説明

高電圧電気機器の絶縁異常診断装置

【課題】光ファイバ振動計を利用して、耐ノイズ性の良い高電圧電気機器の絶縁異常診断方法および装置を提供すること。
【解決手段】光ファイバに対して計測対象である電気機器から機械的振動が与えられることにより前記光ファイバ内での光伝送が変化することを利用して前記振動を計測する光ファイバ振動計1のセンサ部1aを診断すべき電気機器の内部に設置し、前記電気機器の内部の絶縁低下等の異常で発生する部分放電を、前記光ファイバ振動計により振動信号として検出し、前記振動信号を蓄積してなるデータベースを用意し、前記電気機器から検出した振動信号を前記データベースと比較することにより前記電気機器における部分放電を診断する高電圧電気機器の絶縁異常診断方法、および装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧電気機器の絶縁異常による振動を検出して異常診断する方法および装置に係わり、とくに光ファイバ振動計を利用して耐ノイズ性の良い検出を行う部分放電検出方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧電気機器の部分放電を検出する主な従来手法としては、CT(変流器)センサを用いた接地線での漏れ電流検出法、アンテナ法による放電電磁波計測法、などがあり、現在も研究が進められている。また、部分放電に伴って発生する気中の超音波を集音器で計測する装置なども市販されている。
【0003】
これらの方法は、高電圧電気機器が設置されているフィールドでの電磁ノイズや機器自体から発せられる励磁ノイズなどの影響を受けてS/N比が悪化するケースが多く、高感度な放電検出および定量的な評価が難しい。
【0004】
これを回避する方法としては、部分放電を光として検出する方法なども提案されているが、放電の位置、大きさによって必ずしも発光を伴わなかったり外部に光が漏れなかったりするので、実用面の問題が残る(特許文献1)。
また、部分放電音を光−音響変換センサにより非接触で検出し、光信号で外部に取り出すアイデアがあるが、センサの帯域やセンサ構造(サイズや部材)を考慮すると高電圧電気機器の内部に取り付けるのは実用的でない(特許文献2)。
【0005】
そこで、振動を利用する検出が検討され、部分放電による高電圧電気機器の筐体振動をAEセンサや振動センサで検出する手法が開発され製品化されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平9−243700号公報
【特許文献2】特開2000−137053号公報
【特許文献3】特開2002−90413号公報
【特許文献4】特許第3517699号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、経年使用の高圧受配電設備が多くなり、状態監視に基づく最適保全計画(予測保全)のニーズが増大しつつある。前述した部分放電検出方法は、その検出原理や対象とする機器の定格、サイズなどが異なるため、一概に比較できない面もあるが、現状、絶縁診断分野の関心は、放電検出の感度を向上させること、診断精度向上のためのノイズ分離(識別)、及びフィールドで診断を行う際の実用性向上にある。
【0007】
従来手法の課題としては、CT法の場合、現地にCTセンサを取り付ける接地線がなければ、部分放電漏れ電流を計測することができない。また、配電盤であれば、盤全体からの漏れ電流を計測するので、盤内の機器のどこで部分放電が発生しているのかを特定することが困難である。
【0008】
電磁波計測法は、高速サンプリングを必要とし、計測系の負担が大きい上にフィールドの電磁ノイズの影響も受け易い。また、光ファイバ法も光ファイバの取付け位置によって、部分放電光を検出できたりできなかったりするといった問題点がある。
【0009】
部分放電の気中超音波集音装置の場合は、部分放電に伴い気中超音波を発生しない放電モードでは、部分放電を検出することができない。AEセンサを盤に取り付けて部分放電筐体の振動から絶縁異常を診断する方法では、スイッチギヤの盤天井や遮断器の筐体にAEセンサを取付けて、部分放電を超音波領域の機械振動として検出するが、機種や材質等によって、放電の周波数帯や強さが異なるので、一つのAEセンサだけでは、広範囲の機種(周波数帯域)の部分放電検出に対応するのが難しい。
