説明

4サイクルエンジンの潤滑装置

【課題】 必要なオイル量を増加することなく旋回時にもオイルポンプが空気を吸い込みにくく、またオイル回収ポンプを大型化することもない4サイクルエンジンの潤滑装置を提供する。
【解決手段】 オイルパン6のオイル室を、クランク室aから落下するオイルを回収する主オイル室10と、該主オイル室10に隣接する副オイル室11とに区画し、上記主オイル室10を被潤滑部9a,9bにオイルを供給するオイル供給ポンプ15に連通させるとともに、上記副オイル室11を上記主オイル室10にオイルを戻すオイル回収ポンプ18に連通させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばウォータビークルに好適の4サイクルエンジンの潤滑装置に関し、詳細には、必要なオイル量を増加することなく旋回時にもオイルポンプが空気を吸い込みにくくした4サイクルエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
4サイクルエンジンを搭載したウォータビークルにおける潤滑装置として、従来からウェットサンプ方式のもの(特許文献1参照)や、ドライサンプ方式のものがある。
【特許文献1】特開平08−49596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記ウェットサンプ方式の場合、クランク室下方に設けられるオイルパンの容積を十分に確保する必要があるが、ウォータビークルの場合エンジンルームが狭いためオイルパンは浅く幅広にならざるを得ない。しかし一方でウォータビークルは波のある海上で使用されることも多く、上下左右方向の動きが激しい。特に、自動車等とは異なり長時間(例えば1分以上)旋回を続ける場合も多く、オイルパン内のオイルが旋回方向とは逆側に長時間偏り易い。すなわち、オイルパンに対してオイル面が斜めになり易い。結果として、上記の先行技術ではオイル面の傾きによりフィードポンプのオイル吸込口が大気に露出してエア吸いを起こすおそれがある。そこでオイル面が傾いてもオイル吸込口が露出しない程度にオイル量を確保すると重量増加やオイルパンの大型化を招いてしまう。ちなみに先行技術の図1に記載されているように、オイルパンの底部にリブを設け、オイルパンを複数区画に分割することによりオイルの偏りを抑制しようとする場合がある。しかしこの場合、上記複数区画はリブの一部で相互に連通しているため、上述したように長時間旋回を続けた場合はオイルパン内のオイルはやはり徐々に旋回方向逆側に偏ってしまう。
【0004】
よってウォータビークルでは、上記問題を回避するためにドライサンプ方式を採用することが多い。ドライサンプ方式の場合、オイルタンクが独立しているため、その形状の自由度が高く、オイルタンクの容量を確保しつつエア吸いし難い形状にすることも可能である。しかしドライサンプ方式の場合、クランク室底部のオイルを全てオイルタンクに圧送する必要があるため大型のスカベンジングポンプが必要となる。
【0005】
本発明は、必要なオイル量を増加することなく旋回時にもオイルポンプが空気を吸い込みにくく、またオイル回収ポンプを大型化することもない4サイクルエンジンの潤滑装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、被潤滑部を潤滑したオイルを回収するオイル室を有するオイルパンをクランク室下方に備えた4サイクルエンジンの潤滑装置であって、
上記オイルパンのオイル室を、上記クランク室に連通し、該クランク室から落下するオイルを回収する主オイル室と、該主オイル室に隣接する副オイル室とに区画し、上記主オイル室を上記被潤滑部にオイルを供給するオイル供給ポンプに連通させるとともに、上記副オイル室を上記主オイル室にオイルを戻すオイル回収ポンプに連通させたことを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、クランク軸方向に見たとき、該クランク軸は、上記主オイル室の上方かつ該主オイル室の左右方向端部よりも内側に位置していることを特徴としている。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、上記主オイル室を、上記オイルパンの左右方向中央部に設け、該主オイル室の左右方向両側に上記副オイル室を設けたことを特徴としている。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1ないし3の何れかにおいて、上記クランク室に隣接するようカムチェーン室を設け、該カムチェーン室を上記主オイル室に連通させたことを特徴としている。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1ないし4の何れかにおいて、上記主オイル室を、オイル回収孔を有する蓋部材で覆ったことを特徴としている。なお、本発明における蓋部材は、主オイル室と別部品として形成しても、あるいは主オイル室と一体形成しても良い。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5において、上記オイル回収孔は、上記蓋部材の外周縁から離間した位置に設けられていることを特徴としている。
