CXCケモカイン受容体4(CXCR4)拮抗性ポリペプチド
以下のアミノ酸配列:Z1‐LVRYTKKVPQVSTPTL‐Z2(ALB‐408)を有するペプチド、ならびに、その生物学的活性断片、および/または変異体、および/または誘導体、特にアミド化、アセチル化、硫酸化、リン酸化、および/もしくはグリコシル化誘導体、ならびに、多重合成によって得ることができるALB408‐423の生物学的活性を有するペプチドであって、Zは0〜10の数のアミノ酸残基を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV‐1等のCXCR4依存性ウイルスの感染を阻害し、CXCL12のCXCR4への結合によって媒介される腫瘍細胞遊走を阻害するCXCケモカイン受容体4(CXCR4)拮抗性ポリペプチド(タンパク質)及びヒト循環抗ウイルスアルブミン断片(Human circulating antiviral albumin fragment)(ALB408‐423)、ならびに治療および診断におけるその使用に関する。本発明は、ALB408‐423の天然の形態、ならびにそれから得られた断片および/または類似体もしくは誘導体、ならびに、最後に、薬効の指標として用いられるおよび診断薬として用いられる、該天然の、組換えの、および合成のペプチドを含有する薬剤を含む。さらに、本発明は、特に好ましい治療効果を有するALB408‐423の修飾された形態および誘導体を含む。さらに、本発明は、ALB408‐423またはその断片および/もしくは誘導体の一つへハイブリダイズする核酸プローブ、ならびにALB408‐423またはその断片および/もしくは誘導体の一つに対して指向された抗体、またはアンタゴニストを含み、診断または治療目的、特にウイルス性疾患における、HIV‐1およびHIV‐2感染の治療、さらには癌細胞の転移を防ぐための新生物疾患の治療、または喘息、肺線維症、もしくは関節リウマチ等の慢性炎症性疾患の治療のためのものである。
【背景技術】
【0002】
ケモカイン受容体は、特定の細胞の表面上で発現され、ケモカインと称されるサイトカインと相互作用を起こす。CXCケモカイン受容体4(CXCR4)は、その内在性リガンドであるケモカインCXCL12(ストロマ細胞由来因子‐1、SDF‐1)のシグナルを伝達するGタンパク質共役受容体である。CXCR4/CXCL12の相互作用に続いて、細胞内カルシウム(Ca2+)イオンの流入が誘発される。これが、細胞の生物内での移動を可能とする化学遊走を含む細胞反応を引き起こす。CXCR4は、ミエロイド細胞、T‐リンパ球、B‐リンパ球、上皮細胞、内皮細胞および樹状細胞上で発現される。ケモカインCXCL12は、CXCR4の唯一の既知のアゴニスト性リガンドである。CXCL12とCXCR4との相互作用は、心血管系、造血系、または中枢神経系の胚発生中の前駆細胞遊走において極めて重要な役割を担っている。この相互作用は、HIV感染/AIDS、癌細胞転移、白血病細胞の進行、肺線維症、および関節リウマチ等のいくつかの疾患に関与していることも知られている。この相互作用は、これらの疾患すべてに対する決定的な治療標的であり得ると推察される。CXCR4/CXCL12シグナル伝達を阻害する物質は、HIV/AIDS治療を例とする薬剤としての可能性を有するか、または、癌転移、白血病、および肺線維症、関節リウマチ、もしくは喘息等の炎症性疾患に関与する細胞遊走プロセスを阻止すると推察される(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。細胞反応を誘発するCXCL12等の受容体アゴニストとは対照的に、受容体アンタゴニストは、その受容体と結合した際に、生物反応、すなわち、細胞遊走またはCa2+シグナル伝達、を誘発しないリガンドまたは薬剤である。受容体アンタゴニストは、HIV‐1感染の阻害(CCR5アンタゴニスト)またはアゴニストが媒介する細胞反応の低減が可能である有用な薬剤として既に臨床的に使用されている(例:アンジオテンシンアンタゴニスト、β‐アドレナリンアンタゴニスト、セロトニンアンタゴニスト、またはCCR5アンタゴニスト)。受容体アンタゴニストと受容体との相互作用により、アゴニストの機能が阻害される。ほとんどの薬剤アンタゴニストは、受容体上の構造的に決定される結合部位において内在性のリガンドまたは基質と競合することにより、その効力を発揮する。
【0003】
CXCR4アンタゴニストが癌細胞遊走を阻害し、従って転移を阻害することは、インビトロおよびインビボにてすでに示されている。CXCR4は、種々の細胞(ミエロイド細胞、T‐リンパ球、B‐リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、および樹状細胞)の表面上、ならびに異なる23種類の癌細胞にて発現される。CXCL12‐CXCR4相互作用は、乳癌、腎臓癌、前立腺癌、肺癌、および膵臓癌、ならびにメラノーマ、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、および悪性脳腫瘍を含むいくつかの種類の癌の転移に関与している(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。T140類似体等のCXCR4アンタゴニストが、CXCL12によって誘発される膵臓細胞遊走および浸潤、または乳癌細胞遊走をインビトロおよびインビボにて抑制することが示されている(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。CXCR4アンタゴニストが、小細胞肺癌(SCLC)の浸潤および接着をインビトロにて効果的に抑制することも実証されており(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)、CXCL12‐CXCR4相互作用がSCLC転移に関与していることが確認される。CXCR4/CXCL12相互作用は、前駆B(プレ‐B)急性リンパ芽球性白血病(ALL)および慢性リンパ球性白血病(CLL。CXCR4アンタゴニストは、プレ‐B ALL細胞の遊走も低下させる)の発症にも関与している(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。さらに、関節リウマチが、CXCR4を発現するCD4+メモリーT細胞の炎症滑膜への蓄積によって引き起こされることが示されている。関節リウマチ患者では滑膜中のCXCL12濃度が非常に上昇しており、これがメモリーT細胞を誘引する。CXCR4拮抗性分子は、メモリーT細胞の滑膜への遊走を阻害する(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。
【0004】
CXCR4アンタゴニストは、アゴニストCXCL12のCXCR4への結合を阻害するだけでなく、HIV糖タンパク質gp120とCXCR4との相互作用も阻止し、それによってウイルスの感染を阻害する。ヒト免疫不全ウイルス1および2(HIV‐1およびHIV‐2)は、細胞表面に発現されたCD4を一次受容体として用い、ケモカイン受容体CCR5またはCXCR4を細胞移入のための共受容体として用いる。CD4およびCXCR4を介して細胞に感染するウイルスは、CXCR4(X4)向性、CD4およびCCR5を用いるHIV‐1変異体は、R5向性、ならびに両方の共受容体を用いることができるウイルスは、二重向性(dualtropic)、と称される。X4向性HIV‐1変異体は、全AIDS患者の約50%で見ることができるに過ぎないが、R5向性HIV変異体は、HIV‐1感染の初期ステージおよび無症状ステージにおいて支配的である。X4向性HIV‐1感染は、インビトロおよびHIV‐1に感染したヒトにおいて、細胞または患者をAMD3100等のCXCR4アンタゴニストで処理、治療することによって阻害可能であることが示されている。興味深いことに、CCR5アンタゴニストであるマラビロクは、R5向性HIV‐1変異体の感染を阻害する、AIDS治療において最初に臨床認可された薬剤である(Tsibris and Kuritzkes, 2007, Annual Review of Medicine 58:445‐459、にてレビューされている)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ケモカイン受容体CXCR4は、HIV/AIDS、癌と関連する病状、および喘息または肺線維症等の慢性炎症性疾患の治療に対する魅力的な治療標的である。CXCL12が媒介する細胞反応を阻害するCXCR4アンタゴニストは、疾患の発症および進行におけるこれらの重要な経路を阻害し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のアミノ酸配列:
Z1‐LVRYTKKVPQVSTPTL‐Z2(ALB‐408)
を有するペプチド、ならびに、その生物学的活性誘導体、特にアミド化、アセチル化、硫酸化、リン酸化、および/もしくはグリコシル化誘導体、ならびに、多重合成によって得ることができるALB408‐423の生物活性を有するペプチド、に関し;
ここで、Zは、0〜10の数のアミノ酸残基を表す。
【0007】
本発明のペプチドは、本発明のペプチド、特に本発明のALB408‐423ペプチドにおいて、その配列中の単一もしくは複数のアミノ酸残基が、置換、欠失、もしくは付加されているか、または、本発明のペプチド、特にALB408‐423、の単一のアミノ酸上に化学修飾が導入されており、本発明のペプチド、特にALB408‐423、と類似もしくは同一の生物活性または薬理活性を有しているものとも関連している。特に、疎水性アミノ酸に対して疎水性アミノ酸、または芳香族アミノ酸に対して他の芳香族アミノ酸、または塩基性アミノ酸に対して他の塩基性アミノ酸を置換すること、等を意味する保存的なやり方で配列のアミノ酸を置換することによって容易に得ることができるペプチドが関係する。これは当業者に周知である。
【0008】
本発明のペプチドのレトロインベルソ(retro‐inverso)ペプチド、ならびにペプチダーゼに対してペプチド結合を安定化させるその他の誘導体も、本発明の範囲内である。
【0009】
誘導体という用語は、N末端およびC末端切断などのあらゆる長さの断片、ALB408‐423においてD‐アミノ酸残基や修飾アミノ酸残基も含めたアミノ酸残基の置換を有するもの、およびジスルフィド結合や、N末端やC末端での伸長を有するペプチド、を意味する。
【0010】
本発明の別の主題は、本発明のペプチド、特にALB408‐423および/またはその誘導体をコードするポリヌクレオチドである。本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、ゲノムDNA、またはPNAから構成されることを特徴とする。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、原核細胞または真核細胞内での組換えペプチド発現、変異誘発試験、対象とするベクター内、特に遺伝子導入の手法に用いることができるベクター内でのクローン化、に用いられる。
【0011】
本発明のさらなる主題は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターである。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチド配列をコードするベクターは、原核細胞または真核細胞内での組換えペプチド発現、変異誘発試験、および、特に、真核細胞へのALB408‐423遺伝子導入に用いられる。
【0012】
本発明の別の主題は、本発明のベクターを含む遺伝子操作された宿主細胞である。遺伝子操作された、ALB408‐423または関連する誘導体を発現するトランスジェニック細胞を遺伝子治療の手法に用いることができ、それによって、ALB408‐423および関連する誘導体を、CXCR4アンタゴニストを必要とする個体内、特に癌およびAIDS患者内で発現および分泌させることが可能となる。
【0013】
本発明のさらに別の主題は、本発明のポリペプチドに対する抗体である。このような抗体は、血液、血清、血漿等の身体サンプル中のALB408‐423および関連するペプチドを、診断目的で、ELISA、RIA、または免疫蛍光にて検出するのに有用である。
【0014】
本発明のペプチドは、本発明のペプチド、特にALB408‐423を必要とする患者を治療するための方法において、投与することができる。
【0015】
本発明のさらなる主題は、本発明のペプチドのアンタゴニスト/阻害剤の治療量を投与することによって、ALB408‐423の阻害を必要とする患者を治療するための方法である。ALB408‐423およびその誘導体は、CXCR4アンタゴニストであり、HIV感染/AIDS、癌細胞転移、白血病細胞の進行、肺線維症、および関節リウマチ等のいくつかの疾患、ならびにその他の癌および炎症性疾患の治療を可能とする。
【0016】
本発明のポリペプチドから成るガレノス製剤(galenic formulation)も、本発明の主題である。
【0017】
本発明によると、本発明のペプチドをコードするDNAの投与および患者内でのインビボでのその発現によってポリペプチドの治療効果が達成される、患者を治療するための方法も提供される。
【0018】
本発明のペプチドは、カチオン交換抽出による血液ろ過液からの抽出、ならびにそれに続く吸着物質の溶離、ペプチドを含有する抽出物の再度のカチオン交換クロマトグラフィ、および分画逆相クロマトグラフィを含むプロセスによって提供することができる。
【0019】
あるいは、本発明のペプチドを製造するためのプロセスは、メリフィールド合成(Merrifield synthesis)による固相合成、または、保護アミノ酸を用い、それ自体が当業者に公知の方法による液相合成、およびその精製によって実施することができる。
【0020】
本発明のペプチドを製造するためのさらなるプロセスは、一般的な生物工学的ベクターを用いる、当業者に公知の異種発現の方法を用いる。
【0021】
本発明のさらなる主題は、本発明のポリクローナルもしくはモノクローナル抗体を含有する、または本発明のペプチド、特にALB408‐423、をコードする核酸もしくはmRNAを含有する診断薬である。
【0022】
本発明の診断薬は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを含有し、組織、血漿、尿、および脳脊髄液等のサンプル中のこの物質のレベルを分析するための試験システムに用いるためのものである。
【0023】
特に、診断薬および本発明のペプチドを検出する試験システムは、組織、血漿、尿、および脳脊髄液のこの物質のレベルを、RP‐HPLC、タンパク質沈殿、および/または固相抽出によるサンプル調製と組み合わせた、MALDI‐MSまたはESI‐MS等の質量分析法によって分析するために用いられる。
【0024】
本発明の主題は、さらに、ウイルス性疾患、細菌および真菌感染、炎症および新生物形成プロセスに対するマーカーとして、ならびに炎症プロセス、撹乱された炎症反応(disturbed inflammation reactions)、腫瘍性疾患、成長障害、免疫系の疾患におけるマーカーとして、ならびに骨疾患におけるマーカーとして、本発明のペプチドを含有する診断薬である。
【0025】
本発明は、さらに、経口、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、くも膜下腔内投与のためのガレノス剤形(galenic form)の活性成分として、および経肺投与のためのエアロゾルとして、本発明のペプチドを含有する薬剤も提供する。
【0026】
本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、抗体/アンタゴニスト、およびガレノス製剤は、ウイルス性疾患、特にHIV‐1、HIV‐2、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス(1型および2型)、水痘帯状疱疹ウイルス、A型肝炎およびB型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、エプスタイン‐バーウイルス、の治療、ならびに細菌および真菌感染、炎症プロセス、撹乱された炎症反応、腫瘍性疾患、成長障害、神経疾患、凝血および造血の疾患、血管疾患、免疫系の疾患の治療、ならびに創傷および骨の治癒、のために用いることができる。
【0027】
ALB408‐423を具体例として用いて、本発明をさらに詳細に説明する。以下の説明において、同様にALB408‐423を本発明のペプチドに置き換えることが可能であることは容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1A〜図1Fは、ヒト血液ろ過液からのALB408‐423の単離の詳細を示す図である。
【図2】画分31を含有するALB408‐423が、HIV‐1 NL4‐3感染を阻害することを示す図である。
【図3】化学的に合成されたALB408‐423が、X4向性HIV‐1感染を特異的に阻害することを示す図である。
【図4】ALB408‐423が、X4向性レンチウイルス感染を阻害することを示す図である。
【図5】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図6】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図7】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図8】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図9】ALB誘導体の細胞毒性アッセイを示す図である。
【図10】ALB408‐423および切断型ALB誘導体が、X4向性HIV‐1感染を特異的に阻害することを示す図である。
【図11】ALB408‐423および誘導体が、末梢血液単核細胞(PBMC)のX4向性HIV‐1感染を阻害することを示す図である。
【図12】ALB408‐423が、CXCL12のCXCR4への結合を阻害することを示す図である。
【図13】ALB408‐423が、CXCR4、CCR5、およびCXCR1のいずれのアゴニストでもないことを示す図である。
【図14】ALB408‐423が、CXCR4を発現する細胞内において、CXCL12が誘発するCa2+動員を特異的に阻害することを示す図である。
【図15】ALB408‐423が、CXCL12が介するCXCR4の内在化を阻害することを示す図である。
【図16】ALB408‐423が、CXCL‐12が介するジャーカットT細胞の遊走を用量依存的に阻害することを示す図である。
【図17】ALB誘導体のCXCR4アンタゴニスト活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ALB408‐423は、驚くべきことに、クロマトグラフィ法および生物学的アッセイにより、ヒト血液ろ過液から単離することができた。本発明のペプチドの生化学的特徴付けは、アミノ酸の完全な配列分析を含む質量分析によって行った。
【0030】
このペプチドは、以下の配列番号8のアミノ酸配列:LVRYTKKVPQVSTPTLを有する。
【0031】
本発明のペプチドALB408‐423の分子量は1830.2Daである。
【0032】
本発明のペプチドALB408‐423の等電点(pI)は、10.3である。
【0033】
驚くべきことに、本発明のペプチドは、そのプロセッシングされた形態で585個のアミノ酸から成る既知のヒト血漿タンパク質血清アルブミン(アクセス番号NP000468)の16個のアミノ酸を含む断片である。ヒトアルブミンは、分子量約65,000の可溶性単量体血清タンパク質であり、全血漿タンパク質の半分超を占める(濃度:3.5〜5g/dl)。ヒトアルブミンの機能は、主として、例えばステロイドおよびペプチドホルモン、脂肪酸、ビタミン、薬剤、ならびにカチオンといったあらゆる種類の疎水性ならびに親水性物質のための担体分子としてのものであると説明される。その非常に高い血清中濃度のために、血液pHの安定化、細胞外液体積、およびコロイド浸透圧の維持に実質的に寄与している。アルブミンは、多数のジスルフィド架橋によって安定化された球状構造を有しており、通常はグリコシル化されていないが、分子の老化に従い、または病態生理学的変化の際に、アセチル化、酵素的グリコシル化、および非酵素的グリコシル化による変化が発生する場合が多い。これは、609個のアミノ酸を有するプレプロアルブミン(pre‐pro‐albumin)として肝臓で合成され;18個のアミノ酸を含むN‐末端シグナルペプチドが、小胞体への進入の際に細胞内で切断され;別の6個のアミノ酸がゴルジ体内で除去された後、585個のアミノ酸を含む成熟アルブミンが肝細胞によって分泌される。アルブミンのクリアランスは腎臓、消化管を通して、および肝臓の組織細胞内で行われる。
