Ag−酸化物系電気接点材料およびその製造方法
【課題】 Ag−(Sn−In)Ox系等のCdを含まない電気接点材料においては、蒸気圧の低いSnO2やIn2O3等の酸化物がその接点表面に凝集・堆積してしまい、その結果、接触抵抗が高くなって、接点片の温度上昇を招来し、接点特性を著しく劣化させることとなる。
【解決手段】 酸化物形態の異なる酸化層を複数層積層させたことを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料。
【解決手段】 酸化物形態の異なる酸化層を複数層積層させたことを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーカ、マグネットスイッチ等の比較的小型で小負荷領域用に適用することのできる電気接点材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種電気接点材料は、環境への影響を考慮してAg−CdO系電気接点材料に替わり、Ag−(Sn−In)Ox系等のCdを含まない電気接点材料が代替材料として利用され、様々な改良が加えられ、応用分野も多岐にわたっている(例えば、特許文献1参照)。
また、内部酸化の工程において、酸化物粒子の分布を均一化するために、酸化温度と酸素圧の両方又は何れか一方のみを、1回目の温度、酸素圧より高めて1回以上の内部酸化処理をおこなうことにより、酸化物粒子の形状及び大きさを調整することにより伝導率を高め、硬度分布を均一化させる技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−288831号公報
【特許文献2】特開昭58−16039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の技術においては、内部酸化法によって製造される接点は、一定の酸素分圧(通常は0.5Mpa前後)と一定の温度(通常は700°C前後)を選択し、その条件下で内部酸化することでAgマトリックス中に所定の酸化物を析出させて電気接点としているが、Ag−(Sn−In)Ox系電気接点材料は、Ag−CdO系電気接点材料と比較すると、Ag−CdO系電気接点材料は、接点開閉は広い温度域で高い蒸気圧を有するCdOによって接点表面が清浄化されて安定した接触抵抗が得られていたものの、例えば、Ag−(Sn−In)Ox系電気接点材料は、負荷電流の開閉を繰り返すと、蒸気圧の低いSnO2やIn2O3等の酸化物がその接点表面に凝集・堆積してしまい、その結果、接触抵抗が高くなって、接点片の温度上昇を招来し、接点特性を著しく劣化させることとなる。
【0004】
そこで、本発明は、このような問題を解決することを課題とするもので、従来の内部酸化法と異なり、内部酸化時の酸化温度および/もしくは酸素分圧を変化させながら内部酸化を施すことにより、Ag−酸化物電気接点材料の最大の特長であるAgマトリックス中における析出酸化物について、その形態が異なる酸化物を析出させた層を複数層積み上げて積層構造とし、その積層構造によってAgマトリックス中の酸化物の移動を抑制して接点表面への酸化物の凝集を防ぎ、接触抵抗の増加による温度上昇を防ぐものである。
【0005】
さらに、酸化物の移動を抑制することにより、負荷電流の開閉時に発生するアークによる接点組織の破壊と消耗が抑えられ、その結果、耐消耗性能、耐溶着性能が向上し、特に、ブレーカにおける定格電流100A以上の大電流域での使用において、耐溶着性能はもちろんのこと温度特性においても十分に性能を満足させる接点となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、Ag−酸化物系接点材料の内部酸化機構は、一般にAgが高温(約500°C以上)において、その体積の約22倍の酸素を吸蔵し、かつ、酸化物としては安定に存在できないことを利用して、予め溶解法で酸素と結びついて安定な状態となる金属を合金化しておくことで、Agが酸素を吸蔵したときに、Agマトリックス中に酸化物として析出させておくものである。
【0007】
この内部酸化は、Ag合金表面から酸素が拡散していくと同時に内部酸化能を有する溶質金属、例えば、Sn、In等の卑金属元素と酸素が結びつき、Agマトリックス中に酸化物として析出するという現象である。このとき、酸素と溶質金属が反応し、酸化物として析出している層、すなわち内部酸化前線では、Agマトリックス中に酸化物が析出しているその直下の未酸化のAg合金中における溶質金属との間で大きな濃度の差が生じる。
【0008】
この濃度勾配を埋めるために、酸素が拡散していくと同時に酸化物となる。例えば、Sn、In等の溶質金属が内部から表面に向かって拡散していくのであるが、このとき、表面から内部に向かう酸素の浸入速度[Oυ]と溶質原子の表面への拡散速度[Mυ]との関係[Oυ>Mυ]の条件で内部酸化が進行するのであり、その内部酸化速度[Xυ=kT]であらわされる(kは内部酸化速度常数であり、内部酸化温度と酸素分圧によって変化する。)。
【0009】
本発明は、この速度常数[k]の値をコントロールすることによって得るものであり、内部酸化温度および/もしくは酸素分圧を調整することによって酸化物量と酸化物粒子径の異なる層を複数層積層形成し、酸化物の自由な移動を抑制するものである。
具体的には、本発明は、その内部酸化温度を途中で300°C〜850°Cの範囲で複数回変化させ、さらに/もしくは内部酸化の途中で酸素分圧を0.1Mpa〜5Mpaの範囲で複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とするものである。
【0010】
なお、内部酸化において、内部酸化温度を300°C〜850°Cとしたのは、内部酸化温度が300°C以下ではAg合金中を酸素が拡散していくことができず、表面において酸化物の皮膜が生成されるのみで、Agマトリックス中に酸化物を析出することができないためであり、850°C以上では、析出される酸化物が粗大になってしまい耐溶着性能等の接点性能がそこなわれてしまうためである。
