説明

CMP工程排水処理装置

【課題】活性炭処理装置、および、特定の孔径の分離膜を備えた膜分離処理装置を設けることにより、膜分離において高い透過流束を安定して得ることができる効率的なCMP工程排水処理装置を提供する。
【解決手段】このCMP工程排水処理装置は、酸性乃至中性研磨液を用いるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)工程排水を主として含む排水を前処理する活性炭処理装置、および、得られる前処理水を膜分離処理して濃縮水と透過水とに分離する孔径1nm〜1000nmの分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜等)を備えた膜分離処理装置を含み、CMP工程排水を濃縮してその容量を減らすための膜分離の際の分離膜の目詰まり頻度を減少させ、高い透過流束を安定して得ることで、装置の小型化とイニシャルコスト及びランニングニストの低下、装置運転の安定化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性乃至中性の研磨液(CMPスラリー)を用いるCMP工程排水を主として含む排水を処理するためのCMP工程排水処理装置に関し、詳しくは、半導体デバイス製造プロセスにおける平坦化工程としてのケミカルメカニカルポリッシング(CMP)工程から排出されるCMP工程排水、例えば、特に限定されることは無いが、W、Al、Cu等の配線用メタル膜のCMP工程から排出される過酸化水素等の酸化剤を含むCMP工程排水を主として含む排水を処理するためのCMP工程排水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI等の半導体デバイスは、通常、絶縁層や配線層などをウェハ上に積層した多層構造を有している。このような半導体デバイスの製造においては、種々の研磨工程が行われ、例えば、層間絶縁膜の平坦化、メタル埋設形成、素子分離形成のために精密な研磨工程としてCMP工程が行われる。例えば、CMPを用いてメタル配線を形成するには、所定パターンの溝を形成した後、メタル膜を埋設し、CMPによってメタル等の不要部分を除去する。
【0003】
CMPとは、具体的には、SiO2 (コロイダルシリカ)、CeO2 、Al2 3 、MnO2 等の研磨剤粒子をアンモニウム塩やカリウム塩等の電解質、過酸化水素等の酸化剤、硝酸、弗酸、バッファード弗酸等の無機酸、カルボン酸等の有機酸、無機又は有機アルカリ剤、有機系分散剤や界面活性剤等の薬剤を含む水中に分散させて得られる分散体を研磨液(CMPスラリー)として用いて研磨するものであり、通常は、ポリウレタン等からなる研磨パッド上で研磨する。上記のようなメタル配線形成のCMP工程(以下、時に「メタル研磨CMP工程」と言う)では、酸性乃至中性のCMPスラリーを用いるのが通常で、これには過酸化水素等の酸化剤が含まれており、この酸化剤でメタル表面を酸化して、研磨剤粒子による研磨を容易にする。
【0004】
このようなCMP工程において、CMPスラリー、並びに、ウェハや半導体デバイスの各層材料等の被研磨物及び研磨パッドから削り取られて生じる研磨屑を含む研磨排水(CMP工程排水)が排出される。なお、研磨剤粒子そのものも破砕されて研磨屑となるものが生じる。この研磨屑は研磨剤粒子の研磨力を低下させる。また、研磨中に研磨剤粒子が乾燥してゲル化したり、凝集して粗大化することがある。このような研磨屑の中で、大粒径の研磨屑や凝集物は、半導体デバイスの各層の研磨面を傷つける原因になるし、また、研磨屑の蓄積により研磨力が低下するので、CMP工程排水は、再利用されずに排水処理されている。
【0005】
