説明

NAPを用いる併用治療の方法

本発明は、別の治療剤と併用してADNF IIIポリペプチドを用いる神経変性症、多発性硬化症、または統合失調症の処置に関する。アルツハイマー病を含むタウオパシーなどの認知症関連状態および加齢関連認知症によって引き起こされる神経変性症を含む神経変性症は、ADNF IIIポリペプチドとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との併用によって処置される。多発性硬化症は、ADNF IIIポリペプチドと酢酸グラチラマーとの併用によって処置される。統合失調症は、ADNF IIIペプチドと、アリピプラゾール、クロザピン、ジプラシドン、レスペリドン、クエチアピン、およびオランザピンから選択される抗精神病薬との併用によって処置される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が全ての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる、2008年12月30日に提出された米国特許仮出願第61/141,588号に対する優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、ADNF IIIポリペプチドを別の治療物質と併用して用いる神経変性症、多発性硬化症、または統合失調症の処置に関する。アルツハイマー病などの認知症関連状態、および加齢関連認知症によって引き起こされる神経変性症が含まれる神経変性症は、ADNF IIIポリペプチドとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との併用によって処置される。非アルツハイマー病、または加齢関連タウオプシー(tauopthy)、たとえば進行性核上麻痺に関連する認知症関連状態によって引き起こされる神経変性症は、4-ベンジル-2-(A-ナフチル)-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオンなどのグリコーゲンシンテターゼ3βの阻害剤またはラサジリンが含まれるがこれらに限定されるわけではない他の投薬によって処置される。多発性硬化症は、ADNF IIIポリペプチドと酢酸グラチラマーまたはβインターフェロンとの併用によって処置される。統合失調症は、ADNF IIIペプチドとアリピプラゾール、クロザピン、ジプラシドン、レスペリドン、クエチアピン、およびオランザピンから選択される抗精神病薬との併用によって処置される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
アミノ酸8個のペプチド(NAPVSIPQ=Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln、SEQ ID NO:2)であるNAPは、活性依存性神経保護タンパク質ADNPまたはADNF IIIに由来する(米国特許第6613740号、Bassan et al., J. Neurochem. 72: 1283-1293 (1999))。ADNF III遺伝子内のNAP配列は、齧歯類およびヒトにおいて同一である(米国特許第6613740号、Zamostiano, et al., J. Biol. Chem. 276:708-714 (2001);総説Gozes, Pharmacol Ther. 114:146-154 (2007);および総説Gozes et al., Curr Alzheimer Res. 6(5):455-460 (2009))。
【0004】
細胞培養において、NAPは、広範囲の毒素に対してフェムトモル濃度で神経保護活性を有することが示されている(Bassan et al., 1999;Offen et al., Brain Res. 854:257-262 (2000))。アルツハイマー病の病理の一部を模倣する動物モデルにおいて、NAPは同様に保護的であった(Bassan et al., 1999;Gozes et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 293:1091-1098 (2000);同様に米国特許第6,613,740号を参照されたい)。正常な加齢ラットにおいて、NAPを鼻腔内に投与すると、モリスの水迷路での動作が改善された(Gozes et al., J. Mol. Neurosci. 19:175-178 (2002))。さらに、NAPは、アポトーシスを減少させることによって、虚血損傷後の梗塞体積および運動機能欠如を低減させ(Leker et al., Stroke 33:1085-1092 (2002))、炎症を減少させることによってマウスにおける閉鎖頭部損傷によって引き起こされた障害を低減させた(Beni Adani et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 296:57-63 (2001);Romano et al., J. Mol Neurosci. 18:37-45 (2002);Zaltzman et al., NeuroReport 14:481-484 (2003))。胎児アルコール症候群のモデルにおいて、アルコールの腹腔内注射後の胎児死亡は、NAP処置によって阻害された(Spong et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 297:774-779 (2001);同様にWO 00/53217を参照されたい)。放射標識ペプチドを利用して、これらの試験は、NAPが血液脳関門を通過することができ、鼻腔内処置後(Gozes et al., 2000)、静脈内注射後(Leker et al., 2002)、または腹腔内投与後(Spong et al., 2001)に齧歯類の脳において検出されうることを示した。D-NAPは、安定で経口で利用可能なNAPの全てD-アミノ酸の誘導体であり(Brenneman, et al., J Pharmacol Exp Ther. 309: 1190-7(2004))、意外なことに、調べた系においてNAPと類似の生物活性(効力および効能)を示す(WO0112654)。
【0005】
ADNF-9またはADNF-1としても知られるアミノ酸9個のペプチドであるSAL(SALLRSIPA=Ser-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala、SEQ ID NO:1)は、ADNFの最も短い活性型として同定された(米国特許第6,174,862号を参照されたい)。SALは、インビトロアッセイおよびインビボ疾患モデルにおいて、様々な傷害に応答して中枢神経系のニューロンを生存させ続けることが示されている(たとえば、Gozes et al., 2000;Brenneman et al (1998) J. Pharmacol. Exp. Ther. 285:619-627を参照されたい)。D-SALは、安定で経口で利用可能なSALの全てD-アミノ酸の誘導体であり(Brenneman, et al., J Pharmacol Exp Ther. 309:1190-7 (2004))、意外にも、調べた系においてSALと類似の生物活性(効力および効能)を示す。ADNF-1複合体からの追加の活性なペプチドはWO03/022226に記述されている。
【発明の概要】
【0006】
第一の局面において、本発明は、ヒト被験体において認知症関連障害(タウオパシーまたは加齢プロセスによって引き起こされた認知症など)によって引き起こされた神経変性症を処置または予防するADNF併用治療または方法を提供する。たとえば、認知症関連障害は、アルツハイマー病に関連する認知症であってもよい。併用治療には、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)の活性コア部位を有するADNF IIIポリペプチド;およびアセチルコリンエステラーゼ阻害剤をヒト被験体に投与する段階が含まれる。いくつかの態様において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ヒューペルジン、フプリン(Huprine)、メタンスルホニルフルオリドメトリフォネート、フィソスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム(demarcarium)、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、エドロホニウム、フェノチアジン、4-ベンジル-2-(A-ナフチル)-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン、およびラサジニル(rasaginile)(アジレクト)から選択される。もう1つの局面において、併用治療は、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)の活性コア部位を有するADNF IIIポリペプチドと、メチレンブルー(Rember)、フェニルチアゾリル-ヒドラジド(PTH)、およびアミノチエノピリダジン(ATPZ)などのタウタンパク質凝集阻害剤とをヒト被験体に投与する段階を含む。
【0007】
1つの態様において、ADNF IIIポリペプチドは、完全長のADNF IIIポリペプチドである。
【0008】
1つの態様において、認知症関連疾患を処置するためにADNF併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、式(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)を有し、式中R1は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;R2は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり、ならびにxおよびyは、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しい。
【0009】
もう1つの態様において、ADNF IIIポリペプチドは、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)である。
【0010】
ADNFポリペプチドには、D-アミノ酸が含まれうる。好ましい態様において、D-アミノ酸は、先に開示された活性なコア部位配列に関する。さらに好ましい態様において、ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位は、全てD-アミノ酸を含む。
【0011】
認知症関連障害を処置するためのADNF併用治療のための例示的なADNF IIIポリペプチドには、

が含まれる。
【0012】
もう1つの態様において、ADNF IIIポリペプチドは、活性コア部位のN末端およびC末端の1つまたは双方でアミノ酸最高約20個を有する。さらなる態様において、ADNF IIIポリペプチドは、浸透または活性を増強するために共有結合した親油性部分を含有する。
【0013】
認知症関連障害、たとえばアルツハイマー病および加齢関連認知症を処置するためのADNF併用治療はまた、先に記載したADNF IIIペプチドの代わりにADNF Iペプチドを用いても行われうる。ADNF Iペプチドのコア活性部位は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、ADNF Iペプチドは、ADNF Iコア活性部位配列を含む。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質、およびSEQ ID NO:3〜8が含まれる。ADNF Iコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てはD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNFペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは、全てD-アミノ酸残基からなる、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。
【0014】
いくつかの態様において、先に記述した併用処置を受けている患者はアルツハイマー病などのタウオパシー、パーキンソン病、前頭側頭型認知症(FTD)、大脳皮質基底核変性症、前頭側頭葉変性症(ピック病)、進行性核上麻痺(PSP)、および筋萎縮性側索硬化症(ALS、またはルーゲーリック病)に罹っている。
【0015】
第二の局面において、本発明は、ヒト被験体において多発性硬化症(MS)を処置または予防するADNF併用治療または方法を提供する。併用治療には、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)の活性コア部位を有するADNF IIIポリペプチド;および酢酸グラチラマーまたはβインターフェロンをヒト被験体に投与する段階が含まれる。
【0016】
1つの態様において、MS併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、完全長のADNF IIIポリペプチドである。
【0017】
1つの態様において、MS併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、式(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)を有し、式中R1は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;R2は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり、ならびにxおよびyは、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しい。
【0018】
もう1つの態様において、MS併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)である。
【0019】
ADNF IIIポリペプチドには、D-アミノ酸が含まれうる。好ましい態様において、D-アミノ酸は、先に開示された活性コア部位配列に関する。さらに好ましい態様において、ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位は、全てD-アミノ酸を含む。
【0020】
MS併用治療において用いられる例示的なADNF IIIポリペプチドには、

が含まれる。
【0021】
もう1つの態様において、MS併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、活性コア部位のN末端およびC末端の1つまたは双方でアミノ酸最高約20個を有する。さらなる態様において、ADNF IIIポリペプチドは、浸透または活性を増強するために共有結合した親油性部分を含有する。
【0022】
ADNF MS併用治療はまた、先に記載したADNF IIIペプチドの代わりにADNF Iペプチドを用いても行われうる。ADNF Iペプチドのコア活性部位は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、ADNF Iペプチドは、ADNF Iコア活性部位配列を含む。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質;およびSEQ ID NO:3〜8が含まれる。ADNF Iコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基はADNF Iコア活性部位配列において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNFペプチドは、ADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。
【0023】
いくつかの態様において、コア活性配列(SEQ ID NO:1または2)を含むまたはそれからなるADNFポリペプチドは、MSに罹っている患者を処置するためにインターフェロンβ-1b(同様にBetaferonまたはBetaseronとしても知られる)と併用して用いられる。
【0024】
第三の局面において、本発明は、ヒト被験体における統合失調症を処置または予防するADNF併用治療または方法を提供する。併用治療には、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)の活性コア部位を有するADNF IIIポリペプチド;および抗精神病薬をヒト被験体に投与する段階が含まれる。いくつかの態様において、抗精神病薬は、アリピプラゾール、クロザピン、ジプラシドン、レスペリドン、クエチアピン、およびオランザピンから選択される。
【0025】
1つの態様において、統合失調症の併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、完全長のADNF IIIポリペプチドである。
【0026】
1つの態様において、統合失調症の併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、式(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)を有し、式中R1は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;R2は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり、ならびにxおよびyは、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しい。
【0027】
もう1つの態様において、統合失調症の併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)である。
【0028】
ADNF IIIポリペプチドには、D-アミノ酸が含まれうる。好ましい態様において、D-アミノ酸は、先に開示された活性コア部位配列に関する。さらに好ましい態様において、ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位は、全てD-アミノ酸を含む。
【0029】
統合失調症の併用治療において用いられる例示的なADNF IIIポリペプチドには、

が含まれる。
【0030】
もう1つの態様において、統合失調症の併用治療において用いられるADNF IIIポリペプチドは、活性コア部位のN末端およびC末端の1つまたは双方でアミノ酸最高約20個を有する。さらなる態様において、ADNF IIIポリペプチドは、浸透または活性を増強するために共有結合した親油性部分を含有する。
【0031】
ADNF統合失調症併用治療はまた、先に記載したADNF IIIペプチドの代わりにADNF Iペプチドを用いて行われうる。ADNF Iペプチドのコア活性部位は、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する。いくつかの態様において、ADNF Iペプチドは、ADNF Iコア活性部位配列を含む。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質;およびSEQ ID NO:3〜8が含まれる。ADNF Iコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基はADNF Iコア活性部位配列において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNFペプチドは、ADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】クロザピンは細胞死亡率を増加させるが、NAPと併用すると、保護を提供する。クロザピンと共にインキュベートすると、約60%の細胞死が起こったが、これはNAP処置(10-15 M)によって逆転された。
【図2】NAPは、細胞死亡率に影響を及ぼさない。NAPとクロザピンの併用使用は、クロザピンに関連する望ましくない副作用を抑制する。クロザピンは広く用いられ、あるクラスの神経弛緩薬を代表することから、この併用使用は、重要な意味を有する。類似の恩恵は、クロザピンのクラスに属する薬物とNAPおよび関連化合物との併用使用から予想される。
【図3】血清の枯渇によって、異なる時点でのPC12細胞死が起こる。結果は、48時間のインキュベーション後で細胞死の増加を示し、これを最適なインキュベーション時間として選んだ。
【図4】ガランタミン(ガランタミン)濃度の較正を示す。ガランタミンの0.1 mM濃度で最大の生存が得られる。追加の実験において、ガランタミンの濃度を>0.1 mMの用量に増加させると、活性の阻害が起こるように思われる(ベル型の用量反応曲線)。100%血清枯渇培養と比較する。
【図5】NAP濃度の較正を示す。NAPは、既に報告されたように、血清の枯渇に対して保護を提供した(Lagreze et al., Invest Ophthalmol Vis Sci. 46(3):933-938 (2005))。
【図6】NAPとガランタミン(GAL)の併用効果:実験を上記のように行ったところ、NAP+ガランタミンは相乗効果を示す。NAP+ガランタミン(Gal)の混合物は、0.1 mMガランタミン(GAL)でいずれかの単独とは有意に差があり、0.05 mMガランタミンでもNAPと有意に差があった(P<0.005)。この場合も、血清枯渇培養(100%)に対して比較を行う。
【図7】NAPもガランタミンも、広範な細胞死に対して保護しなかったが、それらの併用はそのような保護を提供した。血清の非存在下および存在下、ならびに>40%細胞死の条件で再度比較すると、混合物のみが保護を提供した(血清を添加した培養物に対して比較を行った)(Pv=P値)。
【図8】実験モデルの妥当性確認を示す。統合失調症様の行動に関するモデルの妥当性を確認するために、マウスの活動亢進を、各々が3分間を構成して動物あたり全体で15分間の試験を構成する5回連続試行のオープンフィールド試験において調べた。結果は、3分間のあいだでの動物あたりのcmでの移動距離の平均値として示される。ADNP+/+(Balbc-DD)はビヒクル処置対照(n=11)を表し、オープンフィールド試験において運動量亢進行動を示した(##P<0.01;Student's t検定)(パネルA)そのビヒクル(DD)-処置STOP+/-(ヘテロ接合)同腹子とは有意差を示す。さらなる分析により、NAPを毎日鼻腔内投与すると、STOPヘテロ接合(STOP+/-)雄性マウスの運動量亢進を有意に減少させることが示された(n=12;***P<0.001;Student's t検定、STOPヘテロ接合DD対NAP処置STOPヘテロ接合マウス)(パネルA)。NAP活性にとって好ましい傾向はまた、対照マウスにおいても観察された。仮説を試験して、対応のある事後比較を正当化するために、結果の章に概説される二元配置ANOVAを用いて、遺伝子型と処置の交互作用も組み込んだ。モデルの予想的妥当性を評価するために、マウスの活動亢進に及ぼすクロザピン(公知の抗精神病薬)の効果を上記のオープンフィールド試験において調べた。雄性マウスをクロザピン(CLZ)または生理食塩液(IP)で5週間毎日処置した。結果は、1群あたりの標本サイズが小さい場合(STOP+/-マウス3〜4匹)であっても、クロザピン処置がSTOPヘテロ接合処置マウスの運動量亢進を有意に減少させることを示した(**P<0.01)(パネルB)。
