説明

AKTの選択的阻害剤およびその使用方法

本発明は、プロテインキナーゼBとしても公知であり、アポトーシスの阻害において、ならびに従って、癌および、神経変性疾患を含めた他の状態の病因において鍵となる役割を担っていると考えられる、酵素Akt1プロテインキナーゼの酵素活性を阻害する活性について、化合物をスクリーニングするための改善された方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年4月25日出願の米国出願シリアル番号第11/817,764号、および2008年12月22日出願の米国仮出願シリアル番号第61/139,753号の連続した部分であり、これらに対する優先権を主張する。先に引用した出願の開示は、それらのすべての内容が全体として引用により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本発明の分野
本出願は、プロテインキナーゼB阻害剤についてのスクリーニング方法、特に仮想ドッキングアプローチを採用するスクリーニング方法、ならびにこれらのドッキング方法の使用によって発見された化合物および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
タンパク質のリン酸化は、増殖、分化、生存、および血管新生などの多くの細胞事象において中心的な役割を担っている(Klingmuller, 1997)。結果として、調節されていないキナーゼ活性は、制御されていない細胞増殖および、発癌抑制における重要な機序であるアポトーシスの不適切な調節を生じ得る(Lev, et al., 2004)。
【0004】
このシナリオにおいて、プロテインキナーゼB(PKB)としても公知のAKTは、その異常な活性が、多くのヒト腫瘍における増殖性および抗アポトーシス性過程の、広範な範囲の原因となることが認識されてきたので、近年、科学者たちの注意を集めてきた(Dickson and Rhodes, 2004)。AKTシグナル伝達経路は、重要な腫瘍生存機序である。AKTは、3つの異なる細胞アイソフォーム、すなわち、Akt1(PKBR)、Akt2(PKBβ)、およびAkt3(PKBγ)からなるサブファミリーである。Akt1は主として、乳癌および胃の腺癌に関与しており、Akt2は、卵巣癌、膵癌、および乳癌において増幅し、ならびにAkt3は、乳癌および前立腺細胞株において増幅している(Okano et al., 2000)。
【0005】
Akt1は、キナーゼドメイン、N末端プレクストリン相同(PH)ドメイン、および短鎖カルボキシ末端尾部領域から構成される。このタンパク質は、Thr308およびSer473がリン酸化されると活性化される(Chijiwa, et al., 1990)。一旦活性化されると、Akt1は、癌細胞を含めた種々の細胞型における多くの標的をリン酸化することによって、アポトーシスを阻害し、細胞周期の進行を刺激する。従って、プロテインキナーゼB活性を遮断することのできる分子の開発は、抗癌薬剤発見のために価値のある経路である(Stratford,et al., 2004;Baxter, et al., 2000;Carr and Jhoti, 2002;Perola, et al., 2000))。
【0006】
AKT活性化は、ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP2)をリン酸化して、ホスファチジルイノシトール-3,4,5-三リン酸(PIP3)を生じる、ホスファチジルイノシトール3-OHキナーゼ(PI3K)によって仲介され、PIP3は、AKTを細胞膜へと動員して、そこでAkt Ser-473が、ラパマイシンの哺乳類標的(mTOR)またはインテグリン結合キナーゼ(ILK)によってリン酸化される。ピルビン酸脱水素酵素キナーゼアイソザイム1型(PDK1)またはmTORC2複合体による触媒部位でのThr-308の追加的なリン酸化が、AKT活性に必要とされる。AKT活性化におけるPI3K活性は、10番染色体から欠失したホスファターゼおよびテンシン類似体(PTEN)によって均衡がとれている。それゆえ、ヒト癌において普遍的に発生するPTENの不活性化は結果として、恒常的に高レベルのAKT活性を生じる(Carracedo and Pandolfi, 2008;Yuan and Cantley, 2008)。
【0007】
活性化型Akt1によってリン酸化されるタンパク質のうちの1つは、BADとして公知のタンパク質であり、通常、細胞を、プログラムされた細胞死またはアポトーシスを受けるよう促進する。一旦リン酸化されると、BADは、BADを不活性化する、14‐3‐3とされる細胞質タンパク質に結合する。また、Akt1は、他の細胞死活性化因子を阻害することによって細胞生存を促進し、これを達成するための1つの経路は、アポトーシスを促進するタンパク質をコードする遺伝子の転写を刺激する遺伝子調節タンパク質であるフォークヘッドファミリーのものなど、細胞死活性化因子をコードする遺伝子の転写の阻害による。
【0008】
その活性化後、AKTは100個近くの基質をリン酸化し、それを通じてAKTは、種々の細胞機能を調節する。細胞機能には、BAD、MDM2、およびフォークヘッドファミリーのメンバーなど、鍵となるアポトーシス促進性タンパク質のリン酸化および阻害を通じて抗アポトーシス性効果を誘発するAKTの能力、p27を不活性化すること、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)仲介性Mycの阻害、およびサイクリンD1阻害による細胞増殖の支持、増殖、代謝、および血管新生に及ぼす効果、並びに最後に、タンパク質の翻訳およびリボソームの生合成に関するものが挙げられる。AKTは、翻訳機構を亢進して、リボソームを生成し、GTPase活性化タンパク質(GAP)TSC2およびPRAS40(40KDaのプロリンリッチなAKT基質)の二重調節によってタンパク質合成速度を増大させる。
【0009】
Ser473におけるリン酸化によってしばしば測定されるAKT活性は、メラノーマ、急性骨髄性白血病、肺癌、頭頚部癌、乳癌、子宮内膜癌、脳癌、胃癌、卵巣癌、結腸癌、および前立腺癌を含めたいくつかの異なる癌において、予後不良と連関している(Cicenas, 2008;Dai et al., 2005)。AKTによって誘発される腫瘍促進活性は、AKTが癌治療のための重要な標的として機能し得るという概念を高めてきた(Garcia-Echeverria and Sellers, 2008)。従って、AKTに対する阻害剤を開発するためにつぎ込まれる尽力が増大している。これまで開発されたもののうち、多くは、AKTのプレクストリン相同(PH)ドメインまたはATP結合ドメインに対して設計された(Carnero et al., 2008;Lindsley et al., 2008)。
【0010】
メラノーマにおけるAKT活性化は、症例の約50%で生じることが報告されており、ここで、これらのうちの一部のみ(20〜30%)が、PTEN突然変異に帰する(Goel et al., 2006;Haluska et al., 2006;Robertson, 2005)。活性化型AKTは、B-Rafと協調しており、B-Rafは、メラノーマの70%において突然変異している(Cheung et al., 2008)。そのいくつかの腫瘍促進機能と一致して、活性化型AKTは、メラノーマの放射状から垂直方向への増殖相の変換を高め、メラノーマの進行および転移におけるその役割を示している(Govindarajan et al., 2007;Fried and Arbiser, 2008)。
【0011】
メラノーマの多くの割合がMAPKシグナル伝達経路における突然変異を有するという事実にもかかわらず、MEK特異的およびMAPK関連阻害剤を用いた臨床治験は、このような突然変異を有するまたは有さない腫瘍に及ぼす、等しい効果を明らかにしている。これらの知見は、とりわけ、標的療法と併用してメラノーマ治療法にアプローチする必要性を示している。メラノーマにおいて変化したシグナル伝達経路のうちの1つは、PI3K/AKTシグナル伝達経路である。本研究は、AKTのリン酸化および発現レベルを阻害するAKT阻害剤BI-69A11の最初の特徴づけを提供する。BI-69A11は、培養下でのメラノーマ細胞の死滅、およびメラノーマ異種移植の退縮を効果的に生じ、それにより前臨床評価および臨床評価についてのさらなる研究を正しいとしている。従って、腫瘍治療法において使用するためのAKT活性化の選択的阻害剤を同定および特徴づける必要がある。
【0012】
プロテインキナーゼBに加えて、活性化型B細胞の核内因子κ軽鎖エンハンサー(NFkB)は、細胞活性の多くの態様に関与するタンパク質複合体である。NFkBは、ほぼすべての動物細胞種において認められ、ストレス、サイトカイン、フリーラジカル、紫外線照射、酸化型LDL、および細菌またはウイルス抗原などの刺激に対する細胞応答に関与している。NFkBの不正確な調節は、癌、炎症性および自己免疫疾患、敗血症性ショック、ウイルス感染、および不適切な免疫発達と連関している。NFkBは、ある成長および転写因子(例えば、c-myc、ras、およびp53)の誘導を介した細胞成長、分化、および増殖に関する多くの局面において関与している。
【0013】
一方、不活性化型状態においては、NFkは、阻害性タンパク質IkBαと複合体を形成してサイトゾルに局在する。膜内在性受容体の仲介を通じて、種々の細胞外シグナルが、酵素IkBキナーゼ(IKK)を活性化することができる。IKKは順に、IkBαタンパク質をリン酸化し、その結果、ユビキチン化、NFkBからのIκBαの解離、およびプロテアソームによるIκBαの最終的な分解を生じる。次に、活性化型NFkBは、核に転位置し、そこで、応答配列(RE)と呼ばれるDNAの特異的な配列に結合する。次に、DNA/NFkB複合体は、活性化補助因子およびRNAポリメラーゼなどの他のタンパク質を動員し、RNAポリメラーゼは、下流のDNAをmRNAへと転写し、mRNAが順にタンパク質へと翻訳され、タンパク質は結果的に細胞機能の変化を生じる(Maniatis, 1999, Genes Dev., 13: 505)。
【0014】
例えばあるサイトカインがその表面受容体に結合することによって細胞が活性化した後、IkBタンパク質は迅速にリン酸化される。IkBのこの修飾の原因となる2つのキナーゼ:IKK-αおよびIKK-βが同定されている。両キナーゼはIKK-γ(NEMO、IKKAPとも呼ばれる。)およびIKAPも含む高分子量複合体のメンバーであることが同定された。IKK-αおよびIKK-βは、有意な配列相同性を共有し、同一の構造ドメインを含む。それらのロイシンジッパードメインによって、インビボでヘテロ二量体を形成する(May and Ghosh, seminars in Cancer Biology, 1997, 8: 63-73)。
【0015】
DNA損傷の際に、真核細胞は、細胞周期の停止、DNA修復の活性化、または細胞死のいずれかによって応答する。損傷したDNAが複製されるのを防止するために、いくつかのチェックポイントタンパク質が誘導される。ホスファチジルイノシトール3様キナーゼである血管拡張性失調症変異(ATM)は、異常なDNA開始チェックポイントに応答する。ATMは、DNAにおいて二本鎖破壊を生じさせる電離放射線によって損傷を受けたDNAに応答する。ATMキナーゼのための基質として同定されたチェックポイントタンパク質には、Chk2が挙げられる(Kudoh, et al., 2005, J. Biol. Chem., 280; 8156-8163)。
【0016】
癌および、神経変性状態を含む、正常なアポトーシス過程の破損を包含する他の疾患においてAKT経路が重要であるので、Akt1阻害剤の発見についての改良されたスクリーニング方法、ならびにこのようなスクリーニング方法によって発見された化合物および組成物について需要がある。本発明は、PTEN突然変異を有するUACC903メラノーマ細胞における、および野生型PTENを保有し10番染色体とともに再構成されたUACC903変異体29-1における、AKT阻害剤BI-69A11の特徴づけを記載する。加えて、BI-69A11によるAKT活性の阻害、ならびに培養下でのメラノーマ細胞に及ぼすその効果、および異種移植モデルに及ぼすその効果を示す。最後に、さらなるプロテインキナーゼの阻害について、BI-69A11を試験した。
【発明の概要】
【0017】
本発明の一態様は、これらの需要に合致して、Akt1阻害活性についての化合物の効率的な高処理量スクリーニングを提供するスクリーニング方法である。一般的に、本スクリーニング方法は以下を含む:
(1)Akt1キナーゼ阻害活性を有すると疑われる複数の化合物を提供する工程;
(2)複数の化合物それぞれを、Akt1、非加水分解性ATP類似体、および、生理学的AKT基質に由来するペプチド基質を包含する、三元複合体の結晶構造に由来する標的結合部位とドッキングするのをモデル化し、それによりタンパク質活性部位が、非加水分解性ATP類似体から規定された距離内の残基を含めて規定される工程;
(3)適合の良好性によって、ドッキングした化合物を階級分けする工程;
(4)ドッキングにおける適合の良好性によって、高いと階級分けされた化合物から、1つ以上のスクリーニング基準を用いることによって、化合物をさらに選択する工程;
