説明

ADHDの治療

注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療方法を説明する。この治療方法は、患者に対し、気分安定化の準治療用量の抗てんかん・気分安定剤と、任意で精神刺激薬とを併用して投与することによって行う。また、学習障害のある患者の読解力および/または読みの流暢さを改善する方法を説明する。この方法は、患者に対し、抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注意欠陥多動性障害の患者に対する治療、たとえば、そうした患者における心理社会的機能および認知機能を改善するための、抗てんかん・気分安定剤(AEDMS)(任意で精神刺激薬との併用)による治療に関する。本発明は、自閉症スペクトラム障害など、DSM−IV−TRにおいて分類される他の障害の患者に対する治療にも関する。本発明はさらに、読字困難などの学習障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意、多動、衝動性などの症状によって識別される発達障害である(非特許文献1)。ADHDは、幼少期の精神的疾患として最もよく診断されるものの一つであるが、成人期まで症状が持続し得ることが長期研究により明らかになっている。ADHDの症状が持続し、成人期に治療を続ける小児や青少年の数は、36%〜65%におよぶ。経時的研究で得られたデータによると、多動や衝動性の症候群は時間の経過とともに減少するが、不注意の症状は継続する。また、不注意の症状が臨床的に顕著に見られたADHD成人は、約90%にまでなり得る。成人ADHDは、深刻な社会心理的障害および認知機能障害と関係する確固とした病型として現在認識されている(非特許文献2)。
【0003】
ADHDの小児および成人についての研究によると、これらの小児と成人との多くは、疾患についての診断基準(非特許文献3)に記載の行動上の症状を超えた一連の認知機能障害を経験している。認知処理および情報処理における高次の障害が報告されており、日常的な機能障害としては、集中力や自制力の維持、所定動作の確立や継続、およびタスクの完了が、常時困難であることが挙げられる。ADHD成人は、この障害のない成人よりも頻繁に仕事を変わり、速度違反切符を切られ、車両事故に遭っている。
【0004】
学習障害(LD)のある小児には、期待値を有意に超えて(典型的には、25%〜40%)ADHDが現れ得るという認識が定着している。また、ADHDおよびLDのいずれにおいても、根底をなす認知機能障害が生涯持続し得ることが明らかになりつつある。最近行われた研究により、成人集団におけるADHDとLDとの併存率が分析された。サムエルソン(Samuelsson)らは、音韻処理技術もしくは単語読解の測定において、ADHD成人とADHDのない成人との間に差異は見られないが、読解力の試験に関してはADHDのない成人よりもADHD成人が有意に悪いことを発見した(非特許文献4)。サムエルソンらは、ADHDで低下すると思われる高次の認識制御機能の多くには読解力が関係しているという見解と、この結果が一致したとしている。
【0005】
ADHD治療に用いられる主要な精神薬理剤は、中枢神経系(CNS)刺激薬(精神刺激薬)である。小児期に発症する精神疾患治療の文献のほとんどは、ADHD症状に対する刺激薬の短期効果についての研究に関するものであり、さまざまな年齢および診断群を通じ、刺激薬による治療が有効であったことを示している。2005年8月までオーストラリア国の医薬品給付制度(PBS)で入手可能であった刺激薬は、デキサンフェタミンだけであった。このことは、オーストラリア国におけるADHD治療薬として、デキサンフェタミンが主要な位置にあったことを説明している。PBSは現在、ADHD治療として米国で最も広く使用されているCNS刺激薬、メチルフェニデートを助成リストに加えている。
【0006】
小児および青少年のいずれにおいても、刺激薬により、ADHDの行動上の症状は十分に改善している。それにも拘わらず、機能障害は継続して患者に見られる。このことは、
成人において高次の実行機能と言われる領域で顕著に見られる。この機能は、認知機能を系統立てて整理し、統合する能力を含み、人間の社会的コミュニケーションの基礎をなす複雑な対人相互作用に用いられる。したがって、この領域の障害は、容易に特定または説明することはできなくとも、ほぼすべての人によってすぐに気付かれるものである。刺激薬による治療を用いることにより、動機付けやタスク完了に必要な行動力を抑えることができるが、繰り返し用いても複雑なタスクを簡単にすることはできないようである。結果として、必然的に疲労が生じるため、改善された作業効率とのバランスが取られず、結果的にタスクを止めてしまう。
【0007】
この状態は社会的相互作用においてもあてはまる。たとえば、刺激薬だけ用いた場合、会話中ある特定の話題に過集中する傾向が一貫して減少する訳ではなかったが、これは、患者には、通常の社会的相互作用で生じる複数の思考を同時に処理することができないためと思われる。代わりに、好ましい、より心地よい話題、可能であればより親しみのもてる話題が選択されるため、結果として自然な会話の流れに逆らうことになる。十分な動機付けが存在し、会話を始めても、依然として多大な努力を要し、相互作用のあいだ聞き手にはぎこちない印象を与えることが多い。また、努力を要したためやがて患者に必然的に疲労が生じてしまう。このため、時間的には遅れるが、精神的な疲労と同様の疲労を経験し、刺激薬使用開始前の注意力を持続することができない。つまり、情報処理能力が改善されない限り、刺激薬によって高められた動機付けは必然的に弱まることが観察された。このことは、ADHDと診断され刺激薬治療を受ける成人において臨床的に見られ、初期および間欠的には奇跡的な改善が見られても、多くの場合、無秩序な行動が増えたり、服薬不履行や最終的には治療中断に移行したりする。
【0008】
このため、ADHD患者に見られる根底をなす認知処理障害を低減するADHD治療の改善が必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Snyder,Nussbaum,&Robins(Eds.),2006,Clinical Neuropsychology:A Pocket Handbook for Assessment,APABooks,Washington D.C.
【非特許文献2】Weiss&Murray,2003,CMAJ.168(6):715−22
【非特許文献3】DSM−IV−TR;American Psychiatric Association,2000
【非特許文献4】J.Learn.Disabil.37(2):155−68
【発明を実施するための形態】
【0010】
気分安定剤であるバルプロ酸ナトリウム(VPA)は、抗てんかん剤として世界で最も広く処方されている。VPAの薬理作用は、γアミノ酪酸(GABA)性伝達、興奮性アミノ酸の放出低減および/または効果発現、電位依存性ナトリウムチャネルのブロック、並びにドーパミン作動性伝達およびセロトニン作動性伝達の調節など、さまざまな機構に関係している。てんかん治療における効果に加え、VPAは6つの対照臨床試験において急性躁病治療に効果があることが示されており、現在米国とオーストラリア国の両方で認可されている。
【0011】
発明者らは、(たとえば、双極性障害や躁鬱病の患者の)てんかん抑制や気分安定化に用いられる薬剤に比べ、かなり少用量の抗てんかん・気分安定剤をADHD患者に投与すると、認知機能および心理社会的機能において、予期しなかった数々の改善が見られるこ
とを見出した。患者の多くは思考がより統制可能になり、混乱が減ったと述べた。このことから、考えを一時的に系統化することがより可能になり、結果として心理社会的機能が全体的に改善されたと思われる。他の抗てんかん・気分安定剤を同様に少用量で投与した場合にも、これらの結果が繰り返し報告された。
【0012】
発明者らが得た結果によると、これらの抗てんかん剤は少用量の場合、抗てんかんまたは気分安定化の範囲内で得られるものとは根本的に異なる薬理学的特性を示した。理論に拘束されることを望むものではないが、少用量の場合、抗てんかん剤は大脳皮質のすべての神経細胞を過分極化するのではなく、それまでに興奮状態になっていた神経細胞の興奮を選択的に長引かせることによって作業記憶を向上させ、一方、不活性な神経細胞の静止電位に対しては反対に作用し、干渉や注意力散漫を低減すると考えられる。これは認識の調整、認識の協調、ペーシング(すなわち、一つの思考から次の思考へ不規則にとばないこと)、注意力の効果的なシフト(一つの思考から一瞬外れるが、関連する別のことを考えてから元の思考に戻るという認知機能。迷ったり脈略を失ったりせず、心の背後で思考を維持する能力を要する)ということができる。
【0013】
ADHD症状に自覚的な改善があったと報告した有意数の患者は、読解力と発声言語理解も改善したと述べている。これらの患者は、文字と会話のいずれにおいても、その内容に、より注意できるようになった。このことは、読みもしくは聞き取りに精神的努力のほとんどを投入しなければならず、しかもその場の内容をほとんど理解できなかった過去の挫折感を生じた経験とは全く対照的であった。不完全なサッカードが、読書障害のある患者の特徴であることを示す証拠は数々ある。発明者らは、眼球運動発達検査(DEM)を用いて眼球運動機能を評価することができた。その結果、書かれた文章を追うのに要する精神的努力が減少したという患者自身の主観的経験の改善と同程度の改善が見られた。数々の他の抗てんかん・気分安定剤を少用量で投与した場合にも、これらの結果が繰り返し示された。このことから、少用量の気分安定剤が、読解タスクや非読解タスクにおける注視およびサッカードに有益な効果を示すとの仮説を立てるに至った。患者の多くが証言した変化の程度は、刺激薬治療の初期における行動上の変化と同程度であった。