【図9】NAP処置は、物体認識および識別試験においてSTOPヘテロ接合マウスにおける認知機能を増加させる。図8に記述した群と同じ実験群を、以下の物体認識および識別試験にさらに供した。初回試行の3時間後(2つの同一の物体について行い、試験群のあいだで差を示さなかった)、ビヒクル(DD)-処置STOP+/-マウスは、新規物体認識の有意な欠如を示し、周知の物体を有意に好むように思われた(##P<0.01;Student's t-検定)。NAP処置は、STOP+/-マウスにおけるSTOP欠損に関連する認知障害を完全に改善した(***P<0.001;Student's t-検定)(パネルA)。仮説を試験して、対応のある事後比較を正当化するために、結果の章に概説されるように、二元配置ANOVAを用いて、遺伝子型と処置の交互作用も組み込んだ。クロザピン処置は、改善の傾向のみを示した(パネルB)。
【図10】STOP+/-のNAP処置は、空間記憶の欠如を改善する。図8に記述された群と同じ実験群を、モリスの水迷路試験のために用いた。プローブテストの結果を描写する。逃避台が元あった(訓練の5日目に)水迷路領域において費やされた時間の百分率(総探査時間90秒中)を計算した。この測定は、空間記憶を示している。結果は、正常マウスとSTOPヘテロ接合マウス(STOP+/-)のあいだに有意な差を示した(##P<0.01;ビヒクル-DDによって処置したSTOP+/-(ヘテロ接合)同腹子と比較したBalbc(ビヒクル-DDによって処置したSTOP+/+))。NAP処置は、STOP+/-マウスの動作を有意に改善した(***P<0.001;NAPを処置したSTOP+/-と比較した、DDによって処置したSTOP+/-)。さらに、NAP処置STOP+/-マウス(ヘテロ接合)について得られた値は、対照マウス(STOP+/+正常マウス)について得られた値と類似であり、STOP欠損関連欠如の完全な改善を示唆した(パネルA)。仮説を試験して、対応のある事後比較を正当化するため、結果の章に概説したように二元配置ANOVAを用いて、遺伝子型と処置の交互作用も組み込んだ。CLZによって処置したヘテロ接合マウスと生理食塩液によって処置したヘテロ接合マウスのあいだの差は、統計学的有意性に達しない傾向を示したが、傾向は観察された。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
「ADNFポリペプチド」という句は、たとえばHill et al., Brain Res. 603:222-233 (1993);Brenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307 (1996)、Forsythe & Westbrook, J. Physiol. Lond. 396:515 (1988)によって記述されるインビトロ皮質ニューロン培養アッセイによって測定した場合に神経栄養/神経保護活性を有する、SALLRSIPA(「SAL」または「ADNF-9」と呼ばれる、SEQ ID NO: 1)、NAPVSIPQ(「NAP」と呼ばれる、SEQ ID NO:2)のアミノ酸配列、またはその保存的改変変種を含む活性コア部位を有する1つまたは複数の活性依存性神経栄養因子(ADNF)を指す。ADNFポリペプチドは、たとえば中枢神経系を起源とするニューロンに対してインビトロまたはインビボのいずれかで神経保護/神経栄養作用を示す、ADNF Iポリペプチド、ADNF IIIポリペプチド、その対立遺伝子、多形変種、アナログ、種間相同体、その任意の小配列(たとえば、SALLRSIPA(SEQ ID NO:1)またはNAPVSIPQ(SEQ ID NO:2))、または親油性変種でありうる。「ADNFポリペプチド」はまた、ADNF IポリペプチドとADNF IIIポリペプチドとの混合物も指しうる。
【0034】
「ADNF I」という用語は、pI 8.3±0.25を有する分子量約14,000ダルトンを有する活性依存性神経栄養因子ポリペプチドを指す。先に記述したように、ADNF Iポリペプチドは、Ser-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala(「SALLRSIPA」、「SAL」、または「ADNF- 9」とも呼ばれる、SEQ ID NO:1)のアミノ酸配列を含む活性部位を有する。その全てが参照により本明細書に組み入れられる、Brenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307 (1996)、Glazner et al., Anat. Embryol. ((Berl). 200:65-71 (1999)、Brenneman et al., J. Pharm. Exp. Ther., 285:619-27 (1998)、Gozes & Brenneman, J. Mol. Neurosci. 7:235-244 (1996)、およびGozes et al., Dev. Brain Res. 99: 167-175 (1997)を参照されたい。特に明記していなければ、「SAL」は、Ser-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala(SEQ ID NO:1)のアミノ酸配列を有するペプチドを指し、Ser-Ala-Leuのアミノ酸配列を有するペプチドを指すのではない。ADNF Iの完全長のアミノ酸配列は、その全内容が参照により本明細書に組み入れられるWO 96/11948において見いだされうる。
【0035】
「ADNF IIIポリペプチド」または「ADNF III」という句は活性依存性神経保護タンパク質(ADNP)とも呼ばれ、たとえばHill et al., Brain Res. 603:222-233 (1993);Gozes et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 427-432 (1996)によって記述されるインビトロ皮質ニューロン培養アッセイによって測定した場合に神経栄養/神経保護活性を有する、NAPVSIPQ(「NAP」と呼ばれる、SEQ ID NO:2)のアミノ酸配列、またはその保存的改変変種を含む活性コア部位を有する1つまたは複数の活性依存性神経栄養因子(ADNF)を指す。ADNFポリペプチドは、たとえば中枢神経系を起源とするニューロンに対してインビトロまたはインビボのいずれかで神経保護/神経栄養作用を示す、ADNF IIIポリペプチド、その対立遺伝子もしくは多形変種、アナログ、種間相同体、またはその任意の小配列(たとえば、NAPVSIPQ、SEQ ID NO:2)でありうる。ADNF IIIポリペプチドは、アミノ酸約8個からの範囲でありえて、たとえばアミノ酸8〜20個、8〜50個、10〜100個、または約1000個もしくはそれより多くのアミノ酸を有しうる。
【0036】
完全長のヒトADNF IIIは、予想分子量123,562.8 Da(アミノ酸残基>1000個)および理論的pI値約6.97を有する。先に記述したように、ADNF IIIポリペプチドは、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(「NAPVSIPQ」または「NAP」とも呼ばれる、SEQ ID NO:2)のアミノ酸配列を含む活性部位を有する。その各々が参照により本明細書に組み入れられる、Zamostiano et al., J. Biol. Chem. 276:708-714 (2001)およびBassan et al., J. Neurochem. 72:1283-1293 (1999)を参照されたい。特に明記していなければ、「NAP」は、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)のアミノ酸配列を有するペプチドを指し、Asn-Ala-Proのアミノ酸配列を有するペプチドを指すのではない。ADNF IIIの完全長のアミノ酸および核酸配列は、WO 98/35042、WO 00/27875、米国特許第6613740号および第6649411号において見いだされうる。ヒト配列のアクセッション番号はNP_852107であり、同様にZamostiano et al., 前記を参照されたい。
【0037】
「被験体」という用語は、その一生の任意の段階の、任意の哺乳動物、特にヒトを指す。「接触させる」という用語は、本明細書において以下と互換的に用いられる:組み合わせる、加える、混合する、その上を通過させる、インキュベートする、その上に流す等。その上、ADNF IIIポリペプチドまたは本発明のポリペプチドをコードする核酸は、たとえば非経口、経口、局所適用、吸入、および鼻腔内経路などの任意の従来の方法によって「投与」されうる。いくつかの態様において、非経口および鼻腔内適用経路が使用される。
【0038】
「タウオパシー」という用語は、ヒト脳におけるいわゆる神経原線維変化(NFT)におけるタウタンパク質の病的な凝集によって引き起こされる、あるクラスの神経変性障害に属する疾患を指す。タウオパシーの一般的定義にはアルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知症、皮質基底核変性、前頭側頭葉変性症(ピック病)、および進行性核上麻痺(PSP)が含まれる。
【0039】
「精神障害」、「精神疾患(mental illness)」、「精神疾患(mental disease)」、または「精神医学的もしくは神経精神医学的疾患、病気、または障害」は、精神障害の診断と統計マニュアル、第四版(DSM IV)に記述される、気分障害(たとえば、大うつ病、躁病、双極性障害)、精神病性障害(たとえば、統合失調症、統合失調感情障害、統合失調様障害、妄想障害、短期精神病性障害、および共有精神病性障害)、人格障害、不安障害(たとえば、強迫障害および注意欠陥障害)、ならびに物質関連障害、小児障害、認知症、自閉症、適応障害、せん妄、多発梗塞性認知症、およびツレット病などの他の精神障害を指す。典型的に、そのような障害は、複雑な遺伝的および/または生化学的要素を有する。
【0040】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書においてアミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に用いられる。一般的に、ペプチドは短いポリペプチドを指す。この用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然に存在するアミノ酸のアナログまたは模倣体であるアミノ酸ポリマーのみならず、天然に存在するアミノ酸ポリマーに当てはまる。
【0041】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するおよび合成アミノ酸のみならず、天然に存在するアミノ酸と類似のように機能するアミノ酸アナログおよびアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるアミノ酸、ならびに後に改変されるアミノ酸、たとえばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。本出願の目的に関して、アミノ酸アナログは、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造、すなわち水素に結合した炭素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基を有する化合物を指し、たとえばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを指す。そのようなアナログは、改変R基(たとえば、ノルロイシン)、または改変ペプチド骨格を有するが、天然に存在するアミノ酸と同じ基本化学構造を保持する。本出願の目的に関して、アミノ酸模倣体は、アミノ酸の全般的化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と類似のように機能する化学化合物を指す。
【0042】
アミノ酸には、参照により本明細書に組み入れられるWO 01/12654において開示されるように、化合物の経口利用率および他の薬物様特徴を改善する可能性がある、天然に存在しないD-キラリティを有するアミノ酸が含まれてもよい。そのような態様において、NAPまたはADNFポリペプチドのアミノ酸の1つまたは複数、およびおそらく全てがD-キラリティを有するであろう。ペプチドの治療的使用は、より長い半減期および作用の持続を提供するためにD-アミノ酸を用いることによって増強されうる。しかし、多くの受容体は、L-アミノ酸に対して強い選択性を示すが、天然に存在するL-ペプチドと同等の活性を有するD-ペプチドの例、たとえば孔形成抗生物質ペプチド、βアミロイドペプチド(毒性に変化はない)、およびCXCR4受容体に対する内因性のリガンドが報告されている。この点において、NAPおよびADNFポリペプチドは、D-アミノ酸型でも活性を保持する(Brenneman et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 309:1190-1197 (2004)、同様にWO 0112654を参照されたい)。
【0043】
アミノ酸はまた、IUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨される、その一般的に公知の三文字表記または一文字表記のいずれかによって呼ばれてもよい。同様にヌクレオチドは、その一般的に許容される一文字表記によって呼ばれてもよい。本明細書において言及されるアミノ酸は、以下のような短縮名称によって記述される。
【0044】
【表I】

【0045】
「保存的改変変種」は、アミノ酸および核酸配列の双方に当てはまる。特定の核酸配列に関して、保存的改変変種は、同一もしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸、または核酸がアミノ酸配列をコードしない場合、本質的に同一の配列を指す。具体的に、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの第三位が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基に置換される配列を生成することによって、縮重コドン置換を得てもよい(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991);Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。遺伝子コードの縮重のために、多数の機能的に同一の核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例として、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUは全てアミノ酸のアラニンをコードする。このように、アラニンがコドンによって明記されているあらゆる位置で、コードされるポリペプチドを変化させることなく、コドンを記述の対応するコドンのいずれかに変化させることができる。そのような核酸変化体は、「サイレント変化体」であり、保存的改変変化体の1つの種である。ポリペプチドをコードする本明細書におけるあらゆる核酸配列はまた、あらゆる可能性がある核酸のサイレント変化体を記述する。当業者は、核酸における各コドン(通常、メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常、トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)を、機能的に同一の分子を生じるように改変することができることを認識するであろう。よって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変化体は、各々の記述の配列に事実上含まれる。
【0046】
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列における1つのアミノ酸または小さい割合のアミノ酸を変更する、付加する、または欠失する、核酸、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質配列に対する個々の置換、欠失、または付加が、変更によって化学的に類似のアミノ酸へのアミノ酸の置換が起こる「保存的改変変種」であることを認識するであろう。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野において周知である。そのような保存的改変変種は、本発明の多形変種、種間相同体、および対立遺伝子に加えて存在し、それらを除外しない。
【0047】
互いに保存的置換であるアミノ酸が、以下の群の各々に含まれる:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)セリン(S)、トレオニン(T);
3)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
4)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
5)システイン(C)、メチオニン(M);
6)アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H);
7)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、バリン(V);および
8)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。(たとえば、 Creighton, Proteins (1984)を参照されたい)。
【0048】
当業者は、本明細書において提供される核酸およびポリペプチド配列の多数の保存的変化体が、機能的に同一の産物を生じることを認識するであろう。たとえば、遺伝子コードの縮重のために、「サイレント置換」(すなわち、コードされるポリペプチドにおいて変更が起こらない核酸配列の置換)は、アミノ酸をコードするあらゆる核酸配列に包含された特色である。同様に、アミノ酸配列における1つまたは少数のアミノ酸が非常に類似の特性を有する異なるアミノ酸に置換される「保存的アミノ酸置換」(前記の定義の章を参照されたい)もまた、開示のアミノ酸配列またはアミノ酸をコードする開示の核酸配列と非常に類似であるとして容易に同定される。各々の明示された核酸およびアミノ酸配列のそのような保存的置換変化体は、本発明の特色である。
【0049】
「単離された」、「精製された」、または「生物学的に純粋な」という用語は、その本来の状態で見いだされる場合にそれが通常伴う成分を実質的にまたは本質的に含まない材料を指す。
【0050】
「十分量」、「有効量」、または「治療的有効量」は、関心対象の活性を示す、または症状の主観的軽減、もしくは臨床医もしくは有資格オブザーバーによって認められる客観的に同定可能な改善のいずれかを提供する、所定のNAPまたはADNFポリペプチドの量である。治療応用において、本発明のADNF併用治療物質は、アルツハイマー病、多発性硬化症、または精神病、たとえば統合失調症の症状を低減または消失させるために十分な量で患者に投与される。これを成就するために適切な量は、「治療的有効量」として定義される。投与範囲は、以下に詳しく記載されるように、ならびにその全内容が参照により本明細書に組み入れられるカナダ国特許第2202496号、米国特許第6174862号、および米国特許第6613740号などの特許において記載されるように、用いられるADNFポリペプチドおよび追加の治療物質、投与経路、ならびに特定の薬物の効力によって多様である。
【0051】
発現または活性の「阻害剤」、「活性化剤」、および「調節剤」はそれぞれ、発現または活性に関するインビトロおよびインビボアッセイを用いて同定された、阻害性の、活性化する、および調節性の分子を指すために用いられ、たとえばリガンド、アゴニスト、アンタゴニスト、ならびにその相同体および模倣体を指すために用いられる。「調節剤」という用語には、阻害剤および活性化剤が含まれる。阻害剤は、たとえば本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの発現を阻害する、または本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドに結合する、刺激もしくは酵素活性を部分的もしくは完全に遮断する、減少させる、防止する、活性化を遅らせる、不活化する、脱感作する、もしくは活性をダウンレギュレートする物質、たとえばアンタゴニストである。活性化剤は、たとえば本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドの発現を誘導もしくは活性化する、または本発明のポリペプチドもしくはポリヌクレオチドに結合する、刺激する、増加させる、開く、活性化する、促進する、活性化もしくは酵素活性を増強する、感作する、もしくは活性をアップレギュレートする物質、たとえばアゴニストである。調節剤には、天然に存在するおよび合成のリガンド、アンタゴニスト、アゴニスト、低分子化学物質等が含まれる。阻害剤および活性化剤を同定するためのアッセイには、たとえば、本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの存在下または非存在下で推定の調節化合物を細胞に適用する段階、および次に本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性に及ぼす機能的効果を決定する段階が含まれる。可能性がある活性化剤、阻害剤、または調節剤によって処置された本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを含む試料またはアッセイを、阻害剤、活性化剤、または調節剤を含まない対照試料と比較して効果の程度を調べる。対照試料(調節剤によって処置されない)に、100%の相対活性値を割付する。阻害は、対照と比較した本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性値が約80%、任意で50%または25〜1%である場合に達成される。活性化は、対照と比較した本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの活性値が110%、任意で150%、任意で200〜500%、または1000〜3000%高い場合に達成される。
