説明

高配列、高アスペクト比、高密度のシリコンナノワイヤー及びその製造方法

シリコンナノワイヤーの製造方法は、ドープされた材料の形状で基板を提供するステップと、エッチング溶液を処方するステップと、適切な電流密度を適切な長さの時間供給するステップとを含む。少なくとも一部がシリコンナノワイヤーから構成される関連構造体及び装置も記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的又は一部がシリコンナノワイヤーで形成された、構造体、材料及び組成物(composition)に関し、またそのような構造体、材料及び組成物を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の論考において、特定の構造体及び/又は方法に言及する。しかしながら、以下の言及は、これらの構造体及び/又は方法が従来技術を構成することを承認すると解釈されるべきではない。出願人は、そのような構造体及び/又は方法が従来技術とみなされないことを示す権利を明確に留保する。
【0003】
ナノメートルスケールの寸法を有する構造体は、ユニークかつ有用な特性、例えば、一部のナノ構造体で観察される量子力学的振る舞いなどを有し得る。
【0004】
そのような材料の1つがシリコンナノワイヤーである。ナノワイヤーは、電子輸送、光輝性及び/又は量子効果を示す、1次元、スモールスケール、大表面積のワイヤー様材料であると特徴づけられる。そのような材料は、特定の医学用途とエレクトロニクス用途にとり重要である。
【0005】
多数の技術が、そのような構造体の製造に関して記載されてきた。これらの技術には、リソグラフィー、プラズマエッチング、プラズマ蒸着、反応性イオンエッチング、化学蒸着、レーザアブレーション、スパッタリング、熱蒸発分解(thermal evaporation decomposition)、電子ビーム蒸着、超臨界蒸気−液体固体合成法(supercritical vapor−liquid solid synthesis)、電気化学的溶解、並びに金属誘起(metal−induced)局所的酸化及び溶解がある。
【0006】
米国特許第5348618号は、シリコンナノワイヤーを形成するための化学的溶解処置を開示すると伝えられる。この処置(procedure)は、第一陽極処理ステップと、その後の、孔径を増加させる第二化学的溶解ステップとを含む。(001)方向にきちんと配列したシリコンナノワイヤーが実際に得られたことを示す視覚による証拠(例えば画像化)はこの特許に含まれていない。
【0007】
米国特許第5458735号には、ルミネッセンス特性のある「微孔質シリコン層」の形成プロセスが記載される。この中に記載のプロセスは、酸性溶液中にウエハーを置いておく時間の少なくとも一部分の期間、シリコンウエハーのアノード側に光を照射することを含む。微孔層は、p+ドーピング領域の他にn+ドーピング領域を含むことにより、p−n接合を形成する。この特許は、シリコンナノワイヤーの形成を検討していない。
【0008】
米国特許第5552328号には、多孔質シリコン発光ダイオードアレイの形成が記載される。多孔質シリコンの形態についての唯一の論考により、「カラム状Si構造」が記載される。カラムは、50〜100nmのオーダーの直径を有するとのことである。多孔質シリコンは、電気化学的溶解プロセスにより製造される。報告されたエッチング電流は、10mA/cmであり、エッチング溶液は、HF:HO=1:3であった。このプロセスは、光の照射で起こると記載される。更に、この明細書中に記載の大抵の実施形態は、例えばp−n接合又は「ポリシリコン(poly−Si)」などの複雑なシリコン構造を含む。
【0009】
2005年日付の、Oulu大学のAndrea Editによる「Investigation of Pristine and Oxidized Porous Silicon」と題された論文は、多孔質シリコンの合成及び特性を考察している。多孔質シリコンが結晶質シリコンナノワイヤーを含み得ることが論文中で注目される。しかしながら、論文は、シリコンナノワイヤーの形態もしくは性質、又はその形成メカニズムを詳細には記載していない。更に、論文は、自立型ナノワイヤー又はこれを基板から得る技術を記載していない。
【0010】
多数の技術が利用されているにもかかわらず、高配列(well−aligned)、高アスペクト比のシリコンナノワイヤーを目的にかなった幾何学的形状(geometry)で大量に形成する、単純で、費用効率の良い製造方法への要望がまだ存在する。
【発明の概要】
【0011】
本発明により、(001)方向に沿って(<100>シリコン基板に垂直)、高配列、高アスペクト比、高密度及びナノメートルサイズ(例えば<10nm)のシリコンナノワイヤーが提供される。更に、シリコンナノワイヤーとシリコン基板との間に、(100)面に沿って(<100>シリコン基板に平行に)シリコンネットワーク構造体が形成され得る。自立型シリコンナノワイヤー束及び(基板から独立した)シリコンネットワークは、超音波処理により得ることができる。その結果は、高度に再現可能であり、かつ生成物の幾何学的形状は、極めて調整可能である。