【0010】
本発明は、このような実情を考慮してなされたもので、
第1の目的は、光ファイバ振動計を利用して、耐ノイズ性の良い高電圧電気機器の絶縁異常診断方法および装置を提供すること、
第2の目的は、広周波数帯域に対応可能なセンサを導入し、広範囲な機種を診断対象とできるような高電圧電気機器の絶縁異常診断装置を提供すること、
第3の目的は、振動計測から部分放電電荷量を定量的に推定するための絶縁診断データベースを備える高電圧電気機器の絶縁異常診断装置を提供すること、そして
第4の目的は、定量的な絶縁診断実現するための信号処理方法およびソフト機能を提供すること、
にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的達成のため、本発明では、次のような部分放電検出方法および装置を提供する。
すなわち、方法の発明としては、
光ファイバに対して計測対象である電気機器から機械的振動が与えられることにより前記光ファイバ内での光伝送が変化することを利用して前記振動を計測する光ファイバ振動計のセンサ部を診断すべき電気機器の内部に設置し、
前記電気機器の内部の絶縁低下等の異常で発生する部分放電を、前記光ファイバ振動計により振動信号として検出し、
前記振動信号を蓄積してなるデータベースを用意し、
前記電気機器から検出した振動信号を前記データベースと比較することにより前記電気機器における部分放電を診断する
ことを特徴とする高電圧電気機器の絶縁異常診断方法、
である。また、装置の発明としては、
計測対象である電気機器の部分放電を起こし易い少なくとも1つの部位に設置された光ファイバセンサを有し、この光ファイバセンサから機械的振動が与えられることにより前記光ファイバセンサ内での光伝送が変化することにより前記機械的振動を計測する光ファイバ振動計と、
前記光ファイバ振動計の計測信号から前記電気機器の入出力電気量に関する振動情報を取り出す信号処理手段と、
前記電気機器における部分放電電荷量と前記振動情報との相関関数を蓄積する絶縁異常診断データベースと、
前記絶縁異常診断データベースを参照して前記信号処理手段からの前記振動情報に基づき前記電気機器の部分放電電荷量を推定する部分放電電荷量算出手段と、
前記放電電荷量算出手段からの前記部分放電電荷量と前記光ファイバセンサの設置部位とに基づき、前記電気機器における部分放電の放電モードおよび放電部位を推定する放電部位推定手段と
を備えた高電圧電気機器の絶縁異常診断装置、
である。
【0012】
すなわち、本発明に係わる高電圧電気機器の絶縁異常診断装置および方法では、光ファイバ振動計のセンサ部を高電圧電気機器内に付設し、部分放電現象に伴う振動や音響信号の強さや向きを光信号に変換して検出し、機器の稼動中に絶縁異常状態をモニタリング可能なシステムを備えたことを特徴とする。光ファイバセンサとしては、FLDV(Fiber-Optic Laser Doppler velocimeter)センサやFBG(Fiber Bragg Grating)センサを用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、光ファイバ振動計を用いて部分放電により発生する振動を検出するので、機器の励磁ノイズやフィールドの電磁ノイズの影響を受け難く、部分放電が検出し易いメリットがある。
【0014】
また、センサ部が光ファイバおよび絶縁性の接着剤だけで構成できるので、コイル表面や母線ブッシングなどの高電圧部や通電部に直接貼り付けられるなど機器内部への組み込みがし易く、放電発生源に近い所で部分放電測定ができる確率を高めることができる。
【0015】
そして、FLDVセンサを用いれば、一つのセンサで数Hz〜1MHz帯までの広い周波数帯域をカバーできるため、部分放電の特徴周波数が機種によって違う場合や放電形態によって異なる場合も対応が可能になる。
【0016】
更に、光ファイバの特性上、一つの光源に対して複数個のセンサ部を直列に接続することにより、電気機器の内、外部の複数箇所での同時モニタリングができるため、放電箇所の推定が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の骨子は、高電圧電気機器の部分放電を現地で感度良く検出することができる絶縁異常診断装置のハード構成および診断ソフト機能を提供することである。また、電荷量の定量的評価を実現し、放電位置同定に対応するための工夫も提供する。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の第1の実施例の概略的構成例を示す図であり、図2は、本発明の第1の実施例におけるセンサ部の設置例を示す図である。