【0012】
請求項7の発明は、請求項5又は6において、上記蓋部材の少なくとも一部は、下方に凹状をなしていることを特徴としている。
【0013】
請求項8の発明は、請求項5ないし7の何れかにおいて、上記クランク室の下方にバッフルプレートが配置され、上記オイル回収孔は、平面視でクランク軸のジャーナル部の下方に位置していることを特徴としている。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1ないし8の何れかにおいて、上記オイル供給ポンプの吸込口,上記オイル回収ポンプの吸込口をそれぞれ上記主オイル室,副オイル室の前後方向中心より後方に開口させたことを特徴としている。
【0015】
請求項10の発明は、請求項1ないし9の何れかにおいて、上記被潤滑部を潤滑したオイルの一部を副オイル室に流入させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、オイル室を、主オイル室と副オイル室とに区画し、上記主オイル室をフィードポンプに連通させるとともに、上記副オイル室をスカベンジングポンプに連通させ、オイルの回収は主として主オイル室で行い、主オイル室で回収できなかったオイル(例えば主オイル室からこぼれたオイル)を副オイル室で回収し主オイル室に戻す構成としたので、旋回によりオイル面が大きく傾斜しても主オイル室のオイル油面を高く確保でき、エア吸いを起こし難くなる。
【0017】
またオイル量を増やす必要はないので、重量増加やオイルパンの大型化の問題も生じない。また主オイル室からあふれた余剰オイルは副オイル室に流入するため、オイル油面が主オイル室上端より上になることはなく、従ってクランク軸がオイルを攪拌するのを防止できる。
【0018】
さらにまた、オイル回収ポンプは、副オイル室内のオイルを回収するだけでよいので、オイル回収ポンプが大型になるといった問題も生じない。
【0019】
請求項2の発明によれば、上記主オイル室をクランク軸の真下に位置させる構成としたので、クランク軸の軸受部等の被潤滑部を潤滑したオイルは、主オイル室にそのまま落下することとなり、潤滑済みのオイルの回収をより確実に行うことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、上記主オイル室を、上記オイルパンの左右方向中央部に設け、該主オイル室の左右方向両側に上記副オイル室を設けたので、主オイル室のオイルが左右どちらにこぼれても回収することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、クランク室に隣接するようカムチェーン室を設け、該カムチェーン室を主オイル室に連通させたので、カムチェーン室を流下するオイルについても直接主オイル室に回収でき、オイル回収用通路を簡素化することができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、主オイル室を、オイル回収孔を有する蓋部材で覆ったので、主オイル室内のオイルが跳ねる等して主オイル室からこぼれるのを抑制でき、主オイル室のオイル量を確保し易い。また転覆時にオイルがクランク室内に逆流するのを抑制できる。
【0023】
請求項6の発明では、上記オイル回収孔は、上記蓋部材の外周縁から離間した位置に設けられているので、オイル油面が、オイル回収孔の側端部を通るフィードポンプ吸込み口の接線と同じところまで傾くことができ、エア吸いをより一層確実に防止できる。
【0024】
請求項7の発明によれば、上記蓋部材の少なくとも一部は、下方に凹状をなしているので、クランク室から落下するオイルを上記凹状部分で受け止めてオイル回収孔から主オイル室により一層確実に回収できる。
【0025】
請求項8の発明によれば、オイル回収孔を、平面視でクランク軸のジャーナル部の下方に、つまりクランクウェブのない部位に位置させたので、オイル回収孔からオイルがこぼれた場合でも、クランクウェブによって巻き上げられ難い。
【0026】
