説明

NF−ΚBオリゴヌクレオチドデコイ分子

本発明は、NF-κB転写因子と特異的に結合することができるコア配列を含む、二本鎖NF-κBデコイオリゴヌクレオチド(NF-κB dsODN)分子に関する。特定の態様では本発明は、p50/p50ホモ二量体よりp50/p65および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合する、NF-κBデコイ分子に関する。他の態様では本発明は、p65に対する改善された結合親和性を有するNF-κBデコイ分子に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NF-κBオリゴヌクレオチドデコイ分子、ならびに様々なNF-κB関連疾患および病的状態の治療におけるそれら使用に関する。
【背景技術】
【0002】
NF-κBは、共通の配列モチーフを認識するDNA結合タンパク質のRelファミリーのメンバーから構成される、誘導性二量体転写因子のファミリーである。その活性DNA結合形において、NF-κBは、NF-κB/Relファミリーのメンバーの様々な組合せから構成される、ヘテロジニアスな二量体の集合である。現在このファミリーは、p52、p50、p65、cRelおよびRelBと呼ばれる5つのメンバーから構成される。Relファミリーのメンバー間の相同性は、約300アミノ酸の大きさでこれらのタンパク質のDNA結合ドメインを構成する、Rel相同ドメインによるものである。
【0003】
異なるNF-κB二量体は、コンセンサス配列GGGRNNYYCC(配列番号1)(Rがプリンであり、Yがピリミジンであり、かつNが任意の塩基である)を有する、NF-κB部位に関して異なる結合親和性を示す。Relタンパク質は転写を活性化するそれらの能力が異なり、したがってp65/RelAおよびc-Relのみが、哺乳動物ファミリーのメンバーの中で強力な転写活性化ドメインを含むことが見出された。NF-κBは細胞質中ではその不活性形で見られ、この場合それはp65/p50二量体の核局在化シグナル領域を覆う43-kDaのタンパク質IκBと結合している。NF-κBの活性化はIκBのタンパク質分解による破壊で始まり、次にRelA/p50複合体が核に運ばれ、そこでDNA上の認識部位と結合し、標的遺伝子の転写を活性化させる。NF-κBファミリーのさらなる概要に関しては、例えばGomez et al、Frontiers in Bioscience 2:49〜60(1997)を参照のこと。
【0004】
p52およびp50は転写活性化ドメインを含まない。転写活性化ドメインを欠くp52および/またはp50タンパク質のみから構成される二量体は、一般に転写の活性化物質ではなく、転写の抑制を仲介することができる。
【0005】
Rel/NF-κBファミリーの転写因子は、免疫および炎症応答の重要な制御物質であり、リンパ球の増殖、生存および腫瘍形成に貢献する。したがってNF-κBは、炎症、細胞増殖および免疫応答と関係があるいくつかの遺伝子の発現において重要な役割を果たす(D'Acquisto et al、Gene Therapy 7:1731〜1737(2000);Griesenbach et al、Gene Therapy 7、306〜313(2000);Morishita et al、Gene Therapy 7:1847〜1852(2000))。NF-κBによって制御される遺伝子の中で、多くの遺伝子が、数例挙げると関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、再狭窄、心筋梗塞、虚血再灌流障害、糸球体腎炎、アトピー性皮膚炎、伏在静脈移植、アルツハイマー病などの様々な疾患および状態において重要な役割を果たす。例えばKhaled et al、Clinical Immunology and Immunopathology 86(2):170〜179(1998);Morishita et al、Nature Medicine 3(8):894〜899(1997);Cho-Chung et al、Current Opinion in Molecular Therapeutics 1(3):386〜392(1999);Nakamura et al、Gene Therapy 9:1221〜1229(2002);Shintani et al、Ann.Thorac.Surg.74:1132〜1138(2002);およびLi et al、J.Neurochem.74(1):143〜150(2000)を参照のこと。
【0006】
血管形成、再狭窄および心筋梗塞後の新内膜過形成を阻害するためのNF-κBデコイが提案されてきている(Yoshimura et al、Gene Therapy 8:1635〜1642(2001);Morishita et al、Nature Medicine 3(8):894〜899(1997))。移植後の再灌流障害、急性、および慢性拒絶の十分な阻害は同種移植変の生存の延長、および移植冠状動脈疾患の低下をもたらす(Feeley et al、Transplantation 70(11):1560〜1568(2000))。NF-κBデコイのin vivoトランスフェクションは、急性心筋炎を治療するための新規の戦略を与える(Yokoseki et al、上記)。Ueno et al、上記は、NFκBデコイによりNFκBを阻害することによって心臓中の虚血再灌流障害が予防されたことを報告した。
【0007】
ヒト単球細胞系、MonoMac6を低用量のリポ多糖(LPS)で2日間予備処理すると、後のLPS刺激に対する応答が大幅に低下したことが示されている(Ziegler-Heitbrock et al、J.Leukoc.Biol.55(10:73〜80(1994);Kastenbauer and Ziegler-Heitbrock、Infect.Immunol.67(4):1553〜9(1999))。これらのLPS-耐性細胞をLPSで刺激することによって、これらの細胞はゲルシフトアッセイにより示されたようにp50ホモ二量体の優勢を示した。次いでこれらの著者達は、レポーター遺伝子の分析によって、遺伝子発現に対する改変型NF-κB複合体の影響を試験した。NF-κB依存性HIV-1LTRレポーター遺伝子構築体をMonoMac6細胞にトランスフェクトし、次にLPSの存在下でおよびLPSの不存在下で前培養して、ルシフェラーゼ活性を測定した。LPS-耐性細胞を試験すると、LPS刺激がNF-κB依存性HIV-1LTRレポーター遺伝子の転写活性化を増大させることはなかった。これは、LPS-耐性細胞中に存在するNF-κB複合体は機能的に不活性であることを示す。これはNF-κB制御型TNF遺伝子の転写にも当てはまった。TNFプロモーター制御型ルシフェラーゼレポーター構築体を使用すると、LPS-耐性細胞はLPS刺激に対して最小限の応答のみを示した。したがって、LPS耐性によって誘導されたp50ホモ二量体は転写活性化の活性を欠くと結論付けられた。これらのp50ホモ二量体は、その代りに、同種のNF-κBの結合部位を占拠し、p50/p65複合体による転写活性化を妨げる、すなわち、p50/p65複合体による転写を妨げる。
【非特許文献1】Gomez et al、Frontiers in Bioscience 2:49〜60(1997)
【非特許文献2】D'Acquisto et al、Gene Therapy 7:1731〜1737(2000)
【非特許文献3】Griesenbach et al、Gene Therapy 7、306〜313(2000)
【非特許文献4】Morishita et al、Gene Therapy 7:1847〜1852(2000)
【非特許文献5】Khaled et al、Clinical Immunology and Immunopathology 86(2):170〜179(1998)
【非特許文献6】Morishita et al、Nature Medicine 3(8):894〜899(1997)
【非特許文献7】Cho-Chung et al、Current Opinion in Molecular Therapeutics 1(3):386〜392(1999)
【非特許文献8】Nakamura et al、Gene Therapy 9:1221〜1229(2002)
【非特許文献9】Shintani et al、Ann.Thorac.Surg.74:1132〜1138(2002)
【非特許文献10】Li et al、J.Neurochem.74(1):143〜150(2000)
【非特許文献11】Yoshimura et al、Gene Therapy 8:1635〜1642(2001)
【非特許文献12】Morishita et al、Nature Medicine 3(8):894〜899(1997))
【非特許文献13】Feeley et al、Transplantation 70(11):1560〜1568(2000)
【非特許文献14】Ziegler-Heitbrock et al、J.Leukoc.Biol.55(10:73〜80(1994)
【非特許文献15】Kastenbauer and Ziegler-Heitbrock、Infect.Immunol.67(4):1553〜9(1999)
【非特許文献16】Singleton et al.、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed.、J.Wiley & Sons(ニューヨーク、NY 1994)
【非特許文献17】March、Advanced Organic Chemistry Reactions、Mechanisms and Structure 4th ed.、John Wiley & Sons(ニューヨーク、NY 1992)
【非特許文献18】Chen et al、、Nature 391(6665):410〜3(1998)
【非特許文献19】Ghosh et al、、Nature 373(6512):303〜10(1995)
【非特許文献20】Muller et al、FEBS Lett.369(1):113〜7(1995)
【非特許文献21】Wingender et al、Nucleic Acids Res 24:238〜41(1996)
【非特許文献22】Wingender et al、Pac Symp Biocomput 477〜85(1997)
【非特許文献23】Wingender et al、Nucleic Acids Res.25:265〜8(1997)
【非特許文献24】Kel et al、Nucleic Acids Res.31:3576〜9(2003)
【非特許文献25】Bielinska et al、Science 250:997〜1000(1990)
【非特許文献26】Wagner et al、Science 260:1510〜1513(1993)
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【非特許文献30】Ritter、W.et al、J.Mel.Med.81、708〜717(2003)
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【非特許文献36】Pahl and Szelenyi、Inflammation Research 51:273〜282(2002)
【非特許文献37】Bielory et al、Opinion in Allergy and Clinical Immunology 2:435〜445(2003)
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【非特許文献39】Taurog et al、Cell Immunol 75:271〜82(1983)
【非特許文献40】Taurog et al、Cell Immunol 80:198〜204(1983)
【非特許文献41】Terato et al、J.Immunol.148:2103〜8(1992)
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【非特許文献43】Sasakawa,T et al、Int Arch Allergy Immunol 126:239〜47(2001)
【非特許文献44】Sasakawa et al、Int Arch Allergy Immunol 133:55〜63(2004)
【非特許文献45】Anhalt et al、N.Engl J.Med.323(25):1729〜35(1990))
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【非特許文献55】Strober et al、J.Gastroenterol.38 Suppl 15:55〜8(2003)
【非特許文献56】Ueno et al、J.Thoracic and Cardiovascular Surgery 122(4):720〜727(2001)
【非特許文献57】Yokoseki et al、Circ.Res.89:899〜906(2001)
【非特許文献58】Suzuki et al、Gene Therapy 7:1847〜1852(2000)
【非特許文献59】Karin et al、Nat.Rev.Cancer 2(4):301〜10(2002)
【特許文献1】米国特許第5,922,687号
【特許文献2】米国特許第6,395,550号
【非特許文献60】Dzau et al、Trends in Biotech11:205〜210(1993)
【非特許文献61】Morishita et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8474〜8478(1993)
【非特許文献62】Mordenti et al、Pharm Res 8:1351〜9(1991)
【特許文献3】米国仮出願第60/612,046号
【非特許文献63】Blank et al、EMBO J.10:4159〜4167(1991)
【非特許文献64】Bours et al、Mol.Cell.Biol.12:685〜695(1992)
【非特許文献65】Bours et al、U.Cell 72:729〜739(1993)
【非特許文献66】Duckett et al、Mol.Cell.Biol.13:1315〜1322(1993)
【非特許文献67】Fan C.-M、Maniatis T.、Nature 354:395〜398(1991)
【非特許文献68】Fujita et al、Genes Dev.6:775〜787(1992)
【非特許文献69】Fujita et al、Genes Dev.7:1354〜1363(1993)
【非特許文献70】Ghosh et al、Nature 373:303〜310(1995)
【非特許文献71】Ghosh et al、Cell 62:1019〜1029(1990)
【非特許文献72】Grumont et al、Mol.Cell.Biol.14:8460〜8470(1994)
【非特許文献73】Henkel et al、Cell 68:1121〜1133(1992)
【非特許文献74】Ikeda et al、Gene 138:193〜196(1994)
【非特許文献75】Kunsch et al、Mol.Cell.Biol.12:4412〜4421(1992)
【非特許文献76】LeClair et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8145〜8149(1992)
【非特許文献77】LiC.-C.et al、J.Biol.Chem.269:30089〜30092(1994)
【非特許文献78】Matthews et al、Nucleic Acids Res.21:1727〜1734(1993)
【非特許文献79】Mueller et al、Nature 373:311〜317(1995)
【非特許文献80】Neri et al、Cell 67:1075〜1087(1991)
【非特許文献81】Nolan et al、Cell 64:961〜969(1991)
【非特許文献82】Paya et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7826〜7830(1992)
【非特許文献83】Plaksin et al、J.Exp.Med.177:1651〜1662(1993)
【非特許文献84】Schmid et al、Nature 352:733〜736(1991)
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【非特許文献87】Toledano et al、J.Mol.Cell.Biol.13:852〜860(1993)
【非特許文献88】Urban et al、EMBO J.10:1817〜1825(1991)
【非特許文献89】Brown et al、J.Biol.Chem.269(43):26801〜5(1994)
【非特許文献90】Cummins et al、Nucleic Acids Res.23:2019〜24(1995)
