許第3559311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、チョクラルスキー法では、溶融原料から結晶を引き上げて製造するため、雰囲気中にさらされた際に大きな熱応力を受け、欠陥密度が比較的大きい単結晶が製造される傾向がある。一方のカイロポーラス法では、引き上げは行なわないため(或いは影響がない程度の低速で引き上げる)、このような熱応力による欠陥の導入は少ないものの、育成中の溶融原料の組成変動の影響を受けやすく、育成される単結晶の品質に問題が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、サファイア等の高融点の単結晶材料を効率的に製造可能であり、欠陥の少ない高品質のものを製造可能な方法を提供することを目的とする。尚、本発明において、高融点の単結晶材料としては、融点1700℃以上の金属又は金属化合物の単結晶材料を対象とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を行い、高融点単結晶材料の製造方法としては、これまで報告例のないブリッジマン法を適用することで、上記課題を解決することができることに想到した。ここに、ブリッジマン法とは、目的組成の原料融液に炉内で温度勾配を与え、凝固させつつ単結晶を育成する方法である。即ち、本発明は、融点1700℃以上の金属又は金属化合物からなる高融点単結晶材料の製造方法において、溶融原料が封入されたるつぼを温度勾配を有する炉内を移動させて単結晶を育成するブリッジマン法を用いて単結晶を製造する方法である。
【0007】
ブリッジマン法による単結晶製造プロセスでは、単結晶育成時に熱応力がかかることはないため、欠陥導入の可能性が低くなり、高品質の単結晶材料を製造可能である。また、ブリッジマン法は、所定の温度勾配で制御した炉内を、予め設定した移動速度で移動させるという原理的にも簡易な方法であり効率的である。そして、製品のサイズもるつぼのサイズを変更することにより容易に対応可能であり、大型の単結晶製造にも好適である。
【0008】
ところで、ブリッジマン法には上記のような利点があるにもかかわらず、高融点の単結晶製造への適用実績はこれまでなかった。ブリッジマン法では、育成された単結晶を容易に取り出せるよう肉厚の薄い(箔状の)るつぼが使用されており、単結晶育成後にるつぼを剥ぎ取るように破って単結晶を回収している。一方、高融点材料の単結晶を育成するためには、それに応じた高温での温度勾配を炉内に生成する必要があるが、薄肉のるつぼであって高温下で強度的、化学的に耐えられるものは従来なかった。そのため、ブリッジマン法は高融点単結晶材料の製造に不適であった。
【0009】
本発明者等は、高融点単結晶材料の製造にブリッジマン法の適用を可能とすべく、まず、薄肉であっても高温耐久性を有するるつぼに関して検討を行い、イリジウムよりなるるつぼを見出した。イリジウムは、融点2400℃超の化学的に安定な金属であり、高温下でも融解・軟化することなく、また、単結晶を汚染することなく保持することができる。また、イリジウムは強度、硬度も高く、薄肉化しても単結晶を保持できるだけの強度を有する。ここで、本発明で適用するイリジウムからなるるつぼの肉厚は、0.3mm以下とするのが好ましい。0.3mmを超えるるつぼは、育成後の単結晶取り出しが困難となるからである。
【0010】
そして、このイリジウムるつぼは、電気鋳造により製造されたものを使用するのが好ましい。電気鋳造とは、イリジウム塩を含む電解質(水溶液、溶融塩)に電極を挿入し、通電することで陰極表面にイリジウムを析出させてるつぼを成形・製造する方法である。電気鋳造によるイリジウムるつぼがブリッジマン法に好適なのは、電気鋳造はるつぼの肉厚の制御が容易である点にある。上記のようにイリジウムは強度・硬度は高いが、その反面加工性に劣るため、薄板の加工が困難である。電気鋳造法は、塑性加工と異なるプロセスであり、電解質中のイリジウム塩濃度、電解条件の調整により析出量を調整し、るつぼの肉厚を任意に調整することができる。
【0011】
また、電気鋳造法によれば、溶接線等のない一体的なるつぼを製造することができる。るつぼに溶接線等の不連続な部分が存在する場合、そこが核生成の起点となりやすく単結晶育成の障害となることから、本発明によれば、かかる核生成を生じさせることなく、安定的に単結晶を育成することができる。
【0012】
