説明

HLA−A2402拘束性Ep−CAM特異的CTLが認識するエピトープ・ペプチド及びその用途

配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド;配列番号2のアミノ酸配列からなるペプチド;又は配列番号1若しくは2において1若しくは2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得る変異体ペプチドは、HLA−A2402を有する上皮性癌患者に対する癌ワクチンとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球が認識するエピトープ・ペプチド、抗原提示細胞及び主要組織適合抗原複合体、これらを有効成分とする癌ワクチン又は細胞傷害性Tリンパ球誘導剤、この細胞傷害性Tリンパ球誘導剤を有効成分とする上皮性癌に対する受動免疫療法剤、これらを用いた癌の治療又は改善方法、及び、癌に特異的なHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T Lymphocyte:以下、「CTL」と略称する)は癌に対する抵抗における重要な因子の一つと考えられている。
【0003】
癌患者の腫瘍局所には腫瘍細胞に対して傷害活性を示すCTLの浸潤が認められる。この腫瘍特異的なCTLの標的分子である腫瘍抗原は、細胞内で分解されて8〜11個のアミノ酸からなるペプチド(腫瘍エピトープ・ペプチド)になり、主要組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(以下、「HLA」という)分子と結合して腫瘍細胞表面上に提示される。CTLはHLAと腫瘍抗原ペプチドとからなる複合体を認識して腫瘍細胞を傷害する。このように、CTLはHLA拘束性に腫瘍細胞を認識する。
【0004】
HLAは、ほとんど全ての細胞上に発現している細胞膜抗原であり、クラスI抗原とクラスII抗原に大別される。CTLによりエピトープ・ペプチドと共に認識されるHLAはクラスI抗原である。HLAクラスI抗原はさらにHLA−A、HLA−B、HLA−C等に分類され、それらの遺伝子にはサブタイプがあり、例えば、HLA−AにはA1、A2、A24、およびA26等の多型が存在している。そのため、それぞれのヒト個人が有するHLAの型は必ずしも同一ではなく、CTLはHLAクラスI抗原と腫瘍エピトープ・ペプチドとの複合体を認識するとき、HLAの型をも認識する。さらに、HLAに結合可能なエピトープ・ペプチドには、HLAの型毎に結合し得るペプチド配列にモチーフ(規則的配列)があることが知られている。従って、CTLを誘導及び/又は活性化するためには、患者毎に異なる各型のHLAに結合し得るモチーフからなるペプチドを選択する必要がある。
【0005】
Ep−CAMは、上皮細胞由来の癌細胞の表面に広く発現している分子であり、カルシウムイオン非依存性の細胞−細胞間接着を媒介する。Ep−CAMは、EGP−2、17−1A、GA733−2又はKSAとも称されている。Ep−CAMは、大腸、肺、頭頚部、乳腺など、多様な組織学的起源に由来する多くの腫瘍において高発現しており、正常上皮細胞においては発現が限局されている。また、腫瘍進展の程度とEp−CAMの発現量とが相関していることから、Ep−CAMの発現検出は、腫瘍の微小転移の診断又は生存予測のためのマーカーとして有用とされている。
【0006】
Ep−CAMは、上皮細胞由来の癌細胞に広く発現しているが正常細胞では発現が限局されているため、モノクローナル抗体を使用する免疫療法や遺伝子治療の主要な標的の一つになっている。
【0007】
例えば外科手術後にEp−CAM特異的マウス・モノクローナル抗体(17-1Aと名づけられているもの)を投与することにより、遠隔転移が予防されるとともに、7年間連続投与により延命効果が見られたことが報告されている。また17−1Aと名づけられているEp−CAMに対するモノクローナル抗体を用いて大腸癌患者の治療を行ったところ、死亡率と再発率が低下したことが報告されている。
【0008】
さらに近年、HLA拘束性のEp−CAMを標的とするCTLを用いる癌治療の可能性を示す事実が幾つか報告されてきている。
【0009】
例えば特許文献1には、HLA−A0201拘束性Ep−CAMに特異的なCTLが上皮腫瘍細胞を破壊するが、正常細胞に影響を与えないことが報告されている。特許文献1は、HLA−A0201拘束性CTLが認識するEp−CAM174−184エピトープ・ペプチドとして、配列番号12に記載のYQLDPKFITSIの配列からなるペプチドを開示している。
【0010】
またEp−CAMに対するT細胞応答が、免疫治療を受けていない結腸大腸癌患者において観察されている。加えて、Ep−CAMを発現する組み換え体カナリヤポックスウイルスで大腸癌患者を免疫したところ、自己免疫応答を起こすことなく抗Ep−CAMのCTL応答が誘導された。
【0011】
HLAクラスI抗原のHLA−Aの中で、日本人に最も多く発現しているのは、HLA−A24である。従って、HLA−A24拘束性のEp−CAMエピトープ・ペプチドは、癌ワクチンとして好適に使用できると考えられる。このようなエピトープペプチドとしては、例えば以下のものが報告されている。
【0012】
特許文献2は、HLA−A2402拘束性CTLエピトープ・ペプチドとしてSART−2腫瘍抗原蛋白質に対する9個のアミノ酸配列からなる5種のエピトープ・ペプチドを開示している。
【0013】
また特許文献3は、肺腺癌患者から得られたHLA−A2402拘束性CTLエピトープ・ペプチドとしてART−4腫瘍抗原蛋白質に対する8〜11個のアミノ酸配列からなる6種のエピトープ・ペプチドを開示している。
【0014】
また特許文献4は、食道癌患者から樹立した細胞株から得られたHLA−A2402拘束性CTLエピトープ・ペプチドとして、大腸癌細胞と小細胞性肺癌細胞において異常に発現しているp56luk蛋白質(luk遺伝子がコードする腫瘍抗原蛋白質)の8〜11個のアミノ酸配列からなる7種のエピトープ・ペプチドを開示している。
【0015】
また特許文献5は、食道癌患者から樹立した細胞株から得られたHLA−A2402拘束性CTLエピトープ・ペプチドとして、KE4腫瘍細胞株由来のcDNAライブラリーから得られたPI−9由来ペプチドの9〜10個のアミノ酸配列からなる4種のペプチドを開示している。
【0016】
また特許文献6は、肺癌患者から樹立した細胞株から得られたHLA−A2402拘束性CTLエピトープ・ペプチドとして、11−18肺腺癌細胞株のcDNAライブラリーから得られたPI−9由来ペプチドの9〜10個のアミノ酸配列からなる17種のエピトープ・ペプチドを開示している。
【0017】
また特許文献7は、HLA−A24.1(HLA−A2402)結合性モチーフを有するエピトープ・ペプチドであって、N末端部分にY、F、Wの第1保存残基を有し、C末端部分にF、I、W、Mの第2保存残基を有し、第1保存残基と第2保存残基とが6〜7残基隔てられている、9〜10アミノ酸残基からなるペプチドを開示している。
【0018】
このように、腫瘍関連抗原の種々のHLA−A2402拘束性CTLエピトープが同定されているが、腫瘍抗原の発現は、組織学的な起源間、癌患者間及び個々の病変間で異なるため、さらに新しいエピトープを特定することが求められている。
【0019】
また、HLA−A2402分子に結合できるEp−CAMのエピトープ・ペプチドによるCTL誘導は未だ確認されていないことから、HLA−A2402分子に結合できる癌細胞に特異的なEp−CAMエピトープ・ペプチドであってCTL誘導できるものを新たに開発することが望まれている。
【特許文献1】WO97/15597号国際公報
【特許文献2】特開平11-318455号
【特許文献3】特開2000-116383号
【特許文献4】WO2000-06595号
【特許文献5】特開2001-245675号
【特許文献6】特開2003-270号
【特許文献7】特表平8-500103号(請求項11など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、HLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球を誘導できるEp−CAMエピトープ・ペプチド、抗原提示細胞及び主要組織適合抗原複合体、それらを有効成分とする癌ワクチン又は細胞傷害性Tリンパ球誘導剤、Ep−CAM特異的なHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球、それを有効成分とする受動免疫療法剤、これらを用いた癌の治療又は改善方法、並びに、上皮性癌に特異的なHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を達成するために本発明者らは、日本人において最も多いHLA−Aの型であり(60%以上)、かつヨーロッパ人の約20%にも存在するHLA−A2402分子に結合することができるエピトープ・ペプチド配列を見つけるため、先ずバイオインフォマティク・アプローチによりEp−CAM中の7個のペプチド配列を推測し、これらを合成した。
【0022】
バイオインフォマティク・アプローチにより特定HLA分子に結合し得るペプチドを予測した場合に、この予測されたペプチドが誘導する細胞傷害性Tリンパ球が、実際には、そのペプチドを含む抗原を認識しない場合も多い。
【0023】
このような状況の下で、本発明者は、推測された7個のペプチドのうちの2個のエピトープ・ペプチドに特異的なCTLクローンが、実際にHLA−A2402陽性Ep−CAM発現癌細胞に対して細胞傷害性を示すが、HLA−A2402陰性癌細胞に対しては細胞傷害性を示さないことを見出した。
【0024】
また、コールドターゲットインヒビションアッセイによれば、これらのエピトープ・ペプチドは、HLA−A2402陽性Ep−CAM陽性癌細胞の表面上において処理され、抗原提示された。
【0025】
これらの結果、この2個のエピトープ・ペプチドは、HLA−A2402を保有する人に対する癌ワクチンとして使用できる。
【0026】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下のエピトープ・ペプチドなどを提供する。
項1. 以下の(1)、(2)、(3)又は(4)のペプチド。
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号1において1又は2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得る変異体ペプチド
(4) 配列番号2において1又は2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得る変異体ペプチド
項2. 以下の(1)又は(2)のペプチド。
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
項3. 項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含む癌ワクチン。
項4. 癌が上皮性癌である項3に記載の癌ワクチン。
項5.癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である項3又は4に記載の癌ワクチン。
項6. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための項3、4又は5に記載の癌ワクチン。
項7. 項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項8. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための項7に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項9. 以下の(5)、(6)、(7)又は(8)のポリヌクレオチド。
(5) 配列番号10に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(6) 配列番号11に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(7) 配列番号10に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得るペプチドをコードする変異体ポリヌクレオチド
(8) 配列番号11に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得るペプチドをコードする変異体ポリヌクレオチド
項10. 項9に記載のポリヌクレオチドを有効成分として含む上皮性癌の遺伝子治療剤。
