説明

DCオフセット補正機能を備えた無線通信システム

【課題】従来のΔΣ型のA/D変換器を用いたDCオフセット補正は過大入力があると発振し正常にA/D変換できないことから、利得アンプの利得を最小に設定しオフセットを測定していたために精度が悪く、またDC値の測定にはA/D変換後にデジタルローパスフィルタが必要であり低速で回路規模が大きくなる課題を有していた。
【解決手段】DCオフセット補正時にΔΣ型のA/D変換器308の内部の量子化器を用いることで、利得アンプ305の利得を大きくとりながら、過大入力があっても発振せず正常にかつ高速にA/D変換結果が得られる。また、A/D変換器308の出力側にデジタルローパスフィルタを必要としないため、小規模な付加回路で実現可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCオフセットを補正する機能を備えた無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種無線通信の受信システムにおいて、ミキサや利得アンプ等では製造ばらつきに起因するDCオフセットが存在する。これらDC成分は後段の利得アンプで増幅され、それ以降の信号処理回路のダイナミックレンジを減少させる等の問題が生じる。このため、通常はDC成分を取り除く、或いはDCオフセットを検出し、補正する手段が講じられる。
【0003】
ある従来技術に係る無線通信システムでは、ミキサや利得アンプで生じるDCオフセットをA/D変換器でデジタル値に変換し、オフセット補正制御部でDCオフセットを相殺するように算出したデジタル値をD/A変換器に設定することで、DCオフセットを補正する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特許第4072061号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の無線通信システムでは、DC値が大きすぎるとA/D変換器の入力が飽和してしまうことがあるため、利得アンプの利得は十分小さくしておく必要がある。このため、DC値の検出精度が低い。
【0006】
また、A/D変換器にΔΣ型が用いられることが多く、ΔΣ型のA/D変換器は過大入力があった場合、発振し正常にA/D変換できない。またΔΣ型のA/D変換器からDC値を得るにはデジタルのローパスフィルタが必要であるため、回路規模の増大を招き、DC値取得の処理に時間を要する。
【0007】
本発明の目的は、高精度かつ高速のDCオフセット補正を小規模な回路で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では次のような解決手段を講じた。すなわち、ΔΣ型のA/D変換器は量子化器を内部に有しており、この量子化器は低分解能の高速A/D変換器である点に着目し、DC値検出にこの量子化器を用いることで、発振の問題は無く高速にA/D変換可能となる。低分解能の問題に対しては、利得アンプの利得を大きくしておくことで検出精度を高めることが可能である。つまり、利得アンプの利得を十分大きくしておき、A/D変換器への入力を直接、内部の量子化器に接続してA/D変換し、変換結果をもとに制御部がオフセット補正用のD/A変換器を制御し、DCオフセット値を0に近づけるのである。この手法によると、高精度かつ高速のDCオフセット検出が可能となり、デジタルローパスフィルタが不要で回路規模が小さくできる。
【0009】
オフセット変動に対して柔軟に対応するためには、次のような解決手段を講じる。すなわち、RF信号を受信し増幅するLNA(Low Noise Amplifier)と、前記LNAから入力された信号を局部発振器の信号とミキシングし中間周波数信号へと変換するミキサと、前記ミキサで周波数変換された信号を増幅する第1の利得アンプと、前記第1の利得アンプの出力信号のうち所望帯域の信号のみを通過させるフィルタと、前記フィルタから入力された信号を増幅する第2の利得アンプと、前記第2の利得アンプからの出力信号をデジタル信号へ変換するA/D変換器と、これらの信号経路に発生したDCオフセットを補正するために、前記A/D変換器の出力に接続され、DCオフセットの初期補正値を設定する第1のオフセット補正制御部と、随時DCオフセットを補正するための第2のオフセット補正制御部とを備えた構成を採用する。そして、前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプに初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプの前記初期補正値を変更する。
【0010】
或いは、前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記ミキサに初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記ミキサの前記初期補正値を変更する。