【0014】
加えて、自己申告された改善は、臨床的コンサルティング時の複雑な対人相互作用で顕著に見られる変化と密接に関係していると思われる。治療を行う精神科医と患者との間で交わされる発声による相互作用は、より自発的かつ流動的に思われた。また会話中、患者は高次の微妙な非発声言語的フィードバックを返すことができたと思われる。会話の過程で費やされる精神的努力が減少したため、患者はこうしたより適切な非発声言語動作に基づいて、内容をより理解することができたと思われる。また、患者は、読むのに必要な努力をより少なく感じたので、以前には非常に認知力を要したタスクを楽しむことができたとも報告している。以前には疲労を感じずに持続できるのは比較的短時間でしかなかったそれらのタスクが、療法との組み合わせにより、より簡単で一貫性があり、かつ機能的に使用し易い形で持続可能となった。
【0015】
以上のように、抗てんかん・気分安定剤を伴った刺激薬治療の増量に続く発明者らの臨床的観察により、刺激薬だけを用いた場合に見られた認知障害の後遺症が改善したことが示唆された。これは、処方された薬剤のすべてを服用する上での自立性、整理性、一貫性が改善されたものとして、頻繁に見られる重要な例である。こうした改善により、しばしば劇的な効果を有する服薬を一貫して覚えているのに要する努力が減少される。つまり、単純かつ繰り返しのタスクを行うのに継続的に精神的努力を配分するのではなく、あたかも最後にはこの作業が自動化されたようであった。薬局における補充率によって算定した服薬の履行率(compliance)は、持続放出性処方の刺激薬の場合でも、以前は9ヶ月後に30%未満であった。一方、刺激薬だけを用いた以前のものに比べ、発明者らが行った臨床サンプルでは、気分安定剤(少用量)と刺激薬とを併用することにより、患
者が処方された服薬すべてを順守するという大きな改善が見られた。
【0016】
なお、(少用量の)抗てんかん剤で試験した患者の90%以上に効果が見られた。効果として特に、以前の経験よりもわずかな努力で会話中の思考を整理できたという自覚的な改善が見られた。
【0017】
・会話の構造ではなく内容に対する注意。以前は何を言われたかにだけ精神的努力が払われ、会話の内容を解釈して適切に返答するための精神的努力はほとんど残っていなかった。
【0018】
・以前に用いられた会話への適応および社会的適応の多くが、多くの場合には非常に短期間、無視されるのが観察された。このような変化は、患者の週毎の予約と予約との間にはっきりと現れることが多かった。これは、患者が治療による影響、すなわち、服薬の開始に対する一時的な関与による影響を受けていたことを示唆している。この変化は明らかに努力を払う性質の物ではなく、また患者は、社会的機能の改善方法について、特定の指示を受けていなかった。これらの変化に鑑みると、刺激薬の安定後におけるそれらの変化に関連した持続性にも拘わらず、抗てんかん剤の増量後は、非常に短期間で改善したことは注目されるべきである。
【0019】
これらの肯定的な結果は、初期に堅調であっただけなく、時間の経過とともに引き続き向上した。このようなパターンは、ADHD成人に対する刺激薬だけによる治療とは、すなわち、早期の改善を維持するために患者、近親者、および治療者に多大な努力を要した発明者らの過去の臨床実験とは対照的である。また、最初の試験開始から18ヶ月にわたり、薬効の損失または薬剤への耐性がまったく見られなかった。さらに、この臨床集団では、刺激薬を抗てんかん剤と併用した場合、刺激薬だけの場合を有意に超え、長期間にわたり服用順守が見られた。
【0020】
発明者らの病院で行われた研究では、少用量の気分安定剤(刺激薬なし)による単剤療法も、ADHD症状の併用療法で見られた改善点の多くをもたらすことが分かった。
つまり本発明は、非常に少用量(すなわち、てんかんまたは気分障害で用いられる量未満)で用いた場合、抗てんかん剤は、単独でまたは刺激薬との併用により、ADHDの成人および小児の症状を改善するという知見に基づいている。
【0021】
したがって、本発明は第1の態様において、注意欠陥多動性障害(ADHD)があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者に対する、注意欠陥多動性障害の治療方法であって、患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法を提供する。
【0022】
また本発明は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者の認知機能と心理社会的機能とのうちの少なくとも一方を改善する方法であって、患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法も提供する。
【0023】
患者は、てんかんおよび双極性障害のいずれもないことが好ましい。
本発明は関連する態様において、注意欠陥多動性障害(ADHD)があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者に対する注意欠陥多動性障害の治療方法であって、患者に対して、(i)気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤と、(ii)精神刺激薬とを投与する工程を含む方法を提供する。
【0024】
また本発明は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者の認知機能と心理社会的機能とのうちの少なくとも一方を改善する方法であって、患者に対して、気分安定化についての
準治療用量の抗てんかん・気分安定剤と、精神刺激薬とを投与する工程を含む方法も提供する。
【0025】
患者は、てんかんおよび双極性障害のいずれもないことが好ましい。
本発明は関連する態様において、注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療方法であって、a)ADHDの治療を必要とする患者を識別する工程と、b)前記患者の認知機能と心理社会的機能とのうちの少なくとも一方を改善するために、治療有効量の抗てんかん・気分安定剤と、任意で精神刺激薬とを投与する工程とを含む方法を提供する。
【0026】
また本発明は、ADHDを治療し、認知機能と心理社会的機能とのうちの少なくとも一方を改善する上記のような方法において使用される抗てんかん・気分安定剤や、そのような方法で使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤の使用を提供する。
【0027】
さらに本発明は、上記のような、ADHDを治療し、認知機能と心理社会的機能とのうちの少なくとも一方を改善する上記のような方法で使用される抗てんかん・気分安定剤および精神刺激薬の組み合わせや、そのような方法で使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤と精神刺激薬との組み合わせの使用を提供する。
【0028】
本発明は第2の態様において、学習障害のある患者の読解力と読みの流暢さとのうちの少なくとも一方を改善する方法であって、患者に対して、抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法を提供する。
【0029】
本発明は関連する態様において、学習障害のある患者の読解力と読みの流暢さとのうちの少なくとも一方を改善する方法であって、患者に対して、抗てんかん・気分安定剤と精神刺激薬とを投与する工程を含む方法を提供する。
【0030】
また本発明は関連する態様において、学習障害を治療する方法であって、a)学習障害の治療を必要とする患者を識別する工程と、b)患者の読解力と読みの流暢さとのうちの少なくとも一方が改善するように、治療有効量の抗てんかん・気分安定剤と、任意で精神刺激薬とを投与する工程とを含む方法を提供する。
【0031】
また本発明は、上記のような読解力と読みの流暢さとのうちの少なくとも一方を改善する方法における抗てんかん・気分安定剤の使用や、そのような方法において使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤の使用を提供する。
【0032】
本発明は、上記のような読解力と読みの流暢さとのうちの少なくとも一方を改善する方法における抗てんかん・気分安定剤および精神刺激薬の組み合わせの使用や、そのような方法において使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤と精神刺激薬との組み合わせの使用に関する。
【0033】
本発明は第3の態様において、学習障害のある患者の眼球運動障害を治療する方法であって、患者に対して、抗てんかん・気分安定剤と任意で精神刺激薬とを投与する工程を含む方法を提供する。
【0034】
また本発明は、上記のような眼球運動障害の治療方法において使用される抗てんかん・気分安定剤(任意で精神刺激薬と併用される)や、そのような方法において使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤の使用(任意で精神刺激薬との組み合わせによる)を提供する。
【0035】
本発明は第4の態様において、患者の異常な衝動性眼球運動を治療する方法であって、
患者に対して、抗てんかん・気分安定剤と任意で精神刺激薬とを投与する工程を含む方法を提供する。
【0036】
また本発明は、上記のような異常な衝動性眼球運動の治療方法において使用される抗てんかん・気分安定剤(任意で精神刺激薬と併用される)や、そのような方法において使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤の使用(任意で精神刺激薬との組み合わせによる)を提供する。