項11. 項9に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
項12. 項11に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
項13. 項12に記載の形質転換体を培養する工程と、培養物から項1又は2に記載のペプチドを回収する工程とを含む項1又は2に記載のペプチドの製造方法。
項14. 項1又は2に記載のペプチドがパルスされた抗原提示細胞。
項15. 項14に記載の抗原提示細胞を有効成分として含む癌ワクチン。
項16. 癌が上皮性癌である項15に記載の癌ワクチン。
項17.癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である項15又は16に記載の癌ワクチン。
項18. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための項15、16又は17に記載の癌ワクチン。
項19. 項14に記載の抗原提示細胞を有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項20. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための項19に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項21. 項1又は2に記載のペプチド又は項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、主要組織適合抗原とが複合した主要組織適合抗原複合体。
項22. 項1又は2に記載のペプチド又は項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、HLA−A2402分子と、β2ミクログロブリンとの複合体である項21に記載の主要組織適合抗原複合体。
項23. 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体を有効成分として含む癌ワクチン。
項24. 癌が上皮性癌である項23に記載の癌ワクチン。
項25.癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である項23又は24に記載の癌ワクチン。
項26. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための項23、24又は25に記載の癌ワクチン。
項27. 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体を有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項28. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための項27に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項29. 項1又は2に記載のペプチド又は項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、主要組織適合抗原とが複合した主要組織適合抗原複合体のテトラマー。
項30. 以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を用いて末梢血リンパ球を刺激することにより得られる細胞傷害性Tリンパ球。
(a) 項1又は2に記載のペプチド
(b) 項14に記載の抗原提示細胞
(c) 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
項31. 前記(a)〜(d)のいずれか1以上を用いて末梢血リンパ球を刺激することにより主要組織適合抗原複合体又は/及びそのテトラマーと細胞傷害性Tリンパ球との結合体を形成し、この結合体から単離することにより得られるものである項30に記載の細胞傷害性Tリンパ球。
項32. 項30又は31に記載の細胞傷害性Tリンパ球を有効成分として含む癌の受動免疫療法剤。
項33. 癌が上皮性癌である項32に記載の受動免疫療法剤。
項34.癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である項32又は33に記載の受動免疫療法剤。
項35 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための項32、33又は34に記載の受動免疫療法剤。
項36. 末梢血に以下の(a)〜(d)のいずれかを作用させる工程と、
(a) 項1又は2に記載のペプチド
(b) 項14に記載の抗原提示細胞
(c) 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
末梢血中の細胞傷害性T細胞又はそれが産生するサイトカインを定量する工程と
を含む末梢血中のHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
項37. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに、以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を投与する癌の治療又は改善方法。
(a) 項1又は2に記載のペプチド
(b) 項14に記載の抗原提示細胞
(c) 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
項38. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの末梢血から単核細胞画分を採取する工程と、
単核細胞画分を以下の(a)〜(d)のいずれか1以上と共に培養する工程と、
(a) 項1又は2に記載のペプチド
(b) 項14に記載の抗原提示細胞
(c) 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
細胞傷害性Tリンパ球が誘導及び/又は活性化された単核細胞画分を患者の血液中に戻す工程と
を含む癌の治療又は改善方法。
項39. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに、以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を投与する細胞傷害性Tリンパ球の誘導方法。
(a) 項1又は2に記載のペプチド
(b) 項14に記載の抗原提示細胞
(c) 項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
項40. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに、項30又は31に記載の細胞傷害性Tリンパ球を投与する癌の治療又は改善方法。
項41. 項1又は2に記載のペプチド又は項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、HLA−A2402分子と、β2ミクログロブリンとの複合体のテトラマーである項21に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー。
項42. 項41に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマーを有効成分として含む癌ワクチン。
項43. 癌が上皮性癌である項42に記載の癌ワクチン。
項44.癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である項42又は43に記載の癌ワクチン。
項45. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための項42、43又は44に記載の癌ワクチン。
項46. 項41に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマーを有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
項47. 白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための項46に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、上皮性癌細胞に広く発現しているEp−CAM分子のエピトープ・ペプチドであって、日本人の白血球抗原の型として多く見られるHLA−A2402拘束性の細胞傷害性Tリンパ球に認識され得るものが提供された。従って、このエピトープ・ペプチドは、HLA−A2402を有する広範囲のヒトの上皮性癌に対する癌ワクチンとして使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、エリスポット・アッセイによるポリクローナル・ペプチド活性化CTL細胞株の評価の結果を示す図である。
【図2】図2は、Ep−CAMペプチド特異的ポリクローナル(A)及びクローナル(B)CTLのテトラマー染色の結果を示す図である。
【図3】図3は、Ep173特異的CTLクローンの特性結果を示す図である。
【0029】
図Aは、ペプチドEp173及びコントロール・ペプチドEBV−LMP419のT2−A24細胞に対するC27、Ep173特異的CTLクローンの細胞傷害性の結果を示す51Cr遊離アッセイの図面である。
【0030】
図Bは、HLA−A2402陽性細胞株、PC9に対するEp173特異的CTLクローン、C27の細胞傷害性に関する抗HLA−A24モノクローナル抗体の抑制効果を示す図面である。
【0031】
図Cは、コールドターゲットインヒビションアッセイにおけるEp173によるC27の細胞傷害性を示す図面である。
【図4】図4は、Ep−CAMのPCR分析の結果を示す図面である。
【図5】図5は、各種癌細胞株に対するC27、Ep173特異的CTLクローンの細胞傷害性を示す図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)エピトープ・ペプチド
構成
本発明のペプチドは、上皮性細胞由来の癌に広く発現しているEp−CAMタンパク質のアミノ酸配列について、HLA−A2402の結合モチーフを有する9〜10個のアミノ酸からなるエピトープ・ペプチドを検索し得る照合媒体であるワールド・ワイド・ウェブサイト・バイオインフォマティクス&分子分析セクション(BioInformatics & Molecular Analysis Section (BIMAS)のHLA Peptide Binding Predictions (http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/index.html.)によって照合し、エピトープ・ペプチド となり得るペプチドをスクリーニングした結果、細胞傷害性Tリンパ球(以下、「CTL」と略称する)エピトープ・ペプチドとして確認されたものである。
【0033】
即ち、本発明のペプチドは、以下の(1)、(2)、(3)又は(4)のペプチドである。
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号1において1又は2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され又はこれを誘導し得る変異体ペプチド
(4) 配列番号2において1又は2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され又はこれを誘導し得る変異体ペプチド
本発明において、ペプチドとは、隣接するアミノ酸残基のα−アミノ基とカルボキシル基との間がペプチド結合により相互に結合したアミノ酸分子鎖であって生理活性を有するものを意味する。
【0034】
またペプチドには、当該ペプチドの他にその生理活性を損なわない範囲で、その塩又は誘導体が含まれる。誘導体としては、グリコシル化、アミド化、ホスホリル化、カルボキシル化、リン酸化、ホルミル化、アシル化などされたものが挙げられる。また、塩としては酸付加塩が好ましい。酸付加塩としては、塩酸、リン酸、硫酸等の無機酸との塩、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酒席酸等の有機酸との塩が挙げられる。
【0035】