【0011】
或いは、前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記ミキサに第1の初期補正値を設定し、次に、前記第1のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプに第2の初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプの前記第2の初期設定値を変更し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある第2の基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記ミキサの前記第1の初期設定値を変更する。
【0012】
或いは、前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記ミキサに初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプのへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある第2の基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記ミキサの前記初期設定値を変更する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、無線受信システムにおいて、高精度かつ高速のDCオフセット補正が小規模な回路で実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムのブロック図である。
【図2】図1中のA/D変換器の内部構成例を示すブロック図である。
【図3】図1の無線通信システムにおけるオフセット補正制御手順を示すフローチャート図である。
【図4】図2の変形例を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る無線通信システムのブロック図である。
【図6】図5中の第1の利得アンプの内部構成例を示す回路図である。
【図7】図5の変形例を示すブロック図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係る無線通信システムのブロック図である。
【図9】図8の変形例を示すブロック図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る無線通信システムのブロック図である。
【図11】図10の変形例を示すブロック図である。
【図12】本発明の第5の実施形態に係る無線通信システムのブロック図である。
【図13】図12の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る無線通信システムについて詳細に説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
図1は、本発明の第1の実施形態に係る無線通信システムのブロック図である。図1によれば、RF信号をアンテナ301で受信しLNA302で増幅した後、ミキサ304で局部発振器303の信号とミキシングされ中間周波数(IF)信号へと変換され、第1の利得アンプ305で増幅されフィルタ306へと送られる。フィルタ306で所望帯域の信号のみに制限され、A/D変換器308でデジタル信号へと変換される。
【0017】
図2は、A/D変換器308の内部構造を示す図である。図2のA/D変換器308はΔΣ型のA/D変換器であって、通常動作時においてスイッチ407はオペアンプ402の出力側と接続され、A/D変換器308の入力側とは切断されている。入力された信号はオペアンプ402で構成される積分器408を通過し、量子化器401でデジタル値に変換され、電流型D/A変換器404を通じてフィードバックされ入力信号と差分が取られることでΔΣ変調を実現する。なお、フィードフォワードパス400を有してもよく、この場合、入力信号の大部分はフィードフォワードパス400を通過することになる。
【0018】
図2において、DCオフセット補正測定用パス406を使用するようにスイッチ407が切り替えられた場合には、A/D変換器308の入力信号が直接量子化器401へと入力される。405は電流型D/A変換器である。
【0019】
DCオフセットは、図1中のオフセット補正制御部311によって、図3の制御手順で制御される。すなわち、初めにA/D変換器308がDCオフセット制御モードに設定される(601)。これは、スイッチ407がA/D変換器308の入力へと接続され入力信号が直接量子化器401へと入力される状態にすることを意味する。次に、初期状態にDCオフセットが必ず負になるようにD/A変換器312を負の最大値に設定する(602)。次に第1の利得アンプ305の利得を設定し(603)、設定変更後状態が安定するまで一定時間待機し(604)、量子化器401においてDC測定値が正かどうかを判定し(605)、負のままであればD/A変換器312の設定値を正方向にインクリメント(606)して一定時間待機(604)の状態に戻り、正になれば、次に1つ前のDC測定値と比較して現在のDC値が0に近いかどうかを判定し(607)、近ければ現在のD/A変換器312の設定値を保持(608)し、遠ければ、前回のD/A変換器312の設定値を保持する(609)。このように制御することでDCオフセットが最小となり、補正が可能となる。
