説明

黒色ジルコニア強化アルミナセラミックスおよびその製造方法

【課題】吸着ノズル等治工具用の黒色ジルコニア強化アルミナセラミックスの提供。
【構成】原料粉末として、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させるものである黒色焼結組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止可能な電気導電性を有するとともに、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)に関する。
【背景技術】
【0002】
高度情報化社会およびグローバルネットワーク社会を支える携帯情報端末やコンピュータ等マイクロエレクトロニクス関連デバイスは、半導体素子等電子部品を搭載した微小高集積化電子回路で制御されており、多機能化およびインテリジェント化が急速に進む中、更なる複合化、微小化、集積化等が求められている。電子部品を微小電子回路基板上に搭載する手法としては表面実装機によるマウンティングが一般的であり、これは微小なノズルによって電子部品を吸着し、基板上の任意箇所まで搬送・搭載するというものである。
表面実装機の多くは、電子部品の吸着検査を画像認識システムで処理しており、吸着ノズルの特性として、光を反射しない黒色性が要求される。従来、吸着用ノズルは、黒色に表面塗装した金属製や超硬金属製材料が使用されていたが、近年では、材料自身が黒色性を有し、かつ、高強度、耐摩耗性、耐磁性、耐薬品性、絶縁保護性能、熱的安定性、熱伝導性、軽量性等を高次元で実現するファインセラミックス製品が求められている。また最近の傾向として、吸着用ノズルは、電子回路の高集積化が進む中、電子部品の吸着〜搬送〜基盤への搭載を1秒間に10回以上の高速でマウンティングする必要があり、静電気による電子部品の静電破壊の恐れがあるため、これを防止する帯電防止可能な電気導電性を有することも必須の条件となっている。
【0003】
このように、黒色性、高強度、耐摩耗性、耐磁性、耐薬品性、絶縁保護性能および帯電防止可能な電気導電性を具現化するセラミックスのひとつとして、ジルコニアセラミックスが挙げられ、例えば、ジルコニアに導電性付与剤のチタニアを添加し、アルゴン雰囲気等で焼成することにより作製した黒色ジルコニアが提案されている(特許文献1〜3)。ジルコニアは酸化物系セラミックスの中では最も曲げ強さが高いセラミックスのひとつであるが、低温エージング(熱劣化現象)により結晶構造が変態し、膨張、亀裂、極度の強度低下等の問題がある。
一方、アルミナを主成分としてジルコニアにより強化するとともに、導電性付与剤を適量添加した材料が提案されている。例えば、特許文献4では、TiOを2〜10重量%含有し、ZrOを5〜30重量%含有し、TiO/ZrOモル比が0.20〜0.65、焼結体の平均結晶粒径が3μm以下とすることを基本とした体積固有抵抗10〜1010Ω・cm、曲げ強さ500MPa以上のアルミナ質導電性焼結体としている。特許文献5では、Alの一次成分と、正方晶Zrを二次成分としたジルコニア強化アルミナ基材に導電性付与剤を添加した静電気放電(ESD)保護セラミックスを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−261376号公報
【特許文献2】特開2005−206421号公報
【特許文献3】特開2008−94688号公報
【特許文献4】特開2008−266069号公報
【特許文献5】特開2011−68561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低温エージング(熱劣化現象)の問題に対して、特許文献3では、部分安定化ジルコニアのY/ZrOモル比や添加剤であるAlやTiOのモル比を制御し、正方晶ジルコニアを安定化させることで、熱的安定性に優れるジルコニアを提案している。しかしながら、吸着ノズルは微細かつ複雑形状を有しており、射出成形やプレス成形等でニアネットシェイピングしても最終的には機械加工により製品化する必要がある。その場合、材料自身に負荷がかかることで、加工後あるいは使用中に熱エージング問題が生じる恐れがあり、材料としての信頼性が欠けるものとなる。また、最近では、マウンティングの高速化により、静電気を帯びやすくなり、帯電防止可能な電気導電性を高めることが市場で求められており、その際、導電性付与剤であるチタニアの添加量を増やすことで対応すると、更に熱的安定性を欠く材料となっている。
また、特許文献4では、強度の点において、ジルコニア含有量が少ないため、曲げ強さが低く、ジルコニア含有量を30重量%以上にすると焼結性が悪くなるとともに、単斜晶ジルコニアが多く発生し、逆に強度低下することを指摘しており、したがって、30重量%以上ジルコニアを添加することができないため、結果的に十分な強度を得ることが困難である。特許文献5では、ZrO中の正方晶ZrOの割合を75vol%以上としており、それにより強度向上を図っているが、主にはHIP処理により高強度としており、また、体積固有抵抗の調整もHIP処理後のアニーリング処理により行っていることからコストアップとなるとともに、非磁性化および黒色性とのバランスも困難となる。