(1)〜(4)の各ペプチドは、上皮性細胞由来の癌細胞に広く発現しているEp−CAMのエピトープ・ペプチドであって、HLA−A2402拘束性CTLにより認識され若しくはこれを誘導し、又はさらにCTLを活性化できるものである。従って、CTLを誘導又は活性化する腫瘍抗原、すなわち癌ワクチンとして、HLA−A2402を有するヒトの癌の治療又は改善に好適に使用できる。またこれらのペプチドは、腫瘍抗原エピトープを特定した各種ペプチドの作製のために使用できる。本発明のペプチドの用途については、後に詳述する。
【0036】
(3)及び(4)の変異体ペプチドのアミノ酸数の下限は、通常5個程度、好ましくは7個程度である。またアミノ酸数の上限は、HLA−A2402拘束性CTLに認識される限り特に限定されないが、通常12個程度である。中でも、アミノ酸数9〜11個程度の変異体ペプチドが好ましい。
【0037】
これらの変異体ペプチドは、例えば、上記のHLA Peptide Binding Predictionに照合することによりHLA−A2402結合モチーフに適合するものを設計し、その中から、実際にHLA−A2402拘束性CTLに認識され又はこれを誘導するものを選択することにより得ることができる。
【0038】
HLA−A2402陽性Ep−CAMエピトープ・ペプチドであるか否かは、例えば以下の方法で判定できる。
【0039】
10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2x106/mlの細胞濃度でHLA−A2402陽性の成人から分離したリンパ球を浮遊し、これにエピトープ候補ペプチドの中の任意の1種を1μg/mlの濃度で加える。これを炭酸ガス恒温槽にて37℃で7日間培養する。7日目にIL−2を添加する。候補ペプチドによる刺激とIL−2による刺激とからなるサイクルを以後週に1回繰り返すことにより、特異的なCTLを誘導する。
【0040】
このようにして誘導した上皮性癌特異的なCTLをエピトープ候補ペプチドが刺激するか否かをエリスポットアッセイ(Kuzushima K他著、The Journal of Clinical Investigation, 104巻:163-171頁,1999年等)により判定する。
【0041】
上記候補ペプチドは、Ep−CAMタンパク質全体を網羅する20個前後のアミノ酸よりなるペプチドライブラリーを合成し、合成したペプチドに対して上記エリスポットアッセイを行い、CTLが反応したペプチドについて順次短くし、最終的に9〜10個程度のアミノ酸からなるペプチドを本発明のエピトープ・ペプチドとすればよい。
【0042】
またアミノ酸の置換の場合には、タンパク質の構造保持の観点から、電荷、可溶性、親水性/疎水性、極性等の点で、置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することにより、同等の活性を有する変異体ペプチドを得易い。
【0043】
欠失、付加(挿入を含む)又は置換の変異を導入する手法は周知であり、例えばウルマーの技術(Science,219,666(1983))を利用できる。
【0044】
本発明のペプチドは、糖類、ポリエチレングリコール、脂質等が付加された複合体、放射性同位元素等による誘導体又は重合体等の形態として用いることができる。
(II)ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは、上記本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、具体的には、以下の(5)、(6)、(7)又は(8)のポリヌクレオチドである。
(5) 配列番号10に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(6) 配列番号11に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(7) 配列番号10に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導できるペプチドをコードする変異体ポリヌクレオチド
(8) 配列番号11に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導できるペプチドをコードする変異体ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドには、特に言及しない限り、DNA及びRNAの双方が含まれる。DNAには、cDNA、ゲノムDNA及び合成DNAが含まれる。RNAには、mRNA、rRNA及び合成RNAが含まれる。また、その塩基配列を有するポリヌクレオチドの他、それに相補的なポリヌクレオチド及び2本鎖ポリヌクレオチドも含まれる。
【0045】
配列番号1のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの一つである配列番号10の塩基配列からなるポリヌクレオチド、及び、配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの一つである配列番号11の塩基配列からなるポリヌクレオチドは、ヒト癌関連抗原GA733−2(Szala, S., et. al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87 (9), 3542-3546 (1990))により得られたEp−CAM遺伝子の部分配列である。
【0046】
(7)又は(8)の変異体ポリヌクレオチドは、本発明のエピトープ・ペプチドをコードする領域に対応して、通常15個以上、好ましくは21個以上、通常45個以下のヌクレオチドからなるものであればよい。中でも、ヌクレオチド数27〜33個程度のポリヌクレオチドであることが好ましい。
【0047】
ポリヌクレオチド分子としてDNA分子を代表例にとると、「DNA分子にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA分子」は、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrook, ら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)等に記載の方法によって得ることができる。本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリタイズする」条件としては、例えば、6×SSC、0.5%SDSおよび50%ホルムアミドの溶液中で42℃で加温した後、0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃で洗浄した場合に、陽性のハイブリタイズのシグナルが観察される条件が挙げられる。
【0048】
(7)又は(8)の変異体ポリヌクレオチドについては、例えば公知の蛋白質発現系を利用してHLA−A2402を有する細胞で発現させたペプチドについて、後述するようにしてCTLにより認識され得ること又はCTL誘導能を有することを確認することにより選択すればよい。
【0049】
また変異体ポリヌクレオチドは、その3′末端にポリ(A)構造を有しているが、ポリ(A)の数は腫瘍抗原として作用するアミノ酸のコード部位に影響するものではなく、該ポリヌクレオチドの有するポリ(A)の数は特に限定されるものではない。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドは、組み換え技術を利用して本発明のエピトープ・ペプチドを製造する際に有用な遺伝子情報を提供するものである。また核酸試薬又は標準品としても利用できる。
(III)組み換えベクター
本発明の組み換えベクターは、本発明のポリヌクレオチドを適当なベクターDNAに組み込むことにより得られる組み換えベクターである。
【0051】
ベクターDNAは、宿主の種類及び使用目的により適宜選択すればよい。ベクターDNAは、天然に存在するDNAであってもよく、天然DNAから増殖に必要な部分以外のDNA部分が一部欠落しているものでもよい。ベクターDNAとしては、例えば、染色体、エピソーム又はウイルス等に由来するベクターが挙げられる。具体的には、例えば細菌プラスミド、バクテリオファージ、トランスポゾン、酵母エピソーム、挿入エレメント、酵母染色体エレメント、ウィルス(例えばバキュロウイルス、パポバウイルス、SV40、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルスおよびレトロウイルス等)等に由来するベクター及びそれらを組み合わせたベクター、プラスミド及びバクテリオファージの遺伝学的エレメント由来のベクター(例えばコスミドおよびファージミド等)が挙げられる。
【0052】
また、本発明のペプチドの生合成のためには、発現ベクター又はクローニングベクター等を用いればよい。
【0053】
組換えベクターは、目的の遺伝子配列と複製及び制御に関する情報を担う遺伝子配列、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、ターミネーター、シグナル配列、エンハンサー等を構成要素としており、これらを公知の方法により組み合わせることにより作製される。
【0054】
本発明のポリヌクレオチドは、公知の方法によりベクターDNAに挿入すればよい。例えば、適当な制限酵素を用いてDNA及びベクターDNAを特定部位で切断し、混合してリガーゼにより再結合することができる。また、本発明のポリヌクレオチドに適当なリンカーをライゲーションし、これを目的に適したベクターDNAのマルチクローニングサイトへ挿入することによっても組換えベクターを得ることができる。
(IV)形質転換体
上記ポリヌクレオチドが組み込まれた組み換えベクターを、公知の宿主、例えば大腸菌(例えばK12)、バチルス属細菌(例えばMI114)のような細菌、酵母(例えばAH22)、昆虫細胞(例えばSf細胞)又は動物細胞(例えばCOS-7細胞、Vero細胞、CHO細胞等)等に公知の方法で導入することにより本発明の形質転換体が得られる。
【0055】
遺伝子導入方法としては、遺伝子の安定性を考慮すれば、染色体内へのインテグレート法が好ましく挙げられる。簡便には核外遺伝子を利用した自律複製系を用いることができる。ベクターDNAの宿主細胞への導入は、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Sambrook,ら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、 1989)等に記載されている標準的な方法により行うことができる。具体的には、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、マイクロインジェクション、陽イオン脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープ負荷(Scrape loading)、バリスティック導入(ballistic introduction)及び感染等を例示できる。
(V)エピトープ・ペプチドの製造方法
本発明のペプチドは公知のペプチド合成法、例えば固相ペプチド合成等により合成することができる。このようなペプチド合成法としては、例えば「ペプチド合成」(丸善;1975年発行)又はPeptide Synthesis, Interscience, New York, (1996)に記載の方法が例示される。また、例えばアプライドバイオシステムズ社のペプチド合成装置のような公知の化学合成装置を用いて製造することもできる。
【0056】
また本発明のペプチドは、上記説明した本発明の形質転換体を培養する工程と、この培養物から本発明のペプチドを回収する工程とを含む方法により製造することもできる。
【0057】
培養は、宿主に適した培地を用いて継代培養又はバッチ培養を行えばよい。培養は、形質転換体の内外に生産されたペプチド量や、形質転換体が生産する本発明のペプチドの作用の一つであるCTL誘導能を指標にして、本発明のペプチドが適当量得られるまで行えばよい。
【0058】
培養物から本発明のペプチドを回収し、さらにこれを精製することが好ましい。精製は、分子篩クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等のクロマトグラフィーや、硫安又はアルコール等を用いた溶解度差に基づく分画手段等を組み合わせた公知の方法により行えばよい。精製は、このペプチドのCTLによる認識又はCTLの誘導、具体的には例えばCTLによるIFN−γ産生量を指標にして行えばよい。
【0059】
また、本発明のペプチドのアミノ酸配列に基づき製造された、このアミノ酸配列に特異的なポリクローナル抗体又はモノクロ−ナル抗体を用いて、培養物中の本発明のペプチドを特異的に吸着回収することもできる。
(VI)抗原提示細胞