【0012】
本発明の1態様により遂行される、前記シリコンナノワイヤーの製造方法は、高濃度にドープされたp型シリコンウエハーを、低濃度(例えば5〜20%)エタノール性フッ化水素酸エッチング溶液と相対的に高い電流密度(例えば15〜30mA/cm)を用いて、ただの1ステップで電気化学的にエッチングすることを含み、更なる化学的溶解を行わずに、極めて高い多孔度(例えば>80%)の構造体を製造する。
【0013】
本発明の1選択的実施形態は、シリコン基板に電気化学的にエッチングを施して、シリコンナノワイヤーを製造する方法を提供し、この方法は、ドープされたシリコン材料の形状で基板を提供するステップと、エタノールとフッ化水素酸とを含むエッチング溶液を処方するステップと、電流密度1〜2000mA/cmを供給するステップと、1秒〜24時間の間、基板を電気化学的にエッチングするステップとを含み、但し、前記エッチング溶液は、1〜38体積%のフッ化水素酸を含む。
【0014】
更なる選択的態様により、本発明は、前記プロセスにより得られる1つ以上のシリコンナノワイヤーを提供する。
【0015】
もう1つ別の代替実施形態により、本発明は、シリコンナノワイヤーを含む構造体を提供し、この構造体は、高配列の、密集したシリコンナノワイヤー束を含み、各ナノワイヤーは約50nm未満の直径と10nm〜100μmの長さを有し、ナノワイヤーの寸法は、実質的に均一である。前記構造体は、実質的に、元素形態又は化合物としてのシリコンと酸素からなり、かつ少なくとも80%の多孔度を有する。
【0016】
本発明のさらに他の選択的態様により、前記構造体から得られる1つ以上の自立型シリコンナノワイヤーが提供される。
【0017】
追加の代替実施形態により、本発明は、複数のシリコンナノワイヤー及び1つ以上の相互接続シリコン膜を含む構造体を提供し、各ナノワイヤーは外面を含み、ナノワイヤーの外面及び1つ以上の膜は、酸化され、それによって導体−絶縁体の交互構造を画定(define)する。
【0018】
好ましい実施形態についての以下の記述は、添付図面と関連して読むことができ、図面中、同じ参照番号は、同じ部材を示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による電気化学的エッチング処置を実施するための例示的設備の概略図である。
【図2】エッチングされた基板表面及びこれに関連する構造的詳細の画像である。
【図3A−3D】本発明の原理により形成されたシリコンナノワイヤー構造体の代表的形態を示す。
【図4A−4B】本発明の原理により、エッチングされた基板上に形成された自立型シリコンナノワイヤー構造体の代表的形態を示す。
【図5】本発明の1実施形態により形成されたシリコンナノワイヤーを含む構造体の概略図である。
【図6】本発明により形成された細孔/シリコンナノワイヤーの分布又は配置の3つのバリエーションの概略図である。
【図7】本発明により形成された細孔/シリコンナノワイヤーの分布又は配置の更なる3つのバリエーションの概略図である。
【図8】シリコンネットワーク層の断片の画像である。
【図9】本発明の原理により構築された光起電力素子の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第一の態様により、高配列、高アスペクト比、高密度のナノメートルサイズのシリコンナノワイヤーの形成方法が提供される。
【0021】
本発明により、シリコンナノワイヤーの形成方法は、以下のファクターを考慮する。
【0022】
出発シリコンウエハー基板は、分岐せずに特定の方向に沿って細孔が伝搬するのを確実にする良好な結晶化度を備えている。
【0023】
基板表面にわたり均等に分布する、非常に小さく、サイズが均一な細孔が形成される。細孔は、実質的に又は著しく分岐することなく、均一に伝搬する(propagate)。少なくとも約80%、90%又はそれ以上の極めて高い多孔度が得られる。孔径は、形成されたシリコンナノワイヤーと同じオーダーであってよく、即ち直径数nmである。
【0024】
一般に、低濃度フッ化水素酸(HF)を、エッチング溶液に使用する場合、電解研磨を防ぐために、比較的低い電流密度(例えば、10%HFに対し、1〜15mA/cmを2分間)を使用するとよい。他方、高濃度HFを使用する場合には、同程度の多孔度を達成するために、比較的高い電流密度(例えば、38%HFに対し、100〜2000mA/cmを2分間)を使用することができる。低濃度HFと低電流密度を使用することにより実現できる、緩慢なエッチング速度は、化学的溶解を介する均一な細孔形成及び伝搬のための時間を提供することができる。低濃度HFと(特定のHF濃度に対して)比較的高い電流密度を使用することにより実現できる高い多孔度は、離散シリコンナノワイヤーの形成を幾何学的に確実にする。他方、高い多孔度のシリコンは、表面積対体積の非常に高い比を有し、このため、電解研磨、毛管誘起研磨及び更なる酸化に対し、一層活性となる。
