説明

3次元空間光検出器

【課題】 空間的に分布する光学情報を検出するために利用できる3次元空間光検出器を提供する。
【解決手段】 3次元空間光検出器は、3次元空間内の3次元空間座標位置に配列された複数の受光部要素を有するような構成とする。3次元空間内の3次元空間座標位置に配列された複数の受光部要素として、格子状の光ファイバーを配置し、各光ファイバーを2次元検出器に導くことで3次元的な受光位置を特定し、光信号を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間的に分布する光学情報を検出するために利用できる3次元空間光検出器に関し、特に、機械的駆動部の無い3次元空間光検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における光検出器には、0次元の点検出器、1次元のアレイ光センサの線検出器、2次元CCDの面検出器の光検出器は存在するが、3次元空間における光情報を直接に検出できる3次元空間光検出器は存在せず、空間的に分布する光学情報を検出するために利用できる3次元空間光検出器は、これまでには開発されていない。
【0003】
2次元情報を計測する光検出器は、例えば、2次元CCD撮像素子は、各種計測やデジタルカメラなどに利用されている。このような従来の光検出器を利用して、3次元空間の光情報を検出するためには、機械的な駆動が必要になる。例えば、レンズを駆動して焦点位置を変えること、あるいは、光検出器本体を動かすことが必要になっている。
【0004】
また、この種の技術に類似する技術として、特許文献1に記載されている「3次元ポインティング装置」の技術が公知である。この3次元ポインティング装置は、3次元空間での位置や姿勢に関するデータを光学的に検出するため、光検出装置の受光素子が配置されている受光面に、光発生装置の光源部から円錐状に光を照射し、光検出装置の受光面の受光素子で検出される光の照射範囲の位置および形状に基づいて演算装置により、光発生装置1の光源部の3次元空間内での位置および姿勢を算出する。これにより、3次元空間の位置情報を光信号により検出できるものとしている。
【特許文献1】特開平5−265637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、3次元空間における光情報を直接に検出できる3次元空間光検出器が利用できれば、3次元空間における光学情報が一度に検出できる。これにより、高速な検出や駆動部を持たない安定な装置を実現することが可能になる。3次元空間における光学情報は、レンズ系を通じて光検出器に導かれるが、この場合には、光検出器と位置情報とは1対1に対応するため、光検出器の次元がそのまま位置情報の次元となる。
【0006】
非駆動で3次元空間の光学情報を検出するためには、光検出器が3次元的に構成されている必要がある。従来における光検出器では受光要素の部分やその周辺回路の部分が不透明であるため、光検出器を3次元空間に配置すると、光検出器とその周囲部分それ以外の部分に光が届かなくなる。具体的には、従来のCCDやCMOSの光検出器では、受光部分の光検出部が半導体基板上に形成されるために、多層化しても最上層以外の部分に光が到達することはできない。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、空間的に分布する光学情報を検出するために利用できる3次元空間光検出器、特に、機械的駆動部の無い3次元空間光検出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の3次元空間光検出器は、基本的な構成として、空間的に立体的に配列された受光部要素を有するものとする。すなわち、3次元空間内の3次元空間座標位置に配列された複数の受光部要素を有するような構成とする。そのため、具体的には、3次元空間内の3次元空間座標位置に配列された複数の受光部要素として、多層かつ格子状に配列させた多数の光ファイバー(以降、格子状光ファイバーと記述する。)を配置し、前記の各光ファイバーを2次元検出器に導くことで3次元的な受光位置を特定し、光信号を検出する。
【0009】
また、格子状光ファイバーに導入される信号光の導入効率を高めるため、前記光ファイバーに節を配列して受光部要素とし、前記受光部要素において信号光を光ファイバー内に導入することにより、光信号を検出する。
【0010】
また、同じく光ファイバーに導入される信号光の導入効率を高めるため、前記光ファイバーに蛍光部材を配列して受光部要素とし、前記蛍光部材において信号光を蛍光に変換して検出するようにしてもよい。
【0011】