【非特許文献91】Hoke et al、Nuci.Acids Res.19(20):5743〜8(1991)
【非特許文献92】Hurst et al、Immunol 169:443〜53(2002)
【非特許文献93】Trentham et al、Arthritis Rheum 25:911〜6(1982)
【非特許文献94】Neurath et al、Int Rev Immunol 19:51〜62(2000)
【非特許文献95】Bouma et al、Gastroenterol 123:554〜565(2002)
【非特許文献96】Bouma and Strober、Nat Rev Immunol 3:521〜533(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、NF-κB転写因子と特異的に結合することができるコア配列(core sequence)を含む、二本鎖NF-κBデコイオリゴデオキシヌクレオチド(NF-κBdsODN)分子に関する。特定の態様では本発明は、p50/p50ホモ二量体が存在するとp50/p50ホモ二量体よりp50/p65および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合する、NF-κBデコイ分子に関する。本発明の選択的デコイ分子は、p50/p50ホモ二量体を阻害しないことによって、これらのホモ二量体がNF-κB制御型遺伝子のプロモーターを阻害するのを可能にし、このデコイ分子は更なるレベルの遺伝子転写の負の制御をもたらす。結果として、これらの選択的NF-κBデコイ分子は、特にin vitroとin vivoの両方でNF-κB活性の非常に強力な阻害剤である。
【0009】
p50/p50ホモ二量体が存在しない場合、少量のみ存在する場合、あるいは疾患状態において重要な役割を果たさない場合、本発明はp65に関して高い結合親和性を有するNF-κBデコイ分子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様では本発明は、p50/p50ホモ二量体よりp50/p65および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合する、二本鎖NF-κBデコイオリゴデオキシヌクレオチド(NF-κBdsODN)分子に関する。
【0011】
他の態様では本発明は、センスおよびアンチセンス鎖を含むNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子に関するものであり、この分子は、p50/p50ホモ二量体が存在すると、p50/p50ホモ二量体よりp50/p65および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合し、かつ/あるいは、電気泳動移動度シフトアッセイにおいて、HIVに由来する非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp65/p50の結合を少なくとも50%競合するのに必要とされるモル過剰率を測定することによって決定した場合に、45以下のp65結合親和性を示す。
【0012】
さらに他の態様では本発明は、少なくとも約20の特異性/親和性係数を特徴とする請求項1のdsODN分子に関するものであり、この特異性/親和性係数は競合結合アッセイにおいて決定し、以下のように定義する:
特異性/親和性係数=(Sp50/p50-Sp65/p50)×Sp50/p50/Sp65/p50
(上式で、Sp50/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp50/p50の結合を50%競合させるのに必要とされる前記dsODN分子のモル過剰率と等しく、かつSp65/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp65/p50の結合を50%競合させるのに必要とされる前記dsODN分子のモル過剰率と等しく、かつデコイが試験した任意のモル比で少なくとも50%の結合を競合させることができない場合、値(S)は100として割り当てる)。
【0013】
他の態様では本発明は、少なくとも約25、または少なくとも約30、または少なくとも約35、または少なくとも約40、または少なくとも約50、または少なくとも約60、または少なくとも約70、または少なくとも約80の特異性/親和性係数を有するNF-κBdsODN分子に関する。好ましい実施形態では、本発明のデコイ分子はp50/p65ヘテロ二量体に対して増大した結合親和性をさらに示し、かつ/またはin vivoでの改善された安定性を有する。
【0014】
他の態様では本発明は、その第1の鎖中に5'から3'方向に式FLANK1-CORE-FLANK2
(上式で、
COREはGGGATTTCC(配列番号11);GGACTTTCC(配列番号13);GGATTTCC(配列番号19);GGATTTCCC(配列番号21);およびGGACTTTCCC(配列番号25)からなる群から選択され;
FLANK1はAT;TC;CTC;AGTTGA(配列番号80)、およびTTGA(配列番号81)からなる群から選択され;
FLANK2はGT;TC;TGT;AGGC(配列番号88);およびAGからなる群から選択される)
の配列を含むdsODN分子に関する。
【0015】
特定の実施形態では、COREはGGGATTTCC(配列番号11);GGACTTTCC(配列番号13);およびGGATTTCC(配列番号19)からなる群から選択され;FLANK1はATでありFLANK2はGTであり;あるいはFLANK1はTCでありFLANK2はTCであり;あるいはFLANK1はCTCでありFLANK2はTGTであり;あるいはFLANK1はAGTTGA(配列番号80)でありFLANK2はAGGC(配列番号88)であり;あるいはFLANK1はTTGAでありFLANK2はAGである。
【0016】
他の特定の実施形態では、COREはGGGATTTCC(配列番号11)またはGGACTTTCC(配列番号13)であり;FLANK1はAGTTGA(配列番号80)であり、FLANK2はAGGC(配列番号88)である。
【0017】
さらに他の特定の実施形態では、COREがGGACTTTCC(配列番号13)であり、FLANK1がAGTTGA(配列番号80)であり、かつFLANK2がAGGC(配列番号88)である、請求項14のdsODN分子。
【0018】
NF-κBdsODN分子は、前記第1の鎖と少なくとも部分的に相補的である第2の鎖を含み、ホスホロジエステレート、ホスホロチオエート、混合型ホスホロジエステレート-ホスホロチオエート、または任意の他の修飾骨格を有することができる。
【0019】
この二本の鎖は単にワトソン-クリック塩基対によって、かつ/あるいは共有結合によって互いに結合することができる。
【0020】
他の態様では本発明は、5'から3'方向に配列番号26〜77および10からなる群から選択される配列を含むNF-κBdsODN分子に関する。
【0021】
さらに他の態様では本発明は、5'から3'方向に配列番号26〜34からなる群から選択される配列を含むNF-κBdsODN分子に関する。
【0022】
他の態様では本発明は、5'から3'方向に配列番号26〜31からなる群から選択される配列を含むNF-κBdsODN分子に関する。
【0023】
さらに他の態様では本発明は、配列番号30の配列を含むNF-κBdsODN分子に関する。
【0024】
特定の実施形態では、NF-κBdsODN分子は12〜28、または14〜24、または14〜22塩基対長であり、修飾または通常ではないヌクレオチドを含むことができる。
【0025】
他の態様では本発明は、45以下のp65競合結合親和性を示すNF-κBdsODN分子に関する。
【0026】
特定の実施形態では、良好なp65結合親和性を有するdsODNは、そのセンス鎖中5'から3'方向に式FLANK1-CORE-FLANK2
(上式でCOREはGGGGACTTTCCC(配列番号9);GGGACTTTCC(配列番号5);GGACTTTCCC(配列番号25);GGGATTTCC(配列番号11);およびGGACTTTCC(配列番号13)からなる群から選択され;
FLANK1はAGTTCA(配列番号80);CTC、TC;CT;AGTTGA;CCTTGAA;およびCTからなる群から選択され;かつ
FLANK2はAGGC(配列番号88);TGT;TC;AGG;TCC;およびTCAからなる群から選択される)
の配列を含む。
【0027】
本発明の他の態様と同様に、後者のdsODN分子は、ハイブリッドまたは他の場合は修飾骨格、部分的または完全に相補的でありワトソン-クリック塩基対によって、かつ/あるいは他の共有または非共有結合手段によって完全または部分的に互いに結合した鎖を有することができる。
【0028】
他の態様では本発明は、前に記載したのと同様のNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)を含む組成物に関する。この組成物は例えば、医薬組成物であってよい。
【0029】
さらに他の態様では本発明は、有効量の前に記載したNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を必要性のある哺乳動物対象に投与することを含む、炎症、免疫または自己免疫疾患を治療するための方法に関する。
【0030】
本発明はさらに、有効量の本明細書のNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を必要性のある哺乳動物対象に投与することを含む、癌を治療するための方法に関する。
【0031】
他の態様では本発明は、有効量の本明細書のNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を必要性のある哺乳動物対象に投与することを含む、再灌流障害または再狭窄を治療するための方法に関する。
【0032】
すべての態様において、哺乳動物対象はヒトであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(A.定義)
他に定義しない限り、本明細書で使用する技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般的に理解されているのと同じ意味を有するものとする。Singleton et al.、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed.、J.Wiley & Sons(ニューヨーク、NY 1994)、およびMarch、Advanced Organic Chemistry Reactions、Mechanisms and Structure 4th ed.、John Wiley & Sons(ニューヨーク、NY 1992)は、本出願で使用する多くの用語に対する一般的指針を当業者に与える。
【0034】
用語「二本鎖」は、単にワトソン-クリック塩基対によって互いに結合した2本の相補的ヌクレオチド鎖を含む核酸分子を指すように使用する。この用語は詳細には、2本の相補鎖によって形成される二本鎖領域以外に、一本鎖突出部を含む分子を含む。
【0035】
用語「オリゴヌクレオチドデコイ」、「二本鎖オリゴヌクレオチドデコイ」、「オリゴデオキシヌクレオチドデコイ」、および「二本鎖オリゴデオキシヌクレオチドデコイ」は同義的に、標的転写因子と結合してその生物学的機能に干渉する二本鎖領域を含む、短い核酸分子を指すように使用する。したがって、用語「NF-κBオリゴヌクレオチドデコイ」、「二本鎖NF-κBオリゴヌクレオチドデコイ」、「NF-κBオリゴデオキシヌクレオチドデコイ」、および「二本鎖NF-κBオリゴデオキシヌクレオチドデコイ」は同義的に、NF-κB転写因子と結合してその生物学的機能に干渉する二本鎖領域を含む、短い核酸分子を指すように使用する。用語「二本鎖」は、ワトソン-クリック塩基対によって互いに結合した2本の相補的ヌクレオチド鎖を含む核酸分子を指すように使用する。この用語は詳細には、2本の相補鎖によって形成される二本鎖領域以外に、一本鎖突出部を含むNF-κBオリゴデオキシヌクレオチドデコイ分子を含む。さらに、この用語は詳細には、二本鎖領域以外に二本鎖がそれらの3'および/または5'端で互いに共有結合している、NF-κBオリゴデオキシヌクレオチドデコイ分子を含む。
【0036】
用語「NF-κB」は本明細書では最も広い意味で使用して、NF-κB/Relファミリーのメンバーの、例えばp52、p5O、p65、cRelおよびRelBのすべての組合せを含めた、任意の動物種のすべての天然に存在するNF-κB分子を含む。
【0037】
用語「転写因子結合配列」は、転写因子が結合する短いヌクレオチド配列である。この用語は詳細には、その転写が1つまたは複数の転写因子によって制御される遺伝子の制御領域において典型的に見られる、天然に存在する結合配列を含む。この用語はさらに、天然には存在しないが内因性遺伝子中の結合部位との転写因子の結合を競合的に阻害することができる、人工(合成)配列を含む。
【0038】
本明細書で使用するフレーズ「修飾ヌクレオチド」は、天然ヌクレオチドおよびヌクレオチド三リン酸と組成および/または構造が異なる、ヌクレオチドまたはヌクレオチド三リン酸を指す。
【0039】
本明細書で使用する用語「5プライム」または「5'」、および「3プライム」または「3'」は、核酸に関する特定の方向を指す。核酸は、それらの2つの端が5プライム(5')または3プライム(3')として区別されるような、異なる化学配向を有する。核酸の3'端は、末端ペントース糖の3'炭素と結合した遊離ヒドロキシル基を含む。核酸の5'端は、末端ペントース糖の5'炭素と結合した遊離ヒドロキシル基またはリン酸基を含む。
【0040】
本明細書で使用する用語「突出部」は、2本の鎖の両端が同時に延長せず、1本の鎖の5'端が対向する相補鎖の3'端より延長するように、平滑末端を有していない二本鎖核酸分子を指す。直線状核酸分子は0、1、または2個の5'突出部を有することができる。
【0041】
本明細書で使用する用語「優先的結合」、「優先的に結合する」およびそれらの文法上の相当物は、特異性/親和性係数が少なくとも約20、または少なくとも約25、または少なくとも約30、または少なくとも約35、または少なくとも約40であることを意味するために使用し、この特異性/親和性の比は以下のように定義する:
特異性/親和性係数=(Sp50/p50-Sp65/p50)×Sp50/p50/Sp65/p50
(上式でSp50/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114、配列番号48およびその相補体)とp50/p50の結合を50%競合させるのに必要とされるデコイのモル過剰率と等しく、かつSp65/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp65/p50の結合を50%競合させるのに必要とされるデコイのモル過剰率と等しい。デコイが試験した任意のモル比で少なくとも50%の結合を競合させることができない場合、値(S)は100として割り当てる)。
【0042】
用語「結合親和性」は、所与の転写因子が対応するオリゴヌクレオチドデコイとどの程度強く結合するかを指し、これは電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)またはTransAMアッセイを含めた様々な実験手法によって測定することができる。
【0043】
用語「競合比」は、TransAMアッセイでの、転写因子の結合および保持に関する定義した配列と競合する試験デコイ配列の能力であって、定義した配列自身と競合させた定義した配列と比較した能力を説明する。小さな比は、転写因子と結合する高い競合能力を指す。
【0044】
本明細書で使用する、用語「炎症疾患」または「炎症障害」は、典型的には好中球の化学走性によって引き起こされる炎症をもたらす病的状態を指す。このような障害の例には、乾癬、湿疹およびアトピー性皮膚炎を含めた炎症性皮膚疾患;全身性強皮症および硬化症;炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎など)に伴う応答;外科手術による組織再灌流障害、心筋梗塞、心拍停止、心臓外科手術後の再灌流、および経皮経腔的冠状動脈血管形成術、脳卒中、および腹部大動脈瘤後の収縮などの心筋虚血状態を含めた虚血再灌流障害;脳卒中に付随する脳水腫;頭蓋外傷、低血液量性ショック;仮死;成人呼吸窮迫症候群;急性肺障害;ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;変形性関節症;ループス腎炎;関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、血管炎などの自己免疫疾患;白血球漏出に関与する疾患;中枢神経系(CNS)炎症障害、敗血症または外傷に付随する多臓器障害症候群;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;糸球体腎炎を含めた抗原-抗体複合体仲介の疾患;敗血症;サルコイドーシス;組織/臓器移植に対する免疫病理的応答;胸膜炎、肺胞炎、血管炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、過敏性肺炎、特発性肺線維症(IPF)、およびのう胞性線維症などを含めた肺の炎症がある。好ましい徴候は、皮膚炎、湿疹などの炎症皮膚状態、関節リウマチ(RA)、リウマチ様脊椎炎、痛風性関節炎および他の関節炎状態、慢性炎症、自己免疫性糖尿病、多発性硬化症(MS)、喘息、全身性エリテマトーデス、成人呼吸窮迫症候群、ベーチェット病、乾癬、慢性肺炎症疾患、移植片対宿主反応、クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、アルツハイマー病、および不全麻痺(pyresis)、ならびに炎症および関連障害と関係がある任意の疾患または障害を非制限的に含む。