【0011】
また、内部酸化時の酸素分圧を0.1Mpa〜5Mpaとした理由は、0.1Mpa以下では、酸素がAgマトリックス中を拡散していく速度よりも、SnやIn等の金属が拡散する速度が速くなってしまう場合があり、その結果、酸化物が凝集してしまい、狙った形態の酸化物を析出することができないためであり、5Mpa以下としたのは、それ以上酸素分圧を上げても大きな接点性能の向上が確認できないためである。
【0012】
本発明における接点の内部酸化の積層状態を光学顕微鏡写真によりモデル図として図1に示し、図2、図3に酸化物量と酸化物粒子径の異なる層をそれぞれ拡大図として示す。図2は酸化物が大きな帯状と小さな針状の層、図3は酸化物が小さな帯状の層である。
この内部酸化モデルは、先に述べた内部酸化機構において、酸化温度、酸素分圧を周期的に変化させながら内部酸化を施すことで、異なる形状の酸化物が析出した層を積み上げて積層構造とし、その積層によって、Agマトリックス中の酸化物の移動を抑制して接点表面への酸化物の凝集を防ぐことになる。
【0013】
図1の例では、2種類の酸化温度を採用して積層構造としている。図2に650°Cで内部酸化を施した状態を示し、酸化物形状が大きな帯状のものと小さな針状のもので形成されている層と、図3に示す540°Cで内部酸化を施した状態は酸化物が小さな帯状のものを主として形成した層が交互に積層状態で配置されている。このように著しく形態の異なる酸化物が析出した層の間では、その酸化物の形態の違いが障壁となって層間での酸化物の移動が妨げられることになる。
【0014】
これは、Agと酸化物と酸素のそれぞれが、高温にさらされた時の挙動がどのような状態であるかに着目して開発されたもので、一般には、接点が負荷電流の開閉において、瞬間的に高温にさらされ、Agの溶融とそれに伴う酸化物の移動という現象が引き起こされ、接点表面への酸化物の凝集が起こるが、このとき、本発明はAgマトリックス中における酸化物を、著しく異なる形状のものを積み重ねることで、Agマトリックス中での酸化物の移動をできる限り抑制し、接点表面への凝集を防ぎ、温度特性を改善するものである。
【0015】
なお、積み上げる層の厚みは、1つの層の厚みが0.1μm〜1000μmの厚みの間で負荷電流の条件に合った厚みを選択する。その理由は、0.1μm以下の薄い層あるいは1000μm以上の厚い層では、各層間での酸化物の移動を抑制する効果が現われにくいためであり、層の数を複数層としたのは、酸化物の移動を抑制することができないためである。
【0016】
図4に従来例の光学顕微鏡写真を示す。
【発明の効果】
【0017】
このようにした本発明は、電気接点として使用を繰り返しても接点表面への酸化物の凝集を防ぐことができ、温度特性に優れ、かつ耐溶着性能、耐消耗性能を向上させるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施例を説明する。
99.5重量%以上の純度を有するAg、Sn0.1重量%〜10重量%、In0.1〜10重量%さらに、Ni、Sb、Bi、Co、Cu、Fe、Znの中から1種類以上を0.05重量%〜4重量%を原料として、表1に示す組成の合金を以下の工程で作製した。
【0019】
なお、上記において、Snの添加量を0.1重量%〜10重量%にした設定した理由は、Snは主に接点の耐溶着性能を向上させるために添加しているものであるが、0.1重量%以下では、その改善の効果が確認できず、また、10重量%以上では、Sn酸化物がAgマトリックス中で凝集してしまい内部酸化が正常に行われないことや接点の温度特性を損なうためである。
【0020】
Inの添加量を0.1重量%〜10重量%に設定した理由は、Inの添加は主に温度特性の改善に寄与するもので、0.1重量%以下では、その効果が確認できず、また、10重量%以上では、接点の加工性が著しく低下するためである。
Ni、Sb、Bi、Co、Cu、Fe、Znの中から1以上の元素の添加については、求める接点特性によって元素を選択して添加するものであるが、0.05重量%〜4重量%に設定した理由は、0.05重量%以下では、その効果が期待できないためであり、また、4重量%以上では、接点の加工性が低下するためである。
【0021】
そこで、ガス溶解炉にて溶解、鋳造したインゴットを熱間圧延する。その板の片面にAg板を熱間複合し、ろう付け用のAg層を形成する。
つぎに、当該素材を、各々の加工率で冷間圧延して厚さ2mmの板とした後、直径6mmの円盤状に打ち抜いて試料とし、それぞれ実施例として表1に示す。
【0022】
【表1】
実施例1は、酸素分圧5MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0023】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度650°C、酸素分圧5MPaとし、試料を入炉して約20時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を540°Cに降温させ、(ハ)540°Cで約2時間保持し、(二)その後、約30分かけて650°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返して積層構造とする。
【0024】
これにより、650°Cで内部酸化した層が10層、540°Cで内部酸化した層が10層、それぞれ形成され、合計で20層が積層されている。各々の層の厚みは、650°Cでの酸化による層が5〜250μm、540°Cでの酸化による層が1〜30μmの厚さになっている。