【0037】
本発明は第5の態様において、学習障害などのある患者の小脳の関与する運動計画および系列化を改善する方法であって、患者に対して、抗てんかん・気分安定剤と、任意で精神刺激薬とを投与する工程を含む方法を提供する。
【0038】
また本発明は、学習障害などのある患者の小脳の関与する運動計画および系列化を改善する方法において使用される抗てんかん・気分安定剤(任意で精神刺激薬と併用される)や、そのような方法において使用される薬剤の製造における抗てんかん・気分安定剤の使用(任意で精神刺激薬との組み合わせによる)を提供する。
【0039】
上記の各種態様において、患者はてんかんおよび双極性障害のいずれもないことが好ましい。
上記の様々な態様の特に好ましい実施形態において、患者に対し投与される抗てんかん・気分安定剤の用量は、気分安定化の準治療用量である。
【0040】
発明者らは、少用量の抗てんかん・気分安定剤を用いて識別される認知上の効果を、ADHDの領域外まで拡張した。
効果的にコミュニケーションを行い、思考を系統化して整理する能力は、すべての人間にとって相互作用やコミュニケーションに重要である。これは、脳の認知機能の協調および統合を行うという高次の実行機能に依存すると考えられる。この機能に障害がある場合、通常の社会的機能を制御するうえで、挫折感や無力感を感じることがある。その結果、高次の実行機能の欠陥として概念化され、あらゆる精神状態において心理社会的な面で不良な結果を伴う。良好な対人関係を構築して維持する能力がなければ、悪い出来事から生じる不良な結果に対して、より傷付き易くなる。
【0041】
発明者らはADHD患者の治療に成功した後、少用量の抗てんかん剤の使用により得られたADHD治療の利点が、他の状態、すなわち思考を系統立てて整理する能力に欠陥があり、心理社会的機能の障害を生じ得る状態でも得られるという仮説を立てた。この場合、注意力の集中が制御できないために不安を感じることによって、侵害刺激に対して病的に注意を集中させてしまうことがある。
【0042】
他の状態において、特にこのような障害が通常不安を伴うものであった場合には、少用量の抗てんかん剤を用いることにより、機能が継続的改善して症状が軽減したことを、発明者らはのちに臨床的に特記している。詳細には、全般性不安障害の治療において、他の刺激薬との併用はせず、バルプロ酸ナトリウムを50mg〜150mg用いた場合を特記した。
【0043】
このように、ADHD患者の治療で得られた改善により、DSM−IV−TR分類に含まれる他の障害に見られる認知障害も対処される。他の障害とは、特にコミュニケーション障害(たとえば、表出性言語障害、受容−表出混合性言語障害、音韻障害、吃音症、特定不能(NOS)のコミュニケーション障害);広汎性発達障害(自閉性障害やアスペルガー障害などの自閉症スペクトラム障害;レット障害、小児期崩壊性障害や特定不能の広汎性発達障害);および不安障害(たとえば、全般性不安障害)である。
【0044】
したがって、本発明は第6の態様において、コミュニケーション障害、広汎性発達障害、および不安障害のうちから選択される障害があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者を治療する方法であって、気分安定化についての準治療用量のてんかん気分安定剤を患者に投与する工程を含む方法を提供する。
【0045】
患者は、てんかんおよび双極性障害のいずれもないことが好ましい。
本発明は第7の態様において、(i)薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤を伴う、抗てんかん・気分安定剤と、(ii)薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤を伴う、精神刺激薬を含有する第2医薬組成物とを含む第1医薬組成物を備える医薬品キットを提供する。第1医薬組成物は、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を含有する服用単位として設けられることが好ましい。本発明の第1の態様および第2の態様の方法の1つ以上において、キットは、第1の医薬組成物と第2の医薬組成物との併用についての指示書を含んでもよい。これらの医薬組成物は、経口投与用(たとえば、錠剤、カプセル、シロップ、エリキシル剤など)、またはパッチの剤形であることが好ましい。
【0046】
本発明は関連する態様において、薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤とともに、抗てんかん・気分安定剤と精神刺激薬とを含む医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、気分安定化の準治療用量である1日あたり(またはほぼ1日あたり)の用量の抗てんかん・気分安定剤と、1日あたり(またはほぼ1日あたり)の用量の神経刺激薬とを含有する服用単位として設けられることが好ましい。この医薬組成物は、経口投与用(たとえば、錠剤、カプセル、シロップ、エリキシル剤など)の剤形であることが好ましい。一実施形態において、気分安定剤は、バルプロ酸ナトリウムもしくはその誘導体、トピラマート、カルバマゼピン、プレガバリン、またはフェニトインのうちから選択され、気分安定剤の1日あたりの用量は、これらの化合物について以下の詳細な説明に明記するとおりである。関連する実施形態において、精神刺激薬は、メチルフェニデート、アンフェタミン(たとえば、デキストロアンフェタミン、アンフェタミン塩混合物)、ペモリンのうちから選択され、精神刺激薬の1日あたりの用量は、これらの化合物について以下の詳細な説明に明記するとおりである。
【0047】
本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、特に定義しない限り、当業者が(たとえば、精神科を含む薬学および医薬分野において)通常理解している意味と同意である。
【0048】
本明細書において、数値は特に記載しないかぎり、「およそ(約)」の値を意味する。「約」という語は、値を決定するのに用いた装置および方法において変動し得る固有誤差、または被験者どうしの間に見られる変化量を値に含むことを意味する。
【0049】
本発明は第1の態様において、注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者の治療方法に関する。ADHDは、不注意、多動、衝動性などの症状によって識別される発達障害である。ADHDは幼少期の精神的疾患として最もよく診断される障害の一つであるが、成人期まで症状が持続し得ることが、長期研究により明らかになっている。ADHDの診断基準は、DSM−IV−TRと呼ばれる「精神疾患の分類と診断の手引(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第4版」(非特許文献3)に記載されている。また、上記の非特許文献1(特にBox2)、および上記の非特許文献2も参照されたい。
【0050】
ADHDのある患者には、てんかんまたは双極性障害などの他の障害のある場合がある。実施形態において、治療を望む患者は、てんかんおよび双極性障害のいずれもないこと
が好ましい(特に後者はDSM−IV−TRに定義されている)。また、精神障害のないことが好ましい。
【0051】
このような患者に対して行う本発明の方法を用いた治療は、特に認知機能および/または心理社会的機能を改善することを目的としている。「認知機能および/または心理社会的機能」という語は、実行機能、情報処理、発声言語理解、発声の表現および発話の流暢さ、読解力および読みの流暢さ、衝動性眼球運動(サッカード)、発声言語的相互作用に対する非発声言語的フィードバック/動作、対人相互作用などを含む。
【0052】
本発明は第2の態様において、ADHDの有無に拘わらず、読字困難や読書障害、および言語障害などの学習障害のある患者の治療方法に関する。
本発明は関連する態様において、ADHDの有無に拘わらず、読字困難や読書障害、および言語障害などの学習障害のある患者のうち、眼球運動障害のある患者の治療方法に関する。眼球運動障害とは、眼球の速い衝動性運動の抑制に欠陥があるなど、不良かつ異常な衝動性運動を含む。衝動性運動とは、ある単語から次の単語を眼が追うときの眼の素早い運動である。ものを読むとき、ほとんどの場合前方への衝動性運動を行う。後方への衝動性運動は、理解を深めるためにある部分に戻ってもう一度読むときに行われる。読解力の欠如など読字困難な患者は、健常者よりも後方への衝動性運動を行うことが多い。
【0053】
発明者らは、刺激薬だけを用いた場合および用いなかった場合と比較して、少用量の抗てんかん・気分安定剤を用いることにより、眼の運動が改善することを発見した(眼球運動発達検査による)。抗てんかん剤が高用量の場合この効果は得られず、ベースラインに対して測定結果に遅れが見られる。したがって、ある患者においては少用量の抗てんかん剤で視覚面および発声言語面の自動能が改善し、読字能力が改善すると仮説を立てた。また、これは、障害のある衝動性運動の改善によると示唆した。
【0054】
このため、本発明は他の態様において、ADHDの有無に拘わらず、読字困難や読書障害、および言語障害のある患者などの異常な衝動性眼球運動の治療方法に関する。このような患者は、眼球の速い衝動性運動、特に注視および後方への衝動性眼球運動の抑制に困難を覚える場合がある。したがって、「異常な衝動性眼球運動」という語は、頻繁に見られる後方への衝動性運動を含む。この語は、衝動性運動における遅延時間の増加も含む。本発明の方法は、患者の抗衝動性運動(たとえば、正確さおよび/または応答時間)を改善するものであってもよい。