(5)任意で、工程(4)において選択された化合物の構造を視覚的に分析して、ありそうにないドッキング構造を有する化合物をすべて除去する工程;ならびに
(6)工程(4)または工程(5)から選択された化合物を実験的に試験して、工程(5)が実施される場合、Akt1阻害活性を有する化合物を選択するために、Akt1に対する阻害活性を決定する工程。
【0018】
典型的には、非加水分解性ATP類似体は、AMP-PNPである。典型的には、ペプチド基質は、GSK-3β由来のペプチド基質である。
【0019】
典型的には、非加水分解性類似体からの規定された距離は、約6.0Åから約7.0Åである。好ましくは、非加水分解性類似体からの規定された距離は、約6.5Åである。
【0020】
典型的には、ドッキングのモデル化は、ドッキングアルゴリズムを用いて実施される。好ましくは、ドッキングアルゴリズムは、Flex Xである。
【0021】
典型的には、1つ以上のスクリーニング基準を用いることによって、ドッキングにおける適合の良好性によって高いと階級分けされた化合物から、化合物をさらに選択する工程は、1つ以上のCSCORE(SYBYL)、Drugscore、Goldscore、Chemscore、およびGOLDを用いることによって実施される。
【0022】
好ましくは、ドッキングアルゴリズムがFlex Xである場合、1つ以上のスクリーニング基準を用いることによって、ドッキングにおける適合の良好性によって高いと階級分けされた化合物から、化合物をさらに選択する工程は、最初にDrugscoreを用い、次に、GoldscoreおよびChemscoreに個々に従って上位のドッキングされた構造を評価および階級分けすることによって実施される。より好ましくは、GoldscoreおよびChemscoreが個々に適用される場合、両関数に従って高く階級分けされた化合物を、次に視覚的分析によって選択し、ありそうにないドッキング構造を有する化合物を除去する。
【0023】
典型的には、工程(4)または工程(5)におけるスクリーニングから生じる化合物を実験的に試験する工程は、実施される場合、最高30μMの濃度で化合物を試験することによって実施される。より典型的には、濃度は10μMである。
【0024】
典型的には、陽性とスクリーニングされた化合物は、ATPの触媒部位内に特異的に結合することができる。典型的には、陽性とスクリーニングされた化合物は、ATPと競合するAkt1の競合的阻害剤として作用する。典型的には、陽性とスクリーニングされた化合物は、Akt1の残基Lys181、Ala232、Thr292、およびThr162との水素結合による相互作用に関与する。
【0025】
方法はさらに、スコア化パターンと、AMP-PMPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察されるものと実質的に類似の水素結合パターンの間の一致を測定する工程、ならびに、高く階級分けされたスコア化パターンと、AMP-PMPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察されるものと実質的に類似の水素結合パターンの両方を呈する化合物を選択する工程という、追加的なスクリーニング工程を含むことができる。
【0026】
本発明の別の態様は、Akt1キナーゼに対する阻害活性を有すると決定された化合物を誘導体化して、その阻害活性を高める方法であり、以下を含む:
(1)Akt1キナーゼに対する阻害活性を有する化合物を提供する工程;
(2)少なくとも1つの共有結合修飾を導入することによって化合物を誘導体化し、少なくとも1つの誘導体を生成する工程;および
(3)Akt1キナーゼに対する阻害活性について、工程(2)において生成した誘導体をスクリーニングする工程;および
(4)工程(1)において提供された化合物と比較して、Akt1キナーゼに対する改善された阻害活性を有する誘導体を選択する工程。
【0027】
誘導体化の工程は典型的には、1つ以上の水素によるハロゲンの置換;水素によるハロゲンの置き換え;芳香環におけるカルボキシル基の配置、除去、または再配置;カルボン酸からエステルへの転換およびその逆;アルコールからエーテルへの転換;アミン基における、アルキル基による水素の置換;およびアミン基における、アルキル基の除去、からなる群より選択される少なくとも1つの反応を含む。
【0028】
本発明の別の態様は、Akt1キナーゼを阻害するための薬学的組成物であり、下記を含む:
(a)Akt1キナーゼを阻害する活性が本発明のスクリーニング方法によって発見された化合物であって、Akt1キナーゼを阻害するのに十分な量の化合物;
および
(b)薬学的に許容し得る担体。
【0029】
本発明において特徴づけられる化合物は、インビトロキナーゼアッセイにおいてAKT活性を阻害することが示された化合物BI-69A11である。BI-69A11の分析は、AKTが通常上方制御されている腫瘍の種類であるメラノーマ細胞において実施した。PTEN突然変異を有するUACC903ヒトメラノーマ細胞をBI-69A11で処理すると、AKT S473のリン酸化の効率的な阻害が生じ、それと同時に、AKT基質PRAS40を阻害した。また、メラノーマ細胞をBI-69A11で処理すると、AKTタンパク質発現が低下し、それと同時にAKTとHSP90との会合を阻害した。BI-69A11処理は、メラノーマの細胞死だけでなく、前立腺腫瘍細胞株の細胞死も生じた。とりわけ、細胞死に及ぼすBI-69A11の効果は、活性型のAKTを発現する細胞においてより顕著であった。意義深いことに、BI-69A11の腹膜内注射によって、メラノーマ腫瘍の異種移植の効果的な退縮が生じ、それと同時に、細胞死のレベルが上昇した。これらの知見は、BI-69A11を、異種移植メラノーマ腫瘍の効果的な退縮を誘発することのできるAKTの強力な阻害剤として同定する。
【0030】
本発明の別の態様は、BI-69A11の構造を有する組成物に関し、ここで、この構造体は、AKT活性化を阻害することができる。好ましくは、この構造体は、腫瘍治療のための調製物に用いられる。
【0031】
さらに、本発明の別の態様は、腫瘍細胞に近接して、BI-69A11と類似の構造を有する化合物の存在に基づいて、AKT発現を低下させる方法を包含し、ここで腫瘍細胞は、活性型のAKTを有するものである。
【0032】
本発明の別の態様は、インビトロキナーゼアッセイにおいてNFkB経路を阻害することが示されたBI-69A11化合物である。BI-69A11の分析は、メラノーマ細胞において実施された。PTEN突然変異を有するUACC903ヒトメラノーマ細胞をBI-69A11で処理すると、NFkB経路の効率的な阻害が生じた。
【0033】
本発明の別の態様は、BI-69A11の構造を有する組成物に関し、ここで、この構造体は、NFkB経路を阻害することができる。好ましくは、この構造体は、腫瘍治療のための調製物において用いられる。
【0034】
本発明のさらに別の態様において、BI-69A11化合物は、DNA損傷応答を活性化させるATM-Chkシグナル伝達を活性化させることが示された。
【0035】
本発明の別の態様は、BI-69A11の構造を有する組成物に関し、ここで、この構造体は、DNA損傷応答を活性化させるATM-Chkシグナル伝達を活性化させることができる。好ましくは、この構造体は、腫瘍治療のための調製物に用いられる。
【0036】
本発明のさらに別の態様は、メラノーマ癌を有する患者に、腫瘍のサイズを減少させるのに十分な量のBI-69A11を投与することによって、腫瘍の発達を阻害する化合物および方法を提供する。
【0037】
本発明のさらに別の態様は、メラノーマを有する動物に、AKTアイソフォームのタンパク質発現を阻害するのに特異的な化合物を投与することによって、AKTの特異的なアイソフォームを標的にすることを提供し、ここで、メラノーマは、活性型のAKTを呈し、化合物は、BI-69A11と構造的に類似している。
【0038】
本発明のさらに別の態様は、本発明に従った有効量の薬学的組成物を、アポトーシスの調節不全を特徴とする疾患または状態を有すると診断された、又は有することが疑われる対象に投与して、アポトーシスを正常化することを含む、アポトーシスの調節不全を特徴とする疾患または状態を治療する方法である。疾患または状態は、癌または、神経変性状態などの別の状態であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
以下の本発明は、明細書、添付の特許請求の範囲、および付随する図に関してより良好に理解されることとなるであろう。
【図1】採用される仮想ドッキングアプローチの模式図:(A)50,000個の化合物のドッキングおよびソフトウェアFlexXに従った階級分け、次いで、CSCOREを用いた他のスコア化関数を用いて上位にスコア化する2000個の化合物を階級分けし、およびGOLDを用いてFlexXの上位4000個の化合物をドッキングすることを包含するアプローチ、それに続く実験的試験、(B)FlexXおよびDrugscoreを用いた50,000個のドッキングした化合物から上位4000個の化合物を選択するアプローチであり、上位4000個のドッキングした構造を次に、GoldscoreおよびChemscore関数(CSCORE)に従って評価および階級分けし、次に、共通の200個の化合物のリストを、階級分けした上位700個の化合物から両スコア化関数に従って選択し、ありそうにないドッキング幾何学的構造を有する構造を視覚的分析によって排除した後、残りの100個の化合物の実験的試験をした。
【図2】化合物1および2についてのAkt1阻害アッセイを示す一連のグラフである:(A)化合物1についてのIC50の評価、(B)化合物2についてのIC50の評価、(C)Akt1についてのLineweaver‐Burk KmおよびKm(見かけ)の評価、(D)10μMにおける化合物1および化合物2とH89との比較を示す、ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびニトロセルロースメンブレンへの転写後のウサギポリクローナル抗ホスホ-GSK‐3α/β(Ser21/9)を用いた免疫学的アプローチを用いた、GSK‐3を基質として用いるAkt1阻害アッセイ、ならびに(E)化合物1についての用量反応。
【図3】ドッキングモデルを示す:(A〜C)Akt1のATP結合部位への化合物1〜3のドッキングした構造、(D)化合物1とAkt1触媒ポケットに存在するアミノ酸残基の間の水素結合。
【図4】PKB/AKTのATP部位におけるBI‐69A11の推定結合様式を示す。水素結合は、黄色の点線の柱体によって示されている。
【図5】メラノーマおよび前立腺癌細胞に及ぼすBI‐69A11の効果を示す。(A)60mmプレートにおいて増殖しているMeWoメラノーマ細胞を、示される濃度の阻害剤で4時間処理した後、示される抗体を用いたウェスタンブロット分析のためにタンパク質を調製した。βアクチンのレベルをタンパク質負荷についての対照としてモニターした。(B)パネルAに示されるとおり実験を実施したが、例外は、細胞を回収する24時間前に、トリパンブルー染色を用いて細胞死の分析を実施したことであった。(C)メラノーマ(MeWo)、前立腺癌(PC3)、および乳癌(MCF7)細胞を、示される濃度のBI‐69A11で処理し、AKTリン酸化または発現のレベルを4時間後に評価した。βアクチンのレベルをタンパク質負荷についての対照として用いた。(D)実験は、パネルCに示されるとおり実施したが、例外は、細胞を回収する4時間前に、トリパンブルー染色を用いて細胞死の分析を実施したことであった。
【図6】UACC903(PTEN−)細胞におけるAKTのリン酸化および全体レベルに及ぼすBI‐69A11の効果を示す。(A)UACC903および修飾したクローン29‐1(PTEN+)細胞を10μM BI‐69A11および50μM LY294002(PI3K阻害剤)に曝露し、pAKT473および総AKTのレベルをウェスタン分析によって決定した。減少したレベルのpAKT473をBI‐69A11およびLYの両方に関して観察し、減少したレベルの総AKTを、903および29‐1細胞におけるBI‐69A11による処理後に時間経過と共に観察した(SF=無血清)。(B)BI‐69A11は、PRAS40リン酸化を阻害する。UACC903メラノーマ細胞または29‐1細胞(PTEN+)をIGF‐1(20ng/mL)による処理に供し、PRAS40リン酸化のレベルを評価した。図3Bに示すように、細胞をBI‐69A11(10μM)でも処理した。細胞を回収し、溶解し、pPRAS40および総PRAS40のレベルをウェスタン分析によって決定した。(C)HSP90とのAKTの結合は、BI‐69A11によって阻害される。ヒトメラノーマ細胞を、BI‐69A11(10μM)またはDMSO対照で4時間処理した後、タンパク質を調製し、pan-AKTに対する抗体を用いた免疫沈降を実施した。MG132処理は、使用する場合、処理の1時間前に開始し、タンパク質の調製まで続行した(合計5時間)。右のパネルは、溶解物全体の分析を示す。
【図7】BI‐69A11が、29‐1細胞に比べUACC903細胞において、より効率的な細胞死を誘発することを示す。(A)903および29‐1細胞を異なる濃度のBI- 69A11またはポジティブコントロールとしての紫外線光に曝露し、細胞死の百分率をトリパンブルー除外アッセイによって決定した。(B)2、4、および6時間目におけるBI‐69A11による処理後に、903および29‐1細胞におけるPARP切断を決定した。BI‐69A11による処理後に、29‐1細胞において観察されたものと比較して、高いPARP切断が903細胞において観察される。