【0034】
本発明のALB408‐423のペプチド配列は、アミノ酸408から開始し、従って、循環形態のアルブミンのアミノ酸408〜423を含む。これは明らかに、対応するプロテアーゼによるアルブミン前駆体の天然のプロセッシングによって産生される。
【0035】
驚くべきことに、本発明のペプチドは、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)に対するアンタゴニストであり、ヒト細胞内でのHIV‐1の感染および複製の抑制、ならびに細胞遊走、Ca2+動員、またはCXCR4内在化等のCXCL12/CXCR4が誘発する細胞反応の抑制を引き起こす。
【0036】
本発明のペプチドは、ヒト血液ろ過液(HF)からのクロマトグラフィによる精製によって得ることができる。HFは、腎臓患者の血液の限外ろ過から大量に得られる(実施例1)。HFは、ヒト血液中を循環する分子量30kDa未満のすべてのペプチドおよびタンパク質を含有している。HF中のペプチドおよびタンパク質は、カチオン交換クロマトグラフィを用いて抽出した。カラムに結合したペプチドおよびタンパク質は種々のpH値のバッファー系で溶離し、溶離液を逆相クロマトグラフィに掛けた(実施例1)。HIV‐1感染を阻害する画分を同定するために、ペプチド画分をPBS中へ溶解し、HIV許容性指標細胞(HIV permissive indicator cells)へ添加した。次に、細胞をCXCR4向性HIV‐1に感染させ、感染後3日目(dpi)の感染率を測定した(実施例1)。1つの画分が強力な抗HIV活性を示し、これを、クロマトグラフィ精製およびHIV阻害アッセイのさらなるラウンドに掛け、生物活性ペプチドの同定を目指した(実施例1)。4ラウンドの精製の後、活性画分31の質量分析から、分子量1830Daの単一のペプチドの存在が明らかとなった(実施例2)。配列分析からLVRYTKKVPQVSTPTLが同定され、配列比較から、アミノ酸残基408‐423(ALB408‐423)を包含する、非常に豊富である血清タンパク質「ヒト血清アルブミン;(ALB)」との100%の相同性が示された(実施例2)。化学的に合成されたペプチド(実施例3)がX4向性HIV‐1感染を用量依存的に阻害することから、活性の証拠が実証された(実施例4)。指標細胞内にて、ALB408‐423は、X4向性HIV‐1変異体を特異的に阻害するが、R5向性HIV‐1感染には影響を与えない(実施例4および5)。ALB408‐423は、X4向性HIV‐2の感染も抑制した(実施例5)。抗ウイルス活性に対して極めて重要である残基の同定を目的とした構造活性相関研究(SAR)から得られたデータを実施例6にまとめるが、これより、ALB408‐423のN末端の完全性がその抗ウイルス活性に対して重要であることが示される。対照的に、最大6アミノ酸残基までのC末端の切断では抗ウイルス活性が抑止されることはなかった。SAR研究により、野生型ALB408‐423と比較して抗ウイルス活性の上昇を示すALB408‐419またはALB L408I‐419等のALB408‐423誘導体を同定することもできた(実施例6)。ALB誘導体のいずれも細胞毒性を示さない(実施例7)。指標細胞内(実施例8)または一次血液単核細胞内(実施例9)にて、ALB408‐423、ALB408‐419、およびALB L408I‐419は、種々のX4向性HIV‐1変異体の感染は用量依存的に阻害したが、R5向性HIV‐1変異体の感染は阻害しなかった。これらのデータはすべて、ALB408‐423またはその誘導体とHIV共受容体CXCR4との特異的な相互作用を示している。
【0037】
蛍光に基づく技術を用いて、ALB408‐423がCXCR4と直接結合してこれと相互作用を起こし、それによって天然のCXCR4アゴニストであるCXCL12の結合を阻止することを実証することができた(実施例10〜12)。ALB408‐423またはその誘導体単独では、CXCR4、またはCCR5およびCXCR1等のその他のケモカイン受容体を介したCa2+動員を誘発せず、このことは、ALB408‐423が定義に従うCXCR4アンタゴニストであることを示している(実施例10〜12および14)。ALB408‐423の存在下にて、CXCL12が介する細胞遊走(実施例13)、およびCXCR4受容体の内在化も阻害することができ、このことから、ALB408‐423がCXCR4アンタゴニストであることのさらなる証拠が提供される(実施例12)。まとめると、ヒト血清アルブミン断片であるALB408‐423は、HIV‐1感染阻害アッセイを用い、HF由来のペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって同定された。化学合成されたペプチドおよびその誘導体は、X4向性HIV‐1およびHIV‐2感染を、CXCR4受容体との直接の相互作用によって用量依存的に阻害する。ALB408‐423およびその誘導体は、細胞応答を媒介せず、天然のCXCR4アゴニストであるCXCL12の活性を抑制することから、アンタゴニストとして作用する。これらのデータは、ALB408‐423が最初のヒトCXCR4アンタゴニストであることの証拠である。ALB408‐423およびその誘導体は、X4向性HIV‐1に感染した個体の治療において、癌転移の予防、ならびにCXCR4/CXCL12シグナル伝達が関与する慢性炎症性疾患への干渉、およびCXCL12が介するCXCR4を通してのシグナル伝達の抑制に有用であり得る。
【0038】
本発明のペプチド、ならびにそのペプチドの類似体、断片、および誘導体、そのcDNA、その遺伝子、ならびにALB408‐423の活性を中和する抗体を、薬剤として用いることができる。その生物学的活性は、ウイルス阻害物質、癌細胞遊走阻害物質、およびCXCR4拮抗性物質の生物学的活性に対応している。ALB408‐423は、CXCR4と特異的に結合し、それによって、CXCR4向性HIV‐1変異体の感染および天然のCXCR4アゴニストであるCXCL12の結合を阻止する。本発明のペプチドは、非経口、静脈内、筋肉内、鼻腔内、局所‐外用(local‐topic)、皮下、または頬側経路でのペプチドに対して通例である方法によって投与することができる。投与されるペプチドの量は、1日の単位用量あたり1μg〜1gである。本発明のペプチドの活性は、適切な阻害剤/アンタゴニストを投与することによって阻害することができる。
【0039】
本発明の診断薬は、本発明のペプチドに対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を含み、それ自体が公知であるELISAまたはRIAで用いるために、蛍光標識または放射性標識された形態であってもよい。本発明の診断薬は、DNA、RNA、および/またはPNAを含み、PCRまたはフィンガープリンティング等の当業者に公知の試験システムで用いるために、修飾および/または標識された形態であってもよい。別の選択肢として、本発明の診断薬は、対応するサンプル調製および濃縮(沈殿による大型タンパク質の分離、クロマトグラフィまたはRP媒体(RP media)、固相抽出によるALB408‐423の濃縮)の後、その物質をその一価または多価イオン(親イオンまたはMS‐MSフラグメンテーション後の生成イオン)から定性的および定量的に明白に検出する質量分析法(MALDIまたはESI‐MS)から成る。
【0040】
本発明を、以下の実施例により、さらに説明する。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
ヒト血液ろ過液からの抗ウイルス効果を有するALB408‐423の単離
ヒト血液ろ過液は、所望により水による希釈および酸性化を行ってもよい。pH値は、1.5〜3.5が好ましく、2.5〜3.0が特に好ましい。その後、この血液ろ過液を、例えばスルホン酸基で修飾された支持体材料(Fraktogel SP‐650(M), Merck,ダルムシュタット,ドイツ)などのカチオン交換樹脂に通す。カチオン交換樹脂に結合したペプチドは、比較的高濃度の塩溶液で溶離させる。溶出液のイオン強度は、0.5M〜1Mの酢酸アンモニウム溶液のそれとおよそ同じである。
【0042】
回収した溶出液を別のカチオン交換クロマトグラフィに掛ける。このクロマトグラフィは、バッファーのpH値を上昇させていくことによる分画溶離が好ましい。
【0043】
本発明のペプチドを含有する画分は、分取用逆相クロマトグラフィ、続いて、例えばC18‐修飾支持体上での、セミ分取用逆相クロマトグラフィによってさらに精製する。精製の度合いは、例えばC18‐修飾支持体材料上での、分析用逆相クロマトグラフィを用いてモニタリングすることが好ましい。
【0044】
第一工程:血液ろ過液のバッチ抽出
800〜1000リットルの血液ろ過液を、HClにより2.7のpH値に調節し、水で希釈して導電率を5.5mS/cmとし、3L/分の流速で強カチオン交換体にチャージする。
【0045】
クロマトグラフィ条件:
カラム: Vantage VA250(Amicon,ビッテン,ドイツ)
カラム材料: Fractogel TSK SP650(M)、25cm×20cm
流速: 3L/分
検出: 280nm、pH、導電率
バッファーA: 血液ろ過液 pH2.7、導電率5.5mS/cm
バッファーB: 0.5M酢酸アンモニウム
装置: Autopilot Chromatographic System(PerSeptive Biosystems,ビースバーデン,ドイツ)
【0046】
全量1000リットルの液体を一晩かけてチャージした後、数カラム容量分の5mMのHClによる洗浄を行う。結合したペプチドの溶離は、0.5Mの酢酸アンモニウムによるバッチ溶離として行う。ペプチドの完全な溶離は、pH値の勾配(6.8〜7.2)および導電率の勾配(56mS/cm)により、約5リットルの溶離液で達成される。
【0047】
第二工程:一回目の分取分離(バッチ01/2003)
バッチ抽出の酢酸アンモニウム溶出液を、10,000リットルの血液ろ過液ペプチド分まとめる。pHを2.7に調節した後、このペプチド抽出液を、導電率が5.5mS/cmである完全脱塩水を添加した状態の分取用カチオン交換体にチャージする。
【0048】
クロマトグラフィ条件:
カラム: Vantage 250VA
カラム材料: Fractogel TSK SP650(M)、25cm×20cm
流速: チャージ時 最大3L/分
溶離時 0.5〜1L/分
検出: 280nm、pH、導電率
サンプル: 血液ろ過液 pH2.7、導電率5.5mS/cm
装置: Autopilot Chromatographic System(PerSeptive Biosystems,ビースバーデン,ドイツ)
【0049】
未処理の抽出液を240分かけてチャージした後、導電率が1mS/cm未満となるまで0.01MのHClでカラムを洗浄する。溶離は、以下に示すバッファーを用いて数工程で実施する。
【0050】
【数1】
【0051】
溶出液1〜7を、pHプールI〜VIIと称する。これらは、別々に回収し、最後に、完全脱塩水で洗浄する。溶離は、新たなベースラインが達成されるまで行い、個々のpHプールI〜VIIに対して溶離容量は10〜25リットルに達する。
【0052】
第三工程:二回目の分取分離:
分画および同時に行う脱塩のために、個々のpHプールを逆相クロマトグラフィによって分離する。
【0053】
クロマトグラフィ条件:
カラム: FineLine 100(Pharmacia,フライブルク,ドイツ)
カラム材料: Source RPC、15μm
10×12.5cm(FineLine 100)
流速: 150ml/分(FineLine 100)
検出: 280nm、導電率、pH
バッファーA: 10mM HCl
バッファーB: 10mM HCl中の80% アセトニトリル
勾配: 0〜60%のバッファーBで5カラム分の容量
【0054】
個々のpHプールをチャージ後、カラムをバッファーAで洗浄する。溶離中に、200mlの画分を回収する。これらの画分を凍結乾燥し、−20℃にて保存する。形成された画分のアリコートをHIV阻害アッセイにて試験する。pHプールIIからの画分6〜8が本発明のペプチドを含有していた。
【0055】
図1A〜F:ヒト血液ろ過液からのALB408‐423の単離。pH段階溶離により分画した血液ろ過液をRP‐HPLCによってさらに分画し、得られた画分をHIV阻害試験にて測定した。コントロール:T20コントロール。
【0056】
A. 単離の第三工程。pHプール2のRP画分が、画分6〜8において阻害活性を示した。
B〜E. 単離の第四〜第七工程。阻害活性を、純粋物質が得られるまで精製した。
F. 精製されたALB408‐423の質量スペクトル(MALDI‐MS)および配列分析。
【0057】
HIV阻害試験は、4000個のP4‐R5 MAGI細胞(P. Charneau et al., J. Mol. Biol. 241: 651, 1994)を、100μlのDMEM(10%FCS、100U/mlペニシリンG、および100μg/ml硫酸ストレプトマイシン)中へ播種することによって実施した。P4‐R5細胞は、LTR‐lacZカセットによって安定的にトランスフェクトされ、HIV‐1による感染に成功すると、Tatに依存的にβ‐ガラクトシダーゼを発現し、これは、化学発光試験にて検出することができる。翌日、画分のアリコートを添加した。そのために、凍結乾燥された画分を80μlのDMEMへ再懸濁させ、その各々の25μlをP4‐R5細胞へピペットで分注し、37℃にて1時間インキュベートし、続いてHIV‐1 NL4_3(1ngのp24抗原)で感染させた。ウイルスストックは、リン酸カルシウム法(CalPhos(商標) Mammalian Transfection Kit,Clontech)によるプロウイルスDNAを用いた293T細胞の一過性の感染によって得た。ウイルスストックはトランスフェクションの48時間後に回収してろ過し、感染に用いた。感染後3日目に、感染したP4‐R5細胞のβ‐ガラクトシダーゼ活性を、製造元の推奨に従ってGalScreenアッセイ(Tropix)を用ることで検出した。簡単に述べると、上清を除去し、PBS/GalScreen+基質の1:1希釈物40μlを添加し、続いて室温にて30分間インキュベートした。次に、ライセート30μlを96ウェルのルミプレート(lumiplate)へ移した。続いて、発光を、ルミノメーター(Berthold,Orion)により、秒あたりの相対発光量(relative light units)として検出した。全測定値から、非感染コントロール細胞の平均β‐ガラクトシダーゼバックグラウンド活性を減じた。各感染についての感染%の値を、ペプチド非含有のコントロール(100%)に対して算出した。ALB408‐423の非存在下での測定における酵素活性を100%に設定し、その他のすべての値はこれに基づいたものとした。最終精製(第七工程)は、TZM‐bl細胞(X. Wei et al., Antimicrob. Agents Chemother. 46: 1896, 2002)とまったく同一の条件下にて試験した。
【0058】
第四工程:セミ分取用逆相C18クロマトグラフィ
本アッセイにて生物活性であった(図1A)pHプールIIからの画分6〜8の全量200mg(1087リットルの血液ろ過液等量に相当)を、セミ分取用逆相カラムを通して分離した。画分33+34が、本発明の物質を含有していた(図1B)。
【0059】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 4.7cm×30cm スチールカラム
充填材料: Bakerbond RP‐C18、15〜30μm、300Å)
バッファーA: 100% 水、10mM HCl
バッファーB: 80% アセトニトリル、20% 水、10mM HCl
勾配: 0〜30%のBで2000ml
流速: 40ml/分(圧力:40bar)
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: BioCad 250、Perseptive Biosystems
画分: 勾配の開始(10.75分)から50mlずつ
【0060】
第五工程:セミ分取用逆相C18クロマトグラフィ
アッセイで生物活性を示した、先のクロマトグラフィ工程からの画分33+34を、異なる移動相を用いて類似のセミ分取用逆相カラムを通して分離した。続くHIV感染アッセイにより、画分5+6が本発明の物質を含有することが明らかとなった(図1C)。
【0061】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 4.7cm×30cm スチールカラム
充填材料: Bakerbond RP‐C18、15〜30μm、300Å)
バッファーA: 30% メタノール、70% 水、10mM HCl
バッファーB: 100% メタノール、10mM HCl
勾配: 0〜15%のBで40ml
15〜60%のBで1900ml
流速: 40ml/分(圧力:30bar)
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: BioCad 250、Perseptive Biosystems
画分: 勾配の開始(9.75分)から50mlずつ
【0062】
第六工程:分析用逆相C4クロマトグラフィ
先のクロマトグラフィからの生物活性画分5+6を、分析用逆相カラムを通して分離した。アリコートをバイオアッセイ(HIV阻害アッセイ)で試験した。画分51〜57が本発明の物質を含有していた(図1D)。
【0063】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 2cm×25cm スチールカラム
充填材料: RP‐C4、5μm、100Å、Biotek Silica,エストリンゲン,ドイツ)
バッファーA: 水、0.1% TFA
バッファーB: 80% アセトニトリル、20% 水、0.1% TFA
勾配: 0〜5%のBで2分間、5〜35%のBで60分間、35〜100%のBで3分間
流速: 7ml/分
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: Kontron
画分: 1分から1分ごと
【0064】
第七工程:分析用逆相C18クロマトグラフィ
先のクロマトグラフィからの生物活性画分51〜57を、分析用逆相カラムを通して分離した。アリコートをバイオアッセイで試験した。画分31が本発明の物質を純粋な形態で含有していた(図1E)。
【0065】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 1cm×25cm スチールカラム
充填材料: RP‐C18、5μm、300Å、Vydac(ヘスピーリア,米国)
バッファーA: 水、0.1% TFA
バッファーB: 80% アセトニトリル、20% 水、0.1% TFA
勾配: 0〜15%のBで5分間、15〜45%のBで60分間、45〜100%のBで1分間
流速: 2ml/分
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: Kontron
画分: 1分から1分ごと
【0066】
本発明の純粋な物質は画分31に含有されており、次にこれを、用量依存的にバイオアッセイにて試験し、ペプチド化学によって特性を明らかにした(実施例2)。
【0067】
[実施例2]
質量測定
血液ろ過液から単離されたペプチド(実施例1の第七工程の画分31より)、および化学合成されたペプチド(実施例3)の質量測定を、MALDI質量分析器(Voyager DE‐Pro)で実施した。ペプチドの分子質量は、以下の質量数値(MW)に相当すると測定された。
ALB408‐423、ヒト血液ろ過液から単離(図1F): 1830.9Da
ALB408‐423、化学合成ペプチド: 1830.6Da
【0068】
配列決定
精製された天然のペプチドを、PROTEOMEFACTORY AG社,Dorotheenstr.94,10117 ベルリン(ドイツ)、から提供されたMS‐MSカップリング分析(ESI‐TRAP)により、Mascot検索エンジンによる確立されたESI MS‐MS質量のデータベース比較によって分析した結果、次の配列が最も確率の高かった。