実施例2は、酸素分圧4MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0025】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度600°C、酸素分圧4MPaとし、試料を入炉して約30時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を500°Cに降温させ、(ハ)500°Cで約3時間保持し、(二)その後、約30分かけて600°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを12サイクル繰り返して積層構造とする。
【0026】
これにより、600°Cで内部酸化した層が12層、500°Cで内部酸化した層が12層、それぞれ形成され、合計で24層が積層されている。各々の層の厚みは、600°Cでの酸化による層が2〜200μm、500°Cでの酸化による層が0.5〜20μmの厚さになっている。
実施例3は、酸素分圧3MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0027】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度650°C、酸素分圧3MPaとし、試料を入炉して約20時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を540°Cに降温させ、(ハ)540°Cで約2時間保持し、(二)その後、約30分かけて650°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを14サイクル繰り返して積層構造とする。
【0028】
これにより、650°Cで内部酸化した層が14層、540°Cで内部酸化した層が14層、それぞれ形成され、合計で28層が積層されている。各々の層の厚みは、650°Cでの酸化による層が2〜250μm、540°Cでの酸化による層が1〜20μmの厚さになっている。
実施例4は、酸素分圧2MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0029】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度600°C、酸素分圧2MPaとし、試料を入炉して約30時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を500°Cに降温させ、(ハ)500°Cで約3時間保持し、(二)その後、約30分かけて600°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを16サイクル繰り返して積層構造とする。
【0030】
これにより、600°Cで内部酸化した層が16層、500°Cで内部酸化した層が16層、それぞれ形成され、合計で32層が積層されている。各々の層の厚みは、600°Cでの酸化による層が1〜150μm、500°Cでの酸化による層が0.5〜10μmの厚さになっている。
実施例5は、酸素分圧1MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0031】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度620°C、酸素分圧1MPaとし、試料を入炉して約10時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を530°Cに降温させ、(ハ)530°Cで約2時間保持し、(二)その後、約30分かけて620°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを20サイクル繰り返して積層構造とする。
【0032】
これにより、620°Cで内部酸化した層が20層、530°Cで内部酸化した層が20層、それぞれ形成され、合計で40層が積層されている。各々の層の厚みは、620°Cでの酸化による層が1〜200μm、530°Cでの酸化による層が0.1〜20μmの厚さになっている。
実施例6は、酸素分圧0.5MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0033】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度600°C、酸素分圧0.5MPaとし、試料を入炉して約10時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を500°Cに降温させ、(ハ)500°Cで約1時間保持し、(二)その後、約30分かけて600°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを25サイクル繰り返して積層構造とする。
【0034】
これにより、600°Cで内部酸化した層が25層、500°Cで内部酸化した層が25層、それぞれ形成され、合計で50層が積層されている。各々の層の厚みは、600°Cでの酸化による層が0.5〜200μm、500°Cでの酸化による層が0.1〜10μmの厚さになっている。
なお、上記各実施例は本発明の一例であるが、積層構造の形成過程とその構造については、下記に示すような例がある。
【0035】
すなわち、異なる内部酸化条件を用いて各酸化条件で形成される酸化組織を積み重ねて積層構造を形成する過程において、析出酸化物が小さい層をA層、析出酸化物が大きい層をB層とすると、A層における析出酸化物の大きさは10nm〜10μm、B層における析出酸化物の大きさは50nm〜50μmに設定し、その中で接点に求められる性能に合わせて酸化物の大きさを選択するものである。
【0036】
また、酸化物が小さいA層と酸化物が大きいB層の各々が1つの接点の中で占める厚みの比率については、A層:B層の厚みの比率が、50:1〜1:50の中で接点に求められる性能に合わせて選択するものである。