【0020】
なお、A/D変換器308は、前述のようにフィードフォワードパス400を有してもよく、その場合、A/D変換器308をDCオフセット制御モードに設定する手順(601)において、図4に示すように動作停止制御信号509により、積分器508中のオペアンプ502や、電流型D/A変換器504,505を動作させず駆動を停止させることで、入力信号はフィードフォワードパス500を経由して量子化器501に直接入力することができる。この構成によれば、信号経路に存在するスイッチ407が不要になり、通常動作時のスイッチ407による寄生抵抗や寄生容量による性能低下を防止することが可能である。
【0021】
《第2の実施形態》
図5に、本発明の第2の実施形態に係る構成を示す。本構成は、図1中のフィルタ306に対応するフィルタ706の出力に第2の利得アンプ707を追加することで、更に信号増幅率を上げた構成となっている。特に、本願発明の構成では、ダイレクトコンバージョン方式の受信機等で、製造プロセスに起因して発生し、受信品質を劣化させる要因となる、信号経路に残るDCオフセットを抑制するため第1のオフセット補正制御部711、第2のオフセット補正制御部723を設けている。アンテナ701、LNA702、局部発振器703、ミキサ704、第1の利得アンプ705、フィルタ706、A/D変換器708については、図1のアンテナ301、LNA302、局部発振器303、ミキサ304、第1の利得アンプ305、フィルタ306、A/D変換器308と同じ構成であるので説明は割愛する。
【0022】
ここで、本願発明における、無線通信システムのDCオフセット補正方法について説明する。まず、ミキサ704及び第1の利得アンプ705において発生するDCオフセットが、後段の回路で増幅され、それ以降の回路のダイナミックレンジを減少させる、又は、それ以降の回路の入力部における歪みを増大させる等の問題に対応するため、システムの初期設定時に、ΔΣ型のA/D変換器708を用いて、ミキサ704及び第1の利得アンプ705のDCオフセットを検出し、第1のオフセット補正制御部711から初期値設定経路716を介して第1のD/A変換器712に補正値を設定し、第1の利得アンプ705にフィードバックをかけることで初期補正を実施する。次に、システムの通常動作時に、A/D変換器708の出力を、デジタルローパスフィルタ710を通過させ、その出力をもとに第2のオフセット補正制御部723が高精度にDCオフセットを検出するとともに、第2のD/A変換器713に補正値を設定し、第2の利得アンプ707にフィードバックをかける。更に、一定値以上のDCオフセットを検出した場合には、第1のD/A変換器712の初期補正値に加算を行い、第1の利得アンプ705にフィードバックをかけるとともに、第2のD/A変換器713の補正値を0から再度設定し、第2の利得アンプ707にフィードバックをかける。つまり、システムの通常動作時には、第2のオフセット補正制御部723を用い、第2のD/A変換器713へのフィードバックを下位ビット、第1のD/A変換器712へのフィードバックを上位ビットとして1つの補正ループ717を用いてオフセット補正を行う。
【0023】
このような本願発明の構成を用いることで、まず、ミキサ704の出力をモニタし、ミキサ704のDCオフセット補正を行い、次に、第1の利得アンプ705の出力をモニタし、第1の利得アンプ705のDCオフセット補正を行い、次に、第2の利得アンプ707の出力をモニタし、第2の利得アンプ707のDCオフセット補正を行うといったような、各々の回路毎にDCオフセット補正ループを回す構成での課題、すなわち、
(1)検出部が複数必要であるため、DCオフセット検出の構成が大きくなってしまう、
(2)複数のループが安定しなければならないので、信号が安定するまでに時間がかかってしまう、
という問題が解決される。
【0024】
具体的には、本願発明の構成では、初期補正値の検出は、従来でも無線通信システムに備えられているΔΣ型のA/D変換器708を用いることができるので、DCオフセット検出のための回路構成は小規模にできる。更に、初期補正を行うことで、システム動作時に行う後段回路の補正時間、補正レンジ、かつ、補正用回路を小規模にすることが可能となる。また、第2の利得アンプ707に設定すべきDCオフセット補正値が設定桁数(m桁)より大きいn桁になった場合のみ、n桁のうちの上位k桁(k=n−m)を第1の利得アンプ705のDCオフセット補正値に加算する構成をとることで、使用条件に大きな変動がない場合には、第1の利得アンプ705のDCオフセットを再測定する必要がないため、DCオフセット補正時間の短縮が図れる。一方、設定ゲイン、設定温度、設定周波数の変更により、ミキサ704及び第1の利得アンプ705のDCオフセットが大きく変動した場合には、適切なDCオフセット補正を実施することが可能となる。