【0055】
発明者らが得た結果によると、抗てんかん・気分安定剤は小脳機能、特に、学習障害のある患者には正常に機能しないことが多い、運動計画および系列化に関して有益な効果を有する。小脳は運動のタイミング、および作業の自動化に関わると考えられている。これらの機能の障害は、学習障害のある患者に特に顕著に見られるが、従来の意味では学習障害と見なされなかった患者も、本明細書に記載の治療によって技能の習得および協調(特に、左右脳半球の協調)が改善するという効果を得られる。したがって、本発明は上記各種態様に記載の抗てんかん・気分安定剤と、任意で精神刺激薬との投与により技能の習得および協調(たとえば、左右脳半球の協調)を改善する方法を提供する。このような患者は学習障害のある患者を含むが、これに限定されない。
【0056】
学習障害のある患者とは、失読症および非発声言語的学習障害(たとえば、音韻障害)のある患者を含む。学習障害とは読み、書き、および文字を綴る上での困難を含む。
また、ADHD患者の治療で得られた改善点により、DSM−IV−TR分類に含まれる他の障害に見られる認知障害も対処される。他の障害とは、特にコミュニケーション障害(たとえば、表出性言語障害、受容−表出混合性言語障害、音韻障害、吃音症、特定不能のコミュニケーション障害);広汎性発達障害(自閉性障害やアスペルガー障害などの
自閉症スペクトラム障害;レット障害、小児期崩壊性障害や特定不能の広汎性発達障害);および不安障害(たとえば、全般性不安障害)である。
【0057】
したがって、本発明は、コミュニケーション障害、広汎性発達障害、および不安障害のうちから選択される障害があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者を治療する方法であって、患者に対して、気分安定化の準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法を提供する。特に本発明の方法は、これらの障害の少なくとも一つ以上のある患者の認知機能および/または心理社会的機能を改善するのに用いられてもよい。
【0058】
本発明の方法は、小児を治療するのに用いられてもよく、成人を治療するのに用いられてもよい。患者はたとえば思春期前であっても、16歳以上であっても、18歳以上であってもよい。
【0059】
本発明の方法は、患者に抗てんかん・気分安定剤(抗けいれん剤ともいう)を投与する工程を含む。二つ以上の気分安定剤を組み合わせたものを投与してもよい。
多数の抗てんかん・気分安定剤(抗けいれん剤)が本技術分野において周知であり、たとえば、バルビツール酸系(たとえば、プリミドン、フェノバルビタール、バルベキサクロン)、ベンゾジアゼピン系(たとえば、ジアゼパム、クロラゼパート、クロナゼパム、クロバザム)、カルボキサミド系(たとえば、カルバマゼピン((Z)−5H−ジベンゾ[b,f]アゼピン−5−カルボキサミド)、オキシカルバゼピン(10,11−ジヒドロ−10−オキソ−5H−ジベンズ[b,f]アゼピン−5−カルボキサミド)、バルプロミド)、脂肪酸(たとえば、チアガビン((3S)−1−[4,4−ビス(3−メチルチオフェン−2−イル)ブト−3−エニル]ピペリジン−3−カルボン酸)、バルプロエート(バルプロ酸、バルプロ酸ナトリウム、ジバルプロエクスナトリウム)、ヒダントイン(たとえば、エトトイン(3−エチル−5−フェニル−イミダゾリジン−2,4−ジオン)、フェニトイン(5,5−ジフェニルイミダゾリジン−2,4−ジオン)、フォスフェニトインナトリウム、メフェニトイン)、オキサゾリジンジオン(たとえば、トリメタジオン、パラメタジオン、エタジオン)、スクシンイミド系(たとえば、エトサクシミド、フェンサクシミド)、ピロリジン系(たとえば、レベチラセタム)、スルホンアミド系(たとえば、アセタゾールアミド、メタゾールアミド、ゾニサミド、スルチアム)、アミノ酪酸系、スルファマート置換単糖(たとえば、トピラマート(2,3:4,5−ビス−O−(1−メチルエチリデン)−ベータ−D−フルクトピラノーススルファマート))、gaba類似体(たとえば、ガバペンチン(2−[1−(アミノメチル)シクロヘキシル]酢酸)、プレガバリン((S)−3−(アミノメチル)−5−メチルヘキサン酸))、トリジン(たとえば、ラモトリジン)、フェルバメート、ロシガモン、フェネツリド、ルフィナミド、ビガバトリンなどが挙げられる。特に、バルプロ酸ナトリウム(ジ−n−プロピル酢酸ナトリウム)およびその誘導体(バルプロ酸、バルプロエートピボキシル、バルプロ酸セミナトリウム、ジバルプロエクス、バルプロイルアミド(たとえば、バルプロミド、デパケン、デパコート、デパコートER))、チアガビン、エトスクシミド、ゾニサミド、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、ラモトリジン、チアガビン、ガバペンチン、プレガバリン、フェニトイン、プリミドン、フェノバルビトン、フェノバルビタール(phenobarital)、トピラマート、ジアゼパムおよび関連する化合物、並びにレベチラセタムが挙げられる。特に好ましいものとして、バルプロ酸ナトリウムおよびその誘導体、チアガビン、トピラマート、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、エトトイン、フェニトイン、ガバペンチン、および/またはプレガバリンが挙げられる。上記の各種化合物が、その薬学的に許容される塩を適宜含むことが当業者には理解される。加えて、上記の化合物の多くは、様々な剤形(たとえば、遅放性、徐放性)により利用可能である。こうした剤形のすべてが、本発明の方法における使用に関する発明の範囲に包含される。
【0060】
一実施形態において、気分安定剤はγ−アミノ酪酸(GABA)エンハンサ、すなわちGABA活性化剤である。
気分安定剤の投与量は、気分安定化、並びに発作および/または躁病の抑制における準治療(sub−therapeutic)用量である。これは、気分を安定させ、発作および/または躁病を抑制するために、てんかん患者および双極性障害のある患者に適宜投与する用量域未満の投与量であることを意味する。上記のように、準治療用量を用いることは、本明細書に記載の治療に利点となる。比較として、バルプロ酸ナトリウムの場合、エピリム(Sanofi−Aventis社製)の製品情報には、成人の躁病(たとえば、双極性障害)の治療においては、通常、1日あたり1000mg〜2000mgの範囲内(すなわち、約20mg/kg/日〜30mg/kg/日)で症状が抑制されるとある。カルバマゼピンの場合、てんかん発作治療の用量は、通常1日あたり400mg〜800mgの範囲内である。トピラマートの場合、てんかん発作抑制の目安用量は1日あたり100mg〜500mgである。
【0061】
一方、バルプロ酸ナトリウム(およびその誘導体)に関して、気分安定化の準治療用量は1日あたり400mg(または4mg/kg)未満であり、好ましくは1日300mg未満である。最小用量は、通常25mg/日以上であり、たとえば50mg/日以上もしくは100mg/日以上(すなわち、0.3、0.5、1mg/kg/日以上)である。最小および最大の用量が適用可能であるため、患者の体重とは関係ない形式と患者の体重に基づいた形式との両方で用量を表す。通常、小児には一般にmg/kg/日が適用されるが、成人には総mg/日がより適している場合がある。バルプロ酸ナトリウムとその誘導体のこれらの用量は、その上限は、てんかんや双極性障害の治療における通常用量域の下限の50%未満であり、その下限は、てんかんや双極性障害の治療における通常用量域の約5%〜10%である。他の気分安定剤について準治療用量となる相対的用量を計算するとき、これらの用量を手引きとすることができる。
【0062】
たとえばガルバマパゼピンの場合、準治療用量は25〜200mg/日の範囲内、たとえば50、75、100mg/日より多く、250、200、150mg/日未満であることが好ましい。トピラマートの場合、準治療用量は、6.25〜75mg/日の範囲内、たとえば10、15、20、30、40mg/日以上であり、80、75、60/日未満であることが好ましい。フェニトインの場合、準治療用量は、20〜80mg/日の範囲内、たとえば30mg/日または40mg/日より多く、70mg/日未満または60mg/日未満であることが好ましい。プレガバリンの場合、準治療用量は、30〜80mg/日の範囲内、たとえば30mg/日または40mg/日より多く、80mg/日未満または70mg/日未満であることが好ましい。
【0063】
準治療用量は、気分を安定させ、発作および/または躁病を抑制するために、てんかん患者および双極性障害のある患者に適宜投与する最小用量の50%未満、たとえば40%未満または30%未満であることが好ましい。たとえば、被験者において試験した特定の化合物については、気分を安定させ、発作および/または躁病を抑制するために、てんかん患者および双極性障害のある患者に適宜投与する標準的な最小用量の10%の用量で良好に作用することが分かった。通常、準治療用量は、気分を安定させ、発作および/または躁病を抑制するために、てんかん患者および双極性障害のある患者に適宜投与する最小用量の2.5%以上、5%以上、または10%以上である。
【0064】
以下は、抗けいれん剤の通常の最小用量を記載したAEDのリストである。このリストにより、少用量としてのAEDの初期用量が算定可能となる。本発明において気分安定化の準治療用量とは、各薬剤に対して以下にリストされる最小用量の50%未満、たとえば40%未満または30%未満であることが好ましい。たとえばエトトイン(Ethoti