LVRYTKKVPQVSTPTL(図1F)
【0069】
データベース比較
SwissProtデータベースによるさらなるデータベース比較により、このペプチド配列が、ヒトタンパク質血清アルブミン(アクセス番号NP000468)のアミノ酸408‐423と100%の同一性を有することが示され、この配列は、アミノ酸:LVRYTKKVPQVSTPTL、を含有している。
【0070】
精製画分31はHIV‐1阻害バイオアッセイにおいて活性である
実施例1の第七工程からの画分31の1.6mgを160μlのDMEMへ溶解した。続いて、ALB408‐423を含有する画分31の段階希釈物10μlを60μlのTZM‐bl細胞(60μl)へ添加し、1ngのp24抗原HIV‐1 NL4_3によって感染させ、全量を100μlとした。3日後、GalScreenアッセイにて感染率を測定した(実施例1参照)。画分31は、このX4向性HIV‐1 NL4_3による感染を用量依存的に阻害した。最大値の半分まで感染を阻害する用量(IC50)は、21.45μg/mlであった(図2)。
【0071】
図2:ALB408‐423を含有する画分31は、HIV‐1 NL4‐3の感染を阻害する。TZM‐bl細胞を、画分31の段階希釈物と共にインキュベートし、次にX4向性HIV‐1 NL4‐3で感染させた。3日後、GalScreenアッセイにて感染率を測定した。PBS処理コントロール(100%)に対する、3回の反復感染の平均値±標準偏差を示す。
【0072】
[実施例3]
ALB408‐423の化学合成
ALB408‐423の化学合成は、公知のFmoc化学を用い、ペプチド合成機9050(Applied Biosystems)上での従来の固相合成によって実施した。得られたペプチドは、逆相クロマトグラフィで精製し、実施例2で述べた分析用RP‐HPLCおよびMALDI‐MS質量測定により、その同一性および純度を確定した。
【0073】
[実施例4]
X4‐向性HIV‐1変異体の感染を特異的に阻害する合成ALB408‐423
5000個のTZM‐bl細胞を、100μlのDMEM(10%FCS、100U/mlペニシリンG、および100μg/ml硫酸ストレプトマイシン)中へ播種した。ALB408‐423をPBSへ溶解した(10mg/ml)。1日後、PBSによるALB408‐423の段階希釈物20μlを細胞へ添加し、続いて、0.5ngのp24抗原HIV‐1で細胞を感染させ、全量を200μlとした。共受容体向性の異なる複数のHIV‐1分子クローンを用い、これらは記載に従って作出した(Papkalla et al., J. Virol. 76: 8455‐9, 2002)。
【0074】
図3:化学合成ALB408‐423は、X4向性HIV‐1の感染を特異的に阻害する。示した希釈率のペプチドを含有するTZM‐bl細胞を、その共受容体向性が異なる複数のHIV‐1変異体で感染させた。3日後、GalScreenアッセイを用いて感染率を測定した。A)X4向性HIV‐1変異体NL4‐3、P51‐Sc、P59‐S/27、およびP34‐S、または二重向性92ht593.1の用量依存的阻害。B)500μg/mlのALB408‐423の存在下での感染率。このペプチドが、R5向性HIV‐1感染は阻害しないがX4向性HIV‐1感染は特異的に阻害することを示している。示したデータは、PBS含有細胞(100%感染)に対する、3回の反復感染の平均値±標準偏差である。
【0075】
3日後、GalScreenアッセイ(Tropix)を用いて感染を検出した(実施例1)。ALB408‐423は、分析したすべてのX4‐向性HIV‐1変異体による感染を用量依存的に阻害した(図3A)(平均IC50は24.2μg/ml)。二重向性(CXCR4およびCCR5を利用する)変異体92ht593.1の阻害は、これよりも効率が低かった。対照的に、CCR5向性HIV‐1変異体は、非常に高い用量のALB408‐423の存在下(500μg/ml)であっても阻害されなかった(図3B)。X4‐向性HIV‐1変異体に起因する感染を特異的に阻害することから、ALB408‐423は、ケモカイン受容体CXCR4と相互作用を起こすと推定される。
【0076】
血液ろ過液から精製されたALB408‐423(実施例2)および化学合成されたALB408‐423(実施例4)のいずれも、標的細胞内でのHIV‐1の複製を用量依存的に阻害することを示し、このことは、ALB408‐423が天然のヒトHIV‐1阻害分子であることの証拠を提供する。
【0077】
[実施例5]
合成ALB408‐423はCXCR4向性レンチウイルスの感染を用量依存的に阻害する
X4向性HIV‐1 NL4‐3およびHIV‐2ROD10、またはCCR5向性HIV‐1 NL4‐3 92th014、HIV‐1‐7312、およびSIVmac239は、293T細胞の一過性のトランスフェクションによって作出し、これらを用いて、示した濃度のALB408‐423を含有するTZM‐bl細胞を感染させた。2日後、感染率を既述のようにして測定し算出した(実施例4)。結果から、ALB408‐423は、X4向性HIV‐1およびHIV‐2の感染を用量依存的に阻害したが(IC50は約10〜20μM)、一方このペプチドは、R5向性レンチウイルスの感染には影響を及ぼさなかったことが示され、これは、CXCR4向性HIV‐1およびHIV‐2の特異的な阻害を実証するものである(図4)。
【0078】
図4:ALB408‐423は、X4向性レンチウイルスの感染を阻害する。感染性を正規化したHIV‐1、HIV‐2、およびSIVのストックを用いてALB408‐423を含有するTZM‐bl細胞を感染させた。3日後、Gal Screenアッセイを用いて感染率を測定した。3回の反復測定から得られた平均値±標準偏差を示す。ペプチドを含有しない細胞の感染率を100%とする。
【0079】
表1:X4向性HIV‐1 NL4‐3の感染に対する種々のALB断片の抗ウイルス活性。合成ペプチドの段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、HIV‐1 NL4‐3によって感染させ、感染の2日後に、実施例1および2で述べたようにして感染率を測定、算出した。GraphPad Prismソフトウェアパッケージを用いてIC50値を求めた。略語:Da、分子量;IC50 μM、3回の反復実験より得た半数(50%)阻害濃度;SEM、平均値の標準誤差;exp、実施した実験回数。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例6]
ALB408‐423誘導体を用いた構造活性相関(SAR)研究
NもしくはC末端欠失、またはアミノ酸置換を含有する種々のALB408‐423誘導体(表1)を化学的に合成し、凍結乾燥したペプチドをPBS中へ溶解した。この抗ウイルス活性を、既述のようにしてX4向性HIV‐1 NL4‐3を用い、TZM‐bl細胞内で分析した(実施例4)。ALB408‐423のN末端欠失(409‐423、410‐423、411‐423、412‐423、413‐423、414‐423、415‐423)によって抗ウイルス活性が大きく減退または無効化され、このことは、ALB408‐423が介するX4向性HIV‐1の阻害に対して、N末端ロイシン(L408)が極めて重要であることを示している(図5および図6)。
【0082】
図5.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0083】
図6.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0084】
C末端にて最大8個のアミノ酸残基が切断されたALB408‐423誘導体(408‐422、408‐421、408‐420、408‐419、408‐418、408‐417、408‐416、408‐415、408‐414、408‐413)は、X4向性HIV‐1感染の阻害についての活性を維持した(図5および6、表1)。しかしながら、C末端におけるさらなる欠失(408‐414および408‐413)により、不活性ペプチドとなった(IC50値>50μM)(図6)。興味深いことに、C末端欠失変異体ALB408‐419は、野生型ALB408‐423よりも効率的にX4向性HIV‐1感染を阻害した(4.4±1.0 対 7.6±1.2;平均IC50値(μM)±sem)(表1;図5、6、7、および8)。
【0085】
図7.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0086】
図8.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0087】
ALB408‐415誘導体を包含する8個のアミノ酸残基のみが強力な抗ウイルス活性を示したことから(17.4±6.5)、特定のアミノ酸置換を含有するALB408‐415誘導体を合成してこれを試験することにより、アラニンスキャンを行った(表1)。図7および表1に示したデータは、ほとんどの置換がALB408‐415の抗ウイルス活性を減退させたことを実証している。特に、アルギニン410(ALB‐R410A、IC50>1000μM 対 ALB408‐415;17.4±6.5)が、HIV‐1阻害において重要な役割を担っている(図7、表1)。スレオニン412のアラニンへの置換(ALB‐T412A)により、中程度に抗ウイルス活性が高められたペプチドが得られた(11.2±0.1)(図7および表1)。
【0088】
ALB408‐419の抗ウイルス活性に対するN末端ロイシン(L408)の役割をさらに解明するために、この残基をフェニルアラニン(F)、アラニン(A)、グリシン(G)、またはイソロイシン(I)で置換した。HIV‐1阻害アッセイにより、N末端における置換のほとんどが不活性なペプチドをもたらすことが明らかとなった(ALB408F‐419、ALB408A‐419、およびALB408G‐419)(図8)。しかしながら、イソロイシンへの相同的な置換(ALBL408I‐419)は、中程度に抗ウイルス活性が高められたペプチドをもたらした(1.55±1.2)(図8)。ALB408‐419のN末端におけるロイシンの付加(407‐419)は、抗ウイルス活性を低下させた(図8)。
【0089】
まとめると、SAR分析は、抗ウイルス活性が高められた切断型のALB誘導体の同定を可能とし、C末端とは対照的に、N末端部分が、ALB408‐423が介するX4向性HIV‐1感染の阻害に対して極めて重要であることを示した。
【0090】
[実施例7]
ALB誘導体はいずれも細胞毒性を示さない
ALB変異体の細胞毒性効果の可能性を評価するために、5×103個のTZM‐bl細胞を、最も強力な抗ウイルス活性を及ぼすペプチド(表1および図9)の増加する種々の濃度と共に、3日間インキュベートした。細胞生存率を、CellTiter‐Glo発光細胞生存率アッセイ(Luminescent Cell Viability Assay)(Promega,#G7571)を製造元の推奨に従って用いて測定した。この発光に基づくアッセイは、細胞内ATPの量に基づいて生存細胞数を測定する。データは、ルミノメーターを用い、試薬の添加後10分で記録した。PBSのみでインキュベートした細胞から得られた発光活性を100%に設定した。図9に示した結果より、試験したいずれのALB誘導体でも、300μM以下の濃度では細胞毒性効果が見られなかったことが明らかに示される。
【0091】
図9.ALB誘導体の細胞毒性アッセイ。ALB誘導体の段階希釈物をTZM‐bl細胞へ添加した。2日後、細胞のATPレベルをCellTiter‐Glo発光細胞生存率アッセイを用いて測定した。数値は、3回の反復測定から得た。PBSを含有する(ペプチドを含有しない)細胞内のATPレベル(100%)に対して、生存率の%を算出した。
【0092】
[実施例8]
ALB408‐423の抗ウイルス活性および最も強力な誘導体
種々のHIV‐1クローンに対する最も活性であるALBペプチドの効果を調べるために、293T細胞をプロウイルスプラスミドでトランスフェクトすることによって異なる共受容体を利用するウイルスを作出した(Papkalla et al., J. Virol. 76: 8455‐9, 2002)。ウイルスストックをまずTZM‐bl細胞に滴定した。次に、100μMのペプチドを含有するTZM‐bl細胞を、感染性を正規化した量のX4向性、二重向性(X4/R5)、またはR5向性HIV‐1で感染させた。既述のように(実施例4)感染率を測定し、野生型ALB408‐423、C末端切断型ALB408‐419およびALB L408I‐419変異体、ならびにALB‐T412Aが、分析したすべてのX4向性HIV‐1クローン(NL4‐3、P51‐Sc、P34‐s)の感染をほぼ完全に阻害したことが示された(図10)。これらのペプチドは、R5向性HIV‐1感染に対しては影響を及ぼさず、二重向性HIV‐1クローン92ht593.1によるTZM‐bl細胞の感染は中程度に阻害しただけであった。これらのデータは、抗ウイルス活性が高められたALB変異体(ALB408‐423と比較して)(表1)も、X4向性HIV‐1変異体の広範囲にわたる阻害剤であることを実証している。
【0093】
図10.ALB408‐423および切断型ALB誘導体は、X4向性HIV‐1感染を特異的に阻害する。PBS及び100μMの示されたペプチドを含有するTZM‐bl細胞を、正規化された感染性のX4向性、二重向性、またはR5向性HIV‐1クローンで感染させた。感染の2日後に感染率をGalScreenアッセイを用いて測定した。3回の反復測定から得られた平均値(PBS処理コントロールに対する%)±標準偏差を示す。
【0094】
[実施例9]
ALB408‐423、ALB408‐419、およびALB L408I‐419はX4向性HIV‐1の感染およびPBMC内での複製を阻害する
該当する一次細胞におけるALB408‐423およびその誘導体の効果を分析するために、末梢血液単核細胞を、フィコール密度遠心分離を用いて、ドイツ赤十字献血サービス バーデンビュルテンベルクヘッセン(DRK‐Blutspendedienst Baden‐Wurttemberg‐Hessen)より得たバフィーコートから単離した。1mlあたり1×106個のPBMCを、1μg/mlのフィトヘマグルチニン(PHA、Oxoid、#3085280)および10ng/mlのインターロイキン2(IL‐2、Strathmann、#9511192)にて3日間刺激した。その後、細胞をペレット化し、IL‐2を含有する培地へ再懸濁させた。1.5×105個のPBMC(250μl)を96ウェルディッシュへ播種し、ペプチドを添加し、細胞をX4向性HIV‐1 NL4‐3のp24抗原50pg/mlで感染させた。子孫ウイルスを含有する上清を感染後の第1、3、および6日に採取した。ウイルス産生をp24抗原ELISA(SAIC‐Frederick,Inc[AIDS & Cancer virus program])で測定した。100μMのALB408‐423およびALB L408I‐419を含む細胞から第6日に得られた上清では、p24抗原は検出することができず、100μMのALB408‐419を含有する上清では、ほんの僅かのp24レベルしか検出することができなかった(図11)。20μMのペプチドの存在下では、ウイルスの複製が大きく減退した。これらのデータは、試験したALB408‐423およびその2種類の誘導体が、天然のHIV標的細胞内にて、X4向性HIV‐1の感染および複製を阻害することを示している。
【0095】
図11.ALB408‐423および誘導体は、末梢血液単核細胞(PBMC)のX4向性HIV‐1感染を阻害する。細胞を、示した濃度のALB408‐423または切断型変異体と共にインキュベートし、X4向性HIV‐1で感染させた。6日後に得られた上清をp24ELISAにより分析した。3回の反復感染から得られた平均p24抗原値(ng/ml)±標準偏差を示す。
【0096】
[実施例10]
ALB408‐423ペプチドはCXCL12のCXCR4への結合を阻害する
ケモカインCXCL12のその受容体CXCR4への結合を阻害するALB408‐423の能力を試験するために、過去の記載(Valenzuela‐Fernandez, et al.; 2001, JBC 276:26550‐26558)に従って蛍光結合アッセイを生存細胞全体に対して実施した。CXCR4受容体は、EGFP蛍光タンパク質が受容体の細胞外アミノ末端部へ融合した融合タンパク質(EGFP‐CXCR4)として、ヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞へ安定にトランスフェクトされる。ヒトケモカインCXCL12およびCXCL12‐テキサスレッドを記載に従って合成した(Amara et al., 1999, JBC 274:23916‐23925; Valenzuela‐Fernandez, et al., 2001, JBC 276:26550‐26558)。リガンド‐受容体相互作用のリアルタイム蛍光モニタリングを以下のようにして実施した。融合受容体EGFP‐hCXCR4を発現するHEK293細胞を、5mMのEDTAを補ったpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水中で採取し、遠心分離に掛け、プロテアーゼ阻害剤(40μg/mL ベスタチンおよびバシトラシン、20μg/mL ホスホラミドン、50μg/mL キモスタチン、および1μg/mL ロイペプチン)を補ったHEPES‐ウシ血清アルブミンバッファー(10mM HEPES、137.5mM NaCl、1.25mM MgCl2、1.25mM CaCl2、6mM KCl、10mM グルコース、0.4mM NaH2PO4、1% ウシ血清アルブミン(w/v)、pH7.4)中へ再懸濁させた。実験は、HEPES−BSAバッファー中に懸濁させた細胞(通常、106細胞/mL)に対して実施した。510nmで発光(470nmで励起)される蛍光の時系列での記録を、分光蛍光光度計(fluorolog 2,Spex)を用いて21℃にて行い、0.3秒ごとにサンプリングした。30秒の時点て100nMのCXCL12‐TRを1mLの細胞懸濁液へ添加することによって蛍光結合測定を開始した。競合実験では、EGFP‐CXCR4を発現する細胞を、種々の濃度の競合物質の非存在下または存在下にて、予め10分間インキュベートした。次に、CXCL12‐TR(100nM)を添加し、平衡に達するまで(300秒)蛍光を記録した。データの解析は、Kaleidagraph 3.08 ソフトウェア(Synergy Software,レディング,ペンシルベニア州,米国)を用いて行った。CXCL12のテキサスレッド(TR)基へのエネルギー移動に起因するEGFP蛍光発光の低下として、蛍光CXCL12との関連性が検出される。
【0097】
CXCL12の結合の飽和には、300nM超の濃度で達し、CXCR4受容体に対する蛍光CXCL12の解離定数は、55±15nMに等しい(Valenzuela‐Fernandez et al., (2001), JBC 276, 26550‐26558), Hachet‐Haas et al.; (2008), JBC)。蛍光CXCL12と競合する非標識分子は、受容体部位の占有に対応して、EGFPの発光の低下を阻止する。検出された蛍光強度の変動を定量化して(Palanche et al., (2001), JBC 276:34853‐34861; Vollmer et al., 1999, JBC 274:37915‐37922; Ilien et al., 2003, Neurochem 85:768‐778)、競合物質の結合定数を導くことができる。
【0098】
本発明者らの分析から、ALB408‐423がCXCL12‐Trとその受容体CXCR4との相互作用を、用量依存的に阻止することが実証される(図12)。ALB408‐423の解離定数(EC50)は8±3μMに等しく、これは、3±1μMに等しいKI値に相当する。解離定数であるEC50値は、HIV‐1阻害アッセイで得られたIC50値と類似している。
【0099】