【0025】
シリコンウエハーを電気化学的にエッチングする場合、高いHF濃度及び低電流密度は、細孔の形成をもたらし、他方、(本発明では好ましいが必須ではない条件である)低いHF濃度及び高電流密度は、電解研磨を生じる。電気化学的エッチング条件の所定のセットに関して、「細孔形成領域」と「電解研磨領域」との間に、「移行領域」が存在し、その場所で、細孔形成と電解研磨が競争して、表面形態を制御する。Smith et al.,“Porous Silicon Formation Mechanisms”,J.Appl.Phys.71(8),1992年4月15日を参照することにより、その全内容が、本明細書の1部を構成する。この領域内に生じる構造体は、その性質において、一般に、多孔質であるが、孔径は、電解研磨電位に近づくにつれ迅速に増加する。部分的電解研磨は、多孔度を増加させ、シリコンナノワイヤー束をより小さな単位に分離するのを助け、これは、更なる酸化を容易にし、基板表面から自立型シリコンナノワイヤーを外すのを容易にする。
【0026】
シリコンナノワイヤー構造体からの溶媒の乾燥により生じる毛管力は、シリコンナノワイヤー形成でも役割を果たし得る。シリコンナノ構造体表面からリンス溶液を乾燥させる場合、蒸発プロセスは、表面張力を課し、これによりシリコンナノワイヤー構造体の亀裂又は部分的研磨が生じ得る。この毛管誘起研磨(capillary−induced polishing)の効果は、電解研磨のものに類似する。種々の乾燥法及び/又は薬剤は、以下のような、(表面張力の減少順に示される)異なる大きさの表面張力を誘発する:水>エタノール>ヘキサン>ペンタン>臨界点乾燥又は凍結乾燥。このように、シリコンナノワイヤー構造体の表面形態を意図的に保存又は損傷するために、適切な乾燥法を選択することができる。
【0027】
前記考慮すべき事項に矛盾せずに、シリコンナノワイヤー構造体を製造するための以下の典型的な処理条件は、本発明により包含されるが、必ずしも必須ではない。
【0028】
本発明により、ドープシリコンウエハーの形状での基材又は基板材料が利用される。ドープウエハーは、p+、p++型又はn型のホウ素ドープシリコンウエハーを含んでもよく、1.0000Ω−cm未満、0.0100Ω−cm未満、又は0.0010Ω−cm未満の抵抗率を有し得る。シリコンウエハーは、<100>方向に研磨することもできる。シリコンウエハー又は基板は、任意の好適な厚さ、例えば、500〜550μmのオーダーの厚さを備えていてよい。シリコンウエハー又は基板は、任意の好適な平面寸法を備えていてよく、例えば1辺2cmの正方形であってよい。さらなる実施形態によれば、基板又はシリコンウエハーはp−n接合を含まない。
【0029】
次いで、前記タイプの基板材料を、好適なエッチング溶液中でエッチングする。好適なエッチング溶液は、フッ化水素酸、無水エタノール及び/又は水の混合物を含んでよい。HFは、約1体積%〜38体積%、5体積%〜20体積%、又は10体積%の範囲の濃度でエッチング溶液中に存在してよい。1実施形態によれば、エッチング溶液は、少なくともその一部として、48%HF+52%HOの溶液:エタノール=1:4(体積比)を使用して処方することができる。
【0030】
基板を好適なエッチング電流でエッチングする。好適な電気接点、例えばアルミニウムバック接点及び白金ワイヤー、を通して、直流(DC)又は交流(AC)を基板に流すことができる。エッチング処置は、暗がりで実施することができる。可能なエッチング電流値には、HF濃度に依存して、1〜2000mA/cm、100〜2000mA/cm又は1〜50mA/cmがある。1実施形態によれば、10%HF溶液でエッチングするための電流密度は、約1〜50mA/cm、又は15〜30mA/cmであってよい。更なる実施形態によれば、38%HF溶液でエッチングするための電流密度は、100〜2000mA/cmであってよい。
【0031】
本発明の1代替実施形態により、電気化学的エッチングの間に、シリコンナノワイヤーにルミネッセンス特性を与える目的で、光を照射することができる。
【0032】
エッチングは、好適な時間、例えば1秒〜24時間、1〜60分又は1〜10分の間、実施する。例えば、約10%HFを含有する溶液を使用する場合、エッチングは、約1〜60分又は1〜10分の間、実施することができる。1実施形態により、エッチングプロセスは、シングルステップで実施する。
【0033】