【0045】
用語「アポトーシス」および「アポトーシス活性」は広い意味で使用して、細胞質の凝縮、原形質膜微絨毛の消失、核の分離、染色体DNAの分解またはミトコンドリア機能の消失を含めた1つまたは複数の特徴的な細胞の変化を典型的に伴う、整然とした形または制御形の哺乳動物の細胞死を指す。例えば細胞生存能力アッセイ、FACS分析またはDNA電気泳動によって、この活性を決定および測定することができる。
【0046】
用語「癌」および「癌性」は、典型的には制御不能な細胞増殖によって特徴付けられる、哺乳動物における生理的状態を指すか、説明する。癌の例には非制限的に、癌腫、リンパ腫、白血病、芽細胞腫、および肉腫がある。このような癌の具体例には、扁平細胞癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、乳癌、膵臓癌、多形性神経膠芽腫、子宮頚癌、胃癌、膀胱癌、肝臓癌、結腸癌、ならびに頭部および首部癌がある。好ましい実施形態では、癌は乳癌、卵巣癌、前立腺癌、および肺癌を含む。
【0047】
用語「治療」は治療処理と予防策または防止策の両方を指し、その目的は標的とする病的状態または障害を予防または遅延(軽減)させることである。本発明の目的のために、有益または望ましい臨床結果には、症状の軽減、疾患の程度の低下、安定した(すなわち悪化していない)疾患状態、疾患進行の遅延または遅れ、疾患状態の改善または一時的緩和、および検出可能であれ検出不能であれ(部分的であれ全体的であれ)寛解があるが、これらだけには限られない。治療の必要がある人は、既に障害を有している人、および障害を有する傾向がある人、またはその障害を予防すべき人を含む。腫瘍(例えば癌)の治療では、治療剤は腫瘍細胞の病状を直接低下させることができるか、あるいは他の治療剤、例えば放射線および/または化学療法剤による治療に対して腫瘍細胞をより敏感にすることができる。
【0048】
「対象」は脊椎動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0049】
本明細書中、用語「哺乳動物」は、ヒト、高等霊長類、げっ歯類、飼育および農場動物、ならびに動物園、スポーツ、またはペット用動物、例えばヒツジ、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどを非制限的に含めた、哺乳動物として分類される任意の動物を指すように使用する。哺乳動物は、本明細書ではヒトであることが好ましい。
【0050】
(B.詳細な説明)
p50/p50ホモ二量体は前炎症性遺伝子の活性化を阻害し、一方p65/p50ヘテロ二量体は前炎症性遺伝子に働きかけることによって作用し、その結果として、炎症の病因の主な要素であることは知られている。本発明の根底にある1つの概念は、p65/p50および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と結合しp50/p50ホモ二量体とは結合し得ない、あるいはp65/p50および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合すると思われるデコイ分子を設計することによって、p50/p50ホモ二量体を残したまま、これらの部位を占めることにより、NF-κB誘導型プロモーターの過剰な阻害をもたらすことができることである。結果として、このような選択的デコイ分子は、NF-κB活性、NF-κB経路と関係があるこのような前炎症活性を、当技術分野で知られているNF-κBデコイより効果的に阻害する可能性を有する。
【0051】
本発明の他の目的は、p65に関して改善された結合親和性を有するNF-κBデコイ分子を提供することである。このクラスのNF-κBdsODN分子は、皮膚炎の場合と同様にp50/p50ホモ二量体が少ない濃度でのみ存在し、したがってp65/p50特異性は重要ではない状況で特に有用である。
【0052】
(改善された性質を有するNF-κBデコイの設計)
(1.NF-κBdsODN分子の設計)
本発明のオリゴヌクレオチドデコイは、5'-GGGACTTTCC-3'(配列番号2)のコンセンサス配列を含む免疫グロブリン軽鎖遺伝子(Chen et al、、Nature 391(6665):410〜3(1998))と結合したp50/p65ヘテロ二量体の結晶構造を利用して設計している。著者は、p50は5塩基対サブサイト5'-GGGAC-3'(配列番号3)と接触し、p65は4塩基対サブサイト5'-TTCC-3'(配列番号4)と接触することを示した。p50/p65ヘテロ二量体によるDNA接触は、ホモ二量体構造におけるDNA接触と同様である(Ghosh et al、、Nature 373(6512):303〜10(1995);Muller et al、FEBS Lett.369(1):113〜7(1995))。
【0053】
さらに、どの程度十分にデコイがNF-κBと結合するかの値を与えるバイオインフォマティクス法を使用して、それぞれのdsODN配列を分析した。その後、特異性/親和性係数を、伝統的な結合アッセイ(例えば、競合結合アッセイ)を使用して実験によって生成させたが、転写因子の活性化を検出および定量化するためのELISA系の方法であるTransAM(商標)法(Active Motif、Carlsbad、CA)を含めた、他の結合アッセイから容易に誘導することができると思われる。予想結合親和性は、実験のTF-DNA結合データを統計的に要約したTF結合部位マトリクスシステムを使用する、TF結合親和性を評価するための従来の手法を使用して誘導した。この分析は、最新バージョン(8.2,2004年6月)のTRANSFACデータベース(Wingender et al、Nucleic Acids Res 24:238〜41(1996);Wingender et al、Pac Symp Biocomput 477〜85(1997);Wingender et al、Nucleic Acids Res.25:265〜8(1997))を使用して行った。TRANSFACは、DNA-TF結合に関する位置加重マトリクスを集めている。ツールMatch(Kel et al、Nucleic Acids Res.31:3576〜9(2003))を使用して、TRANSFACのマトリクスを使用することによってデコイの結合親和性を評価し、実際の特異性/親和性係数を比較した。データは図14および15中に示し、以下で論じる。正確な値はアッセイに依存すると思われるが、しかしながら、相対的な親和性は使用する特異性アッセイとは無関係に妥当なままであると思われる。
【0054】
一実施形態では、本発明のNF-κBdsODN分子は、ワトソン-クリック塩基対によって互いに結合した2本のオリゴヌクレオチド鎖からなる。典型的には2本鎖中のすべてのヌクレオチドは塩基対に関与しているが、これは必要条件ではない。1つまたは複数、例えば1〜3個、あるいは1個または2個のヌクレオチドが塩基対に関与していない、オリゴヌクレオチドデコイ分子も含まれる。さらに、二本鎖デコイは3'および/または5'一本鎖突出部を含むことができる。
【0055】
他の実施形態では、本発明のNF-κBdsODN分子は、ワトソン-クリック塩基対によって互いに結合し、3'または5'端のいずれか、あるいは両方において互いにさらに共有結合しダンベル構造、または環状分子をもたらす、2本のオリゴヌクレオチド鎖を含む。共有結合は、例えばホスホジエステル結合または他の結合基、例えばホスホチオエート、ホスホジチオエート、またはホスホアミデート結合などによって与えられる可能性がある。
【0056】
一般に本発明のdsODN分子は、5'および/または3'配列に隣接(flank)し、かつNF-κB転写因子と特異的に結合することができるコア配列(core sequence)を含み、コア配列は典型的には約5〜14、または約6〜12、または約7〜約10塩基対からなり;隣接配列(flanking sequence)は約2〜8、または約2〜6、または約2〜4、または約4〜8、または約4〜6塩基対長である。分子は典型的には、2本の完全または部分的相補鎖から構成される約12〜28、好ましくは約14〜24塩基対長の二本鎖領域(コア配列および隣接配列を含む)を含む。
【0057】
(その長さ、配列、塩基修飾および骨格構造を含めて)コア配列を変えることによって、NF-κBデコイ分子の結合親和性、安定性および特異性を変えることができる。実際、高い親和性でp65/p50および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と結合し、p50/p50ホモ二量体に関して結合親和性をまったく示さないかあるいは低い結合親和性のみを示す、本発明のNF-κBdsODN分子は、DNAと結合したp65/p50ヘテロ二量体の結晶構造、およびフォローアップ試験に基づいて、共通のオリゴヌクレオチドデコイの結合部位(コア)中の標的残基を削除するか変えることによって設計した。
【0058】
さらに、隣接配列の変化はNF-κBデコイ分子のin vivoでの安定性に対して真の影響があり、それを有意に増大させる可能性があり、結合親和性および/または特異性に影響を与える可能性がある。特に、NF-κBデコイ分子の形状/構造は、コア結合配列に隣接する配列を変えることによって変えることができ、これは改善された安定性および/または結合親和性をもたらす可能性がある。DNAの形状および構造は、塩基対配列、DNAの長さ、ヌクレオチドの骨格および性質(すなわち、ネイティブDNAと修飾糖または塩基)によって影響を受ける。したがって、分子の形状および/または構造は、例えば全長、分子内の完全に相補的な二本鎖領域の長さを変えることによって、コアおよび隣接配列内の変更によって、骨格構造を変えることによって、ならびに塩基修飾などによって、他の手法により変えることもできる。
【0059】
本発明のデコイ分子中に存在するヌクレオチド配列は、修飾または通常ではないヌクレオチドを含む可能性があり、他の骨格の化学的性質を有する可能性がある。合成ヌクレオチドは様々な方法で修飾することができる、例えばBielinska et al、Science 250:997〜1000(1990)を参照のこと。したがって酸素は、窒素、イオウまたは炭素で置換することができ;リンは炭素で置換することができ;デオキシリボースは他の糖で置換することができ、または、個々の塩基は非天然塩基で置換することができる。したがって、ヌクレオチド間結合の非架橋酸素原子をイオウ基で置換して(ホスホロチオエート結合を生成させる)ことは、dsODN分子のヌクレアーゼ耐性を増大させる際に有用となっている。イオウ修飾の数と本明細書のNF-κBdsODN分子の安定性および特異性の間の関係を決定する実験は、以下の実施例中で述べる。
【0060】
それぞれの場合、NF-κB転写因子に対するオリゴヌクレオチドデコイの結合能力および親和性に対する修飾の影響、溶解温度およびin vivoでの安定性に対する影響、ならびに任意の有害な生理的影響に関して、任意の変化が評価されると思われる。
【0061】
このような修飾は当技術分野ではよく知られており、アンチセンスオリゴヌクレオチド用の広い用途が見出されており、したがって、その安全性および結合親和性の保持は十分確立されている(例えば、Wagner et al、Science 260:1510〜1513(1993)を参照のこと)。
【0062】
修飾ヌクレオチドの例は、非制限的に、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2'-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2'-O-メチルプソイドウリジン、β,D-ガラクトシルケオシン、2'-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン3-メチルシチジン5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン、β,D-マンノシルケオシン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボナルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルチオプリン-6-イル)カルバモイル)スレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシル)プリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)スレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステルウリジン-5-オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジンケオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)-カルバモイルスレオニン、2'-O-メチル-5-メチルウリジン、2'-O-メチルウリジン、3-(3-3-アミノ-3-カルボキシ-プロピル)ウリジン(acp3)u、およびワイブトシンである。
【0063】
さらにヌクレオチドは、例えばホスホラミデート結合によって互いに結合することができる。この結合は、架橋酸素(-0-)がアミノ基(-NR-)(式中、Rが典型的には水素または低級アルキル基、例えばメチルまたはエチル基などである)で置換されている天然ホスホジエステル結合の類似体である。ホスホチオエート、ホスホジチオエートなどの他の結合も可能である。
【0064】
本発明のデコイは、一般にポリヌクレオチド構造で存在する修飾または類似形のリボースまたはデオキシリボース糖を含むこともできる。このような修飾には、非制限的に2'-置換糖、例えば2'-0-メチル-、2'-0-アリル、2'-フルオロ-および2'アジド-リボースなど、カルボン酸糖類似体、αアノマー糖、エピマー糖、例えばアラビノース、キシロース、リクソースなど、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプチュロース、非環式および無塩基ヌクレオシド類似体、例えばメチルリボースなどがある。
【0065】
一般に、本発明のオリゴヌクレオチドデコイは、約50%を超える、より好ましくは約80%を超える、最も好ましくは約90%を超える一般的なデオキシリボースヌクレオチドから構成されることが好ましい。
【0066】
本発明のNF-κBdsODNデコイをさらに修飾して、それらの局在、精製を容易にすることができ、あるいはそれらのいくつかの性質を改善することができる。例えば、核局在化シグナル(NLS)をデコイ分子と結合させて、細胞核へのそれらの送達を改善することができる。NF-κB/Relタンパク質は、NLSを含む共通のRel相同ドメインを含む。好ましい実施形態では、このような天然に存在するNLS、またはその変異体を本発明のデコイ分子中に使用する。
【0067】
さらに、本発明のNF-κBデコイ分子は、例えば以下の参照文献:Avrameas et al、J Autoimmun 16、383〜391(2001);Avrameas et al、Bioconjug.Chem.10:87〜93(1999);Gallazzi et al、Bioconjug.Chem.14、1083〜1095(2003);Ritter、W.et al、J.Mel.Med.81、708〜717(2003)中に記載されたのと同様に、ペプチド、タンパク質または他の型の分子などの担体分子とコンジュゲートさせることができる。
【0068】
本発明のNF-κBデコイ分子をさらに誘導体化して、送達、分布、特定細胞型の標的化を改善するか、あるいは細胞障壁を介した移動を容易にする送達媒体を含ませることができる。このような送達媒体には非制限的に、細胞浸透性増大物質、リポソーム、リポフェクチン、デンドリマー、DNA挿入剤、およびナノ粒子がある。
【0069】
(2.NF-κBdsODN分子の合成)
本発明のNF-κBsdODNデコイ分子は、市販の自動合成装置を使用して標準的なホスホジエステルまたはホスホラミデート化学法によって合成することができる。実施例中に記載した特異的dsODN分子は、自動DNA合成装置(モデル380B;Applied Biosystems、Inc.、Foster City、CA)を使用して合成した。デコイはカラムクロマトグラフィーによって精製し、凍結乾燥させ、培養培地中に溶解させた。それぞれのデコイの濃度は分光測光法によって測定した。
