説明

HDDサスペンション用積層体の製造方法

【課題】 前記課題に鑑み、絶縁樹脂層と導体層(銅箔)の面間での密着性を改善し、微細回路化の要求に十分に対応でき、且つ積層体に反り等を生じさせないようにすることのできるHDDサスペンション用積層体の製造方法を提供。
【解決手段】 本発明のHDDサスペンション用積層体の製造方法は、導体層として、引張強度500MPa以上、導電率35%以上の銅箔を選択する第一の工程と、銅箔の片面に熱可塑性ポリイミド樹脂層(A1)、樹脂層(A1)となる面に線熱膨張係数が1×10-6〜30×10-6(1/K)の低線熱膨張性のポリイミド樹脂層(B)、樹脂層(B)となる面に熱可塑性ポリイミド樹脂層(A2)の3層以上のポリイミド樹脂層を積層する第二の工程と、ポリイミド樹脂層(A2)の上にステンレス箔を重ね合わせ、加圧下で熱圧着する第三の工程とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HDDサスペンション用積層体の製造方法に関するものであり、より詳細には、層面間の密着性がよく、配線の微細回路が形成され、反りのないHDDサスペンション用積層体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスクドライブに搭載されているサスペンション(以下、HDDサスペンション)はワイヤレスタイプのサスペンションが使用されている。しかし、近年の高容量化の進展に従い、記憶媒体であるディスクに対し浮力と位置精度が安定した配線一体型のサスペンションへと大半が置き換わっている。配線一体型サスペンションには、トレース・サスペンション・アッセンブリ法(以下、TSAという。)と呼ばれるステンレス箔−ポリイミド樹脂(絶縁体樹脂層)−銅箔(導体層)の積層体をエッチング加工により所定形状に加工して使用するタイプのものが提案されている。
【0003】
TSA方式サスペンション用積層体は高強度を有する合金銅箔を積層することによって容易にフライングリードを形成させることが可能である。そして、このような積層体は形状加工での自由度が高いことや比較的安価で寸法精度が良いことから幅広く使用されている。
従来、ステンレス基体上にポリイミド樹脂層及び銅箔層が遂次に形成されてなるHDDサスペンション用積層体及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。即ち、ステンレス基体上にポリイミド系樹脂溶液又は前駆体樹脂溶液を塗布する工程を経由する製造方法である。しかし、この製造方法では、銅箔を加熱圧着するために、銅箔とポリイミド系樹脂の面内での密着性にばらつきがあり、特に、配線の微細回路化における細線の剥離の問題が生じた。そこで、配線の微細回路化の要求から、引張強度が高く、高導電率の銅箔を用いたHDDサスペンション用銅合金箔が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。しかしながら、このような銅箔を用いたHDDサスペンション用積層体は、そのベースとなるポリイミド樹脂層と金属箔との関係から、反りが生じるという問題が見られた。
【0004】
【特許文献1】WO98/08216号公報
【特許文献2】特開2000−282156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題に鑑み、絶縁樹脂層と導体層(銅箔)の面間での密着性を改善し、微細回路化の要求に十分に対応でき、且つ積層体に反り等を生じさせないようにすることのできるHDDサスペンション用積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、導体層に所定の引張強度と高導電率を有する銅箔を選択することにより、配線における微細回路化の要求に対応できること、導体層としての銅箔面に絶縁樹脂層となる溶液を塗布・乾燥させることにより、製造される積層体の導体層と絶縁樹脂層と面間での密着性が均一になること、そして、絶縁体樹脂層を3層以上とし、その絶縁樹脂層を構成主体となる中間層の樹脂層に熱膨張率の低いものを使用して、高機能化を満たす銅箔の導体層との組み合わせにおける積層体の反りを抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明のHDDサスペンション用積層体の製造方法は、以下の構成或いは構造を特徴とするものである。
【0007】