一方、半導体デバイス製造工程において、近年の半導体デバイスの高集積度化に伴い精密研磨工程が増加しており、CMPスラリーの使用量が飛躍的に増大し、それに伴いCMP工程排水の排出量も増大し、CMP工程排水の排水処理過程で固液分離されて生じる汚泥(スラッジ)量も増大している。このCMP工程排水の処分方法としては、(1)CMP工程排水全量を外部業者引取処分(産業廃棄物処理)する方法、(2)全CMP工程排水をそのまま凝集沈澱処理し、濾過等の固液分離により得られる汚泥を外部業者引取処分(産業廃棄物処理)し、濾過水等の処理水を中和して放流する方法、(3)有機系やセラミック系の分離膜(濾過膜)によりCMP工程排水を濃縮処理して、容量が減少した濃縮水を外部業者引取処分(産業廃棄物処理)し、透過水(濾過水)を中和や凝集沈澱処理して放流したり、あるいは回収水として再利用したりする方法等がある。近年のCMP工程から排出されるCMP工程排水量の激増に伴い、CMP工程排水の処分方法も(1)→(2)→(3)へと変化してきている。今後も益々CMP工程排水量が増加することが予想され、CMP工程排水の効率的な処理方法のニーズが生じて来ている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記方法(1)では、CMP工程排水量の激増に伴い、処分コストも激増することになり、実質的に不可能な方法となりつつある。上記方法(2)では、メタル配線形成用CMPスラリーなどの研磨液に由来するCMP工程排水(薬剤を多量に含み、特に有機酸、有機系分散剤、金属等を含む)の場合は既設凝集沈澱設備への影響(負荷等)が大きく、凝集沈澱設備を新設する時は大きな設置スペースを要する。上記方法(3)では、有機系やセラミック系の分離膜の目詰まりの頻度が高く、分離膜に対する排水の透過流束(フラックス=flux)のレベルが低く、膜分離処理装置が大型で高価であり、特に有機系分離膜はメタル研磨CMPスラリー等の酸化剤を含むCMP工程排水には弱く、機械的強度の低下が生じる。なお、上記の目詰まりの発生の頻度は、基本的には、CMP工程排水に含まれる主として有機系分散剤、界面活性剤、有機酸等の薬剤の種類との関連における分離膜の孔径の大きさに依存すると考えられる。
【0007】
従って、本発明は、CMP工程排水を濃縮してその容量を減らすための膜分離処理の際の分離膜の目詰まり頻度を減少させ、高い透過流束を安定して得ることで、装置の小型化とイニシャルコスト及びランニングコストの低下、装置運転の安定化を図ったCMP工程排水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酸性乃至中性研磨液を用いるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)工程排水を主として含む排水を前処理する活性炭処理装置、および、得られる前処理水を膜分離処理して濃縮水と透過水とに分離する分離膜を備えた膜分離処理装置を含むことを特徴とするCMP工程排水処理装置を提供するものである。
【0009】
本発明の処理対象は、基本的には酸性乃至中性のCMPスラリーを用いるCMP工程排水であるが、工場によっては他の排水が混入することもあり、そのため上記のCMP工程排水を主として含む排水である。
【0010】
CMPは、半導体デバイスの製造に用いられるので、CMP工程排水にはCaやMg等の硬度成分は元々含まれておらず、例えば、直接的にOH形の陰イオン交換樹脂で処理しても、硬度成分が析出して問題を生じることは無い。
【0011】
また、上記分離膜としては、精密濾過膜(例えば、孔径100nm〜1000nm)や限外濾過膜(例えば、孔径1nm〜100nm)等を用いることができ、また、有機系分離膜であってもセラミック等の無機系分離膜であっても良い。どの程度の孔径を有する分離膜を使用するかは、活性炭処理装置からの前処理水に含まれる研磨剤粒子や各種研磨屑等の固形成分の粒径や膜分離処理装置からの透過水の所望の水質などに応じて決めればよいが、通常は、孔径1nm〜1000nmの分離膜を使用するのが好ましい。孔径が1nm未満であると単位膜面積当たりの透過水量が少なくなるので好ましくなく、また、孔径が1000nmを超えると研磨剤粒子の透過水側への漏出量が多くなるので好ましくない場合が多い。