更に、電気鋳造により製造されるイリジウムは、ブリッジマンるつぼにとって好ましい機械的性質(高温クリープ特性)を有する。ブリッジマン法による単結晶育成では、るつぼは高温雰囲気に晒されはするものの、機械的な負荷は少なく、内部の単結晶の質量及びるつぼの自重程度の負荷がかかるぐらいである。このような環境では、るつぼの構成材料には、クリープ破断強度が高いことよりも破断時間が長いことが要求される。電気鋳造法により製造されるイリジウムるつぼは、鋳造、圧延等を経る通常の加工材から製造されるものに比べて、柔らかく破断強度こそ低いものの破断時間が大きい。このような差異が生じる理由は定かではないが、電気鋳造法による析出物は、その破断機構において、その構造から粒界すべりよりも粒内すべりが優先されており、これが低応力下での長期耐久性に寄与するものと考えられる。
【0013】
そして、以上説明したように、電気鋳造法によれば薄肉で柔軟性に富むるつぼを得ることができるが、これにより、溶融・凝固の過程で育成される単結晶材料には熱歪によるストレス負荷が少なく高品位のものとなる。
【0014】
本発明では、以上説明したイリジウムるつぼを使用して、単結晶種子を封入したるつぼを温度勾配を有する炉内を移動させて単結晶を育成する。この移動は、垂直型、水平型のいずれで行っても良い。ここで、るつぼが移動する炉内には目的とする単結晶材料の融点以上の温度に設定されたホットゾーンがあり、るつぼはこれを通過し、ホットゾーン出口の温度勾配の作用により単結晶が形成される。従って、単結晶製造の条件として重要なものは、温度勾配及び移動速度である。本発明者等の検討によれば、この温度勾配としては、5〜50℃/cm、好ましくは、5〜20℃/cmとするのが好ましい。また、るつぼの移動速度は、0.1〜10mm/h、好ましくは、0.5〜5mm/hとするのが好ましい。
【0015】
ホットゾーンの温度は、製造目的の材料により異なるが、融点より0〜200℃に設定するのが好ましく、その長さは、るつぼの全長から20mm差し引いた値以上の長さにすることが好ましい。また、ホットゾーンを通過し、凝固した単結晶材料は冷却されるが、このときの冷却速度は300℃/h以下、好ましくは、100℃/h以下とするのが好ましい。
【0016】
単結晶育成雰囲気は、不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴン等)、又は、真空で行なうのが一般的であるが、育成する材料によっては酸素を導入して単結晶育成を行っても良い。例えば、ルチル(TiO2)単結晶の育成においては、その平衡酸素濃度の観点から、安定した単結晶を製造するためには酸素の供給が必要となる。また、サファイア単結晶についても、鉄等の添加元素が導入された単結晶を製造する際には酸素の供給が必要となる。このような場合にはるつぼ内部に酸素を導入することができる。この場合の酸素の導入量は、0.01atm以下の分圧とすることが好ましい。
【0017】
本発明では単結晶種子に応じて製造される単結晶の配向を調整可能である。この場合、a軸配向の単結晶種子を用いることで、a軸配向の単結晶を得ることができ、c軸配向の単結晶種子を用いることで、c軸配向の単結晶を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、これまで適用例のないブリッジマン法によりサファイア等の高融点の単結晶材料を製造するものであり、本発明によれば、欠陥の少ない高品質な単結晶材料を効率的に製造可能となる。本発明により製造される単結晶材料は、純度4N以上、格子欠陥密度10(個/cm)オーダーの高品位のものである。また、本発明では、電気鋳造により製造されたるつぼを用いるが、電気鋳造法によれば、るつぼの肉厚、径を自在に調整可能であり、大型の単結晶の製造も可能である。
【0019】
尚、本発明に係る方法は、多結晶材料を原料とし、これを単結晶材料とする工程への適用が主となるが、この他、予め粗精製された単結晶材料の純度を向上させるための精製方法としても利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態では、電気鋳造法によりイリジウムるつぼを製造し、このるつぼを用いてAl2O3多結晶を用いてサファイア単結晶材料の製造、及び、粗精製されたサファイア単結晶の精製を行なった。
【0021】
イリジウムるつぼの製造
まず、イリジウム塩を含有する混合溶融塩を用いて、電気鋳造法によりイリジウムるつぼを製造した。本実施形態で用いた混合溶融塩の組成は、表1に示す通りである。
【0022】
【表1】

【0023】
この混合溶融塩を電解質として電気鋳造を行なった。電気鋳造は、図1に示す溶融塩電解装置10を用いて行った。溶融塩電解装置10は、図2に示すように、上面部開放の筒状容器11、筒状容器の蓋体となる電極挿入口を備えたフランジ12、グラファイト製電解槽13、及び鋳型となる陰極の回転手段14を備えたものである。また、筒状容器11は仕切り弁15によって2室に分離可能であり、上室を陰極16の装填又は取り出す際の予備排気室としている。尚、陰極には直径50mm、長さ150mmの棒状グラファイトを用いている。そして、電解の際には、イリジウム陽極1を電解槽13の底部に接触するように敷設し、陽極と陰極との極間距離を50mmとなるように設置した。また、電流供給は電解槽13に通電することで電解槽に接触するイリジウム陽極1に通電されるようにした。