(1).導体層として、引張強度420MPa以上、導電率35%以上の銅箔を選択する第一の工程と、選択された前記銅箔の片面にポリイミド溶液又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して熱可塑性ポリイミド樹脂層(A1)となる層を形成し、該樹脂層(A1)となる層面にポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して線熱膨張係数が1×10-6〜30×10-6(1/K)の低線熱膨張性のポリイミド樹脂層(B)となる層を少なくとも1以上形成し、該樹脂層(B)となる層面にポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して熱可塑性ポリイミド樹脂層(A2)となる層を形成した後に、硬化又はイミド化を行い、少なくも3層以上のポリイミド樹脂層を積層する第二の工程と、ポリイミド樹脂層(A2)面にステンレス箔を重ね合わせ、加圧下で熱圧着する第三の工程とを備えたことを特徴とするHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【0008】
(2).銅箔が、厚み5〜20μmの範囲内にあることを特徴とする前記(1)に記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
(3).ポリイミド樹脂層の全体の厚みが、5〜50μmの範囲内にあることを特徴とする前記(1)又は(2)記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
(4).第三の工程において、ステンレス箔として、マルテンサイト相の含有率0.4〜2.5(体積)%の範囲にあるものを選択する工程を備えたことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
(5).ステンレス箔が、厚み10〜100μmの範囲内にあることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
前記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のHDDサスペンション用積層体の製造方法によれば、導体層として特定の銅箔を選択し、また工程において該銅箔に絶縁樹脂層となる溶液を直接塗布し、更にその絶縁樹脂層を特定の熱膨張を有する樹脂層とすると共に多層樹脂層とすることで、絶縁樹脂層と導体層(銅箔)の面間での密着性に優れ、微細回路化の要求に十分に対応し、更には積層体に反り等を生じさせないHDDサスペンション用積層体を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明に係るHDDサスペンション用積層体の製造方法は、導体層として、引張強度420MPa以上、導電率35%以上の銅箔を選択する第一の工程を備える。
選択する銅箔の引張強度の上限は特に限定されないが、1000MPa以下が好ましい。銅箔の引張強度が420MPaに満たないと、フライングリードを形成した場合、特に配線を微細化した場合における細線の断線が発生し易い。特に銅箔の引張強度が500MPa以上であることが断線防止に好ましい。
また銅箔の導電率は35%以上必要である。より好ましくは65%以上である。導電率が35%に満たないと、銅箔の抵抗体から発生するノイズが熱として発散され、HDDサスペンションにおけるインピータンス制御が困難となり、その送信速度も満足するものとならない。
銅箔の導体層は、その後の積層体製造工程における加熱圧着工程等で引張強度及び導電率の変化が少ないものが好ましい。例えば、第二の工程における加熱工程及び第三の工程における加熱圧着工程後においても、該銅箔はその引張強度が420MPa以上、その導電率が35%以上を維持するものである。尚、本発明における引張強度及び導電率の値は、後記実施例に記載する方法によって測定される値である。
【0011】
前記導体層である銅箔は一部に他の金属を含有する合金銅箔でも良い。本発明の銅箔は好ましくは銅含有率が90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上のものである。銅箔が含有している金属としては、クロム、ジルコニウム、ニッケル、シリコン、亜鉛、ベリリウム等を挙げることができる。また、これらの金属が2種類以上含有される合金箔であっても良い。
また、銅箔はその厚みが5〜20μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは5〜14μmの範囲内である。これらの好ましい範囲は、いずれも、本発明によって製造されるHDDサスペンション用積層体の導体層の厚みを、一般的なHDDサスペンションの厚みの範囲内とするためのものである。
【0012】
本発明に係るHDDサスペンションの製造方法における第二の工程は、3層以上のポリイミド樹脂層を前記の導体層に直接形成する。多層のポリイミド樹脂層の形成に際しては、ポリイミド溶液又は前駆体樹脂溶液を前記銅箔面に塗布・乾燥する操作を繰り返す方法によって行う。
