説明

FRP製クライオスタット

【課題】壁部にフランジ部材と共に金属製継手部材が貫通して取付られ、各種応力による真空リークの発生を防止できるFRP製クライオスタットを提供する。
【解決手段】外表面側からFRP製ディスク形状部材14の側面に設けられた非貫通ねじ孔16に固定ボルト15により、接着剤層17による密封構造を形成して固定されている金属製フランジ部材13と、該ディスク形状部材14の軸中央部のストレート孔21と金属製フランジ部材13の挿入孔とに挿入して該金属製フランジ部材13と密封状態で固着されている金属製継手部材12とからなる一体形状物24が、該ディスク形状部材14の外周側面の雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部11の雌ねじ孔とで螺着により固定され、該ディスク形状部材14の該外周側面と容器壁部11の内周面との接合面間に接着剤層19による気密性のある密着構造が形成されていているFRP製クライオスタット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体窒素や液体ヘリウム等の低温冷却媒体を収納するためのFRP製クライオスタットに関し、より具体的には超電導コイル等の超電導部材を冷却するための液体窒素や液体ヘリウム等の低温冷却媒体が収納される容器の壁部に金属製継手等の金属製継手部材が貫通状態で固着されているFRP製クライオスタットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温超電導線材を用いた電力機器等の開発が進んでいる。超電導(超伝導ともいわれる)コイル等の超電導部材を冷却するのに用いるクライオスタットは、クライオスタットの容器部内に超電導部材である被冷却物を収納するため、一体成形で成形することはできない。また、超電導コイルなどを利用し交流機器として用いる場合、磁界を発生する超電導部材の冷却に使用するクライオスタットの成形材料にステンレス等の導電性金属材料を使用すると、該金属材料は磁場の変動に伴い、その内部にうず電流が発生してジュール熱損として熱負荷を増加させるために、通常、このようなクライオスタットには非金属材料から形成される繊維強化プラスチック(FRP)製クライオスタットが使用される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、クライオスタットは通常、超電導部材を納入する内槽と、外槽からなる2重構造として該内槽と外槽の壁間を真空断熱構造として使用される。このFRP製クライオスタット内槽は、型枠内筒、型枠側板を組み立てて内槽枠体を作製し、この内槽枠体の表面全体にFRPプリプレグを積層し、このプリプレグを硬化させて作製することができる(例えば、特許文献2参照)。
ところで、超電導コイル等の超電導部材の冷却にFRP製クライオスタットを用いる場合には、その容器壁部に冷却媒体用配管や電流導入端子等の金属製継手部材(以下、「金属製継手部材」ということがある。)を貫通させて固定する必要がある。従来、金属製継手部材の挿入孔を有する雄ねじ部材に金属製継手部材を挿入して、ろう付け等により密封状態で固着し、その後FRP製クライオスタットの容器壁部に設けられた雌ねじ孔に、該雄ねじ部材を接着剤を介して螺着することが行われていた(例えば、特許文献3、4参照)。
【0004】
これまで、クライオスタットのような密封容器の場合には、前述の金属製継手部材の取付け方は容器壁部に雌ねじ孔を設けて容器外側からのねじ込み接着で行われることが一般的であった。また、クライオスタットに振動・衝撃が加わった場合、クライオスタットに付属する配管や電極などの突起物が共振などにより取付部根本に過大なる力が発生を考慮し、その力に耐えうるように継手等の貫通部を挟むように両側からフランジで固定する方法がされていた。
例えば、図3に示すようにFRP容器壁部31に貫通する雌ねじ36を設けて、金属製の鍔付雄ねじ部材33を該雌ねじに螺合し、且つ鍔付雄ねじ部材に設けられた挿入孔35に金属製継手部材32を挿入して貫通させて該雄ねじ部の先端に鍔付雌ねじ部材34を螺着させて、且つ鍔付雄ねじ部材と金属製継手部材間を密封構造としていた(特許文献4の図14参照)。しかし、機械的強度は増したものの、それとは別に温度差および熱収縮率の違いによるFRP製容器の雌ねじ部と、金属製雄ねじ部との間で応力が発生し更に集中することで、接着部に過大な応力が掛かり、その接着部に機械的な衝撃や熱的な衝撃が繰り返して加えられると、接着部が剥離したりクラックが発生して真空リークを起こしてしまう事例が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−210603号公報
【特許文献2】特開2007−035835号公報
【特許文献3】特開2007−210325号公報
【特許文献4】特開2007−214546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記金属製継手部材の挿入孔を有する金属製雄ねじ部材に金属製継手部材を挿入して、ろう付け等により密封状態で固着する部分は金属同士の接合であるので稼動時に真空リークの発生しないように接合することは極めて容易である。