また、本発明による3次元空間光検出器において、3次元空間座標位置における複数の受光部要素の配列は、透明な回路基板上に複数の受光部要素を配置して2次元検出器を形成し、前記2次元検出器を積層することにより、受光部要素を3次元空間座標位置に配置するように構成されても良い。
【0012】
また、受光部要素として蛍光物質を含有する柱状の素子を用い、前記受光部要素の発光位置を光の入射方向に直交する方向から特定する2つの位置検出器を有するように構成されても良い。また、各受光部要素の前に色フィルターを配置し、色情報を付加した光検出を行うようにしても良い。
【発明の効果】
【0013】
上記のような構成の3次元空間光検出器によれば、3次元空間における光情報を直接に検出することができるので、3次元空間の映像・画像を非駆動で検出することができる。これによって、目的の位置の画像を得るためにレンズのピントを合わせ直す作業が必要なく、測定時間も早くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施する場合に形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の構造を説明する図である。図1において、参照符号1は被測定光、参照符号2aおよび2bはCCD撮像素子等の2次元光検出器、参照符号3は格子状光ファイバーである。また、参照符号4は受光部要素の近傍の光ファイバーを示している。
【0015】
本発明による3次元空間光検出器は、図1に示すように、3次元光検出のために、3次元的に配置された受光部要素の受光素子を有する。すなわち、3次元空間における光情報を直接に検出するため、複数の受光部要素を3次元空間内の3次元空間座標位置に配列する。つまり、3次元空間座標位置を特定して受光部要素を配置するため、3次元空間の3次元格子のそれぞれの格子点に受光部要素を配置する。
【0016】
図1においては、格子状光ファイバー3が積層されて、格子状光ファイバー3の格子点の節に受光部要素が配置され、受光部要素により光信号を検出する。受光部要素は、格子点を節として、この節において、光信号を光ファイバー4に導入する。光ファイバー4に導入された光信号は、(y−z)面の2次元光検出器2aと(x−z)面の2次元光検出器2b2つの2次元光検出器2に導入されて、(y−z)位置と、(x−z)位置が検出され、その3次元空間位置が検出される。
【0017】
ところで、光は電気的に検出される際に吸収されることや、受光される際に多少の光散乱を生じることを考慮すると、受光素子そのものを完全に透明にすることはできない。このため、本発明による3次元空間光検出器においては、受光部要素の受光素子は透明ではないが、その他の部分は透明となるように構成する。
【0018】
図1に示す構成の3次元空間光検出器においては、格子状光ファイバーを多層化して3次元空間における位置が特定されるようにする。1層あたりの格子状光ファイバーは2次元検出器として働く。検出すべき信号光が、光ファイバー4の側面に照射されると、入射光の一部が散乱されて光ファイバー4内に光が入射する。光ファイバー4内に導入された光は、外部に設置された別の光検出器によって電気信号に変換される。光ファイバー4は、格子状光ファイバー3を構成しており、格子状光ファイバー4の端部から、検出される光信号が導出される。
【0019】
各層の格子状光ファイバー3は、信号光のうち一部のみを取り込むため、元の信号をほとんど乱すことなく、次の層へと光情報を伝えることができる。これによって、格子状光ファイバー3が多層化されていても、各層で光情報を得ることが可能になる。
【0020】
受光部要素となる部分の光ファイバー4には、光散乱により信号光が取り込まれる。このため、この効率を高めるためには、光ファイバー4に節を設ける。これにより、局所的に散乱効率を高めて、検出するべき信号光が効率よく光ファイバー4に取り込まれるような構成とする。このような構成について説明する
【0021】
図2は、本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の細部の構造を説明する図である。光ファイバー側面から内部に光を導入するためには、光を多少は散乱させる必要がある。図2に示すように、格子状光ファイバーの交差位置に節5を配列して当該節5を受光部要素とし、前記受光部要素の節5において信号光を光ファイバー4内に導入するような構成とする。このような構成により、検出効率を高めることができる。節5はなるべく光ファイバーの交点の位置に設けるほうがよいが、交点ではなくても検出することは可能である。
【0022】