本発明の抗原提示細胞は、樹状細胞、マクロファージ又はBリンパ球のような抗原提示細胞に本発明のペプチドをパスルすることにより得られる細胞である。本発明における抗原提示細胞は、本発明のペプチドを結合するHLAを表面上に発現できる細胞であって、CTL刺激能を有する細胞である。
【0060】
「パルス」は、それには限定されないが、例えば、これらの抗原提示細胞を、濃度1〜10μg/ml程度の本発明のペプチドを含む培地中、温度20〜30℃程度で30分間〜1時間程度インキュベートすることにより行える。これにより、抗原提示細胞表面に、HLA−A2402拘束性CTLにより認識され得る腫瘍抗原ペプチドが提示される。
【0061】
腫瘍抗原とは腫瘍特異的なCTLに認識され、又はさらにCTLを誘導し又は/及びCTLを活性化し得る蛋白質、ポリペプチド又はペプチドであって腫瘍細胞が有するものを意味する。また腫瘍抗原ペプチドとは、この腫瘍抗原が腫瘍細胞内で分解されて生じるペプチドであり、HLA分子と結合して細胞表面上に提示されることによりCTLに認識され、CTLを誘導し又は/及びCTLを活性化し得るペプチドを意味する。
【0062】
また腫瘍抗原が有するアミノ酸配列部分であって、腫瘍特異的なCTLに認識され、又はさらにCTLを誘導し又はこれを活性化し得るエピトープ配列を腫瘍抗原エピトープ(腫瘍抗原決定基)という。
【0063】
本明細書において、「認識される」とは、認識するものが、認識される対象を他のものと見分けて認知し、例えば認知した対象に結合することを意味する。本明細書において、CTLが腫瘍細胞又は腫瘍抗原エピトープ・ペプチドを認識するとは、ヒト白血球抗原(HLA)及び腫瘍抗原ペプチドにCTLがT細胞受容体を介して結合することを意味する。
【0064】
また「活性化する」とは、ある活性若しくは作用を有するもの又はその状態を、さらに増強する又は作動させることを意味する。特に、「CTLが活性化する」とは、CTLがHLAにより提示されたエピトープ・ペプチドを認識することにより、例えばIFN−γのようなエフェクターを産生すること、又は、CTLが認識した標的細胞に対して細胞傷害性を示すことを意味する。
【0065】
また「誘導する」とは、ある活性又は作用を殆ど有さないもの又は状態から、その活性又は作用を発生させることを意味する。特に、「抗原特異的なCTLを誘導する」とは、インビトロ又はインビボにおいて、ある抗原を特異的に認識するCTLを分化及び/又は増殖させることを意味する。
【0066】
本発明のエピトープ・ペプチドがパルスされた抗原提示細胞は、癌ワクチンとして使用できる。また、上皮性癌特異的なCTLの製造、ヒトの末梢血中の上皮性癌特異的なCTLの定量等のために使用できる。
(VII)主要組織適合抗原複合体
本発明の主要組織適合抗原複合体は、本発明のペプチド又は本発明のペプチドがパルスされた抗原提示細胞表面に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、主要組織適合抗原との複合体である。
【0067】
本発明において、主要組織適合抗原とは、Tリンパ球抗原受容体にTリンパ球が認識するペプチドを提示する分子であって、CTLによってエピトープ・ペプチドと共に認識されるヒト白血球抗原(HLA)をいう。
【0068】
また本発明の主要組織適合抗原複合体(以下、「MHC」と略する)は、詳しくは、エピトープ・ペプチドとともにCTLによって認識される、標的細胞表面に発現しているMHCクラスI分子であるヒト白血球抗原(HLA)と、CTLに認識され又はCTLを誘導できるエピトープ・ペプチドとが結合した複合体である。この複合体には、β2ミクログロブリンが結合しているものも含まれる。
【0069】
Ep−CAMに特異的なCTLエピトープ・ペプチドとは、Ep−CAMタンパク質中の特定部位を占めるペプチドであって、CTLに認識されて、CTLの抗原受容体と免疫的に結合する抗原決定基を指す。さらにCTLエピトープ・ペプチドは、Ep−CAM分子を発現する細胞を直接に傷害することにより癌細胞を排除することができる。
【0070】
本発明のMHCは、特に、標的細胞上に発現しているHLA−A2402分子と、CTLに認識され得るEp−CAMタンパク質中の特定のエピトープ・ペプチドとが結合した複合体、又はさらにβ2ミクログロブリンが結合した複合体を指す。
【0071】
また、本発明において、HLA−A2402とは、ヒト白血球抗原のうち、クラスI抗原のサブ・クラスであるA24多型をいい、HLA−A2402分子とは、HLA−A2402の遺伝子の抗原提示細胞表面における発現産物をいう。
【0072】
HLA−A2402分子としては、HLA−A2402発現用の大腸菌の培養物から精製されたHLA−A2402分子、標的細胞に遺伝子導入することにより強制的に発現させたHLA−A2402分子、標的細胞上に自然に発現しているHLA−A2402分子等のいずれを用いてもよい。また、本発明のHLA−A2402分子には、HLA−A2402分子の断片やHLA−A2402分子の重鎖も含まれる。
【0073】
本発明のMHCは、その構成要素によって種々の方法で作製できるが、例えば本発明のペプチド、HLA−A2402分子及びβ2ミクログロブリンを、トリス等のバッファー中に懸濁し、温度4〜10℃程度で24〜72時間程度インキュベートすることにより形成することができる。
【0074】
MHCは、テトラマーであってもよい。MHCテトラマーは、CTLが認識し得るEp−CAMエピトープ・ペプチドと、HLA−A2402分子(通常はβ2ミクログロブリンが結合したHLA−A2402分子)との複合体が4個会合したものである。
【0075】
MHCテトラマーは、MHCをビオチン化し、ストレピプトアビジンとビオチン化複合体とを1:4で混合することにより得られる。また、HLA分子のC末端に予めビオチン結合部位を付加しておき、MHCの形成後に、この部位にビオチンを結合させ、さらに、ストレプトアビジンとビオチン化MHCを1:4で混合することによっても得られる。
【0076】
具体的には、例えば以下のようにしてMHCテトラマーを調製することができる。MHCを調製するに当たっては、MHCの調製大腸菌による組換蛋白発現系を用いてHLA−A2402重鎖およびβ2ミクログロブリンを大量に作成、精製する。なお、HLA−A2402重鎖C末端には、ビオチンリガーゼが認識するアミノ酸配列を予め付加しておく。精製HLA−A2402重鎖およびβ2ミクログロブリンをそれぞれ8M尿素に溶解する。200ml のリフォールフィングバッファー (pH8.0 ; 100mM Tris-HCl, 400 mM L-アルギニン-HCl, 2 mM EDTA, 0.5 mM oxidative glutathione, 5 mM reduced glutathione)内に、配列番号1で示されるアミノ酸配列(RYQLDPKFI)を有する本発明ペプチド12mg、HLA−A2402重鎖18.6mg、β2ミクログロブリン13.2mgのそれぞれを27ゲージ針の付いた注射器を用いて加える。 10℃の恒温槽において48〜72時間撹拌し、MHCの形成を促した後、MHCを含むリフォールフィングバッファーを1.8Lの蒸留水に対して24時間、4℃の恒温槽において透析し、透析後のリフォールフィングバッファーをセントリプレップ10(MILLIPORE, Bedford, MA)を用いて2mlに濃縮する。 Superdex 200 HR (Amersham Pharmacia Biotech AB, Uppsala, Sweden)カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにて分子量45KDあたりに流出するMHCを単離する。かくして所望のMHCテトラマーが製造できる。
【0077】
次いで、ビオチン化MHCを調製するに当たっては、ビオチンリガーゼ(AVIDITY, Denver, CO)を用いて、HLA−A2402重鎖C末端の特異的部位にビオチンを結合させる。 Superdex 200 HR カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにてビオチンを付加したMHCを精製する。
【0078】
さらに、PE標識ストレプトアビジン (Molecular Probe, Eugene, OR)と精製ビオチン化MHCをモル比1:4で混合し、 Superdex 200 HR カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーにて分子量480KDあたりに流出する配列番号1で示されるアミノ酸配列(RYQLDPKFI)を含むMHCテトラマーを単離する。セントリコン10(MILLIPORE)を用いて約3mg/mlに濃縮し、4℃に保存する。保存剤としては、ナトリウムアジド、EDTA、 ロイペプチン、ペプスタチンを添加すればよい。
【0079】
上記の製造各工程では、ゲルろ過クロマトグラフィーなどの公知の方法で、使用するタンパク質又はペプチドを精製することが望ましい。
【0080】
本発明のMHCは、癌ワクチンとして使用できる。また上皮性癌特異的なCTLの製造、ヒトの末梢血中の上皮性癌特異的なCTLの定量等のために使用できる。
(VIII)癌ワクチン・CTL誘導剤・遺伝子治療剤
癌ワクチン・CTL誘導剤
本発明のペプチドは、能動免疫ワクチン療法に使用する癌ワクチンの有効成分として好適に使用できる。この癌ワクチンは、HLA−A2402を有するヒトのために使用できる。
【0081】
即ち、白血球抗原としてHLA−A2402を有する癌患者に本発明のペプチドを投与することにより、Ep−CAMを特異的に認識するHLA−A2402拘束性CTLを誘導又は活性化することができ、これにより上皮性癌などを治療又は改善することができる。
【0082】
癌患者のCTLは複数の腫瘍抗原を認識する細胞の集団であるため、1種類のエピトープ・ペプチドを癌ワクチンとして使用するより多種類のエピトープ・ペプチドを組み合わせて癌ワクチンとして使用する方が、より高い効果が得られる場合がある。従って、本発明のペプチドは、1種を単独で又は多種類(複数種類)を組み合わせて使用できる。
【0083】
本発明のペプチドを含むEp−CAMのmRNAは、肺癌細胞株(QG56、LU99、LC99A、LC1−sq、LC65A、及びPC−9)、大腸癌細胞株、胃癌細胞株(MKN28、MKN45)、口腔癌細胞株(HSC−2)、乳癌細胞株及び白血病細胞株(K562)等で発現している。また、肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌及び口腔癌の各患者由来の種々組織においてもEp−CAMの発現が認められた。従って、本発明のペプチドはこれらの癌の治療又は改善に有用である。
【0084】
本発明のペプチドは単独で又は各種担体とともに製剤にすることができる。剤形は、経口投与剤又は非経口投与剤のいずれであってもよい。一般的には非経口投与剤が好ましい。非経口投与剤としては、皮下注射剤、筋肉内注射剤、静脈内注射剤、座剤などが挙げられる。
【0085】
経口投与剤とする場合は、薬学的に許容されており、かつ本発明のエピトープ・ペプチドの活性を妨げない賦形剤であるスターチ、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、重合アミノ酸、アルブミンなどの賦形剤とともに製剤とすればよい。
【0086】
非経口投与剤とする場合は、薬学的に許容されており、かつ本発明のエピトープ・ペプチドの活性を妨げない担体である、水、食塩、デキストロース、エタノール、グリセロール、DMSOなどとともに製剤にすればよい。その他、必要に応じてアルブミン、湿潤剤、乳化剤などを含んでいてもよい。また、細胞性免疫の賦活化のために、エピトープ・ペプチドは適当なアジュバントとともに使用することが望ましい。
本発明のペプチドは、中性又は塩の形態で使用できる。薬学的に許容される塩としては、塩酸、リン酸のような無機酸の塩、酢酸、酒石酸のような有機酸の塩が挙げられる。
【0087】
また、本発明のペプチドは、それ自体又はHLA−A2402と相互作用してCTLによるこのペプチドの認識を増強する化合物、又は、このペプチドを免疫学的に認識する抗体などとともに製剤とすることにより、その活性を調節することができる。
【0088】
本発明のペプチドをパルスした抗原提示細胞及び主要組織適合抗原複合体も同様にして癌ワクチンとして好適に使用できる。剤形、投与対象、適用可能な癌の種類、効果などは本発明のペプチドからなる癌ワクチンと同様である。
治療方法
本発明のペプチド、抗原提示細胞及び主要組織適合抗原複合体は、それぞれ、白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに投与することにより、Ep−CAM特異的なHLA−A2402拘束性CTLの誘導又は活性化を介して、上皮性癌を治療又は改善することができる。
【0089】