一方、前記FRP製クライオスタットの容器壁部に設けられた雌ねじ孔に、金属製継手部材を挿入して固着させた金属製雄ねじ部材を螺着する際に該螺着部に接着剤を塗布後、螺着し、次に接着剤を硬化させて形成された接着剤層を介して接合された密封構造部分については、金属製継手部材をクライオスタットの容器壁部に取り付けた後に、例えば容器全体を液体窒素を用いてサーマルサイクルをかけた後に、真空リークが発生するか否かのテストが行われ、真空リークが発生した場合には前記接着剤を硬化させた螺着部を剥がして、再度、金属部材を取り付ける必要があった。しかし、該螺着部における硬化した接着剤を剥がすことが容易ではなく、剥がせたとしても容器壁部を破損してしまう可能性が高かった。本発明は、前記金属製継手部材をクライオスタットの容器壁部に取り付けた後に行われる真空リークテストで真空リークの発生を顕著に少なくすることができる貫通継手部材を装着するFRP製クライオスタットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、FRP製クライオスタットの容器壁部に金属製継手部材を貫通して取り付ける際に、真空リークの発生が比較的多い、金属製継手部材が固着されている金属製の部材とFRP製部材間の接合部分も含めて一体形状物として作製し、予め該一体形状物にサーマルサイクルをかけた後に真空リークテストを行い、真空リークが発生しなかった一体形状物をFRP製クライオスタットの容器壁部に取り付けることが可能な構造とすることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】

即ち、本発明は、以下の(1)ないし(4)に記載する発明を要旨とする。(1)FRP製ディスク形状部材(D)と、
FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と1つの相対する面を有し、外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトにより固定され、かつ該側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A1)を形成している金属製フランジ部材(F)と、
外形形状が円柱形で、FRP製ディスク形状部材(D)の軸中央部に形成された径が一定のストレート孔(H2)を貫通し、かつ金属製フランジ部材(F)の軸方向の挿入孔(H1)に挿入して該金属製フランジ部材(F)と密封状態(C)で固着されている金属製継手部材(M)とからなる
一体形状物(S)が、
FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじ孔とで螺着により固定されたFRP製クライオスタットであって、
前記密封構造(A1)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と、金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造であり、
前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの接合面間に密着構造(B)が形成されていて、前記密着構造(B)が該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)を介して接合された気密性のある密着構造であることを特徴とする、FRP製クライオスタット(以下、第1の態様ということがある)。
(2)前記密封構造(A1)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置する、接着剤層(AL1)形成用の接着剤溜の溝内に接着剤を塗布後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該接着剤が硬化して形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造である、
ことを特徴とする、前記(1)に記載のFRP製クライオスタット。
【0009】
(3)FRP製ディスク形状部材(D)と、
FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と1つの相対する面を有し、外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトにより固定され、かつ該側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A2)を形成している金属製フランジ部材(F)と、
外形形状が円柱形で、FRP製ディスク形状部材(D)の軸中央部に形成された径が一定のストレート孔(H2)を貫通し、かつ金属製フランジ部材(F)の軸方向の挿入孔(H1)に挿入して該金属製フランジ部材(F)と密封状態(C)で固着されている金属製継手部材(M)とからなる
一体形状物(S)が、
FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじ孔とで螺着により固定されたFRP製クライオスタットであって、
前記密封構造(A2)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置するFRP層(AL3)形成用のFRP溜の溝内に、プリプレグを填め込み後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該プリプレグが硬化して形成されたFRP層(AL3)を介して接合された密封構造であり、
前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの接合面間に密着構造(B)が形成されていて、前記密着構造(B)が該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)を介して接合された気密性のある密着構造であることを特徴とする、FRP製クライオスタット(以下、第2の態様ということがある)。