つぎに、比較のために従来例を示す。従来例1として、Ag−12重量%CdO、従来例2としてAg−4重量%Sn−2重量%In、従来例3としてAg−8重量%Sn−4重量%Inの合金を作り、それぞれ50%の加工率で同様の形状とした後、酸素分圧0.5MPaの酸化雰囲気中で750°Cに固定した温度で内部酸化したものである。
【0037】
上記実施例および従来例について、その酸化物形態の観察・分析と接点試験を行った。酸化物形態およびAgの結晶構造解析と形態観察については、接点試験前後の接点断面組織において、WDX型EPMAとAES(オージェ電子分析)分析、放射光マイクロビームX線回折測定を実施し、比較、検討を行った。
実機試験については、接触抵抗試験と溶着試験ならびに市販機ブレーカによる実機テストを行ってその電気的特性を評価した。なお、本発明では、実機試験において接点性能の改善を評価するのは勿論のこと接点の酸化組織の状態において、酸化物が表層に凝集していないか否かの確認と、酸化物、Agの結晶構造の変化を分析することで、接点性能が電気的試験後においても低下しないかどうかを確認することも評価の手法として用いた。
【0038】
以上によると、表1に示す如く、過負荷開閉試験後の温度試験において、従来例と比較して温度上昇が抑制されていることが確認される。また、表2に示す如く、短絡遮断試験における耐溶着性能、耐消耗特性の改善が確認された。
【0039】
【表2】
図5、図6に示す、光学顕微鏡により撮影した接点断面の酸化組織の状態においても、短絡遮断試験後の接点表層部において、Agの溶融が見られるケースでは、積層の境界でAgの溶融が抑制されていることがわかる。
【0040】
図7、図8に示すEPMAによるSnO2、In2O3のマッピングにおいて、過負荷試験後の接点表面において、酸化物が凝集してしまうケースでは、従来例と比較して実施例では、接点表面へのSnO2、In2O3の等の酸化物凝集が軽減されていることが確認された。
図9〜図16に示すAESによる、Ag、Sn、In、Oの各々のマッピングについても、従来例と比較し、実施例では接点表層における、Sn、In、Oの凝集が抑制されており、また、酸化組織の中に形成されるAgリッチ層の粗大化が抑制されていることもわかる。このことは、接点が消耗しにくいことにつながり、耐消耗性能の向上にも寄与している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例の内部酸化の積層状態を示す光学顕微鏡写真
【図2】実施例の内部酸化の状態を示す光学顕微鏡写真
【図3】実施例の内部酸化の状態を示す光学顕微鏡写真
【図4】従来例の内部酸化の状態を示す光学顕微鏡写真
【図5】本発明の評価後断面組織の状態を示す光学顕微鏡写真
【図6】従来例の評価後断面組織の状態を示す光学顕微鏡写真
【図7】本発明の評価後断面組織におけるSnO2、In2O3の濃度を示す電子顕微鏡写真
【図8】従来例の評価後断面組織におけるSnO2、In2O3の濃度を示す電子顕微鏡写真
【図9】本発明のAgのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図10】本発明のSnのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図11】本発明のInのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図12】本発明のOのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図13】従来例のAgのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図14】従来例のSnのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図15】従来例のInのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図16】従来例のOのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーカ、マグネットスイッチ等の比較的小型で小負荷領域用に適用することのできる電気接点材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種電気接点材料は、環境への影響を考慮してAg−CdO系電気接点材料に替わり、Ag−(Sn−In)Ox系等のCdを含まない電気接点材料が代替材料として利用され、様々な改良が加えられ、応用分野も多岐にわたっている(例えば、特許文献1参照)。
また、内部酸化の工程において、酸化物粒子の分布を均一化するために、酸化温度と酸素圧の両方又は何れか一方のみを、1回目の温度、酸素圧より高めて1回以上の内部酸化処理をおこなうことにより、酸化物粒子の形状及び大きさを調整することにより伝導率を高め、硬度分布を均一化させる技術がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−288831号公報
【特許文献2】特開昭58−16039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の技術においては、内部酸化法によって製造される接点は、一定の酸素分圧(通常は0.5Mpa前後)と一定の温度(通常は700°C前後)を選択し、その条件下で内部酸化することでAgマトリックス中に所定の酸化物を析出させて電気接点としているが、Ag−(Sn−In)Ox系電気接点材料は、Ag−CdO系電気接点材料と比較すると、Ag−CdO系電気接点材料は、接点開閉は広い温度域で高い蒸気圧を有するCdOによって接点表面が清浄化されて安定した接触抵抗が得られていたものの、例えば、Ag−(Sn−In)Ox系電気接点材料は、負荷電流の開閉を繰り返すと、蒸気圧の低いSnO2やIn2O3等の酸化物がその接点表面に凝集・堆積してしまい、その結果、接触抵抗が高くなって、接点片の温度上昇を招来し、接点特性を著しく劣化させることとなる。