n)の場合、準治療用量は、500mg/日未満、たとえば400mg/日未満または300mg/日未満である。本発明において、最小投与量は、以下にリストされる気分安定化の最小治療用量の2.5%以上、5%以上、または10%以上であることが好ましい。たとえばエトトインの場合、25mg/日以上、50mg/日以上、または100mg/日以上である。
【0065】
【表1】

気分安定剤や抗けいれん剤の投与量は、治療期間の全体にわたり、もしくは治療期間の少なくともほぼ全体にわたり、準治療用量であることが好ましい。言い換えれば、気分安定剤の投与量は、治療中、上記の最大の準治療用量を超えないことが好ましい。
【0066】
ある実施形態において、患者は、気分安定化の準治療用量の気分安定剤と精神刺激薬(CNS刺激薬ともいう)との併用療法を受ける。
本技術分野において、多数の神経刺激薬が知られている。ADHD治療での使用が既に認可されている精神刺激薬としては、メチルフェニデート、典型的にはその塩酸塩(たとえば、Ritalin(商標)、Ritaline LA(商標)、Focalin(商標)、Concerta(商標)、メチリン(Methylin)、Attenta(商標)、Lorentin(商標)、Daytrana(商標)、Tranquilyn(商標)、Equasym(商標)、Riphenidate(商標)、Rubifen(商標)、Metadate CD(商標))、アンフェタミン(たとえば、硫酸デキストロアンフェタミン(Dexamin(商標)、Dextrosat(商標)、Dexadrine(商標))/デキサンフェタミンまたはアンフェタミン塩混合物(Adderall XR(商標))、およびペモリン(Cylert(商標))が挙げられる。これらの薬剤の標準用量は、Wilens,Dodson,2004,Clin.Psychiatry 65:1301−1313に記載されている(メチルフェニデート−未成年者は0.6〜1.0mg/kg/日、成人は20〜100mg/日;アンフェタミン−未成年者は0.3〜1.5mg/kg/日、成人は10〜70mg/日;ペモリン−未成年者は1.0〜3.0mg/kg/日、成人は75〜150mg/日)。二つ以上の精神刺激薬を組み合わせたものを用いてもよい。本明細書に記載のすべての精神刺激薬は、その薬学的に許容される塩を適宜含み、遅放、徐放が行われる剤形を含む。
【0067】
他の例としては、覚醒促進剤(eugeroics)(たとえば、アドラフィニル、アルモダフィニル、カルフェドン、モダフィニル);フェネチルアミン(たとえば、4−フルオロアンフェタミン、4−フルオロメタンフェタミン、4−メチルメトカチノン、4−MTA、α−PPP、アンフェクロラール、アンフェタミン(デキストロアンフェタミン、アデラール)、アンフェタミニル、ベンズフェタミン、ブプロピオン、カチノン、クロルフェンテルミン、クロベンゾレックス、クロタミン、シペナミン、ジエチルプロピオン、ジメトキシアンフェタミン、ジメチルアンフェタミン、ジメチルカチノン、ジフェニルプロリノール、エフェドリン、エピネフリン、エトカチノン、エチルアンフェタミン、フェンカムファミン、フェネチリン、フェンフルラミン、フェンプロポレックス、フェプロシドニン、フルフェノレックス、レボメタンフェタミン、リスデキサンフェタミン(Vyvance(商標))(L−リシン−d−アンフェタミン)、MDMA、メフェノレックス、メタンフェタミン、メトカチノン、メトキシフェドリン、メチロン、オクトパミン、パラヒドロキシアンフェタミン、PMA、PMEA、PMMA、PPAP、フェンジメトラジン、フェンメトラジン、フェンタミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、プロリンタン、プロピルアンフェタミン、プソイドエフェドリン、セレジリン、シネフリン、テナンフェタミン、キシロプロパミン)、ピペラジン系(たとえば、BZP、MeOPP、MBZP、mCPP、2C−B−BZP)、キサンチン系(たとえば、カフェイン、アミノフィリン、パラキサンチン、テオブロミン、テオフィリン)、トロパン系(たとえば、ブラソフェンシン、CFT、コカエチレン、コカイン、ジメトカイン、イオメトパン(Lometopane)、PIT、PTT、RTI−121、テソフェンシン、トロパリル、WF−23、WF−33)、コリン活性化剤(たとえば、アレコリン、コチニン、ニコチン)、けいれん薬(たとえば、ビククリン、ガバジン、ペンテトラゾール、ピクロトキシン、ストリキニーネ、ツヨン)、フェニルアミノオキサゾール(たとえば、4−メチル−アミノレックス、アミノレックス、クロミノレックス、フェノゾロン、フルミノレックス、ペモリン、トザリノン)、その他(アミネプチン、ベメグリド、BPAP、クレンブテロール、クロフェンシクラン、シクロペンタミン、シプロデナート、デソキシピプラドロール、エチルフェニデート、エタミバン、ギルテンシン、GYKI−52895、ヘキサシクロナート、インダノレックス、インダトラリン、イソメテプテン、マジンドール、MDPV、メソカルブ、メチルフェニデート、デキサルメチルフェニデート、
ナプシルイソプロピルアミン、ニケタミド、ノカイン、ノミフェンシン、ファセトペラン、フタルイミドプロピオフェノン、ピプラドロール、プロリンタン、プロピルヘセドリン、ピロバレロン、ツアミン、バノキセリン、ヨヒンビン、ジロフラミン、デアノール、ジエチルアミノエタノール、ジメフリン塩酸塩、エチルアンフェタミン塩酸塩、フェンカムファミン塩酸塩、フェネチリン塩酸塩、フェンフルラミン塩酸塩、フェンプロポレックス塩酸塩、ロベリン塩酸塩、ペンテトラゾール、プロピルヘキセドリン)がある。
【0068】
気分安定剤と精神刺激薬の特に好ましい組み合わせは、(i)バルプロ酸ナトリウムおよびその誘導体、トピラマート、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、フェニトイン、ガバペンチン、およびプレガバリンのうちの少なくとも一つと、(ii)メチルフェニデート(Ritalin(商標)、Ritaline LA(商標)、Focalin(商標)、Concerta(商標)、Metadate CD(商標))、アンフェタミン(たとえば、デキストロアンフェタミン(Dexadrine(商標))、リスデキサンフェタミン(Vyvance(商標)(L−リシン−d−アンフェタミン)またはアンフェタミン塩混合物(Adderall XR(商標))、およびペモリン(Cylert(商標))のうちの少なくとも一つとである。たとえば、バルプロ酸ナトリウム(またはその誘導体)とメチルフェニデート、バルプロ酸ナトリウム(またはその誘導体)と硫酸デキストロアンフェタミン、トピラマートとメチルフェニデート、トピラマートと硫酸デキストロアンフェタミン、フェニトインとメチルフェニデート、フェニトインと硫酸デキストロアンフェタミンである。
【0069】
代替となる実施形態において、患者は、気分安定化の準治療用量の気分安定剤と、ADHD用の非刺激薬との併用療法を受ける。好ましい実施形態において、非刺激薬は、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)および/またはドーパミン再取り込み阻害剤、好ましくはアトモキセチン((3R)−N−メチル−3−(2−メチルフェノキシ)−3−フェニル−プロパン−1−アミン、通常、塩酸塩として投与される)、ブプロリオン((±)−2−(tert−ブチルアミノ)−1−(3−クロロフェニル)プロパン−1−オン)、ベンラファキシン(1−[2−ジメチルアミノ−1−(4−メトキシフェニル)−エチル]シクロヘキサン−1−オール)、またはデスベンラファキシン(Devenlafaxin)である。他の例としては、シブトラミン、ネファゾドン、ミルナシプラン、デシプラミン、デュロキセチン、およびビシファジンが挙げられる。誤解を避けるために、非刺激薬は、抗てんかん剤と精神刺激薬との併用療法について記載したすべての実施形態に適用されてもよい。非刺激薬とは、上記の精神刺激薬の代わりに、もしくは上記の精神刺激薬に加えて、投与もしくは適所に使用されるものである。
【0070】
気分安定剤と、精神刺激薬または非刺激薬とは、別々に、順次、または併用して適宜投与してもよい。
通常、個々の医薬組成物または組み合わせた医薬組成物を形成するために、気分安定剤と、必要な場合精神刺激薬または非刺激薬とは、薬学的に許容されるキャリアまたは希釈剤を用いて処方される。適切な薬学的に許容されるキャリアについては、「Remington‘s Pharmaceutical Sciences」(E.W.Martin,Mack Publishing Co.,Easton、PA、1990年)に記載されている。
【0071】
薬の剤形としては、経口投与(たとえば、錠剤、カプセル、シロップ、エリキシル剤)、パッチ、滅菌溶液、吸入投与もしくは経鼻投与用の粉末、注入投与用の懸濁液、および本技術分野で周知の他の化合物が挙げられる。化合物は遅放、徐放が行えるような剤形であってもよい。
【0072】
適切な投与経路は、使用される活性化合物と投与剤形によって異なり、局所性投与、経
腸投与、および非経口投与(たとえば、経口経鼻投与、静脈投与、筋肉投与、皮下投与、経皮投与)などがある。
【0073】
気分安定剤および精神刺激薬の適切な用量、投与経路(たとえば、経口投与)、および投与頻度(たとえば、1日に1回、2回、3回、または4回)は、患者の年齢、症状の程度、体重、食事、および投与時間などに基づき上記の用量を手引きとして考慮のうえ、当業者が決定してもよい。気分安定剤がバルプロ酸ナトリウムである場合、通常の用量は25mg/日〜400mg/日(0.3mg/kg/日〜4mg/kg/日)であり、好ましくは300mg/日未満または200mg/日未満(すなわち、4mg/kg/日、3mg/kg/日、または2mg/kg/日未満)である。バルプロ酸ナトリウムの最小用量は(特に成人の場合)、通常25mg/日以上または50mg/日以上、たとえば100mg/日以上(すなわち、0.3、0.5、1mg/kg/日以上)である。これらの用量域は、他の気分安定剤の用量域を決定するとき、当業者によって手引きとされてもよい。たとえば、カルバマゼピン、プレガバリン、フェニトイン、トピラマートについては、上記を参照されたい。