【図8】BI‐69A11が、メラノーマ腫瘍の退縮を生じることを示す。(A)ヌードマウスにUACC903細胞を皮下注射し、腫瘍をおよそ1mm3の大きさに到達させた後腹腔内治療を開始し、治療は、示される濃度のBI‐69A11で1週間に2回、3週間実施した。各実験群は、示される濃度のBI‐69A11による処理に供した10匹のマウスからなった。動物の半分に腫瘍細胞を注射し、半分に対照溶液を注射した。腫瘍を、示される時点で、キャリパーで測定した。マウスを屠殺し、この期間の終了時に回収された腫瘍を測定および秤量して、腫瘍の体積および質量を決定した。青色の棒は、対照ビヒクルで処理した群を表し、黄色の棒は、5mg/Kgの処理群を表し、橙色および緑色の棒はそれぞれ、1および2mg/Kgの処理群を表す。(B)腫瘍における細胞死の分析を、Tunel染色を用いて実施した。対照腫瘍(右)および処理群(5mg/Kg;左)についての代表的な写真を示す。(C)異なる腫瘍群におけるTunel染色の定量化。各腫瘍由来の試料をTunel染色に供して、Aperio ImageScopeによって定量化し、代表的な試料の目視検査によって確認した。Tunel陽性細胞の百分率をグラフに示す。青色の棒は、対照ビヒクルで処理した群を表し、黄色の棒は、5mg/Kg処理群を表し、橙色および緑色の棒はそれぞれ、1および2mg/Kgの処理群を表す。
【図9】(E)-3-(3-(1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)アクリロイル)-6-クロロ-4-フェニルキノリン-2(1H)-オン(4,BI‐69A11)の合成を示す。報告された手順に従って、化合物を(2-アミノ-5-クロロフェニル)-(フェニル)-メタノン(1)から、Friedlander濃縮反応を通じて合成した(De and Gibbs, 2005)。エタノール(8mL)における(3)(511mg、1.72mmol)の溶液に、20%NaOH水溶液(1.3mL)を室温で添加した。15分間撹拌した後、1H-ベンゾイミダゾール-2-カルボキサルデヒド(376mg、2.58mmol)を反応混合物に添加し、結果として生じる反応混合物を室温で16時間撹拌した。反応完了直前に、1N HClで中和し、沈殿物を生じ、フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサンにおける60から80%酢酸エチル)によって精製して、50%収率(330mg)の最終化合物を生じた。
【図10】NFkB経路を阻害するBI‐69A11の効果を示す。UACC903メラノーマ細胞を10μM BI‐69A11またはビヒクル対照に1時間曝露した後、20ng/mL TNF‐αで処理した。細胞を、示される時点で回収し、全細胞溶解物をリン酸化型IKK、総IKK、リン酸化型IkB、総IkB、およびPLCγ(負荷対照として)についてのウェスタン分析に供した。
【図11】選択されたBI‐69A11類似体が、NFkB経路をどのように阻害するかを示す。UACC903メラノーマ細胞をビヒクル対照、10μM BI‐69A11、または10μM類似体に1時間曝露した後、示されるとおり20ng/mL TNF‐αで刺激した。細胞を刺激5分後に回収し、全細胞溶解物をリン酸化型IKK、総IKK、リン酸化型IkB、総IkB、およびPLCγ(負荷対照として)についてのウェスタン分析に供した。
【図12】BI‐69A11または類似体BI- 83G10の存在下での低下した細胞生存率を示す。UACC903メラノーマ細胞をビヒクル(0μM)または示される濃度のBI‐69A11、BI‐83G10、もしくはBI‐98C11で処理した。処理24時間後、製造元の指示に従って、CellTiter Blue Cell Viability Assay(Promega, Madison WI)を用いて細胞生存率を決定した。
【図13】BI‐69A11がDNA損傷応答をどのように活性化するかを示す。UACC903メラノーマ細胞をビヒクル対照または10μM BI‐69A11に曝露した1時間後にγ照射した(10グレイ)。細胞を照射後の示される時点で回収し、全細胞溶解物をリン酸化型ATM、総ATM、リン酸化型Chk2、およびPLCγ(負荷対照として)についてのウェスタン分析に供した。
【図14】Chk2リン酸化に及ぼすBI‐69A11類似体の評価である。UACC903メラノーマ細胞をビヒクル対照、10μM BI‐69A11、または10μM類似体に2時間曝露した。細胞を回収し、全細胞溶解物をリン酸化型Chk2およびPLCγ(負荷対照として)についてのウェスタン分析に供した。
【図15】BI‐83G10、BI‐98C11、BI‐103F6、BI‐83H2、BI101G9、BI‐87A3を含めた、BI‐69A11の類似体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の一態様は、以下を含むAkt1キナーゼ活性の阻害について化合物をスクリーニングする方法である:
(1)Akt1キナーゼ阻害活性を有すると疑われる複数の化合物を提供する工程;
(2)複数の化合物それぞれを、Akt1、非加水分解性ATP類似体、および、生理学的AKT基質に由来するペプチド基質を包含する、三元複合体の結晶構造に由来する標的結合部位とドッキングするのをモデル化し、それによりタンパク質活性部位が、非加水分解性ATP類似体から規定された距離内の残基を含めて規定される工程;
(3)適合の良好性によって、ドッキングした化合物を階級分けする工程;
(4)ドッキングにおける適合の良好性によって、高いと階級分けされた化合物から、1つ以上のスクリーニング基準を用いることによって、化合物をさらに選択する工程;
(5)任意で、工程(4)において選択された化合物の構造を視覚的に分析して、ありそうにないドッキング構造を有する化合物をすべて除去する工程;ならびに
(6)工程(4)または工程(5)から選択された化合物を実験的に試験して、工程(5)が実施される場合、Akt1阻害活性を有する化合物を選択するために、Akt1に対する阻害活性を決定する工程。
【0041】
典型的には、非加水分解性ATP類似体は、AMP‐PNPである。典型的には、ペプチド基質は、GSK‐3βに由来するペプチド基質である。
【0042】
典型的には、非加水分解性類似体からの規定された距離は、約6.0Åから約7.0Åである。好ましくは、非加水分解性類似体からの規定された距離は、約6.5Åである。
【0043】
典型的には、ドッキングのモデル化は、ドッキングアルゴリズムを用いて実施される。特に好ましいドッキングアルゴリズムは、FlexX(BiosolveIT, Sankt Augustin, Germany)であるが、その他は当技術分野で公知である。
【0044】
1つ以上のスクリーニング基準を用いることによって、ドッキングにおける適合の良好性によって高いと階級分けされた化合物から、化合物をさらに選択する工程は、当技術分野で公知の種々のスクリーニング基準、または該スクリーニング基準の組み合わせを採用することができる。例えば、スクリーニングは、CSCORE(SYBYL)(14)、Drugscore(15)、Goldscore(16)、Chemscore(17)、またはGOLD(18)を用いて達成することができる。これらのスクリーニング方法は、連続的に適用することができ、それにより1つのスクリーニング方法によって高いと階級分けされた化合物は次に、第二の方法を用いて再度スクリーニングすることができ、両方のスクリーニング方法で高いと階級分けされた化合物は、さらなる分析のために選択される。1つの特に好ましいアプローチにおいて、化合物は、FlexXおよびDrugscoreを用いて選択され、ドッキングされた上位の構造は、GoldscoreおよびChemscore関数に従ってここに評価および階級分けされる。GoldscoreおよびChemscoreの両関数に従って高いと階級分けされた化合物は次に、個々に適用される場合、視覚的分析のために選択され、ありそうにないドッキング構造を有する化合物を除去する。
【0045】
酵素に対する基質および阻害剤の結合を支配する分子パラメータは、当技術分野で周知である。典型的には、結合は、水素結合、疎水性相互作用、イオン結合(塩連結)、(反応のある段階における)共有結合、およびファンデルワールス力によって支配され、結合は典型的には、「錠と鍵」機構または「誘導された適合」機構のいずれかを包含する。これらは、2つの分子間の距離との相互作用の強度の変動を考慮すると、適切なソフトウェアによってモデル化することができ、しかも、1つの分子のその他に対する回転および並進移動の自由、ならびに各分子の立体配座の自由度に関して6つの程度がある。
【0046】
典型的には、工程(4)または工程(5)におけるスクリーニングから生じる化合物を実験的に試験する工程は、適用可能である場合、そのAkt1阻害活性について10μMで、または最大30μMの濃度で試験される。典型的には、阻害活性は、選択された化合物についてInvitrogen Corporation(19)によって提供されるZ’-LYTEキットアッセイを用いることによって、評価される。
【0047】
典型的には、陽性としてスクリーニングされた化合物は、ATP触媒部位内に特異的に結合することができ、このコファクターのアデノシン部分の結合に似ている(図3のA〜C)。動態分析は、これらの化合物が典型的な競合的阻害剤として作用することを証明し、該化合物は、キナーゼによる結合についてATPと競合する。従って、該化合物は、キナーゼ反応のVmaxよりもむしろKmに影響する。競合的阻害は、酵素学において十分理解されており、競合的阻害の重要性は、本明細書で列挙する必要はない。典型的には、陽性としてスクリーニングされた化合物は、AMP‐PNPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察される相互作用と類似の、残基Lys181、Ala232、Thr292、およびThr162との水素結合相互作用に関与する(図3のD)。それゆえ、1つの好ましい代替物において、AMP‐PMPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察されたものと実質的に類似の水素結合パターンと、スコア化パターンとの間の一致を測定し、AMP‐PMPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察されたものと実質的に類似の水素結合パターンと、高いと階級分けされたスコア化パターンとの両方を呈する化合物を選択する別のスクリーニング工程が実施される。この一致する測定結果は、全体的なスクリーニング過程でのヒット率を実質的に改善する。
【0048】
選択されるべき化合物は、低分子化合物の任意の適切なライブラリーに由来し得る。1つのライブラリーは、Chembridgeから得られることができる(San Diego, CA)。他のライブラリーは入手可能であり、その調製についての方法は、例えば、この引用により本明細書に組み込まれているR.B. Silverman, "The Organic Chemistry of Drug Design and Drug Action" (2d ed., Elsevier. Amsterdam), pp. 41-43に記載されている。合成のための骨格は、例えば天然産物に由来し得る。
【0049】
Akt1阻害活性を有する化合物のうち、化合物1および2(表1)は、低μM範囲のIC50値を示す。化合物3は、25.1μMのIC50を有していた。
【0050】
加えて、化合物1の誘導体である化合物4および5(表2)は、Akt1キナーゼに対する限定された阻害活性を有する。
【0051】
従って、本発明の別の態様は、Akt1キナーゼに対する阻害活性を有すると決定された化合物を誘導体化して、その阻害活性を改善する方法であり、以下を含む:
(1)Akt1キナーゼに対する阻害活性を有する化合物を提供する工程;
(2)少なくとも1つの共有結合修飾を導入することによって化合物を誘導体化し、少なくとも1つの誘導体を生成する工程;および
(3)Akt1キナーゼに対する阻害活性について、工程(2)において生成した誘導体をスクリーニングする工程;および
(4)工程(1)において提供された化合物と比較して、Akt1キナーゼに対する改善された阻害活性を有する誘導体を選択する工程。
【0052】
誘導体化には、1つ以上の水素のハロゲンとの置換、およびハロゲンの水素による置換、芳香環におけるカルボキシル基の配置、除去、または再配置、カルボン酸からエステルへの変換およびその逆、アルコールからエーテルへの変換、アミン基における水素のアルキル基との置換、またはアミン基におけるアルキル基の除去、ならびに他の類似の反応を含めた、有機化学において、および薬剤設計に関する分野において周知の1つ以上の反応を含むことができる。誘導体化は、この引用により本明細書に組み込まれているM.B. Smith & J. March, "March's Advanced Organic Chemistry: Reactions, Mechanisms, and Structure (5th ed., John Wiley & Sons, New York, 2001)に開示されているものなど、当技術分野で周知の試薬を採用する標準的な反応条件下で実施することができる。他の誘導体化反応も用いることができる。