図12.ALB408‐423は、CXCL12のCXCR4への結合を阻害する。リガンド‐受容体相互作用のリアルタイム蛍光モニタリングを、EGFP‐hCXCR4を発現する293細胞を用いて実施した。細胞を、種々の濃度のALB408‐423の非存在下または存在下にて、予め10分間インキュベートした。次に、CXCL12‐TR(100nM)を添加し、平衡に達するまで(300秒)蛍光を記録した。データの解析は、Kaleidagraph 3.08 ソフトウェア(Synergy Software,レディング,ペンシルベニア州,米国)を用いて行った。CXCL12‐Tr処理細胞のみの蛍光強度(100%)に対して、3回の反復測定から得られた平均値±標準偏差を示す。
【0100】
[実施例11]
ペプチドALB408‐423はCXCR4、CCR5、およびCXCR4を介するCa2+動員を誘発せず、CXCL12が誘発するカルシウム細胞応答を阻害する
CXCR4、CCR5、またはCXCR1が介する細胞応答を制御するALB408‐423の能力を、カルシウム指示薬をロードしたHEK293細胞上で調べた。indo‐1アセトキシメチルエステルをカルシウムプローブとして用い、記載に従って(Palanche et al., 2001, JBC 276:34853‐34861; Vollmer et al., 1999, JBC 274:37915‐37922)細胞内Ca2+放出測定を実施した。細胞応答は、分光蛍光光度計を用いて励起を355nmに、発光を405nmおよび475nmに設定し、1mLキュベット内で攪拌しながら37℃にて記録した。ヒトケモカインCCL5およびCXCL8は、Becton Dickinson Biosciences(サンホゼ,カリフォルニア州)より購入した。CXCR4、CCR5、またはCXCR1を発現する細胞を用いたCa2+動員アッセイにより、ケモカインアゴニスト、CXCL12(CXCR4)、CCL5(CCR5)、およびCXCL8(CXCR1)それぞれがCa2+動員を誘発し(図13)、一方、ALB408‐423単独ではいずれのカルシウム応答も誘発せず、従って、CXCR4、CCR5、およびCXCR1アゴニスト特性を示さないことが実証される(図13)。
【0101】
図13.ALB408‐423は、CXCR4、CCR5、およびCXCR1のいずれのアゴニストでもない。示したケモカイン受容体を発現するHEK293細胞を、それぞれのケモカイン[10nM CXCL12(CXCR4);20nM CCL5(CCR5)、もしくは50nM CXCL8(CXCR1)]または50μMのALB408‐423で処理した。細胞内Ca2+応答を分光蛍光光度計を用いて測定した。ALB408‐423による処理後に得られた蛍光強度を、それぞれのケモカインの測定値(100%)に対して示す。
【0102】
図14.ALB408‐423は、CXCR4を発現する細胞内にて、CXCL12が誘発するCa2+動員を特異的に阻害する。A)CXCL12が介する細胞内Ca2+放出のALB408‐423による用量依存的阻害。B)ALB408‐423は、HEK CCR5細胞内でのCCL5が誘発するカルシウム応答にも、HEK EGFP‐CXCR1細胞内でのCXCL8が誘発する反応にも影響を及ぼさない。黒色棒グラフ:それぞれのケモカインのみ;灰色棒グラフ:それぞれのケモカインおよび50μMのALB408‐423。ケモカインのみで処理した細胞(100%)に対する、2回の反復実験からのカルシウムピーク応答の平均値を示す。
【0103】
ALB408‐423がCXCR4アンタゴニスト特性を有するかどうかを理解するために、本発明者らは、アゴニストCXCL12のCXCR4受容体への結合に対するALB408‐423の影響を分析した。従って、CXCR4を発現する細胞を種々の濃度のALB408‐423と共にインキュベートし、次にCXCL12で処理した。Ca2+応答を記録した。図14Aに示すデータより、ALB408‐423が、CXCL12が誘発するカルシウム応答を、見掛けの阻害定数85μg/mlにより、用量依存的な形で阻害することが実証される。化合物選択性に関する知見を得るために、本発明者らは次に、種々のケモカイン/受容体対のカルシウム応答に対するこのペプチドの影響を特徴付けた。図14Aのデータと一致して、50μMのペプチドが、HEK EGFP‐CXCR4細胞内におけるCXCL12が誘発するカルシウム応答の70%を阻害する(図14B)。対照的に、このペプチドは、HEK CCR5細胞内でのCCL5が誘発するカルシウム応答にも、HEK EGFP‐CXCR1細胞内でのCXCL8が誘発する反応にも影響を及ぼさない(図14B)。これらの結果から、このペプチドがCXCR4受容体に対する選択性を示し、CXCR4アンタゴニストであるという考えが支持される。
【0104】
[実施例12]
ALB408‐423はCXCL12が誘発するCXCR4の内在化を阻害する
適切なケモカインで刺激すると、数多くのGタンパク質共役受容体が、クラスリン被覆ピットにより内在化する。CXCR4反応のアンタゴニストとして、ALB408‐423は、ケモカインが誘発するCXCR4受容体の内在化を変化させることもできる。CXCL12が媒介するCXCR4の内在化に対するALB408‐423のアンタゴニスト特性を分析するために、EGFP‐CXCR4受容体を発現する細胞を分割し、ラットI型コラーゲンをコーティングした12mmカバーガラス上で24ウェルプレートにて2日間増殖させた。次に、細胞を0〜30分の範囲の時間、100nM CXCL12、または50μM ALB408‐423、または100nM CXCL12プラス50μM ALB408‐423、を含有する、プロテアーゼ阻害剤を補ったHEPES‐BSAバッファー中にて37℃でインキュベートした。細胞を氷上へ配置することで内在化を停止させ、氷冷HEPES‐BSAバッファーで直ちに洗浄した。次に、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド中にて4℃で15分間固定し、続いて50mMのNH4Cl中にて15分間インキュベートした。カバーガラスを抗退色剤(anti‐fading agent)である
【数2】
(Calbiochem)を用いて顕微鏡のスライドグラス上へ載せ、24時間室温で維持した後、−20℃で保存した。次に、細胞を倒立顕微鏡(Leica)およびHCX PL APO Ibd.BL 63× 1.40 OIL UV 対物レンズ(n°506192)を用いたレーザー走査型共焦点イメージングシステム(Leica AOBS SP2 MP)で分析した。電子ズームは3に設定し、ピンホールは1エアリー(Airy)であり、得られたピクセルサイズは0.154μmであった。EGFPはアルゴンレーザーの488nmレーザー線で励起し、495〜550nmのいわゆるmCFPチャネル内の1つの光電子増倍管(PMT)によって検出および増幅した(PMT1 610高電圧‐HV‐、オフセット0)。良好なシグナル対ノイズ比を得るために、連続して取得した4つのイメージから平均化した。
【0105】
図15.ALB408‐423は、CXCL12が媒介するCXCR4の内在化を阻害する。受容体エンドサイトーシスを、EGFP‐CXCR4を発現するHEK細胞上でモニタリングし、CXCL12、ALB408‐423、もしくはその両方の化合物の添加後、直ちに(0分、上部パネル)、または30分後に(下部パネル)、共焦点顕微鏡により分析した。30分後、CXCL12で処理した細胞はCXCR4を内在化した。ALB408‐423の存在下では、CXCL12が媒介する受容体内在化は抑止される。
【0106】
共焦点イメージにより、100nMのCXCL12による37℃、30分間の処理が、細胞の周辺部へのおよび小胞構造内へのEGFP‐CXCR4の内在化をもたらしたことが示される(図15)。予想された通り、蛍光の大部分が細胞表面に残留していたため、ALB408‐423単独では受容体の内在化が誘発されず、CXCL12が媒介するCXCR4の内在化が阻害された(図15)。この結果は、ALB408‐423がCXCR4受容体に対するアンタゴニストとして作用することのさらなる証拠を提供する。
【0107】
[実施例13]
CXCL‐12が媒介するジャーカットT細胞の遊走を阻害するALB408‐423
CXCL12‐CXCR4シグナル伝達は、HIV/AIDS、癌、白血病、および関節炎等のいくつかの疾患において極めて重要な役割を担っている。CXCL12を発現する器官、組織、または細胞は、CXCR4を発現する腫瘍細胞を引き寄せることができ、転移を起こさせる。ALB408‐423がCXCL12の媒介による腫瘍細胞遊走を阻害することが可能かどうかを調べるために、モデルシステムとしてCXCR4を発現するジャーカットT細胞を用いて遊走アッセイを実施した(Princen et al., 2004, J. Virol. 78: 12996−13006)。ジャーカットT細胞を0.4×106(200μl)にて10%FBSを含有する媒体へ懸濁させ、次に、この細胞懸濁液(200μl)を5μmポアフィルターデバイス(Transwell,24‐ウェル細胞培養,Costar)の上部コンパートメントに添加した。次に、CXCL12含有(100ng/ml)または非含有の培養液600μlを下部コンパートメントに添加し、上部コンパートメントから細胞を誘引させた。CXCL12の誘発によるジャーカットT細胞遊走に対する阻害効果を研究するために、下部コンパートメントのCXCL12を種々の濃度のALB408‐423と混合した。この細胞培養プレートを、細胞培養インキュベータ内にて37℃で2時間インキュベートした。インキュベーションの後、プレートを取り出し、下部コンパートメントに遊走した細胞100μlを、計数チャンバーを用いて直接計数するか、または増殖アッセイ(CellTiter‐Glo(登録商標)試薬,Promega)を用いて製造元の推奨に従って分析した。増殖アッセイは、細胞数と直接比例する細胞内ATPレベルを測定する(データ示さず)。図16に示すデータは、ALB408‐423が、CXCL12が媒介するジャーカットT細胞遊走を用量依存的に阻害することを実証している。高濃度(360μg/ml)では、ALB408‐423はCXCL12が誘発する細胞遊走ほぼ完全に阻害し、いずれのペプチドも存在しない状態(CXCL12もALB408‐423もなし)で観察された比率と同等であった。これらのデータは、CXCR4アンタゴニストALB408‐423が、CXCL12によって媒介される腫瘍細胞の誘引を阻害することができることを示している。
【0108】
図16.ALB408‐423は、CXCL‐12が媒介するジャーカットT細胞の遊走を用量依存的に阻害する。5μmポアフィルターを有するトランスウェルデバイスの上部コンパートメントへジャーカットT細胞を添加した。次に、PBS、CXCR4アゴニストCXCL12(100nM)、またはALB408‐423の段階希釈物を細胞培養プレートの下部コンパートメントへ添加した。37℃での2時間のインキュベーションの後、下部コンパートメント内の遊走細胞数を、CellTiter‐Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay kit(Promega)を用いて細胞内ATPレベルを測定することによって検出した。示した数値はすべて、CXCL12のみで処理した細胞(100%遊走)に対する、3回の反復実験からの遊走細胞の平均数±標準偏差を意味する。
【0109】
[実施例14]
CXCR4へのALB408‐423の結合はN末端アミノ酸の完全性に依存する
CXCR4への結合を媒介し、従ってX4向性HIV‐1の感染およびCXCL12の結合を阻害するALB408‐423の領域を同定するために、本発明者らは、いくつかのALB408‐423誘導体(表1参照)の、CXCL12が誘発するCa2+動員およびCXCL12‐Trの結合に対する影響を分析した。実験の詳細については実施例xおよびyを参照されたい。図17のAおよびBに示すように、N末端ロイシンが欠失したALB409‐423は、CXCL12が媒介するCa2+応答もCXCL12‐TrのCXCR4受容体への結合も阻害しなかった。興味深いことに、ALB409‐423は、HIV‐1阻害アッセイにおいても不活性であり、ALB409‐423がCXCR4へ結合できないことが、抗ウイルス活性の喪失の原因でもあることが示唆される。対照的に、C末端切断型のALB誘導体はいずれも、依然としてCXCR4受容体との相互作用が可能であり(図17A)、CXCL12が媒介するCa2+応答を阻害し(図17B)、野生型ペプチドに近い解離定数(30μM)を示すが、ただし、最も短い408‐413は、受容体に対する親和性が下がり(>200μM)、X4向性HIV‐1感染の阻害にもほとんど効果がない(図6および表1)。まとめると、これらのデータは、いくつかのC末端切断型ALB誘導体が、CXCR4と結合することができ、それによってCXCL12の結合およびシグナル伝達、またはX4向性HIV‐1感染を阻止するCXCR4アンタゴニストであることを示している。
【0110】
図17.ALB誘導体のCXCR4アンタゴニスト活性。A)ALB断片は、CXCL12が誘発するCa2+動員は阻害するがCCL5が誘発するものは阻害しない。CXCR4またはCCR5を発現するHEK293細胞を、示したALB誘導体の非存在下(ALBなし)または存在下(50μM)にて、それぞれCXCR4アゴニストCXCL12(10nM)またはCCR5アゴニストCCL5(20nM)で処理した。カルシウム応答を記載のようにして記録した。示したデータは、アゴニストのみによる処理後のピークカルシウム応答(100%)に対する、2回の反復サンプルから得られた平均値±標準偏差である。B)ALB誘導体は、CXCL12のCXCR4への結合を抑止する。CXCR4を発現するHEK293細胞を、ALBペプチドの存在下または非存在下にて、テキサスレッド標識CXCL12(CXCL12‐Tr)で処理した。リガンド‐受容体相互作用のリアルタイム蛍光モニタリングを記載のようにして実施した。CXCL12‐Trのみで処理した細胞(100%結合)に対して、ALBペプチドの存在下における結合したCXCL12‐Trのレベルを示す。数値は、2回の反復実験から得た。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV‐1等のCXCR4依存性ウイルスの感染を阻害し、CXCL12のCXCR4への結合によって媒介される腫瘍細胞遊走を阻害するCXCケモカイン受容体4(CXCR4)拮抗性ポリペプチド(タンパク質)及びヒト循環抗ウイルスアルブミン断片(Human circulating antiviral albumin fragment)(ALB408‐423)、ならびに治療および診断におけるその使用に関する。本発明は、ALB408‐423の天然の形態、ならびにそれから得られた断片および/または類似体もしくは誘導体、ならびに、最後に、薬効の指標として用いられるおよび診断薬として用いられる、該天然の、組換えの、および合成のペプチドを含有する薬剤を含む。さらに、本発明は、特に好ましい治療効果を有するALB408‐423の修飾された形態および誘導体を含む。さらに、本発明は、ALB408‐423またはその断片および/もしくは誘導体の一つへハイブリダイズする核酸プローブ、ならびにALB408‐423またはその断片および/もしくは誘導体の一つに対して指向された抗体、またはアンタゴニストを含み、診断または治療目的、特にウイルス性疾患における、HIV‐1およびHIV‐2感染の治療、さらには癌細胞の転移を防ぐための新生物疾患の治療、または喘息、肺線維症、もしくは関節リウマチ等の慢性炎症性疾患の治療のためのものである。
【背景技術】
【0002】
ケモカイン受容体は、特定の細胞の表面上で発現され、ケモカインと称されるサイトカインと相互作用を起こす。CXCケモカイン受容体4(CXCR4)は、その内在性リガンドであるケモカインCXCL12(ストロマ細胞由来因子‐1、SDF‐1)のシグナルを伝達するGタンパク質共役受容体である。CXCR4/CXCL12の相互作用に続いて、細胞内カルシウム(Ca2+)イオンの流入が誘発される。これが、細胞の生物内での移動を可能とする化学遊走を含む細胞反応を引き起こす。CXCR4は、ミエロイド細胞、T‐リンパ球、B‐リンパ球、上皮細胞、内皮細胞および樹状細胞上で発現される。ケモカインCXCL12は、CXCR4の唯一の既知のアゴニスト性リガンドである。CXCL12とCXCR4との相互作用は、心血管系、造血系、または中枢神経系の胚発生中の前駆細胞遊走において極めて重要な役割を担っている。この相互作用は、HIV感染/AIDS、癌細胞転移、白血病細胞の進行、肺線維症、および関節リウマチ等のいくつかの疾患に関与していることも知られている。この相互作用は、これらの疾患すべてに対する決定的な治療標的であり得ると推察される。CXCR4/CXCL12シグナル伝達を阻害する物質は、HIV/AIDS治療を例とする薬剤としての可能性を有するか、または、癌転移、白血病、および肺線維症、関節リウマチ、もしくは喘息等の炎症性疾患に関与する細胞遊走プロセスを阻止すると推察される(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。細胞反応を誘発するCXCL12等の受容体アゴニストとは対照的に、受容体アンタゴニストは、その受容体と結合した際に、生物反応、すなわち、細胞遊走またはCa2+シグナル伝達、を誘発しないリガンドまたは薬剤である。受容体アンタゴニストは、HIV‐1感染の阻害(CCR5アンタゴニスト)またはアゴニストが媒介する細胞反応の低減が可能である有用な薬剤として既に臨床的に使用されている(例:アンジオテンシンアンタゴニスト、β‐アドレナリンアンタゴニスト、セロトニンアンタゴニスト、またはCCR5アンタゴニスト)。受容体アンタゴニストと受容体との相互作用により、アゴニストの機能が阻害される。ほとんどの薬剤アンタゴニストは、受容体上の構造的に決定される結合部位において内在性のリガンドまたは基質と競合することにより、その効力を発揮する。
【0003】
CXCR4アンタゴニストが癌細胞遊走を阻害し、従って転移を阻害することは、インビトロおよびインビボにてすでに示されている。CXCR4は、種々の細胞(ミエロイド細胞、T‐リンパ球、B‐リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、および樹状細胞)の表面上、ならびに異なる23種類の癌細胞にて発現される。CXCL12‐CXCR4相互作用は、乳癌、腎臓癌、前立腺癌、肺癌、および膵臓癌、ならびにメラノーマ、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、および悪性脳腫瘍を含むいくつかの種類の癌の転移に関与している(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。T140類似体等のCXCR4アンタゴニストが、CXCL12によって誘発される膵臓細胞遊走および浸潤、または乳癌細胞遊走をインビトロおよびインビボにて抑制することが示されている(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。CXCR4アンタゴニストが、小細胞肺癌(SCLC)の浸潤および接着をインビトロにて効果的に抑制することも実証されており(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)、CXCL12‐CXCR4相互作用がSCLC転移に関与していることが確認される。CXCR4/CXCL12相互作用は、前駆B(プレ‐B)急性リンパ芽球性白血病(ALL)および慢性リンパ球性白血病(CLL。CXCR4アンタゴニストは、プレ‐B ALL細胞の遊走も低下させる)の発症にも関与している(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。さらに、関節リウマチが、CXCR4を発現するCD4+メモリーT細胞の炎症滑膜への蓄積によって引き起こされることが示されている。関節リウマチ患者では滑膜中のCXCL12濃度が非常に上昇しており、これがメモリーT細胞を誘引する。CXCR4拮抗性分子は、メモリーT細胞の滑膜への遊走を阻害する(Tsutsumi et al., 2007, Peptide Science 88: 279‐289、にてレビューされている)。
【0004】