図3は、本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の細部の構造の別の例を説明する図である。別の構成として、光ファイバー側面から内部に光を効率よく導入するため、図3に示すように、格子状の光ファイバー4の交点の位置に、図2に示した節に替えて、蛍光物質の蛍光部材6を用いることができる。蛍光物質の蛍光部材6はなるべく光ファイバー4の交点にあるほうがよいが、交点ではなくても検出することは可能である。このように、蛍光物質の蛍光部材を用いて光ファイバー内部への導入効率を高めることや、多光子励起過程を用いて、蛍光励起の場所を焦点近傍に局在させることにより、より効果的となる。
【0023】
図4は、本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の細部の構造の更に別の例を説明する図である。本発明による3次元空間光検出器は、受光素子で光電変換を行うことにより、信号光を別の場所へ導くことなく、直接電気信号に変換するような構成としても良い。具体的には、図4に示すように、受光素子7の周辺回路を透明な電気伝導膜により構成し、つまり、受光素子7が配列される基板は透明配線8により配線された透明基板9として、受光素子7以外の部分については信号光の透過を阻害しないような構成とする。
【0024】
この場合に、3次元空間座標位置における複数の受光部要素の配列は、透明な回路基板上に複数の受光部要素を配置して2次元検出器を形成し、この2次元検出器を積層することにより、受光部要素が3次元空間座標位置に配置された構造となっている。図4に示すような構成とすると、受光素子7が立体的に配置されたときにもその光検出に影響を及ぼしにくいという効果がある。
【0025】
図5は、本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の別の構造の例を説明する図である。図5において、参照符号1は被測定光であり、参照符号2aおよび2bは2次元光検出器である。また、参照符号10は蛍光物質を添加した検出器セルであり、11は励起された蛍光を示している。図5に示す3次元空間光検出器は、受光部要素に蛍光物質を含有する柱状の素子である検出器セル10を用い、受光部要素の素子の発光位置を光の入射方向に直交する方向から特定する2つの位置検出器2aおよび2bを有する構造としている。ここでの3次元空間光検出器においては、受光部要素とする素子部分が蛍光物質を添加した検出器セルから成っており、他の層への影響が極めて少ない検出器を構成している。
【0026】
受光部要素の素子は、1光子励起あるいは多光子励起によって蛍光を発し、図5に示されるように、その蛍光位置は側面に配置された2つのCCD2次元光検出器によって位置が特定される。蛍光を2つのCCD検出器へ導く際は、レンズ系を通すと効率がよくなるが、単に検出器セルの側面に配置するのみでも位置や強度を特定できる。
【0027】
また、本発明による3次元空間光検出器は、位置情報に加えて、色情報を検出するようにも構成できる。つまり、受光部要素あるいは、側面に置かれた2次元検出器(図1および図5の参照符号2)の前に色フィルターを配置し、色情報を付加した光検出を行うように構成する。通常のCCD光検出器に対する単板カラーCCD検出器に相当し、これを3次元光検出に拡張したものである。各受光素子の前にカラーフィルターを配置して特定の波長範囲を有する光だけを通過させる。カラーフィルターとしては、素子毎に赤・緑・青(あるいは目的の波長範囲に合う色)のいずれかひとつを用い、検出後に合成することで、カラーの立体映像を取得できる。
【0028】
次に、本発明による本発明の3次元空間光検出器の応用例について説明する。
【0029】
1)デジタル3次元カメラ;
レンズによる結像、特に顕微鏡映像では、対物レンズのピントの合う範囲が狭く、目的の映像を取得するために、複数の2次元画像を取得する必要がある。これを3次元空間光検出器を用いることによって、一度ですべての情報が取得できる。これにより、従来では撮影が難しかった細胞の3次元構造や、立体構造物などを、その空間形状を保持したまま撮影することが可能となる。デジタル画像記録であるため、撮影後に位置データを利用した再構成処理なども簡便に行える。
【0030】
2)位置検出器;
顕微画像において、蛍光発光を観察することが従来から行われている。この観察手段として3次元空間光検出器を用いれば、その発光が試料のどの位置で起こったものであるかを3次元空間上で特定できる。従来の2次元検出では、レンズの焦点面上の位置しか特定できなかったために、その上下に位置する複数の点で発光している物を見分けられないが、本発明による3次元空間光検出器を用いることで、これが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