【0053】
従って、本発明の別の態様は、Akt1キナーゼを阻害するための薬学的組成物であり、以下を含む:
(1)Akt1キナーゼを阻害する活性が先に記載のスクリーニング方法によって発見された化合物であって、Akt1キナーゼを阻害するのに十分な量の化合物;および
(2)薬学的に許容し得る担体。
【0054】
典型的には、化合物は、約100μM未満のIC50を有する。好ましくは、化合物は、約30μM未満のIC50を有する。より好ましくは、化合物は、約10μM未満のIC50を有する。なおもより好ましくは、化合物は、約5μM未満のIC50を有する。
【0055】
薬学的組成物は、癌の治療のために、または神経変性状態を含めたアポトーシスの調節不全を特徴とする別の状態の治療のために、製剤されることができる。
【0056】
薬学的組成物の調製のための好ましい化合物には、化合物1、2、3、4、および5がある。薬学的組成物の調製に特に好ましい化合物には、化合物1および2があり、化合物は、式(I)の化合物1、式(II)の化合物2、式(III)の化合物3、ならびに式(IV)の化合物4および5、からなる群より選択される。ここで、式IVにおいて、化合物4についてはRはp-COOHであり、化合物5についてはRはm-COOHである。

【0057】
本発明に記載の薬学的組成物における化合物の毒性および治療有効性は、例えばLD50(集団の50%致死量)およびED50(集団の50%において治療効果のある量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性効果と治療効果の間の用量比は、治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。大きな治療指数を呈する化合物が好ましい。これらの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおいて使用するための薬用量の範囲を考案する上で使用することができる。このような化合物の薬用量は好ましくは、ほとんどまたはまったく毒性のない、ED50を含む循環濃度の範囲内に収まる。薬用量は、採用される剤形および利用される投与の経路に応じて個の範囲内で変動してもよい。
【0058】
本発明に記載の薬学的化合物において使用される任意の化合物について、治療有効量は、細胞培養アッセイから初めに概算することができる。例えば、用量は、細胞培養において決定されたIC50を含む循環血漿濃度範囲に達するよう動物モデルにおいて処方することができる(すなわち、長期的な効果が考慮される場合に、受容体シグナル伝達における最大半量の改善に達する試験化合物の濃度)。このような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。血漿におけるレベルは、例えばHPLCによって測定してもよい。
【0059】
本発明に記載の薬学的組成物についての実際の製剤、投与の経路、および薬用量は、患者の状態に応じて、個々の医師によって選択することができる(例えば、The Pharmacological Basis of Therapeutics, 1975, Ch. 1 p. 1におけるFingl et al.参照)。主治医は、毒性によってまたは臓器機能不全によって、投与を終止、中断、または調整する方法および時機を知っているであろうことは留意されるべきである。逆に、主治医はまた、臨床応答が適切でない(毒性をあらかじめ除外する)場合に、より高いレベルに治療を調整することも知っているであろう。関心対象の障害の管理における投与される用量の程度は、治療されるべき状態の重症度とともに、および投与の経路に対して変動するであろう。状態の重症度は例えば、標準的な予後評価方法によって一部評価されてもよい。さらにまた、用量およびおそらくは投与頻度も、個々の患者の年齢、体重、および応答に従って変動するであろう。先に論議されたものに匹敵するプログラムは、獣医学において用いてもよい。
【0060】
治療されている具体的な状態に応じて、このような薬学的組成物は、製剤されてもよく、全身的にまたは局所的に投与されてもよい。典型的には全身的投与である。製剤および投与のための技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa. (1990)において認められ得る。適切な経路には、いくつか例を挙げると、経口、直腸、経皮、膣内、経粘膜、または腸内投与;筋肉内、皮下、髄内注射、およびくも膜下腔内、直接的脳室内、静脈内、腹膜内、鼻内、または眼内注射が挙げられ得る。典型的には、経口投与が好ましい。
【0061】
注射のために、本発明の薬学的組成物は、水溶液において製剤されてもよい。このような経粘膜投与のために、浸透されるべきバリアーに適する浸透剤が、製剤において用いられる。このような浸透剤は、当技術分野で一般的に公知である。
【0062】
薬学的に許容し得る担体の使用は、本発明の範囲内である。例えば、経口投与については、担体は当技術分野で周知である。このような担体によって、本発明の化合物は、治療されるべき患者による経口消化のために、錠剤、丸剤、カプセル剤、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー、懸濁剤、およびこれらに類するものとして製剤されることができる。
【0063】
Akt1キナーゼ阻害活性を有する化合物などの活性成分に加えて、これらの薬学的組成物は、活性化合物を、薬学的に使用することのできる調製物に加工するのを容易にする賦形剤および補助剤を含む、適切な薬学的に許容し得る担体を含んでもよい。
【0064】
経口投与のために製剤された調製物は、錠剤、糖衣錠、カプセル剤、または溶液の形態であってもよい。本発明の薬学的組成物は、例えば、従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣作製、浮遊、乳化、被包、封入、または凍結乾燥加工によって、それ自体公知の様式で製造されてもよい。
【0065】
非経口投与のための薬学的製剤には、水溶性形態の活性化合物の水溶液が含まれる。加えて、活性化合物の懸濁液は、適切な油状注射懸濁液として調製されてもよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストランなど、懸濁液の粘度を高める物質を含んでもよい。任意で、懸濁液はまた、高度に濃縮された溶液の調製を可能にするために、化合物の溶解度を高める適切な安定化剤または薬剤を含んでもよい。
【0066】
経口使用のための薬学的調製物は、活性化合物を固体賦形剤と組み合わせること、任意で、結果として生じる混合物を粉砕すること、および所望の場合、錠剤または糖衣錠コアを得るために適切な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工することによって得ることができる。適切な賦形剤は特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含めた糖類、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモ、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース調製物などの充填剤である。所望の場合、交差架橋したポリビニルピロリドン、アガー、またはアルギン酸、もしくはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの崩壊剤を添加してもよい。
【0067】
糖衣錠コアには、適切なコーティングが提供される。この目的のために、濃縮された糖溶液を用いてもよく、該溶液は任意で、アラビアゴム、滑石、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、ならびに適切な有機溶媒または溶媒混合物を含んでもよい。色素または顔料を同定のために、または異なる組み合わせの活性化合物用量を特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに添加してもよい。
【0068】
経口使用することのできる薬学的調製物には、ゼラチン製の押しばめカプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなど可塑化剤でできた軟質の密封されたカプセルが含まれる。押し込み型(push-fit)カプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/または滑石もしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、ならびに任意で安定化剤との混合で、活性成分を含むことができる。軟質カプセルにおいて、活性化合物は、脂肪油、液状パラフィン、または液状ポリエチレングリコールなどの適切な液体において溶解または懸濁されてもよい。加えて、安定化剤を添加してもよい。
【0069】
(表1)Akt1に対する阻害活性を示す化合物の構造

【0070】
(表2)化合物1の誘導体およびAkt1に対するその阻害活性

【0071】
本発明の別の態様は、BI‐69A11の構造を有する組成物に関し、ここで、この構造体は、AKT活性化を阻害することができる。好ましくは、この構造体は、腫瘍治療のための調製物において使用される。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「BI‐69A11」は、下記の化学構造:

を有する化合物2を指し、本明細書に記載の通り合成および精製された。これをDMSOに溶解し、100mMストックとして維持した。
【0073】
さらに、本発明の別の態様は、腫瘍細胞に近接して、BI‐69A11と類似の構造を有する化合物の存在に基づいてAKT発現を低下させる方法を包含し、ここで腫瘍細胞は、活性型のAKTを有するものである。
【0074】
本発明のさらに別の態様は、腫瘍の大きさを減少させるのに十分な量のBI‐69A11を、メラノーマ癌を有する患者に投与することによって、腫瘍の発達を阻害する化合物および方法を提供する。
【0075】
本発明のさらに別の態様は、メラノーマを有する動物に、AKTアイソフォームのタンパク質発現を阻害するのに特異的な化合物を投与することによって、AKTの特異的なアイソフォームを標的とすることを提供し、ここで、メラノーマは、活性型のAKTを呈し、化合物は、BI‐69A11と構造的に類似している。
【0076】
本発明の別の態様は、BI- 69A11化合物であり、該化合物は、インビトロキナーゼアッセイにおいてNFkB経路を阻害することが示された。BI‐69A11の分析は、メラノーマ細胞において実施した。PTEN突然変異を有するUACC903ヒトメラノーマ細胞をBI‐69A11で処理すると、NFkB経路の効率的な阻害を生じた。
【0077】
本発明の別の態様は、BI‐69A11の構造を有する組成物に関し、ここで、この構造体は、NFkB経路を阻害することができる。好ましくは、この構造体は、腫瘍治療のための調製物において使用される。
【0078】
AKTの阻害に加えて、追加的なプロテインキナーゼの阻害について、Invitrogen SelectScreen Kinase Profiling Serviceを用いてBI‐69A11を試験した。核内因子(NF)‐kB転写因子は、ストレス応答、アポトーシス、増殖、免疫、炎症、および細胞接着などの重要な細胞のプロセスに関与する大きなセットの遺伝子を調節する。NF‐kB転写因子は、NF‐kBタンパク質の阻害剤、IkBによって細胞質において不活性状態で保持されている。生理学的刺激に対する応答における経路の活性化は、IkBタンパク質のリン酸化およびその後の分解を必要とし、これにより、NF‐kBの核移行および標的遺伝子の転写が可能となる。IkBタンパク質のリン酸化は、2つのアミノ酸残基(Ser32、Ser36)におけるIkBキナーゼ(IKK)によって触媒され、これが順に、ユビキチン‐プロテアソーム系によるIkBの分解を促進する。
【0079】
本発明のさらに別の態様において、BI‐69A11化合物は、DNA損傷応答を活性化するATM‐Chkシグナル伝達を活性化することが示された。
【0080】
本発明の別の態様は、BI‐69A11の構造を有する組成物に関し、ここで、この構造体は、DNA損傷応答を活性化するATM‐Chkシグナル伝達を活性化することができる。好ましくは、この構造体は、腫瘍治療のための調製物において使用される。
【0081】
AKTの阻害に加えて、追加的なプロテインキナーゼの阻害についてInvitrogen SelectScreen Kinase Profiling Serviceを用いて、BI‐69A11を試験した。Ser/Thrプロテインキナーゼであるチェックポイントキナーゼ2(CHK2)は、DNA損傷に対する細胞応答における重要な構成要素である。二本鎖DNAを破壊させるg照射などの遺伝子毒性ストレスに応じて、血管拡張性失調症変異(ATM)プロテインキナーゼが活性化し、それが順にCHK2などのいくつかの下流のエフェクターをリン酸化する。ATM‐CHK2シグナル伝達の活性化は、DNA損傷のチェックポイント応答を実施させ、DNA修復を開始するために細胞周期を停止させる。