有機系分離膜の材料としては、ポリ弗化エチレン、ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、セルロース、酢酸セルロース、セルロースエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、ポリパーフルオロスルホン酸、ポリアクリロニトリル、ポリビニールアルコール等の各種有機高分子を挙げることができ、無機系分離膜の材料としては、例えば、Al2 3 系のセラミック材料を挙げることができる。分離膜の形状としては、プリーツ状、中空糸状、スパイラル状、チューブラー状など、どのような形状でもよい。また、分離膜への通水方式としては、クロスフロー方式が好適である。
【0012】
CMP工程の一例としてメタル研磨CMP工程の対象は、Al、W、Cu等のメタル(金属)である。この工程で使用されるCMPスラリーは、被研磨対象物、製造物(半導体デバイス等)、製造工程、製造装置等の種々の条件により異なるが、一般的には、研磨剤粒子としてのSiO2 やAl2 3 のいずれかと酸化剤としての硝酸第2鉄、過酸化水素、沃素酸カリウムのいずれかとを組み合わせた水性混合液である。pHは、AlやWの研磨用CMPスラリーは酸性、Cuの研磨用CMPスラリーは弱酸性乃至中性付近であるのが一般的である。
【0013】
研磨のメカニズムは、ウェハ上に積層されたメタル膜を酸化剤により酸化しながら研磨剤粒子で削り平坦化すると考えられる。また、半導体デバイスの製造は超微細加工であり、研磨剤粒子は超微細であり、その粒径等は均一であることが強く望まれる。このため、研磨剤粒子同士が凝集しないようにCMPスラリーには有機系分散剤や界面活性剤等が含まれている。さらに、研磨の速度を微妙にコントロールするために、CMPスラリーには比較的低分子量の有機物(例えば、有機酸等)が添加されている。
【0014】
これらのCMPスラリーを用いたCMP工程を行って生じるCMP工程排水は、メタル膜、バリアメタル(Ti、TiN、Ta、TaN)、層間絶縁膜(SiO2 )等の被研磨物の屑や研磨パッド屑などを含み、リンス水で希釈されて排出される。この希釈倍率は数倍から数百倍であるが、通常はCMPスラリーに対して10倍から100倍程度に希釈されている。このため、CMP工程のライン数や研磨処理量等が増えるにつれCMP工程排水量が膨大となり、効率的な膜分離処理によりCMP工程排水の濃縮を行う排水処理が主に行われている。
【0015】
ところが、この様な膜分離処理は膜の目詰まりや透過流束が少ない等の問題があり、そのため膜分離処理装置が大型でコスト高であり、そのメンテナンス頻度が高いという問題がある。
【0016】
従来は、これらの諸問題は、研磨剤粒子の側にあると考えられていたが、本発明者等はCMPスラリーに含まれる成分の影響が大きいことを見出した。具体的には、CMPスラリーに含まれるTOC成分(有機系分散剤や界面活性剤等及び有機酸等のTOC濃度として測定される成分)の影響が大きく、また、CMP工程排水のpHによる影響も大きいことが分かった。
【0017】
或るメタル研磨CMP工程排水(研磨排水)、並びに、その活性炭処理水(AC処理水)、OH形の陰イオン交換樹脂処理水(A処理水)、H形の陽イオン交換樹脂処理水(K処理水)のpH、導電率、H2 2 濃度及びTOC濃度を表1に示す。なお、活性炭処理、陰イオン交換樹脂処理、陽イオン交換樹脂処理の各前処理は、空間速度SV=15/hrで行った。
【0018】
【表1】

【0019】
活性炭処理や陰イオン交換樹脂処理の効果としては、下記の効果を挙げることができる。
<1>過酸化水素等の酸化剤がCMP工程排水から除去され、後段の膜分離処理装置の分離膜が有機系分離膜であっても機械的強度の低下を防止し、その耐用寿命の向上を図ることができる。この効果は、陰イオン交換樹脂処理でも有るが、活性炭処理で特に顕著である。