(4)前記金属製フランジ部材材(F)と金属製継手部材(M)とがそれぞれステンレス、銅、真鍮、アルミニウム、又はアルミニウム合金から選択された1種又は2種以上から形成されていることを特徴とする、前記(1)から(3)のいずれかに記載のFRP製クライオスタット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様、及び第2の態様のFRP製クライオスタットにおいては、金属製継手部材(M)、金属製フランジ部材(F)、及びFRP製ディスク形状部材(D)から形成された一体形状物(S)についてサーマルサイクルをかけた後に真空リークテストを行って、真空リークの検出されなかった一体形状物(S)のみをクライオスタット内槽、外槽等に取り付けが可能となるので、真空リークの発生し易い金属製のフランジ部(F)とFRP製ディスク形状部材(D)との間の異種材料間の接合部を予め真空リークテストにより真空リークが検出されたものを排除することが可能になる。
尚、前記金属製フランジ部材(F)と金属製継手部材(M)との間を密封状態で固着(C)するのは金属間の固着であるので、溶接、ろう付け等の手段により密封状態での固着の形成は容易である。
また、前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面と容器壁部(W)の内周面と間の密着構造(B)の形成はFRP材料同士の接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成するので気密性のある密着構造の形成は容易である。従って、FRP製クライオスタットの容器壁部に前記一体形状物(S)を取り付けた後に、サーマルサイクル後の真空リークテストで真空リークが検出される可能性を極めて低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のFRP製クライオスタットにおいて、金属製継手部材(M)、金属製フランジ部材(F)、及びFRP製ディスク形状部材(D)から形成された一体形状物(S)をFRP製クライオスタットの器壁部(W)に取り付けた一態様を示す要部断面図である。
【図2】本発明における前記一体形状物(S)の斜視図の一例を示す。
【図3】従来技術における、FRP製クライオスタットの壁面に金属製継手部材、鍔付き雄ねじ部材、及び鍔付き雌ねじ部を取り付けた例を示す要部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明のFRP製クライオスタットを説明する。
本発明の第1の態様及び第2の態様における「FRP製クライオスタット」は、
FRP製ディスク形状部材(D)と、FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と1つの相対する面を有し、外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトにより固定され、かつ該側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A1、A2)を形成している金属製フランジ部材(F)と、
外形形状が円柱形で、FRP製ディスク形状部材(D)の軸中央部に形成された径が一定のストレート孔(H2)を貫通し、かつ金属製フランジ部材(F)の軸方向の挿入孔(H1)に挿入して該金属製フランジ部材(F)と密封状態(C)で固着されている金属製継手部材(M)とからなる
一体形状物(S)が、FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじ孔とで螺着により固定されたFRP製クライオスタットであって、
〈1〉前記密封構造(A1)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と、金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造であり(第1の態様)、
或いは、〈2〉前記密封構造(A2)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置するFRP層(AL3)形成用のFRP溜の溝内に、プリプレグを填め込み後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該プリプレグが硬化して形成されたFRP層(AL3)を介して接合された密封構造であり(第2の態様)、
前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの接合面間に密着構造(B)が形成されていて、前記密着構造(B)が該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)を介して接合された気密性のある密着構造であることを特徴とする。
【0013】
以下に図面を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の例示に限定されるものではない。
図1は、上記したように、外形形状が円柱形の金属製継手部材(M)12が、FRP製ディスク形状部材(D)14に設けられたストレート孔(H2)21に貫通した状態で、金属製フランジ部材(F)13に設けられた挿入孔(H1)20を貫通して金属製フランジ部材(F)13に固着(A1、A2)され、金属製フランジ部材(F)13が、金属製フランジ部材(F)外表面側から、4本以上の非貫通ねじ孔16が設けられたFRP製ディスク形状部材(D)14に該非貫通ねじ孔16に螺合する固定ボルト15で固定され、FRP製ディスク形状部材(D)14が、その外周側面に設けられた雄ねじと、容器壁部(W)に設けられた雌ねじとで螺着により固着(B)されている、FRP製クライオスタットの要部断面図である。
【0014】