請求項9の発明によれば、オイル供給ポンプ,オイル回収ポンプの吸込口を主オイル室,副オイル室の前後方向中心より後方に開口させたので、エア吸いを防止できる。すなわち、ウォータビークル等の場合、前上がりの姿勢で航走するため、オイルは後側に偏り易いが、上記構成としたので、航走中でもオイルを確実に吸い込むことができ、エア吸いを防止できる。
【0027】
請求項10の発明によれば、被潤滑部を潤滑したオイルの一部を副オイル室に流入させるようにしたので、オイル戻りの通路を簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1〜図7は本発明の第1実施形態に係る4サイクルエンジンの潤滑装置を説明するための図である。
【0029】
図において、1は水冷式4サイクル直列4気筒タイプのエンジンである。該エンジン1は、シリンダブロック2と、該シリンダブロック2のシリンダ部2aの上合面に結合されたシリンダヘッド3と、該シリンダヘッド3の上合面に装着されたヘッドカバー4とを有する。また、上記シリンダブロック2のシリンダ部2aの下部にはクランクケースの上半部を構成するアッパケース部2bが一体形成されており、該アッパーケース部2bの下合面にはクランクケースの下半部を構成するロアケース5が結合されている。さらに該ロアケース5の下合面にはオイルパン6が結合されている。
【0030】
上記シリンダブロック2に形成された4組のシリンダボア2c内に摺動自在に配置されたピストン7はコンロッド8を介してクランク軸9に連結されている。このクランク軸9は、各シリンダボア2c毎に形成された4組のクランクピン部9aと、該各クランクピン部9aの両側に位置するように形成されたたジャーナル部9bとを有する。上記クランピン部9aは上記ジャーナル部9bから径方向.に偏位するように配置され、両者はクランクアーム部9c,9cで一体的に連結されている。なおクランクアーム部9c,9cの反対側にはウェイト部9dが形成されている。上記クランクピン部9a,クランクアーム部9c,ウェイト部9dは、各シリンダボア2cの下方に該各シリンダボア毎に独立して形成されたクランク室a内に配置されている。また上記ジャーナル部9bは、上記アッパケース部2bの各シリンダボア境界部から下方に延びるように形成された上軸受壁部2dとロアケース5の底壁5gから上方に延びるように形成された下軸受壁部5aとで軸支されている。上記クランク室aは、上記アッパケース部2bの側壁2b′,ロアケース5の円弧状をなす底壁5gと、上記上軸受壁部2d,下軸受壁部5a等で囲まれた室であり、上記コンロッド8の大端部8a及びクランク軸9のウェイト部9dの回転軌跡より少し大きく形成されている。なお、上記各クランク室a同士は、上記上軸受壁部2dに形成された連通孔2d′により互いに連通している。
【0031】
ここで上記クランク室aの底部を構成する上記ロアケース5の底壁5gは、上記オイルパン6内のオイルがクランク軸9のウェイト部9d等で攪拌されるのを回避するバッフルプレートとして機能する。この底壁5gには、クランク室a内のオイルをオイルパン6側に落下させるオイル開口5h,5h′が形成されている。またクランク軸回転方向上流側に位置する開口5hの下流側縁部にはストッパ部5iが上方に突出するように形成されている。このストッパ部5iは、クランク軸9とともに矢印f方向に回転するオイルを開口5hに強制的に落下させるよう機能する。
【0032】
なお、上記クランク軸9のクランクピン部9a及びジャーナル部9bには、潤滑用のオイルが、後述するフィードポンプ(オイル供給ポンプ)15により、クランク軸9内に形成されたオイル孔9eを介して供給され、該供給されたオイルは上記クランク室a内に落下する。
【0033】
また上記クランク軸9の前端部にはカム軸駆動機構のクランクスプロケット9fが形成されている。図示していないが、上記クランクスプロケット9fはカムチェーンにより吸気カム軸,排気カム軸側のカムスプロケットに連結されている。上記カムチェーンは、該エンジンの前端部に形成されたチェーン室b内に配置されている。このチェーン室bは、上記シリンダブロック2の前部に形成されたチェーン孔2eと、上記ロアケース5の前端部に形成されたギヤ室5bで構成されており、該ギヤ室5bの底壁には開口5cが形成されている。このようにして上記チェーン室bは上記シリンダブロック3のカム軸配置室3aと上記オイルパン6内とを連通している。
【0034】
上記オイルパン6は、平面視で略長方形をなす皿状のものであり、これの上合面6aが上記ロアケース5の下合面5dに着脱可能にボルト締め固定されている。そして上記オイルパン6は、隔壁6bにより主オイル室10と副オイル室11とに区画されている。なお、上記ロアケース5の左,右側壁5iは、上記下合面5dから上方に延び、上記各クランク室aを左,右側方から囲むことによりクランク軸方向に延びるオイル溜まり部5f,5fを構成している。