本発明のペプチドの投与量は、CTLによるこのペプチドの認識の程度により変化するが、ヒト成人に対して、活性を有するエピトープ・ペプチド本体を、例えば0.01mg〜100mg/日程度、好ましくは0.1mg〜30mg/日程度投与すればよい。投与間隔は、患者と投与目的に応じて適宜定めればよい。
【0090】
或いは、患者の末梢血より単核細胞画分を採取し、本発明に係るペプチドと共に培養し、CTLが誘導及び/又は活性化された単核細胞画分を患者の血液中に戻すことによっても、有効な癌ワクチン効果が得られる。ヒト成人に対して、10〜1010個/日程度のCTLを投与できるように、培養時の単核細胞濃度、本発明のペプチドの濃度等の培養条件を定めればよい。これらの条件は、簡単な実験により容易に決定できる。さらに、培養時、インターロイキン−2等のリンパ球増殖能を有する物質を添加してもよい。
【0091】
また抗原提示細胞は、ヒト成人に対して、例えば10〜10個/日程度、好ましくは10〜10個/日程度投与すればよい。また、患者の末梢血より採取した単核細胞画分と本発明の抗原提示細胞とを共培養し、患者の血液中に戻すことによっても、有効な癌ワクチン効果が得られる。
【0092】
また主要組織適合抗原複合体は、ヒト成人に対して、例えば1〜100mg/日程度、好ましくは5〜50mg/日程度投与すればよい。また、患者の末梢血より採取した単核細胞画分と本発明の主要組織適合抗原複合体とを共培養し、患者の血液中に戻すことによっても、有効な癌ワクチン効果が得られる。
癌の遺伝子治療剤
また、本発明のポリヌクレオチド(相補鎖を含む)は、例えば肺癌、大腸癌、胃癌、乳癌及び口腔癌等の遺伝子治療剤として有用である。
【0093】
癌の治療に当たっては、本発明のポリヌクレオチドをベクターに担持させ、直接体内に導入してもよく、又ヒトから細胞を採取してベクターを導入した後体内に戻すこともできる。ベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス等の遺伝子治療に使用できることが知られているものを制限なく使用できるが、レトロウイルスが推奨される。なお、これらウイルスは複製欠陥性である。
【0094】
また、本発明のポリヌクレオチドをリポソームに封入して送達するマイクロインジェクションなどを使用して細胞に導入することもできる。
【0095】
このように、本発明の癌の遺伝子治療剤は、本発明のポリヌクレオチド単独、本発明のポリヌクレオチドを含む組換えベクター、本発明のポリヌクレオチドが封入されたリポソーム等のいずれの形態であってもよい。
【0096】
本発明のポリヌクレオチドの投与量は、CTLによるこのポリヌクレオチドがコードするペプチドの認識の程度により異なるが、ヒト成人では、本発明のエピトープ・ペプチドをコードするポリヌクレオチド部分の含量として、例えば0.1μg〜100mg/日間程度、好ましくは1μg〜50mg/日間程度とすればよい。この量を数日から数ヶ月に1回投与すればよい。
本発明のポリヌクレオチドは、例えばIL−2のようなサイトカイン、又は本発明のポリヌクレオチドと相互作用してその発現を増強する物質と組み合わせて使用することができる。
(IX)細胞傷害性Tリンパ球
本発明の細胞傷害性Tリンパ球は、以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を用いて末梢血リンパ球を刺激することにより得られるものである。
(a)本発明のペプチド
(b)本発明の抗原提示細胞
(c)本発明の主要組織適合抗原複合体
(d)本発明の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
本発明のCTLは、末梢血リンパ球を上記(a)〜(d)のいずれか1以上とともに、好ましくはヒト血清を含むRPMI1640培地で温度37℃程度で7〜14日間程度培養することにより誘導される。末梢血リンパ球を主要組織適合抗原複合体(以下、「MHC」という)又はそのテトラマーを用いて刺激する場合は、CTLは誘導されてこれらと結合する。従って、CTLをMHC又はそのテトラマーから適当な方法で分離すればよい。
【0097】
具体的には、CTLは、例えば以下の調製方法によって得ることができる。
エピトープ・ペプチド又は抗原提示細胞を用いて刺激する場合
末梢血から分離したリンパ球を、本発明のペプチド又はこのペプチドをパルスした抗原提示細胞とともに、炭酸ガス恒温槽にて37℃程度で、7〜10日間程度培養する。次いで、好ましくはIL−2、PHA、抗CD3抗体等を添加して7〜14日間程度インキュベートすることによりCTLを刺激及び増殖させる。
【0098】
このペプチド又は抗原提示細胞による刺激と、必要に応じてIL−2等による刺激とからなるサイクルを3サイクル程度繰り返すことにより、必要な細胞数のCTLを確保する。
【0099】
このようにして得られる上皮性癌に特異的なCTLは、例えばヒトアルブミン含有PBS等に懸濁させて、上皮性癌に対する受動免疫療法剤等として使用できる。受動免疫療法剤の剤形は、通常、筋肉内注射剤、皮下注射剤、静脈内注射剤などの注射剤とすればよい。
MHC又はそのテトラマーにより刺激する場合
<染色により分離する方法>
リンパ球を末梢血等から分離し、例えばPBS中で適当な濃度のMHC又はMHC−テトラマーと4〜25℃程度で、30〜60分間程度反応させる。反応液にFITC又はPEのような標識色素を添加することにより、MHC又はMHC−テトラマーと結合したCTLを染色する。次いで、フローサイトメーター又は顕微鏡などを用いて染色されたCTLを単離する。
<MHCを固相化することにより分離する方法>
表面にMHC又はMHC−テトラマーを固相化した無菌プレートを用いて、フラスコ中で末梢血から分離したリンパ球と固相化MHC又はそのテトラマーとを4〜25℃程度で、30〜60分間程度反応させる。次いで、結合せずに浮遊している他の細胞を洗い流した後に、プレート上に残った上皮性癌に特異的なCTLを新しい培養液に懸濁する。このようにして単離された上皮性癌に特異的なCTLは、抗CD3抗体、PHA、IL−2等のT細胞刺激薬剤で刺激することにより、受動免疫療法剤として使用するのに必要な細胞数まで増殖させればよい。
<磁気ビーズを用いる方法>
前述したようにして調製したビオチン化MHCをストレプトアビジン標識磁気ビーズと結合させ、結合体(以下、「MHC-磁気ビーズ」と称する)を作製する。次いで、リンパ球を末梢血等から分離し、これに適当な濃度のMHC−磁気ビーズをリンパ球:ビーズ比が1:5〜20程度となるように添加して反応させる。
【0100】
MHC−磁気ビーズと結合した上皮性癌に特異的なCTLの入った試験管を磁場におくと、ビーズと結合したCTLは磁石側の試験管内壁に寄せられる。
【0101】
このようにしてビーズと結合したCTLを試験管内壁に付着させた状態でそれ以外の細胞を洗い流した後、試験管を磁場から外して、試験管内に残った抗原特異的CTLを新しい培養液に懸濁する。
このようにして単離された上皮性癌に特異的なCTLは、抗CD3抗体、PHA、IL−2等のTリンパ球刺激薬剤で刺激することにより、受動免疫療法剤として使用するのに必要な細胞数まで増殖させればよい。
<癌の治療又は改善方法>
本発明のCTLは、受動免疫療法剤として、上皮性癌の患者に投与することにより、癌を治療又は改善できる。
【0102】
投与量は、患者及び投与目的により異なるが、ヒト成人に対して、例えば10〜1011個/日程度、好ましくは10〜1010個/日程度とすればよい。この量を数日〜数ヶ月に1回の間隔で投与すればよい。
(X)CTLの定量方法
上皮性癌に特異的なCTLが、癌のハイリスクの患者(癌細胞又は癌組織に由来する何らかの原因により免疫能が低下した人、合併症を有する患者、高齢者、幼小児、妊婦等)の末梢血に存在するか否かを知ることは、抗癌剤や化学療法剤の適正な使用を含む癌治療管理の上で重要である。上皮性癌に特異的なHLA−A2402拘束性CTLの定量は、以下の方法により行える。
【0103】
即ち、末梢血に以下の(a)〜(d)のいずれかを作用させる工程と、末梢血中のCTL又はそれが産生するサイトカインを定量する工程とを含む方法である。
(a)本発明のペプチド
(b)本発明の抗原提示細胞
(c)本発明のMHC
(d)本発明のMHCのテトラマー
得られた値を、濃度既知のHLA−A2402拘束性CTL溶液を用いて同様にして求めた定量値と比較することにより、被験抹消血中のHLA−A2402拘束性CTL濃度を算出すればよい。
【0104】
上記(a)〜(d)のいずれかにより誘導されたHLA−A2402拘束性CTL又はそれが産生するサイトカインの定量方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
エピトープ・ペプチドを用いる場合
末梢血から分離されたリンパ球を本発明のペプチドで刺激し、それにより誘導されるCTL数又はそれが産生するインターフェロン−γ(IFN-γ)、インターロイキン等のサイトカイン(ケモカインを含む)量を定量すればよい。以下にIFN−γを例にとり具体的に方法を示す。
<細胞内IFN−γ産生細胞の定量>
末梢血から分離したリンパ球を10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2x106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCTLエピトープ・ペプチドを1μg/mlの濃度で加える。さらに細胞内蛋白輸送阻止剤であるBrefeldin A等を加え、炭酸ガス恒温槽にて37℃で5〜6時間培養する。培養後、細胞を固定、膜透過処理を行い、色素標識抗IFN−γ抗体と反応させる。フローサイトメーター等を用いて、CD8陽性リンパ球中のIFN−γ陽性細胞を定量する。
<CD8陽性細胞の定量>
上記の細胞内IFN−γ産生細胞の定量方法において、色素標識抗IFN−γ抗体に代えて抗CD8抗体を用いることにより、標識されたCD8陽性細胞を定量できる。
<サイトカインの定量(エリスポットアッセイ)>
96穴MultiScreen-HAプレート(Mi11ipore)を抗IFN−γモノクローナル抗体で一 晩、4℃でコーティングし各ウェルをPBSで洗浄した後、末梢血から分離したリンパ球を各ウェルにまく。エピトープ・ペプチドを各ウェルに入れ37℃の5%CO2培養器にて20時間培養する。翌日、0.05%ツィーン−20添加PBSでプレートを洗浄した後、抗IFN−γウサギ血清、ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgGヤギ血清の順で各々90分ずつ室温で反応させる。さらに3−アミノ9−エチルカルバゾール(3-amino-9-ethylcarbasole :Sigma社)と0.015%の過酸化水素水を含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)を各ウェルに入れ、室温で40分反応させる。IFN−γスポットを可視化し、実体顕微鏡でカウントする。
<培養上清中に分泌されたサイトカインを定量する方法>
末梢血から分離したリンパ球を10%ヒト血清含有RPMI1640培地に2x106/mlの細胞濃度で浮遊させ、本発明のCTLエピトープ・ペプチドを1μg/mlの濃度で加える。炭酸ガス恒温槽にて37℃で、24−48時間培養する。培養後、上清を回収し、その中に含まれるIFN−γ濃度を市販のELISAキット(例えばENDOGEN社のHUMAN IFN gamma ELISA)を使用して定量する。
MHCテトラマーを用いる場合
末梢血などからリンパ球を分離し、濃度1〜100μg/ml程度のMHCテトラマー(ストレプトアビジンを蛍光標識したもの)と37℃で15分間反応させる。反応液にMHCと結合したCTLに結合する抗体であって別の蛍光で標識したものを添加することにより、MHCと結合したCTLを染色する。染色したCTLをフローサイトメーター又は顕微鏡等を用いてカウントすればよい。
実施例
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0105】
1)ドナー及び細胞株
愛知県がんセンターの倫理委員会によって許可された研究計画と目的は、全ドナーに充分説明された。試験用末梢血のサンプルをインフォームド・コンセントの後に5名のHLA−A2402陽性健康ドナーから得た。即ち、前記各ドナーから採取した末梢血から、遠心分離により形成したフィコール密度勾配法により、末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。
【0106】