本明細書に記載のプロセスの実施に好適な設備又は装置の組立ては、当業者の能力の範囲内のことである。説明目的のために、そのような好適な設備の1つが図1に図示され、図中に示された部材は、下から上へ記載されている。例示的非限定実施形態である設備10は、ポリテトラフルオロエチレンなどの好適な材料から製造されたタンク又はセル12を含む。例えばアルミニウムの薄板である、アノード14は、基板又はシリコンウエハー16の下に設置する。o−リングなどのシール18は、基板又はウエハー16の上に置き、その内径は、エッチング溶液22に露出されるエッチング領域20を画定する。最後に、例えば白金ワイヤー又はメッシュなどのカソード24をタンク又はセル12内へ挿入する。
【0034】
エッチングプロセスの終了後に、基板をエッチング溶液から取り出し、好適な技術により洗浄及び/又は乾燥させる。例えば、エッチングの終了後、エッチングされた基板は、純エタノールで洗浄してよい。高い多孔度及び/又は厚いエッチング深さを有するこれらのエッチングされた基板を、ペンタン又はヘキサンで洗浄することができる。純エタノールは、混和しない水とペンタンとの間の移行液体(transition liquid)として使用することができる。前記洗浄処置に引き続いて又はそれと同時に、不活性ガス、例えば窒素、をエッチングされた基板表面に吹き付けることができる。あるいは、エッチングされた基板に超臨界乾燥又は凍結乾燥処置を施すことができる。説明目的のために、基板を液体二酸化炭素に露出させることができる。
【0035】
自立型シリコンナノワイヤー構造体は、場合により、エッチングされた基板から、好適な除去技術により外すことができる。本発明の1実施形態により、エッチングされた基板に、溶液中で、超音波処理を施す。この溶液は、エタノール、水、又は他の溶媒であってよい。高配列シリコンナノワイヤー束は、超音波処理を施すと、直ちに基板から外すことができる。超音波処理時間(時間から日に至るまで)を増すと、シリコンナノワイヤー束の幅及び厚さは減少するであろう。具体的な非限定例によれば、超音波処理は、5分、1時間、24時間、48時間又はそれ以上のオーダーにわたる期間実施することができる。
【0036】
前記条件を使用すると、図2〜3Dに例として示されるように、エッチングされた基板表面上に、シリコン結晶構造の骨格でシリコンナノワイヤー構造体が形成される。これらのシリコンナノワイヤーは、高配列で、密集した、束の形をなし、シリコン基板に一般に垂直である(即ち(001)方向にそっている)ことを特徴とする。各シリコンナノワイヤーは、50nm未満の直径を有し、その大半は10nm未満、例えば5〜8nmである。シリコンナノワイヤーの長さは0.5〜5.0μm(例えば約790nm)の範囲であり、長さは、特定のHF濃度に対するエッチング期間に直線的に比例する。各シリコンナノワイヤーは、相対的に高いアスペクト比(例えば、長さを直径で割った商)を備えてもよい。例えば、本発明の原理により形成されたシリコンナノワイヤーは、アスペクト比1〜10000、10〜1000又は50〜500を有し得る。1選択的実施形態によれば、アスペクト比は、少なくとも80である。シリコンナノワイヤーの寸法は、同一サンプル中では、きわめて均一である。従って、得られるシリコンナノワイヤーの形態は、高度に再現可能である。本明細書中に示されるサンプルは、10%HFを用いて、19.5mA/cmで4分間エッチングし、エタノールで乾燥させた。サンプル表面の物理色は淡緑色である。シリコンナノワイヤーのエッチング深さ又は長さは1.5μmである。図3Aは、マクロ孔径〜1μmを有する研磨された領域と全体の形態を示す平面図である(mag=10k)。図3Bは、ミクロ孔径10〜20nmを有するシリコン結晶構造の骨格を示す平面図である(mag=100k)。図3Cは、シリコンナノワィヤー束及びその下のシリコンネットワークを露呈する表面掻き傷の平面図である(mag=15k)。図3Dは、上面の斜視図であり、シリコンナノワイヤー及びシリコンネットワークを示す(mag=30k)。
【0037】
本発明により形成されるシリコンナノワイヤーは、一般に、その組成がシリコン又は酸化シリコンである超薄膜により(束になった形で)相互に接続されている。膜は非晶質であってよいが、ナノワイヤーは典型的には結晶質である。シリコンナノワイヤーは、非常に高純度のシリコン含分を有する。エネルギー分散型X線分光法(EDS)及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を使用して組成物を分析すると、シリコンと酸素のみが検出される。Si/O比は、シリコンナノワイヤーで、最も高く、相互接続膜で最も低い。従って、ナノワイヤー/膜構造により、導体−絶縁体−導体型構造(Si−SiO−Si)が裏付けられる。シリコンナノワイヤーは、周囲空気に露出すると、酸化され得る。この酸化は、新たにエッチングされたシリコン基板を真空中に保管することにより大きく減じることができる。あるいは、エッチングされた基板を周囲雰囲気で高温に曝すことにより、酸化を促進することができる。
【0038】
シリコンナノワイヤーの幾何学的形状は、エッチング条件、例えばエッチング溶液の組成、エッチング電流密度、エッチング期間及びウエハーのドーピングの程度(抵抗率)など、を変えることにより、高度に調整可能である。