【0082】
本発明のさらに別の態様は、メラノーマ癌を有する患者に、腫瘍の大きさを減少させるのに十分な量のBI‐69A11を投与することによって腫瘍の発達を阻害する、化合物および方法を提供する。
【0083】
従って、本発明の別の態様は、アポトーシスを正常化するためにアポトーシスの調節不全を特徴とする疾患または状態を有すると診断され、または有することが疑われる対象に、本発明に記載の有効量の薬学的組成物を投与することを含む、アポトーシスの調節不全を特徴とする疾患または状態を治療する方法である。疾患または状態は、典型的には癌であり、神経変性状態であり得る。疾患または状態を有すると診断されまたは有することが疑われる対象は、ヒトであり得るが、あるいは、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、および任意の他の真核生物からなる群より選択される社会的または経済的に重要な動物であり得る。アポトーシスは、真核生物の細胞調節における普遍的な過程である。
【0084】
本発明のいくつかの態様はすでに記載されている。それにもかかわらず、種々の改変が、本発明の精神および範囲を逸脱せずになされ得ることは理解されるであろう。従って、以下の実施例は、本発明の範囲を説明するよう意図されるものであるが、該範囲を制限しない。
【実施例】
【0085】
実施例1:Akt1阻害剤の選択
現在、大きな化学物質データベースの高処理量スクリーニングは、リード同定のための普遍的なアプローチである。しかしながら、タンパク質標的の3次元構造を考慮すると、計算上のドッキング研究を用いることによって試験されるべき化合物の数を制限することが可能なはずである。
【0086】
この実施例において、本発明者らは、Akt1キナーゼの報告された結晶構造に基づいたいくつかのアプローチを記載する。この方法論によって本発明者らは、ATP結合部位へのドッキングに関する予測される能力に基づいて、いくつかの可能性のある阻害剤を選択することができる。
【0087】
標的結合部位は、Akt1、非加水分解性形態のATP(AMP‐PNP pdb id:1O6K)、およびGSK‐3βに由来するペプチド‐基質を包含する、三元複合体の結晶構造に由来した(10)。ATP模倣薬由来の6.5Å内の残基を含めたタンパク質活性部位を規定した。水素原子は、Sybyl(11)(Tripos, St. Louis, MO)を用いて算出し、水分子、ペプチド基質、およびATP模倣薬を除外した。50000個の化合物(Chembridge San Diego, CA, USA)をその後ドッキングし、ソフトウェアFlexX(BioSolveIT, Sankt Augustin, Germany)に従って階級分けした(12, 13)。最初の試行において、本発明者らは、上位2000個の化合物を選択し、該化合物を他のスコア化関数で、CSCORE(14)(Sybyl)を用いて階級分けした。その後、本発明者らは、10μMで、Drugscore(15)に従って上位100個の化合物を、Goldscore(16)に従って上位200個の化合物を、Chemscore(17)に従って別の上位200個の化合物を実験的に試験した。残念なことに、GoldscoreおよびChemscore選択において共通の唯一の阻害剤(化合物2、5809365)が、Akt1アッセイを通じて認められた(表1)のに対し、Drugscoreによって選択された化合物からは阻害剤は認められなかった。加えて、本発明者らはまた、GOLD(18)を用いてFlexXの上位4000個の化合物をドッキングし、その後、上位200個の化合物を選択および試験した。再度、化合物2は結果的に、唯一の阻害剤として得られた(図1A)。図1は、採用された仮想ドッキングアプローチの模式図を示す。
【0088】
これらの結果に基づいて、本発明者らは、図1Bに記載された別の戦略を頼った。ここで、50000個のドッキングした化合物のうちの上位4000個の化合物をFlexXおよびDrugscoreを用いて選択した(BioSolvIT)。上位4000個のドッキングした構造をさらに、GoldscoreおよびChemscore関数(CSCORE)に従って評価および階級分けした。次に、共通の200個の化合物のリストを、両スコア化関数に従って階級分けされた上位700個の化合物のうちから選択した(図1B)。200個のドッキングした構造の視覚的分析は結果的に、ありそうにないドッキング幾何構造を有する100個の化合物を排除した。残りの100個の化合物を、Akt1に対して30μMまで実験的に試験した。阻害活性を、Invitrogen Corporationによって提供されるZ'-LYTE(商標)キットアッセイを用いることによって、選択された化合物について評価した(19)。実験的に試験した化合物のうち、少なくとも3つは、関心対象の阻害剤として明らかとなり、2つは、低μMの範囲のIC50値を示した。特に、化合物1および2(表1)は、唯一の公知の市販されているAkt阻害剤であるH‐89に匹敵する濃度範囲でAkt1を阻害し(20)、2.3μMおよび4.5μMのIC50値をそれぞれ生じた(図2のA〜B)。化合物3は、25.1μMのIC50値を示した。残りの選択された化合物は、30μMまで何ら阻害活性を示さなかった。図2における:A)化合物1(2.6μM)についてのIC50の評価。この曲線についてのHill傾斜は1.1である。B)化合物2(4.5μM)についてのIC50の評価。Corning(登録商標)384ウェルの少量用プレート(20μL)を用いた。蛍光酵素アッセイを、Invitrogen Corporationによって提供されるプロトコールに従って、蛍光プレート読み取り装置(Victor2, Perkin‐Elmer)を用いて実施した。IC50値は、シグモイド用量/反応式にデータを適合して、阻害の観察された百分率対阻害剤濃度の対数をGraphPad Prism(登録商標)を用いてプロットして決定した。C)Akt1についてのLineweaver‐BurkのKmおよびKm(見かけ)の評価。各測定は、三つ組で実施した。酵素反応のKmおよびVmax値を25℃で、増大するATP濃度(5、10、15、20、および25μM)を用いることによって決定した。KiおよびKm(見かけ)を、固定した阻害剤濃度で本文に報告されている通り算出した。すべての定常値をLineweaver‐Burkプロットにデータを適合することによって明確に評価した。D)GSK‐3を基質として用いるAkt1阻害アッセイ。10μMにおける化合物1および2(表1)とH89との比較。E)化合物1についての用量反応。25μLの1×キナーゼ緩衝液(25mMトリス、pH7.5;5mMリン酸β-グリセロール;2mMジチオスレイトール;0.1mM Na3VO4;および10mM MgCl2)におけるAkt(10ngの組換え酵素)を、2.5μLのDMSO(1%ストック)またはMPA‐D(1%DMSOにおける100μM)と混合した。試料を氷上で1.5時間インキュベートし、この時、基質として機能する1μgのGSK‐3融合タンパク質(Cell Signaling)、続いてATP(200μM)を各反応混合物に添加した。懸濁液を30℃で20分間インキュベートした後、3×SDS試料緩衝液(187.5mMトリス‐HCl、pH6.8;6%SDS;30%グリセロール;150mMジチオスレイトール;および0.03%ブロモフェノールブルー)の添加によって反応を終止させた。試料を5分間煮沸し、タンパク質を12%SDSポリアクリルアミドゲルで分離し、その後、ニトロセルロースメンブレンに転写した。メンブレンをウサギポリクローナル抗ホスホGSK‐3α/β(Ser21/9)(Cell Signaling)とともにインキュベートした。
【0089】
化合物1および2についての阻害活性をさらに評価するために、抗ホスホGSK‐3α/βおよび基質としてGSK‐3を用いるイムノブロッティングアッセイを用いることによって、第二アッセイを実施した(図2D〜E)。Z'-LYTE(商標)アッセイと一致して、両化合物は低μM範囲で、GS3Kリン酸化を阻害した。
【0090】
これらの知見を確認および拡大するために、本発明者らは、化合物1、2、および3によってAkt1の阻害のKi値及び種類を測定した(図2C)。これらの目的のために、本発明者らはまず、Z'-LYTE(商標)キットアッセイによって提供されるペプチドとAkt1とを包含する酵素反応のKmおよびVmaxを、ATPの濃度を変動させることによって決定した。上記のパラメータはそれぞれ、7.9μMおよび0.0205μmol分-1mg-1であるように思われた。次に、本発明者らは、10μM濃度の化合物1、20μMの化合物2、および50μMの化合物3を用いて、阻害剤のKi値を同定した(表1)。本発明者らの阻害剤はすべて、反応のVmaxよりもむしろKmに影響を及ぼしたので(図2C)、Akt1のATP競合的阻害剤と真に考えられ得る。
【0091】
最終的な非特異的相互作用の可能性を除外するために、本発明者らは、タンパク質濃度を10倍増大させた場合、および化合物をAkt1と30分間プレインキュベートした後にそのIC50値を測定することによって、化合物1について、IC50値に実質的な変化が検出されないことも実証した。これらの単純な試験は、非特異的リガンド‐タンパク質相互作用の存在下で劇的に異なるIC50値を付与することが示された(21)。
【0092】
加えて、本発明者らは、本発明者らの研究室で研究中のチロシンキナーゼである、非関連タンパク質Ab11に対して、本発明者らの化合物を試験した(22)。該化合物は、100μMまでの濃度でこのキナーゼを阻害しなかった。本発明者らは、異なるAktアイソフォームについて該化合物の選択性に関するデータを今のところ有していない。
【0093】
それゆえ、本発明者らの構造ベースのアプローチを用いて、本発明者らは、Akt1の3つの阻害剤を同定することができ(表1)、そのうちの2つは、H‐89の阻害活性に匹敵する阻害活性を示した(図2)。ドッキングした幾何構造に基づいて、かつ本発明者らの実験データと一致して、3つの阻害剤がすべて、ATPの触媒部位へとうまくそれ自体配置し、コファクターのアデノシン部分の結合と似ているように見える(図3A、B、C)。実際、各化合物は、残基Lys181、Ala232、Thr292、およびThr162(図3D)との水素結合相互作用に関与しており、AMP‐PNPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察されるものと類似している。図3において、A)、B)、およびC)Akt1のATP結合部位へとドッキングした化合物1、2、および3の構造。50000個の化合物の2次元構造を、CONCORD(25)またはCORINA(26)を用いて3次元構造に変換した。2つのドッキングプログラムを用いて、Akt1キナーゼに対して化合物をスクリーニングした。ドッキングした配座異性体を決定するために、FlexXプログラムはDrugscoreを適用した。GOLDパッケージは、Goldscore適合関数を用いてリガンドをドッキングした。共通スコア化は、CSCORE(Sybyl)を用いることによって得た。D)化合物1とAkt1触媒ポケットに存在する残基の間の水素結合。
【0094】
従って、化合物1の、追加的な13個の類似体の阻害特性の測定結果は、上記の残基と水素結合を形成することのできる、化合物4および5のみが、μM範囲のはっきりと感知できる阻害を示すことを明らかにした(表2)。
【0095】
それゆえ、所与の化合物が水素結合相互作用に関与する能力は、他のプロテインキナーゼ(23)および他のドッキング研究(27)において既に報告されたように、阻害剤‐Akt1複合体のすべてにおいて必須であるように見える。実際、水素結合を形成する能力を、候補阻害剤の選択について考慮に入れる場合、30個の化合物しか選択されないであろう。図1Bに記載の通り、本発明者らの選択された30個の化合物は、3つのヒットをすべて含んでおり、従って、10%のヒット率を生じる。
【0096】
多くの信頼できるインシリコでのアプローチおよび確固たるインビトロでの市販のアッセイの利用可能性にもかかわらず、Akt阻害剤を発見することは、なおも挑戦的な課題を残している。いくつかの試みがこの分野で実施されてきたが、H‐89を除き、Akt1に対する市場性の高い阻害剤は現に存在しない。実際、高処理量スクリーニングに基づいた研究に関するごく近年の文書報告では、270,000個の試験された化合物のうちでたった2つの低μMのAkt1阻害剤のみが特徴づけされた(23)。
【0097】
その上、Aktキナーゼ活性を遮断できる分子を同定する本発明者らの継続的な尽力の間に、本発明者らは、Akt1に対して最大30μMの濃度で2000個の天然産物のライブラリー(Microsource)を試験したが、効果的な低μM阻害剤としての化合物は現れなかった(データ非表示)。
【0098】
結論として、本実施例において、本発明者らは、Akt1を阻害する化合物を発見するために採用した2つの異なる構造ベースの戦略を記載している。図1Aに記載した戦略を適用する場合、スコア化関数によって提供される結果を単純に信頼して、非常に残念なことに、ヒット率は、無作為なアプローチから期待されたものよりもわずかに優れているに過ぎないように見えた(0.01〜0.5%)(24)。しかしながら、本発明者らのドッキング方法論の結果を、スコア化関数と、AMP‐PNPとの複合体におけるAkt1の結晶構造において観察されるものと類似の水素結合パターンの間の一致を考慮することによって分析すると、顕著な10%のヒット率に最終的に到達した(図1B)。