【0025】
図6に、第1のD/A変換器712を用いてDCオフセット補正を行う場合の第1の利得アンプ705の一例を示す。図6の利得アンプ705は、入力トランジスタM801,M802、電流源I801,I802,I803,I804、可変抵抗R801から構成されるgmアンプ801と、オペアンプ803、可変抵抗R802,R803から構成されるトランスインピーダンスアンプ802とによって構成された可変利得アンプである。D/A変換器712は、電流源I805,I806を有する。DCオフセット補正を行う場合には、gmアンプ801とトランスインピーダンスアンプ802との接続部にD/A変換器712を接続し、差動信号の一方の信号ラインから電流を引き抜き、もう一方の信号ラインに電流を付加することで、トランスインピーダンスアンプ802の可変抵抗R802,R803に流す電流を変更し、DC電圧を変更する構成となっている。
【0026】
なお、図5中の第2の利得アンプ707や図3中の利得アンプ305についても、図6の構成と同様でよい。ただし、利得アンプ305,705,707の構成は、図6の構成に限るものではなく、入力部に抵抗とD/A変換器とを接続し、DC電圧を変更してもよいし、DC電圧を所望の値に変更できる構成であれば、どのような構成を用いても構わない。
【0027】
また、第2の実施形態の変形例1として、初期補正値の検出時に、図5に点線で示したように、スイッチ720,721を設け、切り替えることで、フィルタ706、第2の利得アンプ707をバイパスし、ミキサ704、第1の利得アンプ705のみのDCオフセット値を検出することも可能である。本構成では、スイッチ720,721、バイパス経路715といった、最小限の構成の追加は必要であるが、フィルタ706、第2の利得アンプ707で発生するDCオフセットによる影響を完全に削減でき、ミキサ704、第1の利得アンプ705のみの正確なDCオフセット値を検出することが可能となる。
【0028】
また、第2の実施形態の変形例2として、DCオフセットの初期補正値は、初期設定状態においてミキサ704、第1の利得アンプ705に発生するDCオフセット値を検出、設定できればどのような手段を用いても構わないことから、A/D変換器708を用いて設定する代わりに、図7に示すように、別途オフセット補正初期値設定回路718を設けて実施しても構わない。オフセット補正初期値設定回路718の一例としては、予め測定した値をテーブルとして持っておく等の構成が考えられ、構成要素としては増加するが、フィードフォワード制御となり、更なる高速化を図ることや、初期設定ゲインや設定周波数に合わせてDCオフセット補正値を設定することも可能となる。
【0029】
《第3の実施形態》
図8に、本発明の第3の実施形態に係る構成を示す。本構成の基本構成は、図5と同様のため、同じ構成については同じ符号を付与し、説明を割愛する。
【0030】
本構成では、図5の構成において、A/D変換器708を用いて、第1のD/A変換器712から第1の利得アンプ705に設定していたDCオフセットの初期補正値を、第3のD/A変換器714からミキサ704に設定するように変更した構成となっている。その後、第2の利得アンプ707へのオフセット補正値の設定を下位ビット、ミキサ704へのオフセット補正値の変更を上位ビットとして、1つの補正ループ717を用いてオフセット補正を行う。
【0031】
本構成を用いることにより、初期設定時におけるDCオフセットを、ミキサ704で補正することが可能なため、ミキサ704より後段回路の入力部で歪み特性を劣化させたり、発生したDCオフセットが後段の回路で増幅され、A/D変換器708の入力を飽和させたりすることがなくなる。
【0032】
ここで、第3の実施形態の変形例1として、初期補正値の検出時に、図8に点線で示したように、スイッチ720,721を設け、切り替えることで、フィルタ706、第2の利得アンプ707をバイパスし、ミキサ704、第1の利得アンプ705のみのDCオフセット値を検出することも可能である。本構成では、スイッチ720,721、バイパス経路715といった、最小限の構成の追加は必要であるが、フィルタ706、第2の利得アンプ707で発生するDCオフセットによる影響を完全に削減でき、ミキサ704、第1の利得アンプ705のみの正確なDCオフセット値を検出することが可能となる。
【0033】