さらに、特許文献4および5は、アルミナの含有量が多いため、ジルコニア単体と比較して低温エージング問題に対して抵抗力があると推察されるが、基本的にZrOは正方晶ZrOが主成分であり、特に導電性付与剤を添加した系では、正方晶ZrOは不安定となりやすいため、低温エージング対策が必ずしも十分であるとは言えない。
【0006】
本発明は、半導体デバイスや電子部品等の製造工程において使用される吸着ノズル等治工具の作製を主目的として、帯電防止可能な電気導電性を有するとともに、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の(1)〜(13)の黒色焼結組成物を要旨とする。
(1)原料粉末として、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させるものである黒色焼結組成物。
(2)原料粉末の基本組成が、アルミナ40〜70重量%、ジルコニア25〜50重量%、チタニア5〜10重量%である、上記(1)記載の黒色焼結組成物。
(3)アルミナの平均結晶粒子径が1.5μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径を0.8μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が40〜70体積%、単斜晶が30体積%以下の割合になるように混在させ、ジルコニア分の主成分が微粒立方晶である上記(1)または(2)記載の黒色焼結組成物。
(4)焼結助剤がマグネシアである、上記(1)、(2)または(3)記載の黒色焼結組成物。
(5)10〜10Ω・cmの範囲の体積固有抵抗を有する、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(6)10〜10Ω・cmの範囲の体積固有抵抗を有する、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(7)曲げ強さは700MPa以上、ヤング率が280GPa以上、ビッカース硬さが1100(HV1)以上である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(8)曲げ強さ900MPa以上であり、ヤング率300GPa以上、ビッカース硬さ1300(HV1)以上である、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(9)30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.1%以下である耐低温エージング性を有する、上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(10)30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.05%以下である耐低温エージング性を有する、上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(11)黒色度を表す色評価L*値は40以下である、上記(1)ないし(10)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(12)治工具用セラミック部材である上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
(13)真空吸着ノズル用セラミック部材である上記(1)ないし(11)のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【0008】
また、本発明は、以下の(14)の黒色焼結組成物の製造方法を要旨とする。
(14)アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、いずれの粉末も平均粒子径0.3μm以下の微細粉末を用いて、各粉末を均一に分散させ、次いで、これを成形して形状付与し、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気・還元雰囲気で焼成することによりアルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させるものである黒色焼結組成物とすることを特徴とする黒色焼結組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により帯電防止可能な電気導電性を有するとともに、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)を提供することができる。本発明の黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)を用いて、半導体デバイスや電子部品等の製造工程において使用される吸着ノズル等治工具を作製することができる。
【0010】