【0070】
(3.NF-κBdsODN分子の特徴付け)
本発明のNF-κBデコイ分子は好都合に試験することができ、ゲルシフト、または電気泳動移動度シフト(EMSA)アッセイにおいて特徴付けすることができる。このアッセイは、転写因子とDNAの結合を検出するための迅速で感度の良い方法を与える。このアッセイは、タンパク質とDNAの複合体は遊離二本鎖オリゴヌクレオチドよりもゆっくりと、非変性ポリアクリルアミドゲルを介して移動するという観察結果に基づく。ゲルシフトアッセイは、転写因子結合部位を含む32P末端標識DNA断片と共に、精製タンパク質、またはタンパク質の複合体混合物(核抽出物など)をインキュベートすることによって行う。次いで反応生成物を、非変性ポリアクリルアミドゲル上で分析する。結合部位に関する転写因子の特異性は、当該のタンパク質の結合部位またはスクランブルDNA配列のいずれかを含む過剰量のオリゴヌクレオチドを使用する競合実験によって確かになる。複合体中に含まれるタンパク質の同一性は、そのタンパク質を認識する抗体を使用し、次いでDNA-タンパク質-抗体複合体の低下した移動度、またはこの複合体と放射標識オリゴヌクレオチドプローブの結合の破壊のいずれかを検索することによって確かになる。
【0071】
NF-κB転写因子と結合しNF-κB転写因子の活性を阻害するNF-κBデコイの能力は、転写因子の活性化を検出および定量化するためのELISA系の方法であるTransAM(商標)法(Active Motif、Carlsbad、CA)を含めた、伝統的な結合アッセイ(例えば、競合結合アッセイ)において測定することができる。簡潔に言うと、標的配列、この場合は天然NF-κB結合部位をプレート上に固定し、NF-κBを含む核抽出物を、「デコイ:プレート結合配列」のモル比で求めた様々な濃度で、デコイの存在または不在下においてウエル中でインキュベートする。陽性対照ウエルは、プレート上の標的DNAと同じ配列を有するデコイを含む。得られたデータは、試験デコイの吸光度と陽性対照デコイの吸光度の比として表す。したがって、小さな比は良い結合を表す。
【0072】
DNAと結合したp65/p50ヘテロ二量体の結晶構造に基づいて、本明細書の選択的NF-κBデコイを設計する際に、共通のオリゴヌクレオチドデコイの結合部位(コア)中の標的残基を除去した。最終的な目的は、p65/p50および/またはcRel/p50ヘテロ二量体、好ましくはp65/p50ヘテロ二量体とcRel/p50ヘテロ二量体の両方と高い親和性で結合することができ、p50/p50ホモ二量体に関して低い親和性を示す二本鎖オリゴヌクレオチドを設計することであった。この目的を達成するために、様々なNF-κBデコイを、以下の実施例1に記載したのと同様のゲルシフトアッセイにおいて、異なるNF-κBタンパク質と結合するそれらの能力に関して試験した。
【0073】
(4.NF-κBdsODN分子の使用、および治療法)
NF-κBは多数の遺伝子の転写の制御に関与している。NF-κBにより転写活性化される遺伝子の代表的な群およびリストは以下に与える。
【0074】
サイトカイン/ケモカインおよびそれらの調節物質、例えばインターフェロン-γ(IFN-γ)、インターフェロン-β(IFN-β)、IL-1、IL-2、IL-6、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-15などのインターロイキン、リンホトキシン-α、リンホトキシン-β、TNF-α、MIP-1、MIP-2、MIP-3、RANTES、TNF-α、TRAILなど。
【0075】
免疫制御物質、例えばBRL-1、CCR5、CCR7、CD137、CD154、CD40およびCD40リガンド、CD48、CD83、CD23、IL-2受容体α鎖、いくつかの免疫グロブリン重鎖および軽鎖、MHCクラスI抗原、T細胞受容体サブユニット、TNF-受容体(p75/80)など。
【0076】
抗原提示と関係があるタンパク質、例えば補体B、補体成分3、TAP1、およびタパシンなど。
【0077】
細胞接着分子、例えばE-およびP-セレクチン、ICAM-1、MadCAM-1、VCAM-1、およびテナスシン-Cなど。
【0078】
急性相タンパク質、例えばアンギオテンシノゲン、β-デフェンシン-2、補体因子、組織因子-1(TF-1)、ウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子など。
【0079】
ストレス応答遺伝子、例えばアンギオテンシン-2、COX-2、MAP4K1、ホスホリパーゼA2など。
【0080】
細胞表面受容体、例えばCD23、CD69、EGF-R、Lox-1、Mdr1など。
【0081】
アポトーシスの制御物質、例えばBf11、Bcl-xL、カスパーゼ-11、CD95(Fas)、TRAF-1、TRAF-2など。
【0082】
増殖因子およびそれらの調節物質、例えばG-CSF、GM-CSF、EPO、IGFBP-1、IGFBP-2、M-CSF、VEGF-Cなど。
【0083】
初期応答遺伝子、例えばTIEG、B94、Egr-1など。
【0084】
さらにNF-κBは、c-myc-、c-myb、A20、junB、p53、WT1などの他の転写因子、およびウイルスの転写を制御する。
【0085】
したがって、本明細書のNF-κBデコイ分子による、前炎症性サイトカイン、IL-1およびTNF-αなど、および免疫調節物質の発現を含めたNF-κB誘導型遺伝子発現の阻害は、炎症、免疫および自己免疫疾患、例えば関節リウマチ(RA)(Roshak et al、Current Opinion in Pharmacology 2:316〜321(2002));クローン病および炎症性腸疾患(IBD)(Dijkstra et al、Scandinavian J.of Gastroenterology Suppl.236:37〜41(2002));大腸炎;膵炎(Eeber and Adler、Pancreatology 1:356〜362(2001))、歯周炎(Nichols et al、Annals of Periodontology 6:20〜29(2001));ろうそう(Kammer and Tsokos、Current Directions in Autoimmunity 5:131〜150(2002));喘息(Pahl and Szelenyi、Inflammation Research 51:273〜282(2002));および眼部アレルギー(Bielory et al、Opinion in Allergy and Clinical Immunology 2:435〜445(2003))など、炎症性皮膚疾患、例えばアトピー性皮膚炎/湿疹、乾癬などの予防および治療において有用である。
【0086】
本発明のNF-κBデコイによる予防および/または治療の標的とされる、疾患および病的状態のより詳細なリストには、乾癬、湿疹およびアトピー性皮膚炎;全身性強皮症および硬化症;炎症性腸疾患(IBD)(クローン病および潰瘍性大腸炎など)に伴う応答;外科手術による組織再灌流障害、心筋梗塞、心拍停止、心臓外科手術後の再灌流、および経皮経腔的冠状動脈血管形成術、脳卒中、および腹部大動脈瘤後の収縮などの心筋虚血状態を含めた虚血再灌流障害;脳卒中に付随する脳水腫;頭蓋外傷、低血液量性ショック;仮死;成人呼吸窮迫症候群;急性肺障害;ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;変形性関節症;ループス腎炎;関節リウマチ(RA)、シェーグレン症候群、血管炎などの自己免疫疾患;白血球漏出に関与する疾患;中枢神経系(CNS)炎症障害、敗血症または外傷に付随する多臓器障害症候群;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;糸球体腎炎を含めた抗原-抗体複合体仲介の疾患;敗血症;サルコイドーシス;組織/臓器移植に対する免疫病理的応答;胸膜炎、肺胞炎、血管炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、過敏性肺炎、特発性肺線維症(IPF)、およびのう胞性線維症などを含めた肺の炎症などがある。
【0087】
(関節リウマチ)
関節リウマチ(RA)は、関節軟骨に対して障害が生じる、多数の関節の滑膜と主に関係がある慢性の全身性自己免疫炎症疾患である。関節炎の予防および/または治療における本発明のNF-κBデコイ分子の有効性は、コラーゲン誘導性関節炎(CIA)モデル(Terato et al、Brit.J.Rheum.35:828〜838(1966))、アジュバント誘導性関節炎モデル(Taurog et al、Cell Immunol 75:271〜82(1983);Taurog et al、Cell Immunol 80:198〜204(1983))、またはTerato et al、J.Immunol.148:2103〜8(1992);Terato et al、Autoimmunity 22:137〜47(1995)によって記載されたのと同様の、4つのモノクローナル抗体のカクテルの静脈内注射によって誘導される抗体仲介関節炎のモデルにおいて評価することができる。関節炎の予防および/または治療に関する候補は、トランスジェニック動物モデル、例えばTNF-αトランスジェニックマウス(Taconic)などにおいて試験することもできる。これらの動物は、ヒト腫瘍壊死因子(TNF-α)、ヒトの関節リウマチの病因と関係しているサイトカインを発現する。これらのマウス中のTNF-αの発現は、前脚および後足の重度の慢性関節炎をもたらし、炎症性関節炎を試験するのに良いマウスモデルを与える。実施例7および8中に示したように、本発明の代表的なNF-κBデコイ分子は、コラーゲン誘導性およびアジュバント誘導性関節炎モデルにおいて有意な有効性を示した。
【0088】
(皮膚疾患および関連状態)
本発明のNF-κBデコイ分子の有効性は、炎症皮膚状態の様々な動物モデルにおいて試験することができる。このようなモデルは当技術分野ではよく知られており、NC/NgaマウスにおけるDustmiteAg(Dp)誘導型接触性皮膚炎を含む(Sasakawa,T et al、Int Arch Allergy Immunol 126:239〜47(2001);Sasakawa et al、Int Arch Allergy Immunol 133:55〜63(2004))。このモデルにおける本発明の代表的なNF-κBデコイを試験した結果は、実施例3、4、および6中に記載する。
【0089】
ブタの皮膚はげっ歯類の皮膚よりもヒトの皮膚と類似しているので、本発明のNF-κBデコイ分子は、ブタ皮膚の炎症モデルにおいて例えば皮膚炎、および湿疹などの炎症皮膚状態を治療する際の有効性に関して試験することもできる。本発明のNF-κBデコイ分子は、このモデルにおいてNF-κB活性を有効に阻害し、重要な炎症性遺伝子の発現を阻害する。
【0090】
これらの状態を治療するための既存の療法は不十分であり、特に子供において長期の施用中の副作用という重大な問題を提起する。本発明のNF-κBデコイには知られているステロイド療法の副作用がなく、限られた全身露出に関する。
【0091】
皮膚は、防護壁としてのその機能的役割に関して知られている。皮膚が免疫応答を誘導することができる非常に動的な器官でもあることは、現在明らかである。しかしながら、皮膚中のすべての免疫反応が有益であるわけではなく、いくつかの有害反応(炎症)は、下方制御/投薬を必要とするアレルゲンなどの侵入物との反応から生じる可能性がある(接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎および同類の他の皮膚炎症疾患)。他の反応は、上皮基底膜要素VII型コラーゲンまたは細胞表面要素またはケラチン生成細胞、あるいは依然知られていない細胞要素などの皮膚抗原に曝される自己反応性リンパ球から生じる可能性があり、これらは尋常性天疱瘡(Anhalt et al、N.Engl J.Med.323(25):1729〜35(1990))、または表皮水疱(Woodley et al、N.Engl.J.Med.310(16):107〜13(1984))または乾癬(Stern、Lancet 350(9074):349〜53(1997))をもたらす可能性がある。大部分のこれらの炎症皮膚応答は、単核細胞、特にT細胞に関するものである。T細胞および他の免疫細胞、例えばマクロファージおよび樹状細胞などによる、これらの小胞の小胞周囲および小胞内の炎症および浸潤の観察結果は、円形脱毛症(AA)におけるT細胞仲介の自己免疫症候群も示す(McElwee et al、J.Invest.Dermatol.119(6):1426〜33(2002))。
【0092】
いくつかの試験は、強皮症患者の皮膚の線維症を開始させ維持するために患部に浸潤する免疫細胞から放出されるサイトカインの重要な役割を実証している(Fagundus et al、Clin.Dermatol.12(3):407〜17(1994);Postlethwaite、Current Opin.Rheumatol.7(6):535〜40(1995))。したがって、T細胞などの免疫コンピテント細胞を標的とする薬剤は、広範囲の皮膚の炎症状態の治療において非常に成功するはずである。
【0093】
(炎症性腸疾患(IBD))
用語「炎症性腸疾患」または「IBD」は、未知の病因の胃腸管の慢性炎症疾患である、潰瘍性大腸炎およびクローン病に対して一般に使用する。伝統的な治療は、コルチコステロイド療法およびサラゾピリンの投与に基づく。さらに近年では、抗TNF-α抗体などの他の治療法が開発されてきている。しかしながら、部分的にはステロイド療法の知られている副作用のため、および患者の相当な亜群において現在の療法は寛解を誘導することができないので、新しい療法に関する多大な必要性が存在する。例えば、Mee et al、Gut 2:1〜5(1979)を参照のこと。マウスモデルはMatsumoto、et al、Gut 43:71〜78(1998);およびStrober et al、J Clin Invest 107:667〜670(2001)によって記載されている。
【0094】
いくつかの皮膚疾患と同様に、胃腸管の炎症疾患は免疫コンピテント細胞に関する。例えば、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病)では、T細胞が炎症の主な元凶である。T細胞によって分泌される前炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの間の均衡が、炎症性腸疾患の開始および持続を制御する。大部分のこれらの分泌因子は、NF-κBによって直接的あるいは間接的に制御される(Neurath et al、Natl.Med.8(6):567〜73(2002);Strober et al、J.Gastroenterol.38 Suppl 15:55〜8(2003))。過敏性腸疾患(IBS)、胃炎、バレット症候群、ペプチド潰瘍、逆流性疾患、急性および慢性膵炎、胆嚢炎などの胃腸管の他の疾患は、同様ではあるがより慢性的制御不良の粘膜免疫系から生じ、したがってNF-κB阻害剤を用いた治療に対して応答性があると予想される。
【0095】
(他の治療有用性)
NF-κBは血管障害(Yoshimura et al、Gene Therapy 8:1635〜1642(2001);脳虚血後の神経損傷(Ueno et al、J.Thoracic and Cardiovascular Surgery 122(4):720〜727(2001));慢性気道炎症(Griesenbach et al、Gene Therapy 7、306〜313(2000);自己免疫性心筋炎の進行(Yokoseki et al、Circ.Res.89:899〜906(2001));心臓移植における急性拒絶反応および移植動脈症(Suzuki et al、Gene Therapy 7:1847〜1852(2000));および心筋梗塞(Morishita et al、Nature Medicine 3(8):894〜899(1997)後の、アテローム性動脈硬化症および病巣形成と関係があるサイトカインと接着性分子の遺伝子の共同の転写活性化において中枢的役割を果たすので、NF-κBデコイ分子は、このような疾患および状態の治療においても有用性が見出される。
【0096】
近年の証拠は、NF-κBおよびその活性化と関係があるシグナル経路も、腫瘍の発達に重要であることを示す。例えば、Karin et al、Nat.Rev.Cancer 2(4):301〜10(2002)を参照のこと。したがって、本発明のデコイ分子によるNF-κBの阻害は、癌の予防および治療において有用性が見出され、単独あるいは他の治療オプションとの組合せで新たな抗癌戦略を与える。
【0097】
(NF-κBdsODN分子の送達)