金属製継手部材(M)12は金属製フランジ部材(F)13に設けられた挿入孔(H1)20を貫通して金属製フランジ部材(F)に密封状態(C)で固着されているが、該固着手段は溶接又はロウ付部29が設けられた密封構造になっている。
FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A1、A2)を形成しているが、
該密封構造(A1)はFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と、金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造であるか、
或いは、該密封構造(A2)はFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置するFRP層(AL3)形成用のFRP溜の溝内に、プリプレグを填め込み後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該プリプレグが硬化して形成されたFRP層(AL3)を介して接合された密封構造である。
また、前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの接合面間に形成される密着構造(B)は、該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)を介して接合された気密性のある密着構造である
図2は、図1に示された金属製継手部材(M)12、金属製フランジ部材(F)13、及びFRP製ディスク形状部材(D)14からなる一体形状物(S)の斜視図の一例を示す。
【0015】
以下に、(1)FRP製容器、(2)金属製継手部材(M)、(3)金属製フランジ部材(F)、及(4)びFRP製ディスク形状部材(D)等について説明する。
(1)FRP製容器について
(1−1)概要
FRP製クライオスタットは、一般に、ガラス繊維、カーボン繊維などの補強繊維のクロスあるいはマットに、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸したプリプレグを硬化させて得られた筒状もしくは板状の成型物である。
ここでプリプレグとは、ガラス繊維、カーボン繊維などの補強繊維のクロスあるいはマットに、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂の液状未硬化物、硬化剤、増粘剤などを含む樹脂組成物を含浸した繊維含量30〜40vol%の未硬化状態のマット状物である。通常20層以上のプリプレグが貼り付けられて、成型物が形成される。
超電導コイル等の超電導部材の冷却にFRP製クライオスタットを用いる場合には、その容器壁部(W)に金属製継手部材(M)を貫通させて密封構造として固定する必要がある。この場合、FRP製クライオスタットは、低温の冷却媒体で冷却されるので、冷却と昇温が繰り返し行われる際の熱応力等により、該貫通部は真空断熱層の真空漏れが生じ易い箇所となっていた。
【0016】
FRP製クライオスタットの容器の成形法としては、例えば、FRP製クライオスタットの容器壁部の予備成形体を成形する際には、先ず、一端が開口した有底筒状体からなるFRP製クライオスタットの容器半体の予備成形体を2個成形する。容器壁部(W)への金属製継手部材(M)の固定や、容器内部に超電導部材である被冷却物を収納した後、容器半体の予備成形体を接合し、接合部にプリプレグを積層した後、該積層したプリプレグ表面全体を気密性シートで覆う。その後、型枠と気密性シート間に存在するプリプレグ層を真空に脱気してプリプレグ中の気体を極力除去し、プリプレグを気密性シートで包装した状態で加熱してプリプレグを硬化させて容器とする。
【0017】
(1−2)材質等
クライオスタットが超電導コイルが収納される容器等に使用される場合、導電性を有する材料を用いてクライオスタットを成形すると、磁性の変動に伴い、その内部に渦電流等が発生してジュール損による発熱及び磁場に歪を生じるおそれがあるので、繊維強化プラスチック(FRP)で形成されることが望ましい。又、極低温で使用されるので、300〜65Kの温度範囲において熱収縮率の少ない繊維強化プラスチックの使用が望ましい。FRPの熱膨張率は、FRP層の厚さ方向が40(×10−6/K)程度で、後述する金属部材よりも大きく、一方、FRP層の周方向は11(×10−6/K)程度で、後述するSUS304等の特定の金属部材とほぼ同程度である。
このような繊維強化プラスチック(FRP)として、ガラス繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、及びアラミド繊維強化プラスチックから選択された少なくとも1種の繊維強化プラスチックを使用することが好ましく、実用性の点からガラス繊維強化プラスチックが好ましい。尚、炭素繊維強化プラスチックにより内槽を形成することは可能であるが導電性の点から、上記不都合を生ずるおそれがある。
【0018】
(1−3)容器壁部(W)に雌ねじの形成
FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に雌ねじ孔を設けて、FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと螺着させる構造が形成されている。
金属製継手部材(M)、金属製フランジ部材(F)、及びFRP製ディスク形状部材(D)からなる一体形状物(S)がしっかりと容器壁部(W)に固定され、接着剤により密着構造(B)が形成されるように、容器壁部(W)には段差加工が施されていることが好ましい。また、該段差加工部は好ましくは該一体形状物(S)が収まるような径にし、またその段差高さはFRP製ディスク形状部材(D)と容器壁部(W)が面一になるように加工される。