【0024】
本実施形態における電気鋳造条件は、浴温530℃とし、カソード電流密度を2A/dmとなるようにし、析出時間12時間で電解析出させた。そして、イリジウム析出物を、酸洗い後陰極から剥離させた。以上の操作により、外径30mm、厚さ0.25mm、高さ50mmのイリジウムるつぼを得た。
【0025】
実施例1:高純度アルミナ粉末(5N)150gを、1500℃で40時間加熱して仮焼結したもの(φ30×50h)を原料とし、これをあらかじめ単結晶種子として準備したφ30×30hのサファイアa軸単結晶と共に、上記方法に従い製造したφ30×100hのイリジウムるつぼに封入した。そして、るつぼを2100℃、100mmのホットゾーンを有する円筒電気炉に挿入して単結晶製造を開始した。るつぼのスタート位置は、るつぼ底面がホットゾーン下端から20mm下にさしかかる位置とし、この位置から下降速度3mm/hとしてるつぼを下降させた。ここでの温度勾配は、20℃/cmであった。るつぼの下降は、るつぼの上面がホットゾーン下端から60mm下にさしかかる位置まで行た。その後、電気炉を200℃/hで降温させて冷却し、るつぼを取り出した。そして、取り出したるつぼを破いて内部のサファイア単結晶を回収した。
【0026】
実施例2:単結晶原料として予めベルヌーイ法により粗精製されたサファイア単結晶(φ48×50h)を、上記方法に従い製造したφ50×100hのイリジウムるつぼに封入した。単結晶種子としては、φ50×30hのサファイアa軸単結晶を用いた。そして、実施例1と同様の条件、方法にて電気炉内でるつぼを移動させて、単結晶を育成しつつ精製した。
【0027】
上記2つの実施例で回収したサファイア単結晶について、偏向観察、X線トポグラフィー、X線回折分析を行ったところ、いずれのサファイア単結晶もゆがみのない、光学材料として極めて好適な単結晶材料であることが確認された。また、これらの純度を分析したところ、不純物総量(Na、Si、Fe、Ca、Mg、Ga、Cr、Ni、Ti、Cu、Zn、Zr)が30ppm以下であり、また、格子欠陥が5×10個/cmの高純度且つ高品位の単結晶材料であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】イリジウムるつぼの製造装置(溶融塩電解装置)の構成を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属又は金属化合物からなり、融点が1700℃以上である高融点単結晶材料の製造方法において、
単結晶種子が封入されたるつぼを、温度勾配を有する炉内を移動させて単結晶を育成するブリッジマン法を用いて単結晶を製造する方法。
【請求項2】
るつぼとして、イリジウムよりなる厚さ0.3mm以下の薄型るつぼを用いる請求項1記載の高融点単結晶材料の製造方法。
【請求項3】
イリジウムるつぼは、電気鋳造法により製造されるものである請求項2記載の高融点単結晶材料の製造方法。
【請求項4】
るつぼ内に分圧0.01atm以下の酸素を導入する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高融点単結晶材料の製造方法。
【請求項5】
るつぼを5〜50℃/cmの温度勾配を有する炉内で0.1〜10mm/hの移動速度で移動させる請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の高融点単結晶材料の製造方法。
【請求項6】
封入する単結晶種子は、サファイアである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高融点単結晶材料の製造方法。
【請求項7】
封入するサファイア単結晶種子はa軸配向である請求項6記載の高融点単結晶材料の製造方法。
【請求項8】
封入するサファイア単結晶種子はc軸配向である請求項6記載の高融点単結晶材料の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−119297(P2007−119297A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−313613(P2005−313613)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【出願人】(594075204)株式会社第一機電 (9)
【Fターム(参考)】