【0052】
本明細書において用いられる「試験化合物」、「候補薬物」、もしくは「調節剤」という用語、またはその文法的同等物は、天然に存在するまたは合成の任意の分子、たとえばタンパク質、オリゴペプチド(たとえば、長さがアミノ酸約5〜約25個、好ましくは長さがアミノ酸約10〜20個または12〜18個、好ましくは長さがアミノ酸12、15、または18個)、有機低分子、多糖類、脂質、脂肪酸、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド等を記述する。試験化合物は、十分な範囲の多様性を提供するコンビナトリアルまたはランダムライブラリなどの、試験化合物のライブラリの形でありうる。試験化合物は任意で、融合パートナー、たとえばターゲティング化合物、レスキュー化合物、二量体化化合物、安定化化合物、アドレス可能な化合物、および他の機能的部分に機能的に連結される。慣例的に、有用な特性を有する新規化学実体は、いくつかの望ましい特性または活性、たとえば阻害活性を有する試験化合物(「リード化合物」と呼ばれる)を同定する段階、リード化合物の変種を作製する段階、ならびにそれらの変種化合物の特性および活性を評価する段階によって生成される。しばしば、そのような分析のためにハイスループットスクリーニング(HTS)法が使用される。
【0053】
「有機低分子」は、約50ダルトンより大きく約2500ダルトン未満である、好ましくは約2000ダルトン未満、好ましくは約100〜約1000ダルトン、より好ましくは約200〜約500ダルトンの分子量を有する天然または合成のいずれかの有機分子を指す。
【0054】
発明の詳細な説明
I.緒言
ADNFペプチドおよび関連化合物は、アルツハイマー病、多発性硬化症、または統合失調症が含まれる精神病、ならびに進行性核上麻痺などの、アルツハイマー病と比較してより頻度の少ないタウオパシーの症状の相乗的低減を提供するために、他の治療物質と併用される。この改善された処置は、「ADNF併用処置」と呼ばれる。
【0055】
II.ADNFポリペプチド
1つの態様において、本発明のADNFポリペプチドは、以下のアミノ酸配列:(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)およびその保存的改変変化体を含む。この名称において、R1は、アミノ末端(NH2またはN末端)端部の方向を指し、R2はカルボキシル末端(COOHまたはC末端)端部の方向を表す。
【0056】
上記の式において、R1は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列である。「独立して選択される」という用語は、本明細書において、アミノ酸配列R1を構成するアミノ酸が同一であっても異なっていてもよい(たとえば、アミノ酸配列におけるアミノ酸の全てがトレオニンであってもよい等)ことを示すために用いられる。その上、既に説明したように、アミノ酸配列R1を構成するアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であってもよく、または天然に存在するアミノ酸と類似のように機能する(すなわち、アミノ酸模倣体およびアナログ)天然のアミノ酸の公知のアナログのいずれであってもよい。アミノ酸配列R1を形成するために用いられうる適したアミノ酸には、表Iに記載のアミノ酸が含まれるがこれらに限定されるわけではない。添え字「x」および「y」は、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しくなりうる。
【0057】
R1と同様に、上記の式におけるR2は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列である。その上、R1と同様に、アミノ酸配列R2を構成するアミノ酸は、同じまたは異なっていてもよく、および天然に存在するアミノ酸であってもよく、または天然に存在するアミノ酸と類似のように機能する(すなわち、アミノ酸模倣体およびアナログ)天然のアミノ酸の公知のアナログのいずれであってもよい。R2を形成するために用いられうる適したアミノ酸には、表Iに記載のアミノ酸が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0058】
本明細書において用いられるように、「NAP」または「NAPペプチド」は、xおよびyがいずれも0に等しい上記の式を指す。「NAP関連ペプチド」は、式に記述されるNAPの他の任意の変種を指す。
【0059】
R1およびR2は独立して選択される。R1、R2が同じである場合、それらは鎖長およびアミノ酸組成のいずれに関しても同一である。たとえば、R1およびR2の双方がVal-Leu-Gly-Gly-Gly(SEQ ID NO: 14)であってもよい。R1およびR2が異なる場合、それらは鎖長および/またはアミノ酸組成および/またはアミノ酸配列におけるアミノ酸の順序に関して互いに異なりうる。たとえばR1は、Val-Leu-Gly-Gly-Gly(SEQ ID NO: 14)であってもよく、R2はVal-Leu-Gly-Gly(SEQ ID NO: 15)であってもよい。または、R1はVal-Leu-Gly-Gly-Gly(SEQ ID NO: 14)であってもよく、R2はVal-Leu-Gly-Gly-Val(SEQ ID NO: 16)であってもよい。もう1つの例として、R1はVal-Leu-Gly-Gly-Gly(SEQ ID NO: 14)であってもよく、R2はGly-Val-Leu-Gly-Gly(SEQ ID NO: 17)であってもよい。
【0060】
上記の式の範囲内で、あるNAPおよびNAP関連ポリペプチド、すなわちxおよびyがいずれもゼロであるポリペプチド(すなわち、NAP)が好ましい。同様に、xが1であり、R1がGly-Glyであり、およびyがゼロであるNAPおよびNAP関連ポリペプチドも好ましい。同様に、xが1であり、R1がLeu-Gly-Glyであり、yが1であり、およびR2が-Gln-SerであるNAPおよびNAP関連ポリペプチドも等しく好ましい。同様に、xが1であり、R1がLeu-Gly-Leu-Gly-Gly-(SEQ ID NO: 18)であり、yが1であり、およびR2が-Gln-SerであるNAPおよびNAP関連ポリペプチドも等しく好ましい。同様に、xが1であり、R1がSer-Val-Arg-Leu-Gly-Leu-Gly-Gly-(SEQ ID NO: 19)であり、yが1であり、およびR2が-Gln-SerであるNAPおよびNAP関連ポリペプチドも等しく好ましい。活性ペプチドのN末端およびC末端の双方に、追加のアミノ酸を付加することができ、それでも生物活性を失うことはない。
【0061】
もう1つの局面において、本発明は、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤中に、既に記述されたNAPおよびNAP関連ポリペプチドの1つと適当な併用治療物質とを、アルツハイマー病、進行性核上麻痺が含まれる他のタウオパシー、MS、または統合失調症が含まれる精神病の症状を低減するために十分な量で含む薬学的組成物を提供する。1つの態様において、NAPまたはNAP関連ペプチドは、SEQ ID NO:2および9〜12からなる群より選択されるアミノ酸配列、およびその保存的改変変化体を有する。
【0062】
もう1つの態様において、ADNFポリペプチドは、以下のアミノ酸配列を含む:(R1)x-Ser-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala-(R2)y(SEQ ID NO:20)およびその保存的改変変化体。この名称において、R1はアミノ末端(NH2またはN末端)端部の方向を指し、R2はカルボキシル末端(COOHまたはC末端)端部の方向を表す。
【0063】
上記の式において、R1は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列である。「独立して選択される」という用語は、本明細書において、アミノ酸配列R1を構成するアミノ酸が同一であっても異なっていてもよい(たとえば、アミノ酸配列におけるアミノ酸の全てがトレオニンであってもよい等)ことを示すために用いられる。その上、既に説明したように、アミノ酸配列R1を構成するアミノ酸は天然に存在するアミノ酸であってもよく、または天然に存在するアミノ酸と類似のように機能する(すなわち、アミノ酸模倣体およびアナログ)天然のアミノ酸の公知のアナログのいずれであってもよい。アミノ酸配列R1を形成するために用いられうる適したアミノ酸には、表Iに記載のアミノ酸が含まれるがこれらに限定されるわけではない。添え字「x」および「y」は、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しくなりうる。
【0064】
R1と同様に、上記の式におけるR2は、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択される、アミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列である。その上、R1と同様に、アミノ酸配列R2を構成するアミノ酸は、同じまたは異なっていてもよく、および天然に存在するアミノ酸であってもよく、または天然に存在するアミノ酸と類似のように機能する(すなわち、アミノ酸模倣体およびアナログ)天然のアミノ酸の公知のアナログのいずれであってもよい。R2を形成するために用いられうる適したアミノ酸には、表Iに記載のアミノ酸が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0065】
本明細書において用いられるように、「SAL」または「SALペプチド」は、xおよびyがいずれも0に等しい上記の式を指す。「SAL関連ペプチド」は、式に記述されるSALの他の任意の変種を指す。
【0066】
R1およびR2は独立して選択される。R1、R2が同じである場合、それらは鎖長および/またはアミノ酸組成のいずれに関しても同一である。追加のアミノ酸を活性ペプチドのN末端およびC末端の双方に付加することができ、それでも生物活性を失うことはない。
【0067】
もう1つの局面において、本発明は、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤中に、既に記述されたSALおよびSAL関連ポリペプチドの1つと、適当な併用治療物質とを、アルツハイマー病、MS、または統合失調症が含まれる精神病の症状を低減するために十分な量で含む薬学的組成物を提供する。1つの態様において、SALまたはSAL関連ペプチドは、SEQ ID NO:1および3〜8からなる群より選択されるアミノ酸配列、およびその保存的改変変化体を有する。
【0068】
公知の細胞に基づくアッセイを用いて、特定のADNFペプチドの活性を査定することができる。NAP様またはSAL様ペプチド模倣体の生物活性を決定するための1つの方法は、ニューロン細胞を死から保護する能力をアッセイすることである。そのような1つのアッセイは、記述されるように(Brenneman & Gozes, J. Clin. Invest. 97:2299-2307 (1996))調製された解離大脳皮質培養を用いて行われる。試験パラダイムは、テトロドトキシン(TTX)によって同時処置した培養物に試験ペプチドを付加することからなる。TTXはこれらの培養物においてアポトーシス細胞死を生じて、このように、この「プログラムされた細胞死」およびこのタイプの細胞死機構を生じる他の任意の手段に対する効能を証明するためのモデル物質として用いられる。試験期間は5日であり、ニューロンを計数して、特徴的な形態学によって同定して、ニューロンに関する免疫細胞化学マーカー、たとえばニューロン特異的エノラーゼによって確認する。
【0069】
微小管構造に及ぼすADNFペプチドの効果を、細胞に基づくアッセイまたはインビトロアッセイによって決定することができる。共焦点顕微鏡を用いて、試験されるADNFペプチドの存在下および非存在下で細胞における微小管構造を査定することができる。アッセイはたとえば、全ての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる、2004年3月11日に提出されたPCT/IL04/000232において開示される。
【0070】
III.ADNFポリペプチドの設計および合成
コアNAPVSIPQ(SEQ ID NO:2)またはSALLRSIPA(SEQ ID NO:1)活性部位を含むポリペプチドおよびペプチドは、たとえば一度にアミノ酸1個ずつを系統的に付加する段階、および得られたペプチドを、本明細書において記述されるように生物活性に関してスクリーニングする段階によって容易に作製されうる。加えて、そのようなペプチドにおける様々なアミノ酸残基の側鎖によってなされる関与を、明記されたアミノ酸、たとえばAlaによる系統的スキャンによって探ることができる。
【0071】
当業者は、所定の核酸配列における変更を生成する多数の方策を認識するであろう。そのような周知の方法には、部位特異的変異誘発、縮重オリゴヌクレオチドを用いるPCR増幅、核酸を含有する細胞の変異誘発物質または放射線への曝露、所望のオリゴヌクレオチドの化学合成(たとえば、大きい核酸を生成するためにライゲーションおよび/またはクローニングと組み合わせて)、および他の周知の技術(Giliman & Smith, Gene 8:81-97 (1979);Roberts et al., Nature 328:731-734 (1987)を参照されたい)が含まれる。
【0072】
最も一般的に、ポリペプチド配列は、対応する核酸配列を変化させて、ポリペプチドを発現させることによって変更される。しかし、ポリペプチド配列はまた、任意で、任意の所望のポリペプチドを産生するために市販のペプチドシンセサイザーを用いて合成によっても生成される(Merrifield, Am. Chem. Soc. 85:2149-2154 (1963);Stewart & Young, Solid Phase Peptide Synthesis (2nd ed. 1984)を参照されたい)。
【0073】
当業者は、提供された配列および全般的にタンパク質に関する技術分野における知識に基づいて、本発明の所望の核酸またはポリペプチドを選択することができる。タンパク質および核酸の性質に関する知識によって、当業者は、本明細書において開示される核酸およびポリペプチドと類似または同等の活性を有する適当な配列を選択することができる。前記の定義の章は、例示的な保存的アミノ酸置換を記述する。
【0074】
NAPおよびADNFポリペプチドに対する改変は、望ましい特徴に関する適したアッセイにおいてルーチンのスクリーニング技術によって評価される。例として、ポリペプチドの免疫学的特徴の変化は、適当な免疫学的アッセイによって検出されうる。標的核酸に対する核酸ハイブリダイゼーション、タンパク質の酸化還元もしくは熱安定性、疎水性、タンパク質分解に対する感受性、または凝集傾向などの他の特性の改変は全て、標準的な技術に従ってアッセイされる。
【0075】
より詳しくは、本発明の低分子ペプチドは、当業者に公知の適した細胞に基づくアッセイおよび動物モデルを使用することによって、アルツハイマー病、進行性核上麻痺のような他のタウオパシー、MS、または統合失調症が含まれる精神病の症状の低減能に関して容易にスクリーニングされうることは、当業者に容易に明らかであろう。薬物の認知増強効果を評価するために使用される動物モデルの中でも、高架式十字迷路はおそらく最も一般的である(Rodgers and Dalvi, Neurosci. Biobehav. Rev. 72:253-258 (1997)およびGozes et al., J Pharmacol Exp Ther. 293(3):1091-1098(2000)を参照されたい)。当業者は、アルツハイマー病、進行性核上麻痺のような他のタウオパシー、MS、または統合失調症が含まれる精神病の症状の低減を同定または確認するためにNAPまたはADNFポリペプチドを試験するために、これらの標準的な任意の行動学的モデルを用いてもよいことを承知している。
【0076】
これらのアッセイおよびモデルを用いて、当業者は、本発明の教示に従って多数のNAPおよびADNFポリペプチドを容易に調製して、次に、本明細書において記述されるポリペプチドの他に、所望の活性を保有するADNFポリペプチドを発見するために、それらを前述の動物モデルを用いてスクリーニングすることができる。例として、NAPペプチド(すなわち、Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)またはSALペプチドSer-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala(SEQ ID NO: 1)を開始点として用いて、ペプチドのN末端にたとえばGly-、Gly-Gly-、Leu-Gly-Gly-を系統的に付加して、次に、それらが生物活性を保有するか否かを決定するために前述のアッセイにおいてこれらのNAPまたはADNFポリペプチドの各々をスクリーニングすることができる。そうするあいだに、活性部位、すなわち Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)またはSer-Ala-Leu-Leu-Arg-Ser-Ile-Pro-Ala(SEQ ID NO: 1)のN末端およびC末端の双方に追加のアミノ酸を付加することができ、それでも生物活性を失わないことが見いだされるであろう。
【0077】
本発明のペプチドは、広く多様な周知の技術によって調製されてもよい。比較的短いサイズのペプチドは典型的に、従来の技術(たとえば、Merrifield, Am. Chem. Soc. 85:2149-2154(1963)を参照されたい)に従って固相支持体上でまたは溶液中で合成される。様々な自動シンセサイザーおよびシークエンサーが市販されており、公知のプロトコールに従って用いられうる(たとえば、Stewart & Young, Solid Phase Peptide Synthesis (2nd ed. 1984)を参照されたい)。配列のC末端アミノ酸を不溶性の支持体に付着させた後に、残りのアミノ酸が順に連続して付加される固相合成は、本発明のペプチドの好ましい化学合成法である。固相合成のための技術は、Barany & Merrifield, Solid-Phase Peptide Synthesis; pp. 3-284 in The Peptides: Analysis, Synthesis, Biology. Vol. 2: Special Methods in Peptide Synthesis, Part A.;Merrifield et al., 1963;Stewart et al., 1984)によって記述されている。NAPおよび関連ペプチドは、標準的なFmocプロトコール(Wellings & Atherton, Methods Enzymol. 289:44-67 (1997))を用いて合成される。
【0078】
前述の技術に加えて、本発明において用いるためのペプチドは、組み換えDNA方法論によって調製されてもよい。一般的に、これは、タンパク質をコードする核酸配列を作製する段階、特定のプロモーターの制御下で発現カセットの中に核酸を入れる段階、および宿主細胞においてタンパク質を発現させる段階を伴う。当業者に公知である組み換えによって操作される細胞には、細菌、酵母、植物、糸状菌、昆虫(特にバキュロウイルスベクターを使用する)、および哺乳動物細胞が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0079】
組み換え型核酸は、選択された宿主における発現に関して適当な制御配列に機能的に連結される。大腸菌に関して、例としての制御配列には、T7、trp、またはλプロモーター、リボソーム結合部位、および好ましくは転写終止シグナルが含まれる。真核細胞に関して、制御配列には典型的に、プロモーター、好ましくは免疫グロブリン遺伝子、SV40、サイトメガロウイルス等に由来するエンハンサー、およびポリアデニル化配列が含まれ、スプライスドナーおよびアクセプター配列が含まれてもよい。
【0080】
本発明のプラスミドは、周知の方法によって選ばれた宿主細胞に移入されうる。そのような方法には、たとえば大腸菌に関する塩化カルシウム形質転換法、および哺乳動物細胞に関するリン酸カルシウム処置または電気穿孔法が含まれる。プラスミドによって形質転換された細胞は、amp、gpt、neo、およびhyg遺伝子などのプラスミド上に含有される遺伝子によって付与される抗生物質に対する抵抗性によって選択されうる。
【0081】
発現された後、組み換え型ペプチドは、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動等が含まれる当技術分野の標準的な技法に従って精製されうる(たとえば、Scopes, Polypeptide Purification (1982);Deutscher, Methods in Enzymology Vol. 182: Guide to Polypeptide Purification (1990)を参照されたい)。部分的に、または望ましければ均一になるまで精製した後、NAPおよびADNFポリペプチドを、たとえばニューロン細胞死を防止するために、または抗体産生のための免疫原として用いてもよい。任意で追加の段階には、発現されたタンパク質を高い程度まで単離する段階が含まれ、必要であれば、任意でタンパク質を復元する段階が含まれる、ペプチドを切断またはそうでなければ改変する段階が含まれる。
【0082】
化学合成、生物学的発現または精製後、ペプチドは、構成成分ペプチドの本来のコンフォメーションとは実質的に異なるコンフォメーションを保有してもよい。この場合、ペプチドを変性させて還元した後、ペプチドを好ましいコンフォメーションに再生させることは有用である。ペプチドを還元および変性させて再生を誘導する方法は、当業者に周知である(Debinski et al., J. Biol. Chem. 268: 14065-14070 (1993);Kreitman & Pastan, Bioconjug. Chem. 4:581-585 (1993);およびBuchner et al., Anal. Biochem. 205:263-270 (1992)を参照されたい)。たとえばDebinski et al.は、グアニジン-DTE中での封入体ペプチドの変性および還元について記述している。次に、ペプチドを酸化グルタチオンおよびL-アルギニンを含有する酸化還元緩衝液中で再生させる。
【0083】