本発明のNF-κBデコイの送達の経路は、予防および/または治療が標的とする疾患または病的状態に依存する。いくつかの徴候に関しては、本発明のNF-κBデコイを送達する好ましい形態は、例えばその開示の全容が参照によりここに明確に組み込まれている、米国特許第5,922,687号および米国特許第6,395,550号中に記載されたのと同様の圧力仲介のトランスフェクションである。簡潔に言うと、デコイ核酸を細胞の細胞外環境中に置き、細胞および細胞外環境周囲のインキュベーション圧力を確定させることによって、NF-κBデコイ分子を組織中の細胞に送達する。インキュベーション圧力を確定させることによって、細胞による核酸の取り込みが容易になり、細胞核への局在化が増大する。
【0098】
より詳細には、組織および細胞外環境を含む密閉空間を画定し、その密閉空間内のインキュベーション圧力を確定させる。好ましい実施形態では、標的組織(標的細胞を含む組織)を等方性圧力に施し、膨張せずあるいは外傷を経験しないように、包囲手段によって空間の境界を実質的に画定する。他の実施形態では、空間の境界の一部分は組織によって画定する。次いで非弾性被覆などの防御手段を組織の周囲に置いて、組織中の膨張および外傷を予防する。インキュベーション圧力は施用に依存するが、大気圧より約300mmHg〜1500mmHg高いインキュベーション圧力、または大気圧より少なくとも約100mmHg高いインキュベーション圧力が一般に多くの施用に適している。
【0099】
最大のトランスフェクション効率を得るのに必要なインキュベーション時間は、インキュベーション圧力および標的組織の型などのパラメータに依存する。ヒト静脈組織などのいくつかの組織に関しては、(10分を超える)約数分の低い圧力(約0.5atm)でのインキュベーション時間が、80〜90%のトランスフェクション効率を得るのに十分である。ラット大動脈組織などの他の組織に関しては、(1時間を超える)約数時間の高い圧力(約2atm)でのインキュベーション時間が、80〜90%のトランスフェクション効率を得るのに十分である。
【0100】
この型の送達に適した哺乳動物の標的組織には、血管組織(特に、動脈中の移植組織として使用される静脈)、心臓、骨髄、ならびに正常および腫瘍結合組織、肝臓、生殖-尿系、骨、筋肉、胃腸器官、内分泌および外分泌器官、滑液膜組織および皮膚がある。本発明の方法は器官の一部分、器官全体、あるいは生物全体に適用することができる。一実施形態では、核酸溶液を患者の標的領域(例えば腎臓)に灌流させることができ、患者は加圧チャンバー内で圧力に施す。
【0101】
他の適用例に関しては、他の従来の技法によって、本発明のNF-κBデコイを投与することができる。例えば、レトロウイルストランスフェクション、リポソームの形のトランスフェクションは、トランスフェクションに適した特に知られている方法である。詳細に関しては、Dzau et al、Trends in Biotech11:205〜210(1993);またはMorishita et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:8474〜8478(1993)も参照のこと。リポソームの形で投与するとき、腔中のデコイ濃度は一般にデコイ当たり約0.1μM〜約50μM、より通常は約1μM〜約10μM、最も通常は約3μMの範囲であると思われる。
【0102】
投与は治療する疾患状態の重度および応答性、および数日間から数カ月、あるいは治癒が行われるか病状の低下が達成されるまで続く治療工程に依存する。最適な投与スケジュールは、患者の身体中の薬剤蓄積の測定から計算することができる。当業者は最適用量、投与法および反復率を容易に決定することができる。最適用量は、個々のオリゴヌクレオチドの相対的な効能に応じて変わる可能性がある。一般に、有効用量は体重1kg当たり0.01μg〜100gである。当業者は、測定した滞留時間および体液または組織中の薬剤の濃度に基づいて、投与に関する反復率を容易に推定することができる。送達される特異的デコイ分子の効能以外に、有効用量は標的疾患、送達経路、使用する配合物、疾患の重度、治療する患者の年齢、性別、および全体的な条件、および他の同様の考慮事項に依存すると思われる。
【0103】
関節リウマチおよび炎症性腸疾患(IBD)を治療するために、ネズミの実験は典型的には50〜100μlの注射用配合物中に約25〜100μgのデコイを使用する。これらの投与養生法に基づき、ヒトを含めた他種に関する適切な用量の決定は、種間のスケーリング用に開発された数学的計算によって支援することができる。例えば、Mordenti et al、Pharm Res 8:1351〜9(1991)を参照のこと。
【0104】
局所施用に関しては、従来の局所用配合物、例えばクリーム、軟膏、ゲル、懸濁液などの形で本発明のデコイを投与する。好ましくは、このような局所用配合物は、皮膚を介した効率の良い送達を確実にするために1つまたは複数の浸透性増大物質および/または界面活性剤を含むと思われる。dsODN分子を送達するための局所用配合物は、その開示の全容が参照によりここに明確に組み込まれている、2004年9月21日に出願された同時係属出願の米国仮出願第60/612,046号中に記載されている。局所用配合物は詳細には、水性、エマルジョン系かつリポソーム配合物を含む。皮膚炎/湿疹を治療するために、典型的な配合物は約0.1〜5重量%、または約0.2〜3重量%、または約0.25〜1重量%の活性成分を含む局所用クリームであってよい。半減期を増大させるために、皮膚施用に関しては、本発明のNF-κBデコイ分子の少なくとも1本、好ましくは2本の鎖を完全にホスホロチオ化させる。
【0105】
他の送達経路用に、最も適切な濃度を経験により決定することができる。適切な濃度および用量の決定は、十分に当業者の能力の範囲内にある。最適な治療のパラメータは、徴候、デコイ、患者の臨床状態などに応じて変わると思われ、本明細書で与える教示書および当技術分野の一般知識に基づいて、経験により決定することができる。
【0106】
個々のデコイまたはデコイの混合物を含む組成物として、デコイを投与することができる。通常混合物は、6個まで、より通常は4個まで、より通常は2個までのデコイ分子を含む。
【0107】
グルココルチコイド、アスピリン、サリチル酸ナトリウム、およびスルホサラジンを含めた多くの抗炎症剤およびリウマチ剤は、NF-κB活性化の阻害剤である。炎症ならびに自己免疫疾患および状態を治療するために、本発明のNF-κBデコイ分子は、場合によってはこのような薬剤治療剤と組合せて投与することができる。組合せ治療は同時投与、および任意の順序での2つ以上の薬剤の連続投与を含む。したがって例えば、局所的な抗炎症用途、本発明のNF-κBデコイはベタメタソンまたは同様の治療剤と組合せて投与することができる。
【0108】
癌療法では、NF-κBデコイ分子の投与は、化学療法用抗癌剤および/または放射線療法を用いる治療を含めた、他の治療オプションと組合せることができる。
【0109】
本発明のさらなる詳細は、以下の非制限的実施例から明らかであろう。
【実施例】
【0110】
(実施例1:NF-κBデコイ分子の設計および試験)
(設計)
NF-κB dsODNデコイ分子を設計し、NF-κBと結合する能力、および/またはNF-κBの結合に関して競合する能力に関して試験した。特定の態様では本発明の目的は、p50/p50ホモ二量体よりp65/p50および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合するNF-κBデコイ分子を設計することであった。p50/p50ホモ二量体を阻害しない結果として、本発明の選択的デコイ分子は、これらのホモ二量体がNF-κB制御型遺伝子のプロモーターを阻害するのを可能にし、このことによて、更なるレベルの遺伝子転写の負の制御をもたらす。
【0111】
オリゴヌクレオチドデコイを設計する際には、知られているNF-κB結合部位の結晶構造試験およびコンピュータによる分析から入手可能な情報を使用した。
【0112】
前に論じたように、5'-GGGACTTTCC-3'(配列番号2)のコンセンサス配列を含む、免疫グロブリン軽鎖遺伝子と結合したp50/p65ヘテロ二量体の結晶構造の試験に基づいて、p50は5塩基対サブサイト5'-GGGAC-3'(配列番号3)と接触し、p65は4塩基対サブサイト5'TTCC-3'(配列番号4)と接触することが示されている。p50/p50ホモ二量体に関する低い親和性を有するがp65/p50ヘテロ二量体と結合するデコイ分子を調製する目的で、コンセンサス結合部位の5'端に少数のG'を含む、一連のNF-κBオリゴヌクレオチドデコイを設計した。これらのオリゴヌクレオチドデコイは、識別および表示を容易にするために「core」および「flank」の文字コードを割り当てた。Coreには文字コード「A」〜「L」を割り当て、flankには「T」〜「Z」を割り当てた。デコイはゲルシフトアッセイにおいて試験して、NF-κB結合に関して高親和性放射標識オリゴヌクレオチドと競合するそれらの能力を測定した。NF-κB結合DNAコンセンサス配列は、Blank et al、EMBO J.10:4159〜4167(1991);Bours et al、Mol.Cell.Biol.12:685〜695(1992);Bours et al、U.Cell 72:729〜739(1993);Duckett et al、Mol.Cell.Biol.13:1315〜1322(1993);Fan C.-M、Maniatis T.、Nature 354:395〜398(1991);Fujita et al、Genes Dev.6:775〜787(1992);Fujita et al、Genes Dev.7:1354〜1363(1993);Ghosh et al、Nature 373:303〜310(1995);Ghosh et al、Cell 62:1019〜1029(1990);Grumont et al、Mol.Cell.Biol.14:8460〜8470(1994);Henkel et al、Cell 68:1121〜1133(1992);Ikeda et al、Gene 138:193〜196(1994);Kunsch et al、Mol.Cell.Biol.12:4412〜4421(1992);LeClair et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:8145〜8149(1992);LiC.-C.et al、J.Biol.Chem.269:30089〜30092(1994);Matthews et al、Nucleic Acids Res.21:1727〜1734(1993);Mueller et al、Nature 373:311〜317(1995);Neri et al、Cell 67:1075〜1087(1991);Nolan et al、Cell 64:961〜969(1991);Paya et al、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7826〜7830(1992);Plaksin et al、J.Exp.Med.177:1651〜1662(1993);Schmid et al、Nature 352:733〜736(1991);Schmitz M.L.、Baeuerle P.A.EMBO J.10:3805〜3817(1991);Ten et al、EMBO J.11:195〜203(1992);Toledano et al、J.Mol.Cell.Biol.13:852〜860(1993);Urban et al、EMBO J.10:1817〜1825(1991)を含めたNF-κB関連DNA-タンパク質相互作用の刊行物から選択した。
【0113】
この利用可能な情報に基づいて、我々は最初のスクリーニング用に一連のデコイを作製した。これらのデコイは「変異デコイ」、混合型デコイ、その5'または3'端で異なる長さを有するデコイ、およびコア領域内および/または隣接配列内で他の塩基組成を有するデコイを含む。
【0114】
NF-κBのコア結合部位近辺の塩基組成をより良く理解するために、知られている結合配列を有するコア結合部位をコンピュータによりアライメントさせた(正方向鎖のみ)。このアラインメントに基づいて、わずかに異なるコア結合部位を有するいくつかの主要な群のデコイを作製した。
【0115】
主要なコア配列および隣接配列は表1中に列挙する。
【0116】
【表1】

【0117】
(電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA))
EMSAアッセイを使用して、NF-κB転写因子に関するオリゴヌクレオチドデコイを特徴付けした。NF-κBファミリーの関連するメンバーに関して高い親和性を示す、放射標識オリゴヌクレオチドプローブ(非哺乳動物、HIV由来のNF-κBプロモーターに基づく、配列113/114、配列番号48、およびその相補体)を使用して、p65/p50、cRel/p50およびp50/p50の結合を、活性化した単球細胞系由来の核抽出物を使用して試験した。前述のNF-κBファミリーメンバーとの結合について競合させるために、前述の修飾オリゴヌクレオチドを使用して、高親和性の放射標識プローブに対する、これらのオリゴヌクレオチドの結合親和性を比較することができた。このアッセイは、NF-κBファミリーの特定のメンバーと選択的に結合するデコイの設計も可能にした。高濃度の様々なオリゴヌクレオチドを使用することによって、結合部位中の標的残基を削除または変更することにより、p65/p50およびcRel/p50ヘテロ二量体に関する親和性を保ちながら、デコイ分子とp50/p50ホモ二量体の結合を特異的に低下させることができたことを観察した。
【0118】
NF-κBゲルシフトアッセイ(EMSA)は以下のように行った。コンセンサスNF-κB結合部位(5'AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC3')(配列番号78)を含む二本鎖オリゴヌクレオチドは、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(Promega)を使用してγ32P-ATPで末端標識した。LPS刺激THP-1細胞(ヒト単球細胞系)から調製した1マイクログラムの核抽出物を、競合させる非標識NF-κB二本鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)または混合型dsODNの存在下または不在下において、35fmolの放射標識プローブと共にインキュベートした。10mMのTris-HCl pH8、100mMのKCL、5mMのMgCl2、2mMのDTT、10%のグリセロール、0.1%のNP-40、0.025%のBSAおよび1μgのPoly-dIdCから構成される20μlの反応体積中において、30分間室温でインキュベーションを行った。反応混合物を6%ポリアクリルアミドゲルにロードし、電気泳動に供して乾燥させた。乾燥させたゲルは、Typhoon 8600 Phosphorlmager(Amersham)およびImageQuantソフトウェアを使用して画像化および定量化した。放射標識オリゴヌクレオチドプローブと結合した複合体中に含まれていたNF-κBタンパク質の同一性は、放射標識プローブを加える前に、NF-κBファミリーのそれぞれのメンバーに特異的な個々の抗体と共に5分間反応混合物をプレインキュベートすることによって確認した。
【0119】
(ヌクレアーゼ分解および化学修飾)
ネイティブDNAを、主に3'エクソヌクレアーゼの作用によるものであるがエンドヌクレアーゼの攻撃の結果でもある、細胞内での迅速な分解に供する。したがって、オリゴヌクレオチドデコイを設計し、それらを修飾してその安定性を増大させる。ヌクレオチド内結合の非架橋酸素原子の1つをイオウ基で置換することによって、いわゆるホスホロチオエート(PS)オリゴデオキシヌクレオチドと呼ばれるものの作製は非常に成功してきている。これらの分子は比較的ヌクレアーゼ耐性である;しかしながら、これらの分子は、3'末端修飾および非修飾オリゴヌクレオチドデコイに対して、非特異的タンパク質結合を示すことが示されてきている(Brown et al、J.Biol.Chem.269(43):26801〜5(1994))。したがって、我々は一連の実験を行って、得られた特異性を保ちながら我々のオリゴヌクレオチドデコイにヌクレアーゼ耐性を与えるために、3'、5'または内側部位において何個のイオウが必要とされたかを測定した。
【0120】
(EMSAの結果の分析)
前に論じたように、本明細書で開示する操作の1つの目的は、p50/p50ホモ二量体よりNF-κBp65/p50および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合する、NF-κBオリゴヌクレオチドデコイ分子を開発することである。実験結果は、p65/p50およびcRel/p50との結合は一般に均等であることを示し、したがってp65/p50バンドのみを我々の分析では定量化した。
【0121】
図1は、いくつかのNF-κBデコイ分子のp65/p50結合を示す。図2は、いくつかのNF-κBデコイ分子のp50/p50結合を示す。
【0122】
優先的結合は特異性/親和性係数を使用して定量化し、以下のように計算した:
特異性/親和性係数=(Sp50/p50-Sp65/p50)×Sp50/p50/Sp65/p50