【0099】
本発明者らは、本明細書に記載の2つの低μM阻害剤が、ヒト腫瘍細胞におけるAkt1活性を妨げることのできる、強力かつ選択的な分子を見出すための開始地点を表し得ると考えている。
【0100】
実施例2:AKT阻害剤としてのBI‐69A11の同定
本発明者らは近年、AKT阻害剤を同定するためのいくつかのインシリコのアプローチの直接的な評価に関して報告した(Forino et al., 2005)。本発明者らは、蛍光ベースの酵素アッセイおよびタンパク質GSK‐3を包含する基質リン酸化アッセイの両方を用いて、選択された化合物の実験的バリデーションを達成した(Forino et al., 2005)。簡潔には、仮想ドッキングアプローチは、2つの異なるスコア化関数のうちの一致スコアを含めた種々の計算上のドッキングアプローチを用いて、50,000個のドッキングした化合物のうちの上位4,000個を選択することからなる(Forino et al., 2005)。それらのうち、100個の化合物を、階級分けおよび好ましいドッキング幾何構造に基づいて選択した。最終的に、低μM範囲のIC50値でAKT活性を阻害する能力に基づいたさらなる評価のために、2つの化合物を選択した。化合物BI‐69A11(図4)は、市販のAKT阻害剤であるH‐89と匹敵する濃度範囲でAKT1を阻害し、ATP競合的阻害を通じて2.3μMのIC50値を生じた(Forino et al., 2005)。BI‐69A11は、100μMの高濃度でさえ、Abl1、p38.α、JNK、およびPI3Kを含めた他のプロテインキナーゼの活性に影響を及ぼさなかった。
【0101】
ドッキングした幾何構造に基づいて、および本発明者らの実験データと一致して、BI‐69A11がATPの触媒部位に結合することなく適合し、コファクターのアデノシン部分の結合に類似していると考えられる(図4)。PKB/AKTのATP部位(pdb:1O6K) におけるBI‐69A11の推定結合モード(Yang et al., 2002)は、BI‐69A11が残基Lys181、Thr292、およびGlu279と3つの水素結合を形成することを示唆している(図1)。これらは、AKTに対する阻害特性を、および隣接する疎水性領域を占めるベンズイミダゾール環を説明するであろう。これらのBI‐69A11の好ましい阻害特性は、BI‐69A11の合成および細胞ベースでの評価をさらに促進した。
【0102】
実施例3:メラノーマ細胞におけるBI‐69A11の特徴づけ
メラノーマ細胞に及ぼすBI‐69A11の有効性を評価するために、本発明者らは、MeWO細胞におけるAKTのリン酸化に及ぼす、異なる濃度の効果を評価した。低用量(0.3μM未満)は、AKTリン酸化に影響を及ぼさなかったのに対し、3μMのBI‐69A11の用量は、AKT活性についてのマーカーとして機能するS473に関して、AKTリン酸化の部分的な阻害を生じた(図5A)。細胞死の分析は、メラノーマ細胞の約60%が、3μM用量のBI‐69A11による処理後24時間以内に死滅することを明らかにした(図5B)。これらのデータは、AKTリン酸化およびメラノーマ細胞死に及ぼすこの阻害剤の有効性についての最初の支持を提供する。
【0103】
これらの最初の知見を実証するために、本発明者らは、メラノーマ細胞株、前立腺腫瘍細胞株、乳房腫瘍細胞株の間で、AKTリン酸化および細胞死に及ぼすBI‐69A11の効果を比較するよう設定した。3μMの濃度が、AKTリン酸化の部分的な阻害を生じたので、本発明者らは、2つのより高濃度、すなわち5および10μMのBI‐69A11の効果を今や比較した。MeWoメラノーマ細胞と比較して、PC3前立腺腫瘍細胞は、BI‐69A11による処理の際に等しく影響された。両方の場合において、AKTリン酸化の基礎レベルは、5μMおよび10μMの用量によって効果的に阻害された(図5C)。顕著なことに、これらの用量のBI‐69A11におけるAKTリン酸化の低下は、AKTタンパク質の低いレベルと一致した(図5B)。対照的に、AKTタンパク質レベルは、恒常的に活性のあるAKTを発現しないMCF7細胞において影響されなかった(Lu et al., 2006;図5B)。これらの最初のデータは、BI‐69A11がAKTに影響するために、AKTのリン酸化が必要とされているかもしれず、そのことが、AKTタンパク質レベルの低下を生じ、また、そのリン酸化のレベルにおいて反映されることを示唆している。AKTリン酸化に及ぼすBI‐69A11の効果と一致しているのは、細胞死に及ぼすその効果であった。5μMのBI‐69A11による処理の4時間以内に、PC3およびMeWoの両方の約25%が細胞死した(図5D)。印象的なことに、このような処理は、MCF7細胞の生存可能性に影響を及ぼさなかった(図5D)。これらのデータは、BI‐69A11が、AKTの活性型を発現する腫瘍細胞の効果的な死滅を生じることを示唆している。これらの知見と一致して、増殖因子の存在下での培養において増殖したメラニン形成細胞は、活性型のAKTを発現し、このことは、培養時にこれらの因子が12〜24時間枯渇している場合には、もはや見られない。増殖因子が維持され、BI‐69A11で処理されたメラニン形成細胞は、AKTリン酸化の効率的な阻害を生じ、このことは、細胞死と一致しており、それに対し、増殖因子が(24時間)枯渇していたメラニン形成細胞の処理はもはや、これらのメラニン形成細胞に及ぼす毒性効果を誘発しない(データ非表示)。
【0104】
実施例4:BI‐69A11は、AKT活性、AKTタンパク質レベル、およびHSP90とのAKTの会合を阻害する
BI‐69A11によるAKTの阻害をさらに特徴づけるために、本発明者らは、PTENが不活性である(UACC903細胞)かまたは、野生型PTENによる10番染色体の再構成により活性である(クローン29‐1;Robertson et al., 1998)かのいずれかである1セットのメラノーマ細胞を用いた。
【0105】
UACC903細胞にBI‐69A11を添加すると、pAKT Ser473のレベルの用量依存的な低下が生じた(図6A)。従って、本発明者らは、AKT活性を阻害するBI‐69A11の能力が、AKTタンパク質発現の阻害に由来し得る可能性を試験するよう設定した(以下のデータを参照のこと)。従って、本発明者らは、AKT Ser473のリン酸化の阻害が、その活性、すなわち公知のAKT基質のリン酸化と一致するかどうかを評価した。示されるように、PRAS40のリン酸化は、これらの細胞において顕著に阻害された(図6B)。重要なことに、メラノーマ細胞におけるAKTの種として活性のあるアイソフォームAKT3は、PRAS40を効果的にリン酸化する(Madhunapantula et al., 2007)。
【0106】
本発明者らは次に、UAC903の誘導細胞であり、野生型PTENを有する10番染色体で再構成された29‐1細胞においてBI‐69A11の効果を試験した。従って、29‐1細胞はもはや、恒常的活性型AKTを発現しない(Robertson et al., 1998)。AKTを活性化するために、29‐1細胞をIGF‐1で処理した(図6B)。AKTの活性化およびPRAS40の同時のリン酸化を結果として生じるが(UACC903細胞と比較すると程度はより低いものの)、BI‐69A11の添加は、PRAS40のリン酸化を効果的に阻害した(図6B)。これらの結果は、BI‐69A11が、AKT活性の強力な阻害剤として機能し得ることを示唆している。
【0107】
AKTタンパク質のレベルに及ぼすBI‐69A11の効果を考える、本発明者らは、このような効果に潜む考えられ得る機序を評価した。第一に、本発明者らは、BI‐69A11が、AKT転写産物のレベルに影響を及ぼすかどうかを評価した。BI‐69A11による処理ありおよび処理なしで、メラノーマ細胞から調製されたRNAをQPCR分析に供した。このような分析は、AKT転写産物における差を同定せず(データ非表示)、該阻害剤が、AKTのmRNAに影響を及ぼさないことを示唆した。
【0108】
細胞タンパク質のうち、AKTレベルの調節に関与するのは、細胞シャペロンHSP90である。ゲルダナマイシン抗生物質によって普遍的に達成されるHSP90シャペロン機能の阻害は、立体配座の成熟およびその関連タンパク質の再折りたたみに干渉し、それによりその分解を促進する(Munster et al., 2002;Neckers and Neckers, 2003)。AKTは、HSP90の阻害によって直接的にまたは間接的にのいずれかで影響されることが示された(Basso et al., 2002;Xu et al., 2003;Fujita et al., 2002;Theodoraki et al., 2007)。従って、本発明者らは、AKTとHSP90との会合が、BI‐69A11によって影響され得るかどうかを評価した。メラノーマ細胞からAKTを免疫沈降させることで、免疫沈降した材料におけるHSP90を同定した。このような会合は、しかしながら、BI‐69A11阻害剤による処理後に消滅した(図6C)。BI‐69A11が、低いAKTタンパク質レベルを生じるので(図2C、3A、3Cの溶解物パネル)、本発明者らは、AKTレベルが比較できる条件下でこのような会合をモニターしたかった。この目的のために、本発明者らはまた、プロテアソーム阻害剤MG132の存在下で実験を実施した。MG132は、AKTタンパク質発現のレベルを回復させたが、HSP90のAKTとの会合を回復させなかった(図6C)。これらのデータは、BI‐69A11による処理後に見られるAKTレベルの低下が、HSP90シャペロンとの会合の崩壊に起因し得ることを示唆している。BI‐69A11がまた、他のHSP90クライアントタンパク質にも影響し得るかどうかを決定するために、本発明者らは、その安定性がゲルダナマイシンによって影響されるHPS90クライアントタンパク質であることが示された、2つの短い生きたタンパク質、p53およびc‐Junのレベルの変化をモニターした。BI‐69A11は、c‐Junタンパク質レベルに影響を及ぼさず、p53のレベルに対して限定された効果を有していた(データ非表示)。これらのデータは、BI‐69A11が主としてAKTに影響し、HSP90と会合するAKTの能力に干渉することを強調している。
【0109】
実施例5:BI‐69A11は、活性型AKTを発現するメラノーマ細胞における、より効果的な細胞死を誘発する
AKT活性が腫瘍細胞の生存に重要であるので、その阻害は、細胞死を結果的に生じると期待される。本発明者らは従って、BI‐69A11で処理したメラノーマ細胞における細胞死をモニターした。1μMの低い濃度で、BI‐69A11は、処理後24時間以内で効果的な細胞死を生じた。興味深いことに、阻害剤の効果は、野生型PTENが再構成された29‐1細胞と比較して、PTEN突然変異メラノーマ細胞においてより顕著であった(図7A)。同様に、より早期の時点と比較すると、より高い用量の阻害剤が、6時間の時点以内に細胞死を達成するのに必要であるにもかかわらず、BI‐69A11は、PTEN突然変異メラノーマに及ぼす、より強い効果を呈した(図7A)。これらの知見と一致して、PARP切断は、29‐1株と比較してUAC903細胞においてより顕著であった(図7B)。これらのデータは、より高いAKT活性を有するメラノーマ細胞に及ぼす、BI‐69A11のより効率的な効果を示している。
【0110】
実施例6:BI‐69A11は、メラノーマの異種移植を阻害する
BI‐69A11によって誘発される効率的な細胞死の点において、本発明者らは、マウス異種移植における腫瘍の発達に及ぼすその活性を評価した。この目的のために、PTEN突然変異を有する903ヒトメラノーマ細胞をヌードマウスに皮下注射し、腫瘍を10日間にわたって形成させた。腫瘍がおよそ1mm3の大きさに達すると、マウスにBI‐69A11(0.5〜2.0mg/kg)または対照(DMSO;0.1%、阻害剤を溶解するのに使用)で1週間あたり2回、腹膜内注射した。BI‐69A11についてのこの用量範囲の選択は、5mg/kg用量で毒性を明らかにした初期のMTDアッセイに基づいていた(データ非表示)。顕著なことに、BI‐69A11は、メラノーマ腫瘍のさらなる発達を効果的に阻害する。さらに、阻害剤による処理は、これらの腫瘍における効率的な退縮を生じた(図8A)。興味深いことに、より低濃度のBI‐69A11は、より高い濃度と比較して、メラノーマの発達の阻害において効率的であり、おそらくそれよりもわずかにより効率的であった(図8A)。重要なことに、実験終了3日前に阻害剤を除去すると、低濃度の阻害剤で処理したマウスにおける腫瘍の大きさの初期的な増加が生じたが、より高い用量を受容したものではそうではなかった(図8Aにおける、22および24日の棒を比較されたい)。Tunel染色を用いて、アポトーシスについての各処理群に由来する腫瘍の分析は、対照腫瘍と比較して処理群においてより高い程度のアポトーシスを明らかにした。顕著なことに、低用量の治療から得られた腫瘍は、より高いレベルのアポトーシスを呈した(図6B、6C)。これらのデータは、BI‐69A11誘発性アポトーシスが、一部、本発明で試験したメラノーマ腫瘍の退縮を生じさせる機序であることを示唆している。本データはまた、BI‐69A11がメラノーマ腫瘍のインビボでの発達の効果的な阻害を誘発することも示唆している。
【0111】