当業者は、その生物活性を減損させることなく、ペプチドに改変を行うことができることを認識するであろう。ターゲティング分子のクローニング、発現、または融合ペプチドへの取り込みを容易にするために、いくつかの改変を行ってもよい。そのような改変は、当業者に周知であり、たとえば、開始部位を提供するためにアミノ末端に付加されるメチオニン、簡便な位置に存在する制限部位を作製するためにいずれかの末端に置かれる追加のアミノ酸(たとえば、ポリHis)、終止コドン、または精製配列が含まれる。
【0084】
本発明のADNFペプチドには、Dアミノ酸などの非天然のアミノ酸を有するADNFペプチドが含まれる。ADNF IおよびADNF IIの活性コア部位配列に関して、1つまたは複数のアミノ酸はD-アミノ酸でありうる。1つの態様において、ADNF I活性コア配列であるSEQ ID NO:1の全てのアミノ酸がD-アミノ酸である。もう1つの態様において、ADNF III活性コア配列であるSEQ ID NO:2の全てのアミノ酸がD-アミノ酸である。
【0085】
ADNFペプチドはまた、親油性分子にコンジュゲートされた場合にも活性を保持して、いくつかの場合において改善された活性を有する。ゆえに、本発明には、親油性の伸長部を有するADNF IおよびIIIペプチドが含まれる。
【0086】
ADNFペプチドは、イオンキレート剤にコンジュゲートされた場合に活性を保持する。ゆえに、本発明には、鉄キレート剤にコンジュゲートされたADNF IおよびIIIペプチドが含まれる。ADNF IIIペプチドは、イオンキレート剤にコンジュゲートされた場合に増強された抗酸化剤および抗神経変性活性を示す。たとえば、全ての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる、Blat et al. J. Med. Chem. Dec. 14, 2007、電子出版を参照されたい。
【0087】
ADNFペプチドの別の改変は、コリベリンと呼ばれるフェムトモルで作用するヒューマニン誘導体とのコンジュゲーションである。ゆえに、本発明にはまた、コリベリンにコンジュゲートされたADNF IおよびIIIペプチドが含まれる。ADNF IIIペプチドは、コリビンにコンジュゲートされると神経保護活性を示す。たとえば、全ての目的に関してその各々が参照により本明細書に組み入れられる、Chiba et al., J. Neurosci. 25: 10252-10261 (2005);Yamada et al., Neuropsychopharmacology advance online publication, 10 October 2007; doi: 10.1038/sj.npp.l301591;およびArakawa et al., J. Peptide Sci. 2007 Nov 12(印刷前電子出版)を参照されたい。
【0088】
IV.神経変性症のADNF併用処置
本発明は、ADNF IIIポリペプチドと、その病態を処置するために用いられる治療物質との併用を用いて、アルツハイマー病に関連する認知症によって引き起こされる神経変性症などの神経変性症を処置する方法を提供する。ADNF IIIポリペプチドと神経変性症治療物質との併用によって、ADNFペプチド単独または神経変性症治療物質単独を用いる処置と比較して改善された処置転帰が得られる。
【0089】
当業者は、神経変性症、たとえばアルツハイマー病および疾患の症状に対するADNF併用治療の有効性に関する予備的な試験のために用いることができるモデル系を承知している。そのような1つのモデルはPDAPPマウス(アミロイド前駆体タンパク質を発現する血小板由来増殖因子プロモーター)である。PDAPPマウスは、アミノ酸717位でバリンの代わりにフェニルアラニン置換を有するヒトアミロイド前駆体タンパク質を過剰発現する。PDAPPマウスは、年齢依存的、および脳領域依存的にアルツハイマー病の神経病理学的特徴の多くを進行的に発症する。たとえば Games et al., Nature, 373:523-527 (1995)およびJohnson-Woods et al., Proc. Natl Acad. Sci USA, 94: 1550-1555 (1997)を参照されたい。PDAPPマウスモデルは、アルツハイマー病治療物質、たとえば抗アミロイドワクチンの有効性を試験するために用いられている。たとえば、Schenk et al., Nature, 400:173-177 (1999)を参照されたい。他のアルツハイマー病モデルは、たとえばその各々が全ての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる、Bassan et al., 1999;Gozes et al., 2000;およびMatsuoka et al., J Mol Neurosci. 2007;31(2): 165-70において記述される。アルツハイマー病は、最も頻度の高いタウオパシーである。前頭側頭型認知症のモデルが含まれる他の頻度のより少ないタウオパシーも同様に、ADNF併用によって処置されうる。たとえば、Shiryaev et al., Neurobiol Dis. 34(2):381-388 (2009)およびRamsden et al., J Neurosci 25 (46): 10637-19647 (2005)を参照されたい。
【0090】
当業者はまた、ADNF併用治療を受けることによって神経変性症症状が低減するか否かに関してヒト患者を試験するために用いることができる臨床試験、たとえばADAS-cog、Rosen et al., Am. J. Psychiat. 141:1356-1364 (1985);神経心理検査バッテリー(neurophsychological test battery (NTB))、Harrison et al., Arch. Neurol. 64:1323-1329 (2007);および自動神経心理検査バッテリー(automated neuropsychological test battery (CANTAB))、Egerhazi et al., Prog. Neuro-Psych & Biol. Psychia. 31 :746-751 (2007)を承知している。いくつかの態様において、ADNF併用治療の投与による改善は、ベースラインと比較した個々の患者において、または処置群対プラセボ群において統計学的に有意な改善が存在する場合に確立されうる。
【0091】
神経変性症のADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、NAPとしても知られるADNF IIIコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドでありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF IIIタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF IIIタンパク質、およびSEQ ID NO:9〜13が含まれる。ADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれえて、1つの態様において、ADNF IIIコア活性アミノ酸残基は全て、D-アミノ酸である。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF IIIコア活性部位配列において見いだされる。もう1つの好ましい態様において、ADNFペプチドはADNF IIIコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:2である。ADNF IIIコア活性部位ペプチドには1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF IIIコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:2は全てD-アミノ酸である。
【0092】
神経変性症のADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、SALとしても知られるADNF Iコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドでありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質、およびSEQ ID NO:3〜8が含まれる。ADNF Iコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基は全て、D-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNFペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。
【0093】
たとえば、アルツハイマー病によって引き起こされる神経変性症のADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、SALとしても知られるADNF Iコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドと、NAPとしても知られるADNF IIIコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドとの混合物でありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質およびSEQ ID NO:3〜8、ならびに完全長のヒトADNF IIIタンパク質;およびSEQ ID NO:9〜13が含まれる。ADNF Iコア活性部位またはADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基はADNF Iコア活性部位配列またはADNF IIIコア活性部位において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸であるか、またはADNF IIIコア活性部位アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。ADNF Iコア活性部位およびADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列およびADNF IIIコア活性部位において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸であり、およびADNF IIIコア活性部位アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF混合物におけるADNF IペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF混合物におけるADNF IIIペプチドはADNF IIIコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:2である。ADNF IIIコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF IIIコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:2は全てD-アミノ酸である。
【0094】
神経変性症治療物質は、好ましくは以下のクラスの化合物の1つから選択される:アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト、アミロイドワクチン、アミロイド低減剤、イオンキレート剤、神経保護剤、抗炎症剤もしくは抗酸化剤、タウリン酸化阻害剤、ムスカリン作動性アゴニスト、ニコチン相互作用化合物、または神経伝達物質調節物質。1つまたは複数のクラスの物質の併用を用いることができ、または1つのクラスの物質の併用も同様に用いることができる。
【0095】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ヒューペルジン、メトリフォネート、フィソスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、エドロホニウム、およびフェノチアジンから選択される。
【0096】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、例示的なNMDA受容体アンタゴニストは、メマンチンである。アマンタジン、デキストロメトルファン、デキストロルファン、イボガイン、ケタミン、酸化窒素、フェンサイクリジン、リルゾール、チレタミン、および高用量エタノールなどの非競合的チャンネル遮断剤が含まれる他のNMDAアンタゴニストを用いることができる。有用な非競合的アンタゴニストには、ジゾシルピン、アプチガネル、およびメマンチン(Axura(登録商標)、Akatinol(登録商標)、Namenda(登録商標)、Ebixa(登録商標)、1-アミノ-3,5-ジメチルアダマンチン)、およびレマシミドが含まれる。
【0097】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、例示的なアミロイドワクチンは、凝集したアミロイド斑、アミロイドペプチド断片、アミロイドタンパク質のコンフォメーションエピトープ、またはメマプシン2に対して向けられる。ワクチンは、能動免疫またはこれらのエピトープ/抗原に対して作製した抗体の注入による受動免疫のいずれかを用いて投与されうる。
【0098】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、アミロイド低減剤は、アミロイド凝集切断剤、凝集形成阻害剤、BAC1阻害剤、γセクレターゼ阻害剤、またはADAM10活性化剤から選択される。さらに、メチレンブルー(Rember)、フェニルチアゾリル-ヒドラジド(PTH)、およびアミノチエノピリダジン(ATPZ)などのタウ凝集を阻害することが知られている治療物質もまた、タウオパシー関連認知症によって引き起こされる神経変性症を処置または予防するために、本発明のADNF併用使用にとって有用である。
【0099】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、例示的なイオンキレート剤は、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘム、ジメルカプロール(2,3-ジメルカプト-1-プロパノール)、ポルフィン、鉄毒性のために用いられるメシル酸デスフロキサミン(Desfuroxamine)、DMSA:ジメルカプロールのアナログ、D-ペニシラミン:鉛、ヒ素、または水銀中毒のために用いられる経口キレート剤、およびCalcium Disodium Versante(CaNa2-EDTA)である。いくつかの態様において、キレート剤は、ADNFペプチドにコンジュゲートされる。たとえば、全ての目的に関して参照により本明細書に組み入れられる、Blat et al. J. Med. Chem. Dec. 14, 2007、電子出版を参照されたい。
【0100】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、神経保護剤は、セレブロリジン、神経生長因子、細胞に基づく治療、および亜セレン酸塩から選択される。
【0101】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、抗炎症剤または抗酸化剤。抗酸化剤は、ビタミンEおよびイチョウ(Gingko biloba)から選択される。抗炎症剤は、イブプロフェン、フルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナク、メロキシカム、R-フルビプロフェン、ナプロキセン、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、ゾメピラク、エトドラク、エトリコキシブ、パレコキシブ、セレコキシブ、スリンダク、メサラジン、スルファサラジン、およびエテンザミドから選択される。
【0102】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、タウリン酸化阻害剤は、4-ベンジル-2-メチル-l,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン(TDZD-8)、AR- A014418、4-アシルアミノ-6-アリールフルロ[2,3-d]ピリミジン、リチウム、SB-415286、P24、CT98014、およびCHIR98023から選択されるGSK阻害剤である。
【0103】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、ムスカリン作動アゴニストは、たとえばセビメリン(AF 102B)(Evoxac(商標))、およびNeuron. Mar 2;49(5):671-82(2006)において開示されるAF267Bである。
【0104】
アルツハイマー病などの神経変性症のADNF併用治療に関して、ニコチン相互作用化合物は、N-[(7S,8S)-7-(ピリジン-3-イルメチル)-l-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-8-イル]-l-ベンゾフラン-2-カルボキサミド、ABT 107、3-[(3E)-3-[(2,4-ジメトキシフェニル)メチリデン]-5,6-ジヒドロ-4H-ピリジン-2-イル]ピリジン二塩酸塩、EVP6124、およびMEM 3454/R1589から選択される。神経保護剤である塩酸ジメボリン(商品名dimebon)も同様に、ADNF併用治療において用いてもよい。たとえばWO2008/051599を参照されたい。
【0105】
好ましい態様において、アルツハイマー病などの神経変性症の併用治療は、ADNF III活性コア部位を含むポリペプチドと、ヒューペルジン、メトリフォネート、フィソスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、エドロホニウム、およびフェノチアジンから選択されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との併用を用いて行われる。さらに好ましい態様において、ADNF III活性コア部位ペプチドは、全てD-アミノ酸からなる。
【0106】
好ましい態様において、アルツハイマー病などの神経変性症の併用治療は、ADNF I活性コア部位を含むポリペプチドと、ヒューペルジン、メトリフォネート、フィソスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、エドロホニウム、およびフェノチアジンから選択されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤との併用を用いて行われる。さらに好ましい態様において、ADNF I活性コア部位ペプチドは、全てD-アミノ酸からなる。
【0107】
いくつかの態様において、アルツハイマー病などの神経変性症の併用治療は、連続的に行われる。たとえば、ADNFポリペプチドは、神経変性症治療物質の前または後のある期間投与されうる。または、ADNFポリペプチドは、患者に対する神経変性症治療物質の治療効果の検出の際に投与されうる。神経変性症治療物質はまた、ADNFポリペプチドの治療効果の検出の際に投与されうる。いくつかの態様において、ADNFポリペプチドは、神経変性症治療物質と同時に投与される。いくつかの態様において、併用治療は、ADNFポリペプチドの投与が第一のレジメに従い、神経変性症治療物質の投与が第二のレジメに従うように行われる。
【0108】
V.多発性硬化症のADNF併用処置
本発明は、ADNF IIIポリペプチドと、MSを処置するために用いられる治療物質との併用を用いて多発性硬化症(MS)を処置する方法を提供する。ADNF IIIポリペプチドとMS治療物質との併用によって、ADNFペプチド単独またはMS治療物質単独を用いる処置と比較して改善された処置転帰が得られる。
【0109】
当業者は、MSおよび疾患の症状に対するADNF併用治療の有効性を予備的に試験するために用いられうるモデル系を承知している。そのようなモデルの1つは、ミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)誘発慢性実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)マウスモデルである。軸索の損傷および脱髄というMS様症状を誘導するために、ラットMOGのアミノ酸35〜55位を含むペプチドを動物に免疫することによって、EAEを誘導した。Offen et al.によるこれまでの試験は、EAEの病因における反応性酸素種(ROS)に対する軸索の感受性および抵抗性について可能性がある役割を調べた。たとえば、Offen et al. J Mol Neurosci. 15(3): 167-76 (2000)を参照されたい。Offen et al.は、MSの臨床症状発現がMOG誘発慢性EAEモデルにおいて明らかであることを証明した。臨床症状発現には、尾の緊張性の喪失、後肢部分麻痺、および完全な後肢麻痺が含まれた。たとえばOffen et al.の170ページの図1を参照されたい。Offen et al.はまた、MOGによる免疫後、タンパク質に対する免疫応答にT細胞増殖が含まれることも証明した。たとえばOffen et al.の172ページの図3を参照されたい。
【0110】
当業者は、ADNF併用治療を受けることによってMS症状が低減するか否かに関してヒト患者を試験するために用いることができる臨床試験を承知している。多発性硬化症の有効な処置を、いくつかの異なる方策で検査してもよい。以下の基準のいずれかを満たすことが有効な処置の証拠となる。主な3つの基準が用いられる:EDSS(extended disability status scale)、増悪の出現、またはMRI(magnetic resonance imaging)。
【0111】
EDSSは、MSによる臨床障害を等級付けするための手段である。たとえば、Kurtzke, Neurology 33:1444 (1983)を参照されたい。神経学的障害のタイプおよび重症度に関して8個の機能的システムを評価する。簡単に説明すると、処置の前に患者を、以下の系における障害に関して評価する:錐体、小脳、脳幹、知覚、腸管および膀胱、視覚、大脳、ならびにその他。定義された間隔で追跡調査を行う。尺度は0(正常)から10(MSによる死)までの範囲である。いくつかの態様において、少なくとも丸1つの段階の減少は、本発明の状況において有効な処置を示す。たとえばKurtzke, Ann. Neurol. 36:573-79 (1994)を参照されたい。
【0112】