CXCR4アンタゴニストは、アゴニストCXCL12のCXCR4への結合を阻害するだけでなく、HIV糖タンパク質gp120とCXCR4との相互作用も阻止し、それによってウイルスの感染を阻害する。ヒト免疫不全ウイルス1および2(HIV‐1およびHIV‐2)は、細胞表面に発現されたCD4を一次受容体として用い、ケモカイン受容体CCR5またはCXCR4を細胞移入のための共受容体として用いる。CD4およびCXCR4を介して細胞に感染するウイルスは、CXCR4(X4)向性、CD4およびCCR5を用いるHIV‐1変異体は、R5向性、ならびに両方の共受容体を用いることができるウイルスは、二重向性(dualtropic)、と称される。X4向性HIV‐1変異体は、全AIDS患者の約50%で見ることができるに過ぎないが、R5向性HIV変異体は、HIV‐1感染の初期ステージおよび無症状ステージにおいて支配的である。X4向性HIV‐1感染は、インビトロおよびHIV‐1に感染したヒトにおいて、細胞または患者をAMD3100等のCXCR4アンタゴニストで処理、治療することによって阻害可能であることが示されている。興味深いことに、CCR5アンタゴニストであるマラビロクは、R5向性HIV‐1変異体の感染を阻害する、AIDS治療において最初に臨床認可された薬剤である(Tsibris and Kuritzkes, 2007, Annual Review of Medicine 58:445‐459、にてレビューされている)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ケモカイン受容体CXCR4は、HIV/AIDS、癌と関連する病状、および喘息または肺線維症等の慢性炎症性疾患の治療に対する魅力的な治療標的である。CXCL12が媒介する細胞反応を阻害するCXCR4アンタゴニストは、疾患の発症および進行におけるこれらの重要な経路を阻害し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のアミノ酸配列:
Z1‐LVRYTKKVPQVSTPTL‐Z2(ALB‐408)
を有するペプチド、ならびに、その生物学的活性誘導体、特にアミド化、アセチル化、硫酸化、リン酸化、および/もしくはグリコシル化誘導体、ならびに、多重合成によって得ることができるALB408‐423の生物活性を有するペプチド、に関し;
ここで、Zは、0〜10の数のアミノ酸残基を表す。
【0007】
本発明のペプチドは、本発明のペプチド、特に本発明のALB408‐423ペプチドにおいて、その配列中の単一もしくは複数のアミノ酸残基が、置換、欠失、もしくは付加されているか、または、本発明のペプチド、特にALB408‐423、の単一のアミノ酸上に化学修飾が導入されており、本発明のペプチド、特にALB408‐423、と類似もしくは同一の生物活性または薬理活性を有しているものとも関連している。特に、疎水性アミノ酸に対して疎水性アミノ酸、または芳香族アミノ酸に対して他の芳香族アミノ酸、または塩基性アミノ酸に対して他の塩基性アミノ酸を置換すること、等を意味する保存的なやり方で配列のアミノ酸を置換することによって容易に得ることができるペプチドが関係する。これは当業者に周知である。
【0008】
本発明のペプチドのレトロインベルソ(retro‐inverso)ペプチド、ならびにペプチダーゼに対してペプチド結合を安定化させるその他の誘導体も、本発明の範囲内である。
【0009】
誘導体という用語は、N末端およびC末端切断などのあらゆる長さの断片、ALB408‐423においてD‐アミノ酸残基や修飾アミノ酸残基も含めたアミノ酸残基の置換を有するもの、およびジスルフィド結合や、N末端やC末端での伸長を有するペプチド、を意味する。
【0010】
本発明の別の主題は、本発明のペプチド、特にALB408‐423および/またはその誘導体をコードするポリヌクレオチドである。本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、ゲノムDNA、またはPNAから構成されることを特徴とする。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドは、原核細胞または真核細胞内での組換えペプチド発現、変異誘発試験、対象とするベクター内、特に遺伝子導入の手法に用いることができるベクター内でのクローン化、に用いられる。
【0011】
本発明のさらなる主題は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターである。本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチド配列をコードするベクターは、原核細胞または真核細胞内での組換えペプチド発現、変異誘発試験、および、特に、真核細胞へのALB408‐423遺伝子導入に用いられる。
【0012】
本発明の別の主題は、本発明のベクターを含む遺伝子操作された宿主細胞である。遺伝子操作された、ALB408‐423または関連する誘導体を発現するトランスジェニック細胞を遺伝子治療の手法に用いることができ、それによって、ALB408‐423および関連する誘導体を、CXCR4アンタゴニストを必要とする個体内、特に癌およびAIDS患者内で発現および分泌させることが可能となる。
【0013】
本発明のさらに別の主題は、本発明のポリペプチドに対する抗体である。このような抗体は、血液、血清、血漿等の身体サンプル中のALB408‐423および関連するペプチドを、診断目的で、ELISA、RIA、または免疫蛍光にて検出するのに有用である。
【0014】
本発明のペプチドは、本発明のペプチド、特にALB408‐423を必要とする患者を治療するための方法において、投与することができる。
【0015】
本発明のさらなる主題は、本発明のペプチドのアンタゴニスト/阻害剤の治療量を投与することによって、ALB408‐423の阻害を必要とする患者を治療するための方法である。ALB408‐423およびその誘導体は、CXCR4アンタゴニストであり、HIV感染/AIDS、癌細胞転移、白血病細胞の進行、肺線維症、および関節リウマチ等のいくつかの疾患、ならびにその他の癌および炎症性疾患の治療を可能とする。
【0016】
本発明のポリペプチドから成るガレノス製剤(galenic formulation)も、本発明の主題である。
【0017】
本発明によると、本発明のペプチドをコードするDNAの投与および患者内でのインビボでのその発現によってポリペプチドの治療効果が達成される、患者を治療するための方法も提供される。
【0018】
本発明のペプチドは、カチオン交換抽出による血液ろ過液からの抽出、ならびにそれに続く吸着物質の溶離、ペプチドを含有する抽出物の再度のカチオン交換クロマトグラフィ、および分画逆相クロマトグラフィを含むプロセスによって提供することができる。
【0019】
あるいは、本発明のペプチドを製造するためのプロセスは、メリフィールド合成(Merrifield synthesis)による固相合成、または、保護アミノ酸を用い、それ自体が当業者に公知の方法による液相合成、およびその精製によって実施することができる。
【0020】
本発明のペプチドを製造するためのさらなるプロセスは、一般的な生物工学的ベクターを用いる、当業者に公知の異種発現の方法を用いる。
【0021】
本発明のさらなる主題は、本発明のポリクローナルもしくはモノクローナル抗体を含有する、または本発明のペプチド、特にALB408‐423、をコードする核酸もしくはmRNAを含有する診断薬である。
【0022】
本発明の診断薬は、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドを含有し、組織、血漿、尿、および脳脊髄液等のサンプル中のこの物質のレベルを分析するための試験システムに用いるためのものである。
【0023】
特に、診断薬および本発明のペプチドを検出する試験システムは、組織、血漿、尿、および脳脊髄液のこの物質のレベルを、RP‐HPLC、タンパク質沈殿、および/または固相抽出によるサンプル調製と組み合わせた、MALDI‐MSまたはESI‐MS等の質量分析法によって分析するために用いられる。
【0024】
本発明の主題は、さらに、ウイルス性疾患、細菌および真菌感染、炎症および新生物形成プロセスに対するマーカーとして、ならびに炎症プロセス、撹乱された炎症反応(disturbed inflammation reactions)、腫瘍性疾患、成長障害、免疫系の疾患におけるマーカーとして、ならびに骨疾患におけるマーカーとして、本発明のペプチドを含有する診断薬である。
【0025】
本発明は、さらに、経口、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、くも膜下腔内投与のためのガレノス剤形(galenic form)の活性成分として、および経肺投与のためのエアロゾルとして、本発明のペプチドを含有する薬剤も提供する。
【0026】
本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、抗体/アンタゴニスト、およびガレノス製剤は、ウイルス性疾患、特にHIV‐1、HIV‐2、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス(1型および2型)、水痘帯状疱疹ウイルス、A型肝炎およびB型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、エプスタイン‐バーウイルス、の治療、ならびに細菌および真菌感染、炎症プロセス、撹乱された炎症反応、腫瘍性疾患、成長障害、神経疾患、凝血および造血の疾患、血管疾患、免疫系の疾患の治療、ならびに創傷および骨の治癒、のために用いることができる。
【0027】
ALB408‐423を具体例として用いて、本発明をさらに詳細に説明する。以下の説明において、同様にALB408‐423を本発明のペプチドに置き換えることが可能であることは容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1A〜図1Fは、ヒト血液ろ過液からのALB408‐423の単離の詳細を示す図である。
【図2】画分31を含有するALB408‐423が、HIV‐1 NL4‐3感染を阻害することを示す図である。
【図3】化学的に合成されたALB408‐423が、X4向性HIV‐1感染を特異的に阻害することを示す図である。
【図4】ALB408‐423が、X4向性レンチウイルス感染を阻害することを示す図である。
【図5】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図6】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図7】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図8】ALB誘導体の抗ウイルス活性を示す図である。
【図9】ALB誘導体の細胞毒性アッセイを示す図である。
【図10】ALB408‐423および切断型ALB誘導体が、X4向性HIV‐1感染を特異的に阻害することを示す図である。
【図11】ALB408‐423および誘導体が、末梢血液単核細胞(PBMC)のX4向性HIV‐1感染を阻害することを示す図である。
【図12】ALB408‐423が、CXCL12のCXCR4への結合を阻害することを示す図である。
【図13】ALB408‐423が、CXCR4、CCR5、およびCXCR1のいずれのアゴニストでもないことを示す図である。
【図14】ALB408‐423が、CXCR4を発現する細胞内において、CXCL12が誘発するCa2+動員を特異的に阻害することを示す図である。
【図15】ALB408‐423が、CXCL12が介するCXCR4の内在化を阻害することを示す図である。
【図16】ALB408‐423が、CXCL‐12が介するジャーカットT細胞の遊走を用量依存的に阻害することを示す図である。
【図17】ALB誘導体のCXCR4アンタゴニスト活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ALB408‐423は、驚くべきことに、クロマトグラフィ法および生物学的アッセイにより、ヒト血液ろ過液から単離することができた。本発明のペプチドの生化学的特徴付けは、アミノ酸の完全な配列分析を含む質量分析によって行った。
【0030】
このペプチドは、以下の配列番号8のアミノ酸配列:LVRYTKKVPQVSTPTLを有する。
【0031】
本発明のペプチドALB408‐423の分子量は1830.2Daである。
【0032】
本発明のペプチドALB408‐423の等電点(pI)は、10.3である。
【0033】
驚くべきことに、本発明のペプチドは、そのプロセッシングされた形態で585個のアミノ酸から成る既知のヒト血漿タンパク質血清アルブミン(アクセス番号NP000468)の16個のアミノ酸を含む断片である。ヒトアルブミンは、分子量約65,000の可溶性単量体血清タンパク質であり、全血漿タンパク質の半分超を占める(濃度:3.5〜5g/dl)。ヒトアルブミンの機能は、主として、例えばステロイドおよびペプチドホルモン、脂肪酸、ビタミン、薬剤、ならびにカチオンといったあらゆる種類の疎水性ならびに親水性物質のための担体分子としてのものであると説明される。その非常に高い血清中濃度のために、血液pHの安定化、細胞外液体積、およびコロイド浸透圧の維持に実質的に寄与している。アルブミンは、多数のジスルフィド架橋によって安定化された球状構造を有しており、通常はグリコシル化されていないが、分子の老化に従い、または病態生理学的変化の際に、アセチル化、酵素的グリコシル化、および非酵素的グリコシル化による変化が発生する場合が多い。これは、609個のアミノ酸を有するプレプロアルブミン(pre‐pro‐albumin)として肝臓で合成され;18個のアミノ酸を含むN‐末端シグナルペプチドが、小胞体への進入の際に細胞内で切断され;別の6個のアミノ酸がゴルジ体内で除去された後、585個のアミノ酸を含む成熟アルブミンが肝細胞によって分泌される。アルブミンのクリアランスは腎臓、消化管を通して、および肝臓の組織細胞内で行われる。
【0034】
本発明のALB408‐423のペプチド配列は、アミノ酸408から開始し、従って、循環形態のアルブミンのアミノ酸408〜423を含む。これは明らかに、対応するプロテアーゼによるアルブミン前駆体の天然のプロセッシングによって産生される。
【0035】
驚くべきことに、本発明のペプチドは、CXCケモカイン受容体4(CXCR4)に対するアンタゴニストであり、ヒト細胞内でのHIV‐1の感染および複製の抑制、ならびに細胞遊走、Ca2+動員、またはCXCR4内在化等のCXCL12/CXCR4が誘発する細胞反応の抑制を引き起こす。
【0036】
本発明のペプチドは、ヒト血液ろ過液(HF)からのクロマトグラフィによる精製によって得ることができる。HFは、腎臓患者の血液の限外ろ過から大量に得られる(実施例1)。HFは、ヒト血液中を循環する分子量30kDa未満のすべてのペプチドおよびタンパク質を含有している。HF中のペプチドおよびタンパク質は、カチオン交換クロマトグラフィを用いて抽出した。カラムに結合したペプチドおよびタンパク質は種々のpH値のバッファー系で溶離し、溶離液を逆相クロマトグラフィに掛けた(実施例1)。HIV‐1感染を阻害する画分を同定するために、ペプチド画分をPBS中へ溶解し、HIV許容性指標細胞(HIV permissive indicator cells)へ添加した。次に、細胞をCXCR4向性HIV‐1に感染させ、感染後3日目(dpi)の感染率を測定した(実施例1)。1つの画分が強力な抗HIV活性を示し、これを、クロマトグラフィ精製およびHIV阻害アッセイのさらなるラウンドに掛け、生物活性ペプチドの同定を目指した(実施例1)。4ラウンドの精製の後、活性画分31の質量分析から、分子量1830Daの単一のペプチドの存在が明らかとなった(実施例2)。配列分析からLVRYTKKVPQVSTPTLが同定され、配列比較から、アミノ酸残基408‐423(ALB408‐423)を包含する、非常に豊富である血清タンパク質「ヒト血清アルブミン;(ALB)」との100%の相同性が示された(実施例2)。化学的に合成されたペプチド(実施例3)がX4向性HIV‐1感染を用量依存的に阻害することから、活性の証拠が実証された(実施例4)。指標細胞内にて、ALB408‐423は、X4向性HIV‐1変異体を特異的に阻害するが、R5向性HIV‐1感染には影響を与えない(実施例4および5)。ALB408‐423は、X4向性HIV‐2の感染も抑制した(実施例5)。抗ウイルス活性に対して極めて重要である残基の同定を目的とした構造活性相関研究(SAR)から得られたデータを実施例6にまとめるが、これより、ALB408‐423のN末端の完全性がその抗ウイルス活性に対して重要であることが示される。対照的に、最大6アミノ酸残基までのC末端の切断では抗ウイルス活性が抑止されることはなかった。SAR研究により、野生型ALB408‐423と比較して抗ウイルス活性の上昇を示すALB408‐419またはALB L408I‐419等のALB408‐423誘導体を同定することもできた(実施例6)。ALB誘導体のいずれも細胞毒性を示さない(実施例7)。指標細胞内(実施例8)または一次血液単核細胞内(実施例9)にて、ALB408‐423、ALB408‐419、およびALB L408I‐419は、種々のX4向性HIV‐1変異体の感染は用量依存的に阻害したが、R5向性HIV‐1変異体の感染は阻害しなかった。これらのデータはすべて、ALB408‐423またはその誘導体とHIV共受容体CXCR4との特異的な相互作用を示している。
【0037】
蛍光に基づく技術を用いて、ALB408‐423がCXCR4と直接結合してこれと相互作用を起こし、それによって天然のCXCR4アゴニストであるCXCL12の結合を阻止することを実証することができた(実施例10〜12)。ALB408‐423またはその誘導体単独では、CXCR4、またはCCR5およびCXCR1等のその他のケモカイン受容体を介したCa2+動員を誘発せず、このことは、ALB408‐423が定義に従うCXCR4アンタゴニストであることを示している(実施例10〜12および14)。ALB408‐423の存在下にて、CXCL12が介する細胞遊走(実施例13)、およびCXCR4受容体の内在化も阻害することができ、このことから、ALB408‐423がCXCR4アンタゴニストであることのさらなる証拠が提供される(実施例12)。まとめると、ヒト血清アルブミン断片であるALB408‐423は、HIV‐1感染阻害アッセイを用い、HF由来のペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって同定された。化学合成されたペプチドおよびその誘導体は、X4向性HIV‐1およびHIV‐2感染を、CXCR4受容体との直接の相互作用によって用量依存的に阻害する。ALB408‐423およびその誘導体は、細胞応答を媒介せず、天然のCXCR4アゴニストであるCXCL12の活性を抑制することから、アンタゴニストとして作用する。これらのデータは、ALB408‐423が最初のヒトCXCR4アンタゴニストであることの証拠である。ALB408‐423およびその誘導体は、X4向性HIV‐1に感染した個体の治療において、癌転移の予防、ならびにCXCR4/CXCL12シグナル伝達が関与する慢性炎症性疾患への干渉、およびCXCL12が介するCXCR4を通してのシグナル伝達の抑制に有用であり得る。
【0038】
本発明のペプチド、ならびにそのペプチドの類似体、断片、および誘導体、そのcDNA、その遺伝子、ならびにALB408‐423の活性を中和する抗体を、薬剤として用いることができる。その生物学的活性は、ウイルス阻害物質、癌細胞遊走阻害物質、およびCXCR4拮抗性物質の生物学的活性に対応している。ALB408‐423は、CXCR4と特異的に結合し、それによって、CXCR4向性HIV‐1変異体の感染および天然のCXCR4アゴニストであるCXCL12の結合を阻止する。本発明のペプチドは、非経口、静脈内、筋肉内、鼻腔内、局所‐外用(local‐topic)、皮下、または頬側経路でのペプチドに対して通例である方法によって投与することができる。投与されるペプチドの量は、1日の単位用量あたり1μg〜1gである。本発明のペプチドの活性は、適切な阻害剤/アンタゴニストを投与することによって阻害することができる。
【0039】
本発明の診断薬は、本発明のペプチドに対するポリクローナルまたはモノクローナル抗体を含み、それ自体が公知であるELISAまたはRIAで用いるために、蛍光標識または放射性標識された形態であってもよい。本発明の診断薬は、DNA、RNA、および/またはPNAを含み、PCRまたはフィンガープリンティング等の当業者に公知の試験システムで用いるために、修飾および/または標識された形態であってもよい。別の選択肢として、本発明の診断薬は、対応するサンプル調製および濃縮(沈殿による大型タンパク質の分離、クロマトグラフィまたはRP媒体(RP media)、固相抽出によるALB408‐423の濃縮)の後、その物質をその一価または多価イオン(親イオンまたはMS‐MSフラグメンテーション後の生成イオン)から定性的および定量的に明白に検出する質量分析法(MALDIまたはESI‐MS)から成る。