(上式で、Sp50/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp50/p50の結合を50%競合させるのに必要とされるデコイのモル過剰率と等しく、かつSp65/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114、配列113に対応する逆鎖を「114」として表す)とp65/p50の結合を50%競合させるのに必要とされるデコイのモル過剰率と等しい。デコイが試験した任意のモル比で少なくとも50%の結合を競合させることができない場合、値(S)は100として割り当てる)。
【0123】
好ましいデコイ分子はp65/p50ヘテロ二量体に関して低い値、p50/p50ホモ二量体に関して高い値を有する。デコイが有する、p50/p50ホモ二量体に対するp65/p50ヘテロ二量体の特異性は、それらの値の差(値p50/p50-値p65/50)に正比例する。前に記載したのと同様に行ったEMSA競合結合実験の結果を、表2A中に要約する。表2A中において、最も特異的なデコイ(最高の特異性/親和性係数)から始めてデコイ分子を列挙する。
【0124】
【表2a】

【表2b】

【0125】
表2A中に述べたデータは、優れたp65/p50特異性を有するデコイは、「E」または「D」または「H」または「L」または「I」コア配列、および「Z」または「W」または「V」または「U」または「Z-4」隣接配列を共有する可能性が最も高いことを示唆する。より好ましい群では、コア配列は「E」または「D」であり、隣接配列は「Z」である。他のパラメータ(以下参照)を考慮してトップの数個の候補から、最良のデコイとして153/154で表すデコイを選択した。
【0126】
以前に論じたように、本明細書のNF-κBデコイのいくつか使用に関しては、特異性は必要条件ではない。このような用途に関しては、p65に関して高い結合親和性を有するNF-κBデコイ分子を選択することが有利である。以下の表2Bは、試験したいくつかのNF-κBデコイ分子に関するp65結合親和性を示す。
【0127】
【表3a】

【表3b】

【0128】
高いp65結合親和性が目的である場合、好ましくは70未満、または60未満、または50未満、または40未満、または35未満、または30未満、または25未満、または20未満の親和性値を有するデコイを選択する。このデータは競合結合アッセイにおいて得られるものであるので、小さな値は良い結合親和性を示す。何故ならこの値は、競合後に結合した状態の競合物質の量を表すからである。表2B中に述べたデータは、p65/p50に関して高い親和性を有するデコイは「C」または「A」または「L」または「D」または「M」コア配列、および「Z」または「W」または「V」または「X」または「T」隣接配列を共有する可能性が最も高いことを示唆する。より好ましい群では、コア配列は「C」であり、隣接配列は「Z」である。他の好ましい群では、コア配列は「E」であり、隣接配列は「Z」であり、dsODNは完全にホスホロチオエート骨格を有することが好ましい。
【0129】
(DNA骨格の化学修飾の分析)
同様の分析を適用して、試験したデコイに関するDNA骨格の化学修飾を評価した。
【0130】
【表4】

【0131】
前述の表3A中では、骨格の化学的性質に関して2つの表示が存在する場合、最初の表示は鎖153の化学的性質を示し、2番目の表示は鎖154の化学的性質を示す。完全なホスホジエステル結合は「PO」で表し、完全なホスホロチオエート骨格は「PS」で表す。ハイブリッド骨格は、「H」に続く3'端から始まるホスホロチオエート骨格結合の数で表す。したがってH3は、最大3個の3'結合がホスホロチオエートであり、骨格結合の残りはホスホジエステルであることを意味する。1つの表示のみを示す場合(単にPOなど)、両方の鎖は同じ骨格の化学的性質を有する。
【0132】
表3A中に述べたデータは、いずれかの鎖または両方の鎖が完全にホスホチオ化される場合(例えばPS/POまたはPO.PS)、デコイはp65/p50とp50/p50の両方に関して高い親和性を有し、したがって望まれる特異性を欠くことを示す。一般に、常にではないが、多数のホスホロチオエート結合は低下した特異性をもたらした。一般に、8個を超えるホスホロチオエート結合を有するハイブリッド鎖は特異性を欠いていたが、一方7個より少ないホスホロチオエート結合を有するハイブリッド鎖は、許容可能な親和性および特異性を保持していた。しかしながら、H4/H4は非常に低い親和性を有し、一方H3/H3およびH5/H5はいずれも許容範囲内にあった。H11/POおよびPO/H11は良い親和性および特異性を有する。半減期、特異性および親和性に基づいて、H3/H3、H5/H5、H6/H6、およびH7/H7を153/154デコイに関する最適骨格として同定した。他のデコイに関する最適骨格の化学的性質は、類似の方法で試験し決定することができる。
【0133】
p65結合親和性に対する骨格の化学的性質の影響は、以下の表3B中に述べるデータによって示す。
【0134】
【表5】

【0135】
前と同様に、高いp65結合親和性が目的である場合、好ましくは40未満、または35未満、または30未満、または25未満、または20未満の親和性値を有するデコイを選択する。このデータは競合結合アッセイにおいて得たので、小さな値は良い結合親和性を示す。何故ならこの値は、競合後に結合した状態の競合物質の量を表すからである。表3B中に述べる結果は、p65結合親和性を低下させる両方の鎖上のH4あるいは一本の鎖上のH5などの、数個の例外はあるが、ホスホロチオエート置換数の増大はp65結合親和性を一般に増大させることを示す。
【0136】
(他の転写因子に対する特異性)
デコイ分子はさらに、標的転写因子のみを特異的に遮断しなければならず、無関係な転写因子と非特異的に結合し遮断してはいけない。EMSAを使用して無関係なプロモーターに対していかなる非特異的影響も示さないNF-κBデコイ分子を、設計することができることも立証されている。詳細には、偏在する転写因子Oct-1のプロモーター配列に対応する放射標識オリゴヌクレオチドプローブを使用して、153/154(「154」は、配列「153」に対応する逆配列を表す)POおよびH3 NF-κBデコイは、このプロモーターに関していかなる結合親和性も示さなかったことを実証した(図3)。このことは、細胞中の他の重要なタンパク質に対するオリゴヌクレオチドの任意の非特異的影響が、治療個体に関するデコイの望ましくない毒性をもたらす可能性があるので重要である。
【0137】
(半減期)
ネイティブDNAを、主に3'エクソヌクレアーゼの作用によるものであるがエンドヌクレアーゼの攻撃の結果でもある、細胞内での迅速な分解に供する。したがって、オリゴヌクレオチドデコイを設計するとき、それらを修飾してその安定性を増大させる。ヌクレオチド内結合の非架橋酸素原子の1つをイオウ基で置換することによって、いわゆるホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドと呼ばれるものの作製は非常に成功している。これらの分子は比較的ヌクレアーゼ耐性である;しかしながら、これらの分子は、3'末端修飾および非修飾オリゴヌクレオチドデコイに対して、非特異的タンパク質結合を示すことが示されてきている(Brown et al、J.Biol.Chem.269:26801〜5(1994))。したがって、一連の実験を行って、特異性を保ちながら本明細書のオリゴヌクレオチドデコイにヌクレアーゼ耐性を与えるために、3'、5'端または内側部位において何個のイオウが必要とされたかを測定した。
【0138】
結合特異性は、前に記載したゲルシフトアッセイによって評価した。3'-エクソヌクレアーゼ耐性は、標準的なヘビ毒素アッセイ(Cummins et al、Nucleic Acids Res.23:2019〜24(1995))を使用して評価した。より関連のある哺乳動物のヌクレアーゼ活性に対するデコイの耐性を評価するために、活性化マクロファージから細胞質および核抽出物を調製したアッセイを適用した(Hoke et al、Nuci.Acids Res.19(20):5743〜8(1991))。抽出物の活性は、それぞれのアッセイにおいて陽性対照を用いて確認した。数個のイオウ基でデコイのそれぞれの鎖の3'端を被覆することは、ヌクレアーゼ分解からデコイを保護するのに十分であったことを測定した。
【0139】
1つにまとめたこれらのデータは、p50/p65選択的NF-κBデコイに関しては、19量体オリゴヌクレオチド二重らせんの3'端における3〜5個のイオウは、ヌクレアーゼ分解からデコイを保護するのに十分であることを示す。さらに、転写因子ファミリーとの特異的サブユニット結合、および無関係な転写因子との結合の欠如を保つことができた。これらのデータは、転写因子を標的とする特異的かつ長時間持続するオリゴヌクレオチドデコイ、特にNF-κBを設計するための方法および手段を、本発明が提供することを実証する。
【0140】
(実施例2:核局在化シグナルを含むNF-κBデコイ分子)
核中へのオリゴヌクレオチドデコイの進入を改善する核局在化シグナル(NLS)含有ペプチドの能力を決定するために、simian virus 40 large tumor antigenに基づくNLS配列を有するペプチド(PKKKRKVEDPYC)(配列番号94)をSigma Genosysによって合成し、以下のようにNF-κB 153 H3オリゴヌクレオチドとコンジュゲートさせた。簡単に言うと、6.5nmolのオリゴヌクレオチドを、2時間室温で40倍モル過剰のリンカーSulfo-SMCC(Pierce)と共に最初にインキュベートした。NAP-10カラム(Pharmacia Biotech)により反応混合物から過剰なリンカーを除去した後、活性化オリゴヌクレオチドは、一晩室温で5倍モル過剰のNLSペプチドと共にインキュベートした。NLSペプチドと首尾よくコンジュゲートしたオリゴヌクレオチドの割合を評価するために、1μlを20%PAGEゲル(非変性)にロードすることによって反応混合物を分析した。ゲルはSYBR Gold(Molecular Probes)で染色し、Typhoon Phosphorimager(Arnersham)で可視化した。一本鎖153 H3とコンジュゲートしたNLSペプチドの濃度は、OD吸光度によって測定した。次いでコンジュゲートを、その5'端にビオチン分子を含むその相補鎖154 H3(等モル量)にアニーリングした。二本鎖であるNLSデコイ上のビオチン分子の存在は、(ストレプトアビジンによって)目に見える状態にすることができた。
【0141】
以下の実施例は、NF-κBデコイ「153/154」を投与することによって得た結果を記載する。皮膚モデルでは、NF-κBデコイ153/154の両方の鎖が完全にホスホロチオ化されている、すなわち153/154分子は「PS/PS」である。
【0142】
(実施例3:NF-κBデコイは、ネズミアトピー性皮膚炎における耳の膨張を低下させる)
NC/Ngaマウス中のDustmite Ag(Dp)誘導性の接触性皮膚炎における、NF-κBデコイの有効性および有効用量範囲を決定するため。
【0143】
(方法)
前に記載されたのと同様に(Sasakawa,T et al、Int Arch Allergy Immunol 126:239〜47(2001);Sasakawa et al、Int Arch Allergy Immunol 133:55〜63(2004))、Dp Ag誘導性皮膚炎を誘導した。簡単に言うと、6週齢のオスNC/Ngaマウスに、第0、2、4、7、9および11日にマウスの右耳の腹側に、生理食塩水に溶かした5μgのDp抽出物(Greer Laboratories、Lenoir、NC)を皮内注射した。第11日から始めて、Dpを注射した耳は、20μlの賦形剤、0.25%または0.1%のNF-κBデコイを含む賦形剤、または対照としてベタメタゾンを用いて10〜12日間1日2回局所治療した。それぞれの皮内注射または治療後24時間で、耳の厚さの測定用ゲージ(Oditest、Dyer Inc)を用いて耳の厚さを測定した。
【0144】
(結果)
アトピー性皮膚炎に対するNF-κBデコイ治療の影響を調べるために、NF-κBデコイ治療有りまたは無しでDp注射したNC/Ngaマウスの、耳の厚さによって測定される耳の膨張/炎症を我々は調べた。Dp抽出物は第0、2、4、7、9および11日に右耳の腹側に注射した。局所NF-κBデコイは、最後のDp注射後第11日に開始した。DP Agを注射した耳の肥大は早くも24時間後に観察され、第11日まで急速に増大した。耳の厚さは、未治療の耳と賦形剤で治療した耳の両方において、最後のDp注射後2週間まで保たれた。図4に示すように、局所の0.25%NF-κBデコイまたはベタメタゾン(B.I.D.)治療は耳の厚さの急速な減少をもたらし、一方0.1%のNF-κBデコイ治療群では、賦形剤対照と同様に、耳の厚さの減少はほとんどあるいはまったくもたらされなかった。
【0145】
(結論)
NF-κBデコイの局所施用は、このアトピー性皮膚炎のマウスモデルにおいて用量依存式に炎症を抑制する。
【0146】
(実施例4:NF-κBデコイ治療の中断は、Dpを注射した耳における耳の膨張のリバウンドおよび炎症をもたらさない)
この実験の目的は、治療を中断するとNF-κBデコイの有効性が保たれるかどうかを判定することであった。
【0147】
(方法)
前に記載されたのと同様に(Sasakawa et al、上記)、Dp Ag誘導性皮膚炎を誘導した。簡単に言うと、6週齢のオスNC/Ngaマウスに、第0、2、4、7、9および11日に右耳の腹側に、生理食塩水に溶かした5μgのDp抽出物(Greer Laboratories、Lenoir、NC)を皮内注射した。第11日から始めて、Dpを注射した耳は、20μlの賦形剤、0.25%のNF-κBデコイを含む賦形剤、または対照としてベタメタゾンを用いて10〜12日間1日2回局所治療した。次いで局所治療を2週間中断した。それぞれの皮内注射または治療後24時間で、耳の厚さの測定用ゲージ(Oditest、Dyer Inc)を用いて耳の厚さを測定した。
【0148】
(結果)
治療の中断後に耳の厚さの減少を維持する、NF-κBデコイ治療の能力を調べた。図5中に示すように、NF-κBデコイ治療の中断は耳の膨張の増大をもたらさず、一方Dpを注射した耳におけるベタメタゾンの中断は、耳の膨張の有意な増大をもたらした。
【0149】
(結論)
ベタメタゾン治療の中断は、耳の膨張のリバウンドおよびDpを注射した耳の炎症をもたらすが、NF-κBデコイ治療の中断は炎症をもたらさない。
【0150】
(実施例5:NF-κBデコイ治療は、Dpを注射したNC/Ngaマウスにおいて重要な前炎症性遺伝子の発現を低下させる)
この試験の目的は、Dpを注射したNC/Ngaマウスにおいて、増大した前炎症性サイトカイン発現に対するNF-κBデコイ治療の影響を評価することであった。
【0151】
(方法)
最後のデコイ治療後1日で、Dpを注射したマウスの右耳を除去した。耳の一部分を液体窒素中に急速冷凍し-80℃で保存した。製造者の教示書に従いQiazol(Qiagen)を使用して耳から全RNAを単離した。マウス遺伝子の発現は、ABI PRISM7900 Sequence Detector System(Applied Biosystems、Foster City、CA)を用いてリアル-タイム定量PCRによってアッセイした。以前に記載されたのと同様に(Hurst et al、Immunol 169:443〜53(2002))、すべての手順を行った。簡単に言うと、Dnase処理した全RNAはランダムヘキサマー(Gibco-BRL)、オリゴdt(Boehringer)と混合させ、第一鎖のcDNAはSurperSeript II逆転写酵素を用いて合成した。それぞれの遺伝子用のプライマーは、プライマー設計ソフトウェアPrimer Express(Applied Biosystems)を使用して設計した。プライマーはSigma Genosys(Woodlands、TX)によって合成した。定量PCRは、製造者のプロトコル(Applied Biosystems)に従いTaqManPCR試薬キットを使用して行った。25ngのRNAと等しいサンプルcDNAを、384ウエルのPCRプレート中のそれぞれの反応混合物において調べた。ユビキチンのレベルをそれぞれのサンプルに関して測定し、内標準として使用した。サイトカインのレベルは、ユビキチンのレベルに対する相対的発現として表す。
【0152】
(結果)
皮膚中の前炎症性遺伝子の発現に対するNF-κBデコイ治療の影響を、リアル-タイム定量PCRによって分析した。図6中に示すように、賦形剤または未治療Dp注射マウスは、IL-1βおよびIL-6の発現レベルの著しい増大を示し、一方NF-κBデコイ治療は、プロトピックおよびベタメタゾンと同等に両方のサイトカインの発現レベルを低下させた。
【0153】
(結論)
局所のNF-κBデコイ治療は、Dp誘導性のネズミアトピー性皮膚炎における前炎症性サイトカイン(IL-1βおよびIL-6)の発現を低下させる。
【0154】
(実施例6:NC/Ngaマウス中のDustmite Ag(Dp)誘導性の接触性皮膚炎におけるNF-κBデコイ療法の有効性)