増悪は、MSに帰因することができ、適当な新規神経学的異常(IFNB MS Study Group、前記)を伴う新規症状の出現として定義される。加えて、増悪は、少なくとも24時間持続しなければならず、安定性または改善が少なくとも30日間起こった後でなければならない。簡単に説明すると、患者は、臨床医によって標準的な神経学的検査を受ける。増悪は、神経症状評価尺度の変化に従って軽度、中等度、または重度のいずれかである。たとえばSipe et al., Neurology 34:1368 (1984)を参照されたい。年間の増悪率および無増悪患者の比率を決定する。いくつかの態様において、これらの測定のいずれかに関して、処置群とプラセボ群のあいだで(または、被験体1例に関して被験体が処置される前と比較してADNF IIIポリペプチドによる処置後で)無増悪患者の割合または比率に統計学的に有意な差があれば治療は有効である。加えて、初回増悪までの期間および増悪期間、ならびに重症度も同様に測定してもよい。いくつかの態様において、この点においてADNF IIIポリペプチドを用いる有効性の尺度は、対照群と比較して処置群における初回増悪までの期間、または期間および重症度における統計学的有意差である。
【0113】
MRIは、ガドリニウム-DTPA-強化イメージングを用いて活性病変を測定するために、およびT2-強調技術を用いて病変の位置および程度を測定するために用いられうる。たとえば、McDonald et al. Ann. Neurol. 36:14, (1994)を参照されたい。簡単に説明すると、ベースラインMRIを得る。同じ撮像平面および患者の体位を、その後の各試験のために用いる。ポジショニングおよび撮像シーケンスは、病変の検出を最大限にするように、および病変の追跡を容易にするように選ばれる。同じポジショニングおよび撮像シーケンスをその後の試験において用いる。MS病変の存在、位置、および程度は放射線技師によって決定される。病変の領域の輪郭を決定して、総病変領域に関してスライス毎に合計する。少なくとも3つの局面を検査することができる:新規病変の証拠、活性病変の出現率、病変面積の変化百分率。たとえば、Paty et al., Neurology 43:665, (1993)を参照されたい。いくつかの態様において、ADNF併用治療の投与による改善は、ベースラインと比較した個々の患者において、または処置群対プラセボ群において統計学的に有意な改善が存在する場合に確立されうる。
【0114】
本発明の状況におけるペプチドアナログの効能は、以下の基準に基づいて判断される:限界希釈によって決定されたミエリン塩基性タンパク質(MBP)反応性T細胞の発生率、MBP反応性T細胞株およびクローンの増殖応答、ならびに患者から確立されたMBPに対するT細胞株およびクローンのサイトカインプロファイル。有効量は、反応性細胞の発生率を減少させ、MBP反応性T細胞の増殖を低減させ、ならびに/またはTNFおよびIFN-αのレベルを低減させることができる。Quintana et al., Ann N Y Acad Sci 1070:500-506 (2006)は、NAP(SEQ ID NO:2)としても知られるADNF IIIコアペプチドが、マクロファージにおいて、重要な炎症性サイトカインであるTNF-α、インターロイキン-16(IL-16)、およびIL-12をダウンレギュレートすることを報告した。Braitch et al., Neuroimmunomodulation 17(2): 120-125 (2009)は、NAP(SEQ ID NO:2)としても知られるADNF IIIペプチドの免疫調節効果を考察した。T細胞活性化に及ぼす効果は、CD69およびCD154の表面発現、ならびに前炎症性サイトカイン、インターフェロン-γ(IFN-γ)の発現に及ぼすその効果を測定することによって行われた。ADNF IIIペプチドによる処置は、末梢血単核球(PBMC、すなわちT細胞、B細胞、単球、およびナチュラルキラー細胞)におけるCD69、CD154、およびIFN-γの発現を減少させた。ADNFIIIペプチドは、PBMCの抗CD3/抗CD28刺激増殖を抑制した。臨床測定には、1年および2年の間隔での再発率、および6ヶ月間持続するEDSS上でベースラインから1.0単位進行するまでの期間が含まれる、EDSSの変化が含まれる。カプラン-マイヤー曲線において、障害の持続的進行が遅れれば、効能を示す。他の基準には、MRI上でのT2画像の面積および体積の変化、ならびにガドリニウム強化画像によって決定された病変の数および体積が含まれる。
【0115】
MSのADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、NAPとしても知られるADNF IIIコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドでありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF IIIタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF IIIタンパク質、およびSEQ ID NO:9〜13が含まれる。ADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれえて、1つの態様において、ADNF IIIコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF IIIコア活性部位配列において見いだされる。もう1つの好ましい態様において、ADNF ペプチドはADNF IIIコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:2である。ADNF IIIコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF IIIコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:2は全てD-アミノ酸である。
【0116】
MSのADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、SALとしても知られるADNF Iコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドでありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質、およびSEQ ID NO:3〜8が含まれる。ADNF Iコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF ペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。
【0117】
MSのADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、SALとしても知られるADNF Iコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドと、NAPとしても知られるADNF IIIコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドとの混合物でありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質およびSEQ ID NO:3〜8、ならびに完全長のヒトADNF IIIタンパク質;およびSEQ ID NO:9〜13が含まれる。ADNF Iコア活性部位またはADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列またはADNF IIIコア活性部位において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸であるか、またはADNF IIIコア活性部位アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。ADNF Iコア活性部位およびADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列およびADNF IIIコア活性部位において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸であり、およびADNF IIIコア活性部位アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF混合物におけるADNF IペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF混合物におけるADNF IIIペプチドはADNF IIIコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:2である。ADNF IIIコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF IIIコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:2は全てD-アミノ酸である。
【0118】
MSのADNF併用治療に関して、MS治療物質は好ましくは以下から選択される:コポリマー-1としても知られる酢酸グラチラマー(GA)、およびインターフェロンβタンパク質。
【0119】
GAは、MSの処置において有効であることが示されている。酢酸グラチラマー(20 mg/注射)を毎日皮下注射すると、再発率、障害の進行、磁気共鳴画像法(MRI)による新規病変の出現、および「ブラックホール」の出現を低減させる。たとえば、Johnson, et al., Neurol, 45:1268 (1989)およびFilippi, et al., Neurol. 57:731-733 (2001)を参照されたい。
【0120】
齧歯類において、GAは、自己反応性T細胞の脳炎誘発効果を抑制する。GA反応性T細胞の受動移入は、MBP、原脂質タンパク質(PLP)、またはミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)によってラットまたはマウスにおいて誘導されるEAEの発症を予防する。ヒトにおいて、GAを毎日注射すると、Tヘルパー2(Th2)-型の保護的応答が経時的に発生した。これらの活性化GA反応性T細胞は、損傷部位に達すると、Th2(IL-4)プロファイルおよび脳由来神経栄養因子(BDNF, Ziemssen and Schrempf. Int Rev Neurobiol. ;79:537-70(2007)総説)などの神経栄養因子の双方に関連するサイトカインを分泌するが、脳由来神経栄養因子は、二重の役割を果たし、すなわち第一は、抗炎症活性の傍観的抑制を発揮して、第二は軸索に対して神経保護作用を発揮する。
【0121】
少なくとも2つの型のインターフェロンβ、たとえばインターフェロンβ-1a、AVONEX(登録商標)、またはREBIF(登録商標);およびインターフェロンβ-1b、BETASERON(登録商標)が、ヒトにおいてMSを処置するために用いられる。
【0122】
もう1つの好ましい態様において、MSの併用治療は、ADNF III活性コア部位とGAとの併用を用いて行われる。さらに好ましい態様において、ADNF III活性コア部位ペプチドは、全てD-アミノ酸からなる。他の態様において、活性コア部位を含むADNF IIIポリペプチドは、様々な型のMSの処置に用いることが知られているインターフェロンであるインターフェロンβ-1b(商品名BetaferonまたはBetaseron)と併用して用いられる。
【0123】
好ましい態様において、MSの併用治療は、ADNF I活性コア部位を含むポリペプチドとGAとの併用を用いて行われる。さらに好ましい態様において、ADNF I活性コア部位ペプチドは全て、D-アミノ酸からなる。他の態様において、活性コア部位を含むADNF Iポリペプチドは、インターフェロンβ-1bと併用して用いられる。
【0124】
いくつかの態様において、MSの併用治療は連続して行われる。たとえば、ADNFポリペプチドは、MS治療物質の前または後のある時間に投与されうる。または、ADNFポリペプチドは、患者に対するMS治療物質の治療効果の検出の際に投与されうる。MS治療物質はまた、ADNFポリペプチドの治療効果の検出の際に投与されうる。いくつかの態様において、ADNFポリペプチドは、MS治療物質と同時に投与される。いくつかの態様において、併用治療は、ADNFポリペプチドの投与が第一のレジメに従い、MS治療物質の投与が第二のレジメに従うように行われる。
【0125】
VI.統合失調症のADNF併用処置
本発明は、ADNF IIIポリペプチドと、精神病、特に統合失調症を処置するために用いられる治療物質との併用を用いて、精神病、特に統合失調症を処置する方法を提供する。ADNF IIIポリペプチドと精神病または統合失調症治療薬との併用によって、ADNFペプチド単独または精神病もしくは統合失調症治療薬単独を用いる処置と比較して改善された処置転帰が得られる。
【0126】
当業者は、精神病、特に統合失調症に対するADNF併用治療の有効性に関する予備的な試験のために用いられうるモデル系を承知している。そのようなモデルの1つは、STOPタンパク質欠損統合失調症マウスモデルである。たとえばAndrieux et al., Genes & Develop., 16:2350-2364 (2002)を参照されたい。STOPタンパク質は、カルモジュリン結合およびカルモジュリン調節微小管関連タンパク質(MAPS)である。ニューロンはSTOPタンパク質を発現する。細胞に基づくアッセイにおいてSTOPタンパク質に対する抗体を用いて、STOPタンパク質活性を阻害すると、微小管の低温安定性を抑制した。培養ニューロン細胞において、STOPタンパク質の阻害はまたニューロンの分化を阻害した。Andrieux et al.は、マウスのSTOPタンパク質をノックアウトするために遺伝子ターゲティングを用いた。STOPタンパク質欠損マウスの細胞に由来する微小管は、非改変対照マウスからの微小管と比較して安定性を劇的に喪失した。STOPタンパク質欠損マウスは見かけ上正常な脳の組織学を有したが、シナプス異常を有した。たとえば、Andrieux et al.の2351ページを参照されたい。Andrieux et al.はまた、STOPタンパク質欠損マウスの行動を分析した。STOPタンパク質欠損マウスは、明らかな目標方向のない激しい活動の相および活動間の無作為な転換の相が含まれる非定型行動を示した。STOPタンパク質欠損マウスは、絶えず潜り込むかまたはケージの中を周回する行動を示す危機時の行動を示し、これは20分より長く持続した。これらの行動は野生型対照マウスでは決して観察されなかった。Andrieux et al.の2355ページを参照されたい。Andrieux et al.はまた、主なクラスの行動課題を行う能力に関してSTOPタンパク質欠損マウスを評価した。STOPタンパク質欠損マウスは、劇的な不安様行動、短期記憶および学習の欠陥のみならず、重度の社会的引きこもりを示した。たとえばAndrieux et al.の2357ページを参照されたい。最後に、STOPタンパク質欠損雌性マウスは、介入がなければ子孫を養育することができず、結果としてその仔は死亡した。たとえばAndrieux et al.の2358ページを参照されたい。Andrieux et al.は、STOPタンパク質欠損マウスの行動学的欠陥が、統合失調症モデルを暗示すると認識し、その行動に関する公知の統合失調症処置の効果を試験した。Andrieux et al.は、妊娠、出産、および分娩後期間が含まれる4ヶ月のあいだ、STOPタンパク質欠損雌性マウスを神経弛緩薬によって処置した。神経弛緩薬は、ヒト患者が含まれる患者における統合失調症を処置するために用いられる。無処置の雌性STOPタンパク質欠損マウスの仔が生存しなかったことに対し、神経弛緩薬処置によって仔の何匹かが生存した。たとえばAndrieux et al.の2358ページを参照されたい。
【0127】
当業者は、ADNF併用治療を受けることによる精神病症状の低減に関して、および特に統合失調症の症状の低減に関して、ヒト患者を試験するために用いることができる臨床試験を承知している。関心対象の抗精神病または抗統合失調症活性を示すADNF併用は、症状の主観的軽減、または臨床医もしくは他の有資格観察者によって認められるように客観的に同定可能な改善のいずれかを提供する。
【0128】
精神病、特に統合失調症のADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、NAPとしても知られるADNF IIIコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドでありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF IIIタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF IIIタンパク質、およびSEQ ID NO:9〜13が含まれる。ADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれえて、1つの態様において、ADNF IIIコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF IIIコア活性部位配列において見いだされる。もう1つの好ましい態様において、ADNF ペプチドはADNF IIIコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:2である。ADNF IIIコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF IIIコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:2は全てD-アミノ酸である。
【0129】
精神病、特に統合失調症のADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、SALとしても知られるADNF Iコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドでありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質、およびSEQ ID NO:3〜8が含まれる。ADNF Iコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF ペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。
【0130】
精神病、特に統合失調症のADNF併用治療に関して、ADNFペプチドは、SALとしても知られるADNF Iコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドと、NAPとしても知られるADNF IIIコア活性部位ペプチドを含むポリペプチドとの混合物でありうる。そのようなペプチドの例には、完全長のADNF Iタンパク質、たとえば完全長のヒトADNF Iタンパク質およびSEQ ID NO:3〜8、ならびに完全長のヒトADNF IIIタンパク質;およびSEQ ID NO:9〜13が含まれる。ADNF Iコア活性部位またはADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基はADNF Iコア活性部位配列またはADNF IIIコア活性部位において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸であるか、またはADNF IIIコア活性部位アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。ADNF Iコア活性部位およびADNF IIIコア活性部位を含むポリペプチドには、D-アミノ酸残基が含まれうる。いくつかの態様において、D-アミノ酸残基は、ADNF Iコア活性部位配列およびADNF IIIコア活性部位において見いだされ、1つの態様において、ADNF Iコア活性アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸であり、およびADNF IIIコア活性部位アミノ酸残基の全てがD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF混合物におけるADNF IペプチドはADNF Iコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:1である。ADNF Iコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF Iコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:1は全てD-アミノ酸である。もう1つの好ましい態様において、ADNF混合物におけるADNF IIIペプチドはADNF IIIコア活性部位ペプチド、たとえばSEQ ID NO:2である。ADNF IIIコア活性部位ペプチドには、1つまたは複数のD-アミノ酸残基が含まれうる。さらに好ましい態様において、ADNF IIIコア活性部位ペプチドは全てD-アミノ酸残基からなり、すなわちSEQ ID NO:2は全てD-アミノ酸である。
【0131】
「典型的な抗精神病薬」とも呼ばれる従来の抗精神病薬は、統合失調症の症状の改善において有効であり、D2ドーパミン受容体に対するそのアンタゴニスト親和性によって特徴付けられる。この薬理学的効果によって、脳のドーパミン神経伝達系の活性の急激な減損が起こる。従来の抗精神病薬は、D2受容体に対するその比例的親和性に基づいて、高い、中等度、および低い効力に分類されうる。従来のまたは「典型的な」抗精神病には、クロルプロマジン、フルフェナジン、ハロペリドール、ロキサピン、メソリダジン、モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、チオリダジン、チオキセチン、トリフルオペリドンが含まれる(The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 17th Edition, pp l563-1573, 1999)。統合失調症および他の精神病に罹っている患者のかなりの数が従来の抗精神病薬による処置に対して抵抗性であることが証明されている。その上、従来の抗精神病薬は、黒質線条体ドーパミン系の障害に関連する運動関連有害効果を生じる。これらの錐体外路副作用(EPS)には、パーキンソニズム、アカシジア、遅発性ジスキネジー、およびジストニーが含まれる。
【0132】