<2>後段の膜分離処理装置の分離膜の目詰まりの主原因であるTOC成分(有機系分散剤や界面活性剤等及び有機酸等)が除去されることにより、分離膜に対する前処理水の透過流束を高く維持することができ、分離膜の逆洗頻度を低下させることができ、分離膜のファウリング(汚染)を防止することができる。
<3>上記の効果 <2>によって、後段の膜分離処理装置の小型化とその操作の簡素化ができる。
【0020】
さらに、陰イオン交換樹脂がOH形の場合は、これに酸性のCMP工程排水を接触させることで、排水のpHが中和され、研磨剤粒子の分散状態が向上する〔特に、コロイダルシリカ(SiO2 )等の研磨剤粒子の場合、中性からアルカリ側に安定ゾル相があり、中和により分散状態が向上する〕ため、分離膜の目詰まりが少なくなり、透過流束が更に高くなる。但し、酸化剤として硝酸第二鉄を使用しているCMPスラリーに由来するCMP工程排水を処理する場合、OH形の陰イオン交換樹脂で処理すると、排水のpHが高くなり水酸化鉄の沈殿が生成し、後段の膜処理装置の分離膜の目詰まりの原因になるので、陰イオン交換樹脂は、OH形以外のCl形、SO4 形等とするのが好ましい。また、被研磨物がアルカリ性で水酸化物となって沈澱を生成するようなメタル(銅等)の場合も、OH形の陰イオン交換樹脂を用いるのは好ましく無い。
【0021】
また、陰イオン交換樹脂は過酸化水素(酸化剤)に侵されて、徐々に劣化するので、過酸化水素を多く含むCMP工程排水を直接的に陰イオン交換樹脂により処理することは好ましくない。CMP工程排水を活性炭処理して排水中の過酸化水素を分解する。
【0022】
陰イオン交換樹脂の方が活性炭よりも再生は容易で、陰イオン性TOC成分の交換容量は大きい。活性炭処理した後、アルカリを添加しても良い。但し、アルカリ添加で水酸化物の沈澱を生じる場合は、上述と同様の理由で、アルカリ添加は、避けるか又は添加する場合でも沈殿が生じない程度においてのみ可能である。
【0023】
本発明は、CMP工程排水を活性炭処理装置により前処理した後に膜分離処理装置により濃縮してその容積を減少させ、産業廃棄物として処分する濃縮水の量を減少させることを特徴とするが、上述したことより明らかな通り、前処理無くしては目詰まりを起こす分離膜から構成される膜分離処理装置の少なくとも前段に活性炭処理装置が在れば、本発明の実施となる。従って、活性炭処理装置の前段に大きなゴミ等を除去する荒取り用のプレフィルターなどが在っても良く、膜分離処理装置が、例えば、精密濾過膜処理装置と限外濾過膜処理装置からなる多段膜分離処理装置から構成されていても良く、また、膜分離処理装置の後段に透過水を処理する逆浸透膜処理装置やイオン交換樹脂処理装置等の脱塩装置が在っても良い。本発明の装置は、CMP工程排水を少なくとも放流水にまで処理するが、上記の逆浸透膜処理装置やイオン交換樹脂処理装置などにより更に浄化し、CMP工程の洗浄用水(リンス水)、雑用水、純水等の回収水を得るようにしてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のCMP工程排水処理装置を用い、酸性乃至中性の研磨液(CMPスラリー)を用いるCMP工程排水の活性炭処理を前処理として行うことによって、膜分離処理の前段で排水中のTOC成分を除去することができ、膜分離処理の際の分離膜の目詰まり頻度を減少させ、高い透過流束を安定して得ることができる。従って、本発明のCMP工程排水処理装置は、小型化が可能で、そのイニシャルコスト及びランニングコストを低下させることができ、装置運転の安定化も図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
【0026】