本発明により、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、いずれの粉末も平均粒子径0.3μm以下の微細粉末を用いて、各粉末を均一に分散させ、次いで、これを成形して形状付与し、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気・還元雰囲気で焼成することによりアルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させ、焼結体の物性として、曲げ強さ700MPa以上、ヤング率280GPa以上、ビッカース硬さ1100(HV1)以上、体積固有抵抗10〜10Ω・cm、黒色度を表す色評価L*値40以下、30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.1%以下の耐低温エージング性のすべてを同時に具備する黒色焼結組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
原料粉末としては、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%、望ましくは、アルミナ40〜70重量%、ジルコニア25〜50重量%、チタニア5〜10重量%、の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤であるマグネシア等を使用する。
【0012】
本発明では、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)を提供するために、焼結体の微細構造を制御することを特徴としている。微細構造制御は、微細化かつ組成制御された均一複合化焼結体とすることである。この微細化かつ組成制御された均一複合化焼結体の製造方法は、微細化工程と拡散化工程とからなり、微細化工程では、焼結体の作製プロセスの一つであるコロイドプロセスを用い、粉末を液体中に分散し、スリップキャストなどにより固化形成することで、粉末を微細に分散し、かつ粒子の表面電位の違いを利用することで導電性付与剤である酸化チタン粒子をジルコニア粒子に選択的に付着あるいは近傍に存在せしめ、高密度に成形し、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織としている。いずれの粉末も平均粒子径0.3μm以下、望ましくは0.2μm以下の微細粉末を用いて、水系コロイドプロセスあるいは有機溶媒系コロイドプロセスにより粉末表面のゼータポテンシャルの絶対値が十分に高い条件にて、いずれの粉末も良分散状態あるいはヘテロ凝集させた後良分散状態としたスラリーを調製し、各粉末を均一に分散させる。次いで、これをスリップキャスティングあるいは乾燥後プレス成形や射出成形等により形状付与し、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気・還元雰囲気で焼成することにより黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)を作製する。また、拡散化工程では、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させている。望ましくは、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が最も多く、次いで正方晶、単斜晶の順に存在させている。その際の拡散速度および拡散量(固溶量)は焼成温度に影響されるが、焼結体の緻密化と拡散化のバランスを考えると1400℃〜1450℃が望ましい。それ以下の温度では、緻密化が不足し、それ以上の温度では、粒成長が起こってしまい、微細組織が崩れてしまうこととなる。
【0013】
この際、焼結体の微細構造および結晶構造を制御することが極めて重要であり、以下に示すこれら構造を制御することで、従来にない帯電防止可能な電気導電性を有するとともに、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色セラミックスとなる。
すなわち、コロイドプロセスにより微細構造をアルミナとジルコニアが極めて均一に分散したものであり、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下望ましくは1μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径を1.5μm以下望ましくは1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、望ましくは、立方晶が40〜70体積%、単斜晶が30体積%以下の割合になるように混在させるものである。
【0014】
チタン安定化微粒立方晶ジルコニアを析出させ、これをジルコニア成分の主成分とすることで、焼結体の熱安定性が向上するとともに、適度に残存する正方晶がマルテンサイト転移により単斜晶に転移することで強靭化を発現することができる。
従来、立方晶ジルコニアを析出させると強度低下を招くとされていたが、結晶粒子径を0.8μm以下のチタン安定化微粒立方晶ジルコニアとし、極めて均一にこれを分散させることで、強度低下がなく、立方晶形特有の熱的安定性を両立させることができる。
また、チタンはジルコニア結晶粒子内部にほぼ均一に固溶した状態であるが、ジルコニアへの固溶限界を超える場合は、ジルコニア結晶粒界あるいは一部微粒の酸化チタン粒子として存在する場合もある。ただし、チタンがアルミナと反応してチタン酸アルミナを生じることは極めて少ない状態である。なお、ジルコニアへのチタンの固溶限界は1400℃焼成において、概ね20mol%であるとされている。