「非定型」抗精神病薬は、ほとんどまたは全くEPSがなく抗精神病効果を生じる抗精神病薬を指し、これにはクロザピン、リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ジプラシドン、およびアリピプラゾールが含まれる。「非定型」抗精神病薬は、その薬理学的プロファイルが従来の抗精神病薬とは異なる。従来の抗精神病薬は、D2ドーパミン受容体遮断によって主に特徴づけられるが、非定型抗精神病薬は、5HT2aおよび5HT2cセロトニン受容体が含まれる多数の受容体に対するアンタゴニスト効果、ならびに異なる程度の受容体親和性を示す。非定型抗精神病薬は、D2受容体より5HT2受容体に対する親和性がより大きいことが、「非定型」抗精神病薬作用または「第二世代」抗精神病薬の基礎にあるという影響力の大きい仮説を反映して、一般的にセロトニン/ドーパミンアンタゴニストと呼ばれる。
【0133】
精神病、特に統合失調症のADNF併用治療に関して、精神病または統合失調症の治療薬は、好ましくは以下から選択される:アリピプラゾール(ABILIFY(登録商標))、クロザピン(CLOZARIL(登録商標))、ジプラシドン(GEODON(登録商標))、レスペリドン(RISPERDAL(登録商標))、クエチアピン(SEROQUEL(登録商標))、オランザピン(ZYPREXA(登録商標))、アセナピン、イロペリドン、およびビフェプルノックス。
【0134】
もう1つの好ましい態様において、精神病、特に統合失調症の併用治療は、ADNF III活性コア部位と、アリピプラゾール、クロザピン、ジプラシドン、レスペリドン、クエチアピン、およびオランザピンから選択される精神病または統合失調症の治療薬との併用を用いて行われる。さらに好ましい態様において、ADNF III活性コア部位ペプチドは全て、D-アミノ酸からなる。
【0135】
好ましい態様において、精神病、特に統合失調症の併用治療は、ADNF I活性コア部位を含むポリペプチドと、アリピプラゾール、クロザピン、ジプラシドン、レスペリドン、クエチアピン、およびオランザピンから選択される精神病または統合失調症の治療薬との併用を用いて行われる。さらに好ましい態様において、ADNF I活性コア部位ペプチドは全て、D-アミノ酸からなる。
【0136】
いくつかの態様において、精神病、特に統合失調症の併用治療は、連続的に行われる。たとえば、ADNFポリペプチドは、精神病または統合失調症治療薬の前または後のある時間に投与されうる。または、ADNFポリペプチドは、患者に他する精神病または統合失調症治療薬のある治療効果の検出の際に投与されうる。精神病または統合失調症治療薬はまた、ADNFポリペプチドのある治療効果の検出の際に投与されうる。いくつかの態様において、ADNFポリペプチドは、精神病または統合失調症治療薬と同時に投与される。いくつかの態様において、併用治療は、ADNFポリペプチドの投与が第一のレジメに従い、精神病または統合失調症治療薬の投与が第二のレジメに従うように行われる。
【0137】
VII.薬学的投与
本発明の薬学的組成物は、多様な薬物送達系において用いるために適している。血液脳関門の通過能を有するペプチドは、当業者に公知の方法を用いて、たとえば全身、鼻腔内等に投与されうる。血液脳関門の通過能を有しないより大きいペプチドは、脳室内(ICV)注射によって、または当業者に周知の技術を用いてカニューレによって哺乳動物の脳に投与されうる(たとえば、Motta & Martini, Proc. Soc. Exp. Biol. Med 168:62-64 (1981);Peterson et al., Biochem. Pharamacol. 31:2807-2810 (1982);Rzepczynski et al., Metab. Brain Dis. 3:211-216 (1988);Leibowitz et al., Brain Res. Bull. 21:905-912 (1988);Sramka et al., Stereotact. Funct. Neurosurg. 58:79-83 (1992);Peng et al., Brain Res. 632:57-67 (1993);Chem et al., Exp. Neurol. 125:72-81 (1994);Nikkhah et al., Neuroscience 63:57-72 (1994);Anderson et al., J. Comp. Neurol. 357:296-317 (1995);およびBrecknell & Fawcett, Exp. Neurol. 138:338-344 (1996)を参照されたい)。
【0138】
本発明において用いるために適した製剤は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences (17th ed. 1985)において見いだされる。加えて、薬物送達法に関する簡単な総説に関しては、参照により本明細書に組み入れられる、Langer, Science 249: 1527-1533 (1990)を参照されたい。適した用量範囲は、本明細書において提供される例のみならず、その全内容が参照により本明細書に組み入れられるWO 9611948において記述される。
【0139】
そのため、本発明は、NAPまたはADNFポリペプチドの量が治療効果を提供するために十分である、薬学的に許容される賦形剤と併用した、本明細書において先に記述したNAPまたはADNFポリペプチドの1つまたは複数を含む治療組成物または薬剤を提供する。
【0140】
治療応用において、本発明のNAPおよびADNFポリペプチドは、非経口、局所適用、経口、肺内(たとえば、吸入によって)または局所投与が含まれる任意の有効な手段によって投与されることが意図される薬学的組成物において具体化される。好ましくは、薬学的組成物は、非経口、たとえば静脈内、皮下、皮内、筋肉内、または鼻腔内投与される。
【0141】
このように、本発明は、許容される担体、好ましくは水性担体に溶解または懸濁された、先に記述したNAPまたはADNFポリペプチドの溶液を含む非経口投与のための組成物を提供する。たとえば水、緩衝水、0.4%生理食塩液、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等が含まれる多様な水性担体を用いてもよい。これらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌されてもよく、またはそれらは濾過滅菌されてもよい。得られた水溶液をそのまま使用するために包装してもよく、または凍結乾燥してもよく、凍結乾燥調製物を投与前に滅菌溶液と混合してもよい。組成物は、たとえば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン等などの、pH調節および緩衝剤、等張性調節剤、湿潤剤等が含まれる、生理条件を近似するために必要な薬学的に許容される補助物質を含有してもよい。
【0142】
固体組成物に関して、たとえば薬学等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等が含まれる従来の非毒性の固体担体を用いてもよい。経口投与の場合、薬学的に許容される非毒性の組成物は、既に記載された担体などの通常使用される任意の賦形剤と、一般的に10〜95%の、およびより好ましくは25%〜75%濃度の活性成分とを組み入れることによって形成される。
【0143】
エアロゾル投与に関して、NAPまたはADNFポリペプチドは、好ましくは界面活性剤および噴射剤と共に微粉化形状で供給される。界面活性剤は、当然、非毒性でなければならず、好ましくは噴射剤に可溶性でなければならない。そのような物質の代表は、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン酸、およびオレイン酸などの、炭素原子6〜22個を含有する脂肪酸と、脂肪族多価アルコールまたはその環状無水物とのエステルまたは部分エステルである。混合または天然グリセリドなどの混合エステルを使用してもよい。担体にはまた、望ましければたとえば鼻腔内送達のためのレシチンが含まれうる。例には、1ミリリットル中に、NaCl 7.5 mg、クエン酸一水和物1.7 mg、リン酸二ナトリウム二水和物3 mg、および塩化ベンザルコニウム溶液0.2 mg(50%)が含まれる溶液が含まれる(Gozes et al., J Mol Neurosci. 19(1-2): 167-70 (2002))。
【0144】
治療応用において、NAPまたはADNFポリペプチドと他の適当な治療薬の併用は、アルツハイマー病、MS、または統合失調症の症状を低減または消失させるために十分な量で患者に投与される。これを成就するために適切な量は、「治療的有効量」として定義される。この使用のために有効な量は、たとえば、使用される特定のNAPまたはADNFポリペプチド、予防される疾患または障害のタイプ、投与様式、患者の体重および全身健康状態、ならびに主治医の判断に依存するであろう。
【0145】
たとえば、1日1回(たとえば、夕方に)鼻腔内に投与される100 ng〜10 mg用量の範囲内に入るポリペプチドの量は、治療的有効量であろう。または、用量は、この範囲外であってもよく、または異なるスケジュールであってもよい。たとえば、用量は、0.0001 mg/kg〜10,000 mg/kgの範囲であってもよく、好ましくは約0.001 mg/kg、0.1 mg/kg、1 mg/kg、5 mg/kg、50 mg/kgまたは500 mg/kg/用量であろう。用量は、毎時間、4、6、もしくは12時間毎、食事と共に、毎日、2、3、4、5、6、もしくは7日毎、毎週、2、3、4週間毎、毎月、または2、3、もしくは4ヶ月毎、またはその任意の組み合わせで投与されてもよい。投与期間は、1回(短期間)投与であってもよく、処置される状態に応じて数日間、数週間、数ヶ月、または数年間であってもよい。当業者は、適した用量を決定することができ、Gozes et al., 2000, Gozes et al., 2002), Bassan et al. 1999;Zemlyak et al., Regul. Pept. 96:39-43 (2000);Brenneman et al., Biochem. Soc. Trans. 28: 452-455 (2000);Erratum Biochem Soc. Trans. 28:983;Wilkemeyer et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 100:8543-8548 (2003);総説Gozes et al., CNS Drug Rev, 11(4): 353-368 (2005);総説Gozes, Pharmacol Ther. 114:146-154 (2007);および総説Gozes et al., Curr Alzheimer Res. 6(5):455-460 (2009)において報告される予備的なデータに頼ってもよい。
【0146】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの」、「および」、および「その」には、本文が明らかにそれ以外であることを指図している場合を除き、複数形が含まれることに注意しなければならない。このように、たとえば「1つの核酸」という言及には、そのような核酸の複数が含まれ、「そのポリペプチド」という言及には、1つまたは複数のポリペプチドおよび当業者に公知のその同等物に対する言及が含まれる等である。
【実施例】
【0147】
実施例1:統合失調症の併用処置
細胞培養実験
広く用いられる抗精神病薬であるクロザピンは、細胞死亡率の増加に関連する可能性がある。しかし、NAP(NAPVSIPQ, SEQ ID NO:2)処置が、クロザピン関連ニューロン死を阻害するか否かはわかっていなかった。この疑問に取り組み、NAP-クロザピン併用薬候補物質を用いる効能の妥当性を確認するために、細胞培養において実験的試験系を確立した(Heiser et al., Journal of Psychopharmacology 21(8):851-856 (2007))。15%仔ウシ胎児血清(FCS)(Beit-Haemek, Israel)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、および1%グルタミンを添加したヒトSH-SY5Y神経芽腫を5%CO2大気中でインキュベートした。細胞36000個/ウェル(96ウェルプレートにおいて)を24時間平板培養した後にクロザピンまたはNAP処置を行った。クロザピン(CLZ)は、Sigma Chemicals(Sigma, Israel)から得た。細胞36000個/ウェル(少なくとも6複製ウェル)を、クロザピン(CLZ、20μg/ml)、クロザピン(CLZ 20μg/ml)+NAP、またはNAP単独(10-15 M〜10-10 M)に37℃で24時間曝露した。薬物および対照溶液をエタノールに溶解した。代謝活性の測定および生存を非放射活性細胞増殖アッセイ(MTS)(Promega, USA)によって決定して、ELISA-リーダーによって波長490 nmで評価した。
【0148】
意外なことに、クロザピン誘導細胞死は、NAP処置によって逆転された(図1)が、NAP単独は細胞の死亡率に影響を及ぼさなかった(図2)。
【0149】
他の公表された研究結果は、クロザピン(CLZ)がタウの過剰リン酸化を誘導することを示唆している(Gong et al., Brain Res. 1996 Nov 25;741(l-2):95-102)。NAPはインビボでタウ過剰リン酸化を阻害することがこれまでに示されていることから(Matsuoka et al., J Pharmacol Exp Ther 325, 146-153, 2008;Shiryaev et al., Neurobiol Dis 34, 381-388, 2009;Vulih-Shultzman et al., J Pharmacol Exp Ther 323, 438-449, 2007)、NAP-クロザピン併用治療の可能性がある機序を提供するために、この実験系においてこれが起こるか否かを査定するために、さらなる試験を設計する。
【0150】
インビボ実験
NAP(ダブネチド(davunetide))はSTOPヘテロ接合マウス−微小管欠損統合失調症モデルにおける認知行動を増強する
細胞骨格欠如に関連するマウス統合失調症モデルが、認知の欠如を示すか否か、および長期間の鼻腔内NAP処置がこのモデルにおける認知増強において有効であるか否かを調べる試験を行った。安定な細管のみのポリペプチド(stable tuble only polypeptide)(STOP)ノックアウトマウスは、信頼できる統合失調症モデルを提供することが既に示されている。本明細書において、ヘテロ接合(STOP)マウス(STOP+/-)は、統合失調症様の症状(たとえば、オープンフィールドでの活動亢進)を示し、これはクロザピン(臨床的に用いられる抗精神病薬)による長期間の処置によって改善した。モデルの妥当性確認後、STOP+/-マウスを毎日鼻腔内NAPまたはビヒクルの適用に供して、類似に処置したSTOP+/+マウスと比較した。NAP処置は、STOP+/-マウスにおいてオープンフィールドの運動活性を有意に減少させた。重要なことに、STOP+/-マウスは物体の認識が有意に損なわれていたが、NAP処置によってSTOP+/+の動作レベルまで有意に改善した。最後に、空間記憶も同様にSTOP+/-マウスでは損なわれていたが、NAP処置によって改善した。これらの試験は、統合失調症患者における認知機能に及ぼすNAP(一般名、ダブネチド;鼻腔内製剤:AL-108)の臨床使用に対する支持を提供する。この試験に関するさらなる詳細を実施例3に提供する。
【0151】
クロザピン単独およびクロザピン+NAPによって行ったインビボ実験
STOP+/-雄性マウス(平均で6ヶ月齢、n=4)に、1日量10 mg/kgクロザピンの腹腔内注射(IP)を実験期間のあいだ(5週間)与えた(週に5日間)。クロザピン(10 mg/kg)を酸性条件(HClによってpH〜2.0)下で可溶化して、溶液をNaOHによって〜pH 7.4に戻すように滴定した。加えて、これらのマウスに、以下の成分(ミリリットルあたり)が含まれるビヒクル溶液を毎日鼻腔内投与した:NaCl 7.5 mg、クエン酸一水和物1.7 mg、リン酸二ナトリウム二水和物3 mg、および塩化ベンザルコニウム溶液(50%)0.2 mg(Alcalay et al., Neurosci Lett 361, 128-131, 2004)。
【0152】
クロザピンとNAPの併用実験には、クロザピンを注射して、先に詳述したビヒクル中でNAPを鼻腔内に投与した、追加の4匹のマウス(平均で6ヶ月齢)が含まれた(Alcalay et al., Neurosci Lett 361, 128-131, 2004)。NAPまたはビヒクル溶液を、外鼻孔を試験者に向けて半仰臥位で手で保持したマウスに毎日投与した。ピペットの先端を用いて外鼻孔あたり2.5μlを投与した。溶液が完全に吸収されるまで(〜10秒)マウスを手で保持した。
【0153】
実験を5週間継続した。
【0154】
結果
本実験での死亡率は非常に高く、行動学転帰を査定する可能性は除外された。クロザピン群は、処置の2.5週間後に50%の死亡を示し、〜4.5週目でさらに死亡を示した(75%の死亡に上る)。NAP+クロザピン群のマウスは比較的助命され、処置開始後〜4.5週間で1例の死亡が起こったに過ぎなかった(すなわち75%生存)。観察された驚くべき死亡率は、インビトロ細胞培養実験において認められたクロザピン関連細胞死に関連すると考えられる。
【0155】
行動学査定に適合するように、より低用量(約1/10レベル)のクロザピンについてさらなる実験を行った。追加の実験もまた、以前に利用された薬理学的モデルにおいて行われる(Malkoff et al., J Neural Transm 115, 1563-1571, 2008)。
【0156】
実施例2:アルツハイマー病の併用処置
NAPとガランタミン(AchEI)の相乗効果を、血清枯渇モデルにおいて調べた。ガランタミン(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤またはAcEI)、NAP、およびその併用処置の生存促進効果を細胞培養において査定した。細胞培養法は、Calderon et al., J Neurosci Res 56, 620-631 (1999)から適合させた。
【0157】
材料および方法
細胞株
ラット褐色細胞腫(PC 12)を、8%仔ウシ胎児血清、8%ウマドナー血清、2 mm L-グルタミン、および1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において生育させた。
【0158】
実験に関して、細胞を採取して浮遊させて、96ウェルプレートに1.5×104個/ウェルの濃度で播種した。細胞を、血清枯渇の3時間前および血清枯渇の際にNAPおよびガランタミンによって前処置した[ガランタミン(0.1、0.5、1、10μM);NAP(10-8 M、10-10 M、10-12 M、10-15 M)]。細胞生存率に関するアッセイを血清枯渇後48時間で行った。較正法を以下に記述する。
【0159】
NAP(Allon Therapeutics Inc.)を水に10-3 Mの濃度で溶解した(アリコートを-20℃で保存した)。これをさらに培地で希釈して、最後に培地で1:100倍希釈して必要な濃度を得た。
【0160】
Sigmaから購入したガランタミンをPBS中で20 mg/mlの保存溶液に調製して、アリコートを-20℃で保存した。実験に関してこれを、NAPを含有する培地中で1:100倍希釈した(最終濃度を得るため)。
【0161】
血清の枯渇
培養培地を、血清を含まないが、NAPとガランタミンとを含有する新鮮な培地に交換した。細胞を48時間インキュベートした後、MTS生存率アッセイに供した。
【0162】
処置群
以下の群を試験した:
(1)血清を有する細胞;
(2)血清を有しない細胞;
(3)ガランタミン単独によって処置した血清を有しない細胞;
(4)NAP単独によって処置した血清を有しない細胞;
(5)ガランタミンおよびNAPによって処置した血清を有しない細胞。
【0163】
血清枯渇法の較正
PC12細胞を播種して、先に言及したようにいかなる薬物も含まずに24時間、48時間、および72時間処置した。MTSの結果を、血清枯渇処置対対照処置からの生存細胞の百分率によって表す。
【0164】
実施例3:STOPヘテロ接合マウスのNAP処置
NAPは、神経発達および神経保護に関与する活性依存性神経保護タンパク質(ADNP)のアミノ酸8個の活性なペプチド(NAPVSIPQ;SEQ ID NO:2)断片である。マウスにおいて、ADNPノックアウトは、CNS発育不全を示して致死的であるが、ヘテロ接合ADNPマウスは生存するものの、微小管関連タンパク質(タウ)病理に連動した認知機能障害を示す。NAP処置は、インビボでADNP関連機能障害を部分的に改善する。この試験は、細胞骨格の欠如に関連するマウス統合失調症モデルが認知の欠如を示すか否か、および長期間の鼻腔内NAP処置がこのモデルにおける認知増強において有効であるか否かを調べるために行われた。安定な細管のみのポリペプチド(STOP)ノックアウトマウスは、これまでに信頼できる統合失調症モデルを提供することが示されている。本明細書において、ヘテロ接合STOPマウス(STOP+/-)は、統合失調症様症状(オープンフィールドでの活動亢進および物体認識/識別試験における認知機能障害)を示したが、これはクロザピン(臨床的に用いられる抗精神病薬)による長期間の処置によって改善された。モデルの妥当性確認後、STOP+/-マウスを毎日の鼻腔内NAPまたはビヒクル適用に供して、類似に処置したSTOP+/+マウスと比較した。NAP処置は、STOP+/-マウスにおけるオープンフィールドでの運動活性を有意に減少させた。重要なことに、STOP+/-マウスは物体認識が有意に損なわれたが、NAP処置によってSTOP+/+の動作レベルまで有意に改善した。最後に、空間記憶も同様にSTOP+/-マウスにおいて損なわれたが、NAP処置によって改善した。これらの試験は、統合失調症患者における認知機能に及ぼすNAP(一般名、ダブネチド、鼻腔内製剤AL-108)のさらなる臨床試験への支持を提供する。
【0165】
緒言