【0035】
上記主オイル室10は、上記クランクピン部9a,ジャーナル部9bあるいは上記カム軸の軸受部等の被潤滑部を潤滑したオイルの大部分を回収するとともに、該回収したオイルを上記被潤滑部に供給するためのオイル室である。また上記副オイル室11は主オイル室10の3方、左,右側部及び後側部を囲むように配置されており、上記被潤滑部を潤滑したオイルの一部を回収するとともに、該回収したオイルを気液分離室12を介して上記主オイル室10に戻すためのオイル室である。換言すると、上記主オイル室10はオイルパン6の左右方向中央に位置し、上記副オイル室11は主オイル室10の左右側部に位置している。
【0036】
上記隔壁6bの右側前半部は副オイル室11側に拡がっており、また該隔壁6bの左側中央部には、オイル戻り部6eが副オイル室11側に突出するように形成されている。そして上記主オイル室10内には、吸込パイプ13が配置されている。この吸込みパイプ13の後端部13aに取り付けられたオイルストレーナ14は上記主オイル室10の前後方向後半部に開口して位置している。またこの吸込パイプ13の前端部13bは、上記隔壁6bの右側前半部に沿うように右側に屈曲され、該オイルパン6の前壁部に形成された外部接続口6cに連通接続されている。この外部接続口6cには、上記被潤滑部にオイルを供給するフィードポンプ(オイル供給ポンプ)15が接続されており、該フィードポンプ15は上述の各被潤滑部にオイルを供給する。
【0037】
また上記副オイル室11内には、上記主オイル室10の左,右側部に位置するように左,右吸引パイプ16a,16bが配置されており、該左,右吸引パイプの後端部に接続されたオイルストレーナ17は該副オイル室11の前後方向後端部に位置している。
【0038】
また上記左吸引パイプ16aは上記隔壁6bのオイル戻り部6eを前後に貫通している。さらにまた上記右吸引パイプ16bの前部16cは上記主オイル室10を横切って上記左吸引パイプ16aに合流している。この左吸引パイプ16aの前端部は、該オイルパン6の前壁部に形成された外部接続口6dに連通接続されている。この外部接続口6dには、該副オイル室11内のオイルを上記気液分離室12を介して上記主オイル室10に戻すためのスカベンジングポンプ(オイル回収ポンプ)18が接続されている。
【0039】
上記気液分離室12は、上記シリンダブロック2の側壁2b′の外側に形成されている。該気液分離室12は、これの底部に形成された戻り孔12a,ロアケース5に形成されたオイル孔5e及び左側の上記オイル溜まり部5fを上下に貫通するように形成されたオイル通路5f′を介して上記主オイル室10のオイル戻り部6eに連通している。なお、上記オイル通路5f′は上記オイル溜まり部5f内をクランク軸方向前,後の隔壁により通路状に画成したものであり、上記隔壁6bのオイル戻り部6eを介して上記主オイル室10に連通している。ここでクランク軸方9方向に見ると、該クランク軸9は、上記主オイル室10の上方で、かつ該主オイル10の室の左右方向端部、つまり隔壁6b,6bよりも内側に位置している。
【0040】
上記主オイル室10の開口には蓋部材19が配置され、ボルト19cで着脱可能に取り付けられている。この蓋部材19は、上記主オイル室10と副オイル室11との境界壁を構成する隔壁6bの上面視形状と同じ形状を有する。またこの蓋部材19には、横断面で見ると少し下方に湾曲し、クランク軸方向に延びる凹部19aが形成されており、該凹部19aの周囲には平坦縁部19dが形成されている。そしてこの凹部19aに、つまり主オイル室10の外周部から上記平坦縁部19cの分だけ内側に離間した部位に、オイル回収孔19bが複数個(この例では3個)ずつ複数組(この例では6組)形成されている。該6組のオイル回収孔19bのうち4組は上記ジャーナル部9bに重なるよう下方に配置され、残りは2組は上記ロアケース5の開口5cに重なるよう下方に配置されている。
【0041】
ここで本実施形態では、上記蓋部材19は、主オイル室10とは別部品で構成されているが、主オイル室10と一体的に形成しても良い。
【0042】
本実施形態エンジン1が停止している状態では、図4に示すように、エンジンオイルはクランク室aの底部からオイルパン6全域内に溜まっており、オイル面Lは、ピストン7が圧縮上死点にある場合にクランク軸9のウェイト部9dが少しオイルに浸漬する高さに設定されている。この場合、オイル面Lは主オイル室10の蓋部材19より高い位置にある。
【0043】