また、第3の実施形態の変形例2として、DCオフセットの初期補正値は、初期設定状態においてミキサ704、第1の利得アンプ705に発生するDCオフセット値を検出、設定できればどのような手段を用いても構わないことから、A/D変換器708を用いて設定する代わりに、図9に示すように、別途オフセット補正初期値設定回路718を設けて実施しても構わない。オフセット補正初期値設定回路718の一例としては、予め測定した値をテーブルとして持っておく等の構成が考えられ、構成要素としては増加するが、フィードフォワード制御となり、更なる高速化を図ることや、初期設定ゲインや設定周波数に合わせてDCオフセット補正値を設定することも可能となる。
【0034】
《第4の実施形態》
図10に、本発明の第4の実施形態に係る構成を示す。本構成の基本構成は、図5と同様のため、同じ構成については同じ符号を付与し、説明を割愛する。
【0035】
本構成では、図5の構成において、A/D変換器708を用いて、第1のD/A変換器712から第1の利得アンプ705に設定していたDCオフセットの初期補正値を、A/D変換器708を2回動作させ、まず、第3のD/A変換器714からミキサ704に第1の初期補正値を設定し、次に、第1のD/A変換器712から第1の利得アンプ705に第2の初期補正値を設定する構成となっている。その後、第2の利得アンプ707へのオフセット補正値の設定を下位ビット、第1の利得アンプ705へのオフセット補正値の変更を中位ビット、ミキサ704へのオフセット補正値の変更を上位ビットとして、1つの補正ループ717を用いてオフセット補正を行う。
【0036】
本構成を用いることにより、初期補正時において、ミキサ704及び第1の利得アンプ705の入力ノードで発生したDCオフセットをミキサ704で補正した後、更に、第1の利得アンプ705で発生する残留DCオフセットを第1の利得アンプ705で補正でき、第1の利得アンプ705より後段回路の入力部で歪み特性を劣化させたり、発生したDCオフセットが後段の回路で増幅され、A/D変換器708の入力を飽和させたりすることがなくなる。
【0037】
ここで、第4の実施形態の変形例1として、初期補正値の検出時に、図10に点線で示したように、スイッチ720,721を設け、切り替えることで、フィルタ706、第2の利得アンプ707をバイパスし、ミキサ704、第1の利得アンプ705のみのDCオフセット値を検出することも可能である。本構成では、スイッチ720,721、バイパス経路715といった、最小限の構成の追加は必要であるが、フィルタ706、第2の利得アンプ707で発生するDCオフセットによる影響を完全に削減でき、ミキサ704、第1の利得アンプ705のみの正確なDCオフセット値を検出することが可能となる。
【0038】
また、第4の実施形態の変形例2として、DCオフセットの第1の初期補正値又は第2の初期補正値は、初期設定状態においてミキサ704、第1の利得アンプ705に発生するDCオフセット値を検出、設定できればどのような手段を用いても構わないことから、A/D変換器708を用いて設定する代わりに、図11に示すように、別途オフセット補正初期値設定回路718を設けて実施しても構わない。オフセット補正初期値設定回路718の一例としては、予め測定した値をテーブルとして持っておく等の構成が考えられ、構成要素としては増加するが、フィードフォワード制御となり、更なる高速化を図ることや、初期設定ゲインや設定周波数に合わせてDCオフセット補正値を設定することも可能となる。
【0039】
更に、第4の実施形態の変形例3として、求められる精度に応じて、第3のD/A変換器714からミキサ704のみに初期補正値を設定した後、第2の利得アンプ707へのオフセット補正値の設定を下位ビット、第1の利得アンプ705へのオフセット補正値の設定を中位ビット、ミキサ704へのオフセット補正値の変更を上位ビットとして、1つの補正ループ717を用いてDCオフセットを行うというような、第4の実施形態の一部を簡略化したDCオフセット手法を用いても構わない。
【0040】
《第5の実施形態》
図12及び図13に、本発明の第5の実施形態に係る構成を示す。本構成の基本構成は、図5と同様のため、同じ構成については同じ符号を付与し、説明を割愛する。
【0041】
本構成は、図5、図7〜図11の構成のA/D変換器708の出力に、AGC(Automatic Gain Control)制御部719を追加したものである。AGC制御部719は、無線通信システムの各種通信状態において、各回路が飽和せず、所望のゲイン特性が実現できるよう、LNA702、ミキサ704、第1の利得アンプ705、第2の利得アンプ707各々にゲインを設定する。このとき、各回路では、ゲインの変更に伴ない、DCオフセット値も変動している。そこで、予めAGC制御部719から第1のオフセット補正制御部711にゲイン変動の信号を送り、ゲインに連動するDCオフセット値の変動量についての設定を行うことで、D/A変換器712,714への設定値の収束時間の短縮を図る。
【0042】
