説明

高配向カーボンナノチューブの製造方法

【課題】触媒層の膜厚をナノサイズのオーダーで基板全面に均質に形成することが可能であり、均質且つ形状の揃った高配向カーボンナノチューブを低コストで大量に合成することが可能な高配向カーボンナノチューブの製造方法を提供する。
【解決手段】触媒金属を溶媒に溶解させて触媒溶液を調整する工程と、触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布する工程と、基板を熱処理して溶媒を除去する工程と、を備えることを特徴とする高配向カーボンナノチューブの製造方法を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高配向カーボンナノチューブの製造方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、ディスプレイ、ナノデバイス、センサー等数多くの製品への応用が期待されている材料である。このカーボンナノチューブは、炭素原子で構成される一層あるいは多層のグラフェンシートが直径筒状に巻かれたチューブ状の材料であり、グラフェンシートの巻き方や、チューブの直径、結晶性などのカーボンナノチューブ自体の形状によって異なる特性を有している。そして、電気特性、機械特性及び比重といった材料自体の特徴が、金属材料と比較して極めて魅力のある材料として期待されている。
【0003】
カーボンナノチューブの製造方法としては、触媒と原料ガスとを同時に反応器に投入してカーボンナノチューブを合成する熱CVDを用いた気相合成法や、触媒を基材の上に塗布した基板に原料ガスを投入し、熱CVDを用いてカーボンナノチューブを合成する基板合成法が知られている。
【0004】
このうち、基板合成法では、特にシリコンや酸化シリコンなどの極めて平滑な基板表面に触媒を塗布し、カーボンナノチューブが高密度に基板上に成長することでお互いのカーボンナノチューブが寄り添い、垂直配向したカーボンナノチューブを形成することができる。
【0005】
ところで、カーボンナノチューブの成長作用をもつ触媒として、種々の遷移金属が使用されているが、基板表面に対して垂直方向に高配向したカーボンナノチューブを形成するためには基板表面に形成された触媒層の膜厚の影響を受けることが知られている。したがって、基板表面に形成する触媒層の膜厚をナノサイズのレベルで制御することが、高配向カーボンナノチューブを形成するための重要な要素となる。
【0006】
ここで、基板上に触媒層を形成する方法に関して、特許文献1〜4が知られている。例えば、特許文献1には、触媒層を電子ビームによる蒸着法で形成する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、有機金属化合物並びにアルコール化合物及び/またはアミノ化合物を配合してペースト化して、このペーストを基板に塗布して触媒層を形成する方法が記載されている。
さらに、特許文献3には、エタノール等のアルコール類からなる溶媒に硝酸鉄等を溶解させ、この溶液を基板上にスピンコートして触媒層を形成する方法が記載されている。
更にまた、特許文献4には、カーボンナノチューブ合成用の触媒ペーストを作製し、この触媒ペーストを多様なコーティング方法によって基板上に付着させる方法が記載されている。そして、上記コーティング法の一例として、インクジェットプリンティングが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−075725号公報
【特許文献2】特開2007−091530号公報
【特許文献3】特開2006−239618号公報
【特許文献4】特開2006−015342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された触媒層の形成方法では、高真空蒸着装置などの複雑且つ高価な装置が必要であるという問題があった。また、大面積の基板に触媒層を形成することが困難であるとともに、薄膜の触媒層の作製が短時間でできないため大量の基板を処理するには限界があり、生産効率が非常に悪いという問題があった。
【0010】
また、特許文献2に開示された触媒形成方法では、ペーストを基板上に塗布するために触媒層の厚さを薄くできず、製造されるカーボンナノ構造物の形状に問題があった。すなわち、触媒層の厚さは触媒微粒子の大きさに起因している。このため、触媒層の厚さが大きいと、形成される触媒微粒子の大きさは大きくなった。その結果、例えば、カーボンナノチューブの太さが太くなり、場合によってはカーボンナノチューブが製造されないという問題があった。仮にカーボンナノチューブが基板上に合成されたとしても、合成されたカーボンナノチューブは基板上に垂直に配向せず、かさ密度が極端に低下するという問題があった。
【0011】
さらに、特許文献3に開示された触媒形成方法では、触媒溶液を基板上にスピンコートにより塗布しているが、触媒層の膜厚をナノレベルの厚さに厳密に制御することが技術的に困難であるという問題があった。また、スピンコートにより触媒溶液を基板上に塗布する場合に、スピンによってはじかれた廃溶液にムダが生じ、その結果、触媒溶液を大量に準備しなければならないために製造コストが高価になるという問題があった。