【0015】
原料に使用するジルコニア粉末は、イットリウム等安定化剤添加による部分安定化ジルコニアあるいは安定化剤無添加のジルコニアが良く、安定化剤はイットリウム以外に、マグネシウム、カルシウム、セリウム、スカンジウム等でも良いが、本発明におけるコロイドプロセスにおいて、ジルコニア粒子表面に吸着させたチタンのジルコニア粒子への固溶を妨げることのない添加量、すなわち、モル数にして、5モル以下が望ましい。
【0016】
また、アルミナには焼結助剤であるマグネシアを選択的に吸着させることで、異常粒成長を抑制するとともに、チタンとの反応を防ぐことも可能である。
【0017】
本発明の黒色焼結組成物における曲げ強さは700MPa以上、望ましくは900MPa以上であり、ヤング率が280GPa以上、望ましくは300GPa以上であり、ビッカース硬さが1100(HV1)以上、望ましくは1300(HV1)以上である。
【0018】
本発明の黒色焼結組成物において、耐低温エージング性は極めて良好であり、昇温降温状態を繰り返し試験、すなわち、30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.1%以下、望ましくは0.05%以下、更に望ましくは0%である。
【0019】
本発明の黒色焼結組成物において、体積固有抵抗は10〜10Ω・cm、望ましは10〜10Ω・cmである。
【0020】
本発明の黒色焼結組成物において、黒色度を表す色評価L*値は40以下である。
【0021】
この際、焼結体の微細構造および結晶構造を制御することが極めて重要であり、以下に示すこれら構造を制御することで、従来にない帯電防止可能な電気導電性を有するとともに、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色セラミックスとなる。
すなわち、コロイドプロセスにより微細構造をアルミナとジルコニアが極めて均一に分散したものであり、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下望ましくは1μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径を1.5μm以下望ましくは1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上、望ましくは、立方晶が40〜70体積%、単斜晶が30体積%以下の割合になるように混在させるものである。
【0022】
チタン安定化微粒立方晶ジルコニアを析出させ、これをジルコニア成分の主成分とすることで、焼結体の熱安定性が向上するとともに、適度に残存する正方晶がマルテンサイト転移により単斜晶に転移することで強靭化を発現することができる。
[色評価方法]
本発明の黒色焼結組成物は、黒色度が高いことによっても特徴付けられる。焼結組成物の黒色度は、JIS K5101―1991に準拠して測定される。色差計を用いて測定された焼結体のL*値は40以下となる。またa*値は±1以下、b*値は±3以下という低い値になる。
【0023】
本発明の黒色焼結組成物は、アルミナを基材として焼結体中に分散させることで、熱的安定性を更に向上させるとともに、アルミナ特有の高硬度、耐摩耗性、軽量性、低熱膨張性、高熱伝導性といった特性を同時にかつ高次元で具現化することが可能であり、半導体デバイスや電子部品等の製造工程において使用される吸着ノズル等治工具向けとして極めて有望な材料である。
【0024】
以上説明したとおり、本発明の黒色焼結組成物の最も好ましい態様は、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、いずれの粉末も平均粒子径0.3μm以下の微細粉末を用いて、各粉末を均一に分散させ、次いで、これを成形して形状付与し、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気・還元雰囲気で焼成することによりアルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させ、焼結体の物性として、曲げ強さ700MPa以上、ヤング率280GPa以上、ビッカース硬さ1100(HV1)以上、体積固有抵抗10〜10Ω・cm、黒色度を表す色評価L*値40以下、30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.1%以下の耐低温エージング性のすべてを同時に具備する黒色焼結組成物である。
【0025】
上記最も好ましい態様における数量的範囲の技術的意義について説明する。
(1)本発明の基本組成が、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%である理由について、アルミナが25重量%未満であると、ジルコニア量が多くなり、熱劣化しやすい正方晶ジルコニアが多く発生する。一方、アルミナが70重量%よりも多くなると、ジルコニア量が少なく、強度不足となる。チタニア量が、3重量%よりも少ないと、静電気除去に必要な導電性が得られなくなるとともに十分な黒色が得られなくなり、15重量%よりも多いと、ジルコニアに対して固溶限界量を超えて、酸化チタン結晶粒子が多くなり、強度低下を招く。