AL-108は、健忘性の軽度の認知障害を有する被験体において行われたフェーズII試験において認知に対して正の効果を証明した候補薬物である。AL-108は、神経発達および神経保護に関与する(Bassan M et al., J Neurochem, 72(3): 1283-1293 (1999);Gozes I, Pharmacol Ther, 114(2): 146-154 (2007);Gozes I et al., CNS Drug Rev, 11(4): 353-368 (2005);Mandel S, Gozes I, J Biol Chem, 282(47): 34448-34456 (2007);Mandel S, Rechavi G, Gozes I, Dev Biol, 303(2): 814-824 (2007);Steingart RA, Gozes I, Mol Cell Endocrinol, 252(1-2): 148-153 (2006))、活性依存性神経保護タンパク質(ADNP、〜124 kD)のアミノ酸8個のペプチド(NAPVSIPQ、SEQ ID NO:2、分子量=824.9;一般名、ダブネチド)断片であるNAPの鼻腔内製剤である。マウスにおいて、ADNPノックアウトは致死的であり、CNS発育不全を示す(Pinhasov A et al., Brain Res Dev Brain Res, 144(1): 83-90 (2003))。染色質相互作用を通して多数の遺伝子調節効果を発揮するが(Mandel S, Gozes I, J Biol Chem, 282(47): 34448-34456 (2007);Mandel S, Rechavi G, Gozes I, Dev Biol, 303(2): 814-824 (2007))、ADNPは微小管との相互作用を通していくつかの効果を媒介する可能性がある(Furman S et al., Neuron Glia Biol, 1(3): 193-199 (2004);Mandel S, Spivak-Pohis I, Gozes I, J Mol Neurosci. (2008))。その大きいサイズのために、ADNPは、血液脳関門に浸透しないと仮定され、このように薬理学的に用いることができない。しかしNAPは、鼻腔内投与後に吸収されて、血液脳関門を通過することが示されている(Gozes I et al., J Pharmacol Exp Ther, 293(3): 1091-1098 (2000);Gozes I et al., CNS Drug Rev, 11(4): 353-368 (2005))。NAPは、非常に活性な神経保護物質であり、微小管との相互作用、タウ過剰リン酸化およびアポトーシスの阻害を通して作用すると考えられる(Divinski I et al., J Neurochem, 98(3): 973-984 (2006);Divinski I, Mittelman L, Gozes I, J Biol Chem, 279(27): 28531-28538 (2004);Gozes I, Divinski I, J Alzheimers Dis, 6(6 Suppl): S37-41 (2004), Gozes I, Divinski I, Curr Alzheimer Res, 4(5): 507-509 (2007);Holtser-Cochav M, Divinski I, Gozes I, J Mol Neurosci, 28(3): 303-307 (2006);Leker RR et al., Stroke, 33(4): 1085-1092 (2002);Matsuoka Y et al., J Mol Neurosci, 31(2): 165-170 (2007);Matsuoka Y et al., J Pharmacol Exp Ther, 325(1): 146-153 (2008);Vulih-Shultzman I et al., J Pharmacol Exp Ther, 323(2): 438-449 (2007))。
【0166】
神経細胞骨格の重要な要素である微小管(Gozes I, Littauer UZ, Nature, 276(5686): 411-413(1978))は、主要なサブユニット、チューブリン、およびタウなどの微小管関連タンパク質(MAP)からなる。タウの過剰リン酸化によって、神経原線維変化が形成されるが、これはタウが微小管から解離して不溶性の塊に集合する場合に形成される(Alonso AC et al., Curr Alzheimer Res, 5(4): 375-384 (2008);Avila J et al., J Biomed Biotechnol, 2006(3): 74539 (2006);Trojanowski JQ, Lee VM, Med Clin North Am, 86(3): 615-627 (2002))。
【0167】
神経原線維変化はアルツハイマー病(AD)における認知機能障害に最も関連しているが、神経原線維の病理のいくつかの増加もまた、おそらく抗精神病薬投薬の結果として統合失調症において報告されている(Eastwood SL et al., J Psychopharmacol, 21(6): 635-644 (2007))。NAPは非リン酸化タウ対リン酸化タウの比率を増加させて、このように、チューブリンの微小管への重合化に影響を及ぼし、それによって細胞の生存にとって必須である微小管ネットワークが維持される(Gozes et al., 2004)。インビボにおいて、NAPは、ADNP欠損マウス(Vulih-Shultzman I et al., J Pharmacol Exp Ther, 323(2): 438-449 (2007))、アミロイド過負荷およびタウ病理を示すADの三重トランスジェニックマウスモデル(Matsuoka Y et al., J Mol Neurosci, 31(2): 165-170 (2007);Matsuoka Y et al., J Pharmacol Exp Ther, 325(1): 146-153 (2008))、ならびに前頭側頭型認知症(タウオパシー)モデル(Shiryaev et al., Neurobiol Dis. 2009 May;34(2):381-8. Epub 2009 Mar 2)において、タウの過剰リン酸化を低減させて、認知機能を増強する。
【0168】
脳において、チューブリンの枠組みは、微小管安定化にとって重要なMAPファミリーである安定な細管のみのポリペプチド(STOP)タンパク質(Bosc C, Andrieux A, Job D, Biochemistry, 42(42): 12125-12132 (2003))(aka MAP6)によって安定化される。STOP遺伝子における対立遺伝子変化体に対する連鎖が、いくつかの脳領域における変化したSTOPタンパク質発現と共に、統合失調症において報告されている(Shimizu H et al., Schizophr Res, 84(2-3): 244-252 (2006))。STOP-/-マウスは、シナプス欠如(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002))、ドーパミン作動神経の神経伝達障害(Brun P et al., J Neurochem, 94(1): 63-73 (2005))と共に、行動学的欠如および過剰運動性を示し、これらはクロザピンによって部分的に逆転される(Fradley RL et al., Behav Brain Res, 163(2): 257-264 (2005))。重要なことに、パクリタキセル様微小管安定化剤(エポチロンD)は、この統合失調症モデルにおいてシナプス機能および行動を改善する(Andrieux A, et al., Biol Psychiatry, 60(11): 1224-1230(2006))。このように、統合失調症の神経病理学的特色は部分的に、微小管構造の異常なSTOP関連不安定性による可能性がある。これらの特徴は、NAP処置が、統合失調症において異常な神経生理学的プロセスを生じるSTOP関連欠損を逆転させる可能性があることを示唆している。
【0169】
STOPヌルマウスの交配が、STOP-/-母親の異常な養育行動のために特別な取り扱いを必要とする可能性があることから(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002))、子孫は少数となるが、異系交配によってSTOP+/-マウスの多産子孫が得られる可能性があるものの、STOP+/-マウスは、可能性がある統合失調症様行動学的欠如の新規モデルを提供する可能性がある。この点において、STOP+/-マウスは、海馬において低減されたシナプトフィシン、VGlut1、GAP-43およびシノフィリンmRNAを発現することが既に示されており、認知障害を示唆している(Eastwood SL et al., J Psychopharmacol, 21(6): 635-644 (2007))。
【0170】
統合失調症患者における認知障害におけるNAP(鼻腔内ダブネチド、AL-108)の鼻腔内製剤に関する進行中のトランスレーショナルリサーチプログラムの一部として、本明細書において(1)部分的STOP欠損(STOP+/-マウス)によって、可能性がある将来の薬物に関する単純な試験を可能にする行動および認知障害が起こるか否か;(2)臨床的に重要な抗精神病薬であるクロザピンによって長期間処置されたSTOP+/-マウスが、このモデルにおいて正の症状(運動量亢進)を低減するか否か;および(3)STOP+/-マウスへの鼻腔内NAP投与によって、認知機能の増加が起こるか否かを評価した。
【0171】
材料および方法
動物モデル
STOP-ヌル(STOP-/-)およびSTOPヘテロ接合(STOP+/-)マウスコロニーを産生するための創始マウスを、Annie Andrieux and Didier Job(INSERM)から得た。これらのマウスは当初、STOP遺伝子のエキソン1を非機能的構築物に交換するために用いられる遺伝子ターゲティングによって50:50のBALBc/129 SvPasで生成された(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002))。今日まで特徴が調べられたSTOPタンパク質の全てのmRNAがこのエキソンを含有することから(Denarier E et al., Biochem Biophys Res Commun, 243(3): 791-796 (1998a);Denarier E et al., Proc Natl Acad Sci USA 95(11): 6055-6060 (1998b))、全てのSTOPイソ型の発現はヌルマウスにおいて抑制されて、ヘテロ接合マウスにおいて部分的に抑制される(Eastwood SL et al., J Psychopharmacol, 21(6): 635-644 (2007))。
【0172】
STOPヌルマウスをBALBcマウスと交配させて、既に記述されているように(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002))、連続的雑種形成およびSTOP+/-またはSTOPホモ接合(STOP+/+)遺伝子型に関するDNAプロファイリングによって、コロニーを維持した。STOPヌルマウスの交配によって得られる子孫は少数であったが、異系交配によって、STOP+/-マウスの多産子孫が得られ、STOP+/-マウスを、可能性がある統合失調症様の行動学的欠如に関して試験した。
【0173】
実験技法は全て、テルアビブ大学動物飼育委員会(Animal Care Committee of the Tel-Aviv University)とイスラエル政府の承認を受けた。
【0174】
実験の設計と薬物の適用
実験は、STOP+/+マウスと比較したSTOP+/-雄性マウスの行動を査定したのみならず、インビボでのクロザピンまたはNAPの効能を査定した。
【0175】
STOP+/-マウスをSTOP+/+マウス(同腹子)と最初に比較するため、各実験群には、4〜12ヶ月齢のマウス10〜12匹を含めた;平均月齢6ヶ月では、行動学転帰に関して試験した月齢のあいだに高い有意差は認められなかった。STOP+/+およびSTOP+/-雄性マウスにNAP鼻腔内適用ビヒクルを以下に従って7〜10週間のあいだ毎日(週に5日)投与した。
【0176】
NAPビヒクル溶液(DDと呼ばれる)には、以下の成分(ミリリットルあたり)が含まれた:NaCl 7.5 mg、クエン酸一水和物1.7 mg、リン酸二ナトリウム二水和物3 mg、および塩化ベンザルコニウム(50%)溶液0.2 mg(Alcalay RN et al., Neurosci Lett, 361(1-3): 128-131(2004))。NAPまたはビヒクル溶液(DD)を、外鼻孔を試験者に向けて半仰臥位で手で保持したマウスに毎日投与した。ピペットの先端を用いて外鼻孔あたり2.5μlを投与した。溶液が完全に吸収されるまで(10秒)マウスを手で保持した。クロザピンの実験に関して、クロザピン(10 mg/kg)を酸性条件(HClによってpH〜2.0)下で溶解して、溶液をNaOHによって〜pH 7.4に戻すように滴定した。STOP+/-雄性マウス(5ヶ月齢、n=4)に1日量10 mg/kgクロザピンの腹腔内注射(IP)を、実験期間(7週間)のあいだ与えた(週に5日)。対照STOP+/-雄性マウス群(5ヶ月齢、n=3)に生理食塩液を毎日注射した。NAP処置には、7〜10週間のあいだ毎日(1週間に5日)の鼻腔内投与(0.5μg/5μl/マウス/日)が含まれた。鼻腔内投与に関して、ペプチドを、先に記述したようにビヒクル溶液(DDと呼ばれる)に溶解した。各実験群には、マウス10〜12匹、4〜12ヶ月齢;平均月齢6ヶ月が含まれた。
【0177】
行動学査定を以下のタイムラインに従って実施した:薬物適用の3週目または4週目の初日に、オープンフィールド試験を行った;薬物適用の4週目または6週目の初日に、モリス水迷路を5日間行って試験の5日目にプローブテストを含めた;薬物適用の5週目または10週目の3日目に、物体認識試験を行った。行動学試験は全て、毎日のビヒクルまたは薬物投与後1時間で行った。
【0178】
行動学測定
運動活性
試験は、齧歯類における統合失調症様行動が運動量亢進活性を特徴とすることを示すこれまでの試験に基づいている(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002))。運動活性を、各3分間の5回連続試行で測定し、オープンフィールド(直径80 cm)での全15分の観察期間について3分間の試行での各マウスのcmでの平均移動距離を決定した。HVS IMAGE-コンピューター化システム(HVS Image, Buckinghamshire, U.K.)を用いて追跡を行った。
【0179】
物体認識(Powell KJ et al., Behav Neurosci, 121(5): 826-835 (2007))
試験は、30 cm×40 cmのアリーナにおける異なる2つの物体の視覚的識別に基づく。この試験は、連続する2日の慣らし日(5分/日)と2回の試行からなる実験日とを含有した。毎日の鼻腔内NAP処置またはクロザピン注射の1時間後、各雄性マウスに2つの同一の物体を5分間見せて、各物体のにおいをかぐ/触るために費やした時間を測定した(毎日の試行の1回目)。3時間後、マウスに1つの周知の物体および1つの新規物体を3分間見せて、各物体のにおいをかぐ/触るために費やした時間を再度測定した(2回目の試行、視覚記憶を測定する)。データを異なる2つの方法を用いて分析した。第一の方法は、新規または周知の物体を探索するために費やした時間を測定して、両者を比較した。第二の方法は、以下の式を用いて新規物体と周知の物体のあいだのマウスの識別能力を評価した。a=周知の物体の探索時間、およびb=新規物体の探索時間である場合、D1=b−a、E2=a+b、D2、識別能はD1/E2に等しい(de Bruin N, Pouzet B, Pharmacol Biochem Behav, 85(1): 253-260 (2006))。
【0180】
モリス水迷路
試験は、齧歯類が、丸い水迷路における隠れた逃避台の場所を空間的水路決定によって学習および記憶する能力を測定する。この試験は、NAP機能を査定するために以前から行われている(Gozes I et al., CNS Drug Rev, 11(4):353-368 (2005))。本明細書において、マウスを5日間連続して泳がせてモニターした。2回連続する試験を毎日行い、マウスに試験前および試験のあいだ隠れた逃避台上で20秒間休ませる。隠れた逃避台の直径は15 cmであり、プールの直径は140 cmであった。隠れた逃避台を見つけるまでの最大潜時を90秒に設定した。逃避台の位置を毎日変化させた。毎日の試験の初回の際に逃避台に達するまでに必要な時間(学習および無傷の参照記憶を示す)および2回目の試行において逃避台に達するまでに必要な時間(短期(作業)記憶を示す)を個別に測定および記録した。5日目に、毎日の2回目の試行後にプローブテストを行った。逃避台を迷路から外して、逃避台が存在したプールの四分領域でマウスが費やす時間を記録した。動物に関して動機付け因子、視覚能力、および運動機能を調整するために、動物をモリス水迷路課題の目に見える逃避台版において試験した。マウスを水中に放して逃避台を発見するまでに要する時間を記録した(最大60秒)。この試験の際に逃避台の上に上らなかった動物を、統計分析から除外した。HVS IMAGE-コンピューター化システム(HVS Image, Buckinghamshire, U.K.)を用いて追跡を行った。
【0181】
統計分析
統計検定使用データを二元配置ANOVAの後にTukey's posthoc検定を用いて比較した。追加の統計検定には、一元配置ANOVAおよびStudent's t-検定が含まれた。全ての試験に関する統計学的有意性の閾値は、5%または1%であった。結果を全て平均値+SEMで示す。
【0182】
結果
モデルの妥当性および運動活性
STOP欠損の改善におけるSTOP+/-モデルの妥当性およびNAPの可能性を試験するために、ビヒクル処置の5週間の処置3回の後、雄性マウス(実験時、平均月齢〜7ヶ月)を、活動亢進の測定としてオープンフィールド試験に供した。各マウスが3分間の5連続試行の間に移動した距離を測定して、運動活性の指標として群のあいだで平均値を比較した。結果は、STOP+/-マウスの運動活性がSTOP+/+マウスと比較して有意に増加したことを証明し(図8A;##P<0.01)、活動亢進に関するSTOP+/-マウスモデルの妥当性を確認した。
【0183】
臨床的に重要な抗精神病薬に対する応答としてSTOP+/-モデルの妥当性をさらに確認するために、STOP+/-雄性マウス(5ヶ月齢)をクロザピン処置に供した。予想されたように、5週間のクロザピン処置によって、オープンフィールド試験におけるSTOP+/-マウスの活動の有意な低減が起こった(図8B、**P<0.01)。これらの結果は、モデルの予測的妥当性を示している。本明細書において報告したクロザピン試験はいずれも、これまでの試験がこの系統のSTOP+/+マウスにおけるクロザピン処置の効果がないことを明らかに証明したことから(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002);Fradley RL et al., Behav Brain Res, 163(2): 257-264 (2005))、野生型マウスにおけるクロザピンの試験を含めなかった。
【0184】
さらなる実験により、NAP処置の5週間の3回後、処置したSTOP+/-雄性マウス(実験時〜7ヶ月齢)が、オープンフィールドにおいて移動距離の有意な低減を示すことが示された(図8A;***P<0.001;Student's t-検定)。重要なことに、NAP処置によって、対照STOP+/+マウスと類似のSTOP+/-マウスの行動が得られた(図8A)。
【0185】
仮説を試験して、対応のある事後比較を正当化するために、二元配置ANOVAの後にTukey's posthoc検定を用いて、遺伝子型と処置の交互作用も組み込んだところ、NAP効果に関してP<0.001の有意性、遺伝子型効果に関してP<0.001の有意性、および有意でないNAP×遺伝子型効果P=0.420を示し、対照マウスに対してもNAPが効果を有することを示した(有意でない効果ではあるが)。
【0186】
モデルの妥当性および物体の認識
STOP欠損の改善におけるSTOP+/-モデルの妥当性およびNAPの可能性をさらに試験するために、ビヒクル適用の5週目または10週目の3日目に、雄性マウス(実験時、平均月齢7〜8ヶ月)を、認知機能の測定である物体認識試験に供した。第一の試行において、マウスに2つの同一の物体を見せると、これらのマウスは、2つの物体に類似の時間を費やした(データは示していない)。第一の物体認識試行の3時間後、マウスに、3時間前に観察した周知の物体の横に並べて新規物体を見せた。STOP+/+マウスは新規物体に対して有意な選択性を示し、それに対してより長い時間を費やしたが、STOP+/-マウスは新規物体に無関心であり、周知の物体に有意により関心を示した(図9A)。
【0187】
予想されたように、抗精神病薬(認知増強物質ではない)であるクロザピンは、物体認識試験において唯一、改善傾向を示したが、統計学的有意性に到達しなかった(図9B;P=0.1)。対照的に、NAP処置は、処置がなければ周知の物体と新規物体とを識別することができないSTOP+/-マウスに対して有意に有益であった(図9A;Student's t-検定、P<0.01)。
【0188】
遺伝子型とNAP処置の交互作用もまた、二元配置ANOVAを用いて組み込んだところ、F(1,41)=13.879;NAP効果に関してP<0.001、 F(1,41)=10.756;遺伝子型効果に関してP=0.002;および有意なNAP×遺伝子型効果F(1,41)=13.684;P<0.001を示した。
【0189】
モデルの妥当性およびモリス水迷路
STOP+/-モデルの妥当性をさらに試験するために、および空間学習における可能性があるSTOP関連欠損の改善におけるNAPの可能性を査定するために、モリス水迷路パラダイムを行った。ビヒクル適用の4週目または6週目の最初の日にモリス水迷路を5日間行って、試験の5日目にプローブテストを含めた。STOP+/-雄性マウスをSTOP+/+対照雄性マウスと比較した(平均月齢、7〜7.5ヶ月)。
【0190】
毎日の実験において、隠れた逃避台を発見するマウスの能力に有意差は観察されなかった。しかし、先に言及したように、モリス水迷路実験の5日目にプローブテストを行った。この試験は、逃避台が元あった場所のプールの四分領域でマウスが費やした時間を測定し、記憶の反映である。本発明者らの結果は、STOP+/+マウスと比較してSTOP+/-マウスでは逃避台が元あった場所で費やした時間が有意に低減することを示し、認知の欠如を示し、空間記憶の欠如に関するSTOP+/-モデルの妥当性を確認している(図10A;Student's t-検定、##P<0.01)。
【0191】
物体認識の場合と同様に(図9B)、モリス水迷路のプローブテストにおいて、クロザピン処置は、プローブテストにおいて改善傾向を示すものの認知動作に有意な影響を及ぼさなかった(t-検定;P=0.1)。
【0192】
対照的に、さらなる評価により、NAPによって毎日処置したSTOP+/-マウスが、ビヒクル(DD)を処置したSTOP+/-マウスと比較して逃避台が元あったプールの四分領域で有意により多くの時間を費やす(Student's t-検定、*** P<0.001)ことが判明した(図10A)。
【0193】
上記のように、仮説を試験して、対応のある事後比較を正当化するために、遺伝子型と処置の交互作用も二元配置ANOVAを用いて組み込んだところ、F(1,33)=4.802;NAP効果に関してP=0.036、F(1,33)=1.512;遺伝子型効果に関してP=0.228;および有意なNAP×遺伝子型効果F(1,33)=8.028;P=0.008を示した。