先ず、本発明のCMP工程排水処理装置の基本的な一例のフロー図を図1に示す。図示されていない研磨装置は、ウェハや半導体デバイスの中間製品等の被研磨物のCMP工程を実行する装置であり、単独のCMP工程のための装置でも、複数のCMP工程のための装置であってもよい。この研磨装置は、ポリウレタン等からなる研磨パッドを張り付けた回転基盤とこの上方に被研磨物を保持する基板保持ヘッドを有している。そして、研磨液(CMPスラリー)を研磨パッド上に滴下し、研磨パッドにCMPスラリーを染み込ませた状態で、基板保持ヘッドに固定したウェハや層間絶縁膜層又はメタル層が形成された半導体デバイスの中間製品等の被研磨物を回転させながら研磨パッドに押し当てる。これによって、例えば、メタル層の研磨工程では、コロイダルシリカ(SiO2 )等の研磨剤粒子による機械的研磨作用と過酸化水素等の酸化剤の化学的エッチング作用を併せて利用することにより、メタル層の精密な研磨が達成される。なお、研磨前後や研磨中においては、適宜に(超)純水等をリンス水として用いた(被)研磨物の洗浄が行われると共に、CMPスラリーによる研磨の後に(超)純水による水研磨(CMPスラリーを用いず、水だけを用いて行う研磨パッドによる研磨)も行う。
【0027】
研磨装置から排出されるCMP工程排水は、一旦排水槽1に貯留される。次いで、排水槽1からポンプP1により活性炭処理装置2にCMP工程排水を上向流で通水し、ここで主としてTOC成分を除去する前処理を行う(過酸化水素等の酸化剤も除去されるが、特に活性炭処理装置は過酸化水素の除去は効率的である)。活性炭処理装置2には下向流の通水でもよいが、CMP工程排水に過酸化水素が含まれている場合には、上向流の通水によればこの装置の頂部から過酸化水素の分解ガスの排気ができるので好都合である。得られる前処理水を一旦前処理水槽3に貯留し、次いで、ポンプP2により膜分離対象の原水を貯留する原水槽4に送水する。原水槽4からポンプP3により原水を精密濾過膜や限外濾過膜等の孔径1〜1000nmの分離膜を備えた膜分離処理装置5に送水する。ここで、研磨剤粒子、研磨屑、研磨パッド屑等の固形分が濃縮された濃縮水とこれらがほぼ除去された透過水とに分離される。
【0028】
濃縮水は原水槽4に返送され、上記前処理水と合流して原水となり、循環方式で膜分離処理装置5に再送される。この様な循環方式で前処理水は濃縮され、その結果、原水の固形分濃度又は濃縮倍率が所定の値に達したら、制御弁V1を閉じ、制御弁V2を開いてブローする。なお、制御弁V1を完全に閉じ、制御弁V2を完全に開くことは必ずしも必要では無く、分離膜の逆洗時以外は、例えば、原水の固形分濃度又は濃縮倍率を適当な所定レベルに維持するように両制御弁V1とV2を常時自動制御するようにしてもよい。
【0029】
一方、透過水は、透過水槽6に一旦貯留し、分離膜の逆洗に使う分以外は、ポンプP5により直接放流するか、必要に応じて図示しない貯槽に貯留した後、そのまま放流したり、あるいは中和処理後に放流したり、また、必要に応じて更に逆浸透膜処理やイオン交換樹脂処理などの何らかの処理を行った後、水の回収を行うことができる。
【0030】
分離膜の逆洗を行うに際しては、制御弁V1とV3を閉じ(但し、制御弁V1は開けたままでもよい)、透過水槽6から逆洗ポンプP4により透過水の一部に水圧を加え、逆止弁V4を通して膜分離処理装置5に返送し、分離膜の逆洗を行い、逆洗排水は原水槽4に送られる。
【0031】
図2は、本発明のCMP工程排水処理装置の他の一例のフロー図である。この装置は、逆洗の機構が図1の装置と異なるだけである。即ち、図2の装置では、図1における逆止弁V4と逆洗ポンプP4の代わりにエアー駆動シリンダー7を備え、このシリンダー中に透過水の一部を蓄え、逆洗時には、エアー(空気)圧で該一部の透過水を押し出し、分離膜の逆洗を行う。従って、図2の装置では、図1における透過水槽6及びそれからの逆洗用の透過水の返送ラインは無い。その他は、図1と同じなので、図2において図1と同じ符号を付し、それらの説明は省略する。
【0032】