3層以上のポリアミド樹脂層は、銅箔(M1)面と密着させる熱可塑性ポリイミド樹脂層(A1)と、後述するステンレス箔(M2)の面に熱圧着される熱可塑性ポリイミド樹脂(A2)と、該両者間に形成される線膨張係数が1×10-6〜30×10-6(1/K)の低熱膨張性ポリイミド樹脂層(B)との3層を少なくとも有する。低熱膨張性ポリアミド樹脂層(B)は、1層である必要はなく、同一又は異なる低熱膨張性ポリアミドで2以上の層として形成されていても良く、また、これら2以上の低熱膨張性ポリアミド層間に熱可塑性ポリイミド樹脂層、その他のポリイミド樹脂層が形成されていてもよい。従って、本発明で製造できるHDDサスペンション用積層体の層構造の代表例を示せば、(1)〜(4)の構造のものが挙げられるがこれに限定されない。尚、層構造において、M1は銅箔、M2はステンレス箔、A(A1、A2、A3)は熱可塑性ポリイミド樹脂層、B(B1、B2)は低熱膨張性ポリイミド樹脂層、Cはその他のポリイミド樹脂層を意味する。
【0013】
(1)M1/A1/B/A2/M1
(2)M1/A1/B1/B2/A2/M2
(3)M1/A1/B1/A3/B2/A2/M2
(4)M1/A1/B1/C/B2/A2/M2
これらの熱可塑性ポリイミド樹脂層(A)である(A1)、(A2)及び(A3)、並びに低熱膨張性のポリイミド樹脂層(B)である(B1)及び(B2)は、それぞれ材質、厚みが同一の材料であってもよく、一方のみが異なる材料であってもよく、両者が異なる材料であってもよい。また、ポリイミド樹脂層(A)及びポリイミド樹脂層(B)のいずれにも該当しないその他のポリイミド樹脂層(C)も使用できる。前記積層体の層構造(1)〜(4)のうち、好ましい層構造は、(1)である。
【0014】
各実施形態の構造において、熱可塑性ポリイミド樹脂層(A1)及び熱可塑性ポリイミド樹脂層(A2)は、該銅箔又はステンレス箔と良好な接着性を示す熱可塑性ポリイミド樹脂層であることが好ましい。良接着性を示す熱可塑性ポリイミド樹脂としては、そのガラス転移温度が350℃以下、より好ましくは200〜320℃がよい。
【0015】
上述のポリイミド樹脂層(B)は、その線熱膨張係数が1×10-6〜30×10-6(1/K)の範囲内にある。好ましくは1×10-6〜25×10-6(1/K)がよく、更に好ましくは1×10-6〜20×10-6(1/K)がよい。ポリイミド樹脂層(B)の線熱膨張係数が、前記の好ましい範囲から外れると、第二及び第三の工程における加熱によって、特に第三の工程における加熱によって、ポリイミド樹脂層(B)の熱寸法変化に伴う積層体の反りが生じる。
【0016】
本発明の製造方法では、第二の工程において、選択された銅箔の上に、ポリイミド溶液又は前駆体溶液の直接塗布によってポリイミド樹脂を形成するため、該銅箔とポリイミド樹脂層との密着性が良好となる。ポリイミド溶液又は前駆体溶液の塗布は公知の方法による。通常、アプリケータを用いて塗布される。また本発明で製造できるHDDサスペンション用積層体における多層ポリイミド樹脂層の全体の厚みは、5〜50μmの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは5〜20μmがよい。ポリイミド樹脂層の全体の厚みが、5μm未満では電気的な絶縁の信頼性が低下する傾向にあり、一方、50μmを越えるとポリイミド樹脂層を形成させる際の乾燥効率が低下する傾向にある。
【0017】
本発明の製造方法で使用するポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂層(A)及び(B)を構成するポリイミド樹脂を含めて、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。
ポリイミド又は前駆体の合成に使用する溶媒については、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0018】
合成されたポリイミド又は前駆体は溶液とされて使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であり、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリイミド前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。これらの溶液は銅箔面上に所定の層構造を形成するように順次塗布、乾燥される。層厚みは、ポリイミド樹脂層(B:複数層の場合はその合計)が全体の50%以上、好ましくは70%以上であることがよく、ポリイミド樹脂層(A)は該銅箔又はステンレス箔との接着性を確保できる厚みであればよい。
【0019】
銅箔上にポリイミド溶液(又は前駆体溶液)を塗布し、乾燥する操作を繰り返して所定層のポリイミド層(又は前駆体層)を形成させたのちは、未硬化のポリイミド(又は前駆体)を硬化(又はイミド化)させるため通常、150℃以上の温度に加熱する。前記熱処理(乾燥、硬化)の方法は特に制限されないが、例えば、80℃〜400℃の温度条件で1〜60分間加熱するといった熱処理が好適に採用される。このような熱処理を行うことで、前記ポリアミック酸の脱水閉環が進行するため、該銅箔上にポリイミド樹脂層を形成させることができる。硬化(又はイミド化)が終了して得られる積層体は次の工程に付せられる。