【0012】
更にまた、特許文献4に開示された触媒形成方法では、触媒ペーストの粘性が高いため、触媒層の厚さを均一に制御することが困難であった。このため、カーボンナノチューブが部分的に合成されず、低密度の状態のカーボンナノチューブ膜が形成されてしまい、生産性が低くなるという問題があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、触媒層の膜厚をナノサイズのオーダーで基板全面に均質に形成することが可能であり、均質且つ形状の揃った高配向カーボンナノチューブを低コストで大量に合成することが可能な高配向カーボンナノチューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、触媒金属を溶媒に溶解させて触媒溶液を調整する工程と、
前記触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布する工程と、
前記基板を熱処理して前記溶媒を除去する工程と、を備えることを特徴とする高配向カーボンナノチューブの製造方法である。
【0015】
請求項2にかかる発明は、前記触媒溶液の粘度が、2.0mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法である。
【0016】
請求項3にかかる発明は、前記インクジェット法における1ドット当りの吐出量が、1000ng以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法である。
【0017】
請求項4にかかる発明は、前記インクジェット法におけるドット間隔が、50〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法である。
【0018】
請求項5にかかる発明は、前記インクジェット法が、ピエゾ方式のインクジェットヘッドを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高配向カーボンナノチューブの製造方法によれば、触媒金属を溶媒に溶解させて調製した触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布し、この基板を熱処理して溶媒を除去するように構成されている。これにより、基板全面にナノサイズのオーダーで均質な膜厚の触媒層を低コストで大量に作製することができる。そして、作製された触媒層は、ナノサイズのオーダーの膜厚で均質であるため、高配向カーボンナノチューブの作製に適したものである。したがって、均質且つ形状の揃った高配向カーボンナノチューブを低コストで大量に合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用した一実施形態である高配向カーボンナノチューブの製造方法の各工程を説明するための模式図である。
【図2】本発明を適用した一実施形態である高配向カーボンナノチューブの製造方法によって製造されたカーボンナノチューブの側面を電子顕微鏡により撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を適用した一実施形態である高配向カーボンナノチューブの製造方法について、高配向カーボンナノチューブ成長用の触媒層の形成方法と併せて、図面を用いて詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
本実施形態の高配向カーボンナノチューブの製造方法(以下、単に「製造方法」と記載する)は、触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布し、この基板上に高配向カーボンナノチューブ成長用の触媒層を形成することを特徴としている。具体的には、本実施形態の製造方法は、触媒金属を溶媒に溶解させて触媒溶液を調整する工程(第1工程)と、触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布する工程(第2工程)と、基板を熱処理して溶媒を除去する工程(第3工程)と、触媒層が形成された基板を熱CVD処理する工程(第4工程)と、を備えている。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0023】
(第1工程)
先ず、第1工程では、触媒金属を溶媒に溶解させて触媒溶液を調整する。具体的には、先ず、図1(a)に示すように、容器1に溶媒を貯留し、この溶媒に触媒金属を添加する。次に、スターラー等を用いて溶媒を撹拌して、触媒金属を溶媒に溶解させる。最後に、インクジェットの液吐出ノズルの先端の閉塞を防止するために、フィルターを用いて溶解後の溶媒をろ過する。このようにして、触媒溶液を調製する。
【0024】
触媒金属は、高配向カーボンナノチューブの成長触媒金属として用いられるものであれば、特に限定されるものではない。触媒金属は、通常は遷移金属であり、具体的な遷移金属としては、例えばFe、Ni、Co、Mo、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Y、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Ta等が挙げられる。特に好ましいのは、Fe、Ni、Coである。