図3は、本発明のCMP工程排水処理装置の更に他の一例のフロー図である。図3の装置では、活性炭処理装置22と薬注装置(アルカリ水溶液槽26と薬注ポンプP24から構成される)とを併用して膜分離に供される原水を前処理するのが特徴で、特にCMP工程排水のpHが低い場合に有用で効果的である。即ち、活性炭処理装置22でCMP工程排水中のTOC成分を除去すると共に、過酸化水素等の酸化剤がCMP工程排水に含まれていれば酸化剤も分解除去もしくは吸着除去し、一方、アルカリ水溶液槽26から薬注ポンプP24により水酸化ナトリウム等のアルカリの水溶液を活性炭処理水槽23から原水槽24の間のラインに注入し、膜分離処理装置25に原水が送水される前に原水のpH調整を行い、コロイダルシリカ(SiO2 )等の研磨剤粒子の安定ゾルを形成して分散状態を向上し、分離膜の目詰まりを少なくし、分離膜に対する原水の透過流束を高く維持できるようにする。原水槽24にはpH計27が取り付けられており、原水のpHを測定し、破線で表される制御ラインを通じて薬注ポンプP24を制御し、アルカリ水溶液の注入量を調節する。なお、アルカリ水溶液を活性炭処理水槽23から原水槽24の間のラインに注入する代わりに、直接的に原水槽24に注入しても、原水槽24から膜分離処理装置25の間のラインや膜分離処理装置25から原水槽24への返送ラインに注入してもよい。但し、いずれかのライン中にアルカリ水溶液を注入する場合は、例えば、インラインミキサー(in-line mixer)等を設けるのが好ましい。また、pH計27は、原水槽24に取り付る代わりに原水槽24から膜分離処理装置25の間のライン(原水の供給ラインあるいは濃縮水の返送ライン)に取り付けても良い。
【0033】
図3において、21は排水槽、P21、P22及びP23はポンプ、V21、V22及びV23は制御弁である。また、図4において「逆洗」と記した部分は、図1の様な逆洗ポンプを用いる機構としても、図2の様なエアー駆動シリンダーを用いる機構としても、どちらでも良い。その他は、図1との関連で説明したのと同じなので、説明を省略する。
【0034】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明し、その効果を明らかにするが、本発明はこれらの実施例により限定されるものでは無い。
【0035】
以下の実施例においては、メタル研磨CMP工程排水〔研磨剤粒子としてコロイダルシリカ(SiO2 )及び酸化剤として過酸化水素を含むCMPスラリーを用いたメタル研磨CMP工程から排出された排水〕を原排水として用いた。実施例1と3においては、東芝セラミックス(株)製のセラミック系分離膜(孔径:20nm)のモジュール(商品名:MEMBRALOX)を使用し、内圧型のクロスフロー(cross flow)で原排水又は処理液の濃縮を行った。実施例2と4においては、旭化成工業(株)製の有機系分離膜(ポリアクリロニトリル系、孔径:2nm)の実験用モジュール(商品名:ACP−1050)を用い、内圧型のクロスフローで原排水又は処理液の濃縮を行った。
【0036】
各分離膜の逆洗は、セラミック系分離膜については、5kgf/cm2 の水圧をエアー駆動シリンダーにて加えて行い、有機系分離膜については、1.4kgf/cm2 の水圧で逆洗ポンプにより行った。なお、セラミック系分離膜は、機械的強度が高く、また、高い圧力を加えないと目詰まりの原因物質を除去し難いのでエアー駆動シリンダーを用いたが、逆洗時間は1〜2秒であった。一方、有機系分離膜は、機械的強度が低く、高い圧力を加えると破壊する虞があるので逆洗ポンプを用いたが、逆洗時間は約10秒であった。
【0037】