【0019】
(2)金属製継手部材(M)について
金属製継手部材(M)は、前述の通り、クライオスタットの容器壁部(W)に貫通して設けられる冷却媒体用配管、電流導入端子等の貫通継手部材である。
金属製継手部材(M)は、外形形状が円柱形で、FRP製ディスク形状部材(D)の軸中央部に形成された径が一定のストレート孔(H2)を貫通し、更に金属製フランジ部材(F)の軸方向の挿入孔(H1)に挿入された状態で該金属製フランジ部材(F)と密封状態(C)で固着されている。
【0020】

金属製継手部材(M)に使用される金属材料は特に制限はないが、適度な機械的強度を有し、且つ熱膨張率がFRP製容器壁部(W)及びFRP製ディスク形状部材(D)と熱膨張率も熱伝導率も同程度な金属を使用することが望ましい。尚、クライオスタットの容器壁部(W)及びFRP製ディスク形状部材(D)を構成するFRPの熱膨張率は、前述の通りFRP層(AL1)の厚さ方向が40(×10−6/K)程度で、FRP層(AL1)の周方向は11(×10−6/K)程度であり、周方向は後述する特定の金属の熱膨張率と同程度であるので、熱応力により金属製フランジ部材(F)の接合面とFRP製ディスク形状部材(D)接合面の間の剥離、又はFRP製ディスク形状部材(D)にクラック等が発生するのを防止する点からも、熱膨張率の低い金属を金属製継手部材(M)として使用することが望ましい。また、使用時の冷却過程において、金属製継手部材(M)とFRPとの温度差を少なくするために、FRPは熱伝導率が低いので、金属製継手部材(M)も同様に熱伝導率の低いものを使用することが望ましい。
【0021】
金属製継手部材(M)に使用する好ましい金属としては、例えば、熱膨張率の低いステンレス鋼(SUS410、SUS304等)、真鍮、銅、黄銅、アルミニウム、アルミニウム合金等が例示できる。尚、上記ステンレス鋼(SUS410、SUS304)は、熱膨張率がそれぞれ10.4(×10−6/K)、17.3(×10−6/K)であり、軟鋼の約1.5倍に相当するが、一方、熱伝導率が15(W/m・K)で軟鋼の約3分の1であるという特徴を有する。真鍮は熱膨張率が16(×10−6/K)で低く熱伝導率が27℃で106(W/m・K)であり、比較的低い。銅は熱膨張率が17(×10−6/K)で比較的低く、熱伝導率が403(W/m・K)で相当に高い。アルミニウムは熱膨張率が23(×10−6/K)で比較的高く、熱伝導率が236(W/m・K)でやや高いが、機械加工の容易性から、熱膨張率と熱伝導率の影響を少なくできるように金属製フランジ部材(F)の形状を工夫することによりアルミニウム、アルミニウム合金も実用上使用可能である。
【0022】
(3)金属製フランジ部材(F)

金属製フランジ部材(F)は、その挿入孔(H1)に金属製継手部材(M)を挿入して密封状態(C)で固着することにより金属製継手部材(M)を保持すると共に、外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトによりFRP製ディスク形状部材(D)に固定されている。
金属製フランジ部材(F)は、金属製継手部材(M)に後述する方法で接合されるので、金属製フランジ部材(F)としては金属製継手部材(M)への接合が容易に行える金属種を選択することが好ましい。従って、金属製継手部材(M)にステンレス鋼が使用される場合には金属製フランジ部材(F)もステンレス鋼を使用することが望ましい。なお、図1に示すように、金属製継手部材(M)12と金属製フランジ部材(F)13とが、低温での熱膨張率が異なる異種金属の場合であっても、金属製継手部材(M)と、金属製フランジ部材(F)とが挿入孔(H1)20の一端面の1箇所でのみ固着されているので、異種金属間における低温での熱膨張率の違いによる固着部への応力の集中を緩和することができる。
【0023】

金属製継手部材(M)の外周面と金属製フランジ部材(F)の挿入孔(H1)の接合部との接合は、それぞれの独立形状物をろう付け、はんだ付け、溶接等により接合して形成することができるが、削りだし等の金属加工により金属製継手部材(M)と金属製フランジ部材(F)部を一体形状物として形成してもよい。
FRP製ディスク形状部材(D)の側面に設けられた非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトは、熱膨張率がFRPの軸方向の熱膨張率と同程度の金属材料が好ましいが、市販のステンレス製のボルトを使用することも可能である。尚、FRP製ディスク形状部材(D)に非貫通ねじ孔の代わりに埋込みボルトを配設して、金属製継手部材(M)の金属製フランジ部材(F)の外表面側からナットで締付け固定したものも本発明の技術思想に含まれる。
【0024】
(4)FRP製ディスク形状部材(D)
(4−1)概要
FRP製ディスク形状部材(D)は、その側面(D1)が金属製フランジ部材(F)と1つの相対する面を有し、金属製フランジ部材(F)の外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトにより金属製フランジ部材(F)を固定すると共に、該側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A1、A2)を形成している。
また、FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの螺着接合面間に密着構造(B)が形成されていて、前記密着構造(B)が該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)又はFRP層(AL3)を介して接合された気密性のある密着構造である。