【0020】
図1において、光ファイバ振動計1は、センサ部1aおよび検出部1bを有する。このセンサ部1aは、図2に示すように、高電圧電気機器(VCB)内の絶縁物(ブッシング等)上や、変圧器のコイル導体(R,S,T)上、回転機であれば固定側に絶縁性の接着剤などで固定される。
【0021】
センサ1aを複数個接続することにより、機器の内部または外部で複数箇所での同時モニタリングを行うこともでき、センサの固定部は、部分放電が発生してはいけない箇所、あるいは発生し易くモニタリングが必要な場所、などを巧く組み合わせるとよい。発生位置の判定は、振動信号の検出時間(透過光の絶対時間や透過光と反射光の検出時間差など)を詳細分析することで可能である。
【0022】
光ファイバ振動計1の出力は、計測手段2、信号処理手段3、電荷量算出手段4を経て放電モードおよび部位推定手段5による処理がなされて部分放電の内容、つまり放電モードおよび放電発生部位が割り出される。
【0023】
ここで、計測手段2および信号処理手段3は、オシロスコープ、A/D変換手段、増幅手段、サンプリング手段等から適宜選択して構成すればよく、種々の装置構成が可能であり、これらを統合した構成としてもよい。
【0024】
計測手段2および信号処理手段3、取り分け、信号処理手段3は、後続の電荷量算出手段4、ならびに放電モードおよび部位推定手段6が利用できるような信号の前処理をしておく必要がある。そして、電荷量算出手段4は診断データベース5から得られるデータを用いて電荷量を算出し、また放電モードおよび部位推定手段6はセンサ部1aの設置位置、ならびに放電モードおよび放電部位推定データベース7から得られるデータを用いて推定を行う。
【0025】
図3は、本発明の第1の実施例における光ファイバ振動センサの概略的構成例および原理を説明する図である。この図3は、検出部1b(図1)の構成を示している。
【0026】
光ファイバ振動計がFLDVタイプの場合、材料表面に取り付けた光ファイバ中に光fを透過した時、湾曲部でのドップラ効果により波長のズレ(f)が生じる。このズレfが、材料中に生じた微小な歪の速度( εx,εy)に対応し、微小な音や振動の計測が可能となる。
【0027】
=neqNπRav(εx+εy)/λ0
ここで、neq:ファイバ中の透過屈折率
N :巻き数
Rav :平均巻き径
λ0 :入射光の波長
【0028】
そこで、図3に示したような構成の回路を用いて、検出部1bは、センサ部1aへの入射光と透過光とのドップラ効果による周波数のズレを検出する。検出部1bは、光源LS、ハーフミラーHM、カプラC、AOM、検出器DETにより構成されている。
【0029】
検出器DETに接続される計測手段2(図1)は、多チャンネル入力の高速A/D変換ボードとノートパソコンとで構成するとよい。特に後者であれば、計測系を小形化することができ、ノートパソコン上に診断機能を有する診断ソフトをインストールすることにより、現地診断に有効なツールとなる。
【0030】
可搬性よりも精密測定を重視する場合には、オシロスコープなど精密機器での計測の後、計測データを診断ソフトに間接的に入力する形式でもよい。光ファイバ振動計の出力の強度はセンサの取付け位置に依存するため、部分放電の定量的な評価を実現するためには、診断対象機種毎に予備実験などによって予めセンサ位置を指定しておく必要がある。
【0031】
また、計測手段2はデータ収集条件設定機能を備え、測定日時、温度、湿度、測定波形(光ファイバセンサの番号(1,2,…)、光ファイバセンサ2、・・・、電源信号)、電源周波数、被測定機器名、測定者名、サイト名、メーカー名、型式、デバイス名、製造番号、対象設備名称などのデータ収集条件をファイルに保存することができる。
【0032】
そして、複数チャネルの入力を同時入力でA/D変換してサンプリング定理を満たすサンプリング周波数で高速サンプリングし、csv形式などのデータとしてファイルに保存する。
【0033】