【0039】
エッチングされた基板の表面は、少なくとも80%、少なくとも90%、又はそれ以上の多孔度を有する。多孔度は、重量法(gravimetric technique)により測定され、以下の式:
【数1】

により計算される。ここで、V−Vは、エッチング後の体積の差であり、m−mは、エッチング後の重量の差であり、ρは、バルクシリコンの密度であり、Aは、エッチングされた表面積であり、hはエッチングの深さである。
【0040】
多孔度が高すぎるか(即ち95%より高い)又はシリコンナノワイヤーの長さが長すぎる場合、形成されたシリコンナノワイヤーは、毛管力のため崩壊し、もはや高配列で基板に垂直とはならない。多孔度が低すぎるか又は孔径が大きすぎる場合には、各シリコンナノワイヤーはあまり識別できなくなる。すなわち、ナノワイヤーは、より厚い膜により高度に相互接続される傾向にある。
【0041】
上記のシリコンナノワイヤー束の他に、シリコンナノワイヤー束とシリコン基板との間に形成されるシリコンネットワークの薄層がある。シリコンネットワークは、直径1〜50nm又は10nm以下のシリコンナノワイヤー及び直径1nm〜1μm又は10〜100nmの空所(hollow holes)(超薄いシリコン膜で充填されている時もある)からなる(例えば図3Cと3D参照)。
【0042】
上記の好適な除去処置により、場合により、シリコンナノワイヤーを、エッチングされた基板から外す場合、これらの自立型シリコンナノワイヤーは、コロイド溶液の液滴をTEMグリッドに施し、その後溶媒を蒸発させることにより、STEM又はTEMで、図4Aと4Bに示されるように画像化できる。各シリコンナノワイヤーが平均で10nm未満の直径を有し、かつその(裂断されていない)オリジナルの長さ、即ち10nm〜100μmを保持することが見出される。自立型シリコンナノワイヤーは、高配列であり、かつ超薄膜により相互接続されている。束の厚さはその幅よりはるかに小さい。従って、シリコンナノワイヤー束はほぼ2次元構造である。図4Aは、シリコンナノワイヤー束の画像である(mag.=100k)。図4Aに図示されたサンプルは、10%HF、17.7mA/cmで2分間エッチングし、次いで、エタノール中で21時間超音波処理した。図4Bは、シリコンワイヤー及び相互接続膜の詳細を示す画像である(mag.=150k)。図4Bに図示されたサンプルは、10%HF、20.4mA/cmで2分間エッチングし、次いで、エタノール中で5分間超音波処理した。EDS及びFTIR特性解析は、構造中にシリコンと酸素のみが存在することを示す。
【0043】
大きな表面積のために、自立型シリコンナノワイヤー構造体は、空気に曝されると、酸化され得る。シリコンナノワイヤーの外装及び相互接続薄膜が最初に酸化されよう。このようにして、図5に概略で図示されるように、2次元又は3次元の自立型又は基板付きで、導体−絶縁体−導体と交替する構造体が得られ得る。ここに図示されるように、構造体は、主にシリコンから形成されるナノワイヤー又はナノワイヤー束50を含み、これら50は酸化シリコンで形成される相互接続領域52により分離されている。そのような構造体は、例えばトランジスタアレイなどの多数の種々の用途に有用である。新たにエッチングされたシリコンサンプルは、(超音波処理の前に)オーブン中にエッチングされた基板を置くことにより、意図的に酸化することもできる。シリコンナノワイヤーの単一ストランドは、新たにエッチングされるか又は酸化されたシリコンサンプルをpH溶液(弱酸又は塩基)中で超音波処理して、相互接続薄膜を溶解させることにより得ることもできる。
【0044】
図6は、本発明の原理によりシリコンナノワイヤー形成のためにエッチングされた基板内の3つの異なる細孔分布(100、120、140)を概略で図示する。ここに図示されるように、細孔102は、ナノワイヤー104の形で残るシリコン材料により分離されている。ここに更に図示されるように、細孔102は、直径aを有し、寸法bでその間に介在するシリコンナノワイヤー材料も有してよい。細孔102間の間隔は、寸法cにより表され、これはa+bに相当する。本発明の原理により、細孔102間の間隔cに対する細孔102の直径aの比は、ほぼ0.9〜1.1(a/c=0.9〜1.1)である。特定の実施形態によれば、この比は、ほぼ1.0である。配置100、120及び140のa/c比は、それぞれ0.9、1.0及び1.1である。
【0045】