【0004】
そこで、本発明は、このような問題を解決することを課題とするもので、従来の内部酸化法と異なり、内部酸化時の酸化温度および/もしくは酸素分圧を変化させながら内部酸化を施すことにより、Ag−酸化物電気接点材料の最大の特長であるAgマトリックス中における析出酸化物について、その形態が異なる酸化物を析出させた層を複数層積み上げて積層構造とし、その積層構造によってAgマトリックス中の酸化物の移動を抑制して接点表面への酸化物の凝集を防ぎ、接触抵抗の増加による温度上昇を防ぐものである。
【0005】
さらに、酸化物の移動を抑制することにより、負荷電流の開閉時に発生するアークによる接点組織の破壊と消耗が抑えられ、その結果、耐消耗性能、耐溶着性能が向上し、特に、ブレーカにおける定格電流100A以上の大電流域での使用において、耐溶着性能はもちろんのこと温度特性においても十分に性能を満足させる接点となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、Ag−酸化物系接点材料の内部酸化機構は、一般にAgが高温(約500°C以上)において、その体積の約22倍の酸素を吸蔵し、かつ、酸化物としては安定に存在できないことを利用して、予め溶解法で酸素と結びついて安定な状態となる金属を合金化しておくことで、Agが酸素を吸蔵したときに、Agマトリックス中に酸化物として析出させておくものである。
【0007】
この内部酸化は、Ag合金表面から酸素が拡散していくと同時に内部酸化能を有する溶質金属、例えば、Sn、In等の卑金属元素と酸素が結びつき、Agマトリックス中に酸化物として析出するという現象である。このとき、酸素と溶質金属が反応し、酸化物として析出している層、すなわち内部酸化前線では、Agマトリックス中に酸化物が析出しているその直下の未酸化のAg合金中における溶質金属との間で大きな濃度の差が生じる。
【0008】
この濃度勾配を埋めるために、酸素が拡散していくと同時に酸化物となる。例えば、Sn、In等の溶質金属が内部から表面に向かって拡散していくのであるが、このとき、表面から内部に向かう酸素の浸入速度[Oυ]と溶質原子の表面への拡散速度[Mυ]との関係[Oυ>Mυ]の条件で内部酸化が進行するのであり、その内部酸化速度[Xυ=kT]であらわされる(kは内部酸化速度常数であり、内部酸化温度と酸素分圧によって変化する。)。
【0009】
本発明は、この速度常数[k]の値をコントロールすることによって得るものであり、内部酸化温度および/もしくは酸素分圧を調整することによって酸化物量と酸化物粒子径の異なる層を複数層積層形成し、酸化物の自由な移動を抑制するものである。
具体的には、本発明は、その内部酸化温度を途中で300°C〜850°Cの範囲で複数回変化させ、さらに/もしくは内部酸化の途中で酸素分圧を0.1Mpa〜5Mpaの範囲で複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とするものである。
【0010】
なお、内部酸化において、内部酸化温度を300°C〜850°Cとしたのは、内部酸化温度が300°C以下ではAg合金中を酸素が拡散していくことができず、表面において酸化物の皮膜が生成されるのみで、Agマトリックス中に酸化物を析出することができないためであり、850°C以上では、析出される酸化物が粗大になってしまい耐溶着性能等の接点性能がそこなわれてしまうためである。
【0011】
また、内部酸化時の酸素分圧を0.1Mpa〜5Mpaとした理由は、0.1Mpa以下では、酸素がAgマトリックス中を拡散していく速度よりも、SnやIn等の金属が拡散する速度が速くなってしまう場合があり、その結果、酸化物が凝集してしまい、狙った形態の酸化物を析出することができないためであり、5Mpa以下としたのは、それ以上酸素分圧を上げても大きな接点性能の向上が確認できないためである。
【0012】
本発明における接点の内部酸化の積層状態を光学顕微鏡写真によりモデル図として図1に示し、図2、図3に酸化物量と酸化物粒子径の異なる層をそれぞれ拡大図として示す。図2は酸化物が大きな帯状と小さな針状の層、図3は酸化物が小さな帯状の層である。
この内部酸化モデルは、先に述べた内部酸化機構において、酸化温度、酸素分圧を周期的に変化させながら内部酸化を施すことで、異なる形状の酸化物が析出した層を積み上げて積層構造とし、その積層によって、Agマトリックス中の酸化物の移動を抑制して接点表面への酸化物の凝集を防ぐことになる。
【0013】
図1の例では、2種類の酸化温度を採用して積層構造としている。図2に650°Cで内部酸化を施した状態を示し、酸化物形状が大きな帯状のものと小さな針状のもので形成されている層と、図3に示す540°Cで内部酸化を施した状態は酸化物が小さな帯状のものを主として形成した層が交互に積層状態で配置されている。このように著しく形態の異なる酸化物が析出した層の間では、その酸化物の形態の違いが障壁となって層間での酸化物の移動が妨げられることになる。
【0014】
これは、Agと酸化物と酸素のそれぞれが、高温にさらされた時の挙動がどのような状態であるかに着目して開発されたもので、一般には、接点が負荷電流の開閉において、瞬間的に高温にさらされ、Agの溶融とそれに伴う酸化物の移動という現象が引き起こされ、接点表面への酸化物の凝集が起こるが、このとき、本発明はAgマトリックス中における酸化物を、著しく異なる形状のものを積み重ねることで、Agマトリックス中での酸化物の移動をできる限り抑制し、接点表面への凝集を防ぎ、温度特性を改善するものである。
【0015】
なお、積み上げる層の厚みは、1つの層の厚みが0.1μm〜1000μmの厚みの間で負荷電流の条件に合った厚みを選択する。その理由は、0.1μm以下の薄い層あるいは1000μm以上の厚い層では、各層間での酸化物の移動を抑制する効果が現われにくいためであり、層の数を複数層としたのは、酸化物の移動を抑制することができないためである。