さらに、計測手段2(図1)では、データの多チャンネル同時収集は、計測者の指定する時刻に計測することもできるし、電源波形などのパイロット信号における−から+へのゼロクロス点で、というようにトリガを掛けられる機能も設けることもできる。また、計測時間は、商用周波数の50Hzや60Hzなど所望の電源周波数につき所望の周期分の計測が可能な設定とする。
【0034】
電源位相と光ファイバ振動計の出力とを同時に計測するのは、高電圧電気機器で発生する群小部分放電パルスと光ファイバ振動センサの出力との間には、所定の位相関係があるためである。
【0035】
図4は、本発明の第1の実施例で実際に発生する群小部分放電パルスと光ファイバ振動センサの出力との対応関係を説明する図であり、群小部分放電パルスと光ファイバ振動センサの出力との位相関係を示している。
【0036】
このように印加電圧Vの最大ピークVpの前後に部分放電PDが発生し易く、この発生位相は、放電形態(モード)毎に異なるので、診断アルゴリズムの放電形態の判定条件として利用できる。計測手段2(図1)で収集したデータは、信号処理手段3(図1)に入力される。
【0037】
図5は、本発明の第1の実施例における信号処理機能の概要を説明する図であり、信号処理手段3(図1)における信号処理手順を示している。この手順に従い、信号処理手段3は、診断用ソフトを用いて信号処理を実行する。光ファイバ振動計の周波数帯域は、数Hz〜1MHzと広帯域で、この帯域の周波数にはフラットな感度を有する。
【0038】
したがって、2MHz以上のサンプリング周波数で光ファイバセンサの出力信号を計測して高速フーリエ変換やウェーブレット変換などで周波数解析を行えば、部分放電による振動/音響の周波数帯域が分かる。
【0039】
すなわち、光ファイバ振動計により数Hzないし1MHzの測定周波数範囲のうちの、レベルが最も大きな特定周波数領域Wを観測する(図5(a))こととして、高速サンプリングにより計測波形を取り出す(図5(b))。
【0040】
この計測波形は、基本波Vの1周期と、これに伴って発生するであろう部分放電波形とが含まれるように切り出される(図5(c))。つまり、電源電圧波形1周期分の波形が切り出される。そして、この1周期分の波形がウェーブレット変換される(図5(d))。これにより信号処理手段4(図1)における信号処理が終了し、処理結果が放電モードおよび部位推定手段6に与えられる。
【0041】
図6(1)ないし(6)は、部分放電に伴う筐体振動の周波数特性例を示す図で、一例として周波数解析手段(図示せず)により高速フーリエ変換を実施した例を示したものであり、機種や部分放電モードによって得られる周波数スペクトルは微妙に異なる。
【0042】
ここでは、機種が磁気遮断機(MBB)と真空遮断機(VCB)との2機種、放電モードが対地間放電、極間放電、沿面放電、ギャップ放電の4類型を含んでいる。そして、機種と放電モードとの組み合わせにより種々の周波数特性が生じる。そこで、周波数解析手段で得られた周波数スペクトルを基に、絶縁異常を判定するのに最適な部分放電振動/音響スペクトルを選定し、その挙動を監視する。
【0043】
図6(1)ないし(6)に示す周波数特性は、例えば(1)MBB対地間放電の場合は、0−10kHzの範囲で最大のピークが現れ、10−20kHzの範囲および40−50kHzの範囲で次に大きなレベルのピークが現れ、20−40kHzの範囲では、低周波側から高周波側に向かって緩やかにレベルが低下していく傾向が見て取れる。
【0044】
図6の(2)ないし(4)に示されたMBBの放電モード3点を見ると、レベルの大小はあるが、傾向的には低周波側から高周波側に向かって緩やかにレベルが増す傾向がある。
【0045】
一方、真空遮断機(VCB)の場合は、(5)に示されるギャップ放電のときは低周波の範囲から高周波に向かってレベルが増す傾向にあり、かつほぼ全周波数範囲にわたってピークを示すのに対し、(6)に示される極間放電では、全周波数範囲にわたって低レベルであり、周波数範囲の両端のみにピークが現れている。
【0046】
このようにして得られた計測信号を基に、図5に基づいて既述した、光ファイバ振動計の出力信号に含まれる各周波数成分の印加電圧位相に対する挙動を調べるためには、計測信号をウェーブレット変換すればよい。
【0047】