本構成を用いることで、第2のオフセット補正制御部723で補正量を検出する前に、第1の利得アンプ705やミキサ704への補正値を変更することができるので、第2の利得アンプ707の補正レンジを小さく、補正ループの収束時間を短縮することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係るDCオフセット補正はΔΣ型のA/D変換器を有し、DCオフセットを問題とする無線受信システムにおいて、高速かつ高精度のDCオフセット補正を小規模な回路で実現可能であるため、有用である。
【符号の説明】
【0044】
301 アンテナ
302 LNA
303 局部発振器
304 ミキサ
305 利得アンプ
306 フィルタ
308 A/D変換器
311 オフセット補正制御部
312 D/A変換器
400 フィードフォワードパス
401 量子化器
402 オペアンプ
404,405 D/A変換器
406 DCオフセット補正測定用パス
407 DCオフセット補正測定用切り替えスイッチ
408 積分器
500 フィードフォワードパス
501 量子化器
502 オペアンプ
504,505 D/A変換器
508 積分器
509 動作停止制御信号
701 アンテナ
702 LNA
703 局部発振器
704 ミキサ
705 第1の利得アンプ
706 フィルタ
707 第2の利得アンプ
708 A/D変換器
710 デジタルローパスフィルタ
711 第1のオフセット補正制御部
712,713,714 D/A変換器
715 バイパス経路
716 オフセット補正初期値設定経路
717 オフセット補正経路
718 オフセット補正初期値設定回路
719 AGC制御部
720,721 パス切り替えスイッチ
723 第2のオフセット補正制御部
801 gmアンプ
802 トランスインピーダンスアンプ
803 オペアンプ
I801〜I806 電流源
R801〜R803 可変抵抗
M801,M802 入力トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DCオフセット補正機能を備えた無線通信システムであって、
受信システムのDCオフセット測定時において、
ΔΣ型のA/D変換器内部の量子化器に対して被測定信号の直接入力経路を有し、前記直接入力経路を経由して前記量子化器でDCオフセットを測定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
請求項1記載の無線通信システムにおいて、
量子化器の入力にトグルスイッチを有し、
前記DCオフセット測定時に前記トグルスイッチがA/D変換器の入力に接続されることにより直接入力経路が形成されることを特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
請求項1記載の無線通信システムにおいて、
前記ΔΣ型のA/D変換器内部のフィードバックD/A変換器及び量子化器駆動部の駆動を停止することで、前記ΔΣ型のA/D変換器内部のフィードフォワードパスを直接入力経路として用いることを特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
RF信号を受信し、増幅するLNAと、
前記LNAから入力された信号を局部発振器の信号とミキシングし、中間周波数信号へと変換するミキサと、
前記ミキサで周波数変換された信号を増幅する第1の利得アンプと、
前記第1の利得アンプの出力信号のうち所望帯域の信号のみを通過させるフィルタと、
前記フィルタから入力された信号を増幅する第2の利得アンプと、
前記第2の利得アンプからの出力信号をデジタル信号へ変換するA/D変換器と、
これらの信号経路に発生したDCオフセットを補正するために、前記A/D変換器の出力に接続され、DCオフセットの初期補正値を設定する第1のオフセット補正制御部と、随時DCオフセットを補正するための第2のオフセット補正制御部とを備え、
前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプに初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプの前記初期補正値を変更することを特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
RF信号を受信し、増幅するLNAと、
前記LNAから入力された信号を局部発振器の信号とミキシングし、中間周波数信号へと変換するミキサと、
前記ミキサで周波数変換された信号を増幅する第1の利得アンプと、
前記第1の利得アンプの出力信号のうち所望帯域の信号のみを通過させるフィルタと、
前記フィルタから入力された信号を増幅する第2の利得アンプと、
前記第2の利得アンプからの出力信号をデジタル信号へ変換するA/D変換器と、
これらの信号経路に発生したDCオフセットを補正するために、前記A/D変換器の出力に接続され、DCオフセットの初期補正値を設定する第1のオフセット補正制御部と、随時DCオフセットを補正するための第2のオフセット補正制御部とを備え、