【0074】
精神刺激薬の用量域は、通常5〜150mg/日、たとえば10〜120mg/日である。特定の精神刺激薬についての手引きは、上記のとおりである。
治療期間は、通例患者によって異なる。一般的には6ヶ月以上(たとえば12ヶ月以上)の期間である。少用量の抗てんかん剤と刺激薬の併用開始から18ヶ月、またはその併用での最初の試験の時点で、大部分の被験者において、少用量の抗てんかん剤を治療に加えた後に持続性の有意な効果が見られた。少用量のAEDで得られる薬効について、明らかな損失はなかった。実際は反対に、臨床的利益を損なわず、用量が減少することが多い。したがって、この本発明の方法では、治療の進行につれて、抗てんかん剤の用量の低減(たとえば、2ヶ月〜6ヶ月後に10%〜20%、30%もしくは40%の低減)が伴う場合もある。
【0075】
気分安定剤(必要な場合には精神刺激薬も)の投与量は、意図した目的を達成するための治療効果が得られるように選択される。本発明においては、第1の態様の目的は、ADHDを治療すること、たとえば患者の認知機能および/もしくは心理社会的機能を改善すること、並びに/またはADHDの行動上の症状を軽減することである。特定の機能としては、実行機能、情報処理、発声言語理解、読解力、衝動性眼球運動、並びに発声言語的相互作用に対する非発声言語的なフィードバック/動作、および対人相互作用が含まれる。
【0076】
このような改善が見られるかどうかを決定するために、実施例に記載のとおり、認知機能、および/または心理社会機能、および/またはADHDの行動上の症状を評価してもよい。この評価として、情報処理速度、集中力の有効性、タスクからタスクへの注意の切り替え、注意を持続させ衝動性反応を抑制する能力、作業記憶容量(たとえば、WebOSPANを用いる)、応答阻害、視覚的走査、読解力(たとえば、Nelson−Denny Reading Test:Brown,Fishco&Hanna,1993年,Itasca,Riverside Publishing(イリノイ州)の全体もしくは一部を用いる)、動眼機能や衝動性眼球運動の臨床的評価(たとえば、眼球運動発達検査(DEM)第1版、Richman&Garzia,1987年;ReadAlyzer(商標)Eye Movement Recording system.Compevo AB、および/または強膜サーチコイル法:Irvingら,2003年,Invest Ophthalmol Vis Sci.44(5):1933−8および同書に記載の参照文献を用いる)、擬似単語の読解(たとえば、Wechsler Individual Achievement Test−IIを用いる)を測定する。上記の試験の多くは、WebNeuro(Brain Resource Company−
brainresource.com)を用いて行うことができる。
【0077】
第2の態様の目的は、学習障害のある患者の読解力を改善することである。読解力の改善は、たとえばNelson−Denny Reading Testの全体もしくは一部を用いて評価してもよい。
【0078】
第3の態様の目的は、学習障害のある患者の眼球運動障害を治療もしくは低減することである。眼球運動の改善は、たとえば、眼球運動発達検査(DEM)第1版、Richman&Garzia,1987年;ReadAlyzer(商標)Eye Movement Recording system.Compevo AB、および/または強膜サーチコイル法(Irvingら,2003年,Invest Ophthalmol Vis Sci.44(5):1933−8および同書に記載の参照文献)を用いて評価してもよい。
【0079】
第4の態様の目的は、学習障害のある患者の異常な衝動性眼球運動を治療もしくは低減することである。衝動性眼球運動は、たとえば、眼球運動発達検査(DEM)第1版、Richman&Garzia、1987年;ReadAlyzer(商標)Eye Movement Recording system.Compevo AB、および/または強膜サーチコイル法(Irvingら,2003年,Invest Ophthalmol Vis Sci.44(5):1933−8および同書に記載の参照文献)を用いて評価してもよい。
【0080】
第5の態様の目的は、小脳の関与する機能、特に学習障害のある患者で障害として見られることが多い運動計画および系列化に関する機能を改善することである。
第6の態様の目的は、コミュニケーション障害、広汎性発達障害、不安障害を含むDSM−IV−TRの診断区分群から選択される障害を治療することである。
【0081】
他の目的は、これに限定されないが、学習障害のある患者などの技能の習得および協調(特に、左右脳半球の協調)を改善することである。
本発明を以下の実施例でさらに説明する。これらの実施例は説明のためのものであり、限定的なものではない。
【0082】
実施例1−精神刺激薬と気分安定剤との併用による成人ADHD患者の治療
本研究を始めた臨床設定において、多数の成人ADHD患者(以前に刺激薬のみで有意な改善が見られた患者)に対し、バルプロ酸ナトリウム(VPA)(主に気分の安定を改善する薬剤として)で増量させた二つの用法の刺激薬(デキサンフェタミン)の使用を開始した。
【0083】
デキサンフェタミンの初期用量は15〜70mg/日であり、VPA(エピリム)の初期用量は100〜700mg/日(すなわち、約2〜10mg/kg/日)であった。成人の躁病(たとえば、双極性障害)治療用として、Sanofi−Aventis社より提供されるエピリムの製品情報によると、1000〜2000mg/日(すなわち、20〜30mg/kg/日)の範囲内で症状が抑制されることが示唆されている。したがって、この試験で用いた用量は、躁病治療に必要な用量よりも実質的に少なかった。
【0084】
デキサンフェタミンの用量は、臨床的に鋭敏かつ非盲検的な方法で決定した。臨床反応に応じて、また副作用がないことに応じて、用量を増量させた。用量範囲は、15〜70mg/日であった。投与頻度も、臨床反応に応じて変更した。通常の投与間隔は、2時間〜4時間であった。こうした投与調整は、バルプロ酸ナトリウムの開始前に行った。バルプロ酸ナトリウムによる治療は、50mgの錠剤もしくはエリキシル剤を1日1回から開
始し、反応に応じて増量させたが、増量は3日に1回までとした。また、用法は、1日1回もしくは2回とした。増量段階では、臨床的に可能であれば、薬物療法に対して他の調整は行わなかった。
【0085】
最初の結果に続き、これらの患者に対するバルプロ酸ナトリウムの用量を再度増量(すなわち、500mgまたは700mg)させた。これは、患者が一般認知を経験することが多く、得られる薬効に損失があったためである。調整後のバルプロ酸ナトリウムの用量は、50mg/日、100mg/日、150mg/日、または200mg/日の間で変化させた(患者数:120人)。患者の大部分は、50〜150mg/日の投与を受け、最大は通常300mg/日であった。
【0086】
結果と考察
VPAを薬理学的なアプローチに統合した場合、患者の多くは思考がゆっくりとなり、より統制可能になって混乱が減ったと述べた。このことから、考えを一時的に系統化することがより可能となり、結果として心理社会的機能が全体的に改善されたと思われる。薬理学的なアプローチに対するこのような議論について、興味深いことに、これらの患者の多くは自身もしくはその家族に双極性障害の病歴を示す証拠が見られなかった。また、双極性障害に推奨される初期投与量未満のVPAや、躁病症状を抑えるのに通常必要な用量にはるかに満たない量のVPAで効果が得られた。
【0087】
結果の評価は、患者と監督者(通常、配偶者または親)が記入したConners Adult ADHD Rating scalesを用いて行った。治療前、刺激薬での安定時、および抗てんかん剤(AED)での安定時に患者26人が記入したCAARS rating scalesに基づいて行った。8つのCAARSサブスケールのうち6つは、刺激薬治療にAEDを加えた後、少なくともp<0.5の有意な二次改善を示すものであった。ADHD症状に関するCAARSサブスケールでは、二次改善がp<0.001であった。同様に、Quality of Life Scalesにおいても十分な改善が見られた。刺激薬の開始と、それに対するAEDの追加について、主観的効果を比較するために視覚的アナログスケールを用いたが、2つの治療介入は同様の効果を奏すものであった。これは、刺激薬の開始時に得られる詳細に報告される堅調な治療効果として重要である。上記の知見は、臨床治療の総説に一致するものであった。
【0088】
ADHD症状における自覚的な改善があったと報告した有意数の患者は、読解力と発声言語理解力も改善したと述べている。これらの患者は、文字と会話のいずれについても、その内容に、より注意できるようになった。このことは、読みもしくは聞き取りに精神的努力のほとんどを投入しなければならず、しかもほとんど理解できなかった過去の挫折感を生じた経験とは全く対照的であった。発明者らは、眼球運動発達検査(DEM)を用いて眼球運動機能を客観的に評価することができた。その結果、書かれた文章を追うのに要する精神的努力が減少したという患者自身の主観的経験の改善と同程度の改善が見られた。このことから、少用量のバルプロ酸ナトリウムは、読解タスクや非読解タスクにおける注視および衝動性眼球運動に有益な効果を示すとの仮説を立てるに至った。患者の多くに見られた変化の程度は、刺激薬治療の初期における行動上の変化と同程度であった。
【0089】