【0020】
本発明のHDDサスペンション用積層体の製造方法では、ポリイミド樹脂層(A2)の面にステンレス箔を重ね合わせ、加圧下で熱圧着する第三の工程を備える。その方法は特に制限されず、適宜公知の方法を採用することができる。ステンレス箔を張り合わせる方法としては、通常のハイドロプレス、真空タイプのハイドロプレス、オートクレーブ加圧式真空プレス、連続式熱ラミネータ等を挙げることができる。ステンレス箔を張り合わせる方法の中でも、十分なプレス圧力が得られ、残存揮発分の除去も容易に行え、更に導体層(前記銅箔)の酸化を防止することができるという観点から真空ハイドロプレス、連続式熱ラミネータを用いることが好ましい。
また、ステンレス箔を張り合わせる際には、200〜400℃程度に加熱しながらステンレス箔をプレスすることが好ましく、より好ましくは280〜400℃がよく、更に好ましくは300〜400℃がよい。また、プレス圧力については、使用するプレス機器の種類にもよるが、通常、100〜150kgf/cm2程度が適当である。
【0021】
本発明に係るHDDサスペンション用積層体の製造方法において、ステンレス箔は、ばね特性や寸法安定性の観点から、SUS304のような高弾性、高強度のステンレス箔が好ましく、特に300℃以上の温度でアニール処理されたSUS304がより好ましい。更に好ましくは、第三の工程において、ステンレス箔として、マルテンサイト相の含有率が0.4〜2.5(体積)%の範囲にあるものを選択する工程を備えることが好ましい。0.4〜2.5(体積)%のマルテンサイト相を含むものを用いることにより、HDDサスペンション用積層体としたときの反りを抑制する。
ステンレス箔は、厚みの範囲は10〜100μmがよく、より好ましくは15〜70μmがよく、更に好ましくは15〜50μmがよい。ステンレス層の厚みが10μm未満であると、スライダの浮上量を十分に抑えるバネ性を確保できない問題が生じ、一方、100μmを越えると剛性が高くなり、搭載されるスライダの低浮上化が困難となる。
【0022】
このように構成されるHDDサスペンション用積層体の製造方法によれば、導体層と絶縁樹脂層の面内での密着性のばらつきを抑制できることで、配線の微細回路化における細線の接着強度を担保でき、細線の断線がなく、HDDサスペンション用積層体のカールや反りを抑制できる。従って、高密度、超微細配線化するHDDサスペンションの要求に答え、信頼性の高い高精度のHDDサスペンションの提供が可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例における各種物性の測定は以下の方法による。
[銅箔の引張強度の測定]
幅12.7mm×長さ254mmの短冊形状に試験片を切り出し、引張試験機(東洋精機株式会社製、ストログラフ−R1)を用いて、クロスヘッドスピード50mm/分、チャック間距離50.8mmにて測定を行う。引張試験中の変位(伸び)を求め、SS曲線から0.2%耐力を算出した。
【0024】
[銅箔の導電率の測定]
銅箔をアセトンで脱脂後、硫酸10%、過酸化水素5%の混酸からなるソフトエッチング液にて粗化処理部を落とした後、長さ300mm×10mmの短冊試験片を切り出し、20℃の恒温室にて横川北辰電機(株)製精密級低電圧用電流電位差計を用いて導電率の測定を行った。
【0025】
[ポリイミド樹脂層の厚みの測定]
積層体を幅10mm×長さ305mmの短冊試験片に切り出し、ダイヤルゲージ(Mitutoyo製)を用いて、長さ方向に10mm間隔で30点厚みを測定した。銅箔及びステンレス箔の2層体の厚みを同様に測定した。2つの厚みの差よりポリイミド樹脂層の厚みを算出した。
【0026】
[線熱膨張係数の測定]
線熱膨張係数の測定は、サーモメカニカルアナライザー(セイコーインスツルメンツ株式会社製)を用いて255℃まで20℃/分の速度で昇温し、その温度で10分間保持した後、更に5℃/分の一定速度で冷却した。冷却時の240℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱線膨張係数)を算出した。
【0027】
[積層体の反りの測定]
積層体を回路加工により直径65mmディスクを作成し、ノギスを用いて机上に置いたときに、最も反り(ディスクカール)が大きくなる部分を測定した。なお、ディスクをステンレス箔が上になるように机上に置いたときに、ディスク周辺が浮く態様(凹状態)である反り(ディスクカール)の量を正の値、中央が浮く態様(凸状態)である反り(ディスクカール)の量を負の値で表した。
【0028】
[ステンレス箔におけるマルテンサイト相含有率(体積)%の測定方法]
ステンレス箔を10枚重ねて、縦30mm、横30mmの矩形のシートを作成し、このシートのフェライト含有率を、株式会社フィシャーインストルメンツ製のフェライトスコープ(商品名)を用いて測定し、得られた値を、ステンレス箔におけるマルテンサイト相の含有率(体積)%とした。