FRP製ディスク形状部材(D)の形状は、クライオスタットの外形サイズ、使用の目的、使用環境等によって変化するので一概に決定することはできないが、外径は120〜150mm程度、厚みは15〜25mm程度である。FRP製ディスク形状部材(D)の該表面側には図1、2に示すように螺着用工具接合面30を形成しておくことが好ましい。
【0025】
(4−2)材質等
FRP製ディスク形状部材(D)の材質は、クライオスタットに使用可能な繊維強化プラスチックス(FRP)と同様のガラス繊維、カーボン繊維などの補強繊維等が使用可能であるが、容器壁部(W)との接着性、熱膨張率を考慮すると容器壁部(W)と同質の材料の使用が好ましい。
【0026】
(4−3)固定ボルト用の非貫通ねじ孔
FRP製ディスク形状部材(D)には、金属製フランジ部材(F)を固定するための固定ボルト用の非貫通ねじ孔が設けられている。非貫通ねじ孔の数は、FRP製ディスク形状部材(D)の強度を考慮して、1本あたり無理のない小さなトルクとなるように設計することが必要である。金属製フランジ部材(F)を固定するために4以上必要であり、設計上、最適な本数を選定すればよい。また、該ねじ孔部を、FRPの軸方向の熱膨張率とほぼ同程度の金属を使用して補強してもよい。例えば、ヘリサートなどを使用することができる。
【0027】
(4−4)ストレート孔(H2)
金属製継手部材(M)12を貫通させるためにFRP製ディスク形状部材(D)に設けられるストレート孔(H2)の内面には、ねじ山が設けられていない、径が一定のストレート孔とすることが好ましい。金属製継手部材(M)の外表面とストレート孔(H2)間のクリアランスは、温度変化による熱膨張・収縮を考慮して0.5〜2.0mm程度が好ましい。
【0028】
(4−5)第1の態様における密封構造(A1)について
第1の態様における密封構造(A1)は、FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と、金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造である。
該接着材層(AL1)の形成は、FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に、接着剤溜の溝を設けて該溝内に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL1)介して接合された密封構造を形成する方法が好ましい。
接着剤層(AL1)形成用の接着剤溜の溝の形状は、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置するようにFRP製ディスク形状部材(D)の接合面に設けられる。また、該接着剤溜の溝の深さは、0.1〜0.4mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。接着剤溜の溝が前記範囲よりも浅いと、接着剤が接着剤溜の溝から流れ出易くなることや接着力が低下して、真空リークが発生するおそれがある。一方、接着剤溜の溝が前記範囲よりも深すぎると接着後冷却した際に温度変化に伴う熱収縮が金属より大きいため厚み方向の収縮厚みの絶対値が大きくなるため、接着剤層に割れが発生するおそれがある。
【0029】
接着剤層(AL1)形成用の接着剤は、FRP製ディスク形状部材(D)と金属製フランジ部材(F)の双方に接着性を有するものを使用することが好ましい。前記接着剤層(AL1)を形成する接着剤は、エポキシ樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリアミド樹脂系接着剤、及びポリイミド系接着剤の中から選択された1種又は2種以上が好ましい。尚、水分を含有する水系の接着剤は水分が残存するために好ましくなく、反応系接着剤の中でもシアノアクリレート系接着剤は低温領域の熱応力(熱衝撃)には弱いために好ましくない。
接合面における接着剤層(AL1)の形成は、以下の通りに行うことが好ましい。
【0030】
接着剤層(AL1)の形成に接着剤溜の溝を使用する場合には、接着剤を接着剤溜の溝に、FRP製ディスク形状部材(D)の接合面(該溝部を除く)と面一になるように塗布し、その上に金属製フランジ部材(F)を重ねる。その後、金属製フランジ部材(F)の表面側から固定ボルトをFRP製ディスク形状部材(D)に設けられた非貫通ねじ孔に螺着して、金属製フランジ部材(F)がFRP製ディスク形状部材(D)に固定した状態で、塗布した接着剤を硬化して接着剤層(AL1)を形成する。かかる操作により、金属製継手部材(M)は、金属製フランジ部材(F)を介してFRP製ディスク形状部材(D)に固定される。尚、予め金属製フランジ部材(F)内表面に接着剤層(AL1)を形成する接着剤を塗布しておくことにより、接合部の接合強度や気密性をより一層確保することができる。
【0031】
(4−6)第2の態様における密封構造(A2)について
第2の態様における密封構造(A2)は、FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置するFRP層(AL3)形成用のFRP溜の溝内に、プリプレグを填め込み後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該プリプレグが硬化して形成されたFRP層(AL3)を介して接合された密封構造である。
プリプレグはガラス繊維をエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、又はウレタン樹脂に含浸させて得られたものであることが好ましい。このような樹脂は、FRP製ディスク形状部材(D)を形成するFRP及び金属製フランジ部材(F)内表面との接着性が良好であるので、密封構造を形成するのに好ましい。