図7は、本発明の原理によりシリコンナノワイヤー形成のためにエッチングされた基板内の更なる3つの細孔分布(200、220、240)を概略で図示する。図7に図示される分布と図6に図示される前記の分布との間の主な違いは、図7に図示される細孔分布では、細孔が平行四辺形の輪郭に沿って分布することであり、この分布は残留シリコンナノワイヤー材料の三角形分布をもたらす。これらの分布(200、220、240)は、一般に、より高い総多孔度をもたらす。図7に図示されるように、細孔202は、ナノワイヤー204の形で残るシリコン材料により分離される。ここに詳細に図示されるように、細孔202は、直径aを有し、寸法bで介在するシリコンナノワイヤー材料も有してよい。細孔202間の間隔は、寸法cにより表され、これはa+bに相当する。本発明の原理により、細孔202間の間隔cに対する細孔202の直径aの比は、ほぼ0.9〜1.1(a/c=0.9〜1.1)である。特定の実施形態により、この比は、ほぼ1.0である。配置200、220及び240のa/c比は、それぞれ0.9、1.0及び1.1である。
【0046】
図8に示されるように、得ることのできるもう1つの構造体は、ウェブ状のシリコンネットワークである。このネットワークは、本来は、シリコンナノワイヤー束の下で、かつシリコン基板上に位置した。この層は、超音波処理により、超音波処理期間に依存して、外すことも、より小さなピース、即ちサブミクロンからミクロンまでに分解することもできる。シリコンネットワークは、平均して直径10nm未満のシリコンナノワイヤー及び直径約50nmの空所又は孔(場合により極めて薄いシリコン膜で充填されている)を含む。図8に図示されるサンプルは、10%HF、17.7mA/cmで2分間エッチングし、次いで、エタノール中で21時間超音波処理した。図8は、約50nmの平均孔径を備えたシリコンネットワークを図示する(mag.=60k)。
【0047】
本発明のエッチングされた基板及び自立型ナノワイヤーは、多数の異なる用途に利用でき、その用途には、シリコンベースオプトエレクトロニクスを形成する部材、量子素子、トランジスタ、平面型ディスプレー(例えばTFTディスプレー)、化学及び/又は生物学的センサー、生体材料、コーティング、複合材料、整形外科、創傷治癒部材、再生医療材料、薬物送達デバイス等々があるが、これらに限定はされない。
【0048】
本発明のシリコンナノワイヤー構造体を組み込む光起電力素子の1例が、図9に図示される。より具体的には、この図中に示されるように、本発明のシリコンナノワイヤー構造体を組み込む光起電力素子300が提供され得る。光起電力素子300は、任意の好適な導電材料又は材料の組み合わせ、例えば1種以上の金属、から形成された導電性電極層302と、任意の好適な導電性ポリマー、例えばP3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)、から形成された導電性ポリマー層304と、本発明により上記のようにして形成された複数のシリコンナノワイヤー306(これは、導電性ポリマー304と複数のヘテロ接合を形成する)と、シリコン基板又はウエハー308と、次いで任意の好適な導電材料又は材料の組み合わせ、例えば1種以上の金属、から形成された対電極層310とを含む。シリコンナノワイヤー306を含む光起電力素子300は、有利には、非常に大きな表面積対体積の比を、導電性ポリマー304との境界面に提供する。シリコンナノワイヤー306と導電性ポリマー304との間のこれらのヘテロ接合は、その間のエネルギー転移を改良するメカニズムを提供し、次いで光起電力素子300の効率を改良する。
【0049】
本明細書中に使用される成分量、構成要素の量、反応条件等々の量を表現する数字は、「約」という用語により全ての事例で変更されると理解すべきである。本明細書中に提示される対象物の広い範囲、数値範囲及びパラメーターの説明は、近似的であるにもかかわらず、記載の数値はできる限り正確に示される。しかしながら、任意の数値は、本質的に、それらの各測定技術から必ず生じ、かつそれと関係する標準偏差により証拠立てられる特定の誤差を含み得る。
【0050】
本発明は、その好ましい実施形態と関連させて、記載されるが、添付クレームに定められる本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、明確に記載されていない追加、削除、変更及び置き換えをなし得ることは、当業者には明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を電気化学的にエッチングすることによる、シリコンナノワイヤーの製造方法であって、
ドープされたシリコン材料の形状で基板を提供するステップと、
エタノールとフッ化水素酸とを含むエッチング溶液を処方するステップであって、前記エッチング溶液が、1〜38体積%のフッ化水素酸を含む処方ステップと、
電流密度1〜2000mA/cmを供給するステップと、
1秒〜24時間の間、前記基板を電気化学的にエッチングするステップと
を含む、シリコンナノワイヤーの製造方法。
【請求項2】