【0029】
[使用化合物]
本実施例に用いた略号は以下の化合物を示す。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BTDA:3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
APB:1,3−ビス−(3−アミノフェノキシ)ベンゼン
DANPG:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)−2,2−ジメチルプロパン
MABA:4,4´−ジアミノ−2´−メトキシベンズアニリド
DAPE:4,4´−ジアミノジフェニルエーテル
m−TB:4,4´−ジアミノ−2,2´−ジメチルビフェニル
BAPB:4、4´−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0030】
(合成例1)
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながらAPB29.5g(0.1モル)をDMAc367gに溶解させた。次に、その溶液を窒素気流中でPMDA9.1g(0.04モル)及びBTDA20.2g(0.06モル)を加えた。その後、3時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂液Aを得た。
【0031】
(合成例2)
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながらDANPG30.3g(0.1モル)をDMAc352gに溶解させた。次に、その溶液を窒素気流中でPMDA9.3g(0.04モル)及びBTDA20.5g(0.06モル)を加えた。その後、3時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂液Bを得た。
【0032】
(合成例3)
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながらMABA20.7g(0.08モル)をDMAc343gに溶解させた。次に、その溶液を窒素気流中でPMDA28.5g(0.13モル)及びDAPE10.3g(0.05モル)を加えた。その後、約3時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂液Cを得た。
【0033】
(合成例4)
500mlのセパラブルフラスコの中において、撹拌しながらmTB16.98g(0.08モル)をDMAc316gに溶解させた。次に、その溶液を窒素気流中でBAPB7.37g(0.02モル)及びBPDA29.42g(0.1モル)を加えた。その後、約3時間攪拌を続けて重合反応を行い、粘稠なポリイミド前駆体樹脂液Dを得た。
【0034】
(実施例1)
合成例1の前駆体樹脂液Aを合金銅箔(日鉱マテリアルズ株式会社製NK−120、厚み18μm、引張強度520MPa、導電率75%)に塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成した後、さらにその層上に合成例3の前駆体樹脂液Cを塗工し、130℃で10分間乾燥して層(B−1)を形成し、さらにその樹脂層上に合成例1の前駆体樹脂液Aを塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成し、15分かけて380℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、銅箔張積層体を得た。
【0035】
次に、前記の方法により得られた積層体と、ステンレス箔(新日本製鐵株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品、厚み20μm、マルテンサイト相含有率0.72(体積)%)とを、真空プレス機を用いて、面圧150kg/cm2、温度320℃、プレス時間20分の条件で加熱圧着し、HDDサスペンション用積層体を得た。
このときのHDDサスペンション用積層体の外観も良好であった。また、ポリイミド樹脂層の総厚みは10μmであり、樹脂層(A−1)のガラス転移温度は218℃で、樹脂層(B−1)の熱線膨張係数は14.6×10-6(1/K)であった。銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.7kN/mであり、ステンレス箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.4kN/mであった。
【0036】
(実施例2)