【0040】
本発明を、以下の実施例により、さらに説明する。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
ヒト血液ろ過液からの抗ウイルス効果を有するALB408‐423の単離
ヒト血液ろ過液は、所望により水による希釈および酸性化を行ってもよい。pH値は、1.5〜3.5が好ましく、2.5〜3.0が特に好ましい。その後、この血液ろ過液を、例えばスルホン酸基で修飾された支持体材料(Fraktogel SP‐650(M), Merck,ダルムシュタット,ドイツ)などのカチオン交換樹脂に通す。カチオン交換樹脂に結合したペプチドは、比較的高濃度の塩溶液で溶離させる。溶出液のイオン強度は、0.5M〜1Mの酢酸アンモニウム溶液のそれとおよそ同じである。
【0042】
回収した溶出液を別のカチオン交換クロマトグラフィに掛ける。このクロマトグラフィは、バッファーのpH値を上昇させていくことによる分画溶離が好ましい。
【0043】
本発明のペプチドを含有する画分は、分取用逆相クロマトグラフィ、続いて、例えばC18‐修飾支持体上での、セミ分取用逆相クロマトグラフィによってさらに精製する。精製の度合いは、例えばC18‐修飾支持体材料上での、分析用逆相クロマトグラフィを用いてモニタリングすることが好ましい。
【0044】
第一工程:血液ろ過液のバッチ抽出
800〜1000リットルの血液ろ過液を、HClにより2.7のpH値に調節し、水で希釈して導電率を5.5mS/cmとし、3L/分の流速で強カチオン交換体にチャージする。
【0045】
クロマトグラフィ条件:
カラム: Vantage VA250(Amicon,ビッテン,ドイツ)
カラム材料: Fractogel TSK SP650(M)、25cm×20cm
流速: 3L/分
検出: 280nm、pH、導電率
バッファーA: 血液ろ過液 pH2.7、導電率5.5mS/cm
バッファーB: 0.5M酢酸アンモニウム
装置: Autopilot Chromatographic System(PerSeptive Biosystems,ビースバーデン,ドイツ)
【0046】
全量1000リットルの液体を一晩かけてチャージした後、数カラム容量分の5mMのHClによる洗浄を行う。結合したペプチドの溶離は、0.5Mの酢酸アンモニウムによるバッチ溶離として行う。ペプチドの完全な溶離は、pH値の勾配(6.8〜7.2)および導電率の勾配(56mS/cm)により、約5リットルの溶離液で達成される。
【0047】
第二工程:一回目の分取分離(バッチ01/2003)
バッチ抽出の酢酸アンモニウム溶出液を、10,000リットルの血液ろ過液ペプチド分まとめる。pHを2.7に調節した後、このペプチド抽出液を、導電率が5.5mS/cmである完全脱塩水を添加した状態の分取用カチオン交換体にチャージする。
【0048】
クロマトグラフィ条件:
カラム: Vantage 250VA
カラム材料: Fractogel TSK SP650(M)、25cm×20cm
流速: チャージ時 最大3L/分
溶離時 0.5〜1L/分
検出: 280nm、pH、導電率
サンプル: 血液ろ過液 pH2.7、導電率5.5mS/cm
装置: Autopilot Chromatographic System(PerSeptive Biosystems,ビースバーデン,ドイツ)
【0049】
未処理の抽出液を240分かけてチャージした後、導電率が1mS/cm未満となるまで0.01MのHClでカラムを洗浄する。溶離は、以下に示すバッファーを用いて数工程で実施する。
【0050】
【数1】
【0051】
溶出液1〜7を、pHプールI〜VIIと称する。これらは、別々に回収し、最後に、完全脱塩水で洗浄する。溶離は、新たなベースラインが達成されるまで行い、個々のpHプールI〜VIIに対して溶離容量は10〜25リットルに達する。
【0052】
第三工程:二回目の分取分離:
分画および同時に行う脱塩のために、個々のpHプールを逆相クロマトグラフィによって分離する。
【0053】
クロマトグラフィ条件:
カラム: FineLine 100(Pharmacia,フライブルク,ドイツ)
カラム材料: Source RPC、15μm
10×12.5cm(FineLine 100)
流速: 150ml/分(FineLine 100)
検出: 280nm、導電率、pH
バッファーA: 10mM HCl
バッファーB: 10mM HCl中の80% アセトニトリル
勾配: 0〜60%のバッファーBで5カラム分の容量
【0054】
個々のpHプールをチャージ後、カラムをバッファーAで洗浄する。溶離中に、200mlの画分を回収する。これらの画分を凍結乾燥し、−20℃にて保存する。形成された画分のアリコートをHIV阻害アッセイにて試験する。pHプールIIからの画分6〜8が本発明のペプチドを含有していた。
【0055】
図1A〜F:ヒト血液ろ過液からのALB408‐423の単離。pH段階溶離により分画した血液ろ過液をRP‐HPLCによってさらに分画し、得られた画分をHIV阻害試験にて測定した。コントロール:T20コントロール。
【0056】
A. 単離の第三工程。pHプール2のRP画分が、画分6〜8において阻害活性を示した。
B〜E. 単離の第四〜第七工程。阻害活性を、純粋物質が得られるまで精製した。
F. 精製されたALB408‐423の質量スペクトル(MALDI‐MS)および配列分析。
【0057】
HIV阻害試験は、4000個のP4‐R5 MAGI細胞(P. Charneau et al., J. Mol. Biol. 241: 651, 1994)を、100μlのDMEM(10%FCS、100U/mlペニシリンG、および100μg/ml硫酸ストレプトマイシン)中へ播種することによって実施した。P4‐R5細胞は、LTR‐lacZカセットによって安定的にトランスフェクトされ、HIV‐1による感染に成功すると、Tatに依存的にβ‐ガラクトシダーゼを発現し、これは、化学発光試験にて検出することができる。翌日、画分のアリコートを添加した。そのために、凍結乾燥された画分を80μlのDMEMへ再懸濁させ、その各々の25μlをP4‐R5細胞へピペットで分注し、37℃にて1時間インキュベートし、続いてHIV‐1 NL4_3(1ngのp24抗原)で感染させた。ウイルスストックは、リン酸カルシウム法(CalPhos(商標) Mammalian Transfection Kit,Clontech)によるプロウイルスDNAを用いた293T細胞の一過性の感染によって得た。ウイルスストックはトランスフェクションの48時間後に回収してろ過し、感染に用いた。感染後3日目に、感染したP4‐R5細胞のβ‐ガラクトシダーゼ活性を、製造元の推奨に従ってGalScreenアッセイ(Tropix)を用ることで検出した。簡単に述べると、上清を除去し、PBS/GalScreen+基質の1:1希釈物40μlを添加し、続いて室温にて30分間インキュベートした。次に、ライセート30μlを96ウェルのルミプレート(lumiplate)へ移した。続いて、発光を、ルミノメーター(Berthold,Orion)により、秒あたりの相対発光量(relative light units)として検出した。全測定値から、非感染コントロール細胞の平均β‐ガラクトシダーゼバックグラウンド活性を減じた。各感染についての感染%の値を、ペプチド非含有のコントロール(100%)に対して算出した。ALB408‐423の非存在下での測定における酵素活性を100%に設定し、その他のすべての値はこれに基づいたものとした。最終精製(第七工程)は、TZM‐bl細胞(X. Wei et al., Antimicrob. Agents Chemother. 46: 1896, 2002)とまったく同一の条件下にて試験した。
【0058】
第四工程:セミ分取用逆相C18クロマトグラフィ
本アッセイにて生物活性であった(図1A)pHプールIIからの画分6〜8の全量200mg(1087リットルの血液ろ過液等量に相当)を、セミ分取用逆相カラムを通して分離した。画分33+34が、本発明の物質を含有していた(図1B)。
【0059】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 4.7cm×30cm スチールカラム
充填材料: Bakerbond RP‐C18、15〜30μm、300Å)
バッファーA: 100% 水、10mM HCl
バッファーB: 80% アセトニトリル、20% 水、10mM HCl
勾配: 0〜30%のBで2000ml
流速: 40ml/分(圧力:40bar)
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: BioCad 250、Perseptive Biosystems
画分: 勾配の開始(10.75分)から50mlずつ
【0060】
第五工程:セミ分取用逆相C18クロマトグラフィ
アッセイで生物活性を示した、先のクロマトグラフィ工程からの画分33+34を、異なる移動相を用いて類似のセミ分取用逆相カラムを通して分離した。続くHIV感染アッセイにより、画分5+6が本発明の物質を含有することが明らかとなった(図1C)。
【0061】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 4.7cm×30cm スチールカラム
充填材料: Bakerbond RP‐C18、15〜30μm、300Å)
バッファーA: 30% メタノール、70% 水、10mM HCl
バッファーB: 100% メタノール、10mM HCl
勾配: 0〜15%のBで40ml
15〜60%のBで1900ml
流速: 40ml/分(圧力:30bar)
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: BioCad 250、Perseptive Biosystems
画分: 勾配の開始(9.75分)から50mlずつ
【0062】
第六工程:分析用逆相C4クロマトグラフィ
先のクロマトグラフィからの生物活性画分5+6を、分析用逆相カラムを通して分離した。アリコートをバイオアッセイ(HIV阻害アッセイ)で試験した。画分51〜57が本発明の物質を含有していた(図1D)。
【0063】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 2cm×25cm スチールカラム
充填材料: RP‐C4、5μm、100Å、Biotek Silica,エストリンゲン,ドイツ)
バッファーA: 水、0.1% TFA
バッファーB: 80% アセトニトリル、20% 水、0.1% TFA
勾配: 0〜5%のBで2分間、5〜35%のBで60分間、35〜100%のBで3分間
流速: 7ml/分
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: Kontron
画分: 1分から1分ごと
【0064】
第七工程:分析用逆相C18クロマトグラフィ
先のクロマトグラフィからの生物活性画分51〜57を、分析用逆相カラムを通して分離した。アリコートをバイオアッセイで試験した。画分31が本発明の物質を純粋な形態で含有していた(図1E)。
【0065】
クロマトグラフィ条件:
カラム: 1cm×25cm スチールカラム
充填材料: RP‐C18、5μm、300Å、Vydac(ヘスピーリア,米国)
バッファーA: 水、0.1% TFA
バッファーB: 80% アセトニトリル、20% 水、0.1% TFA
勾配: 0〜15%のBで5分間、15〜45%のBで60分間、45〜100%のBで1分間
流速: 2ml/分
検出: 214nmおよび280nm
クロマトグラフィ装置: Kontron
画分: 1分から1分ごと
【0066】
本発明の純粋な物質は画分31に含有されており、次にこれを、用量依存的にバイオアッセイにて試験し、ペプチド化学によって特性を明らかにした(実施例2)。
【0067】
[実施例2]
質量測定
血液ろ過液から単離されたペプチド(実施例1の第七工程の画分31より)、および化学合成されたペプチド(実施例3)の質量測定を、MALDI質量分析器(Voyager DE‐Pro)で実施した。ペプチドの分子質量は、以下の質量数値(MW)に相当すると測定された。
ALB408‐423、ヒト血液ろ過液から単離(図1F): 1830.9Da
ALB408‐423、化学合成ペプチド: 1830.6Da
【0068】
配列決定
精製された天然のペプチドを、PROTEOMEFACTORY AG社,Dorotheenstr.94,10117 ベルリン(ドイツ)、から提供されたMS‐MSカップリング分析(ESI‐TRAP)により、Mascot検索エンジンによる確立されたESI MS‐MS質量のデータベース比較によって分析した結果、次の配列が最も確率の高かった。
LVRYTKKVPQVSTPTL(図1F)
【0069】
データベース比較
SwissProtデータベースによるさらなるデータベース比較により、このペプチド配列が、ヒトタンパク質血清アルブミン(アクセス番号NP000468)のアミノ酸408‐423と100%の同一性を有することが示され、この配列は、アミノ酸:LVRYTKKVPQVSTPTL、を含有している。
【0070】
精製画分31はHIV‐1阻害バイオアッセイにおいて活性である
実施例1の第七工程からの画分31の1.6mgを160μlのDMEMへ溶解した。続いて、ALB408‐423を含有する画分31の段階希釈物10μlを60μlのTZM‐bl細胞(60μl)へ添加し、1ngのp24抗原HIV‐1 NL4_3によって感染させ、全量を100μlとした。3日後、GalScreenアッセイにて感染率を測定した(実施例1参照)。画分31は、このX4向性HIV‐1 NL4_3による感染を用量依存的に阻害した。最大値の半分まで感染を阻害する用量(IC50)は、21.45μg/mlであった(図2)。
【0071】
図2:ALB408‐423を含有する画分31は、HIV‐1 NL4‐3の感染を阻害する。TZM‐bl細胞を、画分31の段階希釈物と共にインキュベートし、次にX4向性HIV‐1 NL4‐3で感染させた。3日後、GalScreenアッセイにて感染率を測定した。PBS処理コントロール(100%)に対する、3回の反復感染の平均値±標準偏差を示す。
【0072】
[実施例3]
ALB408‐423の化学合成
ALB408‐423の化学合成は、公知のFmoc化学を用い、ペプチド合成機9050(Applied Biosystems)上での従来の固相合成によって実施した。得られたペプチドは、逆相クロマトグラフィで精製し、実施例2で述べた分析用RP‐HPLCおよびMALDI‐MS質量測定により、その同一性および純度を確定した。
【0073】
[実施例4]
X4‐向性HIV‐1変異体の感染を特異的に阻害する合成ALB408‐423
5000個のTZM‐bl細胞を、100μlのDMEM(10%FCS、100U/mlペニシリンG、および100μg/ml硫酸ストレプトマイシン)中へ播種した。ALB408‐423をPBSへ溶解した(10mg/ml)。1日後、PBSによるALB408‐423の段階希釈物20μlを細胞へ添加し、続いて、0.5ngのp24抗原HIV‐1で細胞を感染させ、全量を200μlとした。共受容体向性の異なる複数のHIV‐1分子クローンを用い、これらは記載に従って作出した(Papkalla et al., J. Virol. 76: 8455‐9, 2002)。
【0074】
図3:化学合成ALB408‐423は、X4向性HIV‐1の感染を特異的に阻害する。示した希釈率のペプチドを含有するTZM‐bl細胞を、その共受容体向性が異なる複数のHIV‐1変異体で感染させた。3日後、GalScreenアッセイを用いて感染率を測定した。A)X4向性HIV‐1変異体NL4‐3、P51‐Sc、P59‐S/27、およびP34‐S、または二重向性92ht593.1の用量依存的阻害。B)500μg/mlのALB408‐423の存在下での感染率。このペプチドが、R5向性HIV‐1感染は阻害しないがX4向性HIV‐1感染は特異的に阻害することを示している。示したデータは、PBS含有細胞(100%感染)に対する、3回の反復感染の平均値±標準偏差である。
【0075】
3日後、GalScreenアッセイ(Tropix)を用いて感染を検出した(実施例1)。ALB408‐423は、分析したすべてのX4‐向性HIV‐1変異体による感染を用量依存的に阻害した(図3A)(平均IC50は24.2μg/ml)。二重向性(CXCR4およびCCR5を利用する)変異体92ht593.1の阻害は、これよりも効率が低かった。対照的に、CCR5向性HIV‐1変異体は、非常に高い用量のALB408‐423の存在下(500μg/ml)であっても阻害されなかった(図3B)。X4‐向性HIV‐1変異体に起因する感染を特異的に阻害することから、ALB408‐423は、ケモカイン受容体CXCR4と相互作用を起こすと推定される。
【0076】
血液ろ過液から精製されたALB408‐423(実施例2)および化学合成されたALB408‐423(実施例4)のいずれも、標的細胞内でのHIV‐1の複製を用量依存的に阻害することを示し、このことは、ALB408‐423が天然のヒトHIV‐1阻害分子であることの証拠を提供する。
【0077】
[実施例5]
合成ALB408‐423はCXCR4向性レンチウイルスの感染を用量依存的に阻害する
X4向性HIV‐1 NL4‐3およびHIV‐2ROD10、またはCCR5向性HIV‐1 NL4‐3 92th014、HIV‐1‐7312、およびSIVmac239は、293T細胞の一過性のトランスフェクションによって作出し、これらを用いて、示した濃度のALB408‐423を含有するTZM‐bl細胞を感染させた。2日後、感染率を既述のようにして測定し算出した(実施例4)。結果から、ALB408‐423は、X4向性HIV‐1およびHIV‐2の感染を用量依存的に阻害したが(IC50は約10〜20μM)、一方このペプチドは、R5向性レンチウイルスの感染には影響を及ぼさなかったことが示され、これは、CXCR4向性HIV‐1およびHIV‐2の特異的な阻害を実証するものである(図4)。
【0078】
図4:ALB408‐423は、X4向性レンチウイルスの感染を阻害する。感染性を正規化したHIV‐1、HIV‐2、およびSIVのストックを用いてALB408‐423を含有するTZM‐bl細胞を感染させた。3日後、Gal Screenアッセイを用いて感染率を測定した。3回の反復測定から得られた平均値±標準偏差を示す。ペプチドを含有しない細胞の感染率を100%とする。
【0079】
表1:X4向性HIV‐1 NL4‐3の感染に対する種々のALB断片の抗ウイルス活性。合成ペプチドの段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、HIV‐1 NL4‐3によって感染させ、感染の2日後に、実施例1および2で述べたようにして感染率を測定、算出した。GraphPad Prismソフトウェアパッケージを用いてIC50値を求めた。略語:Da、分子量;IC50 μM、3回の反復実験より得た半数(50%)阻害濃度;SEM、平均値の標準誤差;exp、実施した実験回数。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例6]
ALB408‐423誘導体を用いた構造活性相関(SAR)研究
NもしくはC末端欠失、またはアミノ酸置換を含有する種々のALB408‐423誘導体(表1)を化学的に合成し、凍結乾燥したペプチドをPBS中へ溶解した。この抗ウイルス活性を、既述のようにしてX4向性HIV‐1 NL4‐3を用い、TZM‐bl細胞内で分析した(実施例4)。ALB408‐423のN末端欠失(409‐423、410‐423、411‐423、412‐423、413‐423、414‐423、415‐423)によって抗ウイルス活性が大きく減退または無効化され、このことは、ALB408‐423が介するX4向性HIV‐1の阻害に対して、N末端ロイシン(L408)が極めて重要であることを示している(図5および図6)。
【0082】