この実験は、NC/Ngaマウス中のDustmite Ag(Dp)誘導性の接触性皮膚炎におけるNF-κBデコイの有効性を調べる。
【0155】
(方法)
最後のデコイ治療後1日で、Dpを注射したマウスの右耳を除去した。耳の一部分を10%リン酸緩衝ホルマリン(pH7.2)中に固定し、パラフィン中に包埋し、3ミクロンの切片を切断した。次いでサンプルを組織学用にヘマトキシリンおよびエオシンで、および脱顆粒マスト細胞の検出用にトルイジンブルーで染色した。
【0156】
(結果)
皮膚病巣の組織検査を第26日に行った。ヘマトキシリンおよびエオシン染色によって、Dpを注射し賦形剤治療した耳の皮膚への細胞浸潤、および重度の上皮の過剰増殖、そして、NF-κBデコイまたはベタメタゾンを用いた治療では、上皮の過剰増殖と細胞浸潤の両方の低下が生じたことが示された。図7中に示すように、Dpを注射し賦形剤治療したマウス中の大部分のマスト細胞は脱顆粒状態であり、一方NF-κBデコイまたはベタメタゾンを用いた治療によって、脱顆粒状態のマスト細胞の減少が示された。
【0157】
(結論)
NF-κBデコイの局所施用は、炎症およびアトピー性皮膚炎を担う炎症細胞(すなわちマスト細胞)の浸潤を抑制する。さらにNF-κBデコイ治療は、マスト細胞の上皮の過剰増殖、細胞浸潤および脱顆粒を低下させた。
【0158】
(実施例7:関節炎の関節中にNF-κBデコイを投与することによって、コラーゲン誘導性関節炎の回復をもたらした)
関節リウマチ(RA)では、NF-κBは関節炎の進行における中枢的役割を果たす。この実験では、NF-κBデコイの局所投与が重度の関節炎症を抑制するかどうかを調べている。
【0159】
(方法)
コラーゲン誘導性関節炎(CIA)は、Trentham et al、Arthritis Rheum 25:911〜6(1982)により以前に記載された方法を使用して誘導した。簡単に言うと、6週齢のメスDAラット(Charles Rivers)に、4℃において0.5mlの0.1M酢酸中に溶かし0.5mlの冷却したフロイントの不完全アジュバント(Difco、Detroit、MI)中に乳濁させた、1mgのウシII型コラーゲン(Chondrex)を皮内に免疫処置した。足首関節における関節炎の発症を、第10日と第12日の間に見ることができた。第13日までにその関節炎の発症を肉眼で認識できなかったラットはすべて、この試験から除外した。免疫処置後第14日に、イソフルランを用いてラットに麻酔をかけた。次に、50μlのNF-κBデコイ100μg溶液を、27ゲージのニードルを用いて後足首の関節空間に注射した。対照として、0.5mgのプレドニソロンを後足首の関節空間に注射した。支脚の膨張は、最初の2週間は1日おき次いでその後は週に1回、カリパーを用いて測定した。
【0160】
(結果)
NF-κBデコイを注射したCIAラットにおける後足の膨張は、最初の週は1日1回、次いでその後は週に2回測定した。図8中に示すように、NF-κBデコイの1回注射は第23日から始まり支脚の膨張を著しく低下させ、速い速度で消散するまで続き、一方で混合対照における炎症は経時的に徐々に低下した。プレドニソロン治療した動物は、注射後ほぼ直後に後足の膨張が有意に低下し、実験中膨張を抑制するまで続いた。
【0161】
(結論)
CIAラットの関節炎の関節中にNF-κBデコイを投与することによって、関節炎の回復がもたらされた。
【0162】
(実施例8:アジュバント誘導性関節炎(AIA)モデルにおけるNF-κBデコイの有効性試験)
関節炎の予防および治療におけるNF-κBデコイの有効性を、関節炎のアジュバント誘導性関節炎(AIA)モデルにおいてさらに試験した。
【0163】
(方法)
Taurog et al、(Cell Immunol 75:271〜82(1983);Cell Immunol 80:198〜204(1983))により以前に記載された方法を使用してAIAを誘導した。簡単に言うと、7〜8週齢のメスLewisラット(Charles Rivers)に、熱で殺傷したヒト型結核菌H37Ra(Difco、Detroi、MI)を含む10mg/mlのフロイントのアジュバント溶液0.2mlを尾の基部の皮内に免疫処置した。足首関節における関節炎の発症を、第10日と第12日の間に見ることができた。第12日までにその関節炎の発症を肉眼で認識できなかったラットはすべて、この試験から除外した。免疫処置後第13日に、イソフルランを用いてラットに麻酔をかけた。次に、50μlのNF-κBデコイの100μg溶液を、27ゲージのニードルを用いて後足首の関節空間に注射した。対照として、0.5mgのプレドニソロンを後足首の関節空間に注射した。支脚の膨張は、最初の週は1日1回、次いでその後は週に2回測定した。
【0164】
(結果)
図9中に示す結果は、この関節炎モデルにおいて炎症関節にNF-κBデコイを局所注射することによって、支脚の膨張が著しく低下し、膨張が回復するまで続き、一方混合型デコイで治療した支脚では、膨張は大幅に増大し実験中保たれたことを示す。プレドニソロンによる治療は、混合型デコイ対照のそれと比較して支脚の膨張を強く阻害した。
【0165】
(実施例9:TNBS誘導性大腸炎モデルにおけるNF-κBデコイの有効性試験)
マウスにおけるトリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)誘導性大腸炎は、ヒトにおけるクローン病(CD)の病因と似た、最も関連性のある動物モデルの1つである。この大腸炎モデルでは、ハプテン処理剤と自己由来宿主タンパク質の共有結合、およびTNBS改変型自己抗原に対する遅延型過敏性の後の刺激の結果として腸炎症が進行する。このモデルとヒト疾患の関係は不完全ではあるが、ハプテン誘導性大腸炎は、CD様の特徴、特に経壁単核性炎症、および定住粘膜白血球の優勢Th-1活性を示す。TNBS治療マウス、およびCD患者における炎症およびサイトカイン生成は、核因子NF-κBなどの転写因子の活性化と関係がある。
【0166】
TNBS大腸炎モデルを設定するために使用した手順は、以下の刊行物:Neurath et al、Int Rev Immunol 19:51〜62(2000);Bouma et al、Gastroenterol 123:554〜565(2002)、およびBouma and Strober、Nat Rev Immunol 3:521〜533(2003)中に記載された手順と非常に類似している。
【0167】
簡単に言うと、イソフルランを用いた一般的な麻酔の下でこのプロトコルに従い、2mgのTNBSを45%エタノール溶液に溶かしたものを直腸内投与することによって、SJL/Jマウスにおいて大腸炎を誘導する。直腸内注射液は、1mlシリンジを備える3.5Fポリウレタン製さい帯カテーテルを用いて投与する。先端が肛門の端に3cm隣接するようにカテーテルを挿入し、100μlの合計体積でTNBSを注射した。結腸および盲腸全体内のTNBSの分布を確実にするために、注射後30秒間マウスは垂直位置に保つ。体重の変化は1日1回調べ、典型的にはTNBS投与後約1〜4週間の間で15〜30%の量の体重低下が起こる。TNBS誘導前(予防的)またはTNBS誘導後の様々な時間地点(治療的)の1回投与による同様の直腸内法で、デコイを用いてマウスを治療する。いくつかの場合、必要であるとみなされる場合、第2のデコイ治療剤を投与して治療効果を持続させることができる。体重測定以外に、いくつかの実験では、動物を異なる時間地点で殺傷して、mRNAおよび/またはタンパク質発現および組織分析用に組織を採取する。
【0168】
このプロトコルに従い、疾患誘導後第2日に与えたNF-κBデコイの1回投与によって、TNBS大腸炎と関係がある体重低下をほぼ食い止めることができる(図10)。このモデルにおける体重低下は、炎症および疾患重度と非常に相関関係がある。誘導後第2日までに、マウスは一般に15〜20%の体重を失い、疾患の発症が示された。この地点で賦形剤のみを投与すると、回復効果は見られず、この群中のマウスは体重を失い続け、高い死亡率に苦しんだ。第2日に50または100μgのNF-κBデコイを与えた治療群では、疾患と関連する体重低下を非常に迅速に食い止め、第7日までにほぼ完全な回復が得られた。デコイ治療群では、はるかに高い生存率も存在した。NF-κBデコイの有効性は、誘導の時間地点後第7日で両方の治療群において、マウスから採取した結腸の組織病理レベルで確認した(図11)。賦形剤のみで治療したTNBS誘導性動物は、局所的炎症、粘膜上皮の損失、陰かの深さの増大(および陰かの枝分かれの何らかの徴候)、粘膜筋板の分解、および筋層の肥大(炎症部位に局在する)を示した。これらの特徴はすべて、ヒト炎症性腸疾患(IBD)および文献中に示された動物モデルと一致する。誘導後第2日のNF-κBデコイによる単独治療によって、IBDの多くのこれらの病的特徴を食い止めることができた。
【0169】
(実施例10:オキサゾロン大腸炎モデルにおけるNF-κBデコイの有効性試験)
一連の前臨床実験を開始して、炎症性腸疾患における本発明のNF-κBデコイの治療能力を評価した。マウスにおけるオキサゾロン誘導性大腸炎は、ヒトにおける潰瘍性大腸炎(UC)と関係がある疾患病状を試験するための関連モデルである。この大腸炎モデルでは、ハプテン処理剤と自己由来宿主タンパク質の共有結合、およびオキサゾロン仲介型自己抗原に対する遅延型過敏性の後の刺激の結果として腸炎症が進行する。「古典的」ハプテン処理剤を使用することによって、オキサゾロンは結腸の遠位半分を含めた炎症性腸疾患を誘導し、クローン病ではなくUCと似た組織特徴を有する。さらにオキサゾロン大腸炎は、Th1応答ではなくTh2によって促進される。NF-κBはこの応答に貢献する多くのサイトカイン、ケモカイン、および細胞接着分子を制御する。
【0170】
このオキサゾロン大腸炎モデルを設定するために使用した手順は、Neurath et al、Int Rev Immunol 19:51〜62(2000);Bouma et al、Gastroenterol 123:554〜565(2002)、およびBouma and Strober、Nat Rev Immunol 3:521〜533(2003)によって記載された手順と同様であった。
【0171】
簡単に言うと、イソフルランを用いた一般的な麻酔の下で、100%エタノールに溶かしたオキサゾロン(エトキシメチレン-2-フェニル-2-オキサゾリン-5-オン)の3%(w/v)溶液200μlを、2×2cm領域の剃毛した腹部の皮膚に施すことによってマウスは事前に感作させた。事前感作後第5日に、再度イソフルランを用いた一般的な麻酔の下で、150μlの1.5%オキサゾロンを50%エタノールに溶かしたもの、または50%エタノールのみでマウスの直腸内を再攻撃した。直腸内注射液は、1mlシリンジを備える3.5Fポリウレタン製さい帯カテーテルを用いて投与した。先端が肛門の端に3cm隣接するようにカテーテルを挿入し、150μlの合計体積でオキサゾロンを注射した。結腸および盲腸全体内のオキサゾロンの分布を確実にするために、注射後30秒間マウスは垂直位置に保った。体重の変化は1日1回調べた。典型的には、オキサゾロン投与後約5〜7日間の間で15〜20%の体重低下を観察した。このオキサゾロン大腸炎モデルには急性の疾患進行があり、そこから7〜10日以内で動物は完全に回復する。
【0172】
直腸内オキサゾロン攻撃前(予防的)またはオキサゾロン攻撃後の様々な時間地点(治療的)の1回投与による同様の直腸内法で、NF-κBデコイを用いてマウスを治療した。いくつかの場合、必要であるとみなされる場合、第2のデコイ治療剤を投与して治療効果を持続させることができる。体重測定以外に、いくつかの実験では、動物を異なる時間地点で殺傷して、mRNA発現および組織分析用に組織を採取した。
【0173】
疾患誘導後第2日に与えたNF-κBデコイの1回投与によって、オキサゾロン大腸炎と関係がある体重低下をほぼ食い止めることができることが分かっている(図12)。このモデルにおける体重低下は、炎症および疾患重度と非常に相関関係がある。誘導後第2日までに、マウスは一般に15〜20%の体重を失い、疾患の発症が示された。この地点で賦形剤のみを投与すると、回復効果は見られず、この群中のマウスは体重を失い続け、高い死亡率に苦しんだ。第2日に50または100μgのNF-κBデコイを与えた治療群では、疾患と関連する体重低下を迅速に食い止め、治療3日以内に100μgのデコイ群において完全な回復を観察した。デコイ治療群では、はるかに高い生存率も存在した(図13)。第3日までに、賦形剤治療群では60〜70%の死亡率が存在した。対照的に治療群では、わずか20〜30%の死亡率が存在した。
【0174】
本開示中に引用したすべての参照文献は、参照によりここに明確に組み込まれている。
【0175】
いくつかの特異的実施形態を言及しながら本発明を例示しているが、本発明はそのように制限されない。変更形態および変形は本発明の概念から逸脱せずに考えられ、当業者には明らかだと思われる。すべてのこのような変更形態および変形は、詳細には本明細書の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0176】
【図1】いくつかのNF-κBデコイ分子のp65/p50結合を示すグラフの図である。
【図2】いくつかのNF-κBデコイ分子のp50/p50結合を示すグラフの図である。
【図3】EMSAアッセイからの定量結果を示す図である。転写因子Oct-1の結合に関して非特異的に競合する、「E」で表すデコイ分子の能力を試験した。このアッセイではOct-1デコイを放射標識した。競合剤を加えた後に残ったバンドの量をグラフ化する。バンドはTyphoon Phosphorimager(Molecular Dynamics)を使用して定量化した。これらの結果は、試験したNF-κBデコイは、それに関する特異性がないプロモーターと非特異的に競合しないことを示す。陽性対照はコールドOct-1プローブであった。
【図4】NF-κBデコイの局所施用は、アトピー性皮膚炎のマウスモデルにおいて用量依存式に炎症を抑制することを示す図である。
【図5】NF-κBデコイ治療ではなくベタメタゾンの投与中断が、Dpを注射した耳の、耳の膨張のリバウンドおよび炎症をもたらすことを示す図である。
【図6】局所のNF-κBデコイ治療は、Dp誘導性のネズミアトピー性皮膚炎における前炎症性サイトカイン(IL-1BおよびIL-6)の発現を低下させることを示す図である。
【図7】NF-κBデコイの局所施用は、炎症およびアトピー性皮膚炎を担う炎症細胞の浸潤を抑制し、マスト細胞の上皮の過剰増殖、細胞浸潤および脱顆粒を低下させることを示す図である。
【図8】コラーゲン誘導性関節炎(CIA)を有するラットの関節炎の関節中にNF-κBデコイを投与することによって、関節炎の回復がもたらされることを示す図である。
【図9】アジュバント誘導性関節炎(AIA)を有するラットの関節炎の関節中にNF-κBデコイを投与することによって、関節炎の回復がもたらされることを示す図である。
【図10】NF-κBデコイは、TNBS誘導性大腸炎のネズミモデルにおける体重低下を食い止めることを示す図である。
【図11】NF-κBデコイは、TNBS誘導性大腸炎のネズミモデルにおける炎症を低下させることを示す図である。
【図12】NF-κBデコイは、オキサゾロン誘導性大腸炎における体重低下を食い止めることを示す図である。
【図13】NF-κBデコイは、オキサゾロン誘導性大腸炎における生存を増大させることを示す図である。
【図14】バイオインフォマティクスによって予想した様々なデコイ分子のNF-κB親和性と、実験により求めた特異性/親和性係数の関係を示す図である。
【図15】バイオインフォマティクスマトリクス結合値と、p65/p50と結合したときの競合値の散乱プロットの図である。低い競合値は高い結合親和性を示す。
【図16】p50/p50との結合とp65/p50との結合の間の競合値の差、および競合値の比(p65/p50に対するp5O/p5Oの比)の散乱プロットの図である。小さな四角形内のプロットはp5O/p5Oに対するp65/p50の特異性が最良であるデコイを表し、一方で小さな四角形と大きな四角形の外側のプロットは乏しい特異性を有し、かつ(小さな四角形の外側と大きな四角形の内側の)間のプロットは中間の特異性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センスおよびアンチセンス鎖を含むNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子であって、
p50/p50ホモ二量体が存在すると、p50/p50ホモ二量体よりp50/p65および/またはcRel/p50ヘテロ二量体と優先的に結合し、かつ/あるいは、
HIVに由来する非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114、配列番号48)に対する電気泳動移動度シフトアッセイにおいて、p65/p50の結合を少なくとも50%競合するのに必要とされるモル過剰率を測定することによって決定した場合に、45以下のp65結合親和性を示すdsODN分子。
【請求項2】
競合結合アッセイにおいて決定され、以下:
特異性/親和性係数=(Sp50/p50-Sp65/p50)×Sp50/p50/Sp65/p50