例えば、印加電圧と部分放電発生位相との関係をみるために、電源正弦波の1周期相当のデータを切出して、その後、診断用の変換式により、ウェーブレット変換を行い、変換結果(3次元データ)を時間周波数平面上に表示させる。表示方法としては、周波数−位相(時刻)−ウェーブレット係数のxyz座標表示のほか、等高線表示方法などがある。
【0048】
通常、ウェーブレット変換は下式(1)のように定義され、マザーウェーブレットと呼ばれる局在関数ψと解析対象波形f(t)との内積をとって、f(t)を時間周波数平面上のウェーブレット係数W(a,b)へと変換する。
【0049】
しかし、ここでは、下式(2)のように、マザーウェーブレットψのパラメータをa=2,b=kと置換し、診断用に特化して低周波側でも時間分解能が粗くならないように工夫している。
【0050】
また、マザーウェーブレットは、診断対象によって最適な関数が異なるので、予め複数のマザーウェーブレットを選択できる構成としておく。よく使うマザーウェーブレットの代表例は、下式(3)に示すメキシカンハットがある。
【0051】
実際には、図5のように、電源周波数に対応して1周期分だけ切り出す機能や、マザーウェーブレット(アナライジング・ウェーブレットともいう)を選択する機能を診断ソフトに付加しておくのがよい。
【数1】

【0052】
図7は、本発明による絶縁診断アルゴリズムを説明する図であり、図5により示したようにウェーブレット変換した結果から、診断を行うアルゴリズムを示したものである。まず、ウェーブレット変換の結果得られたピークの周波数成分から、部分放電およびノイズの識別を行う。部分放電は、印加電圧波形の正負のピーク近傍で発生する傾向があり、光ファイバ振動計の出力信号も印加電圧の半周期で振幅変調する。
【0053】
その出力信号に含まれる周波数成分は、図6に示すように高電圧電気機器の機種や放電形態(モード)によって異なるため、それぞれの特徴周波数帯域の発生位相と強さとの関係から絶縁異常の状態を識別する。
【0054】
また、ノイズも種類毎に特徴的周波数成分があり、放電とノイズとが全く同期することさえ無ければ、ウェーブレット変換結果の周波数帯をチェックして(S1)、その周波数成分から放電とノイズとを識別できる。次に、放電ピーク位相を検出し(S3)、ノイズと識別した部分放電のピークについて、上記の部分放電および放電位相による部分放電モード(形態)の特定をする(S4)。
【0055】
すなわち、沿面放電、ギャップ放電、ボイド放電など個々の部分放電モード毎に特有の信号強度や放電位相があるので、ウェーブレット変換結果の等高線表示における放電ピークの重心位相に着目して、放電モードを判定する。
【0056】
その次に、放電ピーク強度(等高線表示における放電ピークの体積)に着目する(S5)。これは、図7の右下部に示すように、放電ピーク強度と発生した部分放電の電荷量(放電エネルギー)とが対応する。この対応関係により、放電ピーク強度の計算から部分放電電荷量を定量的に推定し得る(S6)。そして、例えば推定した部分放電の大きさが、メーカー基準、ユーザー基準または何らかの規格などを外れるか否かで絶縁異常を判定する。
【0057】
例えば、信号処理手段では、図7に示すように、切り出した1周期分の電源正位相(0°〜180°)および電源負位相(180°〜360°)で、それぞれ光ファイバ振動計の出力データの実効値を計算するとともに、ウェーブレット変換結果で得られる部分放電成分のピーク強度も体積積分(放電ピーク内に含まれるウェーブレット係数の総和)により算出しておく。
【0058】
他方、図7では、図右側下方にウェーブレット変換処理の結果を画像として表示している。この画像では、横軸を位相、縦軸を周波数として表したもので、130度および300度付近の周波数が低い位置に1つずつの山が等高線表示されている。これらの山のピークの位置および形状から位相、強度が読み取れ、放電モードおよび放電電荷量を知ることができる。
【0059】
図8(a)ないし(d)は、本発明の第1の実施例における絶縁異常診断データベースに蓄積される相関曲線の例を示す図であり、印加電圧と、部分放電電荷および光ファイバ振動計の出力との間の関係を示したものである。図8では、横軸に部分放電の放電電荷量合計値(電源電圧の半周期分)をとり、縦軸に光ファイバ振動計出力(図8(a),(b))、ウェーブレットピーク強度(図8(c),(d))をとり、半周期合計値として示している。
【0060】