合成例1の前駆体樹脂液Aを合金銅箔(オーリン社製C7025、厚み18μm、引張強度625MPa、導電率35%)に塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成した後、合成例3の前駆体樹脂液Cを塗工し、130℃で10分間乾燥して層(B−1)を形成し、さらにその樹脂層上に合成例2の前駆体樹脂液Bを塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−2)を形成し、15分かけて360℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、銅張積層体を得た。
【0037】
次に、前記の方法により得られた積層体と、ステンレス箔(新日本製鐵株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品、厚み20μm、マルテンサイト相含有率0.72(体積)%)とを、真空プレス機を用いて、面圧150kg/cm2、温度320℃、プレス時間20分の条件で加熱圧着し、HDDサスペンション用積層体を得た。
このときのHDDサスペンション用積層体の外観は良好であった。また、ポリイミド樹脂層の総厚みは10μmであり、樹脂層(A−1)、(A−2)のガラス転移温度はそれぞれ218℃、220℃、樹脂層(B−1)の熱線膨張係数は14.6×10-6(1/K)であった。銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.8kN/mであり、ステンレス箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.4kN/mであった。
【0038】
(実施例3)
合成例1の前駆体樹脂液Aを合金銅箔(日鉱マテリアルズ株式会社製NK−120、厚み12μm、引張強度520MPa、導電率75%)に塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成した後、合成例4の前駆体樹脂液Dを塗工し、130℃で10分間乾燥して層(B−2)を形成し、さらにその層上に合成例2の前駆体樹脂液Bを塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−2)を形成し、15分かけて360℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、銅張積層体を得た。
【0039】
次に、前記の方法により得られた積層体と、ステンレス箔(新日本製鐵株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品、厚み25μm、マルテンサイト相含有率1.3(体積)%)とを、真空プレス機を用いて、面圧150kg/cm2、温度320℃、プレス時間20分の条件で加熱圧着し、50℃にまで冷却した後、支持体銅箔を剥離することで、HDDサスペンション用積層体を得た。
このときのHDDサスペンション用積層体の外観は良好であった。また、ポリイミド樹脂層の総厚みは10μmであり、樹脂層(A−1)、(A−2)のガラス転移温度はそれぞれ218℃、220℃、樹脂層(B−2)の熱線膨張係数は12.0×10-6(1/K)であった。銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.4kN/mであり、ステンレス箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.6kN/mであった。
【0040】
(比較例1)
合成例1の前駆体樹脂液Aをステンレス箔(新日本製鐵株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品、厚み25μm、マルテンサイト相含有率1.3(体積)%)に塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成した後、さらにその層上に合成例4の前駆体樹脂液Dを塗工し、130℃で10分間乾燥して層(B−2)を形成し、さらにその層上に合成例1の前駆体樹脂液Aを塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成し、15分かけて380℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、金属箔張積層体を得た。
【0041】
次に、前記の方法により得られた積層体と、合金銅箔(日鉱マテリアルズ株式会社製NK−120、厚み12μm、引張強度520MPa、導電率75%)とを、真空プレス機を用いて、面圧150kg/cm2、温度320℃、プレス時間20分の条件で加熱圧着し、HDDサスペンション用積層体を得た。
このときのHDDサスペンション用積層体の外観も良好であった。また、ポリイミド樹脂層の総厚みは10μmであり、樹脂層(A−1)のガラス転移温度は218℃、樹脂層(B−2)の熱線膨張係数は12.0×10-6(1/K)であった。銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.3kN/mであり、ステンレス箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.8kN/mであった。