前記基板にホウ素がドープされている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記基板が、p型、p+型、p++型又はn型のものである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基板が、1.0000、0.0100、0.0010Ω−cm又はこれら何れの値よりも低い値の抵抗率を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記基板が、〈100〉方向に研磨される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記基板が、約500〜550μmの厚さを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記基板が、p−n接合を含まない、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記基板が、シングルステップで電気化学的にエッチングされる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング溶液が、5〜20体積%のフッ化水素酸を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記エッチング溶液が、更に水を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記エッチング溶液が、フッ化水素酸、水及びエタノールを、次の割合:
48%HF+52%HOの溶液:エタノール=1:4(体積比)
で含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
以下の選択肢:
(a)100〜2000mA/cm及び38%HF;
(b)1〜50mA/cm及び10%HF;又は
(c)15〜30mA/cm及び10%HF
のうちの1つに従い、電流密度を供給するステップと、エッチング溶液処方物を提供するステップとを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記電流が、直流又は交流である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記電気化学的エッチングが、暗がりで又は光源の存在下で実施される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記基板を、1秒〜24時間、1〜60分又は1〜10分の間電気化学的にエッチングするステップを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記基板を前記エッチング溶液から取り出し、前記取り出した基板を洗浄及び/又は乾燥させるステップを更に含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記エッチング溶液から前記基板を取り出した後、水、エタノール、ヘキサン又はペンタンのうちの1つ以上で洗浄するステップを含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記基板の表面に不活性ガスを吹き付けることによって、前記基板を乾燥させるステップを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
超臨界乾燥又は凍結乾燥処置を前記基板に施すステップを含む、請求項1〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記基板の表面からシリコンナノワイヤーを外すステップを更に含む、請求項1〜19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記基板を超音波処理溶液に浸し、そこに超音波エネルギーを供給するステップを含む、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
前記超音波エネルギーが、5分〜48時間、又はそれ以上、供給される、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
前記基板が、電解研磨及び/又は蒸発誘起研磨などにより少なくとも部分的に研磨される、請求項1〜22のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項24】
前記エッチングされた基板を、少なくとも部分的に酸化するステップを更に含む、請求項1〜23のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項25】
前記基板を電気化学的にエッチングし、前記エッチングされた基板の表面に、少なくとも80%又は少なくとも90%の多孔度を生じるステップを含む、請求項1〜24のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項26】
請求項1〜25のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、1つ以上のシリコンナノワイヤー。
【請求項27】