以下の実施例においては、<1>CMP工程排水(原排水)、<2>原排水の活性炭処理水(AC処理水)、<3>原排水のOH形陰イオン交換樹脂処理水(A処理水)、<4>原排水のH形陽イオン交換樹脂処理水(K処理水)、<5>原排水をpH=6.1まで中和したpH調整水(中和水)の5種の試料水を上記の各分離膜に通水し、定期的に逆洗を行い、分離膜に対する透過流束の変化を調べた。なお、活性炭処理は三菱化学株式会社製の活性炭「ダイアホープ−006」を用い、陰イオン交換樹脂処理はローム・アンド・ハース社製の陰イオン交換樹脂「アンバーライトIRA−402BL」のOH形を用い、また、陽イオン交換樹脂処理はローム・アンド・ハース社製の陽イオン交換樹脂「アンバーライトIR−124」のH形を用い、空間速度SV=5/hrの上向流で行った。ここで、試料水<1>、<4>及び<5>は、本発明の実施例との比較のために各分離膜に通水したもので、比較例に相当する。
【実施例1】
【0038】
セラミック系分離膜モジュールを用い、平均濾過圧1.6kgf/cm2 且つ線流速LV=3m/秒にて各試料水を循環濾過した。即ち、分離膜に対する透過流束の変化を調べる実験であるから、濃縮水と濾過水(透過水)の全量を試料水タンクに戻すようにした。図4に、1時間に渡るモジュール運転データを示す(縦軸の透過流束は、濾過圧1kgf/cm2 、水温25℃当たりに換算して示した)。分離膜の逆洗は10分間隔で5kgf/cm2 の水圧をエアー駆動シリンダーにて加えて行った。
【0039】
図4に示すように、A処理水とAC処理水の場合は、逆洗前後で透過流束の変化がなく、モジュール運転が安定していた。
【0040】
これに対し、原排水、中和水及びK処理水の場合は、逆洗前後で透過流束が大きく変化した。中和水の場合は、原排水及びK処理水の場合に比べ、透過流束が高くなったが、A処理水及びAC処理水の場合に比べると低かった。
【0041】
図4に示した結果から、CMP工程排水の陰イオン交換樹脂処理や活性炭処理を前処理として行うと、分離膜に対する前処理水の透過流束が安定して高く維持されること、並びに、OH形陰イオン交換樹脂処理を前処理として行うと、透過流束が高くなることが分かる。
【実施例2】
【0042】
有機系分離膜モジュールを用い、平均濾過圧1.0kgf/cm2 且つ線流速LV=2m/秒にて各試料水を循環濾過した。即ち、分離膜に対する透過流束の変化を調べる実験であるから、濃縮水と濾過水(透過水)の全量を試料水タンクに戻すようにした。図5に、1時間に渡るモジュール運転データを示す(縦軸の透過流束は、濾過圧1kgf/cm2 、水温25℃当たりに換算して示した)。分離膜の逆洗は10分間隔で1.4kgf/cm2 の水圧で逆洗ポンプにより行った。
【0043】
図5に示すように、A処理水とAC処理水の場合は、逆洗前後で透過流束の変化がなく、モジュール運転が安定していた。
【0044】
これに対し、原排水、中和水及びK処理水の場合は、逆洗前後で透過流束が大きく変化した。中和水の場合は、原排水及びK処理水の場合に比べ、透過流束が高くなったが、A処理水及びAC処理水の場合に比べると低かった。
【0045】
この様に、実施例2においても実施例1と同じ傾向を示した。即ち、図5に示した結果から、CMP工程排水の陰イオン交換樹脂処理や活性炭処理を前処理として行うと、分離膜に対する前処理水の透過流束が安定して高く維持されること、並びに、OH形陰イオン交換樹脂処理を前処理として行うと、透過流束が高くなることが分かる。
【実施例3】
【0046】
実施例1の条件で(逆洗条件も実施例1と同じ)、透過水を系外に排出して、濃縮水を試料水タンクに戻すようにして、循環方式で濃縮水を元の試料水の10倍まで濃縮してゆき、透過流束を調べた。結果を図6に示す。
【0047】
濃縮が進むにつれて透過流束が低下したが、透過流束は、全ての濃縮倍率の範囲で、A処理水、AC処理水、原排水の順に低くなった。なお、A処理水とAC処理水の場合は、逆洗前後での透過流束の変化は殆ど無かったが、原排水の場合は、逆洗前後での透過流束の変化が大きかった。図6において、原排水の透過流束は、平均値で表した。
【実施例4】
【0048】
実施例2の条件で(逆洗条件も実施例2と同じ)、透過水を系外に排出して、濃縮水を試料水タンクに戻すようにして、循環方式で濃縮水を元の試料水の10倍まで濃縮してゆき、透過流束を調べた。結果を図7に示す。
【0049】