FRPはガラス繊維のシートを幾重にも重ねたものであるので、前述した通りFRPの熱収縮率(熱膨張率)はFRP厚さ方向と繊維方向(周方向)とでは大きく異なる。ここでFRPとステンレスの熱収縮度を比較すると、FRP厚み方向では、ガラス繊維よりもそれに含有する接着剤の影響で大きいため、ステンレスとの熱収縮率の値の差は大きい。しかし、FRP繊維方向ではガラス繊維が張り巡らされているためステンレスとほとんど同じ熱収縮度を示す。
【0032】
プリプレグが溝内に填め込まれた状態で、加熱下に該プリプレグを硬化させてFRP層(AL3)を形成することが望ましい。この場合、硬化前に真空脱気操作により、容器壁部(W)と金属製フランジ部材(F)間に存在する気泡を除去することが望ましい。真空脱気操作を行う場合には、固定ボルトを仮締めした状態で真空脱気を行い、その後に本締めを行うことが望ましい。
プリプレグを溝内に填め込み後、硬化させて形成されるFRP層(AL3)は、金属製フランジ部材(F)とFRP製ディスク形状部材(D)との接合面で密封構造を形成する。
【0033】
従来の金属製継手部材自体にねじ形状を設けてFRP製容器壁部に直接固着された構造であると、FRP製容器と金属製継手部材の位置が容器壁貫通部(ねじ部)で完全に固定されるため、熱サイクルや熱収縮率の違いから生じる応力がねじ部又はその近傍の接着面に過大に生じて、接着面の剥離やねじ部に機械的応力が働いて割れの発生等により、真空リークを生じるリスクが低くはなかった。
しかし、本発明のように金属製継手部材(M)の容器壁貫通部、すなわち熱収縮率の差が比較的大きい厚み方向において金属製継手部材(M)と容器壁部(W)とは直接接触しない構造とし、該FRP溜の溝の深さを0.1〜0.4mmとして、溝内にプリプレグを填め込み、硬化して形成されたFRP層の厚みを0.15〜1.0mm程度にすることで、温度変化による厚み方向の熱膨張・収縮による熱応力を著しく軽減することが可能になり、その結果、金属製継手部材(M)の軸方向(FRP層(AL3)の厚み方向)の接合面に生ずる応力は極めて少なくなる。また、金属製フランジ部材(F)を形成するステンレス、FRP層(AL3)の繊維方向、及び容器壁部(W)の繊維方向の熱収縮率はほぼ同じであることから、これらのFRPがステンレスと接していても金属製フランジ部材(F)円周方向には応力は極めて少ない。よって、常温から液体窒素温度などの温度領域に貫通部が曝されたとしても内部に生じる応力の発生が極めて少ない構造となるため、真空リークが生じにくい構造となる。
【0034】
(4−7)接着剤層(AL2)の形成
FRP製ディスク形状部材(D)はその外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじ孔とで螺着により気密性のある密着構造(B)で固定されている。
FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面で雄ねじが形成される面には、図1、2に示すように、外表面側(金属製フランジ部材(F)との接合面を有する側)の外周端部近傍部に鍔部23を設けることが好ましい。該鍔部を設けることにより容器壁部(W)の雌ねじにFRP製ディスク形状部材(D)の雄ねじを螺着する際に、FRP製ディスク形状部材(D)の鍔部23と相対する容器壁部(W)との接合面にシール性を持たせて、より気密性を有する構造とすることが好ましい。
また、FRP製ディスク形状部材(D)の外表面と容器壁部(W)の外表面とを面一になるように固着することにより、該接着面の外表面からプリプレグで補強するのが容易になる。
容器壁部(W)の雌ねじにFRP製ディスク形状部材(D)の雄ねじを螺着する際、実用的には予め
金属製継手部材(M)、金属製フランジ部材(F)、及びFRP製ディスク形状部材(D)とからなる一体形状物(S)について、サーマルサイクルをかけた後、
即ち、〈1〉金属製継手部材(M)と金属製フランジ部材(F)との間の接合部の密封状態(C)、及び〈2〉金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)との接合面間の密封構造(A1、A2)、の部分に真空リークテストを行い、真空リークの発生がないことを予め確認した後に、容器壁部(W)の雌ねじにFRP製ディスク形状部材(D)の雄ねじを螺着する。
【0035】
尚、上記サーマルサイクルは、例えば、電気炉内に温度+25℃で1時間と、液体窒素中に温度−196℃で1時間のサーマルサイクルを30回行った。尚、+25℃は電気炉内に1時間、−196℃は液体窒素中に約10分浸漬することにより行うことができる。また、真空リークテストは、該一体形状物(S)の金属製フランジ部材(F)接合面の反対面の金属製継手部材(M)貫通部周りを密閉状態に覆い、覆った中を真空引きするとともにヘリウムリークディテクターに接続する。該一体形状物(S)の金属製フランジ部材(F)接合部や金属製継手部材(M)と金属製フランジ部材(F)との間の接合部にヘリウムガスをスプレー、若しくはフードすることによりヘリウムガス雰囲気下とした条件とする。その条件下で、ヘリウムガスがヘリウムリークディテクターに検知されないことでリークなしと判定する。
容器壁部(W)の雌ねじにFRP製ディスク形状部材(D)の雄ねじを螺着する際に、接着剤の塗布は雄ねじ側、雌ねじ側、又は、雄ねじ側と雌ねじ側の双方に行うこともできるが、雄ねじ側と雌ねじ側の双方に塗布することが好ましい。該接着剤の塗布後に常温又は加熱下に接着剤を硬化させて気密性のある接着剤層(AL2)を形成する。
【符号の説明】
【0036】
11 容器壁部(W)
12 金属製継手部材(M)
13 金属製フランジ部材(F)
14 FRP製ディスク形状部材(D)
15 固定ボルト
16 非貫通ねじ孔