このような関係に基づき、予め実験室レベルで、印加電圧を調節して部分放電電荷量を変化させながら、印加電源電圧、放電電荷量(部分放電電荷量計測器の出力)、部分放電に伴う光ファイバ振動計の出力信号の3項目を同時計測したデータを取り、データベースを作成しておく。
【0061】
すなわち、図4で丸で囲んで示した部分、つまり電源電圧に対する部分放電の発生箇所における、群小放電の合計電荷量と光ファイバ振動計の出力実効値とのデータの組、また丸で囲んだ部分の群小放電の合計電荷量と、それに対応するウェーブレット変換結果の部分放電ピーク強度とのデータの組を蓄積する。
【0062】
この予備実験を実施することにより、絶縁異常診断データベースとして、図8に示すような「光ファイバ振動計の出力信号強度と部分放電電荷量の相関曲線」や「光ファイバ振動計の出力信号のウェーブレット変換ピーク強度と部分放電電荷量の相関曲線」のマスターカーブを備えることができる。
【0063】
したがって、図1における電荷量算出手段4は、信号処理手段3で算出された光ファイバ振動計の出力実効値や部分放電のウェーブレットピーク強度を絶縁異常診断データベース内に蓄積してある当該相関曲線関数を参照して、部分放電電荷量を計算する機能を有する。
【0064】
そして、実際の運用上では、図8のような相関曲線をデータベースとして事前に準備しておくことにより、光ファイバ振動計の出力を計測するだけで、部分放電を定量評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施例における概略的構成例を示す図。
【図2】本発明の第1の実施例におけるセンサ部の設置例を示す図。
【図3】本発明の第1の実施例における光ファイバ振動センサの概略的構成例と原理を説明する図。
【図4】本発明の第1の実施例における、実際に発生する群小部分放電パルスと光ファイバ振動センサの出力との対応関係を説明する図。
【図5】本発明の第1の実施例における信号処理機能の概要を説明する図。
【図6】部分放電に伴う筐体振動の周波数特性例を示す図。
【図7】本発明の第1の実施例における絶縁診断アルゴリズムを説明する図。
【図8】本発明の第1の実施例における絶縁異常診断データベースに蓄積される相関曲線の例を示す図。
【符号の説明】
【0066】
0…絶縁異常診断機能付高電圧電気機器
1…メタルクラッド盤
2…接地線
3…R相母線
4…S相母線
5…T相母線
6…CT
7…VCB
8…VT
9…しきり板
10…光ファイバセンサ
11…母線の絶縁部材表面
12…導電部
13…絶縁部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバに対して計測対象である電気機器から機械的振動が与えられることにより前記光ファイバ内での光伝送が変化することを利用して前記振動を計測する光ファイバ振動計のセンサ部を診断すべき電気機器の内部に設置し、
前記電気機器の内部の絶縁低下等の異常で発生する部分放電を、前記光ファイバ振動計により振動信号として検出し、
前記振動信号を蓄積してなるデータベースを用意し、
前記電気機器から検出した振動信号を前記データベースと比較することにより前記電気機器における部分放電を診断する
ことを特徴とする高電圧電気機器の絶縁異常診断方法。
【請求項2】
計測対象である電気機器の部分放電を起こし易い少なくとも1つの部位に設置された光ファイバセンサを有し、この光ファイバセンサから機械的振動が与えられることにより前記光ファイバセンサ内での光伝送が変化することにより前記機械的振動を計測する光ファイバ振動計と、
前記光ファイバ振動計の計測信号から前記電気機器の入出力電気量に関する振動情報を取り出す信号処理手段と、
前記電気機器における部分放電電荷量と前記振動情報との相関関数を蓄積した絶縁異常診断データベースと、
前記絶縁異常診断データベースを参照して前記信号処理手段からの前記振動情報に基づき前記電気機器の部分放電電荷量を推定する部分放電電荷量算出手段と、
前記放電電荷量算出手段からの前記部分放電電荷量と前記光ファイバセンサの設置部位とに基づき、前記電気機器における部分放電の放電モードおよび放電部位を推定する放電部位推定手段と
を備えた高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項3】