デジタルカメラに代表されるように、従来の光検出器は2次元画像しか取得できなかった。これが奥行き方向(あるいは高さ)の情報も得られると、そのデジタル3次元カメラとしての適用範囲は格段に広がる。顕微鏡に取り付けると、微生物の立体構造を取得できることや、半導体観察において配線の高さ構造を測定する表面形状計測にも適用可能である。
【0032】
プラスチック製品の生産性の向上には、ラピッドプロトタイピングシステムが実用化されているが、このシステムでは3次元デジタル情報を与える必要がある。デジタル3次元カメラを用いることで、簡単にラピッドプロトタイピングに用いるCADデータが取得できる。
【0033】
奥行き方向だけの検出機構を抜き出すことも非常に有用と考えられ、たとえば、CDやDVD等の光記録ディスクではディスクの揺れに合わせて、検出器位置の微細な駆動制御がなされているが、ディスク位置がどこにあっても検出可能となるため、装置が簡単化される。多層記録された信号も、一度に検出できる。

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の構造を説明する図である。
【図2】本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の細部の構造を説明する図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の細部の構造の別の例を説明する図である。
【図4】本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の細部の構造の更に別の例を説明する図である。
【図5】本発明の一実施例にかかる3次元空間光検出器の別の構造の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0035】
1 被測定光
2 2次元光検出器
3 格子状光ファイバー
4 光ファイバー
5 節
6 蛍光部材
7 受光素子
8 透明配線
9 透明基板
10 蛍光物質を添加した検出器セル
11 励起された蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元空間内の3次元空間座標位置に配列された複数の受光部要素を有する
ことを特徴とする3次元空間光検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の3次元空間光検出器において、
前記受光部要素として多層かつ格子状に配列させた多数の光ファイバー(以降、格子状光ファイバーと記述する。)の交差位置を用い、前記格子状光ファイバーに導入された光信号を2次元検出器に導出し、前記受光部要素の3次元空間内の受光位置を特定する
ことを特徴とする3次元空間光検出器。
【請求項3】
請求項2に記載の3次元空間光検出器において、
前記受光部要素は、格子状光ファイバーの交差位置に節を配列して当該節を受光部要素とし、前記受光部要素の節において信号光を光ファイバー内に導入する
ことを特徴とする3次元空間光検出器。
【請求項4】
請求項2に記載の3次元空間光検出器において、
前記受光部要素は、格子状光ファイバーの交差位置に蛍光部材を配列して当該蛍光部材を受光部要素とし、前記受光部要素の蛍光部材において信号光を蛍光に変換し検出する
ことを特徴とする3次元空間光検出器。
【請求項5】
請求項1に記載の3次元空間光検出器において、
3次元空間座標位置における複数の受光部要素の配列は、透明な回路基板上に複数の受光部要素を配置して2次元検出器を形成し、前記2次元検出器を積層することにより、受光部要素が3次元空間座標位置に配置された構造とする
ことを特徴とする3次元空間光検出器。
【請求項6】
請求項1に記載の3次元空間光検出器において、
受光部要素として蛍光物質を含有する柱状の素子を用い、前記受光部要素の発光位置を光の入射方向に直交する方向から特定する2つの位置検出器を有する
ことを特徴とする3次元空間光検出器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの記載の3次元空間光検出器において、
前記受光部要素の前に色フィルターを配置し、色情報を付加した光検出を行う
ことを特徴とする3次元空間光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−53759(P2006−53759A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234975(P2004−234975)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】