(上式で、Sp50/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp50/p50の結合を50%競合させるのに必要とされる前記dsODN分子のモル過剰率と等しく、かつSp65/p50はHIV由来の非哺乳動物NF-κBプロモーター(配列113/114)とp65/p50の結合を50%競合させるのに必要とされる前記dsODN分子のモル過剰率と等しく、かつデコイが試験したモル比で少なくとも50%の結合を競合させることができない場合、値(S)は100として割り当てる)
のように定義される特異性/親和性係数が、少なくとも約20であることを特徴とする、請求項1に記載のdsODN分子。
【請求項3】
前記特異性/親和性係数が少なくとも約25である、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項4】
前記特異性/親和性係数が少なくとも約30である、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項5】
前記特異性/親和性係数が少なくとも約35である、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項6】
前記特異性/親和性係数が少なくとも約40である、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項7】
完全にホスホロチオエート骨格を有する、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項8】
ハイブリッド骨格を有する、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項9】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、単にワトソン-クリック塩基対によって結合している、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項10】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、ワトソン-クリック塩基対以外の架橋によって、完全または部分的に結合している、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項11】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、3’末端および/または5’末端で互いに共有結合している、請求項10に記載のdsODN分子。
【請求項12】
センス鎖において、5'から3'方向に、式FLANK1-CORE-FLANK2:
(上式で、
COREはGGGATTTCC(配列番号11);GGACTTTCC(配列番号13);GGATTTCC(配列番号19);GGATTTCCC(配列番号21);およびGGACTTTCCC(配列番号25)からなる群から選択され;
FLANK1はAT;TC;CTC;AGTTGA(配列番号80)、およびTTGA(配列番号81)からなる群から選択され;
FLANK2はGT;TC;TGT;AGGC(配列番号88);およびAGからなる群から選択される)
の配列を含む、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項13】
COREが、GGGATTTCC(配列番号11);GGACTTTCC(配列番号13);およびGGATTTCC(配列番号19)からなる群から選択され;
FLANK1がATでありFLANK2がGTであり;あるいはFLANK1がTCでありFLANK2がTCであり;あるいはFLANK1がCTCでありFLANK2がTGTであり;あるいはFLANK1がAGTTGA(配列番号80)でありFLANK2がAGGC(配列番号88)であり;あるいはFLANK1がTTGAでありFLANK2がAGである、
請求項12に記載のdsODN分子。
【請求項14】
COREがGGGATTTCC(配列番号11)またはGGACTTTCC(配列番号13)であり、FLANK1がAGTTGA(配列番号80)であり、かつFLANK2がAGGC(配列番号88)である、請求項12に記載のdsODN分子。
【請求項15】
COREがGGACTTTCC(配列番号13)であり、FLANK1がAGTTGA(配列番号80)であり、かつFLANK2がAGGC(配列番号88)である、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項16】
少なくとも約40の特異性/親和性係数を有する、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項17】
前記アンチセンス鎖が、前記センス鎖に少なくとも部分的に相補的である、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項18】
前記アンチセンス鎖が、前記センス鎖に完全に相補的である、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項19】
ホスホロジエステレート骨格を有する、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項20】
ホスホロチオエート骨格を有する、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項21】
混合型ホスホロジエステレート-ホスホロチオエート骨格を有する、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項22】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、単にワトソン-クリック塩基対によって互いに結合している、請求項14に記載のdsODN分子。
【請求項23】
5'から3'方向に、配列番号26から77および10からなる群から選択される配列を含む、請求項1に記載のdsODN分子。
【請求項24】
5'から3'方向に、配列番号26から77および10からなる群から選択される配列からなる鎖を含む、請求項23に記載のdsODN分子。
【請求項25】
5'から3'方向に、配列番号26から34からなる群から選択される配列を含む、請求項1に記載のdsODN分子。
【請求項26】
5'から3'方向に、配列番号26から34の配列からなる鎖を含む、請求項25に記載のdsODN分子。
【請求項27】
5'から3'方向に、配列番号26から31からなる群から選択される配列を含む、請求項1に記載のdsODN分子。
【請求項28】
5'から3'方向に、配列番号26から31からなる群から選択される配列からなる鎖を含む、請求項27に記載のdsODN分子。
【請求項29】
配列番号30の配列を含む、請求項1に記載のdsODN分子。
【請求項30】
5'から3'方向に、配列番号30の配列からなる鎖を含む、請求項29に記載のdsODN分子。
【請求項31】
前記アンチセンス鎖が、前記センス鎖中の前記FLANK1-CORE-FLANK2に少なくとも部分的に相補的な配列を含む、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項32】
前記アンチセンス鎖が、前記センス鎖中の前記FLANK1-CORE-FLANK2に完全に相補的な配列を含む、請求項2に記載のdsODN分子。
【請求項33】
少なくとも1つの一本鎖突出部を更に含む、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項34】
前記2つの鎖が、ペプチド結合以外の共有結合によって、5’および/または3’末端で結合している、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項35】
12から28塩基対長である、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項36】
14から24塩基対長である、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項37】
14から22塩基対長である、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項38】
修飾または通常ではないヌクレオチドを含む、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項39】
ホスホジエステル骨格を有する、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項40】
ホスホロチオエート骨格を有する、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項41】
混合型ホスホジエステル-ホスホロチオエート骨格を有する、請求項31に記載のdsODN分子。
【請求項42】
45以下のp65結合親和性を示す、請求項1に記載のdsODN分子。
【請求項43】
センス鎖において、5'から3'方向に、式FLANK1-CORE-FLANK2:
(上式で、
COREはGGGGACTTTCCC(配列番号9);GGGACTTTCC(配列番号5);GGACTTTCCC(配列番号25);GGGATTTCC(配列番号11);およびGGACTTTCC(配列番号13)からなる群から選択され;
FLANK1はAGTTCA(配列番号80);CTC、TC;CT;AGTTGA;CCTTGAA;およびCTからなる群から選択され;かつ
FLANK2はAGGC(配列番号88);TGT;TC;AGG;TCC;およびTCAからなる群から選択される)
の配列を含み、AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC以外である、請求項42に記載のdsODN分子。
【請求項44】
完全にホスホロチオエート骨格を有する、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項45】
ハイブリッド骨格を有する、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項46】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、単にワトソン-クリック塩基対によって結合している、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項47】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、ワトソン-クリック塩基対以外の架橋によって、完全または部分的に結合している、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項48】
前記センスおよびアンチセンス鎖が、3’末端および/または5’末端で互いに共有結合している、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項49】
AGTTGAGGACTTTCCAGGC(配列番号30)のセンス鎖およびその相補鎖を含む、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項50】
AGTTGAGGACTTTCCAGGC(配列番号30)のセンス鎖およびその相補鎖からなる、請求項43に記載のdsODN分子。
【請求項51】
完全にホスホロチオエート骨格を有する、請求項50に記載のdsODN分子。
【請求項52】
ハイブリッド骨格を有する、請求項50に記載のdsODN分子。
【請求項53】
最大3個の3'結合がホスホロチオエート結合であり、結合の残りはホスホジエステル結合である、請求項52に記載のdsODN分子。
【請求項54】
請求項43に記載のNF-κB二本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を含む組成物。
【請求項55】
医薬的に許容可能な担体と組み合わせて前記dsODN分子を含む医薬組成物である、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
有効量の請求項43に記載のNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を必要性のある哺乳動物対象に投与することを含む、炎症、免疫または自己免疫疾患を治療するための方法。
【請求項57】
前記哺乳動物対象がヒトである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記炎症、免疫または自己免疫疾患が、乾癬、湿疹、アトピー性皮膚炎;全身性強皮症および硬化症;炎症性腸疾患(IBD);クローン病;潰瘍性大腸炎;外科手術による組織再灌流障害;心筋梗塞;心拍停止;心臓外科手術後の再灌流;経皮的冠状動脈血管形成術後の収縮;脳卒中;腹部大動脈瘤;脳卒中に付随する脳水腫;頭蓋外傷、低血液量性ショック;喘息;自己免疫性糖尿病;仮死;成人呼吸窮迫症候群;急性肺障害;ベーチェット病;皮膚筋炎;多発性筋炎;多発性硬化症(MS);髄膜炎;脳炎;ブドウ膜炎;変形性関節症;ループス腎炎;全身性エリテマトーデス;関節リウマチ(RA)、リウマチ様脊椎炎;痛風性関節炎;シェーグレン症候群、血管炎;白血球漏出に関与する疾患;中枢神経系(CNS)炎症障害、アルツハイマー病;敗血症または外傷に付随する多臓器障害症候群;アルコール性肝炎;細菌性肺炎;糸球体腎炎を含めた抗原-抗体複合体仲介の疾患;敗血症;サルコイドーシス;組織/臓器移植に対する免疫病理的応答;胸膜炎、肺胞炎、血管炎、肺炎、慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎、過敏性肺炎、特発性肺線維症(IPF)、慢性肺炎症疾患を含む肺の炎症;のう胞性線維症;乾癬;不全麻痺ならびに眼部アレルギーからなる群から選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記炎症または自己免疫疾患が、乾癬、湿疹、アトピー性皮膚炎、関節リウマチ(RA)、リウマチ様脊椎炎、痛風性関節炎;自己免疫性糖尿病、多発性硬化症(MS)、喘息、全身性エリテマトーデス、成人呼吸窮迫症候群、ベーチェット病、乾癬、慢性肺炎症疾患、移植片対宿主反応、クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患(IBD)、および不全麻痺からなる群から選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記dsODN分子を圧力仲介のトランスフェクションによって投与する、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記dsODN分子をレトロウイルストランスフェクションによって投与する、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
前記dsODN分子をリポソームで投与する、請求項57に記載の方法。
【請求項63】
前記dsODN分子を、局所用配合物として投与する、請求項57に記載の方法。
【請求項64】
有効量の請求項43に記載のNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を必要性のある哺乳動物対象に投与することを含む、癌を治療するための方法。
【請求項65】
前記対象がヒトである、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
有効量の請求項43に記載のNF-κB二本鎖デコイオリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)分子を必要性のある哺乳動物対象に投与することを含む、再灌流障害または再狭窄を治療するための方法。
【請求項67】
前記対象がヒトである、請求項66に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2007−512845(P2007−512845A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−542829(P2006−542829)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/040673
【国際公開番号】WO2005/056020
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(504043543)アネシバ・インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】ANESIVA,INC.
【住所又は居所原語表記】650 Gateway Boulevard, South San Francisco, California 94080, United States of America
【Fターム(参考)】