ヒト肺癌細胞株である大細胞癌LU99(JCRB0080) 細胞;ヒトの扁平上皮癌HSC−2(JCRB0622) 細胞;ヒト胃癌細胞株である扁平上皮癌MKN28(JCRB0253) 細胞、MKN45(JCRB0254) 細胞;及びヒト大腸癌細胞株である扁平上皮癌COLO320DM(JCRB0225又はATCC:CCL-220)細胞)は、JCRB細胞バンク(厚生労働省:http//Cellbank.nihs.go.jp/)より購入した。ヒト肺癌細胞株である扁平上皮癌LC−1/sq(RCB0455)は、理研細胞バンクより購入した。
【0107】
LC/sq細胞は、10%FCS、L−グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、及びカナマイシンを有する栄養補助液を添加した45%RPMI1640培地(シグマ社製)及び、45%Ham‘sF12(シグマ社製)中で維持した。COLO320DM細胞及びMKN28はDMEM培地(シグマ社製)中で維持した。K562細胞は10%FCS(ウシ胎児血清:ライフテクノロジー社製)、L−グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、及びカナマイシンを有する栄養補助液を添加したIMDM培地(シグマ社製)中で維持した。
【0108】
その他の癌細胞株は、10%FCS、2x10−3M L−グルタミン、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、100μg/mlカナマイシン及び5x10−5Mβ−メルカプトエタノール(完全培地として)を含む補助液を添加したRPMI1640培地を用いて培養した。
【0109】
ペプチド提示用の細胞として174CEM.T2(以下、「T2細胞」と称する)にHLA−A2402遺伝子を導入し、HLA−A2402結合ペプチドを提示する細胞(以下、「T2−24細胞」と称する)を得た。T2−24細胞は10%牛胎児血清、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、G418(ギブコ社製)を添加したIMDM培地(Iscove's modified Dulbecco's medium:ギブコ社製)を用いて培養した。
【0110】
Tissue antigens, 59:502-511,2002に記載された方法により、HLA−A2402をコードしているレトロウイルスを、それぞれQG56のHLA−A2402陰性細胞株及びA549(JCRB0076)のHLA−A2402陰性細胞株に感染させた。感染した細胞を選択するため、感染したQG56細胞を最終濃度0.6μg/mlのピューロマイシンを含む完全培地中に維持し、QG56−A24と命名した。同様に、感染したA549を最終濃度0.9μg/mlのピューロマイシンを含む完全培地中に維持し、A549−A24と命名した。
2)ペプチド合成
Ep−CAM蛋白(アクセッション番号:M33011)の範囲内の潜在的なHLA−A2402結合ペプチドを同定するために、ワールド・ワイド・ウェブサイト・バイオインフォマティクス&分子分析セクション(BIMAS:BioInfomatics and molecular analysis section)のHLAペプチド複合体の解離半減時間の評価に基づいた、HLAペプチド結合予測プログラムを使用するコンピュータ予測を行った(http://bimas.dcrt.gov/molbio/hla_bind/)。
【0111】
Ep−CAMのエピトープ・ペプチド予測結果の中から選択した7つのペプチドをPepSet(Mimotope社製)で合成した。必要に応じて100μLのジメチル・スルフォキシドに溶解し、40%アセトニトリル、0.1M (pH7.4)に更に希釈した。
【0112】
各ペプチドの産生量は1μmolであると推測された。
【0113】
合成された7つのペプチドは、Ep31、Ep173、Ep185、Ep250、Ep225、Ep296、及びEp304として命名した。合成されたEp−CAMのペプチド配列を表1に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
なお、コントロールとして、ヒト免疫不全ウイルス−1(HIV-1)エンベロープ・ペプチドRYLRDQQLL(J.Immunol,159:6242-6252,1997:584-592残基、ENV584として命名されている)及びEBVlatent膜蛋白2ペプチド(EBV latent membrane)(J.Immnol,158:3325-3334,1997:419−427残基、EBV−LMP419として命名されている)を合成した(東レ・リサーチセンター社)。
3)細胞染色及びフローサイトメトリー分析
HLA−A2402分子の細胞表面発現HLA−A2402モノクローナル抗体(ワン・ラムダ社製:One Lambda, Inc)とFITC標識抗マウスIgG(ab’)断片(イムノテック社製)を用いる間接免疫蛍光抗体法によって試験した。MHC/ペプチド・テトラマーは文献記載の方法(Blood,98:1872-1881,2001、Science,274:94-96,1996)に準じて製造した。
【0116】
CD8陽性T細胞株又はクローンをEp−CAMペプチド、Ep173(HLA−A2402/Ep173テトラマーとして呼んだ)又はHIV−1ペプチド、ENV584(HLA−A2402/ENV584テトラマーとして呼んだ)を取り込んでいるフィコエリスリン(phycoerythrin: PE)標識されたHLA−A2402テトラマーで染色した。
【0117】
染色された細胞のフローサイトメトリー分析は、FACSCalibur(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて実施し、データはCellQuestソフトウェア(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて分析した。
MHC安定化アッセイ
合成されたペプチドのHLA−A2402結合効率を試験するため、クズシマ(Kuzushima)らに記載の方法(Blood,98:1872-1881,2001)でT2−A24細胞(T2[174 x CEM.T2:ATCCアクセッション番号:CRL-1992]にHLA−A2402分子を発現するプラスミドをトランスフェクトされた細胞株)を用いるMHC安定化アッセイを行った。
【0118】
即ち、T2−A24細胞(2x10個)を0.1%FCS,5x10−5Mβ−メルカプトエタノールを含む200μL RPMI1640培地及び10μMの濃度でペプチドの各々を26℃で16時間インキュベーションした。さらに37℃で3時間インキュベーションした。インキュベーション後、細胞表面HLA−A2402分子を抗HLA−A2402モノクローナル抗体及び上記(3)のFITC標識抗体で染色した。発現は、FACSCaliburによって測定し、平均蛍光強度(MFI:mean fluorescence intensity)を記録した。
【0119】
%MIF上昇は以下の方法で計算した:
%MIF上昇=100x(ペプチド投与群のMIF−ペプチド非投与群のMIF)/(ペプチド非投与群のMIF)
その結果を表1に%MFI上昇として示す。表1に示されるように多くのペプチドは、これらのペプチドが細胞表面上に結合し、MHCが安定化されることを示している細胞上のHLA−A2402分子発現が上昇した。
【0120】
中でもペプチドEp173(RYQLDPKFI)がHLA−A2402分子に対して最も高い親和性を示した。Ep304(EMGEMHREL)は最も低い親和性を示したので、以後の実験から排除した。
5)Ep−CAMペプチド特異的CTL株及びクローンの産生
末梢血単球誘導された樹状細胞(DCs)はダゥアー(Dauer)らの方法に準じて産生させた(J.Immnol,170:4069-4076)。
【0121】
即ち、プラスチックに粘着する細胞をHLA−A2402陽性健康ボランティアの末梢血単球細胞から単離し、5%加熱不活性化ヒト血清、10μg/mL組換え体ヒト・インターロイキン−4(hIL−4:R&Dシステムズ社製)、及び50ng/mL組換え体ヒト・顆粒球−マクロファージ・コロニー刺激因子(hGM−CSF:R&Dシステムズ社製)を共に添加されたRPMI1640培地中において培養した。次いで1日インキュベーションの後、50ng/mLIL−1β(ペプロ・テック社製)、50ng/mL組換え体ヒト・腫瘍壊死因子−α(hTNF−α:ペプロ・テック社製)及び1μMプロスタグランディンE2(Cayman Chemical Company社製)を細胞の成熟のために添加した。2〜3日経過後、細胞を取得し、抗原提示のために単球誘導樹状細胞として用いた。
【0122】
産生された細胞は、CD1a、CD80、CD83、CD86、HLAクラスII分子のような樹状細胞関連抗原を発現しているように思われた。
【0123】
別途、CD8マイクロビーズ(Milteny Biotec社製)の助けを得て同じドナーからCD8陽性Tリンパ球を単離した。
【0124】
次いで自己由来の樹状細胞を室温にて2〜4時間、5x10−5Mβ−メルカプトエタノールを有するAIM−V培地(ギブコ社製)中で10μM濃度のEp−CAM合成ペプチドの各々でパルスした後、(33Gy)で放射線照射した。
【0125】
その後、樹状細胞(1x10個)は、10%ヒト血清、25ng/mL組換え体ヒトIL−7(R&Dシステムズ社製)、5ng/mL組換え体ヒトIL−12(R&Dシステムズ社製)を添加したRPMI1640培地中においてCD8陽性Tリンパ球(1x10個)と共に培養チューブ中において共培養した。
【0126】
7日間培養後、細胞は前記したように調製された1x10個のペプチド・パルスされた自己由来樹状細胞を加えることによって刺激した。更に7日間の間培養した後、細胞を同様な方法で3回刺激した。各再刺激後、ヒト組換え体IL−2(武田薬品工業社製)を20単位/mlの最終濃度で加えた。必要であれば、活発に増殖している細胞を2−3のチューブに分けて、20単位/mlのIL−2を含む新鮮培養培地を与えた。
【0127】
T細胞の特異性はエリスポットアッセイで試験した。
【0128】
T細胞クローンを確立するために、ポリクローナルCTLの限界希釈を(Blood,98:1872-1881,2001)に沿って実施した。即ち、ポリクローナルCD8陽性T細胞を抗CD3モノクローナル抗体(30ng/ml、オルソ・ダイアグノスティク社製)、IL−2(50U/ml)、γ(33Gy)放射された1x10個のPBMCs及びγ(55Gy)放射された2x10個のEBVでトランスフォームされたBリンパ芽球細胞(ボランティアの末梢血Bリンパ球を95.8細胞(JCRB9123) 上清でトランスフォームすることにより得られた細胞)と共に培養培地(0.2ml)を含んでいる96穴丸底プレート中に細胞1、3、10個/ウェルで蒔いた。
【0129】
2週間培養後、増殖している細胞の特異性をリー(Lee)らが記載した方法(J.Immnol,158:3325-3334,1997)と同様に、CTL−CTL致死(CTL-CTL killing)アッセイで試験した。
【0130】
即ち、CTLクローンを100μlの完全培地のみ、或いは最終濃度2μMでEp−CAMまたはコントロール・ペプチドENV584から誘導された同一起源ペプチドを含んでいる96穴丸底プレート(細胞300個/ウェル)上において一晩インキュベーションした。
【0131】
CTL細胞の細胞傷害能力は、倒立顕微鏡を用いて翌日測定した。Ep−CAMでパルスしたときだけ細胞傷害を示したクローンは、フラスコの中に移し、上記のように増殖させた。
6)IFN−γのエリスポットアッセイ
ニトロセルロース膜がある平底96穴MultiScreen-HAプレート(ミリポア社製)に10μg/mLの抗IFN−γモノクローナル抗体(R&Dシステムズ社製)をコートし、4℃で一晩イキュベ−トした。PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後、プレートを37℃で1時間、培養培地でブロッキングした。T2−A24細胞(5x10個)は、室温で30分間プレートの各ウェル中に0.1%FCS及び5x10Mのβ−メルカプトエタノールと共に100μLのRPMI1640培地中においてに各エピトープ候補合成ペプチドをパルスした。20%の濃度まで付加的FCSで添加された培養培地中に懸濁した1x10個のポリクローナルCD8陽性T細胞の全量を各ウェル中に蒔いた。
【0132】
スポットがカウントするにはあまりに多い場合は、1x10個のCD8陽性T細胞を応答細胞として用いた。そして全ての測定操作は2度、実施した。
【0133】