前記信号処理手段は、前記電気機器に印加される電源波形および部分放電波形を計測するチャネルを有し、全てのチャネルを同時に、かつ計測する周波数帯域に対してサンプリング定理を満たすサンプリング周波数で計測することを特徴とする請求項2記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、前記電気機器に印加される電源波形をパイロット信号とするトリガ機能と、電源周期の整数倍のデータ計測を行う機能とを備えたことを特徴とする請求項2または3に記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項5】
前記信号処理手段は、測定日時、温度、湿度、測定波形、電源周波数、被測定機器名、測定者名、サイト名、メーカー名、型式、デバイス名、製造番号、対象設備名称などのデータ収集条件を設定する機能を備えたことを特徴とする請求項2ないし4の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項6】
前記信号処理手段は、計測波形データの高速フーリエ変換機能、包絡線処理機能またはウェーブレット変換処理機能を備えたことを特徴とする請求項2ないし5の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項7】
前記信号処理手段は、計測波形から所望の電源周期分を切り出す機能を備えたことを特徴とする請求項2ないし6の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項8】
前記信号処理手段は、ウェーブレット変換用に複数のマザーウェーブレットを備えることを特徴とする請求項2ないし7の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項9】
前記絶縁異常診断データベースは、部分放電電荷量の合計値と光ファイバセンサ出力の実効値との相関曲線を備えたことを特徴とする請求項2ないし8の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項10】
前記絶縁異常診断データベースは、部分放電電荷量の合計値と光ファイバセンサ出力のウェーブレット変換ピーク強度との相関曲線を備えたことを特徴とする請求項1ないし9の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項11】
前記光ファイバセンサは、ファイバ湾曲部が検出対象から受ける振動または音響信号を入力光の周波数の変動として検出するFLDVセンサであることを特徴とする請求項2ないし10の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項12】
前記光ファイバセンサは、FBGセンサであることを特徴とする請求項2ないし10の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項13】
前記光ファイバセンサは、FLDVセンサまたはFBGセンサを複数個接続することにより、前記電気機器の内、外部の複数箇所での同時モニタリングを行うことを特徴とする請求項2ないし12の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項14】
前記部分放電電荷量算出手段は、ウェーブレット変換結果における部分放電成分のピークの位相中心を算出する機能を備えたことを特徴とする請求項2ないし13の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。
【請求項15】
前記部分放電電荷量算出手段は、診断対象機種ごとに診断データベースから異なる電荷量推定用マスターカーブを選択する機能および評価しきい値変更機能を備えたことを特徴とする請求項2ないし14の何れかに記載の高電圧電気機器の絶縁異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−85366(P2010−85366A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257490(P2008−257490)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】