【0016】
図4に従来例の光学顕微鏡写真を示す。
【発明の効果】
【0017】
このようにした本発明は、電気接点として使用を繰り返しても接点表面への酸化物の凝集を防ぐことができ、温度特性に優れ、かつ耐溶着性能、耐消耗性能を向上させるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明の実施例を説明する。
99.5重量%以上の純度を有するAg、Sn0.1重量%〜10重量%、In0.1〜10重量%さらに、Ni、Sb、Bi、Co、Cu、Fe、Znの中から1種類以上を0.05重量%〜4重量%を原料として、表1に示す組成の合金を以下の工程で作製した。
【0019】
なお、上記において、Snの添加量を0.1重量%〜10重量%にした設定した理由は、Snは主に接点の耐溶着性能を向上させるために添加しているものであるが、0.1重量%以下では、その改善の効果が確認できず、また、10重量%以上では、Sn酸化物がAgマトリックス中で凝集してしまい内部酸化が正常に行われないことや接点の温度特性を損なうためである。
【0020】
Inの添加量を0.1重量%〜10重量%に設定した理由は、Inの添加は主に温度特性の改善に寄与するもので、0.1重量%以下では、その効果が確認できず、また、10重量%以上では、接点の加工性が著しく低下するためである。
Ni、Sb、Bi、Co、Cu、Fe、Znの中から1以上の元素の添加については、求める接点特性によって元素を選択して添加するものであるが、0.05重量%〜4重量%に設定した理由は、0.05重量%以下では、その効果が期待できないためであり、また、4重量%以上では、接点の加工性が低下するためである。
【0021】
そこで、ガス溶解炉にて溶解、鋳造したインゴットを熱間圧延する。その板の片面にAg板を熱間複合し、ろう付け用のAg層を形成する。
つぎに、当該素材を、各々の加工率で冷間圧延して厚さ2mmの板とした後、直径6mmの円盤状に打ち抜いて試料とし、それぞれ実施例として表1に示す。
【0022】
【表1】
実施例1は、酸素分圧5MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0023】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度650°C、酸素分圧5MPaとし、試料を入炉して約20時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を540°Cに降温させ、(ハ)540°Cで約2時間保持し、(二)その後、約30分かけて650°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを10サイクル繰り返して積層構造とする。
【0024】
これにより、650°Cで内部酸化した層が10層、540°Cで内部酸化した層が10層、それぞれ形成され、合計で20層が積層されている。各々の層の厚みは、650°Cでの酸化による層が5〜250μm、540°Cでの酸化による層が1〜30μmの厚さになっている。
実施例2は、酸素分圧4MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0025】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度600°C、酸素分圧4MPaとし、試料を入炉して約30時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を500°Cに降温させ、(ハ)500°Cで約3時間保持し、(二)その後、約30分かけて600°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを12サイクル繰り返して積層構造とする。
【0026】
これにより、600°Cで内部酸化した層が12層、500°Cで内部酸化した層が12層、それぞれ形成され、合計で24層が積層されている。各々の層の厚みは、600°Cでの酸化による層が2〜200μm、500°Cでの酸化による層が0.5〜20μmの厚さになっている。
実施例3は、酸素分圧3MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0027】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度650°C、酸素分圧3MPaとし、試料を入炉して約20時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を540°Cに降温させ、(ハ)540°Cで約2時間保持し、(二)その後、約30分かけて650°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを14サイクル繰り返して積層構造とする。
【0028】
これにより、650°Cで内部酸化した層が14層、540°Cで内部酸化した層が14層、それぞれ形成され、合計で28層が積層されている。各々の層の厚みは、650°Cでの酸化による層が2〜250μm、540°Cでの酸化による層が1〜20μmの厚さになっている。
実施例4は、酸素分圧2MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0029】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度600°C、酸素分圧2MPaとし、試料を入炉して約30時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を500°Cに降温させ、(ハ)500°Cで約3時間保持し、(二)その後、約30分かけて600°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを16サイクル繰り返して積層構造とする。