【0194】
考察
本試験は、可能性がある微小管相互作用性の、認知保護候補薬の試験のために用いられるSTOP+/-マウスモデルを確立して、STOP-/-マウスに対する有用な補完物を提供する。STOP-/-母親の異常な養育行動により特別な取り扱いを必要とする可能性があり、それによって子孫が少数であるSTOP-/-マウスとは対照的に(Andrieux A, et al., Genes Dev, 16(18): 2350-2364 (2002))、STOP+/-マウスの異系交配によって、特別な取り扱いを必要としない多産子孫が得られた。統合失調症関連行動に関連するオープンフィールドでの活動亢進は、STOP+/-マウスにおいて増加して、クロザピン(臨床的に用いられる抗精神病薬)処置によって有意に改善し、このことは抗精神病薬処置に応答する(少なくとも部分的に)STOP+/-モデルの妥当性を確認した。同様に、STOP-/-マウスによって示された行動学的欠如および過剰運動性は、クロザピン処置によって部分的に逆転されることがこれまでに示されている(Fradley RL et al., Behav Brain Res, 163(2): 257-264 (2005))。
【0195】
本明細書において、STOP+/-マウスはまた、物体認識の有意な欠損のみならず、記憶障害を示すモリス水迷路プローブテストを示したが、クロザピン処置によって改善傾向も同様に観察された。クロザピンの作用機序は主に、ドーパミン作動神経(Faron-Gorecka A et al., Eur Neuropsychopharmacol, 18(9): 682-691 (2008))のみならず、セロトニン作動神経(Tauscher J. et al., Am J Psychiatry 161:1620-1625(2004))との相互作用を通して起こる。クロザピンはまた、前頭皮質におけるコリン作動神経系の活性を増加させて、このようにおそらく認知に影響を及ぼす(Stip E, Chouinard S, Boulay LJ, Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 29(2):219-232 (2005))。しかし、致死性のクロザピン誘発性の消化管の過剰運動性が観察されており(Palmer SE et al., J Clin Psychiatry, 69(5): 759-768 (2008))、統合失調症における認知障害を直接処置するために候補薬物の必要性は増加している(Buchanan RW et al., Schizophr Bull, 33(5): 1120-1130 (2007))。
【0196】
NAPは、クロザピンと同様に、STOP+/-マウスにおいてオープンフィールドでの運動活性を有意に減少させたが、NAPの類似の効果(有意ではないが)はNAP処置STOP+/+マウスにおいても観察された。さらなる結果から、STOP+/-マウスにおいて観察された物体認識/識別における有意な障害は、毎日のNAP処置によって有意に改善されることが示された。加えて、先に示したように、空間記憶もまた、STOP+/-マウスにおいて有意に障害されたが、NAP処置によって有意に改善された。
【0197】
これまでのデータから、STOP-/-マウス(Bouvrais-Veret C et al., Neuropharmacology, 52(8): 1691-1700 (2007))および統合失調症の患者(Stip E, Chouinard S, Boulay LJ, Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 29(2): 219-232 (2005))において影響を受けることがこれまでに示されている、学習および記憶に関連するコリン作動神経機能を、NAPが保護することが示唆された(Bassan M et al., J Neurochem, 72(3): 1283-1293 (1999);Gozes I et al., J Pharmacol Exp Ther, 293(3): 1091-1098 (2000))。
【0198】
追加のこれまでのデータは、NAP処置が、ビヒクル処置対照と比較して正常な齧歯類においても認知動作を改善することを示唆した(Alcalay RN et al., Neurosci Lett, 361(1-3): 128-131 (2004);Bassan M et al., J Neurochem, 72(3): 1283-1293 (1999);Gozes I et al., J Pharmacol Exp Ther, 293(3): 1091-1098 (2000);Levy A et al., Regul Pept, 109(1-3): 127-133 (2002))。現在の実験において、NAPによって処置した対照マウスは、その認知動作の改善を示さず、このNAP認知増強効果がマウスの系統および実験パラダイムに依存する可能性があることを示唆している。これまでの試験から、NAPが齧歯類において抗不安特性を有したことも示唆されており(Alcalay RN et al., Neurosci Lett, 361(1-3): 128-131 (2004))、NAP処置マウスにおいて観察されたオープンフィールドでの運動活性(精神病行動に関連する)の低減を部分的に説明する可能性がある。多くの統合失調症患者が不安に苦しむことから、NAPによる抗不安効果は、統合失調症の認知機能障害にとって適切である可能性がある(Braga RJ et al., J Psychiatr Res, 39(4): 409-414 (2005))。
【0199】
いくつかの研究が、統合失調症における神経突起関連タンパク質の発現の減少と共にスパイン密度の減少を報告している(Eastwood SL et al., J Psychopharmacol, 21(6): 635-644 (2007);Hill JJ, Hashimoto T, Lewis DA, Mol Psychiatry, 11(6): 557-566 (2006);Kolluri N et al., Am J Psychiatry, 162(6): 1200-1202 (2005))。さらに、異常なニューロンの形状、樹状突起およびスパインの喪失、ならびにニューロン伸長の不規則な分布が、統合失調症患者の海馬および大脳皮質が含まれる特異的脳領域で起こっている(Benitez-King G et al., Curr Drug Targets CNS Neurol Disord, 3(6): 515-533 (2004);Ito et al., 2005)。統合失調症における可能性がある保護物質としてNAPを用いる主なインビトロでの根拠は、チューブリン/微小管との相互作用に基づく神経突起伸長の刺激におけるその有効性である(Divinski I et al., J Neurochem, 98(3): 973-984 (2006);Smith-Swintosky VL et al., J Mol Neurosci, 25(3): 225-238 (2005))。重要なことに、NAP活性はチューブリンおよびタウ機能に関連して、タウ過剰リン酸化のNAP関連減少、および可溶性でおそらく機能的なタウのNAP関連相対的増加が起こった(Divinski I et al., J Neurochem, 98(3): 973-984 (2006);Divinski I, Mittelman L, Gozes I, J Biol Chem, 279(27): 28531-28538 (2004);Gozes et al., 2004;Matsuoka Y et al., J Mol Neurosci, 31(2): 165-170 (2007);Matsuoka Y et al., J Pharmacol Exp Ther, 325(1): 146-153 (2008);Vulih-Shultzman I et al., J Pharmacol Exp Ther, 323(2): 438-449 (2007))。さらなる試験は、神経突起における微小管関連タンパク質2(MAP2)の免疫反応性によって可視化された神経突起伸長およびニューロン生存に対するNAPの効果を示している(Smith-Swintosky VL et al., J Mol Neurosci, 25(3): 225-238 (2005);Visochek et al., J Neurosci, 25(32): 7420-7428 (2005);Zemlyak I et al., Peptides, 28(10): 2004-2008(2007))。微小管の機能障害に関連するニューロンの欠如が、統合失調症における認知機能障害の基礎であると仮定すると、NAP処置アプローチは有効である可能性がある。
【0200】
本試験は、STOP欠損モデルにおけるNAPの効果を初めて証明する。過去数年のあいだに、低温に対する微小管の抵抗性は主に、STOPタンパク質とのポリマーの会合が原因であることが示されている。低温に対する微小管のこの抵抗性は、MAP2およびタウには微小管低温安定化活性がないことから興味深い(Bosc C, Andrieux A, Job D, Biochemistry, 42(42): 12125-12132 (2003))。マウスにおいてSTOPを抑制すると、STOP+/-マウスにおいてさえシナプトフィシンの低減が含まれるシナプスの欠陥を誘導することが見いだされており(Eastwood SL et al., J Psychopharmacol, 21(6): 635-644 (2007))、微小管機能とシナプス形成のあいだの中心的な連鎖があることが議論されている。NAPはこれまでに、ラット皮質および海馬培養物の双方においてシナプトフィシンを増加させて(Smith-Swintosky VL et al., J Mol Neurosci, 25(3): 225-238 (2005))、シナプスの可塑性および機能に関連することが示されている(Pascual M, Guerri C, J Neurochem, 103(2): 557-568 (2007))。NAPは、星状細胞において、微小管再配列および微小管の安定化を示し、亜鉛毒性に起因するチューブリンの凝集が起こらないようにして(Divinski I et al., J Neurochem, 98(3): 973-984 (2006))、およびノコダゾールによって誘導される微小管の脱重合化を逆転させた(Gozes I, Pharmacol Ther, 114(2): 146-154 (2007))。NAPは低温に供された星状細胞に受動的に入って、明白な微小管再構築/安定化に連結した(Divinski I, Mittelman L, Gozes I, J Biol Chem, 279(27): 28531-28538 (2004))。興味深いことに、パクリタキセル様微小管安定化剤(エポチロンD)は、STOP-/-統合失調症モデルにおいてシナプス機能および行動を改善した(Andrieux A, et al., Biol Psychiatry, 60(11): 1224-1230 (2006))。NAPはまた、微小管に対するその作用を通して神経保護的であると仮定されていることから(Divinski I et al., J Neurochem, 98(3): 973-984 (2006))、これらの観察は、微小管の欠如に関連するSTOPマウスモデルにおいてNAP保護活性に関する可能性がある作用機序の根拠を示唆する。
【0201】
認知に及ぼすNAP(ダブネチド、鼻腔内AL-108)の臨床効果は、ADの前兆である軽度の認知障害を有する患者において評価されている。その試験において、NAP処置(AL-108、鼻腔内、1日2回)患者における2回の記憶測定ではプラセボ処置に対する有意な改善が観察されたが、一次エンドポイントおよび追加の認知ドメインを評価する二次エンドポイントでは正の傾向が観察された。頭痛および鼻咽頭事象がAL-108処置被験体によってより頻繁に報告された。しかし、有害事象の全体的な発生率はプラセボおよびNAP処置群のあいだで類似であった(allontherapeuticsのウェブサイトを参照されたい)。これらの臨床データは、AL-108(ダブネチド、鼻腔内)を、統合失調症に関連する認知障害(CIAS)に加えて、アルツハイマー病および他の認知症の認知保護の候補薬物として位置づける。
【0202】
STOP+/-マウスにおける、オープンフィールド試験における活動亢進の低減ならびにモリス水迷路および物体認識パラダイムにおける認知機能の増強によって証明されたNAPの保護効果は、微小管機能障害と、統合失調症に関連する認知障害(CIAS)に及ぼす正の効果とのあいだに可能性がある作用機序の関連を提供する。CIASは現在、難治性の徴候であり、本発明者らのこの発見は、この一般的な破壊的徴候に対する新規作用機序候補薬物として、AL-108(ダブネチド鼻腔内)を支持する。
【0203】
本明細書において考察した刊行物は、本出願の提出日以前にそれらの開示が単になされたために提供される。本明細書におけるいかなるものも、本発明が、先行発明に基づいて、そのような出版日を早める権利がないと自認したと解釈されるべきではない。さらに、提供された発行日は実際の発行日とは異なる可能性があり、これらは個々に確認される必要がある可能性がある。引用物は全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0204】
前述の本発明は、理解を明快にする目的で例示および実施例によっていくぶん詳細に記述してきたが、ある変化および改変を本発明に行ってもよく、それらも添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲に入ることは本発明の教示に照らして当業者に容易に明らかとなるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)以下のアミノ酸配列:Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)を有する活性コア部位を含むADNF IIIポリペプチド;および
b)アセチルコリンエステラーゼ阻害剤
の治療的有効量をヒト被験体に投与する段階を含む、そのような処置を必要とするヒト被験体において認知症関連障害によって引き起こされた神経変性症を処置または予防する方法であって、認知症関連障害がタウオパシー関連認知症または加齢関連認知症である、方法。
【請求項2】
ADNF IIIポリペプチドが完全長のADNF IIIポリペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ADNF IIIポリペプチドが、式(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)を有し、式中、
R1が、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;
R2が、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;かつ
xおよびyが、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しい、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
ADNF IIIポリペプチドがAsn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位が少なくとも1つのD-アミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位が全て、D-アミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ADNF IIIポリペプチドが、

からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ADNF IIIポリペプチドが、活性コア部位のN末端およびC末端の一方または双方で最高約20個のアミノ酸を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ADNF IIIポリペプチドが、浸透または活性を増強するために共有結合した親油性部分を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ヒューペルジン、フプリン(Huprine)、メタンスルホニルフルオリドメトリフォネート、フィソスチグミン、ネオスチグミン、ピリドスチグミン、アンベノニウム、デマルカリウム(demarcarium)、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、タクリン、エドロホニウム、フェノチアジン、4-ベンジル-2-(A-ナフチル)-1,2,4-チアジアゾリジン-3,5-ジオン、およびラサジニル(rasaginile)(アジレクト)からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
タウオパシーがアルツハイマー病、前頭側頭型認知症、または進行性核上麻痺である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
a)以下のアミノ酸配列:Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)を有する活性コア部位を含むADNF IIIポリペプチド;および
b)酢酸グラチラマー
の治療的有効量をヒト被験体に投与する段階を含む、そのような処置を必要とするヒト被験体における多発性硬化症の症状を処置または予防する方法。
【請求項13】
ADNF IIIポリペプチドが完全長のADNF IIIポリペプチドである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ADNF IIIポリペプチドが、式(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)を有し、式中、
R1が、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;
R2が、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;かつ
xおよびyが、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しい、
請求項12記載の方法。
【請求項15】
ADNF IIIポリペプチドがAsn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)である、請求項12記載の方法。
【請求項16】
ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位が少なくとも1つのD-アミノ酸を含む、請求項12記載の方法。
【請求項17】
ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位が全て、D-アミノ酸を含む、請求項12記載の方法。
【請求項18】
ADNF IIIポリペプチドが、

からなる群より選択されるメンバーである、請求項12記載の方法。
【請求項19】
ADNF IIIポリペプチドが、活性コア部位のN末端およびC末端の一方または双方で最高約20個のアミノ酸を含む、請求項12記載の方法。
【請求項20】
ADNF IIIポリペプチドが、浸透または活性を増強するために共有結合した親油性部分を含有する、請求項12記載の方法。
【請求項21】
a)以下のアミノ酸配列:Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)を有する活性コア部位を含むADNF IIIポリペプチド;および
b)抗精神病薬
の治療的有効量をヒト被験体に投与する段階を含む、そのような処置を必要とするヒト被験体における統合失調症を処置または予防する方法。
【請求項22】
ADNF IIIポリペプチドが完全長のADNF IIIポリペプチドである、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ADNF IIIポリペプチドが、式(R1)x-Asn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln-(R2)y(SEQ ID NO: 13)を有し、式中、
R1が、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;
R2が、各アミノ酸が天然に存在するアミノ酸およびアミノ酸アナログからなる群より独立して選択されるアミノ酸1〜約40個を含むアミノ酸配列であり;かつ
xおよびyが、独立して選択され、かつゼロまたは1に等しい、
請求項21記載の方法。
【請求項24】
ADNF IIIポリペプチドがAsn-Ala-Pro-Val-Ser-Ile-Pro-Gln(SEQ ID NO:2)である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位が少なくとも1つのD-アミノ酸を含む、請求項21記載の方法。
【請求項26】
ADNF IIIポリペプチドの活性コア部位が全て、D-アミノ酸を含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
ADNF IIIポリペプチドが、

からなる群より選択されるメンバーである、請求項21記載の方法。
【請求項28】
ADNF IIIポリペプチドが、活性コア部位のN末端およびC末端の一方または双方で最高約20個のアミノ酸を含む、請求項21記載の方法。
【請求項29】
ADNF IIIポリペプチドが、浸透または活性を増強するために共有結合した親油性部分を含有する、請求項21記載の方法。
【請求項30】
抗精神病薬が、アリピプラゾール、クロザピン、ジプラシドン、レスペリドン、クエチアピン、およびオランザピンからなる群より選択されるメンバーである、請求項21記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−514011(P2012−514011A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543954(P2011−543954)
【出願日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001906
【国際公開番号】WO2010/075635
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(510049757)ラモト アト テルーアビブ ユニバーシティー  リミテッド (2)
【出願人】(510049768)アロン セラピューティクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】