【0042】
(実施例4)
合成例1の前駆体樹脂液Aを合金銅箔(日鉱マテリアルズ製株式会社NK−120、厚み12μm、引張強度520MPa、導電率75%)に塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成した後、合成例4の前駆体樹脂液Dを塗工し、130℃で10分間乾燥して層(B−2)を形成し、さらにその層上に合成例1の前駆体樹脂液Aを塗工し、130℃で5分間乾燥して層(A−1)を形成し、15分かけて360℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、銅張積層体を得た。
【0043】
次に、前記の方法により得られた積層体と、ステンレス箔(新日本製鐵株式会社製、SUS304、テンションアニール処理品、厚み25μm、マルテンサイト相含有率2.71(体積)%)とを、真空プレス機を用いて、面圧150kg/cm2、温度320℃、プレス時間20分の条件で加熱圧着し、50℃にまで冷却した後、支持体銅箔を剥離することで、HDDサスペンション用積層体を得た。
このときのHDDサスペンション用積層体の外観は良好であった。また、ポリイミド樹脂層の総厚みは10μmであり、樹脂層(A−1)のガラス転移温度はそれぞれ218℃、樹脂層(B−2)の熱線膨張係数は12.0×10-6(1/K)であった。銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.4kN/mであり、ステンレス箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.6kN/mであった。
以上の結果をまとめて表1に示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のHDDサスペンション用積層体の製造方法は、導体層と絶縁樹脂層との面内での密着性のばらつきのない、配線の微細回路化における細線の断線がない、反りのないHDDサスペンション用積層体を製造することができる産業上の利用可能性の高いものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体層として、引張強度420MPa以上、導電率35%以上の銅箔を選択する第一の工程と、選択された前記銅箔の片面にポリイミド溶液又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して熱可塑性ポリイミド樹脂層(A1)となる層を形成し、該樹脂層(A1)となる層面にポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して線熱膨張係数が1×10-6〜30×10-6(1/K)の低線熱膨張性のポリイミド樹脂層(B)となる層を少なくとも1以上形成し、該樹脂層(B)となる層面にポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して熱可塑性ポリイミド樹脂層(A2)となる層を形成した後に、硬化又はイミド化を行い、少なくも3層以上のポリイミド樹脂層を積層する第二の工程と、ポリイミド樹脂層(A2)面にステンレス箔を重ね合わせ、加圧下で熱圧着する第三の工程とを備えたことを特徴とするHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項2】
銅箔が、厚み5〜20μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項3】
ポリイミド樹脂層の全体の厚みが、5〜50μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項4】
第三の工程において、ステンレス箔として、マルテンサイト相含有率0.4〜2.5(体積)%の範囲にあるものを選択する工程を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。
【請求項5】
ステンレス箔が、厚み10〜100μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のHDDサスペンション用積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−265543(P2007−265543A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89783(P2006−89783)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】