【0025】
触媒金属としては、上記遷移金属の化合物が用いられる。具体的には、硝酸塩等の無機塩あるいは有機金属化合物等が挙げられ、好ましくは、硝酸鉄、フェロセン等が挙げられる。
【0026】
溶媒は、ベースとなる希釈剤を単体で使用しても良いが、希釈剤と濡れ性を向上させるための溶剤(以下、「濡れ性向上溶剤」と記す)とを混合して作製した混合溶液として使用することが好ましい。
【0027】
希釈剤は、触媒金属を溶解させるための溶質として、また、触媒溶液の濃度及び粘度を調製するために用いられる有機溶剤である。希釈剤としては、水との相溶性を有する性質を備えるものを使用することができる。具体的には、エタノール、メタノール及びブタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等が挙げられる。
【0028】
濡れ性向上溶剤としては、水との相溶性を有し、かつ沸点が水より高い性質を備えるものを使用することができる。具体的には、1−ブタノール、2−ブタノール、ジアセトンアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、乳酸エチル、アセチルアセトン、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0029】
濡れ性向上溶剤と希釈剤との混合割合は、濡れ性向上溶剤が10〜90質量%の範囲、希釈剤が10〜90質量%の範囲とすることが好ましく、濡れ性向上溶剤が10〜40質量%の範囲、希釈剤が60〜90質量%の範囲とすることがより好ましい。ここで、希釈剤(エタノール等)の割合が低すぎると、混合溶液の粘度が高すぎ、触媒金属を十分に混合できないために好ましくない。また、希釈剤の割合が高すぎると、触媒溶液の基板との濡れ性が良くないため、基板上に触媒溶液を塗布する際に膜厚のムラができやすくなるために好ましくない。
【0030】
触媒溶液中の触媒金属の濃度は、0.01〜10質量%とすることが好ましく、0.5〜7質量%とすることがより好ましい。ここで、触媒金属濃度が低すぎると、塗布後の基板面上の触媒金属の量が不十分なためにカーボンナノチューブが合成されず、一方、触媒金属の濃度が高すぎると、触媒金属が混合液に十分に溶解できず、一部が析出し始めるために好ましくない。
【0031】
調製した触媒溶液の粘度は、2.0mPa・s以下とすることが好ましく、1.98mPa・sとすることがより好ましい。ここで、粘度が2.0mPa・sを超えると、基板に形成する触媒層の膜厚が厚くなりすぎるために好ましくない。
【0032】
(第2工程)
次に、第2工程では、触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布する。具体的には、図1(b)に示すように、第1工程で調製した触媒溶液をインクジェット方式の塗布装置(インクジェット装置)のタンク(図示略)に入れ、吐出条件を調整した後に、ノズル2から基板3上に触媒溶液の塗布を行う。このようにして、基板3上に触媒溶液の塗布膜を形成する。
【0033】
基板3は、熱CVD処理の温度(例えば、700〜800℃)で耐えられる基板であれば、公知のものを用いることができる。このような基板としては、具体的には、シリコン基板、酸化シリコン、ステンレス、アルミナ、石英ガラス、ジルコン等が挙げられる。また、基板の形状は、特に限定されるものではなく、円形のウェハーであっても良いし、矩形であっても良い。
【0034】
本実施形態の製造方法は、触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布することを特徴としている。具体的には、インクジェット方式の塗布装置(インクジェット装置)を用いる。ここで、インクジェット方式とは、ノズルから微小液滴を吐出することにより塗布する方式のことをいう。そして、インクジェット方式の塗布装置では、液適量、ドットピッチを任意に変えることにより、基板上に塗布された薄膜の厚みをナノオーダーで制御することができる。さらに、インクとして用いる溶液の粘性を下げることにより、塗布形成する薄膜の厚みを自在に制御することができる。なお、インクジェット方式には様々な種類があるが、例えば、電圧を変えると変形するピエゾ素子を用いたピエゾ方式を用いることが好ましい。ピエゾ方式のインクジェットヘッドによれば、ピエゾ素子に与える電圧を変化させることで液滴の量を制御することができる。
【0035】
なお、インクジェット装置のノズルは、インクとして用いる触媒溶液の粘度等に応じて、適宜選択することができる。また、インクジェット装置におけるノズルの数量、配置、制御方法も基板サイズ等に応じて適宜選択することができる。
【0036】
インクジェット装置の吐出条件は、基板に触媒溶液を塗布して形成する薄膜が所望の厚みとなるように(すなわち、所望の触媒層の膜厚となるように)適宜選択することができる。具体的には、インクジェット装置の吐出条件は、触媒溶液の粘度、触媒溶液中の触媒金属の濃度、吐出量、ドットピッチを調整することにより、塗布形成する薄膜の膜厚が、0.5〜10nmとすることが好ましい。
【0037】