加えて、自己申告された改善点は、臨床的コンサルティング時の複雑な対人相互作用で顕著に見られる変化と密接に関係していると思われる。治療を行う精神科医と患者との間で交わされる発声による相互作用は、より自発的かつ流動的に思われた。また会話中、患者は高次の微妙な非発声言語的フィードバックを返すことができたと思われる。患者はこうしたより適切な非発声言語動作に基づいて、会話の内容をより理解することができたと思われる。また、患者は、読むのに必要な努力をより少なく感じたので、以前には非常に認知力を要したタスクを楽しむことができたとも報告している。この臨床的観察は、AD
HD症状が、単語読解よりも読解力の障害により関係しているとのサムエルソンらの仮説(2004年)と一致すると思われる。患者が述べた改善は、治療開始とほぼ同時、すなわち、他の学習が起きるより前に見られた。また、この改善の説明としては、単語読解能力をさらに習得することは除かれると思われる。
【0090】
最初の試験において、(VPAへの耐用性が比較的良好であった)患者に対しては、400mgを超える高用量を日常的に投与した。しかしこの量を超えると、一般認知的低下や薬効の損失が頻繁に見られた。この結果、患者が服用を中止する場合が多かったので、その後、理想的かつより効果的と識別されたより少ない用量で十分な時間を掛けて増量することにより、再試行した。
【0091】
これらの観察から、VPAは気分安定化にのみ用いられる場合、準治療用量での刺激薬と相乗効果を有するとの仮説を立てた。このようなVPAの新規使用により、ADHDの診断を受け、ADHDに対する刺激薬治療を受ける患者の治療結果に対する理解を深め、改善する可能性がもたらされる。
【0092】
実験例2−臨床研究プロトコル
本研究において、上記実施例1に記載した抗てんかん・気分安定剤と刺激薬との組み合わせを、臨床研究でより詳細に調べる。
【0093】
本研究は、ADHD成人に対する、刺激薬(デキサンフェタミン)と抗てんかん・気分安定剤(バルプロ酸ナトリウム)の併用投与法による治療に基づく。併用投与法の有効性は、以下の機能ドメイン:a)ADHDの行動上の症状、b)実行機能、c)情報処理、d)読解力、およびe)生活の質において評価した。
【0094】

【表2】




【0095】
実験例3−抗てんかん・気分安定剤だけを用いた臨床研究
この試験において、(双極性障害はないが)ADHD症状のある患者で、刺激薬開始を今までできなかった、もしくは望んでいなかった、もしくは過去にできなかった患者を対象とした。患者の治療は、バルプロ酸ナトリウムだけを上記の併用療法で処方したものと同じ用量範囲で投与すること、トピラマート(トパマックス)だけを12.5〜50mg/日の用量で投与すること、またはフェニトインだけを30〜60mg/日の用量で投与することにより行った。改善の評価は、臨床的評価を繰り返し行うとともに、自己評価スケールや、他の評価スケールとして客観的な精神測定手段を用いて行った。患者は、会話と読解力において思考の整理が改善したと報告している。いずれの評価スケールにおいても、発話の流暢さや社交上障害となる併発的な吃音症について、治療初期に有意な改善が見られた。加えて、タスク完了(成功)に改善が見られ、たとえば患者の配偶者によって明白な変化が認められた。
【0096】
トピラマートが、協調に効果があったこと、並びに、整理力や動機付けを高めたことも記しておく。後者については、機能的な活動が改善し、各患者は肯定的なフィードバック回路を構築し、タスクへの取り組みや習熟を維持することが所見された。
【0097】
これらの所見は、小脳で可能と思われる運動活動(言語活動を含む)の協調に関連して考えると、大変興味深い。
1.口頭言語の系統化が向上し、より流動的な会話が行え、内容を一時的に整理することができる。このことは、言われていることの構造ではなく内容に、より注意を払う、相互作用時にこうした努力をする必要のない人によって理解される。
【0098】
2.運動タスクを行うときより制御し、より多くの時間をもてることを主観的に経験することで、運動タスクの系統化が向上する。小脳がどの程度関与するかは、必要となる学習の複雑さと関係しており、技能を一度習得すると、こうした小脳の関与は抑えられることも記しておく。このような変化は、協調の向上を自発的に報告することが多かった患者が新しい技能(たとえば、ヨガ、ゴルフ、サーフィン)を学習する時、特にはっきりと現れる。特に向上した能力として、個人の技能とチーム内での役割との両方に注意を向けるために今まで困難であったチームスポーツにも参加できたことが挙げられる。こうした技能は自動的なものでないことが多いため、二つの動作を同時に習得する能力は見られなかった。しかし、治療を組み合わせることによって有意な効果が認められた。
【0099】
3.眼の追跡動作は、衝動性眼球運動に連結した小脳制御の要素と思われる。
小脳は、感覚認識と運動出力を統合する上で重要な役割を果たす領域である。多数の神経経路によって、小脳は運動皮質(筋肉に情報を送って筋肉を動かす)および脊髄小脳路(空間における身体位置のフィードバック(固体受容感覚)を提供する)に繋げられている。小脳は、この身体位置についての常時のフィードバックを用いてこれらの経路を統合し、動作を微調整する。小脳にはこの「更新」機能があるため、小脳内の損傷は麻痺を起こすほどのものではなく、フィードバックの欠陥として現れる。その結果、細かな動作、落ち着き、姿勢、運動学習に障害が生じる。
【0100】
したがって、治療前に患者がもつ欠陥は、少なくとも部分的には小脳機能の欠陥の結果であり得る。これらの欠陥は、運動計画および系列化の欠陥と言うこともでき、言語および動作の両方の状態を説明するものである。小脳は技能の自動化に関わるため、小脳機能に対する薬剤の効果によって新しい技能の習得が助成される。
【0101】
最後に、抗てんかん・気分安定剤を用いることにより、患者の発話および読みの流暢さが改善する。
精神刺激薬だけを用いた場合、上記の効果がいくらか得られるが、ただ時間ぼけなどに努力を要する。一方、抗てんかん・気分安定剤には、あまり努力を要さず、持続的に機能可能にするという利点がある。
【0102】
実験例4−抗てんかん・気分安定剤と精神刺激薬との併用による臨床研究
刺激薬と少用量のバルプロエートとの併用により得られる効果に基づき、他のAEDを少用量用いることにより、潜在的な治療化合物を同様に識別する研究をさらに行った。バルプロエートの研究と同様に、初期用量および続くトピラマートの増量が過剰かつ早急過ぎたため(1日に25mgずつ125mgまで増加)、許容できない副作用が生じ、服用を中断した。のちに6.25mgまたは12.5mgで再増量を開始した結果、患者自身または監督者が記入したConners Adult ADHD Rating scalesやDEMによる評価、および臨床医のインタビューによる評価で、有意な改善が見られた。
【0103】
A.トピラマートとデキサンフェタミンの併用(n=11)
トピラマート:平均0.3mg/kg/日(26mg/日)−範囲は0.1〜0.5mg/kg/日
デキサンフェタミン:平均0.6mg/kg/日(43mg/日)
有益な効果:
・一部の患者では、非常に低い用量かつ耐量で良好な反応あり
・化合物重量の低下の可能性
・感情の安定
・社会的相互作用の正常化
・患者が自覚した著しい効果:今までの人生で最も正常であると感じる
否定的な効果
・高用量での認知機能障害。物忘れ、物の名前を言うことが困難
・苛立ちおよび怒りの発露。
【0104】
B.トピラマートとメチルフェニデートとの併用(n=3)
トピラマート:平均0.3mg/kg/日(25mg/日)
メチルフェニデート:平均1.3mg/kg/日(105mg/日)
有益な効果:Aの通り
否定的な効果:Aの通り。
【0105】
第3の臨床試験は、フェニトインと精神刺激薬を用いて行った(n=8)。フェニトインは、その精神活性作用のため、バルプロエートまたはトピラマートよりも用いられる場合が少ない。それにも拘わらず、少用量の投与で、8人の患者に耐性のある十分な効果が見られた。評価方法は、バルプロエートおよびトピラマートを用いた試験と同様とした。
【0106】
C.フェニトインとデキサンフェタミンとの併用(n=6)
フェニトイン:平均0.65mg/kg/日(48mg/日)
デキサンフェタミン:平均0.6mg/kg/日(43mg/日)
有益な効果:
・少用量で十分に耐性がある。
・情報に対して苦なく注意を向けて処理する能力における良好な応答。バルプロエートの開始時に比べ、主観的にはより堅調な効果が得られた。
【0107】
否定的な効果
・自己誘発的な代謝の可能性があり、血液濃度の低下に伴い用量調整を要する場合がある。
・特に高用量で副作用が多い。
【0108】
D.フェニトインとメチルフェニデートとの併用(n=2)
フェニトイン:平均0.5mg/kg/日(30mg/日)
メチルフェニデート:平均1.1mg/kg/日(68mg/日)
有益な効果:Cの通り
否定的な効果:Cの通り。
【0109】
E.バルプロ酸ナトリウムとメチルフェニデートとの併用(n=4)
バルプロ酸ナトリウム:平均1.6mg/kg/日(130mg/日)
メチルフェニデート:平均1.2mg/kg/日(84mg/日)
バルプロ酸ナトリウムとデキサンフェタミンとを併用した実施例1と同様の効果が得られる。
【0110】
総括:上記の治療で見られた高次実行機能の認識促進は、予期しない発見であった。抗てんかん剤が準治療用量ほどの少量であっても、抗てんかん剤と関係する通常の認知的低下もしくは認知機能障害が起きるとは考え得ないであろう。現在の臨床知識からは、用量の減少が副作用を減らすことはあっても、社会的機能の正常化、読み書きの能力改善、並びに情報の系統化、整理および処理の改善において、患者自身が主観的に感じる程度まで機能が改善されるとは考え得ないであろう。
【0111】