プレートを37℃で20時間、5%炭酸ガス・インキュベータ中で、インキュベートし、そして0.05%ツィーン20を含むPBSで広範囲に洗浄した。次いでポリクローナルウサギ抗IFN−γ抗体(ジェンザイム社製)を個々のウェルに添加し、室温で90分間放置し、続いて、さらに90分間パーオキシダーゼ複合ヒツジ抗ウサギ抗イムノグロブリンG(ジェンザイム社製)に曝露させた。IFN−γ特異的スポットの可視化のために、3−アミノ−9−エチルカルバゾール(シグマ社製)及び0.015%過酸加水素水を含む0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を各ウェルに加えた。40分後、反応を水洗によって停止させ、プレートを乾燥させた。そして拡散した大きなスポットを顕微鏡下でカウントした。
【0134】
その結果を図1及び図2に示す。
【0135】
図1は、5人のHLA−A2402陽性健康人ドナーのCD8陽性T細胞を6つのペプチドの各々でパルスした自己由来の樹状細胞で刺激させた結果のエリスロット・アッセイによるポリクローナル・ペプチド活性化細胞傷害性リンパ球細胞株の評価を示す。
【0136】
図1に示されるように5人のHLA−A2402陽性健康人ドナーのCD8陽性T細胞を6つのペプチドの各々でパルスした自己由来の樹状細胞で刺激させた結果、4人のドナーからのT細胞株がEp173でパルスしたT2−A24細胞でインキュベートした時にIFN−γスポットの優位な量を産生した。
【0137】
また、ドナー番号3からのEp250刺激されたCTL株が、Ep250でインキュベートした時に特異的にIFN−γのスポットを産生した。
【0138】
図2は、Ep−CAMペプチド特異的ポリクローナル及びモノクローナルCTLのテトラマー染色の結果を示す。
【0139】
図2のAは、Ep173で4回刺激したポリクローナルCD8陽性T細胞がFITC標識された抗CD8抗体及びEp173が取り込まれているPE標識されたHLA−A24テトラマー、又はコントロール・ペプチドENV584で染色され、フローサイトメトリーによって分析された。全CD8陽性T細胞におけるテトラマー陽性細胞のパーセントが上段右に示されている。
【0140】
図2のAに示されるようにコントロール・ペプチドENV584の多くでは、スポットの産生はなかった。4回の刺激の後、4人のドナーから確立したCTL株がHLA−A2402/Ep173テトラマーで特異的に染色したが、HLA−A2402/ENV584テトラマーでは染色しなかった(全CD8陽性T細胞の37.2% v. 0.06%、図2A)。
【0141】
また、図2Bは、Ep173特異的CTLクローン、C27が上記と同様の方法で染色された。全CD8陽性T細胞におけるテトラマー陽性細胞のパーセントが上段右に示されている。
【0142】
第2図Bに示されるようにテトラマー陽性細胞の強度は、2−3対数までテトラマー陰性細胞のそれより同等で強かった。本発明者らは、ドナー番号4のEp173特異的ポリクローナルCTL株の限界希釈培地からT細胞クローン、C27を確立した。
【0143】
テトラマーでのこの研究は、ポリクローナル及びモノクローナルEp173−特異的CD8陽性T細胞の両者が、HLA−A2402/Ep173複合体に指向する高親和性の細胞レセプターを持っていたことを示した。
【0144】
かくして、Ep173−特異的CTLクローンが、このCTL細胞株から樹立された。
【実施例2】
【0145】
ペプチドEp173−特異的CTLクローンの特性1
7)CTLアッセイ(CTLアッセイ)
本発明者らは、C27がHLA−A24の前後関係において腫瘍細胞の表面上において自然に生じて、提示されたペプチドを認識するかどうかをさらに試験した。
【0146】
クロミニウム標識細胞をC27の添加前に総HLAクラスI、HLA−A24、或いはHLA−A2分子に特異的なモノクローナル抗体のいずれかで、インキュベートし、細胞傷害性アッセイを10のエフェクター−標的比で実施した。
【0147】
即ち、標的細胞(PC9細胞)を37℃で1時間の間100μlの培養培地中においてクロミウム(51Cr)で標識した。幾つかの実験において、事前に特定した量のブロッキング抗体W6/32(抗HLAクラスI)、MA2.1(抗HLA−A2)、及びA11.1(抗HLA−A24)をHLA拘束の特定のためにエフェクター細胞を加える30分前にウェルに加えた。
【0148】
プレートを37℃で4時間インキュベーションし、そして上澄みをγ―カウンターでカウントした。
【0149】
特異的51Cr遊離パーセントは、100 x (実験的な遊離−自然の遊離)/(最大遊離−自然の遊離)で計算した。
【0150】
その結果を図3及び図5に示す。
【0151】
図3中Aは、ペプチドEp173及びコントロール・ペプチドEBV−LMP419の示された濃度におけるT2−A24細胞に対するC27、Ep173特異的CTLクローンの細胞傷害性を1のエフェクター−標的比における51Cr遊離アッセイによって特定されている。
【0152】
その結果、Ep173−特異的CTLクローン、C27は100pMの低いペプチド濃度のEp173でパルスしたT2−A24細胞に対して細胞傷害性を示したが、コントロール・ペプチドのEBV−LMP419では示さなかった。
【0153】
また、種々の癌細胞株に対するC27の細胞傷害性の結果を第5図及び表2に示した。
【0154】
【表2】

【0155】
標的細胞としてHLA−A24陽性の8種の癌細胞株及びHLA−A24陰性の癌細胞株に対するC27、Ep173−特異的CTLクローンの細胞傷害性の結果を表2に示す。
【0156】
肺腺癌細胞株11−18、COLO320DM及びA549を除く全ての細胞株は、Ep−CAMを発現していた。HLA−A2402遺伝子は、A549及びQG56の中にレトロウイルス的に形質転換され、A549−A24及びQG56−A24として名づけられた形質転換体は、それぞれ標的細胞としても使用された。細胞傷害性は、指摘された各エフェクター−標的比(40:1,20:1,10,1,5:1)で51Cr遊離アッセイによって特定した。K562はナチュラルキラー細胞に対して感受性の代表的な細胞株である。
【0157】
該第5図又は表2に示されるように、C27は、肺癌細胞株のPC9、LU99、LC−1/sq及びLC99A、或いは口頭扁平上皮細胞腫瘍細胞株HSC−2、或いはHLA−A24及びEp−CAMの両者を発現する胃癌細胞株MKN45を効率的に傷害した。しかしながら、HLA−A24陽性Ep−CAM陰性細胞株(A549-A24及びCOLO320DM)、或いはHLA−A24陰性及びEp−CAM陽性細胞株又はEp−CAM陰性細胞株(OG56、A549、MNK28)のいずれかに対する殺傷効果は認められなかった。HLA−A2402遺伝子をHLA−A24陰性QG56細胞(QG56-A24)の中に導入したとき、C27は標的細胞を殺した。K562細胞に対する傷害性はわずかであった。
【0158】
これらのデータはEp173−特異的CTLがHLA−A24及びEp−CAMの両者を発現する腫瘍細胞を殺すことを証明した。
【0159】
また、第3図中Bは、HLA−A2402陽性細胞株、PC9に対するEp173−特異的CTLクローン、C27の細胞傷害性に関する抗HLA−A24モノクローナル抗体の抑制効果を示している。
【0160】
即ち、C27は、肺癌細胞株のPC9細胞(HLA−A24陽性Ep−CAM陽性肺癌細胞株)に対するC27の細胞傷害性は、HLA−A24又は汎クラスI分子(W6/32)に対する特異的モノクローナル抗体によってブロックされたが、抗HLA−A2モノクローナル抗体によってはブロックされなかった。
8)コールドターゲットインヒビションアッセイ(cold target inhibition assay)
コールドターゲットインヒビションアッセイは、アライ(Arai)ら(Blood,97:2903-2907,2001)に記載のように実施した。
【0161】
即ち、T2−A24細胞を最終濃度1x10−5Mで1時間エピトープペプチドEp173、又はEBV−LMP419でインキュベートした。
【0162】
数回洗浄した後、ペプチド−パルスされたT2−A24細胞と標的細胞との比が40:1、20:1、10:1、5:1になるように数を合わせて、2x10個のエフェクター細胞と1時間の間インキュベーションした。そして2x10個の51Cr標識されたPC9細胞を各ウェルに加えた。
細胞傷害性は、7)CTLアッセイの項目に記載したようにして測定した。
【0163】
第3図中Cは、コールドターゲットインヒビションアッセイの結果を示す。図3C中、Ep173(●)又はコントロールEBV−LMP419(■)ペプチドをパルスしたT2−A24細胞(コールド)と、クロミニウム標識PC9細胞(ホット)との数比を横軸に示す。またC27によるPC9細胞の傷害性を%として縦軸に示す。オープン・サークルはコールド標的なしの細胞傷害性を示す。
【0164】
その結果、PC9細胞に対するC27介在細胞傷害性が、Ep173をパルスされたT2−A24細胞の存在によって特異的に抑制されたが、無関係なペプチドでは抑制されなかった。
【0165】
このように、C27介在PC9細胞傷害性が抗HLA−A24モノクローナル抗体又はEp173−パルスされたコールド標的細胞のいずれかによってブロックされたので、CTLクローンは、腫瘍細胞の表面上に自然に提示されるEp173に対する卓越した特異性を疑う余地なく証明した。
【実施例3】
【0166】
ペプチドEp173−特異的CTLクローンの特性2
9)RT−PCR
全RNAはGenElute mRNA Miniprepキット(シグマ社製)を使用し、培養された細胞株から抽出した。遺伝子特異的オリゴヌクレオチド・プライマーはProligo(プロリゴ・ジャパン社製)で合成し、Ep−CAMのmRNA発現を評価するために使用した。RT−PCRに用いたプライマーを以下の示した:
フォワード・プライマー:ATGGCGCCCCCGCAGGTCCT (配列番号8)
リバース・プライマー :TTATGCATTGAGTTCCCTATGCATCTCACC (配列番号9)
RT−PCRはサーマル・サイクラー(パーキン・エルマー社製)を用いて実施し、PCR産物は1.5%ゲル電気泳動とエチジウム・ブロマイド視覚化によって分析した。
【0167】
PCRは、94℃で5分間を1サイクル、94℃で30秒間、58℃で30秒間、72℃で1分間のセットを30サイクル、72℃で7分間を1サイクルの条件で行った。
10)ウェスタン・ブロット分析
ウェスタン・ブロット分析は、シュワルツら(J.Immnol,165:768-778,2000)の方法を少し修飾して実施した。即ち、細胞は、4℃で30分間溶解緩衝液(50mMトリス/塩酸、pH7.5、5mM塩化マグネシウム、1mM EDTA、0.5%トリトンX−100、10μM ロイペプチトン:leupeptin、2.8μMペプスタイン:pepstain、 及び0.85mMフェニルメタンスルフォニルフロリド:phenylmethanesulfonyl fluoride)において溶解した。溶解された細胞核上清は蛋白濃度を測定するために波長280/260nmで定量した。そして、さらに130μgの蛋白部分を12%SDS−PAGEに付した。蛋白は、Immobilon−P膜(ミリポア・コーポレーション社製)上にブロットされ、4℃で一晩100%低脂肪乾燥ミルク及び0.1%ツィーン20を含むPBSでブロックした。
【0168】
さらにEp−CAMに特異的なモノクローナル抗体(LabVision社製)で探して、パーオキシダーゼ複合ヒツジ抗マウスIgG(Zymed社製)で検出した。
【0169】
蛋白はECLウェスタン・ブロット検出システム(アマシャム・バイオサイエンシズ社製)を用いて視覚化した。
【0170】
癌細胞株のEp−CAM発現をRT−PCR及びウェスタン・ブロット分析によって試験した結果を第4図に示す。
【0171】
15種の癌細胞株の12株(80%)がEp−CAMを発現しているように思われた。HLA−A24の発現は、抗HLA−A24モノクローナル抗体を使用する間接免疫蛍光試験によって試験した。試験した15の癌細胞株のうち、10株がHLA−A24発現陽性であった。
【0172】
上記実施例に示されたように、本発明者らは、Ep−CAMから誘導された新規なHLA−A2402拘束性エピトープを得た。少なくとも、エピトープペプチド、Ep173(RYQLDPKFI;配列番号1)はHLA−A2402/ペプチド複合体に指向する高親和性T細胞レセプターを保有するCTLを誘導する能力を持っており、該ペプチドを用いた免疫療法が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明のペプチドは、HLA−A2402を有する広範囲のヒトの上皮性癌に対する癌ワクチンとして好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)、(2)、(3)又は(4)のペプチド。
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(3) 配列番号1において1又は2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得る変異体ペプチド