(2)アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とする理由について、アルミナおよびジルコニアともにその粒子径より大きくなると、焼結体の強度が著しく低下する。ジルコニアの結晶構造は立方晶が主であるため、粒子径が大きくなると、強度低下が顕著となる。なお、焼結体中のアルミナおよびジルコニアの平均結晶粒子径は、電子顕微鏡の反射電子像より微構造観察し、インターセプト法を用いて算出することが可能である。
(3)チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させる理由について、立方晶が20%体積以下であると、正方晶が多くなり、熱エージング効果により不安定な材料となる。立方晶が70体積%以上であると、正方晶がマルテンサイト転移により単斜晶に転移することで強靭化を発現する効果が少なくなり、強度が低下する。一方、単斜晶が30体積%以上存在すると、単斜晶に起因したマイクロクラック多くなりこれが欠陥となり、強度低下を招く。望ましくは、立方晶が40〜70体積%かつ単斜晶が30体積%以下とすることで、熱的安定性と強度のバランスに優れるものとなる。なお、ジルコニアの結晶構造の同定は、X線回折装置を用いて、回折ピーク強度の比率から簡便に解析する方法、あるいはリートベルト解析法により求めることが可能である。
(4)また、立方晶を20〜70体積%と多く析出させても、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下、望ましくは、アルミナの平均結晶粒子径が1.5μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径を0.8μm以下の組織することで、従来強度不足になるとされていた立方晶系ジルコニアでも高強度とすることができる。
焼結助剤として、マグネシアを使用する理由について、アルミナの異常粒成長を抑制し、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下とするのに有効であるとともに、酸化チタン粒子とアルミナ粒子とが直接反応してチタン酸アルミニウムを生成することを抑制する効果があると考えられる。
(5)焼結体の体積固有抵抗が10〜10Ω・cm望ましくは10〜10Ω・cmである理由について、最近では、マウンティングの高速化により、静電気を帯びやすくなり、帯電防止可能な電気導電性を高めることが市場で求められているため、従来と比較して体積固有抵抗が低い焼結体が望まれているが、静電気を適度に逃がすことと焼結体の機械的特性のバランスを考慮すると、この範囲が適切である。
(6)焼結体の機械的特性として、曲げ強さ700MPa以上、ヤング率280GPa以上、ビッカース硬さ1100(HV1)以上である点については、マウンティングする際に、焼結体の破壊、欠け、摩耗への対策を考慮すると、これらの値以上の焼結体である必要があり、これ以下であると、信頼性に欠けるものとなる。従来のESD対策黒色ジルコニアセラミックスと比較して、ビッカース硬さが大きいため、摩耗性にも優れ、長寿命の治工具となる。
(7)30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.1%以下である耐低温エージング性を有することの必要性について説明する。ジルコニアの低温エージングによる熱劣化は、一般的に200〜250℃に曝されることにより顕著に認められる。これは、ジルコニアの結晶構造が正方晶から単斜晶に転移することにより、膨張や亀裂が生じるものである。この転移は、エージング温度とともに表面のジルコニア粒子が空気中の水分と反応することが原因のひとつとされており、したがって、試験環境を30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とすることで、大気中水分と接触することから、次いで、これを昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返すことは、一般的な熱エージング試験である200〜250℃保持する方法より過酷な試験であるといえる。この試験により、残留膨張率が最大0.1%以下であることは、ジルコニアの結晶構造が正方晶から単斜晶に転移することが極めて少なく、亀裂や膨張による寸法変化もないことであり、半導体デバイスや電子部品等の製造工程において使用される吸着ノズル等治工具として適するものである。残留膨張率が最大0.1%以上、特に0.2%以上になると、ジルコニアの結晶構造が単斜晶に転移し、亀裂や強度低下の恐れが生じる。
(8)黒色度を表す色評価L*値は40以下である理由について、表面実装機の多くは、電子部品の吸着検査を画像認識システムで処理しており、吸着ノズルの特性として、光を反射しない黒色性が要求されるものであり、L*値は40より大きくなると、黒色度が低下し、画像認識システムによる吸着検査に支障をきたす恐れがある。
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【実施例】