発明者らが行った試験では、三つの抗てんかん化合物のすべてにおいて、抗けいれん剤および抗てんかん剤の平均用量の約10分の1相当の用量で、臨床効果が得られた。これは、現在計画中の他のAEDを少用量用いる試験においても、妥当な初期用量であろう。
【0112】
実験例5−DSM−IVによる全般性不安障害(GAD)の治療
本研究における選択診断基準とは、6ヶ月間以上続く過剰な不安や心配であって、制御が困難で、集中力が欠如すること、疲労し易く、落ち着かなくなること、または興奮もしくは緊張や、睡眠障害を感じることに関連する不安や心配が見られる場合を含む。これらの認知障害は、発明者らが今まで行った試験、すなわち、精神刺激薬を併用した場合および併用しない場合の両方において少用量のAED剤による試験で改善が見られた症状とほぼ同じである。
【0113】
この試験において、GADと診断されている患者(治療抵抗性症状歴のある患者も含む)に対して、少用量のAEDで試験した。この薬物治療は、投与量でほとんど副作用がみられず、十分な耐性があった。改善点の評価は、臨床医の観察とともに、患者自身と監督者が記入した評価スケールを用いて行った。ADHDの試験と同様に、通常3日〜7日で反応が見られ始めた。持続的で十分な効果が見られたため、記入して6ヶ月の時点で、他の多くの向精神剤については用量を減らし、あるいは使用を中止した。ADHDの診断の有無に拘わらず、または刺激薬による治療の有無に拘わらず、患者の症状に改善が見られた。
【0114】
結論
少用量の抗てんかん剤は、抗てんかん剤または気分安定剤の用量範囲内で見られるものとは基本的に異なる薬理学的特性を示すという発明者らの発見を説明するために、臨床的および科学的理解に基づき以下の仮説を立てた。つまり、AEDは少用量の場合、大脳皮質のすべての神経細胞を過分極化するのではなく、それまでに興奮状態になっていた神経細胞の興奮を選択的に長引かせることによって作業記憶を向上させ、一方、不活性の神経細胞の静止電位に対しては反対に作用し、干渉や注意力散漫を低減する。これは認識の調整、認識の協調、ペーシング(すなわち、一つの思考から次の思考へ不規則にとばないこ
と)、注意力の効果的なシフト(一つの思考から一瞬外れるが、関連する別のことを考えてから元の考えに戻るという認知機能。迷ったり脈略を失ったりせず、心の背後で思考を維持する能力を要する)ということができる。
【0115】
上記の各段落で説明した本発明のさまざまな特性と実施形態は、適宜変更すべきところは変更して他の段落に適用してもよい。したがって、ある段落で特定した特性を他の段落で特定した特性と適宜組み合わせてもよい。
【0116】
本明細書で記載したすべての文献は、引用によって本明細書に援用される。本発明にかかる上記の方法および製品の各種変形例が本発明の特許請求の範囲から逸脱しないことは、当業者には明らかであろう。本発明は、特定の好適な実施形態に関連して説明したが、請求項に記載の発明は、このような特定の実施形態に必要以上に限定されない。実際、関連分野の当業者には明らかであるように、本発明を実施するための上記態様の各種変形例は、特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注意欠陥多動性障害(ADHD)があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者に対する、注意欠陥多動性障害の治療方法であって、
前記患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法。
【請求項2】
注意欠陥多動性障害(ADHD)があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者に対する注意欠陥多動性障害の治療方法であって、
前記患者に対して、(i)気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤と、(ii)精神刺激薬とを投与する工程を含む方法。
【請求項3】
前記気分安定剤は、バルプロ酸ナトリウムまたはその誘導体、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、フェニトイン、エトトイン、ガバペンチン、プレガバリン、チアガビン、トピラマート、およびそれらの混合物のうちから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記気分安定剤は、バルプロ酸ナトリウムまたはその誘導体であり、
前記患者に対する前記気分安定剤の用量は4mg/kg/日未満である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記精神刺激薬は、メチルフェニデート、アンフェタミン、ペモリン、およびそれらの混合物のうちから選択される、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記患者は成人である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記患者は小児である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
コミュニケーション障害、広汎性発達障害、および不安障害のうちから選択される障害があるが、てんかんおよび双極性障害のいずれもない患者に対する前記障害の治療方法であって、
前記患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法。
【請求項9】
前記障害は、表出性言語障害、受容−表出混合性言語障害、音韻障害、吃音症、自閉症スペクトラム障害、レット障害、小児期崩壊性障害、および全般性不安障害のうちから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記気分安定剤は、バルプロ酸ナトリウムまたはその誘導体、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、フェニトイン、エトトイン、ガバペンチン、プレガバリン、チアガビン、トピラマート、およびそれらの混合物のうちから選択される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
学習障害のある患者の読解力と読みの流暢さとのうちの少なくとも一方を改善する方法であって、
前記患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法。
【請求項12】
学習障害のある患者の眼球運動障害を治療する方法であって、
前記患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与
する工程を含む方法。
【請求項13】
患者の異常な衝動性眼球運動を治療する方法であって、
前記患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤を投与する工程を含む方法。
【請求項14】
患者の小脳の関与する運動計画および系列化を改善する方法であって、
前記患者に対して、気分安定化についての準治療用量の抗てんかん・気分安定剤と、任意で精神刺激薬とを投与する工程を含む方法。
【請求項15】
前記患者は学習障害のある患者である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記患者はてんかんおよび双極性障害のいずれもない患者である、請求項11乃至15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記患者はディスレクシアの患者である、請求項11乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記患者はADHDのない患者である、請求項11乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記気分安定剤は、バルプロ酸ナトリウムまたはその誘導体、カルバマゼピン、オキシカルバゼピン、フェニトイン、エトトイン、ガバペンチン、プレガバリン、チアガビン、トピラマート、およびそれらの混合物のうちから選択される、請求項11乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記気分安定剤は、バルプロ酸ナトリウムまたはその誘導体であり、
前記患者に対する前記気分安定剤の用量は4mg/kg/日未満である、請求項11乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記患者に精神刺激薬を投与する工程をさらに含む、請求項11乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記精神刺激薬は、メチルフェニデート、アンフェタミン、ペモリン、およびそれらの混合物のうちから選択される、請求項21に記載の方法。

【公表番号】特表2010−518027(P2010−518027A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548546(P2009−548546)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000154
【国際公開番号】WO2008/095253
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(509222497)ゴスフォース センター(ホールディングス)プロプライエタリー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】GOSFORTH CENTRE(HOLDINGS)PTY LTD
【Fターム(参考)】