(4) 配列番号2において1又は2以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつHLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得る変異体ペプチド
【請求項2】
以下の(1)又は(2)のペプチド。
(1) 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
(2) 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチド
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含む癌ワクチン。
【請求項4】
癌が上皮性癌である請求項3に記載の癌ワクチン。
【請求項5】
癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である請求項3又は4に記載の癌ワクチン。
【請求項6】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための請求項3、4又は5に記載の癌ワクチン。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のペプチドを有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項8】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための請求項7に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項9】
以下の(5)、(6)、(7)又は(8)のポリヌクレオチド。
(5) 配列番号10に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(6) 配列番号11に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド
(7) 配列番号10に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得るペプチドをコードする変異体ポリヌクレオチド
(8) 配列番号11に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、HLA−A2402分子と複合してHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球に認識され得る又はこれを誘導し得るペプチドをコードする変異体ポリヌクレオチド
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを有効成分として含む上皮性癌の遺伝子治療剤。
【請求項11】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項12】
請求項11に記載の組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項13】
請求項12に記載の形質転換体を培養する工程と、培養物から請求項1又は2に記載のペプチドを回収する工程とを含む請求項1又は2に記載のペプチドの製造方法。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のペプチドがパルスされた抗原提示細胞。
【請求項15】
請求項14に記載の抗原提示細胞を有効成分として含む癌ワクチン。
【請求項16】
癌が上皮性癌である請求項15に記載の癌ワクチン。
【請求項17】
癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である請求項15又は16に記載の癌ワクチン。
【請求項18】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための請求項15、16又は17に記載の癌ワクチン。
【請求項19】
請求項14に記載の抗原提示細胞を有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項20】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための請求項19に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項21】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、主要組織適合抗原とが複合した主要組織適合抗原複合体。
【請求項22】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、HLA−A2402分子と、β2ミクログロブリンとの複合体である請求項21に記載の主要組織適合抗原複合体。
【請求項23】
請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体を有効成分として含む癌ワクチン。
【請求項24】
癌が上皮性癌である請求項23に記載の癌ワクチン。
【請求項25】
癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である請求項23又は24に記載の癌ワクチン。
【請求項26】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための請求項23、24又は25に記載の癌ワクチン。
【請求項27】
請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体を有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項28】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための請求項27に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項29】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、主要組織適合抗原とが複合した主要組織適合抗原複合体のテトラマー。
【請求項30】
以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を用いて末梢血リンパ球を刺激することにより得られる細胞傷害性Tリンパ球。
(a) 請求項1又は2に記載のペプチド
(b) 請求項14に記載の抗原提示細胞
(c) 請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 請求項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
【請求項31】
前記(a)〜(d)のいずれか1以上を用いて末梢血リンパ球を刺激することにより主要組織適合抗原複合体又は/及びそのテトラマーと細胞傷害性Tリンパ球との結合体を形成し、この結合体から単離することにより得られるものである請求項30に記載の細胞傷害性Tリンパ球。
【請求項32】
請求項30又は31に記載の細胞傷害性Tリンパ球を有効成分として含む癌の受動免疫療法剤。
【請求項33】
癌が上皮性癌である請求項32に記載の受動免疫療法剤。
【請求項34】
癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である請求項32又は33に記載の受動免疫療法剤。
【請求項35】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトのための請求項32、33又は34に記載の受動免疫療法剤。
【請求項36】
末梢血に以下の(a)〜(d)のいずれかを作用させる工程と、
(a) 請求項1又は2に記載のペプチド
(b) 請求項14に記載の抗原提示細胞
(c) 請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 請求項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
末梢血中の細胞傷害性T細胞又はそれが産生するサイトカインを定量する工程と
を含む末梢血中のHLA−A2402拘束性細胞傷害性Tリンパ球の定量方法。
【請求項37】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに、以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を投与する癌の治療又は改善方法。
(a) 請求項1又は2に記載のペプチド
(b) 請求項14に記載の抗原提示細胞
(c) 請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 請求項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
【請求項38】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの末梢血から単核細胞画分を採取する工程と、
単核細胞画分を以下の(a)〜(d)のいずれか1以上と共に培養する工程と、
(a) 請求項1又は2に記載のペプチド
(b) 請求項14に記載の抗原提示細胞
(c) 請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 請求項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
細胞傷害性Tリンパ球が誘導及び/又は活性化された単核細胞画分を患者の血液中に戻す工程と
を含む癌の治療又は改善方法。
【請求項39】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに、以下の(a)〜(d)のいずれか1以上を投与する細胞傷害性Tリンパ球の誘導方法。
(a) 請求項1又は2に記載のペプチド
(b) 請求項14に記載の抗原提示細胞
(c) 請求項21又は22に記載の主要組織適合抗原複合体
(d) 請求項29に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー
【請求項40】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトに、請求項30又は31に記載の細胞傷害性Tリンパ球を投与する癌の治療又は改善方法。
【請求項41】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項14に記載の抗原提示細胞上に提示された腫瘍抗原エピトープ・ペプチドと、HLA−A2402分子と、β2ミクログロブリンとの複合体のテトラマーである請求項21に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマー。
【請求項42】
請求項41に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマーを有効成分として含む癌ワクチン。
【請求項43】
癌が上皮性癌である請求項42に記載の癌ワクチン。
【請求項44】
癌が大腸癌、肺癌、乳癌、胃癌、口腔癌、膵癌、食道癌、上咽頭癌、子宮癌、前立腺癌、胆嚢癌からなる群より選ばれる癌である請求項42又は43に記載の癌ワクチン。
【請求項45】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための請求項42、43又は44に記載の癌ワクチン。
【請求項46】
請求項41に記載の主要組織適合抗原複合体のテトラマーを有効成分として含む細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。
【請求項47】
白血球抗原としてHLA−A2402を有するヒトの治療のための請求項46に記載の細胞傷害性Tリンパ球の誘導剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/068632
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517110(P2005−517110)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000587
【国際出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】