【0030】
これにより、600°Cで内部酸化した層が16層、500°Cで内部酸化した層が16層、それぞれ形成され、合計で32層が積層されている。各々の層の厚みは、600°Cでの酸化による層が1〜150μm、500°Cでの酸化による層が0.5〜10μmの厚さになっている。
実施例5は、酸素分圧1MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0031】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度620°C、酸素分圧1MPaとし、試料を入炉して約10時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を530°Cに降温させ、(ハ)530°Cで約2時間保持し、(二)その後、約30分かけて620°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを20サイクル繰り返して積層構造とする。
【0032】
これにより、620°Cで内部酸化した層が20層、530°Cで内部酸化した層が20層、それぞれ形成され、合計で40層が積層されている。各々の層の厚みは、620°Cでの酸化による層が1〜200μm、530°Cでの酸化による層が0.1〜20μmの厚さになっている。
実施例6は、酸素分圧0.5MPaの酸化雰囲気中において、500°C〜750°Cの温度範囲で任意の2つの温度を選択し、その2つの温度を周期的に変化させて内部酸化を行い、異なる形態の酸化物を析出させて積層した内部酸化層を積み上げ、複数の積層構造とした接点を作製した。
【0033】
積層構造の形成過程について説明する。
内部酸化開始時の条件を、(イ)酸化温度600°C、酸素分圧0.5MPaとし、試料を入炉して約10時間保持し、(ロ)その後、約30分かけて酸化温度を500°Cに降温させ、(ハ)500°Cで約1時間保持し、(二)その後、約30分かけて600°Cに昇温させ、再び(イ)に戻る。以上の工程を1サイクルとし、これを25サイクル繰り返して積層構造とする。
【0034】
これにより、600°Cで内部酸化した層が25層、500°Cで内部酸化した層が25層、それぞれ形成され、合計で50層が積層されている。各々の層の厚みは、600°Cでの酸化による層が0.5〜200μm、500°Cでの酸化による層が0.1〜10μmの厚さになっている。
なお、上記各実施例は本発明の一例であるが、積層構造の形成過程とその構造については、下記に示すような例がある。
【0035】
すなわち、異なる内部酸化条件を用いて各酸化条件で形成される酸化組織を積み重ねて積層構造を形成する過程において、析出酸化物が小さい層をA層、析出酸化物が大きい層をB層とすると、A層における析出酸化物の大きさは10nm〜10μm、B層における析出酸化物の大きさは50nm〜50μmに設定し、その中で接点に求められる性能に合わせて酸化物の大きさを選択するものである。
【0036】
また、酸化物が小さいA層と酸化物が大きいB層の各々が1つの接点の中で占める厚みの比率については、A層:B層の厚みの比率が、50:1〜1:50の中で接点に求められる性能に合わせて選択するものである。
つぎに、比較のために従来例を示す。従来例1として、Ag−12重量%CdO、従来例2としてAg−4重量%Sn−2重量%In、従来例3としてAg−8重量%Sn−4重量%Inの合金を作り、それぞれ50%の加工率で同様の形状とした後、酸素分圧0.5MPaの酸化雰囲気中で750°Cに固定した温度で内部酸化したものである。
【0037】
上記実施例および従来例について、その酸化物形態の観察・分析と接点試験を行った。酸化物形態およびAgの結晶構造解析と形態観察については、接点試験前後の接点断面組織において、WDX型EPMAとAES(オージェ電子分析)分析、放射光マイクロビームX線回折測定を実施し、比較、検討を行った。
実機試験については、接触抵抗試験と溶着試験ならびに市販機ブレーカによる実機テストを行ってその電気的特性を評価した。なお、本発明では、実機試験において接点性能の改善を評価するのは勿論のこと接点の酸化組織の状態において、酸化物が表層に凝集していないか否かの確認と、酸化物、Agの結晶構造の変化を分析することで、接点性能が電気的試験後においても低下しないかどうかを確認することも評価の手法として用いた。
【0038】
以上によると、表1に示す如く、過負荷開閉試験後の温度試験において、従来例と比較して温度上昇が抑制されていることが確認される。また、表2に示す如く、短絡遮断試験における耐溶着性能、耐消耗特性の改善が確認された。
【0039】
【表2】
図5、図6に示す、光学顕微鏡により撮影した接点断面の酸化組織の状態においても、短絡遮断試験後の接点表層部において、Agの溶融が見られるケースでは、積層の境界でAgの溶融が抑制されていることがわかる。
【0040】
図7、図8に示すEPMAによるSnO2、In2O3のマッピングにおいて、過負荷試験後の接点表面において、酸化物が凝集してしまうケースでは、従来例と比較して実施例では、接点表面へのSnO2、In2O3の等の酸化物凝集が軽減されていることが確認された。
図9〜図16に示すAESによる、Ag、Sn、In、Oの各々のマッピングについても、従来例と比較し、実施例では接点表層における、Sn、In、Oの凝集が抑制されており、また、酸化組織の中に形成されるAgリッチ層の粗大化が抑制されていることもわかる。このことは、接点が消耗しにくいことにつながり、耐消耗性能の向上にも寄与している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例の内部酸化の積層状態を示す光学顕微鏡写真
【図2】実施例の内部酸化の状態を示す光学顕微鏡写真