【0027】
[実施例1〜8]
原料粉末として、アルミナ粉末(純度99.99%、平均粒子径0.2μm)、3molイットリウム添加ジルコニア粉末(平均粒子径0.2μm)、酸化チタン粉末(純度99.9%、平均粒子径0.13μm)および、添加剤として酸化マグネシウム(純度99.9%、平均粒子径0.05μm)を用いて表1の配合比になるように秤量した。スラリーは、水を溶媒として、固形分濃度27vol%とし、分散剤としてポリアクリル酸を使用し、ゼータポテンシャルの絶対値が十分に高い条件になるようにpH調整(pH7〜8)して、各粉末を分散させた。この際、添加剤の酸化マグネシウムを溶解し、ポリアクリル酸に吸着させた後にアルミナ粉末に選択的に吸着させた。一方、ジルコニアと酸化チタンをヘテロ凝集させてから転動ボールミルを用いてアルミナ粉末とともに十分に分散させた。
成形は多孔質アルミナ型(気孔率30%)を用いた排泥鋳込み成形法により行った。成形体を乾燥後、1000℃の大気雰囲気で脱脂し、アルゴン雰囲気にて表1に示す所定の温度にて、焼成時間2hにて焼成を行った。
【0028】
焼結体の結晶相、粒子径、チタン酸アルミニウムの有無を表1に示す。原料粉末として、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の組成範囲とし、上記に示す分散操作を施した作製した焼結体は、ジルコニアの結晶相がいずれも立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上を示し、アルミナの結晶粒子径が1.5μm以下、ジルコニアの結晶粒子径が0.8μm以下となった。X線回折による結晶相の評価と、電子顕微鏡とX線マイクロアナライザーによるジルコニア粒子の観察をしたところ、チタンはジルコニア粒子に固溶した微粒立方晶ジルコニアとなっていることが明らかとなった。また、チタン酸アルミニウムは発生しなかった。
【0029】
表2に、実施例1〜8の密度、曲げ強さ、ヤング率、体積固有抵抗、250℃熱サイクル試験(10サイクル、30℃における相対湿度60%以上)後の熱膨張率、黒色度、ビッカース硬さの物性を示す。いずれの焼結体も、曲げ強さ700MPa以上、ヤング率280GPa以上、ビッカース硬さ1300(HV1)以上の機械的特性に優れる焼結体であるとともに、体積固有抵抗が10Ω・cm〜10Ω・cmでESD対策が十分な電気抵抗を有している。また、黒色度L*が40以下であり、十分な黒色性を有している。さらに耐低温エージング性は極めて良好であり、昇温降温状態を繰り返し試験、すなわち、30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.05%以下であった。
以上のように、実施例1〜8は、半導体デバイスや電子部品等の製造工程において使用される吸着ノズル等治工具として、極めて有望な素材である。
【0030】
[比較例1〜8]
原料粉末として、アルミナ粉末(純度99.99%、平均粒子径0.2μm)、3molイットリウム添加ジルコニア粉末(平均粒子径0.2μm)(比較例6は12mol
Ceジルコニア粉末)、酸化チタン粉末(純度99.9%、平均粒子径0.13μm)および、添加剤として酸化マグネシウム(純度99.9%、平均粒子径0.05μm)を用いて表1の配合比になるように秤量した。スラリーは、水を溶媒として、固形分濃度27vol%とし、分散剤としてポリアクリル酸を使用した。比較例1、2は実施例と同様な方法で、それ以外は、粉末の表面処理や吸着操作は行わずに通常に混合してスラリーを作製した。
成形は多孔質アルミナ型(気孔率30%)を用いた排泥鋳込み成形法により行った。成形体を乾燥後、1000℃の大気雰囲気で脱脂し、アルゴン雰囲気にて表1に示す所定の温度にて、焼成時間2hにて焼成を行った。
【0031】
比較例1〜2については、アルミナの含有量が70重量%以上と多く、ジルコニア含有量が少ないため、ジルコニアの結晶相は立方晶が70%以上と多くなった。また、比較例1のアルミナ結晶粒子径は1.79μmと比較的大きくなった。比較例3は、酸化チタンの添加量が3%と少ないため、ジルコニアの結晶相が正方晶100体積%となった。比較例4、5、7は分散が十分でないため、チタンのジルコニアへの固溶が十分でなく、比較例4,7は正方晶、比較例5は単斜晶が多い組成となった。比較例6は12mol Ceジルコニア粉末を使用しており、チタンのジルコニアへの固溶が不十分であるため、比較例5と同様に、単斜晶が多い組成となった。比較例8はジルコニア主成分の配合であり、ジルコニア結晶相は正方晶が主体の組成となった。
【0032】
表2に、比較例1〜8の密度、曲げ強さ、ヤング率、体積固有抵抗、250℃熱サイクル試験(10サイクル、30℃における相対湿度60%以上)後の熱膨張率、黒色度、ビッカース硬さの物性を示す。比較例4、8以外は曲げ強さが700MPa以下と強度が低い焼結体となった。比較例6、7は強度に悪影響を及ぼすチタン酸アルミニウムが発生した。比較例3は、体積固有抵抗が10Ω・cmと高く、十分な静電気除去効果が期待できない。また、黒色度もL*が40以上であり、十分な黒色性があるとはいえない。一方、比較例4と8は、昇温降温状態を繰り返す試験、すなわち、30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が0.1%以上であり、十分な耐熱エージング効果があるとはいえない。