エンジン1を運転して直進航走している状態では、フィードポンプ15が主オイル室10内のオイルを吸い込んでクランク軸9やカム軸の軸受等の被潤滑部に給油するとともに、スカベンジングポンプ18が副オイル室11内のオイルを吸引して気液分離室12に送油する。そして上記クランク軸9の軸受等の被潤滑部を潤滑したオイルはクランク室aから主オイル室10に落下し(図5矢印d参照)、またカム軸の軸受等の被潤滑部を潤滑したオイルはチェーン室bから主オイル室10や副オイル室11に落下する。上記気液分離室12で空気が分離除去されたオイルは主オイル室10に戻る(図5矢印e参照)こととなり、その結果、図5に示すように、気液分離室12及び左のオイル溜まり部5fにかけてオイルが充満するとともに、クランク室a下方については、オイル面L′が主オイル室10の蓋部材19付近に位置する状態でバランスすることとなる。
【0044】
従って通常の直進航走状態では、クランク軸9の回転によってオイルが攪拌されることがなく、オイル攪拌による出力ロスが回避される。
【0045】
次に、左,右に旋回する場合について説明する。まず、左に旋回する場合、オイルは、遠心力により旋回の反対側である右側に偏位することとなり、図6に示すように、オイル面Lは、気筒軸線Cに対して相対的に図示右側が高くなるよう傾斜する。この実施形態では、オイル量が十分に確保されているため、吸込みパイプ13のオイルストレーナ14はオイル中に十分に浸漬しており、従ってエア吸いが生じることはない。また、オイル量が大幅に減少した場合でも、同図に破線でオイル面L′を示すように、吸込みパイプ13はオイル中に浸漬されており、エア吸いを回避できる。すなわち、本実施形態では、オイル室を、主オイル室10と副オイル室11とに区画し、該主オイル室10を蓋部材19で覆ったので、左旋回時には、オイル面L′は、オイル回収孔19bの右縁を通って上記オイル面Lと平行な状態となり、吸込みパイプ13がオイルの外側に露出しにくく、従ってエア吸いを回避できる。なお、右に旋回する場合は、オイル面Lは、図7に示すように、左側が高くなるよう傾斜することとなるが、図6の左に旋回する場合と同様にエア吸いが生じ難い。
【0046】
本実施形態では、オイル室を主オイル室10と副オイル室11とに区画し、主オイル室10をフィードポンプ15に連通させるとともに、上記副オイル室11をスカベンジングポンプ18に連通させ、オイルの回収は主として主オイル室10で行い、主オイル室10で回収できなかったオイル(例えば主オイル室からこぼれたオイル)を副オイル室11で回収し、主オイル室10に戻す構成としたので、主オイル室10のオイル油面を高く確保でき、旋回によりオイル油面が大きく傾斜してもエア吸いを起こし難くなる。
【0047】
またオイル量を増やす必要はないので、重量増加やオイルパンの大型化の問題も生じない。また左,右旋回時に主オイル室10からあふれた余剰オイルは副オイル室11に流入するため、オイル油面が主オイル室10上端より上になることはなく、従ってクランク軸がオイルを攪拌するのを防止できる。
【0048】
さらにまた、スカベンジングポンプ18は、副オイル室11内のオイルを回収するだけでよいので、スカベンジングポンプ18が大型になるといった問題も生じない。
【0049】
また主オイル室10をクランク軸9の真下に位置させる構成としたので、被潤滑部を潤滑したオイルの回収をより確実に行うことができる。
【0050】
さらにまた、上記主オイル室10を、上記オイルパン6の左右方向中央部に設け、該主オイル室10の左右方向両側に上記副オイル室11を設けたので、主オイル室10のオイルが左右どちらにこぼれても回収することができる。
【0051】
また、クランク室aに隣接するようカムチェーン室bを設け、該カムチェーン室bを主オイル室10に連通させたので、カムチェーン室bを流下するオイルについても直接主オイル室10に回収でき、オイル回収用通路を簡素化することができる。
【0052】
そして上記主オイル室10を、オイル回収孔19bを有する蓋部材19で覆ったので、主オイル室10内のオイルが跳ねる等して主オイル室10からこぼれるのを抑制でき、主オイル室10のオイル量を確保し易い。また転覆時にオイルがクランク室a内に逆流するのを抑制できる。
【0053】
また上記オイル回収孔19bは、上記蓋部材19の外周縁から上記平坦縁部19dの分だけ離間した位置に設けられているので、オイル油面L′が、オイル回収孔19bの旋回外側縁を通るフィードポンプ吸込み口(オイルストレーナ14)の接線と同じところまで傾くことができ、エア吸いをより一層確実に防止できる。
【0054】
上記蓋部材19に下方に凹状をなす凹部19aを形成し、該凹部19aにオイル回収孔19bを形成したので、クランク室aから落下するオイルを上記凹部19aで受け止めてオイル回収孔19bから主オイル室10により一層確実に回収できる。