ここで、インクジェット装置(インクジェット法)における1ドット当りの吐出量は、1000ng以下であることが好ましく、100ng以下であることがより好ましい。1ドット当りの吐出量が1000ngを超えると、塗布形成する膜厚が不均一となるために好ましくない。
【0038】
また、インクジェット装置(インクジェット法)におけるドット間隔は、50〜1000μmの範囲とすることが好ましく、50〜700μmの範囲とすることがより好ましい。ドット間隔が50μm未満であると、塗布形成する膜厚が不均一となるために好ましくない。一方、1000μmを超えると、基板面全面への膜形成が不完全となり基板面が一部露出するために好ましくない。
【0039】
さらに、ピエゾ方式のインクジェット装置を用いる場合には、さらに、波形種類、パルス幅、周波数、電圧等を適宜調整することができる。
【0040】
(第3工程)
次に、第3工程では、触媒溶液の塗布膜が形成された基板を熱処理して溶媒を除去する。具体的には、先ず、図1(c)に示すように、ホットプレート等の加熱処理装置4を用いて基板3上に形成された塗布膜から溶媒(すなわち、濡れ性向上溶剤及び希釈剤)を除去する。基板3の熱処理は、自然乾燥が進行する前に、速やかに開始することが好ましい。これにより、高配向カーボンナノチューブを形成するのに適した触媒層を形成することができる。これに対して、自然乾燥によって基板から溶媒が除去されると、基板上の触媒層中の触媒金属の濃度を均一にすることが困難となる。
【0041】
基板の熱処理条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、200℃、10分間の乾燥・空気焼成とすることができる。このようにして、基板上に膜厚が1〜5nmの均一な触媒層を形成する。
【0042】
(第4工程)
次に、第4工程では、触媒層が形成された基板を熱CVD処理する。具体的には、先ず、図1(d)に示すように、例えば内径50mmの石英反応管5に、触媒層が形成された基板を載置する。次に、石英反応管5に、ヘリウムガス等のキャリアガスを例えば200sccmの流量で流しながら、反応管内をヒータ6によって700〜800℃まで昇温する。次に、反応管5内の温度が例えば730℃に達した後、キャリアガス中に例えばアセチレンガス等の原料ガスを例えば20sccmの流量で導入する。また、反応時間は、1分以上とする。その後、原料ガスの導入を止めて、反応管5内を常温まで冷却する。このようにして、シリコン基板上に垂直に配向したカーボンナノチューブ(高配向カーボンナノチューブ)7を製造する。
【0043】
本実施形態の製造方法によって製造される高配向カーボンナノチューブは、具体的には、平均長さが10μm〜250μmの範囲のカーボンナノチューブであることが好ましい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の高配向カーボンナノチューブの製造方法によれば、触媒溶液をピエゾ方式等のインクジェット塗布装置によって基板に塗布し、基板上に高配向カーボンナノチューブ成長用の触媒層を形成するように構成されている。これにより、触媒層の膜厚をナノサイズのオーダーで基板全面に均質に形成することができる。したがって、均質且つ形状の揃った高配向カーボンナノチューブを低コストで大面積、長時間、連続的に製造することができる。
【0045】
また、本実施形態の製造方法によれば、インクジェット法によって基板に触媒溶液を塗布するため、大面積の基板に半永久的に連続的に安定的かつ均一に塗布することができる。これにより、触媒層を薄く均一に形成することができるため、高配向カーボンナノチューブを製造することができる。
【0046】
さらに、本実施形態の製造方法によれば、スピンコート法とは異なり、基板への塗布時に不要な触媒溶液が生じることがない。このため、触媒溶液を大量に作製する必要が無く、低コスト化が可能である。また、インクジェット方式では触媒溶液の基板への塗布を自動で行うことができるため、生産性を向上することができる。
【0047】
以下に具体例を示す。
<実施例>
(触媒溶液の調整)
先ず、濡れ性向上溶剤としてDMF(ジメチルホルムアミド)、触媒金属として硝酸鉄、希釈剤としてエタノールを用意し、それぞれ、4g、0.6g、16gを混合して混合溶液を作製した。次に、スターラーを用いて1時間撹拌して硝酸鉄を溶解した。硝酸鉄を溶解した後、インクジェットの液吐出ノズルの先端の閉塞を防止するために、フィルターにてろ過を行った。作製した触媒溶液の粘度を測定した結果、1.98mPa・sであった。
【0048】
(触媒溶液の塗布)
作製した触媒溶液をインクジェット塗布装置のタンクに導入し、下記に記した吐出条件を用いて酸化膜付きシリコンウエハーに触媒層の塗布を行った。
・インクジェット方式:ピエゾ方式
・波形種類:シングルパルス
・パルス幅:83μm
・周波数:500Hz
・電圧:90V
・吐出量:63.3ng/dot
・ドットピッチ:134μm
【0049】
上記条件における鉄濃度、吐出量、ドットピッチを加味し計算すると、触媒層の膜厚は4nmとなった。また、触媒塗布後の基板表面を目視観察した結果、塗布前の基板と比較して光沢ムラ及び色合いの変化は確認されなかった。
【0050】
(基板の乾燥)