以上のように、比較例1〜8は、半導体デバイスや電子部品等の製造工程において使用される吸着ノズル等治工具に適する素材ではない。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の帯電防止可能な電気導電性を有するとともに、機械的特性に優れ、かつ低温領域における熱劣化のない黒色ジルコニア強化アルミナセラミックス(BZTA)は、吸着ノズル等治工具用への使用が期待される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末として、アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、アルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させるものである黒色焼結組成物。
【請求項2】
原料粉末の基本組成が、アルミナ40〜70重量%、ジルコニア25〜50重量%、チタニア5〜10重量%である、請求項1記載の黒色焼結組成物。
【請求項3】
アルミナの平均結晶粒子径が1.5μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径を0.8μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が40〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させ、ジルコニア分の主成分が微粒立方晶である請求項1または2記載の黒色焼結組成物。
【請求項4】
焼結助剤がマグネシアである、請求項1、2または3記載の黒色焼結組成物。
【請求項5】
10〜10Ω・cmの範囲の体積固有抵抗を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項6】
10〜10Ω・cmの範囲の体積固有抵抗を有する、請求項1ないし4のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項7】
曲げ強さは700MPa以上、ヤング率が280GPa以上、ビッカース硬さが1100(HV1)以上である請求項1ないし6のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項8】
曲げ強さ900MPa以上であり、ヤング率300GPa以上、ビッカース硬さ1300(HV1)以上である、請求項1ないし6のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項9】
30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.1%以下である耐低温エージング性を有する、請求項1ないし8のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項10】
30℃の降温時における相対湿度60%RH以上とし、昇温時の温度250℃として、それを10サイクル繰り返した試験後の残留膨張率が最大0.05%以下である耐低温エージング性を有する、請求項1ないし9のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項11】
黒色度を表す色評価L*値は40以下である、請求項1ないし10のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項12】
治工具用セラミック部材である請求項1ないし11のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項13】
真空吸着ノズル用セラミック部材である請求項1ないし11のいずれかに記載の黒色焼結組成物。
【請求項14】
アルミナ25〜70重量%、ジルコニア25〜70重量%、チタニア3〜15重量%の3成分を基本組成とし、これに焼結助剤とを含み、いずれの粉末も平均粒子径0.3μm以下の微細粉末を用いて、各粉末を均一に分散させ、次いで、これを成形して形状付与し、アルゴン雰囲気等の不活性雰囲気・還元雰囲気で焼成することによりアルミナの平均結晶粒子径が2μm以下、ジルコニアの平均結晶粒子径が1μm以下の組織とするとともに、チタンをジルコニア粒子内に選択的に固溶させ、ジルコニアの結晶構造として、立方晶が20〜70体積%、単斜晶が30体積%以下、正方晶20体積%以上の割合になるように混在させるものである黒色焼結組成物とすることを特徴とする黒色焼結組成物の製造方法。













【公開番号】特開2013−56809(P2013−56809A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196917(P2011−196917)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(592129486)株式会社長峰製作所 (18)
【出願人】(592167411)香川県 (40)
【Fターム(参考)】