17 接着剤層(AL1)或いは、FRP層(AL3)
18 接着剤溜の溝、或いは、FRP溜の溝
19 接着剤層(AL2)
20 挿入孔(H1)
21 ストレート孔(H2)
22 螺着部
23 鍔部
24 一体形状物(S)
29 溶接、又はロウ付け部
30 螺着用工具接合面
31 容器壁部
32 金属製継手部材
33 鍔付雄ねじ部材
34 鍔付雌ねじ部材
35 挿入孔
36 容器壁部の雌ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRP製ディスク形状部材(D)と、
FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と1つの相対する面を有し、外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトにより固定され、かつ該側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A1)を形成している金属製フランジ部材(F)と、
外形形状が円柱形で、FRP製ディスク形状部材(D)の軸中央部に形成された径が一定のストレート孔(H2)を貫通し、かつ金属製フランジ部材(F)の軸方向の挿入孔(H1)に挿入して該金属製フランジ部材(F)と密封状態(C)で固着されている金属製継手部材(M)とからなる
一体形状物(S)が、
FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじ孔とで螺着により固定されたFRP製クライオスタットであって、
前記密封構造(A1)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と、金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造であり、
前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの接合面間に密着構造(B)が形成されていて、前記密着構造(B)が該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)を介して接合された気密性のある密着構造であることを特徴とする、FRP製クライオスタット。
【請求項2】
前記密封構造(A1)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置する接着剤層(AL1)形成用の接着剤溜の溝内に、接着剤を塗布後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該接着剤が硬化して形成された接着剤層(AL1)を介して接合された密封構造である、
ことを特徴とする、請求項1に記載のFRP製クライオスタット。
【請求項3】
FRP製ディスク形状部材(D)と、
FRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)と1つの相対する面を有し、外表面側からFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)に設けられた4以上の非貫通ねじ孔に螺合する固定ボルトにより固定され、かつ該側面(D1)と金属製フランジ部材(F)内表面との接合面間に密封構造(A2)を形成している金属製フランジ部材(F)と、
外形形状が円柱形で、FRP製ディスク形状部材(D)の軸中央部に形成された径が一定のストレート孔(H2)を貫通し、かつ金属製フランジ部材(F)の軸方向の挿入孔(H1)に挿入して該金属製フランジ部材(F)と密封状態(C)で固着されている金属製継手部材(M)とからなる
一体形状物(S)が、
FRP製ディスク形状部材(D)の外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじ孔とで螺着により固定されたFRP製クライオスタットであって、
前記密封構造(A2)がFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)側に、内径が前記ストレート孔(H2)の径よりも大きく、且つ外径が前記複数の非貫通ねじ孔よりも金属製継手部材(M)の中心線側に位置するFRP層(AL3)形成用のFRP溜の溝内に、プリプレグを填め込み後、硬化させて、金属製フランジ部材(F)内表面とFRP製ディスク形状部材(D)の側面(D1)とが該プリプレグが硬化して形成されたFRP層(AL3)を介して接合された密封構造であり、
前記FRP製ディスク形状部材(D)の該外周側面に形成された雄ねじと、FRP製クライオスタットの容器壁部(W)に設けられた雌ねじとの接合面間に密着構造(B)が形成されていて、前記密着構造(B)が該接合面間に接着剤を塗布後硬化させて形成された接着剤層(AL2)を介して接合された気密性のある密着構造であることを特徴とする、FRP製クライオスタット。
【請求項4】
前記金属製フランジ部材材(F)と金属製継手部材(M)とがそれぞれステンレス、銅、真鍮、アルミニウム、又はアルミニウム合金から選択された1種又は2種以上から形成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のFRP製クライオスタット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−114150(P2012−114150A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260131(P2010−260131)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】