【0055】
また上記オイル回収孔19bを、平面視でクランク軸9のジャーナル部9bの下方に、つまりクランクアーム部9cやウェイト部9でのない部位に位置させたので、主オイル室10内のオイルがオイル回収孔19bからこぼれた場合でも、クランク軸9のウェイト部9d等によって巻き上げられ難い。
【0056】
また、フィードポンプ15,スカベンジングポンプ18の吸込口(オイルストレーナ14,17)を主オイル室10,副オイル室11の前後方向中心より後方に開口させたので、エア吸いを防止できる。すなわち、ウォータビークル等の場合、前上がりの姿勢で航走するため、オイルは後側に偏り易いが、上記構成としたので、航走中でもオイルを確実に吸い込むことができ、エア吸いを防止できる。
【0057】
また、カム軸等の被潤滑部を潤滑したオイルの一部を副オイル室11に流入させるようにしたので、オイル戻りの通路を簡素化できる。
【0058】
図8〜図14は、本発明の第2実施形態を説明するための図であり、図中図1〜図7と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0059】
本第2実施形態では、主オイル室10内のオイルを外部に抜き取るためのオイル抜き溝Aが形成されている。このオイル抜き溝Aは、主オイル室10内のオイルをオイルレベルゲージの挿入孔の直下に導くためのものであり、主オイル室10内に連通し、かつ副オイル室11を囲む外側壁6a′によって閉塞されている。
【0060】
具体的には、主オイル室10を囲む隔壁6bの一部からなる溝壁6f,6gが外側壁6a′側に延び、該外側壁6a′に接続されている。該オイル抜き溝Aは副オイル室11を横切るように形成されており、外側壁6a′側寄り部分がオイル抜き部となっており、該オイル抜き部は、オイルレベルをチェックするためのオイルレベルゲージの挿入孔の略直下に位置している。
【0061】
オイルを抜く場合には、上記オイルレベルゲージの挿入孔から該オイルレベルゲージの代わりにオイル抜き用チューブBが挿入され、該チューブBを介してオイルポンプ等により上記主オイル室10内のオイルが抜き取られる。
【0062】
このように、主オイル室10内のオイルをオイルレベルゲージ挿入孔の略直下に導くオイル抜き溝Aを形成したので、オイルレベルゲージ挿入孔を利用して、オイル交換が可能であり、オイルパンの底部にオイル抜きプラグ等を設ける必要がない。
【0063】
また上記オイル抜き溝Aを構成する溝壁6f,6gには、切欠き6h,6hが上縁から下方に延びるよう形成されている。この切欠き6h,6hは、副オイル室11内のオイルが上記オイル抜き溝Aを跨いで往来できるようにし、上記オイル抜き溝Aによって、副オイル室11の一部がデッドスペースとなるのを回避できる。
【0064】
ここで上記切欠き6hを設けたことにより、上記主オイル室10内のオイルが副オイル室11側に洩れ出すおそれがある。しかし上記切欠き6hは、副オイル室11内のオイルがオイル抜き溝Aを跨いで往来できるのに必要な最小限の大きさに設定されている。従って、上記洩れ出すオイルは少量であり、上記切欠き6hを設けたことにより、必要なオイル量を増加することなく旋回時にもオイルポンプが空気を吸い込み難い、という本発明の効果が阻害されることはない。
【0065】
また、本第2実施形態では、蓋部材19のオイル回収孔19b′を、該蓋部材19の前部に、より具体的にはフィードポンプ15の吸込み口を構成するオイルストレーナ14より前方に偏在させている。
【0066】
本発明が対象とするウォータビークルは、航走時には前上がり姿勢となり、主オイル室内のオイルは上記オイルストレーナ14側に偏りがちとなり、該部分に上記オイル回収孔19b′が位置していると、上記偏ったオイルがオイル回収孔19b′から主オイル室10の外方に溢れ出るおそれがある。本実施形態では、オイル回収孔19b′を前側に偏在させたので、上記オイルの溢れ出を抑制できる。
【0067】
なお、上記第1,第2実施形態では、ウォータビークル用4サイクルエンジンの潤滑装置について説明したが、本発明は、ウォータビークル用以外の例えば自動車用あるいは自動二輪車用4サイクルエンジンも勿論適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1実施形態に係る潤滑装置を備えた4サイクルエンジンの断面側面図である。
【図2】上記潤滑装置のオイルパンの平面図である。
【図3】上記オイルパンの蓋部材を備え状態の平面図である。
【図4】上記潤滑装置のエンジン停止時の状態を示す断面背面図である。
【図5】上記潤滑装置のエンジン運転中の状態を示す断面背面図である。
【図6】上記潤滑装置の左旋回時の状態を示す断面背面図である。