実施例3のセラミック系分離膜の場合と同様に、濃縮が進むにつれて透過流束が低下したが、透過流束は、全ての濃縮倍率の範囲で、A処理水、AC処理水、原排水の順に低くなった。なお、A処理水とAC処理水の場合は、逆洗前後での透過流束の変化は殆ど無かったが、原排水の場合は、逆洗前後での透過流束の変化が大きかった。図7において、原排水の透過流束は、平均値で表した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、本発明のCMP工程排水処理装置の基本的な一例のフロー図である。
【図2】図2は、本発明のCMP工程排水処理装置の他の一例のフロー図である。
【図3】図3は、本発明のCMP工程排水処理装置の更に他の一例のフロー図である。
【図4】図4は、実施例1における透過流束の経時変化を示すグラフ図である。
【図5】図5は、実施例2における透過流束の経時変化を示すグラフ図である。
【図6】図6は、実施例3における透過流束−濃縮倍率の関係を示すグラフ図である。
【図7】図7は、実施例4における透過流束−濃縮倍率の関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0051】
1 排水槽
2 活性炭処理装置
3 前処理水槽
4 原水槽
5 膜分離処理装置
6 透過水槽
P1、P2、P3、P5 ポンプ
P4 逆洗ポンプ
V1、V2、V3 制御弁
V4 逆止弁
7 エアー駆動シリンダー
21 排水槽
22 活性炭処理装置
23 活性炭処理水槽
24 原水槽
25 膜分離処理装置
26 アルカリ水溶液槽
27 pH計
P21、P22、P23 ポンプ
P24 薬注ポンプ
V21、V22、V23 制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性乃至中性研磨液を用いるCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)工程排水を主として含む排水を前処理する活性炭処理装置、および、得られる前処理水を膜分離処理して濃縮水と透過水とに分離する分離膜を備えた膜分離処理装置を含むことを特徴とするCMP工程排水処理装置。
【請求項2】
前記分離膜の孔径が1nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1に記載のCMP工程排水処理装置。
【請求項3】
前記分離膜が、無機系分離膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載のCMP工程排水処理装置。
【請求項4】
前記CMP工程排水中に過酸化水素が含まれることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のCMP工程排水処理装置。
【請求項5】
前記活性炭処理装置と前記膜分離処理装置の間にpH調節装置を設けることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のCMP工程排水処理装置。
【請求項6】
前記CMP工程排水が、メタル研磨CMP工程排水であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のCMP工程排水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−750(P2008−750A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212056(P2007−212056)
【出願日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【分割の表示】特願平10−113863の分割
【原出願日】平成10年4月23日(1998.4.23)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】