インクジェット塗布装置による塗布後、塗膜が形成されたシリコンウエハーをホットプレートの上に置き200℃で10分間の乾燥処理及び空気焼成処理を行った。
【0051】
(熱CVD処理)
触媒層が形成されたシリコンウエハーをCVD炉に入れて、下記条件を用いた熱CVD処理を実施した。
・ガス流量:C:20sccm、He:200sccm
・ガス圧力:大気圧
・反応温度:700℃〜800℃
・反応時間:1分以上
【0052】
CVD処理後、CVD炉からシリコンウエハーを取り出すと、表面は均一に黒くなっていた。これより、触媒溶液が均一にムラ無く塗布されており、基板上に均一に触媒層が形成されていたことが確認された。
【0053】
また、図2に、シリコンウエハーのSEM観察結果を示す。なお、図2は、基板を横から見たSEM像である。図2に示すように、基板上にカーボンナノチューブが垂直に同一の高さ且つ高密度で形成されたことを確認することができた。
【0054】
<比較例>
実施例で使用した触媒溶液を用いて、吐出条件を変化させてカーボンナノチューブ(CNT)の合成を行った。
吐出量が1ドット当たり1000ngを超えると、基板上に液溜まりが認められた。この結果、塗布膜厚が厚くなり、CNTは合成されなかった。同様に、ドットピッチが50μm未満の場合も同様に液滴同士が重なり合い、その結果、塗布膜厚が厚くなり、CNTは合成されなかった。また、ドットピッチが1000μmを超えると、液滴が接触せず孤立してしまい、その結果、膜厚は均一に生成されず、高密度のカーボンナノチューブは合成されなかった。
【0055】
<検証試験1>
上記実施例で用いた触媒溶液に希釈剤を添加して、さまざまな粘度の触媒溶液を準備した(表1を参照)。これらの触媒溶液を用いて、実施例と同様にカーボンナノチューブ(表1中では、「CNT」と記す)を作製した。結果を下表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、触媒溶液の粘性が2.15mPa・s以下の場合は、ムラなく基板へ塗布することが可能であった。また、触媒溶液の粘性が2.15mPa・s以下の場合に、基板上にカーボンナノチューブが形成されることを確認した。さらに、触媒溶液の粘性が2.0mPa・s以下の場合のみ、カーボンナノチューブが高密度で基板上に合成された。
【0058】
<検証試験2>
上記実施例1と同様の方法によって、硝酸鉄濃度3.0質量%、粘度1.98mPa・sの触媒溶液を作製した。次に、基板に触媒溶液を塗布する際、吐出量を835ng/dotと固定し、ドットピッチを下表2に示すように変更した吐出条件を用いた。これらの吐出条件を用いて、実施例と同様にカーボンナノチューブ(CNT)を作製した。結果を下表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表1に示すように、吐出量が1ドット当り835ngで固定された場合、ドットピッチが344〜688μmのいずれの条件でもカーボンナノチューブを作製することができた。
しかしながら、想定触媒層厚さが6.0nm未満となるドットピッチ397μmを超える条件(試験例6〜9)では、高配向カーボンナノチューブの作製が確認できなかった。
これに対して、想定触媒層厚さが6.0nm以上となるドットピッチ397μm以下の条件(試験例10〜12)では、高配向カーボンナノチューブが作製されたことを確認できた。
【符号の説明】
【0061】
1・・・容器
2・・・ノズル
3・・・基板
4・・・ホットプレート(加熱処理装置)
5・・・石英反応管(反応管)
6・・・ヒータ
7・・・高配向カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属を溶媒に溶解させて触媒溶液を調整する工程と、
前記触媒溶液をインクジェット法によって基板に塗布する工程と、
前記基板を熱処理して前記溶媒を除去する工程と、を備えることを特徴とする高配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
前記触媒溶液の粘度が、2.0mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記インクジェット法における1ドット当りの吐出量が、1000ng以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
前記インクジェット法におけるドット間隔が、50〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項5】
前記インクジェット法が、ピエゾ方式のインクジェットヘッドを用いることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の高配向カーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−211034(P2012−211034A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77075(P2011−77075)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】