高配列の、密集したシリコンナノワイヤー束を含む構造体であって、各ナノワイヤーが約50nm未満の直径と10nm〜100μmの長さを有し、前記ナノワイヤーの寸法が、実質的に均一であり、前記構造体が、実質的にシリコンと酸素からなるか、又はこれらの化合物からなり、かつ少なくとも80%の多孔度を有する、構造体。
【請求項28】
シリコン基板及びナノワイヤーを含み、前記ナノワイヤーが、前記シリコン基板の表面上に、(001)方向で、実質的に垂直に配列する、請求項27に記載の構造体。
【請求項29】
少なくとも前記シリコンナノワイヤーの大部分が、約10nm以下の直径を有する、請求項27又は28に記載の構造体。
【請求項30】
前記各ナノワイヤーが、アスペクト比1〜10000、10〜1000又は50〜500を有する、請求項27〜29のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項31】
少なくとも90%の多孔度を含む、請求項27〜30のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項32】
相互接続ネットワークを形成するために前記シリコンナノワイヤーを相互に接続させる、シリコン又は酸化シリコンの薄膜を1つ以上更に含む、請求項27〜31のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項33】
前記相互接続ネットワークが、約10nm以下の直径を有するナノワイヤーと、約1nm〜1μm又は10〜100nmの直径を有する細孔とを含む、請求項32に記載の構造体。
【請求項34】
前記構造体が、電解研磨及び/又は蒸発誘起研磨などにより少なくとも部分的に研磨される、請求項27〜33のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項35】
実質的に枝分かれの無い細孔を含む、請求項27〜34のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項36】
ホウ素をドープされたシリコンウエハーを含む基板を含む、請求項27〜35のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項37】
前記基板が、p型、p+型又はp++型ドープシリコンを含む、請求項36に記載の構造体。
【請求項38】
前記基板が、1.0000、0.0100、0.0010Ω−cm又はこれら何れの値よりも低い値の抵抗率を有する、請求項37に記載の構造体。
【請求項39】
前記構造体が、ルミネッセンス特性を有する、請求項27〜38のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項40】
前記各ナノワイヤーが、外面及び1つ以上の相互接続シリコン膜を含み、前記ナノワイヤーの外面及び1つ以上の膜が、酸化されて、交互に導体−絶縁体となる構造を画定する、請求項27〜39のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項41】
請求項27〜40のいずれか1項に記載の構造体から得られる、1つ以上の自立型シリコンナノワイヤー。
【請求項42】
前記シリコンナノワイヤーを分離する複数の細孔を含み、前記細孔が、直径を有し、かつ分離距離により分離されており、前記分離距離に対する孔径の比が、0.9〜1.1である、請求項27に記載の構造体。
【請求項43】
複数のシリコンナノワイヤー及び1つ以上の相互接続シリコン膜を含む構造体であって、前記各ナノワイヤーが、外面を含み、前記ナノワイヤーの外面及び前記1つ以上の膜が、酸化されて、交互に導体−絶縁体となる構造を画定する、構造体。
【請求項44】
請求項27に記載の構造体と、導電性ポリマーとを含む光起電力素子であって、前記構造体のシリコンナノワイヤーと前記導電性ポリマーとの間に複数のヘテロ接合が形成されている、光起電力素子。
【請求項45】
導電性電極層と、
前記導電性ポリマーを含む層と、
前記構造体を含むシリコン基板と、
導電性対電極層と、
を更に含む、請求項44に記載の光起電力素子。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−505728(P2010−505728A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531458(P2009−531458)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【国際出願番号】PCT/US2007/021348
【国際公開番号】WO2008/045301
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(500294958)ヒタチ ケミカル リサーチ センター インコーポレイテッド (27)
【Fターム(参考)】