本発明は、共通のスコア化に基づいた仮想ドッキングアプローチを用いることによって同定されたAKTについての競合的阻害剤であるBI‐69A11の活性を解明する(Forino et al., 2005)。初期の分析に基づいたこの阻害剤について期待される特性は、AKTに対する競合的阻害を推定した。その生物活性についての阻害剤の分析は、AKTが普遍的に活性亢進しているメラノーマ細胞において実施された。903メラノーマ細胞系を用いて、本発明者らは、PTENが欠失している元来の細胞と、PTENが再構成された細胞(クローン29‐1)とでBI‐69A11の活性を比較することができた。明らかに、BI‐69A11が903細胞におけるAKTリン酸化を効果的に遮断したのに対し、29‐1細胞に及ぼす効果は限定されなかった。重要なことに、阻害剤は、29‐1細胞において、AKTの公知の下流の標的であるPRAS40のIGF誘発性AKTリン酸化を遮断することができ、PTEN野生型細胞において誘発された生理学的刺激に影響を及ぼすことができることを示唆した。BI‐69A11は、前立腺腫瘍PC3細胞におけるのと同様に、MeWoを含めた他のメラノーマ細胞株におけるAKTリン酸化の阻害において効率的であった。
【0112】
重要なことに、AKTリン酸化に及ぼすBI‐69A11の効果は、AKTタンパク質レベルに及ぼすその効果と連関しているように見える。本発明者らの初期の分析は、HSP90とのAKTの会合が、BI‐69A11で処理したメラノーマ細胞において阻害されることを明らかにしている。クライアントタンパク質とのHSP90複合体の阻害がその安定性に影響を及ぼすことが示されたので、この知見は、BI‐69A11で処理した細胞における減少したAKTタンパク質の性質を説明しそうである。これらの知見と一致して、近年の証拠は、Ser473においてAKTをリン酸化することが示されている、mTOR、SIN1、mLST8、およびリクター(rictor)からなる複合体mTORC2も、HSP90との相互作用を通じてAKTを安定化させ、従って、ユビキチン仲介性分解を通じてのその保護を容易にすることを示している(Facchinetti et al., 2008)。結びつけられることなく、本発明者らは、この残基におけるAKTの脱リン酸化が、AKT‐HSP90会合を不能にし、AKTを不安定にさせることを提唱する。後者は、安定性がAKTと比較してBI- 69A11によって影響されない、他のHSP90クライアントタンパク質の初期の分析と一致している。
【0113】
意義深いことに、BI‐69A11による阻害は、メラノーマ細胞のアポトーシスを結果として生じ、このような細胞におけるAKT阻害効果に関する先行報告と一致した。同様に、BI‐69A11は、活性型AKTを発現するPC3前立腺腫瘍細胞における効率的な細胞死を生じた。重要なことに、AKT活性に及ぼすこの阻害剤の主要な効果と一致して、AKTの活性型を有する腫瘍細胞において、阻害の程度がより大きかった。これらの知見と一致して、阻害剤は、恒常的活性型AKTを発現しないMCF7乳癌細胞の生存率に影響せず、さもなければAKT活性を誘導するであろう増殖因子を枯渇したメラニン形成細胞にも影響しなかった。これらの知見は、活性型AKTを発現する細胞に及ぼすBI‐69A11の有効性を実証する。意義深いことに、BI‐69A11は、異種移植モデルにおけるメラノーマ腫瘍の発達および転移を効率的に阻害した。全体として、本研究は、選択的AKTシグナル伝達経路に影響するAKT阻害剤の初期の特徴づけを提供する。異種移植モデルにおける効果的な細胞死および腫瘍発達の阻害は、前臨床および臨床評価についてBI‐69A11のさらなる研究を正当化する。
【0114】
実施例7:BI‐69A11は、NFkB経路を阻害する
本発明者らはまず、BI‐69A11が、未処理の細胞における、標準のNF‐kB経路(図10)の活性化を阻害するかどうかを試験した。ビヒクルで処理したUACC903メラノーマ細胞をNF‐kB活性化因子である腫瘍壊死因子α(TNF‐a)で刺激すると、結果的にIKKのリン酸化および活性化が生じ、2〜5分以内にIkBのリン酸化およびその後の分解をもたらした。対照的に、BI‐69A11で処理した細胞において、IKKおよびIkBの両方のリン酸化は、TNF‐a刺激に応じて阻害された。さらに、IkBタンパク質の分解が阻害された。これらのデータは、BI‐69A11がNF‐kB経路を阻害することを示唆している。
【0115】
実施例8:選択されたBI‐69A11類似体はNFkB経路を阻害する
本発明者らは次に、選択されたBI‐69A11類似体がNF‐kB経路を阻害する能力を試験した(図11)。本実験において、UACC903細胞をビヒクル、BI‐69A11、または類似体で処理し、TNF‐aで刺激し、刺激5分後に回収した。先行実験のように、BI‐69A11は、IKKおよびIkBのリン酸化を阻害した。また、BI‐69A11の類似体であるBI‐83G10も、BI‐69A11の阻害に等しい阻害を示したのに対し、BI‐98C11も阻害を示したが、その程度はより低かった。試験した他の類似体(BI‐83H1、‐83H2、‐87A2、‐87A3、‐87A5、‐98A11、‐101G9、‐103D1、‐103F6、‐103F7)は、NF‐kBシグナル伝達を阻害しなかった。
【0116】
実施例9:BI‐69A11または類似体BI‐83G10およびBI‐98C11の存在下での低い細胞生存率
BI‐69A11がメラノーマ細胞生存率を低下させるので、本発明者らは次に、BI‐69A11または類似体BI‐83G10およびBI‐98C11によるNF‐kBの阻害が、細胞生存率と任意の相関を示すかどうかを取り組んだ(図12)。先行結果に従って、BI‐69A11は、UACC903細胞の生存率を低下させたのに対し、BI‐83G10は、同様の効果を示した。興味深いことに、BI‐98C11は、BI‐69A11または‐83G10と比較して細胞生存率に及ぼす低い効果を示した。生化学的データと併せて考えると、これらの結果は、BI‐69A11の存在下での細胞生存率が、NF‐kB阻害の程度と相関し、この経路をBI‐69A11の追加的な標的として含意することを示唆している。
【0117】
実施例10:BI‐69A11は、DNA損傷応答を活性化させる
BI‐69A11の考えられ得る標的としてInvitrogen SelectScreenにより同定されたCHK2のように、本発明者らは、DNA損傷により誘発されたCHK2の活性化が、未処理の細胞でBI‐69A11によって阻害されるかどうかを試験した。このことを達成するために、本発明者らは、ビヒクルまたはBI69A11で処理した細胞をγ照射し、活性化の十分に特徴づけられた代替である、ATMおよびCHK2のリン酸化を検討した(図13)。ビヒクルで処理した細胞において、γ照射は、ATMおよびCHK2の強いリン酸化をもたらした。しかしながら、BI‐69A11は、γ照射後にATMまたはCHK2のリン酸化を阻害せず、CHK2を阻害しないことを示唆した。代わりに、照射の不在下でのBI‐69A11による細胞の処理は驚くべきことに、ATMおよびCHK2のリン酸化をもたらし、BI‐69A11がDNA損傷応答を活性化させることを示唆している。
【0118】
実施例11:Chk2リン酸化に関するBI‐69A11類似体の評価
本発明者らは次に、UACC903細胞における、CHK2のリン酸化を刺激する能力について、BI‐69A11類似体のパネルを検討した(図14)。NF‐kBアッセイにおける本発明者らの結果と同様に、BI‐69A11およびBI‐83G10の両方は、CHK2の活性化を同様の程度まで誘発したのに対し、BI‐98C11は、CHK2活性化をより低い程度まで誘発した。これらのデータは、BI‐69A11がまた、ATM‐CHK2シグナル伝達によって仲介されるDNA損傷応答も誘発することができることを示唆している。
【0119】
定義
BI‐69A11を指す場合、用語「類似体」または「誘導体」には、BI‐83G10、BI‐98C11、BI‐103F6、BI‐83H2、BI‐101G9、BI‐87A3を含めた、図16に示される式を含むが、これらに限定されない。
【0120】
化合物BI‐69A11およびその類似体は、1つ以上のキラル中心を含み、異なる光学活性形態で存在する。化合物が1つのキラル中心を含む場合、化合物は、2つの鏡像異性形態で存在し、本発明には、鏡像異性体および、ラセミ混合物など、鏡像異性体の混合物の両方が含まれる。鏡像異性体は、当業者に公知の方法によって、例えば、結晶化によって分離され得るジアステレオ異性体塩の形成;例えば結晶化、気体‐液体または液体クロマトグラフィーによって分離され得るジアステレオ異性体誘導体または複合体の形成;1つの鏡像異性体の鏡像異性体特異的試薬との選択的反応、例えば酵素エステル化;キラル環境における、例えばキラル溶媒の存在下での、キラル支持体上での、例えば、結合したキラルリガンドを有するシリカ上での、気体‐液体または液体クロマトグラフィーによって分離され得る。所望の鏡像異性体が、先に記載の分離手順のうちの1つによって別の化学実体へと変換される場合、さらなる工程が、所望の鏡像異性体形態を遊離するのに必要とされることが認められるであろう。あるいは、具体的な鏡像異性体は、光学活性のある試薬、基質、触媒、もしくは溶媒を用いる不斉合成によって、または1つの鏡像異性体を不斉転換によってその他に変換することによって合成され得る。
【0121】
化合物が1つ以上のキラル置換基を有する場合、ジアステレオ異性体形態で存在し得る。ジアステレオ異性体対は、当業者に公知の方法、例えば、クロマトグラフィーまたは結晶化によって分離され得、各対内の個々の鏡像異性体は、先に記載の通り分離され得る。本発明には、構造式Iの化合物の各ジアステレオ異性体及びその混合物が含まれる。
【0122】
BI‐69A11のある化合物は、分離可能であり得る異なる安定した立体配座形態で存在し得る。例えば、立体障害または環の歪みのため、非対称性単結合の周りで制限された回転によるねじれ非対称性によって、異なる配座異性体の分離が可能となり得る。本発明には、BI‐69A11の化合物の各立体配座異性体およびそれらの混合物が含まれる。
【0123】
BI‐69A11のある化合物は、双性イオンの形態で存在し得、本発明には、BI‐69A11の化合物の各双性イオンの形態およびそれらの混合物が含まれる。
【0124】
別段の記載がない限り、すべての無水溶媒は市販されており、窒素下でしっかり密封された瓶に保存されている。すべての他の試薬及び溶媒は、入手可能な最高級として購入し、さらに精製せずに用いた。NMRスペクトルは、Varian 300 または500MHz機器で記録した。化学シフト( )は、1H(0.00におけるMe4Si)に対して引用される百万分率(ppm)で報告される。カップリング定数(J)は、終始Hzで報告される。質量スペクトルデータは、低分解能についてはEsquire LC00066において、高分解能についてはMicromass 70 SEQにおいて、または低分解能もしくは高分解能のいずれかについて調整されたJEOL LCにおいて獲得した。反応の進行は、TLCによってモニターした。
【0125】
用語「薬学的に許容し得る」は、担体、希釈剤、賦形剤、および塩が、製剤の他の成分と適合性がなければならず、その受け手に対して有害であってはならないことを意味する。本発明の薬学的製剤は、周知のかつ容易に入手可能な成分を用いた当技術分野で公知の手順によって調製される。
【0126】
「有効量」は、任意の多形形態にある構造式Iに記載の化合物の、またはその塩の、その意図される効果を生じることのできる量を意味する。
【0127】
用語「治療有効量」または「薬学的有効量」は、疾患もしくは状態に影響し、そのさらなる進行を防止し、または疾患もしくは状態と関連した症状を寛解させるのに十分な量を含むよう意図される。このような量は、疾患または状態を進行しやすいと考えられる患者に予防的に投与することができる。また、このような量は、患者に予防的に投与される場合、影響される状態の重症化を予防または低下させるのに効果的でもあり得る。
【0128】
「予防すること」は、レシピエントが、本明細書に記載の任意の病理学的状態に陥るまたは進行するであろう見込みを低下させることを指す。
【0129】
用語「細胞株」は、本明細書で使用する場合、別段の記載がない限り、UACC903細胞および29‐1細胞を指す。細胞を、10%FBSを補充したDMEMで培養し、37℃で5%CO2において維持した。細胞を75%培養密度まで蒔種し、37℃で一晩増殖させた。プレートを無血清DMEM培地で2回すすぎ、適切な濃度の化合物をプレートに添加した。細胞を、異なる時点でかき取る(ウェスタンブロッティング用)かまたはトリプシン処理(細胞増殖アッセイ用)によって適宜回収した。
【0130】
ウェスタンブロッティング技術のために、細胞を、50mM TrisHCl、pH7.4、150mM NaCl、2mM EDTA、1%NP‐40、0.1%SDSを含むRIPA緩衝液において溶解した。Coomassie Proteinアッセイキット(Thermo Scientific, Rockford, IL, USA)を用いてタンパク質濃度を概算した。等濃度の細胞溶解液(30〜50μg)を10%ポリアクリルアミドゲルにおいて分離し、Nitrocelluloseメンブレン(GE Amersham)へと転写した。メンブレンを、0.05%Tween 20を含むTris緩衝塩類溶液における3%BSAまたは5%無脂肪乾燥乳のいずれかにおいて1〜2時間ブロッキングした。一次抗体インキュベーションを4℃で振蘯しながら一晩実施した。ブロットを洗浄した後、二次抗対インキュベーションを室温で1時間実施した。洗浄後、ブロットを適切な波長でOdyssey Licorスキャナで走査し、Odysseyソフトウェアを用いて画像を捉えた。