図5.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0083】
図6.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0084】
C末端にて最大8個のアミノ酸残基が切断されたALB408‐423誘導体(408‐422、408‐421、408‐420、408‐419、408‐418、408‐417、408‐416、408‐415、408‐414、408‐413)は、X4向性HIV‐1感染の阻害についての活性を維持した(図5および6、表1)。しかしながら、C末端におけるさらなる欠失(408‐414および408‐413)により、不活性ペプチドとなった(IC50値>50μM)(図6)。興味深いことに、C末端欠失変異体ALB408‐419は、野生型ALB408‐423よりも効率的にX4向性HIV‐1感染を阻害した(4.4±1.0 対 7.6±1.2;平均IC50値(μM)±sem)(表1;図5、6、7、および8)。
【0085】
図7.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0086】
図8.ALB誘導体の抗ウイルス活性。ALB誘導体の段階希釈物を含有するTZM‐bl細胞を、X4向性HIV‐1 NL4‐3により感染させた。2日後、感染率をGalScreenアッセイにより測定した。ペプチドを含有しないサンプル(感染率=100%)に対して、3回の反復感染から得られた平均値を示す。
【0087】
ALB408‐415誘導体を包含する8個のアミノ酸残基のみが強力な抗ウイルス活性を示したことから(17.4±6.5)、特定のアミノ酸置換を含有するALB408‐415誘導体を合成してこれを試験することにより、アラニンスキャンを行った(表1)。図7および表1に示したデータは、ほとんどの置換がALB408‐415の抗ウイルス活性を減退させたことを実証している。特に、アルギニン410(ALB‐R410A、IC50>1000μM 対 ALB408‐415;17.4±6.5)が、HIV‐1阻害において重要な役割を担っている(図7、表1)。スレオニン412のアラニンへの置換(ALB‐T412A)により、中程度に抗ウイルス活性が高められたペプチドが得られた(11.2±0.1)(図7および表1)。
【0088】
ALB408‐419の抗ウイルス活性に対するN末端ロイシン(L408)の役割をさらに解明するために、この残基をフェニルアラニン(F)、アラニン(A)、グリシン(G)、またはイソロイシン(I)で置換した。HIV‐1阻害アッセイにより、N末端における置換のほとんどが不活性なペプチドをもたらすことが明らかとなった(ALB408F‐419、ALB408A‐419、およびALB408G‐419)(図8)。しかしながら、イソロイシンへの相同的な置換(ALBL408I‐419)は、中程度に抗ウイルス活性が高められたペプチドをもたらした(1.55±1.2)(図8)。ALB408‐419のN末端におけるロイシンの付加(407‐419)は、抗ウイルス活性を低下させた(図8)。
【0089】
まとめると、SAR分析は、抗ウイルス活性が高められた切断型のALB誘導体の同定を可能とし、C末端とは対照的に、N末端部分が、ALB408‐423が介するX4向性HIV‐1感染の阻害に対して極めて重要であることを示した。
【0090】
[実施例7]
ALB誘導体はいずれも細胞毒性を示さない
ALB変異体の細胞毒性効果の可能性を評価するために、5×103個のTZM‐bl細胞を、最も強力な抗ウイルス活性を及ぼすペプチド(表1および図9)の増加する種々の濃度と共に、3日間インキュベートした。細胞生存率を、CellTiter‐Glo発光細胞生存率アッセイ(Luminescent Cell Viability Assay)(Promega,#G7571)を製造元の推奨に従って用いて測定した。この発光に基づくアッセイは、細胞内ATPの量に基づいて生存細胞数を測定する。データは、ルミノメーターを用い、試薬の添加後10分で記録した。PBSのみでインキュベートした細胞から得られた発光活性を100%に設定した。図9に示した結果より、試験したいずれのALB誘導体でも、300μM以下の濃度では細胞毒性効果が見られなかったことが明らかに示される。
【0091】
図9.ALB誘導体の細胞毒性アッセイ。ALB誘導体の段階希釈物をTZM‐bl細胞へ添加した。2日後、細胞のATPレベルをCellTiter‐Glo発光細胞生存率アッセイを用いて測定した。数値は、3回の反復測定から得た。PBSを含有する(ペプチドを含有しない)細胞内のATPレベル(100%)に対して、生存率の%を算出した。
【0092】
[実施例8]
ALB408‐423の抗ウイルス活性および最も強力な誘導体
種々のHIV‐1クローンに対する最も活性であるALBペプチドの効果を調べるために、293T細胞をプロウイルスプラスミドでトランスフェクトすることによって異なる共受容体を利用するウイルスを作出した(Papkalla et al., J. Virol. 76: 8455‐9, 2002)。ウイルスストックをまずTZM‐bl細胞に滴定した。次に、100μMのペプチドを含有するTZM‐bl細胞を、感染性を正規化した量のX4向性、二重向性(X4/R5)、またはR5向性HIV‐1で感染させた。既述のように(実施例4)感染率を測定し、野生型ALB408‐423、C末端切断型ALB408‐419およびALB L408I‐419変異体、ならびにALB‐T412Aが、分析したすべてのX4向性HIV‐1クローン(NL4‐3、P51‐Sc、P34‐s)の感染をほぼ完全に阻害したことが示された(図10)。これらのペプチドは、R5向性HIV‐1感染に対しては影響を及ぼさず、二重向性HIV‐1クローン92ht593.1によるTZM‐bl細胞の感染は中程度に阻害しただけであった。これらのデータは、抗ウイルス活性が高められたALB変異体(ALB408‐423と比較して)(表1)も、X4向性HIV‐1変異体の広範囲にわたる阻害剤であることを実証している。
【0093】
図10.ALB408‐423および切断型ALB誘導体は、X4向性HIV‐1感染を特異的に阻害する。PBS及び100μMの示されたペプチドを含有するTZM‐bl細胞を、正規化された感染性のX4向性、二重向性、またはR5向性HIV‐1クローンで感染させた。感染の2日後に感染率をGalScreenアッセイを用いて測定した。3回の反復測定から得られた平均値(PBS処理コントロールに対する%)±標準偏差を示す。
【0094】
[実施例9]
ALB408‐423、ALB408‐419、およびALB L408I‐419はX4向性HIV‐1の感染およびPBMC内での複製を阻害する
該当する一次細胞におけるALB408‐423およびその誘導体の効果を分析するために、末梢血液単核細胞を、フィコール密度遠心分離を用いて、ドイツ赤十字献血サービス バーデンビュルテンベルクヘッセン(DRK‐Blutspendedienst Baden‐Wurttemberg‐Hessen)より得たバフィーコートから単離した。1mlあたり1×106個のPBMCを、1μg/mlのフィトヘマグルチニン(PHA、Oxoid、#3085280)および10ng/mlのインターロイキン2(IL‐2、Strathmann、#9511192)にて3日間刺激した。その後、細胞をペレット化し、IL‐2を含有する培地へ再懸濁させた。1.5×105個のPBMC(250μl)を96ウェルディッシュへ播種し、ペプチドを添加し、細胞をX4向性HIV‐1 NL4‐3のp24抗原50pg/mlで感染させた。子孫ウイルスを含有する上清を感染後の第1、3、および6日に採取した。ウイルス産生をp24抗原ELISA(SAIC‐Frederick,Inc[AIDS & Cancer virus program])で測定した。100μMのALB408‐423およびALB L408I‐419を含む細胞から第6日に得られた上清では、p24抗原は検出することができず、100μMのALB408‐419を含有する上清では、ほんの僅かのp24レベルしか検出することができなかった(図11)。20μMのペプチドの存在下では、ウイルスの複製が大きく減退した。これらのデータは、試験したALB408‐423およびその2種類の誘導体が、天然のHIV標的細胞内にて、X4向性HIV‐1の感染および複製を阻害することを示している。
【0095】
図11.ALB408‐423および誘導体は、末梢血液単核細胞(PBMC)のX4向性HIV‐1感染を阻害する。細胞を、示した濃度のALB408‐423または切断型変異体と共にインキュベートし、X4向性HIV‐1で感染させた。6日後に得られた上清をp24ELISAにより分析した。3回の反復感染から得られた平均p24抗原値(ng/ml)±標準偏差を示す。
【0096】
[実施例10]
ALB408‐423ペプチドはCXCL12のCXCR4への結合を阻害する
ケモカインCXCL12のその受容体CXCR4への結合を阻害するALB408‐423の能力を試験するために、過去の記載(Valenzuela‐Fernandez, et al.; 2001, JBC 276:26550‐26558)に従って蛍光結合アッセイを生存細胞全体に対して実施した。CXCR4受容体は、EGFP蛍光タンパク質が受容体の細胞外アミノ末端部へ融合した融合タンパク質(EGFP‐CXCR4)として、ヒト胎児由来腎臓(HEK)細胞へ安定にトランスフェクトされる。ヒトケモカインCXCL12およびCXCL12‐テキサスレッドを記載に従って合成した(Amara et al., 1999, JBC 274:23916‐23925; Valenzuela‐Fernandez, et al., 2001, JBC 276:26550‐26558)。リガンド‐受容体相互作用のリアルタイム蛍光モニタリングを以下のようにして実施した。融合受容体EGFP‐hCXCR4を発現するHEK293細胞を、5mMのEDTAを補ったpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水中で採取し、遠心分離に掛け、プロテアーゼ阻害剤(40μg/mL ベスタチンおよびバシトラシン、20μg/mL ホスホラミドン、50μg/mL キモスタチン、および1μg/mL ロイペプチン)を補ったHEPES‐ウシ血清アルブミンバッファー(10mM HEPES、137.5mM NaCl、1.25mM MgCl2、1.25mM CaCl2、6mM KCl、10mM グルコース、0.4mM NaH2PO4、1% ウシ血清アルブミン(w/v)、pH7.4)中へ再懸濁させた。実験は、HEPES−BSAバッファー中に懸濁させた細胞(通常、106細胞/mL)に対して実施した。510nmで発光(470nmで励起)される蛍光の時系列での記録を、分光蛍光光度計(fluorolog 2,Spex)を用いて21℃にて行い、0.3秒ごとにサンプリングした。30秒の時点て100nMのCXCL12‐TRを1mLの細胞懸濁液へ添加することによって蛍光結合測定を開始した。競合実験では、EGFP‐CXCR4を発現する細胞を、種々の濃度の競合物質の非存在下または存在下にて、予め10分間インキュベートした。次に、CXCL12‐TR(100nM)を添加し、平衡に達するまで(300秒)蛍光を記録した。データの解析は、Kaleidagraph 3.08 ソフトウェア(Synergy Software,レディング,ペンシルベニア州,米国)を用いて行った。CXCL12のテキサスレッド(TR)基へのエネルギー移動に起因するEGFP蛍光発光の低下として、蛍光CXCL12との関連性が検出される。
【0097】
CXCL12の結合の飽和には、300nM超の濃度で達し、CXCR4受容体に対する蛍光CXCL12の解離定数は、55±15nMに等しい(Valenzuela‐Fernandez et al., (2001), JBC 276, 26550‐26558), Hachet‐Haas et al.; (2008), JBC)。蛍光CXCL12と競合する非標識分子は、受容体部位の占有に対応して、EGFPの発光の低下を阻止する。検出された蛍光強度の変動を定量化して(Palanche et al., (2001), JBC 276:34853‐34861; Vollmer et al., 1999, JBC 274:37915‐37922; Ilien et al., 2003, Neurochem 85:768‐778)、競合物質の結合定数を導くことができる。
【0098】
本発明者らの分析から、ALB408‐423がCXCL12‐Trとその受容体CXCR4との相互作用を、用量依存的に阻止することが実証される(図12)。ALB408‐423の解離定数(EC50)は8±3μMに等しく、これは、3±1μMに等しいKI値に相当する。解離定数であるEC50値は、HIV‐1阻害アッセイで得られたIC50値と類似している。
【0099】
図12.ALB408‐423は、CXCL12のCXCR4への結合を阻害する。リガンド‐受容体相互作用のリアルタイム蛍光モニタリングを、EGFP‐hCXCR4を発現する293細胞を用いて実施した。細胞を、種々の濃度のALB408‐423の非存在下または存在下にて、予め10分間インキュベートした。次に、CXCL12‐TR(100nM)を添加し、平衡に達するまで(300秒)蛍光を記録した。データの解析は、Kaleidagraph 3.08 ソフトウェア(Synergy Software,レディング,ペンシルベニア州,米国)を用いて行った。CXCL12‐Tr処理細胞のみの蛍光強度(100%)に対して、3回の反復測定から得られた平均値±標準偏差を示す。
【0100】
[実施例11]
ペプチドALB408‐423はCXCR4、CCR5、およびCXCR4を介するCa2+動員を誘発せず、CXCL12が誘発するカルシウム細胞応答を阻害する
CXCR4、CCR5、またはCXCR1が介する細胞応答を制御するALB408‐423の能力を、カルシウム指示薬をロードしたHEK293細胞上で調べた。indo‐1アセトキシメチルエステルをカルシウムプローブとして用い、記載に従って(Palanche et al., 2001, JBC 276:34853‐34861; Vollmer et al., 1999, JBC 274:37915‐37922)細胞内Ca2+放出測定を実施した。細胞応答は、分光蛍光光度計を用いて励起を355nmに、発光を405nmおよび475nmに設定し、1mLキュベット内で攪拌しながら37℃にて記録した。ヒトケモカインCCL5およびCXCL8は、Becton Dickinson Biosciences(サンホゼ,カリフォルニア州)より購入した。CXCR4、CCR5、またはCXCR1を発現する細胞を用いたCa2+動員アッセイにより、ケモカインアゴニスト、CXCL12(CXCR4)、CCL5(CCR5)、およびCXCL8(CXCR1)それぞれがCa2+動員を誘発し(図13)、一方、ALB408‐423単独ではいずれのカルシウム応答も誘発せず、従って、CXCR4、CCR5、およびCXCR1アゴニスト特性を示さないことが実証される(図13)。
【0101】
図13.ALB408‐423は、CXCR4、CCR5、およびCXCR1のいずれのアゴニストでもない。示したケモカイン受容体を発現するHEK293細胞を、それぞれのケモカイン[10nM CXCL12(CXCR4);20nM CCL5(CCR5)、もしくは50nM CXCL8(CXCR1)]または50μMのALB408‐423で処理した。細胞内Ca2+応答を分光蛍光光度計を用いて測定した。ALB408‐423による処理後に得られた蛍光強度を、それぞれのケモカインの測定値(100%)に対して示す。
【0102】
図14.ALB408‐423は、CXCR4を発現する細胞内にて、CXCL12が誘発するCa2+動員を特異的に阻害する。A)CXCL12が介する細胞内Ca2+放出のALB408‐423による用量依存的阻害。B)ALB408‐423は、HEK CCR5細胞内でのCCL5が誘発するカルシウム応答にも、HEK EGFP‐CXCR1細胞内でのCXCL8が誘発する反応にも影響を及ぼさない。黒色棒グラフ:それぞれのケモカインのみ;灰色棒グラフ:それぞれのケモカインおよび50μMのALB408‐423。ケモカインのみで処理した細胞(100%)に対する、2回の反復実験からのカルシウムピーク応答の平均値を示す。
【0103】
ALB408‐423がCXCR4アンタゴニスト特性を有するかどうかを理解するために、本発明者らは、アゴニストCXCL12のCXCR4受容体への結合に対するALB408‐423の影響を分析した。従って、CXCR4を発現する細胞を種々の濃度のALB408‐423と共にインキュベートし、次にCXCL12で処理した。Ca2+応答を記録した。図14Aに示すデータより、ALB408‐423が、CXCL12が誘発するカルシウム応答を、見掛けの阻害定数85μg/mlにより、用量依存的な形で阻害することが実証される。化合物選択性に関する知見を得るために、本発明者らは次に、種々のケモカイン/受容体対のカルシウム応答に対するこのペプチドの影響を特徴付けた。図14Aのデータと一致して、50μMのペプチドが、HEK EGFP‐CXCR4細胞内におけるCXCL12が誘発するカルシウム応答の70%を阻害する(図14B)。対照的に、このペプチドは、HEK CCR5細胞内でのCCL5が誘発するカルシウム応答にも、HEK EGFP‐CXCR1細胞内でのCXCL8が誘発する反応にも影響を及ぼさない(図14B)。これらの結果から、このペプチドがCXCR4受容体に対する選択性を示し、CXCR4アンタゴニストであるという考えが支持される。
【0104】
[実施例12]
ALB408‐423はCXCL12が誘発するCXCR4の内在化を阻害する
適切なケモカインで刺激すると、数多くのGタンパク質共役受容体が、クラスリン被覆ピットにより内在化する。CXCR4反応のアンタゴニストとして、ALB408‐423は、ケモカインが誘発するCXCR4受容体の内在化を変化させることもできる。CXCL12が媒介するCXCR4の内在化に対するALB408‐423のアンタゴニスト特性を分析するために、EGFP‐CXCR4受容体を発現する細胞を分割し、ラットI型コラーゲンをコーティングした12mmカバーガラス上で24ウェルプレートにて2日間増殖させた。次に、細胞を0〜30分の範囲の時間、100nM CXCL12、または50μM ALB408‐423、または100nM CXCL12プラス50μM ALB408‐423、を含有する、プロテアーゼ阻害剤を補ったHEPES‐BSAバッファー中にて37℃でインキュベートした。細胞を氷上へ配置することで内在化を停止させ、氷冷HEPES‐BSAバッファーで直ちに洗浄した。次に、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド中にて4℃で15分間固定し、続いて50mMのNH4Cl中にて15分間インキュベートした。カバーガラスを抗退色剤(anti‐fading agent)である
【数2】
(Calbiochem)を用いて顕微鏡のスライドグラス上へ載せ、24時間室温で維持した後、−20℃で保存した。次に、細胞を倒立顕微鏡(Leica)およびHCX PL APO Ibd.BL 63× 1.40 OIL UV 対物レンズ(n°506192)を用いたレーザー走査型共焦点イメージングシステム(Leica AOBS SP2 MP)で分析した。電子ズームは3に設定し、ピンホールは1エアリー(Airy)であり、得られたピクセルサイズは0.154μmであった。EGFPはアルゴンレーザーの488nmレーザー線で励起し、495〜550nmのいわゆるmCFPチャネル内の1つの光電子増倍管(PMT)によって検出および増幅した(PMT1 610高電圧‐HV‐、オフセット0)。良好なシグナル対ノイズ比を得るために、連続して取得した4つのイメージから平均化した。
【0105】
図15.ALB408‐423は、CXCL12が媒介するCXCR4の内在化を阻害する。受容体エンドサイトーシスを、EGFP‐CXCR4を発現するHEK細胞上でモニタリングし、CXCL12、ALB408‐423、もしくはその両方の化合物の添加後、直ちに(0分、上部パネル)、または30分後に(下部パネル)、共焦点顕微鏡により分析した。30分後、CXCL12で処理した細胞はCXCR4を内在化した。ALB408‐423の存在下では、CXCL12が媒介する受容体内在化は抑止される。
【0106】