【図3】実施例の内部酸化の状態を示す光学顕微鏡写真
【図4】従来例の内部酸化の状態を示す光学顕微鏡写真
【図5】本発明の評価後断面組織の状態を示す光学顕微鏡写真
【図6】従来例の評価後断面組織の状態を示す光学顕微鏡写真
【図7】本発明の評価後断面組織におけるSnO2、In2O3の濃度を示す電子顕微鏡写真
【図8】従来例の評価後断面組織におけるSnO2、In2O3の濃度を示す電子顕微鏡写真
【図9】本発明のAgのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図10】本発明のSnのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図11】本発明のInのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図12】本発明のOのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図13】従来例のAgのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図14】従来例のSnのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図15】従来例のInのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【図16】従来例のOのマッピングを示す電子顕微鏡写真
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cd酸化物を含まないAg−酸化物系電気接点材料において、
酸化物形態の異なる酸化層を複数層積層させたことを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料。
【請求項2】
請求項1において、Sn0.1重量%〜10重量%、In0.1重量%〜10重量%さらに、Ni、Sb、Bi、Co、Cu、Fe、Znの中から1種類以上を0.05重量%〜4重量%、残部Agからなることを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料。
【請求項3】
内部酸化時に内部酸化条件を複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とすることを特徴とする請求項1記載のAg−酸化物系電気接点材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、内部酸化条件の1つである内部酸化温度を、内部酸化の途中で300°C〜850°Cの範囲で複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とすることを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、内部酸化条件の1つである酸素分圧を、内部酸化の途中で0.1Mpa〜5Mpaの範囲で複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とすることを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料の製造方法。
【請求項1】
Cd酸化物を含まないAg−酸化物系電気接点材料において、
酸化物形態の異なる酸化層を複数層積層させたことを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料。
【請求項2】
請求項1において、Sn0.1重量%〜10重量%、In0.1重量%〜10重量%さらに、Ni、Sb、Bi、Co、Cu、Fe、Znの中から1種類以上を0.05重量%〜4重量%、残部Agからなることを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料。
【請求項3】
内部酸化時に内部酸化条件を複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とすることを特徴とする請求項1記載のAg−酸化物系電気接点材料の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、内部酸化条件の1つである内部酸化温度を、内部酸化の途中で300°C〜850°Cの範囲で複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とすることを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料の製造方法。
【請求項5】
請求項3において、内部酸化条件の1つである酸素分圧を、内部酸化の途中で0.1Mpa〜5Mpaの範囲で複数回変化させることによって、酸化物形態の異なる酸化層を複数層形成して積層構造とすることを特徴とするAg−酸化物系電気接点材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−152971(P2008−152971A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337400(P2006−337400)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【出願人】(503361927)富士電機機器制御株式会社 (402)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000152158)株式会社徳力本店 (29)
【出願人】(503361927)富士電機機器制御株式会社 (402)
【Fターム(参考)】
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