【図7】上記潤滑装置の右旋回時の状態を示す断面背面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る潤滑装置のオイルパンの平面図である。
【図9】上記オイルパンの蓋部材を備えた状態の平面図である。
【図10】上記オイルパンの正面図である。
【図11】上記オイルパンの背面図である。
【図12】上記オイルパンのオイル抜き溝部分の拡大平面図である。
【図13】上記オイルパンのオイル抜き溝の切欠きを示す図12のXIII-XIII線断面図である。
【図14】上記オイルパンのオイル抜き溝部分の斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
9a,9b クランクピン部,ジャーナル部(被潤滑部)
6 オイルパン
a クランク室
1 4サイクルエンジン
10 主オイル室
11 副オイル室
15 フィードポンプ(オイル供給ポンプ)
18 スカベンジングポンプ(オイル回収ポンプ)
9 クランク軸
b カムチェーン室
19b オイル回収孔
19 蓋部材
19a 凹部
5g 底壁(バッフルプレート)
9b ジャーナル部
14 オイルストレーナ(フィードポンプの吸込口)
17 オイルトスレーナ(スカベンジングポンプの吸込口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被潤滑部を潤滑したオイルを回収するオイル室を有するオイルパンをクランク室下方に備えた4サイクルエンジンの潤滑装置であって、
上記オイルパンのオイル室を、上記クランク室に連通し、該クランク室から落下するオイルを回収する主オイル室と、該主オイル室に隣接する副オイル室とに区画し、
上記主オイル室を、上記被潤滑部にオイルを供給するオイル供給ポンプに連通させるとともに、上記副オイル室を、上記主オイル室にオイルを戻すオイル回収ポンプに連通させた
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
請求項1において、
クランク軸方向に見たとき、
該クランク軸は、上記主オイル室の上方かつ該主オイル室の左右方向端部よりも内側に位置している
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記主オイル室を、上記オイルパンの左右方向中央部に設け、該主オイル室の左右方向両側に上記副オイル室を設けた
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れかにおいて、
上記クランク室に隣接するようカムチェーン室を設け、該カムチェーン室を上記主オイル室に連通させた
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れかにおいて、
上記主オイル室を、オイル回収孔を有する蓋部材で覆った
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項6】
請求項5において、
上記オイル回収孔は、上記蓋部材の外周縁から離間した位置に設けられている
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、
上記蓋部材の少なくとも一部は、下方に凹状をなしている
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項8】
請求項5ないし7の何れかにおいて、
上記クランク室の下方にバッフルプレートが配置され、
上記オイル回収孔は、平面視でクランク軸のジャーナル部の下方に位置していることを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかにおいて、
上記オイル供給ポンプの吸込口,上記オイル回収ポンプの吸込口をそれぞれ上記主オイル室,副オイル室の前後方向中心より後方に開口させた
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。
【請求項10】
請求項1ないし9の何れかにおいて、
上記被潤滑部を潤滑したオイルの一部を副オイル室に流入させる
ことを特徴とする4サイクルエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−2455(P2008−2455A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36582(P2007−36582)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)
【Fターム(参考)】