【0131】
抗体産生のために、pAKT473をCell Signaling Technologies(Beverly, MA, USA)から、総AKT、pPRAS40、および総PRAS40をBiosourceから、PARP(Cell Signaling Technologies)(Beverly, MA, USA)、c‐Junおよびp53(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA, USA)、HSP‐90(Abcam, Cambridge, MA, USA)、ならびにアクチン(Sigma, St. Louis, MO)を得た。二次抗体は、Alexafluor 580と結合したヤギ抗ウサギ、およびAlexafluor 800と結合したヤギ抗マウスであった。
【0132】
増殖アッセイのために、細胞を上記のとおり処理した。しかしながら、細胞をかき取って無血清培地へ移す代わりに、接着細胞を穏やかにトリプシン処理しながら、浮遊細胞を15mL遠心チューブに回収した。総細胞集団をプールし、Trypan Blueで染色した後に血球計で計数した。死細胞の百分率を、死細胞/総細胞×100の数を算出することによって決定した。本実験は、三つ組で各々2回実施した。
【0133】
腫瘍研究のために、UACC903細胞(1×106)を皮下注射し、腫瘍の大きさを1週間に2回、キャリパーを用いてモニターした。BI‐69A11の投与は、腫瘍がおよそ1mm3の大きさに達すると、1週間に2回、腹腔内注射を介して実施した。マウスに異なる濃度(0.5mg/kg、1.0mg/kg、2.0mg/kg)のBI‐69A11、または阻害剤を溶解するために用いた対照DMSO(0.1%)を注射した。すべての注射物をエタノールとクレモフォアとの混合物(1:1)へと入れ、1回の注射につき合計300μLの塩類溶液(エタノール‐クレモフォア10%終濃度)に懸濁した。腹腔内注射を週2回、3週間実施した。研究の終了時に、腫瘍を回収、秤量、および測定した。
【0134】
タネルアッセイおよび定量的分析のために、末端デオキシリボヌクレオチジルトランスフェラーゼ仲介性dUTPニック末端標識(TUNEL)によって、断片化したDNAによる核の検出を、ApopTag Peroxidase In situ Apoptosis Detection Kit(Chemicon, Temecula, CA, US)を用いて、製造元の説明書に従って達成した。Meyers Hematoxylinを対比染色として用いた。スライドをAperio ScanScope(登録商標)CSシステム(Aperio Technologies, CA, US)を用いて、40倍の倍率(0.25μm/画素[100,000画素/インチ]の解像度)で走査した。核アルゴリズムを有するSpectrum Analyticsパッケージおよび分析ソフトウェアImage Scope(Aperio)を適用し、腫瘍検体の横断面全体に存在するタネル陽性細胞を定量化した。
【0135】
コンピュータモデル化のために、AKTのATPポケットにおけるBI‐69A11の推定結合モード(pdb:1O6K)を、ドッキングソフトウェアGOLD(GOLD, バージョン3.2. The Cambridge Crystallographic Data Centre, Cambridge, UK)を用いて作製した。
【0136】
値の範囲に関して、本発明は、文脈が別段に明確に示さない限り、下限の単位の少なくとも10分の1に対する範囲の、上限と下限の間の各介在値を包含する。その上、本発明は、記載された範囲から具体的に除外されない限り、範囲の上限及び下限のいずれかまたは両方を含めたその他の記載された介在値および範囲を包含する。
【0137】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術および科学用語の意味は、本発明の属する技術分野の当業者によって普遍的に理解されるものである。当業者はまた、本発明に記載のものと類似のまたは等価の任意の方法および材料がまた、本発明を実施または試験するために使用することもできることを認識するであろう。
【0138】
本明細書で論議される刊行物および特許は、本出願の出願日に先立って、単に該刊行物および特許の開示のために提供される。本発明が、先行発明によってこのような刊行物に先立つよう権利を与えられないことは、本明細書において承認として解釈されるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は、独立して確認されることが必要かもしれない実際の刊行日とは異なり得る。
【0139】
引用されるすべての刊行物は、すべての特許公開、特許出願、参考文献、およびそれらの刊行された文書に組み込まれた刊行物を含め、それらのすべての内容が全体として引用により本明細書に組み込まれている。しかしながら、引用により本明細書に組み込まれた任意の刊行物が公開されるべき情報を指す限り、出願者は、本出願の出願日の後に刊行されたこのような任意の情報が背景技術であることを認めない。
【0140】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形は複数形を含む。例えば、用語「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」は、別段の明確な記載がない限り、複数の引用を含む。加えて、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、その一連のあらゆる要素を指すものとして理解されるべきである。本明細書に例証的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない任意の要素(element)または要素(elements)、制限(limitation)または制限(limitations)の不在下で適切に実施することができる。従って、例えば、用語「を含むこと(comprising)」、「を含むこと(including)」、「を含むこと(containing)」などは、拡張的にかつ制限を有さずに読み取られるはずである。加えて、本明細書で採用される用語および表現は、明細書の用語として用いられており、制限はなく、将来示され及び記載される任意の等価物またはその任意の部分を除外するこのような用語および表現の使用に意図はなく、種々の改変が、主張される本発明の範囲内で可能であることが認識される。従って、本発明が、好ましい実施態様および任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書に開示された本発明の改変および変種が、当業者によって参照することができ、およびこのような改変および変種が、本明細書に開示された本発明の範囲内であると考えられることは理解されるべきである。本発明は、本明細書に広範かつ包括的に記載されている。また、包括的な開示の範囲内に収まる、より狭い種および副包括的なグループ分けも、本発明の一部を形成する。これには、摘出された材料が具体的にそこに存在するかどうかにかかわらず、属から任意の対象物質を除去することという条件または負の制限をともなって各本発明の包括的な記載を含む。加えて、本発明の特徴または態様が、マーカッシュ群の点で記載されている場合、当技術分野で修養した者はまた、マーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループの点で記載されることを理解するであろう。先の記載が、例証的であり制限的ではないよう意図されていることも理解されるべきである。多くの実施態様は、先の記載を概説する際、当業者に明らかであろう。それゆえ、本発明の範囲は、先の記載に関して決定されるべきではなく、替わりに、このような特許請求の範囲が権利を有する等価物のすべての範囲とともに、添付の特許請求の範囲に関して決定されるべきである。当業者は、慣例の実験のみを用いて、記載された本発明の具体的な実施態様に対する多くの等価物を認識するであろうし、または確認することができるであろう。このような等価物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるよう意図される。
【0141】
引用文献






【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(II)の化合物2:

ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩。
【請求項2】
図15に同定される化合物83G10、98C11、103F6、83H2、および101G9から選択される、請求項1に記載の式(II)の化合物2の類似体。
【請求項3】
以下:
a.式(II)の化合物2ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩;および
b.薬学的に許容し得る担体
を含む、薬学的組成物。
【請求項4】
Akt1キナーゼ活性を阻害するのに有効である、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
約100μM未満から約5μM未満までのIC50を有する、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
NFkB活性を阻害するのに有効である、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
約100μM未満から約5μM未満までのIC50を有する、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
治療的有効量の式(II)の化合物2ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩、ならびにそれらの薬学的組成物を投与する工程を含む、癌を治療する方法。
【請求項9】
前記癌がメラノーマを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
治療的有効量の式(II)の化合物2ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩、ならびにそれらの薬学的組成物を投与する工程を含む、アポトーシスおよび神経形成状態の調節不全を特徴とする、状態を治療する方法。
【請求項11】
治療的有効量の式(II)の化合物2ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩、ならびにそれらの薬学的組成物を投与する工程を含む、高いAKT活性を有する患者またはAKTの発現が高い患者における、AKT活性を低下させるための方法。
【請求項12】
前記患者が、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、およびガチョウからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記投与が、前記高いAKT活性の1つ以上の症状を軽減または予防するのに有効である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
治療的有効量の式(II)の化合物2ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩、ならびにそれらの薬学的組成物を投与する工程を含む、高いNFkB活性を有する患者またはNFkBの発現が高い患者における、NFkB活性を低下させるための方法。
【請求項15】
前記患者が、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、およびガチョウからなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が、前記高いNFkB活性の1つ以上の症状を軽減または予防するのに有効である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
患者に投与するための、一定量の式(II)の化合物2、ならびにその類似体、誘導体、および薬学的に許容し得る塩、ならびに薬学的組成物を、ラベルまたは包装挿入物の指示書とともに含む、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−513411(P2012−513411A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542581(P2011−542581)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/069297
【国際公開番号】WO2010/075443
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511150953)サンフォード−バーンハム メディカル リサーチ インスティテュート (4)
【Fターム(参考)】