共焦点イメージにより、100nMのCXCL12による37℃、30分間の処理が、細胞の周辺部へのおよび小胞構造内へのEGFP‐CXCR4の内在化をもたらしたことが示される(図15)。予想された通り、蛍光の大部分が細胞表面に残留していたため、ALB408‐423単独では受容体の内在化が誘発されず、CXCL12が媒介するCXCR4の内在化が阻害された(図15)。この結果は、ALB408‐423がCXCR4受容体に対するアンタゴニストとして作用することのさらなる証拠を提供する。
【0107】
[実施例13]
CXCL‐12が媒介するジャーカットT細胞の遊走を阻害するALB408‐423
CXCL12‐CXCR4シグナル伝達は、HIV/AIDS、癌、白血病、および関節炎等のいくつかの疾患において極めて重要な役割を担っている。CXCL12を発現する器官、組織、または細胞は、CXCR4を発現する腫瘍細胞を引き寄せることができ、転移を起こさせる。ALB408‐423がCXCL12の媒介による腫瘍細胞遊走を阻害することが可能かどうかを調べるために、モデルシステムとしてCXCR4を発現するジャーカットT細胞を用いて遊走アッセイを実施した(Princen et al., 2004, J. Virol. 78: 12996−13006)。ジャーカットT細胞を0.4×106(200μl)にて10%FBSを含有する媒体へ懸濁させ、次に、この細胞懸濁液(200μl)を5μmポアフィルターデバイス(Transwell,24‐ウェル細胞培養,Costar)の上部コンパートメントに添加した。次に、CXCL12含有(100ng/ml)または非含有の培養液600μlを下部コンパートメントに添加し、上部コンパートメントから細胞を誘引させた。CXCL12の誘発によるジャーカットT細胞遊走に対する阻害効果を研究するために、下部コンパートメントのCXCL12を種々の濃度のALB408‐423と混合した。この細胞培養プレートを、細胞培養インキュベータ内にて37℃で2時間インキュベートした。インキュベーションの後、プレートを取り出し、下部コンパートメントに遊走した細胞100μlを、計数チャンバーを用いて直接計数するか、または増殖アッセイ(CellTiter‐Glo(登録商標)試薬,Promega)を用いて製造元の推奨に従って分析した。増殖アッセイは、細胞数と直接比例する細胞内ATPレベルを測定する(データ示さず)。図16に示すデータは、ALB408‐423が、CXCL12が媒介するジャーカットT細胞遊走を用量依存的に阻害することを実証している。高濃度(360μg/ml)では、ALB408‐423はCXCL12が誘発する細胞遊走ほぼ完全に阻害し、いずれのペプチドも存在しない状態(CXCL12もALB408‐423もなし)で観察された比率と同等であった。これらのデータは、CXCR4アンタゴニストALB408‐423が、CXCL12によって媒介される腫瘍細胞の誘引を阻害することができることを示している。
【0108】
図16.ALB408‐423は、CXCL‐12が媒介するジャーカットT細胞の遊走を用量依存的に阻害する。5μmポアフィルターを有するトランスウェルデバイスの上部コンパートメントへジャーカットT細胞を添加した。次に、PBS、CXCR4アゴニストCXCL12(100nM)、またはALB408‐423の段階希釈物を細胞培養プレートの下部コンパートメントへ添加した。37℃での2時間のインキュベーションの後、下部コンパートメント内の遊走細胞数を、CellTiter‐Glo(登録商標)Luminescent Cell Viability Assay kit(Promega)を用いて細胞内ATPレベルを測定することによって検出した。示した数値はすべて、CXCL12のみで処理した細胞(100%遊走)に対する、3回の反復実験からの遊走細胞の平均数±標準偏差を意味する。
【0109】
[実施例14]
CXCR4へのALB408‐423の結合はN末端アミノ酸の完全性に依存する
CXCR4への結合を媒介し、従ってX4向性HIV‐1の感染およびCXCL12の結合を阻害するALB408‐423の領域を同定するために、本発明者らは、いくつかのALB408‐423誘導体(表1参照)の、CXCL12が誘発するCa2+動員およびCXCL12‐Trの結合に対する影響を分析した。実験の詳細については実施例xおよびyを参照されたい。図17のAおよびBに示すように、N末端ロイシンが欠失したALB409‐423は、CXCL12が媒介するCa2+応答もCXCL12‐TrのCXCR4受容体への結合も阻害しなかった。興味深いことに、ALB409‐423は、HIV‐1阻害アッセイにおいても不活性であり、ALB409‐423がCXCR4へ結合できないことが、抗ウイルス活性の喪失の原因でもあることが示唆される。対照的に、C末端切断型のALB誘導体はいずれも、依然としてCXCR4受容体との相互作用が可能であり(図17A)、CXCL12が媒介するCa2+応答を阻害し(図17B)、野生型ペプチドに近い解離定数(30μM)を示すが、ただし、最も短い408‐413は、受容体に対する親和性が下がり(>200μM)、X4向性HIV‐1感染の阻害にもほとんど効果がない(図6および表1)。まとめると、これらのデータは、いくつかのC末端切断型ALB誘導体が、CXCR4と結合することができ、それによってCXCL12の結合およびシグナル伝達、またはX4向性HIV‐1感染を阻止するCXCR4アンタゴニストであることを示している。
【0110】
図17.ALB誘導体のCXCR4アンタゴニスト活性。A)ALB断片は、CXCL12が誘発するCa2+動員は阻害するがCCL5が誘発するものは阻害しない。CXCR4またはCCR5を発現するHEK293細胞を、示したALB誘導体の非存在下(ALBなし)または存在下(50μM)にて、それぞれCXCR4アゴニストCXCL12(10nM)またはCCR5アゴニストCCL5(20nM)で処理した。カルシウム応答を記載のようにして記録した。示したデータは、アゴニストのみによる処理後のピークカルシウム応答(100%)に対する、2回の反復サンプルから得られた平均値±標準偏差である。B)ALB誘導体は、CXCL12のCXCR4への結合を抑止する。CXCR4を発現するHEK293細胞を、ALBペプチドの存在下または非存在下にて、テキサスレッド標識CXCL12(CXCL12‐Tr)で処理した。リガンド‐受容体相互作用のリアルタイム蛍光モニタリングを記載のようにして実施した。CXCL12‐Trのみで処理した細胞(100%結合)に対して、ALBペプチドの存在下における結合したCXCL12‐Trのレベルを示す。数値は、2回の反復実験から得た。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
Z1‐LVRYTKKVPQVSTPTL‐Z2(ALB‐408)
を有し、Zは0〜10の数のアミノ酸残基を表す、ペプチド、ならびに、その生物活性断片、および/または変異体、および/または誘導体、特にアミド化、アセチル化、硫酸化、リン酸化、および/もしくはグリコシル化誘導体、ならびに、多重合成によって得ることができるALB408‐423の生物学的活性を有するペプチド。
【請求項2】
前記配列中の単一もしくは複数のアミノ酸残基が、置換、欠失、もしくは付加されたか、または、ALB408‐423の生物学的活性または薬理学的活性を改良する結果となるALB408‐423の単一のアミノ酸上への化学修飾が導入された、請求項1に記載のALB408‐423ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号1〜32のアミノ酸配列を有する、請求項1および/または2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423、ならびに/またはその断片、変異体、誘導体、および類似体、をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
DNA、RNA、ゲノムDNA、またはPNAから構成されることを特徴とする、請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターを含有する遺伝子操作された宿主細胞。
【請求項8】
ALB408‐423活性を有するポリペプチドをコードし、請求項4に記載のポリヌクレオチドとハイブリダイズする、ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドに対する抗体。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドに対するアンタゴニスト/阻害剤。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの治療量を投与することによって、ALB408‐423を必要とする患者を治療するための方法。
【請求項12】
アンタゴニスト/阻害剤の治療量を投与することによって、ALB408‐423の阻害を必要とする患者を治療するための方法。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド、および適合する担体からなる、ガレノス製剤。
【請求項14】
ALB408‐423をコードするDNAの投与および患者内でのインビボでのその発現によって前記ポリペプチドの治療効果が達成される、患者を治療するための方法。
【請求項15】
カチオン交換抽出による血液ろ過液からの抽出、ならびにそれに続く吸着物質の溶離、ペプチドを含有する前記抽出物の再度のカチオン交換クロマトグラフィ、および分画逆相クロマトグラフィ、による請求項1に記載のALB408‐423を調製するためのプロセス。
【請求項16】
メリフィールド合成である固相合成、または、保護アミノ酸を用いる、当業者に公知の方法による液相合成、およびその精製による、請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423を調製するためのプロセス。
【請求項17】
一般的な生物工学的ベクターを用いる、当業者に公知の異種発現の方法による、請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423を調製するためのプロセス。
【請求項18】
請求項8に記載のポリクローナルもしくはモノクローナル抗体を含有する、または請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423をコードする核酸もしくはmRNAを含有する、診断薬。
【請求項19】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド、または請求項4に記載のポリヌクレオチドを含有する、組織、血漿、尿、および脳脊髄液中のこの物質のレベルを分析するための試験システムのための、診断薬。
【請求項20】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを検出する診断薬および試験システムであって、組織、血漿、尿、および脳脊髄液中のこの物質のレベルを、RP‐HPLC、タンパク質沈殿、および/または固相抽出によるサンプル調製とMALDI‐MSまたはESI‐MS等の質量分析法を組み合わせることによって分析するための、診断薬および試験システム。
【請求項21】
ウイルス性疾患、細菌および真菌感染、炎症および新生物形成プロセスに対するマーカーとして、ならびに炎症プロセス、撹乱された炎症反応、腫瘍性疾患、成長障害、免疫系の疾患におけるマーカーとして、ならびに骨疾患におけるマーカーとして、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを含有する診断薬。
【請求項22】
経口、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、くも膜下腔内投与のためのガレノス剤形の活性成分として、および経肺投与のためのエアロゾルとして、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを含有する薬剤。
【請求項23】
ウイルス性疾患、特にHIV‐1、HIV‐2、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス(1型および2型)、水痘帯状疱疹ウイルス、A型肝炎およびB型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、エプスタイン‐バーウイルスの治療、ならびに細菌および真菌感染、炎症プロセス、撹乱された炎症反応、腫瘍性疾患、成長障害、神経疾患、凝血および造血の疾患、血管疾患、免疫系の疾患の治療、ならびに創傷および骨の治癒、のための薬剤の調製のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド、ならびに請求項4の記載のポリヌクレオチド、ならびに請求項9および10に記載の抗体/アンタゴニスト、ならびに請求項13に記載のガレノス製剤の、使用。
【請求項1】
以下のアミノ酸配列:
Z1‐LVRYTKKVPQVSTPTL‐Z2(ALB‐408)
を有し、Zは0〜10の数のアミノ酸残基を表す、ペプチド、ならびに、その生物活性断片、および/または変異体、および/または誘導体、特にアミド化、アセチル化、硫酸化、リン酸化、および/もしくはグリコシル化誘導体、ならびに、多重合成によって得ることができるALB408‐423の生物学的活性を有するペプチド。
【請求項2】
前記配列中の単一もしくは複数のアミノ酸残基が、置換、欠失、もしくは付加されたか、または、ALB408‐423の生物学的活性または薬理学的活性を改良する結果となるALB408‐423の単一のアミノ酸上への化学修飾が導入された、請求項1に記載のALB408‐423ペプチド。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号1〜32のアミノ酸配列を有する、請求項1および/または2に記載のペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423、ならびに/またはその断片、変異体、誘導体、および類似体、をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
DNA、RNA、ゲノムDNA、またはPNAから構成されることを特徴とする、請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のベクターを含有する遺伝子操作された宿主細胞。
【請求項8】
ALB408‐423活性を有するポリペプチドをコードし、請求項4に記載のポリヌクレオチドとハイブリダイズする、ポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドに対する抗体。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドに対するアンタゴニスト/阻害剤。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチドの治療量を投与することによって、ALB408‐423を必要とする患者を治療するための方法。
【請求項12】
アンタゴニスト/阻害剤の治療量を投与することによって、ALB408‐423の阻害を必要とする患者を治療するための方法。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド、および適合する担体からなる、ガレノス製剤。
【請求項14】
ALB408‐423をコードするDNAの投与および患者内でのインビボでのその発現によって前記ポリペプチドの治療効果が達成される、患者を治療するための方法。
【請求項15】
カチオン交換抽出による血液ろ過液からの抽出、ならびにそれに続く吸着物質の溶離、ペプチドを含有する前記抽出物の再度のカチオン交換クロマトグラフィ、および分画逆相クロマトグラフィ、による請求項1に記載のALB408‐423を調製するためのプロセス。
【請求項16】
メリフィールド合成である固相合成、または、保護アミノ酸を用いる、当業者に公知の方法による液相合成、およびその精製による、請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423を調製するためのプロセス。
【請求項17】
一般的な生物工学的ベクターを用いる、当業者に公知の異種発現の方法による、請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423を調製するためのプロセス。
【請求項18】
請求項8に記載のポリクローナルもしくはモノクローナル抗体を含有する、または請求項1〜3のいずれか1項に記載のALB408‐423をコードする核酸もしくはmRNAを含有する、診断薬。
【請求項19】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド、または請求項4に記載のポリヌクレオチドを含有する、組織、血漿、尿、および脳脊髄液中のこの物質のレベルを分析するための試験システムのための、診断薬。
【請求項20】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを検出する診断薬および試験システムであって、組織、血漿、尿、および脳脊髄液中のこの物質のレベルを、RP‐HPLC、タンパク質沈殿、および/または固相抽出によるサンプル調製とMALDI‐MSまたはESI‐MS等の質量分析法を組み合わせることによって分析するための、診断薬および試験システム。
【請求項21】
ウイルス性疾患、細菌および真菌感染、炎症および新生物形成プロセスに対するマーカーとして、ならびに炎症プロセス、撹乱された炎症反応、腫瘍性疾患、成長障害、免疫系の疾患におけるマーカーとして、ならびに骨疾患におけるマーカーとして、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを含有する診断薬。
【請求項22】
経口、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、くも膜下腔内投与のためのガレノス剤形の活性成分として、および経肺投与のためのエアロゾルとして、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチドを含有する薬剤。
【請求項23】
ウイルス性疾患、特にHIV‐1、HIV‐2、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス(1型および2型)、水痘帯状疱疹ウイルス、A型肝炎およびB型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、エプスタイン‐バーウイルスの治療、ならびに細菌および真菌感染、炎症プロセス、撹乱された炎症反応、腫瘍性疾患、成長障害、神経疾患、凝血および造血の疾患、血管疾患、免疫系の疾患の治療、ならびに創傷および骨の治癒、のための薬剤の調製のための、請求項1〜3のいずれか1項に記載のペプチド、ならびに請求項4の記載のポリヌクレオチド、ならびに請求項9および10に記載の抗体/アンタゴニスト、ならびに請求項13に記載のガレノス製剤の、使用。
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15】
【図16】
【図17A】
【図17B】
【公表番号】特表2010−531655(P2010−531655A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513986(P2010−513986)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058566
【国際公開番号】WO2009/004054
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004491)ファリス バイオテック ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058566
【国際公開番号】WO2009/004054
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(510004491)ファリス バイオテック ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】
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