前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記ミキサに初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記ミキサの前記初期補正値を変更することを特徴とする無線通信システム。
【請求項6】
RF信号を受信し、増幅するLNAと、
前記LNAから入力された信号を局部発振器の信号とミキシングし、中間周波数信号へと変換するミキサと、
前記ミキサで周波数変換された信号を増幅する第1の利得アンプと、
前記第1の利得アンプの出力信号のうち所望帯域の信号のみを通過させるフィルタと、
前記フィルタから入力された信号を増幅する第2の利得アンプと、
前記第2の利得アンプからの出力信号をデジタル信号へ変換するA/D変換器と、
これらの信号経路に発生したDCオフセットを補正するために、前記A/D変換器の出力に接続され、DCオフセットの初期補正値を設定する第1のオフセット補正制御部と、随時DCオフセットを補正するための第2のオフセット補正制御部とを備え、
前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記ミキサに第1の初期補正値を設定し、次に、前記第1のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプに第2の初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプの前記第2の初期設定値を変更し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある第2の基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記ミキサの前記第1の初期設定値を変更することを特徴とする無線通信システム。
【請求項7】
RF信号を受信し、増幅するLNAと、
前記LNAから入力された信号を局部発振器の信号とミキシングし、中間周波数信号へと変換するミキサと、
前記ミキサで周波数変換された信号を増幅する第1の利得アンプと、
前記第1の利得アンプの出力信号のうち所望帯域の信号のみを通過させるフィルタと、
前記フィルタから入力された信号を増幅する第2の利得アンプと、
前記第2の利得アンプからの出力信号をデジタル信号へ変換するA/D変換器と、
これらの信号経路に発生したDCオフセットを補正するために、前記A/D変換器の出力に接続され、DCオフセットの初期補正値を設定する第1のオフセット補正制御部と、随時DCオフセットを補正するための第2のオフセット補正制御部とを備え、
前記DCオフセットの補正において、まず、前記第1のオフセット補正制御部が前記ミキサに初期補正値を設定し、その後、前記第2のオフセット補正制御部が随時前記第2の利得アンプへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記第1の利得アンプのへ補正値を設定し、更に前記第2の利得アンプへの補正がある第2の基準値以上の場合は、前記第2のオフセット補正制御部が前記ミキサの前記初期設定値を変更することを特徴とする無線通信システム。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項に記載のDCオフセット補正機能を備えた無線通信システムにおいて、
前記第1の利得アンプ又は前記ミキサに設定するDCオフセットの初期補正値は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線通信システムにおけるΔΣ型のA/D変換器を用いたDCオフセット補正手法によって設定することを特徴とする無線通信システム。
【請求項9】
請求項8記載のDCオフセット補正機能を備えた無線通信システムにおいて、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の無線通信システムにおけるΔΣ型のA/D変換器を用いたDCオフセット補正手法を実施する場合に、前記フィルタ及び前記第2の利得アンプを通過するパスを遮断し、前記第1の利得アンプから前記A/D変換器に直接入力できる経路を形成することを特徴とする無線通信システム。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載のDCオフセット補正機能を備えた無線通信システムにおいて、
前記ミキサ又は前記第1の利得アンプの初期補正値を変更する場合、変更値を、前記ミキサ又は前記第1の利得アンプのゲイン設定に追従させることを特徴とする無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−120083(P2012−120083A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270227(P2010−270227)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】